どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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あけましておめでとうございます。

【緋弾のアリア】の最新刊に登場するアリアの妹、メヌエットが可愛いくて仕方がない作者です。

今年もぶっ飛ばして行きます。

暖かい目で見守ってください。



九校戦 Zero Stage

大量直立戦車からの襲撃後、バスと作業車は無事にホテルに辿り着いた。

 

 

「あー、帰りたい」

 

 

俺を除いて。

 

先輩方に肩を貸してもらいホテルに入る。すいませんねー、こんなヨボヨボの俺なんかのために。

 

ミサイルの爆風や直立戦車タイプ(シグマ)との戦闘。結構効いていた。ちょっと力が出せない。

 

 

「あ、大樹君!……え、どうしたの!?」

 

 

私服を着たエリカが俺に向かって手を振るが、俺の顔色の悪さを見て驚愕した。ちょっと性質の悪い直立戦車に襲われたんだ。全く……数の暴力とかいじめかよ。何?お前ら中学時代のいじめっ子なの?ついに兵器を使うまで発展したの?性質が悪いってレベルじゃないぞ、それ。

 

 

「お、応援に来てくれたのか……?」

 

 

エリカに震え声で質問する。(震え声)

 

いつまでも先輩方に迷惑をかけるわけにはいかないのでロビーのソファに座らせてもらった。

 

 

「うん。美月もミキ。あとポニーも来てるわよ」

 

 

「そ、そうか……ポニーもか……懐かしいのう……」

 

 

「……ホントに何があったの?」

 

 

「じゃあ俺は家に帰る。お疲れ」

 

 

「えぇ!?九校戦は!?」

 

 

もう俺の役目はアレで終わりでいいだろ?金メダルはよ。粉々に噛み砕いてやるから。

 

帰るためにその場に立ち上がろうとする。が、

 

 

「ぐふッ」

 

 

立てなかった。俺は地面に倒れ、脱力する。ふぇ~、歩けないよぅ~。

 

どうやら抜刀剣術の【横一文字(よこいちもんじ)(ぜつ)】に集中力を使い過ぎて疲れが溜まったみたいだ。まぁ今までの怪我とかに比べればこんなの擦りむいた程度の怪我だな。

 

 

「大樹君!?」

 

 

エリカが俺のそばまで駆け寄って来る。俺は最後の力を振り絞って言う。

 

 

「え、エリカ……立派な魔法師になれよ……ガクッ」

 

 

「ガクッじゃないわよ!しっかりしなさい!」

 

 

「縞パン……ガクッ」

 

 

「どういうこと!?」

 

 

「下着……ガクッ」

 

 

「最低な最後の言葉ね!?ていうかさっきから語尾にガクッって言わないで!」

 

 

「えー、ガックシ」

 

 

「怒るわよ!?」

 

 

ちょ、エリカさん。俺を転がすのはやめて。気持ち悪くなるから。

 

 

「エリカちゃん!お部屋のキー……きゃあ!?」

 

 

フロントで受付を済まし、鍵を貰った美月が帰って来た。そして、俺を見てドン引き。

 

 

「あ、美月。美月も蹴る?」

 

 

「怪我人にその対応は酷くね!?」

 

 

「えッ!?そ、そんなこと……いいですか?」

 

 

「美月いいいいいィィィ!?」

 

 

駄目だコイツら。早く何とかしないと。

 

 

「おいエリカ!自分の荷物くらい自分で持て!」

 

 

「柴田さん。荷物持ってきたよ」

 

 

今度はポニーと幹比古が荷物を両手に持ってやってきた。一応言っておくけどポニーはレオだからな?

 

 

「っておわッ!?何やってんだ!?」

 

 

「え!?これって大樹!?」

 

 

レオと幹比古は俺を見て驚いていた。あと幹比古。俺をこれ扱いにするんじゃねぇよ。

 

 

「よぉ……お前ら二人は俺を踏んだら殺す」

 

 

「「怖ッ!?」」

 

 

じゃあ女の子に踏まれるのはありですか?……美少女なrやっぱり何でもない。

 

 

「大樹さん!」

 

 

今度は黒ウサギが俺の元に駆け付ける。

 

 

「ってエリカさん!?何をしているのですか!?」

 

 

「え?大樹君が踏んでほしいって」

 

 

「言ってねぇよ!」

 

 

「大樹さん……じゃあ黒ウサギも踏みますね?」

 

 

「もう少し俺に優しく接してしてくれない!?もう一回言うけど俺、怪我人!」

 

 

何でみんなして俺を踏もうとするの!?後いい加減にエリカは足をどけろ!

 

黒ウサギはハッとなり俺の体調の様子を伺う。

 

 

「そ、そうでした!大丈夫なんですか!?」

 

 

「……まぁ今日ゆっくり休めば明日には回復してるだろ」

 

 

「じゃあ……踏んでも!?」

 

 

「良くねぇよ!!」

 

 

 

________________________

 

 

結局エリカと美月と黒ウサギに踏まれた後(もしあの後30分以上続けられていたら何かに目覚めていた。目覚めさせねぇけど)、俺は夕方に行われるパーティの準備をしていた。

 

九校戦に参加する選手たちが全員出席し、仲を深める懇親会だ。

 

正直出たくないが、優子が誘って来たので行くことにした。むしろ金払ってでも行きたい。

 

俺を誘って来た時の優子はすでに落ち着きを取り戻し、笑顔まで見せてくれた。そして、その笑顔は俺の脳内で永久保存された。やったぜ。

 

自分の高校の制服を着て来いと摩利に言われ、俺は現在着用している。本当なら一科生のエンブレムが刺繍された制服を着なければならないが、俺は着ない。エンブレムの無い二科生の制服をあえて着た。

 

 

「二科生の意地を見せつけてやるよ」

 

 

俺はそう言って制服の中に着たフード付きパーカーのフードを深く被りホテルの自室を後にした。ちなみにフードを被った理由は太陽避けでは無い。だってパーティーは夜だぜ?

 

エレベーターを使って懇親会のある階で降りる。懇親会のある部屋の前の控室には既にかなりの人数が揃っていた。

 

 

「大樹君、こっちよ!」

 

 

ロビーの奥で第一高校生が集まっていた。輪の中心にいた真由美がこちらに向かって手を振っている。

 

 

「もう怪我は大丈夫なの?」

 

 

「まぁな。一応立てるようにはなった」

 

 

「そう……無理はしなくていいのよ?部屋で休んでも……」

 

 

「心配すんなって。もう元気だから」

 

 

真由美が心配するが俺は大丈夫だと自分の胸を強く叩いて示す。

 

 

「そうよね……だから踏んでもらったのよね」

 

 

「おかしい。会話のキャッチボールはさっきまでできていたはずなのに」

 

 

いきなり剛速球の変化球で返して来やがった。キャッチできないお。

 

 

「大樹君って……Mなの?」

 

 

「いや、今Sに目覚めたわ」

 

 

「ふえッ!?」

 

 

俺は真由美の頬を両手で引っ張る。真由美は腕を振って抵抗するが無意味。

 

逃れようにも逃れられない。必死に抵抗する美少女。何この可愛い生き物。もっといじめたいんだが。

 

 

「楢原君?」

 

 

後ろから優子の声がした。いつもタイミングが悪いのですが……誰か仕組んでるの?自然の摂理なの?解せぬ。

 

 

「……お、俺は無実だ!冤罪だ!」

 

 

「犯人はみんなそう言うのよ……」

 

 

真由美にツッコまれた。ちくしょう。あのコ〇ン君でも推理するまでも無いな。

 

 

「ゆ、優子……も、もしかして頬っぺたを引っ張られたいのか?」

 

 

何を言い出すんだ俺。馬鹿だろ。

 

 

「正座しなさい」

 

 

どうやら違ったみたいだ。ですよねー。

 

 

「え……えぇ……」

 

 

他の高校生とかみんな見てるんだけど……?羞恥プレイはちょっと……ねぇ……?

 

 

「正座」

 

 

「アッハイ」

 

 

怖い!怖いよ!

 

みんなの視線がつらい。思わず自害してしまいそうだ。

 

優子は俺が正座をしたことを確認して、説教を始めた。

 

 

「そもそも大樹君は女の子に対して……!」

 

 

「すいません……」

 

 

説教は懇親会が始まるまで続いた。以上、怒った優子も可愛いっと思った大樹でした。

 

 

「聞いてるの!?」

 

 

「すいませんでした!」

 

 

________________________

 

 

懇親会は立食パーティー。……椅子に座りたかった。

 

俺と優子と黒ウサギは一緒に行動していた。あ、優子のジュースが無くなった。すぐに取ってこないと!

 

 

「お飲み物はいかがですか?」

 

 

「あ、ちょうどいい。一つ……ってエリカ!?」

 

 

俺に声をかけたのはメイド服を着たエリカだった。手にはジュースを乗せたトレイを片手に持っている。

 

 

「アルバイトよ。どう?似合う?」

 

 

「ジュースを一つ。あとメイドも貰おうかな?」

 

 

「楢原君?」

「大樹さん?」

 

 

「やっぱジュースだけください」

 

 

や、やましいことなんて考えてないよ!

 

俺は頬を赤くしたエリカからジュースを貰う。それを不機嫌になっている優子に渡した。

 

 

「もしかして美月たちもやっているのか?」

 

 

「美月とレオは裏方。ミキとアタシはこっちで仕事よ」

 

 

エリカはそう言って指をさした。指をさした方向には幹比古がいた。頑張って皿を運んでいる。

 

 

「どうしてエリカさんたちはアルバイトを?」

 

 

「黒ウサギ、そこは察してやれよ。そんなのメイド服を着たかったからに

 

 

「踏むわよ?」

 

 

「自分、今8万円しか持ち合わせておりません」

 

 

俺はすぐにエリカに向かって財布を差し出した。もうやめてくれ。

 

 

「冗談よ。はやく直して」

 

 

「あ、ああ……すまない」

 

 

「よし、じゃあ横になりなさい!」

 

 

「すまん。自分の日本語が危ういみたいだから勉強してくるわ」

 

 

許してないのかよ。今の会話は許した後の会話だろ?違うの?俺勉強不足なの?

 

 

「メイドに踏まれるってどう?」

 

 

「踏まれるより膝枕をしてもらいつつ、耳かきで掃除をしてほしい」

 

 

「そう?してあげてよっか?」

 

 

「全力でお願いします!」

 

 

「「ッ!」」

 

 

ダンッ!!ダンッ!!

 

 

その瞬間、黒ウサギと優子に片足ずつ思いっきり踏まれた。下手したら足の骨が折れるレベルの強さで。

 

 

「うおおおおおォォォ!?痛いッ!?」

 

 

「やっぱり馬鹿だね……大樹君……」

 

 

エリカめ!はめやがったな!!

 

 

「じゃあアタシはまだ仕事があるからまたね!」

 

 

「おい!?」

 

 

こんだけ場を荒らしておいて逃げるなよ!

 

 

「楢原君。そんなにメイド服がすきなのかしら?」

 

 

「ゆ、優子のメイド服の方が……………ッ!」

 

 

俺は思い出した。文月学園での清涼祭でのことを。

 

あの時、優子はメイド服を着ていたこと。……猫耳と尻尾もあったな。

 

 

「……優子はメイド服を着たことがあるか?」

 

 

「何言ってるの!?そんなの無いわよ!!」

 

 

「……そうか」

 

 

「な、楢原君?」

 

 

俺は手に持ったジュースを飲み干す。リンゴの甘い味が口一杯に広がる。

 

……俺も甘いな。そんな記憶、残っているわけないだろうが。

 

 

『ご静粛に。これより来賓のあいさつに移ります』

 

 

その時、会場にアナウンスが流れた。話をしていた生徒たちが一斉に黙る。

 

会場の一番奥の壇上に偉そうなおじさんが立ち、マイクに向かって話を始めた。

 

つまらない挨拶を右から左へと聞き流す。時間の無駄だ。

 

時折、優子がこちらをチラチラ見ていたので、笑顔で返してやった。だが、優子は顔を赤くして俺の顔を見ようとしなくなった。残念。

 

 

『続きまして、かつて世界最強と目され20年前に第一線を退かれた後も、九校戦をご支援くださっております』

 

 

ん?世界最強って俺のことか?嘘です。全く九校戦を支援してません。

 

 

九島(くどう)(れつ)閣下よりお言葉を頂戴します』

 

 

壇上に出てきたのはドレスを着た若い女性だった。

 

 

「九島って一体何歳だよ。20年前っていうから……40くらいは越えていると思ったんだが?あと後ろのおじいちゃん誰だよ」

 

 

ストーカー?変態なの?あのおじいちゃん。

 

 

「違うわ。あの人は九島閣下じゃないわ。後ろに隠れているのが九島閣下本人よ」

 

 

優子は自分の言葉を言った後、驚いた。

 

 

「楢原君……もしかして魔法を見破っているの?」

 

 

「それを言うなら優子もだろ。黒ウサギだって見破っているんだ」

 

 

「YES。黒ウサギの耳は誤魔化せませんよ」

 

 

精神干渉魔法が会場全体に掛けられている。俺たちの意識を女性に向けるようにしている。まぁ俺は余裕で効かないけど。

 

しばらくした後、女性が何も言わず壇上を降りて行った。

 

後ろで待機していた九島が前に出る。同時に魔法が解かれた。

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

生徒たちは一斉に驚いた。それもそうだ。急に人が現れたように見えたのだから。実際は違うけど。

 

俺は携帯端末を使ってインターネットに接続する。検索したい枠の中に『九島 烈』と入れる。

 

 

『まずは悪ふざけに付き合わせたことを謝罪する』

 

 

マイク越しに発せられる声は若々しかった。

 

俺は携帯端末の検索結果で出た九島の情報を見る。

 

 

(……なるほど)

 

 

魔法に関しては最強。『最高』にして『最巧』と謳われ、【トリック・スター】と言われるほどの実力がある。……あと年齢は90近いらしい。すげぇ。

 

 

『今のは魔法というより手品の類だが、この手品のタネに気付いた者は見たところ8人だけだった。つまり』

 

 

九島は口元をニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

『もし私がテロリストだったとして、私を阻むくべく行動を起こせたのは8人だけだったということだ』

 

 

その言葉に生徒たちがゾッする。確かに、こんな最強のテロリストとは相手にしたくはない。

 

 

『どう思うかね?そこの顔を隠した楢原大樹君』

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

「おいふざけんな。何で今俺の名前を出す必要があった。フード被って来た意味が無くなっただろうが」

 

 

会場の人たちの視線が全部俺に注がれる。俺も有名になったものだな。

 

俺は溜め息を大きくわざとらしくつき、迷惑そうな顔をする。九島は困るかと思ったが、

 

 

『君はここに来る途中、とても活躍したそうじゃないか』

 

 

全然気にしてないな。思わず舌打ちをしてしまうところだったぜ。

 

俺は苛立ちを抑えながら聞く。

 

 

『さて、話を戻そう。私は「もし私がテロリストだったとして、私を阻むくべく行動を起こせたのは8人だけだった」と言った。君はこのことにどう思う?』

 

 

「どうって……別にいいんじゃないか?」

 

 

俺は思ったことを口にする。

 

 

「アンタ一人くらい、俺は止められる。それで十分だろ」

 

 

大樹の言葉に会場にいた生徒たちが口を開けて驚いた。

 

楢原 大樹は九島 烈より格上だと言ったのだから。

 

 

『……やはり君は興味深い。いつか話を聞かせてもらいたいものだ』

 

 

「尋問されそうだから遠慮する」

 

 

ついでにヤバい事件に巻き込まれそうだから遠慮する。

 

 

『それは残念。ところで君はどの競技に参加する?』

 

 

何かもう俺と九島の対談になってんだけど?大丈夫か、この懇親会。さすがのイー〇ックでも戸惑うぞ?『だ、大丈夫だ。問題ない!』って。……絶対問題あるなこれ。

 

 

「出ねぇよ。俺は技術スタッフ。あと作戦スタッフの補佐だ」

 

 

『それはまた残念なことだ。君の魔法を見たかったのだが……まぁ仕方ない』

 

 

それについては同感だ。仕方ないよね。魔法が使えないことは。

 

 

『申し訳ない諸君。彼との雑談に付き合わせてしまって』

 

 

「だったら話しかけんなよ……」

 

 

「大樹さん!失礼ですよ!」

 

 

小声で言った愚痴に黒ウサギから注意される。へいへい。すいませんね。

 

 

『彼は自信を持って私より強いと言った。だが諸君らは彼と同じことを言えるだろうか?』

 

 

言えるわけねぇだろ。

 

 

『私は嘘でも言うべきだと思っている。どんなに魔法が強くても、使い方が悪ければ弱くなる。しかし、逆のことも言えるのだ。低ランクの魔法を上手く使えば勝利の一手に繋がるということ』

 

 

……なかなか良い事言うな、おじいちゃん。

 

 

『つまりだ……嘘を巧みに使えば本物になる。本物を騙せば嘘になる。九校戦は魔法の使い方を競う場だ。諸君らはどうやって嘘を。本物を使う?』

 

 

九島は最後の言葉を告げる。

 

 

『諸君らの嘘が本物になること……そして、工夫を楽しみにしている』

 

 

全員が手を叩き、拍手が会場に響き渡った。

 

なるほど、これが『老師』と呼ばれる存在か。

 

 

「さてと」

 

 

俺は誰かが声をかける前に、会場から姿を消すことにした。だって九島が喋っているっていうのに、こっちをずっとチラチラ見る奴らが多いんだもん。逃げるだろ、普通。

 

 

________________________

 

 

ここは俺の自室。

 

現在、大事な作戦会議が行われていた。

 

 

「じゃあ今から【夏だよ!合宿だよ!チキチキ夜のお風呂を覗こう大作戦(ツー)!】!!」

 

 

ドンドン!!パフパフ!!

 

 

俺はイエーイと喜び、自作のラッパを鳴らし、ドンドンは床を踏みつけて鳴らした。

 

 

「「「「もしもし、警察ですか?」」」」

 

 

「うっは!いきなり全員に通報された!」

 

 

だが俺は通報を許さない。

 

飲み終わったコップの中に残ってある氷を親指で弾き飛ばし、通報しようとした人たちの手にぶつける。衝撃で全員の手から携帯端末が床に落ちる。

 

 

「おい!レオ!幹比古!桐原!服部!ふざけてんのか!?」

 

 

「それはこっちのセリフだ!」

 

 

反論して来たのは服部だった。クソッ、反逆者め!

 

 

「お前はそれでも男か!?女の子の裸を見たくないのか!?」

 

 

「それは犯罪だ!断じて俺は……!」

 

 

「真由美の裸を見たくないのか!?」

 

 

「ッ!?」

 

 

「見たくないのか……?」

 

 

「………みt

 

 

「服部!?惑わされるなよ!?」

 

 

邪魔をしたのは桐原だった。服部はハッとなり、赤面した。クソッ、壬生大好き人間め!

 

 

「どうせ壬生が今度見に来てくれるんだろ?夜這いして来い。以上」

 

 

「短ッ!?ってかそんなことするか!!」

 

 

「え?何?ここに居るってことは今から覗きをして浮気でもするの?」

 

 

「するわけねぇだろ!」

 

 

「何故だ!?何故浮気をしない!?まさか壬生が大好きだからか!?」

 

 

「い、いや!そういうわけでは……!」

 

 

「え?違う……のか……?」

 

 

「だ、だから……」

 

 

「愛してるよな?」

 

 

「あ、愛!?」

 

 

「言えよ。ここは俺たちしか居ないだから……この時くらい言っちゃいなよ」

 

 

俺は桐原の肩に手を置き、うなずいた。桐原は震えながら言う。

 

 

「……………て……る」

 

 

「聞こえない!ハッキリと言えよ!」

 

 

「あ、愛してるッ!!」

 

 

ピッ

 

 

「よし、この録音音声は壬生に送るわ」

 

 

「やめろおおおおおォォォ!!」

 

 

桐原は傍に置いてあったグラスのコップを俺に向かって放り投げるが、俺は綺麗にキャッチしてみせた。そして、

 

 

ピロリーン!

 

 

携帯端末の画面には『送信完了!テヘッ☆』と映し出されている。テヘッ☆

 

桐原は顔を両手で隠し絶望した。多分……いや、100%の確率で壬生は喜んでいると思うよ。

 

 

「お、鬼だ……鬼がいる……!」

 

 

「いや……あれは悪魔だよ……!」

 

 

顔を青くしたレオと幹比古。俺から距離を取ろうとしている。

 

 

「お前たち二人は覗くよな?」

 

 

「ぐぅッ……と、というかここに温泉なんかあったか!?」

 

 

レオの質問に俺はドヤ顔で説明する。

 

 

「先程、黒ウサギとメールしている時に偶然知った」

 

 

「お前本当に最低だな」

 

 

「フッ、褒めるなよ」

 

 

「褒めてねぇよ」

 

 

「ど、どうしてそこまで覗こうとするの?」

 

 

今度は幹比古の質問。俺はガッカリし、溜め息をついた。

 

 

「お前……女子風呂だぞ?女の子がタオル一枚で風呂に浸かっているんだぞ!?見るしかないだろ!?」

 

 

「は?何を言っているんだお前は?」

 

 

何故か服部が呆れたように言った。な、何だよ……その反応は?あ、そうか。風呂の中に入るときはタオルを外さないといけないか。マナーを忘れていたぜ。

 

 

「ここの地下の温泉施設は療養施設の一種だぞ?水着か湯着を着ているはずだ」

 

 

「……タオル一枚?」

 

 

「違う」

 

 

「……水着?」

 

 

「ああ」

 

 

【悲報】素晴らしい日本の温泉文化、死亡。

 

 

「じゃあいいや」

 

 

「「「「諦めるの早ッ!?」」」」

 

 

「水着なんて……いや、水着でも覗く価値はあるんじゃないのか?」

 

 

「「「「諦めてなかった!?」」」」

 

 

俺は策を練りながらブツブツと呟く。チッ、いつか透明マントを作ってやる。

 

 

「ッ!」

 

 

その時、俺は気配を感じた。外からだ。

 

窓から外の景色を眺める。敷地内は木々が多く、真っ暗だ。だが、俺の目を欺くことはできない。

 

鬼種の力を使い、暗闇に潜む悪。隠密行動をしている3人のテロリストが走っているのを捉えた。

 

黒い服に黒いマスク。手には拳銃を持っている。

 

 

「おい……テロリストだ」

 

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 

俺の言葉に4人に緊張が走る。

 

 

「どこだ?」

 

 

「森の中だ」

 

 

一番最初に口を開いたのは服部。俺は質問に視線を森に向けて答える。

 

 

「今すぐ本部に連絡した方がいい」

 

 

「だったら僕がします」

 

 

服部の提案に幹比古が返事をする。幹比古は携帯端末を持って部屋の外へと出て行った。

 

 

「ここから仕留めたいなぁ……でも銃は使いたくないし……」

 

 

「何でだ?」

 

 

俺の言葉に疑問を持った桐原が尋ねる。

 

 

「あまり騒ぎを起こしたくないんだよ。テロリストに狙われているって分かったら、九校戦が延長したり、最悪中止になるかもしれん」

 

 

銃弾の音で選手に恐怖を与えたり、九校戦を見に来る観客に不安を与えたするのは最悪だ。今回のテロリスト、超迷惑野郎だな。

 

 

「何かいいものは……?」

 

 

俺は部屋を隅々と見渡す。

 

ふっと目についたのは自作ラッパだった。

 

 

「よし」

 

 

俺は窓を開けて、ラッパを持った右手に力を入れる。狙いはしっかりと定まっている。

 

 

「オラァッ!!」

 

 

次の瞬間、ラッパが時速200kmを越えた速度でテロリストたちに向かって飛んで行った。

 

 

ドゴッ

 

 

遠くからではあまり良く聞こえないが、鈍い音がした。

 

ラッパは一人のテロリストの頭に当たり、そのまま倒れた。仲間が必死に狙撃手()を探すが見つからない。

 

 

「おい、何かよこせ」

 

 

俺は敵の様子を伺いながら手を後ろに出す。そして、手に何かを持たされた。誰かが俺の手に置いてくれたのだろう。

 

 

「このッ!!」

 

 

投げる物を確認せず、そのまま投擲した。

 

 

バリンッ

 

 

 

 

 

テロリストの頭にガラスのコップが命中した。

 

 

 

 

 

 

「テロリストおおおおおォォォ!?」

 

 

死ぬ!アレは死ぬぞ!?頭から血を流して倒れてるし!残りの一人が震えているじゃないか!

 

 

「おい!?致命傷にならないモノをよこせよ!」

 

 

俺は失敗した。この大声で残り一人となったテロリストがこちらの存在に気付いてしまったこと。拳銃をこちらに向けている。

 

 

「不味い!はやく何かよこせ!」

 

 

そして、何かが俺の手に乗せられる。時間が無かったので確認はできなかった。

 

俺はプロ野球のように大きく振りかぶって投げた。

 

 

ドゴッ

 

 

 

 

 

テロリストの頭にタウ〇ページの角が直撃した。

 

 

 

 

 

「テロリストおおおおおォォォ!!!」

 

 

だから致命傷じゃねぇか!!ガチで死ぬぞ!?

 

 

「誰だ!タ〇ンページを俺の手に乗せたのは!?」

 

 

「何だ?文句があるのか?」

 

 

「服部かよ!?」

 

 

意味分からん!お前、そういうキャラだったか!?

 

俺と服部が口論していると、

 

 

「大樹、連絡したよ。本部がすぐに対処してくれるよ」

 

 

「サンキュー幹比古。でももう一つ頼みがある」

 

 

俺は振り返る。

 

 

「テロリスト達に救急車も頼む」

 

 

「どういうこと!?」

 

 

幹比古が戸惑っていた。確かに情報不足だな。

 

 

「いや、テロリストが死にそうなんだ」

 

 

「僕が居ない間に何があったの!?」

 

 

「ラッパとコップとタウ〇ページを投げた」

 

 

「意味が分からないよ!?」

 

 

この後、テロリストは一応死ななかったが、捕まった。

 

 

________________________

 

 

「気持ち良い~」

 

 

ほのかは温泉に浸かり、うっとりする。

 

先程大樹たちが話していた通り、このホテルの地下には温泉がある。あと湯着を着ている。タオルではない。

 

 

「わぁ……ほのかスタイルいい……」

 

 

ほのかを見て感想を述べたのは紅い髪の色をした一年生の明智(あけち)英美(えいみ)。彼女が温泉を誘った人だった。

 

英美はほのかにゆっくりと近づき、

 

 

「むいてもいい?」

 

 

「はい!?」

 

 

「いいよね?ほのか胸大きいんだから」

 

 

「いいわけないでしょ!雫助けて!」

 

 

「いいんじゃない?ほのか胸大きいし」

 

 

「雫!?」

 

 

バシャバシャとほのかは温水を英美にかけて抵抗する。英美はそれでも近づこうとする。

 

 

ガラッ

 

 

その時、2人の女の子が入って来た。

 

 

「温泉なんて久しぶりだわ」

 

 

「YES!黒ウサギも久しぶりです」

 

 

優子と黒ウサギだった。二人はシャワーを浴び終わったところだった。黒ウサギはタオルを頭に巻きつけてウサ耳を隠している。

 

 

「「「「じー」」」」

 

 

「ど、どうしたのですか皆様方……目が怖いですよ?」

 

 

温泉に浸かっていた女の子たちは黒ウサギを見ていた。

 

正確には胸だ。

 

沈黙が続く中、最初に声を出したのは美少年と見紛うばかりの外見の少女、里見(さとみ)スバルだった。

 

 

「あっちが上かもね」

 

 

英美はハッとなり、

 

 

「というわけで黒ウサギ。むいてもいい?」

 

 

「どういう意味か分かりませんが黒ウサギの身に危険が感じられるので却下です!」

 

 

黒ウサギは急いで温泉へと逃げた。

 

 

「……………」

 

 

優子は黒ウサギを見て自分の胸に手を置いた。そして、静かに落ち込んだ。雫はその様子を見て、優子の肩に手を置いた。

 

 

「大丈夫。女の子の価値はそこで決まらない」

 

 

「べ、別に気にしてないわよ!!」

 

 

優子が少し涙目だったのを雫は黙っておくことにした。

 

 

ガラッ

 

 

またシャワー室の扉が開いた。出て来たのは深雪だった。

 

 

「「「「「あ……」」」」」

 

 

みんなは深雪に見惚れてしまっていた。変な表現だと思うが、本当にみんなは見惚れてたのだ。

 

それほど深雪は美しかった。

 

 

「な、何……?」

 

 

深雪は集められた視線に疑問を持つ。

 

 

「ゴメンゴメン、つい見惚れてしまったよ」

 

 

「ちょ、ちょっと女の子同士で何を言っているの」

 

 

「んーまぁそれはそうだけど……あ」

 

 

スバルの返しに深雪が焦る。スバルは急いで話を変えることにした。

 

 

「パーティーはどうだった?」

 

 

「どう……って言われても……」

 

 

「三高に十師族の跡取りがいたよね?」

 

 

「あ、見た見た!」

 

 

スバルの質問に答えたのは深雪ではなく、英美だった。

 

 

一条(いちじょう)将暉(まさき)君!結構良い男だったね」

 

 

英美は深雪の方を向いて笑いながら言った。

 

 

「そういえば彼、深雪のこと熱い眼差しでみていたよね」

 

 

「そう……?全然気が付かなかったけど」

 

 

「お兄さんにぞっこんなのは有名だけど、やっぱりお兄さんみたいな人が好みなのかい?」

 

 

深雪の言葉を聞いてスバルは質問した。深雪は困った顔をしながら言う。

 

 

「私とお兄様は実の兄妹よ?それに、お兄様みたいな人が他にいるとは思わないわ」

 

 

(((((やっぱりブラコンだ……)))))

 

 

みんなはその答えを聞いて逆に安心してしまった。

 

 

「じゃあ楢原君は?」

 

 

「大樹さん?大樹さんは……」

 

 

英美の質問に深雪は視線を横にずらす。

 

 

「「ッ!」」

 

 

視線の先には黒ウサギと優子がいた。

 

 

「3人に聞いた方が面白いと思うわ」

 

 

「「「ッ!?」」」

 

 

深雪の言葉に3人は顔を真っ赤にした。

 

 

「え!?どうなの!?好きなの!?」

 

 

「ま、待ってください!そんな恥ずかしい事言えないですよ!」

 

 

英美が目をキラキラと輝かせながら黒ウサギに近づく。黒ウサギは手をブンブン振って嫌がる。

 

 

「ということは好きなのね」

 

 

「うッ!!」

 

 

雫の指摘に黒ウサギは言葉を詰まらせてしまう。だが、黒ウサギはそれでも話そうとしない。

 

 

「でも楢原君カッコいいよね。好きになってもおかしくないと思う」

 

 

「「「ッ!」」」

 

 

英美の一言に黒ウサギ、優子、ほのかが驚いた。

 

 

「特に今日の楢原君はカッコよかった!敵をやっつけている姿とか凄かったもん!あんなの見たら誰だって惚れちゃうよ?」

 

 

「先輩もカッコいいって言ってたね」

 

 

「「「ッ!?!?」」」

 

 

英美の言葉にスバルはうなずいた。大樹の人気の高さに三人はまた驚く。

 

その時、雫は思い出す。あの時の言葉を。

 

 

「『もう大丈夫だ。俺が来たからには安心しろ』」

 

 

「なッ!?」

 

 

優子が大樹に抱き付いた瞬間のセリフだった。優子の顔が赤くなる。

 

英美はニヤニヤとしながら優子に言う。

 

 

「カッコいいよね?優子?」

 

 

「し、知らないわ!」

 

 

優子は顔を赤くして視線をそらす。「えー、つまんないー」と英美は駄々をこねている。

 

 

「ねぇ楢原君はどういう性格なの?凄いってイメージしかないから分からない」

 

 

「ど、どうして黒ウサギを見るのですか……」

 

 

「一緒に住んでるんでしょ!?進展とかあるでしょ!?」

 

 

「……………無いです」

 

 

「「「「「え」」」」」

 

 

「大樹さん……口ではあんなこと言っているのに全く行動しないんですよ」

 

 

「具体的に……話してくれる?」

 

 

いろいろとツッコミたいことがあるが今はスルー。深雪が黒ウサギに聞く。

 

 

「黒ウサギがお風呂に入りだすと大樹さんはすぐ外に出かけるんです……」

 

 

逆に出て行って欲しくないの?っというツッコミは誰もしなかった。いやできなかった。

 

 

「テレビを一緒に見る時も隣に座るっても無反応ですし、肩に頭を置いても表情を変えないんですよ!」

 

 

(((((凄い。黒ウサギの大胆な行動も凄いけど……)))))

 

 

動揺しない大樹の精神が一番凄い。

 

 

「布団を二つ並べて寝ている時もです!黒ウサギが大樹さんの布団に入ってもピクリとも動かないんです!後ろから抱きしめてもですよ!?」

 

 

「「「「「ストップ。それはストップ」」」」」

 

 

「え?何でしょうか?」

 

 

「黒ウサギって……楢原君に抱き付いて寝たの?」

 

 

質問を優子が代表して聞く。

 

 

「そうですよ?」

 

 

「……何回くらい?」

 

 

「7回くらいです」

 

 

(((((意外と多い!?)))))

 

 

よく大樹の理性が保っていられたとみんなは思った。特に優子とほのかが驚愕していた。

 

 

「凄いわね楢原君……」

 

 

「はい……凄いですね」

 

 

「YES。だから怖いんです」

 

 

黒ウサギはお風呂の水面に写る自分の顔をみつめながら語る。

 

 

「大樹さんは賢くて、強くて、仲間思いな人」

 

 

周りのみんなは黒ウサギの言葉を静かに聞いた。

 

 

「でも人を助けるためなら自分の命を簡単に捨てようする危ない人でもあります」

 

 

「……………そうね。楢原君はそういう人だったわね」

 

 

優子は司に操られていた時を思い出す。命懸けで戦い、自分を守ってくれたことを。

 

 

「だからこそ、大樹さんは弱いんです」

 

 

黒ウサギの言葉にみんなが驚いた。

 

 

「最初に大樹さんと出会った時、自分の強さ……最強に自信を持っていました。ですが、時間が経つにつれてその勢いが無くなって……最後は崩れました」

 

 

黒ウサギの声がだんだんと小さくなるが誰一人、聞き逃さない。

 

 

「あの時は本当に信じられなかったですよ。あの大樹さんが……?って」

 

 

「ど、どのくらいヤバかったの?」

 

 

英美が恐る恐る尋ねる。

 

 

「全てを諦めていました。人を助けることも、戦うことも。そして、生きることも」

 

 

ですがっと黒ウサギは付け加える。

 

 

「大樹さんは立ち直りました」

 

 

黒ウサギは笑顔で言う。

 

 

「大切な人を守る為に強くなったのですよ」

 

 

「弱いんじゃないの?」

 

 

黒ウサギの言葉に疑問を持った雫が言う。

 

 

「YES!大樹さんは弱いですよ?」

 

 

「話が噛みあってないわよ……」

 

 

「優子さん。大樹さんって実は『泣き虫』なのは知っていますか?」

 

 

「「「「「えッ!?」」」」」

 

 

黒ウサギの言葉にみんなが食いついた。

 

 

「優子さんたちが傷つくと、すぐに泣いちゃうのですよ?」

 

 

「う、嘘……!?」

 

 

「本当です」

 

 

黒ウサギは笑みを浮かべながら言った。優子は固まって動かない。

 

 

「大樹さんは強くて弱いんです。だから優子さん」

 

 

黒ウサギは優子の目を真剣な眼差しで見て言う。

 

 

「大樹さんが泣いた時は慰めてくださいね?」

 

 

「……ええ、任せてちょうだい」

 

 

優子はしっかり聞こえるように返事をした。

 

 

「ねぇねぇ、優子さん()()って、まだ誰かいるの?」

 

 

「ッ!?」

 

 

黒ウサギの顔が「しまったッ!?」と言わんばかりの顔になってしまった。

 

 

「く、黒ウサギです!優子さんと黒ウサギですよ!?」

 

 

「そう……じゃあ黒ウサギ」

 

 

優子は満面の笑みで告げた。

 

 

「後で聞くわね?」

 

 

(大樹さん……黒ウサギは頑張ったと思います……)

 

 

大樹の苦労を少し知った黒ウサギだった。

 

 

 

________________________

 

 

【大樹視点】

 

 

「へっくしゅんッ!」

 

 

「何だ?風邪か?」

 

 

「いや、どっかの美少女さんたちが俺のことを話しているだけだ」

 

 

「一体どこからその自信が出てくる……」

 

 

服部はドン引きだった。いや、本当にそんな気がするんだよ。

 

そう言えば今日はゆっくり寝られるな。最近、寝ている時に黒ウサギに後ろから抱き付かれて困ってたんだよ。おかげでずっと動くこともできねぇし、朝まで待たないといけないし、胸当たってるし大変。最後は嬉しいけど。

 

 

「これは……不吉な予感がする」

 

 

コンコンッ

 

 

その時、ドアがノックされた。

 

 

「俺だ」

 

 

「ッ!?」

 

 

俺はその声を聞いた瞬間、一目散にドアへと向かった。

 

 

ガチャッ

 

 

「原田!」

 

 

「ああ、今帰って来たぜ」

 

 

声の正体は原田だった。

 

 

「原田ッ!!」

 

 

俺は原田に飛びつく。感動の再会。

 

 

「死ねえええええェェェ!!」

 

 

ドゴッ!!!

 

 

「ぐはッ!?」

 

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 

あ、違う。最悪の再会だったわ。

 

俺は原田の顔面を手加減無しで右ストレートでぶん殴った。

 

原田の体は反対側にある部屋のドアをぶち破り、転がっていく。

 

 

「な、何だッ!?」

 

 

反対側の部屋の主である森崎とそのクラスメイトが慌てて出てくる。

 

 

「悪い森永。俺は明治のチョコレートが好きだから」

 

 

「僕は森崎だ!」

 

 

「いきなり何しやがるお前ッ!?」

 

 

テーブルの下敷きなった原田は、テーブルをひっくり返しながら怒鳴る。

 

 

「お前のせいで俺は人外に認定されたんだよ!心臓ぶちまけたとか言いふらしたせいでな!」

 

 

「違う!誤解だ!」

 

 

今更弁明の余地を与えたくなかったが聞く事にした。

 

 

「お前は正真正銘……人の道を踏み外した最低野郎だ!」

 

 

「ぶっ殺すッ!!」

 

 

俺は音速で原田に近づき距離を詰める。そして、左回し蹴りを繰り出す。

 

 

「遅い!」

 

 

ドゴッ!!

 

 

原田は俺の速度についてこれた。技を見切り、両腕をクロスさせてガードする。

 

左足の攻撃が空中で止まった瞬間、その場で地面についた右足を軸にして小さく飛ぶ。そして音速を越えるスピードで体を回転させる。

 

 

ドゴッ!!

 

 

二撃目。右回し蹴りが原田の顔にぶちあたった。

 

 

「おい!?洒落にならんぞ!」

 

 

だが、原田は口に咥えた短剣。【天照大神(アマテラスオオミカミ)の剣】が俺の蹴りをガードしていた。原田は口に咥えたまま叫ぶ。卑怯だぞ!武器使いやがって!

 

 

「チッ、今日はこのくらいにしてやる。……今日は」

 

 

「怖ぇよ!明日はどうする気だよ!?」

 

 

「消す」

 

 

「殺すより怖い!?」

 

 

俺は渋々と部屋に帰ることにした。後ろからは原田がため息をつきながらついてくる。

 

 

「「……………え?」」

 

 

森崎とそのクラスメイトはその場に残された。ぐちゃぐちゃに荒らされた部屋に。

 

 

________________________

 

 

服部は「被害に遭わないうちに帰る」と言って、自分の部屋へと帰って行った。他の3人も「み、壬生と電話しないとな!」とか「幹比古、俺たちも被害に遭わないうちに逃げよう」「うん。僕も言おうと思っていた」とか言い出してみんな帰った。……泣いてないよ?

 

 

「はぁ……何で俺が直すんだよ……」

 

 

「お疲れ。そのまま永眠していいよ」

 

 

「さりげなく『死ね』って言うなよ」

 

 

森崎たちの部屋の修繕を終えた原田が帰って来た。俺は何をしていたかって?別に何もしてないよ。コーヒー美味い。

 

 

「ほら。コーヒーやるよ」

 

 

「……何か入れたか?」

 

 

「いや、何も。そろそろ真面目な話をしようか」

 

 

「……サンキュー」

 

 

原田は淹れ立てのコーヒーを飲む。その間に俺は原田に携帯端末の画面を大きくして、見えるようにする。

 

 

「これは何だ?」

 

 

「九校戦で使われる会場、試合場所の見取り図だ」

 

 

俺は原田に細かく説明する。

 

 

「さっきも言ったが俺たちはここに来る途中、セネスに襲われた。まぁ本人は出てこなかったが」

 

 

「……なるほど。また仕掛けてくるかもしれないからか」

 

 

「話がはやくて助かる」

 

 

そう、見取り図を用意したのは第二の襲撃に備えるためだ。

 

相手は直立戦車などを使ってきた。だったら今度は爆弾を設置したりすることも十分に考えられる。

 

襲われた時、全ての直立戦車は遠隔操作されていた。仲間はいない……と考えていたが、

 

 

『あの人の作った最強の兵器』

 

 

これが気掛かりで仕方がない。今日は寝れないまでもある。

 

 

「馬鹿みたいに強かったからな、(シグマ)

 

 

「軍の記録にも書かれていない兵器……どういうことだ?」

 

 

「あいつらが作った……いや、無理だな」

 

 

エレシスは頭は良いが、知識不足だ。セネスに至ってはアレだ。アホだから。

 

 

「背後に誰かがいる……聞いてみるか」

 

 

「誰にだ?」

 

 

「はじっちゃん」

 

 

「……誰?」

 

 

俺は原田を無視して携帯端末を使って電話する。

 

コールが二回程鳴った後、

 

 

『何だ?』

 

 

「あ、はじっちゃん?聞きたいことがあるんだけど?」

 

 

『いい加減その呼び方をやめろ!』

 

 

「いいじゃん。で、どうだ?」

 

 

はじっちゃん((つかさ)(はじめ))はコホンッと喉の調子を整え、話始める。

 

 

『今日、襲われただろ?あれは【無 頭 龍(NO HEAD DRAGON)】が出した兵器で間違いない』

 

 

「やっぱりか……」

 

 

『でも一つだけ例外がある』

 

 

「直立戦車タイプ∑のことか?」

 

 

『……そんな名前なのかアレは?』

 

 

「いや、敵がそう言っていたから」

 

 

『そうか……結論から言うとその兵器は()()()()()兵器だ』

 

 

「どういう意味だ?」

 

 

『不可能なんだよ。造ることが』

 

 

「……すまん、言ってることがさっぱり分からん」

 

 

『君は地球を一瞬で消すことができる装置を造れるか?』

 

 

「いや、無理だろ」

 

 

『直立戦車タイプ∑はそれと同じだ。無理なんだよ。どんな大企業でも』

 

 

「ッ!?」

 

 

その言葉はこう示していた。

 

 

()()()()の兵器では無い。

 

 

……最悪のシナリオが頭の隅で出来上がった。

 

 

 

 

 

エレシス、セネスに続き、3人目の裏切り者がこの世界に来ていること。

 

 

 

 

 

『魔法無しで自己再生……機械単独での自己再生なんてどこの科学者も誰一人信じないだろう』

 

 

「……天才が今まで姿を隠していたという可能性は?」

 

 

『ゼロだ。まず自己再生自体が異常なことだ。……日本政府もこの映像を見たら焦るだろう。というより、もう焦っている』

 

 

「……俺のことも政府に見られていたか?」

 

 

『ああ、バッチリと写っている』

 

 

チッ、周りはかなり警戒していたはずなのに……

 

 

『人工衛生カメラに』

 

 

無理。それは逃れられない。お手上げだわ。

 

 

『でも安心しろ。お前は僕たちを撃退した功績。それと【ギルティシャット】の件がある。不審には思われないだろう』

 

 

「待て」

 

 

会話を中断させたのは原田だった。

 

 

「えっと……はじっちゃん?」

 

 

『僕の名前は司一だ』

 

 

「すまない。なぁ司さん、ここ最近……というか入学してから大樹が起こしたことを全部教えてくれないか?」

 

 

あ、やっべ。

 

俺が止めようとするが遅かった。原田の携帯端末に何かが送られてきた。恐らく……いや、間違いなく俺の情報だ。用意良すぎるだろ、はじっちゃん。

 

 

「……大樹」

 

 

「俺は悪くない」

 

 

「あれ程目立った真似は避けろって言ったよな?」

 

 

「社会が悪いんだ。働いたら負け」

 

 

「ネットの記事に書かれるまで目立つか普通!?」

 

 

「俺は普通じゃないだろ。片腹痛いわ!」

 

 

「開き直んな!片腹痛いわ!」

 

 

「あー駄目だな。それ盲腸だわ。救急車呼ぶ?」

 

 

「違う!意味違うから!」

 

 

「うぜぇー。救急車に乗ったついでに整形してこいよ」

 

 

「最低だなお前!何でそんなこと言うんだよ!?」

 

 

「自分、不器用ですから」

 

 

「悪質過ぎるだろ!」

 

 

「そうだ。だから俺は悪くないんだ。Q.E.D.」

 

 

「何も証明されてねぇよ!?納得しないよ!?」

 

 

「そもそもテロリストが俺たちに攻撃するのが悪いんだ。O.H.D.」

 

 

「O.H.D.?」

 

 

「お前、はやく、黙れ。Q.E.D.」

 

 

「喧嘩売ってんのか!?あと証明できてないって言ってるだろ!?」

 

 

「だって最初のテロリスト、はじっちゃんが命を狙ってきたもん!!」

 

 

『お前も責任があるだろ!』

 

 

ギャーギャーッとしばらく口論し続けた。

 

 

~10分後~

 

 

「もうやめよう……次の話するから……」

 

 

「そ、そうだな……」

 

 

『ぼ、僕はもう切るよ……仕事が残っている……』

 

 

不毛な戦いの果てに手に入れたのは疲労だった。

 

原田は一息つき、俺の目の前に束になった紙と手帳を置いた。

 

 

「これがセネスの情報だ」

 

 

「!?」

 

 

俺は急いで手に取る。

 

束になった紙に書かれている内容を黙読する。

 

 

「う、嘘だろ……?」

 

 

紙に書かれた内容を見て驚愕した。俺は原田に尋ねる。

 

 

「他にないのか……?」

 

 

「すまない……これで全部なんだ。エレシスの情報は見つからなかったけど、別にいいよな。アレはどちらか片方が分身ってことで纏まった……大樹?」

 

 

「……………」

 

 

頭の中で情報が整理されていく。一つ一つのヒントが繋ぎ合っていく。

 

 

(分からない……何で書かれていないんだ!?)

 

 

焦りで汗が止まらない。おかしい。答えはすぐそこにあるはずなのに。

 

 

「……ッ」

 

 

その時、ふと目に止まったモノがあった。

 

 

表紙と裏表紙がボロボロになった手のひらサイズの手帳。

 

 

ゆっくりとそれに手を伸ばし手に取る。

 

 

「……俺にはさっぱり意味が分からなかった。どういうことか分かったか?」

 

 

「……………」

 

 

ああ、そういうことか。

 

静かに手帳を閉じる。

 

 

「……もう寝るか。原田もこの部屋で寝て行けよ」

 

 

「いいのか?」

 

 

「ああ、どうせバレないだろうし。隣のベッドを使ってくれ」

 

 

「サンキュー」

 

 

俺はベッドに倒れて楽な体勢を取る。そして、手帳を開いて再度黙読する。

 

 

(……8月11日)

 

 

エレシスと約束した日。敵が来るならこの日。きっとこの日に来るはずだ。

 

 

『私は14歳です』

 

『……は?』

 

『成績優秀、八方美人、完璧でないといけません』

 

 

屋上で話したあの言葉が頭によぎる。

 

 

『私は優秀でなければいけません』

 

 

勉強会で言ったあいつの使命感。それが心の底からやっと伝わって来た。

 

 

そして、エレシスの悲しい顔が頭から離れない。

 

 

(クソがッ……)

 

 

歯を強く食い縛る。口の中で鉄の味が全体に広がった。

 

 

『そうよね。お姉ちゃんだもん。私は認めているんもん。誰が……見なくても私が見ている』

 

『私は私のやり方でフォローする』

 

 

エレシスの言葉だけじゃない。セネスの言葉も思い出させられる。

 

思い出してみればあの時の声はどこか弱々しかった。悲しげだった。寂しげだった。

 

 

(今あいつらに必要なのは何だ……?)

 

 

俺はベッドに寝そべったまま、天井を睨み続けた。

 

 

その日、睡眠時間を全て削ってまで考え続けた。

 

 

答えは結局、出てこなかった。




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