どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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静かな平和は訪れない

釈放されて数日が経過した。

 

ここは店の二階の自宅。

 

 

「いち……じゅう……ひゃく……!」

 

 

俺はそこに書かれている数字を一桁ずつ読み上げて行く。隣では黒ウサギが震えながら見守っている。

 

 

「せん……まん……十万……百万……!」

 

 

手の震えが止まらない。

 

 

「一千万……一億……!!」

 

 

残高180,000,000円

 

 

「一億八千万だとおおおおおォォォ!?」

 

 

ゴンッ!ゴンッ!ゴンッ!

 

 

「だ、大樹さん!?」

 

 

俺は壁に頭を打ち付ける。

 

銀行の預金残高が大変なことになっております隊長!

 

 

「じゃうgはどhごああdvがいkじゃdvh!」

 

 

「落ち着いてください!!」

 

 

グハッ!?暴れすぎて腹の傷が痛い!うひょー!!

 

……そろそろこの状況を説明します。

 

俺たちは不正逮捕された。もちろん、あの後はちゃんと釈放された。警察にも事情を分かってもらったし、補償金も貰った。でもッ!

 

 

「多すぎる!」

 

 

「そ、それは大樹さんが……」

 

 

「うん、偶然って怖いわ」

 

 

本来ならここまで多くない。何故多いかと言うと、謝礼金が追加されたからだ。

 

柴智錬(しちれん)家の野望を打ち砕き、さらに【ギルティシャット】の隠された悪事の秘密を見破った。

 

 

「まさか……不正逮捕されたのが俺たちだけじゃないとは……」

 

 

「皆さん、大樹さんに感謝してましたよ」

 

 

そう、【ギルティシャット】には俺たち以外にも不正逮捕されて、閉じ込められた人達がいた。

 

別に助けたわけではないが……助けたことになった。だから、

 

 

『最強の学生!?全ての悪を断罪し、囚われた人々を救出した犯罪少年の全貌が明らかに!』

 

 

っと言った感じで、俺について書かれた記事がネットやテレビに出された。いや、別に断罪してねぇよ?ただボコボコにしただけだもん。あと、犯罪少年ってやめてくれ。俺、犯罪なんか犯してないから。多分。

 

内容は俺が学校でテロリスト共をフルボッコにしたこと。刑務所で暗殺されそうになった囚人を助け、逃走劇を繰り広げたこと。ついでに直立戦車をぶっ壊して警察を助けたこと。廃病院をぶっ壊すも、暗殺者を二人捕まえたこと。そして、悪の組織によって牢獄に放り込まれたこと。しかし、脱獄して悪を断罪し、他に不正逮捕された人を見事に助け出したこと。そして、空を飛んで東京湾に無事着地したこと。

 

……ん?今、一個くらいねつ造されていなかった?気のせいか?

 

 

「はぁ……」

 

 

俺は深くため息をつく。

 

釈放直後はインタビューなど記者に追われる日が続いた。釈放されてからは学校に行けず、家に引き籠っている。おかげで店も開けないよ。

 

ふとテレビを見てみると、俺の顔が映っている。わーお、目立ってるじゃん。

 

ふと携帯端末でニュースを見てみると、俺の顔が映っている。わーお、有名人じゃん。

 

ふと窓の外を見てみると、何人もの記者たちが待ち構えている。わーお、警察に通報しようかな?

 

 

「はぁ……」

 

 

「大樹さん、元気出してください」

 

 

「平和が恋しいよ……」

 

 

俺は学校の制服を見て涙を流した。みんなに会いたいよぉ……。

 

騒ぎが小さくなるまで、俺たちは引き籠ることにした。

 

 

_______________________

 

 

1-Eの教室。

 

 

「うぃーす!」

 

 

俺は()()()教室に入った。

 

 

「「「「「うおおおおおォォォ!!」」」」」

 

 

「「「「「きゃあああああァァァ!!」」」」」

 

 

「うおッ!?」

 

 

クラスメイトは俺を見た瞬間、歓喜の声を上げた。驚かそうとしたのに逆に驚かされてしまった。

 

 

「すげぇよ!楢原!」

 

「やっぱり俺たちの希望の星だ!」

 

「楢原君!サイン頂戴!」

 

 

「俺に休憩の場所をくれえええええェェェ!!」

 

 

俺は再び窓から脱出した。スマン、達也、エリカ、美月、黒ウサギ。また後でな。あ、レオ。久しぶり、後でいじり倒すわ。

 

 

「おい!あれって楢原大樹じゃないか!?」

 

「嘘!?ついに学校に来たの!?」

 

 

今度は上級生に見つかった。

 

 

「うわッ!?本物だ!」

 

「握手してください!」

 

 

どんどん増えて行く。

 

 

そして、十分後。

 

 

「「「「「きゃあああああァァァ!!」」」」」

 

 

「「「「「楢原あああああァァァ!!」」」」」

 

 

「うるせえええええェェェ!!」

 

 

生徒に追いかけられていた。たくさん。

 

 

「ッ!!」

 

 

俺は光の速度でその場から一瞬で消える。

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

「消えた!?」

 

「どこだ!?」

 

 

足音が小さくなって行き、遠ざかる。

 

俺は光の速度で一番近くの部屋に入ったのだ。足音が聞こえなくなるのを確認して安堵する。

 

それと入った場所は生徒会室だ。

 

 

「……………よう」

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

中には真由美、摩利、服部、鈴音(リンちゃん)あずさ(あーちゃん)の五人がいた。疲れ切った表情の大樹を見て、みんなは苦笑いだった。リンちゃんを除いて。

 

 

「お久しぶりですね、楢原君」

 

 

「ありがとう、リンちゃん。まともに話ができて嬉しいぜ」

 

 

「今すぐそのあだ名をやめてください。学校の生徒に楢原君の居場所を言いますよ?」

 

 

本気(マジ)でごめんなさい」

 

 

鈴音に怒られ反省。本気と書いてマジと読む。思い出と書いてトラウマと読む。大樹と書いて人外と読む……オイ。

 

 

「大樹君」

 

 

「何だ、風紀委員長?」

 

 

「書類が溜まってるぞ」

 

 

「その言葉、『死ね』と同義語だからな?」

 

 

摩利は親指をビシッと立て、笑顔で言った。悪魔か貴様。

 

その時、ハァっとため息が横から聞こえてきた。服部だ。

 

 

「何だ、まだ生きていたのか」

 

 

え?酷くね。開口一番にそれは酷くね?

 

 

「おう、でも腹から血をぶちまけたけどな」

 

 

「……………すまん」

 

 

「いや、謝んなよ。その反応は一番傷付く」

 

 

そして、窓を見るな。何だその顔。「やっぱり楢原は人間じゃないか……」みたいな全てを悟った顔はやめろ。

 

 

「な、楢原君!人間卒業おめでとうございます!」

 

 

「ぐふッ!?……あーちゃん、ひどいよ!」

 

 

「すいません!会長からどうしてもと……!」

 

 

「真由美か……!」

 

 

くそッ!純粋無垢な少女の悪口の威力は半端じゃない……!何てことをするんだ、大魔王!

 

 

「おかえりなさい、大樹君」

 

 

「俺の顔を見て言えや」

 

 

窓に真由美が笑った顔が写っている。この会長、摩利よりブラックだぞ。眠気も一発で覚めそうなくらいブラックなんだけど。真由美はガムかよ。

 

真由美がサタン的存在なのは置いといて、俺は一つみんなに質問する。

 

 

「というか、今は授業中じゃないのか?」

 

 

「誰のせいで俺たちがここにいると思っている?」

 

 

「……心の底からごめんなさい」

 

 

もう謝ってばかりだよ。

 

 

「まぁ服部。そう大樹君をいじめるな」

 

 

「ま、摩利……!」

 

 

「大樹君はしばらくここにいてくれ。私たちは生徒たちに呼びかけて、騒ぎを起きないようにしよう」

 

 

いつも俺をいじめる摩利の言葉に感動した。な、泣きそう……!

 

 

「大樹君、風紀委員の仕事の書類はいつもの場所に置いてあるから」

 

 

「だと思ったぜ。涙返せ」

 

 

やはり裏があった。しろってか?書類しろってか?

 

 

「それじゃあ、私たちは少し席を外す」

 

 

摩利はそう言って風紀委員会本部に続く扉を開けた。摩利と服部は部屋を出て行った。

 

 

「私たちも行きましょう」

 

 

リンちゃn……今、鈴音がこっちを見たような気がした。あなたも心が読めるのですか?

 

……ごほんッ!鈴音は立ち上がり、部屋を出て行く。あーちゃんもその後を追いかけて、出て行った。これでいい、鈴音さん?

 

 

「私たちだけになったわね」

 

 

「そーだなー」

 

 

何か嬉しそうですね、真由美さん。宝くじでも当たった?俺は宝くじ並みの金は貰ったけど。

 

 

「大樹君。今、カル〇スがあるけど飲むかしら」

 

 

「ああ、頼む」

 

 

あれ?何で〇がついてんだろう?まぁいいか。

 

俺はフードを脱ぎ、椅子に座ってジュースを待つ。

 

 

「甘い方がいいかしら?」

 

 

「うん?まぁ確かに甘いほうがいいな」

 

 

甘い方?どういうことだ?〇ルピスに甘いも苦いも無いだろ。

 

真由美は生徒会室の小型冷蔵庫からビンに入った原液カルピ〇をコップに注ぎ、ミネラルウオーターと混ぜた。

 

ちなみにあの冷蔵庫は俺と原田が造った。

 

何故作ったかと言うと、特に理由は無いのだ。爆弾型CADを作れるんだったら電化製品も作れるんじゃねぇ?っと思って作ってみた。

 

結果。小型冷蔵庫が完成した。

 

以外にも俺と原田はできる子だった。やったね。……しかし、問題が起きた。

 

 

俺の店にも冷蔵庫ある。しかもたくさん。

 

 

食材の倉庫。野菜室。肉や魚やキノコなどなど。専用の冷蔵庫まであるじゃん。いらないよ、小型冷蔵庫。

 

原田もさすがに二台もいらないっと言ってどう処分するか困っていた時、

 

 

『じゃあ生徒会室につけたらどうだ?』

 

 

摩利のこのことを教えたところ、そう言われたので生徒会にあげた。

 

そして、現在もなお使われている模様。よかったな、小型冷蔵庫。もう少し遅かったら粗大ゴミ行きだったぜ。

 

 

「はい、どうぞ」

 

 

真由美は俺の目の前にコップを置く。

 

 

「サンキュー。いやぁ走った後はやっぱり甘いジュースだろ!」

 

 

俺はカ〇ピスをグイッと一気に飲み干す。

 

 

 

 

 

「ほら、ちゃんと甘いでしょ?原液と水は99対1で割ってあるから」

 

 

 

 

 

「ぶふッ!!」

 

 

胃に入ったカル〇スは再び口に戻り、噴き出した。

 

 

「げほッごほッ!!何考えてんだお前!?」

 

 

「え?ま、不味かったかしら?」

 

 

「不味いとかの問題じゃねぇよ!?何だよ、原液99%って!?そこは半分か、4対6で割れよ!?」

 

 

「大樹君は甘いほうが良いって言ったじゃない!」

 

 

「甘くなる=原液99%は違うからな!?味が濃くなってヤバいだけだよ!」

 

 

天然!?真由美がボケてる!?

 

俺たちは一度落ち着き、床を掃除する。うわぁ……今、口の中が凄いことになってるぜ。見る?

 

 

「ねぇ大樹君?」

 

 

「うん?何だ?」

 

 

「水を99にするのは?」

 

 

「味しねぇよ!」

 

 

________________________

 

 

キーン、コーンー、カーン、コーン

 

 

「やっと一日が終わったか……」

 

 

授業に出れないので俺は爆弾型CADに読み込ませる魔法式を作っていた。勉強はしないぞ。魔法が使えないのに何で魔法の勉強をしないといけないんだ。俺そろそろ本気で泣くぞ。

 

昼休みは黒ウサギが弁当を持って来てくれたおかげで俺は生徒会室から出らずに済んだ。あのまま食堂に行ってもロクな目に合わない……。

 

 

「これであと一週間ね」

 

 

俺の隣で端末を使って勉強していた真由美は背伸びをしながら言う。ていうかこんなに広い部屋なのに何故俺の隣なんだ……。

 

 

「ん?何があと一週間なんだ?摩利が俺をいじめない日が来るのにあと一週間だったら耐え忍んでやるけど」

 

 

「そ、そんなに書類が大変なの……?」

 

 

ああ、やべぇよ。あの書類は……。

 

俺は首を振って遠い目をした。それだけで真由美には大変さは伝わった。

 

 

「残念だけど違うわ。期末テストよ」

 

 

「あー、そう」

 

 

「大樹君は点数大丈夫かしら?」

 

 

真由美は俺を馬鹿にするような素振りで聞いてくる。

 

 

「一つ言っておこう。俺は天才だ」

 

 

「知ってるわよ。でも」

 

 

真由美は手の人差し指を立てて、

 

 

「一つ賭け事をしてみないかしら?」

 

 

「金か?」

 

 

「違うわよ!」

 

 

「じゃあ何を賭けるんだよ?」

 

 

「そうね……命令権とかどうかしら?」

 

 

「それで俺に向かって『奴隷になりなさい!』と言って一生こき使われるのか……」

 

 

「しないわよ!」

 

 

待て待て。考えるな俺。考えたらヤバいぞ。『何でも……つまりエロいことも手…!?』………あ。

 

 

サッ

 

 

「……どうして顔を背けるの?」

 

 

「何でも無い。気にするな」

 

 

ちょっと赤い鼻水が垂れてきてな。夏風邪かな?それにしても最近よく鼻血が出る。病院行こうかな?そう言えば最近、血を増やすために鉄分を取ってるよ。レバーとか一杯食べています。……あ、特にオチはないです、ハイ。

 

俺は近くにあったティッシュ箱からティッシュを3、4枚とり、鼻から出てきた液体を拭く。真由美にバレないように。

 

 

「よし、いいぜ。総合点数での勝負でいいか?」

 

 

「ダメよ。勝負方法は別のことで決めるわ」

 

 

予想外なことに単純な点数勝負では無いらしい。

 

 

「順位で決めるわ」

 

 

「順位?」

 

 

「ええ、一学年の順位ベスト10の中に二科生の生徒が半分以上。つまり6人入れば大樹君の勝ちよ」

 

 

「……ようするに俺が二科生の生徒に勉強を教えて、ベスト10にランクインさせればいいのか?」

 

 

「その通r「無理だろ!?」

 

 

真由美が肯定する前に、俺は椅子から立ち上がって否定する。

 

 

「どうやって魔法が苦手な二科生を魔法が得意とする一科生に勝たせればいいんだよ!?」

 

 

「だ、大丈夫よ。別に総合点数で競うわけじゃないわ」

 

 

真由美はコホンッと喉の調子を整える。

 

 

「大樹君。期末テストは実技と記述試験なのは知っているでしょ」

 

 

「ああ、それくらい知っている……ッ」

 

 

俺はハッとなり真由美の言いたいことに気付いた。

 

 

「なるほど、記述試験だけか」

 

 

「正解よ」

 

 

試験の総合最高得点は1700点だ。実技の最高得点は1200点、記述で500点。……俺、留年なりそうだな。記述も実技と同じ点数にしろよ。

 

 

「よし、いいだろう。俺の手で6人以上を二科生をベスト10ランクインさせてやる!」

 

 

さぁ!調ky……特訓開始だ!

 

 

________________________

 

 

 

「というわけで今から君たちには天才になってもらう」

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

俺の言葉にみんなは呆れた顔をした。

 

ここは俺の店。今はカーテンなどで閉めきって閉店中。店のテーブルをいくつも並べてそれではメンバー紹介をしよう。

 

 

「まずは入試でペーパーテスト一位の達也!期待してるぜッ!」

 

 

「そ、そうか……」

 

 

「次にお前もだ!吉田(よしだ)幹比古(みきひこ)!」

 

 

「……何で僕が連れてこられたのか分かったけど……普通ここまでしないよ?」

 

 

紹介しよう。今日、無理矢理連れてきた吉田君だ。〇の爪団には入っていないぞ。

 

神経質そうな外見で、体格は細身の中背だ。達也と同じくらいの髪の長さで、左目の横に小さなほくろがある。

 

 

「学校のセキュリティにアクセスして、入試で高い点数を取っていたこと。すでに調べてあるぞ」

 

 

「それ犯罪だよね!?」

 

 

「勝つためなら何でもする男。それが俺だ!」

 

 

「えぇ!?」

 

 

吉田は俺の発言に驚いていた。俺は気にせず次のメンバーを紹介する。

 

 

「さらに!ベスト10には入っていなかったが、吉田の次に二科生で高い点数を取っていた美月!」

 

 

「わ、私ですか!?」

 

 

「ああ、頼んだぞ!!」

 

 

「が、頑張ります!」

 

 

美月はオロオロとするが、最後は手をグーにして頑張る決意を見せてくれた。うむ、こういう反応が一番良いよな。

 

 

「そしてエリカ!……今までバカだと思ってた。スマン」

 

 

「ちょっとッ!?どういう意味よッ!」

 

 

実は美月の次に成績が良かった二科生はエリカなのだ。びっくりだね。

 

 

ゴッ!!

 

 

エリカは立ち上がり、俺の足を蹴った。

 

 

「いてぇッ!?ごめんなさい!お願いだから脛はやめて!?」

 

 

何度もエリカに謝って許して貰った。だが、俺の左足は死んだ。主に脛が。

 

 

「ぐッ……気を取り直して続けるぞ」

 

 

俺は最後のメンバーを見る。

 

 

「よし、勉強するか」

 

 

「ちょっとお待ちを!?」

 

「待てよ!?」

 

 

「はぁ……何だよ?」

 

 

黒ウサギとレオが俺の腕を掴んできた。

 

 

「どうして黒ウサギは期待されていないのですか!?」

 

 

「黒ウサギは高得点なんて余裕で取れるって信じているからな」

 

 

「し、信じて……!」

 

 

「ど、どうした?」

 

 

黒ウサギは俺から顔を背けて、椅子に座った。な、何が起きたんだ?

 

 

(((((あぁ……落ちてるな……)))))

 

 

大樹と黒ウサギを除いたメンバーはそう思った。

 

 

「ただしポニー。テメェは駄目だ」

 

 

「何でだ!?あとポニーじゃねぇ!」

 

 

「レオは点数低そうだもん。というか低いよな?」

 

 

「うッ」

 

 

「高得点取れるのかぁ?」

 

 

「くッ」

 

 

「あとモテるのかぁ?」

 

 

「余計なお世話だ!」

 

 

まぁいいか。戦力としては考えていないけど。レオは保険ということで。

 

 

「そして、最強の補佐。深雪に来て頂きました」

 

 

「一気に勉強会が凄くなったわね……」

 

 

エリカの一言にみんながうなずいた。俺も思う。

 

 

「分からないことがあったら聞いてください。お兄様のように完璧に答えられないかもしれませんが」

 

 

(((((さすがブラコン……)))))

 

 

さり気なく兄を敬愛する。ブラコン妹の鏡だ。

 

 

「よし、勉強会を始めるか」

 

 

「待て大樹。吉田の自己紹介はした方がいいんじゃないのか?」

 

 

「あ、そうだった」

 

 

さっきから口をポカーンッと開けた吉田がハッとなる。

 

俺は幹比古の自己紹介をする。

 

 

「吉田幹比古。頭が良い。以上」

 

 

「「「「「終わり!?」」」」」

 

 

吉田も驚いていた。

 

 

「だって……今日初めて話したから……」

 

 

「それでミキを連れてきたの……」

 

 

俺の言葉にエリカが呆れる。ん?

 

 

「「「「「ミキ?」」」」」

 

 

「ハハッ!僕、m

 

 

「大樹さん!」

 

 

「ごめんなさい!」

 

 

黒ウサギに叱られ俺はすぐに頭を下げる。ちょっと黒いネズミを連想してしまっただけなんです!

 

 

「エリカ!そんな女みたいな名前で呼ぶな!」

 

 

「ミキヒコって噛みそうだし……あ、じゃあヒコは?」

 

 

「何でそうなる!?」

 

 

噛みそうって……噛まないだろ。

 

試しに俺は名前を呼んでみる。

 

 

「ミキひきょ」

 

 

「噛んだ!?」

 

 

「なぁ吉田」

 

 

驚愕する吉田に肩を叩いたのはレオだった。

 

 

「ポニーはどうだ?」

 

 

「それは君のあだ名だろ!?」

 

 

「違ぇよ!」

 

 

何やってんだ、レオ。それはお前の大事な名前だろ?

 

 

「苗字じゃダメなのか?」

 

 

達也が吉田に尋ねる。吉田は達也の質問に首を横に振った。

 

 

「苗字で呼ばれるのは好きじゃないんだ」

 

 

「そうか、俺は司波達也だ。俺のことも名前で呼んでくれ、幹比古」

 

 

「ああ、よろしく達也」

 

 

っとすぐに吉田と仲良くなった達也。すごいなお兄様。

 

 

「幹比古、俺のことはレオって呼んでくれ」

 

 

「分かったよ、ポニー」

 

 

「幹比古!?」

 

 

「冗談だよ、レオ」

 

 

このコンビ。将来、金稼げそう。

 

 

「なぁ幹比古。エリカとは知り合いだったのか?あ、俺のことは大樹様でいいよ」

 

 

「どうして様付け……?」

 

 

「冗談だ」

 

 

「そ、そうだよね」

 

 

幹比古、何だその目は?『絶対に言わせようとしてたよね』って感じの目は?言わせようとしたけど、文句あるかぁ!?

 

 

「まぁ幼馴染みってやつかな?」

 

 

幹比古の代わりにエリカが答えた。

 

 

「幼馴染み……か……」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「いや、何でもない」

 

 

ヤベッ、顔に出ちまった。

 

 

「それより、勉強会しようぜ。幹比古のことは分かっただろ。面白い奴だと」

 

 

「面白い!?僕が!?」

 

 

「しかり」

 

 

「しかりじゃないよ!みんなも否定してよ!」

 

 

幹比古は周りに助けを求める。救済に入ったのは、達也だった。

 

 

「安心しろ幹比古。大樹は幹比古のことが気に入っているだけなんだ」

 

 

「しかり」

 

 

「それだけで済まさないでよ!」

 

 

「しかり」

 

 

「何のしかり!?」

 

 

俺はやれやれっと椅子に座る。そして、一言。

 

 

「みんな、幹比古は面白いよな?」

 

 

「「「「「しかり」」」」」

 

 

「しかりじゃないよ!あとしかり流行ってるの!?」

 

 

「「「「「しかり」」」」」

 

 

「もうやめてくれ!」

 

 

「「「「「しかり」」」」」

 

 

「本当にやめて!!」

 

 

________________________

 

 

幹比古いじりが終わり、真面目に勉強をする。

 

途中、幹比古に『何でフード被ってるの?』と黒ウサギと俺に聞かれたが、『ここから先はR-18だ』と言って誤魔化した。色々な意味で刺激が強からな。ウサ耳とかウサ耳とかウサ耳とか。

 

俺はホワイトボードに問題の解き方を書いて、みんなに教えていた。ちなみにホワイトボードは買った。金は有り余ってるし、ちょっとした無駄遣いくらいいいよね?

 

 

「……となるから、そこの空欄には選択肢の記号Aが入る。分かったか?」

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

「ん?どうしたみんな?」

 

 

俺の解説にみんなが驚いていた。どこか間違えていたか?

 

最初に口を開いたのは幹比古だった。

 

 

「ほ、本当に頭良いんだね」

 

 

「フッ、まぁな」

 

 

幹比古に褒められ、俺はドヤ顔をする。

 

 

「だ、大樹さん?」

 

 

「ん?今度は何だ?」

 

 

黒ウサギが信じられないモノでも見たかのように震えていた。

 

 

「数字の計算が……合ってますよ!?」

 

 

「うん、合ってちゃダメなのか?」

 

 

「熱でもあるんですか!?」

 

 

「ねぇよ」

 

 

「誰ですか!?」

 

 

「偽物でもねぇよ!」

 

 

何で計算が合っていただけでここまで言われるんだよ!?

 

 

「じゃあ……どうして……!?」

 

 

「……俺はあることに気付いたんだ。それは春の出来事だった」

 

 

(((((急に語り始めたよ、この人……)))))

 

 

「俺は計算が今でも苦手だ。九九は言えるのに、三桁の足し算はできない。XやYを使った計算なんて論外だ」

 

 

(((((小学生以下!?)))))

 

 

「じゃあどうすれば解けるんだ。俺は考えた。考えに考え抜いた」

 

 

俺は懐から電卓を取り出した。

 

 

「だからこうした」

 

 

「「「「「?」」」」」

 

 

ピピピピピピピピピピッ

 

 

「8953329166」

 

 

ピッ

 

 

「足す」

 

 

ピピピピピピピピピピッ

 

 

「4761520081」

 

 

俺は『(イコール)』のボタンを押す前に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「13714849247」

 

 

 

 

 

ピッ

 

 

そして、ボタンを押した。

 

 

 

 

 

『13714849247』

 

 

 

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

全員が驚愕した。

 

 

「大樹さん……まさか!?」

 

 

「ああ、その通りだ」

 

 

俺は手を広げて告げる。

 

 

 

 

 

「十桁と十桁の足し算、引き算、掛け算、割り算……全部覚えてやったわあああああァァァ!!」

 

 

 

 

 

「「「「「えええええェェェ!?」」」」」

 

 

「しかも割り算は小数点第10位までだ!」

 

 

「何て無駄なことをッ!?」

 

 

「無駄言うな!」

 

 

黒ウサギの指摘に俺は怒る。危うく一ヶ月が無駄になるところだった。

 

 

「何て無駄な真似を……」

 

 

「そこ!達也も言うな!」

 

 

「無駄ですね……」

 

 

「深雪もだ!」

 

 

「無駄ね」

 

 

「エリカ!」

 

 

「大樹君……可哀想……」

 

 

「美月の一言が一番傷ついた!」

 

 

「無駄だね」

 

 

「ああ、無駄だな」

 

 

「幹比古とレオはどうでもいいや。存在が無駄だし」

 

 

「「えぇッ!?」」

 

 

クソッ!みんな俺のことを馬鹿にしやがって……。

 

 

「大樹」

 

 

達也はホワイトボードに三角形の問題を書いた。

 

 

「解けるか?」

 

 

「ハッ、楽勝!」

 

 

問題は三角形の面積を求める簡単なモノだった。底辺の長さが15.85で高さが3.5だ。

 

公式を使えば底辺×高さ÷2……。

 

 

「フッ、小数点にしたところで惑わされんぞ。15.85は1585……3.5は35と考えればいい」

 

 

1585×35÷2=277375

 

これを小数点を付けて戻すと……

 

 

「2億7737万5000!」

 

 

「「「「「えぇ!?」」」」」

 

 

※答えは27.7375です。

 

 

「まぁ俺の神のような数学を置いといて、ちゃんと勉強しようぜ」

 

 

(((((いろんな意味で神だよ……)))))

 

 

みんなの表情が曇ったが気にしない。俺の数学が凄すぎてみんな嫉妬でもしてるのだろう。俺が新たな問題をホワイトボードに書いていると、

 

 

ピンポーンッ

 

 

店の裏口のインターホンが鳴った。

 

 

「黒ウサギ、記者ならそこに置いてある傘でぶっ刺せ」

 

 

「刺しません!」

 

 

「じゃあぶん殴れ」

 

 

「……記者の方が何かをしてきたら殴ります」

 

 

(最近黒ウサギがバイオレンス化してきてるんだけど……)

 

 

もう怖くて夜中トイレに行けないよ。

 

黒ウサギはそう言って席を外した。

 

 

「ほら、他の人は勉強だ。例え何があっても勉強は放棄してはならないからな」

 

 

「大樹さん、優子さn

 

 

「勉強なんてしてる場合じゃない!!」

 

 

「「「「「えぇ……」」」」

 

 

俺は急いで一つのテーブルを布巾で綺麗にし、ジュースとお菓子をセット。

 

 

「久しぶりね、楢原君。忙しかったかしら?」

 

 

「いや、全然大丈夫だ」キリッ

 

 

「そ、そう……」

 

 

「さぁ、そこに座ってくれ。歩き疲れただろ」キリッ!

 

 

「う、うん……」

 

 

「何か他に欲しいモノはあるか?何でも出すぜ!」キリッ!!

 

 

「……今日の楢原君、気持ち悪いわ」

 

 

「がはッ!?」

 

 

大樹は2億7737万5000のダメージを受けた!大樹は倒れた!というか死んだ!

 

 

「死んだのか?」

 

 

「死んだね」

 

 

レオと幹比古の会話が聞こえる。だが、俺はツッコミはできない。

 

 

「……逮捕されたと聞いた時は心配したけど、杞憂だったみたいね」

 

 

優子はため息をつき、呆れる。

 

 

「それより、黒ウサギから聞いたけど勉強会を開いているんでしょ?そっちを優先したら?」

 

 

「何を言うか!テストだろうが受験だろうがレオが死にかけたとしても、俺は絶対に優子を優先する!」

 

 

「おい!?さすがに助けろよ!?」

 

 

優子>>>>>超えることのできない壁>>>>>レオの命

 

 

「う、嬉しいけど普通通りに接してちょうだい。アタシが困るわ……」

 

 

「そうか。じゃあいつも通り普通に接するよ」

 

 

というわけでいつも通りに接します。

 

 

「よし、今からデートに行こう!」

 

 

「どこが普通よ!?」

 

 

「踏んでください!」

 

 

「やめなさい!」

 

 

俺は正座をさせられ、優子に説教された。

 

 

~10分後~

 

 

「分かった?」

 

 

「はい、すいませんでした」

 

 

優子に頭を下げる。久々に優子に説教されたわ。

 

 

「ねぇ楢原君。アタシも勉強会に……」

 

 

「参加してください!」

 

 

「土下座!?」

 

 

俺は綺麗な土下座を繰り出した。優子と勉強できるなんて……幸せ!

 

 

「大樹さんはレオさんと幹比古さんをお願いしますね?」

 

 

「待て黒ウサギ。俺は優子と……」

 

 

「お願いしますね?」

 

 

「了解です」

 

 

何故か勝てそうに無かった。俺は諦めてレオと幹比古のところに行く。

 

 

「……今から問題を解き続けろ。死ぬまで」

 

 

「「鬼!?」」

 

 

やつあたりだ。この野郎。

 

 

ピンポーンッ

 

 

……またインターホンが鳴った。

 

 

「今度は俺が出るよ」

 

 

俺は裏口のドアへ向かう。……記者だったらこの傘でぶっ飛ばす。

 

 

ガチャッ

 

 

「来ちゃった」

 

 

無表情で両手を胸に当てたエレシスがいた。首を少し横に傾けて可愛い。っとでも言うと思ったか?違うぞ。

 

 

「帰れえええええェェェ!!」

 

 

バキッ!!

 

 

定価980円の傘でエレシスをぶん殴る。だがエレシスの体は水のようにすり抜け、そのまま隣の壁に当たってしまった。当然、傘は壊れる。チッ!もう傘が無い!ちくしょう!黒ウサギと相合い傘をするためにあえて一本しか買わなかったのが仇になったか……!

 

 

「痛いです」

 

 

「痛そうに言え!」

 

 

「痛いです?」

 

 

「何で疑問形になった!?」

 

 

「勉強会、私も混ぜてください」

 

 

「唐突だな!?」

 

 

「私は優秀でなければいけません」

 

 

「はぁ?」

 

 

またそれか。何か使命感が感じられるがどうでもいい。俺には関係ない事だ。

 

俺はハァッとため息をつく。とても長いため息だ。

 

 

「断る。何でこんな時までお前と居ないといけないんだ。学校ではちゃんと話しているだろ」

 

 

「……そうですか」

 

 

あれ?いつもみたいに脅迫してこないのか?

 

 

「すいません、時間を取らせてしまって」

 

 

「ひ、陽……?」

 

 

エレシスは俺に一礼した後、振り返って帰っていく。

 

 

「ッ!」

 

 

その時、エレシスの顔が僅かに変わったのを見逃さなかった。

 

 

悲しそうな表情に。

 

 

……あいつは敵だぞ?入れていいのか、俺?

 

 

「………あああァァ!!」

 

 

何考えてんだ、俺は!

 

 

「陽!……少しだけならいいぞ」

 

 

「ッ!」

 

 

俺の言葉を聞いたエレシスが勢い良く振り向いた。

 

 

「いいのですか?」

 

 

「か、勘違いするなよ!これは賭けごとに勝つために戦力を増加させているんだ!分かったか!?」

 

 

「……ありがとうございます」

 

 

「……ほら、入れよ」

 

 

俺はドアを大きく開けて、エレシスを入れた。

 

……何故だ。何故敵にここまで優しくする。お前には時間が無いだろうが、楢原大樹。

 

優子の記憶は戻らない。例え()()()を使っても。

 

脱獄したあの日。エレシスに真正面からそう言われてしまった。

 

嘘だと疑った。でも、それはできなかった。

 

 

エレシスが嘘を言っているように見えなかったから。

 

 

(本当に馬鹿だな、俺は……)

 

 

何をやっているんだか……。敵を信じるなんて……。

 

 

(美琴……アリア……)

 

 

俺は二人のことも当然心配だ。あれから三ヶ月が経とうとしている。二人のことが心配で堪らない。

 

 

(ああ、俺って奴は……)

 

 

「楢原さん?」

 

 

「ッ!」

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

「いや、何でもない」

 

 

俺は扉を閉めてエレシスと一緒にみんなのところに行った。

 

 

________________________

 

 

 

「陽……お前……!」

 

 

「?」

 

 

俺は陽に勉強を教えていた。分からないっと陽から教えてほしいと頼まれた。さすがの陽も神の力を持っていたとしても頭は馬鹿なのかっと思っていた違った。

 

こやつ、一度教えたことをすぐに理解しやがる。

 

普通の人なら1~10を言ったら1~5くらいは理解してくれる。だが、エレシスの場合だと1を言うと1~10まで理解しやがる。天才ですね。……よし。

 

 

「陽、今度の期末テストで高得点を取れ」

 

 

「分かりました」

 

 

フッフッフ、これで勝率が増えるぜ……!

 

 

ピピピッ

 

 

「あ、悪い。電話だ」

 

 

俺は席を立ち、人がいないキッチンに向かった。

 

 

「はい、もしもし」

 

 

『僕だ』

 

 

「あ、はじっちゃん?」

 

 

『はじっちゃん言うな!』

 

 

 

 

 

電話の相手は司(はじめ)だった。

 

 

 

 

 

何故彼が電話することができるかと言うと、彼は刑務所に居ないからだ。

 

今回、警察の不始末で俺たちは被害にあった。刑務所脱獄事件でのニュースや記事などでは司、黒ウサギ、エレシスの三人は特に書かれていない。書かれているのは俺が三人を助けたことだけだ。だから記者に追いかけられるのは俺だけだった。

 

そして、司は俺の部下になっている。というか部下にした。

 

本当は今でも刑務所にいることになっているが、真由美や十文字の十師族の権力を借りて、司をこっそりと釈放させた。

 

現在、善を重ねて罪滅ぼしをしている。というかさせている。

 

 

 

 

 

『やはり楢原の言った通り、柴智錬(しちれん)は逃走した』

 

 

 

 

「チッ、やっぱりか……」

 

 

司の報告に俺は舌打ちをする。

 

ニュースや周りのみんなは事件解決とか言っていたが違う。

 

俺たちはまだ事件を解決なんかしていない。

 

まず病院での女。あいつも未だに捕まっていない。そして、柴智錬も逃走した。事件は収まるどころか大きくなっている。

 

 

『柴智錬の方は十師族が追っているから僕は【無 頭 龍(NO HEAD DRAGON)】について調べるよ』

 

 

「そうか」

 

 

司がこうやって調査できるのは彼が裏の人間だったからだ。司はかなりの悪行をしてきた。その分、相手の犯罪組織の行動が読めたりできるのだろう。

 

 

『それともう一つ、極秘情報がある』

 

 

「何だ?」

 

 

『九校戦は知っているだろ?』

 

 

「ああ、もちろん。優子が選ばれるらしいから絶対に見に行く予定だ。絶対に」

 

 

『別にその日に何かさせようと言うわけじゃない。警戒してほしいんだ』

 

 

司は低い声で説明し始める。

 

 

『九校戦は毎年必ず僕達みたいな犯罪組織が関与する。特に国外が。理由は分かるだろ?』

 

 

「……最強の魔法師の卵のような存在が一度に集まるから」

 

 

『そうだ。もしそんな場所に大型の爆弾を仕掛けて爆発させてみろ。この国は大損害を受ける』

 

 

「……またテロリストか」

 

 

俺は思わず頭を抑える。この世界は本当にテロリストのような奴が多い。平和に過ごせる兆しが全く見えない。

 

 

「分かった。黒ウサギと一緒に警戒しておく。情報集めはしてほしいけど、命は大事にしろよ」

 

 

『僕は君のせいで命の危機に晒されたことが多いよ』

 

 

「うるせぇ。弟のために頑張れよ、ブラコン」

 

 

『なッ!楢原!きs』

 

 

ピッ

 

 

何かを言われる前に俺は電源を切った。

 

司は弟に会いたい。その為に善行を行い、懲役を減らしている。

 

あと何年になるか分からないが、あの調子で善行を重ねれば16年も待つことはないだろう。

 

 

『僕が恐れる世界なんて殺してやる』

 

 

司は本気で世界を変えようとしていた。

 

【ブランシュ】は金儲けのために極悪非道なことをする組織だ。魔法が使えない者のための世界を作る偽善者だ。

 

だが、【ブランシュ】の下部組織。司の組織は違った。

 

金儲けのためではない。司は自分の理想世界を目標としていた。ただし、やり方は褒められるものじゃない。

 

 

(果たして、それは誰のためにやろうと思ったのか……)

 

 

家族か?友人か?それとも自分のためか?

 

 

(まさか魔法が使えない弟のため……?)

 

 

いや、それは無いか?

 

真相は分からないが、今の司は仲間だ。

 

 

「頑張れよ、はじっちゃん」

 

 

信頼できる者にあだ名は必要だよな?

 

 

________________________

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

大樹がキッチンに行った後、みんなは気まずい空気になっていた。

 

 

『みんな知っていると思うが新城(しんじょう)陽だ。一緒に勉強してやってくれ』

 

 

そう大樹に言われたが、皆快く受け入れられなかった。

 

陽は大樹の彼女……となっているからだ。

 

修羅場が起きる……!そう言ってみんなは黒ウサギを警戒していたが、

 

 

「むッ……これはギフトゲームで出された問題に似ていますね」

 

 

黒ウサギは別に気にせず、問題を解いていた。あとギフトゲームって何だろうっとみんなは思った。

 

みんなはホッと安堵をつく。危険なことは怒らないみたいだ。

 

 

「ねぇ、新城さん」

 

 

「はい?」

 

 

「楢原君とはド・ウ・イ・ウ関係なのかしら?」

 

 

優子の笑顔が怖かった。

 

 

(((((修羅場になった!!)))))

 

 

思わぬ伏兵に全員の顔が真っ青になる。何をやっているんだ大樹は!?

 

エレシスは表情を変えずに一言。

 

 

「楢原さんの彼女です」

 

 

ピキッ

 

 

「へ、へぇ~」

 

 

(((((額に怒りマークが見える!?)))))

 

 

見えてはならないはずのマークが見えてしまった。アレはアニメなどでよく見る怒りマークだ。

 

 

カーンッ!!

 

 

コングは鳴った。

 

 

「でも、それって嘘だよね?どうせ楢原君を脅迫したんでしょ?」

 

 

優子のジャブ攻撃!

 

 

「いえ、楢原さんから承諾済みです」

 

 

「うッ!?」

 

 

(((((カウンター!)))))

 

 

「あと恋人同士でする食べさせ合いのアーンッもしてくれました」

 

 

「え……」

 

 

(((((追撃!?)))))

 

 

「楢原さん……刑務所の中では私を頼ってくれました。楢原さんは私のことを信頼してくれていると思います」

 

 

「……………」

 

 

(((((レフリー!止めてあげて!)))))

 

 

みんなは急いで優子に投げるタオルを探す。このままでは優子が危ない。

 

 

「ん?何してんだ?」

 

 

(((((乱入者!)))))

 

 

大樹が帰って来た。タイミングが良いのか悪いのか分からない。

 

 

「ね、ねぇ楢原君。新城さんと付き合っているの?」

 

 

「……………チラッ」

 

 

(((((助けを求めんな!)))))

 

 

優子の笑顔を見た大樹。大樹は後ろを向き、みんなを見る。顔が泣きそうになっていた。

 

 

「えっと、まぁ……付き合っていますね」

 

 

「ッ!じゃ、じゃあ!アーンッをしたのも!?」

 

 

「アーン?あー、食べさせるやつか……………ッ!」

 

 

大樹はハッとなる。何か思いついたようだ。急いでキッチンへ向かった。

 

少し時間が経った後、手にパフェを持って来て帰って来た。いちごが乗って赤いシロップがかけてある。いちごパフェみたいだ。

 

いちごパフェをスプーンを一口分すくいあげ、優子の前に出す。

 

 

「はい、あーんッ☆」

 

 

「えぇ!?」

 

 

(((((何で!?)))))

 

 

全員ド肝を抜いた。エレシスを除いて。

 

 

「え、違うのか?」

 

 

「違うわよ!……して欲しいとはちょっと思ったけど」

 

 

「……………」

 

 

優子の小さな声は大樹に聞こえてしまったようだ。大樹の顔が真っ赤だ。

 

 

「ほ、ほら!これ最新作なんだ!食べてくれ!」

 

 

大樹は恥ずかしさを隠すために、優子にパフェが乗ったスプーンを向ける。優子はそれに驚くが、ゆっくりとスプーンに顔を近づけた。そして、

 

 

「はむッ」

 

 

横からエレシスが横取りした。

 

 

(((((あ、これはヤバい)))))

 

 

みんなは後ろに後退して避難した。

 

優子の目が笑っていない。大樹の体が震える。エレシスはもぐもぐっと口を動かす。

 

 

「楢原さん。浮気は駄目です」

 

 

「マジでいい加減にしろよ?俺、この後死ぬかもしr

 

 

「ねぇ楢原君?ちょっとお話があるんだけど?」

 

 

「ハイ。時間大丈夫です」

 

 

「大樹さん。黒ウサギからもお話があります」

 

 

「ハイ。静聴させていただきます」

 

 

この後、魔法科高校の最強の劣等生が女に土下座する瞬間をみんなは見届けた。

 

 

(変な人達に関わったなぁ……)

 

 

幹比古は遠い目をしながらそう思った。

 

その時、ポンッと幹比古の肩に誰かが手を置いた。

 

 

「ねっ?楽しいでしょ?」

 

 

「エリカ……………君もおかしくなったんだね」

 

 

「ッ!?」

 

 

ゴッ!!

 

 

「痛ッ!?」

 

 

「ミキの馬鹿!変態!幹比古!」

 

 

「幹比古は悪口じゃないよ!?」

 

 

こっちでは幹比古とエリカが言い合いしていた。

 

 

ちなみに大樹の説教後と幹比古とエリカの口論後はちゃんとみんなで勉強した。

 

 

 




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