どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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難攻不落の要塞から脱獄せよ

「正直脱獄は無理だ」

 

 

「初っ端からタイトル否定するなんて非常識にも程があるだろ」

 

 

俺の隣に座っている司が力無くツッコム。

 

 

逮捕されてから3日後。

 

 

 

 

 

未だに俺たちは刑務所の牢屋から出られていない。

 

 

 

 

 

ついに俺も犯罪者か。いつかなるのかなぁ……って思っていたけど、なったな。

 

 

「夢が……叶ったんだ」

 

 

「君、頭のネジ飛んでるだろ?」

 

 

司は床に寝そべりながらツッコム。灰色の囚人服が汚れることを気にせずに。

 

 

「何でそんなに元気が無いんだ?」

 

 

「馬鹿なのか君は!?」

 

 

「うおッ!?」

 

 

司は突然飛び上がって俺の胸ぐらを乱暴に掴んだ。

 

 

「ここはどこだッ!?言ってみろッ!」

 

 

「け、刑務所です」

 

 

「どんな刑務所だッ!?」

 

 

こ、怖ッ!?司が怖いよ!

 

 

 

 

 

「だ、脱出不可能。難攻不落の要塞【ギルティシャット】です!」

 

 

 

 

 

「そうだ!では何故、脱出が不可能なのか説明しろ!」

 

 

「い、イエッサー!」

 

 

では、説明します!

 

まず刑務所の位置ですが、

 

 

 

 

 

太平洋のど真ん中に浮いている船です。

 

 

 

 

 

そう、船が刑務所なんです。マジです。

 

脱出できたとしても、海の上。ノロノロと泳いでいたらすぐに捕まってします。じゃあ仲間の船を呼ぼう!……残念、そんな船が近づいて来たら砲撃されるのがオチです。

 

だから、過去に脱出した人がいないんだよねぇ……。

 

さらに、ここに牢獄されている人物は大罪を犯した者ばかりで、厳重な警備&最強の警備隊がほどこされています。

 

ここに監獄されたら最後。刑期を終えるまで絶望を噛み締め続けると言われている。

 

 

「っと言った感じです」

 

 

「そのくらい知っている!!」

 

 

ドゴッ!!

 

 

「ぶへッ!?司さんッ!?」

 

 

いきなり俺の顔面に左ストレートを決めやがった。痛くないからいいけど。

 

 

「どうして僕は36年もここに居ないといけないんだよ……!」

 

 

「いやなんか本当にごめんなさい」

 

 

司を見てると心が痛くなるよ。

 

 

「それにしても……このベッド硬いなぁ」

 

 

「呑気にくつろいでる場合か貴様ッ!」

 

 

ボゴッ!!

 

 

「おぼッ!?」

 

 

司が俺の腹に向かって空手チョップ。日頃のストレスが爆発したようだ。

 

 

「げほッごほッ!お、落ち着け司!」

 

 

「誰のせいだあああああァァァ!」

 

 

「ちょッ!?目潰しは洒落にならんぞ!?」

 

 

俺は音速のスピードで司の攻撃をかわし続ける。コイツ、顔がマジだ!

 

 

「おい!うるせぇぞゴラァ!」

 

 

「「あ、すいません」」

 

 

隣の部屋に牢獄されている人に怒鳴られて静かにする。俺と司はそれぞれ自分のベッドに横たわり、

 

 

寝た。

 

 

________________________

 

 

次の日。

 

 

「黒ウサギと(ひかり)は最下層に入れられているみたいだな」

 

 

「それにしても君の妹……可哀想だな」

 

 

黒ウサギはウサ耳を見られてしまった。

 

咄嗟に思いついた言い訳は、

 

 

「黒ウサギは昔、悪の組織に改造されたんだ」

 

 

「「「「「えぇッ!?」」」」」

 

 

あの時は黒ウサギを含めて、全員が驚愕した。我ながら酷い嘘だと思う。

 

だが、奇跡的に信じてもらった。黒ウサギは滅茶苦茶怒っていたけど。

 

 

「司……変だと思わないか?」

 

 

「何が?」

 

 

俺は看守が近くにいないことを確認して、話を始める。

 

 

「まず俺たちがどうしてここに放り込まれた?」

 

 

「罪を犯したから……としか言えない」

 

 

「そうだ」

 

 

俺は声音を低くする。

 

 

「罪を犯して、そのまま牢獄に入れられたんだ」

 

 

「……………何が言いたい?」

 

 

司は俺の含みのある言葉に疑問を抱く。

 

 

「分からないか?俺たちはあることを行わずに懲役を言い渡されて牢獄に放り込まれたんだぞ?」

 

 

「ッ!」

 

 

司は気付いたみたいだ。

 

 

「裁判……いや、事情聴取すら行われずにここに放り込まれたんだった」

 

 

そう。実は言うと、俺たちは手錠を掛けられたあの日。そのままこの難攻不落の要塞に閉じ込められた。どこも寄り道をせずに。

 

 

「さらにおかしい点は刑務所そのものだ。司はともかく、何故俺や黒ウサギたちが【ギルティシャット】に牢獄されたのか……」

 

 

「……おかしい点は無いはずだが?」

 

 

「ある」

 

 

俺は確信を持って言えた。

 

 

「俺たちは学生だぞ?」

 

 

「……………?」

 

 

「普通なら少年院にぶちこまれるはずだぞ?」

 

 

「ッ!」

 

 

そう、本来なら少年院に入れられるはずだ。俺たちは殺人や大罪を犯したわけではない。こんな場所に牢獄されること自体がおかしい点だ。

 

 

「そもそも俺たちは司を助け、暗殺者を捕まえたんだぞ?何で捕まるんだよ」

 

 

「お前はこの事件をどう考える?」

 

 

「答えは一つしかねぇよ」

 

 

俺は告げる。

 

 

「警察側に敵がいる。しかも、かなり強い権力の持ち主だ」

 

 

「……………」

 

 

司は唇を噛む。俺も同じような気持ちだった。

 

 

やってくれたな。

 

 

敵の顔を一発ぶん殴ってやりたい。

 

 

「脱獄するのか?」

 

 

司は俺の顔を見て尋ねる。

 

 

「いや、敵が分かるまで下手な手出しはしたくない。というか、できないが正しいな」

 

 

余計なことをして敵が逃げるのは困るし、かと言って誰をボコせばいいのか分からない。………待てよ?

 

 

「全員埋めればいいのか……!?」

 

 

「怖ッ!?何を考えているんだ!」

 

 

「いや、船に乗っている奴らを全員叩きのめせばいいのかなぁ?って」

 

 

「関係の無い人を巻き込んだら本末転倒だろ!バカなのか!」

 

 

「……すいませんでした」

 

 

何も言い返せなかった。いや、正論過ぎて何も言えないわ。

 

 

「それで、全員埋める以外でこれからどうするつもりだ?」

 

 

「……分からねぇよ。考え中」

 

 

俺は立ち上がり、部屋に取り付けられた洗面所の蛇口を捻る。

 

 

「まぁ打開策は埋める以外でもいくらでもある……おい、そこにいるんだろ?」

 

 

俺は蛇口に呼びかける。

 

 

バシャンッ!!

 

 

その時、蛇口から大量の水が噴き出す。水は宙に大きな人型を作り出す。そして、それは本物の人となった。

 

 

「お久しぶりです、楢原さん」

 

 

「う、うわあムグッ!?」

 

 

「静かにしろよ?」

 

 

エレシスの挨拶に大声を上げようとする司。俺はすかさず司の口を抑えた。ここで大声出されて看守に見つかるのは絶対に避けたい。

 

俺たちの着ている灰色の囚人服とは違い、オレンジ色の囚人服を着たエレシスが現れた。

 

 

「この刑務所から脱出したい。協力してくれ、陽」

 

 

「分かりました」

 

 

エレシスは小さく頷き、承諾してくれた。

 

 

「まずこの上の階に管理人室がある。そこの205番金庫から俺たちの服と武器を手に入れてくれ。時間はどれだけかかってもいいから絶対に見つかるな」

 

 

「待て楢原。金庫の鍵を開けるには暗証番号が必要だぞ?」

 

 

俺の説明に司が口を出す。エレシスは司の言葉に頷いた。

 

 

「右に34、左に33、右に24、左に5、右に一回転で開くはずだ。黒ウサギと陽の金庫は右に12、左に26、右に33、左に2、右に一回転だ。」

 

 

「な、何で知っている!?」

 

 

俺の言葉に司は目を見開いて驚愕する。

 

 

「ずっとここで聞いていたからな」

 

 

「……ありえない。聞こえるはずがない……!」

 

 

「俺には聞こえる」

 

 

俺は笑みを浮かべる。

 

 

「不可能なんて言葉は……俺には無い!」

 

 

こうして、難攻不落の要塞【ギルティシャット】攻略が始まった。

 

 

________________________

 

 

「おい、一日経ったぞ?」

 

 

「金庫は二十四時間、常に警備されているからな。陽が隙をつくのは難しいだろう」

 

 

「そうか……それにしても」

 

 

「ああ」

 

 

「「飯が不味い」」

 

 

俺たちは皿の上に載っているよく分からない料理(不味い)を睨む。しかし、そんなことをしても料理は美味くならない。

 

ゲロ不味い。

 

 

________________________

 

 

「二日が経ったな」

 

 

「うぐッ」

 

 

司の一言に俺はギクッとなる。

 

 

「そ、そろそろ来てもいいんだが………まぁ気長に待とうぜ!」

 

 

「……あいつはどこにいる?」

 

 

「……牢屋だな」

 

 

「ちゃんとあいつは金庫を開けるのか?」

 

 

「た、多分……」

 

 

「おい!」

 

 

「だ、大丈夫だって!明日こそ来るさ!」

 

 

________________________

 

 

 

「風呂に入りたいな……」

 

 

俺は床に寝そべりながら言う。

 

 

「そうだな……」

 

 

座って壁に背を預けた司は面倒臭そうに言う。

 

 

「まだあの病院での匂いが取れないんだが……」

 

 

初日、必死に洗面所の水で体を洗った。だが、それでも少し匂う。

 

 

「あと、陽……来ないな」

 

 

「僕は少し諦めてきたよ」

 

 

「……飯も不味いしな」

 

 

「そうだな……」

 

 

「「……………」」

 

________________________

 

 

 

「そしたらな!後ろから殴って来やがったからそのまま背負い投げして、川に落としてやったんだ!」

 

 

「ハッハッハ!本当かい!?」

 

 

「ああ、『ちくしょー!覚えてろよ!』って王道な捨て台詞を言いやがって、爆笑しちまったぜ!」

 

 

「や、やめてくれ……お腹が痛い……!」

 

 

「おいッ!まだ続きがあるんだぞ!その後黒ウサギが来てな!」

 

 

「も、もう笑わせないでくれよ……!」

 

 

「断る!まだまだ続けるぜッ!?」

 

 

 

________________________

 

 

 

「……で、やっとの思いでブランシュのメンバーを集めることができたんだ」

 

 

「ふーん、最初はどのくらい居たの?」

 

 

「驚くなよ?……片手で数える人数」

 

 

「えッ!?そこから300人まで増やしたのかッ!?」

 

 

「まぁね。本当は100人くらいだったけど、最後の最後に人員が増えたんだ」

 

 

「ん?どうやって?」

 

 

「ブランシュと同じような組織から人員を貰ってね。『目的が同じだから力を貸す』って」

 

 

「だからあんなに多かったのか……片付けるの大変だったぞ」

 

 

「プッ……どのくらい倒した?」

 

 

「150だっぺ」

 

 

「ブハッ!アッハッハ!人間じゃないぞ、それ!?」

 

 

「うるせぇよ!大変だったんぞ!?」

 

 

「いやぁ、悪い悪い。それで、その時は部下が銀行強盗に失敗して金が無かったから助かったんだ」

 

 

「ん?銀行強盗?どこでやった?」

 

 

「たしか……ショッピングモールの銀行だったはずだ」

 

 

「あ、邪魔したの俺ですw」

 

 

「また楢原かw」

 

 

「いやぁ、デートの邪魔だったw」

 

 

「君の都合で僕の部下をいじめないでくれw」

 

 

「スマンw」

 

 

「「ハハハハッ!!」」

 

 

________________________

 

 

 

「『不可能なんて言葉は……俺には無い!』と言ってから一体どのくらい経ったでしょうか?ねぇ司さん」

 

 

「僕が知るか。それで進展はあったのか?」

 

 

「ない!」

 

 

「……そうか」

 

 

司は天井を見上げ絶望した。それはもう某超高校級の絶望さんばりに目がもう絶望していた。

 

 

「何か本当に申し訳ない」

 

 

「いや気にするな……というか」

 

 

司は俺の方を見る。

 

 

「そもそも本当に敵はここにいるのか?」

 

 

「じゃあ敵になったと仮定して敵の気持ちを考えてみよう」

 

 

俺はゴホンッと喉の調子を整える。

 

 

「初めまして。僕はこの刑務所のリーダー、司一だ」

 

 

「違うだろ!それと僕の真似をするな!」

 

 

「趣味はスカートめくり」

 

 

「ねつ造するな!」

 

 

「ふむ、楢原大樹様と司一(笑)を一緒の牢獄に閉じ込めたぞ」

 

 

「喧嘩を売っているのか君は!?」

 

 

「一緒の牢屋に閉じ込めて監視がしやすくなったな」

 

 

「ッ!」

 

 

司の顔が強張った。

 

 

「ついでに楢原大樹様の嫁の黒ウサギと陽も一緒の牢屋に入れてある。こちらも監視やエロいことがしやすいな」

 

 

「なるほど。言いたいことは多々あるが、確かに一緒の牢獄に入れるのは都合がいい。それに、不自然だな」

 

 

隣の牢屋の人数は一人。その隣も一人。

 

全員、一人しか入れていないのだ。

 

 

「看守たちから盗み聞きした話をまとめると、ある人物が怪しいと分かった」

 

 

「誰だ?」

 

 

「ここの刑務所の看守長だ」

 

 

「まさか……あの若い男のことか?」

 

 

俺たちは一度、そいつに会ったことがある。いや、見たことがあると言ったほうが正しいか。

 

拳銃やギフトカード……壊れたCADと爆弾型CADを取られている時に、反抗や逃げたりしないか監視していた人物。年齢は20~25くらいの若い男性だった。服装は他の看守と違っていたので、すぐに看守長だと分かった。

 

 

「司、あの男は誰か知っているか?」

 

 

「いや、知らない。楢原は?」

 

 

「名前だけなら知っている」

 

 

俺は看守から盗み聞きした名を言う。

 

 

柴智錬(しちれん)っていう変な苗字の奴だ」

 

 

「なッ!?」

 

 

その時、司は目を見開いて驚愕した。

 

 

「よりによって最悪の数字落ち(エクストラ・ナンバーズ)じゃないか……!?」

 

 

「な、何だその中二病全開の名称は……」

 

 

か、カッコいい!

 

 

「知らないのか?楢原の学校の生徒会長は数字付き(ナンバーズ)だろ」

 

 

「エクシーズ召喚?遊〇王?」

 

 

「……何だそれは?」

 

 

「え、知らないの!?〇戯王知らないの?」

 

 

「……多分、関係無いな。話を続けるぞ。数字付き(ナンバーズ)は苗字に数字が含まれているんだ」

 

 

七草(さえぐさ)……七?」

 

 

「そうだ。他にもいるんじゃないか?」

 

 

「十文字……十?」

 

 

「ああ、そいつも十師族だ」

 

 

「また知らない用語が……何だそれは?」

 

 

「本気で知らないのか?……まぁいい。十師族は日本で最強の魔法師集団だ。一~十の10個の名家で成り立っている」

 

 

真由美ってそんなに凄い人だったのか。凄いのは分かっていたが。

 

 

「あ、そういえば……」

 

 

エリカの苗字は千葉だったな。

 

 

「千葉は千って字が入ってるけど、十師族じゃないのか?」

 

 

「千葉家か……いや、彼らは十師族ではないが、十師族と同等の力を持っているな」

 

 

「マジかよ……」

 

 

俺の周りには大物が勢ぞろいだな。

 

 

「簡単に説明すると数字落ち(エクストラ・ナンバーズ)は数字を剥奪された魔法師に捺された烙印みたいなものだ。柴智錬家は……七草家の補佐家だった」

 

 

「……だった、か」

 

 

「ああ、元の名は七蓮(ななれん)。現在は裏で【無 頭 龍(NO HEAD DRAGON)】などの犯罪組織に手を貸していると噂されている」

 

 

「また【無 頭 龍(NO HEAD DRAGON)】関連かよ」

 

 

よく出てくるな、その組織。

 

 

「七蓮が柴智錬に数字落ち(エクストラ・ナンバーズ)になった理由は七草家を裏切ったからだ」

 

 

「裏切った?」

 

 

「ああ」

 

 

司は静かに告げる。

 

 

「七草家を全員暗殺しようと……な」

 

 

「ッ……………!」

 

 

俺は静かに驚く。司は気にせず話を続ける。

 

 

「もちろん、失敗した。だが、厄介なことに七草家を暗殺しようとした証拠が一つも見つからなかったんだ。人も道具も。」

 

 

「……それでどうするか考えた結果、数字落ち(エクストラ・ナンバーズ)にしたってとこか?」

 

 

司は俺の言葉に頷いた。

 

 

「柴智錬家の次期当主の姿がこんな場所にいるとは……最悪だ」

 

 

「……ヤバいのか?」

 

 

「ああ、そいつが七草家暗殺を企てた主犯者だ」

 

 

「政府もそんな奴をここの看守長にするなんて……頭おかしいじゃないのか?」

 

 

「証拠が無いから疑うにも疑えないんだろう。それに七草家の直属の補佐だったんだ。無下に扱うことはできないんだろう」

 

 

「……もしかしたら殺されるかもな!」

 

 

「そうだな!」

 

 

「「ハッハッハ!!」」

 

 

そして、俺たちは鉄格子を掴む。

 

 

「「それはヤバいぞ!?」」

 

 

俺たちは焦り始めた。部屋の中を駆け巡る。

 

 

「うわあああああァァァ!!助けてくれッ!!」

 

 

「クソッ!陽は何をしているんだッ!?時間かかり過ぎだろ!?」

 

 

「どうする楢原!?今気付いたが、今日の朝ごはんと昼ご飯が来ていないぞ!?」

 

 

「さっそく殺されかけてるうううううゥゥゥ!?」

 

 

餓死狙い!?なんてこった!

 

 

「陽!まだかッ!?」

 

 

「ここにいます」

 

 

「「うわっほい!?」」

 

 

俺と司は同時に床に転がる。いつの間にか鉄格子の扉が開き、エレシスがいた。

 

 

「武器と服を持ってきました」

 

 

「ああ、ありがとう。よし、急いで着替えるぞ」

 

 

「それともう一つ」

 

 

「ん?」

 

 

「黒ウサギさんが看守長に連れて行かれました「着替えてる場合じゃねぇ!!行くぞオラァ!!」……はい」

 

 

「ま、待ちたぐえッ!?」

 

 

俺は司の襟を掴み走り出す。囚人服のまま俺たちは脱走を開始した。

 

 

________________________

 

 

 

ジリリリリリッー!!

 

 

警報が船全体に聞こえるように鳴り響く。どうやら監視カメラを破壊したせいでバレたみたいだ。余計なことをしたな。

 

俺たちは揺れる廊下を走り抜けていた。廊下の壁はたくさんのパイプが並び、薄暗い。

 

 

「看守長の部屋は最上階だったな。急ぐぞ」

 

 

「楢原ッ!」

 

 

司が俺の名前を呼ぶ。前から足音がする。数にして10人。

 

 

「止まれ!」

 

 

看守だ。防弾チョッキを着ており、CADをこちらに向ける。

 

 

「ハッ、止めて見ろよ!」

 

 

俺はその光景を鼻で笑い飛ばす。

 

音速のスピードで武装した看守たちに近づき、

 

 

「この下手くそ(料理が)共がッ!!」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

「「「「「ぐあああああァァァ!!」」」」」

 

 

蹴散らした。

 

武装した看守たちは一瞬で無力化され、床や壁に叩きつけられて気を失った。

 

 

「行くぞオラァ!」

 

 

「相変わらず無茶苦茶だ……」

 

 

司はその光景にため息を吐いた。

 

 

「脱獄者だ!」

 

「捕まえろ!」

 

 

「クソッ、挟まれたか!」

 

 

通路の部屋から看守たちが飛び出す。前方と後方、それぞれ三人ずつ。

 

 

「司!後ろは任せた!」

 

 

「無理に決まってるだろ!」

 

 

「「チッ」」

 

 

「おい!?って二人!?」

 

 

エレシス……。

 

 

「後ろは私に任せてください」

 

 

エレシスは後ろにいる看守に向かって右手を出す。

 

 

バゴンッ!!

 

 

その瞬間、通路の横に並んでいたパイプの一つが破裂した。

 

 

「【水問(すいもん)】」

 

 

バシャンッ

 

 

「ごぼッ!?」

 

 

パイプから溢れ出した水は生き物のようにうねうねと動き、看守たちに襲い掛かった。水は看守の頭を包み込み、息をすることができなくなる。

 

看守たちは必死に体を動かし、抵抗するが……

 

 

バタンッ

 

 

やがて泡を大量に吐き、気絶して倒れた。倒れた瞬間、頭を包み込んでいた水は弾け飛び、辺りに散布した。他の二人も同じように倒れ、呼吸ができなくて気絶している。

 

 

「い、一体どんな魔法を……?」

 

 

「魔法じゃねぇよ。気にする……なッ!」

 

 

ドゴッ!

 

 

「ぐはッ!?」

 

 

前にいた最後の看守をぶん殴る。割と強めで。

 

俺の足元には前にいた三人の看守が倒れている。

 

 

「い、いつの間に……」

 

 

「相手は待ってくれそうになかったからな。サクッと倒したほうがいいだろう?」

 

 

看守たちが出てきた扉の奥に進むと階段があった。階段を駆け上がり、上を目指す。

 

 

「いt

 

 

「うるせぇ!!」

 

 

ドゴッ!!

 

 

「たがぁッ!?」

 

 

何かを言う前に看守の顔面にパンチをお見舞いさせた。喋らせないぞ?

 

 

バンッ!!

 

 

俺たちは一番上まで階段をのぼり終わり、扉を蹴り破る。

 

扉を蹴り破ると船の上甲板に出た。空はラッキーなことに曇り空。晴れてたら死んでた。

 

 

「って多いなッ!?」

 

 

目の前には武装した看守が何十人も待ち構えていた。まるでここに来ることが分かっていたようだ。

 

 

「やれッ!」

 

 

看守の一人がそう言うと、看守たちが持っていた銃やCADで俺たちに向かって攻撃を開始した。

 

 

「うおおおおおォォォ!!」

 

 

そんなことを全く気にせず、俺は武装看守集団に向かって突撃する。

 

 

ガガガガガッ!!

 

 

看守が放った銃弾は俺の体に当たり、

 

 

ガチンッ!!

 

 

銃弾は別の方向へと跳ね返った。

 

 

「「「「「はぁッ!?」」」」」

 

 

「効くかあああああァァァ!!」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

俺は集団に向かって蹴りを放つ。看守たちは宙を舞い、吹っ飛ばされる。

 

 

「ま、魔法を使え!」

 

 

3人の看守が一斉に魔法を発動する。俺の足元に放出魔法【スパーク】の魔法陣が三つ出現する。

 

 

「無駄だッ!!」

 

 

バキンッ!!

 

 

俺は地面を踏みつけて魔法を破壊した。魔方陣はバラバラに崩れ、消滅する。

 

 

「「「なッ!?」」」

 

 

「どおりゃあああああァァァ!!」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

俺の鉄拳が三人の看守たちにヒットする。看守たちは吹っ飛ばされ、床に倒れる。

 

 

「あー、面倒臭くなってきた。いっそのこと、船ごとぶっ壊してやろうか?」

 

 

「やめろよ!?」

 

 

嘘だよ。黒ウサギを救出してから壊すよ。……壊すのかよ。

 

 

「そこまでだ!」

 

 

「「ッ!」」

 

 

俺と司は声がした方を振り向く。

 

そこには眼鏡を掛けた若い男性。看守長の柴智錬がいた。

 

柴智錬の隣にはオレンジ色の囚人服を着た黒ウサギがいる。手には手錠がかけられている。

 

 

「この女を死なせたくなかったら、大人しくしろ」

 

 

柴智錬は拳銃の銃口を黒ウサギの眉間に当てる。

 

 

「………チッ」

 

 

俺は両手を挙げる。司も俺を見て、両手を挙げた。

 

 

「そこの女もだ」

 

 

「陽、手を挙げてくれ」

 

 

陽は俺の言葉を聞いて、手を挙げた。

 

 

「フンッ、余計な真似をしおって……大人しく餓死していれば。まぁいい……」

 

 

柴智錬は拳銃を持っていない反対の手をこちらに向ける。手には腕輪型CADがある。

 

 

「殺さないといけないのは変わりないからな」

 

 

「ッ!」

 

 

俺の体に魔方陣が出現した。

 

 

「死ね」

 

 

ドゴッ!!

 

 

その瞬間、俺の体から大量の血が溢れ出した。

 

 

 

 

 

腹部が膨らませた風船を破裂させたかのように弾け飛んだ。

 

 

 

 

 

「があッ………あああああァァァ!?」

 

 

「だ、大樹さん!!」

 

 

俺はお腹を抑え、前から倒れる。黒ウサギは悲鳴に近い声で俺の名前を呼ぶ。

 

 

「だ、大丈夫だッ……」

 

 

口から血を流しながら笑みを浮かべる。だが、その表情は硬い。

 

足元には大きな血の水たまり。普通の人間なら大量出血で死んでいる。

 

 

「内臓を破裂させたのに生きているか……フン、しぶとい奴め」

 

 

「まさかッ!?」

 

 

柴智錬の言葉を聞いた司が驚愕した。

 

 

「それは一条(いちじょう)家にしか使えない魔法のはずじゃ……!?」

 

 

司は記憶倉庫の中からその魔法を思い出す。

 

 

【爆裂】

 

殺傷性ランクA。発散系の系統魔法。

対象内部の液体を瞬時に気化させる魔法で、生物ならば体液が気化して爆発、内燃機関動力の機械ならば、燃料が気化して爆散、破壊させることができる一条家の最強の魔法だ。

 

 

「さすが【ブランシュ】のリーダーか……知識は豊富か?」

 

 

「何故お前が使える!」

 

 

「使えてはいない。これはあの魔法の劣化させたものだ」

 

 

「劣化……?」

 

 

「俺にはあの魔法は使えない。だから……」

 

 

柴智錬は笑う。

 

 

「七草の権力を使って、俺にも使える複製版の魔法を作り出したのさ」

 

 

「馬鹿なッ!?あの魔法を複製など……!」

 

 

「普通ならできない。そう、普通ならな」

 

 

柴智錬は笑みを浮かべる。

 

 

「一つ聞こう。ここはどんな奴が牢獄されている?」

 

 

「……大罪を犯した最恐の犯罪者?」

 

 

「そうだ」

 

 

柴智錬は告げる。

 

 

「その中には魔法師に劣らない魔法力を持った犯罪者もいる!」

 

 

「ッ!?」

 

 

司は気付いた。

 

 

「貴様……まさかッ!?」

 

 

「そうだ、実験するには持ってこいの場所なんだよ……【ギルティシャット】はッ!!」

 

 

大声で高笑いをする柴智錬。司と黒ウサギの顔色は青くなった。

 

 

「政府に監視されることもない!書類には自殺と書けば終わる!まさに都合のいい実験施設!実験体だよ!フハハハッ!!」

 

 

「ハハッ、本当に笑えるな」

 

 

「「「ッ!?」」」

 

 

大樹が立ち上がった。

 

足元にある血の水たまりは先程の倍は大きくなっている。

 

顔は真っ青で呼吸が荒い。

 

 

「ここまで酷い悪がいるなんてな……尊敬しちまいそうだぜ」

 

 

「……動くなよ化け物。この女が……」

 

 

「動かねぇよ。いや、動くまでも無い」

 

 

大樹は手を大きく広げる。

 

 

 

 

 

「天候、【嵐】!!」

 

 

 

 

 

ゴオオオオオォォォ!!!

 

 

 

 

 

その時、海に巨大な竜巻が現れた。

 

 

 

 

 

「な、何だこれはッ!?」

 

 

海は大荒れ。船を大きく揺れ動かす。柴智錬は焦る。そのせいで柴智錬の持っていた拳銃の銃口が黒ウサギの額から離れた。

 

黒ウサギはそれを見逃さなかった。

 

 

「はあッ!!」

 

 

黒ウサギは隙をついて、回し蹴りを柴智錬の腹に当てる。

 

 

「ぐッ!?」

 

 

柴智錬は後ろに吹っ飛ばされ、床に転ぶ。

 

 

「ッ!………このアマッ!」

 

 

柴智錬は倒れた状態で【爆裂】の劣化版の魔法を黒ウサギに向かって放つ。

 

 

「黒ウサギ!」

 

 

その前に大樹が『アンティナイト』の指輪を黒ウサギに向かって投げる。

 

黒ウサギはそれを両手でキャッチし、すぐに発動させた。

 

 

バリンッ

 

 

魔法は打ち消され、発動しなくなった。

 

 

「魔法がッ!?」

 

 

柴智錬は魔法が発動しないことに気付き、焦り出した。

 

魔法の発動が無理だと判断した柴智錬は立ち上がり、拳銃を構える。

 

 

「ゲームオーバーだ、柴智錬」

 

 

「ッ!?」

 

 

だが、気が付けば柴智錬の目の前には血まみれの大樹がいた。

 

 

「何故だ!あの魔法をまともに受けておいて動けるはずがッ!?」

 

 

「残念だったな」

 

 

大樹は笑みを浮かべて右手を強く握る。

 

 

「まず、俺がまともじゃないんだよッ!」

 

 

ドゴッ!!

 

 

大樹の右アッパーが柴智錬の顎に命中。柴智錬は空高く舞い上がり、

 

 

ドゴンッ!!

 

 

船の上甲板に叩きつけられた。

 

柴智錬は動かず、白目を剥き、涎を流して気絶していた。

 

 

「よし、一件落着だな」

 

 

「どこがだあああああァァァ!?」

 

 

司は船の手すりにしがみつきながらツッコム。

 

 

ゴオオオオオォォォ!!

 

 

船は大きく揺れ動き、今にも壊れてしまいそうだ。

 

 

「この大嵐の中でこれからどうするつもりだッ!?」

 

 

「あぁ……そうだったな……」

 

 

未だに海には竜巻が出現している。消える気配は……無い。

 

 

「大樹さん!早く消してください」

 

 

「えっと……」

 

 

大樹は両手を合わせ、片目をつぶる。

 

 

「無理☆」

 

 

「「「……………」」」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

船が壊れるのも、時間の問題だった。

 

 

________________________

 

 

『今の所、情報を提示できるのはこれくらいだ』

 

 

「いえ、ありがとうございます。風間(かざま)少佐」

 

 

達也は大画面に映った人物にお礼を言う。

 

 

『それにしても柴智錬家か……少し厄介ではあるが、君なら大丈夫だろう』

 

 

「はい、明日には救出に行きます」

 

 

達也は大樹たちが不正に逮捕され、刑務所に入れられたことをすぐに分かり、助けに行こうと準備をしていた。

 

 

『ああ、気を付けt……ん?』

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

風間の顔色が変わった。

 

 

『大変だ。刑務所【ギルティシャット】の近くに原因不明の竜巻が発生した』

 

 

「ッ!」

 

 

達也は目を見開いて驚愕した。

 

 

「すいません、今から助けに行きます」

 

 

『待て達也!』

 

 

風間がそれを止める。

 

 

『これを見てくれ!』

 

 

画面には日本地図。太平洋の海には赤く点滅している点が東京に向かって接近していた。

 

 

「これは……!」

 

 

赤い点は【ギルティシャット】の現在地だ。

 

それがありえない速度で日本に近づいていた。

 

 

『ッ!?』

 

 

そして、いち早く情報を見た風間。

 

顔は青ざめていた。

 

 

『達也……落ち着いて聞いてくれ』

 

 

「ッ!」

 

 

風間が声音を変えて言う。真剣だった。

 

 

『【ギルティシャット】は現在……』

 

 

風間の声に思わず息を飲む。

 

そして、風間は告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『上空1200mを飛行している』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風間少佐、お疲れ様でした」

 

 

『待ってくれ達也!本当なんだ!』

 

 

風間は急いで端末を操作する。達也の画面には新しい映像が映し出された。

 

そこには【ギルティシャット】が映っていた。

 

 

 

 

 

竜巻に中にある【ギルティシャット】。竜巻の中に……。

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

『た、達也?』

 

 

「……一体何が起こっているのですか?」

 

 

『……見ての通り、竜巻の中に【ギルティシャット】が入って浮いているんだ。もしかしたら【ギルティシャット】は竜巻を乗り回しているのかもしr』

 

 

「少佐」

 

 

『何だね?』

 

 

「すいません」

 

 

『……まさか、君が前に話していた彼のことかね?』

 

 

「はい、おそらく……いえ」

 

 

達也は断言できた。

 

 

「楢原大樹です」

 

 

『……大人しく捕まっている気は無いみたいだな、彼には』

 

 

「大樹なら牢屋を無理矢理こじ開けたり、看守全員を埋めたりするでしょう。竜巻も大樹の仕業かと」

 

 

『達也……随分変な友達を……いや、すまない』

 

 

「お気遣い感謝します」

 

 

『と、とにかく楢原大樹。その妹、楢原黒ウサギは私の方で釈放できるようにしておくよ』

 

 

「ありがとうございます」

 

 

『それと我々も対処するが、【ギルティシャット】は引き続き君に任せる。頼んだぞ』

 

 

「了解しました」

 

 

ブチッ

 

 

風間の映っていたモニターが暗転する。通信が切れたようだ。

 

 

バンッ!!

 

 

その時、リビングの扉が勢い良く開けられた。

 

 

「お、お兄様!」

 

 

「どうした深雪?」

 

 

突然、深雪が急いで部屋の中に入って来た。

 

 

「て、テレビを……!」

 

 

「テレビ?」

 

 

深雪はテレビをつける。

 

テレビにはニュースが流れていた。右上には速報の文字がある。

 

 

『……ながら、この東京湾に着陸しました!』

 

 

「ん?」

 

 

達也は首を傾げた。何のニュースか分からない。

 

 

『見てください!』

 

 

画面に映ったのは……。

 

 

 

 

 

『刑務所【ギルティシャット】です!』

 

 

 

 

 

倉庫に突っ込んだ船。【ギルティシャット】が映っていた。

 

 

 

 

 

「……………少し疲れているようだ。おやすm

 

 

「お、お兄様!?しっかりしてください!」

 

 

達也は部屋を出ようとするが、深雪に腕を掴まれ止められた。

 

 

『空を飛んで来た刑務所、前代未聞の大事件です!この事件に警察は総動員で対処……み、見てください!今、主犯者が警察に連れて行かれています』

 

 

「「あ」」

 

 

達也と深雪はその人物を見て、声に出した。

 

 

 

 

 

映像には涙を流す大樹。手には手錠がかけられていた。

 

 

 

 

 

『またです!また彼がやりました!』

 

 

右上には『速報!あの大事件を起こした人物が再び…!』に変わった。

 

 

「……深雪、少し出かけてくる」

 

 

「は、はい……お気を付けて」

 

 

達也はこう思いながら出掛けた。

 

 

何やってんだっと。

 

 

________________________

 

 

 

「久しぶりだな、達也」

 

 

「ああ。それで……」

 

 

達也は状況を確認する。

 

 

「どうして吊るされているんだ?」

 

 

ここは取調室。大樹はロープで縛られ天井に吊るされていた。

 

 

「いやー、黒ウサギと真由美に怒られてな」

 

 

「怒られるのに吊るされたり縛られたりボコボコにされたりするのか……?」

 

 

大樹の顔は腫れて、鼻から血が流れている。先程、怒りながら出て行った黒ウサギと真由美にあったのか予想できた。

 

 

「でも、真由美のおかげで釈放されるしな。感謝感謝」

 

 

「そ、そうか……」

 

 

「それよりどうした?達也も俺を殺しに?」

 

 

「いや、違うが……」

 

 

達也は溜め息を吐き、パイプ椅子に座る。

 

 

「どうやって脱獄した?」

 

 

「……気合で」

 

 

「嘘を吐くな。気合で船が空を飛ぶわけないだろ」

 

 

「はぁ……じゃあ説明するかちょっと待ってろ」

 

 

「ん?何を待つんだ?」

 

 

「こうするのさ!」

 

 

________________________

 

 

【大樹視点】

 

 

「よし、出来たぞ」

 

 

「?」

 

 

「じゃあ説明します」

 

 

実はあの後、竜巻を操ることに成功したんだ。それで、爆弾型CADで船に硬化魔法をかけた。壊れるのを防ぐために。え?何で壊れるのを防ぐんだって?

 

船を竜巻に乗せるためだよ。あ、知ってた?

 

馬鹿じゃないのか君って?うん、俺は非常識な馬鹿野郎だもん☆

 

それで、そのまま日本を目指したんだ。もちろん、竜巻に乗ってな!いやー、すごかったよ。どこかの麦わら海賊団も腰を抜かせてしまうほど凄かったぜ。

 

それで着いた先がまさかの東京湾。もうなんか半壊してるし、このまま壊してもいいかな?って思って、

 

 

そのまま倉庫にダイブした。

 

 

……………東京湾に一体何の恨みがあるんだよ。

 

 

「以上、事件の真相だ」

 

 

達也には俺が竜巻を発生させたことは言わなかった。というか、言えない。

 

 

「そうか。さよなら、楢原」

 

 

「待って!俺の唯一の頼もしい大親友よおおおおおォォォ!」

 

 

俺はロープを引き千切り脱出。扉を開けて出て行く達也の腰に抱き付いた。

 

 

「絶交しないでくれよ!」

 

 

「常識を身につけたら、な?」

 

 

「何だそれ!?あとその笑顔は何だ!?やめろよ!!」

 

 

達也が笑みを浮かべて俺の頭をなでた。ヤバい、このままだと本当に友達やめられる。

 

 

「会長と黒ウサギにこのことは?」

 

 

「い、言ったが……?」

 

 

「……………」

 

 

「ちょっと達也さん?どうして俺をロープで縛るの?ねぇ?」

 

 

「……………」

 

 

「達也!?達也あああああァァァ!!」

 

 

そして、俺はまた天井に吊るされた。

 

 

「また今度、学校で会おう」

 

 

「達也さん!?帰らないでえええええェェェ!!」

 

 

俺の声は達也の耳に届くことは無かった。

 

 

________________________

 

 

「反省はしたかしら?」

 

 

「は、はい……」

 

 

達也が帰った後、真由美が部屋に入って来た。今度は正座させられている。

 

真由美は学校の制服を着ている。そういえば今日は学校だったな。牢屋に入れられたせいで学校の存在を忘れていたぜ。

 

 

「本当に心配したのよ!分かってる!?」

 

 

「だから!本当に悪かった……って……ッ!?」

 

 

真由美の頬には涙が流れていた。

 

 

「ごめんなさい……私たちの問題なのに……本当にごめんなさい……!」

 

 

「……柴智錬家のことか」

 

 

真由美は涙を拭きながら頷く。

 

あの後、柴智錬は逮捕された。その他にも柴智錬に雇われていた何人か偽看守も捕まった。柴智錬一人では悪さはできない。グルがいても当然か。

 

船の中からは違法の薬、書類、実験道具がわんさか見つかった。ついでに七草暗殺を企てた証拠品もな。

 

これが決め手となり、柴智錬家に家宅捜索が現在行われている。これで暗殺の計画は絶対にされないだろう。

 

 

「巻き込んで……本当にごめn

 

 

「フハハハハッ!!」

 

 

「ッ!?」

 

 

唐突に俺は高笑いをする。

 

 

「どうだ!これが俺の力だ!思い知ったか!」

 

 

「あなたね……一歩間違えば……!」

 

 

「一歩間違えば殺されたんだろ、お前」

 

 

「ッ!」

 

 

俺は溜め息を吐く。

 

 

「ったく、この時くらい『助けてくれてありがとう!』って言って抱き付いてきてもいいんじゃないのか?」

 

 

「……大樹君、それセクハラよ」

 

 

「はーいはい、すいませんでしたー」

 

 

俺は後ろを向いて拗ねる。

 

 

「でも……」

 

 

その時、肩が重くなった。

 

 

「本当にありがとう……」

 

 

真由美が後ろから抱き付いてたからだ。

 

 

「おう、もっと感謝しろ」

 

 

「馬鹿ね……普通自分からそんなこと言わないわよ……」

 

 

「俺は普通じゃないからな」

 

 

「そうだったわね……」

 

 

真由美は俺の背中に顔をうずめる。

 

 

「ねぇ……大樹君」

 

 

「何だ?」

 

 

「あ、あのね……へ、変なこと聞くけどいいかしら……?」

 

 

「変なこと?」

 

 

「だ、大樹君って好きな人はいるのかしら?」

 

 

「……どこが変なのか分からないが好きな人か……」

 

 

俺は天井を見上げる。

 

 

「いる」

 

 

「ッ!……そう……よね……」

 

 

「4人」

 

 

「えぇッ!?」

 

 

美琴、アリア、優子、黒ウサギ。うん、四人だな。

 

 

「みんな大切な人だ」

 

 

「……大樹君って……最低な人だったのね」

 

 

「悪かったな。優柔不断な男で」

 

 

「……まだチャンスはあるのね」

 

 

「はぁ?何が?」

 

 

「大樹君」

 

 

その時、頬に柔らかい感触がした。

 

 

「私、諦めないから」

 

 

 

 

 

真由美が俺の頬にキスしたと気付くまで、時間が掛かった。

 

 

 

 

 

「おおおおおお、おまッ!?」

 

 

「大樹君ッ!」

 

 

ガバッ

 

 

真由美は俺の名前を呼んで、抱き付いて来た。

 

 

「ありがとう!本当にありがとう!」

 

 

「わ、分かったから抱き付くな!」

 

 

俺は真由美の体を押しのけ離れさせる。嬉しいけど……らめぇ!!

 

 

「もしかして大樹君……嫌だったかしら?」

 

 

「ッ!?」

 

 

真由美の上目遣いに俺は顔を背けた。か、可愛い……いやいや、待て!落ち着くんだ!

 

 

「い、嫌っていうか……ほら、こういうのは駄目だろ?」

 

 

「大樹君は嫌なの?」

 

 

「ッ!?!?」

 

 

今度は涙目の上目遣い!?可愛すぎる!

 

 

「お、俺は……嫌じゃないが……」

 

 

「なら問題無いわね!」

 

 

「だから抱き付くなあああああァァァ!!」

 

 

クソッ!何か柔らかい感触がするのはあれですか!?グハッ!!

 

 

 

 

 

「ダイキサン?」

 

 

 

 

 

「うん……デジャブっていうのかなぁコレ」

 

 

振り向くまでも無い。後ろに黒ウサギがいる。

 

 

「あら、黒ウサギさん。少し大樹君を借りさせてもらってるわ」

 

 

「なッ!?」

 

 

真由美は黒ウサギの前だと言うのに堂々と俺に抱き付いた。黒ウサギはその光景を見て体を震わせて怒る。

 

 

「大樹さんは渡しません!」

 

 

「ッ!?」

 

 

黒ウサギも俺に抱き付いて来た!?幸せだよ……じゃなくて!

 

俺の右腕には黒ウサギの豊かな胸の弾力のある感触……左腕には黒ウサギより少し小さい真由美の胸の柔らかい感触が……!

 

 

「私……結構しつこい女なのよ?」

 

 

「黒ウサギだってしつこい女です!」

 

 

「何の話だ、何の!?」

 

 

修羅場!?何故だ!?一体誰のせいだ!?

 

というか、お前ら!そんなに抱き付くな!って……あ。

 

 

 

 

 

興奮しすぎて傷口が開いた。

 

 

 

 

 

「やべぇ……!」

 

 

「大樹君!?」

 

「大樹さん!?」

 

 

俺はその場で真紅の液体を腹や口から出し、倒れた。船で戦った時の傷は完治していなかったようだ。まぁ当然か……内臓破裂させられたし。それに病院行ってないし。自然回復に頼っただけだし。

 

あと、鼻からも血が出た。

 

ちょっと無理し過ぎたかもな。あー、頭がボーッとする。これは血が足りない証拠だな。

 

……完全に意識が無くなる前に一言だけ言わせてほしい。

 

 

 

 

 

とても柔らかかったです。

 

 

 

 

 

……ガクッ。

 





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