どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

66 / 177
平穏を求めて

六月。

 

テロリストが学校を襲ってから約2ヶ月が経とうとしていた。

 

もう学校には平穏が戻り、大半の生徒は勉学に励み、部活で汗を流す。そんな青春を謳歌する者たちが増えてくる六月。

 

一年生も学校に馴染むようになってくる六月。

 

素晴らしいね六月。万能だね六月。惚れちまいそうだぜ六月。

 

だが、俺はこの六月をこう思う。

 

 

「もう六月かよ……くたばれ、六月。もう一ヶ月もやっているんだぞ」

 

 

六月を亡き者にしたかった。

 

 

「確かに、このままだと二ヶ月になる」

 

 

パソコンのキーボードを打つのをやめて仰向けに倒れる。達也は画面に視線を向けたまま俺に言う。

 

俺は達也の家にお邪魔していた。いや、別に本当に邪魔しているわけではないよ?

 

理由は新しい魔法を生み出すことと、爆弾型CADの強化版を製作のするためだ。

 

実は一ヶ月前に達也に爆弾型CADの存在を教えた。達也は興味深そうに見ていたので、俺と何か魔法かCADでも作らないか?と提案したら達也はOKしてくれた。

 

達也の魔法技術は凄かった。そこらにいる魔法技師じゃ比べものにならないくらい凄かった。さすが、入試でペーパーテスト一位だな。

 

俺の家には魔法を作る機材が無い。だが、達也の家にはあった。普通一般家庭にそんなモノは置いてないはずだが、どうやらわけありらしい。本人が言うには内緒にしてほしいと言った。当然、このことは内緒にしている。

 

 

ビーッ

 

 

「うぅ……1万7千回目の警告ブザー……泣ける」

 

 

「数えていたのか?」

 

 

「覚えてた」

 

 

「……そうか」

 

 

「あと少しなんだ……あと少し……!」

 

 

「その最後の調整が難しいんだ。焦らず一つ一つやっていってくれ」

 

 

パソコンとひたすら睨めっこをする俺。そろそろ解放してくれ。

 

 

ピコンッ!

 

 

「あ」

 

 

「どうした?」

 

 

「できた……」

 

 

「ッ!」

 

 

「出来たあああああァァァ!!」

 

 

俺は大声で喜びガッツポーズ。急いで達也に画面を見せる。

 

 

「後は頼んだ!」

 

 

「ああ、任せてくれ」

 

 

達也はそれを見て笑みを浮かべた。俺は床に転がって、

 

 

「お…や……zzz」

 

 

(まだ二文字残ってるぞ)

 

 

おやすみっと言い終わる前に、大樹は床に寝そべり、眠った。

 

達也と大樹は土曜日と日曜日。そして、休日の月曜日の3日間を寝ないでいた。達也は深雪に心配され、途中一度睡眠を取っている。だが、大樹は寝ないで作業をし続けていた。

 

達也は今までの遅れを取り戻すためにパソコンのキーボードに指を走らせる。

 

そして、

 

 

「凄いな……」

 

 

達也は大樹が組み込んだプログラムを見て、ポツリッと声を漏らした。

 

それは達也がずっと研究してきた魔法。

 

大樹の常識から外れた新しい魔法式があったおかげで早く完成することが出来た。

 

 

「ありがとう、大樹」

 

 

達也はそう言って笑みをこぼして、またキーボードに指を走らせた。

 

 

________________________

 

 

「フッフッフ、遅刻したぜ!」

 

 

「そ、そうか……」

 

 

昨日、俺は達也の家からフラフラになりながら何とか帰ることができた。だが、明日の学校の登校時間には間に合わなかった。原因はさっきまで爆睡していたからだ。

 

レオは大樹の堂々さに引いていた。何で遅刻してるのにこんなに偉そうな態度を取っているんだ?っと。

 

 

「それより授業はどうした?消滅した?」

 

 

「してねぇよ。転校生が来るらしいぜ」

 

 

「転校生?」

 

 

レオの言葉に俺は疑問を抱く。

 

 

「確か……第四高校から来るらしい」

 

 

「ふーん、どうでもいいや」

 

 

「おい!せっかく説明したのに何だよ!」

 

 

「だって!レオがボケてくれないから!」

 

 

「俺のせい!?」

 

 

「え、やだ。俺の性とか……エロいわ」

 

 

「何でだよ!?」

 

 

「俺が変態でエロいからだ!」

 

 

「お前絶対脳みそ腐ってるだろ!」

 

 

「ぷー、クスクス。脳みそ腐ってるとかwお前と一緒にすwるwなwよw」

 

 

「喧嘩売ってんのか!?」

 

 

「ウェーイwww」

 

 

「表に出やがれぇ!」

 

 

「だからエロいって言ってるだろ」

 

 

「だから何でだああああああァァァ!!」

 

 

これ以上いじるのはやめておこう。レオが発狂してしまう。

 

 

「大樹さん……皆さんが見てますよ?」

 

 

「それは興奮するね♪」

 

 

「……………え?」

 

 

黒ウサギは俺を心配していたが、やめた。なんと黒ウサギは俺から距離を取り始めた。おい、嘘に決まっているだろうが。

 

 

ガラッ

 

 

「皆さん、一度席についてください」

 

 

教室の扉を開けて入ってきたのはカウンセラーの小野遥

だった。クラスメイトは指示に従って自分の席に座る。

 

 

「今日このクラスに急遽入ることになった第四高校の転校生がいます。入ってきて」

 

 

小野先生は入ってきた教室のドアに視線を移す。入ってきたのは女の子だった。

 

 

「「ッ!?」」

 

 

俺と黒ウサギは同時に凍りついた。血の気が引いていくのが自分でも分かる。

 

 

「じゃあ自己紹介いいかしら?」

 

 

「はい」

 

 

女の子は黒板の代わりになっている画面ディスプレイの前に立つ。

 

 

「第四高校から転校して来ました。新城(しんじょう) (ひかり)です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちと同じ学校の制服を着た紫色の髪……小柄な女の子。エレシスがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エレシス!」

「セネス!」

 

 

 

 

 

「「………え?」」

 

 

俺と黒ウサギは別々の名前を言った。おかしい。ここからシリアスな雰囲気になるはずなのに。

 

 

「いや、エレシスだろ?」

 

 

「セネスですよね?」

 

 

「「………え?」」

 

 

「エレシス」

 

 

「セネスです」

 

 

「エレシス!」

 

 

「セネスです!」

 

 

「「どっちだよ(ですか)!?」」

 

 

(((((うるせぇ………)))))

 

 

大樹と黒ウサギの討論にクラスメイトは迷惑そうな顔をした。

 

 

「まぁいい。よし、まず俺が動きを止めるから黒ウサギはインドラの槍で俺ごと貫け」

 

 

「はい!………え?」

 

 

「いくぞ!」

 

 

俺は一瞬でエレシスの後ろに回り込み、抱っこした。

 

 

「来い!」

 

 

「いやいやいやいや、ちょっと待ってください!大樹さんも貫くのですか!?」

 

 

「来い!」

 

 

「無理です!!」

 

 

何故だ!?理解できない!

 

 

「あのー、楢原君?新城さんを降ろして貰ってもいいかな?」

 

 

「……そうだな。いきなり転校生を羽交い絞めにするなんてダメだよな」

 

 

小野先生の言うことに俺は目を閉じて言う。

 

 

「そうね、だったら……」

 

 

「だが断る!」

 

 

「何で!?」

 

 

小野先生は俺の言葉に驚愕した。

 

 

「さぁ遺言くらい聞いてやるぞ、エレシス」

 

 

「……………いいのですか?」

 

 

エレシスは小声で俺に向かって話す。

 

 

「此処で私が暴れたらどれだけの犠牲者が出ると予想できますか?」

 

 

「テメェ……!」

 

 

「落ち着いてください。あなたとは今、敵対しません」

 

 

「無理だ。俺はお前を敵対している」

 

 

俺はポケットの中にあるギフトカードを取り出そうとする。

 

 

「では、私に勝てますか?」

 

 

「……お前を倒す方法は考えてある」

 

 

「その勝算は100%ですか?犠牲者はどのくらいでますか?」

 

 

「くッ」

 

 

俺は苦虫を噛み潰したような顔をする。一方、エレシスは無表情。眉一つ動かさない。

 

 

「後で話しましょう、楢原さん」

 

 

「……………」

 

 

俺はエレシスから手を放す。

 

周りのクラスメイトは口を開けて驚いていたが、俺は無視して席に着く。黒ウサギも席に座る。

 

 

(何を考えているんだ……エレシス)

 

 

相手の考え、作戦、戦術。何も分からない。

 

俺はギフトカードが入ったポケットにずっと手を突っ込み、昼休みまで警戒し続けた。

 

 

________________________

 

 

「それじゃあ話して貰おうか」

 

 

俺とエレシスは誰もいない校舎の屋上にいた。黒ウサギはこの場にいない。

 

黒ウサギには達也たちの相手をさせた。とりあえず、適当にごまかせっと言っておいた。

 

 

「何のつもりだ」

 

 

「楢原さん。先程も言いましたが敵対するつもりはありません」

 

 

「知らねぇよ。どんな理由があっても俺はお前を倒す」

 

 

「では、私をここで殺してもかまいません」

 

 

「そうか。じゃあ……」

 

 

俺はギフトカードから【(まも)(ひめ)】を取り出s

 

 

 

 

 

「ですが、私が死んだ瞬間、木下優子の記憶を取り戻すことは永遠に不可能になります」

 

 

 

 

 

「なッ!?」

 

 

目を見開き驚いた。

 

優子の記憶に細工をしたのはやっぱりエレシスだった。

 

 

「どうしますか?」

 

 

「……お前の力が無くても、優子の記憶を……」

 

 

「では、私の力が無いと取り戻せないっと言ったら?」

 

 

「……………」

 

 

反論の余地が無くなった。

 

 

「どうすれば優子の記憶を返してくれる?」

 

 

「分かってくれたのですね」

 

 

「勘違いするな。俺とお前は何があっても敵同士だ。今は停戦だ」

 

 

「停戦……いえ、十分です」

 

 

エレシスはうなずいた。

 

俺はギフトカードをポケットにしまい、腕を組む。しかし、警戒は解かない。

 

 

「私の願いは一つ。それは……」

 

 

俺は静かにそれを聞く。きっととんでもないことを言い出すに決まっている。

 

汗が止まらない。足が震えそうになるが無理矢理止める。

 

 

 

 

 

「青春をすることです」

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

……………。

 

 

「青春をすることです」

 

 

「いや、別に聞こえなかったわけじゃないよ」

 

 

「学校生活を満喫することです」

 

 

「人はそれを青春と呼ぶ……………じゃねぇよ!」

 

 

何を言い出すんだコイツは!?

 

 

「馬鹿なの死ぬの!?死んでくれ!」

 

 

「無理です」

 

 

もうやだこの子。

 

 

「何がしたいんだよぉ……ここは普通『この街を粉々に吹き飛ばします』とか『全員皆殺しにします』とかだろ!?」

 

 

「興味無いですね」

 

 

「お前、今すぐ悪役やめろよ!?」

 

 

「私は楢原さんを殺したいです」

 

 

「物騒なこといってんじゃねぇ!」

 

 

「私は楢原さんを殺したいです。きゃるーん」

 

 

「殺してやろうか!?」

 

 

俺の心臓ぶちまけておいて何だこの態度は!?

 

 

「真面目な話をします」

 

 

「最初からしろ!」

 

 

「私と学校生活で仲良くしてください」

 

 

どこが真面目だ!?

 

っと言いたかったが、エレシスの目が本気だった。

 

俺は咳払いをしてから言う。

 

 

「断る。俺や他の人を巻き込むな」

 

 

「安心してください。楢原さんを含めて誰にも手を出しません」

 

 

「信用できねぇ」

 

 

「では、代わりに情報を提供します」

 

 

「情報だと?」

 

 

「はい」

 

 

エレシスは右手を前に出す。

 

 

 

 

 

「優子さんの記憶の戻し方。それと、私たち反逆者たちについて」

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

俺はまた驚愕する。だが、さっきの驚きと比べたら何倍もこちらの方が驚きだ。

 

自分たちの情報を晒す。それは仲間を裏切る行為だ。

 

 

「どうしますか?」

 

 

「……敵の情報はどの程度ある」

 

 

「教えることはできません」

 

 

「……交渉はできない」

 

 

「違います」

 

 

エレシスは目を細めた。

 

 

「これは脅迫です。あなたは私の手を握らないと、この学校の生徒が」

 

 

エレシスから殺気が溢れ出した。

 

 

「全員死にます」

 

 

「……………」

 

 

本気だ。

 

エレシスの目を見て足が震えそうになる。だが、ここで怖気づいてしまうわけにはいかない。俺は全身に力を入れて、震えを止める。

 

選択の退路は断たれた。だったらどうする?

 

 

「条件がある」

 

 

新たな道を作ることだ。

 

 

「何ですか?」

 

 

「どうせ交渉に応じてもすぐには教えないつもりなんだろ?」

 

 

「……ある程度は教えます」

 

 

「いーや、教えないな。だからこうしよう」

 

 

俺は左手を前に出す。

 

 

「期限をつける。その期限を過ぎたら()()話せ。いいか、()()だ」

 

 

「………いいでしょう」

 

 

エレシスは前に出した右手で、俺の左手を握った。

 

 

「二か月後、ちゃんと話します」

 

 

「8月11日か……少し長いがいいだろう。どうせ、これ以上縮める気なんて無いだろ?」

 

 

俺は手を振りほどいて屋上のドアに向かって歩き出す。

 

 

「じゃあな、良い青春を」

 

 

「どこに行くのですか?」

 

 

エレシスは俺の手を握り、止めた。

 

 

「何だよ?俺はお前とは関わらないぞ」

 

 

「何故ですか?私は青春を謳歌するのですよ?」

 

 

「……質問を質問で返すなよ。何が言いたい?」

 

 

「青春とはスポーツをすることです」

 

 

「あ、ああ」

 

 

「青春は勉学に励むことです」

 

 

「まぁ一応そうだな……」

 

 

「青春とは恋は絶対です」

 

 

「当たり前だ。恋愛こそ青春だ」

 

 

「そうです。だから」

 

 

エレシスは無表情な顔のまま、首を横に傾げた。

 

 

 

 

 

「付き合ってください」

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

……………。

 

 

「付き合ってください」

 

 

「いや、聞こえてる」

 

 

「彼氏になってください」

 

 

「変わってねぇよ」

 

 

「ならどうして私から距離を取るのですか?」

 

 

嫌だからだよ。

 

俺は必死に早歩きで後ろに下がる。が、フェンスにぶつかって逃げ場が無くなった。

 

 

「付き合ってください」

 

 

「きょ、拒否権は?」

 

 

「発動する場合、生徒の命が掛かっていますよ?」

 

 

「ぜひ僕の彼女になってください」

 

 

もうヤケクソだった。

 

 

________________________

 

 

ざわざわッ!!

 

 

食堂は騒がしかった。何故騒がしいかと言うと……これ言う必要あるの?

 

仕方ない。説明しよう。

 

 

エレシスが俺の腕を組んでいるからだ。

 

 

カウンター席で学食を食べていたが、エレシスが一向に俺から腕を放そうとしない。食べづらい。

 

 

「お前、食べないのか?」

 

 

「あーん」

 

 

「死んでくれ」

 

 

無表情で口を開けるエレシスを俺は無視することにした。うん、カレー美味い。

 

エレシスはボソッと俺にしか聞こえない声で何か言っていた。

 

 

「……生徒の命」

 

 

「ほら、あーんッ!!!」

 

 

急いでカレーとご飯をスプーンですくってエレシスの顔の前まで持っていく。カレーとご飯の割合は3:7の最高の割合だ。

 

 

「はむ」

 

 

「美味しいだろ!?」

 

 

「……………あーん」

 

 

「勘弁してくれ!」

 

 

周りの生徒の視線が痛すぎる!これならタンスの角に小指をぶつけて死んだほうがマシだ!

 

 

「それよりお前、どうやってこの学校に入れた?転校とか言っていたけど嘘だろ?」

 

 

(ひかり)です」

 

 

「は?」

 

 

「陽と呼んでください」

 

 

「断る」

 

 

「生徒の命」

 

 

「教えてくれ、陽」

 

 

仕方ないよね。俺、みんなのことが大好きだから。

 

 

「適当に書類を作りました」

 

 

「よし、今すぐそのことを職員に報告して退学にしてやる」

 

 

「命は?」

 

 

「大事にしたいです」

 

 

詰んでる。マイン〇ラフトで溶岩の中に落ちた時並みに。いや、あれでもまだ助かる方法はある。水を流すとか。

 

だったらこの状況からでも勝機はあるはず!

 

 

「大樹さん?何をしているのですか?」

 

 

はい詰んだ!完璧に詰んだ!勝機なんて微塵も無かったよちくしょう!

 

後ろには黒いオーラを出した笑顔(目が笑ってない)黒ウサギがいた。後ろにはEクラスの達也たちとAクラスの深雪、ほのか、雫がいた。ふぇ~、増えてるよぉ……。

 

 

「話って結婚式をいつ上げるかということだったんですか?」

 

 

「違うわ!どんだけ話が飛躍してんだよ!?」

 

 

「ではお付き合いですか?」

 

 

「……………」

 

 

「え?大樹さん?」

 

 

「いや、違うんだ。これは」

 

 

俺は誤解?を解こうとするがエレシスがこちらをじっと見ている。言うなって言いたいのか!

 

 

「マジかよ大樹!」

 

 

「え?もう手を出したの?」

 

 

レオとエリカが俺をいじってくる。うぉい!?今はやめろ!

 

 

「この方は誰ですか?」

 

 

「今日転校してきた人かも」

 

 

深雪と雫が普通に会話する。それはそれで困る!あと、ほのか!さっきから動かないがどうした!?

 

 

「大樹、さすがに公共の場でイチャつくのは控えた方がいいぞ」

 

 

「い、イチャつく……!」

 

 

達也の言葉に美月が頬を赤くした。待って、本当に待って。

 

 

「……………」

 

 

うん、黒ウサギの沈黙が怖い。一般人なら失神レベル。

 

 

「く、黒ウサギ!これはそのッ!」

 

 

「大樹さんの女たらし!!」

 

 

バチコオオオオオオンッ!!!

 

 

「ぶふッ!?」

 

 

黒ウサギはいつもより三倍の大きさはある超巨大ハリセンで俺の顔面をぶっ叩いた。俺はそのまま食堂の後ろの壁までノーバウンドで叩きつけられた。壁には若干ヒビが入る。

 

黒ウサギはそのまま走り、食堂を出ていった。

 

 

「た、大変だ!黒ウサギが!?」

 

 

「血だらけのお前も結構大変だぞ……」

 

 

頭から血を流した俺を見て、レオは引いていた。そんなことはどうでもいいんだよ!

 

 

「急いで追いかけ……いや、メールを送ろ……がはッ!!」

 

 

「吐血した!?」

 

 

口の中から大量の血が吐き出される。レオが完全に引いた。

 

床や携帯端末は血まみれになり、画面が見えない。クソッこんな時に限って……!

 

 

「あのハリセン……どんだけ威力が高かったのよ……」

 

 

「すごい音がしましたからね……」

 

 

エリカと美月がティッシュペーパーで俺の頭や口元を吹いてくれた。優しいな。

 

俺はティッシュを分けてもらい、携帯端末を拭く。よし、これで……!

 

 

「生徒のライフが0になりますよ?」

 

 

「ちくしょおおおおおおォォォ!!」

 

 

エレシスの声を聞いた瞬間、俺は携帯端末を宙に放り投げていた。

 

 

________________________

 

 

「く、黒ウサギ……帰って来てくれ」

 

 

「……かなりの重症だ、これは」

 

 

「ちょっと楽しんでる、達也君?」

 

 

達也は地面に倒れた血まみれの大樹の首の脈を図り、一言。エリカは困った顔になる。

 

 

「それで、何をしたんだ新城?」

 

 

達也はエレシスに振り向き質問する。

 

 

「私と楢原さんは恋人同士です」

 

 

「それは嘘だ」

 

 

「……何故ですか?」

 

 

「簡単だ」

 

 

達也はエレシスに言う。

 

 

「大樹には他の好きな人がいるからだ」

 

 

「「「「「えぇ!?」」」」」

 

 

ざわざわッ!!

 

 

レオたちだけでなく、食堂にいた全生徒が驚いた。

 

 

「達也君、今ここで言うのは不味いんじゃない?」

 

 

エリカが達也に耳打ちをする。

 

大樹はあの事件以来、かなり注目される人物になった。

 

主に女子生徒からの人気がすごい。本人は知らないが現在かなりモテている。

 

 

「新城、お前は大樹に何をした?」

 

 

「……………」

 

 

エレシスは答えれない。

 

 

「はい、終了」

 

 

その時、大樹が起き上がり、手を叩いた。

 

 

「行くぞ、陽」

 

 

「え?」

 

 

「何だよ、置いて行かれたいのか?」

 

 

大樹は食堂を出て行こうとする。エレシスは大樹の後ろについていった。

 

だが、それを達也が止める。

 

 

「いいのか?」

 

 

「何が?」

 

 

「それでいいのか?」

 

 

「……また今度な」

 

 

大樹は手を振ってエレシスと共に食堂を出て行った。

 

 

「どうします、お兄様?」

 

 

「そうだな、あの人たちに会いに行こう」

 

 

深雪の答えに達也はあることを思いついた。

 

 

 

 

 

「ハッ!雫、あれどういうことなの!?」

 

 

「ほのか……ドンマイ」

 

 

「そ、そんな!?」

 

 

________________________

 

 

達也と深雪は生徒会室に行った。

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

生徒会室には真由美、摩利、鈴音、あずさ、服部の5人がいた。そして、事情を説明したところ、絶句された。

 

 

「えっと、大樹君は脅されているってことでいいのか?」

 

 

最初に口を開いたのは摩利だった。

 

 

「おそらくですが」

 

 

「そうとは限らないぞ司波」

 

 

達也の言葉を否定したのは以外にも服部だった。

 

 

「楢原は女子生徒から人気があるのは知っているだろう?もしかすると、新城という人は楢原のことが本当に好きなのかもしれない」

 

 

「えー、はんぞー君。それはないわよ」

 

 

しかし、真由美がそれを否定した。

 

 

「ですが、会長も楢原が何度か告白されているのを

 

 

「無いわよね?」

 

 

「いや、えっと……ありm

 

 

「無・い・わ・よ・ね?」

 

 

「あ、ハイ……」

 

 

服部が諦める。真由美の目が笑っていない。他の生徒会役員は真由美から目を逸らしていた。

 

 

「それで、どうしますか?」

 

 

達也がすぐに助け舟を出す。服部は少し落ち込んでいた。

 

 

「先程、新城さんについて調べてみました」

 

 

鈴音が手に持ったタブレットを操作しながら言う。

 

 

「それでどうだった?」

 

 

「はい、全く何も()()()()()()でした」

 

 

摩利の質問に鈴音は首を横に振った。

 

何も分からない。それは同時に危険であることを示していた。

 

 

「警戒する必要がありますね」

 

 

深雪の言葉にみんながうなずいた。

 

 

「で、でも何で楢原君が狙われているのでしょうか?」

 

 

だが、あずさは。

 

 

「大樹には十分狙われる理由が多くあります」

 

 

あずさの疑問に答えたのは達也だった。

 

 

「まず、大樹はああ見えて天才です」

 

 

「「「「「えッ!?」」」」」

 

 

「本当です」

 

 

みんなは目を見開いて驚いている。無理もない。あんなに馬鹿やってる人が天才だなんて。

 

 

「それに強いです」

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

「……………」

 

 

この反応にはさすがの達也も黙ってしまった。

 

 

「ですから、どこの組織に狙われてもおかしくありません」

 

 

「そ、そうなんですか……」

 

 

あずさが困った顔をする。大樹の以外なことを知って。

 

 

「何も起こらないと思うが……まぁ用心しておこう」

 

 

摩利は溜め息を吐いて言った。

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

「ん?どうした?」

 

 

みんなが摩利の顔を見ていた。摩利は首を傾げて聞くが、

 

 

「い、いえ……何でもありません」

 

 

服部がそう言って、みんな顔を背ける。

 

 

(((((今のはフラグじゃ……?)))))

 

 

『まぁ4月くらいは平和に過ごせるだろ。あるとしたら6月だな。うん、六月』

 

 

以前、大樹が生徒会室でこう言っていたことを思い出す。この発言の後、テロリストが襲ってきた。

 

あの時のように、これから絶対に何か起こる。摩利を除いたみんなはそう思った。

 

 

________________________

 

 

「ぐすんッ……」

 

 

「泣かないでください、楢原さん」

 

 

「誰のせいだ!誰の!」

 

 

俺は屋上でうつ伏せになって泣いていた。黒ウサギのことで。

 

 

「嫌われたらどうするつもりだ!?」

 

 

「彼氏から夫になります」

 

 

「もう頼むから死んでくれ!」

 

 

「無理です」

 

 

俺は床に向かってガンガンッ拳で殴る。もう駄目だ!

 

 

「頼む、黒ウサギだけでも事情を!」

 

 

「却下です」

 

 

「……どうしてもか?」

 

 

「……………」

 

 

俺の言葉にエレシスは黙り、目を逸らした。

 

 

「黒ウサギは大切な人なんだ。だから……」

 

 

「大丈夫です。あの彼女はあなたのことを分かっています」

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

「武偵憲章1条『仲間を信じ、仲間を助けよ』」

 

 

 

 

 

ドゴンッ!!

 

 

その瞬間、俺はエレシスの胸ぐらを掴んで床に抑え込んでいた。

 

 

 

 

 

「二度とその言葉を使うな。次は殺すぞクソガキ」

 

 

 

 

 

「ッ……………ごめんなさい」

 

 

エレシスが素直に謝ったせいで、俺は罪悪感を感じてしまった。

 

今の彼女はまるで親に怒られた子供のようだった。純粋に悪い事をした、と。

 

 

「もういい」

 

 

俺は手を放し、扉を開けて出て行く。

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

「ついて来るな」

 

 

「……………」

 

 

「あぁもう!分かったよ!俺が悪かったから!」

 

 

「ごめんなさい……」

 

 

「……………もう許してやるから謝るな」

 

 

扉を閉めて、出て行くのをやめる。

 

俺は屋上のフェンスのあるところまで歩き、背中を預けた。それを見たエレシスは俺の隣に来て座る。

 

 

「どうしてここまで俺に執着する?」

 

 

「……………」

 

 

「怒ってないから言えよ」

 

 

「言えません」

 

 

「チッ、そうかよ」

 

 

俺は舌打ちをして空を見上げる。空は曇り、雨が降りそうだった。

 

 

「私は14歳です」

 

 

「……は?」

 

 

「成績優秀、八方美人、完璧でないといけません」

 

 

14歳って中学生じゃねぇか!?どうりで背が他の子より小さいと思った。

 

というか、でないといけないってどういうことだ?誰かに命令されているのか?

 

 

「その為には楢原さんの力が必要です」

 

 

「……あっそ」

 

 

俺は素っ気ない返事をした。

 

それからずっと沈黙が続いた。

 

気が付けば放課後。授業をまたサボってしまった。

 

 

「俺は今から帰るけど、いいよな?」

 

 

「はい、また明日」

 

 

エレシスはそう言って俺に一礼した。

 

俺はこれから黒ウサギに何と言おうか考えながら扉を開けた。

 

 

「彼女に言ってください」

 

 

「……何をだ?」

 

 

「私たちの関係を」

 

 

「いいのかよ?」

 

 

「彼女にだけなら……」

 

 

「分かった。ありがとよ、陽」

 

 

「ッ!」

 

 

俺は振り向かず、階段を下りて行った。

 

 

(何がしたいんだよ、エレシス)

 

 

だが、警戒はまだ解かない。目的が分かるまで。

 

________________________

 

 

「本当にごめんなさい!」

 

 

「いや、これは俺が悪い。すまん」

 

 

帰って来て30分くらい黒ウサギにボコボコにされたところでやっと話を聞いて貰った。鼻血が止まらぬ。

 

 

「黒ウサギが一番悪いです!何かお詫びに……!」

 

 

「いらないよ、別に」

 

 

「何でもしますから言ってください!」

 

 

「何でも……だと……!」

 

え?今何でもって言った?言ったよね?ねぇ?ねぇねぇ!?

 

鼻血の勢いが上がった。やべぇ、頭がくらくらする。今日だけでどれだけ血を流したか。よく死なないな、俺。

 

 

「本当はエロいことに使いたいが我慢しよう。頼みがある」

 

 

「えぇ!?って使わないんですか?」

 

 

何でちょっと残念そうなの?美琴とかアリアとか優子とかだったら俺、2秒で殺されてるよ?

 

 

「ああ、明日行きたい場所がある」

 

 

________________________

 

 

【6月12日】

 

 

「大樹さんと黒ウサギさんがまた休みなんですか?」

 

 

「ああ、欠席だ」

 

 

ほのかの言葉を達也が肯定する。

 

学食にいるのは達也、レオ、美月、エリカ、深雪、ほのか、雫の7人だった。皆それぞれ自分の弁当、または学食をテーブルの上に置いて食事をしている。

 

 

「また問題でも起こしているんじゃねぇか?」

 

 

「確かに……十分ありえるわ」

 

 

レオとエリカの言葉で周りが笑いに包まれる。

 

 

「でも、新城さんも休みなのは気になる」

 

 

「確かにそうだな」

 

 

雫の言葉に達也が指を顎に当てて考える。

 

しかし、美月が話の方向を変える。

 

 

「そういえば木下さんは一緒じゃないんですか?」

 

 

美月がA組の三人に尋ねる。

 

優子は昨日は風紀委員の仕事があっていなかったが、いつもなら一緒に食べるほど仲良しだ。

 

すでに女子メンバーで買い物に行ったこともある。かなり仲が良かった。

 

 

「今日まで風紀委員の仕事があるみたいよ」

 

 

深雪が質問に答える。

 

 

「大樹がサボっているせいで仕事が溜まる一方だ」

 

 

「そして、その仕事は全部達也君に回って来ると?」

 

 

達也は溜め息を吐く。エリカの質問には何度も縦に首を振った。

 

 

「お兄様が一番頼りにされているからです」

 

 

深雪がすかさずフォローする。「さすがブラコン妹」っとみんなは思った。

 

平和な食事。それは続かなくなった。

 

 

「た、達也君!」

 

 

食堂に走って入って来たのは生徒会長の真由美と風紀委員長の摩利だった。真由美は達也の名前を呼びながら手を振る。

 

 

「どうしたんですか?」

 

 

「これ見て!」

 

 

真由美は持っていた小型ディスプレイをみんなに見せる。

 

映っていたのはTV中継。音量はMAXにしてあったせいで、部屋に響き渡った。

 

 

『えー、犯人は脱獄者を含めて4人です!現在、街を逃走中です!』

 

 

その瞬間、見ていた達也たちは目を疑った。

 

 

『脱獄者は(つかさ)(はじめ)。国立魔法大学附属第一高校でテロを起こした首謀者です』

 

 

確かに驚いた。だが、これよりも驚いたことがある。

 

 

『逃亡を協力した犯人の詳細がたった今、分かりました!』

 

 

アナウンサーは続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『犯人は国立魔法大学附属第一高校の二科生の生徒です!名前は楢原 大樹。その妹、楢原 黒ウサギ。そして、新城 陽です!三人とも一年生のようです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達也「」

 

 

深雪「」

 

 

レオ「」

 

 

美月「」

 

 

エリカ「」

 

 

ほのか「」

 

 

雫「」

 

 

たまたま食堂にいた桐原「」

 

 

桐原と一緒にいた壬生「」

 

 

クラスの人と一緒に食べていた服部「」

 

 

食堂にいた全生徒「「「「「」」」」」

 

 

 

 

 

食堂にいた全生徒が絶句し、食器を地面に落とした。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。