どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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すいません。

本当にすいません。

書きすぎました。今回は2万文字になってしまいました。

続きです。



あなたの隣で護り続ける

国立魔法大学付属第一高校の正門には大樹と20人の完全武装したテロリストがいた。

 

大樹は蒼く燃え上がった刀を握り絞め、相手を睨む。対してテロリストは水で出来た馬に乗っており、余裕の表情を浮かべていた。特に先頭にいる髭を生やした男が。

 

 

「ッ!」

 

 

髭を生やした男は魔法を発動する。発動スピードは一科生に負けない速さだった。特化型CADだからという理由だけじゃない。

 

この男は魔法師としての才能がある。

 

発動した魔法を大樹は瞬時に読み取り、記憶の中から同じ魔法を探し出す。

 

 

(硬化魔法だと……!?)

 

 

男は硬化魔法を発動していた。

 

大樹は嫌な予感がし、距離を取ろうとする。そして、嫌な予感が当たってしまった。

 

 

「ッ!?」

 

 

硬化魔法を使った理由が分かった。

 

大樹の足は地面とぴったりとくっついていたからだ。足は全く動かない。

 

 

(俺の足と地面を固定させたのか!)

 

 

「撃てッ!」

 

 

「ッ!」

 

 

髭を生やした男の合図と共に後ろにいた男たちが銃を乱射させる。

 

 

「くッ!」

 

 

苦悶の表情を浮かべながら大樹は蒼く燃え上がる炎で長さ10mを越える刀を錬成させる。

 

 

ズバンッ!!

 

 

大樹は相手の馬の足に向かって横から一刀両断に斬った。前足、後ろ足。両方全てだ。

 

しかし、無意味だった。

 

馬の足は貫通しただけであって、バランスを崩すことなく、原型を保っていた。

 

 

ガガガガガガッ!!

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

そして、ついに銃の引き金が引かれた。

 

足も動けない状態の大樹に向かって銃やグレネード。手榴弾を使う者もいた。

 

火の煙が立ち込み、大樹の姿が完全に見えなくなる。

 

 

「よし、行くぞ」

 

 

死体を見るまでも無い。木端微塵のはず。

 

だが、その予想は外れる。

 

 

「待てよクソ野郎」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

黒い煙から声が聞こえてきた。その声は、木端微塵になったはずだった人物。

 

 

「生きているだと……!?」

 

 

「手加減はもう無しだ」

 

 

持っていた10m以上の長さの刀は燃え上がり、形を変える。今度は2m弱の長さになった。

 

大樹は新しく錬成させた刀を地面に刺す。

 

 

「一刀流式、【風雷神(ふうらいじん)の構え】」

 

 

ドゴッ!!

 

 

その瞬間、地面から蒼い炎柱が周りから噴き出す。大樹に掛かってた硬化魔法が破壊される。

 

 

「【覇道華宵(はどうかしょう)】!!」

 

 

ズバンッ!!

 

 

刀を地面から引き抜くと同時に音速のスピードを出す。

 

狙いは後方にいた5人が標的。

 

テロリストが乗っている5匹の水の馬の胴体をもう一度斬った。無駄な攻撃だと誰もがそう思うだろう……だが、

 

 

ジュッ!!

 

 

水の馬は消えた。

 

 

「「「「「なッ!?」」」」」

 

 

男たちは落馬し、地面に叩きつけられる。水の馬を消されてテロリストは驚く。

 

大樹は水の馬を燃え上がる蒼い炎の刀で蒸発させたのだ。水の温度は沸点を越えて、液体から気体へと無理矢理状態変化を引き起こした。

 

大樹の攻撃は終わらない。

 

落馬した際にテロリストが落としたマシンガンを空いた左手で拾い上げ、落馬したテロリストを撃つ。

 

 

ガガガガガガッ!!

 

 

「ぐあッ!?」

 

 

防弾服を着ているおかげで構わず撃つことが出来た。銃弾で強い衝撃を与えて気を失わせる。

 

 

「固まって動くな!距離を取れ!」

 

 

髭を生やした男は指示を出す。

 

水の馬は宙に浮き、空を走り出す。

 

 

(ッ!……以外と速いな)

 

 

音速……とまでは行かないが、十分速い。バイクや一般自動車の最高速度を超えている。

 

目まぐるしく動き回るテロリスト。大樹に狙いを定めることは不可能だ。

 

しかし、読みは外れる。

 

 

ガガガガガガッ!!

 

 

「マジかよッ」

 

 

大樹は刀でこちらに向かって来た銃弾を弾き飛ばし、または避ける。

 

 

(何で当てれた!?)

 

 

大樹は思考を何十倍にも働かせる。あの速度だと普通の人間じゃ当てることは不可能なはず。偶然か?

 

 

(いや、また魔法か!)

 

 

銃弾はデタラメな所に撃たれている。だが、魔法によって軌道修正されていた。

 

 

(あのクソ髭ッ!)

 

 

犯人はもちろん髭を生やした男だ。

 

移動魔法を使って銃弾の軌道を大樹に変えていた。

 

 

(しかも、加速魔法も使ってやがる!)

 

 

【マルチキャスト】

 

一つの魔法を発動中にもう一つの魔法を発動させる魔法技術。

 

銃弾の軌道を変え、さらに加速させていた。

 

最悪の組み合わせだ。

 

 

「どうした?攻撃してこないのか?」

 

 

髭を生やした男は魔法を発動し続けながら笑みを浮かべる。

 

銃弾の嵐を刀一つで防ぐ大樹は反撃をしない。

 

 

「……一つここで残念なお前に教えておこう」

 

 

「何だと?」

 

 

大樹は銃弾を弾くのをやめて避けはじめる。

 

 

「お前らは俺に勝てない。何故だと思う?」

 

 

「……………言ってみろ」

 

 

「簡単なことだ」

 

 

その時、大樹は姿を消した。

 

 

「俺が最強だからだ」

 

 

「ッ!?」

 

 

大樹の声は髭を生やした男の背後から聞こえた。

 

大樹は光の速度で飛翔して髭を生やした男の後ろをとった。

 

 

「オラッ!!」

 

 

ドゴッ!!

 

 

刀の柄で勢い良く男の後頭部を叩きつけた。

 

 

「ぐうッ!?」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

男は落馬し、地面に落ちる。突然の出来事に周りのテロリストは驚き、動きを止める。

 

 

「こいつッ!」

 

 

ガガガガガガッ!!

 

 

だが、立ち直るのは早かった。テロリストはすぐに大樹に向かって射撃する。

 

 

「一刀流式、【受け流しの構え】」

 

 

空中で回避不可能の状態。大樹は刀を逆手に持ち、

 

 

「【鏡乱風蝶(きょうらんふうちょう)】!!」

 

 

カキンッ!!

 

 

そのまま体を一回転させ、風を巻き起こした。

 

弾丸は風に流され、方向を変える。

 

 

ガシャンッ!!

 

 

テロリストの持っている銃の銃口へと返した。

 

一瞬にして武器が修理不可能なぐらいに粉々になる。

 

 

「嘘だろ……!?」

 

 

「現実だ」

 

 

大樹は懐から4つの爆弾型CADを取り出し、大樹の周りを囲んだテロリストに東西南北の方向に投げる。

 

 

バチバチッ!!

 

 

「「「「「ぐあッ!?」」」」」

 

 

CADは光り出し、破裂する。そして、魔法陣が展開し、魔法が発動した。

 

発動したのは空中放電を引き起こす放出魔法【スパーク】。

 

テロリストの体は痺れ、落馬する。残ったのは水の馬だけだ。

 

大樹は地面に着地して、刀の蒼い炎を燃え上がらせる。

 

 

「ッ!!」

 

 

歯を食い縛って馬に音速で突撃する。

 

 

ジュッ!!

 

 

抵抗しない馬を蒸発させて消す。これで水の馬は全ていなくなった。

 

 

「な、何故こんなことに……!」

 

 

「敗因は簡単だ」

 

 

大樹はまだ気絶していない髭を生やした男に近づく。男は膝を震え上がらせ、尻餅をつく。

 

 

「優子に手を出そうとしたからだッ!!」

 

 

ドゴッ!!

 

 

大樹の右ストレートが男の顔面にクリティカルヒットする。

 

男は正門を突き破り、路上へと転がった。男は痙攣し、意識を失った。

 

 

「門の弁償はしないからな、この野郎」

 

 

大樹は勝利したが、胸糞悪い気分だった。

 

大きく深呼吸をして、空気を入れ替える。同時に気持ちも入れ替えてみる。

 

 

「よし、残りを片付けに行くか!」

 

 

蒼い炎を消し、刀を柄だけにする。【(まも)(ひめ)】をギフトカードに直し、残党狩りを開始し始めた。

 

 

________________________

 

 

 

「随分と無様にやられてんなオイ」

 

 

一人の男は白目を剥いた髭を生やした男に近づき不気味にゲラゲラと笑った。

 

 

「あーあ、どいつもこいつも臆病者ばっかだな。はやく殺せよ」

 

 

男は右手に持った銃を髭を生やした男の眉間に狙いを定めた。

 

銃からはドス黒い光が溢れ出す。

 

 

久遠(くどう)飛鳥(あすか)は失敗したが……次は行けるだろ?」

 

 

男は笑う。笑う。笑う。

 

口元をニヤリッとつり上げる。

 

 

 

 

 

「次はあいつじゃない。女を殺せ」

 

 

 

 

 

ドゴンツ!!

 

 

男は引き金を引いた。

 

 

________________________

 

 

【大樹視点】

 

 

「突撃いいいいいィィィ!!」

 

 

「「「「「うおおおおおォォォ!!」」」」」

 

 

俺の合図で走り出す一科生と二科生。向かっていくのは銃を俺に壊され、無力化されたテロリスト。数はたったの3人。

 

対してこちらは約100人。数の暴力だ。

 

 

「「「ひッ!?」」」

 

 

ドゴッ!バキッ!メシッ!ゴキッ!

 

 

そして、生徒たちはテロリストをタコ殴りし始める。悲鳴が聞こえるが容赦はしない。そっちは銃をこちらに向けたんだ。遠慮しない。

 

 

「隊長!テロリスト3人捕えました!」

 

 

「ナイスタコだ。よし、先生は南の方を制圧している。このまま東と西を制圧するぞ!」

 

 

「「「「「おおおおおォォォ!!」」」」」

 

 

テロリストの数も少なくなり、後は俺が何もしなくても終わる。

 

俺は一度講堂に戻ることにする。

 

 

「楢原君!」

 

 

その時、前から優子が走って来た。優子の後ろには達也、深雪、エリカ、レオもいた。

 

 

「黒ウサギ!一度こっちに来い!」

 

 

「はい!」

 

 

黒ウサギはテロリストを取り押さえるのを中断して、こちらに来る。

 

 

「大樹、敵の目的が分かった」

 

 

「何だ?」

 

 

「図書館だ。特別閲覧室にある学校の資料だ」

 

 

「なるほど」

 

 

分からん。何でそんなのが必要なんだ?高く売れるから?それなら宝石店か銀行を襲えばいいし……まぁいいか。

 

 

「よし、潰しに行っくぞぉ~♪」

 

 

「遠足に行くような気分で言うなよ……」

 

 

俺はスキップ図書館へ向かう。それを見たレオは頭を抑えて呆れる。

 

 

「大樹、壬生先輩も図書館にいるらしい」

 

 

「……………」

 

 

大樹はスキップをやめ、立ち止まる。

 

壬生がテロリストについたか……。

 

 

「それは本当か?」

 

 

「うん、小野先生が言ってたわ」

 

 

俺の確認にエリカが答える。

 

一番最初のホームルームに来た先生だ。カウンセラーをしてると言っていたな。でも、何でそんなこと知ってんだ?

 

……分からないことだらけだな。

 

 

「今は急いで図書館に行きませんか?資料が盗み出されたら……」

 

 

「深雪の言う通りだ。行こう」

 

 

深雪の言葉を達也は肯定し、俺たちは図書館へと走り出した。

 

 

________________________

 

 

【壬生視点】

 

 

「さすがにセキュリティが厳重だな……」

 

 

「そう簡単にデータにはたどり着けないか」

 

 

「だが、これを盗み出すことができれば……!」

 

 

あたしの目の前では三人の男が情報端末にハッキングをしていた。

 

本来この学校の生徒なら絶対に止めていただろう。だけど、あたしはこの人たちの仲間だった。

 

 

あたしはただ二科生の差別を無くしたかっただけなのに。こんな犯罪みたいなことをしていいのかしら……

 

 

半年以上前に剣道部の部長である(つかさ)(きのえ)主将の仲介である人物に引き合わされた。

 

 

それが、司主将の義理の兄。反魔法活動団体【ブランシュ】

 

日本支部リーダー。

 

(はじめ)だった。

 

 

『壬生くん、第一高校から魔法研究の重要文献を持ち出す手伝いをしてくれないか?』

 

 

耳を疑った。

 

 

『我々にはどうしても必要な物なんだ、頼むよ』

 

 

断ろうとした。でも、何故か出来なかった。

 

 

『魔法研究の成果を広く世に公開することは差別撤廃に第一歩につながるんだよ』

 

 

あたしは逆らえなかった。この人に。

 

 

『やってくれるね』

 

 

気が付けばあたしは首を縦に振っていた。

 

 

「よし、開いた!」

 

 

テロリストがハッキングに成功した。

 

テロリストは懐から記録用キューブを取り出す。データを移す気だ。

 

 

本当にこれでいいのだろうか?

 

 

これで差別が無くなるのだろうか?

 

 

(あたしは……あたしは……!)

 

 

『何でお前らは自分のことしか考えてねぇんだ!』

 

 

「ッ!」

 

 

頭の中で彼の声が思い出させられる。

 

 

『こんなやり方、間違っている』

 

 

分かっている!でも……でもッ!!

 

 

バキンッ!!

 

 

テロリストは目を見開いて驚いた。

 

 

「あッ」

 

 

 

 

 

気が付けばあたしは記録用キューブを投げて壊していた。

 

 

 

 

 

「壬生ッ!貴様ッ!!」

 

 

ドゴッ!!

 

 

「キャッ!?」

 

 

一人のテロリストが怒り、力任せに押し倒した。そして、首を絞められる。

 

 

「ふざけんなよ……何の真似だ……!」

 

 

あたしは振り絞って声を出す。

 

 

「こ、こん……なッ……こと……かはッ」

 

 

意識がもうろうとする。息ができない。それでも、

 

 

言わないといけない!

 

 

 

 

 

「間違ってるッ!!」

 

 

 

 

 

「クソッ!このまま殺してやる!」

 

 

「あッ……」

 

 

首を絞めつける力が強くなる。

 

 

肺に酸素がもうない。

 

 

頭に血が巡らない。

 

 

徐々に体から力が抜けていく。

 

 

(楢原君…………)

 

 

霞んでく視界。最後の言葉を口にする。

 

 

 

 

 

「だ、……大樹君………たすけ、てッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「任せろおおおおおォォォッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

「「「ッ!?」」」

 

 

何重にもなった複合装甲の扉が吹っ飛ぶ。

 

 

「壬生ッ!!」

 

 

(ああ、この声……)

 

 

「助けに来たぜッ!」

 

 

あたしは安心して涙を流した。

 

 

そして、気を失った。

 

 

________________________

 

 

【大樹視点】

 

 

「ば、馬鹿な……扉が破られるなんて……」

 

 

テロリストは怯えていた。

 

刀一つで扉を切り裂いたことに。

 

 

「覚悟はいいか?」

 

 

俺はテロリストを睨み付ける。

 

壬生の勇姿は分かっていた。何重にも防音された扉越しでも聞こえた。いや、聞かなければならなかった。

 

彼女は最後の最後で反抗した。テロリストに。

 

 

「吐け。お前らのリーダーの場所を」

 

 

「し、知らな

 

 

ズバンッ!!

 

 

「がはッ!?」

 

 

知らないっと言おうとした男の胸ぐらを掴み、壁に叩きつけた。

 

 

「いいか。知らないは論外だ。教えろ」

 

 

「た、頼む!本当に知ら

 

 

ドゴッ!!

 

 

「がッ!?」

 

 

もう一度、壁に叩きつける。

 

 

「言え」

 

 

「ひッ!?」

 

 

男はそのまま恐怖で気絶した。

 

俺は男から手を放し、後ろを向き、残りの二人を見る。

 

 

「た、助けてくれ……」

 

 

「じゃあ言え。お前らのリーダーの居場所を」

 

 

「た、頼む……俺たちは本当に知らない!後で合流地点を聞かされる予定だったんだ!」

 

 

「………そうか」

 

 

俺は足に力を入れる。

 

 

「じゃあ牢獄にでも行ってろッ!!」

 

 

ドゴッ!!

 

 

「「ッ!?」」

 

 

右回し蹴りを二人に当て、壁にぶつける。壁はへこみ、男たちは気を失う。

 

俺は壬生の近くまで歩いて行き、お姫様抱っこをした。

 

 

「さすがだな、壬生先輩」

 

 

俺はそのまま保健室へと向かった。

 

________________________

 

 

「大樹は図書館前にいる敵を薙ぎ払いながら中に入り、壬生先輩を助けました」←達也

 

 

「特別閲覧室の扉を一瞬で破壊しました」←深雪

 

 

「そういえば銃弾を掴んで投げ返していたわね」←エリカ

 

 

「戦車の砲弾を掴んで投げ返したらしいな」←レオ

 

 

「楢原君はテロリストの半分……150人以上は制圧したことになるわね」←優子

 

 

「大樹さんがナンパしていました」←黒ウサギ

 

 

「「「「「とにかく大樹でした」」」」」←全員

 

 

「おい」←大樹

 

 

偏見だ。これはきっと何かの陰謀だ。俺は騙されたんだ。きっと妖怪の仕業なんだ。

 

保健室でみんなは集まって報告をしていた。俺の。

 

 

「大樹君は……カッコよかったです……」←壬生

 

 

ベッドでは壬生が頬を赤めて俺を褒めていた。壬生が天使に見えるよ。

 

 

「まとめると……大樹君は風紀委員にして正解だったな」

 

 

「耳鼻科行って来い」

 

 

摩利がとんでもないこと言い出した。ブルー〇ス、お前もか。

 

 

「じゃあ大樹君は退学ね」

 

 

「真由美さん本当にごめんなさい許してください」

 

 

そういえば真由美を使って生徒を動かしたんだった。俺は床に額を擦りつけて土下座。

 

 

「私のことを可愛い可愛いって……冗談はやめて欲しいわ」

 

 

真由美は頬を膨らませご立腹。どうしようか?

 

 

「いや、冗談というか本当に可愛いだろ……」

 

 

「え?」

 

 

「ん?」

 

 

あれ、声に出てたか?出てないよな?

 

 

「た、退学!」

 

 

「やめて!」

 

 

真由美は顔を真っ赤にさせ怒った。はぁ……何で俺こんなに謝ってんだろ?公開放送の仕返しなのに。

 

________________________

 

 

俺は学校の外にいた。

 

空は赤い夕焼けに染まり、夜が近い。

 

そんな綺麗な空を学校のベンチに座って眺めながら、俺は保健室であったことを思い出す。

 

 

 

 

 

壬生は昔、剣術部の騒動の時に摩利の見事な魔法剣技を見て手合わせをお願いしたことがあるらしい。

 

だが、摩利は手合わせのお願いをすげなく断られた。

 

二科生だから相手にされない。それで壬生はショックを受けていた。

 

 

だが、それは違った。

 

 

あの時、摩利は『すまないがあたしの腕では到底お前の相手には務まらない。お前の腕に見合う相手と稽古してくれ』っと言ったらしいのだ。

 

決して摩利は壬生のことを馬鹿にしていなかった。

 

誤解。

 

彼女は後悔していた。一年間も逆恨みをして、無駄に過ごしてきたと。

 

 

『それは違うと思います』

 

 

だが、達也はそれを否定した。

 

 

『先輩は恨み、嘆きに負けず己の剣を高め続けた一年だったはずです。無駄だったはずがありません』

 

 

そして、壬生は涙を流した。自分のやってきたことが無駄じゃないことが分かって。

 

壬生は俺の胸を借りてしばらく泣き続けた。

 

 

 

 

 

「あー、ちくしょう」

 

 

俺は立ち上がり、自動販売機を探しに行く。とにかく甘い飲み物を飲みたい。いや、苦い飲み物。いや、炭酸。そう、甘くて苦くて炭酸飲料が飲みたい。どんな飲み物だよ……。

 

俺は自動販売機にお金を入れてボタンを押す。自動販売機は何も反応しない。

 

 

「おい、ふざけんなよ」

 

 

飲み込みやがったぞコイツ。返せ、俺の五百円玉。

 

 

「はぁ……」

 

 

俺は諦めて隣の自動販売機に千円札を入れる。そして、ボタンを押してさすがに次は飲み込まれなかった。

 

おでん缶を手に取り、プルタブを開ける。

 

 

「って熱ッ!?」

 

 

なんでや!なんでイチゴオレじゃないんや!この自販機ども俺に喧嘩売ってるな!いいぜ、買ってやるよ!

 

俺はベンチに座ってまた保健室であったことを思い出す。

 

 

 

 

 

壬生が泣き終り、これからのことを話すことにした。

 

 

「それで、どうする大樹?」

 

 

達也は俺に問いかける。俺は壬生の頭をなでながら言う。

 

このままだと、壬生は強盗未遂で家裁送りだ。

 

 

「方針は二つある。一つは警察をぶっ飛ばす」

 

 

「「「「「アウト」」」」」

 

 

全員意気投合した。だよねー。壬生が震えて俺を見ていた。いや、冗談だよ?

 

 

「じゃあもう一つの方だな」

 

 

俺は壬生から撫でるのをやめて拳を強く握った。

 

 

「テロリスト共をぶっ潰す」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

俺の言葉に全員が驚愕……いや、達也は驚いていなかった。

 

 

「黒ウサギ、場所は分かるか?」

 

 

「YES!逃げている人を追跡して場所を特定しました」

 

 

「よし、後は核爆弾を落として……あー、しまった。造るのに材料足りね」

 

 

「大樹さん……冗談ですよね?」

 

 

アッハッハ、ジョウダンダヨ?

 

 

「待て楢原」

 

 

俺を止めたのは十文字だった。

 

 

「確かに警察の介入は好ましくない。だが、当校の生徒に我々は命を懸けろとは言えん」

 

 

「何言ってんだ?俺と黒ウサギだけで行くに決まってるだろ」

 

 

「ッ!……二人だけで行くつもりか?」

 

 

「危険すぎるわ!無理よ!」

 

 

十文字は少し驚いていたが、真由美はもっと驚いていた。

 

 

「………あのな、二人で()()()。いいか、二人で()()()。はい、先生は今大事なことなので二回言いました」

 

 

「ッ……そ、それでも!」

 

 

「真由美。俺は何がなんでも行くぞ」

 

 

真由美の静止を声を首を振って断る。

 

壬生は俺の服の袖口を掴んだ。

 

 

「楢原君、あたしのためだったらやめて。あたしは平気よ。罰を受けるだけのことをしたんだから」

 

 

「俺は平気じゃねぇよ」

 

 

「ッ!」

 

 

「せっかく自分の間違いに気付いたのにこの仕打ちは無いだろ。おかしいだろ。納得できねぇよ」

 

 

このまま壬生が捕まる?ふざけるなよ、テロリスト。

 

 

「壬生、言ってくれよ。本当にやめて欲しいのか?助けなくていいのか?」

 

 

俺は壬生の綺麗な瞳を見る。壬生は俯いていたが、

 

 

「お願い……助けてッ」

 

 

「ああ、任せろ」

 

 

言いたくても言えない言葉を壬生は振り絞って言い切った。

 

俺は笑顔でそれを承諾した。断る理由なんて微塵もなかった。

 

 

「大樹、俺も行くぞ」

 

 

「達也……ああ、頼むぜ」

 

 

達也が俺の隣に来る。さて、謎の一年生の力を見せてもらおうか。

 

 

「お兄様、お供します」

 

 

深雪が達也の横に来る。学年主席様が来るとか頼もしいな。

 

 

「あたしも行くわ」

 

 

「俺もだ」

 

 

エリカとレオ。二人も来てくれるみたいだ。

 

 

「よし、場所は………どこだ黒ウサギ?」

 

 

「ここです」

 

 

黒ウサギは携帯端末を開き、地図を出す。地図にはバツ印がついていた。

 

 

「ここは……バイオ燃料の廃工場か」

 

 

達也が場所の名所を言う。

 

 

「車での移動が速いだろう。俺が車を用意しよう」

 

 

「えッ?十文字君も行くの!?」

 

 

十文字の言葉に真由美が驚く。え?来るの?十文字君、来るの?えー、別にいいけど。

 

 

「下級生ばかり任せておくわけにはいかん」

 

 

「じゃあ私も……」

 

 

「七草、お前は駄目だ」

 

 

ついて来ようとする真由美を十文字は止める。真由美は頬を膨らませて不機嫌だ。

 

 

「真由美、この状況で生徒会長が不在になるのはまずい。我慢してくれ」

 

 

「……了解よ」

 

 

摩利がすかさずなだめる。ナイスタコ……じゃなかった。ナイスフォロー。

 

 

「でもそれだったら摩利もダメよ。残党が校内に隠れてるかもしれないもの」

 

 

おっと、摩利が道連れにされました。あの人めっちゃ行きたそうな顔してたんだが。

 

 

「アタシも行くわ、楢原君」

 

 

優子は俺の前に立つ。答えは決まっていた。

 

 

「ダメだ」

 

 

「「「「「ッ!」」」」」

 

 

「な、何で!?」

 

 

俺の言葉に周りが驚く。優子は理由を尋ねる。

 

 

「優子を連れて行くのは危険すぎる。ここにいろ」

 

 

「ど、どうしてアタシだけ……」

 

 

「大樹さん……もしかして」

 

 

「ああ、今回の事件……あいつらが絡んでる」

 

 

俺の言葉を聞いた黒ウサギは顔を真っ青にした。これから行く場所……俺たちは殺し合いをするのと差ほど変わらない。

 

戦う。

 

優子を守る為に。

 

 

「納得できないわ!アタシは学年次席、実力は申し分ないはずよ!たかがテロリストで……!」

 

 

「それでも、俺は絶対に認めない」

 

 

「ッ!」

 

 

バンッ!!

 

 

唇を噛んで、怒るのをこらえた。優子はそのまま扉を勢いよく開けて部屋を出て行った。

 

 

「30分後に外で集合だ。以上」

 

 

「大樹さんッ!」

 

 

「以上だッ!」

 

 

俺は声を張り上げた。何も聞きたくなかった。

 

黒ウサギの静止を無視して部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

と、以上のことから気まずいのであります。

 

誰にも会えないよ。コミュニケーションってつらいね。

 

 

「お願いします!俺も連れて行ってください!」

 

 

「ん?」

 

 

正門に止めてある車の近くで誰かが大声を出していた。あれは……桐原じゃねぇか。

 

え?桐原って誰だよって?ほら、壬生にちょっかい出してた剣術部の部長だ。

 

会話相手は十文字か。

 

 

「なぜだ?」

 

 

「一高生としてこんなこと見過ごせません!」

 

 

「そんな理由では連れていけん。命を懸けるには軽すぎる。……もう一度聞く。なぜだ?」

 

 

「……壬生がテロリストの手先になったのを聞いて……」

 

 

「ッ……」

 

 

俺は気配を消して隠れる。そして、二人の会話を盗み聞きする。

 

 

「俺は中学時代の壬生の剣が好きでした。人を斬るための剣では無く、純粋に技を競い合う壬生の剣は綺麗だった」

 

 

純粋で綺麗な剣……か。

 

いつからだったからだろうか。剣道をすることが苦になったのは。

 

あの時の俺は、幼馴染の期待に応えるために、喜ばせるために剣道をやって来た。

 

そして、汚した。

 

赤く汚した。黒く汚した。絶対に消えない汚れをつけた。

 

今の俺は竹刀を握る資格なんてない。

 

あるのは壬生のような人……だけだ。

 

 

「でも、あいつの剣は人を斬る剣に変わってしまった」

 

 

「ッ!」

 

 

まるで自分を見ているようだった。

 

壬生と同じように俺も今は人を斬る剣に……刀になった。

 

 

「うッ」

 

 

嗚咽が走る。醜い自分に気分を害する。

 

汚い。気持ち悪い。俺は悪魔じゃないか。

 

 

「剣道部にアイツを変えちまった奴がいるはずだ!そして、それを背後で壬生を利用していた奴が許せない!」

 

 

桐原はもう一度十文字に頭を下げる。

 

 

「十文字会頭、お願いします!!」

 

 

「何だよ……これ」

 

 

俺は壬生に嫉妬した。

 

こんなに自分のことを考えてもらえたらどれだけ幸せだっただろうか?

 

 

「はぁ……」

 

 

本当なら喜べる出来事だ。

 

でも、何でこんな気持ちになるんだ。

 

 

(何でお前は敵なんだ……双葉)

 

 

今でも思う。何でこうなったんだと。

 

飲みかけのおでん缶をその場に放置して、その場を後にしようとした。

 

 

「大樹さんッ!!」

 

 

だが、黒ウサギが俺に向かって走って来た。

 

 

「何だよ?一人にしていて欲しいんだが?」

 

 

「優子さんがどこにもいません!」

 

 

「なッ!?」

 

 

頭の中が真っ白になった。

 

 

________________________

 

 

 

「何でこんなことに……!」

 

 

俺は頭を抑えて苛立ちをあらわにする。隠す余裕なんて無かった。

 

 

「何でだよッ」

 

 

俺は手を強く握った。何でこんなことに……!

 

 

「木下はバイオ燃料の廃工場にいるはずだ。追えば間に合う」

 

 

「30分近く経ってる……もう優子はついてるかもしれない」

 

 

摩利の言葉に俺は首を横に振った。

 

嫌な汗が溢れ出る。どうする?どうすればいい?

 

 

「考えろ……考えろ……考えろ……!」

 

 

頭を何十倍も働かせる。だが何も策は浮かばない。こんな時に限って役立たずの頭だ。

 

 

「大樹さん……」

 

 

「待て、今考えてる。後にしろ」

 

 

「でも……!」

 

 

「だから、後にしろってッ!」

 

 

バチンッ!!

 

 

その時、俺の頬に痛みが走った。

 

何が起こったのか分からなかった。誰だ?叩いたのは?

 

 

「しっかりしなさい、大樹君!」

 

 

ビンタしたのは真由美だった。

 

俺は意外な行動に呆気を取られる。周りにいた人も目を見開いて驚愕していた。

 

真由美がビンタしたと脳が分かっていても俺は何一つ行動できない。

 

 

「大樹君と木下さんに何があるのは知らないわ。でも、今の大樹君……私は嫌いよ」

 

 

「……………」

 

 

熱くなった頭が冷えていくのが分かる。衝撃的な出来事のおかげで。

 

真由美は真剣な表情から笑みを浮かべる。

 

 

「いつもの大樹君に戻りなさい。生徒会長命令よ」

 

 

「……悪い」

 

 

俺は胸に手を当てて落ち着く。

 

さっきから何焦ってんだ俺は。今やることぐらい分かっているだろうが。

 

よし。

 

 

「ごめん、黒ウサギ。やつあたりして」

 

 

「いえ、大樹さんがいつも通りに戻ってよかったです」

 

 

黒ウサギは首を横に振って笑顔で許した。

 

 

「今から作戦を説明する」

 

 

汚い俺が提案する作戦。それは、

 

 

「正面突破だ!以上!」

 

 

汚い作戦なんていらなかった。

 

 

________________________

 

 

【優子視点】

 

 

アタシはバイオ燃料の廃工場。敵のアジトに足を踏み入れていた。

 

アタシが連れて行かれないことが悔しかった。足でまといになることが許せなかった。

 

 

(証明してみせる!アタシが無能でないことを!)

 

 

優等生としての立場を守る為に。

 

手入れが全くされていない汚れた廊下を進み、大きな部屋にたどり着いた。そこには大人数のテロリストが待ち構えていた。一人を除いて、全員銃を持っている。

 

 

「おや、一人で来たのかい?」

 

 

一番最初に声をかけてきたのは眼鏡を掛けた男だった。年齢は若い。

 

 

「ええ、悪いかしら?」

 

 

「いや、問題ないよ。初めまして。僕はブランシュの日本支部リーダー、司一だ」

 

 

アタシは腕輪型CADを装着した右手を前に突き出す。魔法式は展開済みだ。

 

 

「大人しく降伏しない。さもないと……」

 

 

「残念だがそれは出来ないよ。何故なら、」

 

 

司は眼鏡を外して天井に向かって投げた。アタシは警戒するが眼鏡は何も反応しない。

 

再び司に視線を移るが、

 

 

「我が同士になるがいい!」

 

 

その瞬間、アタシは意識を失った。

 

 

________________________

 

 

 

【大樹視点】

 

 

「見えた!あそこだな!」

 

 

俺は遠くに見える廃工場を見つける。壁にはツタが伸びている。どれだけ放置されていたか予想できる。

 

建物の近くには何台もの車があった。おそらくテロリストのモノとみて間違いないだろう。

 

 

「大樹さん!落ちますよ!?」

 

 

「大丈夫だ!問題ない!」

 

 

黒ウサギに警告されるが俺は親指を立てて大丈夫なことを伝える。ついでに装備も問題ないぞ。

 

俺は今、車の()()乗っていた。

 

車の中はもう乗れないので俺は上に乗ることにした。べ、別に桐原が乗ったせいで俺の座る場所が無くなったとかそういうわけではないんだからねッ!……………桐原め、覚えてろ。

 

しばらくすると工場の門が見えてきた。

 

 

「よし、俺が壊す!」

 

 

俺はギフトカードから【神影姫(みかげひめ)】を取り出し、狙いを定める。

 

 

ガキュンッ!ガキュンッ!

 

バゴンッ!!

 

 

狙った場所は門の付け根の部分。門は壊れ、後ろに倒れた。

 

車は門を踏み潰しなが進み、中に入る。

 

 

「よし、俺、黒ウサギ、達也、深雪で正面から突破して行く。エリカとレオはここで逃げたやつを叩け。桐原と十文字は後ろから突入だ!」

 

 

最初の作戦通り、俺の指示でみんなは動き出す。

 

正面の扉を蹴り破りる。薄暗い廊下を走り抜け、大きな部屋に辿り着いた。

 

 

「ようこそ、魔法科高校の生徒たち」

 

 

俺たちを待ち伏せしていたのは何十人ものテロリスト。そして、

 

 

「僕はブランシュの日本支部リーダー、司一だ。二回目の自己紹介は変な気分だね」

 

 

「二回目だと?」

 

 

司の言葉に俺は疑問を持つ。

 

 

「ッ!?」

 

 

その瞬間、俺の体に何十キロの布団を被せられたように重くなった。

 

気が付けば地面に魔方陣が描かれている。しかも、かなりの大規模で展開している。近くにあった木箱は壊れ、パイプはネジ曲がっていた。

 

 

「加重魔法……【プレス】……!」

 

 

達也は膝を突きながら魔法を当てる。

 

深雪が一番苦しそうにしていた。

 

 

「さすが学年次席だね、木下くん」

 

 

「嘘だろッ?」

 

 

魔法を発動したのは司の横にいる優子だった。

 

 

「テメェッ……優子に何したッ!?」

 

 

「おっと近づかないでくれ」

 

 

カチャッ

 

 

立ち上がろうとした時、後ろにいたテロリストが優子の頭に向かって銃口を向ける。

 

 

「抵抗しないでくれ、絶対に。じゃないと彼女が大変なことになる」

 

 

「下種ども……!」

 

 

司の言葉に深雪が怒る。

 

どうする?黒ウサギに雷を出してもらうか?いや、優子に当ってしまう。

 

 

「大樹」

 

 

達也が俺に声をかける。

 

 

「俺の力なら武器を一瞬で破壊できる。だから」

 

 

「魔法をどうにかしろ……ってか。分かった」

 

 

俺は集中する。右の拳を握り、力を溜める。

 

 

「【無刀の構え】」

 

 

力を地面に向かって解き放った。

 

 

「【神殺天衝(しんさつてんしょう)】!!」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

地面は大きく割れ、亀裂が走る。そして、【プレス】の魔法を強制的に破壊した。

 

すぐに達也は拳銃型CADを取り出し、テロリストたちに向ける。

 

魔法が発動して、テロリストの持ってる武器がバラバラに部品へと変わった。

 

 

「ぶ、武器がッ!?」

 

 

「何が起きた!?」

 

 

突然の出来事に戸惑うテロリスト。次に動いたのは黒ウサギと深雪だった。

 

 

「「ッ!」」

 

 

二人は同じ携帯端末型CADを取り出し、魔法を同時に発動する。発動速度はわずかに深雪が速いが、黒ウサギはわずかのスピードまで深雪に追いついている。この光景を見たら、黒ウサギは一科生になっても、誰一人文句を言うことはできないだろう。

 

二人が発動したのは移動魔法の【ランチャー】だ。

 

司と優子を除いたテロリストが横や後ろに飛んで行く。テロリストは壁に激突し、気を失った。

 

 

「優子の洗脳を解け」

 

 

「くッ!」

 

 

俺の言葉に司は苦悶の表情を浮かべる。後の手が残っていないみたいだ。

 

その時、黒ウサギの顔が驚愕に染まった。

 

 

「大樹さん!外からもの凄い速さで何者かが近づいて来ます!」

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

このことに司も驚いていた。仲間じゃないのか?

 

 

「方角は?」

 

 

「東です……あ、危ないッ!」

 

 

その瞬間、俺の横の壁が崩れて何者かがこちらに突進して来た。

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!

 

 

「がはッ!?」

 

 

想定外の出来事でかわすことができなかった。

 

壁を突き破った奴はそのまま俺に突進して背後の壁にぶつける。体の中の空気が一気に吐き出された。

 

壁に亀裂が走り、そのまま俺ごと壁を突き破って行った。

 

 

(なんだこの力はッ!?)

 

 

普通の人間が出せる力ではなかった。

 

最後の西の壁をぶち破り、木々が生い茂った外に出る。俺は黒いコートを着た人の腕を払い、拘束から逃げる。

 

 

「誰だ!」

 

 

俺は【(まも)(ひめ)】を取り出し構える。フードを被っていても分かる。体格からして男のはずだ。黒いコートを着た男は何も答えない。

 

 

「ッ!」

 

 

男は俺に急接近し、殴って来る。だが、簡単にはやられない。

 

体を紙一重で横にずらして回避する。右手に持った刀でカウンターを決める。

 

その時、フードの中が見えた。

 

 

(こいつッ!?)

 

 

俺はそのまま容赦無く、首を斬り落とすことに変更。蒼い炎が燃え上がり、刀を錬成させた。

 

音速のスピードで刀が首を狙う。

 

 

カキンッ!!

 

 

「は?」

 

 

(まも)(ひめ)】の刃は首を斬ることができなかった。

 

刀は男の首で止まった。

 

首……いや、フードすら斬ることが出来なかった。

 

 

「硬化魔法……!?」

 

 

俺は声に出して目を疑った。

 

硬化魔法で俺の刀が止められた。その事実に驚いた。

 

男は微動だにしない。全く動かない。むしろ、反動が俺に来た。

 

 

「くッ!」

 

 

俺は急いで後ろに飛んで下がる。それよりもっと驚いたことがある。

 

 

「テメェ……捕まっていなかったのか」

 

 

フードの男の正体。それは学校の正門で戦ったテロリストの頭。髭を生やした男だった。

 

こいつ……あの時とは全然違う。

 

本気で行かないとこちらがやられる。俺はギフトカードから長銃の【神影姫(みかげひめ)】を取り出す。

 

 

右刀左銃(うとうさじゅう)式、【(みやび)の構え】」

 

 

音速のスピードで男との距離を一瞬で詰める。逆手で刀を持った右手で男の胸に狙いをつける。

 

 

「【剣翔蓮獄(けんしょうれんごく)】!!」

 

 

ドゴッ!!

 

 

刀の柄が男の胸に衝撃を与えた。そして、左手の銃に鬼種の力を送り込む。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

鬼種の力を宿した紅い銃弾が男の体に向かって飛んで行く。

 

 

カキンッ!!

 

 

だが、これでも男は微動だにせず、動かなかった。

 

刀の柄のダメージも、銃弾のダメージも、与えられなかった。

 

 

「ッ!」

 

 

男の持っている拳銃型CADが光っている。魔法はやはり硬化魔法……いや、違う!

 

 

(硬化魔法を二個発動している……!)

 

 

相手が微動だに動かなかった仕組みが判明した。男は自分に攻撃が与えられないように服に硬化魔法をかけた。そして、同時に地面と自分を固定させる硬化魔法もかけていたのだ。

 

これで、無敵要塞の絶対防御が完成していた。

 

 

(仕組みが分かれば俺の勝ちだ……!)

 

 

頭の中でいくつかの策を練る。よし。

 

 

「右刀左銃……ッ!」

 

 

俺は構えを取ることが出来なかった。

 

足元に魔方陣が展開して、発動していた。

 

 

「かはッ……!?」

 

 

呼吸が止まる。咄嗟のことに酸素を吸い込んで息を止めることも出来なかった。

 

周りを見ると、俺を中心とした丸い半球体が俺を閉じ込めていた。半径は……ざっと300mはあるだろうか。

 

息ができない。これは……。

 

 

(【(エム)(アイ)(ディ)フィールド】!?)

 

 

空間を窒素で満たし、相手の呼吸を妨げる魔法。だが、俺は周りを見て驚いた。違う……そんな茶々な魔法なんかじゃない。

 

 

 

 

 

木の葉は重力落下をやめて浮いていた。それを見て今何が起こったかのか把握した。

 

 

 

 

 

(空間を宇宙と同様に無重力にする魔法……聞いたことねぇぞ!?)

 

 

だが、その魔法ならこの空間の説明が出来る。魔方陣を見ても読み取れない。記憶にそんな魔法が無いからだ。

 

 

「……………」

 

 

この魔法を発動した魔法師が髭を生やした男の後ろから現れる。

 

 

(優子……!)

 

 

学年次席……木下優子だった。どうやら洗脳がまだ解けていないようだ。

 

 

(2対1はキツイぞおい……)

 

 

俺は浮きそうになる足を必死に地面につけながら唇を噛む。

 

 

「暗殺対象……発見」

 

 

「ッ!」

 

 

今まで何も喋らなかった男は始めて言う。優子を見た瞬間、持っていた拳銃型CADを優子に、向けた。

 

 

(まさか………あいつの本来の目的は!?)

 

 

優子の暗殺。まだ企んでいたのか!

 

優子に向かって標準が定まる。

 

 

(クソッ!)

 

 

刀を振るうが、無重力の所為で勢いが足りない。この調子だと銃も使いものにならない。

 

その時、変化が起きた。

 

 

パリンッ!!

 

 

無重力空間の魔法がガラスが割れるのように破壊された。

 

辺りには誰もいない。だが、これで優子を守れる。

 

光の速度で優子の前に現れ、抱き寄せて横に飛んだ。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

優子のいた場所に魔方陣が展開し、発動した。地面に落ちていた落ち葉や小石が勢いよく飛んでいく。

 

魔法は移動魔法の【ランチャー】だった。髭を生やした男は優子を吹っ飛ばして倒すつもりだったのだろう。

 

 

ドスッ

 

 

「大丈夫か……ゆう…こ……?」

 

 

俺の腹部に軽い衝撃が走った。手で触ってみて見ると、ドロリッとした感触がした。

 

腹部を見てみると新しく買った制服は赤くなっており、小さなナイフがささっていた。

 

 

刺したのは……優子だった。

 

 

「くッ……ッ!」

 

 

俺は軽く優子の首の後ろの衝撃を与える。優子は目を見開いて、静かに気を失った。

 

 

「うあッ……ああッ!!」

 

 

ナイフはテロリストが使っていたモノと同じだった。きっと敵に持たされていたのだろう。

 

俺は刺さったナイフを引き抜き、心を落ち着かせ集中する。

 

 

「【神の加護(ディバイン・プロテクション)】」

 

 

気が付いた時には傷口は無かった。まるで何事も無かったかのように。しかし、服についた赤い液体や破れた箇所はそのままだ。

 

これは傷を瞬時に完治させる能力。以前、無意識で何度かやっていたが、ここ最近、自分の意志で出来るようになった。

 

だが、デメリットはある。それは一時間後には倍の痛みが襲い掛かってくることだ。無意識の時はそんなこと無かったが、この能力だけは別だった。

 

膝を捻った時に一度使ったことがある。あの時は足首が取れたのではないか?と錯覚してしまうほどの激痛だった。

 

だが、痛みなんて我慢すればいいだけの話。今はこの一時間でこいつと決着をつけることだけを考える。

 

 

「暗殺……対象……!」

 

 

「やらせねぇよ……絶対に」

 

 

硬化魔法の攻略法。実に簡単なことだった。

 

俺は懐から三つの爆弾型CADを取り出す。実に勿体ないが仕方ない。

 

優子を守る為ならいくらでもくれてやる。

 

 

「黒ウサギ!」

 

 

「はい!」

 

 

「ッ!?」

 

 

俺の声に応じた黒ウサギが髭を生やした男の後ろに現れる。緋色に染まった髪をなびかせた黒ウサギは男に向かってはしる。黒ウサギが残党を片付けて、こちらに向かっていたのは気配で分かっていた。

 

髭を生やした男は驚き、振り向く。

 

俺はすかさず3つの爆弾型CADにスイッチを入れて、同時に髭を生やした男の近くで発動する。

 

 

「黒ウサギ!何でもいい!魔法を発動しろ!」

 

 

黒ウサギは急いで携帯端末型CADを取り出して魔法式を出力させる。そして、展開して発動させた。

 

やっぱり速い。一科生に全く劣らない速さだ。

 

髭を生やした男も魔法を発動して抗戦する。移動魔法を使って爆弾型CADを遠ざける気だ。こちらも魔法速度は速い。だが、

 

 

これで、俺の罠にかかった。

 

 

「「ッ!?」」

 

 

髭を生やした男と黒ウサギは驚いた。

 

 

 

 

 

何一つ、魔法が発動しないからだ。

 

 

 

 

 

爆弾型CADの魔法も、黒ウサギの魔法も、髭を生やした男の魔法も。

 

何故、このような状況になったのか。それはあることを発生させたからだ。

 

 

【キャスト・ジャミング】

 

 

これは魔法式がエイドスに働きかけるのを妨害する魔法。無意味なサイオン波を大量に散布することで魔法式がエイドスに働きかけるプロセスを阻害する技術だ。

 

前に魔法には四系統に属されていない例外が3つあると言ったが、その例外の一つがこの無系統魔法だ。

 

発動するには本来『アンティナイト』と呼ばれる特別な鉱石が必要だが、俺はそれを持っていない。

 

では『アンティナイト』もないこの状況でどうやって【キャスト・ジャミング】の現象を引き起こせたのか。

 

それはバラバラに、そして無秩序に魔法を発動したおかげだ。魔法を重ね掛けし過ぎたせいで【キャスト・ジャミング】と同様の効果を持った現象が発動したのだ。

 

 

(補足を加えると、これは正式な【キャスト・ジャミング】では無い。『【キャスト・ジャミング】に近い現象を引き起こした』が合っている)

 

 

さて、講義は終了。決着の時だ。

 

 

「右刀左銃式、【(ゼロ)の構え】」

 

 

神影姫(みかげひめ)】に鬼種の力を与える。同時に、俺の右目も赤く光る。

 

 

「【白龍閃(びゃくりゅうせん)(ゼロ)】!!」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

重い銃声がなり、最強の弾丸が銃口から放たれる。

 

すかさず俺は【(まも)(ひめ)】を上から地面に向かって勢いよく叩きつける。

 

 

そして、その衝撃で銃弾の威力とスピードが何倍にも跳ね上がった。

 

 

「ッ!?」

 

 

髭を生やした男の胸に弾丸が突き刺さり、木々を倒しながら後ろに吹っ飛ばされる。100m以上も飛んだ。胸には貫通した傷痕が付き、血が流れる。

 

髭を生やした男はもう動かない。

 

 

「黒ウサギ、すぐに森を出て救急車を呼べ。急所は外したから助かるはずだ」

 

 

「分かりました!」

 

 

黒ウサギは髪の色を元に戻して、走って電波が入りやすいところへと向かった。

 

 

「……………」

 

 

俺は遠くで木に背を預けて意識を失っている男を見る。

 

一体誰の仕業だ。強化人間のようにした奴は。

 

魔法だけであれほどの力が出せるはずが無い。壁を突き破るなんて……硬化魔法を使っていても不可能だ。

 

力を与えることができるのは……あいつらしかいない。水の馬をあげたような奴にしか。

 

 

「はぁ……俺、死なないよな?」

 

 

約一時間後、激痛が襲い掛かって来る。怖いよー、めっちゃ怖いよー。フリーホラーゲームの〇鬼くらい怖いよー。

 

俺は足を恐怖で震え上がらせながら優しく優子をお姫様抱っこする。

 

 

「……後で土下座しよ」

 

 

洗脳を解くためとは言え、殴ってしまった。俺が最低なのは今に始まったことではないが、ゴミクズ人間にはなりたくない。ちゃんと謝罪して、警察に行って、牢屋に入れてもらおう。……………アレ?許してもらえないの、俺?

 

________________________

 

 

俺がいない間、廃工場でとんでもないこになっていた。

 

まず結論を言うとテロリストは死んだ。いや、死んでないけど死んだ。

 

フルボッコだドン!っと言われてもおかしくないくらいテロリストはボコボコにされてた。凍らされたり、足とか腕とか魔法で撃ち抜かれたり、刀で斬られたりヤバかったぜ!

 

あ、桐原が司の腕を落としたらしい。南無三。まぁ桐原超キレていたしな。「左腕も斬らせろ!」とか追加注文してたしな。もちろん、却下された。

 

後分かったことは、壬生は司に操られていたんだ。

 

壬生の記憶違いは司の仕業だった。確かにあれほどの不自然な違い、冷静になれば分かることだ。洗脳して記憶を改竄していたのだろう。

 

よって、腕を桐原に斬られても仕方ない。十文字はやり過ぎって言っていたが、俺なら司を〇〇〇(ピー)したあとに〇〇〇〇(ちょめちょめ)して、東京湾に沈めるわ。あ、東京湾は半壊したんだっけ?めんごwめんごw。

 

あとは『アンティナイト』の指輪を何個か盗ん……ゲットした。モンスターとの戦闘後の戦利品って大事と思う。

 

 

こうして事件は終わった。

 

そして、現在。帰りの車では、

 

 

「痛い!痛い!もう無理!お家に帰りたいッ!」

 

 

「大樹さん!落ちますよ!」

 

 

「もういっそのことここで楽になってやる!」

 

 

「ダメです!」

 

 

「二人とも、落ち着いたらどうだ?落ちてしまうぞ?」

 

 

俺と黒ウサギは車の上に乗っていた。うん、優子が車内にいるからね。

 

達也に注意されるが俺は構わずのたうち回る。

 

 

「ヤバい!腹から……腹から何か生まれる!」

 

 

「冗談はやめてください。何で傷も無いのにそんなに痛がって……でも、どうして血がついて

 

 

「かはッ」

 

 

俺は体の中に残っていた血だまりを吐き出した。洒落にならない。

 

俺は車の上で気を失った。

 

 

「え?……だ、大樹さん!?」

 

 

「ちょっと!?窓の上から血が流れてるんだけど!?」

 

 

黒ウサギは大樹を揺さぶる。返事が無い。ただの屍のようだ。

 

エリカは車窓の血を見て驚愕の声を出す。他の人も驚いていた。

 

一方、運転手の十文字と助手席に座った桐原は、

 

 

「……賑やかですね」

 

 

「そうだな」

 

 

「……………血が流れてますよ」

 

 

前方には大樹の血が流れていた。

 

カチッと十文字はワイパーのスイッチを入れた。

 

 

「……グロイですね」

 

 

「そうだな」

 

 

(何でこんなに冷静なんだ!?)

 

 

桐原は十文字の偉大さを改めて思い知った。

 

 

________________________

 

 

 

「壬生と桐原がイチャイチャしていました」

 

 

「してねーよ!」

 

 

俺の隣に座った桐原が怒鳴る。

 

俺たちがいるのは学校の敷地内のベンチ。以前、おでん缶を買わされた悪魔の自動販売機の近くだ。

 

 

「平和だな……」

 

 

「お前……本当にそう思ってんのか?」

 

 

「思えねぇよ、壬生…………じゃなかったか。桐原」

 

 

「オイッ!今のわざとだろ!」

 

 

「結婚したら壬生の苗字は桐原だもんな」

 

 

「やめろ!」

 

 

「末永くお幸せに……爆発しろ!」

 

 

「オイッ!」

 

 

「間違えた。くたばれ!」

 

 

「何も変わってねぇよ!?」

 

 

「お父さん!僕に壬生をください!」

 

 

「あげるか!」

 

 

「お?」

 

 

「あ」

 

 

「へ~、あげないってか。壬生はすでにお前のモノかぁ~」ニヤニヤッ

 

 

「な、何だよ、その顔は!」

 

 

「桐原……壬生のこと頼んだぞ」

 

 

「ッ……………ああ」

 

 

急にマジメになるなよ……っと桐原は難しい顔をしていた。

 

今回のこと、壬生に話してやった。桐原が壬生のために戦ってきたことを。

 

そしたらね、壬生が桐原に惚れたの!おかしいよね!俺も頑張ったのに!

 

 

「それにしても凄いよな……楢原は」

 

 

「何がだよ?」

 

 

「聞いてないのか?一科生と二科生のいざこざが急激に無くなったの」

 

 

「まだ起きてるぞ、あの事件から約一ヶ月……3件くらいは起きたぞ」

 

 

「馬鹿が、今までなら一ヶ月に二タ桁は当たり前だったんだぞ?」

 

 

確かに成長したな、それは。

 

あの日を境にかなり仲良く……はなっていないが、一科生が二科生を蔑んだりすることはほぼ無くなった。ごく一部はまだ差別をやっている奴がいるみたいだが。

 

 

「俺は完璧に差別が無くなる学校にしたい」

 

 

「お?次の次の生徒会長は大樹か?」

 

 

「マジで勘弁してくれ。あと、生徒会長は二科生は無理だろ」

 

 

「そうか?次の代がなんとかしてくれんじゃねぇか?」

 

 

「やめろ。フラグを立てるな」

 

 

生徒会長とか絶対にめんどくさいよな。働きたくないでござる。あ、でも生〇会の一存みたいな生徒会だった余裕で入る。そして、杉〇の代わりに俺がハーレム作る。

 

 

「それにしても……この時期におでんは無いな……」

 

 

「だろ?何で自販機に売ってんだろ?」

 

 

桐原は自分のおでん缶を見て溜息を吐く。ちなみに俺のおごり。あと嫌がらせ。

 

 

「まぁ俺こんにゃく好きだしいいや」

 

 

「俺は大根だな」

 

 

こんにゃくって素晴らしいと思う。あのツルツルの美味しい感触。たまらぬ。

 

ふとっ視線を校舎の方に向けて見ると、ある人物がこちらに来ていた。

 

 

「ん?桐原、お前の奥さんが来たぞ」

 

 

「ごぼッ!?」

 

 

うわッ!?汚ッ!?

 

壬生は咳き込む桐原に駆け寄る。

 

 

「だ、大丈夫?桐原君」

 

 

「ああ、大丈夫だ、ちょっと『壬生の裸エプロンを想像した』だけだからって楢原ああああああァァァ!!」

 

 

なんだよ、せっかく俺が代弁してやったのに。

 

もちろんその後は逃げたさ。音速でな!

 

 

「クソッ……楢原め……………ッ!?」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「大根盗まれたッ……!」

 

 

「……………え?」

 

 

________________________

 

 

「ボンジュール」※フランス語の挨拶言葉。

 

 

俺はそう言って生徒会室の扉を開ける。中には誰もいない。さ、寂しいな。

 

 

「はぁ……風紀委員会に行くか」

 

 

人のぬくもりを感じたくて風紀委員会本部に向かう。生徒会室と風紀委員会本部は繋がっているため、近道が可能だ。

 

俺は風紀委員会本部の扉を開ける。

 

 

「ジャンボ!」※スワヒリ語のあいさつ言葉。

 

 

誰もいなかった。これがツッコみ不在という奴か……。

 

 

「そうかよ……寝るよ、もう」

 

 

俺は自分の席の椅子に座り込んで寝る。

 

考えて見れば、授業中にここに誰もいないのは当たり前だ。そもそも何故授業を抜け出したのかって?

 

ヒントは魔法&実技。もう分かったね?

 

俺は魔法が使えないから抜け出してきた。黒ウサギは使えるから授業を受けてるよ。もう成績優秀だよ、すごいね。

 

 

「先生……魔法が使いたいです……!」

 

 

そう願いを言って、目を閉じた。

 

 

ガチャッ

 

 

(ん?誰か入って来た)

 

 

風紀委員会本部の扉が開き、誰かが入って来た。とりあえず、俺は寝たふりを続行する。先生だったら詰んだな、コレ。

 

 

「楢原君、起きてる?」

 

 

(優子だあああああァァァ!!)

 

 

優子が来たと分かった瞬間、心拍数が5、6倍速くなった。どうする?起き上がって抱き付いて警察に行くか!?いや、ダメだろ。

 

 

「……………」

 

 

(え、あ、ちょ、やめッ!)

 

 

優子はいきなり俺のお腹を触りだした。や、やめて!寝ている俺をそんな!……………気持ち悪いこと言ってすいませんでした。

 

 

「何で無いのよ……」

 

 

(え?)

 

 

 

 

 

「何で……傷が無いのよ……!」

 

 

 

 

 

(ッ!)

 

 

耳を澄ませると、優子が震えているのが分かった。

 

あの時のこと……覚えていた。

 

最近、優子が素っ気ないのはそれが原因か。

 

 

「アタシ……あなたを刺したはずなのに……!」

 

 

俺は迷っていた。ここで真実を告げるか。嘘を貫くか。

 

優子にとって一番いい選択は何だ?

 

俺にとって一番いい選択は何だ?

 

 

「はぁ……泣くなよ、優子」

 

 

「ッ!?……お、起きてたのッ?」

 

 

「今さっき起きた。で、何で泣いてる」

 

 

俺は嘘を吐いた。起きたというか、ずっと起きていた。

 

 

「……アタシを助けてくれてありがとう」

 

 

「どういたしまして」

 

 

「楢原君に反対された理由が分かったわ。アタシには……力が無かった」

 

 

「……………」

 

 

優子は俯き、俺の隣の席を座った。

 

 

「楢原君が授業を抜け出したのを見たの。それで、追って謝ろうと思った」

 

 

「別に謝ることなんて」

 

 

「アタシは……楢原君を刺した」

 

 

「……違う」

 

 

「違くないわ!アタシには記憶があった!意識があった!」

 

 

優子は机を叩き、怒鳴りあげる。目は赤くなっており、涙が溜まっていた。

 

 

「あんなに反対してくれたのに……アタシはみんなに迷惑をかけてッ」

 

 

「もういいだろ。あの事件は終わった」

 

 

「それでもアタシはあなたを殺そうとしたッ!」

 

 

優子の目から涙があふれ出た。我慢の限界だった。

 

 

「それなのに……それなのに……楢原君はアタシを助けてくれてッ……どうして助けたのよッ!?」

 

 

「……約束したから」

 

 

「約束……?」

 

 

俺は思い出す。

 

『俺が絶対に守ってやる。だから来てくれ、優子』

 

これが、俺が言った優子に言ったセリフ。

 

 

「俺は優子を絶対に守るって誓ってんだよ」

 

 

「……どうして?どうしてアタシ……楢原君のこと何もッ」

 

 

「俺が知ってる」

 

 

「ッ!」

 

 

俺は優子に笑顔を向ける。

 

 

「俺が優子のことを知っている。それだけで俺は十分だ」

 

 

「……意味……分からないわよッ」

 

 

「自分を責めるな優子」

 

 

「アタシはッ……」

 

 

「大丈夫だ」

 

 

俺は優子の右手を両手で包み込んだ。

 

 

 

 

 

「俺が全部……つらいことを背負ってやる。だから、安心しろ」

 

 

 

 

 

「……ズルいわ」

 

 

「怖かっただろ?あの時、何もやってあげられなくて悪かった」

 

 

「別に……怖、く……なんてッ」

 

 

「俺がいるから……もう泣かないでくれ」

 

 

「……楢原君ッ」

 

 

優子は俺に抱き付いて泣いた。

 

みんなに迷惑をかけた罪悪感。俺を刺した罪悪感。一番傷ついて、つらかったのは優子だ。

 

優子は怖かったはずだ。

 

優子は普通の女の子だ。優等生だからと言って猫被って、少し意地っ張りで、プライド高くて、みんなの期待を裏切らないように努力する女の子だ。

 

人を刺して平気だなんてありえない。

 

俺は優子の頭をなでる。

 

今まで遠かった存在がここまで近くに感じ取れたことに嬉しく思えた。

 

記憶が無くとも、優子は優子だ。

 

 

「これからも俺を頼ってくれ。助けてやるから」

 

 

「……うんッ」

 

 

優子は俺の服に顔をうずめながら返答した。

 

優子が落ち着くまで俺は頭をただなで続けた。

 

 

 





これで入学編は終わりです。

九校戦は全く考えていないので次の投稿は遅れます。すいません。

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