どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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あの子を護る為の武器

前回のあらすじ

 

 

 

 

 

あと一歩でハゲになってた。

 

 

 

 

 

どうも、毎度お馴染み楢原大樹です。現在家から一番近い公園に来てます。

 

 

「………………………」

 

 

何故俺が黙っているかというと、洗面器に水を入れてそこに頭を突っ込んでいるからだ。拷問じゃないよ。自分でやってるんだよ。だからってMってわけじゃないよ。全然気持ち良くない。

 

修行をしている。対エレシス用にな。

 

まだまだ息を止めていられるので、ここで少し俺のことを話そう。

 

絶賛彼女募集中だ。あ、どうでもいい?そうか……。

 

………俺の武器は姫羅の形見である長銃の【神影姫(みかげひめ)】。それと姫羅のもう一つの形見の刀【(まも)(ひめ)】だ。

 

未だに恩恵は分からず、知っていることは名前だけ。

 

刀はもう一本ある。それは火龍誕生祭の優勝賞品で耀から貰った【名刀・斑鳩(いかるが)】だ。

 

恩恵は知っているが……絶対に使いたくないと思っている。理由はあばばばばッ!

 

 

「ッ!」

 

 

俺はついに息が続かなくなり、思考をやめて水面から顔を出した。

 

 

「はぁ…!はぁ…!た、タイムは…!?」

 

 

「い、一時間二分です……」

 

 

「……………あ、ごめん。最近、耳が悪いみたいだ。もう一回言ってくれ」

 

 

「一時間二分です……」

 

 

「……………あ、ごめん。最近、耳が悪いみたいだ。もう一回言って

 

 

「一時間二分です!」

 

 

延びすぎ。笑えないよバカ。

 

そりゃ毎日息を止め続けて練習したよ。ある時は、もしかして息を止めた時間を合計したら半日は息してねぇんじゃねか?とか思うくらい練習した。

 

結果。酸素を大切にするエコな男が誕生した。

 

 

「つ、次だ!次の鍛練だ!」

 

 

俺はすぐに目を閉じて集中する。

 

この修行は神の力をいつでも発動出来るように練習している。

 

 

「むッ!!」

 

 

カッ!と瞳を見開いた。

 

俺は少しずつ感覚を取り戻してきていた。羽は出せないが、新しいことができるようになった。

 

それが………これだ!

 

 

「明日は晴れる!」

 

 

「……今じゃないんですか?」

 

 

「明日」

 

 

「……………」

 

 

天候なら明日だけ変えれるようになった。しかも晴れか雨だけ。ショボい。

 

 

「か、刀だ!刀なら自信がある!」

 

 

「そ、そうですよ!」

 

 

俺はギフトカードから二本の刀を取り出した。

 

そして、鞘から刀を引き抜く。

 

 

ギギギッ

 

ギイイイイイィィィッ

 

 

「「さ、錆びてる……」」

 

 

刀から嫌な音が鳴る。海水に浴びてから手入れするの忘れてた……。

 

残念な姿になった刀を見た俺はその場で崩れ落ちる。

 

 

「だ、大丈夫です!そんな時は……」

 

 

黒ウサギはポケットから携帯端末型CADを取り出した。

 

そして瞬時に起動式を出力し、魔法式を展開させた。

 

 

(魔法……黒ウサギも使えたのか……)

 

 

心の中にいた俺が泣き崩れた。俺だけ省くの止めてくれない?爆弾型CADじゃなくて、普通のCADが使いたい。

 

黒ウサギが使っているのは現代魔法だ。

 

現代魔法には『加速・加重』『収束・発散』『移動・振動』『吸収・放出』の四系統からなる八種類に分類してある。

 

四系統に属されていない例外が3つあるが、今はどうでもいい。

 

 

「ちょっと黒ウサギさん?もしかして【ラストメーカー】を発動していませんか?」

 

 

ちなみに魔法式を読み取ることは簡単だ。全部記憶してるからな!…………怖くないよ?優しいお兄さんだよ?だからドン引きしないで。

 

 

「YES。そうですが?」

 

 

「ちょッ!?今すぐやめ……!」

 

 

 

 

 

バキンッ!!

 

 

 

 

 

耀がくれた刀と姫羅の形見の刀が折れた。

 

 

 

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」

 

 

\(^o^)/

 

 

「えッ!?な、何でッ!?」

 

 

黒ウサギが刀を見て目を疑った。

 

 

「【ラストメーカー】は金属を()()()()()んだよッ!!間違って覚えてただろッ!?」

 

 

「そ、そんな……!」

 

 

黒ウサギの顔が真っ青になるのがよく分かる。

 

 

「どうする……これ……」

 

 

「す、すいまs

 

 

「まぁいっか」

 

 

「えぇッ!?」

 

 

俺は刃を無くした柄だけになった刀を手に取り笑う。

 

正直、泣きたいくらい悲しいが……黒ウサギに心配をかけるわけにはいかない。だってもう泣きそうだもん。怒れないよ。

 

一応、魔法で金属の錆びを取ろうと思えば取れるが、かなり高度な魔法技術が必要だ。黒ウサギには無理だろう。

 

 

「別に刀が無くても俺は十分に戦えるよ」

 

 

そう言って俺は黒ウサギを励ます。俺はなんとなく柄だけになった刀【(まも)(ひめ)】を大きく縦に振った。

 

 

ゴオッ!

 

 

「「?」」

 

 

今の音は?

 

何かが燃え上がるような音が聞こえた。しかも音源は、

 

 

「柄から何か聞こえなかったか?」

 

 

「黒ウサギも聞こえましたが……でも、何も起きてません……」

 

 

刀は先程と変わらず柄だけだ。

 

 

「だ、だよなぁ……」

 

 

確認のため、俺はもう一度刀を振ってみた。

 

 

「……………」

 

 

何も起きない。もう一度振ってみる。

 

 

「……………」

 

 

何も起きない。もう一度振ってみる。

 

 

ゴオッ!!

 

 

剣が燃えた。もう一度振ってみる。

 

 

「……………」

 

 

剣は燃えている。もう一度振ってええええええええええええ!?

 

 

 

 

 

姫羅から貰った刀【(まも)(ひめ)】の柄から蒼い炎が舞い上がっていた。

 

 

 

 

 

「な、なんじゃこりゃあああああァァァッ!?」

 

 

公園に俺の咆哮が轟いた。

 

 

________________________

 

 

公園で叫び終わった後、俺と黒ウサギは疲れ切った状態で登校した。もちろん、遅刻だ。ちなみに昼休みだ。

 

とりあえず、刀だが……まぁ何とかなりそうだ。

 

むしろ良くなったんじゃねの?よく分からんけど……それより。

 

 

ざわざわッ

 

 

(昨日より視線が凄いんだが……)

 

 

もうね、みんなガン見なのよ。そんなに見つめられたら……俺……恥ずかしくて死んじゃう!嘘だけど。

 

視線の数は昨日より倍以上だった。これで校内で俺を知らない人は消えてしまった。もうここまで来たらハ〇ヒみたいに『美少女にしか興味はありません!』って言ってしまおうかな?

 

 

「真由美はいるか?」

 

 

俺はノックをせず、生徒会室の扉を開けて入る。

 

最初に目に入ったのは溜め息を吐く摩利の姿だった。

 

 

「大樹君……ノックぐらいしたまえ」

 

 

「真由美が俺に本気で謝ったらする」

 

 

俺は敵意を剥きだして、生徒会長の真由美を野生の獣の如く睨んだ。

 

 

「そうよ、大樹君に言うことがまだあったのよ!ちょうどいいわ!」

 

 

「え?スルー?ここでスルーしちゃいます?」

 

 

そんな俺の睨みをスルーして、真由美はハッとなり、一枚の紙を取り出す。俺は受け取り、紙に視線を移す。

 

 

「これは?」

 

 

「公開討論会の警備の振り分けだ。もちろん、黒ウサギにも参加してもらう」

 

 

俺の質問に摩利が答えた。黒ウサギは了解ですっと返事をした。

 

 

「警備ねぇ……また問題が起きるのか?」

 

 

「達也君はそう睨んでいるらしい」

 

 

「……詳しく聞かせろ」

 

 

摩利の言葉を聞いた俺は詳細を尋ねる。しかし、摩利は首を横に振った。

 

 

「残念だが言えない。情報規制されている……だが、有志同盟の背後にこの学校の脅威になる組織がいる」

 

 

「……そうか、警備なら俺と黒ウサギは自由に警備できるようにしてくれ」

 

 

「理由は?」

 

 

「聞かなくても分かるだろ?」

 

 

俺は笑みを浮かべて返す。黒ウサギ、摩利、真由美の三人は苦笑いだった。

 

 

「そんな奴ら……一人残らず俺が潰してやる」

 

 

そう言って、俺は右手を強く握り絞めた。

 

 

________________________

 

 

【公開討論会 当日】

 

 

講堂には既に全校生徒の半数以上が集まっていた。暇なので数えていたら全校生徒の3分の2も来ていることが発覚した。

 

 

「15人……多いな」

 

 

「15人?」

 

 

俺の言葉に討論会の準備を終えた優子が疑問を抱く。

 

 

「事前に聞いただろ?同盟メンバーが何かするかもしれないって」

 

 

「ええ」

 

 

「俺が見た限り、同盟メンバーは15人いた」

 

 

「……ちょっと待って。楢原君、さっきここに来たばかりだよね?」

 

 

優子は恐る恐る俺に尋ねる。確かにここに来たのは2分前だ。

 

 

「ああ、2分前に来た」

 

 

「……それでもう数え終わったの?」

 

 

「まぁな」

 

 

優子は返答にドン引きだった。我ながら超人なことをやってると自分でも思う。こんな反応されるのも慣れたわ。

 

話の話題を変えようと考えていると、

 

 

「優子、俺とのデートはいつするんだ?」

 

 

「ふぇッ!?」

 

 

優子は顔を真っ赤にして、

 

 

「し、しないわよ!」

 

 

「えぇ!?放送室で言ってたのと違うじゃん!?」

 

 

「先輩は『かもしれない』って言ったわ」

 

 

「あんまりだ……!」

 

 

俺はその場で顔を両手で覆った。

 

 

「……どうしても駄目か?」

 

 

「……考えておく」

 

 

「よっしゃあああああァァァ!!!」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

「馬鹿!大きな声出さないでよ!」

 

 

講堂にいた生徒たちが一斉に驚く。俺は優子に口を抑えられる。

 

 

(な、なんでそんなに嬉しそうなのよッ!?)

 

 

優子は顔を赤くさせていた。大樹の嬉しそうな顔を見て。

 

 

「はふい、ついうへひくへ」(悪い、つい嬉しくて)

 

 

「もういいわよッ」

 

 

「なんへほんはひおほっへるの?」(何でそんなに怒ってるの?)

 

 

「だ・ま・り・な・さ・いッ!」

 

 

優子は俺の口を抑えていた手を頬に持ってき、力一杯引っ張った。

 

 

「……いはい」(……痛い)

 

 

「何でそんなに冷静でいられるのよ……」

 

 

「うひろ」(後ろ)

 

 

「え?」

 

 

俺は優子の後ろに視線を移す。優子が振り向くと、

 

 

「「「「「あ」」」」」

 

 

「ッ!?」

 

 

生徒会メンバーと風紀委員の皆様が覗いていた。

 

 

「構わずイチャイチャしてくれ」

 

 

「い、イチャイチャなんかしてません!」

 

 

摩利は顔をニヤニヤしながら言う。優子は顔を真っ赤にして否定した。

 

 

「え……イチャイチャしてないの!?」

 

 

「何で楢原君が驚くの!?」

 

 

「イチャイチャしたいからさ!」

 

 

「意味が分からないわよ!」

 

 

「イチャイチャだぞ!あのイチャイチャ!カップルがいつもイチャついているイチャイチャで、イチャイチャだぞ!?俺もイチャイチャして優子もイチャイチャ

 

 

「さっきからイチャイチャうるさいわよ!」

 

 

「付き合ってください!」

 

 

「急に何言ってんのよ!?」

 

 

「じゃあ結婚してください!!」

 

 

「もうやめて!!」

 

 

優子は俺のボケに対応できなくなり、無理矢理中断させる。もう最後とか告白だったな。

 

 

「あなたが相当の馬鹿なのは分かったわ……」

 

 

「いや、これでも俺の成績

 

 

「喋らないで」

 

 

「……………」

 

 

嫌われた……。

 

 

「ほら木下さん。大樹君、本気で落ち込んでるわよ」

 

 

「何でアタシの時だけそんなに落ち込むんですか……」

 

 

すかさず真由美がフォローする。優子は溜め息を吐いて、

 

 

「……しゃ、喋っていいわよ」

 

 

「I love you」

 

 

「やっぱり喋らないで」

 

 

________________________

 

 

「何でそんなに不機嫌なんだ……?」

 

 

「知りませんッ」

 

 

優子と仲直りした後、俺は黒ウサギと一緒に行動していた。だが、隣にいる黒ウサギは頬を膨らませて拗ねていた。うん、全然怖くない。ただ可愛いだけだからね、それ。

 

俺たちがいるのは講堂の一番後ろ。入り口の横にいた。

 

俺たちの役目は怪しい奴を逃がさないこと。怪しい奴を講堂に入れないこと。他の怪しい奴を見つけることっと言った感じに役目はたくさんある。

 

 

『非魔法競技系よりも予算が明らかに多い!一科生優遇が部活動にも影響している証です!不平等予算はすぐに是正すべきです!』

 

 

『それは各部活動の実績を反映した部分が大きいからです。非魔法競技系クラブでも優秀な成績の部には見劣り無い予算が割り当てられております』

 

 

二科生の同盟メンバーは生徒会長の真由美によって論破される。苗〇君みたいに『それは違うよ!』って最初に言って欲しいな。

 

俺は真由美を心の底から凄いと思った。

 

彼女は魔法の強さだけで生徒会長になったわけでは無い。あのカリスマ性や物事をすぐに対処する冷静さがあってこそ、この学校の長としてやっていけるのだろう。

 

 

「大樹さんには絶対に勤まらない役職ですよね」

 

 

「だから何で俺の心を読めるんだよ?黒ウサギも司波兄妹も。マジお前ら学園都市行けよ」

 

 

俺は黒ウサギのフードを強く前に引っ張り、顔が隠れるようにイタズラする。「あうッ」っと黒ウサギは短い悲鳴を漏らして、黙った。

 

 

「言っておくが、俺はこの学校を規律よく正しい生活を送れるようにできるカリスマ性はある」

 

 

「ど、どうやってですか?」

 

 

「力でねじ伏せる」

 

 

「さ、最低な人ですね。カリスマ性関係ないじゃないですか」

 

 

「金でねじ伏せる」

 

 

「いえ、やっぱり最低な人ですよ?」

 

 

「愛でねじ伏せる」

 

 

「だから最t……良い人ですね!」

 

 

やーい、今『最低』って言おうとしたー!

 

壇上では全員論破し終えた〇木君……じゃなかった。真由美がみんなに語り掛ける。

 

 

一科生(ブルーム)二科生(ウィード)……残念ながら多くの生徒がこの言葉を使用しています』

 

 

真由美は言うことを禁止された言葉を口にする。あえて。

 

 

『生徒の間に同盟の皆さんが指摘したような差別意識が存在するのは否定しません』

 

 

しかしっと真由美は強く言う。

 

 

『それだけが問題ではありません。二科生の間にも自らを蔑み、諦めと共に受け入れる。そんな悲しむべき風潮が確かに存在します』

 

 

真由美の声は講堂の後ろまで行き渡っていた。俺と黒ウサギも真剣に聞いていた。

 

 

『その意識の壁こそが、問題なのです!』

 

 

「そんなの誤魔化しだ!!」

 

 

真由美の言葉に席に座っていた一人の男がヤジを飛ばす。それに便乗して何人かの生徒もヤジを飛ばし始めた。ヤジを飛ばしているのは全員同盟メンバーだ。

 

 

「うるさいぞ同盟!」

 

 

それに対抗する声も上がり始めた。

 

しかし、講堂に静けさを取り戻すのは時間はかからなかった。声を荒げていた人たちはだんだんといなくなり、講堂が再び平穏が訪れる。

 

静かになるのを待ち続けた真由美はついに話をまた始める。

 

 

『学校の制度としての区別はあります。しかし、それ以外では差別はありません。その証拠に第一科と第二科のカリキュラムは全く同じで、講義や実習は同じものが採用されています』

 

 

真由美の声に誰もヤジを飛ばさない。いや、飛ばせないのだ。それは正論だったから。

 

 

『私は当校の生徒会長として現状に決して満足していません。ですが二科生を差別するからといって今度は二科生を差別する。そんな逆差別をしても解決にはなりません』

 

 

真由美は自分の右手を胸に手を当てて言う。

 

 

『一科生も二科生も、一人一人が当校の生徒であり、生徒たちにとって唯一無二の三年間ですから』

 

 

その言葉にパラパラッっと控えめな拍手が響き渡る。まだ納得していない者がいるからだろう。

 

 

『制度上の差別を無くすこと。逆差別をしないこと。私たちに許されるのはこの二つだと思います。……しかし』

 

 

真由美は右手の人差指を立てる。

 

 

『実を言うと、生徒会には一科生と二科生を差別する制度が一つ残っています。それは生徒会長以外の役員の指名に関する制限です』

 

 

生徒会役員は一科生のみから指名する決まりがあることを俺は思い出す。真由美もみんなにそのことを説明していた。

 

 

『そして、この規則は生徒会長改選時の生徒総会においてのみ、改定可能です』

 

 

(まさか……?)

 

 

そして、俺の予想は当たった。

 

 

『私はこの規定を』

 

 

真由美は大きな声で宣言する。

 

 

 

 

 

『退任時の総会で撤廃することで生徒会長としての最後の仕事にするつもりです!』

 

 

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

この宣言に講堂がまた騒がしくなった。ヤジを飛ばした時以上に。

 

 

『……私の任期はまだ半分ありますので少々気の早い公約になってしまいますが、人の心を力ずくで変えることはできないし、してはならない以上、それ以外のことで、できる限りの改善策に取り組んでいくつもりです』

 

 

真由美は深く一礼して、講演を終えた。

 

 

その瞬間、大歓声が起きた。

 

 

立ち上がって拍手をする者も少なくはない。むしろ、座っている人より多い。

 

隣では黒ウサギも笑顔で拍手をしていた。

 

 

そして、黒ウサギは異変に気付いた。

 

 

「大樹さん!学校の外で

 

 

そこから黒ウサギの声は聞こえなくなった。

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

外から大きな爆発音が講堂の中まで響き渡った。講堂にいた生徒たちは驚愕していたが、しだいに驚きは恐怖へと変化した。

 

 

「じ、実技棟がッ!」

 

 

生徒の一人が窓の方を見て悲鳴をあげた。窓から見えたのは実技棟から煙が上がっている光景だ。

 

それを合図にしていたのか、同時に同盟メンバーが一斉に動き出した。

 

しかし、風紀委員を舐めては困る。

 

 

「拘束しろ!」

 

 

摩利の合図で俺と黒ウサギ以外の風紀委員は素早い動きを見せつける。あらかじめマークしていたため同盟メンバーを迅速に捕まえることができた。

 

 

「黒ウサギ、頼みがある」

 

 

黒ウサギに頼み事を言う。黒ウサギはうなずいて快く承諾して、すぐに講堂の外に出た。

 

俺は真由美のもとに駆けつける。同盟の狙いは真由美だと睨んだからだ。だが、

 

 

「いけない!みんな窓から離れて!」

 

 

「ッ!」

 

 

真由美は講堂の窓を指を差した。俺はハッとなり窓を見る。

 

 

パリンッ!!

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

窓ガラスが割れ、何かが入って来た。だから、

 

 

「このクソッタレがッ!」

 

 

音速のスピードで飛翔し、窓の外から入って来た物体を掴みとった。

 

そして、そのまま再び外に返してやった。倍のスピードで。

 

 

「ひッ!?」

 

 

「な、何でッ!?」

 

 

「逃げろッ!!」

 

 

外にいた連中は煙を吸い込み、次々と倒れてった……このことは大樹は知らない。もちろん、生徒たちも。

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

俺のまさかの行動(投げ返す)を見た生徒は驚愕し、黙ってしまう。

 

 

ドゴッ!!

 

 

その時、入り口の扉が勢いよく開かれた。

 

入って来たのはガスマスク(おそらく先程放り込まれたのはガス弾だと思う。その対策で着けてきたのだろう)をつけた武装集団。手には銃を持っている。

 

テロリスト。そう呼ばれてもおかしくない恰好だった。

 

 

「【無刀の構え】」

 

 

もう一度音速のスピードを出し、武装集団の目の前まで迫る。銃のトリガーは引かせない。

 

 

「【黄泉(よみ)送り】!」

 

 

ドゴッ!!

 

 

一番先頭にいた武装したテロリストを右手の拳一つで外まで吹っ飛ばす。テロリストは衝撃が強すぎて声を上げることもできなかった。

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

他のテロリストは事態を察して、急いで俺に銃口を向ける。だが、

 

 

「素人が」

 

 

懐に手を突っ込み、コルト・パイソンを取り出す。そして、

 

 

ガッガッガッガッガッガキュンッ!!

 

 

今じゃ簡単に使えるようになった【不可視の銃弾(インビィジビレ)】でテロリストの銃の銃口に銃弾を撃ちこむ。

 

誰も捉えることも出来ない早撃ちだった。

 

 

ガシャンッ!!

 

 

一瞬にしてテロリストの武器を破壊した。

 

 

「な、何が起きた!?」

 

 

「武器が壊れた……!?」

 

 

「余所見してんじゃねぇよ」

 

 

コルト・パイソンを持ったまま、混乱したテロリストたちに向かって回し蹴りをする。こいつらは武器を持った一般人。一応、死なない程度には力加減する。

 

 

ドゴッ!!

 

 

そして、たった一蹴りで残りを薙ぎ払った。

 

テロリストは外まで吹っ飛び、地面を転がり意識を失う。

 

 

「大樹さん!」

 

 

ちょうど黒ウサギが帰って来た。

 

 

「敵の数は約300人でした……!」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

「チッ、少し多いな……」

 

 

黒ウサギの言葉に講堂にいた全生徒が驚いた。俺は舌打ちをして、考える。

 

黒ウサギに頼んでいたのは敵の数を見て来てもらうことだった。それと、

 

 

「それと、あの二人は見えませんでした。ですが」

 

 

「分かってる。もしかしたらどこかで見てるかもしれないな」

 

 

あの二人……エレシスとセネスのことだ。隙を突かれてあいつらに後ろから刺されるってオチだけは避けたい。

 

 

「敵の勢力が一番大きいところはどこだ?」

 

 

「正門です」

 

 

「よし、摩利!」

 

 

俺は真由美の横で護衛している摩利に呼びかける。

 

 

「正門にいる奴らは俺が叩く!あとの奴らは先生たちが対処するよう伝えてくれ!」

 

 

「無茶だ!一人で行くなんて」

 

 

「いえ!黒ウサギもいます!」

 

 

摩利の声を黒ウサギが遮る。摩利は「そういう問題じゃないんだが……」っと頭を抑えていた。

 

 

「む、無理だ……二科生(ウィード)にできるわけが……」

 

 

その時、一人の男子生徒が声が聞こえた。俺はそいつに向かって話す。

 

 

「そうか。じゃあお前が行けよ、一科生(ブルーム)

 

 

「ふざけるなッ!あんなところに行ったら死んでしまうだろ!」

 

 

「じゃあ誰がこの事態を収拾するんだ?」

 

 

「そんなの先生に…!」

 

 

「先生に300人倒させるのか?」

 

 

「あッ……」

 

 

男子生徒は言葉を詰まらせる。何も言えなくなった。

 

 

「今動くべきなのは俺たちだろうが。そもそも成績優秀のお前ら一科生が動くべきだろ。魔法が劣った二科生を守るのは優秀なお前らじゃないのか?今、その時じゃないのか?」

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

「動きたくなければそれでいい。下手をすれば大怪我……最悪、死んでしまう」

 

 

誰もが目を逸らしたい現実だった。

 

死。

 

それはこの世の中で一番関わりたくないモノだから。

 

 

「それでも、俺は行くぞ」

 

 

理由はただ一つ。

 

 

「お前らを守るために。俺の大切な人を守るために」

 

 

「「「「「ッ!」」」」」

 

 

「誰も傷付けさせない」

 

 

静まり返ったせいで講堂に俺の声が行き渡った。この場にいる全員が聞いただろう。

 

ここで俺はあることを思いついた。

 

上手くいけば大儲け。失敗すれば大暴落。最高に危ない賭けを。

 

 

「……だが、俺一人では限界がある。さっき言っていたが俺がやれるのは正門にいる奴らだけだ」

 

 

俺は猿芝居を始める。全く限界じゃないよ。余裕だよ、300人くらい。

 

大半の生徒がもう気付いているだろうが、大きな声で告げる。

 

 

「誰か他のテロリストを倒してくれる奴らはいないか?」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

『待って!生徒はここで待機させて……!』

 

 

「いいのかお前ら!?あんなに俺たちのことを考えてくれた超絶美人生徒会長に危害が加わっても!?」

 

 

『ちょっと!?』

 

 

マイク越しでも真由美が動揺しているのが分かる。だが、俺はそれでも続ける。

 

 

「否!そんなこと許されるわけがない!テロリストにそんなことを許すなッ!」

 

 

「そうです!テロリストを許してはいけません!」

 

 

黒ウサギも便乗して大声で言う。

 

 

「成績優秀な一科生よ!今こそ、お前らの力で学校を!生徒!そして、生徒会長を守ってくれないか!?」

 

 

俺は一科生を煽る。これで一人でも来てくれれば……

 

 

「……いいぜ、やってやるよ!オイ、行くぞお前ら!」

 

 

「本気ですか部長!?」

 

 

「当たり前だ!今こそ俺たちの部の力を見せる時だ!」

 

 

一部の生徒が声を上げて立ち上がった。どうやら部活動の部長みたいだ。それに続いて部員も立ち上がっている。

 

 

「私たちもやるわ!」

 

 

「僕たちも力を貸すよ!」

 

 

それに続いて一科生が所属する他の部活も、生徒も立ち上がる。これで一科生のほとんどが立ち上がった。

 

しかし、俺はまだ終わらない!

 

 

「さすが一科生だ!いいのか、二科生!?お前らは立ち上がらなくてッ!?このまま無能でいるのかッ!?」

 

 

俺は二科生も煽る。うぇいうぇい!煽っていくぜ!

 

 

「今こそ一科生に無能ではないことを!俺たちは二科生(ウィード)でないことを二科生だと示すときだッ!!」

 

 

俺は拳を天井に向かって突きあげる。ちょっと調子に乗って来たよ、俺。

 

 

「そうだ……あいつも俺も同じ二科生じゃないか」

 

 

「やってやる!二科生の意地を見せてやる!」

 

 

そして、二科生も立ち上がった。

 

 

これで講堂にいるほぼ全生徒が立ち上がった。

 

 

「今こそ一致団結の時だッ!」

 

 

「「「「「おおッ!!」」」」」

 

 

「俺たちに喧嘩を売ったらどうなるか思い知らせてやれ!」

 

 

「「「「「おおッ!!」」」」」

 

 

「生徒会長は!?」

 

 

「「「「「可愛いッ!」」」」」

 

 

「テロリストが手を出していいのか!?」

 

 

「「「「「させるかああああああァァァ!!」」」」」

 

 

「なら行くぞお前らッ!!」

 

 

「「「「「おおおおおォォォ!!」」」」」

 

 

大樹率いる生徒会長大好き軍は外へと走り出した。

 

講堂に残ったのは同盟メンバーを取り押さえた風紀委員。生徒会メンバー。そして、立ち上がらなかった生徒数名だけだった。

 

全員、あの光景に呆気を取られていた。

 

最初に達也が言葉を発する。

 

 

「俺も行ってきます」

 

 

「あなたも私のことが好きなの!?」

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

真由美が一番混乱していた。

 

 

________________________

 

 

【とある生徒の視点】

 

 

僕はフードマンと呼ばれた男、

 

 

最強の二科生と呼ばれた楢原 大樹についていった。

 

 

彼の噂の数は多い。

 

空から登校したり、生徒会に喧嘩を売ったり、魔法を素手で破壊したり、心臓をぶちまけても死ななかったり、銀行強盗を武器なしで制圧したり、美少女をたぶらかしたり、校内放送で実は良い奴だったりなどなど。

 

多すぎる。

 

 

「隊長!前方に敵が5人です!」

 

 

もう隊長とか言われてるよ。あの人ってどこかの部長だったよね?凄すぎるよ、楢原君。

 

ちなみに彼と僕と同級生だ。僕はAクラスです。

 

 

「よし、俺が武器を破壊するから魔法を使わず大人数でタコ殴りにしろ」

 

 

最低な人だなと思った。

 

 

「撃て!」

 

 

テロリストが僕たちに銃を向ける。だが、

 

 

「ッ!」

 

 

楢原君は既にテロリストの懐にいた。

 

 

ドゴッ!!

 

 

「「「「「ぐはッ!?」」」」」

 

 

一瞬にして全員をボコボコに殴った。あれ?僕たちがタコ殴りにするんじゃなかったけ?

 

 

「隊長……ナイスタコ!」

 

 

それは楢原君を馬鹿にしているのだろうか?

 

 

「おう、ナイスタコ」

 

 

訳が分からなくなった。

 

 

「A隊は右にいる奴らを殲滅してこい!B隊は左!C隊とE隊は俺について来い!」

 

 

「「「「「了解!」」」」」

 

 

ちょっと待って。いつそんな隊作ったの?何でみんなそんなに綺麗に動けるの?あと、D隊はどこに行ったの?

 

一番言いたいことはさっきまであんなに一科生と二科生は仲が悪かったのに、今はなんでそんなに意気投合してるの?実は仲良かったの?

 

ツッコミだらけで混乱した僕は、とりあえず楢原君についていった。

 

 

そして、僕と楢原君だけになった。

 

 

「ええッ!?」

 

 

「ん?何でお前ついて来た?」

 

 

逆に何でみんないなくなったの?

 

 

「……実は自分の隊がわからなくて」

 

 

「はぁ?みんな分かるわけないだろ。ノリで分かれたんだから」

 

 

嘘でしょ?あんなにプライドが高い人たちがノリノリだなんて。

 

 

「まぁ、右に行こうが左に行こうが大丈夫だ」

 

 

楢原君はそう言って前を向く。僕はA隊が行った右を見てみると、

 

一科生がテロリストに向かって容赦なく魔法を使っていた。魔法でやられて倒れたテロリストにも追撃の魔法が発動していた。オーバーキル。

 

後始末は二科生。縄でテロリストを縛っていた。

 

 

「大丈夫かな……」

 

 

楢原君は右を見て心配していた。

 

 

「テロリスト」

 

 

テロリストを。僕もだけど。

 

次に左に行ったC隊を見てみると、

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!

 

 

「なッ!?」

 

 

鼓膜が破れてしまうくらいな音と共に巨大な雷が降り注いだ。その轟音に僕は驚愕する。

 

空には雲一つない。

 

あれも魔法なのだろうか?見たことのない魔法だ。

 

魔法発動したのはフードを被った女子生徒。楢原君と一緒にいる人だ。

 

 

「死んだな、テロリスト」

 

 

楢原君曰く、テロリストは助からないらしい。

 

 

「撃てッ!!」

 

 

「えッ」

 

 

周りを見てなくて、僕は気付かなかった。既に目の前には何十人ものテロリストが銃を構えていることに。

 

 

「……………」

 

 

楢原君は動かない。フードの所為で表情は見えない。

 

 

(死ぬ……!?)

 

 

僕は顔を両手で覆った。

 

 

ガキュンッ!!

 

ガガガガガガッ!!!

 

 

一斉に敵の銃が火を噴いた。

 

 

……………あれ?

 

 

痛みを感じない。即死だったのかな?

 

その時、異変に気付いた。

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

足が地面についていないことに。

 

 

 

 

 

僕は楢原君に抱かれて高く飛んでいた。

 

 

その高さなんと約20mだ。

 

 

「えええええェェェッ!?」

 

 

「「「「「はあああああァァァ!?」」」」」

 

 

「うるさいぞ、耳元で大きな声だすな」

 

 

テロリストたちの目が見開いた。魔法も使わず、空を飛んだのだから。

 

そして、重力に身を任せて落下していく。楢原君はテロリストのいた後ろに着地し、お姫様抱っこしていた僕をすばやく降ろす。

 

 

「オラッ!!」

 

 

僕を降ろした後、目にも止まらぬ速さでテロリストを殴ったり蹴っ飛ばしていった。

 

一瞬にして何十人もいたテロリストを制圧する。

 

 

「す、すごい……」

 

 

「余裕だこのくらい」

 

 

つい声に出して言ってしまった。楢原君はテロリストが持っていた銃を拾いながら返答した。一体その銃は何に使うんだろ?

 

 

「ところで、あれは何だ?」

 

 

「あれ?」

 

 

楢原君は正門の方を見ていた。僕も見てみると、そこには、

 

 

「せ、戦車ッ!?」

 

 

見間違えなんかじゃない。あれは軍が使っている戦車だ!あんなものどこから!?

 

 

「に、逃げなきゃ……!?」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

だが、無情にも戦車は僕たちに向かって砲撃した。

 

避けれない。防げれない。僕の魔法では。

 

生身の人間が耐えれるわけがない。

 

終わった。

 

僕は足から力が抜けて、地面に座り込む。

 

 

「ほい」

 

 

ドゴッ!!

 

 

楢原君は向かってくる砲弾を、

 

 

 

 

 

両手でつかんだ。

 

 

 

 

 

「ええッ!?」

 

 

「「「「「はあああああああァァァ!?」」」」」

 

 

砲弾は爆発せず、原型をとどめている。

 

 

「あ、返品していいですか?」

 

 

「「「「「む、無理ッ!」」」」」

 

 

楢原君の言葉にテロリストは目にも止まらぬ速さで首を横に振る。一度()った者は返すことができないらしい。僕も絶対にいらない。

 

 

「残念、クーリングオフだから無理だッ!!」

 

 

本当に残念だと思う。楢原君は法律を武器にして砲弾を投げ返した。

 

 

プロ野球選手よりも、速いスピードで。

 

 

「「「「「うわあああああァァァ!?」」」」」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

急いで戦車から逃げ出すテロリスト。そして、砲弾は戦車を貫き、爆発した。……死人は出ていなさそうだ。

 

 

(む、無茶苦茶だ……)

 

 

既に人間ができる領域では無い。魔法を使わずここまで強いなんて。

 

僕は燃えあがる戦車を見て茫然と眺めていた。

 

 

「さてと、まだまだいるみたいだな」

 

 

正門には武器を持ったテロリストが百人以上もいる。戦車だってまだ3台もある。おそらく、あそこが敵の本陣だと思われる。

 

 

「ここは危ないからA隊かB隊のところに行け」

 

 

「え?」

 

 

楢原君は僕の手を掴んで立たせる。

 

 

「じゃあな」

 

 

楢原君は笑顔で僕に告げて、正門に走って行った。

 

 

「……………」

 

 

僕は楢原君がかっこいいと思った。

 

講堂での人の心を動かし、永遠に仲良くなることのない一科生と二科生。彼のおかげで今は協力してテロリストと戦っている。

 

彼は言った『お前らを守るために。俺の大切な人を守るために』

 

 

『誰も傷付けさせない』

 

 

僕は立ち上がり、()()()()についた汚れをはたく。

 

 

(楢原君……)

 

 

僕は彼に…………いや、それよりも今はみんなの場所に行くのが先。

 

僕はみんなのところに走って行った。

 

僕にもできることがあるはずだ。

 

________________________

 

 

 

【大樹視点】

 

 

「ッ!?」

 

 

何かフラグを立てたような……いや、気のせいか。

 

さっきの女の子は何だったのだろうか?随分俺を見ていたが……惚れたのか!?いや、絶対それはねーよ(笑)

 

 

「まぁいいか」

 

 

今はやることがあるし、

 

目の前にいるテロリストたちを睨む。数は100を超えている。

 

戦車の後ろに隠れたり、ライオットシールドで守ったり、厳戒態勢だった。

 

 

「【(まも)(ひめ)】」

 

 

俺は【(まも)(ひめ)】をギフトカードから取り出す。もちろん、柄しかない。

 

 

「……………」

 

 

精神を研ぎ澄まし、集中する。

 

 

「ッ!」

 

 

柄から蒼い炎が舞い上がる。

 

蒼い炎は形を変えていく。長い刀のように。

 

 

ゴオッ!!

 

 

そして、蒼い炎が消える。

 

 

炎の中から現れたのは蒼く光った刃。

 

 

刃は長く、2mは越えていた。

 

これがこの刀の恩恵……新しい力。刀を自分にあった形に錬成することができる恩恵。

 

どんなに刀が折れようとも、姫を護り続けるために新しく生まれ変わり続ける刀。それが【(まも)(ひめ)

 

まぁこれは自己解釈だけどな。でも、うちの先祖ならそんなこと考えていそうだと思った。

 

 

「一刀流式、【風雷神(ふうらいじん)の構え】」

 

 

音速でテロリスト……3台の戦車に突っ込み、

 

 

「【無限蒼乱(むげんそうらん)】」

 

 

刹那、3台の戦車は縦に真っ二つ。そして、

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!

 

 

大爆発を引き起こした。

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

テロリストたちは驚愕する。中には腰が砕け、立てなくなる者もいた。

 

大樹の足元には三人のテロリストが転がっていた。三人は戦車の中に入っていた人たちだ。

 

一度刀をギフトカードに直し、

 

 

ガチンッ!!

 

 

俺は先程拾ったマシンガンを二つ、右と左に持つ。

 

 

ガガガガガガガッ!!

 

ガガガガガガガッ!!

 

 

そして、容赦なくテロリストに向かって撃った。

 

 

「ぐあッ!?」

 

 

「うッ!?」

 

 

「に、逃げろ!!」

 

 

勝てないと分かったテロリストたちは逃げ始めた。正門からどんどん人が出て行く。ふははは、逃げろ逃げろ!遅れたら死んじゃうぞ!?………殺してないけど。

 

銃弾はすべて急所を外していた。というか、みんな防弾服を着ているので衝撃が来るだけで死なないから。むしろ、衝撃だけでよく気絶するな、お前ら。やっぱり、ただの貧弱素人だったか。

 

正門からかなりの人数を逃がしてしまった。逃がすかっと思い、追いかけようとすると、

 

 

「ば、化け物がッ!!」

 

 

ガガガガガッ!!

 

 

10人以上ものテロリストが一斉射撃した。まだ、戦う気らしい。

 

その時、俺の時間が止まった。

 

正確には超スーパースローモーションの世界に切り替わった。銃弾は亀のようにゆっくりとこちらに向かってくる。

 

 

ガチンッ!ガチンッ!ガチンッ!

 

 

「「「「「なッ!?」」」」」

 

 

そんな遅い銃弾は刀で全部叩き落とした。

 

俺はすぐにマシンガンを捨てて、ギフトカードから再び【(まも)(ひめ)】を取り出したのだ。

 

 

「【覇道華宵(はどうかしょう)】!!」

 

 

ズバンッ!!

 

 

音速でテロリストたちを斬り、気絶させる。

 

一つ言っておくが斬ったのは武器だけであって、テロリストには空いた左手で殴ったり、蹴ったりしただけだから。そこ、勘違いしないように。大樹検定4級で絶対に出るからな。

 

最後に一言。

 

 

「安心しろ、みねうちだ」ドヤッ

 

 

………誰も聞いていないのはさびしいです。

 

っと思ったが、正門から人の気配が……いや、こいつは!?

 

 

バシャッ

 

 

水をはねるような音が正門からたくさん聞こえてくる。音の正体を見て俺の喉が一気に干上がった。

 

 

水で出来た馬。エレシスが作り上げた馬と全く同じだったからだ。

 

 

馬に乗っているのは武装した男たちだ。先程のテロリストとは服装……防具の性能の良さが違う。もちろん、馬に乗っている男たちの方が防具の性能がいい。あれは銃弾なんかでは絶対に貫通しないプロテクターだ。

 

馬と人の数は同じ20。一匹に一人乗っている。

 

 

「ふざけやがって……」

 

 

大樹はキレていた。鬼の形相でテロリストに向かって歩いて行く。

 

 

「止まれッ!」

 

 

先頭を走らせていた男が右手を横に広げて、後ろにいるテロリストを止める。さっきの奴らと格が違う。

 

 

「貴様……楢原大樹だな?」

 

 

髭を生やしたいかにもテロリストの長みたいな奴が言う。

 

 

「だったらどうする?」

 

 

「貴様を殺す」

 

 

そう言って髭を生やしたテロリストは俺に銃……違う。あれは拳銃型CADだ。魔法を使えるのか。

 

後ろにいたテロリストはCADではない銃をこちらに向けた。

 

 

「ハッ、端的な説明ありがとよ。死ぬ前に理由を聞いても?」

 

 

俺はさりげなく相手の情報を貰うことにする。

 

 

「暗殺対象っとだけ言っておこう」

 

 

「誰に依頼された?」

 

 

「それは言えんな」

 

 

ダメもとで聞いたが予想通りの返しだった。だが、質問は続ける。

 

 

「随分メルヘンチックな生き物に乗ってるじゃねぇか。滑稽だぜ?」

 

 

「これは依頼人が提供してくれたモノだ。コイツの凄さにはガキには分からんか」

 

 

やはり、エレシスか。

 

ムカつくがここで怒るわけにはいけない。まだ情報を聞き出すんだ。

 

 

「暗殺対象って俺を殺すために20人も必要なのかよ」

 

 

「少し勘違いをしてるな」

 

 

「何?」

 

 

髭を生やしたテロリストの長は笑いながら告げる。

 

 

「貴様はサブターゲットだ。本命ではない」

 

 

「へぇ、俺より殺さなきゃいけないやつがいるのかよ」

 

 

「貴様は本命を殺した後、殺すように言われている。殺せなかったら殺さなくていいっと言っていたが……まぁいいだろう」

 

 

「で、本命は誰?生徒会長?」

 

 

俺の予想は外れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本命暗殺対象は一年A組所属の木下優子。彼女だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………そうか」

 

 

俺は【(まも)(ひめ)】を強く握る。

 

 

そして、刀が蒼く燃え上がった。

 

 

 

 

 

「そんなふざけたことを考えているのかよ、全員。いいぜ、灰も残らないように燃やしてやるよクソ野郎ッ!!」

 

 

 

 

 

もう何も奪わせない。これ以上。

 

 

今、この刀は優子を守るために振るう。

 

 

 


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