どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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革命をもたらす者

「うっす」

 

 

「おはようございます」

 

 

教室の扉を開け、短い挨拶をする。その後、黒ウサギが丁寧に挨拶をした。

 

その瞬間、教室に変化が起きた。

 

 

ざわざわッ

 

 

いつもだったらクラスメイトは俺に挨拶を返すはずだが、クラスメイトはコソコソと俺を見ながら内緒話をし始めた。

 

こう見えて俺はクラスメイトとは軽い世間話が出来る仲だ。しかし、今の状態は俺と話すのを遠慮しているようだった。

 

おかしい。パーカーもいつもと同じ色なのに。いや、関係ないか。

 

 

「だ、大樹!?もう大丈夫なのか!?」

 

 

自分の席に行こうとすると、レオが話しかけてきた。

 

 

「何が?」

 

 

「心臓をぶちm

 

 

「黒ウサギ」

 

 

「原田さんです」

 

 

もうあいつ処刑。打ち首。

 

 

「はぁ……それは嘘だ。安心しろ」

 

 

「そ、そうか……でもお前に言いたいことはまだあるんだ」

 

 

そう言ってレオは俺に指を差す。

 

 

「何で私服だよ!?」

 

 

「悪いのか!?」

 

 

「自覚ないのかよ!?」

 

 

あるわ。さすがにある。

 

今日、俺の恰好は白パーカーと黒ズボン。あ、もちろんパーカーの後ろには『一般人』って書かれてるから。

 

 

「ちゃんと新しい制服を買ってある」

 

 

「何で新品なんだ?」

 

 

「……制服がボロボロになったからだ」

 

 

エレシスの攻撃を受けた制服は見事に使い物にならない。見事にボロボロになって、真っ赤に染まっていた。超グロいぜ!

 

 

「あまり気にしないでくれ。今日の夕方には届くからよ」

 

 

「……まだツッコミたいことがあるがいいか?」

 

 

「まだあるのかよ」

 

 

レオの言葉を聞いて後ろに一歩下がる。いっそこのまま逃げるのも……

 

 

「逃がさないわよ」

 

 

「お、おはよう……エリカ。それに美月も」

 

 

しかし、後ろではエリカ。その横では美月が待機していた。

 

 

「朝の登校……アレは一体何?」

 

 

エリカが不機嫌な顔をして聞いてきた。な、何でそんな怒ってんだ?生徒会かA組に嫌な人でもいるのか?

 

 

「俺……モテるから」

 

 

「絶対嘘でしょ?」

 

 

俺はエリカに嘘を見破られ、気まずそうな顔をする。

 

先程、俺と黒ウサギは二人で登校していない。朝ご飯を食べに来た優子、ほのか、雫、摩利、真由美。合計7人で一緒に登校した。

 

おかげさまで注目されまくり。俺は美少女をたぶらかす変態だと思われている。解せぬ。

 

 

「あのメンバーは全員俺の朝ごはんを食べて来たからだ。ついでに一緒に登校したにすぎない」

 

 

「そうだったんですか?」

 

 

「おう、信じてくれ」

 

 

美月の確認に俺は肯定した。

 

その時、後ろから新たな人物の気配を感じて振り向くと、

 

 

「大樹。最後の質問いいか?」

 

 

「おうッ!?いつの間に来たんだ、達也」

 

 

「……最初からいたが」

 

 

「そりゃ悪かった。お詫びに最後の質問答えてやるよ」

 

 

「そうか。ならこれを見てくれ」

 

 

達也は自分のポケットから端末を取り出しディスプレイを広げる。それを俺に見せる。

 

 

「ん?内容は………『謎の少年が強盗犯を逮捕』?」

 

 

これがどうしたんだ?

 

 

「写真もあるぞ」

 

 

「どれどれ?」

 

 

達也はディスプレイに指を差して俺に教える。

 

そして、写真を見た瞬間。俺の体から汗が滝のように流れた。

 

 

「こ、これって……」

 

 

「事件は強盗犯が女性を人質に取り、銀行内に立てこもっていた。警察も簡単に手を出せず、手詰まりだった」

 

 

俺はビクビクしながら達也に詳細を聞く。達也は冷静に事件を語っていく。

 

 

「その時、一人の青年が銀行に侵入し、強盗犯を一瞬にして抑え込んだ。警察はすぐに事情を聞こうと青年に接触するが、青年はすぐに立ち去り、逃げて行った。これが一昨日あった事件だ」

 

 

「す、すごいな!一体誰なんだろうな、その人!?」

 

 

「「「「「お前だろ」」」」」

 

 

クラスメイト全員がツッコんだ瞬間であった。

 

 

_______________________

 

 

午前の授業が終わり、昼休みになった。もう授業中は最悪だった。みんな俺を見てるもん。恥ずかしかったぜ!

 

 

「大樹、みんなで食堂に行くって……まだやってるのか?」

 

 

「ああ」

 

 

あ!大樹分かっちゃったよ!何でみんなに注目されたのか!

 

授業中に爆弾型CADを改造してたからだ。失敬失敬。

 

 

「大樹と達也は本当に目立ってるよな。目立ちたがり屋なのか?」

 

 

「んなわけあるか……って達也?あいつも目立ってるのか?」

 

 

まぁ生徒会副会長に喧嘩売ってたしな。当然か?

 

 

「達也は有名人だぜ。新入部員勧誘期間中に問題を起こした魔法競技者(レギュラー)を魔法を一切使わずねじ伏せた謎の一年生ってな」

 

 

「いや達也って分かるのに『謎の』ってなんだよ」

 

 

「大樹は……まぁ相変わらず『フードマン』だな」

 

 

「俺も『謎の』がよかった……」

 

 

ダサい。果てしなくダサいよ、俺。

 

それにしても達也はやはり強かったか。魔法を使わず倒すって……実は二科生って潜在能力を秘めた生徒の宝物庫じゃね?

 

 

「っとはやく行こうぜ。みんな廊下で待ってる」

 

 

「そうだな」

 

 

レオの言葉を聞いて、俺は急いで昼飯の仕度をした。

 

 

_______________________

 

 

ざわざわッ

 

 

食堂はいつも以上に賑わって……いや、騒がしかった。

 

 

「……………」

 

 

俺は静かに食事をする。周りがうるさい?気にするな、錯覚だ。

 

 

「皆さん、大樹さんを見てますね」

 

 

「言うな、黒ウサギ。照れるを通り越して発狂してしまう」

 

 

1年生、2年生、3年生。食堂にいる全員が俺を見てコソコソと話していた。

 

レオは周りに聞こえないように、俺たちが聞ける声量で話す。

 

 

「ここまで来るとすごいよな。生徒会長並みに知れ渡ってるんじゃないか?」

 

 

「嬉しくない」

 

 

俺は正直な感想を言う。本当に嬉しくない。

 

 

「お兄様。相席してもよろしいですか?」

 

 

「ああ、構わないよ」

 

 

学食を手にした深雪が兄である達也に相席を申し込む。達也は返事をして許した。

 

隣……というか俺たちのテーブルを中心とした他のテーブルは全て空いていた。いじめじゃないよ。避けられてるんだよ。……変わんねぇな。

 

隣のテーブルと合体させ、一つの大きなテーブルにする。そして、深雪は新しくくっ付けたテーブルに座る。

 

 

「すごい人気ですね、大樹さん」

 

 

「深雪、それは皮肉か?」

 

 

絶世の美少女である深雪は俺の言葉を聞いて笑う。ドSの素質があるのか?

 

 

「そんなものあるわけないだろ」

 

 

「だよな……ってナチュナルに人の思考読んでんじゃねぇよ!」

 

 

達也に思考を読まれ、俺はツッコムと同時にびっくりする。こいつ、シスコンだな。妹はブラコンみたいだが。

 

少し遅れて雫とほのかが俺たちのテーブルまでやってくる。

 

 

「私たちもいいですか?」

 

 

「おう、いいに決まってるだろ」

 

 

ほのかの言葉に俺が返答する。

 

深雪の隣にほのかが座り、深雪の対面に雫が座った。

 

 

「……た、食べづらいですね」

 

 

ほのかが苦笑いで今の現状に感想を漏らす。

 

それもそうだ。二科生と一科生が相席してるわ、噂の俺がいるわでもうハリウッドスター並みの注目だ。

 

 

「悪いな、俺は別の場所で食べるよ」

 

 

「気にすることないわよ。放っておけばいいのよ」

 

 

俺が立ち上がるとエリカがそれを止める。

 

 

「でもよ……」

 

 

「何だよ。大樹らしくないな。いつもみたいにとんでもないことやってくれよ」

 

 

「レオ。あとで集合」

 

 

みんなに止められた俺は渋々席を座り、再び弁当のおかずを食べ始める。

 

だけど、原因を作ったのは俺。

 

俺は殺気を飛ばして見ている連中を睨み付けた。

 

 

「「「「「ッ!」」」」」

 

 

瞬く間に連中は目を逸らして、自分のご飯に集中し始めた。まだ、見ている奴らはいるがさっきよりは断然良い。

 

 

「大樹さん、みんな怖がってますよ」

 

 

「怖がらせてんだよ、黒ウサギ」

 

 

「そうではなく……」

 

 

黒ウサギが気まずそうに俺に言う。黒ウサギの思考を読み取った時、俺はしまったと思った。

 

怖がっているのは俺と同じテーブルに座っている黒ウサギたちもだった。

 

 

「わ、悪い!そんなつもりじゃなかたんだ……」

 

 

「い、いえ!楢原君が優しいのは知っていますし、大丈夫ですよ!」

 

 

美月がすかさずフォローする。みんなもうなずいて賛同していた。

 

 

「むしろ、よくやったって話だな」

 

 

「そうですよ!ね、雫!」

 

 

「うん」

 

 

レオ、ほのか、雫は俺に笑って安心させる。

 

 

「……いい友達持ったなぁ、俺」

 

 

「あれ?もしかして泣いてるの?」

 

 

俺が涙を拭いてるとエリカが茶化してきた。

 

 

「ああ、俺は感動した。みんな結婚してくれ」

 

 

「……男の俺と達也からしたら困るんだが」

 

 

レオと達也は苦笑い。深雪を除く他の女性陣は顔を赤くして怒っていた?うん、怒ってんじゃね?冗談でも結婚は駄目か。

 

 

「残念ですが私にはお兄様がいるので」

 

 

「俺にも深雪がいるから断らせてもらう」

 

 

「そ、そうか……」

 

 

「「「「「「……………」」」」」

 

 

司波兄妹を除いた俺たちは下を向いて俯いた。無理だ。『何兄妹で愛し合ってんだよw』っとか誰もツッコめない。マジっぽすぎて否定できない。

 

 

_______________________

 

 

あれから数日が経った。というわけで例の言葉を言いたいと思います。

 

 

「キング・クリ〇ゾンッ!!」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

「あ、ごめん」

 

 

クラスメイト全員が驚いて俺を見る。授業中に叫ぶのはアカンな。

 

 

キーン、コーンー、カーン、コーン

 

 

ちょど最後の授業のチャイムが鳴り、授業が終わった。

 

 

「大樹さん……この後病院に」

 

 

「行かない」

 

 

黒ウサギに本気で心配されてしまった。

 

 

ザーッ

 

 

その時、俺は小さなノイズの音に気が付いた。音源は教室に取り付けられた放送スピーカー。どうやら放送が入るみたいだ。

 

 

『全校生徒の皆さん!!』

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

突然の放送でクラスメイトは嫌な顔をする。当然だ。唐突に大声で放送されたらうるさいだけだ。マイクテストってやっぱり大事だな。

 

 

『僕たちは学内の差別撤廃を目指す有志同盟です』

 

 

最初の一声の失敗を考慮して、次の言葉は静かだったが、内容が深刻なモノだった。

 

 

『僕たちは生徒会と部活連に対し対等な立場における交渉を要求します』

 

 

(また厄介なことになってるな……)

 

 

俺はこの前言っていた壬生の言葉を思い出す。

 

壬生の言っていた組織が動き出したか。

 

 

「はぁ……」

 

 

俺は一つため息をついて、

 

 

机に突っ伏して寝る。

 

 

正直、俺は止める気にならない。いや、呆れてしまった。

 

組織はおそらく二科生で構成されている。そんなやつらが問題を起こせば一科生はさらに二科生を差別的に見るのがオチ。ここまで騒ぎを大きくしたらもう二科生と一科生の仲は悪化するしかないだろう。

 

俺は一科生と二科生の関係を良い方向に持っていくのは不可能。俺はそう考えてる。

 

俺も一度はどうにかしようと思ったが、この学校の差別意識は半端じゃない。実際、この数日間一科生に何度も絡まれた。全員返り討ちにしたけど。

 

犬猿の仲。いや、それ以上だ。

 

 

(お手上げってことだ)

 

 

そして、目を閉じた。

 

 

「大樹、風紀委員から呼び出しが来てるぞ」

 

 

「……………」

 

 

達也の呼びかけを全力で無視する。寝る。もう寝る。何が何でも寝る。起こせるものなら起こしてみろ。

 

 

「来なかったら『追加の書類』だそうだ」

 

 

「もういい!アレはやりたくない!」

 

 

俺は勢い良く立ち上がり、教室を出るのであった。

 

 

_______________________

 

 

「遅い!」

 

 

急いで放送室に向かうと、放送室のドアの前には人だかりが出来ていた。

 

中心にいた摩利が俺に叱責する。摩利の隣には生徒会メンバーもそろっていた。

 

 

「うるせぇ!書類で脅すのはもうやめろよ!?」

 

 

俺は摩利に向かって大声を上げる。

 

この数日間、風紀委員の仕事である勧誘期間の警備が終わり、書類の仕事をしていたが、量が半端なかった。先輩方が『お前、休んでいたから』と理不尽な理由で10000枚分は端末で文字を打ち続けた。マジで。

 

 

「さすがの私も大樹君にはもうさせようと思わない」

 

 

「そ、そう思ってるならいいが……」

 

 

「次は手書きでさせる」

 

 

「変わってねぇよ!むしろそっちのほうがイヤだわ!」

 

 

正気の沙汰か、風紀委員長様。

 

 

「大樹さん!」

 

 

後ろから黒ウサギが声をかける。達也も一緒にいる。あ、置いて行ってしまってた。

 

 

「黒ウサギを置いて行かないでください!」

 

 

「わ、悪い……書類が怖くて」

 

 

っと素直に謝ると黒ウサギは少し涙ぐんだ。同情するなら金……いや、同情でいいや。

 

 

「摩利、状況は?」

 

 

「ああ、今から説明する」

 

 

俺の質問に摩利はみんなに聞こえるように説明し始めた。

 

 

「犯人はマスターキーを盗み出し、扉を封鎖。中に立てこもっており、こちらからは開けられない」

 

 

「そうか。ドアをぶち破るしかないな」

 

 

摩利の報告を聞いた俺はわざとふざけた解答をする。

 

 

「私もそうしたいんだが……」

 

 

「したいのかよ!」

 

 

予想外の返しに驚愕した。

 

摩利は隣にいる人物をチラッと視線を送る。

 

 

「彼らを暴発させないように慎重に対応すべきだと思います」

 

 

生徒会の会計。鈴音が摩利と逆の意見を言う。どんな方針で対処するのか分かれているのか。

 

 

「十文字会頭はどうお考えなのですか?」

 

 

俺の隣にいた達也が十文字に質問をする。なるほど、第三の意見か。

 

 

「俺は彼らの要求する交渉に応じて良いと思っている」

 

 

十文字の意外な意見に少し驚いた。まさか、応じても良いと来たか……。

 

 

「では、このまま待機しておくと?」

 

 

「それについては決断しかねている。不法行為は放置しておけんが、性急な解決を要する程でもない」

 

 

達也の言葉に十文字は難しい顔をする。

 

 

(これは手詰まりじゃねぇか。どうする、達也?)

 

 

俺は達也が十文字に質問した瞬間、確信した。何か策がある、と。

 

 

「……だそうだ。どうする、大樹」

 

 

「そこで俺に振るのかよ!?」

 

 

驚愕の真実。まさかの俺。

 

 

「大樹にも常識外れな提案があるんだろ?」

 

 

「何で常識外れなんだよ。やめろよ、俺が常識が無い人間だと思うの」

 

 

「あるのか?」

 

 

「喧嘩売ってのか!?」

 

 

今日は達也がドSのようだ。全く、兄弟そろってドS属性とか……。

 

 

「「お兄様(深雪)にそんな属性はありません(ない)」」

 

 

「仲良いな、お前ら!?」

 

 

二人揃って俺の思考を読まれてしまった。深雪、いつの間に達也の隣に来た?さっき後ろにいただろ?

 

 

「で、どうなんだ?」

 

 

「摩利……」

 

 

摩利は俺に意見を聞く。少し目が輝いているのは気のせいですか?

 

 

「はぁ……要求は飲むかどうかはお偉いさん方に任せて、要するに『ドアをぶち壊さずに生徒を制圧する』ってことだろ?」

 

 

「……出来るのか?」

 

 

摩利の確認に俺は意気揚々と笑顔で告げる。

 

 

「やりたくない!」

 

 

「「「「「そっち!?」」」」」

 

 

出来るかどうかでは無く『やりたくない』。これが俺の答えだ!

 

 

「……木下はいるか?」

 

 

「こ、ここにいます」

 

 

摩利は後ろにいた優子を呼び出して……内緒話をし始めた。ちなみに内容は聞かないよ。何故かって?女の子同士の会話をこっそり聞いたら『インドラの槍』がプレゼントされるんだよ!?知ってた!?

 

 

「大樹君」

 

 

「な、何だ」

 

 

内緒話が終わり、摩利が俺の名前を呼んだ。優子の頬が少し赤いのは何故だ?

 

 

「い、言っておくが俺は絶対にやらないぞ。例え地球が滅びても

 

 

「成功したら木下と休日に一度だけデートができるかもしれないと言ったら?」

 

 

「俺にやらせてくださいッ!」

 

 

(((((地球が滅ぶより優先したな……)))))

 

 

俺は摩利に土下座して懇願する。最初にそれを言え!

 

 

「では頼んだ」

 

 

「って言っても……やることは簡単だぞ?」

 

 

俺は摩利に歯切れの悪い返事をした。懐から細長い銀の針を取り出す。

 

 

「ピッキングだからな」

 

 

カチャッ

 

 

それを鍵穴に刺して、一瞬でロックを解除した。前にCAD調整装置を使うために全てのドアのロックは解除出来るように練習をしていたのが役に立った。

 

 

「黒ウサギ、残った奴を拘束してくれ」

 

 

「はい!」

 

 

そして、俺はドアを勢いよく開けた。

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

部屋の中にいた5人の生徒は突然の出来事に驚く。男子生徒3人。女子生徒2人。女子生徒は黒ウサギに任せることにしよう。

 

手始めに俺は入り口の近くにいた男子生徒の胸ぐらを右手で掴み、次に空いた左手でもう一人また胸ぐらを掴む。

 

そして、そのまま前に向かって手を突きだし、最後の一人となった男子生徒に二人をぶつけてやった。

 

 

「「「ぐあッ!?」」」

 

 

男子生徒は壁にぶつかり、そのまま固まって床に倒れる。すかさず俺は方足でまとめて3人を抑える。

 

 

「きゃッ!」

 

 

一方、黒ウサギは既に2人の女子生徒の手を掴み、抑えていた。ミッションコンプリイイィィーット!

 

 

「このッ!」

 

 

足元で諦めの悪い一人の男子生徒が携帯端末型CADを取り出した。魔法を発動しようとしている。

 

だが、

 

 

男子生徒の魔法はキャンセルされた。

 

 

雑な説明かもしれないが本当に魔法がキャンセルされたのだ。魔法式が展開したのをしっかりと見たのだから。

 

しかし、魔法が発動することはなかった。

 

俺は魔法式が崩れて行くのをこの目でハッキリと見ていた。

 

 

「うぅ……何だ……コレ……」

 

 

「き、気持ち悪い……」

 

 

足元にいる男子生徒が一斉に顔を青くした。女子生徒も顔色がよくない。座り込んでいる。

 

 

「な、何が起きたんだ?」

 

 

「だ、大樹さんは平気なんですが?」

 

 

「だから何がだよ……」

 

 

「この揺れ……です。気分が悪くならないのですか?」

 

 

黒ウサギも顔をしかめ少しきつそうだ。

 

俺は何が起こったのか探るべく、辺りを見渡すと、

 

 

「ッ!」

 

 

大体理解することが出来た。俺の視線の先には達也がいた。

 

腕輪型CADを両腕に付けている達也が。

 

隣では深雪が笑みを向けている。ほう、お兄様が何かしたな。

 

 

「楢原君……」

 

 

黒ウサギが抑えている一人の女子生徒が俺の名前を呼んだ。俺はその子を知っている。

 

 

「やっぱりいたか……壬生」

 

 

俺は駆け付けた他の風紀委員に男子生徒を任せ、壬生のもとへ行く。

 

 

「どうして……どうして邪魔するの!?」

 

 

「風紀委員だからって答えじゃダメか?」

 

 

「楢原君は二科生(ウィード)と呼ばれ続けても……!」

 

 

「俺は構わない」

 

 

「ッ!」

 

 

俺は壬生が質問するより早く答えを出した。俺の強い視線に壬生は息を飲む。

 

 

「確かに一科生に馬鹿にされるのは腹が立つ。頭は俺より悪い癖に、運動神経も俺以下の癖に……魔法が出来るだけで俺に突っかかって来るし、偉そうにしやがって……!埋めてやろうか、あいつら……!!」

 

 

(((((絶対に関わらないでおこう……)))))

 

 

俺は段々と突っかかって来た連中を思い出した苛立つ。大樹を見た周りの生徒は心の中でむやみに関わらないように決意した。もうあいつには歯向かわないっと。

 

 

「でもな……差別しない奴らもいる」

 

 

優子、深雪、雫、ほのか。彼女たちは違う。他の奴らとは違う。

 

 

「さすが成績優秀な人たちだ。二科生のお手本になる。それに比べて他の優秀な連中は……小学生かよ」

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

俺は風紀委員たちに向かって言っていた。実際、風紀委員にもまだ差別するような奴がいたからだ。他の風紀委員は全員俺から視線をそらす。

 

 

「確かに壬生の言う通りだ。改善しなきゃクズの集まりになる」

 

 

「それならッ!」

 

 

「それでも駄目に決まってるだろうがッ!」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

俺の怒鳴り声に壬生と風紀委員は驚いた。

 

さすがにこれ以上怒鳴るのは……と思い、声量を下げる。

 

 

「差別撤廃?笑わせるな。お前らが魔法をうまく使えないから二科生(ウィード)なんだろ。魔法がうまいから一科生(ブルーム)なんだろ。実力が無いのを他人に押し付けてんじゃねぇ」

 

 

「……………」

 

 

壬生は何も喋らない。

 

 

「お前らはそれを承知でこの学校に入ったんだろ?お前らが怒ってんのは二科生(ウィード)に対する一科生(ブルーム)の差別態度だろ?」

 

 

俺は壬生の両肩を掴んで、俺と顔を合わせるようにする。

 

 

「お前らの行動で一部の二科生は良い思いになっただろうな。差別が無くなるって」

 

 

だけど、っと俺はそう付け足して言葉を続けた。

 

 

「お前らの行動は一科生に不快感を与え、迷惑をかけた。こんなこと永遠とやってたらお互いに一生仲良くできねぇんだよ!何でお前らは自分のことしか考えてねぇんだ!」

 

 

「……ッ!」

 

 

壬生は俺の再度の怒鳴り声で涙を一滴流した。

 

 

「……差別をせず、仲良く接してくれた一科生の人に……迷惑かけてんじゃねぇよ。こんなやり方、間違っている」

 

 

俺は壬生の両肩から手を放し、放送室から出て行こうとする。

 

 

「……お前ら一科生がそんなことしなければ起きなかった事件だったな」

 

 

風紀委員の横を通り過ぎる時、俺はそうつぶやいた。過去にやったことのある奴らは俺から目をそらしていた。

 

 

「どこへ行く?」

 

 

放送室を出た所を摩利に止められる。

 

 

「そうだなぁ……本当なら二科生を馬鹿にした連中をぶん殴りに行くところだが……この調子だと二科生も何かしてそうだし……どうしようか?」

 

 

「お前の正義感は良いが、やり過ぎるなよ」

 

 

「やらねぇよ……俺は」

 

 

俺の言葉に摩利は疑問に思う。だが、俺の視線の先にいる人物に気が付き、摩利は理解した。

 

 

「生徒会長に全部なげるのか?」

 

 

「人聞きが悪いな。任せるんだよ」

 

 

廊下を歩いて来た真由美は俺の前に立つ。

 

 

「よぉ、遅かったな。問題の解決をしに来たのか?」

 

 

「ええ、大樹君のおかげでやりやすくなったわ」

 

 

「……どういうことだ?」

 

 

真由美は俺の質問に答えず、俺にウィンクして放送室に入って行った。俺と摩利は放送室を外から眺める。

 

 

「電源はちゃんと切らないと、ね」

 

 

真由美は放送室のマイクの下にあるボタンをOFFにした。……え?

 

 

「で、電気は落としたはずじゃ……」

 

 

「さて問題。いつから電気は入れていたのでしょうか?」

 

 

「……大樹、おうちに帰る」

 

 

俺はこれから起ころうとすることを見届けず、本気で帰ることにした。

 

 

「ま、待ってください!大樹さん!」

 

 

黒ウサギが追いかけてきたが、俺は恥ずかしさのあまり逃げてしまった。

 

 

_______________________

 

 

「だ、大樹さん?大丈夫ですか?」

 

 

「……死にたい」

 

 

「えっと……今日は何が食べたいですか」

 

 

「ドクツルタケ」

 

 

(それって『殺しの天使』って異名を持つほどの毒キノコじゃ……)

 

 

大樹と黒ウサギは家に帰って来ていた。

 

二階の畳に布団を敷き、大樹が寝ていた。『明日から学校には行きたくない』っと大樹は言っている。

 

 

「お店は開かないのですか?」

 

 

「余りものを出しとけ」

 

 

「それは駄目だと思います」

 

 

大樹は布団を体で覆った状態のまま立ち上がる。

 

 

「じゃあ料理だけする」

 

 

「布団に引火したら大変ですから、布団は置いて行ってください」

 

 

「……俺、布団を脱いだら死んじゃうんだ」

 

 

「脱いでください」

 

 

「……………え?」

 

 

「脱いでください!」

 

 

「……俺の貞操の危機!?」

 

 

「何をおっしゃっているんですか!?いいから脱いでください!」

 

 

「ちょッ!?」

 

 

黒ウサギは無理矢理布団を引き剥がした。

 

だが、引き剥がし方が乱暴すぎて大樹はバランスを崩し、黒ウサギに向かって倒れた。

 

 

「きゃッ!?」

 

 

「うおッ!?」

 

 

黒ウサギの上に大樹が折り重なり、畳の上に倒れた。よって、大樹が黒ウサギを押し倒したような体制になる。

 

 

「だ、だだだ大樹さん!あ、あの……!」

 

 

ピロリンッ!

 

 

大樹の携帯端末から着信の知らせが届いた。

 

 

_______________________

 

 

「ん?メールか」

 

 

俺は黒ウサギの上からどき、再び布団へ転がる。

 

 

「……し、知っていますよ黒ウサギは……いつもこんなふうに邪魔が入るのは……」

 

 

黒ウサギが何かぶつぶつと言っていたがスルーした。だって怖いもん。

 

メールを送って来たのは真由美だった。

 

 

『明後日、生徒会と有志同盟の公開討論会が決まったわ。あとで風紀委員から連絡が来るはずよ。ありがとうね』

 

 

「何が『ありがとう』だよ」

 

 

俺は返信を返す。

 

 

『最後のありがとうって何だよ?嫌みか?』

 

 

返信をしてしばらく待つ。

 

 

「~♪」

 

 

いつの間にか俺の隣では黒ウサギが隣で寝そべっていた。どうやら一緒に俺のメールを見ていたらしい。機嫌が良さそうなので放っておこう。

 

 

ピロリンッ!

 

 

『本当に感謝してるのよ?大樹君の公開放送のおかげで討論会がやり易くなったわ』

 

 

返信文を書く。

 

 

『公開放送というより公開処刑だろうが!』

 

 

返信した。

 

 

「~~♪」

 

 

黒ウサギは俺の髪を撫で始めた。超機嫌が良さそうなので放っておく。……ど、ドキドキなんてしてないからね!勘違いしないでよね!

 

 

ピロリンッ!

 

 

『そうね。今度お詫びにデートでもしましょうか?』

 

 

ブチッ←俺の髪の毛が数本抜ける音。

 

 

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!痛いよッ!抜けるッ!禿げるッ!?」

 

 

「貸してください!」

 

 

髪撫でるから引き千切るになってしまった黒ウサギは俺の携帯端末を取り上げる。

 

 

『俺の嫁は黒ウサギだけだですよ!』

 

 

「それバレるだろ……」

 

 

黒ウサギは俺の言葉を聞かずに返信した。最近、黒ウサギがマジ怖いです。

 

 

ピロリンッ!

 

 

……着信音がここまで怖いと思ったのは初めてだ。

 

 

 

 

 

『そう……じゃあ()()大樹君が誘ってくるのを待ってるわ』

 

 

 

 

 

ブチッ←黒ウサギの堪忍袋を千切れる音。

 

 

俺……そんなことしてへんよ?デートとか誘ってないよ。

 

 

「大樹サン……スコシO☆HA☆NA☆SHIガアルノデスヨ……」

 

 

出たよ。『お話し』ではなく『O☆HA☆NA☆SHI』。これ死亡フラグが立ったんじゃ……。

 

 

「み……み……ッ!」

 

 

俺はお願いする。

 

 

「MI☆NO☆GA☆SHI☆TE?」

 

 

「ダメですよ☆」

 

 

死んだわ、コレ☆

 

 


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