どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

62 / 177
お気に入り500点…

この作品を見てくださって本当にありがとうございます。


一握りの希望を胸に

『犯人は………隣の家に住んでいた夫婦の息子さんの友達の妹さんの結婚相手の父上なんだ!』

 

 

「「な、何だって!?」」

 

 

俺と黒ウサギは映画を見ていた。ていうか、この探偵凄すぎんだろ。そんなキャラクターは一度も登場してないぞ?

 

 

『死ぬな!阿部ブラウン!』

 

 

『あとは……まかせ……たぁ……!』

 

 

「「ぐすッ……阿部ェ……!」」

 

 

俺と黒ウサギは涙を流して大泣きする。でも、阿部って27回も主人公を裏切ったよな。

 

 

『お前を……祝ってやるうううううゥゥゥ!!!』

 

 

「「きゃあああああァァァ!!」」

 

 

俺と黒ウサギは抱き合って怖がる。何で祝うんだよおおおおおォォォ!!ガクガクブルブル!

 

 

『お前が好きだ!』

 

 

『うん!私もよ!』

 

 

「「……………」」

 

 

俺と黒ウサギは頬を赤く染める。き、気まずい!キスシーンはアカン!

 

そして、2時間のサスペンス&感動&ホラー&ラブエピソード映画が終わった。物凄い物語だったな。

 

 

「……以外に面白かったな」

 

 

「YES。どうして黒ウサギたちしか見てないのでしょう?」

 

 

今、この空間には俺と黒ウサギしかいなかった。映画の序盤がクズ過ぎて、みんな帰ったからだよ。

 

 

「それじゃあ次は飯食べに行くか」

 

 

「はい!」

 

 

________________________

 

 

 

「ねぇ姉ちゃん。俺たちと遊ぼうよ」

 

 

「そうそう。そんなアホ面した奴といないでさぁ」

 

 

うぃーす。大樹でーす。

 

絶賛食事中にヤンキー?たちに囲まれてまーす。誰がアホ面だこの野郎。

 

まぁ……そりゃ……ねぇ……。ヤンキーが黒ウサギをナンパするのは分かるよ。うん。

 

 

今日の黒ウサギは……超可愛い。いや、いつも可愛いけどな。特に服装には驚いた。

 

 

白いキャミソールドレスを着ているからだ。

 

 

スカートの方は膝までの長さで三段フリルが付いている。………うん。超いい。

 

何か……ほら、いつも派手な服を着ていてエロいじゃないか。特にガーターベルトとか。

 

しかし、今日はつけていない。靴下は履かず、サンダルを履いている。ちなみにウサ耳を隠す役割をしているのは大きなツバがある真っ白な帽子だ。

 

 

総合評価。

 

嫁にしたいです!一体俺はどれだけ嫁を作ろうとしてんだよ。

 

 

(いつも真逆の服装……そう!清楚な服装!)

 

 

最高です!

 

 

だがしかしッ!

 

 

(キャミソールが胸を強調して結局エロいです、将軍!!)

 

 

でも、生きててよかった!ありがとう!目の保養になります!

 

 

「だからお前らの気持ちは分かる。でもなぁ……」

 

 

俺は食器ナイフを持ち出し、

 

 

パキンッ!

 

 

俺は刃がある方を手のひらに向けて、潰した。ナイフは刺さらず、粉々になる。スマン店長。

 

 

「「「「「ひッ!?」」」」」

 

 

ヤンキーたちはその光景を見て怯える。そして、とどめの一言。

 

 

「次はお前らの………頭でいくか?」

 

 

「「「「「ひッ!?」」」」」

 

 

「おおおおおおおいッ!行くぞ!!」

 

 

「「「「う、うわああああ!!」」」」

 

 

「ば、化け物!!」

 

 

「ひゃっはあああああ、最後の奴は許さん!」

 

 

「だ、大樹さん!もう放っておきましょう?」

 

 

黒ウサギに腕を掴まれ止められた。俺はしぶしぶヤンキーをこr……しばきに行くのをやめる。

 

 

「うッ!?」

 

 

その時、黒ウサギの服装をじっくり見て、気恥ずかしくなる。やっぱりエロかわいいな!ちくしょう!

 

 

「どうしたんですか?」

 

 

「な、何でもない!もう食べ終わったし、次行こう!」

 

 

顔を真っ赤にした俺は黒ウサギの手を握り、恥ずかしさを隠す。

 

 

「あ……」

 

 

黒ウサギは急に手を繋がれて驚く。しかし、

 

 

その行動に黒ウサギも頬を赤めた。

 

 

________________________

 

 

「「……………」」

 

 

俺と黒ウサギは何も喋らない。おかしいな?さっきまでバンバン喋れたのに。頭がパニック状態だお。

 

俺たちがいるのはショッピングモールにいた。手を繋いで仲良く歩いていた。

 

 

え?

 

 

手を……繋いで……いるの?俺たち?

 

 

「すすすすすすスマン!」

 

 

俺は急いで黒ウサギから手を放す………放せない。え?

 

 

「く、黒ウサギ?」

 

 

「……………」

 

 

頬を真っ赤にした黒ウサギは下を向いて無言を貫く。

 

 

「……………えっと」

 

 

ここで正しい選択をしろよ!?俺!

 

 

1.このまま手を繋いでデート続行!

 

2.手を繋いだまま、ショッピング!

 

3.むしろ腕を組めよ。

 

 

(結局手を繋げってことかよおおおおおォォォ!!)

 

 

3に至っては最高じゃないですか!

 

 

(いや、ここは素直に1で行こう。2でもいいけど)

 

 

俺は決断する。

 

 

「そ、それじゃあ……い、行くか……」

 

 

「は、はい……」

 

 

俺と黒ウサギはさっきより強く手を握る。

 

幸せすぎて死にそうです。

 

 

_______________________

 

 

俺たちは店を回った。たくさん回った。回った回った。すごく回った。

 

 

しかし、黒ウサギと手を繋いでいたせいで、どんな店を回ったのか頭に入ってこなかった。

 

 

「「……………」」

 

 

頬を赤めた二人。その二人を見たショッピングモールの客は、

 

 

(((((何だあのカップル!?爆発しろ!)))))

 

 

誰もが羨むほどだった。特に黒ウサギはショッピングモールを通り行く全ての男性の目を引き付けていた。

 

店も半分以上見回ったし、そろそろ何かをしないといけないな。

 

 

(さぁどうする!?来い!選択肢!)

 

 

1.デザートを食べる。

 

 

(おお!本当に来てくれた!いいぞ!いいアイデアだ!)

 

 

2.服を見に行く。

 

 

(いや!今のままがいいからパスで!その調子で違う選択肢を……!)

 

 

3.そこに休憩ベンチあるから膝枕でもしてもらったら?

 

 

「レベル高ッ!!」

 

 

「ど、どうしました!?」

 

 

「い、いや!何でもない」

 

 

斜めすぎる選択肢に驚いて、つい声を出してツッコミを入れてしまった。

 

 

4.え?膝枕以上のことを聞くぅ?

 

 

「いや!聞かない!!」

 

 

「さ、さっきからどうしたんですか?」

 

 

「え、えっと………パフェでも食べるか!」

 

 

結局、最初に戻る。これが一番妥当だろ。

 

俺たちはパフェ(俺はチョコバナナで、黒ウサギはいちご)を頼み、ベンチに座って食べていた。

 

 

「これ美味しいな!」

 

 

「こっちも美味しいですよ!」

 

 

俺と黒ウサギは微笑み合う。よし、ここから会話の発展を……。

 

 

5.「あーんッ☆」をして貰う。

 

 

(選択肢!?俺の思考中に入ってくんじゃねぇよ!)

 

 

6.はやく。

 

 

(うぜえええええェェェ!!)

 

 

「あ、あの……大樹さん」

 

 

選択肢と会話してると、黒ウサギが話しかけてきた。

 

 

「……あ」

 

 

「あ?」

 

 

黒ウサギはいちごが乗ったスプーンをこちらに向けて、

 

 

 

 

 

「……あーんッ」

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

あーんッ☆をしただと!?

 

 

7.あーんッ☆をしただと!?

 

 

お前と同じリアクションは腹立つな!それと、その選択肢の使い方やめろ!

 

 

「あ、あっ…………あーん……!」

 

 

俺は震える口を静かに開ける。

 

 

パクッ

 

 

「……………うまい」

 

 

「そ、それはよかったです……!」

 

 

そう言って黒ウサギは笑顔になる。

 

 

7.か、可愛い……。

 

 

もういい加減帰れよ。あと、同じ番号二回も使ってんじゃねぇ。

 

 

「あ、大樹さん!」

 

 

「ど、どうした?」

 

 

黒ウサギは俺の顔を見て驚愕する。

 

 

「鼻……!」

 

 

「鼻?……………あ」

 

 

俺は鼻を手で拭う。そして、手を見ると、赤い液体が付着していた。

 

どうやら興奮しすぎて鼻血を出してしまった。

 

 

8.目の前にある通路を右に曲がるとトイレがあるよ。

 

 

優しいな。お前。

 

 

_______________________

 

 

洗面所で顔を洗い、血を落としてきた。ああ、真紅に染まった血よ。俺の罪も洗い流してくれ。………何言ってんだ俺。

 

 

「悪いな、待たせて」

 

 

「大丈夫ですよ。それよりも体調は……?」

 

 

「俺なら問題ない」

 

 

俺は黒ウサギの横に立つ。

 

 

「それじゃあ、行くか」

 

 

「はい!」

 

 

黒ウサギと一緒に歩きながら話をする。最初と比べて俺と黒ウサギの会話は多くなった。黒ウサギは楽しそうに話してくれている。

 

俺はその笑顔を見て安心する。最初はどうなるかと思っていたが、楽しんでもらってよかった。

 

 

「あ、そうだ」

 

 

俺はある案を思いつく。

 

 

「ちょっとここで待っててくれ!」

 

 

「は、はい」

 

 

俺はあるお店に向かって走り出す。

 

少し走ったところにお目当ての店があった。

 

 

「えーと…………これかな?」

 

 

店員さんに金を出して支払って商品を貰う。

 

 

「う、うーん………勢いで買ってしまったが……黒ウサギ、喜んでくれるかな?」

 

 

ちょっと心配になってきたぞ。

 

 

「いや!大丈夫だ!イケメンの俺なら

 

 

 

 

 

 

「きゃあああああァァァ!!!」

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

突如、女性の悲鳴がショッピングモールに響き渡った。せっかくボケようとしたのに……。

 

俺は急いで悲鳴が聞こえてきた方向に駆け付ける。

 

 

(まさか……エレシスとセネスッ!?)

 

 

そうだと最悪な状況だ。あいつらは桁違いに強い。ここで暴れられたら……。

 

 

「全員動くな!」

 

 

「おい!はやく金を詰めろ!」

 

 

駆け付けた場所は銀行だった。

 

中には覆面が4人。全員銃を持っている。

 

 

 

 

 

()()()銀行強盗……か……。

 

 

 

 

 

「だ、誰か……助けて!」

 

 

人質が一人。女性客が捕まっている。女性客は腰を抜かして立ち上がれない。

 

 

「おい!立て!じゃなきゃ…!」

 

 

「撃つのか?」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

銀行にいた人は全員驚愕する。

 

俺は一瞬にして女性客の前に立ち、覆面を睨み付ける。

 

 

「う、撃て!」

 

 

ガキュンッ!!

 

 

パシッ

 

 

さて、二番目の音は何でしょうか?もうみんな分かるよね?

 

 

「おい、これが何かわかるか?」

 

 

俺は覆面に見えるように見せる。

 

 

「「「「なッ!?」」」」

 

 

覆面たちの表情が覆面の外からでも分かる。顔を青くして、怯えている。さて、答え合わせをしようか。

 

正解は………銃弾を掴む音でした。俺の手には銃弾が握られていた。もう驚かねぇよな、こんなんじゃ。

 

 

「さて………俺は最高にキレてんだよ」

 

 

今日の俺は……。

 

 

「よくも……よくも……!」

 

 

ぶちギレたぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デートの邪魔しやがってえええええェェェ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「ええええええェェェ!?」」」」」

 

 

俺は泣きながら大声を上げる。覆面たちが驚きの声を上げ、女性客も驚いていた。

 

 

「う、撃t

 

 

「くたばれ」

 

 

ドゴッ!!!

 

 

覆面の一人が指示を出す前に黙らせる。覆面の首に手刀をやった。

 

 

「うッ!?」

 

 

「「「なッ!?」」」

 

 

一瞬で後ろに移動した俺を見て、覆面たちは驚愕する。

 

 

「オラッ!!!」

 

 

ドゴッ!!!

 

 

再び一瞬で覆面との距離を詰める。そして、空中回し蹴りを一人の覆面に放つ。

 

覆面は吹っ飛び、後ろにいたもう一人の覆面に当たる。

 

 

「ガハッ!?」

 

 

「オボッ!?」

 

 

二人の覆面は折り重なって気を失う。

 

 

「この野郎ッ!!」

 

 

覆面の右腕には腕輪型CADがついていた。すでに魔法式は発動している。

 

俺の足元に魔法陣が映される。

 

 

「ハッ、この程度で……」

 

 

俺は右手を強く握り、

 

 

「俺がやられるかあああああァァァ!!!」

 

 

ドゴオオオオォォォ!!!

 

 

地面に向かって正拳突きを放つ。

 

 

パリンッ!!

 

 

 

 

 

そして、魔法陣を破壊した。

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

覆面は後ろに下がり、尻もちをつく。

 

 

「ま、魔法を……破壊した……!?」

 

 

「だったらどうする?」

 

 

「あ、ありえねぇ……!」

 

 

「あっそ。じゃあ……」

 

 

俺は覆面の襟首を掴み、ニヤリと笑う。

 

 

 

 

 

「一回、死んで来い☆」

 

 

 

 

 

最後の覆面は地面に埋めてやった。銀行の床に埋めてやった。本当に埋めてやった。どんな風に埋めたかは想像に任せる。

 

 

 

 

 

_______________________

 

 

【黒ウサギ視点】

 

 

黒ウサギは顔を真っ赤になっていた。

 

 

大樹が銀行強盗と戦ったことは知っていた。その場から動かず、ウサ耳を通して状況を理解して見守っていた。が……。

 

 

 

 

 

デートの邪魔しやがってえええええェェェ!!!

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

大樹の言葉を思い出し、黒ウサギの顔がさらに真っ赤になる。

 

 

『え?事情聴取?』

 

 

大樹の会話がウサ耳に聞こえているが、それどころではない。

 

 

『いや、俺、待たせている人が……』

 

 

(大樹さんは……私のことを……!)

 

 

『あ!見て見てUFO!っと見せかけてダッシュッ!!!』

 

 

(か、かかかか彼女だと……!)

 

 

「黒ウサギいいいいいィィィ!!」

 

 

「は、はい!?」

 

 

思考を中断し、後ろを振り返ると大樹が走って来た。

 

黒ウサギは大樹を見た瞬間、笑顔に!

 

 

「スマン!警察に捕まりそう!」

 

 

ちょっと笑顔にはなれなかった。

 

 

_______________________

 

 

「ふぅ……ここまで来れば追いつかれないだろう」

 

 

「な、何かあったんですか?」

 

 

俺と黒ウサギはある程度走った後、公園のベンチに座っていた。

 

 

「ああ、人助けしたら警察に捕まりそうになった」

 

 

「大変ですね~」

 

 

「だね~っじゃねぇよ!大事だっつうの!何で俺が捕まるんだよ!」

 

 

大樹は怒ったように言うが、実際は全く怒っていない。むしろ、

 

 

「ったく……今日は楽しい1日だな」

 

 

不幸な事件も含めて、楽しんでいた。

 

黒ウサギも大樹の顔を見て頬を緩める。

 

 

「そういや美琴と出会った時も、あんな感じだったな」

 

 

「大樹さんって……実は不幸を呼び寄せる体質ですか?」

 

 

「どこの上条だよ」

 

 

それから黒ウサギと大樹は話をした。

 

昔のこと。この世界のこと。友達のこと。

 

たくさん話した。

 

 

「あ、そうだ!忘れるところだった!」

 

 

大樹はポケットに手を入れて小さな袋を出す。

 

 

「はい、プレゼント」

 

 

「え?」

 

 

突然のことに黒ウサギは驚く。

 

 

「ど、どうしてですか?」

 

 

「ど、どうして……って言われてもなぁ……」

 

 

大樹は腕を組んで悩んだ。

 

 

「んー、俺が()()であげてるからなぁ……」

 

 

「す、好き!?」

 

 

「待て待て待て!?何で【インドラの槍】を出した!?」

 

 

しまった!?動揺してつい!

 

黒ウサギは急いでギフトカードに戻す。

 

 

「あ、開けても……?」

 

 

「別にいいよ」

 

 

黒ウサギは丁寧に小さな袋を開ける。

 

中には綺麗な銀色のハート型のロケットペンダントだった。

 

 

「写真は入ってないから、好きなモノを入れていいよ。ほら、友達の写真とかさ」

 

 

「……………」

 

 

「……い、嫌だったか?」

 

 

「え!?ち、違います!嬉しいですよ!ありがとうございます!」

 

 

「そ、そうか……」

 

 

大樹はホッと安堵の息を吐く。

 

 

(大樹さんからのプレゼント……)

 

 

初めてのプレゼントだった。大樹から貰うのは。

 

 

「中には何でも入れていいんですよね?」

 

 

「黒ウサギのモノだしな」

 

 

「……では」

 

 

黒ウサギはニッコリと大樹に微笑んだ。

 

 

「好きな写真、入れさせていただきます!」

 

 

ペンダントの中身はもう決まっていた。

 

 

 

_______________________

 

 

【大樹視点】

 

 

「ご注文は何になされます?」

 

 

黒ウサギとデート(だったらいいなぁ)から翌日の日曜日。いつものように店を開店していた。お昼時で客はなかなか多い。

 

俺はお客さんに注文を聞く。

 

 

「この日曜日限定定食を貰おうかな」

 

 

「私も」

 

 

「お待たせ致しました」

 

 

「「はやッ!?」」

 

 

俺は注文の確認をする前に持ってくる。常連客でもやっぱり驚く。ふッ、実は君たちがこの店に入った瞬間に作っていたのさ!

 

客は俺の作ったハヤシオムライスを食べて一言。

 

 

「「うめぇ!?」」

 

 

「ご老夫婦方。寿命が縮むぞ」

 

 

ここ、老人立ち入り禁止にしようかな?

 

実は最近、ケーキ以外の品物も販売している。これが出来るようになったのは理由がある。

 

 

「大樹さん」

 

 

コック服を着た黒ウサギがこちらに近づいて来た。

 

 

「あの……あちらの客が」

 

 

「またクレーマーか……」

 

 

黒ウサギは気まずそうな顔で伝える。

 

ここ最近、俺の料理に嫉妬して文句をいう奴がいるのだ。

 

 

「プランC、入りまーす」

 

 

俺は店内に聞こえるような声で言う。ちなみにプランCは屠るというわけではないからな?

 

CはクレーマーのCのことだ。

 

 

(ここは俺の店だぞ?馬鹿だな)

 

 

俺はクレーマーのいる席の前まで行く。

 

 

「すいません。どうかなさいましたか?」

 

 

「どうかなさいました?っじゃねぇーよ!この日曜日限定のハヤシオムライスが不味いんだよ!」

 

 

「兄貴の言う通りだ!」

 

 

あぁん?お前の舌、腐ってんじゃねぇの?っと言いになるが我慢した。

 

 

「すいません、新しいのを持ってきます」

 

 

「新しいのを持ってきますっじゃねぇよ!美味いモノ持って来いって言ってんだよ!」

 

 

「兄貴の言う通りだ!」

 

 

うぜぇ……。

 

 

「で、では新しくて違うモノを持ってきますね」

 

 

「新しくて違うモノを持ってきますねっじゃねぇよ!全部お前の料理は不味いって言ってんだよ!金返せ!」

 

 

「兄貴の言う通りだ!」

 

 

埋めたい!!コイツら埋めたい!!!

 

 

(さっきから俺の言葉を復唱してんじゃねぇよ!)

 

 

この金髪が!あとお前同じことばっか言ってんじゃねぇよチビ!!

 

……………さて、そろそろか。

 

 

「大樹さん!」

 

 

ハイ、キタコレ。

 

 

「全員商店街の方たちでしたのですぐにできました」

 

 

「今度あいつらには50%引きだなちくしょう」

 

 

「今度50%引きだなちくしょうっじゃねぇよ!舐めてんのか!?」

 

 

「兄貴の言う通りだ!」

 

 

カチャッ

 

 

俺は笑顔でポケットから果物ナイフを取り出した。

 

 

「「え?」」

 

 

クレーマーの二人が凍り付いた。

 

 

「こうなったら思い知らせないとなぁ~」

 

 

俺は右手でナイフを回転させながらキッチンに戻る。

 

 

「はい、うどん」

 

 

俺はすぐに料理をして、うどんを持って戻って来た。

 

 

「「……え?」」

 

 

「食え」

 

 

「「…………え?」」

 

 

「食えって言ってんだよ」

 

 

俺は笑顔でクレーマーに言う。

 

 

「食えって言ってんだよっじゃ

 

 

「食え」

 

 

「兄貴の言う通

 

 

「食え」

 

 

俺は腕を組んで告げる。

 

 

 

 

 

「食わなきゃ……………殺す」

 

 

 

 

 

果物ナイフを右手に持ちながら殺気を放って言ってやった。

 

 

「「ひッ!?」」

 

 

クレーマーの顔が青ざめる。これでも殺気は抑えた方だが……やり過ぎたか?

 

 

「オーダー入りました。黒ウサギ、確認してくれ」

 

 

「はい!うどん、そば、ラーメンの麺のフルコースの後はご飯のフルコースである……」

 

 

「待ってくれ!そんなに食べ切れない!」

 

 

「あ、兄貴の言う通りだ!」

 

 

俺の言葉に黒ウサギはオーダーを確認する。しかし、途中で止められた。

 

 

「アッハッハ……………食え」

 

 

「「……………」」

 

 

「食わなきゃ殺す」

 

 

「「は、はい」」

 

 

地獄巡りが始まった。俺の料理で。

 

_______________________

 

 

「「すいませんでした!!」」

 

 

店の前で俺と黒ウサギに腰を折って謝るクレーマー。周りの人たちは拍手をしている。やめろ、照れるじゃないか。

 

 

「まぁ許してやるよ。あ、コレ胃薬な。死ぬなよ」

 

 

よく俺のフルコース地獄を完食したな。黒ウサギもすごいって言ってたな。

 

 

「遠慮せずまた来い。デザートくらいサービスしてやる」

 

 

「また来てくださいね!」

 

 

「「はい!また来ます!黒ウサギさん!」」

 

 

「ん?俺は?」

 

 

何故だ。何故俺じゃないのか。

 

 

「よう坊主!半額ありがとな!」

 

 

「待て魚屋のおっちゃん。アンタはさっき店にいなかったはずだ」

 

 

「大ちゃん、アタシは天ぷら定食ね」

 

 

「八百屋の姉ちゃん。前のツケ払えよ」

 

 

「よーす、今日も可愛いね黒ウサギちゃん」

 

 

「次セクハラしようとしてみろ。お前の肉屋潰してやる」

 

 

俺は次々と問答無用で店に入って来る奴らに挨拶?していく。もういいや。最近こいつらのおかげで儲かっているし。

 

俺たちがケーキ以外のモノを作れるようになったのは商店街の人たちから食材を貰うからだ。

 

そのお返しに俺たちその食材を料理して安く提供する。お互いに利益のある関係を築いている。

 

 

「いや~、楢原君が来てからうちの商店街は賑やかになったのう」

 

 

「あ、お爺さん」

 

 

店を貸してくれたお爺さんが話しかけてきた。

 

 

「これからも頑張ってくれ」

 

 

「まかせろ!ってどさくさ紛れて店に入ってんじゃねぇよ!」

 

 

「今日くらいはいいじゃないですか?入院でずっとお店は閉めていたんですから」

 

 

黒ウサギがそう言うなら……まぁいいか。仕方ない。

 

 

「な、楢原君?」

 

 

「ッ!?」

 

 

げ、幻聴が聞こえたような気がする。だが、後ろを振り返ると幻聴でないことが分かった。

 

 

「優子ッ!?」

 

 

「もう大丈夫なの!?怪我!?」

 

 

優子は俺の腕に巻かれた包帯を見て驚く。

 

 

「い、いや……もう大丈夫だ」

 

 

「でも、黒ウサギさんと原田君から聞いた話だと心臓を

 

 

「黒ウサギッ!そこにならえッ!」

 

 

俺は黒ウサギに説教を……ってもういねぇ!?

 

黒ウサギはすでに店の中で働いていた。逃げたな。

 

 

「今日はどうしたんだ?商店街に何か用か?」

 

 

「うん。友達と一緒にお昼ご飯を食べに来たの。この近くに人気の店があるから」

 

 

ライバル店登場か。後で視察に行こう。

 

そう言って優子は後ろにいる二人の人物を見る。ん?どこかで見たことある………あ。

 

 

「こ、こんにちは」

 

 

「こんにちは」

 

 

二人が俺に挨拶をする。思い出した。学校の校門で揉め事を起こしたA組の人たちだ。

 

 

「あ、あの!」

 

 

「は、はい!?」

 

 

突然一人の女の子に迫られ驚く。何?俺、告白されてフラれるの?いや、何で告白して来たのにフラれるんだよ、俺。

 

 

「あの時はありがとうございました!」

 

 

「お、おう……別にいいよ」

 

 

「1-A!光井(みつい)ほのかです!」

 

 

「な、楢原大樹です。E組です」

 

 

「「……………」」

 

 

何だこれ。

 

耳が隠れないように左右に分けて、首の位置からヘアゴムでふたつにした長髪の女の子。光井ほのかと気まずい空気になる。

 

 

「私もあの時は助かりました。ほのかと優子と同じ、1-Aの北山(きたやま)(しずく)です」

 

 

「そりゃよかった」

 

 

こっちは真逆の性格だな。落ち着いた感じのする子だ。てか、二人とも可愛いな。美少女の部類に余裕で入るわ。何?A組ってそういうクラスなの?すごく入りたいんだけど。

 

 

「ほのかと雫が生徒会に楢原君の誤解を話してくれたのよ」

 

 

「そうだったのか。ありがとうな」

 

 

優子に教えられて、俺は素直に二人にお礼を言う。光井の方は頬を赤くして、北山はうなずいた。

 

 

「そういえば昼飯はいいのか?」

 

 

「大丈夫よ。ここだから」

 

 

俺の質問に優子は指を差す。

 

 

俺の店を。

 

 

「……………ようこそ、うちの店へ」

 

 

「え?」

 

 

首を傾げる優子に笑顔で出迎えた。

 

 

_______________________

 

 

「今日はタダでいいよ。好きなモノ、何でも頼め」

 

 

俺は優子と光井と北山に注文を取る。だが、優子は申し訳なさそうな顔をしている。

 

 

「で、でも……迷惑じゃ?」

 

 

「かけまくってくれ。むしろかけろ。罵ってください」

 

 

「大樹さん。優子さんを怖がらせないでください」

 

 

優子に優しく言ってやったが黒ウサギに注意された。

 

 

「お兄さんのお店が赤字になったりしないんですか?随分安い価格ですけど?」

 

 

「本当だ!ケーキが100円で売ってる!」

 

 

北山の言葉を聞いた光井はすぐにメニューを見て驚く。

 

 

「今は黒字どころか真っ黒字だ。というか、お兄さんって何だ?」

 

 

俺は北山の兄にはなった覚えなんか無いんだが……。あと光井。それ、もやしで出来てるケーキだからな。

 

 

「黒ウサギさんが妹なので」

 

 

「ま、まぁそうだけど……そこは」

 

 

お兄さんは嫌なので、俺が呼び名を変えようとする。だが、

 

 

「ガッハッハ!!お嬢ちゃん!黒ウサギちゃんは坊主の妹なんかじゃないぞ!」

 

 

魚屋のおっちゃんが酔っぱらいながら言ってきた。チッ、酒を持参していやがったか。ここは酒の持ち込み禁止だっつうのに。

 

 

「せいッ!!」

 

 

ゴスッ

 

 

「ぐふッ!?」

 

 

とりあえずおっちゃんを黙らせる。奥さん、後は頼みました。

 

 

「えッ!?じゃあ……もしかして妻!?」

 

 

すげぇ。日本記録を更新する勢いで話が跳躍した。

 

 

「そうなのですよ!黒ウサギと大樹さんは……!」

 

 

「違うだろ!?そういう関係じゃ

 

 

ガゴンッ!!

 

 

その時、顔に衝撃が走った。

 

 

「ないんッ!?」

 

 

黒ウサギが銀のトレーで俺の顔を思いっきり強打した。俺はそのまま勢いに任せて後ろに倒れる。

 

 

「大樹さんの鬼悪魔外道朴念仁ッ!!」

 

 

「そこまで言う!?」

 

 

めっちゃ傷ついた!

 

 

「黒ウサギは厨房に行きます!大樹さんは床を舐めて掃除してください!」

 

 

「変態じゃねぇか!?」

 

 

「女湯に入って来る人を変態と呼ばず、何と呼ぶんですか!?」

 

 

「今その話を蒸し返す!?っておい!そこの三人!帰るな!!」

 

 

とりあえず三人の誤解を解く。だが、冷ややかな目線が送られるのは変わらない。

 

すると、北山が気を遣ってくれて話を変えてくれた。

 

 

「話を戻しますと変態と呼ぶ理由は明らかです」

 

 

「戻ってない。何一つ戻ってない」

 

 

俺の尊厳も戻ってこないよ。いや、もう消滅したかも。

 

 

「頼む。変態は止めてくれ。あ、お兄さんも禁止。同じ学年なんだから普通に名前で呼んでくれ」

 

 

「達也さんと同じことを言いますね。そんなにお兄さんが嫌ですか?」

 

 

逆に呼ばれたいと思う奴はいるのかよ。……多分どっかにいるな、そんな奴。

 

 

「俺は嫌だ。というか、達也を知っているのか」

 

 

「はい。深雪に紹介してもらったんです」

 

 

「なるほど」

 

 

俺は話しながら空いている席。優子の隣に座る。優子は嫌な顔一つせず許容してくれた。

 

 

「まぁ北山と光井も俺のことは名前でいいよ。敬語も無しで」

 

 

「雫。私のことも名前でいい」

 

 

「分かった。光井もほのかでいいか?」

 

 

「は、はい!お願いします!」

 

 

お、おう。ほのかは何でさっきから顔が真っ赤なんだ?俺、何か怒らせた?

 

 

「やったよ、雫!」

 

 

「よかった。それより名前で呼んでいいか聞いてみたら?」

 

 

何かこそこそ会話してるけど聞こえてるよ?内容理解できないけど。べ、別に頭が悪いわけでは無いんだからね!

 

 

「あ、あの……大樹さん……って呼んでいいですか?」

 

 

「ああ、別にいいけど」

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

俺が承認した瞬間、ほのかは満面の笑みでお礼を言った。守りたい、この笑顔。

 

 

「……楢原君。ニヤニヤしてるわよ」

 

 

「えッ……いや、そんなこと……にゃいよ?」

 

 

「動揺し過ぎよ」

 

 

優子に睨まれ、不覚にも噛んでしまった。

 

 

「大樹さん!」

 

 

俺と優子が気まずい空気になっていると、黒ウサギが店の玄関から俺を呼んだ。

 

 

「どうした?」

 

 

俺が店のドアを開けると、そこには黒ウサギと

 

 

「あ、こんにちは!大樹君!」

 

 

「久しぶりだな。君は風紀委員だと自覚しているのか?」

 

 

生徒会長と風紀委員長がいたので、

 

 

バタンッ

 

 

黒ウサギを店に入れてドアを閉めた。めでたしめでたし。

 

 

「……………黒ウサギ。そういえば新入部員勧誘期間はどうなった?」

 

 

「ま、まだ続いているかと……昨日も実はあったんですよね」

 

 

「あれ?休みじゃなかったのか?」

 

 

「一般生徒は休みです。ですが、風紀委員が……」

 

 

「ま、まじか……」

 

 

「「……………」」

 

 

ここで取る行動はただ一つ。

 

 

「逃げる!……ってうぎゅッ!?」

 

 

逃げようとしたが、床に倒れてしまった。いや、体が重くなって立てなくなってしまった。

 

 

(か、加重系の魔法か!?)

 

 

店内でなんてことをしてくれてんだ。

 

 

「今度は逃がさないぞ、大樹君」

 

 

「摩利か……怪我人になんてことをしてんだよ……」

 

 

魔法を使ったのは摩利だった。摩利と真由美は店の中に入って来る。

 

 

「頼む、殺さないでくれ。事情があったんだ。命だけは……」

 

 

「お前は私を何だと思っている。私は殺人鬼か」

 

 

「え?違うの?」

 

 

「大樹君?」

 

 

「ごめんなさい」

 

 

ヤバい。摩利のプレッシャーヤヴァい。

 

 

「摩利、魔法解いてあげたら?大樹君は本当に怪我をしているんだから」

 

 

「そ、そうだった……スマン、今すぐ解こう」

 

 

「それなら必要ない」

 

 

真由美と摩利の会話に首を振る。

 

 

「何故なら……この程度なら余裕で立ち上がれるからだよ~ん!」

 

 

俺は何倍にも跳ね上げられた重力にも関わらず、軽々と立ち上がった。

 

 

「う、嘘……」

 

 

ほのかが静かに声を漏らす。

 

 

「鍛えてますから」

 

 

「何でそんなにドヤ顔で言うんですか……」

 

 

俺の行動に驚くみんな。だが、黒ウサギだけは呆れていた。何故だ。

 

 

「大樹さんが鍛えるって時々じゃないですか」

 

 

「失礼な。たまにだ」

 

 

「変わってません!」

 

 

知ってる。

 

 

「大樹君……それ以上鍛えたら化け物になるわよ?」

 

 

「真由美。心配してるのか?蔑んでるのか?」

 

 

「だって!大樹君、心臓をぶちまけ

 

 

「今度は逃がさん!」

 

 

「にぎゃッ!?」

 

 

真由美の言葉を聞いた瞬間、すぐに俺は黒ウサギを捕まえた。絶対に逃げないように帽子を取って、ウサ耳を掴んでやった。

 

 

「黒ウサギ……」

 

 

「違います!原田さんです!」

 

 

「あの野郎……帰ってきたら上半身と下半身を分断してやる」

 

 

原田をどう分解するか考えていると、

 

 

「え?ウサギ?」

 

 

優子が目を見開いて驚いていた。

 

 

「大樹君!手!右手!」

 

 

「はい?」

 

 

真由美の必死の声に俺は首を傾げながら右手を見る。

 

右手には黒ウサギのウサ耳。はて、これがどうしたのだろうか?

 

 

「あ」

 

 

その瞬間、ドッと冷や汗が滝のように流れた。

 

 

「し、雫!あれって!?」

 

 

「うん。多分本物」

 

 

「ええッ!?」

 

 

しまったあああああァァァ!!

 

あの三人は知らないだった!てか客!客もいるし!

 

 

「は、ハッハッハ!こ、これは……作り物だぞ?」

 

 

「い、YES!作り物ですよ!?」

 

 

俺と黒ウサギは引きつった笑顔でみんなを誤魔化す。その言葉に摩利と真由美は何度もうなずく。

 

その時、奥さんに膝枕をされていたおっちゃんが起きた。

 

 

「イテテッ……あれ?黒ウサギちゃん、どうしたんだそのウサm

 

 

「作り物、だッ!!」

 

 

ゴスッ

 

 

「ミンッ!?」

 

 

再び黙らせる。奥さん、後でこのお酒をおっちゃんにあげてください。

 

 

「作り物……だから……ね?」

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

俺の言葉で店内がお通夜状態になってしまう。え、怖い?ちょっと意味分からないですね。

 

 

________________________

 

 

あれから約1時間後。店の客はいなくなり、店内には俺、優子、ほのか、雫、摩利、真由美、黒ウサギの順で丸いテーブルを囲むように座っている。

 

 

「悪いな、俺と黒ウサギ時間を合わせてもらって」

 

 

俺はみんなに謝る。

 

理由は俺と黒ウサギの仕事が一段落するまでみんなは食事を待ってくれていたからだ。

 

 

「気にするな。こちらはタダで食べれるのだから、当然待つに決まっている」

 

 

「摩利……」

 

 

俺は摩利の言葉を聞いて、

 

 

「一銭も払う気が無いの間違いじゃないのか?」

 

 

「……明日、生徒会に大量の書類が届く。大樹君にはそれをプレゼントしよう」

 

 

「やめろ!」

 

 

明日休もうかな?

 

 

「ねぇ……もう食べない?」

 

 

そして、優子の言葉でやっと食事が始まった。

 

 

「うん!やっぱり美味しいわね、大樹君の料理!」

 

 

「当然だ。だって俺だもん」

 

 

真由美の素直な感想に俺は嬉しくなる。こんな風に喜ばれると今度は何に挑戦するか考えるのも楽しいな。

 

 

「でも、白いハンバーグって不気味ですよね……」

 

 

「ほのか、見た目より味だ。これ大事」

 

 

「でも、白はないだろ……」

 

 

摩利は皿にのった白いハンバーグをフォーク切るだけで食べていない。

 

 

「じゃあ赤にする?」

 

 

「それは焼けてないの間違いではないのか?」

 

 

「あとは……緑だ」

 

 

「だから何故そんな変な色になるんだ!?」

 

 

「決まってるだろ…………俺だからだ!」ドヤッ!

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

「あれ?ここで笑いが……おりょ?」

 

 

目から汗が……止まらないよ……。

 

 

「……………」

 

 

「優子さん?どうかしましたか?」

 

 

優子は白いハンバーグを見ていたが、いつまでも食べないでいた。心配になって黒ウサギが声をかける。

 

 

「……ねぇ、食べていいのよね?」

 

 

「食べていいに決まってるだろ。遠慮するな」

 

 

優子は俺の言葉を聞き、フォークでハンバーグを切る。そして、一口サイズに切ったハンバーグを口にする。

 

 

「……………」

 

 

「お、美味しいか?」

 

 

俺は無言で食べる優子が怖くなって聞く。不味いって言われたら……首吊ろう。

 

 

「アタシ……これ食べたことあるかも」

 

 

「ッ!?」

 

 

優子の俺は目を見開いた。

 

 

「1回や2回じゃない……何回も!」

 

 

「優子さん!もしかして……!」

 

 

「黒ウサギ」

 

 

「あッ……」

 

 

俺は名前を呼んで止める。今、人が多い。ここでいろいろとバレるのは良くない。

 

 

「なぁ優子。もし良かったらさ……毎日店に来てくれないか?」

 

 

「え?」

 

 

「学校がある日でも来ても構わないから」

 

 

「そ、そんな迷惑……!」

 

 

「迷惑じゃねぇよ。俺と黒ウサギは優子と一緒にご飯を食べたいんだ」

 

 

俺はそう言って優子に向かって微笑む。

 

優子は少し思考した後、

 

 

「た、たまに……行くわ」

 

 

「ああ、楽しみにしてる」

 

 

優子は頬を赤く染めて俯いた。俺は嬉しさが表情に出ないようにコーヒーを飲んで顔を隠す。

 

 

「もしかして今の……プロポーズ!?」

 

 

「ぶふッ!?」

 

 

真由美の一言にコーヒーを噴き出す。

 

 

「何言ってんだ!?」

 

 

「だって木下さんに『毎朝、俺の味噌汁を作ってくれ』ってことでしょ?」

 

 

「違う!しかも、作るのは俺だ!」

 

 

何でそうなった!?

 

 

「楢原君。もちろん、私たちも毎日行っていいよな?」

 

 

「はぁ?俺は優子を

 

 

「書類」

 

 

「毎日来てくれ」

 

 

雑務には勝てなかった。

 

________________________

 

 

みんなが帰り、俺と黒ウサギはキッチンで食器を洗っていた。秘技、高速皿洗い!

 

 

「大樹さん」

 

 

「ん?」

 

 

俺は皿を洗うのを一度止めて黒ウサギに耳を傾ける。

 

 

「優子さん……覚えてましたね」

 

 

「覚えてるのは記憶じゃなくて感覚ってやつだけどな」

 

 

「それでも……嬉しかったです」

 

 

「まぁ……俺も嬉しいけど」

 

 

正直、あの時はパーティを開きたいくらい嬉しかった。

 

でも、あそこで無理に思い出させても優子が困るだけ。関係を悪化させたくなかった。

 

 

「優子さんを呼ぶのも少しずつ思い出して貰うためですよね」

 

 

「ああ、そう簡単には行かないと思うが」

 

 

「大丈夫ですよ」

 

 

黒ウサギはこちらを向いて満面の笑みを俺に見せる。

 

 

「絶対に思い出します!」

 

 

「アホ」

 

 

「え!?何でこのタイミングで馬鹿にするんですか!?」

 

 

黒ウサギは驚き、怒っていた。

 

 

「『思い出す』じゃなくて『思い出させる』んだ」

 

 

「……大樹さん」

 

 

俺はそう言って再び皿洗いをする。

 

必ず、絶対に思い出させてみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大樹さん、そのお皿さっき洗いましたよ」

 

 

「……二回洗うことによって菌を確実に殺すんだ。シェフの鏡だな。ハッハッハ!」

 

 

「あっちのお皿。洗っていませんよね?」

 

 

「……スマン」

 

 




感想や評価をくれると嬉しいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。