どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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頑張りました。以上です。

続きをどうぞ。


残酷に染まる自分

「な、何でお前らがここにいる!?」

 

 

風紀委員会本部に森崎の大声が響き渡る。森崎は俺と達也を交互に指をさしながら驚いていた。

 

 

「森崎……いくらなんでもそれは非常識だろう」

 

 

達也は端末を閉じながら溜め息を吐く。

 

俺も同じように溜め息を吐きながら言う。

 

 

「全くだ……風紀委員として自覚を持て」

 

 

「テーブルにトランプを広げて遊んでいるお前に言われたくない!!」

 

 

何だよ。黒ウサギとトランプで遊んで何が悪いんだよ。

 

 

「それに風紀委員としての自覚を持つならお前らの服装をどうにかしろよ!」

 

 

俺と黒ウサギはいつも通りフード付きパーカを着ていた。先程から周りの先輩方の視線が痛い。

 

 

「これは生徒会からちゃんと認めてもらった服装だ。意義があるなら真由美に言ってくれ」

 

 

「嘘をつくな!お前らが風紀委員だなんて……!」

 

 

スパンッ!!

 

 

森崎の後頭部に軽い衝撃が襲い掛かった。

 

 

「いッ!?」

 

 

「やかましいぞ新入り」

 

 

叩いたのは摩利だった。

 

 

「風紀委員の会議に風紀委員以外いるわけがないだろう?その程度のことぐらい分かっておけ」

 

 

「申し訳ありません!」

 

 

森崎はすぐに腰を90°に曲げて謝る。

 

 

「だがトランプをする非常識は裁かないといけないな?」

 

 

「ドンマイ、達也」

 

 

「大樹。人の所為にするのはよくないぞ」

 

 

「その通りだ。君はこの会議が終わるまで空気椅子だ」

 

 

ダメージが俺だけデカくない!?

 

 

「あ、あのう……黒ウサギは?」

 

 

「大樹君が代わりにやってくれるさ」

 

 

というわけで、俺は空気椅子をした状態で両手に水が入ったバケツを持たされる。つ、つらすぎる!!

 

 

「だ、だが俺なら……た、耐えられる!」

 

 

「「「「「おおぉ……!」」」」」

 

 

風紀委員の先輩方は俺を見て驚く。いや、いいから会議はよ。

 

その時、部屋のドアが勢いよく開いた。

 

 

「すいません!遅れてしまいました!」

 

 

「遅いぞ木下!罰として大樹の罰を追加する!」

 

 

「何でだよ!?」

 

 

優子が入室して来たと同時に俺の頭の上と両膝の上に一つずつ水入りバケツが追加された。ああああああァァァ!!!

 

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 

優子は俺の隣に座り、小声で謝った。

 

 

「いいさ。優子のためなら例え地獄の業火の中。深海の底にだって助けに行くさ」キリッ

 

 

「大樹君が木下を口説いたため、肩に二つ追加だ」

 

 

「ちくしょおおおおおおォォォ!!」

 

 

両肩の上に水入りバケツ追加!これで合計6個のバケツを持ったことになる。し、死ねる……。

 

 

「早くッ……会議を……!」

 

 

「まずは新しく入った新入りを紹介

 

 

「1-E!楢原大樹!特技は料理!仲良くしてくれ!以上!」

 

 

「わ、私が紹介するつもりだったんだが……」

 

 

摩利が紹介するよりも早く、俺は自己紹介を済ませた。

 

 

「1-E!な、楢原黒ウサギです!大樹さんの助手をやっております!」

 

 

「い、いやだから」

 

 

「1-E。司波達也です」

 

 

「1-Aの木下優子です。教職員推薦枠で今日から入ることになりました。よろしくお願いします」

 

 

「………最後、自己紹介しろ」

 

 

み、みんな……!俺が早く解放されるために、すばやく自己紹介してくれた。か、感激だぁ……。

 

 

「1-Aの森崎駿です!木下さんと同じ教職員推薦枠で今日から風紀委員として活動させていただきます!まだ入学したてなので分からないことが多々あります。なので、先輩方の厳しいご指導よろしくお願いします!」

 

 

長い長い長いぞ!森崎!!!だが、いい挨拶だ!

 

だが、自己紹介をしたというのに拍手ひとつ無かった。理由は、

 

 

「委員長、戦力になるんですか?」

 

 

一人の風紀委員が手を挙げ摩利に質問した。手を挙げた風紀委員は俺と黒ウサギ。そして、達也を見ていた。

 

 

「はぁ………そこにいる三人の実力は確かだ。特に楢原大樹は私と服部を同時に相手をして、勝利している」

 

 

「「「「「なッ!?」」」」」

 

 

ドヤッ(`・ω・´)

 

 

「不満がある奴は戦って見ればいい」

 

 

「一瞬で楽にしてやるぜ?」

 

 

「「「「「やめておきます!」」」」」

 

 

俺は笑み(ゲスな顔)を浮かべてやった。すると風紀委員の先輩方は首を高速で横に振った。

 

 

「他に質問はないか?」

 

 

………………誰も手を挙げなかった。まぁ俺は挙げたくても挙げれないけどなッ!

 

 

「ないなら新入り以外はただちに出動!!」

 

 

「「「「「はいッ!!」」」」」

 

 

先輩方は立ち上がり、右手を握り絞め、左胸に強く叩いた。先輩方はすぐに部屋から走って立ち去った。

 

 

「4人にはまずこれを渡しておこう。大樹君はもうやめていいぞ」

 

 

「だぁッ!!……やっと解放された……!」

 

 

俺は急いでバケツを降ろし、床に座り込む。そして、摩利から腕章と一つの機械を手渡される。優子、達也、森崎も貰っていた。だが、黒ウサギは貰えなった。助手だからな。そんな寂しそうな顔するなよ。

 

 

「これは何だ?」

 

 

「ビデオレコーダーだ。違反行為を見つけたらすぐにスイッチを入れろ」

 

 

俺の質問に摩利はお手本をスイッチの場所を教えながら説明する。なるほど、これで証拠に使えるな。

 

 

「質問があります」

 

 

「許可する」

 

 

達也の質問に摩利はうなずく。

 

 

「CADは委員会の備品を使用してもいいでしょうか?」

 

 

ああ、模擬戦が終わった後に俺と黒ウサギと達也で風紀委員本部を綺麗に掃除したときに出てきたCADのことか。

 

 

「構わないが、理由は?」

 

 

「あれは旧式ですがエキスパート仕様の高級品ですよ」

 

 

マジかよ。

 

 

「そ、そうなのか!?」

 

 

摩利も知らなかったのかよ。何やっての風紀委員長。

 

 

「では、この二機をお借りしますね」

 

 

「二機?」

 

 

「ん?投げ用?投げ用か?投げ用だろ?」

 

 

「それは大樹君だけだ……」

 

 

摩利の疑問に俺が答えてみたが、嫌な顔された。

 

 

「そういえば大樹さん。新しいCADは新調したんですか?」

 

 

黒ウサギが尋ねる。投げて壊したCADのことを言っているのだろう。

 

 

「そんな金なんかねぇよ。あの後、拾って直したよ」

 

 

俺は懐からボロボロになったCADを見せる。

 

 

「「「「「えぇ……」」」」」

 

 

ドン引きであった。優子と森崎も俺のCADを見てドン引きだった。

 

 

________________________

 

 

摩利がどこかへ行った後、達也と森崎はすぐに巡回に言った。残ったのは

 

 

「優子、一緒に巡回しようぜ」

 

 

「……………」

 

 

「ん?どうした?」

 

 

俺は優子が無反応だったため、どうしたのか聞いてみる。

 

 

「楢原君。前もアタシのことを名前で呼んでいたわね」

 

 

「ああ、そうだが……嫌だったか?」

 

 

「そういうことではないけれど……何で名前で呼ぶのかしら?」

 

 

「そ、それは……」

 

 

俺は言葉を濁す。

 

いきなり「俺と優子は婚約者なんだ」(願望)とか言えねぇよ。………ごめん。見栄を張ったわ。

 

 

「前世では優子は姫で俺は村人だったんだ」

 

 

「……接点はあったのかしら?」

 

 

「俺の罪が重すぎて処刑されるときに3秒だけ目が合った」

 

 

「犯罪者だったの!?最悪の印象じゃない!?」

 

 

「まぁ姫のパンツを盗んだらそうなるわな」

 

 

「変質者!?死んで当然じゃない!!」

 

 

日本の憲法ならパンツを盗んだぐらいじゃ死刑にはされねぇ!

 

 

「大樹さん!あまり変なこと言わないでください!」

 

 

「ごめんなさい」

 

 

俺は素直に謝り、黒ウサギにまかせる。

 

 

「妹の黒ウサギさんだったわね」

 

 

「YES!黒ウサギとお呼びください!」

 

 

元気よく黒ウサギは返事をした。よし、最初の掴みはOKだ。

 

 

「大樹さんは変な人で奇行なことをたくさんしていますが、根はいい人なのですよ!」

 

 

よし、俺の印象はK.O.された。

 

 

「それは分かっているわ。うちのクラスを助けてくれたのでしょ?」

 

 

よかった……まだ生きてるよ、俺。

 

 

「よければ黒ウサギたちと行動しませんか?もっと仲良くなりたいのですが……」

 

 

「そうね。特に巡回する時の人数は決まっていないからいいわよ」

 

 

よっしゃああああああァァァ!!!

 

俺は優子に見えないようにガッツポーズをした。

 

 

________________________

 

 

「メーン!」

 

 

「ドーウ!」

 

 

第二小体育館では剣道部が新入生に稽古を見せていた。会場の真ん中では剣道部員が竹刀を上から下へ振っていた。

 

 

「剣道部か……」

 

 

俺たちは室内の巡回をしていた。俺は剣道部を見て目を細めた。懐かしむという気持ちはなかった。出てくるのは嫌な思い出だけだった。

 

 

「楢原君?」

 

 

気が付けば俺の顔の前に優子が顔があった。

 

 

「ど、どうした?」

 

 

俺は驚きの動揺を隠しつつ、尋ねる。

 

 

「どうしたって、アタシがずっと話しかけているのに楢原君がずっと遠い目をしているから心配しているのよ?」

 

 

「わ、悪い……」

 

 

「……まぁいいわ。それで、剣道部が気になるの?」

 

 

優子は俺の横に立ち、一緒に剣道部員を見る。

 

 

「昔、剣道部に入っていたんだ。今はやめたけどな」

 

 

「懐かしいのかしら?」

 

 

「それはないかな」

 

 

俺は後ろを振り向き、端末を取り出した。端末には学校の見取り図が映し出される。

 

 

「ここは問題なさそうだし、違う場所に…………なぁ、黒ウサギはどこだ?」

 

 

俺の近くにいるのは優子だけだ。

 

 

「あそこよ」

 

 

優子は剣道部員たちを見る。視線の先には、

 

 

「こ、こうですか?」

 

 

「ええ、合ってるわ」

 

 

黒ウサギは竹刀を握り、黒髪のポニーテールの女の子に剣道を教えてもらっていた。

 

 

「仕事サボってんじゃねぇよ……」

 

 

「あの子、自分から体験しに行ったわよ」

 

 

「……まぁいいけどよぉ」

 

 

でも、何でそんなことしたんだ?

 

 

「まぁいい、とりあえず迎えに行くか」

 

 

俺は黒ウサギのいる会場まで歩いて行く。

 

が、その時、

 

 

「うわッ!?」

 

 

剣道の防具を着た人が勢いよく吹っ飛ばされていた。

 

 

「優子」

 

 

「分かってるわ」

 

 

俺の声よりも早く、優子はすぐにビデオレコーダーにスイッチを入れた。

 

どうやらトラブル発生のようだ。

 

 

「オイオイ、演武に協力してやっただけだぜ?」

 

 

「そんなこと頼んでいないわ!」

 

 

中央で男と先程の黒髪のポニーテールが揉めていた。

 

 

「剣術部の時間まで待ちなさい、桐原(きりはら)くん」

 

 

「そうだぞ桐原。ちゃんと待つんだ」

 

 

「考えて見ろよ、壬生(みぶ)。俺たちが無償で協力してやるんだから……って誰だお前!?」

 

 

ナチュナルに会話に入って来た俺に桐原は驚愕する。壬生と呼ばれた黒髪ポニテの女の子も驚いていた。

 

 

「どうも、風紀委員だ」

 

 

「「ッ!」」

 

 

俺はフードを取り、肩に付けた腕章を見せつける。桐原は嫌な顔をして、壬生は安堵の息を吐いた。

 

 

「ここで連行されるか連行されろ」

 

 

「選択肢がない!?ってお前、二科生(ウィード)じゃねぇか!」

 

 

よくここで堂々と言えたな。摩利がいたらお前殺されたぞ。

 

 

「はいはい、剣術部は下がった下がった。ついでに新入生からの好感度も下がった下がった」

 

 

「んだとぉ!?二科生(ウィード)が調子に乗ってんじゃねぇッ!!」

 

 

桐原の後ろに控えていた剣術部の部員。そう、モブの一人が大声を上げ、モブたちが俺を囲みだした。トラブルが起きる前に解決……できそうにないな。

 

 

二科生(ウィード)一科生(ブルーム)に……」

 

 

「喧嘩を売ったらどうなるか……」

 

 

「教えてやるッ!」

 

 

お前らセリフでも決めてたの?気持ち悪いんだけど。

 

俺が呆れていると、桐原以外の剣術部員たちが竹刀を持って俺に向かって来た。

 

 

「オラッ!」

 

 

スカッ

 

 

「このッ!」

 

 

スカッ

 

 

「フンッ!」

 

 

スカッ

 

 

「今日の夕飯何しようかなぁ?」

 

 

俺は次々と来る竹刀の攻撃を簡単にかわしていく。夕飯のメニューを考えられるほど余裕。

 

 

「おい!何やってんだお前ら!」

 

 

桐原が俺とモブの戦いを見て怒鳴る。

 

 

「いい加減退場してくれないか?迷惑だぞ?」

 

 

「ふざけるなよ……こんな惨めな様を見られて下がれるか!」

 

 

桐原は左腕についたCADを操作する。

 

 

その瞬間、魔法が発動した。

 

 

ギイイイイイイイィィィッ!!!

 

 

「「「「「うッ!?」」」」」

 

 

ガラスを引っ掻き回したような不愉快な音が会場全体に襲い掛かった。周りにいた生徒が耳を抑えてながら苦しむ。

 

音源は桐原の持っている竹刀からだ。

 

 

(振動系・近接戦闘用魔法の【高周波ブレード】……)

 

 

完全記憶能力で覚えた知識を脳から引き出す。あれは殺傷ランクBの魔法だ。

 

 

「……………」

 

 

俺は無言で竹刀を見る。

 

 

普通の竹刀でも人を殺せる。

 

 

それに殺傷能力が高い魔法を加えるなんて……。

 

 

 

 

 

ふざけてんじゃねぇよ。

 

 

 

 

 

「お前は人殺しがしたいのか?」

 

 

「は?何言って……」

 

 

その瞬間、俺は桐原との距離を一瞬で詰めた。そして、

 

 

ガシッ!!!

 

 

大樹は桐原の持っている竹刀を素手で掴んだ。

 

 

魔法が発動しているのにも関わらず。

 

 

バキンッ!!!

 

 

「なッ!?」

 

 

そのまま掴んだ右手で竹刀を潰す。

 

同時に魔法が暴発して竹刀がバラバラになった。桐原はその光景に驚愕する。

 

 

ザシュッ!!

 

 

暴発の衝撃で竹刀の破片が飛び散り、大樹の頬に当たった。

 

赤い血が流れ出す。竹刀を持った手からも血が流れていた。

 

 

「……………」

 

 

「ッ!?」

 

 

俺の顔を見た桐原は顔が青ざめ、後ろに下がる。

 

……一体俺はどんな表情をしているだろうか。怖い顔だろうか。いや、多分違うだろう。

 

悲しい顔……醜い顔をしているはずだ。

 

 

「クソがッ……」

 

 

小さく吐き捨てる。これはただのやつあたりだ。桐原が魔法を発動したぐらいで俺がここまで怒り狂う必要性が全くないはずだ。

 

まだ、自分は過去を引きずっている。

 

つくづく最低だな、俺は。

 

 

「はぁ……」

 

 

「大樹さん!!」

 

 

俺が血で濡れた右手を見ていると、黒ウサギが駆け寄って来た。

 

 

「怪我してるじゃないですか!?」

 

 

「大丈夫だ、このくらい」

 

 

「そんなわけないですよ!」

 

 

黒ウサギは白黒のギフトカードを取り出し、優しい光がカードから溢れ出す。光は太陽の日差しのように暖かった。

 

 

「大樹さんは剣道をやっていたんですよね」

 

 

「……覚えてたのか」

 

 

「黒ウサギはあの日、聞いた話したことは忘れませんよ」

 

 

あの日とは俺が全てを話した日。同時に大事な人が三人、消えてしまった日でもある。

 

 

「大樹さんは今でも剣道は嫌いですか?」

 

 

「……もう好きにはなれないな」

 

 

優しい光に当たった傷口。俺の頬にあった傷口が閉じていく。手の傷も治ってる。

 

 

「そうですか……剣道をすれば大樹さんの気持ちが少しでも分かると思ったんですが、無駄でしたね」

 

 

「ッ……」

 

 

黒ウサギは無理に笑みを作る。その顔を見た俺は心がひどく痛くなった。

 

俺のために剣道をしてくれたのか。

 

 

「……そのギフトは治癒か何かの類か?」

 

 

「白夜叉様に貰った恩恵です。軽い怪我ならすぐに治せる凄いギフトですよ」

 

 

優しい光は消え、黒ウサギはギフトカードを直す。俺の傷は傷痕などは残らず、綺麗に元通りになっていた。

 

 

「今度の休日……どこか遊びに行こうか」

 

 

「えッ!?」

 

 

黒ウサギは動きを止め、目を見開く。

 

 

「い、いいのですか?」

 

 

「ああ」

 

 

「ちゃんとビデオレコーダーに声を取りましたからね!」

 

 

「信用度0かよ……」

 

 

黒ウサギは預けておいたビデオレコーダーを取り出す。いつからスイッチ入れてた。

 

 

「楢原君!大丈夫!?」

 

 

「すまない大樹。人混みが多くて遅れてしまった」

 

 

優子が連れてきたのは達也だった。後ろにはエリカもいる。

 

 

「大樹君!救急箱持ってきたわよ……ってアレ?手の怪我は?」

 

 

「もう問題ないぞ」

 

 

エリカは救急箱を持っていた。だが、俺の右手を見て首を傾げていた。あまり余計なことは言わないでおこう。

 

 

「桐原先輩。魔法の不適正使用のため風紀委員会本部までご同行お願いします」

 

 

「……ああ」

 

 

桐原は抵抗せずに達也についていく。周りの剣術部員は誰一人騒ぎ立てなかった。

 

 

________________________

 

 

「本当にびっくりしたわよ大樹君!」

 

 

「はいはい、ごめんなさいね、本当に」

 

 

何回も同じことを言っているエリカにちょっと呆れてきた。俺は早く達也が帰ってくるように願っている。

 

 

「もう、いきなり魔法を掴むとかありえないんだから!」

 

 

「そうか?」

 

 

普段から銃弾や刃物を掴んできたから実感ねぇわ。ヤバい、人間から遠ざかっている気がする。はい、そこ手遅れとか言わない。

 

隣では優子もうなずいて肯定していた。

 

 

「それについては同感ね。あの場にいた生徒全員が楢原君の行動に引いていたわよ」

 

 

「何かこの学校に来て好感度下がってばっかだなオイ」

 

 

恋愛ゲームなら告白した瞬間殺されるレベルである。詰んでんじゃん。

 

 

「でも、無事で良かったわ。アタシの得意魔法はあんな場所では使えないから困っていたのよ」

 

 

「「えッ!?魔法使えるの(ですか)!?」」

 

 

「待って。私、一応学年次席なんだけど?」

 

 

俺と黒ウサギは驚愕する。

 

優子は能力は全く使えない一般人はずだ。なのに、

 

 

(この世界に来て魔法が使えるようになったのか?原田も使えるようになったし、筋は通る。だけど……)

 

 

相手の目的が全く分からなくなった。

 

原田は、美琴たちを殺したくても殺せない。だから、転生させたと考えた。

 

今、優子の様子を見て俺は新たな仮説を立てる。美琴、アリア、優子を他の世界に飛ばし、記憶を消すことで俺たちの戦力を確実に削る。だと思った。

 

だが現在優子は魔法が使える。しかも、学年次席の実力をつけてしまった。これでは俺の方が有利だ。

 

 

「優子、もしかして首からペンダントをかけていないか?」

 

 

「え?な、何で知っているの?」

 

 

俺の質問に優子は瞬きを何度もして驚く。

 

 

(神の道具を取り上げてすらいない……)

 

 

敵は俺がバトラーに負けると思ったからか?いや、それでも一つや二つ小細工はするのが普通だ。俺はゼウスから力を貰った男。必ず最悪なケースを考えるはずだ。

 

だが、記憶を消す。それだけの細工しかしていない。

 

 

(俺の考えすぎか?)

 

 

現在、それ以外の最悪な状況にはなっていない。優子に危害を加えようとする者もいない。

 

念のため、俺は優子に確認を取る。

 

 

「そのペンダント、見せてくれないか?」

 

 

「い、いいけど……何で知っているのか教えなさいよ」

 

 

さて、どんな嘘を言おうか?……じゃあ、

 

 

「さっき前かがみになった時に服の中が見えt

 

 

この後、無茶苦茶酷い目にあった。

 

________________________

 

 

優子は顔を真っ赤にさせながら服の内側からペンダントを取り出す。俺は真っ赤に腫れた顔を近づけて確認する。

 

 

(間違いない。神に貰ったペンダントだ)

 

 

ひし形のクリスタル。完全に一致する。

 

 

「昔から持ってるけど、どこで貰ったのか拾ったのか記憶にないのよね」

 

 

「そうか……ってちょっと待て」

 

 

俺は優子の言葉に疑問を持つ。

 

 

「昔からって、そんなに前から持っていたのか?」

 

 

「そうだけど?」

 

 

俺は右手を顎に当てて思考する。

 

昔の記憶。それはねつ造された記憶でまず間違いないだろう。

 

 

(記憶の消去とねつ造……)

 

 

まさか、優子を元からこの世界で生まれたことにしたいのか?

 

 

「楢原君?」

 

 

相手の考えが分からず、険しい顔をしていた俺に優子が様子を伺う。エリカも黒ウサギも心配している。

 

 

「わ、悪い……ごめんな、変なことを聞いて」

 

 

「別にいいけど……あ、戻って来たみたいよ」

 

 

優子は俺の後ろを見て言う。振り返ると達也が歩いて帰って来た。

 

 

「報告してきたか?」

 

 

「……それなんだが」

 

 

俺の言葉に達也は難しそうな顔をして、

 

 

「大樹と黒ウサギは本部から呼び出しが掛かった」

 

 

俺と黒ウサギは互いに顔を見て、首を傾げた。

 

 

________________________

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

ここは第一高校部活連本部。そこで俺と黒ウサギは、

 

 

正座していた。

 

 

正面には【三巨頭】と称される三人。摩利と真由美。そして、十文字(じゅうもんじ)克人(かつと)がいた。

 

十文字は全クラブ活動の統括組織『部活連』の会頭だ。

 

 

ピッ

 

 

摩利はビデオレコーダーの音声にスイッチを入れる。

 

 

『今度の休日……どこか遊びに行こうか』

 

『えッ!?い、いいのですか?』

 

『ああ』

 

 

「「……………」」

 

 

俺と黒ウサギは顔を真っ赤にする。

 

 

「大樹君、君は仕事中だというのにデートに誘うのか?」

 

 

「マジですいませんでしたあああああァァァ!!!」

 

 

頭を勢いよく床につけて謝罪。ここまで綺麗な土下座を見たことがあるだろうか?

 

 

「それに君は魔法を素手で掴むなど非常識にも程があるぞ。魔法師になるなら魔法師らしく魔法で対処したまえ」

 

 

「それができたら苦労しねぇよ!」

 

 

「「え?」」

 

 

しまった!?

 

 

「クローン竹刀って出来ると思います!?」

 

 

「「どういうこと!?」」

 

 

「……どうやら事情があるようだな」

 

 

おお!十文字会頭は鋭いなちくしょう。

 

 

「大樹君……もう楽になっていいのよ?」

 

 

「まるで俺が犯罪を犯したみたいな雰囲気になってませんか?」

 

 

真由美が優しく言う。やめろよ。

 

 

「大樹君が常軌を逸していることはちゃんと分かっている。楽になれ」

 

 

「分かるなよ。あと楽にならねぇよ」

 

 

摩利も優しく言う。もう本当にやめて。

 

 

「大樹さん、もうお伝えした方が……」

 

 

「……………約束しろ。俺の言ったことは誰にも言わないと」

 

 

俺の約束に十文字が口を開く。

 

 

「内容による」

 

 

……………。

 

 

「……十文字がこう言っているので言いません」

 

 

「十文字!そこは『分かった』と適当に言っておいていいのだぞ!」

 

 

「摩利!お前には絶対に言わないからな!」

 

 

俺は三人を野生動物のように睨み付ける。もういっそのこと食ってやろうか?

 

 

「ガルルルルルッ!!」

 

 

「大樹さん、味方は多いほうがいいですよ?」

 

 

「シャアアアアアッ!!」(あいつらは信用できねぇ!)

 

 

「大丈夫ですよ。みなさん、優しいお方たちですよ」

 

 

「ワンワンッ!!」(でも!)

 

 

「黒ウサギも一緒に居ますから」

 

 

「……チュー」(……そこまで言うなら)

 

 

俺はしぶしぶ三人に視線を戻す。

 

 

「ねぇ摩利……今の会話って」

 

 

「よせ、きっと次元が違うんだ」

 

 

真由美と摩利はヒソヒソと内緒話をしていた。やめろよ、ちょっと遊んだけだろ。

 

 

 

 

 

「はぁ……実は俺、魔法が使えないんだよ」

 

 

 

 

 

「「「……………」」」

 

 

無言はやめろよ。怖いだろ。

 

 

「「ええッ!?」」

 

 

真由美と摩利が遅れて驚く。

 

 

「魔法が使えないって達也君

 

 

「達也以上に魔法が使えない」

 

 

真由美の質問にいち早く俺が絶望的なことを伝える。

 

 

「大樹君……ここがどんな高校か知っているか?」

 

 

「あ、魔法科高校でしたね。うっかりうっかり」

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

もう沈黙がつらいよ。

 

 

「……………アディオス!!」

 

 

「あ!大樹君!?」

 

 

俺は黒ウサギを抱きかかえ、別れの言葉を告げて逃走。真由美が止めるが無視した。

 

 

「……本当に変わった人ね」

 

 

真由美はビデオレコーダーの映像を見る。

 

 

映像には大樹が桐原の竹刀を掴む映像が流れていた。

 

 

「……………」

 

 

真由美は暗い顔になる。摩利も横から見て目を細める

 

 

大樹の表情は怖い顔だが、

 

 

 

 

 

口元は……一瞬だけニヤリと笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

________________________

 

 

「フン~~♪フフン~~~♪」

 

 

授業が終わり生徒は帰宅、もしくは部活をする。

 

帰宅部の俺は特に用事が無いのでとっとと帰ることにする。黒ウサギは美月とエリカの三人で女子だけの買い物に行った。達也と深雪は生徒会と風紀委員の仕事があるみたいだし、結果一人になった。

 

ちなみにレオは分からない。どこに行ったんだろうアイツ。

 

ん?「お前も風紀委員だろ」って?うん、サボってんだよ。

 

夕日が差し込み、オレンジ色の光が廊下を照らす。そんな道を鼻歌を歌いながら歩く。ご機嫌な理由は、

 

 

(フッフッフ、あれから優子とも携帯端末の番号も交換することもできたし、順調順調)

 

 

今度デートでも誘ってみようかな?ぐへへへッ。

 

 

「楢原くん」

 

 

「ん?」

 

 

俺の後ろから声が掛けられる。

 

振り向くと黒髪のポニーテールの女の子。剣道部員の壬生がいた。黒ウサギに剣道を教えてくれた子だ。

 

 

「初めましてっかな?」

 

 

「まぁそうだな。妹が世話になったな」

 

 

「黒ウサギさんのことね。大丈夫よ。あのくらい」

 

 

壬生はにっこり微笑み返す。このよく見たらかなりの美人だな。

 

 

「壬生紗耶香(さやか)です。楢原君と同じE組よ」

 

 

E組ということは俺と同じ二科生か。壬生には一科生のエンブレムが無い。

 

 

「この前は助けてくれてありがとう。お礼も言わずに黙って帰ってごめんなさい」

 

 

「気にするな。風紀委員の仕事だからな」

 

 

「でも、お礼はしたいわ。今から少し付き合ってもらえるかしら?話したいことがあるし」

 

 

昔の俺なら「もしかして俺のこと……好きなんじゃ!?」とか勘違いしていただろう。だが、こんな俺でも学習はする。これは友情を深める誘いだ。大樹、お前に青春は来ない。

 

 

「わ、分かった。じゃあ近くのカフェに行こうか」

 

 

動揺してるわー、俺。

 

 

________________________

 

 

「単刀直入に言います。剣道部に入りませんか?」

 

 

「うん……大体予想出来ていた……」

 

 

クラブ活動新入部員勧誘期間だしな。ぐすんッ。

 

 

「悪いけど風紀委員の仕事とか店があるから」

 

 

「入ってくれるだけでいいの!お願い!」

 

 

「は、入るだけ?」

 

 

俺は壬生の言葉を理解できなかった。

 

 

「……魔法科高校では成績で優劣が決まるわ」

 

 

壬生は静かに語る。俺は黙ってそれを聞く。

 

 

「授業で差別されるのは仕方ないと思う。でも、全て差別されるのは間違っていると思う」

 

 

「……………もしかして、部活のことか?」

 

 

壬生は静かにうなずいた。

 

 

「クラブ活動まで魔法の腕が優先なんて間違っている。魔法が上手く使えないからって……あたしの全てを否定させはしないわ」

 

 

「……………」

 

 

俺はまだこの学校に来たばかりだ。だが、魔法を使う部活と魔法を使わない部活。どちらが優遇されているかぐらいは分かる。

 

魔法を使う部活だ。

 

特に魔法競技系は一番予算を使っていることぐらいは分かる。

 

 

「だから、私たちは非魔法競技系クラブで部活連とは違う組織を作ろうとしているの。そして、あたしたちの考えを学校に伝えるつもりよ」

 

 

「組織って……!」

 

 

学校に反抗して、テロリストみたいじゃないか。

 

 

「あなたは二科生でありながら風紀委員になった。あなたが私たちの組織に入れば大きな戦力になる!学校側もきっと……!」

 

 

「差別の撤廃を受け入れるかもしれないってか」

 

 

俺の言葉に壬生はまたうなずく。

 

 

「多分無理だな」

 

 

「え?」

 

 

俺は首を振って壬生の意見を否定した。

 

 

「学校側は何も動かない」

 

 

「そんなのやって……!」

 

 

「みなくても分かる」

 

 

「ッ!」

 

 

俺は残り少ないコーヒーを一気に飲み干す。

 

 

「俺たちの待遇改善を要求したところで何も変わらない」

 

 

「……どうしてそう言い切れるの?」

 

 

「生徒会がどう頑張っても実現できなかったからだ」

 

 

「えッ!?」

 

 

壬生は俺の言葉に驚愕する。

 

 

「生徒会長は差別撤廃を目指して

 

 

 

 

 

刹那。俺は体が凍り付くように固まった。

 

 

 

 

 

それは、恐怖で、だ。

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

それでも俺は無理矢理立ち上がり、後ろを振り向く。

 

 

「ど、どうしたの?」

 

 

「………話はまた今度だ。じゃあな!」

 

 

「ちょ、ちょっとッ!?」

 

 

俺は一方的に壬生に別れを告げ店を出て行く。会計は壬生に奢ってもらうつもりだったが、テーブルにはしっかりとお金を置いていった。

 

 

(今の気配……!!)

 

 

俺は音速のスピードで上に向かって飛ぶ。

 

 

ドンッ!!!

 

 

飛んだ衝撃で道にはクレーターが出来る。

 

 

(間違いない……バトラーとリュナのような神の力の気配……)

 

 

奴らはこの世界に来ている。

 

 

太陽は沈み、街は暗闇に包まれる。フードを取ると、街の全貌を見やすくなった。

 

敵は見つからない。

 

俺は一度ビルの屋上に着地し、携帯端末を取り出す。そして、一瞬で決められたナンバーを打つ。電話の相手は、

 

 

『はい、もしもし?』

 

 

「原田!あいつらはもうこの世界に来てるかもしれない!」

 

 

『ッ!』

 

 

俺の短い言葉に原田はすぐに事態を察した。

 

 

「作戦通り、原田と黒ウサギは優子を見張り、守ってくれ!俺は奴らをッ!」

 

 

だが、続きの言葉は言えなかった。いや、言う必要がなかった。

 

 

「……………よぉ」

 

 

俺は静かに携帯端末を閉じる。

 

 

「堂々とを羽根を広げて、誰かに見られてもいいのかよ?」

 

 

携帯端末をポケットにしまう。そして、

 

 

「裏切り者がッ」

 

 

ギフトカードから二本の刀を取り出した。

 

俺の目の前には白い翼を広げた女の子がいた。もちろん、白い羽を散らしながら飛んでいる。

 

女の子は小柄だった。身長はアリアとあまり変わらないだろう。髪は若紫色をしており、髪型はショートカットだ。

 

服装は暗い茶色の大きなコートを着ている。小柄な少女は無理に着ているためブカブカだ。袖から手が出ていない。

 

 

ガチンッ!!!

 

 

女の子は一瞬にして俺との間合いを詰め、袖の中から槍が出てきた。槍が暗殺武器だと思わせるほどだった。その証拠に狙いは俺の喉。俺は両手に持った刀をクロスさせ、受け流した。

 

女の子はそのまま俺の横をすり抜け、槍を袖の中に隠す。

 

 

「随分物騒な槍を持ってんな」

 

 

俺は距離を取りながら女の子を睨む。

 

槍の大きさは女の子の身長の2倍はあると推測する。そして、

 

 

重い一撃だった。

 

 

それは明確な殺意を表す。

 

 

女の子は未だに何も喋らない。

 

 

「どうやら俺は平和に解決することは無理なようだ」

 

 

俺は苦笑いで言った。

 

 

________________________

 

 

【達也視点】

 

 

俺は風紀委員会本部にいた。風紀委員長の摩利から仕事を押し付けられ仕事をしていた。

 

 

「……………」

 

 

俺は昨日の話し合いを思い出す。

 

 

『大樹は……この世界の人間なのか?』

 

 

俺は大樹にそう尋ねた。だが、

 

 

大樹は何も答えなかった。

 

 

結局、その言葉が最後の話し合いの言葉となった。

 

それから、俺たちはすぐに解散した。誰一人その話題に触れない。触れられなかった。

 

 

大樹の無言。それは肯定を表していたからだ。

 

 

俺はキーボードを操作してモニターを出す。

 

 

(住民票、戸籍、出身中学校など大樹に関する情報は一切無かった)

 

 

俺は仕事をすぐに終えて、学校のプログラムにハッキングしていた。もちろん、大樹について調べている。

 

 

(あるのは名前、年齢、住所)

 

 

情報がもう無い。あきらかに手詰まりだ。

 

 

「これはッ」

 

 

俺はある情報に目を光らせる。項目はCAD調整装置の使用履歴だった。

 

 

(これがあの瞬間移動(テレポート)の魔法式か)

 

 

俺は残っていた情報を端末に移す。家に帰って分析してみようと思ったからだ。

 

 

(それにしてもこの魔法式……)

 

 

構造がすごかった。いや、おかしいと言った方が合っているだろう。

 

現代の魔法式とは全く逆の発想で作られており、誰も思いつかないような方式が埋め込まれていた。

 

 

(適当に作られているに見えるが全然違う。緻密に計算され、繊細に作られている)

 

 

天才……いや、鬼才の魔法師を越えている実力だ。だが、

 

 

(何で計算式がこんなにバラバラなんだッ!?)

 

 

俺は頭を抑える。特にこの部分は小学生でも間違えない数式。何故間違えた。

 

 

ピピピッ

 

 

机の上に置いていた携帯端末が着信音を鳴らす。

 

 

「はい」

 

 

『あ、達也さん。お仕事中にすいません』

 

 

相手は大樹の妹?黒ウサギだった。

 

 

「大丈夫だ。どうした?」

 

 

『大樹さんはそちらにいませんか?』

 

 

「大樹?いや、いないが……どうした?」

 

 

俺の質問に黒ウサギはすぐに答えなかった。

 

 

『……大樹さんの場所が全く分からないんです』

 

 

「……どういう意味だ?」

 

 

俺は再度問う。だが、

 

 

『い、いえ。なんでもありません。お仕事中、すいませんでした!』

 

 

そう言って通話が切れてしまった。

 

 

『大樹君と連絡がつかないのか?』

 

 

「渡辺先輩ッ!?」

 

 

いつの間にかモニターには摩利の顔が映し出されていた。後ろには生徒会長も見える。通信は生徒会室からのようだ。

 

 

『頼んでおいた仕事は終わったか?』

 

 

「はい。すぐにそちらに送ります」

 

 

俺はキーボードを操作して、生徒会室にある端末にデータを送る。

 

 

「それよりも、どこから聞いていたんですか?」

 

 

『大樹君の名前を君が口に出した時からだ』

 

 

「……盗み聞きは性質が悪いですよ」

 

 

『それより、今日はもう解散だ。終わっていいぞ。それと大樹を見つけたら報告しろ』

 

 

摩利はそう言い残し、一方的に通信を切った。

 

 

「木下、今日は終わりだそうだ」

 

 

「分かったわ」

 

 

俺は後ろで作業していた木下に声をかける。木下は端末を閉じ、返事を返す。

 

 

「お疲れ様、司波君」

 

 

「ああ、お疲れ様」

 

 

そう言って木下は立ち上がり、部屋を出ようとs

 

 

ドゴンッ!!!

 

 

「木下あああああァァァ!!!!」

 

 

「きゃあッ!?」

 

 

「ッ!?」

 

 

いきなり扉が勢いよく開き、誰かが入って来た。

 

 

「よ、よかった……無事か」

 

 

「た、確か原田だったよな?」

 

 

俺は息を荒げた原田に確認を取る。

 

 

「ああ、そうだ」

 

 

「な、何!?この人!?」

 

 

原田は肯定する。木下は尻もちをつき、驚いていた。

 

 

「クソッ、こっちが無事となると大樹の方かッ!」

 

 

「な、楢原君?楢原君がどうしたの?」

 

 

原田は壁に拳を強く当てて悔しがる。木下は苛立っている原田に尋ねる。

 

 

「……何でも無い。司波、木下を家まで送ってもらえるか?」

 

 

「構わないが深雪も一緒でも

 

 

「何でもいい。木下を安全に家に帰してくれ」

 

 

俺の言葉を聞く前に原田は了承する。

 

原田は携帯端末を開き、ナンバーを押す。

 

 

「……………なぁ司波」

 

 

「何だ?」

 

 

原田は携帯端末を耳に当てながら低い声で俺に尋ねる。

 

 

「黒ウサギがどこにいるか知らないか?」

 

 

「いや、分からないが……さっき俺に電話してきたぞ」

 

 

その瞬間、原田の表情が変わった。

 

 

「いつだ!?いつ電話してきた!?」

 

 

「2、3分前ぐらいだったはずだ」

 

 

原田の顔に汗がダラダラと流れる。顔は青ざめ、今にも倒れそうだ。

 

 

「……じゃあ何で」

 

 

原田は静かに言葉を言う。

 

 

「何で出ねぇんだよ……電話にッ……!」

 

 

「ッ!?」

 

 

俺はただ事じゃないことを察する。

 

 

 

 

 

「やられたッ……!もしかしたら敵の狙いは黒ウサギかもしれねぇッ!」

 

 




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