どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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続きが完成しました。

新しい小説を書き始めました。

詳しくは後書きに書きます。

続きをどうぞ。


正義見参と退場

今日も素晴らしいくらい良い天気。

 

快晴です。

 

でも俺の心は生憎曇りです。だって、またフード被らなきゃいけないじゃないか。まぁ黒ウサギは年中だから俺より何倍もいいか。ウサ耳取り外し可能だったらいいのに。

 

 

「よぉ達也、美月、エリカ」

 

 

「おはようございます」

 

 

俺と黒ウサギは席に座っている三人に挨拶する。今日もフードを被って登校。もう誰か太陽を吹っ飛ばしてくれませんか?もう風紀委員に追いかけられるのイヤなんだけど?

 

原田とはクラスが別だ。何で一緒にならなかったって?原田が手続きミスったらしい。あいつ所々抜けてるところがあるからなぁ。

 

俺が原田のことを心の中で笑っていると、達也はIDカードを端末にセットした。目の前に画面が現れる。それを見ていたエリカが尋ねる。

 

 

「何するの?」

 

 

「選択科目の履修登録。さっさとやってしまおうと思って」

 

 

達也はキーボードで次々と打ち込んでいく。

 

 

ピピピピピピピピピピピピピッ

 

 

とんでもない速さで。

 

 

「き、キーボードで手打ち登録……」

 

 

「しかもすごい速さ……」

 

 

エリカと美月は驚く。

 

俺はそんな達也を見て、達也の後ろの席に着き、IDカードを端末にセット。画面が展開する。

 

 

「大樹さん?」

 

 

ピピピピピピピピピピピピピッ

 

 

俺もキーボードで打ち込んでいく。

 

 

「対抗してるし……」

 

 

エリカは苦笑い。周りの人たちもそんな俺を見て笑っている。ていうかクラス全員俺を見て笑っていた。

 

対抗?なんのことだろう。ただ俺は、

 

 

「よし、学校のサーバーにハッキングした」

 

 

「「「「「ちょッ!?」」」」」

 

 

クラス全員が驚いた。達也もキーボード操作を放棄してこちらを振り向く。

 

俺は最近買った携帯を取り出し、ある人物に電話する。

 

 

「原田。そっちに情報を送っておいた。確認しておいてくれ」

 

 

『了解』

 

 

そう言って俺は通話を切る。

 

 

「まぁ冗談だけどな」

 

 

「「「「「うざッ!?」」」」」

 

 

さっそくクラス全員に嫌われたよ。

 

 

「何だよ……俺も履修登録してただけなのに……」

 

 

「大樹君だとやりそうだよね」

 

 

「俺ってそんな悪そうな人に見える?」

 

 

天才でイケメンと呼ばれたこの僕を?あ、すいません調子に乗りました。

 

 

「すげー」

 

 

そんな会話をしているとさっきから俺たちを見ていた男が感想を漏らした。

 

 

「キーボードオンリーの入力なんて初めてでさ」

 

 

「慣れればこっちのほうが早いんだ」

 

 

(え?キーボード以外に何にかあるのか?)

 

 

達也と男の会話に疑問を抱く。世間知らずな俺に教えてちょんまげ。あ、すいません調子に乗りました。さっきから謝ってばっかだな。

 

 

「あ、自己紹介してなかったな。西城(さいじょう)レオンハルトだ」

 

 

「趣味はスカートめくり」

 

 

「違げぇよ!ねつ造するな!」

 

 

俺はレオンハルトの自己紹介を邪魔する。

 

 

「彼女は男性も可」

 

 

「嫌だよ!?女の子がいいに決まってんだろ!」

 

 

「ただし、10歳以下のみ限る」

 

 

「ロリコンじゃねぇよ!?」

 

 

「好きな食べ物は女の子のパンt

 

 

「やめろ!!クラスの視線が痛いだろうが!!」

 

 

このままだと『お断り5』にランクインしそうですね。でも、やめない。

 

 

「レオンハルトって名前長いからポニーって呼んでもいいよな?」

 

 

「良くねぇよ!?何でポニーなんだよ!?」

 

 

「マイケルがいい?」

 

 

「レオでいいよ!!」

 

 

「オーケー、レオ。もう少し静かにしようぜッ☆」

 

 

「誰のせいだ誰の!?」

 

 

オレ~オレオレオレ~♪……ハッ!?

 

 

「レオって10回言ってみて」

 

 

「は?」

 

 

「早く早く」

 

 

「……レオレオレオレオレオレオレオレオレオレオ!」

 

 

「『レオ』が『オレ』って聞こえるね」

 

 

「しょうもなッ!?」

 

 

「俺とお前は仲良くできそうだな」

 

 

「どこ見てそう思った!?」

 

 

キーン、コーン、カーン、コーン

 

 

俺とレオが楽しくおしゃべりをしていると予鈴が鳴った。

 

レオは顔をしかめ、俺に向かって一言。

 

 

「クソッ、フードマンめ」

 

 

「オイ待てや。流行ったらどうすんだよ」

 

 

だが、俺の言葉を聞く前にレオは席についた。黒ウサギの場合はどうなるんだよ。フードウーマン?ドラ〇エに出てきそうだな。

 

 

しばらく待つと教室のドアが開き、一人の女性が入って来た。その瞬間、周りがざわつき始めた。

 

 

「どうしたんでしょうか?」

 

 

「二科生が直接指導することは稀なんだよ。だから、みんな驚いてんだろ」

 

 

隣の席に座った楢原さんは聞いてくる。俺の妹っていう設定もあったな、黒ウサギ。

 

 

「皆さん、入学おめでとう。この学校の総合カウンセラー、小野 遥(おの はるか)です」

 

 

スーツを着た女性が教卓の前に立ち、教室全体に聞こえるように話す。

 

 

「皆さんが充実した学生生活を送れるようにサポートしていきますので、よろしくお願いしますね」

 

 

女性はニコリッと微笑み、後ろのディスプレイを操作して画像を映し出す。

 

 

「これから本校のカリキュラムに関するガイダンスの後、選択科目の履修登録を行います。もしも履修登録が完了している人がいるなら退室しても構いません」

 

 

「じゃあ行こうぜ、黒ウサギ」

 

 

「へ?」

 

 

俺は立ち上がり、黒ウサギを呼ぶ。

 

 

「まだ何もしていませんよ?」

 

 

「俺が代わりにしておいたよ」

 

 

「何を選択したんですか?」

 

 

「……………俺と同じやつにした」

 

 

「今の間は何ですか!?」

 

 

「ガーターベルトってエロいよなぁ……」

 

 

「話を逸らさないでください!って何言ってんですか!?」

 

 

そんな会話をしながら二人は教室を出て行く。

 

 

((出づらくなった……))

 

 

とっくに履修登録を済ませた達也と一人の青年はそう思った。

 

 

________________________

 

 

教室を出た後、俺と黒ウサギは学校の構造を調べて時間を潰した。

 

理由はCAD調整装置をこっそり使うためだ。

 

午後の授業もサボり、作戦が決まった。

 

 

「よし、明日になったら原田を呼んで作戦決行だ」

 

 

「何で授業をサボってまで校内を見回ったんですか?」

 

 

「いや、だって」

 

 

黒ウサギの質問に俺は答える。

 

 

「魔法を使う授業に魔法を使えない俺たちが出たらヤバイだろ」

 

 

「そうでしたね……」

 

 

そんなにテンション落とすなよ。いずれ使えるようになるから。多分。

 

授業も全て終わり、放課後になった。

 

俺と黒ウサギはいざ帰ろうとすると、校門で見覚えのある人物がいた。

 

 

「お、達也たちじゃん」

 

 

「……何か揉め事を起こしてるみたいですよ」

 

 

黒ウサギはフード越しから耳を澄ませて話を聞く。

 

対立しているのは1-Eと1-Aだな。

 

 

達也、深雪、美月、エリカ、レオ

 

VS

 

1-A 8人くらい

 

 

おい、戦わせるなよ俺。

 

止めに行かないと。

 

 

「同じ新入生なのに今の時点でどれだけ優れてるっていうんですか!?」

 

 

美月の声がここまで聞こえる。

 

 

「知りたければ教えてやるさ!」

 

 

「おもしれぇ!だったら教えてもらおうじゃねぇか!」

 

 

A組の生徒の挑発にレオが答える。やべぇ、死亡フラグだ。

 

 

「これが……才能の差だ!!」

 

 

ベルトについてある特化型CADをレオに向かって構える。CADは拳銃のような形をしており、銃口を中心にして魔方陣が展開する。

 

 

だが、

 

 

「そい」

 

 

俺は手を叩き、拳銃を落とさせた。

 

 

バチンッ

 

 

「なッ!?」

 

 

CADを構えていた男は驚愕する。

 

俺は魔法を発動すると予想し、発動させる前に急いで男に近づいたのだ。

 

 

「おいおい、何の騒ぎだ」

 

 

「大樹!?」

 

 

レオが驚きながら俺の名前を呼ぶ。

 

 

「大丈夫か、レオ」

 

 

「お前……俺のこと助けt

 

 

「一体誰に痴漢行為したんだ?」

 

 

「……こんな状況でボケれるお前に尊敬するわ」

 

 

この程度の状況で焦らねぇよ。

 

俺は叩き落としたCADを拾い上げ、指でくるくる回す。

 

 

「で、もう一回聞くけど何があった?」

 

 

「お前!僕のCADを返せ!!」

 

 

俺がレオに尋ねていると、後ろからCADを構えていた男が怒鳴ってきた。仕方ない、返してやろう。

 

 

「ほらよ」

 

 

俺はCADを時速180kmのスピードで投げつけた。

 

 

ドゴッ!!

 

 

「がはッ!?」

 

 

「「「「「なッ!?」」」」」

 

 

男は後ろに吹っ飛び、倒れる。その場にいた全員が驚いた。これでもかなり手加減したほうだけどな。

 

俺は溜め息を吐き、A組に向かって言う。

 

 

「このくらいで許しておいてやるよ」

 

 

「ふざけるな!!何が許してやるだ!!」

 

 

当然のように反論が返って来る。

 

 

「ウィードがいい気になってんじゃねぇぞ!!」

 

 

「校則を無視して魔法を使っている連中にアレコレ言われたくないのだが?」

 

 

A組の一人の発言に俺は冷静に返す。そう、これこそ大人の対応。今、よく考えてみれば俺って高校3年生なんだよね。何で1年生なんだろ。

 

 

「大した力も無いくせに威張りやがって……」

 

 

俺は再び溜め息を吐く。俺の態度を見たA組の一人の男が怒鳴る。

 

 

「だったら見せてみろよ!俺たちにウィードがブルームに優れているところを!」

 

 

そういう問題じゃねぇよ。馬鹿なの?死ぬの?

 

だが、いいだろう。

 

 

「黒ウサギ」

 

 

「……何でしょうか」

 

 

ずっと後ろで他人のフリをしていた黒ウサギを呼ぶ。

 

 

「昨日のやつ出来るか?」

 

 

「大樹さんがやってくださいよ」

 

 

「やだよ。俺の物理系しかないもん。雷とかだせないもん」

 

 

「では、空高くジャンプするのは?」

 

 

「友達減っちゃうぞ?」

 

 

「おい!いつまでしゃべってるんだ!!」

 

 

痺れを切らした男は腕輪型のCADをこちらに向ける。

 

 

「こっちから行くぞ……!」

 

 

そして、発動した。

 

 

「これが……才能の差だ!!」

 

 

被ってる被ってる。倒れたやつとセリフ被ってる。

 

 

バチバチッ!!

 

 

俺の周りに放電現象が起きる。

 

 

「鬱陶しいんだよ!!!」

 

 

俺は電撃に向かって拳をぶつけて、

 

 

バチンッ!!

 

 

消した。

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

再び不可解な現象をみた人たちが驚く。俺を痺れさせたきゃ超電磁砲持ってこい。

 

 

「どうした?ネタ切れか?」

 

 

「くッ!!」

 

 

俺のおちょくりに顔をしかめるA組。だが、A組の一人だけ様子が違った。

 

 

「こんなはずじゃない……私はただ司波さんと……!」

 

 

A組の女の子の左手からサイオン光が溢れ出す。魔法を起動したのだ。

 

だが、

 

 

パリンッ!!

 

 

突如、何者かが放ったサイオン弾がA組の女の子の起動式に当たり、魔法をキャンセルした。サイオン弾を撃った人物は、

 

 

「止めなさい!自衛目的以外の魔法による対人攻撃は校則違反以前に犯罪行為ですよ!」

 

 

フワフワに巻いたロングヘアの美少女こと、この学校の生徒会長でもある人物。七草 真由美(さえぐさ まゆみ)だ。

 

そして、隣にはもう一人の人物がいた。そして、俺は知っている。

 

 

「風紀委員長の渡辺 摩利(わたなべ まり)だ。君たちは1-AとEの生徒だな」

 

 

よくも朝は追いかけてくれたなこの野郎。あんたの部下から逃げるのにどれだけ面倒だったか。

 

 

「事情を聞きます。起動式は展開済みです。抵抗すれば即座に魔法を発動します」

 

 

そう言って摩利は右手を前に向ける。それを見たA組は全員顔を青くして下を向いた。

 

 

(ここで黒ウサギが捕まるのはヤバイ……)

 

 

ウサ耳を見られたら終わりだ。てか、さっきから会長様と風紀委員長様がこっちをずっと見てる気がする。怖いわー。

 

 

(ふッ、みんなが助かる方法は一つ)

 

 

俺は前に歩み出り、二人の先輩の前に立つ。摩利はそんな俺を見て微笑む。

 

 

「やっと捕まえたぞ、フードマン」

 

 

「やめろ。今すぐその呼び方をやめろ」

 

 

手遅れだったか。レオめ。覚えておけ。

 

 

「先程、生徒会長は言ったな。自衛目的以外で魔法を使ってはいけないと」

 

 

「え、ええ。言ったわ」

 

 

何で今一歩後ろに下がったんだ会長。傷付くじゃないか。

 

 

「だったら彼らは校則違反じゃない」

 

 

「どういう意味だ」

 

 

俺は後ろにいるA組に指をさす。

 

 

「あいつらは自分のクラスメイトを守るために俺に向かって魔法を発動したんです」

 

 

後ろではA組全員が「何言ってんだコイツ」みたいな目で俺を見る。

 

 

「自分のクラスメイトが襲われていたら助けるのが当然だろ?」

 

 

「……お前はA組に何をしたんだ?」

 

 

その質問を待っていました!!

 

 

「俺はA組の女子に向かってこう言いました」

 

 

俺は両手を変な動きをさせながら言う。

 

 

 

 

 

「お前らの下着の着脱シーンを見てみたいぜグヘヘヘッ!!さらに、お風呂に入っていないお前らの体をk

 

 

 

 

 

その後、俺が大変な目にあったことは言うまでもない。

 

 

________________________

 

 

「やっと終わった……!」

 

 

俺は土下座を繰り返し続けて3時間。ようやく解放された。みんな目が怖かったなぁ。やっぱ俺が二科生だから?いや、変態だからだと思う。

 

達也たちはそのまま捕まることはなく、帰宅してもいいと言われた。俺を除いたみんなは今頃家にいるだろう。

 

あとフード付きパーカーは没収された。もし今の時間に太陽が出てたら死んでいたな。

 

 

「大樹は高校デビューじゃなくて変態デビューを成功させるのであった」

 

 

ごめんよ、母さん。こんな子に育っちゃって。何で今自分で言ったし。

 

俺が校門を抜けようとした時、一人の女子生徒が立っているのが見えた。

 

 

「優子……」

 

 

俺は優子に聞こえないように呟く。

 

優子は記憶喪失だ。だがそれは意図的に記憶が消されたものだ。その場合、俺やみんなを思い出すのは不可能に近い。

 

それだけではない。一番性質の悪い事に優子にはニセモノの記憶をインプットされていることだ。「私はこの街で生まれ、この街で育った」そんな事を。

 

ネガティブなことをずっと考えていると、優子が俺の存在に気付いた。

 

 

「……フードマン」

 

 

「勘弁してくれませんか?」

 

 

優子に言われると他の人より何千倍も心が痛むよ。

 

 

「説教は終わったの?」

 

 

「ああ、もう足が痺れてもげそうだ」

 

 

俺は動揺を隠しながら返事をする。

 

 

「何で嘘を吐いたの?」

 

 

「は?」

 

 

「最初に手を出したのは私のクラスメイトでしょ?」

 

 

あー、見てたのか。

 

 

「まぁそのことは内緒にしておいてくれ」

 

 

「何で二科生が私たちを庇うの?あなたたちにメリットは無いはずよ」

 

 

「メリットならある。俺の友達とA組が怒られずに済んだ」

 

 

「……変わった人ね。二科生ってみんなこうなのかしら」

 

 

「二科生じゃなくて俺が特有なだけだよ」

 

 

俺は自虐しながら笑う。

 

 

(……久しぶりにこんなに話したな)

 

 

1分も話していないのに、時の流れが長く感じた。

 

 

「あ、あのさ!」

 

 

俺は緊張しながら尋ねる。

 

 

「この後、俺の店に

 

 

「遅れてすまない、木下さん」

 

 

誰だ!俺のお誘いをジャマした奴は!?

 

俺は振り向くと、一科生の生徒会副会長、えっと名前が長い人だったな。服部刑部少丞範蔵(はっとりぎょうぶしょうじょうはんぞう)だったな。長ぇ。

 

 

「い、いえ!それよりも仕事の方は?」

 

 

「フードマンの件についてなら会長と風紀委員長が解決したから問題ないよ」

 

 

あぁ、明日からフード禁止ってやつか。本当にやってくれたなオイコラ。

 

服部は俺の存在に最初から気付いている。だからこそ俺に聞こえるように言い、睨み付ける。だが、ここで俺が睨み返して問題を起こすのはNG。俺は目を閉じて、

 

 

「……ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 

 

俺は深く一礼をする。

 

 

「……家まで送るよ、木下さん。もう今日は暗いし」

 

 

「え、でも……」

 

 

服部は俺を無視して歩いて行く。優子は俺を見ていたが、数秒後には目を逸らし、服部について行った。

 

校門には俺しか居なくなった。

 

 

________________________

 

 

「……………」

 

 

夜が明け、また今日も学校に登校する日が来た。そう、登校する時間は朝。つまり、

 

 

俺は路上で倒れていた。

 

 

商店街を出た所までしか歩けなかったよ。昨日フード禁止にされたし……無念。

 

通り行く他の生徒は俺を見るが全員無視する。これが変態への対応か。ちなみに太陽にあたると「熱いよおおお!焼き死んでしまうううう!」っとかではなく、体から力が抜けるっと言った方が正しい。

 

黒ウサギには先に登校させた。フードを被っておくには校門で立っている風紀委員に見つからないこと。風紀委員より早く学校に行かせたのだ。

 

俺は目を開けるのも怠くなってしまい、目を閉じる。その時、

 

 

「ねぇ、大丈夫なの?」

 

 

天使の声が聞こえた。

 

 

「優子……?」

 

 

「そ、そうよ。大丈夫かしら?」

 

 

優子は俺の声を聞き、少し驚く。

 

 

「どうしたの?」

 

 

「……いや、問題ない」

 

 

「プルプル震えてながら道で倒れている人が問題ないわけないでしょ……」

 

 

むしろ大問題だな。

 

 

「頼みが……ある」

 

 

俺は商店街の入り口にある長いロープを指さす。

 

 

「俺を縛って引きずってくれ」

 

 

「アタシの力じゃできないわよ。それに何で引きずらないといけないのよ……」

 

 

それ以外方法が無いからだよ。諦めようとした時、

 

 

「あれ、大樹じゃねぇか」

 

 

「ぽ、ポニー?」

 

 

「レオだ!」

 

 

俺の耳にレオの声が聞こえた。目を閉じているから確認できない。

 

 

「……何やってんだ?」

 

 

「……レオ、頼みがある」

 

 

俺は力がありそうな男。西城レオンハルトにお願いをした。

 

 

________________________

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

学校の生徒全員の目線が俺たちに注がれる。

 

 

「やっぱ受けなきゃよかった……」

 

 

「いいから引きずってくれ……」

 

 

俺は服を汚しながらレオに引きずられていた。優子は一緒にいるのは恥ずかしいといわけで先に行った。

 

 

ちなみに登校できたのはもうお昼を過ぎようとしていた。大遅刻である。

 

 

「何で警察なんかに捕まるんだよ」

 

 

「この状態を見たら誰でも不審に思うわ!」

 

 

警察にまた捕まったせいで俺たちは早く登校出来なかった。この世界の警察は本当に嫌いです。

 

そして、俺たちはやっと教室に着いた。教室に辿り着くまでいろいろと大変だった。特に階段は痛かった。

 

 

「大樹さん!?」

 

 

黒ウサギが急いで俺のもとに駆け付ける。

 

 

「お、お、お、おっはぁ……」

 

 

「全然『おっはー』っじゃありませんよ!?もう『こんにちは』ですよ!?」

 

 

もうまじぃむりぃ。

 

 

「今日は作戦決行日だ……休むわけにはいかぬ!」

 

 

「うつ伏せの状態で言われても説得力がありませんよ……」

 

 

「………こんな状態だが変な事言っていいか?」

 

 

「はい、何でしょう?」

 

 

「………ここはどこだ」

 

 

レオに連れてこられた場所は教室では無かった。

 

みんな端末に手を置いて魔法を発動しているし、前のモニターにはこう書かれている。

 

 

『実技課題』

 

 

「えっと、CADの基本操作をテストする授業ですね」

 

 

「嘘やん……」

 

 

魔法使えんちゃ言うてるやん。

 

俺たちがやるのは台車を魔法でレールの端から端まで3往復させるものだった。

 

 

「エリカさんと美月さんに捕まってしまって……」

 

 

「ほら!大樹くん、黒ウサギ!二人の番だよ!」

 

 

エリカが俺たちに手を振って呼ぶ。

 

 

「どうしましょう……」

 

 

「……仕方ない。行くぞ」

 

 

俺は黒ウサギの手を引っ張り、端末の前に立つ。そのまま手を繋いだ黒ウサギの手を端末にかざさせ、俺は右手を黒ウサギの手に重ねる。それを見たレオが首を傾げる。

 

 

「何で二人で端末に触るんだ?」

 

 

「……面白そうだから止めないでおこう」

 

 

珍しく達也が俺たちに興味を持ったみたいだ。

 

 

「黒ウサギ……俺の演技に合わせろ」

 

 

「え?」

 

 

そう言って俺は左手をポケットの中に入れて、携帯型端末器を操作する。その瞬間、

 

 

この部屋の電気が消えた。

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

レオが驚く声が聞こえる。他のクラスメイトも騒ぎ出していた。

 

だが、10秒も経たずに電気が普及してついた。

 

 

『クリアです』

 

 

「「「え」」」

 

 

俺と黒ウサギの端末からクリアを知らせる声が発せられた。エリカと美月とレオの三人は声に出して驚く。

 

 

「あっれー?停電しただけでクリアになっちゃったー」(棒読み)

 

 

俺は演劇部顔負けの素晴らしい演技を披露する。黒ウサギもハッとなり、

 

 

「そ、そそそそうですね!」

 

 

下手くそか。

 

 

「「「………何した?」」」

 

 

バレた……だと……!?

 

 

「大樹ならとんでもないことをしそうだからな。昨日みたいに」

 

 

「あッ!?」

 

 

達也にそんなことを言われて気付く。

 

A組に向かって剛速球(CAD)を投げたり、魔法を消したりしてたの見られてたわ。

 

 

「ねぇねぇ!何したの?」

 

 

「目をキラキラしながら聞かないでくれ……」

 

 

エリカは目を輝かせながら俺に迫る。

 

 

「魔法を使ったようには見えませんでしたよ?」

 

 

「……あ、ああ。使ってないからな」

 

 

美月の言葉に疑問を持った。何であの暗らい部屋の中で魔法が使ったかどうか分かるんだ?超能力者なの?レベル5なの?

 

 

「俺は停電している間に台車を物理的に3往復させただけだよ」

 

 

「停電させたの間違いだろ?」

 

 

レオ君?余計な事言わないでよ。

 

 

「昨日は迷惑をかけたな」

 

 

「別にいいよ。これから妹さんと正々堂々帰れるじゃないか」

 

 

達也は昨日のことを思い出し、俺に謝る。俺は微笑みながら許す。許すも何も達也たちは最初から何も悪い事はしていないんだがな。

 

 

「ていうか、何で魔法を使わな

 

 

「新作のケーキ作って来たんだ!みんなで食べようぜ!」

 

 

エリカの言葉を掻き消すような声で俺はみんなに呼びかける。エリカの質問にここで答えます。魔法が使えないからです。

 

 

「すまない。今日の放課後、生徒会に行かないといけないんだ」

 

 

「ご愁傷様です」

 

 

「何でですか!?」

 

 

俺は両手を合わせて達也を哀れな目で言う。そんな俺を見た黒ウサギは驚愕する。

 

 

「生徒会に呼ばれるとか絶対嫌なことが起きるな」

 

 

「既に起きてるんだが」

 

 

達也は溜め息を吐く。え、もう?可哀想に。

 

 

「まぁ何かあったら俺に言え。テロくらいは起こしてやる」

 

 

「冗談ですよね?大樹さん、冗談ですよね?」

 

 

さぁ?わかんにゃい☆

 

 

________________________

 

 

【達也視点】

 

 

俺は生徒会室前の扉に妹の深雪と共に立っていた。

 

生徒会に来る理由。それは風紀委員になることを丁重にお断りすることだった。

 

 

(やはり俺にはふさわしくない。丁重に断ろう)

 

 

俺が風紀委員に入るなんて一科生の反感を買ってしまうだけだ。深雪には悪いがここは断らせてもらう。

 

俺はドアに手をかけ、開く。

 

 

「失礼します。司波達也です」

 

 

「司波深雪です」

 

 

俺と深雪は生徒会室に入る。最初に目に入ったのは、

 

 

「司波?」

 

 

始業式で会った生徒会副会長だ。険しい顔をする副会長に俺は何故ここに来たか説明する。

 

 

「妹の深雪の生徒会入りと自分の風紀委員入りの件で伺いました」

 

 

「風紀委員……」

 

 

副会長の目は俺の左胸に向けられた。

 

きっと一科生かどうか確認しているのだろう。

 

 

「よっ。来たな。二人ともご苦労様」

 

 

副会長の後ろにいる風紀委員長の渡辺摩利が俺たちに気付く。そして、副会長は俺の横を通り過ぎ、

 

 

「司波深雪さん。生徒会へようこそ。副会長の服部刑部です」

 

 

俺を無視して、深雪に挨拶した。深雪は顔をしかめるのが分かった。そのまま何も気にするなよ、深雪。

 

 

「それじゃあ達也くん。妹さんは生徒会に任せて我々は風紀委員の本部に移動しようか」

 

 

摩利は俺を案内させようとする。しかし、

 

 

「渡辺先輩、待ってください」

 

 

服部が止めた。

 

 

「その一年生の風紀委員入り、私は反対します」

 

 

服部は冷静に言い放った。

 

 

「過去、二科生(ウィード)が風紀委員に任命された例はありません」

 

 

「それは禁止用語だぞ、服部副会長。風紀委員会による摘発対象だ。委員長である私の前で堂々と使用するとは、いい度胸だな」

 

 

「取り繕っても仕方がないでしょう。それとも、全校生徒の三分の一以上を摘発するつもりですか?」

 

 

摩利の警告に服部は全く動じなかった。むしろ反論までしてきた。

 

 

一科生(ブルーム)二科生(ウィード)の実力差は明白。二科生(ウィード)が風紀委員として一科生(ブルーム)を取り締まることは不可能です」

 

 

「実力にも色々ある。彼の入試成績を知っているか?」

 

 

「成績?」

 

 

摩利の質問に服部は理解できなかった。

 

 

「七教科平均96点の断トツのトップの成績を持ち合わせている」

 

 

「ッ!」

 

 

服部の顔にわずかに驚きが走った。

 

今回、風紀委員に入るきっかけとなったのはこの成績が一つの要因だと言える。もう一つは、

 

 

「妹さんも推薦してくれている。デスクワークなどの作業がすぐに終わること間違いないそうだ」

 

 

あまり嬉しくないことを言われた。

 

 

「それに一科生のみで構成されている風紀委員が二科生も取り締まる。これは一科生と二科生の溝を深める原因になっている。解消するにはいい機会になるかもしれん」

 

 

「たとえそうだとしても、魔法に乏しい二科生に風紀委員は無理です!」

 

 

「待ってください!」

 

 

服部の言葉に今度は深雪が止めた。

 

 

(しまった!)

 

 

俺は慌てて振り返る。

 

 

「僭越ですが副会長、兄は確かに魔法実技の成績が芳しくありませんが、それは実技テストの評価方法に兄の力が適正しないだけのことです。実践ならば、兄は誰にも負けません」

 

 

遂に深雪は俺のことを言われ続け、耐えられなくなってしまったのだ。

 

対して服部は首を横に振る。

 

 

「司波さん。僕たちはいずれ魔法師となる一科生……常に冷静を心掛けなさい」

 

 

服部は淡々と言葉を並べていく。

 

 

「身贔屓に目を曇らせてはいけませんよ」

 

 

その瞬間、深雪の堪忍袋の緒が切れた。

 

 

「お言葉ですが副会長!お兄様は……!」

 

 

「深雪」

 

 

俺は深雪の前に立ち塞がり、首を横に振った。深雪はハッとなり、下を向いて俯く。ここで俺の秘密を言われたくない。

 

 

「……ここ最近の二科生(ウィード)は問題を起こし過ぎてます。フードマンの件に関しても、一科生に手を出したそうじゃありませんか」

 

 

「そ、それは……!」

 

 

服部の発言に深雪は再び食いつこうとするが、やめる。ここで本当のことを言ったら大樹が庇った意味が無くなってしまうと分かったからだ。

 

 

「フードマンに至っては停学すらしていないそうじゃないですか」

 

 

「彼は土下座までして私たちに謝ったわ。その後、学校の奉仕活動として今日から放課後、学校全体を掃除する約束を自分からしたわ。これ以上罰を与えることはまず人として最低よ」

 

 

先程から俺たちの会話を見ていた生徒会長の真由美は真剣な瞳で服部を見る。深雪は口に手を当てて驚いていた。

 

 

(……何故そこまでして一科生を助けたんだ)

 

 

俺も深雪と同様に驚いていた。

 

 

「ですが、フードマンは一科生の中でもトップの方に手を出している()()()()なんですよ!今すぐ退学にするべきです!」

 

 

「「ッ!」」

 

 

俺と深雪は同時に言葉を放った。

 

 

 

 

 

「「その言葉、訂正してください」」

 

 

 

 

 

その場にいる全員の目が見開いた。

 

 

「大樹さんは決して()()()()なんかではありません」

 

 

「な、何を言っているんだ。フードマンがやったことは……!」

 

 

「俺たちは知っています。彼が優しい人間であることを」

 

 

自分でも不思議に感じた。まだ知り合ってから一週間。いや、3日しか経っていない人をここまで庇っている自分に。

 

彼は本当に最低な人間だろうか?

 

最低な人間が俺たちにケーキを御馳走するだろうか?

 

最低な人間が問題を起こした俺たちを助けるだろうか?

 

最低な人間が他人の罪を自分から貰いに行くだろうか?

 

 

否。

 

 

「服部副会長。俺と模擬戦をしてください」

 

 

「ッ!?」

 

 

俺の言葉に服部は怒鳴り声を上げる。

 

 

「思い上がるなよ!補欠の分際で!」

 

 

「ふッ」

 

 

俺は服部が大声をあげる姿を見て小さく笑った。

 

 

「何がおかしい!」

 

 

「先程自分でおっしゃったじゃないですか。『魔法師は冷静を心掛けるべき』でしょう?」

 

 

服部は何も反論できなかった。ただ俺を睨むことしか出来なかった。

 

 

「妹の目が曇っているかどうか……そして、大樹が()()()()なのかどうか……」

 

 

俺は告げる。

 

 

 

 

 

「証明して見せます」

 

 

 

 

早くも化けの皮が剥がれてしまった瞬間だった。

 

 





この小説を書いている時にどうしても止まってしまうことが多々あります。そんな時、他の作品を書いて気分転換していました。

それが『中二病は魔王様』です。

オリジナル作品となっています。もしよかったら読んでみてください。

そちらの小説はこの小説が進まない時の暇つぶしで書いているので更新はかなり遅いです。一話仕上げるのに1ヶ月かかっています。

読んでくれると大変うれしいです。アドバイスをくれるとさらにうれしいので、気軽によろしくお願いします。

感想や評価をくれると嬉しいです。

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