どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

57 / 177
続きです。


怪しい二人組

「黒ウサギ!入学式はいつ始まる!?」

 

 

「あと15分です!」

 

 

ここから普通に走って学校に到着するのは一時間後。

 

 

「よし!遅刻したな、コレ!」

 

 

音速で走っているところを一般人に見られるのは好ましくない。

 

俺たちの家から学校までは20分も掛からない。では何故このような状況になっているのか。それは、情報収集のために図書館に行っていたからだ。結果、情報はかなり頭に叩き込んだ。こういう時に完全記憶能力は役立つ。

 

だが、そのまま学校に行こうとしたら時間が全くない状況になってしまった。俺が情報を叩きこむのに没頭しすぎて。

 

 

「もうチート使うぞ!」

 

 

「何ですかチートって!?」

 

 

「民家をこわs…!」

 

 

「もう大体予想できましたので却下です!」

 

 

「ハハハッ!じゃあどうすんだよおおおおおォォォ!?」

 

 

このままだと入学式に間に合わないぞ!ここ一帯の道は無駄な道が多く、学校までの距離を長くしている。直線距離ならばもっと短時間で………あッ!。

 

 

俺は思いつく。

 

 

「空だ」

 

 

「へ?」

 

 

少し危険な方法。いや、超危険な方法を実行することにした。

 

 

________________________

 

 

「おい、あれってなんだ?」

 

 

「あん?何だよ?遅刻するぞ」

 

 

「でも、ほら」

 

 

二人の学生が話す。一人の学生が空に向かって指をさす。

 

 

空には二つの影があった。

 

 

「何だあれ?」

 

 

「もしかして……人?」

 

 

「ぶはッ!バカじゃねぇのお前!」

 

 

「いや、だって………おい、こっちに来てないか?」

 

 

「はへ?」

 

 

影はどんどん大きくなり、

 

 

こちらに向かって降って来た。

 

 

ドゴンッ!!!!

 

 

「「ひッ!?」」

 

 

 

 

 

自分たちと同じ制服を着た二人の男女が。

 

 

 

 

 

「あ、悪い。大丈夫か?」

 

 

落下して来た人は地面に尻もちをついた二人の男に手を伸ばす。服装は自分たちと同じ、ブレザーにスラックスだが、相手の服装はブレザーの中に黒いパーカを着て、フード深くを被っていた。性別は制服と声からして男だと推測できる。

 

 

「大樹さん!時間が!」

 

 

もう一人はブレザーとスカート。だが、こちらもブレザーの中に赤いパーカを着て、フードを被っていた。こっちは女性だ。

 

 

「あ、やっべ。じゃあな」

 

 

女の子の言葉に男は焦り、講堂へと向かった。

 

 

「な、何だったんだ……」

 

 

「あいつら……俺たちと同じ生徒だったな」

 

 

男たちは呆けていた。

 

 

「「あ、入学式」」

 

 

大事な行事を忘れるほど。

 

 

 

________________________

 

 

 

【??視点】

 

 

俺は後ろの中央に近い空き席を適当に座る。

 

入学式が始まるまで20分も時間が残っていた。俺は椅子に深く座り直して、そのまま寝てしまおうと目を閉じた。

 

 

「あの、お隣は空いてますか?」

 

 

だが、声をかけられた。

 

目を開けると眼鏡を掛けた女子生徒がこちらを見ていた。

 

 

「どうぞ」

 

 

俺は愛想よくうなずいた。

 

俺の左隣に眼鏡を掛けた少女は座ると、さらにその隣に次々と女性が座っていく。どうやら四人一続きで座れる場所を探していたみたいだ。

 

 

「あの……」

 

 

眼鏡を掛けた少女がまた話しかける。

 

 

「私、柴田 美月(しばた みづき)っていいます。よろしくお願いします」

 

 

女子生徒は自己紹介してきた。多分、無理をして言っているのだろう。緊張して言っていることが分かる。

 

 

「司波 達也(しば たつや)です。こちらこそよろしく」

 

 

俺は相手の緊張を解くために、柔らかな態度で自己紹介を返す。

 

 

「あたしは千葉(ちば) エリカ。よろしくね、司波くん」

 

 

次に美月の隣に座っている女の子が自己紹介する。

 

 

「こちらこそ」

 

 

名前は聞いていたらしいので簡単に返す。

 

 

「でも、面白い偶然っと言ってもいいのかな?」

 

 

「何が?」

 

 

「だってさ、シバにシバタにチバでしょ?何だか語呂合わせみたいじゃない。ちょっと違うけどさ」

 

 

「……なるほど」

 

 

確かに少し違うが言いたいことは分かる。

 

そんな何気ない会話をしていると、

 

 

「あ、そこ空いてるじゃん」

 

 

俺の右隣りに人が席に座った。俺の隣と言っても通路を挟んで席があるため、美月みたいに俺に許可を取る必要が無い。元々、席の許可なんて必要無いが。

 

 

「何とか間に合いましたね……」

 

 

「空を飛ぶことによって時間短縮。直線距離だと10分もかからないからな。さすが俺だな」

 

 

「もうあんなことはダメですよ!」

 

 

「へいへい、講堂では静かにー」

 

 

空を飛ぶ?飛行機を使って遠く来た生徒だろうか。というか、

 

 

(何だあの服装は?)

 

 

一人は男子制服を着ており、俺と同じブレザーにスラックスだ。だが、ブレザーの中にはフード付きパーカを着ており、フードを深く被っていた。その隣に座っている女子の制服を着た人も同じだ。ブレザーにスカートまでは他の生徒と同じだが、ブレザーの中に赤いパーカを着て彼女もフードを深く被っていた。

 

そして、怪しかった。

 

 

「何か怖いですね……」

 

 

美月もその二人組の男女を見て言う。

 

 

「服装違反じゃないの?」

 

 

「あとで風紀委員にでも怒られるだろう」

 

 

風紀委員が大激怒する光景が簡単に浮かんだ。

 

 

「よし、さっきの続きを読もう」

 

 

「ここで端末を広げてもいいんですか?」

 

 

「俺が許す」

 

 

「黒ウサギはもう知りません……」

 

 

男は端末を広げる。女は呆れて溜息を吐く。

 

 

「……………」

 

 

俺は黙ってその光景を見ていた。彼がここで端末を広げるのはマナー違反だが、そんなことはどうでもよかった。彼の端末に映し出された映像。それが少し気になった。

 

 

「どうしたの司波くん?」

 

 

「いや、何でも無い」

 

 

エリカが俺に尋ねる。俺はすぐにエリカの方を向き、平然を繕う。

 

 

「あの人たちが気になるの?」

 

 

「ちょっとな」

 

 

「ふーん」

 

 

エリカの質問に答えるが、エリカは俺の返しがあまり面白くなさそうだ。

 

 

「黒ウサギ。俺が持っていた学校の見取り図あるか?」

 

 

「YES、ここにありますよ」

 

 

(見取り図だと?)

 

 

俺はまた彼らの方を見る。二人の会話が理解できなかった。どうして見取り図なんか見る必要があるのか。

 

男はさらに新しい端末を広げる。

 

 

一瞬だけ。

 

 

「よし、次は……」

 

 

俺は驚く。今の一瞬で見取り図を覚えたのかもしれないことに。

 

 

(まさか……彼らは)

 

 

この学校に何かする気では……!?

 

 

「食堂のメニュー一覧だ」

 

 

ド肝を抜かれた。

 

 

「俺が設定した30円以下の学食は?」

 

 

「やっぱりありませんよ……」

 

 

「よし、ここの食堂はダメだな」

 

 

唐突に変な会話を始める二人に俺は脱力する。

 

 

「だ、大丈夫?」

 

 

「ああ、何とか……」

 

 

俺のがっかりした姿を見て、美月が心配する。

 

 

「ん?」

 

 

男は最初に開いていた端末を見て、驚く。

 

 

「おい、何で俺は200位なんだ」

 

 

「え?あ、試験の総合結果ですね」

 

 

「黒ウサギは199位…………解せぬ」

 

 

「何がですか?」

 

 

「俺が黒ウサギよりバカだと……!?」

 

 

「失礼過ぎじゃないですか!?」

 

 

「俺の称号は無能力者で始まり、最弱のEランク武偵、バカのFクラス、問題児。そして今日……劣等生の称号がついた!」

 

 

「称号ではなく汚名ですよ!?」

 

 

「彼女いない歴=年齢で悪かったなちくしょう!」

 

 

「聞いてませんよ!?」

 

 

男は意味の分からないことを叫んでいる。周りの生徒は迷惑そうだ。

 

 

「そういえば俺たち二科生のことを『雑草(ウィード)』。一科生を『花冠(ブルーム)』って言われてるらしい」

 

 

「……それはひどくないですか?」

 

 

「でも、隠語だから表向きでは使っちゃいけないらしい。でも、一科生は二科生を蔑んでいるから絡まれないようにしろよ。ていうか、俺は雑草の方が好きだけどな」

 

 

「どうしてですか?花の方が綺麗じゃないですか」

 

 

「だけど枯れたら終わりだ」

 

 

俺は男の言葉に興味を持った。

 

 

「雑草は踏まれても何事もなく生きていける」

 

 

男は手で操作している端末を切る。

 

 

「俺はどんなに惨めでも、這いつくばって頑張る方が綺麗な花だと思う」

 

 

「大樹さん……」

 

 

男はこんなことを考えていた。

 

 

(みんなでピクニック行きたいなぁ……綺麗な草原でお弁当広げて……それから……)

 

 

男は何かに気付き、前を向く。

 

 

「あ、そろそろ始まるぞ」

 

 

「……黒ウサギは大樹さんと同じ二科生で良かったです」

 

 

「それは俺もだ」

 

 

俺は二人の会話が終わったので俺も前を向く。

 

 

「あの二人って恋人かな?」

 

 

「聞いていたのか?」

 

 

「ここに居る人たちのほとんどが聞いていると思うよ」

 

 

エリカはそう言って、俺は辺りを見回すと、

 

 

「良く言った新入生……!」

 

 

「確かに雑草っていいよな」

 

 

「僕は今日から草を食べ続ける!」

 

 

最後は止めた方がいいかもしれないが無視する。この近くにいるのは全員二科生だ。みんな男の言葉に感動していたみたいだ。

 

 

「何だか顔が気になってきたわね」

 

 

「私も見てみたい」

 

 

エリカと美月は男を見るが、フードを深く被っているため見えない。

 

俺も男の顔は気になっていた。

 

どんな奴かを。

 

 

________________________

 

 

【達也視点】

 

 

『続きまして、新入生答辞…』

 

 

入学式は円滑に進んでいた。次は俺の妹の出番だ。

 

 

『新入生代表、司波 深雪(しば みゆき)』

 

 

深雪は壇上に上がる。

 

 

『この晴れの日に歓迎のお言葉を頂きまして感謝致します。わたしは……』

 

 

俺の妹はとんでもないことを言い出した。

 

 

『新入生を代表し、第一高校の一員としての誇りを持ち、皆等しく!勉学に励み、魔法以外でも!共に学び、この学び舎で成長することを誓います』

 

 

(深雪!なんて際どいフレーズを!)

 

 

俺は急いで前線にいる一科生の様子を見る。

 

 

「司波深雪さんか……」

 

 

「可憐だわ……」

 

 

「まさしく大和撫子だな……」

 

 

……………杞憂だったか。

 

 

「あの人が学年主席ってことですか?」

 

 

「ああ、総合成績が一位だったってことだ。すごいな」

 

 

フードを被った男が褒めている。自分の妹がそう言われると自分も嬉しかった。

 

 

「総合って何があるんですか?」

 

 

(は?)

 

 

この人は何を言っているのだろう?

 

 

入試で受けたじゃないか。

 

 

「ペーパーテストと実技試験だ。彼女はどちらも点数が高いってことだ。というか……」

 

 

男は俺に聞こえないくらい小さな声で言う。。

 

 

「間違っても『テストは受けてない』とか言うなよ。俺たちは不正入学者。バレたら終わりだ」

 

 

「す、すみません」

 

 

俺は二人の会話が全く聞こえなかった。

 

 

『続きまして、新入生への花束を授与して頂きます』

 

 

アナウンスが流れて一人の女性が出て来る。

 

 

「あの花って貰った後はどうするのかな?」

 

 

「職員室とかに飾られるじゃないかな?」

 

 

エリカと美月がそんなことを話す。だが、反対側の席の人は、

 

 

「「ッ!?」」

 

 

二人は勢いよく立ち上がる。

 

 

 

 

 

『学年次席、木下 優子』

 

 

 

 

 

フードを被った二人組がアナウンスで呼ばれた女子生徒を見ていた。

 

 

「優子……!」

 

 

男は小さい声で檀上に出た女子生徒の名前を呼ぶ。

 

 

「ど、どうしたんでしょうか」

 

 

美月がそんな二人を見て心配する。

 

 

「………座るぞ、黒ウサギ」

 

 

「でも……!」

 

 

「ここで目立つのは得策ではない」

 

 

「……はい」

 

 

二人組は静かに座る。何だったのだろうか?

 

 

「「……………ひぐッ」」

 

 

なんと、今度は突然二人組が泣き出した。

 

 

「「「!?」」」

 

 

俺と美月とエリカはその光景に驚愕する。

 

 

「会えでよがっだ……!」

 

 

「はい……黒ウサギも……!」

 

 

号泣だった。

 

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

 

美月が心配して男の人にハンカチを渡す。

 

 

「あ、あぁ……ありがとう……!」

 

 

男はフードを取り、ハンカチで涙を拭く。

 

男の髪型はオールバックの黒髪。だが、

 

 

(目の色が違う……?)

 

 

右の瞳の色が紅い色をしていた。

 

 

「心配かけたな」

 

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

 

男と美月は微笑み合い、美月はハンカチを返して貰う。

 

 

「私、柴田 美月って言います」

 

 

「えっと……俺は……………ハ〇ー・ポッターだ」

 

 

「よろしくお願いします、ハリ〇さん」

 

 

「ネタが通じないだと……!?」

 

 

〇リーは驚愕していた。

 

 

「ハッ!ここは西暦2095年……あの名作は語られていないのか……!」

 

 

「どうかしたんですか、ハ〇ーさん?」

 

 

「ごめん、俺の名前は楢原 大樹なんだ……」

 

 

〇リーは申し訳なさそうに自分の名前を明かす。何故嘘を吐いたんだろう?

 

 

「こっちは……」

 

 

「初めまして、楢原 黒ウサギって言います☆」

 

 

「んなッ!?」

 

 

大樹は驚愕した。それにしても黒ウサギが名前だなんて、変わった名前だな。

 

だが、苗字が楢原ということは……。

 

 

「もしかして兄妹?」

 

 

「いえ、恋b

 

 

「そうなんだよ!黒ウサギは俺の妹なんだよ!アッハッハッハ!!」

 

 

黒ウサギの言葉を大樹は大きな声で被せる。黒ウサギは少しがっかりしているようだ。

 

 

「何でフードなんか被っているんだ?」

 

 

俺は大樹に尋ねる。

 

 

「俺、太陽が苦手なんだ……」

 

 

「太陽が苦手って、吸血鬼みたいね」

 

 

「うえッ!?そそそそそうだな!」

 

 

大樹の顔に動揺が走る。だが、俺には何に動揺したのか分からなかった。

 

 

「それよりも!俺は二人の名前が知りたいな!」

 

 

「あ、そうだったね。あたし千葉エリカ」

 

 

「俺は司波達也だ」

 

 

「よろしくな。千葉。司波」

 

 

「あたしのことはエリカでいいわよ」

 

 

「俺も達也で構わない」

 

 

「そうか。じゃあ改めてよろしくな。エリカ、達也」

 

 

「……黒ウサギのこと忘れてませんか?」

 

 

「忘れてないわよ、黒ウサギ?って呼べばいいのかしら?」

 

 

「YES!黒ウサギのことは黒ウサギと呼んでください!」

 

 

黒ウサギはエリカの手を取り握手する。

 

 

「そろそろ入学式も終わるみたいだな」

 

 

大樹はそう言って立ち上がる。

 

 

「黒ウサギ、会いに行くぞ」

 

 

「……はい」

 

 

二人の顔はあまり良くない。険しい顔だ。

 

 

「悪い。今から人に会いにいかないといけないんだ」

 

 

「また会いましょう。美月さん、エリカさん、達也さん」

 

 

「うん、またね!」

 

 

二人は席を立ち、エリカは手を振って別れを告げる。

 

 

「私たちはクラスがどこか見に行きましょう」

 

 

「同じクラスだといいわね」

 

 

「そうだな」

 

 

美月の提案で俺たちも席を立つ。

 

 

(大樹に黒ウサギか……)

 

 

俺は二人の険しい顔が忘れられなかった。

 

 

________________________

 

 

【大樹視点】

 

 

達也たちと別れた後、俺たちは講堂の裏舞台の裏の裏口にいた。ややこしいな。

 

 

「ッ!」

 

 

俺は裏口から次々と人が出る中、ある人物を見つける。

 

 

「いたぞ」

 

 

「優子さん……」

 

 

黒ウサギが呟く。

 

優子は俺たち二科生と違って一科生のワッペンを付けている。誰とも一緒に帰らず、一人で教室に、向かている。

 

 

「俺が行くから待ってろ」

 

 

「……大丈夫なんですか?」

 

 

「泣いたときは慰めてくれ」

 

 

俺は優子を追いかける。

 

 

「すいませーん!」

 

 

優子に手を振り、優子は振り向く。

 

 

 

 

 

「俺のこと、覚えてますか?」

 

 

 

 

 

そう尋ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい。記憶にないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残酷な返事が返って来た。

 

 

『木下優子は記憶喪失だ』

 

 

原田に言われたあの言葉が頭で過ぎっていた。

 

 

 

 

________________________

 

 

【達也視点】

 

 

「……さて、帰ろうか」

 

 

妹の深雪と合流し、美月とエリカとも打ち解け、一緒に下校していた。

 

 

「すみません、お兄様。私の所為でお兄様の心証を……」

 

 

「お前が謝ることじゃないさ」

 

 

先程、生徒会の役員が妹をスカウトしようとしていた。だが、深雪が俺のところに来たせいで話が曖昧になった。だが、生徒会長が引いてくれたおかげで何とか明日に持ち越した。しかし、他の役員の一科生生徒に不興を買ってしまった。

 

 

「せっかくですからお茶でも飲んでいきませんか?」

 

 

「いいね、賛成!あたし最近できた話題のケーキ屋知っているんだ!」

 

 

深雪の提案にエリカが乗っかる。

 

だが、美月の顔が後ろを向いていた。

 

 

「どうしたの、美月?」

 

 

深雪が美月に声をかける。

 

 

「あれって大樹君だよね」

 

 

校庭に植えられた木の下に人影が二つ。

 

 

 

 

 

負のオーラを放って膝を抱え込んだ大樹と必死に励ましている黒ウサギがいた。

 

 

 

 

 

「お、お兄様の知り合いですか?」

 

 

「あ、ああ」

 

 

あの短時間で何があったんだ。

 

 

「しっかりしてください!大樹さん!」

 

 

「無理……」

 

 

「諦めたら終わりじゃないんですか!」

 

 

「……………無理だお」

 

 

「……分かりました。黒ウサギは大樹さんのために鬼になります」

 

 

黒ウサギは懐から何かを取り出す。

 

 

(カード?)

 

 

白黒のカードを取り出した。その瞬間、

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!!

 

 

 

 

 

上空から雷が落ちてきた。

 

 

 

 

 

大樹に。

 

 

 

 

 

「ごばあああああァァァッ!?」

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

大樹の悲鳴が此処一帯に響き渡る。俺たちはその光景に目を疑った。

 

雲一つ無い空から雷が降ることに。大樹に命中することに。

 

そして、大樹は

 

 

「痛えええええェェェ!?殺す気か!?」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

生きていた。

 

 

「目が覚めましたか!」

 

 

「一週間分は目が覚めたわ!!」

 

 

「……いつもそのくらい元気でいてください」

 

 

「あ…………そうか、悪い」

 

 

大樹は黒ウサギの頭に手を乗せ、

 

 

「やり方はアレだけど……元気出た。ありがとう」

 

 

「……どういたしまして」

 

 

兄妹とも思えないような恋人雰囲気が漂い始めた。

 

 

「さっきの雷は何?」

 

 

「魔法?」

 

 

エリカの質問に半信半疑で美月が答える。だが、

 

 

(魔法は発動されていなかった)

 

 

俺は確信する。俺の目で見た限り、あのカードはCADではなさそうだった。

 

それよりも俺が気になることは。

 

 

(大樹が全く無傷なのはどうしてだ?)

 

 

俺はそれが不可解だった。

 

あの威力だと死んでもおかしくない。魔法で防いだ痕跡もなかった。

 

 

「あ、達也たちじゃねぇか!」

 

 

そんな無傷の大樹が俺たちの存在に気付く。黒ウサギも俺たちを見る。

 

二人は俺たちの前まで歩いて来る。

 

 

「ねぇ、さっきの雷は何?」

 

 

「「……………何が?」」

 

 

二人は笑顔で首を傾げる。どうやら忘れてほしいようだ。目が笑っていない。

 

 

「ま、まぁそんなことより逃げるぞ」

 

 

大樹は後ろを指さす。後ろにはたくさんの人が集まっていた。先程の雷を見に来た野次馬が集まっていた。

 

 

「生徒会とか事情聴取とか厄介だからな」

 

 

「じゃあ大樹君もケーキ屋来る?」

 

 

「ほう……敵の情報を知るいい機会だな……」

 

 

エリカは大樹を誘うが、大樹は不気味に笑っていた。一体大樹は何と戦っているんだろうか。

 

 

「俺と黒ウサギも一緒に行っていいか?」

 

 

「もちろん、いいわよ」

 

 

エリカは承諾し、美月もうなずく。俺もうなずくが、やらないといけないことがある。

 

 

「俺も問題ない。でもまず自己紹介しないとな」

 

 

俺は深雪に目を向ける。

 

 

「妹の深雪だ」

 

 

「司波深雪です。お兄様同様よろしくお願いします」

 

 

「楢原 大樹だ。こちらこそよろしく」

 

 

「楢原 黒ウサギです。大樹さんの恋b

 

 

「兄妹なんだよ!!」

 

 

また大樹が大きな声で被せる。また黒ウサギの言葉が聞こえなかった。

 

 

「黒ウサギさん。ちょっといいかい?」

 

 

大樹は黒ウサギを連れて俺たちと距離を取る。

 

 

「お前そんな奴だったのか!?」

 

 

「先手必勝です!」

 

 

「何が!?」

 

 

大樹が困った顔をしていた。

 

二人の会話が一通り終わり、戻って来る。

 

 

「じゃあ気を取り直してケーキ屋に行くか」

 

 

大樹は何事もなかったかのように振舞う。一方、黒ウサギの方は、

 

 

「大樹さんはお馬鹿様です……」

 

 

黒ウサギは頬を膨らませて少し怒っているようだった。何があったんだろうか?

 

 

「本当に兄妹なのでしょうか?」

 

 

「苗字が同じだしそうじゃないかな?」

 

 

深雪の疑うが、美月は全く疑っていなかった。

 

 

「ケーキ屋ってどこにあるんだ?」

 

 

「商店街の一番奥にある店だよ」

 

 

「「え?」」

 

 

エリカの答えに大樹と黒ウサギは驚く。

 

 

「そこ、俺たちが経営してる店だな」

 

 

「「「「え?」」」」

 

 

今度は俺たちが驚く番だった。

 

 

________________________

 

 

【大樹視点】

 

 

「というわけで、いらっしゃいませ」

 

 

俺と黒ウサギは達也、深雪、美月、エリカの四人を店内に招き入れる。

 

 

「今日は店を休みにしたからお前らの貸切だぜ」

 

 

「飲み物を持ってきましたよ」

 

 

俺はドヤ顔で親指を立てる。ふッ、決まったぜ。

 

俺特製の紅茶を黒ウサギが持ってきて、テーブルに並べる。

 

 

「ケーキは好きなだけ頼め。お代は全部タダにしてやる」

 

 

「そんなことしていいのか?」

 

 

「友達に優しくするのは当たり前だろ」

 

 

達也は心配そうに聞いて来るが、俺は微笑んで大丈夫なことを伝える。

 

 

「それじゃお言葉に甘えて、大樹くんのオススメケーキ四人分で!」

 

 

「オススメか……よし」

 

 

大樹は奥の部屋に入って行き、30秒で戻って来た。

 

 

ケーキを持って。

 

 

「出来たぞ」

 

 

「「「「えッ!?」」」

 

 

俺たちは四人同時にそろって驚く。大樹はあり得ないスピードでケーキを作り上げた。

 

 

「今度新作で出す『七色の旋律ケーキ』だ」

 

 

「クリームが虹色なんだけど……!?」

 

 

エリカが驚きながら言う。みんな、このケーキがこの世のモノとは思えないらしい。

 

深雪が俺を見て尋ねる。

 

 

「た、食べれるのですか……?」

 

 

「酷いなぁ……食べれるに決まってるだろぉ……」

 

 

確かに虹色に光るケーキとか怖いよな。見た目はアレだが味には自信がある。

 

 

「さぁ……召し上がれ!」

 

 

「「「「「いやだ(です)」」」」」

 

 

「なんでだよ!?って黒ウサギ!?お前もかよ!」

 

 

チクショウ!身内にも裏切られたぞ!?

 

俺はフォークを右手に持つ。そして、ケーキに刺し、一口サイズに切り、

 

 

達也の口にシュートした。(無理矢理)

 

 

「うぐッ!?」

 

 

「お兄様ッ!?」

 

 

「死んじゃ駄目だよ!」

 

 

言っておくぞ!俺は人を殺しているわけではない!

 

そして、達也は一言。

 

 

「う、うまい……」

 

 

「「「「……………だよね(ですよね)」」」」

 

 

「嘘つけおいコラ。表に出ろおいコラ」

 

 

やっぱ金取ろうかな?

 

達也の言葉を聞き、みんなも食べ始める。あ、黒ウサギさんケーキ食べてないで仕事してください。

 

 

「何これ美味しい!」

 

 

「口の中でいろんな味がする……!」

 

 

「こんなに美味しいケーキ、初めて食べましたわ!」

 

 

エリカ、美月、深雪の順にそれぞれ感想を述べていく。やっぱ褒められると清々しい気持ちになるなぁ……。

 

 

そんな気持ちの良い気分でみんなを眺めていると、

 

 

ガチャッ

 

 

店のドアが開いた。

 

 

「大樹はいるか?」

 

 

「いらっしゃいませ。出口は後ろです」

 

 

「帰れって言ってんのか!?」

 

 

魔法科高校の制服を着た原田が来客してきた。こいつも入学していたのかよ。

 

 

「オススメは『原田・最後のレクイエム・ケーキ』です」

 

 

「レクイエムって葬送曲という意味だったな……」

 

 

「一名様、(あの世に)ご案内~!」

 

 

ヒュンッ!!

 

 

「危なッ!?フォークを投げるな!」

 

 

「じゃあナイフか?」

 

 

ヒュンッ!!

 

 

「ダメに決まってんだろ!!」

 

 

俺の投げたフォークとナイフをギリギリ避ける原田。俺は電話で話した内容について根に持ってんだよ。

 

 

「ったく………ほら、お前の頼んでいた物を持ってきてやったのに……」

 

 

「おお!助かる……ぜッ!!」

 

 

ヒュンッ!!

 

 

「だからナイフ投げんなあああああァァァ!!」

 

 

仕方ない。これくらいで許してやろう。よかったな。お前が一科生だったら死んでいたぜ?

 

原田のエンブレムは二科生を示すモノだった。

 

達也たちはそんな俺たちを見て絶句していた。なんかごめんね。

 

 

「じゃあ二階で待ってておいてくれ。暇なら寝るなり俺の持ってきた情報を閲覧するなり勝手にしろ」

 

 

「はいよ」

 

 

「あと、そこのケーキ。余ったから持っていきな」

 

 

「お!ちょうど小腹が空いてたんだよな」

 

 

原田はチョコケーキを手に取り、二階へと上がって行った。

 

 

「だ、大樹さん………アレって……!?」

 

 

「ああ、俺の作った試作品『ファイア・オブ・デッド・チョコケーキ』だ」

 

 

黒ウサギは顔を真っ青にさせる。そして、俺は告げる。

 

 

 

 

 

「世界一辛い食べ物。ジョロキアを入れt

 

 

 

 

 

あがあああああああァァァ………………………!!

 

 

 

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

オレハ、ナニモ、キコエ、ナカッタ。

 

 

その後、俺たちは何事も無かったかのように、再び楽しく会話し始めた。

 

 

________________________

 

 

「それでは、この世界についてまとめようではないか」

 

 

達也たちが帰った後、俺と原田と黒ウサギは二階の六畳間のリビングに座っていた。

 

 

「その前に俺はそこにいるゲスケーキ職人を殺したいんだが?」

 

 

「あぁ?やんのか?」

 

 

「もう!喧嘩しないでください!」

 

 

「「ちッ!」」

 

 

「本当に仲が良いのか悪いのか黒ウサギには分からなくなってきましたよ……」

 

 

「冗談は置いといて、原田。CADを出してくれ」

 

 

「あいよ」

 

 

「冗談!?冗談だったんですか!?」

 

 

「それじゃあまず、魔法の基礎知識について話そうか」

 

 

「黒ウサギの言葉は無視ですか!?」

 

 

「黒ウサギ。今は大樹の話を聞こうな」

 

 

「原田さんも裏切るのですか!?ああもう分かりました!御二人方のことなんか嫌いです!」

 

 

「えぐッ……!!」

 

 

「黒ウサギ……大樹がガチ泣きだぞ……」

 

 

「ごごごめんなさい!!好きです!大好きですよ!だから泣き止んでくだs

 

 

「知ってる。じゃあまず『魔法』から説明するぞ」

 

 

「……………」

 

 

「今日の大樹はゲスだな」

 

 

「魔法とは全ての事象に付随している『情報体(エイドス)』を書き換えて、その本体の事象を一時的に改変する技術のことだ」

 

 

(………さっぱり分からん………でも、馬鹿にされないために納得したフリでもしておかないと)

 

 

「その『情報体』を構築するのが『サイオン(想子)』と呼ばれている」

 

 

(これ……何の説明しているんだっけ?)

 

 

「現代魔法ではこの『サイオン』が重要視されてんだ」

 

 

「そこまでなら黒ウサギも分かりました。でも、現代魔法って何ですか?」

 

 

((黒ウサギが分かっているだと!?))

 

 

「今とても失礼なことを言われた気がします」

 

 

「き、気のせいだろ。現代魔法は魔法を技術体系化にしたものだ。原田に持ってきてもらったモノを使って説明した方が分かりやすだろう。このテーブルに置いてあるのは何だ?」

 

 

「Casting Assistant Device」ドヤッ

 

 

「キモイぞ原田。術式補助演算機。略してCADのことだ。サイオン信号と電気信号を相互変換可能な合成物質である『感応石』を内蔵した、魔法の発動を補助する機械だ。って言っても難しいか?」

 

 

「ハ〇ー・ポッターの魔法の杖が科学によって進化した感じか?」

 

 

「大体合ってて否定できないところがムカつく」

 

 

「このCADはどういった用途があるんですか?」

 

 

「コイツに『サイオン』を送り込んで『起動式』を出力させ、『魔法式』を組み上げることができるんだ」

 

 

「……………つまり?」

 

 

「魔法の発動を速く発動させることが可能なんだよ。元々CADは魔法の発動スピードを上げるっていう理由があるんだ。そもそも魔法の行使自体にCADは必要ないが、魔法の発動スピードが極端に下がってしまうんだ」

 

 

「発動スピードを上げるために出来たモノってことか」

 

 

「簡単に魔法が出せるっていう理由もあるな。『起動式』をCADにインストールして、お手軽に魔法を出すことができるんだ」

 

 

「まぁ!なんて便利なのかしら!……でも、値段は高くつくんじゃない?」

 

 

「それが奥さん、違うんですよ。このCADにキャベツをつけてお値段なんと……!!」

 

 

「誰に向かって宣伝しているんですか!?それと、話がずれてますよ!?」

 

 

「いや、大体説明したしあとは実践あるのみだと思ってな」

 

 

「ということは、魔法を使うのか?」

 

 

「ああ、ちょうど3つ用意してあるしな」

 

 

「魔法式はインストールされてないぞ?何も入れていない初期段階状態だからな」

 

 

「俺たちが魔法を使うにはCAD調整装置が必要だ。だから……」

 

 

「「い、嫌な予感が……」」

 

 

「学校に潜入するぞ」

 

 

「待て待て!許可を取れば貸してくれるだろ!?」

 

 

「ほう、魔法を一度も使ったことのない人にか?」

 

 

「うぐッ」

 

 

「住民登録もしていない俺たちに?」

 

 

「ぐはッ」

 

 

「ブサイクなお前に?」

 

 

「ほげぇッ……って最後は関係ないだろ!?」

 

 

「武偵高校で習ったハッキングがここで役立つ日が来たな」

 

 

「原田さん……諦めましょう?」

 

 

「一番の常識人がすでに諦めてるだと……!?」

 

 

こうして、魔法会議(仮)が終わった。

 

________________________

 

 

「次に……優子について話す……」

 

 

俺の声は自然と小さくなっていた。

 

あの時言われた言葉を思い出すと心が苦しい。

 

 

「やっぱ原田の言った通り記憶が無かった」

 

 

「俺の顔も覚えてなかったからな」

 

 

原田は目を伏せて言う。黒ウサギは下向き、暗い表情をしていた。

 

 

「記憶を消されたなら打つ手無しだな」

 

 

原田の容赦ない一言。

 

でも、俺は……。

 

 

「……………変わらねぇよ」

 

 

「え?」

 

 

黒ウサギが顔を上げる。

 

 

「それでも、俺は優子を助け出す。この決意は変わらねぇよ」

 

 

記憶が無い?知るかよ。だったらまた新しい思い出を作るだけだ。

 

どんなに嫌われても。俺には仮がある。約束がある。そして、

 

 

 

 

 

優子が好きだから。

 

 

 

 

 

「大樹さん……」

 

 

黒ウサギは手を強く握る。

 

 

「黒ウサギも諦めません」

 

 

「……まぁお前らはそう言うと思ったよ」

 

 

原田は握った右手を俺の前に出す。

 

 

「俺も協力する。敵の情報は俺が探っておく。お前ら二人は木下優子の救出だ」

 

 

「ああ、まかせろ」

 

 

俺は握った左手で原田の手にぶつける。原田はいつも本当に頼りになる奴だ。そんな原田の期待に応えたい。

 

 

(優子……!)

 

 

俺はお前を救ってみせる。

 

 

必ず。

 

 




感想や評価をくれると嬉しいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。