どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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ここからは『魔法科高校の劣等生』です。

続きをどうぞ。


魔法科高校の劣等生編
まだ始まりに過ぎない転生


━ 魔法 ━

 

 

 

 

 

それが伝説や御伽噺の産物でなく、現実の技術となってからもうすぐ一世紀。世界中の国々が【魔法師】の育成に邁進している世界。

 

 

 

 

 

そして現在、西暦2095年

 

 

 

 

 

この世界に二人の男女がやって来る。

 

 

 

 

________________________

 

 

「………………ここは?」

 

 

黒ウサギは呟く。

 

気が付くと目の前には住宅街が広がっていた。

 

地面は所々濡れており、ぽつぽつと水たまりが出来ていた。空は優しい光を出す太陽が黒ウサギを照らす。雲一つ無い綺麗な蒼い空だった。さっきまで雨でも降っていたみたいだ。

 

 

「ここが異世界……!」

 

 

事前に大樹から聞いたが、行く世界が全く分からないので、どんな場所かと不安だった。だが、綺麗な色で塗られた家。そして、それらが建ち並ぶ街を見て安心する。

 

 

「でも、大樹さんはどこでしょうか?」

 

 

周りを見渡してもいない。

 

 

「ブクブクッ……」

 

 

「?」

 

 

水の中から空気が出て行くような音が聞こえる。しかも、下から。

 

 

 

 

 

そこには水たまりに顔を突っ込んだ大樹がいた。

 

 

 

 

 

「だ、大樹さん!?」

 

 

黒ウサギは急いで引き上げる。大樹の顔が真っ青だ。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

「た……よ……!」

 

 

「え?」

 

 

大樹の口に耳を近づけ、小さな声を聞き取る。

 

 

「たいよう……!」

 

 

「太陽……ですか?」

 

 

黒ウサギは少し考えて、ある答えに辿り着く。

 

 

(鬼種のギフト!)

 

 

本来、吸血鬼は太陽の光を浴びることは許されない種族。その力を借りている大樹には死にはしないが大ダメージなはずだ。

 

 

「ど、どうしましょう!?」

 

 

「さ…らば……人生……」

 

 

「縁起でもないこと言うのはやめてください!」

 

 

「そのまま!」

 

 

「!?」

 

 

突然、大樹は覚醒したかのように素早い動きで黒ウサギを静止させる。

 

 

「そのまま日陰を作っていてくれ!」

 

 

「げ、元気になったんですか!?」

 

 

「あ、ちょ、おまッ、動くな!!」

 

 

「は、はい!!」

 

 

いきなり二人は困った事態に陥った。

 

________________________

 

 

【大樹視点】

 

 

「よ、よし」

 

 

俺は黒ウサギが作った影にうまく隠れる。

 

そして、俺は力を解き放つ。神の力を。

 

 

「天候、【曇り】」

 

 

……………………………現在、空は快晴です。

 

 

「うん、神の力が使えない」

 

 

「え」

 

 

俺は笑顔で黒ウサギに告げる。そして、黒ウサギは嫌な顔をする。俺の笑顔って一体……。

 

どうやら神の力は超本気にならないと発動できないみたいだ。いや、あの時は無我夢中でやったから感覚が分からなくなってしまった。いや、違う。多分太陽に当たり過ぎて体力がほとんど無くなったみたいだ。

 

 

「このまま路上でじっとしていてもなぁ…」

 

 

「服は持ってきていないんですか?」

 

 

「いや、多分黒ウサギが大金持っているだろ?」

 

 

ここは例の如く、チート通帳を頼る。

 

 

「黒ウサギ、ポケットの中を見てくれ」

 

 

俺の言葉を聞いた黒ウサギはポケットに手を突っ込み一言。

 

 

「何も無いですよ?」

 

 

「ああ、そうだろうな」

 

 

この通帳を使って、金を引き出す。そして、

 

 

「ごめん、もう一回言ってくんない?」

 

 

「ですから、何も入っていないですよ」

 

 

オー、ノー(;´Д`)

 

え、いきなり一文無し?

 

 

「最悪だ……」

 

 

どうする。ここから…………まぁとりあえず。

 

 

「今日は野宿な」(イケメンスマイル)

 

 

「!?」

 

 

俺の言葉に黒ウサギは驚愕する。笑顔で誤魔化すことはできないみたいだ。

 

 

「ほ、他にお金を稼ぐ方法は……!?」

 

 

「働いたら負けだ」

 

 

「負けないでください!!」

 

 

とは言ってもな……。

 

 

「とりあえず、黒ウサギは何か持ってきたか?」

 

 

「ギフトカードと服を持ってきました」

 

 

「よし、俺に服を貸してくれ」

 

 

「変態!?」

 

 

「違ぇよ!!タオルでもいいよ!とにかく光があたるのがヤバイんだよ!」

 

 

ちょっとそんな目で見るなよ。信用してくれよ。

 

俺は黒ウサギから横に長いタオルを頭に巻く。

 

 

「帽子はあるか?」

 

 

「確か、鳩をどこからでも出せる恩恵がついたシルクハットが……」

 

 

「何だその恩恵!?」

 

 

鳩を量産できるのかよ!怖ッ!

 

仕方なく俺はタオルを巻いた頭の上からシルクハットを被る。よし。

 

ファッションマスター大樹の服装チェック!

 

白い字で『一般人』と書かれた黒いTシャツ。そこらへんに売ってそうな黒ズボン。頭にはシルクハットを被り、タオルで耳などを隠す。

 

 

評価 変態

 

 

「もうこれでいいや」

 

 

「えー……」

 

 

黒ウサギはドン引きだった。お前から貰ったシルクハットが一番酷いよ。

 

どうやら太陽の光が肌に当たらないように気をつければ問題ないみたいだ。当たったらキツイよ。インフルエンザにかかった時並みにキツイよ。

 

 

「まずはハローワークに行って仕事を探そう」

 

 

「そうですね」

 

 

黒ウサギは同意する。もう何か俺、ニートみたいだな。

 

俺は辺りを見回す。

 

 

「まぁ歩き回ればいつか見つかるだろ」

 

 

俺たちは適当に歩くことにした。

 

 

30分後。

 

 

「ねぇ君。ちょっと署まで話を聞いていいかい?」

 

 

私服を着た二人の警察に捕まった。いや、まだ逮捕はされてないよ。まだ。

 

原因は俺のコスプレ?と黒ウサギのウサ耳だ。黒ウサギの耳は盲点だった。

 

 

「黒ウサギ」

 

 

俺は誰にも聞こえないくらい小さな声で言う。

 

 

「何でしょう?」

 

 

「一気に逃げるぞ」

 

 

「はい」

 

 

だが、黒ウサギの耳なら聞こえる。そして、

 

 

シュンッ!!

 

 

音速の速さで警官の間を駆け抜けた。

 

 

「え?」

 

 

警官は何が起こったか理解していない。一瞬で俺たちは姿を消したせいだ。

 

 

「まともな服が欲しい!店に行くぞ!」

 

 

「はい!」

 

 

俺たちは音速のスピードで街を駆け巡った。

 

 

途中民家の屋根に上ったりもした。ごめんなさい。

 

 

________________________

 

 

「あぁ、それならしばらく貸してあげるよ」

 

 

「本当ですか!」

 

 

俺は70代くらいのお爺さんの言葉に感激する。

 

なんと店を貸してくれると言うのだ!

 

 

「金額はいくらですか?」

 

 

「無理はすんな、払える時に払ったらいい」

 

 

「おじいさん……!」

 

 

こんな僕(変態)にここまでしてくれるなんて……!

 

 

「じゃあ明日までにしておくから明日来なさい」

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

店の内装を綺麗にするため、準備は明日になりそうだ。

 

俺が店を借りた理由。それは金を稼ぐために他ならない。現在、所持金額0円という最悪な状況だからだ。

 

 

「大樹さん」

 

 

「おう、黒ウサギ。こっちは完璧だ」

 

 

「黒ウサギも見つけましたよ」

 

 

黒ウサギには寺か神社を探して貰っていた。その目的は、今日の寝床である。店は今日まで使えない。明日になれば店に住むこともできる。

 

そして、お爺さんはなんと服を買ってくれたのだ!お爺さん、俺の服装を見た瞬間、顔を真っ青にしたもんな。どんだけ俺の服装はヤバイんだよ。

 

 

「黒ウサギの耳で分かったんですが、寺にはかなりの人数がいました」

 

 

赤いパーカを着て、フードを深く被る黒ウサギ。俺もTシャツの上からパーカーを着てフードを被る。これで俺は太陽の光を遮断でき、黒ウサギはウサ耳を隠せる。

 

 

「よし、交渉しに行こう。お坊さんなら絶対泊めてくれる」

 

 

俺たちはその寺がある小高い丘を目指した。優しいお坊さんを期待して。

 

もう空は赤くなってきていた。

 

 

________________________

 

 

階段を上ると、大きな寺があった。

 

 

あと、そこに隠れている人が俺を見ていた。

 

 

「大樹さん」

 

 

「知ってる。おい、バレてるぞ」

 

 

「……………何者かね」

 

 

俺たちは茂みに隠れた人の気配に気づく。

 

茂みの中から髪を剃り上げた男が姿を現す。黒い衣を着た男はただ者ではない雰囲気を漂わせる。

 

 

「実は今日だけ俺たちは宿無しの貧乏人なんだ。寝床がないから貸してくれないか?掃除や手伝いはなんでもする」

 

 

「僕はそんなことを聞きたいわけじゃないがねぇ……」

 

 

男は溜め息を吐く。

 

 

「怪しくない」

 

 

「フードを深く被って顔が見えないようにしている人を信じろってかい?」

 

 

俺は空を見て確認する。そして、頭に被っていたフードを取る。黒ウサギは取らない。俺が取らせないように黒ウサギの頭を上から手で押さえる。

 

 

「事情があるんだ。俺だけで勘弁してくれ」

 

 

「君のその目は……?」

 

 

「生まれつきだ」

 

 

男は俺の右目を見て驚く。俺は嘘を吐く。鬼種のギフトを持っているなんて言えなかった。

 

 

「君たち二人は相当の実力者だね。僕の気配に気づくなんて、魔法を使ったのかい?」

 

 

(魔法?)

 

 

男は冗談のように言っているわけでない。まるで俺が本当に魔法を使えるかのように言っている。

 

 

「企業秘密だ」

 

 

俺は否定と肯定のどちらもしなかった。

 

 

「なぁ泊めてくれないか?もう疲れ切ってんだ」

 

 

主に太陽のせいで。

 

 

「そうだねぇ………明日の早朝に僕たちと付き合ってくれないかな?」

 

 

「……ああ、別にいいぜ。ただし、俺だけな」

 

 

男が言っているのは修業や修練といったモノだろう。まぁ力加減すれば大丈夫だろう。は?本気で戦えよって?世界が滅びるぞ?

 

 

「まだ自己紹介していなかったね。僕は九重八雲(ここのえ やくも)」

 

 

「俺は楢原大樹。こっちは…………えっと」

 

 

どうしよう。黒ウサギの苗字なんて知らない。

 

 

「黒 兎(くろ うさぎ)だ」

 

 

「か、変わった名前だね」

 

 

「大樹さん」

 

 

「あとで土下座ならいくらでもする」

 

 

申し訳ない気持ちで一杯です。さすがに無いと俺も思うよ。

 

 

「じゃあ奥の部屋を貸してあげるよ。布団は後で持っていかせるよ」

 

 

「どうも」

 

 

九重は俺たちの警戒心を解き、俺たちを部屋まで案内してくれるそうだ。俺は再びフードを被り、黒ウサギと一緒に中に入る。

 

太陽はすでに空から消え、見えるのは綺麗に光る満月と星だけだった。

 

 

________________________

 

 

 

「ふぅ………やっとゆっくりできる……」

 

 

俺は九重の弟子から貰った布団を広げ、横になる。黒ウサギは九重から風呂を借りて入浴中だ。俺は黒ウサギが帰ってくるまでボーっとしていた。

 

 

ピピピッ、ピピピッ

 

 

ポケットに入れていた携帯電話が鳴りだした。

 

 

「はい、こちら原田暗殺委員会の受付です」

 

 

『物騒な会作ってんじゃねぇよ』

 

 

相手は原田だった。

 

 

『こっちも転生できたぞ』

 

 

「早いな。もっと時間が掛かると思ってた」

 

 

『俺も予想外だったよ。それよりもこの世界はどんな世界か分かったか?』

 

 

「全くわからん」

 

 

『だと思っていたぜ。俺が調べ上げて分かっていることを話そうか』

 

 

「だから早いだろお前。どうやって調べたんだよ」

 

 

『この世界は今西暦2095年だ』

 

 

「人の話聞けよ。絶対悪さしただろお前。あと、それなら知ってる」

 

 

商店街のお爺さんが言っていたの聞いた。このくらいならあまり驚かない。

 

 

『じゃあ【魔法】があるのは知っているか?』

 

 

「……やっぱりそういう世界か」

 

 

九重と話していて、ある程度気づいていたが、まさか本当に魔法があったなんて。

 

 

「呪文を唱えたりすんの?」

 

 

『は?俺がそんなこと知っているわけないだろ』

 

 

「調べるって意味を辞書で確認しろ」

 

 

こいつは喧嘩でも売っているのだろうか?

 

 

『まだよく調べてないんだよ。ただお前の近くにこんな建物がある』

 

 

「待て。何で俺の場所を知っているかのように言うんだ」

 

 

まさかこの携帯電話に発信機がついているのか?

 

 

『【国立魔法大学附属第一高校】。通称、魔法科高校』

 

 

「マジかよ」

 

 

そんなに当たり前のように魔法を使う世界だったのか。

 

 

『もうすぐ入学式が始まるんだが、入学者にある人物が居た』

 

 

原田は告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『木下優子が』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

俺は喜ぶべきだと思ったが喜べない。

 

何故、その高校に入学しているのか理解できなかった。

 

 

『今、お前と黒ウサギの裏入学の手続きをしている』

 

 

「おい待て!何で優子が学校なんかに……!?」

 

 

『俺は一度あいつに会った。そして、』

 

 

俺は耳を疑った。

 

 

『      』

 

 

そして、後悔した。

 

 

「嘘……だろ……?」

 

 

『嘘じゃない』

 

 

原田の声は真剣だった。

 

 

『どうする?』

 

 

「………………」

 

 

俺は………ッ!

 

 

「今すぐ入学させろ」

 

 

『諦めないんだな?』

 

 

「当たり前だ」

 

 

『分かった。一週間後、入学式がある。黒ウサギと一緒に参加しろ』

 

 

「魔法が使えないけどいいのか?」

 

 

『大丈夫だ』

 

 

原田は笑って言う。

 

 

『お前は最強の劣等生だ』

 

 

矛盾した言葉を。

 

 

________________________

 

 

ドゴッ!!

 

 

「ぐふッ!?」

 

 

俺は九重の弟子の腹に蹴りを入れる。弟子は吹っ飛び、地面に倒れる。

 

 

「ほら、全員で掛かって来な!」

 

 

俺は挑発する。

 

 

その瞬間、約20人の弟子たちが俺に襲い掛かって来た。

 

 

「オラァッ!!」

 

 

俺は真正面から突進し、

 

 

ドゴンッ!!

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

半分以上の弟子を宙にぶっ飛ばした。体当たりで。

 

 

「ッ!」

 

 

殺気を感じ、俺は後ろを振り向く。

 

 

ガッ!!

 

 

九重の回し蹴りを右腕で受け止める。

 

 

「本当に君は何者かね?」

 

 

「さぁ……なッ!」

 

 

俺は回し蹴りをした右足を払い、九重に近づく。

 

 

「ッ!!」

 

 

右ストレートを九重の腹に当てようとする。

 

だが、九重は腕をクロスさせ、防御する。

 

 

二ヤッ

 

 

俺は笑う。

 

 

「ッ!?」

 

 

九重は驚愕した。

 

俺は右ストレートを寸止めして、クロスさせた九重の腕を掴む。そして、

 

 

「ファイヤあああああァァァ!!」

 

 

っと適当な言葉を叫ぶ。

 

 

 

 

 

俺は九重を背負い投げした。

 

 

 

 

 

ドゴッ!!

 

 

「がはッ!?」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

九重の体内にある空気が一気に吐き出される。

 

弟子たちは自分たちの師匠である人がやられて、驚愕した。

 

 

「さて……とどめと行こうか!」

 

 

「「「「「ひッ!?」」」」」

 

 

「やり過ぎですよ、大樹さん!」

 

 

バシッ!!

 

 

黒ウサギにハリセンで叩かれる。

 

 

「いや、こう……なんか……ごめん」

 

 

「みなさんボロボロじゃないですか!」

 

 

「いや、いいんだよ」

 

 

おおっと!ここで九重選手が立ち上がった!

 

 

「僕らにはいい修練になったよ」

 

 

「だろ?」

 

 

「調子に乗らないでください!」

 

 

黒ウサギに叱られっぱなしだな。

 

 

「それより、時間は大丈夫かい?」

 

 

「あ、そろそろだな」

 

 

俺は商店街にある店に見に行かないと行けない。しかも、今日から営業を開始したい。

 

 

「そういえば大樹さん。どんな店を経営するんですか?」

 

 

「僕も聞きたいね」

 

 

黒ウサギと九重は俺を見て尋ねる。

 

 

「ケーキ屋だ」

 

 

「「え」」

 

 

「俺の腕なら野菜や魚。そして、もやしからケーキを作り出せる。生活費や生産費を抑えることができるしな」

 

 

「詐欺じゃないですか!?っていうかもやし!?そんなものからどうやって作るんですか!?」

 

 

「大丈夫だ。商品名には『ホワイトフォレスト(もやし)ケーキ』って書く」

 

 

これで詐欺じゃない。はい、解決。はい、そんな目で見ないで。

 

 

「何でお菓子を作るのかね?」

 

 

九重が俺に質問する。

 

 

「商店街にケーキ屋が無いって言うのが理由だ」

 

 

「全く計画性が無いね……」

 

 

俺の理由に九重は苦笑い。

 

 

「よし、店に行くぞ」

 

 

黒ウサギと九重。そして弟子たちの視線にそろそろ耐えれない。何でそんな可哀想な奴を見るみたいな目で見るんだ。

 

 

________________________

 

 

俺は商店街の人たちからたくさんの食材をお裾分けしてもらった。

 

これで材料は揃った。

 

店の設備も整えた。

 

…………ついでに借金も。誰か連帯保証人になりませんか?

 

 

「大樹の3分クッキング!」

 

 

「今すぐやめてほしいのは黒ウサギだけでしょうか?」

 

 

店の奥にある最新設備を整えたキッチンで俺と黒ウサギは商品作りをしていた。

 

 

「まずは『グリーンケーキ』を作ります」

 

 

「もしかして右手に持っているきゅうりが材料ですか?」

 

 

「あとコイツも使います」

 

 

「それはレタスですね」

 

 

「まずこの二つを斬り刻みます」

 

 

シャキンッ!!

 

 

俺は刀できゅうりとレタスを斬る。

 

 

「包丁で切り刻んでください!刀を使わないでください!」

 

 

「だが断る。次にボウルに入れて混ぜて飾って……はい完成」

 

 

「…………え?」

 

 

一瞬にしてケーキを完成させる。黒ウサギは目を疑った。

 

目の前に美味しそうな緑色のケーキが現れた。

 

 

「厨房は俺がやるから黒ウサギは接客を頼む」

 

 

「美琴さんたちが困っている理由が分かった気がします……」

 

 

「え?ドユコト?」

 

 

何で俺の料理の腕が上手いと困るんだよ。解せぬ。

 

 

「よし、早く着替えよう。さっそく開店だ!」

 

 

「はい!」

 

 

借金と生活費をかけた戦いが、今始まる!

 

 

________________________

 

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

 

黒ウサギは元気よく挨拶し、最初の御客様である二人の女性客を案内する。

 

 

「ご注文は?」

 

 

「この『レッドケーキ』ください」

 

 

ああ、トマトとパプリカを混ぜったケーキか。

 

 

「私は『ピンクケーキ』で」

 

 

了解。かまぼこ、にんじん、しょうがを混ぜまーす。これでも真面目に作ってるよ。

 

 

「へい、お待ち」

 

 

「「!?」」

 

 

俺が持ってきたケーキに女性客は驚く。何故なら、5秒もかからず持ってきてやったからだ。

 

そして、お客さんはあることに気付く。

 

 

「紅茶?」

 

 

「頼んでないわよ?」

 

 

テーブルに紅茶があるからだ。

 

 

「サービスです。当店最初の御客様なので」

 

 

サービス精神も忘れない。まさに営業マン鏡だな俺。

 

女性客は微笑み、ケーキを食べる。

 

 

「お、美味しいわ!」

 

 

「こんなの今まで食べたこと無いわ!」

 

 

定例文過ぎるコメントと思うけどありがとう!

 

 

「しかも値段………150円!?」

 

 

「安すぎるわ!」

 

 

定例文なコメントありがとう!

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

 

新たな客が来店する。どうやら商店街の常連者が来てくれるみたいだ。

 

 

「黒ウサギ!頑張って稼ぐぞ!」

 

 

「はい!」

 

 

俺と黒ウサギは気合を入れた。

 

 

________________________

 

 

「「……………」」

 

 

店の二階には六畳間の小さなリビングとキッチン。トイレと風呂も設備されている。いちゃもんの付け所なんて無い。完璧だ。

 

俺と黒ウサギはリビングで倒れt……寝ていた。

 

 

「客……予想以上に多いな……」

 

 

「大樹さんの料理が美味しいからです……」

 

 

「黒ウサギのウェイトレス姿が可愛いからだろ……」

 

 

俺の言葉を聞いた黒ウサギは頬を赤く染める。

 

男どもの視線を独占してたな。全くこれだから男って奴は……。あ、今度カメラ買っておこうかな。

 

 

「あ、学校の制服が明日の朝届くらしい」

 

 

「制服ですか!?」

 

 

「うお!?」

 

 

黒ウサギが勢いよく聞いてくる。

 

 

「どんなのですか!?」

 

 

「い、いや。まだ分からない」

 

 

「学校ってどんな場所ですか!?」

 

 

「魔法について勉強したり、使ったりするらしい」

 

 

「魔法!?凄いじゃないですか!!」

 

 

ウッキャー♪っと黒ウサギはテンションMAX。

 

 

「そんなに楽しみなのかよ」

 

 

「YES!早く行きたいですよ!」

 

 

俺はそんな喜ぶ黒ウサギを見て笑う。

 

 

「だけど、学校から帰ってきたらすぐに店で働くからきついぞ?」

 

 

「が、頑張ります」

 

 

黒ウサギは顔を嫌な顔をするが、すぐに笑顔になる。

 

 

「同じクラスですといいですね」

 

 

「え?同じクラスだが?」

 

 

「え!?何で知ってんですか!?」

 

 

「原田に同じクラスにするように手配してあるんだ」

 

 

「原田さんって何者ですか……!」

 

 

天使。ごっつい天使。坊主天使。

 

 

「原田はいい奴。以上。それより、今日の売り上げ金額は……!?」

 

 

「ど、どうしたんですか!?」

 

 

「あんまり稼げてない……」

 

 

「大樹さんが安く売っているからですよ……」

 

 

「だって50円あれば作れるようなケーキだぜ?300円で出すとか外道だろ」

 

 

「野菜や魚で作り出す方が外道なのでは……?」

 

 

「そういえば、デリバリーをしないのかって聞かれたな」

 

 

「話を変えましたね……。他のほとんどの人はデリバリーしているみたいですね」

 

 

「クソッ、ニートがッ」

 

 

「それはひどくないですか!?」

 

 

「足を店まで運びやがれ!俺の店に」

 

 

「結局自分の所にお客が欲しいだけですよね……」

 

 

「うん」

 

 

「正直ですね」

 

 

「寝よう」

 

 

「だから、さっきから唐突すぎませんか?」

 

 

「あれ?布団が一つしかない」

 

 

「え」

 

 

お爺さんが置いていってくれたのだろう。だが、一つ足りないぞ?

 

 

「仕方ない。俺はそこで寝るから、黒ウサギは布団を使って…」

 

 

「そ、そんなことできません!」

 

 

「いやいや、男は黙って床に寝るよ」

 

 

「で、では……」

 

 

黒ウサギは告げる。

 

 

「い、いい一緒に寝ましょう!」

 

 

「………………………………ん?」

 

 

今凄い事聞いた気がする。

 

 

 

「待て待て、明日は昨日だぞ?」

 

 

「何言っているんですか!?」

 

 

「じゃあ、一緒に寝るって言ったのか?」

 

 

「そうですよ!」

 

 

「「……………」」

 

 

~そして、結局~

 

 

「「……………」」

 

 

俺と黒ウサギは一緒に寝ていた。だが、背合わせで寝ていた。どうも、ビビりです。

 

 

「………大樹さん」

 

 

「は、はい」

 

 

もう!緊張しすぎだろ、俺。

 

 

「優子さんは……やっぱりこの世界にいるんですか?」

 

 

「……………聞いていたか」

 

 

「……………それと……あのことは……本当なんですか?」

 

 

黒ウサギは恐る恐る聞く。

 

 

「本当だ」

 

 

「そんなッ……!」

 

 

黒ウサギが俺のTシャツを掴む。

 

 

「ここまで来て……そんなッ……!」

 

 

「でも、俺は諦めない!」

 

 

「ッ!」

 

 

俺は大きな声で強く言う。

 

 

「諦めたら何もかも終わりだ。俺は絶対に負けない」

 

 

大切な人は手を伸ばせば届くんだ。ただ、目の前に大きな壁があるだけだ。そう、ただ壁がある……だけ。

 

 

「………クソがッ……!」

 

 

何でその壁が……高いんだよ……!

 

 

「……羨ましいです」

 

 

「……え?」

 

 

俺は意外な言葉を言われ、驚く。

 

 

「優子さんやアリアさん。そして、美琴さんのことを本当に大事に思っているなんて」

 

 

「……俺は黒ウサギのことも大切だ」

 

 

「ッ!」

 

 

「お前が美琴たちと同じことになったら、心配する。そして、絶対に助けに行く」

 

 

「大樹さん……」

 

 

俺はTシャツを掴んでいる黒ウサギの手を握る。

 

 

「俺はみんな助け出す。だから……俺を……みんなを助けてくれないか?」

 

 

「………はい!」

 

 

黒ウサギは元気よく返事をして、後ろから俺に抱き付く。

 

 

「ちょッ!?」

 

 

「今日だけ!今日だけでいいです!」

 

 

ぐああああああァァァ!!背中に柔らかいあの感触がああああァァ!!??

 

 

「オーケー、キョウダケナ」

 

 

「は、はい……!」

 

 

よし、俺は無心になるんだ。いや、俺が無心だ。無心は誰だ?(混乱中)

 

 

どうやら今日は寝れそうにないようだ。

 




次回は学校に行きます。

そして、あの兄様と妹様の登場です。

感想や評価をくれると嬉しいです。

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