どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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バトラーとの最終決戦です。

続きです。


火龍誕生祭 救済と真実の記憶編

街の東側に二人の男がいた。

 

 

「来たね」

 

 

「あぁ。はやく始めようぜ、バトラー」

 

 

一人は真っ黒の執事服を着て、頭髪は金髪にした男、バトラー。対峙するのは『一般人』と書かれたTシャツを着た、黒髪のオールバックをした少年、大樹。

 

 

「ッ!?」

 

 

バトラーは大樹を見て驚愕する。

 

 

「その目は………まさかッ!?」

 

 

大樹の右目は紅くなっていた。

 

 

「鬼種のギフト……!?」

 

 

「あぁ、そうだ」

 

 

バトラーの言葉を大樹は肯定する。

 

 

「お前を倒すために手に入れた力だ」

 

 

レティシアに協力して貰った力。支配するのに体や脳に激痛が襲い、死にそうになったが、何とか乗り越えた。黒ウサギにはちゃんと理解してもらった。最初は猛反対されたけどな。

 

 

「………狂ってる」

 

 

「ハッ、狂ってるのはお前だ」

 

 

俺は鼻で笑う。

 

 

「神を殺すなんてくだらないことやめろ、エセ執事」

 

 

「……………」

 

 

バトラーの顔から感情というものが消えた。神を殺す。バトラーはそこに反応したわけではない。

 

 

「執事?何のことだ」

 

 

「とぼけるな。全部知っているんだよ」

 

 

今日の朝、原田に教えてもらったことを思い出す。

 

 

「本名は遠藤 滝幸(えんどう たきゆき)」

 

 

「なッ!?」

 

 

無表情だったバトラーの顔に驚きが走る。

 

 

「死んだのはお前が25歳の時だな」

 

 

「何故それを……!?」

 

 

「お前は大手企業である社長の娘。龍ヶ崎(りゅうがざき) ユウナの執事をしていた」

 

 

バトラーは絶句していた。俺は構わず続ける。

 

 

「プライベートまでは分からないが、お前がこの子の執事をしていたのは確かだ」

 

 

「……………」

 

 

「お前の死因は毒物による自殺。何でお前は」

 

 

「違うッ!!!」

 

 

バトラーは叫んで否定した。バトラーの顔には怒り、憎しみ、そして悲しみがあった。

 

 

「僕は殺されたんだ!あの日、クソ野郎に誘われたお茶でな!」

 

 

「クソ野郎?」

 

 

「社長だよ……龍ヶ崎社長」

 

 

土で出来たバトラーの右腕の義手が生きてるかのように蠢く。

 

 

「僕は復讐するんだ!じゃないと……あいつは……あいつは………!!」

 

 

ドゴッ!!

 

 

バトラーの周りの地面から人形が生まれる。1、5、10、50。数は100を越えていた。俺の周りを土人形で埋め尽くす。

 

 

「そのためにはお前が死なないといけねぇんだよおおおおおォォォ!!」

 

 

ドンッ!!

 

 

一斉に俺に向かって全ての土人形が襲ってきた。

 

土人形は音速を越えていた。一瞬で俺との距離を詰める。

 

 

「遅い」

 

 

だが、今の俺には遅すぎるスピードだ。

 

 

光の速度で土人形を無視してバトラーとの距離を零にした。

 

 

「ッ!!」

 

 

俺はギフトカードから一本の刀を取り出し、

 

 

ザンッ!!

 

 

 

 

 

バトラーの首を斬った。

 

 

 

 

 

「チッ」

 

 

俺は舌打ちをする。

 

 

手応えが無かった。

 

 

サァ……

 

 

頭を無くしたバトラーは砂となって消えた。

 

 

「甘いよ、楢原君」

 

 

100以上いる内の一体の土人形からバトラーの声がする。

 

 

「君の速度に追いつけない。なら、こうやって避けるしか無いんだよ」

 

 

あの中のどれかにバトラーがいるのだろうか?

 

 

「全部叩き斬ってやるよ」

 

 

「できるかな?」

 

 

ドゴッ!!

 

 

地面から新たな土人形が出てきた。

 

 

「さぁ、どちらが優勢かな?」

 

 

バトラーの言葉を合図とした土人形は俺に襲いかかる。

 

 

「姫羅。俺に力を貸してくれ」

 

 

俺の持っている刀に力を込める。

 

 

「一刀流式、【風雷神の構え】」

 

 

刀に一撃必殺の力を与える。

 

 

「【無限蒼乱(むげんそうらん)】」

 

 

大樹は音速を越えた超スピードで静かに土人形との距離を埋め、斬った。ただそれを繰り返した。そして、

 

 

キンッ

 

 

俺は元の位置に戻り、刀を鞘にしまう。その瞬間、

 

 

ズバンッ!!!

 

 

 

 

 

全ての土人形が粉々になった。

 

 

 

 

 

「なんだと!?」

 

 

バトラーは驚愕した。

 

 

 

 

 

何故なら大樹が技名を呟いてから1秒。いや、コンマ1秒も掛かっていないからだ。

 

 

 

 

 

「光の速度で斬ったんだが……反応は出来たか?」

 

 

「嘘だ!?そんなスピードで体が耐えれるはずが!?」

 

 

下から、地面の下から声がする。チッ、そこにいやがったか。

 

 

「俺なら出来る」

 

 

「ッ!?」

 

 

バトラーは絶句した。無茶苦茶すぎる理屈に。いや、

 

 

(これが最高位の神の力……!)

 

 

バトラーは身震いした。

 

 

ゾンッ

 

 

バトラーは俺の目の前に一瞬にして姿を現せる。

 

 

「それでも……僕は……!」

 

 

「鬼種のギフトの力を舐めるなよ」

 

 

俺はギフトカードから長さ70cmはある銃を取り出す。右手に刀を持ち、左手に銃を持つ。

 

 

「右刀左銃式、【雅の構え】」

 

 

「ッ!!」

 

 

バトラーは俺が何かをする前に音速のスピードで俺との距離を詰める。バトラーの右手の義手は形を変え、大きな鎌になり、俺の首を削ぎ落とそうとする。

 

 

「【剣翔蓮獄(けんしょうれんごく)】!」

 

 

バトラーの鎌を紙一重で避け、右手に持った刀を逆手に持ち、

 

 

ドゴッ!!

 

 

「がッ!?」

 

 

バトラーの腹に柄を突いた。バトラーの肺から酸素が全て吐き出される。

 

まだ終わりではない。

 

 

「吹っ飛べ!!」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

鬼種の力を銃弾に込めた。それをバトラーに向かって撃つ。銃弾は紅い色のオーラを纏い、バトラーに直撃し、吹っ飛ばした。

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

一瞬にして民家を突き破り、境界門の壁に体が突き刺さる。境界門の壁には大きなクレーターができ、街に瓦礫の破片が降り注ぐ。

 

 

「がはッ!!」

 

 

バトラーはまだ生きていた。右腕の義手は無くなり、口からは大量の血を吐き出す。服は血で赤く染まっていた。

 

 

「はぁ……!はぁ……!!」

 

 

バトラーは肩で息をする。

 

 

「僕はまだ……!」

 

 

バトラーの背中に光の粒子が集まる。

 

 

「逃がさねぇよ!!」

 

 

翼を展開させる前に俺はバトラーに向かって飛翔する。

 

一瞬にしてバトラーの目の前まで来て、とどめの一撃である刀を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『武器を捨てなさい!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

俺は刀と銃を空に向かって投げていた。

 

 

誰もいない、空へ。

 

 

「『そのまま落ちて地に伏せなさい!』」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

「なッ!?」

 

 

俺は地面に落下し、倒れてしまう。

 

立ち上がろうにも立ち上がれなかった。どんなに力を入れても。

 

 

「は、はは……ははははッ」

 

 

バトラーは笑いだす。

 

 

「そうか……助けてくれたのか、お嬢さん」

 

 

バトラーは立ち上がる。バトラーの目線の先を俺は追いかける。

 

 

「な、なんで……」

 

 

目を疑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「飛鳥が……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒いドレスを身に纏った飛鳥がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「形成逆転だ、楢原君!」

 

 

「ふざ…けんッ……なよ!」

 

 

必死に体に力を入れるがビクともしない。

 

 

「お嬢さんの名前は久遠 飛鳥と言ったね」

 

 

「何する気だ……!」

 

 

「久遠さん、この街全体に命令してください」

 

 

「なッ!?」

 

 

そんなことをしたら魔王のギフトゲームまで影響が出る。

 

飛鳥は一歩前に出る。

 

 

「『全員その場を動くな!』」

 

 

飛鳥の一喝が街全体に聞こえる。

 

 

「な、何だ!?」

 

 

「体が動かない!?」

 

 

「助けてくれ!!」

 

 

すぐに街は混乱に満ちていく。

 

 

「僕はまだ負けていない……そうだ、僕はまだ……負けていないんだ」

 

 

バトラーは静かに笑う。手を顔に抑えながら笑う。

 

俺はただその光景を見ることしか出来なかった。

 

 

「僕は復讐する!!あの世界にッ!!」

 

 

バトラーは血まみれになっているのにも関わらず、力を解放した。

 

 

 

 

 

ゴオオオオオォォォ!!!!

 

 

 

 

 

街に大きな地震が襲う。

 

 

「甦れ!!!!」

 

 

バトラーの背中に白い……いや、黒い翼が生える。

 

 

 

 

 

「【ガイア】あああああァァァ!!!」

 

 

 

 

 

温厚な言葉遣いなどもう無かった。あるのは必死に復讐を企む人間の姿。

 

東の街の中心に大きな穴が開く。

 

 

ゴオオオオオォォォ!!

 

 

その穴から大量の土。砂や石や岩などの土が街の上空に集まる。土は球体の形になる。

 

 

「なんだよ……あれは………!?」

 

 

俺は驚愕した。

 

 

 

 

 

空が土で埋められた。

 

 

 

 

 

否。空には街よりも何十倍も大きな球が出来た。まるで隕石が。いや、もう一つの地球が落ちて来ているようだった。

 

 

(まさか落とす気か…!!)

 

 

あんなモノがこの街に落ちたら誰一人助かることはない。

 

 

「やめろバトラー!!そんなモノ落としたら…!!」

 

 

「まだだ!!まだ大きくなれ!!」

 

 

バトラーは空にある土の球体に夢中でこちらに気付かない。黒い翼が大きくなっていく。

 

 

(どうすれば……!?)

 

 

頭をフル回転させて策を巡らせる。

 

 

(一瞬……一瞬隙があれば……)

 

 

飛鳥を倒せる。だが、そんなことはしたくない。

 

 

(クソッ、俺には神の力が……!)

 

 

バトラーやリュナのように翼が無い。それは神の力を使いこなしていない証拠だった。

 

 

(動けよッ……!!)

 

 

とにかく自分の体に力を入れた。

 

 

「大樹!!」

 

 

「ッ!?」

 

 

俺の名前が後ろから呼ばれる。

 

 

「その声……十六夜!?」

 

 

「あの空に浮かんだモノは何だ!?」

 

 

「あれはバトラーが作り出したモノだ!もうじきここに落とされる!」

 

 

十六夜の顔が驚愕に染まった。

 

 

「それよりもお前は大丈夫なのかよ!?」

 

 

「何のことだ?」

 

 

どうやら十六夜には効いていないらしい。

 

 

「十六夜!飛鳥を止めてくれ!!」

 

 

「どういうことだ」

 

 

「俺にも分からない。だけど、飛鳥は操られている!」

 

 

十六夜は俺の視線の先を追いかける。

 

 

「おいおい、どうしたんだ。居なくなったと思ったら2Pカラーになって戻って来たのかよ」

 

 

「『地に伏せなさい!』」

 

 

十六夜はふざけながら喋る。飛鳥は一拍置くことなくギフトを発動させる。

 

 

「しゃらくせえェ!!」

 

 

パリンッ!!

 

 

十六夜は両手で振り払ってギフトを破壊した。

 

 

「ッ!?」

 

 

飛鳥の顔に動揺が走る。だが、飛鳥はすぐに次の行動に移す。飛鳥はギフトカードを取り出した。

 

 

「来なさい!【ディーン】!!」

 

 

ドゴオオオンッ!!

 

 

目の前に鋼の赤い巨人が出現した。

 

 

「いつの間にそんなギフトを…!?」

 

 

俺は飛鳥の新しいギフトに驚愕する。

 

 

「チッ、時間が無い」

 

 

十六夜は空に浮いた隕石を見て舌打ちをする。

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

赤い巨人のディーンは十六夜に向かって拳を放つ。地面はひび割れ、数十軒もの民家を一気に破壊した。

 

 

「うおッ!?」

 

 

身動きの取れない俺はその威力に圧倒される。

 

 

「なぁ大樹」

 

 

十六夜は俺の横に着地する。

 

 

「俺のギフトって何だ?」

 

 

十六夜の真剣な目で俺に質問した。

 

 

「……難しいな。お前のギフトは矛盾しているんだ。ギフトを破壊する能力があるのにも関わらず、お前には身体能力の強化ギフトがある。両立することはあり得ないのにお前は出来ている。まさに正体不明だな」

 

 

「長い。俺にはギフトを破壊する力があるんだな?」

 

 

「多分な」

 

 

「じゃあお嬢様が操られているのは?」

 

 

「分からないが恐らくギフトの可能性が高い……ってお前まさか!?」

 

 

「そういうことだ!」

 

 

十六夜は第三宇宙速度でディーンに向かって飛翔する。

 

 

(まさか殴るわけではないだろうな!?)

 

 

俺は飛鳥に触れるだけで洗脳が解くことを祈る。

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

十六夜の右ストレートがディーンの頭部に当たる。ディーンはバランスを崩し、その場に後ろに倒れる。

 

 

「ッ!?」

 

 

飛鳥は驚愕する。

 

一瞬にして飛鳥の目の前に十六夜が現れたからだ。

 

 

ポンッ

 

 

十六夜は飛鳥の肩に置く。だが、

 

 

「ッ!?」

 

 

飛鳥は十六夜の手を振り払った。洗脳は解けていない。

 

 

「仕方ねぇ……悪い!」

 

 

十六夜は飛鳥の目の前までまた距離を縮める。

 

 

(殴る……!?)

 

 

出来ればやりたくなかった方法に俺は目を瞑りそうになる。

 

 

「え?」

 

 

俺は十六夜の行動に目を疑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十六夜の唇と飛鳥の唇が重なっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれは……………………キスというやつですか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………キスねぇ………kissか………………って

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあああああああああァァァァ!!??」

 

 

何やってんのおおおおおおおォォォ!?

 

 

飛鳥の唇から十六夜の唇が離れる。キスした時間、わずか2秒の出来事でした。

 

 

「テメェ何やってんだ!?」

 

 

「接吻だ」

 

 

「キスって意味ね!!知っとるわボケェ!!」

 

 

緊急事態に何やってんだ貴様!?

 

 

「あ、あれ……十六夜君?」

 

 

「おう、もう大丈夫か」

 

 

飛鳥はハッなり状況を確認する。洗脳解けてる!?

 

 

「私……何をしていたのかしら?」

 

 

記憶が……ない……だと……!?

 

いや、もしかしてキスという衝撃的な出来事で洗脳が解けたのか?

 

 

「それよりも大変だ。お嬢様は今すぐ『みんな自由になれ』って叫んでくれ」

 

 

「わ、分かったわ」

 

 

十六夜の焦っている顔に押され、飛鳥は素直に従う。

 

 

「『全員自由になりなさい!!』」

 

 

飛鳥のギフトが発動した。

 

 

「よし、動ける!」

 

 

俺の体は自由を取り戻す。きっと街で倒れている参加者も大丈夫だ。あとは……

 

 

「ッ!!」

 

 

近くに落ちてある俺の銃を拾い上げる。

 

 

ガキュンッ!!

 

 

そして、俺は弾丸に鬼種のギフトを使い、銃弾の威力を上げる。

 

銃弾は空にある隕石に向かって飛んでいく。

 

 

ボッ………。

 

 

だが、全く効いていなかった。

 

 

「さぁ!これで終わりだあああああァァァ!!」

 

 

バトラーは隕石に向かって羽ばたき、隕石の中央に来る。

 

 

 

 

 

「【アース・ゼロ】!!」

 

 

 

 

 

ついに隕石が落ちてきた。

 

 

 

 

 

「どうする大樹!!」

 

 

十六夜が焦る。

 

 

「大樹!!」

 

 

飛鳥も状況がヤバイことを理解し、大樹に助けを求める。

 

 

(やるしかねぇ!!)

 

 

俺は光の速さで刀を回収する。

 

 

「右刀左銃式、【零の構え】」

 

 

俺は右手に刀を持ち、左手に銃を持って構える。

 

 

 

 

 

「【インフェルノ・零】!!!」

 

 

 

 

 

ガガガガガガガガガガガガッ!!!

 

 

高速早撃ちで12発の弾丸を一直線に並べ、

 

 

ガチンッ!!

 

 

一番後ろの銃弾に向かって刀を突き刺す。

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!!

 

 

光の速度で隕石に向かって12発の銃弾と刀と共に突っ込む。バトラーはこちらに気付いていない。

 

 

「うおおおおおおォォォ!!!」

 

 

叫び声を上げながら隕石に衝突した。

 

 

(おもッ………!?)

 

 

バキンッ!!

 

 

隕石のあまりの重さに一瞬にして両腕の骨が折れた。それでも突き進むことはやめない。

 

 

「ッ!!!」

 

 

声はもう出せないほど力がなくなった。

 

 

ドゴンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は隕石に負け、吹っ飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

俺はそのまま超スピードで地面に落下した。

 

 

「ッ……!」

 

 

胃の底から大量の血が吹き出だした。たまらず俺はその場に吐く。

 

 

「げほッ!げほッ!!」

 

 

両腕は全く動かず、無様に地をのたうち回る。

 

 

(チクショウ……!!)

 

 

一歩も動けなかった。俺は仰向けに倒れる。

 

 

隕石はすぐ目の前まで迫ってきている。

 

 

耳を澄ませば大勢の人たちの悲鳴が聞こえる。

 

 

遠くにはディーンが街の中心で構えていた。ディーンの肩には十六夜と飛鳥が乗っているのが見えた。

 

 

二人は諦めていない。

 

 

(ふざけるな)

 

 

俺は自分に言い聞かせる。

 

 

(ここで負けたら美琴やアリアや優子はどうなる)

 

 

体の仕組みを無視した動きで俺はゆっくりと立ち上がる。

 

 

(………負けられない)

 

 

俺の周りは大量の血だまりが出来ていた。今生きているのが不思議だった。

 

 

(神……力を貸してくれ………いや)

 

 

もうそんな甘いことは考えない。

 

 

(………抗え)

 

 

貰うな。自分で掴みとれ。

 

 

(立ち上がれ……!!)

 

 

そして、全てを守れ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けるかあああああァァァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギュイイイイイイイイン!!!

 

 

 

鼓膜をぶち破るぐらいの音が街に響き渡る。

 

 

 

俺の体が優しい黄金色に輝く。

 

 

 

否。正確には、輝いているのは俺の翼だ。

 

 

 

俺の翼は大きく広がる。

 

 

 

街を包み込めるような大きさまで広がった。

 

 

 

「創造する」

 

 

 

俺は創造する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「消えろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隕石を消すことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の黄金色の翼は隕石を飲み込んだ。

 

 

 

ゴオオオオオォォォ!!!!

 

 

 

隕石は優しい黄金色に光り、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオォッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、役目を終えた黄金色の翼は小さくなり、横に広げて10mほどまで小さくなった。

 

 

「はぁ……!はぁ……!」

 

 

街の中心の上空で俺は肩で息をする。

 

 

「馬鹿な………」

 

 

その光景を見ていたバトラーは力なく呟く。バトラーとの距離はそれほど遠くはなかった。

 

 

「ゼウスの力がこれほどなのか……」

 

 

バトラーの黒い翼からどす黒いオーラが出る。

 

 

「いい加減にしろ……」

 

 

バトラーは右腕の義手を悪魔の手のような形に作り上げる。

 

 

 

 

 

「僕の邪魔をするなあああああァァァ!!」

 

 

 

 

 

鬼の形相で俺に向かって音速の領域を超えたスピードで俺に迫る。

 

バトラーの右腕の義手は俺の顔を狙っていた。

 

 

ガシッ!!

 

 

「!?」

 

 

バトラーは驚愕した。

 

 

バトラーの右腕は簡単に片手で捕まえられた。

 

 

「もう誰にも負けねぇよ」

 

 

俺は静かに言う。

 

 

「お前にも……リュナにも……裏切り者のお前らにも!!」

 

 

俺はバトラーの右腕を払う。

 

 

「【無刀の構え】」

 

 

光の速度で技を繰り出す。

 

 

「【神殺天衝(しんさつてんしょう)】」

 

 

神すら殺す必殺の一撃。バトラーの胸に右ストレートをブチ当てた。

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!!

 

 

一瞬で地面に落ち、巨大なクレーターが出来る。

 

 

だが、

 

 

「ああああああァァァ!!」

 

 

まだバトラーは生きていた。

 

黒い翼を大きく羽ばたかせ俺に向かって突撃する。

 

 

「僕が死ぬ!?ふざけるな!!僕は絶対に死なない!!あの世界に復讐するまで!!」

 

 

バトラーは悪魔のような右腕を変形させる。

 

 

「終わりだああああァァァ!!!」

 

 

右腕は大きな土の槍に変える。槍には黒いオーラを纏っており、触れただけで死を招くほどの邪気を帯びていた。

 

 

 

 

 

「天候、【氷河期】」

 

 

 

 

 

ガチンッ!!!

 

 

「ッ!?」

 

 

バトラーは動けなくなった。

 

 

 

 

 

一瞬にしてバトラーは凍らされたからだ。

 

 

 

 

 

(何が……何が起きた……!?)

 

 

バトラーの体温を奪っていく。

 

 

ゼウスの称号は全知全能の神だけではない。全宇宙や雲、雨、雪、雷などの気象を支配していた神でもある。

 

 

(ッ!?)

 

 

バトラーさらに驚愕する。

 

 

氷河期。それは街全体に起こっていると思われた。

 

 

否。氷河期はバトラーを中心とした100mしか起こっていなかった。

 

 

(座標の決定もできるのか……!?)

 

 

無茶苦茶すぎる。バトラーの体が震えた。

 

 

「黒ウサギ!!」

 

 

俺は近くに黒ウサギがいることを把握していた。

 

 

「大樹さん!!」

 

 

黒ウサギは俺の横まで飛翔する。

 

 

「話は後だ。【インドラの槍】を撃て」

 

 

「はい!!!」

 

 

黒ウサギはギフトカードから【インドラの槍】を取り出す。

 

 

「はあああああァァァ!!!」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

黒ウサギはバトラーに向かって【インドラの槍】を投擲した。雷鳴がここら一帯に響く。

 

 

「まだだあああああァァァ!!!」

 

 

バキンッ!!

 

 

バトラーは最後の力を振り絞って脱出する。

 

 

「ッ!!」

 

 

そして、間一髪の所で横にかわす。

 

 

「そんなッ!?」

 

 

黒ウサギは予想に反して、避けられるとは思わなかった。

 

 

「まだ僕は……俺は終わってない!!」

 

 

バトラーの一人称が変わる。これが本来のバトラーなのであろう。

 

 

 

 

 

「いや、俺たちの勝ちだ」

 

 

 

 

 

「……ぁ……?」

 

 

バトラーはもう驚く事すらできなくなった。

 

 

恐怖に支配された。脳で理解することを拒んだからだ。

 

 

後ろから大樹の声がした。

 

 

「創造する」

 

 

大樹は後ろに回り込み、【インドラの槍】を

 

 

 

 

 

掴んだ。

 

 

 

 

 

ガシャアアンッ!!!

 

 

雷が俺の手に落ちる。痛みは全くない。

 

 

「刀となれ」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

先程とは比べものにはならない雷が俺の両手の中で弾け飛ぶ。

 

 

「「!?」」

 

 

黒ウサギとバトラーは驚愕する。

 

 

 

 

 

【インドラの槍】は雷を帯びた二本の刀に変化していた。

 

 

 

 

 

雷で形成された二本の刀を両手に一本ずつ持つ。

 

 

 

「二刀流式、【黄葉(こうよう)鬼桜の構え】」

 

 

 

紅葉鬼桜の進化版。黄葉鬼桜。俺のために姫羅が残してくれた技。

 

 

俺は右手の刀を逆手に持ち、十字に構える。右腕と左腕をクロスさせ、逆手にもった右手を横の字。左手を縦の字で構える。

 

 

「……僕は」

 

 

バトラーは体から力を抜く。

 

 

「まだ……」

 

 

大樹は背中の黄金色の翼を大きく広げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【双葉・天神焔(てんしんえん)】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光の速さで斬撃された最強の二連撃がバトラーの体に刻まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

「今日から君が担当して貰うよ」

 

 

60代くらいの白髪の男は俺に向かって言う。彼は俺の執事長だ。ここでは一番偉い存在だ。

 

 

「僕が……ですか?」

 

 

俺の一人称は執事という仕事をし始めてから変えた。この方が執事らしいと自分でしっくりきたからだ。

 

 

「あぁ、頑張るんだよ」

 

 

執事長は優しい笑みを浮かべながら俺に言う。

 

彼は俺が新人だった5年前からずっと手とり足とり教えてもらった。彼には恩を感じている。

 

 

「はい!」

 

 

俺は元気よく返事をした。

 

 

今日から雇われた龍ヶ崎社長の娘であるユウナお嬢様の専属執事となった。

 

 

________________________

 

 

コンコンッ

 

 

「誰?」

 

 

「今日からお嬢様の執事をすることになった遠藤でございます」

 

 

「入っていいわよ」

 

 

お嬢様に許可を頂き、扉を開ける。

 

 

「失礼します」

 

 

部屋の中は広く、いかにも貴族だと分かる雰囲気が漂っていた。どの家具も売ったら何千万もする高級感が一つ一つ家具から感じられる。

 

 

「あなたが遠藤?」

 

 

俺の名前を呼んだのは奥の椅子に座っている女の子。髪は社長のお母様が外国人でもあるため、綺麗な金髪を受け継いでおり、服は派手すぎない優しい青色のドレスを着ていた。お嬢様は15歳の少女だった。

 

 

「はい、先程も申し上げましたがお嬢様の

 

 

「聞いたわ。それよりも……」

 

 

俺の言葉を被せユウナお嬢様は告げる。

 

 

「あなた、下の名前は?」

 

 

「え、えっと……滝幸です」

 

 

急に下の名前を聞かれ、戸惑う。

 

 

「じゃあ滝幸。外に連れて行ってくれるかしら?」

 

 

出た。

 

 

俺はこの言葉が来るのを予想していた。

 

 

このお嬢様は外に脱走しまくる問題児。問題お嬢様なのだ。

 

 

「それはできません」

 

 

「私の言うことを聞かないの?」

 

 

「そういうことではありません。執事長からお嬢様を勝手に外に出すなと言いつけられておりますので」

 

 

俺は用意しておいた定例分を読み上げる。

 

 

「じゃあ叫ぶわよ」

 

 

「…………………………はい?」

 

 

全く予想できなかった言葉が返って来た。

 

 

「私が叫んだらすぐに誰かが来るわ」

 

 

「は、はぁ……」

 

 

一応まだ頭で理解できた。

 

 

「そして、ここに来た人に『滝幸に〇〇〇されて〇〇な〇〇〇〇されたの!!』って言うわ」

 

 

「ゲスいなオイ!?」

 

 

ハッ!つい普段の言葉が!

 

 

「滝幸ってもしかして新人?」

 

 

「は、はいそうです」

 

 

急いで敬語に戻す。

 

 

「じゃあクビになりたくなかったら私を外に連れ出して!」

 

 

「もうやだこのひと」

 

 

退路を断たれた瞬間であった。

 

 

________________________

 

 

「ユウナお嬢様、音は絶対に出さないでくださいね」

 

 

俺は人差し指を口に当てて、ユウナお嬢様に静かにするように合図する。ユウナお嬢様は縦に二回うなずいた。

 

俺たちは屋敷からの脱出を試みていた。この作戦には俺のクビが掛かっている。

 

 

「今です」

 

 

俺の合図で屋敷の窓から脱出する。ここは四階だが俺は構わず飛ぶ。

 

 

シュタッ

 

 

静かに、綺麗に着地する。

 

 

「さぁユウナお嬢様。ロープを使って降りてきt」

 

 

「とぉ!!」

 

 

 

 

 

ユウナお嬢様が飛び降りた。

 

 

 

 

 

「ちょッ!?」

 

 

俺は慌ててユウナお嬢様の落下地点に飛び込む。

 

 

ボスッ

 

 

なんとか受け止めることに成功した。

 

 

「何やってるんですか!!」

 

 

「しーッ、バレるでしょ」

 

 

俺にストレスがだんだん溜まってきている。

 

 

「はやく行きましょ」

 

 

「はぁ……はい」

 

 

もう後戻りは出来なかった。

 

 

________________________

 

 

それから毎日のように隙を見計らってユウナお嬢様を外に連れ出した。

 

 

「滝幸!あれは何!?」

 

 

「東京タワーもご存知ではないのですか?」

 

 

「名前しか知らなかったわ!」

 

 

ユウナお嬢様は超がつくほどの箱入り娘だった。

 

屋敷の外に出られたのは俺が最初に連れ出した時が初めてらしい。

 

 

「大きいわね!」

 

 

「あそこの展望まで昇ることもできますよ」

 

 

「行きたいわ!」

 

 

俺はそんな箱入り娘のユウナお嬢様に世界の広さを知ってもらいたかった。

 

 

「た、たたた高いわね」

 

 

「大丈夫ですよ」

 

 

ユウナお嬢様は高所恐怖症らしい。四階から飛び降りたくせに。

 

 

「ねぇ滝幸」

 

 

「はい、何でしょう?」

 

 

「あなたはどうして執事になったの?」

 

 

「秘密です」

 

 

「それ昨日も一昨日も言ってたわよ」

 

 

「明日も明後日も言う予定です」

 

 

「……………………叫ぶわよ?」

 

 

「ごめんなさい」

 

 

ここは人が多すぎる。叫ばれたら10秒で捕まるだろう。

 

 

「僕は脳に障害があります」

 

 

「え?」

 

 

ユウナお嬢様は驚く。

 

 

「記憶障害で勉学や記憶に関しての知識を覚えるのが一般の人より遅いのです。とても」

 

 

俺は続ける。

 

 

「そのせいで僕には知能という言うべきものが全くありません。敬語や作法はやっと覚えることができたのです。いえ、覚えやすかったと言ったほうが適切でしょう」

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

「ユウナお嬢様が謝ることはありません。むしろ感謝しています」

 

 

ユウナお嬢様に向かって微笑む。

 

 

「こうしていられるのも、僕の脳に障害があってこそです」

 

 

「……………ばか」

 

 

ユウナお嬢様は顔を赤く染めた。

 

 

________________________

 

 

「どうよ滝幸!学年1位よ!」

 

 

「さすがです、お嬢様」

 

 

あれから半年以上もの月日がたった。

 

ユウナお嬢様はもうすぐ高校受験だ。受ける高校は超有名な高校に合格することを目標としている。

 

 

「それじゃあ、約束通り今度は温泉に行きましょう!」

 

 

「あぁ、俺の金が吹っ飛んでいく……」

 

 

いつもと変わらない日常。楽しかった。

 

 

コンコンッ

 

 

「入っていいわよ」

 

 

「失礼します」

 

 

ノックをして入って来たのは執事長だった。

 

 

「滝幸君。ちょっと話がある」

 

 

「わかりました。お嬢様、少しお待ちください」

 

 

「はやく帰って来てね」

 

 

「はい」

 

 

俺とユウナお嬢様は笑顔で別れた。

 

 

 

 

 

これがお嬢様と顔を合わせるのが最後となった。

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

「龍ヶ崎社長が?」

 

 

「君に話があるそうだ。三階の社長室に行きなさい」

 

 

「わ、分かりました」

 

 

執事長の話によると、俺は龍ヶ崎社長に呼び出しされた。

 

理由は執事長に聞いても、聞かれてないから分からないっと答えられた。

 

俺は言われるがまま、社長室へと向かった。

 

 

 

 

 

この時の俺は警戒心など全くなかった。

 

 

 

 

 

________________________

 

 

コンコンッ

 

 

「入りたまえ」

 

 

「失礼します」

 

 

俺はノックをし、入室の許可を頂く。

 

 

「やぁ待っていたよ」

 

 

俺を呼んだのは椅子に腰を掛けた龍ヶ崎社長だった。

 

 

「とりあえず座りたまえ」

 

 

「は、はい」

 

 

そう言われ俺は龍ヶ崎社長が座っている前の席に座る。

 

 

「紅茶は嫌いかね?」

 

 

「いえ、大好きです」

 

 

「それはよかった」

 

 

龍ヶ崎社長は自分でティーカップを用意して紅茶を作り始めた。

 

 

「どうぞ」

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

龍ヶ崎社長自ら淹れるなんて予想外だった。俺は冷めないうちに紅茶を飲む。

 

 

「遠藤君、いつも娘が世話になっているね」

 

 

「い、いえ!そんなことはありません!」

 

 

「ユウナの専属執事はすぐに辞めてしまうから困っていたんだよ。君には感謝しているよ」

 

 

龍ヶ崎社長に褒められ、俺は悪い気分ではなかった。

 

 

「娘の進路についてはどうなっているかね?」

 

 

「問題ありません。どこの高校でも入ることは可能でしょう」

 

 

「そうかい。それはよかった」

 

 

龍ヶ崎社長は安心したように息を吐き、

 

 

 

 

 

「ならどの高校に行っても問題ないか」

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

耳を疑った。

 

 

「娘にはやってもらわないといけないことがあるからね」

 

 

龍ヶ崎社長は席を立つ。

 

 

「近々、大手の企業会社との交流があって、儲かるチャンスが到来したんだよ」

 

 

嫌な予感がした。

 

 

「その大手企業の社長の息子さんがユウナと同い年なんだ」

 

 

「まさか……!?」

 

 

 

 

 

「あぁ、結婚させようと思うんだ」

 

 

 

 

 

「ふざけるな!」

 

 

俺は敬語なんか取っ払い、龍ヶ崎社長に怒鳴りつける。

 

 

「そんなこと本人が……!」

 

 

「望むわけがないだろ」

 

 

「だったら……!」

 

 

「だから、君をここに呼んだんだよ」

 

 

「な、何を言っているんだ」

 

 

ビチャッ

 

 

液体か何かが落ちるような音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の口から血が流れ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

痛みは無い。ただ、口から血が溢れ出した。

 

 

「やっと効いたか」

 

 

「な、何だよこれ……ッ!?」

 

 

その瞬間、喉が裂けるような痛みが襲い掛かって来た。たまらず俺は床に倒れる。

 

 

「がはッ……!?」

 

 

「君には大変感謝しているよ」

 

 

俺を見下しながら龍ヶ崎は言う。

 

 

「ユウナと君はとてもいい信頼関係があった」

 

 

「……ぁ……が……ッ!!」

 

 

喉が完全にぶっ壊れていた。声が出ない。

 

 

「もし、君が自殺したとしよう」

 

 

龍ヶ崎は語る。

 

 

「それも遺書を残して自殺するんだ。内容は……」

 

 

龍ヶ崎は悪魔のような笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「『お嬢様の相手をするのに疲れた』ってね」

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

「そうすればユウナは反省するだろう。これからはちゃんと言うことを聞こうってな」

 

 

俺の心臓が悲鳴をあげ始めた。

 

 

「じゃあ私はユウナにこう言おう。『社長の息子と結婚しろ』と」

 

 

「……ク、ソッが……!!」

 

 

俺は力を振り絞って立ち上がろうとするが、できない。

 

 

「でも、あそこの社長の息子って悪い噂しか聞かないからな」

 

 

わざとらしく俺に向かって告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あそこの息子さんの彼女になった人は殺されるらしいんだよ。証拠を消されて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がああああああァァァ!!」

 

 

必死に力を振り絞って立ち上がろうとする。

 

 

ドゴッ!!

 

 

龍ヶ崎は右足で俺の顔面を蹴り飛ばした。俺は後ろに倒れる。

 

 

「全く、あそこの息子には関わりたくないね。金だけ貰って、すぐに縁を切ろう」

 

 

体は………もう動かない。

 

 

「説明は終わりだ。今日までありがとう」

 

 

憎い。憎い。この男が憎い。殺してやりたい。でも、その前に……。

 

 

お嬢様………どうか………どうか………。

 

 

「ぉ………に、げッ……くだ……さい……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の呼吸が止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

「………………」

 

 

バトラーは死んだあの時と同じ体制で地面に倒れていた。

 

 

「とどめは刺さないなのか?」

 

 

「刺されたいのかよ、お前は」

 

 

バトラーと同じくらい血だらけになった大樹が歩み寄る。

 

 

「俺は復讐する。それまでは死にたくないんだ」

 

 

「じゃあお前は一生死ねないな」

 

 

「……どういうことだ」

 

 

バトラーは大樹の言葉に疑問を抱く。

 

 

「大手企業の社長である龍ヶ崎は死んだよ」

 

 

「何ッ!?」

 

 

「死因は毒物による死だ」

 

 

「自殺したのか!?」

 

 

「いや、殺されたんだよ」

 

 

大樹はその場に座り込んだ。もう立つことすら無理になったのだろう。

 

 

「仕事に嫌気がさした秘書が殺したんだよ。まぁあんな外道は大抵身内から殺されるパターンが多いからな」

 

 

「お嬢様は……ユウナお嬢様はどうされたんですか!?」

 

 

いつの間にか敬語に戻すバトラー。必死に問いかける。

 

 

「当時、執事長とメイド長は老夫婦だったことは知っているだろう?あの二人が親代わりとなってユウナちゃんを育てているよ」

 

 

「……………」

 

 

「二人は今まで貯めてきた莫大な資産が残っている。貧困な暮らしは絶対にしていないよ」

 

 

「本当か……本当なのですか?」

 

 

「天使がそう言っているが……信じるか?」

 

 

大樹は笑い、横に倒れた。

 

 

「あー、もうきつかった。この真実話すのにお前は暴れすぎなんだよ」

 

 

「………とぅ……ぃますぅ……!」

 

 

バトラーの震えた小さな声が聞こえた。

 

 

 

 

 

「ありがとう……ございますぅ……!!」

 

 

 

 

 

バトラーは泣きながら感謝の言葉を述べる。

 

 

「どういたしまして」

 

 

大樹は笑みを浮かべる。

 

 

(救う……ってこのことか……)

 

 

哀れな執事。バトラーは声を上げて泣いていた。

 

 

「それに復讐なんてつまらないものだぞ?」

 

 

俺は仰向けになりながら言う。

 

 

「……俺は人を殺めようとしたことがある」

 

 

「……………」

 

 

バトラーは涙を流しながら聞く。

 

 

「人を殺めようとして、俺はどんな気持ちになったと思う?」

 

 

俺はあの時の気持ちを忘れていた。だが、今は思い出している。

 

 

「快感?達成感?優越感?……全部違う」

 

 

俺は。あの時の俺は。

 

 

「恐怖と後悔だ」

 

 

今でも思い出せば手が震える。

 

 

「お前は人を殺したことはあるのか?」

 

 

「…………ないです」

 

 

「よかったな。それが正しいんだよ」

 

 

この質問は同時に殺された裏切っていない保持者を殺したかどうかについての質問でもあった。

 

 

「ユウナちゃんもそれを望んでいるよ」

 

 

「……………あなたは……もう大丈夫なんですか?」

 

 

「半分だな」

 

 

正直な感想だった。

 

 

「美琴やアリア。優子に黒ウサギ達に出会って俺は成長し、立ち直ることができた。でも、その出来事を忘れるわけにはいかない」

 

 

一度忘れた記憶。そんなのは……。

 

 

「忘れることは……とても悲しいから」

 

 

俺は双葉を思い出す。あの時の彼女は今、敵となって俺に立ち塞がっている。でも、

 

 

(今度は俺がお前の記憶を思い出させてやるよ……)

 

 

シュピンッ!!

 

 

黒ずんだ空に光が溢れ出した。赤や青、緑、黄色などカラフルな色が街を照らし出す。

 

 

「ゲームクリアか……」

 

 

それはステンドグラスが生み出した光。幻想的だった。

 

これで、魔王とバトラーの戦いに終止符が打たれた。

 

 

「お嬢様……ユウナお嬢様……!」

 

 

バトラーは嗚咽をこらえながら言う。

 

 

「私は……僕は……俺は……!」

 

 

バトラーの体が輝きだす。俺にはその光が何なのか理解できていた。

 

 

「あなたが………将来ッ……!」

 

 

バトラーは最後の言葉を泣きながら微笑んで告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幸せであることをずっと願います……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

コンコンッ

 

 

 

「入っていいわよ」

 

 

 

「失礼しますお嬢様」

 

 

 

「どうしたの?」

 

 

 

「今日は高校の入学式ですよ」

 

 

 

「……まだ早くないかしら?」

 

 

 

「ユウナお嬢様は学年主席ですよ!そんなお方が初日で遅刻なんて!」

 

 

 

「はぁ……分かったわ」

 

 

 

「執事長が車で待っておられます」

 

 

 

「ええ、すぐに………先に行っててくれるかしら」

 

 

 

「分かりました。すぐに来てくださいね」

 

 

 

少女はテーブルの上に置いてある、一枚の写真を手に取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行ってくるわね、滝幸」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は微笑み、部屋を出た。

 

 


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