どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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続きです。


火龍誕生祭 天星炎編

「具合はどうだ?」

 

 

「大丈夫だ。思ったより傷が浅いみたいだ」

 

 

「うん、大丈夫」

 

 

俺はベッドの上で横になったレティシアと耀を看病していた。

 

 

「レティシアが負けるなんてペストはそんなに強かったの?」

 

 

「あいつは私の攻撃を受けてかすり傷すらつかなかった」

 

 

耀の質問にレティシアは申し訳なさそうに答える。

 

 

「ペストは桁外れに強いと思うぞ。なんせあいつは神霊の類だからな」

 

 

「何ッ!?」

 

 

俺の言葉にレティシアは驚く。

 

 

「あぁ、そういえば謎を解いたことを言ってなかったな」

 

 

「もう解いたの……!?」

 

 

次は耀は驚愕した。

 

 

~説明中~

 

 

「……というわけだ」

 

 

「私には大樹が人間ではない気がしてきたよ……」

 

 

「それ地味に傷つからね、レティシア」

 

 

レティシアの言葉にグサリッと心に刺さった。

 

 

「それでペストが神霊だということが分かるのはどんな功績があるかが問題なんだ」

 

 

「『130人の子どもたちの死』じゃないの?」

 

 

耀は俺に確認を取る。

 

 

「違うな。あいつは14世紀に大流行した黒死病……」

 

 

俺は一度言葉を区切る。

 

 

 

 

 

「つまり全人口の三割……約8000万人を殺した死の功績だ」

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

 

俺の言葉に二人は驚く。

 

 

「あってるかどうかは分からないけどな。黒ウサギに聞いたらその可能性はあるって言われた」

 

 

「た、倒せるの?」

 

 

耀が心配して聞く。

 

 

「ああ、大丈夫だから心配するな。二人はゆっくり休んでくれ」

 

 

俺は持ってきた果物をナイフで皮を剥く。

 

 

「………ねぇ大樹」

 

 

「何だ?」

 

 

「飛鳥は?」

 

 

「聞くと思ったよ」

 

 

耀は小さい声で聞いてきた。

 

 

「まだ見つからないのか?」

 

 

「全員血眼で探しても見つからなかったよ。相手に捕まってるかもしれない」

 

 

レティシアは俺に尋ねる。俺は首を横に振って否定した。

 

飛鳥は耀を守るためにラッテンと一人で戦ったらしい。その後、行方不明になった。ラッテンに捕まったと考えるのが妥当だろう。

 

 

「飛鳥のことなら心配するな。絶対見つけてやる」

 

 

「………大樹」

 

 

俺は耀励ます。だが、耀は俺の名前を呼び、

 

 

「美琴たちは……?」

 

 

「ッ」

 

 

俺は動揺で顔が歪んだ。自分でも分かる。

 

 

「……何かあったのだな」

 

 

「……………実は…」

 

 

俺はあったことを話した。美琴たちが消されたことを。

 

神について。バトラーについて。

 

二人は顔を真っ青にして聞いていた。

 

 

「でも、希望はある」

 

 

俺は剥き終り、丁寧に切った果物を皿に置く。俺は手に力を入れる。

 

 

「次は必ず勝つ。絶対に……」

 

 

「……勝算はあるのか」

 

 

レティシアが真剣な表情で聞く。

 

 

「ああ、そのために力を貸してほしいんだ」

 

 

俺はレティシアを見る。

 

 

「私に?」

 

 

「ああ、お願いだ」

 

 

俺はレティシアに頼みの内容を話した。

 

 

「それは…!」

 

 

「危険なのは分かってる。でもな…」

 

 

俺は覚悟を決める。

 

 

 

 

 

「こんなところで負けられない。危険を冒してもやらなきゃいけないんだ」

 

 

 

 

 

それは危険な賭けだった。

 

 

________________________

 

 

「よう」

 

 

「悪い、またせたな」

 

 

俺は街の外にある広場にいた。待ち合わせていたのは原田。宮川の姿は見えない。

 

空は真っ暗になり街頭だけが唯一の明かりだ。

 

 

「………大樹、その目は」

 

 

「気にするな」

 

 

原田は俺の目を見て驚いている。

 

 

 

 

 

俺の右目は黒から赤くなっていた。

 

 

 

 

 

それは充血した目とは違う。ルビーのような紅い目だった。

 

 

「……そうか、なら本題に入ろうか」

 

 

原田はそのことに触れようとしなかった。原田と俺は近くにあったベンチに座る。

 

 

「まずは簡単に俺の正体を明かそう」

 

 

原田は咳払いをする。

 

 

「俺はオリンポスの十二神の使者だ。いわゆる天使というものだ」

 

 

「そんなごっつい天使いらねぇよ」

 

 

「真面目な話だ。俺はゼウスからの指示でお前をサポートしていたんだ」

 

 

原田は茶化す俺に溜息を吐いた。

 

 

「だが世界に転生する際に記憶。つまり天使であるという記憶を消されてしまうんだ」

 

 

「だから俺を思い出すのは無理で助けることができなかったと?」

 

 

「いや、頭の隅でお前を助けないといけないって思わされるんだ」

 

 

「なにそれ怖い」

 

 

洗脳じゃん。

 

 

「でも全く違和感ないぞ……ってそんな話はどうでもいいんんだ。宮川は最初の世界で助けただろ?」

 

 

「………核を爆発させても衝撃を吸収する水か?」

 

 

原田はうなずく。

 

 

「俺たちはちゃんと助けていたんだよ」

 

 

さりげなく自分もカウントする原田。

 

 

「宮川も天使なのか?」

 

 

「ああ、そうらしい」

 

 

「らしいって何だよ」

 

 

「元々俺一人で大樹を助ける予定だったが……」

 

 

「役に立たないから宮川が来たってこと?」

 

 

「そうらしいんだ……」

 

 

原田は落ち込む。メンタルよわっ。

 

 

「その割には前の世界で俺はボコボコにされているんだが?」

 

 

俺は清涼祭での試験召喚戦争を思い出す。

 

 

「あれは宮川の本性だろ?」

 

 

「いや知らんがな。いや、説明になってないから」

 

 

「そんなことはどうでもいいんだよ。さっきからどうでもいいところに食いつきやがって」

 

 

お前が喋りだしたんだろうが。

 

 

「でもお前、アリアの世界ではいなかったじゃねぇか」

 

 

「休憩してた。いや、サボった」

 

 

「おい」

 

 

「冗談だ。上の者から呼び出されてな、行けなかったんだよ」

 

 

原田は不思議そうな顔をする。

 

 

「でも、結局手違いがあって意味なかったんだよな……」

 

 

「話戻そうぜ、役立たず」

 

 

「仕返しのつもりか貴様」

 

 

俺はどうでもいいことなので聞き流した。

 

 

「お前らが助けてくれるのは分かった」

 

 

俺にとって最も聞きたかったことを尋ねる。

 

 

 

 

 

「敵は誰なんだ」

 

 

 

 

 

「ああ、俺もそれを言いたかった」

 

 

原田の雰囲気が変わった。

 

 

「相手のことはどこまで知っている?」

 

 

「バトラーとリュナの二人。バトラーはデメテルの力を貰ってると言っていたな」

 

 

「正確にはデメテルの【保持者】って言うんだ」

 

 

原田は俺の言葉を訂正する。

 

 

「お前らは神から力を貰っている。バトラーはデメテル。大樹は全知全能の神、ゼウスから」

 

 

「未だに信じられない話だな」

 

 

俺は審議決議に行く前に原田に告げられた。

 

ゼウスの保持者。

 

力をくれたのはゼウスだったのだ。あのじーさんはゼウスらしい。

 

 

「リュナも神から力を貰っているんだよ」

 

 

「待て」

 

 

俺はあることに気付く。

 

 

「デメテルとゼウスの両方はオリンポスの十二神だ。そんな奴らの保持者が何故争うんだ?」

 

 

「……保持者は全員で12人いるんだ」

 

 

原田は下を向き説明を始める。

 

 

「オリンポスの十二神の12人は一人ずつ、一人の人間を保持者を選んでいるんだ。理由は様々だが仕事をさせるが多いな」

 

 

「俺の場合は遊んでいるようだが?いや、データ収集って言ってたか」

 

 

俺は神に最初に言われたことを思い出した。

 

 

「違う。それも嘘だ」

 

 

だが、原田は否定した。

 

 

「何だよ。随分神は嘘を吐くんだな」

 

 

「それほど神は焦っていたんだよ」

 

 

「焦っていた?」

 

 

俺は疑問を抱く。

 

 

「俺たちは最大の危機に面している」

 

 

原田はゆっくりと告げる。

 

 

 

 

 

「保持者が神を殺そうとしているんだ」

 

 

 

 

 

「なッ!?」

 

 

驚愕した。

 

 

「保持者は裏切り始めたんだよ。力を貰ったのに恩を仇で返しやがるんだ」

 

 

原田の表情には怒りがあった。

 

 

「………今どんな状況だ」

 

 

状況。裏切り者の数などが知りたかった。

 

 

「相手の数は分からない。分かることは……」

 

 

原田は歯を食いしばり言う。

 

 

 

 

 

「裏切り者ではない保持者の遺体がすでに5人見つかっている」

 

 

 

 

 

「……嘘だろ?」

 

 

死んだ。その事実に体が震えた。

 

 

「保持者同士の殺し合いだ。敵の数は未知数だが、絶対に主犯格がいるはずだ。そいつを叩けば少しは状況が良くなるはず…」

 

 

「何で保持者を殺す必要がある」

 

 

俺は原田に質問する。

 

 

「違う。殺すは必要ないんだ。死んだ保持者はお前を守るために戦って殺されたんだ」

 

 

「ッ!?」

 

 

「敵の目的は大樹。お前が死ぬと全てがゲームオーバーなんだ」

 

 

原田は説明する。

 

 

「さっき敵は神を殺す計画を立てているって言ったよな。なら、どうやったら殺せると思う?」

 

 

俺はその問いに答えれない。

 

 

「ゼウスの保持者を殺すことだ」

 

 

「俺を……?」

 

 

「そうすればオリンポスの十二神は守るモノが無くなってしまうんだ」

 

 

「守るモノって?」

 

 

「ゼウスが作り上げた最強の結界だ」

 

 

俺は原田の話を聞く。

 

 

「神は保持者がいることによって能力を上げることができるんだ。今のゼウスは大樹がいることによって力が増大している。その力を使って裏切り者の保持者から身を守っているんだ」

 

 

「もし俺が……殺されたら?」

 

 

「ゼウスの力は弱まり、裏切り者の保持者たちは結界を破壊し、一斉に神を殺しに行くだろうな」

 

 

バトラーとリュナの目的が分かった。

 

 

「そもそも、大樹は見つかるわけは無いんだ。ゼウスの力があれば敵の目から欺くことは簡単。なのに何で見つかったんだ……!?」

 

 

原田は独り言のように呟く。

 

 

「見つかることが無いはずなのに……何で……?」

 

 

「考えてるところ悪いが、神は何で美琴たちを巻き込むんだ。それが分からない」

 

 

思考する原田に俺は質問する。

 

逃げるなら俺だけでいいじゃないか。

 

 

「この問題をいつまでも放っておくのか?」

 

 

「そ、それは……いろいろと問題になるな」

 

 

「だろ?だからゼウスは賭けに出た」

 

 

原田は俺に向かって指をさす。

 

 

「裏切り者の保持者を大樹と女の子たちで一緒に倒すことを」

 

 

その言葉は聞き捨てならなかった。

 

 

「………ふざけるなよ」

 

 

俺は手を強く握り絞める。

 

 

「そんなことなら美琴たちを巻き込む必要が……!」

 

 

「ゼウスは話してるよ」

 

 

原田は首を横に振り、

 

 

 

 

 

「ゼウスは女の子全員にこのことを話しているよ。全部な」

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 

俺は言葉の意味を理解できなかった。

 

 

「知っている……だと?」

 

 

「ゼウスは転生するまえにこの事実を言っている。それを踏まえた上でお前についていったんだ」

 

 

「ッ!?」

 

 

嘘だろ?

 

 

「じゃ、じゃあ……そんなことも俺は知らないで……!?」

 

 

美琴を。アリアを。優子を。

 

 

 

 

 

危険に晒した。

 

 

 

 

 

「この世界に来て薄々気づいていただろうな。相手が仕掛けてきたのを」

 

 

「最低だ……最低じゃないか!!」

 

 

「落ち着け!お前は悪くなんて…!」

 

 

「ふざけるな!俺は何も知らないで気を遣わされて接せられていただけじゃないか!美琴たちは俺のために死のうとしてるのと同じだ!」

 

 

楽しい世界に連れて行ってやる?ふざけるな!!

 

 

「何をやっているんだ俺は!?」

 

 

「お前は知らなかったからだ!だから……!」

 

 

「じゃあ教えろよ!!隠さずに教えろよ!!」

 

 

もう子どものように言いたいことだけを言い放った。

 

 

「美琴たちを助けたら本当のことを話す?知っているのに話すのか!?俺のせいで死にかけたのに、それでなお巻き込むのか!?」

 

 

「大樹……」

 

 

「もうやめだ!!美琴たちを元の世界に」

 

 

「ふざけてるのはお前もだ!!」

 

 

「ッ!?」

 

 

原田が怒鳴り声を上げる。

 

 

「三人とも危険だと分かっていたからついてきたんだぞ!?」

 

 

「だからそれが……!」

 

 

 

 

 

「お前が心配だから!!」

 

 

 

 

 

「ッ……!」

 

 

俺は冷静になる。

 

 

「お前が心配だからついていったんだ!お前と一緒にいたいから危険を冒しても守りたかったんだ!その気持ちを踏みにじってんじゃねぇ!!」

 

 

「……………」

 

 

「非があるのは100パーセント俺たち神の責任だ。お前たちは誰一人悪くないんだ」

 

 

俺の落ち着きを見た原田も冷静になる。

 

 

「……謝りたい」

 

 

俺の口からそんな言葉が漏れた。

 

 

「美琴に。アリアに。そして優子に……謝りたい」

 

 

「………そうだな」

 

 

原田は俺の言葉に同意してくれた。

 

 

「もう一つ質問がある。何で敵は殺さなかったんだ?わざわざ転生させるなんて」

 

 

「それについては調査中だ。だが、相手は殺さなかったんじゃない。殺せなかったんだよ」

 

 

「殺せなかった?」

 

 

俺の質問に原田は答えるが、俺は理解できなかった。

 

 

「確信は無い。俺の勘だ」

 

 

「信用度0だな」

 

 

「ほっとけ」

 

 

「だけど、相手が殺す可能性が無くなったわけじゃないんだろ?」

 

 

「ああ、一刻も早く助けに行かないといけない」

 

 

タイムリミットは刻々と迫っている。

 

不安ばかりが俺に募っていた。

 

 

(無事でいてくれ)

 

 

そうじゃないと………俺は……。

 

 

「これで話は終わりだ」

 

 

原田は立ち上がる。俺は帰ろうとする原田に向かって言う。

 

 

「明日のゲームは頼んだぞ」

 

 

「あぁ、任せてくれ」

 

 

俺の言葉に原田は返事してくれた。

 

 

(もう俺は負けない……!)

 

 

敵なんかに屈服なんてしない。

 

 

神の力を持った敵にも。

 

 

________________________

 

 

【飛鳥視点】

 

 

「あすかッ!あすかッ……!」

 

 

私の耳に幼い声が必死に私の名前を呼ぶのが聞こえた。

 

冷たい小さな雫が私の頬に当たる。体が小さな力で揺さぶられる。

 

 

「……大丈夫よ。だから泣かないで」

 

 

冷え切った体を起こす。私の名前を呼んでいたのは黄色い帽子を被った小さな精霊だった。

 

 

「私は確か……ッ!」

 

 

私は白い装束服の女に負けたのだ。私のギフトで相手の動きを封じたが、数秒も掛からず破られてしまった。

 

 

(あの女の方が私より……)

 

 

上。格上だった。腹の底から負けてしまった怒りと悔しさが込み上げてくる。

 

 

「あすか…?」

 

 

暗い顔をした私を見た精霊が心配する。

 

 

「なんでもないわ。出口を探しましょう」

 

 

私は精霊を優しく掴み、肩に乗せた。

 

今私がいる場所は洞窟のような場所だった。所々に松明が備えられ、人工的にできたものかもしれない。そして、通路は一本道でどちらが出口に繋がっているか分からなかった。

 

 

「こっち…!」

 

 

「え?」

 

 

精霊が飛鳥が進む方向とは真逆の方に飛んでいった。

 

当然私は追いかける。こんなところに置いてはいけない。

 

しばらく歩くと洞窟に変化が見られた。

 

 

「こんな場所に門?」

 

 

天井まである大きな門が見えてきた。

 

門の真ん中には一枚の紙が貼られていた。

 

 

「もしかして……【契約書類(ギアスロール)】?」

 

 

飛鳥は門に貼られた羊皮紙を見る。

 

 

 

『ギフトゲーム名 【奇跡の担い手】

 

・プレイヤー一覧

 

久遠 飛鳥

 

・クリア条件

 

神珍鉄製 自動人形(オートマター)【ディーン】の服従。

 

・敗北条件

 

プレイヤー側が上記のクリア条件を満たせなくなった場合。

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下【   】はギフトゲームに参加します。

 

【ラッテンフェンガー】印』

 

 

 

「私の名前……それに【ラッテンフェンガー】……!?」

 

 

私は驚愕した。ギフトゲームに参加させられたのだ。

 

 

「あすか」

 

 

私の肩に乗っていた精霊は飛び、私の目の前に来て私を見る。

 

 

「わたしから貴女におくりもの。どうかうけとってほしい」

 

 

声は四方八方から聞こえた。

 

 

「偽りの童話、【ラッテンフェンガー】に終止符を……」

 

 

たくさんの小さな光が飛鳥の周りを囲むように飛ぶ。

 

 

「これは……あなたの仲間……?」

 

 

「私たちは【精霊群体】。ハーメルンで命を落とした130人の御霊。ある願いのため幾星霜も待っていました」

 

 

人の身から精霊に。転生という新たな生を経て、霊格と功績を手にした精霊群を【精霊群体】と呼ぶ。

 

ここにいるのは【ハーメルンの笛吹き】で死んでしまった御霊が精霊群になったのだ。

 

 

「もはや叶わぬ願いと思っていました。しかし、131人目の同士が貴女を連れて来てくれた」

 

 

ドゴオオ……!!

 

 

門が腹に響くような音を出しながら開く。

 

 

「【奇跡の担い手】と成り得る貴女を」

 

 

門の奥には見覚えのある赤い巨体があった。

 

 

「語りましょう。1284年6月26日にあった真実を」

 

 

それは展覧会で見たもの。

 

 

「捧げましょう。星海竜王より授かりし鉱石で鍛え上げた最後の贈り物を」

 

 

 

 

 

赤い鋼の巨人【ディーン】がいた。

 

 

 

 

 

「貴女の【威光】で鋼の魂に灯火を」

 

 

飛鳥は手に力を入れる。

 

この巨人を使えば魔王に勝てる。

 

 

「分かったわ。このゲーム、受けさせて貰うわ」

 

 

飛鳥は門をくぐる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい心構えだな。吐き気がするぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

後ろから声が掛けられた。

 

飛鳥は急いで振り向く。

 

 

「本当なら放っておいてもいいが、あいつは厄介だからな」

 

 

そこには一人の男がいた。

 

 

「……ッ!」

 

 

飛鳥は恐怖で男に聞けなかった。誰なのかを。

 

 

「あすか!逃げて!」

 

 

精霊が一瞬にして男を包み込んだ。

 

 

だが、

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

 

 

 

「きゃッ!?」

 

 

飛鳥は短い悲鳴をあげる。

 

男から黒い光が弾ける様に飛んだ。精霊が一瞬にして消される。

 

 

「チッ、逃げ足の速い奴らだ…」

 

 

男は舌打ちをする。

 

 

「『そこを動くな!』」

 

 

飛鳥は好機だと思い、ギフトを発動する。

 

 

 

 

 

男はこちらに歩いて来た。

 

 

 

 

 

「嘘ッ…!?」

 

 

この男も格上。全く聞いていなかった。

 

 

「何だその貧弱な力は?まぁいいか」

 

 

男は飛鳥に向ける。

 

 

 

 

 

「俺が分けてやるよ、力を」

 

 

 

 

 

銃を。

 

 

 

 

 

ドゴンッ!!

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

【大樹視点】

 

 

街の広場には多くの人が集まっていた。集まっているのは男の人ばかりだ。女や子供は避難所にいる。

 

 

「ここに書いてある通りに動けば短時間ですべてのステンドグラスを破壊。もしくは保護することができる」

 

 

俺たちは作戦会議を行っていた。このギフトゲームをクリアするには多くの者たちの力が必要だった。マンドラは大きな紙を広げながら作戦について説明する。

 

 

「そして、もし黒死病に発病したものはすぐに近くの建物で休め。このギフトゲームで死者は0にしたい」

 

 

俺もマンドラと一緒に説明する。

 

 

「出しゃばるな名無しが」

 

 

「そんなに怖い顔すると妹に嫌われるぞシスコン」

 

 

「斬られたいのか、人外?」

 

 

「ぶっ飛ばされたいのか、シスコン?」

 

 

だが、仲良くは出来なかった。

 

黒ウサギが俺の頭をハリセンで叩き、マンドラはサンドラに怒られ、二人は退場した。

 

 

「も、もう間もなくゲームの再開です。魔王との戦闘は私と【ノーネーム】が戦います」

 

 

サンドラが代わりに司会者を務める。

 

 

「このゲームに私たちの命運が掛かっています」

 

 

サンドラは大きな声で言う。

 

 

「私たちは負けません!このゲーム、必ず勝ちましょう!」

 

 

「「「「「おおおおォォ!!」」」」」

 

 

参加者全員に火がついた。

 

 

「……………」

 

 

マンドラとふざけた(マンドラはマジで怒ってた)後、俺は人気のない場所にいた。

 

 

「そこにいるのは分かってる」

 

 

俺はつぶやく。

 

 

「もう駄目だ。全力で隠れたのに……」

 

 

俺の後ろからバトラーが現れた。バトラーは姿を消してずっと隠れていた。俺は振り向かず言う。

 

 

「街の東側で戦おう。誰も巻き込みたくない」

 

 

「僕が聞くとでも?」

 

 

「聞く。お前はそういう奴だ」

 

 

「………何を根拠に言っているか分からいけどいいよ。乗ってあげる」

 

 

そう言ってバトラーは姿を消した。

 

俺は振り返り、みんなの居るところへ戻る。

 

 

「何で攻撃しなかった」

 

 

俺の目の前に宮川が立っていた。

 

 

「………さぁな」

 

 

「バトラーが攻撃できない今がチャンスじゃないのか?」

 

 

宮川は道を開けようとしない。

 

 

「そんなことしなくても俺は倒せる」

 

 

「そんな甘い考えが敵に通じるとも?」

 

 

「俺はお前が思っているほど甘くないぞ」

 

 

俺は宮川を睨む。

 

 

「美琴たちを巻き込んだ奴らは全員許さない」

 

 

「………敵の保持者は6人もいる。せいぜい間抜けな死に方はするなよ」

 

 

宮川は俺に道を譲る。

 

 

「お前は参加しないのか」

 

 

「生憎俺は忙しいんだ。代わりに原田がいるだろ」

 

 

「……そうか」

 

 

俺は宮川の横を通る。

 

 

(よくわからん奴だな)

 

 

ふっと振り返ってみると、そこにはもう宮川の姿はいなかった。

 

 

 

________________________

 

 

 

ギフトゲームが再開された。

 

 

 

ゴオオオオオォォォ!!

 

 

その瞬間、地面が大きく揺れ始めた、みんなパニックに陥った。

 

 

「こ、これはッ!?」

 

 

ジンの目が見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街が造り変わったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これはハーメルンの街!?」

 

 

黒ウサギが顔を真っ青にしながら言う。

 

 

「敵もそう簡単に勝たせてはくれないか」

 

 

「どうする大樹?」

 

 

俺はその光景に内心で舌打ちをした。十六夜は俺にどうするか聞く。街が造り変わったせいでステンドグラスの場所が分からない。参加者は騒ぎだし、何もできないでいた。

 

 

「ここは地道に探すしか…」

 

 

「きょ、教会です!」

 

 

ジンが大声で言う。

 

 

「まずは教会を探してください!ハーメルンの街を舞台にしたゲーム盤なら縁のある場所にステンドグラスが隠されているはずです!」

 

 

「なるほどな。よし、それで行こう」

 

 

俺はジンの提案に賛成する。

 

さすがジンだ。俺たちのコミュニティのリーダー。ジンにはリーダーシップの素質が秘められてる。

 

 

「ジン。ここの指示は任せたぞ」

 

 

「はい!」

 

 

ジンは参加者を連れて、ステンドグラスの破壊と保護を始めた。

 

 

「十六夜」

 

 

「ああ、あいつは俺にやらせろ」

 

 

十六夜は第三宇宙速度で飛翔して、目的地に向かった。

 

目的地にはヴェーザーがいるだろう。

 

 

(十六夜なら勝てる)

 

 

自信はあった。あいつは俺と同じ規格外なんだからな。

 

 

「黒ウサギとサンドラは西に行け。原田は北だ」

 

 

「大樹さんは……?」

 

 

「俺はやることがある」

 

 

黒ウサギが心配して声をかける。黒ウサギは俺がバトラーと戦うことが分かっているだろう。

 

 

「黒ウサギはゲームに参加できない。連絡網としてみんなに情報を伝えてくれ」

 

 

「………必ず」

 

 

黒ウサギは俺に向かって言う。

 

 

「必ず帰ってきてください」

 

 

「当たり前だ」

 

 

俺は笑顔で返してやった。

 

 

 

こうして、魔王とのゲームが始まった。

 

 

 

________________________

 

 

【原田視点】

 

 

俺には翼が無い。天使だからあるって時代は終わった。俺の中で。

 

飛ぶよりも走るほうが速い。だから、要らない。単純なことだった。

 

 

「見つけた!」

 

 

俺は飛翔し、民家の屋根に着地する。

 

 

「見ない顔ね。誰?」

 

 

俺の目の前には魔王がいた。

 

 

「原田 亮良だ」

 

 

「交渉で参加した人ね」

 

 

少女は不気味に笑う。

 

 

「あなたは強いのかしら?」

 

 

 

 

 

ペストは黒い霧を出しながら俺に向かって言う。

 

 

 

 

 

「悪いがお前と俺では相手にならん」

 

 

ペストは眉を寄せる。

 

 

「それじゃあ交渉は嘘になるのかしら?」

 

 

「あー、違う違う」

 

 

俺は足に力を入れる。

 

 

 

 

 

「俺が桁違いに強いということだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マッハ500。音速の500倍のスピード。時速612000kmの速度でペストに迫った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

そのスピードを利用して、俺の右ストレートがペストに炸裂した。ペストが一瞬にして吹っ飛ぶ。

 

 

「くッ!?」

 

 

ペストは途中で黒い霧をクッションにして、空中で止まる。

 

 

「さすが魔王。なかなかやるな」

 

 

「あなた何者なのッ!?」

 

 

ペストは顔を歪ませて聞く。

 

 

「そんなことはどうでもいいんだよ」

 

 

俺は構える。

 

 

「はやく終わらせて大樹の所に行くんだよ!」

 

 

マッハ500でペストに再び迫る。

 

 

「俺の能力は極悪非道だぜ?」

 

 

シュピンッ

 

 

俺はペストに触れ、能力を発動した。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

そして、右回し蹴りをお見舞いした。

 

 

「ッ!?」

 

 

ペストは落下し、そのまま地面に叩きつけ……

 

 

ドゴッ!!

 

 

「なッ!?」

 

 

ペストは驚愕する。

 

 

 

 

 

ペストの体が地面に当たった瞬間、速度を上げて跳ね返った。

 

 

 

 

 

まるで体がスーパーボールになったみたいに。

 

ペストが跳ね返ったその先は民家があった。ペストは民家に……

 

 

ドゴンッ!!

 

 

叩きつけられ、また跳ね返った。

 

 

ドゴッ!!ドゴッ!!ドゴッ!!ドゴッ!!

 

 

「ッ!?」

 

 

ペストの体は止まることなく民家同士の家を永遠と跳ね返り続ける。速度はドンドン加速し、その分威力も上がっていた。

 

 

(ど、どうして止まらないの!?)

 

 

地面に足をつけたら足を軸にして上に向かって跳ね返る。上には原田がいて、蹴り飛ばされる。そして、また民家の間を跳ね返る地獄が襲う。どうしようもない状況だった。

 

 

俺の能力である【永遠反射】 (エターナルリフレクト)

 

物体をスーパーボールのように反射できるようになる能力。

 

 

だが、欠点として人には使えない点がある。だが、今の俺には関係ない。

 

 

 

 

 

今の俺なら恒星の一つぐらいに能力が使える。

 

 

 

 

 

使ったらその星の命運は保障できないが……。

 

 

「止めるにはお前が死ぬしかないぞ」

 

 

「ッ!ふざけないで!!」

 

 

ゴオオォ!!

 

 

ペストは腕から黒い霧を出し、自分を包み込んだ。

 

 

「衝撃を吸収し続けて、自分を守ったか。だが…」

 

 

俺は服の中から1本の短剣を取り出す。刃は長さは30cmしかない。

 

 

「そんな武器で私を倒せると思っているのかしら?」

 

 

黒い霧に包まれながらペストは言う。

 

 

「ああ、こいつはお前みたいな奴に効果抜群だがな」

 

 

俺は短剣に力を込める。すると短剣が光り始めた。

 

 

「全ての悪を浄化せよ……【天照大神の剣(アマテラスオオミカミのけん)】!」

 

 

太陽を神格化した神から授かった恩恵の短剣。日本神話に登場する神。

 

その神に力を貰った俺の唯一の武器であり、最強の武器だ。

 

 

「白夜叉と同じ!?」

 

 

「それは違うな」

 

 

あいつは太陽の運行を司る。だが、こっちは太陽を神格化した武器だ。太陽が関連しているだけで中身は全く違う。

 

 

「太陽は……苦手だろ?」

 

 

「くッ!」

 

 

明らかに相性が悪いと思ったペストは顔を歪ませる。

 

 

「撃ち抜けッ!!」

 

 

俺は虚空に短剣を振るう。

 

 

ザンッ!!

 

 

 

 

 

短剣で振るった空間が裂けた。

 

 

 

 

 

いや、空中に黒い亀裂ができたと言った方が分かりやすいだろう。

 

 

「!?」

 

 

ペストは異常すぎる現象に驚愕する。

 

 

「【天照坐皇大御神(あまてらしますすめおおみかみ)】

 

 

俺は神職が神前にて名を唱える時の言葉を呟く。

 

 

「【天輝(あまてる)】」

 

 

その瞬間、亀裂の中から赤い光が輝いた。

 

 

 

 

 

ズキュウウウウンッ!!!!

 

 

 

 

 

全てを浄化させる真紅の光線がペストに向かって放たれた。

 

 

「なッ!?」

 

 

ペストは急いで前方に黒い霧の結界を展開させる。

 

 

パリンッ!!

 

 

だが、一瞬で貫通した。

 

 

ドスッ!!

 

 

「ッ!!」

 

 

光線はペストの肩を擦る程度で済んだ。だが、擦る程度でも肩を抉られたような激痛が襲う。

 

 

「終わりだ」

 

 

「ッ!?」

 

 

ペストは驚愕した。

 

 

 

 

 

すでに原田の近くには無数の亀裂ができていた。

 

 

 

 

 

(あんなのまともに食らったら……!)

 

 

ただでは済まない。子供でも分かる理屈だった。

 

 

「お前と俺では格が違う」

 

 

ペストは何も答えない。

 

 

「悪いが手加減無しだ」

 

 

数十個以上ある亀裂が輝く。赤く。紅く。真紅に。

 

 

「私は……!まだ……!」

 

 

「悪く思うなよ」

 

 

 

 

 

ズキュウウウウンッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒死病の死者【8000万人の悪霊群】よ、安らかに眠れ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

圧倒的強さで原田の勝利が決まった。

 

 

 

________________________

 

 

【十六夜VSヴェーザー】

 

 

「ッ!?」

 

 

「あぁ?どうした」

 

 

十六夜とヴェーザーは戦っていた。

 

ヴェーザーはペストから神格を貰い、十六夜との戦いでは互角に戦っていた。神格を得ても十六夜とは互角。そんなことに驚愕していたヴェーザーはさらに驚愕したことが起こった。

 

 

「マスターがやられた……!?」

 

 

「……へぇ、原田って奴、強いのか」

 

 

ヴェーザーは酷く驚いた。マスターを倒すほどの化け物がまだいるということを。

 

 

「もういい小僧。遊びは終わりだ」

 

 

ヴェーザーは自分の身長と同じくらいの大きな笛を持って構える。

 

 

「いいぜ、俺も急いで助けに行かねぇと、無理して死んでしまうバカが心配だ」

 

 

「誰だそいつは?」

 

 

「大樹。俺より強いんだぜ、あいつ」

 

 

ヴェーザーは眉を寄せる。

 

 

「謎を解いたのはあいつか……!」

 

 

「ご名答。人間とは思えないほどの力を持っている自称人間だ」

 

 

「お前ら【ノーネーム】には化け物が勢ぞろいだな」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

十六夜は拳を握る。

 

 

「だけど、あいつの心はそこいらの人間より腐ってはいない」

 

 

「何が言いたい?」

 

 

「あいつは今、大切な人を守るために死ぬ気で戦ってんだよ」

 

 

ヴェーザーは戦っている敵が自分たちでないことが分かった。

 

 

「あいつは最後に神に喧嘩でも売るかもしれないな」

 

 

「………イカレてやがる」

 

 

「いいや、大切な人を守るために戦うことは間違ってないと俺は思うぜ」

 

 

「……そうか、なら」

 

 

ヴェーザーが持っている笛が輝く。

 

 

「俺も負けられないんだよ、糞ガキ」

 

 

ゴオオォ!!

 

 

ヴェーザーを中心に大気が渦巻く。

 

 

「いいぜ……これで最後の一撃だ……!!」

 

 

十六夜はヴェーザーに向かって走り出す。

 

 

「消し……飛べえええええェェェ!!」

 

 

「ッ!!!」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

 

 

 

拳と笛がぶつかりあった。

 

 

街を。地を揺るがす衝撃がこの一帯を襲う。

 

 

星の地殻に匹敵する力を持ったヴェーザーに拳ひとつで十六夜は挑んだ。

 

 

 

 

________________________

 

 

「おい小僧」

 

 

必殺の一撃がぶつかりあった場所には大きなクレータが出来ていた。その中心にはヴェーザーと十六夜がいた。

 

 

だが、

 

 

十六夜は仰向けに倒れている。

 

ヴェーザーは笑う。

 

 

 

 

 

「お前、本当に人間か?」

 

 

 

 

 

「……さてな」

 

 

 

 

 

十六夜は立ち上がった。

 

 

 

 

 

あれだけのことがあって十六夜の怪我は右腕を一本だけで済んだのだ。

 

 

ヴェーザーの笛が砕ける。

 

 

「召喚の触媒がこうなりゃもうダメだな」

 

 

「………消えるのか?」

 

 

「ああ」

 

 

ヴェーザーは愚痴る。

 

 

「チッ、自業自得だな。焦っても意味なかったぜ」

 

 

「そんなこと言うなよ。俺と真正面から戦える奴なんて今までいなかったからな」

 

 

「全く……お前みたいな人間はもうこりごりだ」

 

 

ヴェーザーは十六夜に背を向ける。

 

 

「ま、達者でな…」

 

 

「ああ」

 

 

十六夜も後ろを振り向き、右手を上げた。

 

 

後ろでヴェーザーの気配が消えた。

 

 

________________________

 

 

【黒ウサギ&サンドラVSラッテン】

 

 

 

「ッ!?」

 

 

ラッテンの顔が真っ青になる。

 

 

(ヴェーザーまで……!?)

 

 

敗北した。その事実に目を背けたかった。

 

マスターが敗北して、さらに神格を与えてあったヴェーザーまでもやられた。負けるのも時間の問題かと思われた。

 

 

「いいえ、まだよ!」

 

 

ラッテンはフルートに口をつける。

 

街にフルートが奏でる演奏が響く。

 

 

「うッ……」

 

 

「………ッ」

 

 

街でステンドグラスを探している参加者が次々と倒れていく。

 

 

(時間稼ぎでタイムアップを狙えば……!)

 

 

強い奴とまともにやり合っては勝機はない。ならば、タイムアップを狙えばいい。

 

 

「そこまでです!」

 

 

「ッ!?」

 

 

ラッテンの後ろから声が掛けられた。

 

 

「【箱庭の貴族】!?」

 

 

黒ウサギがいた。

 

 

「はぁッ!!」

 

 

「ッ!?」

 

 

黒ウサギがいる方向とは真逆から、サンドラは火の玉をラッテンに向かって放つ。

 

 

「くッ!?」

 

 

ラッテンはギリギリ横に避け、攻撃をかわす。

 

 

「シュトロム!!」

 

 

ラッテンの呼びかけに上から白い巨大な怪物が出現した。

 

 

「無駄よ!」

 

 

ゴオオォ!!

 

 

サンドラは標的をシュトロムに変え、火の玉を放った。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

火の玉は直撃し、シュトロムは粉々になる。

 

 

「あなたの負けです、ラッテン」

 

 

「ッ!?」

 

 

黒ウサギの声にラッテンは驚愕する。シュトロムとの戦いに夢中で気づかなかった。

 

黒ウサギはラッテンの後ろを取り、ギフトカードを持って構える。

 

 

「これで終わりです!」

 

 

黒ウサギのギフトカードから雷が轟く。

 

三又の金剛杵・【疑似神格(ヴァジュラ)・金剛杵(レプリカ)】

 

 

(神格級のギフト!?)

 

 

ラッテンは驚愕した。

 

 

だが、もう遅かった。

 

 

黒ウサギの攻撃はラッテンの後ろにある壁に直撃した。

 

 

「え?」

 

 

ラッテンはそのことにまた驚く。

 

 

「ど、どうして………ハッ!?」

 

 

「勘違いしないでください。この方法が確実にあなたを倒せると思ったからです」

 

 

黒ウサギはゲームに参加できない。そんな初歩的なことを忘れてしまっていた。

 

黒ウサギは囮。サンドラの攻撃が確実に決めるための囮だ。

 

 

「はああァッ!!」

 

 

ゴオオォ!!

 

 

サンドラは上からラッテンを狙い、火の玉を放った。

 

 

「ぐッ!?」

 

 

ラッテンに直撃した。

 

勢いよく火の玉と共に後ろにある民家の壁に激突した。民家は崩壊する。

 

 

「もう終わりです」

 

 

黒ウサギが告げる。

 

 

「ステンドグラスの破壊と保護が終わるのは時間の問題でしょう」

 

 

「………そう、私たちの負けね」

 

 

ラッテンは諦め静かに目を伏せた。

 

 

パキンッ

 

 

ラッテンの持っているフルートが壊れる音が鳴った。

 

 

 

 

 

「マスター……」

 

 

 

 

 

ラッテンは小さな声と共に、光の粒子となって消えた。

 

 

 

 

 

「これであとはステンドグラスだけ……」

 

 

サンドラは安堵の息を吐く。だが、

 

 

「大樹さん……!!」

 

 

黒ウサギは急いで東側にいる大樹のところへ向かおうとする。

 

 

「黒ウサギ!?」

 

 

「サンドラ様はジン坊ちゃまっと合流してください!」

 

 

そう言って黒ウサギは走り出した。

 

 

(どうか……どうかご無事で……!!)

 

 

無事であることを願った。

 

 





次で火龍誕生祭編が終わる予定です。

感想や評価をくれると嬉しいです。

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