どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

51 / 177

前回の投稿で50話を越えました。

そして今回で50話を切らせていただきたいと思います。

続きです。


火龍誕生祭 創造主達の決闘編

「ここ最近、温泉ばっかり入ってるなぁ」

 

 

俺はサウザンドアイズ旧支店の温泉につかっていた。極楽極楽♪

 

露天風呂には俺以外誰もいない。というか十六夜とジンはもう先に上がった。残ったのは俺だけだ。

 

 

「魔王か………」

 

 

俺は謁見の間であった出来事を思い出す。

 

 

________________________

 

 

「『火龍誕生祭にて【魔王襲来】の兆しあり』」

 

 

「「「「「なッ!?」」」」」

 

 

十六夜の口から出た言葉に全員は驚愕した。

 

 

「これは絶対なのか?」

 

 

「犯人も犯行の動機も分かっておる。だが、未然に防ぐことができない。これはそういう類の予言だ」

 

 

十六夜の言葉に白夜叉は苦虫を噛み潰したような顔をしながらうなずく。

 

絶対。くつがえすことのできない予言。

 

 

「ふざけるな!すべて把握しておきながら、なぜ魔王の襲来しか教えない!」

 

 

マンドラは白夜叉に怒鳴る。俺も癪だがそう思った。なぜ教えない?いや、

 

 

「教えれない……のか?」

 

 

「………なるほど。この魔王襲来を仕組んだ犯人。その人物は口に出すことのできない立場ってことか」

 

 

俺の言葉に十六夜は推理する。

 

 

「まさか……他のフロアマスターが魔王と結託して……!?」

 

 

ジンの言葉に俺は納得した。

 

北にはたくさんのマスターがいる。誕生祭が東のマスターである白夜叉に回ってくれば、北のマスターどもが【魔王襲来】を計画していると考えてもおかしくない。

 

 

「これってヤバくないか?」

 

 

「最悪ですよ!下位のコミュニティを守るはずの【階層支配者】が箱庭の天災である魔王と結託するなんて!」

 

 

俺の言葉にジンは大声をあげる。

 

 

「この真実が広く伝われば箱庭の秩序に波紋を呼ぶ。つまり今回の一件は魔王を退ければ良いというわけではない」

 

 

白夜叉は俺たち、【ノーネーム】のメンバーを見る。

 

 

「もちろん主犯には制裁を加えるつもりだ。今は一時の秘匿が必要なのだ」

 

 

「それで目先の問題である魔王ってことか」

 

 

白夜叉の意図を汲み取って十六夜は言う。

 

 

「分かりました」

 

 

ジンは右手を胸に当て告げる。

 

 

「【魔王襲来】に備え、【ノーネーム】は両コミュニティに協力します」

 

 

「そして、魔王を」

 

 

「倒します」

 

 

「大樹さん!?十六夜さん!?」

 

 

ジンの言葉に俺、十六夜が続いた。

 

 

「俺たちは【打倒魔王】のコミュニティだ。問題なんか無いだろ?」

 

 

「よかろう。隙あらば魔王の首を狙え」

 

 

十六夜は笑う。白夜叉も笑って容易する。

 

 

「大丈夫なの?」

 

 

優子が俺のTシャツの端を引っ張りながら聞く。

 

 

「あぁまかせろ。何かあったときは守ってやる」

 

 

俺は優子に左手についた銀色のブレスレットを見せつける。

 

 

「そうね。なら安心ね」

 

 

「おう、まかせろ」

 

 

俺と優子は笑い合う。

 

 

「無茶だけはダメよ?」

 

 

今度はアリアが俺に言う。

 

 

「大丈夫。十分修業で力をつけてきたから」

 

 

 

 

 

それに、俺のギフトカードに切り札が入ってるしな。

 

 

 

 

 

「あたしとアリアは戦うわよ」

 

 

「いや、それはちょっと待て」

 

 

俺は優子とアリアの耳に近づける。

 

 

「俺はもちろん、ちゃんと優子を守るけど、もしものときは」

 

 

「加勢するのね」

 

 

「分かったわ」

 

 

俺が言う前にアリアと美琴は理解する。

 

 

「それでは話もまとまったことですし、私たちは宿に向かいましょうか」

 

 

黒ウサギがそういって俺たちは宿に向かうことにした。

 

 

________________________

 

 

以上、謁見の間であった出来事でした。

 

 

「魔王ってどの位強いんだ……?」

 

 

白夜叉並みと考えると骨が折れそうだな。

 

 

「はぁ、上がるか…」

 

 

俺は立ち上がり、風呂場を後にした。

 

 

ガラッ

 

 

「「………………」」

 

 

何故だ。

 

 

「「………………」」

 

 

何故俺の目の前に、

 

 

「「………………!?」」

 

 

 

 

 

バスタオルを巻いた黒ウサギが居るんだよ!?

 

 

 

 

 

「きゃあああああァァァ!!」

 

 

ヒュンッ!!

 

 

ゴスッ!!

 

 

「ぶッ!?」

 

 

黒ウサギは近くにあった桶を俺の顔面にぶつけた。一般人なら首が折れるほどの威力。

 

 

「大樹さんの変態ッ!!」

 

 

「落ち着け!ここは男湯だ!」

 

 

「のれんには『女』と書いてありました!」

 

 

十六夜!!貴様あああああァァァ!!

 

 

「十六夜だ!十六夜の仕業だ!」

 

 

「え?……あッ」

 

 

ゴチンッ!!

 

 

「ぐへッ!?」

 

 

桶が再び俺の顔面にクリーンヒットした。

 

 

________________________

 

 

「ひどい目にあった……」

 

 

「ご、ごめんなさい。黒ウサギは…」

 

 

「いや、十六夜が一番悪い」

 

 

あいつには俺の最強右ストレートをやろう。

 

俺と黒ウサギは温泉の端と端に座り、俺は後ろを向いていた。え、振り向けって?死ぬぞ?我、死ぬぞ?

 

 

「そういえば黒ウサギと十六夜はどうやって建造物を壊したんだ?」

 

 

「実は十六夜さんとギフトゲームすることになったのですよ」

 

 

「へー、それで?」

 

 

「内容は手のひらで相手を捕まえるという単純なゲームです」

 

 

「どんな賭けをしたんだ?」

 

 

「命令権(くびわ)です。何でもできる命令権ですよ」

 

 

なんだって!?そんなッ!黒ウサギにあんなことやこんなこと……!!

 

 

「続けたまえ」

 

 

「は、はい。それで私が逃げていると優位な状況になりました」

 

 

へぇ、十六夜追い詰められたのか。

 

 

「そしたら建造物が壊れてしまったのですよ」

 

 

「ごめん、めっちゃ意味わからない」

 

 

何が起きた。

 

 

「十六夜さんが時計塔を壊して、黒ウサギの上に瓦礫を落としてきて」

 

 

十六夜さん、馬鹿なの?

 

 

「結果は黒ウサギと引き分けになりました」

 

 

「ん?命令権は?」

 

 

「お互い出来るようになりました」

 

 

あとで十六夜に貰おう。うん、貰おう。いや、奪おう。

 

 

「まぁなんだ……お疲れ様」

 

 

「ありがとうございます、大樹さん」

 

 

俺と黒ウサギは笑い合う。

 

 

「ッ!?」

 

 

バシャンッ!!

 

 

俺は急いで水中に身を潜めた。

 

 

「だ、大樹さん?」

 

 

ガラッ

 

 

「ひゃっほー!!黒ウサギ!!」

 

 

白夜叉が入って来た。もちろん、バスタオルを巻いて。

 

 

「きゃあああああァァァ!!」

 

 

そのまま黒ウサギに飛び込んだ。

 

 

(好機!!今のうちに逃げねば!!)

 

 

俺は水面から顔を出す。

 

 

「温泉なんて久しぶり」

 

 

「【ノーネーム】のお風呂も大きかったけどここのも大きいわね」

 

 

耀と美琴が入って来た。俺は静かにまた沈む。

 

 

「もうみんな入ってるの?」

 

 

「ここって浅いわよね?」

 

 

優子とアリアも入ってきました。俺氏、絶体絶命。

 

 

「み、みなさん……」

 

 

黒ウサギの顔に動揺が走る。

 

 

「どうしたの黒ウサギ?」

 

 

「へ!?い、いえ、なんでもございません!」

 

 

優子の質問に黒ウサギは首を振る。頼む!言わないでくれぇ!!

 

 

「何か隠しておるのか?」

 

 

「白夜叉様はもう近づかないでください!」

 

 

黒ウサギはどんどん後ろに下がる。俺の方に。え?

 

 

「ごぼッ!?」

 

 

「ッ!?し、静かにしてください……!!」

 

 

俺はびっくりして息を少し吐き出してしまった。黒ウサギは俺の脱出計画に協力してくれるようだ。

 

だが、

 

 

(近い近い近い近い近い地下一階!?)

 

 

目の前には黒ウサギの体があああああァァァ!!!近い地下一階って何だよ!?

 

 

ゴボボボッ

 

 

(い、息が!?)

 

 

動揺でほとんど息を吐いてしまった。本来ならもっと潜れるが。

 

 

「黒ウサギの背中なら見えません……」

 

 

黒ウサギは小声で言う。よし、息継ぎを慎重に慎重に。

 

俺は静かに水面から顔を出す。

 

 

「ええい!死を覚悟して私は行くぞおおおおおォォォ!!」

 

 

その瞬間、白夜叉が黒ウサギに突っ込んだ。っておい!!

 

 

「きゃあ!?」

 

 

「ッ!?」

 

 

俺の上に黒ウサギが乗っかる。

 

 

(や、や、やわ、やわ、柔らか……!!)

 

 

俺は黒ウサギを抱き留めるような形になる。俺の体に黒ウサギの柔らかいアレがあああああァァァ!?

 

 

「ん?何だそこにあるのは?」

 

 

(秘儀!目潰し!!)

 

 

グサッ

 

 

「ッ!?」

 

 

白夜叉が気づきそうになったので俺は右手をピースし、目に当てた。スマン。これは黒ウサギを襲った報いだと思ってくれ。

 

 

「ど、どうしたの白夜叉!?」

 

 

悶絶する白夜叉を見て声をあげるアリア。みんなの視線が白夜叉に行った。

 

 

(今だ!!)

 

 

光の速度で風呂場の出口に立つ。これで俺の勝ちだ!

 

 

ガラッ

 

 

「「……………」」

 

 

「ん?大樹ではないか」

 

 

おい。

 

 

「「……………」」

 

 

「ここは女湯のはずだが?」

 

 

マジかよ。

 

 

「「……………!?」」

 

 

「大樹?」

 

 

 

 

 

飛鳥とレティシアがバスタオルを巻いて、俺の目の前に居た。

 

 

 

 

 

「いやああああああァァァ!!」

 

 

ゴスッ!!

 

 

「ぐふッ………」

 

 

俺は飛鳥に平手では無く、グーで殴られた。

 

 

________________________

 

 

「ずみばぜんでじた」

 

 

俺は泣きながら謝罪。俺はロープでぐるぐる巻きにされて吊るされていた。ボコボコにされてな。

 

 

「作戦会議をしましょう」

 

 

アリアはそんな俺を無視してみんなに言う。トホホ。

 

 

「ん?」

 

 

十六夜がこっちを見て、

 

 

親指を立てた。

 

 

よし、あいつは後で殺す☆

 

 

「明日から始まる決勝戦の審判を黒ウサギに依頼したいのだよ」

 

 

「あや、それはまた唐突でございますね」

 

 

白夜叉の言葉に黒ウサギは少し驚く。

 

 

「そもそも原因はおんしらにあるのだぞ?昼間の騒ぎで【月の兎】が来ていると知れ渡ってしまっての。めったに見られないおんしを明日のギフトゲームで見られるのではないかと期待が高まっておる」

 

 

「そういうことでしたらゲームの審判はこの黒ウサギが承ります」

 

 

「感謝する」

 

 

白夜叉の言葉を聞き、黒ウサギは承諾する。

 

 

「そういえば私が戦うコミュニティってどんなコミュニティ?」

 

 

耀は三毛猫を撫でながら白夜叉に質問する。

 

耀はギフトゲーム【創造主達の決闘】に参加しているのだ。見事に勝ち続け、現在、決勝枠をゲットしたところだ。

 

 

「それは教えられんな。フェアではなかろう。【主催者】が教えられるのはコミュニティの名前だけだ」

 

 

白夜叉は羊皮紙を取り出す。

 

 

 

『ギフトゲーム 【創造主たちの決闘】

 

・参加コミュニティ

 

 ゲームマスター【サラマンドラ】

 

 プレイヤー【ウィル・オ・ウィスプ】

 

 プレイヤー【ラッテンフェンガー】

 

 プレイヤー【ノーネーム】

 

・決勝ゲームルール

 

 ・お互いのコミュニティが創造したギフトを比べ合う。

 

 ・ひとりまで補佐が許される。

 

 ・総当たり戦を行い、勝ち星の多いコミュニティが優勝。

 

 ・優勝者はゲームマスターと対峙。

 

・授与される恩恵(ギフト)に関して

 

 ・【階層支配者】にプレイヤーが希望する恩恵(ギフト)を進言できる。

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームに参加します。

 

【サラマンドラ】印

 

【サウザンドアイズ】印』

 

 

 

「ッ!?」

 

 

羊皮紙を見た飛鳥の表情が変わったのを俺は見逃さなかった。

 

 

「あすかー?」

 

 

飛鳥の肩に乗った小人が飛鳥の名前を呼ぶ。って

 

 

(なに……アレ?)

 

 

とんがり帽子が特徴的な黄色い小人。身長は手のひらサイズしかない。

 

 

(妖精か何かの類か?)

 

 

何故飛鳥はその子を連れているんだ?…………まぁいいか。それよりも、

 

 

「ネズミ捕りの道化(ラッテンフェンガー)ってことはハーメルンの笛吹き道化が対戦相手かもな」

 

 

「待て。どういうことだ小僧」

 

 

吊るされた俺の言葉に白夜叉の慌てた。

 

 

「どういうことって『ラッテンフェンガー』はドイツ語でネズミ捕りの男って意味があるんだ。こいつは民間伝承である『ハーメルンの笛吹き』を表している」

 

 

吊るされながら俺はとりあえず真剣に説明して見る。マジな顔をし、吊るされ、哀れな俺が完成。

 

 

「ハーメルンはドイツの町の名前だ。その町で事件があったんだけど………うん、知らない奴が多いから説明する」

 

 

半分以上、みんなの顔が「え?何それ?美味しいの?」って顔してるから教えることにした。

 

 

「Anno 1284 am dage Johannis et Pauli

war der 26. junii

Dorch einen piper mit allerlei farve bekledet

gewesen CXXX kinder verledet binnen Hamelen gebo[re]n

to calvarie bi den koppen verloren」

 

 

「「「「「ごめん、分かるように言ってください」」」」」

 

 

えー、ドイツ語くらい出来るようにしとけよな。

 

 

「1284年、聖ヨハネとパウロの記念日6月の26日

 色とりどりの衣装で着飾った笛吹き男に

 130人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され

 コッペンの近くの処刑の場所でいなくなった」

 

 

「一気に分かりやすくなったわね」

 

 

優子に感心してもらった。あざーす。

 

 

「話……続けるぞ。この文は「事件は実在した」っと教える碑文だ。その文はステンドグラスと一緒に説明文として添えられて飾られている。この物語が作者であるグリム兄弟が編集したグリム童話の一遍、『ハーメルンの笛吹き』ってことだ」

 

 

「ふーむ……では、そのネズミ捕りの男が何故『ハーメルンの笛吹き』だと分かったのだ?」

 

 

白夜叉は聞く。頭に血が上るー。はやく下ろして欲しいです。

 

 

「童話に出てくる男はネズミを操れるんだよ。男はハーメルンの町にいるネズミを駆除するために笛の音で川に誘導して、溺死させたんだ。だから『ハーメルンの笛吹き』は『ネズミ捕りの男』と同じだと分かったんだ」

 

 

俺の長い長い説明が終わりました。拍手!

 

 

「それが本当なら厄介なことになったぞ」

 

 

白夜叉は告げる。

 

 

 

 

 

「『ハーメルンの笛吹き』とは、とある魔王の下部コミュニティだったものの名だ」

 

 

 

 

 

その場の空気が凍った。

 

 

「「「「「……ッ!」」」」」

 

 

その真実に誰も言葉を発せれない。いや、

 

 

「それくらい知ってる。コミュニティ名は【幻想魔導書群(グリムグリモワール)】。全200篇以上の魔書から悪魔を呼び出し、脅威の召喚士の統べたコミュニティだろ?」

 

 

大樹は平気な顔で言う。それを見た白夜叉の顔が驚愕に染まる。

 

 

「おんし………一体どこまで知っているのだ……?」

 

 

「遠い屋敷の書庫で見たんだよ」

 

 

白夜叉は俺を見て驚いていた。姫羅の屋敷の書庫は凄かったな。まぁ見なければ良かったって本がいっぱいあるが…。

 

 

「てか、十六夜とジン。お前ら知っていただろ」

 

 

「ああ、めんどくさい説明ご苦労様だ」

 

 

俺は十六夜を殴りたいという気持ちを抑えて十六夜を笑顔で微笑んだ(ただし目は笑っていない)

 

 

「大樹が書庫の整理をしていたおかげで見やすかったぜ」

 

 

「整理整頓。小学校で習っただろうが」

 

 

「話がずれてるわよ」

 

 

俺と十六夜の会話はアリアによって中断された。

 

 

「対策とかは無いのかしら?」

 

 

「あるぞ。これに記してある」

 

 

優子の質問に白夜叉は一枚の紙を取り出した。

 

 

 

『火龍誕生祭

 

一、一般参加は祭典内でコミュニティ間のギフトゲームを禁ず。

 

二、【主催者権限(ホストマスター)】を所有する参加者は祭典のホストに許可無く入ることを禁ず。

 

三、祭典区域で参加者の【主催者権限】の使用を禁ず。

 

四、祭典区域に参加者以外の侵入を禁ず。

 

【サウザンドアイズ】【サラマンドラ】』

 

 

 

「大樹。こんなルールで大丈夫か?」

 

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

 

「「「「「………?」」」」」

 

 

「ダメだ十六夜。このネタは俺たちにしか通じない」

 

 

「ああ、俺としたことが失敗した」

 

 

俺と十六夜は悔しがった。くそ、もっと分かりやすいネタにするべきだった…!

 

 

「え、えっと確かにこのルールなら魔王が襲ってきても【主催者権限】を使ってギフトゲームを強要することは不可能ですね!」

 

 

「【ラッテンフェンガー】が魔王だとしても参加者だから無意味になったわね」

 

 

黒ウサギはルールを読み、安心したように言う。美琴もホッしていた。

 

 

……………何故だろう。納得がいかない。

 

 

俺にはどうにも引っかかってしまう。魔王は予言通り必ず現れる。なら、このルールを知った上で現れるはずだ。魔王は必ず対策を立てる……はず。

 

 

「これは最低限の対策だ。万が一のときはおんしらの出番だ。頼むぞ」

 

 

白夜叉の言葉に全員がうなずいた。だが、ルールの違和感を考えていたせいで、俺の耳には届かなかった。

 

 

「それではもう今日は寝るとするか」

 

 

十六夜の言葉に次々と席を立ち、部屋を出て行った。

 

 

「はぁ……考えても仕方ないか。あ、そうだみんなに……って誰も居ねぇ!?」

 

 

まだ吊るされてるよ!?もしもーし!!

 

 

________________________

 

 

舞台区画の舞台の中央には黒ウサギが居た。

 

黒ウサギはマイクを持ち、笑顔で言う。

 

 

『長らくお待たせしました!火龍誕生祭のメインゲーム【創造主達の決闘】決勝戦を始めたいと思います!進行および審判は【サウザンドアイズ】専属ジャッジでお馴染み、黒ウサギがお務めさせていただきます♪』

 

 

「「「「「うおおおおおォォォ!!」」」」」

 

 

その瞬間、会場のボルテージが最高潮になった。

 

 

「月の兎が本当にきたあああああァァァ!!」

 

 

「黒ウサギいいいいいィィィ!!」

 

 

「今日こそスカートの中を見てみせるぞおおおおおォォォ!!」

 

 

その歓声に黒ウサギは怯ませた。

 

 

「ず、随分人気者ね…」

 

 

飛鳥はその光景、観客に対してドン引きだった。

 

飛鳥たちが居るのは運営本陣の特別席にみんな座っていた。後ろにはサンドラとマンドラが居る。

 

 

「ねぇ白夜叉。【ウィル・オ・ウィスプ】ってそんなに強いの?」

 

 

美琴が白夜叉に尋ねる。

 

 

「一筋縄ではいかんだろうな」

 

 

「耀に勝ち目はあるのかしら?」

 

 

「ない」

 

 

アリアの言葉をバッサリ切り捨てた。

 

 

「相手のコミュニティには【アレ】が居る。勝つのは不可能だろう」

 

 

「そんなに強いのか。出とけばよかったぜ」

 

 

白夜叉は首を横に振る。十六夜は興味深そうに舞台を見続ける。

 

 

『そ、それでは入場していただきましょう!』

 

 

黒ウサギの進行が進む。

 

 

『第一のゲームプレイヤー【ノーネーム】の春日部 耀と』

 

 

耀が紹介と共に舞台に上がって来た。その瞬間、

 

 

ゴオォッ!!

 

 

「ッ!?」

 

 

耀の目の前に火の玉が通りかかった。耀は後ろに尻もちをついた。

 

 

「見て見て見たぁ?ジャック?【ノーネーム】の女が無様に尻もちついてる!」

 

 

舞台にはゴシックロリータの派手なフリルを着たツインテールの少女が居た。その隣には、

 

 

「やっふうううううゥゥゥ!!」

 

 

ランタンを持ったかぼちゃのお化けが笑いながらいた。

 

 

「【ウィル・オ・ウィスプ】のアーシャ=イグニファトゥス様とジャック・オー・ランタンだ!素敵に不敵にオモシロオカシク笑ってやるよ!」

 

 

「自己紹介どうも。じゃあ次はこっちの番か?」

 

 

耀が入って来た入り口から声が聞こえた。

 

 

「………そういえば耀の補佐って誰かしら?」

 

 

「いや、もうあいつだろこれ」

 

 

優子の質問に十六夜は苦笑いで答える。

 

 

「白夜叉。勝率は上がったんじゃないの?」

 

 

何故かアリアはドヤ顔で言う。白夜叉は手で頭を抑えた。

 

 

「その方はお強いのですか?」

 

 

「強いっていうレベルじゃないぞアレは」

 

 

何も知らないサンドラに十六夜が答えた。

 

舞台には一本の刀を持った少年が上がって来た。少年はTシャツを着ており、後ろには『一般人』と書かれた文字が目立っていた。

 

 

「オマエ、補佐役か?」

 

 

「ああ、コミュニティ【ノーネーム】の」

 

 

少年は耀の手を引っ張り、耀を立ち上がらせる。

 

 

「春日部 耀」

 

 

「その補佐、楢原 大樹だ」

 

 

最強の問題児、大樹が登場した。

 

 

________________________

 

 

【大樹視点】

 

 

「大丈夫か、耀」

 

 

「うん、平気」

 

 

俺は耀の服についた埃を払う。

 

昨日の夜、血が頭に上って、ぐったりしていた俺は耀に助けられた。助けたお礼に決勝戦で一緒に出るように頼まれたのだ。特に断る理由は無かったので承諾した。

 

 

「私の晴れ舞台の相手を【ノーネーム】ができるんだ。泣いて感謝しろよ?この名無し」

 

 

「美琴!アリア!優子!俺、頑張るから見ててくれよー!」

 

 

「飛鳥。十六夜。見てて」

 

 

「無視してんじゃねぇ!!」

 

 

対戦相手が何か言っていたが、優先順位は美琴たちが上なので無視した。

 

 

『さ、さっそくゲームを開始させていただきます!白夜叉様、どうぞ!』

 

 

黒ウサギは慌てて進行させる。黒ウサギに言われた白夜叉は立ち上がり、ギフトカードを取り出す。

 

 

「うむ。それでは主催者としてゲームの舞台を展開させていただこう」

 

 

そして、白夜叉のギフトカードが光り、

 

 

 

 

景色が変わった。

 

 

 

 

 

「うおッ!?」

 

 

「ッ!?」

 

 

俺と耀は驚く。相手のアーシャも驚愕していた。

 

上を見ても木。下を見ても木。左も。右も。上下左右全てが木で覆われていた。森や林の中ではない。

 

 

「此処、樹の根に囲まれた場所?」

 

 

ここは巨大な樹の根に囲まれた大空洞。耀はすぐに分かった。

 

 

「あらあらそりゃあどうも教えてくれてありがとうよ。そっか、ここは根の中なのねー」

 

 

アーシャは馬鹿にしながら独り言のように言う。ほう、仕返しが必要だなこれは。

 

 

「っとアーシャは騙されたことに気付かなかった」

 

 

「騙されてるの!?」

 

 

「っとアーシャは騙されたことに気付かなかった」

 

 

「舐めてんのか!?」

 

 

わかった。こいつアホの子だ。

 

 

「ッ!?」

 

 

俺はアーシャの後ろにあるモノを見て驚愕する。

 

 

「な、なんだよ!?」

 

 

「いや、別に?え、なに?何かあると思った?残念なにもありませんでしたwwww」

 

 

驚愕したフリをした。大人げないぞ、俺。

 

アーシャからブチリっという何かが切れたような音が聞こえてきた。

 

 

「こ、この『ゲームの舞台は箱庭の南側にある【アンダーウッド】の樹木の大空洞になりました!』

 

 

アーシャが怒鳴ろうとしたとき、黒ウサギの声が聞こえ、アーシャの声を掻き消した。アーシャは涙目だ。ドンマイ。

 

 

『それではゲームルールの説明です!』

 

 

 

『ギフトゲーム名 【アンダーウッドの迷路】

 

・勝利条件

 

 ・プレイヤーが樹木の根の迷路より野外に出る。

 

 ・対戦相手のギフトの破壊。

 

 ・対戦プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合(降参を含む)

 

・敗北条件

 

 ・対戦プレイヤーが勝利条件を一つ満たした場合。

 

 ・上記の勝利条件を満たせなくなった場合』

 

 

 

『以上【審判権限(ジャッジマスター)】の名において、ここにゲームの開始を宣言します!』

 

 

そして、ゲームが始まった。

 

 

「アーシャって【ウィル・オ・ウィスプ】のリーダーなのか?」

 

 

俺はゲームが始まったのにも関わらず、アーシャに質問する。

 

 

「え?あ、そう見えちゃう?嬉しいなぁ♪」

 

 

アーシャは機嫌を直し、照れる。

 

 

「違うのか?」

 

 

「残念なことにこのアーシャ様はリーダーじゃない」

 

 

「まぁ知ってるけど」

 

 

「オマエ本当にムカつく!!」

 

 

こんなアホっぽい子がリーダーとかもうダメだろ。いろいろと。

 

 

「よし、いいことを教えてやろう」

 

 

「もう聞くかよそんなこと!」

 

 

「え?聞かなくていいの?本当に?マジで?損するよ?」

 

 

「もう嫌だコイツ!!」

 

 

精神的にやられ始めたアーシャ。もうノックアウト寸前。

 

 

 

 

 

「耀ならもう行ったぜ」

 

 

 

 

 

「………………あッ!」

 

 

俺が気を逸らしているうちに耀は消えていた。

 

 

「お、追いかけるぞジャック!」

 

 

アーシャはかぼちゃのお化け。ジャックの頭に乗り、耀を急いで追いかける。

 

 

「隙あり」

 

 

「「!?」」

 

 

 

 

 

その瞬間、上から耀が降って来た。

 

 

 

 

 

ゴスッ!!

 

 

耀の蹴りがジャックの頭であるかぼちゃに当たった。アーシャとジャックは一緒に後ろに吹っ飛ぶ。

 

さすがに耀がどこかに行けばそこのかぼちゃ頭のジャックに気付かれる。なら、どこかに隠れて気配を消し、あたかもゴールを目指したかのようにして、不意打ちを狙った方がいいと考えた。俺はアーシャとジャックの気を逸らしている間に耀は隠れることができた。

 

 

「よし、今のうちに行くぞ」

 

 

「うん」

 

 

俺と耀は一緒に走り出した。俺は耀の走るペースに合わせる。なぜなら、

 

 

「俺、出口分からないんだけど?」

 

 

「大丈夫。私は分かる」

 

 

さすがだと思った。

 

耀のギフトは生き物の特性を手に入れる類のギフトだ。

 

例えば、犬ならば自分にも犬と同じくらいの嗅覚が使えたりすることができる。象ならば体重を象の重さに変えたりと万能なギフトなのだ。

 

今の耀は五感は外からの気流で正しい道を把握するという人間離れした能力を使っている。

 

 

「待ちやがれ!」

 

 

後ろからジャックに乗ったアーシャが追いかけてくる。

 

 

ゴオォッ!!

 

 

アーシャは火の玉を俺たちに向かって放った。だが、

 

 

ドゴオォ!!

 

 

後ろを振り向かず、俺と耀は簡単に避けた。

 

 

「なッ!?」

 

 

その光景を見たアーシャは驚愕する。

 

 

ゴオォッ!!ゴオォッ!!ゴオォッ!!

 

 

アーシャはさらに多くの火の玉を放つ。

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

それでも俺と耀は簡単に避けた。

 

 

「くそったれ……!」

 

 

アーシャの顔に焦りが生じる。

 

 

【ウィル・オ・ウィスプ】

 

生前罪を犯した為に昇天しきれず現世を彷徨う魂、洗礼を受けずに死んだ子供の魂、拠りどころを求めて彷徨っている死者の魂といったいくつかの意味がある。

 

彷徨っている死者の魂が幽鬼となるのは、悪魔が炎を与えたからだ。そして、それが【ジャック・オー・ランタン】だ。

 

そして、あの火の玉の正体は湖沼や地中から噴き出すリン化合物やメタンガスなどに引火したもの。つまり、自然発火現象。ジャックの持っているランタンの炎とアーシャの出す発火させるためのガス。それを引火させて爆発を引き起こしているのだ。

 

これを見極めれば何も怖くない。

 

 

「悔しいがあとはアンタにまかせるよ。本気でやっちゃって、ジャックさん」

 

 

「わかりました」

 

 

アーシャとジャック。その会話を聞き、俺と耀は驚愕した。

 

 

((ジャック………さん?))

 

 

「失礼、お嬢さん」

 

 

 

 

 

一瞬にして、俺たちの目の前に、ジャックが現れた。

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

耀は驚愕した。

 

 

ドゴッ!!

 

 

ジャックの拳が耀に向かって放たれた。だが、俺はその前に耀の前に立ち、俺の腹に撃ち込まれた。

 

 

「ぐッ!?」

 

 

俺は後ろに勢いよく吹っ飛び、樹木の中に叩きつけられた。

 

 

「大樹!」

 

 

耀が大樹の名前を呼ぶ。だが、砂埃が視界を邪魔して状況が分からない。

 

 

「早く行きなさいアーシャ。この二人は私が足止めします」

 

 

「……悪いねジャックさん。本当は私の力で優勝したかったんだけど……」

 

 

「原因は貴女の怠慢と油断です。猛省しなさい」

 

 

アーシャはゴールに向かって走り出す。

 

 

「待っ」

 

 

「待ちません」

 

 

耀の言葉をジャックが被せる。

 

 

「貴女はここでゲームオーバーです」

 

 

ゴオオオオオォォォ!!

 

 

 

 

 

ジャックの後ろに巨大な炎柱が巻き上がった。

 

 

 

 

 

「私は【生と死の境界に顕現せし大悪魔】、ウィラ=ザ=イグニファトゥス製作の大傑作ギフト。ジャック・オー・ランタンでございます♪」

 

 

(【ウィル・オ・ウィスプ】のリーダーが作ったギフト…!?)

 

 

ジャックの言葉に耳を疑った。

 

 

「アーシャの炎は悪魔の炎で間違いありませんよ」

 

 

「え?」

 

 

「外界では人間たちにも理解できるようにわざと化学現象としてガスを放出しているのです」

 

 

「な、なぜそんなことを…?」

 

 

「死体がそこに埋まっていることを人間に知らせるためですよ」

 

 

ジャックは説明する。

 

 

「我々に纏わる逸話をご存じなのでしょう?我々の蒼き炎は報われぬ死者の魂を導く篝火。遺棄された哀れな魂を救うメッセージなのです」

 

 

「………もしかしてアーシャは」

 

 

「地災で亡くなり、彷徨っていたところをウィラが引き取り地精となった魂です」

 

 

ジャックは続ける。

 

 

「炎にガスを使用していたのは大地の精霊として立派に力をつけはじめた証拠。だからこそ」

 

 

ジャックの雰囲気が変わった。

 

 

「あの炎をただの化学現象だと誤解されることは侮辱に等しいのでございます」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

ジャックの後ろの炎柱がさらに強く舞い上がる。

 

 

「いざ来たれ己が系統樹をもつ少女よ。聖人ペテロに烙印を押されし不死の怪物、ジャック・オー・ランタンがお相手しましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の相手は俺だ、かぼちゃ頭」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴンッ!!

 

 

ジャックの頭に踵落としが振り下ろされた。

 

 

「ッ!?」

 

 

ジャックの頭は木にめり込み、貫通して下に落下した。

 

 

「大樹…!」

 

 

「アーシャを追え!はやく!」

 

 

「分かった!」

 

 

耀は急いでアーシャを追いかけるために走り出した。

 

 

「逃がしませんよ!」

 

 

「邪魔すんじゃねぇ!!」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

ジャックの拳と大樹の拳がぶつかり合った。

 

衝撃が強すぎて周りの木々が揺れる。

 

 

「【無刀の構え】!」

 

 

ジャックの腕を弾く。がら空きになったジャックの腹に、

 

 

「【黄泉送り】!!」

 

 

ドゴッ!!

 

 

「ぐッ!?」

 

 

ジャックの腹に俺の拳が見事に決まった。ジャックは後ろにある木に勢いよくぶつかる。

 

 

「何が侮辱に等しいだ。先に侮辱してきたのはそっちだろうが」

 

 

「それは彼方も同じじゃないですか?」

 

 

ジャックはゆっくりと体制を整える。

 

 

「そうだな。じゃあ……」

 

 

俺は左手に持った刀を、

 

 

 

 

 

「戦争だ、クソ野郎」

 

 

 

 

 

右手で抜いた。

 

 

________________________

 

 

舞台上にはギフトゲームが中継されていた。

 

観客は盛り上がっておらず、静かにゲームを見ていた。いや、絶句していた。

 

 

大樹とジャックの戦いに。

 

 

両者の姿は到底目で追い切れないほど速い動き。一発一発の攻撃が大地を砕くほどの力を持った攻撃。まるで雲間に轟く雷鳴の如く。

 

両者は常軌を遥かに逸していた。

 

 

「彼は一体何者なんですか……!」

 

 

サンドラは驚愕しながら呟く。隣にいるマンドラの表情も驚愕に染まっていた。

 

 

「あのジャックっていう奴もなかなかやるわね」

 

 

「大樹と互角に戦っているわ……!」

 

 

「いや、違うな」

 

 

アリアと美琴の言葉を十六夜は否定する。

 

 

「圧倒的に大樹が強い」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

全員が驚愕した。

 

 

「ちゃんと一度は大樹と戦って見てぇな」

 

 

「呑気なこと言ってないでどういうことか説明してくれないかしら?」

 

 

状況が分からない飛鳥が十六夜に尋ねる。

 

 

「見てれば分かるぜ。ほら」

 

 

その言葉にみんなが中継された映像を見る。

 

 

『これで終わりです!!』

 

 

ジャックの目の前に巨大な炎の玉が現れる。大空洞の天井から床までギリギリの大きさの炎の玉が大樹に向かって放たれた。避けることは不可能。

 

 

「大樹君!!」

 

 

優子は悲鳴に近い声で大樹の名前を呼ぶ。誰もが勝敗を決したと思った。

 

 

『一刀流式、【風雷神の構え】』

 

 

大樹は鞘を投げ捨て、両手で刀を持つ。

 

 

「【覇道華宵】!!」

 

 

一撃必殺の威力を秘めた斬撃で、

 

 

 

 

 

炎の玉を真っ二つにした。

 

 

 

 

 

「「「「「はあああああァァァ!?」」」」」

 

 

『なんとッ!?』

 

 

観客の口が一斉に開いた瞬間であった。ジャックは動揺を隠しきれない。

 

 

「……大樹って恩恵が無いのにどうしてあそこまで強いのかしら?」

 

 

「何度も言うけど考えちゃダメよ」

 

 

飛鳥の質問に美琴は首を振る。その会話を聞いたサンドラとマンドラは顔を真っ青にした。

 

 

「恩恵が……無いだと……!?」

 

 

「あやつは正真正銘【ラプラスの紙片】に反応が無かった唯一の人物だ」

 

 

マンドラの言葉に白夜叉は戦いを見ながら答える。

 

 

『うおおおおおォォォ!!』

 

 

大樹は右手に刀を持ち、投槍の要領でジャックに向かって音速のスピードで投擲した。

 

 

『ッ!』

 

 

ジャックは何とか横に避けてかわす。

 

 

 

 

 

それが失敗だった。

 

 

 

 

 

『チェックメイトだ』

 

 

『!?』

 

 

ジャックの目の前に大樹がいた。

 

 

(投げた剣はブラフだったのですか!?)

 

 

ジャックは急いで腕を交差させ、衝撃に備えるが、

 

 

『【無刀の構え】』

 

 

それも失敗に終わる。

 

 

『【鳳凰炎脚】!!』

 

 

大樹は両足をジャックに叩きつけた。

 

 

ドゴッ!!

 

 

重く鈍い音が響く。ジャックは一瞬にして後方に飛ばされ、再び木に叩きつけられた。

 

 

『ッ!?』

 

 

『とどめだ!!』

 

 

すでに大樹は目の前まで距離を詰めており、大樹の右ストレートがジャックの顔面に、

 

 

 

 

 

『勝者、【ノーネーム】!!』

 

 

 

 

 

 

『『え?』』

 

 

「「「「「え?」」」」」

 

 

黒ウサギの声が空洞全体と舞台に響き渡り、大樹とジャックが舞台の上へと戻って来た。観客もプレイヤーも状況が理解できない。

 

 

「大樹!」

 

 

「よ、耀?…………まさか」

 

 

 

 

 

「うん、出られた」

 

 

 

 

 

ここにいる全員が納得した。

 

 

________________________

 

 

【大樹視点】

 

 

ゲームは終了した。でも、

 

 

「とどめだあああああァァァ!!」

 

 

「ダメに決まっているでしょこのお馬鹿様!!」

 

 

バシンッ!!

 

 

黒ウサギにハリセンでぶっ叩かれて出来なかった。ちくしょう。

 

 

「【ノーネーム】の御二人方」

 

 

ジャックが俺たちに声をかける。

 

 

「アーシャの無礼と【ノーネーム】の実力を甘く見ていたことに対して深くお詫び申し上げます」

 

 

隣にはアーシャもいた。二人は謝って来た。

 

 

「いや、俺たちもからかって悪かったな」

 

 

「ごめんなさい」

 

 

俺と耀は素直に謝る。

 

 

「まぁこれから仲良くしようぜ、アーシャにジャック」

 

 

「ヤホホホ!こちらこそよろしくお願いします。今度はぜひ私たちのコミュニティに遊びに来てください」

 

 

俺とジャックは笑い合う。

 

 

「次は絶対私が勝つからな!覚えとけよ!」

 

 

「次も私が勝つ」

 

 

だが残りの二人は火花を散らしていた。仲良くしろよお前ら。

 

 

「あ、俺の刀………」

 

 

「あそこに落ちてますよ」

 

 

俺は刀が無いことに気付いた。ジャックは舞台の隅に落ちていることを教えてくれた。

 

刀と鞘を拾い上げ、右手に持つ。

 

 

「さてと…」

 

 

俺は空を見上げる。

 

 

 

 

 

「やっぱり来やがったか」

 

 

 

 

 

空からはたくさんの黒い羊皮紙が降ってきた。

 

 

ゴオォッ!!

 

 

「ッ!?」

 

 

黒いオーラが白夜叉を包み込んだ。

 

 

「白夜叉!?」

 

 

「チッ!」

 

 

アリアは驚き、十六夜は白夜叉を包み込んだ黒いオーラを殴る。だが、ビクともしなかった。

 

 

「俺の力でも破れそうに無い……なんだこれは」

 

 

「みんな!あれを見て!!」

 

 

十六夜はその黒いオーラを睨み付ける。飛鳥は空を指さす。

 

 

上空には四つの影があった。

 

 

露出の多い白装束を纏う白髪の二十代半ば程の女性。黒い軍事服を着た短髪黒髪の男。白黒の斑模様のワンピースを着た少女。その後ろには全長15mはあろう全身に風穴が空いた巨大な怪物。

 

 

そう、彼らが……

 

 

 

『ギフトゲーム名 The PIED PIPER of HAMELN

 

・プレイヤー一覧

 

 現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ。

 

・プレイヤー側 ホスト指定ゲームマスター

 

 太陽の運行者・星霊 白夜叉

 

・ホストマスター側 勝利条件

 

 全プレイヤーの屈服・及び殺害。

 

・プレイヤー側 勝利条件

 

一、ゲームマスターを打倒。

 

二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

【グリムグリモワール・ハーメルン】印 』

 

 

 

「魔王だ………魔王が現れたぞおおおおおォォォ!!」

 

 

観客席の一人が叫び声を上げた。

 

 

災厄の魔王が現れた。

 

 

 





感想や評価をくれると嬉しいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。