どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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続きです。


転生者は野獣を狩る

【『フォレス・ガロ』の居住区画】

 

 

「…………なぁ、道を間違えたんじゃねぇの?」

 

 

「い、いえ、ここで間違いありません」

 

 

未だに包帯を巻いた俺の言葉を聞いた黒ウサギは首を振って否定する。

 

俺たちは敵の本拠地【フォレス・ガロ】がある居住区画のある門の前に来ていたが、

 

 

「いや、あいつら野生動物みたいに暮らしてんの?」

 

 

俺はその光景に率直な感想を述べる。

 

居住区画は森のように木で生い茂っていた。門はツタで絡みついており、不気味だ。

 

 

「トラの住むコミュニティだしおかしくないだろ」

 

 

「いや、おかしいです。【フォレス・ガロ】のコミュニティの本拠地は普通の居住区だったはず……」

 

 

十六夜の言葉にジンは異常であることを伝える。

 

 

「イメチェン?」

 

 

「大規模過ぎんだろ」

 

 

耀の言葉に俺はツッコム。

 

 

「ねぇ、あれって【契約書類(ギアスロール)】?」

 

 

アリアは門の横に貼ってある羊皮紙を指さす。

 

 

 

『ギフトゲーム 【ハンティング】

 

・プレイヤー一覧

 

久遠飛鳥

 

春日部耀

 

ジン=ラッセル

 

御坂美琴

 

神崎・H・アリア

 

 

・クリア条件 ホストに本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐。

 

・クリア方法 ゲーム内で配置された指定武具でのみ討伐可能。

 

指定武具以外で傷つけることは【契約(ギアス)】により不可能。

 

・敗北条件 降参かプレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名のもと、【ノーネーム】はギフトゲームに参加します。

 

【フォレス・ガロ】印』

 

 

 

「あれ?怪我をしている大樹さんが出ないのは分かりますが、優子さんも出ないのですか?」

 

 

羊皮紙に書いてあった内容を読み終えた黒ウサギは質問する。

 

 

「優子に危険なことは絶っっっ体させません」

 

 

「この通り、大樹君が言っているからアタシはパスするわ」

 

 

当たり前だ!優子はみんなと違って普通の女の子だぞ!

 

 

「なんで優子は止めて、あたしたちは止めないのかしら?」

 

 

美琴はバチバチッと電気を出しながら聞く。俺は美琴の耳に口を近づけ小さい声で言う。

 

 

「本当は止めたいけど飛鳥たちだけじゃ危険だ。俺はこの通り怪我をしていてゲームに参加できない。あいつらを守るのは美琴とアリアだけが頼りなんだ」

 

 

「そ、そういうことなら仕方ないわね」

 

 

美琴は顔を赤くして、俺から急いで距離をとった。あれ?俺嫌われてるのか?

 

 

「というか指定武具って何だ?」

 

 

十六夜は羊皮紙を見ながら言う。

 

 

「こ、これはまずいですよ!?」

 

 

黒ウサギは大声をあげる。

 

 

「何でかしら?」

 

 

「これだと飛鳥さんのギフトで彼を操ることも、耀さんのギフトで傷つけることも、攻撃が指定武具以外全て封じられました」

 

 

「最悪だな……」

 

 

アリアの質問にジンが答える。俺はそれを聞き、苦虫を噛み潰したように呟く。

 

 

「自分の命をクリア条件にして五分に持ち込んだってわけか」

 

 

十六夜の表情も険しかった。

 

 

「だ、大丈夫です!【契約書】には『指定』武具としっかり書いてあります!つまり最低でも何らかのヒントがなければなりません。もし、ヒントが提示されなければ、ルール違反で【フォレス・ガロ】の敗北は決定!」

 

 

「だけど、もうヒントは出ているんじゃなか?」

 

 

「え?」

 

 

黒ウサギは手を胸に当て堂々と言うが、俺の声を聞き、言葉と動きを止める。

 

 

「昨日の夜、たくさん本を読んでおいてよかった」

 

 

俺は木々に触れてみんなに向かって言う。

 

 

「これ、【鬼化】していると思う」

 

 

「「「「「鬼化?」」」」」

 

 

「「!?」」

 

 

俺の言葉に美琴、アリア、優子、十六夜、飛鳥、耀は首を傾げる。黒ウサギとジンは驚いたような顔をした。

 

 

「正確には鬼種のギフトが宿っているって言い方が正しいかもな」

 

 

「や、やっぱり……!」

 

 

「ああ、このゲームは第三者が絡んでいる」

 

 

ジンは少し分かっていたみたいだな。

 

 

「そして、第三者の正体は吸血鬼、だろ?」

 

 

「……はい。僕もそう考えていました」

 

 

ジンはうなずき肯定する。

 

 

「この舞台を作り上げたのは吸血鬼のはずです。ですからこのゲームには吸血鬼に関することが絡んでいるかと」

 

 

「そうなると指定武具って………十字架?」

 

 

「もしくは白銀かニンニクだな」

 

 

ジンは説明を付け加える。美琴は推測して、俺はそれに付け加える。

 

 

「なぁ御チビ、もしかして吸血鬼ってのは」

 

 

「はい、恐らく十六夜さんの考えている通りだと思います」

 

 

ジンと十六夜は心当たりがあるみたいだ。

 

 

「ねぇ、私たちにも説明してくれるかしら」

 

 

「吸血鬼の正体は僕らの昔の仲間だと思います」

 

 

飛鳥の言葉にジンは答える。

 

 

「えッ!?まさかレティシア様が!?」

 

 

どうやら黒ウサギは吸血鬼の仕業だと分かっていてもそのレティシアの仕業だと思っていなかったみたいだな。

 

 

「うん、多分だけど……」

 

 

「でもレティシア様は【サウザンドアイズ】のギフトゲームの出品されて……!」

 

 

「ちょっと待って、ギフトゲームで【吸血鬼】を景品にしているの?」

 

 

ジンの頼りない声に黒ウサギは否定した。優子はギフトゲームで疑問を持つ。

 

 

「はい……ギフトゲームでは可能なので……」

 

 

「本当に何でも賭けていいんだな、ギフトゲームは」

 

 

俺は黒ウサギの言葉を聞いて、イラついた。黒ウサギに対してではなく、そういうギフトゲームをすることにだ。

 

 

「とにかく話をまとめましょう」

 

 

アリアは少し大きめな声でみんなに言う。

 

 

「このゲームは吸血鬼に関係があるから注意する。よって指定武具は吸血鬼の弱点に関するものだと考える。こんな感じかしら?」

 

 

「それでいいのかよ……」

 

 

アリアはものすごく簡単にまとめた。俺は溜め息を吐く。今までの話は何だったんだ。あと昔の仲間はどうした。

 

 

「今仲間について考えるよりゲームの攻略の行動が優先よ。はやく行きましょ。それと大樹」

 

 

アリアは門の前に立ち、首だけ後ろを向き、俺を見る。

 

 

「次のギフトゲームはちゃんと出るのよ」

 

 

「ああ、それまでに治すよ。………あ」

 

 

俺はふっと思いだし、懐からアレを取り出す。

 

 

「ほい」

 

 

俺はギフトゲームに参加するメンバーに向かってそれを投げる。耀がキャッチした。

 

 

「………ミキサー機?」

 

 

「これでガルドをジュースに……」

 

 

「「「「「本気!?」」」」」

 

 

本気だ。ジュースにしてこい。

 

 

________________________

 

 

ゲームの参加メンバーは門をくぐり抜け、ゲームがスタートした。

 

そして5分後。

 

 

「暇だなぁ」

 

 

「はい、終わりよ」

 

 

包帯を優子に巻き直してもらった。

 

 

「ありがとう」

 

 

俺は優子にお礼を言う。

 

 

「別に良いわよ。このくらいなら、いくらでもしてあげる」

 

 

「じゃあ今すぐもう一回してくれ」

 

 

「何でよ……」

 

 

出来れば次はナース服を着て、お願いします。

 

 

「なぁ黒ウサギ。ゲームの乱入は

 

 

「駄目です!何を言っているのですか十六夜さんは!」

 

 

十六夜の言葉に黒ウサギは即座に反応する。

 

 

「美琴とアリア………大丈夫かな……」

 

 

「大樹さん!!10回目ですよ!?」

 

 

数えていたのか黒ウサギ。お前も暇人だな。

 

 

 

 

 

ドゴッ!

 

 

 

 

 

「「「「?」」」」

 

 

俺達は地面がどこかで盛り上がったような音が聞こえたような気がした。でも、状況が理解出来ない。

 

 

「モグラ?」

 

 

優子呟いた。

 

 

「!?」

 

 

「逃げろッ!!」

 

 

十六夜はすぐに異変に気づいた。俺も気付き、叫ぶ。俺は優子を抱き抱えてその場から離れる。十六夜も黒ウサギも飛んで回避する。

 

 

ドゴッ!ドゴッ!!

 

 

先程いた場所に土で出来た鋭い角が地面から次々と突き出てきた。そして、その土は、

 

 

「ウァ………」

 

 

「オォ………」

 

 

「オァ………」

 

 

すぐに形を変え、人の形になった。だが、人の形と言っても右手が異常に大きかったり、足のバランスが左右対称ではなく、形が違ったりしている。統一など全く無い。

 

土人形は小さくうめき声をあげながらゆっくりと近づいてくる。

 

 

「何だこの土人形は……」

 

 

十六夜は不気味な光景に顔を歪める。

 

 

「吸血鬼……の仕業じゃねぇな。優子、俺の後ろにいろ」

 

 

「う、うん」

 

 

俺は優子を後ろに下がらせる。

 

 

パラッ

 

 

上から黒い紙片が降ってきた。

 

 

「そ、それは……!?」

 

 

黒ウサギの顔は真っ青に染まる。

 

俺は降ってきた黒い紙片を乱暴に掴む。

 

 

『ギフトゲーム 【BAD END】

 

・プレイヤー一覧

 

楢原 大樹

 

木下 優子

 

坂廻 十六夜

 

 

・勝利条件 参加プレイヤーは一定時間、生き残る。

 

・勝利方法 現在行われているギフトゲーム【ハンティング】の終了時にギフトゲーム【BAD END】の参加プレイヤーが死亡していないこと。

 

・敗北条件 プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。(プレイヤーの誰かの死亡。1人でも死亡した場合でも敗北となる)

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマス ターの名のもと、ギフトゲームを開催します。

 

【  】印』

 

 

 

「印が無い……?」

 

 

俺は黒い紙片に書かれた内容を読み、一番不可解な点について呟く。

 

 

(ていうかこの黒い羊皮紙は……!?)

 

 

書物庫で記憶した本の内容を思い出す。これは、

 

 

 

 

 

「魔王の【契約書類(ギアスロール)】……!?」

 

 

 

 

 

黒ウサギは震えた声で言った。

 

 

「え?魔王って……!」

 

 

「ああ、間違いない。あの魔王だ」

 

 

俺は優子に向かって説明する。

 

 

「主催者がプレイヤーを強制参加させ、大暴れするアレだ。まさに魔王の仕業だな」

 

 

「どうする大樹。戦えるか?」

 

 

十六夜は俺を見て尋ねる。

 

 

「黒ウサギ、【審判権限(ジャッジマスター)】は使えるか?」

 

 

俺は十六夜に答えを出す前に黒ウサギに質問する。

 

審判権限(ジャッジマスター)

 

箱庭における特権階級の一つ。これを持つ者が審判を務めた場合、参加者はルールを破れなくなる。黒ウサギはゲームに参加していない。なら、彼女は審判を務めているはず。

 

この契約書類にはコミュニティの印が無い。もしかしたら不正が働いている可能性があるのでゲームの中断ができる。

 

だが、

 

 

「そ、そんな!?」

 

 

黒ウサギは手を耳に当てて、箱庭の中枢からの連絡を聞いたのだろう。

 

 

 

 

 

「箱庭の中枢の回答は………ギフトゲーム【BAD END】は確認されていないようです……!」

 

 

 

 

 

「チッ、どうなっていやがる……」

 

 

俺は舌打ちをした。

 

ゲームの不正どころの話では無かった。そもそもゲームが始まっていない状態だ。

 

 

「黒ウサギ、お前は白夜叉のとこ

 

 

「サセ、ナイ……」

 

 

土人形の一つが言葉を発した。そして、

 

 

ヒュンッ!!

 

 

土人形は一瞬で俺との距離を縮めた。

 

 

(速い!?)

 

 

ドゴッ!!

 

 

土人形の右ストレートが俺の腹に撃ち込まれた。

 

 

「でも、遅いな」

 

 

だが、決まらなかった。俺は包帯を巻いている右手で受け止めた。

 

 

ズバッ!!

 

 

俺は左手で刀を一本抜き、土人形の上半身と下半身に斬り分けた。斬られた土人形は地面に落ち、形を崩して地面に還る。

 

 

「クソッ、怪我人に無茶させんじゃねぇよ」

 

 

「だったら俺が代わるぜ?」

 

 

ドゴオオオオッ!!!

 

 

その瞬間、十六夜はたくさんの土人形をぶっ飛ばした。土人形は空中で粉々になる。

 

 

「十六夜、人間やめたか?」

 

 

「そっくりそのまま返すぜ」

 

 

俺と十六夜は笑い合う。

 

 

「あ、あり得ないですよ……!」

 

 

黒ウサギはそんな二人を見て驚愕した。

 

大樹は怪我をしているのにも関わらず、土人形を圧倒できる力を持っていること。十六夜はまだ本気を出していないのに土人形を一気にぶっ飛ばしたことに。

 

 

(この問題児様方は規格外過ぎですよ!?)

 

 

「だ、大樹君……」

 

 

優子は俺の服の袖を掴む。

 

 

「おい黒ウサギ。俺と一緒に優子を守ってくれ」

 

 

「あ、はい!」

 

 

黒ウサギは大樹に呼ばれ、目の前のことに集中する。そして、一つの提案をする。

 

 

「大樹さん!ここは作戦を決め

 

 

「優子を死守。以上」

 

 

「終わり!?」

 

 

「このゲームを勝利するには【ハンティング】が終了すること。誰も死なないことだ。なら、優子を死守していればいつか勝てるだろ」

 

 

黒ウサギはそれを聞いて納得する。大樹の言ってることは正しかった。

 

 

「ウァ………」

 

 

地面から新たな土人形が何体も現れる。

 

 

「無制限に出てくんのかよあいつら」

 

 

俺は刀を持った左手を強く握った。怪我をしているため本気を出せない。だが、

 

 

(優子に指一本触れさせねぇ…!)

 

 

絶対に守ってみせる。

 

________________________

 

 

「見つけた、この先の館にいる」

 

 

耀は木に登ってガルドを見つけ出した。

 

 

「それじゃあ、はやく行きましょう」

 

 

美琴が先頭を歩いて先導する。

 

 

「ねぇ美琴」

 

 

アリアは美琴の隣まで来て、話かける。

 

 

「敵は?」

 

 

「………居ない」

 

 

「おかしいわね…」

 

 

アリアは美琴の言葉に疑問を持つ。

 

 

「わざわざ敵のテリトリーに招き入れておいて罠一つも用意していないなんて」

 

 

アリア達は敵どころか罠一つに遭遇していない。

 

 

「でも館までに行く途中はさすがに一つくらいあるわよ」

 

 

美琴は警戒して進んだ。

 

 

 

 

 

結果。変化無し。館についた。

 

 

 

 

 

「美琴」

 

 

「何も言わないで」

 

 

美琴は肩を落として落ち込む。アリアは美琴の肩を叩いて慰める。

 

 

「ねぇジン君。指定武具はどうするのかしら?」

 

 

「もしかしたらガルドが持っている可能性があると思います」

 

 

飛鳥の質問にジンは答える。

 

 

「そうね、道中で見つからなかったわ」

 

 

「草むらの中にも無かった」

 

 

アリアと耀は注意して探したが見つからなかったことを言う。

 

 

「では静かにガルドの居る部屋を

 

 

ドゴッ!ドゴッ!

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

美琴の後ろ。地面から何かが突き出てきた。

 

 

「ウァ………」

 

 

「アァ………」

 

 

「グァ………」

 

 

それは歪な人の形となった。

 

 

「な、なに!?」

 

 

飛鳥はその気味悪い人形に驚く。

 

 

ヒュンッ!!

 

 

土人形は一気に飛鳥の前まで距離を

 

 

バチバチッ!!

 

 

美琴が電撃を飛ばして土人形を吹き飛ばす。距離は縮められなかった。土人形はボロボロになり、砂と化す。

 

 

「ッ!」

 

 

ドゴッ!!

 

 

耀は一体の土人形の顔面に蹴りを叩き込んだ。土人形の頭は砕け、体は倒れる。そして、ドロドロと土に戻る。

 

 

「ここはあたしたちが戦うわ!3人はガルドを倒して!!」

 

 

「分かったわ!行くわよ2人とも!」

 

 

アリア、飛鳥、ジンは館の中に入っていった。

 

 

「ガルドは二階にいるわよ」

 

 

アリアは走りながら言う。耀から聞いたことだった。階段をかけ上がり、奥の部屋を目指す。

 

 

「待って」

 

 

アリアが手を横に出し、2人を静止させる。

 

 

「ジン君は指定武具がガルドのいる部屋に無かったとき、私達が逃げれるように逃走ルートを確保しておいて」

 

 

アリアの言葉にジンはうなずく。

 

「飛鳥は指定武具を見つけて。あたしがガルドを引き付けるわ」

 

 

「だ、大丈夫なの?」

 

 

飛鳥はアリアを心配する。

 

 

「大丈夫よ、武偵憲章1条『仲間を信じ、仲間を助けよ』」

 

 

「え……?」

 

 

飛鳥とジンは目を点にする。でも、

 

 

「し、信じるわ」

 

 

「僕も信じます」

 

 

意味はわかった。

 

 

「じゃあ行くわよ」

 

 

アリアはドアの前に立ち、

 

 

バキャッ!!

 

 

蹴り飛ばした。木で出来たドアは簡単に壊れた。

 

 

「「!?」」

 

 

アリアと飛鳥は部屋に入って驚愕した。

 

 

「ガルル……!」

 

 

部屋の中にはガルドではなく、虎の怪物がいた。いや、鬼のギフトを与えられたガルドだ。

 

 

「ッ!」

 

 

アリアと飛鳥は虎の後ろにある物に気づいた。

 

虎の後ろに白銀の十字剣があるのを。

 

 

「指定武具!」

 

 

そう言って飛鳥は身構える。

 

 

「ッ!」

 

 

アリアが囮として虎の怪物に向かって走りだす。

 

虎もアリアに向かって突進し、大きな右手でアリアを引き裂こうとする。

 

 

「そこッ!!」

 

 

アリアはスライディングをして、虎の下を抜けていく。

 

 

ガキュン!ガキュン!!

 

 

途中、アリアは虎の腹に2発の弾丸を撃ち込む。

 

 

「グル……?」

 

 

だが効いていなかった。

 

虎はもう一度アリアに飛びかかる。

 

 

「クッ!」

 

 

アリアは横に飛び込み避ける。

 

だが、虎はすかさず、またアリアに向かって飛び込む。アリアはまだ空中にいて、避けれない。

 

 

(避けれない!?)

 

 

アリアは目を瞑り、痛みに耐えようとした。

 

 

 

 

 

『避けなさい!』

 

 

 

 

 

飛鳥の一喝が部屋に響き渡る。

 

 

「!?」

 

 

アリアは驚愕した。

 

体が勝手に動き出したのだ。

 

アリアは右手を地面につき、片手で倒立したような状態になる。そして体を捻らせる。

 

 

ヒュンッ

 

 

虎の攻撃をギリギリ避ける。

 

 

(嘘ッ!?)

 

 

アリアはこのような芸当は普通できない。だが、飛鳥のギフトで出来るようになった。

 

 

「アリア!!」

 

 

飛鳥は白銀の十字剣を引き抜き、アリアに向かって投げる。

 

 

「ッ!」

 

 

ガキュンッ!!

 

 

ガチンッ!!

 

 

アリアはその剣の柄を撃ち込み、勢いよく回転させ、飛んでいく向きを変える。

 

 

ズバッ!!

 

 

回転させた剣は虎に向かって飛んで、真っ二つに切り裂いた。

 

虎はその場に倒れ、

 

 

灰になった。

 

 

________________________

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

俺達はゲーム終了後、本拠地に帰ってきた。そして、部屋に集まり反省会だ。

 

だが、部屋に沈黙が支配する。

 

 

「結局、あの土人形の正体は分からねぇままか」

 

 

大樹が沈黙を破る。

 

あの後、俺と十六夜と優子と黒ウサギは無傷で済んだ。ゲームクリア。だが、賞品なんてものは無く、あっけなく終わった。

 

 

「美琴たちのところにも現れて、一体何なんだ」

 

 

箱庭の中枢もわからないと答える。手詰まりだ。

 

 

「その件は白夜叉様に頼んでいるので大丈夫ですよ」

 

 

黒ウサギは先程白夜叉のコミュニティ行ってきてこのことを報告してきたのだ。白夜叉が調べてくれるらしい。

 

 

「なら今日はもう寝るか?」

 

 

十六夜は大きなあくびをする。

 

 

「そうね、話し合うにも情報が少ないわ。明日調べてみましょ」

 

 

アリアも十六夜に賛同した。

 

 

「あ、俺はこれから行く場所あるから」

 

 

俺は用事を思い出す。

 

 

「あら?私も行くわよ?」

 

 

「音速出すけど?」

 

 

「遠慮するわ」

 

 

飛鳥のお誘いを脅して断る。すまん。

 

 

「でも何処に行くの?」

 

 

優子が尋ねる。

 

 

「ひ・み・つ☆」

 

 

「「「「「キモい」」」」」

 

 

「ちょっとふざけただけじゃねぇか!!うわーん!!」

 

 

大樹は泣きながら窓から外に飛び出した。そして音速で走り去る。怪我?まだ治ってねーよ!!

 

 

 

 

 

「仲間を泣かせるのは感心しないな」

 

 

 

 

 

大樹と入れ違いに誰かが入ってきた。

 

 

「れ、レティシア様!?」

 

 

黒ウサギが声をあげて驚く。

 

【箱庭の騎士】と呼ばれた吸血鬼。金髪の少女がそこにいた。

 




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