どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】 作:夜紫希
続きです。
気が付くと、俺はベッドの上で寝ていた。
「……………ここは?」
天井は古く、汚れていた。だがベッドの毛布などは綺麗で、いい香りがしていた。体は締め付けられるような感覚。身体中にはたくさんの包帯が巻いてあった。
「大樹!!」
ベッドの横に座っていた美琴が俺の名前を呼ぶ。
「美琴……俺は」
「今は言わないでいいわ。あとでみんなで話しましょう」
そう言って美琴は部屋を出てみんなを呼びに行った。
「俺は………こんなとこで何してんだ?」
1人になった俺は呟く。そして、俺の手が震える。
(何でここに双葉がいるんだよ……)
だが彼女はリュナと名乗った。そして、俺を殺そうと……いや、あいつはわざと見逃した。本当なら殺されていてもおかしくはない。
俺はあいつが言っていた言葉を思い出す。
(『ゲームはもう始まっている』だと?……もう何が起きてるのか分かんねぇよ……!)
俺は唇を噛み締め、震える手を睨み続けた。
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「「「「「大樹(君)(さん)!」」」」」
みんなが俺の名前を呼ぶ。
部屋を出て、みんなのいる大きな部屋に美琴と一緒に向かった。本当はみんなが部屋に来るつもりだったが、俺の怪我は歩けなくなるほどの大怪我にはならなかった。
「もうよいのか?」
「ああ、白夜叉のおかげでな」
ソファに座った白夜叉に、俺は大丈夫だと答える。
訂正。俺は大怪我をしたが白夜叉のコミュニティが怪我を治してくれたと美琴から聞いた。白夜叉には感謝している。
「大樹さんが無事でよかったですよ!!」
「分かったから抱きつくのをやめろ」
黒ウサギは泣きながら抱きついてきた。くそ、黒ウサギ柔けぇ………はッ!?
「「「大樹(君)?」」」
「勘弁してください」
美琴とアリア。それに優子まで俺を睨んでいた。俺はすぐに頭を下げる。
「まぁいいわ。それよりも聞きたいこと」
アリアは溜め息を吐き、俺に質問する。
「あれは………誰?」
「……………」
声音を変えたアリアの単刀直入な質問に俺はすぐには答えれなかった。
「あいつはリュナって名乗っていた」
「リュナ?」
俺の言葉に十六夜が確認をとる。
「ああ、自分でそう言っていた」
「でもおんしは違う名前で呼んでいなかったか?」
白夜叉は気づいているようだ。
「あいつは………」
俺はここで言っていいのだろうか?このままあいつの話をしたらきっと自分の過去が知られてしまう。
大切な人を守れず、いじめた奴らに大怪我を負わせるような最低な俺を。
このまま過去を打ち明けたところで怖がられるだけじゃないか?恐れられるだけじゃないか?
(美琴たちに聞かれたくない………!)
昔の俺は人を傷つけるような奴だった。知られたくない。
「……………」
俺は下を向く。表情は今にも泣きそうな顔になっていると思う。
「大樹君?」
優子が心配して俺に近づいてきた。
(ああ、情けないな俺は……)
こんなに女の子に支えられて何もできない自分が恥ずかしい。そして悔しい。
「俺は………最低だ」
「え?」
本音が口から出てしまった。優子は俺の言葉に耳を傾ける。ダメだ、訂正するんだ。
「みんなはきっと俺の過去を知ったら俺を嫌いになる……!」
何をやってんだ俺は。違う。こんなことを言いたいわけじゃない!
「本当の俺は最低な人間なんだよ!!だからッ!!」
叫び声は震えた。
俺は多分泣いていた。いや、泣いてる。
みんなに嫌われてしまう。そんなことを考えただけで涙が止まらなくなった。
「本当はみんなと一緒にいる資格なんて
「大樹君!!」
優子に前から抱き付かれた。力はとても強くて、腕は震えていた。
「アタシは絶対に嫌いにならない!アタシは大樹君から貰った優しさを知っている、覚えている!」
「無理だ……」
俺は首を横に振る。俺の過去を知ったらみんな離れていく。
「それはあたしの嫌いな言葉よ」
アリアが俺の横に来る。そしてアリアは横から優子と一緒に抱き付いた。
「そんな事言わないで、いつもの大樹に戻って。あたしの好きな大樹に」
「……ぁ」
好き。そんな言葉を聞き、俺の心は温かくなった。
「ねぇ大樹」
アリアの反対から美琴が俺を呼ぶ。
「ここにいるのは大樹のことが好きだから来たのよ。嫌いになるくらいなら連いて来てないわ」
アリアと同じように俺に抱き付く。
「だから話しても話さなくてもいいよ。みんな、大樹のことが大好きなのは変わらないから」
「……う、うぅ」
嗚咽が走り、顔は涙でくしゃくしゃになっているだろう。
「俺は……」
こんなにも好かれているのに。愛されているのに。俺はみんなに過去を隠すのか?
違げぇだろ。
「俺は嫌われたくない……でも!」
もう逃げない。隠れない。堂々と話す。例えそれで嫌われても文句は言わない。
嘘は終わりだ。
「話を聞いて……ほしい……!」
振り絞った声で俺は言う。
俺は自分の昔のことを全て話した。
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ほぼ全てを話終えた。途中何度もみんなは目を見開いて驚き、俺を見ていた。そんな顔を見るたんびに逃げ出したいと思った。でも、最後まで言わなくちゃダメだ。
「リュナは2年半前に死んだ、阿佐雪(あさゆき) 双葉と同一人物だと思う」
「「「「「!?」」」」」
今日一番の驚愕をするみんなを見つつ、続ける。
「顔と身長は少し成長していて、違っていたが間違いない。双葉だった。何であんなことになったのか分からないが敵であることは確かだ」
これで説明が終わる。
(ああ、これで嫌われたも当然か)
俺の過去の全てを話した。人を傷つけたことも言った。もう誰も俺に好意を持つことは無いだろう。
「………ごめんね」
耳を疑った。そして、
「今まで気づかなくてごめんね……!」
美琴は座っている俺の前まで来て、頭を優しく抱いた。
「美琴?」
「こんな辛い話をさせてごめん。でも、」
俺はこの時を一生忘れないだろう。
「もう1人じゃないから。あたしたちがいるから」
その一言が俺を救ってくれた。
「1人じゃない……?」
俺は復唱する。
俺を分かってくれるのは双葉だけしかいなかった。でも、
「いつでもあたしたちがいるから」
アリアは優しい声で言う。
「だから1人で抱え込まないで」
優子も優しい声音だった。
ああ、そうだ。
俺はもう1人じゃねぇよ。
「なあ、俺の一生分の願いを聞いてくれるか?」
3人は驚いた顔をしたが、
「「「うん」」」
うなずいてくれた。
俺の願い。それは、みんなと離ればなれにならないこと。一緒に仲良く、楽しく過ごしたい。守りたい大切な人。友達以上の存在だ。だから、
「俺と一生、そばに居てくれないか?」
「「「ふぇッ!?」」」
「大胆だな、あいつ」
3人の顔は赤く染まり、十六夜は口笛を吹きながら言う。
「ななななに言ってんのよ!?」
「え?いや、そばに居てくれるなら一生がいいかと」
美琴は俺の胸ぐらをつかみながら言う。
「本気なの!?」
「あ、ああ……銃を下ろしてくれ」
アリアは俺の眉間に銃口を向けながら尋ねる。
「だ、誰なの!?誰を選ぶの!?」
優子は必死に聞く。いや、誰って……
「美琴、アリア、優子の3人だけど?」
その瞬間、部屋が氷河期を迎えた。
「え?ひ、1人じゃないんですか?」
「逆に何で1人なんだ?」
ジンの質問に俺は首を傾げる。その瞬間、部屋の温度は絶対零度の寒さになった。
「え?あ、あの……今のは告白ではないんですか?」
「…………………………え?」
黒ウサギの質問に耳を疑った。いや、別に結婚してくれとはいってないんだが……………………あ。
「……俺って今………告白みたいなことしてた?」
「「「「「うん」」」」」
無意識だった。やべぇ、ただ純粋に仲良くしたかっただけなのに。
俺は恐る恐る、美琴、アリア、優子の3人を見る。
「え、えっと。これからも………な、仲良くしてね☆」
なぁ知ってるか?
女の子の乙女心を馬鹿にすると一瞬で死ぬことを。
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俺は十六夜に話を聞いていた。
「ガストの部下が奇襲してきた!?」
「どこのレストランだおい」
俺の言葉に十六夜はツッコム。
俺は全身ボロボロにされた体を支えながら、俺が寝ている間の出来事を聞いた。
ガルドの部下が奇襲しに来たが、十六夜が小石を1つ投げて追い払ったらしい。ば、化け物……。
「ああ、そして今日から俺たちはジン=ラッセル率いる打倒魔王を掲げるコミュニティだ」
奇襲してきた部下はガルドに脅された連中だった。十六夜はその連中に「ガルドを倒してやるから名を広めろ」と言ったらしい。待て、お前出ねぇだろうが。
十六夜はこのコミュニティを打倒魔王を掲げたコミュニティにして、名を広めるつもりらしい。
「た、確かに『名』を名乗ることを許されない俺たちにとってはとても良い方法だ」
俺は素直に感心するが、
「だからって魔王はねぇよ!!」
また俺たち滅ぼされちゃうよ!
「もう危険すぎるわ!デンジャラスだわ!でもそれ採用!」
「「大樹さん!?」」
俺の言葉を隣で聞いていたジンと黒ウサギが耳を疑った。
「今の俺なら魔王なんて右手で行けそうな気がする」
「「「「「ちょッ!?」」」」」
全員が驚愕した。だが、
「そういえばおんし、あの瞬間移動はなんじゃ?」
白夜叉は驚かず、俺に尋ねる。
「確かに、あのワープは凄かったな」
十六夜も驚かず、俺の顔を見る。え?
「いや、ワープなんかしてねぇよ。普通に走っただけだが?」
「「「「「………………」」」」」
ちょっと!?その顔はなんですか!?
「あれって走ったのかしら?」
「音速ってレベルじゃなかった」
飛鳥と耀はいつの間にか俺と距離をとっていた。酷い…。
「まぁ光の速さで動けるようになったからな」
「…………おんし人間か?」
「YES!もちろんデスよ!」
「真似しないでください!」
白夜叉の質問に黒ウサギの真似して答えたらハリセンで叩かれた。
「でもいろいろ欠点はあるんだぜ?」
「………嫌な予感がするけど一応聞くわ」
アリアに尋ねられた。
「まず速すぎて息ができないこと」
「いや、一瞬で移動できるから我慢できるだろ」
十六夜に呆れられた。
「途中、行先変えようとしても既に最初に決めた移動場所にいる」
「思考を上回った速度……」
耀がさらに俺から距離をとる。今日は枕を濡らしてしまいそうだな。
「あと連続して出せないからあまり遠くに行けない」
「遠くに行けない?」
優子が俺の言葉に疑問をもつ。
「俺は一瞬だけしか光速のスピードはでないんだ。しかも距離は短い」
「でもあの時は消えたじゃない」
あの時とは耀を助けたときのことを言ってるのだろう。
「あれは音速のスピードである程度の距離を詰めて、あとの距離は光速のスピードで詰めた」
「もう無茶苦茶ね……」
優子は溜め息を吐き、これ以上質問するのをやめた。
「要するにこう言いたいんだろ。1秒間に地球7周半できるスピードを持っているが、距離は地球7周半できない、だろ?」
「正解。正確には半径150mくらい距離しかだな」
十六夜が推理して当てる。俺はそれに訂正を加えて言う。
「そして連続して光の速度を出すことができないから遠くまで行けない」
「何で連続して出せないの?」
美琴が聞く。
「連続で出したら俺の体、分解されちゃう」
「最初で分解するわよ!」
「いや、一瞬だけなら大丈夫だ」
一瞬だけ体がありえないくらい強化されるから。え?「光の速度に耐えれる体って化け物じゃね?」って?知ってるよ。
「もう聞かないほうがいいわよ、美琴」
「うん、私も今思ったわ」
アリアと美琴は共感する。もう何かどうでもいいや。
「そういえば今思い出したけど白夜叉とのギフトゲームはどうした?」
耀を助けた時のことを思い出し、ギフトゲームのことを思い出した。
「勝った」
「い、いつだよ」
耀は右手をVサインし、勝利したことをアピールする。
「グリーが白夜叉のところに助けを呼びに言った瞬間」
「グリー?」
「YES。グリフォンの名前です」
耀の聞きなれない言葉を聞いて、俺は聞き返す。それに黒ウサギが答えてくれた。
「え?あの時逃げたのがたまたまゴール地点だったのか?」
「うん」
グリーさんドンマイ。
「まぁ勝ちは勝ちだからのう。だからホレ」
パンッ
白夜叉が手を叩いた瞬間、みんなの目の前にカードが出てきた。
「【恩恵(ギフト)】をやろう」
「ぎ、ギフトカード!」
白夜叉は笑みを浮かべながら言う。一方黒ウサギは驚愕した。俺の目の前には黄色いカードが出現した。
「お中元?」by十六夜
「お歳暮?」by飛鳥
「お年玉?」by耀
「俺、何か反則した………!?」by大樹
「ち、違います!というか大樹さんのはただ色がみなさんと違うだけです!」
黒ウサギから説明を受ける。ああ、なるほど。
「これは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードですよ!」
「つまり素敵アイテムってことでオッケー?」
「あーもうそうです、超素敵アイテムですよ!」
十六夜の発言に黒ウサギは拗ねた。
「じゃあさっき貯水池に置いた水樹も収納した状態で水を出せるのか?」
「出せるとも」
十六夜の言葉に白夜叉は肯定する。
「そして、そのギフトカードは正式名称を【ラプラスの紙片】、すなわち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとはおんしらと魂の繋がった【恩恵】の名称。これで鑑定もできるということだ」
ワインレッドのカードに久遠 飛鳥
【威光(いこう)】
パールエメラルドのカードに春日部 耀
【生命の目録(ゲノム・ツリー)】
【ノーフォーマー】
ターコイズブルーのカードに御坂 美琴
【発電能力(エレクトロマスター)】
ローズピンクのカードに神崎・H・アリア
【緋緋色金(ヒヒイロカネ)】
スノーホワイトのカードに木下 優子
【絶対防御装置】
「なぁ、俺のはレアじゃないのか?」
コバルトブルーのカードを持った十六夜は笑いながら白夜叉に見せる。
【正体不明(コード・アンノウン)】
やっぱチートかコイツ。
「……いや、そんな馬鹿な」
白夜叉は十六夜の持っているカードを見て、目を疑った。
「全知である【ラプラスの紙片】がエラーを起こすはずなど」
「何にせよ、鑑定出来なかったんだろ。俺的にはこっちのほうがありがたいさ。それよりも」
十六夜は満足そうな顔をして俺を見る。
「大樹のが一番気になるな」
十六夜の言葉に、全員がこっちを向いた。クロムイエローのカードを持っている俺を。
「残念だが」
俺はみんなに見えるように見せる。
『No Gift』
「無いみたい」
「「「「「え」」」」」
どうやら俺は恩恵など持って無いらしい。
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「ここが図書室です」
「さんきゅー。あとは自分で出来るから寝てていいよ」
「はい。ではおやすみなさい」
「おやすみ」
夜中、俺はジンに書庫に連れて来てもらった。
ます、俺はこの世界について、たくさん情報が欲しかった。
(原作を知らない世界は何があるか分からないからな)
俺は一冊の本に手を伸ばし、立ったままの状態で読む。
パラパラパラパラパラパラッ、バタン。
はい、読み終わったよ。パチパチ。
これぞ完全記憶能力の応用だ。俺はどんどん本を読んでいく。
それと同時に俺は自分の力について考えてた。
(この力があっても、双葉には勝てない)
あの光の槍は光の速度とはいかないが、相当速かった。
(あの力は一体……)
不可解なことが多すぎる。でも、
「俺はみんなを守って見せる」
美琴。アリア。優子。ノーネームのみんな。
「え?」
俺は読んでいた本をあるページで止めた。
『楢原 姫羅(ひめら)』
「…………何でも有りだな、箱庭」
見覚えのある名前を見つけた。
これからも更新が遅れると思います。本当に申し訳ありません。
感想や評価をくれると嬉しいです。