どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】 作:夜紫希
戦意を失ってしまいそうになるほどの圧倒的な気迫を出しながら立ち塞がるポセイドンに誰も声が出ない。女の子たちは怯え切ってしまっていた。
それもそのはず。人類が絶対に勝つことができない者を目の前にしているのだ。到達することのできない領域を前にして、正気で居られる方がおかしい。
「予想はできていたぜポセイドン。お前が裏切者のことくらいはな」
『ふん。私の保持者だろ?』
その通り。ポセイドンの保持者はエレシス―――陽だ。奈月の二重人格にわざわざ干渉して来た時点である程度のことは察する。
「クソ野郎が……奈月の弱みを握って楽しかったか?」
『……役立たずに憤慨しているが?』
その言葉は大樹を怒らせるのに十分だった。一瞬でポセイドンの巨大な顔の前まで移動し、抜刀した。
「アイツらを
バシュンッ!!!
『ぬッ!!!』
大樹の刀はポセイドンの持つ矛に防がれる。巨体なクセして俊敏に動いてやがる。
続けて二撃、三撃とポセイドンに刀を振るうが、守りを崩すには足りない。ニッと余裕の笑みをポセイドンは見せる。
だが、そんな余裕は消えることになる。
「二刀流式、【
右手と左手に刀を握り絞めて左右の腰に納刀する。大樹に一瞬の隙が生まれ、ポセイドンはそれを突こうとするが、
「【
グシャリッ!! バギンッ!!
光の速度で抜刀した視認不可の斬撃がポセイドンを斬り裂く。斬撃波はポセイドンの片目を潰し、右手の矛を破壊した。
『ぐぅおおおおおおぉぉぉ!?』
痛みに苦しむ声を上げながら後ろに一歩下がるが、大樹の攻撃は止まらない。
「【無刀の構え】———【
ドゴオオオオオオオオォォォ!!!
ポセイドンの顔面に強烈な一撃が叩きこまれた。大きな歯が何本も吹き飛び、巨体を宙に舞わせた。
ドシンッ!!と地震を起こすような衝撃と共に倒れる神の姿に女の子たちは口をポカンと開けている。
人類の誰よりも、神の領域に触れていた大樹。神すら恐れる、常軌を逸脱した力を持っていた。
「———【
『調子に乗るなぁ!!!』
ドゴオオオオオォォォ!!!
燃え上がる両足でポセイドンを踏みつけようとするが、水の壁が大樹を邪魔する。蒸発した煙と共に爆風が一帯に広がる。
倒れながらも態勢を立て直そうとするポセイドン。槍を引き絞り、宙で水の壁に足止めされている大樹の体を貫こうとする。
「【
鋭い刃を素手で受けながら瞬時に前へと移動し、水の壁をすり抜ける。
大樹の姿を見失ったポセイドン。急いで辺りを見渡そうとするが、
「二刀流式、【
既にポセイドンの背後を取った大樹は逆手に持った刀を十字に重ねて構えていた。
一点に集中された力を、神の力を乗せて一気に解放した。
「———【
桜色の斬撃がポセイドンの背中を抉り取る。凄まじい衝撃にポセイドンの体は紙のように盛大に吹き飛ぶ。
桁違いの強さに次元を越えた戦いに発展していた。正真正銘、神殺しの名を受け取るに値する男だった。
完璧に決まった必殺の一撃。神といえど、無傷では済まないはず。
『クックックッ……』
しかし、神の低い笑い声に大樹の表情は険しくなる。
「……手応えがないな」
『貴様らが前にしているのは神だ。分かるか、最弱の人類たち』
ゆっくりと巨体が起き上がった時には、ポセイドンの傷は回復していた。
「そんな……ありえないです! 大樹さんの攻撃は確かに効いていたはず!」
黒ウサギの声にポセイドンはニヤリと満足そうに笑っている。女の子たちは目を見開く程驚いていた。
しかし、大樹は驚きを見せることなく、それが何か理解していた。
「『神の行いは全て奇跡』———絶対存在ってのはここまで厄介なのか……!」
『ひれ伏せ』
大樹たちにズシンッ!と重力が何十倍にもなったかのように体に負担がかかり、そのまま地に倒れてしまう。
起き上がろうとするが、重過ぎて動けない。あの大樹すら立てない状況だった。
『神の言葉は一字一句、奇跡がある。もう思い知っただろう? あとは貴様らがこの後、どうするか?』
「野郎ッ……!!」
『ふん、口を慎め。そのまま呼吸を止めろ』
「かはッ……!?」
ポセイドンの言葉に大樹の呼吸が不自然に止まる。
肺の中にある空気も全て抜け出し、着実に死が近づいていた。
「大樹!!!」
美琴の声が聞こえるが、大樹は抵抗できる様子が見えない。
愛する人が苦しむ姿を見て何もしないわけがない。女の子たちも伏せながらでも攻撃を仕掛けようとするが、
『羽虫程度の攻撃で、この神を打倒できるとでも?』
不可能だと言わんばかりの声に女の子たちは攻撃をやめようとしない。
ドゴオオオオオォォォ!!
次々と攻撃がポセイドンに当たるが、微動だに反応を見せない。
神を倒す為の力が無い。壁の高さに思い知らされるが、誰一人攻撃をやめようとしなかった。
「大樹! しっかりしなさい!」
「大樹君!!」
アリアと優子の声が聞こえるが、視界がぼんやりとし始めている。耳や鼻から血を出す程、大樹は必死に意識を保とうしていた。
『無駄なことを……その
【三又の矛】が振り上げられる。矛は大樹に向かって振り下ろされようとしていた。
「大樹さんッ!!」
「大樹君ッ!!」
悲鳴のような声で俺の名前が呼ばれている。黒ウサギと真由美が必死に俺の方へと
ティナと折紙も、俺の方へと名前を呼びながら近づいている。
『終わりだ、【
ポセイドンの足元から巨大な津波と共に竜の
女の子たちがどれだけの力をぶつけても破ることは不可能だと分かっている。それでも、一瞬も諦めなかった。
必死に這って、女の子たちは津波に呑まれる前に大樹の体にやっと触れることができた。手を強く握り絞めて、衝撃に備えようとする。
バシャアアアアアァァァン!!!
そして、女の子たちの目の前で津波と竜巻が真っ二つに両断された。
『むッ!?』
突然の出来事にポセイドンが動揺する。目を凝らすと大樹たちの前に誰かが立っていた。
その者は余裕だったと言わんばかりの表情で立っている。今の攻撃程度では自分を傷つけるには到底届かないと。
「余所見は命取りですよ」
ドゴンッ!!
誰かを視認する前に横から巨大な岩の拳がポセイドンの頬に叩きこまれる。再び巨体は宙を舞い、吹き飛ばされる。
何が起きているのか分からなかった。ポセイドンが吹き飛ばされると同時に大樹の呼吸が回復する。
「ゴホッゴホゴホッ……マジで死ぬかと思った……! まぁ多分生き返ることはできたと思うけど!」
「あーあ、アタイの助けを台無しにする発言が聞こえて来るねぇ」
聞こえて来た声に大樹は思わず体が固まってしまう。
「嘘……」
「黒ウサギは、夢を見ているのでしょうか……」
ティナは目を疑い、黒ウサギは涙を流しそうになった。
大樹たちの前に立っていたのは、それだけ素晴らしい恩人だったからだ。
「また会えたね。アタイの大切な弟子」
「姫羅……姫羅、なのか……!?」
大樹も泣き出しそうな顔になってしまう。
腰まで長く伸ばした赤いポニーテール。そして赤い着物に刀を見て、間違いないと確信する。
困った顔で姫羅は大樹の泣き顔を見ながら問いかける。
「泣いている場合じゃないよ。まだ行けるね?」
「ッ……ああ、もちろんだ!」
「えっと、地味に僕たちの存在も忘れてませんか?」
姫羅の後ろから声を掛けて来たのは見覚えのある人物だった。
火龍誕生祭で激闘を繰り広げた保持者———バトラーだったからだ。
金髪のショートカットに執事服を着た男性。間違いなく、元デメテルの保持者である
「は? は? は? は? は? は?」
「僕だけで驚くのはまだ早いですよ。ホラ」
バトラーが指を差した方向を向こうとすると、ドンッと左右に衝撃が走る。
小さな二人が俺に抱き付いて来た。それが分かると、察してしまった。
「あッ……!」
若紫色の髪が視界に入ると、大樹の目から自然と涙が零れ落ちた。
「また、会えたね……!」
「こんな日が来るなんて思いませんでした」
「な、な、奈月……陽ぃ……?」
あの日、二人を手放してしまった感触は今でも忘れられない。それが今、自分は掴むことができていた。
元ヘパイストスの保持者、セネス。そして元ポセイドンの保持者であるエレシスだ。
そんな二人の手を強く握り絞めながら大樹は涙を堪える。
「はばべんばばん! びべびゃびゃああああああ!!」
「ダメね。誰一人今の言葉を理解できなかったわ」
結局涙腺崩壊してしまう。美琴は笑いながら呆れていた。
「ふんッ、相変わらずだな楢原 大樹」
「そ、その声は……!」
姫羅、バトラー、奈月、陽と元保持者の流れでアイツが居ないわけがない。
元ヘルメスの保持者。そして裏切者の長を務めていた―――!
「ガルペス!!」
と、名前を呼んだのは良いが、
「久しいな」
振り返れば小さい子どもが腕を組んで立っていた。しかも声が渋い。
羽織っている白衣はサイズが全く合わず、地面にびったり着いている。確かにガルペスの面影はあるが、完全に子どもだ。
「「「「「え!?」」」」」
「子の姿は気にするな。『地獄術』に使うのに最適な容姿になったまでだ」
ガルペスはこちらに向かって歩き出すと、一冊の本を俺に向かって投げて来た。
ゴッ!!
「本の角ぉ!?」
投げた本は見事に大樹の額に当たる。角なので超絶痛い。
衝撃で本は広げられ、ページから無数の文字が空中に飛び回る。幻想的な光景に大樹たちは驚かされる。
「神の奇跡? 絶対的存在? 笑わせる。その程度でこの男が絶望すると思ったかポセイドン」
『貴様……まさか』
「愚かな。この男が繋げ続けていた縁は神すら戦慄する物だ。その証拠に、最低辺の人間をここまで心を動かしたのだ」
文字が赤黒く光り始め、大樹たちの足元に魔法陣が浮かび上がる。
「『森羅万象の奇跡は崩壊の兆し。身に宿るのは反逆の一矢』―――【
バギンッ!!
自分の体から何かが弾け飛ぶ感覚に襲われる。決して痛みなどなく、神の力が弱まったようにも思えない。
美琴たちも大丈夫と頷くが、何が起きたのか分からないようだった。唯一、顔色を悪くしたのはポセイドンだ。
『やはりその力……
「閻魔……まさか地獄って!?」
「そのまさかだ。
得意げな顔でガルペスは答えを教える。大樹たちは開いた口が塞がらなかった。
聞きたいことは山ほどあるのに、バトラーたちはポセイドンと戦闘を始めた。燃える岩石、赤い氷の槍、不気味な青い炎、そして姫羅の音速を越える斬撃。
更に強くなった彼らは、大樹たちを助けに来ていた。
「詳しく話す時間はない。簡潔に言えば地獄から這い上がって来ただけだ。閻魔の力でしばらくは神の奇跡を無効化できる。ここは元保持者が食い止める。行け」
「一つだけ聞かせてくれ! どうして俺たちを……」
「忘れたか?」
ガルペスは背後から炎に包まれた巨大な魔神を召喚する。魔神とポセイドンは殴り合うが、ガルペスはこちらに顔を向けながら告げた。
「言ったはずだぞ。復讐は1度、諦めると。絶対に諦めるとは言っていない」
「ッ!」
「ここに居る者達の復讐の形は変わった。いや、貴様が変えたのだ」
それはもう、復讐というには違い過ぎた。
「こんな復讐で、貴様は不満か?」
「……不満なわけないだろ」
本当は両手を挙げて喜びたいくらい。嬉しい気持ちを抑えながら、大樹たちは前に向かって走り出した。
「絶対にッ、絶対に勝ってやる! 負けるんじゃねぇぞ!!」
「ハッ、こっちのセリフだ」
パチンッとガルペスは指を鳴らすと背後から先程の魔神が次々と現れる。ポセイドンが顔を歪める程の数だ。
「貴様はここに居る人間が、弱く見えるか?」
悪い顔をしていても、ガルペス=ソォディアは変わっていた。
大樹たちが走り去った後、バトラーはガルペスの隣に立つ。
「いいのですか? あの様子ですとメッセージが……」
「構わん。むしろ驚く顔が見れるかもしれん」
「あなたは……少し面白くなりましたね」
「殺すぞ」
「口の悪さだけは変わらないですね」
被っていたシルクハットを手に持ち、中から禍々しい剣を抜き出す。そして一瞬だけ抜刀して奈月に攻撃をしようとしていた水の槍を斬り落とす。
「気を抜いている場合じゃないですよ。感動の再会はまた後で。こちらも本気で行かないと負けますよ」
「わ、分かっているわよ! 私だって本気で———!」
「私たち双子はお兄さん大好きっ子なので大目に見てください」
「お姉ちゃん!?」
「いいねいいね。大樹は幸せ者だね。師であるアタイも嬉しいよ」
『汎人類が……神を前にしてその態度は何だ!!』
ズシャドゴオオオオオオォォォン!!
雷と水を融合させた津波が全ての魔神を飲み込み、ガルペスたちも飲み込もうとしていた。
「———開眼」
その時、姫羅の目が光輝いた。
シュンッ……ズバッッッ!!!
その刹那、姫羅の音速を越えた斬撃で一刀両断される。津波はガルペスたちを避けるように後ろへと流れて行った。
「神を前にしたらどうするか? そんなの、最初からアタイたちは決めている」
先程の穏やかな空気はとっくに消えていた。
「川の石遊びも飽きたことだ。それにチームワークも初期より断然に上がったはずだ」
「世界を別々に行動しろと命令したのはあなたですがね。まぁ丸くなったのでスルーしますが」
ガルペスは再び魔神を召喚し、バトラーは岩の鎧を身に纏う。
奈月は赤い炎を、陽は赤い水を、周囲に地獄術の魔法陣を展開する。
「アタイたちは神をブン殴る為に地獄から這い上がって来た。その見ているだけでイラつく顔、ぐちゃぐちゃにしてやるよ!!」
姫羅の抜刀を合図に、神との戦いが始まった。
これが救われた者達の、地獄から這い上がって来た者たちの逆襲だ。
________________________
ドゴオオオオオォォォ!!!
神の力を解放した大樹の斬撃は悪魔の軍勢を蹴散らす。凄まじい速度で悪魔の数を減らしていた。
上へ上へと登るにつれて増える悪魔。個体も徐々に強くなっているが、それでも大樹には届かない。
「チッ!」
しかし、個体が強くなっているせいで撃ち漏らすことがある。大胆で大雑把さな攻撃の欠点。
だがその欠点を埋めるのは、大樹の大切な人たちだ。
「このッ!」
「【
「【エア・ブリット】!」
「真由美さんは右の悪魔を! ティナさんと折紙さんは左の悪魔をお願いします!」
「任せて!」
「絶対に当てます!」
「【
大樹の撃ち漏らした悪魔を次々と撃破する。しっかりとカバーの利いた陣形を立てながら天界の先へと向かっていた。
「———そこだ」
ズバンッ!!!
不可視の攻撃、視認阻害の魔術、透明な体、いかなる手段を持っても大樹に攻撃を当てることができない。彼の間合いに一瞬でも入れば即座に一刀両断されていた。
「だ、大樹さん? その目は……」
いくら常識破りの技を繰り出して来たとはいえ、黒ウサギには少し様子がおかしいと分かっていた。その異変は、大樹の目に出ていた。
大樹の左目は、綺麗な蒼い左目に変わっていたのだ。
「何か……開眼した」
「「「「「……………へぇ」」」」」
「うっわぁ普通なら「えぇ!?」って驚くはずなのに「大樹ならしゃーない」みたいな顔されたわ」
どういう経緯で開眼することができたか不明だが、左目は天界の先へ行くたびに
戦いを求めている衝動とは違う。別の衝動が自身を動かしていた。
いつも敵がスローモーションで動いている時が多くあった。だが今は、それよりも遅い。
敵の攻撃から動き、目の動きまで、心臓の鼓動、思考まで
「———ここだ」
シュンッ!!!
極限まで速度を上げた大樹の刀は、敵の心臓だけを切り捨てた。
ズバッ!!!
一斉に悪魔たちの口から血を吐き出し、命を刈り取られる。無傷の体に何が起きたのか理解することもできず、ただ死に絶えた。
この短時間でも強くなることをやめようとしない。まるでレベルの上限が無いかのように大樹は強くなり続けていた。
そして、開眼した目は大樹の力を更に高めることになる。
ザンッ!!!
瞬時に悪魔たちの背後を取り切り捨て続ける。光の速度で移動するデメリットを完全に克服したのだ。
(どれだけ速くしても見える! 行けるッ!!)
直進に一瞬で移動する。悪魔には大樹が瞬間移動しているようにしか見えないが、移動しながら斬られていることには絶対に気付くことができない。
目で捉えることのできない領域に、大樹は遂に踏み入れることができたのだ。
あまりの強さに後ろから優子が声をかけようとするが、
「ねぇ大樹君。その……」
「いや、違うな。ここに居る悪魔は命という概念が無い。放っておけば増えてッ……悪い」
優子が質問するより先に答えてしまう。大樹は優子の思考を見てしまっていた。
自分の考えていることを見抜いた大樹に驚いていたが、すぐに安心させるような笑みを見せる。
「大丈夫よ。今更気にすることなんてないでしょ」
「……ああ、ホントヤバいな……見え過ぎて怖い」
一体何を見たのか。大樹の頬は真っ赤になっていた。
大体の予想がついたのか、周りの女の子たちもニヤニヤしながら視線をぶつけていた。
「チョッ、ヤメ、オマ、見えるからやめろぉ!!!」
自分の好きな人に対して、天眼は弱点になると分かった瞬間であった。
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どれだけ階段を駆け上がっても頂上は見えて来ない。永遠に続いているのではないかと錯覚させられるほど天界は上へ続いていた。
「……待て」
先頭を走っていた大樹が静止の声をかける。正面を見れば一人の女性———いや、違う。
『やはり来ましたか』
人と同じような声に聞こえるが、全く違うと脳が警告している。黒い衣を纏った女性の姿も幻覚だと分かってしまった。
大樹だけは正体を見破っていた。恐ろしい顔を仮面で隠し、痛々しい体の傷を隠し、存在すら隠している
『これは地獄術でも見えないはずですが……あなたは見えていますね』
「まぁな」
『なるほど……では明かしましょう』
その瞬間、大樹の後ろに居た女の子たちが正体が明白に掴めるようになった。
「何、なの……!?」
言葉を失う程、吐き気を催す程、あまりの醜さに恐怖した。
「……逸話ってのは信じるものじゃねぇな」
『いえいえ、そんなことはありません。ただ、逸話の先の話というのは残酷な物でして、知られないのですよ』
掠れた女性の声に大樹も思わず身震いする。
歪に何度も折れ曲がった両腕を前で縛られ、何十本のナイフが突き刺さった体。狂気に染まり切った顔は、こちらの正気を削る程怖い。
『私は冥界の女帝、ペルセポネ』
オリュンポスの神とは違う圧を放つ冥府の女神。あらゆる恐怖……名状しがたい恐怖の塊だった。
『本来なら地獄術を施されていない人間の精神を破壊するほどの姿なのですが……幸運でしたね』
「……地獄術って冥府神に対しても有効なのか」
『厄介極まりない……神と冥府神、二つの力に対抗する『第三の力』があることは存じていました。ですが、
ペルセポネの言う通り、このタイミングでガルペスたちの援軍は敵に取って一番痛いはずだ。ポセイドンを足止めし、地獄術で俺たちの進むアシストまでしてくれた。
「さすが閻魔大王じゃねぇか。それで、降参するか?」
『ご冗談を。計画の一部が狂った程度で諦めるとでも?』
「一部か……ポセイドンも安いな」
『あれは一部にも入りません。狂ったのはゼウスの保持者だけでなく、元保持者の帰還。そして———後ろの女の子たち侵入を許したことです』
狂気の瞳で女の子たちを見つめ、痛々しい音を立てながら体をよじらせる。まるで―――
『アア、コワシタイ……そのキレイな体をズタズタに……!』
「悪いが俺たちはアブノーマルな趣味はねぇよ。傷一つ入れさせるかッ」
抜刀して刃先をペルセポネに向けるが、笑われてしまう。
『フフフッ、いいのですか? もう始まっていますよ?』
ペルセポネは見上げていた。釣られて見上げると、そこには光は無かった。
神々しい光と光景は消え失せ、赤黒い空と悪魔たちの叫び声が何度も耳に届いていた。
『もうすぐ冥界と天界を繋ぐ扉が開かれます。我々が待ち焦がれた瞬間が……もう、すぐッ!!』
時間がない。タイムリミットが迫って来ていることだと分かっている。そして、ペルセポネと戦う暇など無いと言っていることも。
ここで突き付けられる選択肢に、大樹は下唇を強く噛んだ。
「大樹」
絶対に嫌だと思っているのに、彼女たちは察してしまうのだ。
刀を握り絞めた手に触れながら、アリアは銃を構えた。
「ここはあたしたちに任せて行きなさい」
「……ペルセポネは強いぞ。ポセイドンなんか比べものにならない」
大樹は真剣な表情で忠告するが、アリアは微笑んでいた。
俺を安心させるかのように、優子も手を重ね合わせる。
「怖いわよ。でも、大樹君も怖いんでしょ」
「……怖いな。また失うかもしれないと思うと」
だが、既に敵への恐怖は消えていた。今ある恐怖は、互いを失うかもしれないという怯えた心だけだった。
そんな馬鹿にされた言葉にペルセポネは絶句する。今まで自分の醜い存在がここまで眼中に入らないことはなかったのだ。
「大樹さん……黒ウサギたちは、もっと怖いことを言うかもしれません」
「そんなことあるかよ。その言葉は、俺の勇気だ」
しっかりと前を向きながら告げた大樹に黒ウサギは驚くが、すぐに頷いた。
女の子たちは声を合わせて、大声で大樹の背中を叩いた。
バンッ!!
「「「「「信じてッ!!」」」」」
「当たり前だぁ!!!」
大声で応えながら大樹は光の速度でペルセポネの横を駆け抜ける。少しの攻撃も当てることなく、完全に無視した走りだった。
防御の体勢に入っていたペルセポネ。大樹の行動を読むことができず、驚いていたが、
『フフッ……フフフッ、アハッハハッハッ!』
噴き出すように笑い出す。狂気的な笑みを忘れず、それ以上に狂うように、ギチギチと体を鳴らしながら笑った。
『見捨てたぁ。あは、なんて可哀想な子たち……やはり女というのはこういう生き方でしか———』
「何勘違いしているのかしら?」
真由美の鋭い声にペルセポネの笑みが消える。
「妻が夫を見送るのは当然でしょ? そして夫の帰りを待つのが妻の役目なのよ」
「私はずっと家に居てても構わない。仕事も家事も全部私がやる」
「折紙。少し黙ってて。お願い」
『……まるで』
「まるで私に勝つとでも?と言うのですか? 馬鹿なことは聞かないでください」
今度はティナが噛み付いて来た。銃口をペルセポネに向けながらティナは言い切る。
「勝ちますよ。大樹さんの為に」
『……調子に乗るな猿人類』
殺気を含んだ言葉に彼女たちは動じない。むしろ美琴はコインを指で弾きながら気を引き締めた。
「やっと本性を表したわね。けどいいわ。その方が戦いやすいからッ!!」
バチバチガシャアアアアアアアン!!!
まさかの不意打ち
土煙がペルセポネを包み込み、状況は分からなくなるが、黒ウサギは直撃したことは最後まで目視していた。
「だ、大樹に似て来たわね……美琴も」
「アリア。もうそれって褒め言葉としてしか受け取れないわよ」
ペルセポネに向かって銃を構えながらアリアは美琴を褒める?が、この程度で終わるはずが無い事は分かっている。
『【
「「「「「!?」」」」」
煙の中から現れたのは黒光りする鎧を身に纏ったペルセポネ。驚いたのは無傷だったことではない。
先程使役した力が———神アテナの力であることだ。
『私は数え切れないほどの死を見て来た。そして手に入れました。死をこの体に刻むことで、受け入れることができると』
「嘘……そんなまさか……!?」
ペルセポネの力に黒ウサギの顔色が悪くなる。他の女の子たちにも理解できるように、ペルセポネは更に力を振るう。
『【
黒炎を纏った二輪の馬車が虚空から出現する。正真正銘、神ヘパイストスの力だ。
『【
手には漆黒の弓が握られ、黒い矢が装填された。神アルテミスの力。
バシュンッ!!
「ッ!」
今度はペルセポネの不意打ち。【
『先程のお返しはこちらが本命です。【アース・ゼロ】』
上を見上げれば空を埋め尽くすような土の塊。いや、隕石と言うべきか。
神デメテルの力だった。これだけヒントを出せば分かるだろう。
神の力を同時に、そして様々に使うことができるペルセポネ。
『アッハッ』
―――彼女は死んだ神の持つ力を使うことができるのだと。
ズドォオオオオオオオオオンッ!!!!
無慈悲に落とされる巨岩。凄まじい衝撃と轟音が一帯を破壊し尽した。
________________________
「ッ!?」
背後から凄まじい音が聞こえて来た。思わず足が止まりそうになるが、止めることはなかった。
振り返ることもしなかった。どれだけ心配でも、大樹は止まらない。
何故なら、信じているから。
「信じてる……信じてるッ」
勝つ。絶対に勝つ。どれだけ凶悪であっても、負けるわけがない。
自分が一番、彼女たちを信じてやれなくてどうする。彼女たちは俺のことをどれだけ信じて来たと思っている。
この長く辛い時間の中、どれだけの幸せを探して来た。
「まだ……まだ足りねぇよ! そうだ、足りねぇ!」
共に過ごす時間も、記憶に残る思い出も、足りねぇ!
愛することも、唇を重ねることも、何もかも足りねぇ!
まだ終わりたくない。これで終わりじゃない。そのことも、彼女たちは理解している。
「終わらせない……世界は、俺が終わらせない!!」
彼女たちも終わらせない為に戦っている。だったら俺も戦うに決まっている。
例え隣に居なくても、脳に記憶が刻まれて居る限り、心が温かい限り、離れ離れになんてならない。
ザンッ!!!!
抜刀する瞬間すら見えなかった。背後から奇襲を仕掛けて来た悪魔たちを一刀両断する。
次第に重かった足は軽くなる。緊張は解け、不安は何もかも消える。
信じ切ることのできた男の足は、もう止まらない。
________________________
ズシャッ!!!
『ヌゥッ!?』
ポセイドンの体に強烈な斬撃が叩きこまれる。姫羅の一撃は確実にポセイドンの体力を奪っていた。
「【神速絶刀の構え】———アタイの最強、破れるものなら破ってみな!」
保持者の中でもズバ抜けた動きでポセイドンを斬り続ける姫羅。彼女の猛攻にポセイドンは一番厄介だと感じていた。
「土人形たちよ!」
正面から立ち向かう姫羅に対して横から攻撃を仕掛けるのはバトラー。土で作られた人形を操り、ポセイドンの体に纏わりつく。
「
ドゴンッ!!
『ぐぅッ!!』
姫羅とは違い堅実的な戦い方をするバトラー。徐々にポセイドンの力を削る。地味に見えるが大事な役割だった。
「姫羅さん! 神を相手にするのですからもう少し慎重に!」
「男がそんなことを言うなよ! アタイの波にもっと乗って来な!」
「ああもう! セネスさん、エレシスさん、彼女のサポートを!」
「ええ!? ちょっと!? この女の血のせいでお兄ちゃんもあんな無茶するの!?」
「むしろそうじゃないと今のお兄さんじゃないので」
赤い氷がポセイドンの足を縛り、青い炎の塊がポセイドンの顔に直撃して爆発する。
双子の攻撃で再びポセイドンに隙が生まれる。その隙を姫羅が突かないはずがない。
ズバババババッ!! バシュンッ!!
右足から左腹部にかけて百を越える斬撃を繰り出す。そして肩を引き裂きながらそのままポセイドンの頭まで跳び、力を込めた斬撃をポセイドンの額にブチかます。
「ぜぁああああぁぁぁ!!!」
ズグシャッ!!!
『ぐぅあああああああ!!??』
痛みに絶叫する神の声が轟く。額から滝のように血を流すポセイドンは思わず膝を着きそうになるが、
「無様だな! これも持って行け!!」
倒れようとした先には悪い顔をしたガルペスが待っていた。地獄術で強化した右足でポセイドンの腹部を蹴る。
ドゴオオオオオォォォ!!!
爆発したかのような重い音と吹き飛ばされそうなくらい強い衝撃。ガルペスの一撃は姫羅よりも重かった。
後方に吹き飛ぶポセイドンを見ながら鼻で笑う。小さい体から出せる力ではないのは明白。
「アタイより先に適応するとは……やるじゃん」
「適応するというより合わせたというのが正しい。お前らのように服のサイズを決めるのではなく、自分に合わせただけだ」
「はー難しいことを言うねぇ」
「……難しいか?」
「もう一声」
「フム……楢原 大樹に女が群がる例えにしよう。お前たちは女が自分に群がる為には楢原 大樹のような人間になる必要がある。だが俺は俺自身が女の好みに合わせて群がらせたわけだ」
「急に気持ち悪い例えになったけど分かったわ」
ああ?とガルペスは姫羅を睨み付けるが、馬鹿な会話をしている場合じゃない。
『神の奇跡を消すか……愚かだ。実に愚かだ』
ボロボロの体でポセイドンは不敵な笑みを見せながら立ち上がる。自慢の白い髭も赤く染まり切っていた。
「どうやらゼウスが上手だったようだな。貴様らの策を見抜き、閻魔大王という駒を野放しにしたこと。そして、元保持者の存在を眼中に入れなかったことが貴様の敗因だ」
『笑止。貴様らの存在を見ていることが全て間違いだ』
ポセイドンはグッと右手を握り絞め、折れた三又の矛を投げ捨てた。
『神の力が通じぬならどうするか、決まっているだろう?』
「まさか貴様ッ!? お前ら!! 早くトドメを刺せ!!」
ポセイドンの意図に勘付いたガルペスが攻撃を仕掛けるように指示する。姫羅が音速で詰めて攻撃するが、
ガチンッ!!
「ッ……なんて硬さだい」
ポセイドンの体は姫羅の攻撃を弾く程の硬度を持っていた。先程とは全く別だ。
続けてバトラー、奈月、陽が攻撃を仕掛けるが姫羅と同じく通じていない。
「魔神共! 殺せ!!」
全属性の魔神を一斉に召喚して攻撃命令を出す。魔神の口からレーザー光線のような物が放たれるが、
『———悪魔に魂を売るまでだ!!』
ポセイドンを中心に黒い波紋が魔神たちを一瞬で消し飛ばした。
音も無く、衝撃も無く、気が付けばガルペスたちは地面を転がっていた。
「……最低だな。アタイはキレちまったよ」
ゆっくりと起き上がった姫羅。声音は低く、頭に血が上っていた。
オリュンポスの神は醜く変わり果てていた。
下半身は人の形を捨て、膨れ上がった胴体から
腕とは違い、大きな四本の足が巨体を支えている。吐き気を催す化け物の姿に、全員が息を飲んだ。
『これが悪魔の力……素晴らしい……ベルゼブブの、チカラ、コレ、ガ……!』
唯一人の身を残した上半身の体。苦しそうに自分の首を絞めているのに、不敵に笑っていた。
狂っていると誰もが思っている。だが、狂っているのは事実。
『私ハ、王ニ、ナル……! ナラナケレバ、ナラナイ!』
頭部が
体から数え切れない程の虫が排出される。神というには、あまりにも醜かった。
「それでも、殺意を持って殺さないと約束したはずです」
今にも斬りかかりそうになっていた姫羅の手を陽が止めた。姫羅もハッと我に返り、急いで刀を鞘に納めた。
「……危ない危ない。悪いね」
「いえ」
元ポセイドンの保持者である陽の思い。
例え道具として保持者にされたとしても、人格であった自分を生かしてくれた。
唯一、彼女だけは神ポセイドンを恨まない。
そして、彼女の手で神ポセイドンの野望を終わらせたいと願っていた。
「地獄に落ちても私は生きていた。今を、生きていた。その恩は、あなたの名誉を守る為に殺すことで返します」
しかし、彼女には足りない。圧倒的な力が。
神と悪魔の融合を越える力がどこにもない。姫羅にも、ガルペスにも。
ならばどうするのか? 決まっている。
「———力を貸してください」
答えを聞くまでも無い。答えを言うまでも無い。
陽の隣に立つ事で、答えを出しているのだから。
「勝機ならある。問題はそれまで耐えれるかどうかだ」
「確率は?」
ガルペスの言葉に姫羅は悪戯でもするかのように問いかける。バトラーたちがニヤニヤとしながら答えを待っていた。
「決まっている。百パーセントだ」
ガルペスもまた、笑って見せた。
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冥界女帝ペルセポネの一撃で一帯が土の山ばかりできあがってしまっていた。
彼女は神の力で当然無傷だが、女の子たちは軽傷では済まないだろう。
そう思っていたが、簡単に裏切られる。
『その結界……その鍵は』
ペルセポネの視線の先には四角形の結界があった。中には無傷の女の子たちが入っている。
そう、優子の持つ【森羅万象の鍵】だ。一度切りの絶対防御をここで使ったのだ。
だが表情は険しく、今の攻撃は危なかったと語っていた。
『短時間でこの場所まで辿り着けたのはその鍵のおかげですか。納得しました』
「ッ……この鍵のこと、知っているのね」
『ええ、あと一個だけ……壊し損ねていましたから。これで全部になりますね』
ゾッとする声音に優子は一歩下がってしまう。それでも、心は戦っていた。
負けずとペルセポネを睨み付ける。優子の目には涙は無い。あるのは戦うという意志だ。
「この鍵は……神様がアタシに託してくれた物よ。絶対に壊させないッ!!」
―――残り十秒。この結界は解ける。
美琴たちは敵の攻撃に備えるのではなく、攻撃を仕掛けようとしていた。
フォンッ!!
―――残り五秒。真由美の魔法が発動し、結界の中が見えなくなる。ペルセポネの視認を阻害していた。
結界の中から様々な力が溢れていることはペルセポネには分かっている。
『無駄なことを……』
呆れながらいくつもの神の力を発動する。身に纏っていた鎧が外れ、変形して大きな盾になる。ペルセポネを守るように前に出た。
―――残り一秒。
結界が解ける瞬間、ペルセポネは嫌な予感がした。
―――ゼロ。
パリンッと割れるように結界が解ける。同時に魔法による視界阻害も消えた。
『ッ!?』
女の子たちの姿はほとんど消えていた。残っていたのは黒ウサギだけだ。
雷鳴を轟かせる巨大な槍を構え、眩い太陽の輝きを放つ太陽神の鎧を身に纏っていた。
自分の持つ
そして、威力は更に跳ね上がる。
ギュゥイイイイイイン!!!
割れた結界が槍先に吸収されるように集まる。
同時に少し離れた場所から美琴は電撃を、アリアは緋弾を、優子と真由美は電撃の魔法を、ティナは瑠璃色金の力を、折紙は精霊の力を槍先に集中するように力を付与した。
ペルセポネが焦る程、力は収束していた。
(重過ぎるッッ……!!)
当然、黒ウサギに掛かる負担は尋常な物では無い。今にも腕が千切れそうなほど、槍は重かった。
それでも、彼女が槍を持てたのは大切に思う人たちが居たからだ。
これから先、ずっと一緒に居たいと思える人たちが居るからだ。
だから、黒ウサギは全力を振り絞る。
「
【
「———【
止めることも、避けることも、運命から逃れることも不可能とした速度で黒ウサギの手から絶対必勝の槍が解き放たれた。
最初で最後の一撃。この一撃に全てを賭けた。黒ウサギの右腕が壊れてしまうが、彼女は叫んだ。貫けと。
シュドゴオオオオオォォォ!!!!!!!
全てを掻き消す一撃にペルセポネは動けない。神の盾は一瞬で灰と化し、次々と神の武具が燃え尽きる。
狂気的な笑みが消え、彼女に恐怖が襲い掛かる。そして、最強の槍は彼女の胸に到達する。
ドゴオオオオオォォォ!!!
それは貫くというレベルではなかった。ペルセポネの体ごと吹き飛ばした。
粉々に、無残に、灰の一つ残すことなく、消し飛ばした。
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
苦しそうに息を荒げながら黒ウサギは前を向く。使えなくなった右腕を支えながら、
「—————」
―――絶望した。
黒ウサギの前には、消し飛ばしたはずの神が立っていた。
しかもその姿は美しく、狂気に染まった顔も、体の傷もなかった。
まるで女神———黒い衣装に身を包んだ彼女は目をゆっくりと開けると、微笑んだ。
―――嫌な予感がした。黒ウサギは急いで後ろに跳ぼうとするが、
グシャッ!!!
地面から黒い槍が突き出し、黒ウサギの体に深々と突き刺さった。
鎧は簡単に壊れ、腹部から大量の血を流していた。
その光景に女の子たちは凍り付く。吐血する黒ウサギに、悲鳴を上げそうになった。
『あはっ』
そして、女神の綺麗な笑みは脆く崩れ落ちた。
狂気に染まり切ったあの表情に、戻っていた。