どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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ギャグを挟まないと死んじゃう病の作者。



神に挑戦 To Challenge God

「―――よろしいのですか?」

 

 

「ああ」

 

 

空き部屋で静かに眠っていた原田と少し話をした後、すぐに準備をしていた。

 

頭の中では親友と過ごした記憶が凄まじい速度で駆け抜けていたが、いつまでも浸っている場合じゃない。

 

アイツの為に、今はこの足を前に出さないといけないのだ。

 

涙を堪えて、胸を張って、堂々と進むことを願っているはず。

 

リィラが心配そうに声をかけるが、俺は首を横に振って笑みを見せた。

 

 

「大丈夫だって。そんな顔するなよ」

 

 

「……そうですね。私も、いつまでも暗いままじゃ駄目ですね」

 

 

自分の顔をパンッと叩いて笑顔になるリィラ。だけど、彼女に言わなくちゃいけないことがある。

 

 

「リィラ。分かっていると思うが、お前はここで待て」

 

 

突き放すように告げられた言葉にリィラは動揺を見せるが、すぐに頷いた。

 

 

「―――はい。ここは任せてください」

 

 

「……文句はないのか?」

 

 

不自然なくらいに納得してしまったリィラに大樹が逆に動揺を見せてしまう。

 

 

「あります。ですが、先程の戦闘と大樹様の蘇生で力が枯渇してしまいました。このまま天界に行った所で足手まといになるでしょう」

 

 

それにっとリィラは悔いるように視線を下に向けた。

 

 

「ジャコ様の容体が……まだ……」

 

 

「……アイツは俺の右腕で、大切な仲間だ。リィラ。俺の左腕―――お前に頼みたい。俺たちは大丈夫だから、あとは任せろって安心させてくれ」

 

 

「凄く大変ですね。暴れますよきっと」

 

 

「これ以上死者を出したら俺はマジで立ち直れないぞ? 夜中なんて一人でトイレ行けないね」

 

 

「お供しますよ。便器まで」

 

 

「ドアの前までにしとけ変態」

 

 

冗談を言い合いながら俺とリィラは笑い合う。

 

空き部屋の隣ではジャコが休んでいる。寝ているからこちらには気付いていないだろう。

 

 

「……大樹様。最後の力として、これを」

 

 

リィラから渡されたのは刀身が折れた短剣だった。そこにリィラの天界魔法が発動し、元の形を取り戻す。

 

 

「ギフトカードは見つかりませんでした。大樹様の頭の中にあった色金も。恐らくですが、精霊の力との繋がりも、血の適合等も無いかと……」

 

 

元の体に戻ったが故に弱くなったと言いたいのだろう。

 

髪色も黒に戻り、体の傷は全て消えている。しかし、大樹は笑った。

 

 

「馬鹿だな。俺を誰だと思っている」

 

 

右手を横に付き出し、左手を上に向かって掲げる。

 

 

「いい加減、戻って来いよ―――【神刀姫】! 【神銃姫・火雷(ホノイカヅチ)】!」

 

 

バチバチッ!!!

 

 

閃光が弾けると同時に大樹の手にはあの武器が戻って来ていた。

 

右手には黄金色の鞘に黒い柄の刀が一本。左手には炎のような緋色の雷が銃身に装飾された黄金色の長銃。

 

 

「大樹様ッ……それはッ……!」

 

 

額から緋色の炎が燃え上がり、一瞬で髪を白銀に染め上げた。色金も、精霊も、大樹の体に宿っていた。

 

何も失っていない。形ある物は手や頭から消えても、心の中にある物は何一つ消えていない。

 

 

「リィラ。お前たちの力はしっかりとここにある」

 

 

ドンッと胸を叩きながら堂々と告げる。

 

大丈夫だと行動で示した大樹に、リィラはやっと安堵する。

 

 

「……とても、素敵です」

 

 

天使の微笑みで、世界を救おうとする英雄を褒めるのだ。

 

 

「だろ?」

 

 

―――再び大樹の髪色は黒色に戻るが、一部だけ緋色と白銀を残していた。

 

 

________________________

 

 

 

玄関で靴を丈夫に固定して履き、腰に巻いたホルダーに鞘と長銃を納める。

 

しっかりとオールバックを決め、堂々とした態度で家を出ようとする。

 

 

「準備はできたのか?」

 

 

「ああ」

 

 

後ろからオトンが声を掛ける。振り返らず俺は答えた。

 

 

「行って来ます」

 

 

「孫の顔はいつ―――」

 

 

「ホント両親揃ってやめろ!?」

 

 

「ん? 避妊し———」

 

 

「いい加減にしないとぶっ飛ばすぞ!?」

 

 

「こっちは年金を全額孫の為に使うと決めているんだ。お前のことより女の子たちの方が心配だ。うん、やっぱりお前一人で行って来なさい」

 

 

「シャオラァ!!」

 

 

親父に向かって全力でぶん殴る。衝撃で壁に穴が開くが、余裕で避けられた。チッ、ホントウチの家族人間やめてる。自分が人間やめていることに嫌なくらい納得させられるわ。

 

 

「真面目な話をするとだな―――無事には済まないだろう」

 

 

「……かもしれないな」

 

 

「だからこれだけ言っておく。絶対に悔いのない選択をしなさい」

 

 

俺に背を向けながら表情を見せないオトン。そんな姿に俺は笑ってしまう。

 

 

「ハハッ、分かってるよ。なぁオトン」

 

 

「何だ?」

 

 

「俺は生まれて来て幸せだよ。最高に」

 

 

「―――――」

 

 

「オトンが転生者? オカンの家系が陰陽師? 神に選ばれた? 正直どうでもいいわ」

 

 

オトンは大樹を驚いた顔で見ていた。

 

本当ならきっと恨み言の一つや二つ……いや、数え切れないくらいあっただろう。

 

それでも大樹は首を横に振って否定した。それは———親に対する愛ゆえにだった。

 

 

(俺が死ぬまでずっと目を離さず見てくれて、ここまで育ててくれた。恩を仇で返す馬鹿息子じゃねぇよ俺は)

 

 

扉に手をかけながら、オトンに見せつけるように俺は笑う。

 

 

「―――俺は今、世界が嫉妬するくらい超愛されてるから」

 

 

扉の先には女の子たちが待っていた。

 

笑顔で手を振る女の子たちの姿に、オトンは目をゆっくりと閉じる。

 

 

「……そうか」

 

 

オトンはそれ以上何も言わず、口元を緩ませて微笑んだ。

 

大樹も笑い、扉を絞めて女の子たちの下へ向かった。

 

 

「遅いわよ」

 

 

「悪い悪い。そうバチバチ怒るなよ美琴。というか女の子の準備って普通遅いと思うけどな」

 

 

「大樹さん大樹さん。ここに居る女の子たちは化粧を全くいらずの美人———」

 

 

「おっと黒ウサギ。さっき俺も世界を敵に回したが、君たちも世界の女性を敵に回す発言は止そうか」

 

 

サラッと自分も含めて言うのも凄い自信だよな。実際そうだけど。

 

美琴たちはリィラが用意した戦闘服に着替えていた。残り少ない最後の力を振り絞って天界魔法が付与されている。

 

ガチガチの鋼鉄のような戦闘服ではなく、黒色のアンダーシャツとアンダーパンツに上から短ズボンと防弾ジャケットに近い服だ。

 

女の子らしい装備だが、防御面が不安で仕方ないとリィラに言うと『百以上の耐性と身体向上が付与されています。優子さんでも簡単に大人を殴り倒せますよ』と言われたら多少不安も消える。

 

 

「黒ウサギは必要か?」

 

 

「い・り・ま・す! 具体的に言うと出会った時の大樹さんなら余裕で張り倒せます!」

 

 

「例えが怖いわ」

 

 

パワーアップしたことは伝わった。凄く。

 

全員戦闘民族になっちゃったなぁ。唯一俺の平和天使も今じゃ魔法を無尽蔵に放つ殺戮マシィーンの優子だもんなぁ。

 

そんな目で見ていたら優子はムッと眉を寄せる。

 

 

「魔法を使えばアタシも出会った時の大樹君なら消し飛ばせるわ」

 

 

「何で一回一回俺をぶっ飛ばした例えが出るの? もっと別のにしない?」

 

 

「もしかしたら七人の力を合わせれば倒せるかも」

 

 

「だからどうして俺を倒すの!? もっと旦那様を大事にして!」

 

 

優子がいじめるよぉ!と泣きながらティナに抱き付く。「よしよし、大樹さんは良い子ですよ」って頭を撫でながら慰められるからイケナイ何かに目覚めそう。主に頭にロリが付いて後ろにコンが付くアレ。

 

アリアと真由美は溜め息をつきながらやれやれと言った感じで、

 

 

「これが世界を救うって絶対に誰も思わないわね」

 

 

「むしろ救われた世界が可哀想かしら?」

 

 

「ティナちゅき」

 

 

もう目覚めた。他の女の子が冷めたいせいで。

 

で、あまりにも酷い絵面なのでカット。とりあえず全員準備は整ったこと報告する。

 

目的地は当然楢原家―――元神野宮(しんのみや)家が所持していた北の山だ。

 

 

「―――問題は『三途の川』を渡って天界に行くか、そのままゲームオーバーするかどうかだよな」

 

 

「アンタは何度でもコンテニューできるでしょ」

 

 

言うじゃないかアリア。実際できているから否定できない。

 

多分大丈夫だと思うが、万が一の場合もある。

 

 

「俺の手は離すなよ?」

 

 

グッと全員で手を掴まれる。ギチギチという音と共に痛みが込み上げて来た。

 

 

「痛い痛い痛い痛い痛い!? 普通に強いよ!? 何か恨みでもあるの!?」

 

 

「手だけじゃ不安ね。腕も組みましょうか」

 

 

真由美の提案に「確かに」と声を揃える女の子たち。ギュッと両腕をホールドされるが、再びギチギチという音と共に激痛が襲い掛かる。

 

 

「ぎゃあああぁぁ!! 柔らかい感触を楽しむ余裕がないくらい痛い!!」

 

 

「待ってください。まだ不安が残るので頭もガッシリと―――」

 

 

「頭蓋骨砕けるわぁ!!」

 

 

黒ウサギの悪魔的提案に叫んで拒否する。「確かに」じゃねぇよ!

 

 

「……意外と余裕があるわねあたしたち」

 

 

「いつも常識を覆す大樹と過ごして来た成果はここで使うのね」

 

 

「美琴とアリアの発言に俺は泣きそう」

 

 

「もう慰める時間は無いわよ。拒否した大樹君が悪いから」

 

 

「さりげぇなぁ~~~く、優子がぶっ飛んだ発言をしたことに泣きそう」

 

 

「黒ウサギは……その……外ではちょっと……!」

 

 

「そのエロウサギキャラいい加減やめい。そろそろ帰って来て。清楚だった黒ウサギが見たいから」

 

 

「大丈夫、皆パンツは白よ!」

 

 

「白=清楚じゃないから。あと真由美さん? もう別にパンツの色を聞いた程度じゃ興奮しないから。というかさっきまで裸だったのに何を今更———」

 

 

「実は穿いてません」

 

 

「ティナマジか!!??」

 

 

「と全力でスカートの中を覗こうとする嘘つきな大樹さんには見せません」

 

 

「穿いてたじゃねぇか!」

 

 

「い、今の一瞬で見たんですか……」

 

 

「私にも見えなかった早業。ぜひ私にも伝授させてほしい」

 

 

「伝授させても良いが、折紙は何に使うつもりだ?」

 

 

「私たちが考えた『旦那の107の浮気防止対策』に使う」

 

 

「俺の知らない所で壮大な計画がされていた件について」

 

 

―――いつもの調子で俺たちはふざけあって笑う。

 

どれだけ壮大で、どれだけ過酷で、どれだけ望みのない世界でも、俺たちはこうして笑い合う事をやめないだろう。

 

いつだって希望を切り開いて来たんだ。俺たちならできるさ。

 

 

「―――ったく、浮気はしないって言うのに……しかも終盤キスのゴリ押しだったじゃねぇか。恥ずかしいわ」

 

 

「対策を消しましょうか?」

 

 

「やめろ。キスして貰えないなら浮気する気がなくなるだろ」

 

 

「いや、それを防止するので意味が……何故でしょうか。どれだけ大樹さんに言っても無駄な気がしました」

 

 

「はい槍を置いてね黒ウサギ。一番目の武力行使はマジで効く」

 

 

「失礼ね。二番目は対話じゃない」

 

 

「拷問しながら説教じゃなかったか真由美? 絶対記憶能力舐めんな」

 

 

―――横に並んで笑いながら、俺たちは北の山を登るのだった。

 

 

________________________

 

 

 

山に登ると霧が出始めた。俺たちの行く手を阻むように、これ以上進むことを禁ずるように霧はどんどん深くなる。

 

それでも迷うことなく前を進む大樹。チラチラと後ろを確認しながら女の子が迷子にならないように気をつけている。

 

どうして迷わないのか疑問に思った美琴は大樹の服の裾を引っ張りながら聞く。

 

 

「ねぇ大樹。方角は合っているの?」

 

 

「俺の記憶に間違いはない。それから妙な力も感じるから確信している」

 

 

「妙な力?」

 

 

「神でも邪神でも無い……歪んでいるって言えばいいのか? 悪い、よく分からない」

 

 

闇雲に進んでいるわけではないと分かるが、大樹も不思議そうに感じる力を辿っているようだ。

 

周囲を警戒しながら歩き続けて数分。今度は霧が晴れ始め、目の前に黄色の鳥居が目に入った。

 

 

「ここだ……」

 

 

前に立てば黄色から黄金色に輝き始める鳥居。まるで俺たちを歓迎するかのような反応にここなのだと確信できる。

 

鳥居をくぐり、先にあるのは(やしろ)。 古びた木造建築の扉からあの妙な力が漏れている。

 

 

「力の無いアタシでも分かるわ……この先は危ないって」

 

 

扉の先から危険を感じ取った優子。それでも逃げようとはしなかった。

 

誰一人、この扉から目を逸らそうとしなかった。

 

ゆっくりと大樹が近づき、扉を開く。背筋を凍らせるような嫌な風が頬に当たり、目の前の光景に戦慄する。

 

 

「これが『三途の川』……!」

 

 

現世とあの世を分ける境目。それが目の前にあるのだ。

 

扉の先に部屋など無く、無限の暗闇が続くだけ。そして何より驚かせたのは数え切れない程の頭蓋骨だ。

 

びっしりと地面を埋め尽くす数だ。不気味に石の代わりに置かれている惨状。そして、

 

 

「これって全部……!」

 

 

「あまり見るな! ……壊れるぞ」

 

 

真っ赤に染まり切った川に浮かぶ人の数々。正気を保っていられなくなる光景に大樹は首を横に振った。

 

 

「……天界はもう地獄ね」

 

 

真由美の呟きは正しかった。

 

浮かぶ人の背からは———羽根が生えていたから。

 

そして背中にはドス黒く染まった肌に赤色の文字が描かれていた。以前リィラも同じ呪いに苦しめられていた。

 

川の中に入り天使の体温を確認すると大樹はハッと気付いた。

 

 

「まだ温かい……時間は経っちゃいないが……」

 

 

「大樹」

 

 

「分かってる。クソッタレ……足元を気を付けながら行こう」

 

 

辛そうな表情で天使から離れる。名前を読んでくれたアリアに頷いて大丈夫だと伝える。

 

 

「大樹」

 

 

「いや、大丈夫だって」

 

 

「大樹」

 

 

「………………もしかして」

 

 

「大樹」

 

 

「分かった。今、理解したから。ティナもそんなにジッと見ないで」

 

 

下半身までの深さしかない川だが、全てを察した。ティナを肩車して、アリアを背負った。そっちが大丈夫じゃなかったかぁ。

 

 

「名前を呼ぶだけで分かり合えるって、やっぱり最高のパートナーね」

 

 

「そだねー」

 

 

適当な返事をしてしまい、アリアに頬を引っ張られる。こんな時でも平常運転するのか俺たち。

 

 

「……大樹さん」

 

 

「どうしたティナ。まさかハゲてるとか言わないよな」

 

 

「それはギリギリ大丈夫です。それよりも———」

 

 

「タイム。ギリギリって何? もしかして結構危ないの? 俺ってハゲちゃっているの?」

 

 

「そんなことよりも———」

 

 

「男には『そんなこと』じゃ流せない重大な問題なんだよぉ! えぇ!? どうしてハゲているの俺!?」

 

 

「―――必ず救いましょうね」

 

 

先程の天使たちを見て改めて心に決めるティナ。その言葉に俺も笑みを見せながら頷く。

 

 

「ああ、救おう(毛根)」

 

 

「大樹さん? 今は髪の話はしていないですよね?」

 

 

「あ、当たり前だ。神の話だろ?」

 

 

「……分かっていますか?」

 

 

「もちろんです先輩。髪に誓って」

 

 

「絶対分かってないですね。もう頭のことは諦めてください」

 

 

「諦めねぇよ! 世界を救うくらい諦めねぇからな!」

 

 

『三途の川』を渡っているというのに、緊張感の持てない話だった。

 

 

________________________

 

 

 

鉄の臭いを我慢しながら川の中を進む。数十分間、暗闇に向かって進んでいた。

 

 

(不味いな……このまま長く続けば自分を見失うぞ)

 

 

―――終わりの無い歩みに正気を失う。あまりにも過酷な川の正体に大樹は気付き始めていた。

 

この速度で進み続けても———辿り着く頃には精神がぶっ壊れてしまう。

 

歩くことだけを考える人形にならない為にも、ここは一つ力を振るうしかない。

 

 

「『善人は橋を渡り、罪人は悪竜の棲む急流の川に投げ込まれる』……俺たちの知る『三途の川』とは随分違うよな」

 

 

「だ、大樹さん? まさかと思いますが……」

 

 

何かを察した黒ウサギが俺の腕を掴む。

 

 

「フッ、黒ウサギ。そんな力で俺を止めれると思うな槍はズルいからやめて」

 

 

黒ウサギの静止を振り切り、黄金の光を纏った右腕を前に突き出す。

 

 

「俺たちはどこからどう見ても、善人だろうがぁ!!」

 

 

若干一名、というか本人は怪しいラインであるというツッコミは誰もしない。

 

大樹の手の先から木の橋が造り上げられる。暗闇の先へ先へと勢いを殺すことなく次々と作られていた。

 

女の子たちが急いで橋の上に上がると、そこには四つん這いになった大樹がカッコイイ笑顔で、

 

 

「全員俺に乗れ! 走るぞ!」

 

 

「四足歩行で!?」

 

 

ンゴゴゴー! 大樹号発進!とか言っているのでマジっぽい雰囲気がある。

 

さすがに乗る方が嫌なので起立させる。そして全員が大樹に無理矢理乗った。

 

 

「……何か変わった?」

 

 

「見た目の良さ」

 

 

「……そうか」

 

 

前も背中も、肩、首、腕と全員を乗せているが、全く微動だにしない大樹。むしろ女の子の感触にドキドキしているくらいだ。

 

女の子たちの事も考えて音速で爆速はしない。せいぜい高速道路で車が走るくらいの速度橋の上を―――結構出てますねぇ。

 

 

ゴオオオオオォォォ!!!

 

 

木の橋を破損させながら走り抜けていた。橋を造る速度と同等の速度で走り抜けるが、もはや大樹ジェットコースターと言っても過言ではない。

 

 

「速いわよ!? ちょっと本当に速いわよ!」

 

 

涙目で美琴が抗議するが、大樹が止まる気配はない。むしろ加速しているように思えた。

 

 

「光が見える! このまま突き抜けるぞ!」

 

 

大樹の言う通り前方に小さな光が差し込んでいるのが見えた。しかし、光は一向に大きくなる気配を見せない。

 

 

「大樹さん! 遠ざかっています! ここは無理をしてでも…!」

 

 

「クソッ!!」

 

 

焦る黒ウサギの言葉に大樹は辛そうな顔になる。これ以上速度を上げれば人の耐えれる衝撃を越えてしまう。戦闘服の防御力を考慮した速度でも足りないのだ。

 

 

「早速私たちの番よ優子!」

 

 

「そうね! 行くわよ真由美!」

 

 

二人は頷き合うと魔法を展開した。大樹の足元、そして前方に魔法が構築される。

 

術式を全て記憶している大樹にはそれが何なのかすぐに理解する。

 

 

(振動魔法と収束魔法! 橋を壊さないように踏み込む衝撃を振動させて分散させ、前方には風を収束させて壁を作っているのか!)

 

 

凄いと素直に感心する。優子と真由美の魔法は大樹たちを完璧に守っていた。

 

行ける。確信した大樹はすぐに走る速度をグッと上げる。

 

次第に前方の光が大きくなり、大樹たちの視界を真っ白に包み込んだ。

 

 

 

________________________

 

 

 

光を抜けた先で三途の川は終わっていた。

 

川から上がるとあの有名な積み石―――『(さい)河原(かわら)』があった。

 

誰も石を積んでいないが、積み石は奥までずっと作られている。

 

また不気味な場所に出たと愚痴をこぼしていると、

 

 

「シャシャシャシャッ、我が名はソロモンシャボラァッ!?」

 

 

「あッ」

 

 

残念。序列72番の悪魔伯爵―――アンドロマリウスは大樹の不意打ちパンチで倒れた。

 

思わず声が出てしまう大樹。このくらいなら大丈夫と加減したが駄目だった。

 

 

「「「「「ええぇ……」」」」」

 

 

待ち構えていたであろうが大樹の前では関係無い。

 

口上セリフを考えながら河原の積み石で遊んでいたとしても、大樹は知らない。

 

(へび)の下半身を持った男は即座にやられたことに女の子たちは呆れて何も言えない。いつもの大樹としか感想がでなかった。

 

倒れた蛇男の悪魔の頭をガッシリと掴みながら大樹は問いかける。

 

 

「まぁいい。俺と出会ったことが運の尽きだと思え。お前に聞くことがある」

 

 

「シャシャ……残念だが教えないッシャ。どちらにせよ、我らの優勢―――」

 

 

「違う。どうやって殺されたいかだ」

 

 

「え」

 

 

思わず素で聞き返してしまうアンドロマリウス。大樹は左手に刀を持ちながら、

 

 

「バラバラにされたいか、焼き殺されたいか、選べ」

 

 

正義なんてない。アンドロマリウスは、大樹という人間がどういうものなのか思い知った。

 

 

「シャッ!? 普通は悪魔たちの場所を聞くだろ!?」

 

 

「興味無いね」

 

 

「それはあまりにも無慈悲だった。大樹の救いは悪魔に対して執行されない。何故なら彼はF〇よりドラ〇エの方が好きだった。特にイオ〇ズン」

 

 

「ベル〇ルク風のナレーションをするなッシャ!? というか銀〇! 今言う必要ないッシャ!?」

 

 

なんか折紙の援護?が来た。無表情で変なこと言わないで。確かにイ〇ナズンは好きだけど。

 

俺は怒鳴るアンドロマリウスに対してフッと笑みをこぼす。

 

 

「どうせ死ぬんだ。どうやって死ぬかくらい、選ばせてやりたいだろ?」

 

 

「コイツ本当に主人公ッシャ!?」

 

 

「それはあまりに無慈悲―――」

 

 

「もういいッシャ!?」

 

 

主人公に決まっているだろ。俺を中心に世界が回っていると言っても過言では無いね!

 

 

「ふふッ、私たちの自慢の旦那様よ」

 

 

「まさかの笑顔で自慢されたッシャ!?」

 

 

真由美さん……! 君たちも、俺の自慢の妻たちだよ!

 

っと赤面している場合じゃない。アンドロマリウスの頭を掴みながら問いかける。

 

 

「この場所で何をしていた? 俺たちを待ち構えていたわけじゃないだろ? その怪我なら」

 

 

「……シャシャシャ」

 

 

汗を流しながらニタリと笑みを見せる。その顔は喋る気はないと語っている。

 

ソロモンの悪魔(コイツら)は口が堅いくらい最初から分かっていた。だからと言って悪魔にどう殺されたいか選ばせるのも普通じゃない。

 

 

「積み石でナスカの地上絵を描いているし、誰かが居たのは確実だな」

 

 

「シャッ!? メッセージだけじゃなかったのかッシャ!?」

 

 

はい失言。しまったと顔色を悪くするアンドロマリウスの首に刀身を触れさせる。

 

 

「よし、メッセージを言いな。ここに何が書いてあったのか。ちなみに拷問はあまり得意じゃない。三秒で首が落ちるぞ」

 

 

アンドロマリウスは長い舌をゆらゆらと動かすだけで何も言わない。やっぱり黙るか。

 

ドゴッ!!と重い音が響く。大樹は腹部に膝蹴りを入れた。アンドロマリウスの背後にある積み石を全て吹き飛ばす程の衝撃が広がる。

 

意識を刈り取られたアンドロマリウスが地面に倒れる。情報は無いが、警戒した方がいいのは確かだ。

 

 

「時間を食ってしまった。急ぐぞ」

 

 

尋問科(ダギュラ)には絶対向いてない人間よね」

 

 

アリアの言葉に俺は知ってるとしか言い切れなかった。

 

メッセージか……味方か敵か、一体どっちだろうな。

 

 

________________________

 

 

 

悪魔を瞬殺した後、少し進んだ先に巨大な塔が見えた。

 

頂上を目視することができないくらいの高さに大樹たちは確信する。天界へと続く道なのだと。

 

目的地は近い。急いで塔の中に入ると螺旋(らせん)状の階段が目に入るが、

 

 

「いちいちお行儀良く階段を登る時間はねぇ! 飛ぶぞ!!」

 

 

色金の力でアリアのツインテールは緋色の翼になり、美琴と優子の肩を組みながら飛ぶ。折紙はCRーユニットと展開し、ティナを抱きかかえて飛翔した。

 

 

「待ってください大樹さん!? 黒ウサギは折紙さんの所に行きますから!」

 

 

「黒ウサギの意見に賛成よ! 私も大樹君じゃなくていいから!?」

 

 

「遠慮するなよ二人共。誰よりも速く飛んで見せるからさ」

 

 

「「いやああああああァァァ!!!」」

 

 

ゴオオオオオォォォ!!!

 

 

嫌がる黒ウサギと真由美を抱きかかえながらアリアと折紙を追い越す。むちゃくちゃ叩いて来るけど全然痛くない。

 

 

「ッ!」

 

 

塔の中を飛んでいると大樹は異変に気付く。すぐに刀を抜刀し、上に向かって投げた。

 

 

バチンッ!!

 

 

黒い閃光と共に刀が消し飛ぶ。大樹は敵の攻撃を防いだのだ。

 

見上げるとそこには悪魔大軍が大樹たちを待ち構えていた。行く手を阻むように陣形を組み上げ、数の多さで突破する道を確実に潰していた。

 

しかし、そんな大層な数で完璧に陣形を組んだとしても、大樹に対して意味が無いことくらい読者の皆様はご存知の通り、はい。

 

 

「ハッ、随分と舐められた事をするじゃねぇか」

 

 

鼻で笑いながらグッと右足に力を入れる。黒ウサギと真由美も、衝撃に備えて抱き付く力を強める。

 

大樹の右足から巨大な魔法陣が現れ回転し、そのまま悪魔たちに向かって蹴り上げた。

 

 

「【天空支配神の福音(ヘヴンルーラー・ゴスペル)】!!」

 

 

バチバチガシャアアアアアアアン!!

 

 

塔を揺さぶる程の雷鳴が激しく轟く。瞬く間に悪魔たちが一気に雷に包まれ、その身を焦がして落下し始める。

 

再び頭上を見上げた頃には立ち塞がる悪魔は一匹もいない。何千と居た悪魔たちは大樹の一撃で倒れたのだ。

 

美琴たちは表情を引きつらせながら雨の様に降って来る悪魔を避ける。

 

 

「あ、相変わらず無茶苦茶よ……」

 

 

「確か大樹の力って天界魔法式? それって奇跡だから持っている力を使わずにできるから……」

 

 

「待ってアリア。要するに大樹君はMP0で魔法が唱えれたってことかしら」

 

 

「無限に弾を撃ち続けることができるって言った方がいいかしら? もちろん弾はミニガンよ」

 

 

「た、例えで頭が痛くなりそうだわ……」

 

 

どうして俺の素晴らしい攻撃を一瞬も評価してくれないのかしら?

 

 

「……今の悪魔たちは全部ソロモン?」

 

 

「っぽいな」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

折紙の質問に頷くと全員に驚かれた。あ、そうか。

 

 

「どうして72以上も居るのかというと、多分だが他の世界のソロモン72柱を集めたと———」

 

 

「そういうことじゃないわよ!? 私たちが苦戦して来た相手の大軍を一撃で倒したのよ!?」

 

 

美琴の言葉に俺は首を傾げながら聞く。

 

 

「苦戦? ソロモン相手に? 冗談だろ?」

 

 

「美琴。もう大樹君は駄目よ。元々が駄目だったけど、超駄目なのよ」

 

 

「超駄目って何だよ優子。別にソロモンで苦戦したことはないだろ?」

 

 

「あったわよ! ホラ! あの時は………………………………」

 

 

「……………」

 

 

ポク、ポク、ポク、ポク、ポク、チーン。

 

 

「……何かあったわよ」

 

 

「完全に時間を無駄にしたな。これこそ超駄目だろ」

 

 

優子にジト目で睨まれることになるが、今の悪魔たちは本当に弱かった。

 

自分が更に強くなったこともあるが、単純に悪魔たちが弱いのだ。恐らくだが時間稼ぎする為に配置した悪魔なのだろう。

 

 

(敵が時間を欲しがっているなら、与えるわけにはいかないよな!)

 

 

当然大樹の考えていることは女の子たちも分かっている。ここは急ぐべきだと。

 

大樹達は頷き合い、再び塔の上を目指して飛翔した。

 

 

________________________

 

 

 

 

塔を登り切るのに時間はかかった。三途の川を渡る時よりも。

 

アリアの力の消耗は『共鳴現象(コンソナ)』で俺が分け与えることで問題はなかった。折紙のCR-ユニットも精霊の力を循環させることでほぼ無限のエネルギーを得ているので大丈夫だ。

 

一番の問題は肉体的の消耗―――体力だった。

 

上へ登る為に必要な力はあっても、肉体にかかる負担は蓄積するものだ。心配になった大樹は休憩を提案しようとするが、

 

 

「クソッ」

 

 

再び頭上に悪魔の大軍が降り注ごうとしていた。

 

悪魔たちが先手を取り攻撃を仕掛けて来る。大樹の手の先から巨大な氷の盾が出現し、攻撃を全て防ぐが、

 

 

「ヴォアッ!!」

 

 

氷の盾を避けて死角から女の子たちに攻撃しようとしている。そんな悪魔を大樹が許すはずが無い。

 

 

「その汚い手で俺の嫁に触るなぁ!!」

 

 

ドゴォッ!!!

 

 

たった一撃の蹴りで奇襲を仕掛けようとしていた悪魔たちを吹き飛ばす。黒ウサギと真由美を抱いているハンデを背負っていても、悪魔たちが対抗するには力不足だ。

 

 

「ハァッ!!!」

 

 

バギンッ!!!

 

 

氷の盾が盛大に砕け散り、氷の破片が悪魔たちに突き刺さる。力に任せたド派手な攻撃に大樹の勢いは止まらない。

 

大樹の後ろからも援護が飛んで来る。美琴の超電磁砲(レールガン)、アリアの【緋縅蝶(ひおどしちょう)】、優子の【エア・ブリット】、ティナの【瑠璃(るり)掛巣(かけす)】、そして折紙の【日輪(シェメッシュ)】。

 

次々と悪魔たちを撃退して行くが、体力が更に奪われていることに大樹は気が気で仕方ない。

 

 

「ぐぅ、次から次へと……!」

 

 

苛立ちながら上空を見上げると先程の数とは比べものにならないくらいの悪魔の軍団が降り注いでいた。

 

このままだと押し切られる。大樹は大丈夫だとしても、女の子たちが危ない。

 

 

「大樹さん! ここは突き抜けましょう!」

 

 

「皆! 大樹君の後ろに!」

 

 

黒ウサギの提案に大樹はすぐに意図を汲み取る。最も危険な手かもしれないが、一番の最善手とも言えた。

 

すぐに真由美の呼びかけに美琴たちは集まる。黒ウサギは【インドラの槍】を空に向かって構えたあと、大樹は黒ウサギの後ろから支えるように手を握り絞める。

 

大樹の背中から黄金の翼が大きく広がる。悪魔の軍勢に突っ込む準備だと悪魔たちも察している。

 

凄まじい数の防御する為の魔法陣が張られ、攻撃が仕掛けられる。それでも、大樹と黒ウサギの表情に絶望は一ミリもない。

 

 

「折紙、真由美を頼んだ」

 

 

真由美を折紙のユニットに乗せて任せる。そして、大樹と黒ウサギの力が爆発するように膨れ上がる。

 

ああ、この感覚……あの時と同じだ。ふと隣を見れば俺と同じことを思ったのか笑みを浮かべる黒ウサギの顔があった。

 

 

「行くぞッ!!」

 

 

「YESッ!!」

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォォ!!!

 

 

「「撃ち抜けェ!!」」

 

 

二人の咆哮と共に放たれた雷の神槍。悪魔の軍勢のど真ん中を撃ち抜き、閃光が悪魔たちを焼き殺し、衝撃は全ての悪魔を壁に叩き付けた。

 

本人たちすら想像を越えた一撃に思わず手を放しそうになる。だが、決して最後まで放すことはなかった。

 

 

「今だぁ!!」

 

 

大樹の叫ぶ合図と共にアリアと折紙が力を振り絞って軍勢に空けられた道を飛翔する。大樹も黒ウサギを抱えながら飛翔して駆け抜ける。

 

 

バギンッ!!

 

 

悪魔の軍勢が追って来ないように大樹は巨大な氷の盾で蓋をする。時間は稼ぐことはできるはずだ。

 

今のうちに上へ目指そうとするが、アリアと折紙の動きが止まっていることに気付いた。

 

美琴たちも何かを見て言葉を失っている。急いで大樹も駆け付けると、

 

 

「どうした二人共! 何が———!」

 

 

「これは……!」

 

 

大樹と黒ウサギも、思わず言葉を失った。

 

彼らの目の前に広がったのは、塔の頂上。そして、神光如き空から差す薄明光線が浮遊大陸を照らしていた。

 

そう、『楽園』だ。

 

この場所が、俺たちの最後の目的地―――天界なのだと。

 

 

「ッッッッ!! 意識を奪われるなぁ!!」

 

 

「「「「「ッ!」」」」」

 

 

大樹の大声に女の子たちの意識が戻る。あまりの神々しさに意識が遠のいていた。

 

常人には耐えることのできない光景。人が踏み込んではいけない領域なのはハッキリと今ので分かった。

 

あの大樹ですら意識が朦朧(もうろう)としていたのだ。それだけこの場所は神々しく見えた。

 

 

「もう、大丈夫よ。助かったわ」

 

 

頭を振りながら美琴が自分の調子を確かめる。一度乗り越えたからと言って油断はできないが、ひとまずは大丈夫みたいだ。

 

だが女の子たちの体力は削られている。大樹は先程できなかったことを提案する。

 

 

「……争う音は聞こえない。あの悪魔も追って来る気配もない。ここは体力を回復しながら慎重に進む―――」

 

 

『愚かな。貴様らはこれ以上進むことはできぬ』

 

 

頭上から聞こえて来た大きな声に、大樹たちはゾッとする。

 

 

ズシャドゴオオオオオオォォォン!!!

 

 

正面に巨大な物体が落ちて来ると同時に大津波が襲い掛かる。大樹は女の子たちを守るように前に立ち、

 

 

「【神の領域(テリトリー・ゴッド)】!!」

 

 

荒れ狂う波から必死に防御する。大した一撃では無いが、女の子たちに取ってこの一撃は危険だった。

 

ある程度の予想はできていた。波が全て消えた頃には、目の前には巨大な男が立っていた。

 

長く白い髭を生やした老人は蒼い鎧に身を包み、左右に【三又の矛】を握っている。

 

鋭い眼光が大樹たちを射貫き、全身が震える程のプレッシャーが体に圧し掛かる。

 

 

『ここが貴様らの墓場だ。海の藻屑(もくず)になるがいい』

 

 

最高神ゼウスに次ぐ最強の一柱。

 

海と地震を(つかさど)るオリュンポス十二神———『ポセイドン』が不敵な笑みを見せながら立ち塞がった。

 

 


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