どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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作者から一言。


―――「俺は悪くねぇ! バレンタインとモンハンが悪いんだ!」


感染患者で絶対に動揺してはいけない24時!

冷たい岩肌の壁に囲まれた部屋に閉じ込められた三人。少し息苦しいのはここが洞窟だからだろうか?

 

鉄製の(ろう)、何も置かれていない部屋。また神の力を封じる手錠を見ながら大樹は問う。

 

 

「―――生きてるか?」

 

 

「一応、な」

 

 

「妙に頭が痛いがな」

 

 

上から見ると凸型の空間。西の牢屋には大樹、北の牢屋には原田、東の牢屋には慶吾が入れられていた。

 

南には扉が一つ。恐らく出口だろう。

 

大樹の正面から見える慶吾の姿。頭を抑えながら気分を悪そうにしていた。

 

 

「まぁ……その、ウチの深雪がすいません」

 

 

「最悪なゲームだったな」

 

 

「ああ……酷い展開だった……」

 

 

今まで疑うことのなかったチーム関係。まさか敵のスパイだとは考えもしなかった。

 

空気が更に悪くなる。気まずいので話を変える。

 

 

「げ、ゲームの内容は理解しているよな?」

 

 

大樹の質問に原田と慶吾は頷く。ゲームの内容はこうだ。

 

 

『この中に感染者が居ます。至急感染者を見つけてワクチンを打ってください』

 

 

簡単なメモが一枚、部屋の中央に落ちていたのだ。牢屋の中からでも見える距離だ。

 

 

「多分だが、それぞれの勝利条件があるよな?」

 

 

「ああ、各自部屋の中に置いてあるメモが勝利条件だろう」

 

 

大樹の言葉に慶吾が補足する。ちなみに大樹の勝利条件は一番簡単。手に握りしめている紙を見ると、そこには『感染者にワクチンを打たせること』と書かれている。

 

 

「……この中に感染者を増やす、もしくはワクチンを打たせない、そんな感じの勝利条件だろうなお前らは」

 

 

「何だ? お前はワクチンを打たすことか?」

 

 

「ハッ、どうかな?」

 

 

危ない危ない。めっちゃ鋭いよアイツ。黒幕やべぇ。

 

ここでケツロケットしていたら大変なことになっていたが、動揺の範囲までは来ていなかったようだ。

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

「「……………は?」」

 

 

五倍ケツロケットが聞こえて来た。しかも原田の方からだ。

 

牢屋の中ではぐっだりして倒れている原田の姿。近くにコップらしき物が落ちている。

 

 

「「何があった!?」」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

同時に大樹と慶吾にケツロケットが炸裂。あまりの痛みに思わず部屋の中を転げ回る。

 

 

「原田ぁ!! 返事をしろ!」

 

 

「一体何を飲んだ貴様ぁ!」

 

 

「げ、ゲボマズ……スープ……ガクッ……」

 

 

おい誰だよ原田にゲボマズスープ飲ませたの! ここにシ〇ベット・スエードでも居るのかよ! ソイツは手紙を届ける仕事はしてねぇぞ!

 

 

「……お前のとこのじゃないのか?」

 

 

「おいウチの嫁の料理をディスってんじゃねぇよ」

 

 

「いや、しかし……他に誰が居る」

 

 

「……………誰か居るさ」

 

 

(かば)うなら即答できるように考えとけ」

 

 

すいません。ド正論過ぎて何も言えねぇ。

 

 

(というか原田の部屋にだけ飲み物が置いてあったのか?)

 

 

自分の部屋を見てみるが何もない。大体椅子もテーブルも、家具一つすらない。

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

そして、慶吾の居る牢屋から激しいケツロケット音が聞こえて来た。

 

 

「っておい!? 今度はお前か!?」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

ぐぇ!と自分も驚いたので巻き沿いをくらう。これだから反応を見る側は嫌だ! 絶対に飲みたくないけど俺がゲボマズスープ飲んで周りにケツロケットをぶつけたい!

 

 

「コイツはッ……クッキーなんかじゃないッ……殺人、兵器……ガクッ」

 

 

「なんかそれ昔食ったことあるぞぉ!! 記憶どころか脳に直接刻まれるレベルの味だからな!」

 

 

犯人の特定完了! 姫路の料理だぁ! 清涼祭の時に食って俺ですら体調を崩したことがあるぞ! 

 

……何か怖くなって来た! もしかして俺の部屋にも人を殺す毒物が隠し置いてあるんじゃないの!?

 

 

「ん?」

 

 

おおっと、ここで気付いてしまったぞ大樹選手。まさか天井に紙が張り付いているとは!

 

ゆっくりと警戒しながら紙を剥がし、裏面に書かれた文面を読む。

 

 

『No.01 感染者の味覚は狂う。どんな食べ物飲み物を口にすると劇物に変化する特徴有り』

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

(とんでもないヒントをぶち当てて来たぁ!!??)

 

 

完全にクロが二人居るよ! 感染の疑い大大大マックスなんですけどぉ!?

 

尻を抑えながらあわわわと震える。こんなことがあっていいのか!?

 

 

(いや、まだ気が早い!)

 

 

最初に書かれている『No.01』ということは『NO.02』『No.03』もあるはずだ。恐らく原田たちがそれを知っているはず。

 

巧みな話術が要求されている。上手く聞き出し、騙されないように警戒するべきだ。

 

 

「どうした大樹? 動揺しているみたいだが?」

 

 

原田の質問にギクッとなるが、完璧な返答で誤魔化す。

 

 

「実は感染者のヒントとなるような紙を見つけてだな」

 

 

―――は?

 

口が勝手に動いたことに大樹は額から滝のように汗を流した。

 

 

(あ、あれぇええええええええ!!??)

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

「いや、お前……ケツロケット受けてんじゃねぇか」

 

 

原田が疑いの眼差しで俺を見ているが、こっちは本気でビビっている。嘘をつけなかったことに動揺を隠せないのは当然。

 

 

「嘘か?」

 

 

「嘘じゃないぞ。『No.1 感染者の味覚は狂う。どんな食べ物飲み物を口にすると劇物に変化する特徴有り』ってな」

 

 

全部喋ったぁ!! 何やってんだ俺ぇ!!

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

「だから何でケツロケット……」

 

 

「半信半疑だな」

 

 

当たり前だろ。自分の口が勝手に動いて情報全部ゲロったんだぞ。馬鹿極めているぞこれ。

 

 

(いや、もしかしてこれ……まさかと思うが……!?)

 

 

―――大樹は自分が感染者なのではないかと疑い始めた。

 

 

________________________

 

 

 

『NO.02 三人の内、奇跡的に一人だけ感染者を早期発見に成功。ワクチンを打ったが、副作用として嘘をつけない症状有り』

 

 

この紙を見つけたのは慶吾だった。原田のゲボマズに便乗してクッキーを食べて、嘘をついてみたが、自分はワクチンを打たれていないことを確認した。

 

だが都合が良い。もしワクチンを打つならそのワクチンを既に打った奴を探せばいいだけの話だから。

 

慶吾の勝利条件は『感染者ではない者にワクチンを打たせること』なのだから。

 

 

(問題は嘘をつけない奴をどうやってあぶり出すか、だな)

 

 

今の所、確信を持てるようなアクションを起こした者はいな———

 

 

「実は感染者のヒントとなるような紙を見つけてだな」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

「嘘じゃないぞ。『No.1 感染者の味覚は狂う。どんな食べ物飲み物を口にすると劇物に変化する特徴有り』ってな」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

―――ああ、馬鹿(大樹)だな。

 

話ながらケツロケットを食らうなんて、それは正直に話していることに動揺していると言っているようなものだ。

 

こんな馬鹿な奴を探すゲーム、今まで一番簡単だったな。今まで散々な目に遭わせられたのだ。報復の時は来た。

 

 

「俺も見つけたぞ。『No.04 残念ながら記録に間違いがあった。今すぐNO.02のデータは破棄せよって』。誰か持っているんじゃないか?」

 

 

「俺は違うな。No.01だし」

 

 

「……………」

 

 

慶吾の背中はビッショリと汗をかいた。

 

間違いがある? 何が間違い? 嘘をつくことか? ワクチンを打ったことか? ええい、どういうことだ!?

 

無言でいると大樹と原田の視線が集める。何か言わなければ疑われるだろう。

 

 

「俺の持っている紙は『NO.05』だ。内容は、その……全く役に立たない」

 

 

「はぁ? 絶対嘘だろ、何か書いてあるだろ?」

 

 

大樹の問い詰めに慶吾は必死に脳を回転させる。そして、

 

 

「―――かゆ、うま」

 

 

「「ダウト」」

 

 

速攻でバレた。

 

 

「今日一番のしょうもない嘘だったぞお前」

 

 

「大樹より酷いんだなお前の嘘」

 

 

「原田。ここを出たら拳で話し合ってもいいからな?」

 

 

「手錠をしたお前なんか怖くねぇよ」

 

 

ここで口論する大樹と原田を見て名案を思い付く。慶吾はわざと観念するように話す。

 

 

「白状する。No.02を持っているのは俺だ」

 

 

「ほう? 内容は?」

 

 

「『感染者を確認。感染者は宮川 慶吾だ』って」

 

 

それでも大樹と原田から疑いの目を向けられる。しかし、言い訳の秘策がある。

 

 

「原田の言うことが正しければ俺は感染者じゃない。正しければな?」

 

 

「そう来るか」

 

 

後頭部を掻きながら大樹が溜め息を吐いた。これで俺に向けられた疑いが原田にも向けられた。

 

原田は俺を疑っているだろうが、この場をとりあえず掻き乱すことはできたはずだ。

 

あとは大樹にワクチンを打たせれば、勝利できるはず!と慶吾はニヤリと不敵に笑った。

 

 

________________________

 

 

 

『No.03 感染者にワクチンが打たれない場合、ケツロケットの回数が倍に増える症状を確認』

 

 

原田が手にした紙の内容がそれだった。今のケツロケットから更に倍―――つまり一回の動揺で十回分のケツロケットが味わえるようだ。確実に最後死ぬわ。

 

とんでもない秘密を知ってしまったと震えていると、なんともう一枚の紙を見つけたのだ。

 

 

『No.04 勝利条件を達成できない者は、厳罰としてケツロケットの回数を一回増やす』

 

 

ヒュー、恐ろしい。どうしてケツロケットばかりにこだわっているNo.03とNo.04さん。

 

こうなると負けられない。というか自分の勝利条件をもう一度確認する。

 

 

(俺の勝利条件は『楢原 大樹と宮川 慶吾の勝利条件を満たさないように邪魔をすること』だが……)

 

 

勝利条件の紙には補足としてこう書かれている。『楢原 大樹の勝利条件は感染者にワクチンを打たせること。宮川 慶吾の勝利条件は感染者ではない者にワクチンを打たせること』だと。

 

お気づきだろうか。どう足掻いても自分の勝利条件が満たないことに。

 

 

(誰にワクチンを打っても俺の勝利条件は絶対に達成されない。考えられる可能性として……二人の勝利条件を満たないようにすることができる手がある!?)

 

 

―――いや、ある! この二つの勝利条件の共通点、ワクチンを打つことだ!

 

 

(ワクチンを打つという前提の話が無くなった場合が俺の勝利だ! ワクチンの破壊、もしくはワクチンの中止……そういうことか!)

 

 

だが待てと思考をストップする。もし、もし、もしもの話だ。

 

 

(俺が感染者だった場合……大変なことになるんじゃないか?)

 

 

ケツロケットの回数が倍になる。むしろ勝利条件を達成するより失敗してワクチンを打たれた方が良いんじゃないか?

 

……もしかしたら両方を達成できるシステムがあるのでは?

 

大樹はケツロケットを受けながらNO.01を言った。慶吾の持っている紙が気になる。二人が本当の内容を言っているとは限らないが、自分の勝利条件の達成ヒントがあるに違いない。

 

 

(クソォ……どっちか馬鹿なことをしてくれねぇかなぁ……)

 

 

原田はそんなことを願いながら、二人の会話を聞いていた。

 

 

________________________

 

 

 

【━ 現 在 の 情 報 ━】

 

 

『No.01 感染者の味覚は狂う。どんな食べ物飲み物を口にすると劇物に変化する特徴有り』

 

 

『NO.02 三人の内、奇跡的に一人だけ感染者を早期発見に成功。ワクチンを打ったが、副作用として嘘をつけない症状有り』

 

 

『No.03 感染者にワクチンが打たれない場合、ケツロケットの回数が倍に増える症状を確認』

 

 

『No.04 勝利条件を達成できない者は、厳罰としてケツロケットの回数を一回増やす』

 

 

 

【━ 勝 利 条 件 ━】

 

 

・楢原大樹の勝利条件

 

『感染者にワクチンを打たせること』

 

 

・宮川慶吾の勝利条件

 

『感染者ではない者にワクチンを打たせること』

 

 

・原田亮良の勝利条件

 

『楢原 大樹と宮川 慶吾の勝利条件を満たさないように邪魔をすること』

 

 

 

________________________

 

 

 

 

「「「……………」」」

 

 

あれから進展はない。三人は静かに座っていた。しかし、睨み合っている。

 

もう仲間という意識はない。自分が感染者だった場合、どんな悲劇が起こるのか……一人は知っているが、二人は知らない。十分な恐怖になるだろう。

 

 

「……なぁ」

 

 

大樹がふと口を開いた。それは単純な疑問だった。

 

 

「―――お前らなら牢屋くらい開けれるだろ」

 

 

「「……………あッ」」

 

 

完全に盲点だった二人。原田と慶吾は驚きながら牢屋の鉄格子に触れる。

 

 

「そういえば破壊しようとしなかったな……アイツ、手錠しているからな。できないか」

 

 

「こういうことはアイツがやって、ドジを踏むからな。手錠で制限されていたか」

 

 

「アイツって俺のことだろ。堂々と言えよ名前くらい。絶対に許さないけど」

 

 

―――原田と慶吾が鉄格子に触れるが、二人は動かない。いや、待っていた。

 

 

「お前らさ、ビビってんの? 鉄格子壊すこと、ビビってんの?」

 

 

大樹の煽りに原田と慶吾は舌打ちする。原田は慶吾を様子見し、慶吾もまた原田を様子見していた。

 

 

「うわぁダサイダサイ。俺なら何の躊躇もなく行くけどね。主人公だから」

 

 

「馬鹿ッ、それでいつも泣くことになってんだろうが」

 

 

「はいはい、負け犬な上に本編死んだ君の言い訳は聞きたくないでーす」

 

 

「あ゛あ゛ぁ゛!?」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

ドスの利いた声が響き渡り、痛みに(うめ)く声も響いた。

 

次のターゲットは慶吾。大樹は鼻で笑いながら指を差す。

 

 

「黒幕もビビってんだろ? お願いだから俺のライバルとか名乗るのやめてくれます? 汚名がこっちにも移るじゃん」

 

 

「あ゛あ゛ぁ゛!?」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

原田と同じようにキレてはケツロケットを食らう慶吾。完全に大樹のペースに呑まれていた。

 

ニヤニヤとしながら二人を煽る大樹。原田と慶吾は同時に鉄格子を破壊しようとしていた。

 

 

「「そこで待ってろ! 今から殺す!!」」

 

 

「かかって来いやオラァ!!!」

 

 

そして、鉄格子を破壊しようとした時、悲しい出来事が起きた。

 

 

バチバチガシャアアアアアアアン!!!

 

 

鉄格子に二百万ボルトの電圧が二人に襲い掛かる! あまりの痛みに原田と慶吾は絶叫する。

 

 

「「ギャアアアアアアアアアァァァ!!??」」

 

 

「ざまああああああああああぁぁぁ!!!!!」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

三人のケツに衝撃が走るが、一番痛いのは二つの罰を食らった原田と慶吾だ。大樹は床を転がりながら痛みに耐えているが、原田と慶吾はその場に倒れている。

 

 

「これだからお前らは馬鹿なんだよ! この物語は主人公の俺と俺の事が大好きなヒロイン以外はいりません。そのまま灰になって消えろ!!」

 

 

「大樹テメェ!!」

 

 

「貴様ぁ……許さん!!」

 

 

中指を立てながら挑発する大樹と完全にキレた原田と慶吾。この三人、この24時のゲームを通して最悪に仲が悪くなった。

 

その時、ガガッとノイズのような音が聞こえて来た。

 

 

『―――んだよ? 寝れない? 少し話……って一緒に寝るって!? いやいや、それは駄目、だろ』

 

 

「あ?」

 

 

「ん?」

 

 

聞こえて来た声は大樹の声だった。慶吾と原田が眉間にしわを寄せるが、大樹の顔色は悪い。

 

 

『そんな子犬みたいな顔するなよ……ああもうッ、分かった分かった。一緒に寝てやるよ』

 

 

「何で俺の添い寝CDが流れてんだよ!?」

 

 

「「ぶふッ」」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

大樹は顔を真っ赤にしながら動揺し、原田と慶吾は噴き出した。

 

 

『す、少し近くないか? ……これが普通? いや……でも……恥ず、いだろ』

 

 

「やめろおおおおおォォォ!! 何てタイミングで悪用してんだよぉ!!」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

大樹人生史上、とんでもない黒歴史が公開処刑されていた。二人はバンバン床を叩きながらお腹を抑えている。

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

スパパパパパアアアアアンッ!!!

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

時間にして三十分。キャラ別3パターンが流された。大樹はとにかくケツロケットの連続。原田と慶吾は過呼吸になりそうなくらい笑った。

 

 

『―――おう、とっとと寝ろ寝ろ。ったく、世話のかかる奴だぜ』

 

 

「うぅ……うぅ……あんまりだ……あんまりだろ……!」

 

 

今まで生きていた中で一番長い時間だった。これは地獄巡りの一つに追加しても良いレベルで酷い。どんな地獄の罰なら耐えれる俺でもこれだけは無理。ギブアップ。

 

 

『―――弟子の酷い一面を見てしまった』

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

なんということでしょう。大樹の師匠であり、先祖である楢原 姫羅(ひめら)の声を聞いた大樹はトドメの一撃も受けることになる。

 

精神的にも、お尻的にも、辛いよ。

 

 

『さて問題だ。早く答えた者が勝者とする』

 

 

「「「!?」」」

 

 

突然始まる問題に三人は飛び上がる。耳を澄ませて問題を聞いた。

 

 

『さて、先程流れた添い寝CDで大樹は何回女の子の髪に触れた?』

 

 

「「知るかぁ!!!」」

 

 

「6回だよちくしょうがぁ!!」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

ケツロケットを食らいながらツッコミを入れる二人と正解する本人。ピンポーンッと正解の音が牢屋に響く。

 

すると大樹の背後からスッと一枚の紙が落ちて来た。手に取ると、そこには見覚えのある文面があった。

 

 

『NO.05 ゲームの最後にワクチンを投与する為の投票を行う。もし全ての票がバラけた場合、ワクチンの投与を中止とする』

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

(クソみたいな問題に正解したらすっげぇ重要なアイテムを手に入れたぁ!!??)

 

 

ゲームバランスって知ってる? それがね、グダグダだとクソゲーって言われるんだぜ? ちなみに超クソゲーな、これは。

 

 

「どうした大樹?」

 

 

「手に入れた物を言ってみろよ」

 

 

二人は大樹が紙を手にしたことを見ていた。しかし、内容は見えていないようだ。

 

ここで大樹は嘘を言うことはできない。二人にバレてしまうだろう。

 

だが、ここで気付いてほしい。嘘は言えないが、あることはできるということに。

 

 

「……………」

 

 

「おい大樹。黙ってないで……まさか」

 

 

原田は大樹が何も言わないことであることを察した。慶吾もまた、舌打ちして察する。

 

そう、大樹はこのまま黙り続けてしまう気満々だった。

 

口を開けば嘘を言えない。だったら喋らなきゃいいだけの話。それだけの話なのだ。

 

 

「あの野郎……」

 

 

「……まぁ良い。いつかボロを出すだろう」

 

 

情報共有することを断った大樹。少しばかり額から汗を流している。

 

本当にこれで良かったのか、今更になって考えてしまう。

 

 

(でもアイツらに一矢報いた感じがするからいいや。ザマァ味噌漬(みそづ)け)

 

 

―――結局そこに辿り着くゲス主人公。それでいいのか。

 

 

バンッ!!

 

 

今度は何事かと三人は警戒する。唯一出口に通じると考えられていた扉が勢い良く開かれたのだ。

 

 

ウゥ――――ウゥウゥウゥ――――!

 

 

法螺貝(ほらがい)の吹く音を響かせながら入って来たのは武者の鎧を装備した二人組。

 

 

「ルーンはこの部屋にあると知らせてくれた! 必ずここにある!」

 

 

「部下には周囲の警戒をさせる! 急ぐぞステイル!」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

一人は長身の赤髪、ステイル=マグヌス。もう一人は福山 火星(ジュピター)だ。

 

二人組の登場に動揺したのは大樹。まさかのステイルとジュピターさんだったよちくしょう。

 

ステイルは刀を抜刀すると、大樹に近づいて話しかけて来た。

 

 

「おいそこの『最後は自分の命で世界を救い、ヒロインとはハッピーエンドは迎えられなさそうな爆笑主人公』そうなお前! 聞きたいことがある!」

 

 

「ぶっ殺すぞテメェ!!」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

「くぅ……何だよ! 絶対そんなラスト迎えてやらねぇからな!」

 

 

「クッキーはどこだ!」

 

 

「は?」

 

 

「クッキーはどこだと聞いている!」

 

 

「いや、知らねぇけど……ん?」

 

 

あれ? クッキーってもしかして……?

 

 

「知らないか……ならば死ね!」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

ステイルが刀を大樹の目の前で素振りすると、ケツロケットを受けた。何て理不尽!

 

 

「ちょっとぉ!?」

 

 

「「ッ……!」」

 

 

これには原田と慶吾も息を飲む。特に質問を聞いていた慶吾の顔色は悪くなっていた。

 

 

(まさかと思うが……試しに食べて嘘をついてみたあのクッキーのことか!?)

 

 

ダラダラと慶吾が汗を流す中、今度はジュピターさんが原田に近づいた。

 

 

「ええい! そこの『何だかんだ最後はハッピーエンドになると思っていたけど普通に死んだっぽい』顔をしているお前! 聞きたいことがある!」

 

 

「ぶっ殺すぞお前!!」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

何度もいじられ続けているせいか、原田の形相がガチで怖かったと大樹と慶吾は思う。

 

しかし、質問には答えた。

 

 

「それならアイツが不味いって言いながら食っていたぞ」

 

 

「「何?」」

 

 

「くッ」

 

 

ガシャガシャと鎧の音を出しながら慶吾に近づく二人組。刀の先を慶吾に向けて質問を投げる。

 

 

「貴様、クッキーを食ったのか?」

 

 

「いや、違う……俺は」

 

 

「食ったのだな?」

 

 

「……クッキーはここにあったが、無くなっていた」

 

 

「「いやお前が食ったからじゃん。そりゃ無くなるだろ」」

 

 

「裏切るのかお前ら!」

 

 

「「最初から仲間だと思っていたらお前の頭の中はハッピーセット」」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

慶吾から凄い睨まれるが、ヘラヘラとしている大樹と原田。武者の二人組は静かに判決を下す。

 

 

「―――死刑だ」

 

 

「は?」

 

 

「やっべぇ、凄い重い罪……プッ」

 

 

「大樹、人の、不幸をッ……笑うなってぇ」

 

 

想像を越える重い罪に慶吾は放心。大樹と原田は笑いを堪えている。

 

そして、全員から笑いが消える展開を迎えることになる。

 

 

「あれは詩希の作ってくれた大切なクッキーだ……!」

 

 

ジュピターさんが泣きながら事情を語る。白井 詩希。ジュピターさんのイニシエーターだ。あーあ、やっちゃったなアイツ。

 

ここでゲス主人公。火に油を注いだ。

 

 

「殺人兵器とか言ってましたよソイツ」

 

 

「貴様ぁ!!」

 

 

言ってはいけないことを言ってしまう大樹。慶吾が本当に許さないと顔をしているが、次の瞬間、

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

スパパパパパアアアアアンッ!!!

スパパパパパアアアアアンッ!!!

スパパパパパアアアアアアアアアンッ!!!

 

 

二人組が慶吾の前で刀を素振り始めた。その数、もうえぐい。見ているだけで吐きそうになる。

 

慶吾の絶叫は聞こえない。しかし、とんでもない数のケツロケットが加算されている。

 

笑っていた大樹と原田だったが、この光景にドン引き。恐怖すら感じている。

 

 

「さ、さすがにやり過ぎ……じゃないかな?」

 

 

「止めて、あげない? もう、十分だと思う……」

 

 

大樹と原田が声を掛けるが、武者の素振りは止まらない。ここに来て二人はやっと焦り始めた。

 

 

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!? 死んじゃうからぁ!? ギャグで死なないけど死ぬぞ!?」

 

 

「確かに慶吾が悪かった! 頼むから許してやってくれ!」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

大樹はガチャガチャと鉄格子を揺らし、原田は一生懸命に二人をなだめようとしていた。

 

ケツロケットの数が五倍となっている今、これは本当に不味いと大樹と原田は焦る。

 

時間にして一分の地獄。二人の刀が鞘に収まる。

 

 

「―――ここで問題。誰か、この愚か者の受けたケツロケットの数を答えなさい。正解できない場合、もう一度その数だけ叩く」

 

 

「「お願いだからもうやめてあげて!」」

 

 

ここで不正解は最悪である。大樹は急いで記憶を辿り、迅速に数え始めるが、涙が出始めていた。

 

 

「ヤバイ……数がえぐすぎて……涙出て来た……!」

 

 

「いいから答えろ大樹! そのえぐいのがまた始まるぞ!」

 

 

「うぅ……三百……十五回……!」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

洒落にならない数に大樹と原田はケツロケットを受ける。315回。本当なら63回で済んでいたはずのケツロケット。それが五倍で315回。

 

 

「正解だ。撤退するぞ」

 

 

「ああ、その前に……」

 

 

ジュピターさんは急いで部屋を出て行き、ステイルはルーンをばら撒いた。お願いだからもう何もしないで。

 

 

「準備完了。では失礼するよ」

 

 

ステイルも退室。慶吾の牢屋の中を見てみるが、ぐったりとしている男を発見。

 

 

「……………」

 

 

「死ぬなぁ!!」

 

 

「生きろぉ!!」

 

 

「……う、うるせぇぞ……馬鹿共……!」

 

 

瀕死である。もうアイツは何もできない! バスケもできないよ安〇先生!

 

大樹は泣きながら部屋の中に落ちて来た紙を拾う。これだけは言おう。頑張ったアイツの為に公開しよう。

 

 

『NO.06 小麦粉150グラム、砂糖50グラム、塩一つまみ、ピーナッツバター40グラム、サラダ油30グラム、卵黄1個、ベーキングパウダー小さじ2分の1を用意して———』

 

 

「誰もクッキーの作り方なんざ知りたくねぇよ外道がああああああァァァ!!」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

________________________

 

 

 

床に倒れたまま動く気配が全くない慶吾。運営は非道……道徳心なんて捨てたのだろう。

 

ガクブルと震える原田とボーッと天井を見つめる大樹。本当に最悪な牢屋にぶち込まれた気分だ。

 

 

『昼食の時間です』

 

 

「「「ヒィッ!!」」」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

完全にトラウマだった。三人一緒に情けない声を出してしまう。

 

扉を開けて出て来たのはコックの服を着た―――真由美だった。

 

 

「遂に出番よ! さて、誰が一番先に欲しい―――」

 

 

「要らない。そういうの要らないから」

 

 

「大樹君!? そこは食い付く所でしょ!?」

 

 

自分から毒物にわーいと言って食べる頭のおかしい人はいないと思います。

 

原田と慶吾も首をブンブン横に振っている。あれは遠慮とかじゃない。人が持つ一番最低の断り方、拒絶だ。

 

 

「なぁ真由美。お前の為なら世界すら破壊することはできる。でも、こういうことはやめて」

 

 

「世界滅亡と私の料理で天秤にかけないで欲しいけど!?」

 

 

「登場するタイミング考えろ! 見ろ、アイツの姿! 黒幕が本気で泣きそうになっているんだぞ! もしこのことを知った状態で本編に戻ったら手加減してしまうわ!」

 

 

「確かに酷いくらい震えているわね! じゃあ安心して! 二人は別の料理で、私の料理は大樹君だけにあげるから!」

 

 

「よし! あの震えている奴、可哀想だから俺の分の料理を分けてあげてくれ! もう全部あげてもいいから!」

 

 

「言ってることがさっきと違うじゃないかしら!?」

 

 

ちくしょう! 上手く回避する方法が思い付かねぇ! このままだと真由美の料理を口にすることになる!

 

考えろ……考えろ……起死回生の手を!

 

 

「……そうね、そんなに嫌なら大樹君にあげないわ」

 

 

「えッ……それはそれで……嫌だな」

 

 

「なぁ大樹。お前、クソ面倒くさい男だろ」

 

 

原田に言われるが、それはそれで()に落ちない。誰かが食うなら俺が食べた方が良い。でも食べたくない。

 

 

「欲しいかしら?」

 

 

「ほ、ほ、ほ……ほ、欲っしないで欲しいない」

 

 

「言語崩壊して誤魔化すな」

 

 

「欲しいかしら!?」

 

 

「欲しいですちくしょう!!!」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

だろうなっと予想できていた原田たち。ケツロケットを食らいながら屈する大樹に敬礼の意を示す。

 

原田と慶吾には美味しそうな食事(五河 士道シェフより)が配られた。美味い美味いと二人は食べている。

 

 

「大樹君にはね、バレンタインが近いから……」

 

 

「この場面を書いている時はそうかもしれないが、投稿した時にはとっくに終わっているぞ。あと昼飯にチョコなのか……」

 

 

「大丈夫よ! ちゃんと栄養も取れるようにしたから!」

 

 

頬を赤くする真由美と顔を青くして戦慄する大樹。食事をしているこっちが見たくない。

 

真由美から渡された食事は、ケツロケットを受ける程の衝撃的な物だった。

 

白米の上からチョコレートをトロリっとかけ、味噌汁?からは甘い匂いがする。何故か鮭は茶色の液体がかけられ、サラダは千切りキャベツではなく、チョコレートを細かく切り刻んだ物。飲み物はチョコ、デザートもチョコ。チョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコ―――うん、チョコレートパラダイス!

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

「鼻血が止まらなくなるわこれぇ!!!」

 

 

「うぉ……」

 

 

「茶色一色だな……」

 

 

頼むからホント待ってくれよぉ! どんなチョコの使い方をしているの!? F〇Oより酷いよ! さすがのセ〇ラミス様でも激おこプンプン丸だよこれ!

 

 

「大樹君、甘い物は好きでしょ?」

 

 

「好きだけど、これは『甘い』の領域を遥かに超えてますね!」

 

 

「まるで大樹君ね!」

 

 

「『人間』の領域を遥かに超えてるってか! うるせぇよ!」

 

 

もーどうするのこれぇ! 食うしかないよね! 食べるよちくしょう!

 

……口の中に掻き込もう。一気に食べてしまおう。

 

そして―――大樹は覚悟を決めた。

 

 

________________________

 

 

 

「今時の若い者は……天空の城ラピュ〇を見たことが無いらしい」

 

 

「そんな……バルスも知らないなんて!」

 

 

「ム〇カ大佐の名言をフリー〇ー様が言ったのではないか勘違いするほどじゃ」

 

 

「あんまりだ……あんまりだぁ……!」

 

 

「忘れるな大樹。バルスは、いつもお前の心の中にある……」

 

 

「じいちゃん? どこに行くんだよじいちゃん!」

 

 

「ト〇ロに会いに、じゃ」

 

 

「そこは城に合わせておけよじいちゃああああああん!」

 

 

 

________________________

 

 

 

 

「―――ハッ!?」

 

 

気が付けば俺は倒れていた。冷たい床が頬の温度を奪っている。

 

 

「お? 目が覚めたか大樹」

 

 

「お、俺は……一体……?」

 

 

「いや、一気に食べて気絶しただけだぞ?」

 

 

「普通のことのように言うのやめろよ原田。あー、酷い夢を見たな……」

 

 

頭がガンガンするほど痛い。口の中は吐きそうなくらい甘さに支配されている。

 

どうやら完食したようだ。我ながらよくやったと褒めたい。

 

薄れた記憶を思い出していると、ふと手に紙が当たる。

 

 

「そういえば……紙が落ちて来たな」

 

 

「また料理のレシピじゃねぇの?」

 

 

「それでいいや………………………」

 

 

「ん?」

 

 

原田に笑われるが、慶吾は大樹の様子がおかしいことに気付く。具体的に顔色が非常に悪い。

 

それもそのはず、大樹が手にした紙はとんでもない情報だったからだ。

 

 

『No.07 NO.01の感染症状のみ治療を可能とした薬を完成。ただし、感染者以外の者が飲むと問題は無いが、感染者には劇物のような酷い味になる。その後、症状は消えて味覚は元に戻る』

 

 

思い出して欲しい。NO.01の内容は『感染者の味覚は狂う。どんな食べ物飲み物を口にすると劇物に変化する特徴有り』だ。

 

つまり、誰が感染者かと言うと……ゲボマズスープを飲まされたと騒ぎ、昼食を美味しそうに食べていた奴ということになる。

 

というか慶吾は多分演技だな。クッキーは多分美味しかったと思う。

 

 

(感染者は原田、お前だったか!)

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

痛い痛い! し、しかし! しかしだ! 疑問が一つ残る。

 

そう、嘘をつけないこの症状。これがもし、感染者の症状だった場合、原田と自分の二人が感染しているのではないかと思ってしまう。

 

その場合、自分にワクチンを打つことで勝利条件も、感染をワクチンで抑えることができるのではないだろうか?

 

 

(くぅ……アイツらの持っている情報が知りたいぜちくしょう……すぐそこまで答えは来ているのに……!)

 

 

________________________

 

 

 

大樹がまた黙り出した。ワンパターンだが、アイツに取っては一番良い方法なのだろう。

 

 

((不味いな……!))

 

 

先程から大樹が情報を貰っている。一枚くらいクソみたいなレシピだったが、情報量が上なのは間違いない。

 

そこで、二人は大樹が寝ている間にある策を取っていた。

 

 

「情報交換、といこうか」

 

 

「ああ、そうだろうな」

 

 

慶吾と原田は紙を飛ばしやすい形に折り、互いの牢屋の中に投げ入れた。

 

 

『NO.02 三人の内、奇跡的に一人だけ感染者を早期発見に成功。ワクチンを打ったが、副作用として嘘をつけない症状有り』

 

 

(これで大樹が白……感染者じゃないことが分かるのか)

 

 

原田は手に入れた情報で感染者を絞る。一方慶吾は舌打ちをしていた。

 

 

『No.03 感染者にワクチンが打たれない場合、ケツロケットの回数が倍に増える症状を確認』

 

『No.04 勝利条件を達成できない者は、厳罰としてケツロケットの回数を一回増やす』

 

 

(クソッ……自分が感染者だった場合、洒落にならねぇぞ……!)

 

 

感染者を絞るより、慶吾は自身が追い込まれているのではないかと危険を感じる。

 

両方の失敗は最悪だ。先程のケツロケットは本当に死にそうで泣きそうだった。

 

 

「……………」

 

 

情報を交換したことを知らない大樹はただ無言を貫いた。何も喋る気はないようだ。

 

 

『デンデンデンデデッ、デンデンデンデデン!』

 

 

「「「?」」」

 

 

突然小さな声が聞こえ出した。声は段々と扉の奥から近づいて来る。

 

 

『デンッ、デンッ、デンッ!!』

 

 

登場したのはまたしても二人組。しかも、それは大樹に一番効いた。

 

―――黒ウサギと、まさかの男と組んでいたからだ。

 

 

「う、ウサギと(エム)のシンクロッ」

 

 

「私もケツロケットを受けたいお願いします」

 

 

ラタトスクの副司令、神無月(かんなづき) 恭平(きょうへい)である。

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

「「「これは酷い」」」

 

 

あまりの衝撃的な光景に三人は頭を抱える。耳と目を塞いでしまいたい。

 

顔を赤くした黒ウサギ。無理をしているのが分かるが、少しだけ応援してやりたい。

 

 

「ふ、副司令さんいつものやってみてん!」

 

 

「聞きたいですか私の武勇伝(ぶゆうでん)!」

 

 

「その凄い武勇伝を言ったげて!」

 

 

「ぅぅぅぅうん伝説ベストテンッ! レッツゴー!」

 

 

おいおいおい。結構古いネタを丸パクリ行くのかコイツら。というか神無月があっちゃんポジションで行くのか。

 

 

「道を歩けば歓声に包まれる!」

 

 

「裸ですから当然悲鳴!」

 

 

「「武勇伝、武勇伝、武勇デンデンデデンデン、レッツゴー!」」

 

 

―――まぁまぁ面白い。

 

 

「司令官の飴は買い揃えてる!」

 

 

「凄い! 罰を受ける為に全てハズレ味!」

 

 

「「武勇伝、武勇伝、武勇デンデンデデンデン、レッツゴー!」」

 

 

―――意外とセンスあるんじゃないかこの二人。

 

 

「部下には厳しく教育だ!」

 

 

「凄い! 罰の仕方はコスプレで訓練!」

 

 

「「武勇伝、武勇伝、武勇デンデンデデンデン、カッキーン!」」

 

 

―――まじ? まじか神無月。

 

 

「凄いですよ、副指令さん凄過ぎますよー」

 

 

「では次は黒ウサギさんがやってみてください」

 

 

「え?」

 

 

「大丈夫、あなたならできます。というわけで……黒ウサギさんの伝説ベストテン! レッツゴー!」

 

 

今度は黒ウサギがあっちゃんポジション!? というか嫌な予感がする!

 

 

「大樹さんに猛アタック!」

 

 

「彼は童貞ヘタレなので全く動じない!」

 

 

「「武勇伝、武勇伝、武勇デンデンデデンデン、レッツゴー!」」

 

 

「うるせぇよ!!」

 

 

思わずツッコミを入れてしまう大樹。原田と慶吾はホッと息を吐いていた。

 

 

「それでも大樹さんに猛アタック!!」

 

 

「既に三人、後に三人の嫁を持つ!」

 

 

「「武勇伝、武勇伝、武勇デンデンデデンデン、レッツゴー!」」

 

 

「ホントもうやめて黒ウサギ! ちょッ、涙目で見ないで!」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

これには大樹も動揺する。完全に大樹を狙った攻撃だった。

 

 

「大樹さんとファーストキス!」

 

 

「凄い! ノーカンな上に双葉さんに奪われる!」

 

 

「武勇伝、武勇伝、武勇デンデンデデンデン、カッキーン!」

 

「ふぇえ……!」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

「マジで俺が悪かったから許してくれ黒ウサギぃ!!!!」

 

 

決めポーズを決める神無月と泣きそうな顔でポーズを取る黒ウサギ。大樹はその場で土下座して額を地面にこすりつけていた。

 

原田は「あーあ、泣かした泣かした」と大樹を責め、慶吾は面白くなさそうな顔をしている。双葉の線が気に入らなかったようだ。

 

 

「しゃらくさぁい!!」

 

 

メキッ!!

 

 

「きゃ、きゃーってええ!? 自分を殴ってどうしたんですか!?」

 

 

黒ウサギを殴らず自分で殴ったぞ神無月。体張るなぁ。

 

 

「最終手段は押し倒すことです!」

 

 

「全くカッコ良くないですよ!?」

 

 

「はーい! 黒ウサギに押し倒される準備満タンです隊長!」

 

 

「大樹さんは黙っててください!」

 

 

「意味はないけれど、ムラムラしたからぁ~」

 

 

「勝手に絞めようとしないでください!?」

 

 

「とりあえず突然の問題です。アニメ『デート・ア・ライブ』第一話で司令官が穿()いていたパンツは何色でしょうか!」

 

 

「黒ウサギに知られていない酷い問題が!?」

 

 

「ピッ……………分からないなぁ」

 

 

「大樹さぁん!! 今答えようとしていましたね! あとで全員でお話しましょうね!」

 

 

「誤解だぁ!! 答えが合ってるか分からないし、そもそも見たんじゃない。見えてしまったんだ!」

 

 

「NO! 言い訳無用です!」

 

 

わーわーと騒ぎ出す大樹と黒ウサギ。答えるチャンスが回って来ている二人だが、

 

 

((ピンク……で合っているのか!?))

 

 

当然、答えを知るわけがない。答えは神無月や大樹みたいな変態しか知らないだろう。

 

原田と慶吾は目を合わせるが、お互いに答えて良いよと譲っている。

 

恥を捨てて答えるか、プライドを守り情報を捨てるか。究極の選択だ。

 

 

「そうですか! そんな大樹さんは浮気が大好きですか!」

 

 

「おーおーおー! そうだよ! もうそれでいいよ! 浮気が超絶大好きな人気主人公の大樹様で良いよ! 弁当で分かっただろ! 俺の事が大好きな奴が———!」

 

 

「―――ムキーッ! 今日という今日は怒りましたよ大樹さん!! 泣きながら顔面スライディングオーバーヘッドキャノンブラスト・今日は赤飯だ!土下座で謝っても———!」

 

 

「夫婦喧嘩くらい他所でやれや! あと最後の土下座は何だって!?」

 

 

口喧嘩はやがて刃傷沙汰に発展。涙目で黒ウサギは槍で大樹を突きまくるが、身軽に回避していた。

 

 

「そ、それ私にもお願いできませんか!?」

 

 

「アンタやられたら即死だぞ。快感通り越えてるついでに三途の川まで通り越えるぞ」

 

 

神無月が黒ウサギに馬鹿な事を頼んでいた。原田が忠告するが、神無月の耳には届かない。

 

 

「神の力が封じられているから勝てると思った? 残念! こちとら大樹という単語が作られるくらい最強クレイジーダイヤモンドなんだよぉ!」

 

 

「ちょっと席を外しますね皆様! 黒ウサギ、今から十六夜さんとデートをしに行こうと———!」

 

 

「必殺! 泣きながら『顔面スライディング空中十回転オーバーヘッドギガキャノン砲ブラスト・今日は赤飯とサンマの塩焼きだ!に眼鏡を添えて』土下座だぁ!!」

 

 

「もう土下座の概念ないだろそれ!? ってうわぁ!? うわぁ!?」

 

 

「き、気持ち悪ッ!? 何だ今の動きは!?」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

黒ウサギの浮気に大樹は即座に反省。表現不可能な動きで土下座を繰り出した。原田と慶吾が動揺する程の土下座である。

 

最初の顔面スライディングで顔が血塗れだが、黒ウサギは頬を膨らませたまま許そうとしない。

 

 

「分かった! さっき言っていたキスをしよう! それが駄目なら雰囲気と流れを考えてデートもしよう! それでも許してくれないなら……そうだ、プロポーズするからそのまま結婚しよう!」

 

 

「本編崩壊待った無し展開を番外編でするなハゲぇ! ガン無視しろ黒ウサギ!」

 

 

「坊主ハゲのお前に言われたくねぇよ! 悔しかったら七罪に……おっと死人は結婚できないだったな。めーんご☆」

 

 

「お前は本当に、マジで、本気で、絶対に殺すッ!!」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

ブチギレじゃないですか。ヤダー。

 

しかし原田の声は虚しく空振る。黒ウサギは満更でもなさそうな反応だったからだ。

 

 

「い、一日だけじゃ嫌ですッ……」

 

 

「分かった。で、どのくらいする? 俺は百年先まで予定は空いているけど」

 

 

「駄目だ! もう二人の世界に入ってやがる! 普通百年先まで予定作らねぇよ、普通の人間は真っ白だろ」

 

 

「普通の人間なら、な! 俺と黒ウサギは何百年も愛し合えるので!」

 

 

「開き直ったら一層性質(たち)悪いよな、お前!」

 

 

慶吾は呆れて会話から離脱。神無月は「問題……忘れてませんか?」と大事なことを呟いていた。

 

 

「で、でも駄目ですッ! そうやってまた浮気をするんですから!」

 

 

「大丈夫だ! 美琴たちだけしか愛さねぇから!」

 

 

「何も知らない一般人がこのセリフ聞いたら大樹最低だよな」

 

 

「原田はいい加減黙れ! というか死ね! いいか黒ウサギ。この俺、楢原 大樹は浮気をしないことを堅く誓います!」

 

 

ピロリロリーンッ!!

 

 

「「「……………ん?」」」

 

 

その時、今まで聞いたことのない音が部屋に響き渡った。

 

原田と慶吾が首を傾げる中、大樹だけは嫌な予感がした。

 

 

『えー、たった今新しいルールが追加されました。ケツロケット審査委員の方々が、楢原 大樹は浮気をしたと判断した場合、タイキックになります』

 

 

「ふぁッ!?」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

突然の追加ルールに大樹は酷く動揺する。そして、

 

 

「「ざまああああああああああぁぁぁ!!!!!」」

 

 

ここぞとばかりに馬鹿にする原田と慶吾。人間、ここまで(みにく)い仕返しはそうそう見ない。

 

泣きそうな表情で黒ウサギを見る。騙されたことに絶望していると、

 

 

「く、黒ウサギのせいで……あの、大樹さん。黒ウサギは、その、知らなかったのですよ……」

 

 

「悪かった! 疑って悪かった!」

 

 

黒ウサギに裏切られていないことが大樹に取って唯一の救いだった。

 

 

(だ、大丈夫だ……俺は浮気しない。皆への愛を証明するんだ!!)

 

 

しかし、より一層大樹は気合を入れることができた。どんなに誘惑されても唾を飛ばせるくらいの勢いで―――!

 

 

「お願いですからそろそろ答えてください! 司令官のパンツは色を!」

 

 

「うるせぇ!! ピンクと白のストライプだろ! 今は俺の愛が試されているだろうが!」

 

 

先程から問題問題うるさい神無月に吠える大樹。今はそれどころじゃ———おや?

 

 

デデーン!!! 大樹、タイキック!

 

 

「……あッ」

 

 

「救いようの馬鹿ぶりにビックリだわ」

 

 

「馬鹿は学習しない。どれだけ頭が良くてもな」

 

 

原田と慶吾がニヤリと笑みを浮かべている。ダラダラと滝のように汗が流れる大樹に、裁きの鉄槌(てっつい)が下される。

 

 

「よぉ大樹」

 

 

「―――――」

 

 

部屋の中に入って来た男を見た大樹は絶句する。いやいや、それは一番駄目だろと。

 

登場したのは逆廻(さかまき) 十六夜(いざよい)。手にグローブをしているが、絶対に意味がない。

 

―――それタイキックじゃない。完全に命を狩りに来てる。俺からは報酬も素材も出ないからな。剥ぎ取りとかできないからな。

 

 

「待てェ!? 死ぬから! それ死ぬから!」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

顔面蒼白で取り乱す大樹。それを見てゲラゲラ笑う原田と慶吾。神無月が指を咥えて羨ましそうにしているが、黒ウサギは両手を合わせて謝っている。

 

 

「田〇のタイキックでもここまで強い威力じゃないじゃん! ちゃんとプロの人を呼んでよ! タイキックじゃねぇよ! 命の場外ホームランキックだろ!」

 

 

「大丈夫だ。一割抑える」

 

 

「九割本気で蹴る気じゃん!?」

 

 

「仕方ねぇな。15パーセント抑えてやる」

 

 

「全然減ってねぇよ! おい馬鹿!? 俺を牢屋から出すながぁふ、あの、待ってお願い、やめ、やめっ……やめてくれぇええええええ!!!!」

 

 

その瞬間、大樹はケツに神の力を一点集中させた。

 

神の力を封じられているにも関わず、奇跡に近い偉業を成し遂げていた。

 

それは自分のケツを……己が尻を守る為に起きた刹那。

 

恒星を砕く威力すら耐えうるケツが、確かにそこにあった。

 

 

バギンッ!! ドゴオオオオオオオオォォォ!!

 

 

―――まぁ恩恵ぶっ壊すような最強様のね、十六夜のキックをね、完璧に受け止めれるとは言っていない。残念でした。

 

 

鼓膜の耳が破れるかのような音が轟いた。周囲に居た人たちは衝撃波で体が後ろに吹き飛びそうになる。

 

大樹の上半身は牢屋の壁の中にめり込み、意識を手放した。

 

さすがに、この光景には十六夜以外、誰も笑えなかった。

 

神無月が無言で大樹の部屋の中に一枚の紙切れを置くと、黒ウサギと十六夜も一緒に退室する。

 

 

「彼は特殊な訓練を受けてあります」

 

 

「よ、よい子はマネしないでくださいね! 絶対に!」

 

 

「えーっと、何だっけな。ペケポン?」

 

 

最後は酷い絞め方をする三人。原田と慶吾は、もうどういうリアクションをすればいいのか分からなかった。

 

 

________________________

 

 

 

 

「おーい! 僕ね、さっき姫路さんからチョコを貰ったんだ! 一緒に食べ———」

 

 

 

________________________

 

 

 

「うおぉ!? 明久それ死んでるぞ!?」

 

 

飛び起きるように生き返る大樹。だが上半身が壁に埋まっているせいで身動きが取れない。

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

「痛い痛い! ちょっと誰か助けて!」

 

 

「無様だな」

 

 

慶吾は鼻で笑うが、本人は冗談じゃないと必死に壁の中から出ようとしている。だが抜ける気配が全くない。それほど深くめり込んでいた。おのれ十六夜。

 

 

「ご、ご、ごおぉ!! ごおおおおおおおお! って本当に抜けねぇ! 岩に角が刺さったディ〇ブロス以上に抜けないぞこれ!」

 

 

狩猟(しゅりょう)チャンスか?」

 

 

「まずは尻尾から斬るか」

 

 

「前の?」

 

 

「当たり前だろ?」

 

 

「そこぉ! 不吉な会話するんじゃねぇ! 前尻尾ってお前完全に―――!」

 

 

ズボッ!!

 

 

会話しながら何度も力を入れていると、やっと脱出することに成功した。勢い余ってそのまま後ろに転がり、牢屋の鉄格子に後頭部をぶつける辺りさすが主人公。鉄板ギャグの回収を最後まで忘れない。

 

 

「うぅ……頭に響く痛さだ……!」

 

 

頭を抑えていると、原田と慶吾の様子が明らかにおかしかった。

 

 

「忘れていた記憶……思い出すのです」

 

 

「ルタラッタッタールタラタララの歌を」

 

 

「―――いやどうしたお前ら」

 

 

ギリギリケツロケットを回避する程度の動揺を見せる大樹。原田は大きく手を広げ、慶吾は何度もその場でジャンプする。

 

 

「神よ! 私は『ビア〇カ教』に入りました。フ〇ーラとかデ〇ラとか選ぶ鬼畜野郎には死の鉄槌を!」

 

 

「ごちうさ狂」

 

 

「わっけわかんねぇお前ら!!」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

全く意味の分からない二人の発言に大樹にケツロケットが五ヒット。特に慶吾は威力が高かった。ピョンピョンしてんじゃねぇよ狂人が。

 

苦しむ大樹を見た二人は満足そうにニヤリと笑う。コイツら……俺を潰しに来ているな!

 

 

「……終盤に強いのは〇ローラだけどな。回復魔法って一番大事だからな?」

 

 

「よーし表に出ろ大樹。いつも下半身に聞いているお前なら分かってくれると思っていたが違うようだな。千切ってくれる」

 

 

「上等だゴラァ。誰がいつも下半身に聞いてんだおい」

 

 

お互いに牢屋の中から睨み合い中指を立てる。そして原田の視線が不自然な方向なのにも気付いた。

 

 

「チッ、馬鹿が」

 

 

舌打ちと小さな声で罵倒する慶吾。原田がしまったと気付いた時にはもう遅い。大樹の牢屋の中に一枚の紙が落ちているのを発見した。

 

 

「あ! パンツの答えか!」

 

 

「「タイキック! タイキック!」」

 

 

「うるせぇ!! パンツ発言程度で蹴られてたまるかぁ!!」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

しっかりとケツロケットは回収する大樹。一瞬、本当にタイキックされるのではないかとヒヤッとした。

 

 

『No.08 非常事態発生。感染の疑いを持つ三人に与えた勝利条件の大きなミスを発見。二名の感染者の配った紙が交換されて配布されていた。至急、二名の紙の交換を急ぎ———『文字がペンで潰されている』―――結果、ゲームは続行される為、配布した紙の条件ではなく、本来の勝利条件で判断することを決定。二名の紙が交換されたことをここに記す』

 

 

「なッ!?」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

盤上をひっくり返すような内容に大樹は驚きを隠せない。もしかして、俺の勝利条件が交換された可能性がある!?

 

そんなリアクションを見せた大樹に原田と慶吾は仕掛ける。

 

 

「どうした? 重大な事が書かれていたか?」

 

 

「ああ! 何でもあるぜ! いや、あるぜぇ!?」

 

 

「嘘をつけないこと、忘れてないかお前?」

 

 

思わず原田も呆れてしまう勢いのある答えに大樹は頭を抱える。普通に忘れてたわ。

 

 

「いや、これは、そうだな……条件次第でお前らにも公開しようと思う」

 

 

「……大樹が頭を使うと違和感半端ないな」

 

 

「原田には言わないでいいな」

 

 

「いつも神の力でゴリ押す大樹様。反省しました」

 

 

「絶対してないだろ」

 

 

「ハゲは放っておけ。それで条件は何だ? 持っている紙か?」

 

 

「ハゲ言うなよ!」

 

 

「お前らの勝利条件を言え。紙はいらない。髪は居る奴がいると思うが」

 

 

「大樹の次は坊主いじりか! 今度は俺が標的か!?」

 

 

「いいだろう。俺の勝利条件だ」

 

 

ピッと慶吾は大樹の牢屋の中に紙を飛ばす。それを広げて『感染者ではない者にワクチンを打たせること』の勝利条件を確認した。

 

即決した慶吾に原田は少し驚くが、新たな情報を得るには自分の手札を切らなくてはならない。原田も大樹の牢屋に紙を飛ばす。

 

 

「……………あッ」

 

 

そして、原田の勝利条件である『楢原 大樹と宮川 慶吾の勝利条件を満たさないように邪魔をすること』を見た大樹は全てを察した。

 

原田は見せるべきではなかった。大樹だけには。

 

 

―――紙が交換されたのは大樹と慶吾だ。大樹は確信した。

 

 

理由は簡単。だって自分の勝利条件を満たさない勝利条件ってどういうこと? 不可能じゃん。

 

慶吾と原田が交換する線もない。というわけで、

 

 

「黒幕。とりあえず原田は落とした。『No.08』と原田の勝利条件を渡すわ」

 

 

「はぁ!!??」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

突然の裏切りに原田は唖然。紙を受け取った慶吾は急いで確認すると、ニヤリと笑った。

 

 

「なるほどな。勝利条件の謎は解明したな」

 

 

「ちょっと待て!? 俺にも見せろ! まさかと思うが……!」

 

 

ビリビリビリビリッ

 

 

嫌な予感は、いつだって当たる物だ。慶吾は紙をビリビリに破り捨て、悪党の笑みを見せた。

 

 

「おっと手が滑った」

 

 

「外道共がぁ!!!!」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

―――そして、タイムリミットがすぐそこまで迫っていた。

 

 

________________________

 

 

 

【━ 全 て の 情 報 ━】

 

 

『No.01 感染者の味覚は狂う。どんな食べ物飲み物を口にすると劇物に変化する特徴有り』

 

 

『NO.02 三人の内、奇跡的に一人だけ感染者を早期発見に成功。ワクチンを打ったが、副作用として嘘をつけない症状有り』

 

 

『No.03 感染者にワクチンが打たれない場合、ケツロケットの回数が倍に増える症状を確認』

 

 

『No.04 勝利条件を達成できない者は、厳罰としてケツロケットの回数を一回増やす』

 

 

『NO.05 ゲームの最後にワクチンを投与する為の投票を行う。もし全ての票がバラけた場合、ワクチンの投与を中止とする』

 

 

『NO.06 小麦粉150グラム、砂糖50グラム、塩一つまみ、ピーナッツバター40グラム、サラダ油30グラム、卵黄1個、ベーキングパウダー小さじ2分の1を用意して———以上、クッキーの調理レシピ』

 

 

『No.07 NO.01の感染症状のみ治療を可能とした薬を完成。ただし、感染者以外の者が飲むと問題は無いが、感染者には劇物のような酷い味になる。その後、症状は消えて味覚は元に戻る』

 

 

『No.08 非常事態発生。感染の疑いを持つ三人に与えた勝利条件の大きなミスを発見。二名の感染者の配った紙が交換されて配布されていた。至急、二名の紙の交換を急ぎ———『文字がペンで潰されている』―――結果、ゲームは続行される為、配布した紙の条件ではなく、本来の勝利条件で判断することを決定。二名の紙が交換されたことをここに記す』

 

 

 

【━ 勝 利 条 件 ━】

 

 

・楢原大樹の偽の勝利条件

 

『感染者にワクチンを打たせること』

 

→ 『感染者ではない者にワクチンを打たせること』が本来の勝利条件。

 

 

・宮川慶吾の偽の勝利条件

 

『感染者ではない者にワクチンを打たせること』

 

→ 『感染者にワクチンを打たせること』が本来の勝利条件。

 

 

・原田亮良の勝利条件

 

『楢原 大樹と宮川 慶吾の勝利条件を満たさないように邪魔をすること』

 

 

 

________________________

 

 

 

『―――投票の時間です。ワクチンを投与すべき人間を選んで下さい』

 

『―――投票の時間です。ワクチンを投与すべき人間を選んで下さい』

 

『―――投票の時間です。ワクチンを投与すべき人間を選んで下さい』

 

 

各自の牢屋の前に現れた画面に原田と慶吾は驚いていた。投票システムのことを知っているのは大樹だけなので、当然の反応だろう。

 

画面の端にある『六十秒』の制限時間がカチカチと減って行く。最初にボタンを押したのは大樹だった。

 

 

『投票完了。しばらくお待ちください』

 

 

「ん? どうした二人とも? 早く投票しろよ」

 

 

大樹の言葉に嫌な顔をする原田と慶吾。

 

二人の勝利条件を知ったからにはこの投票の勝利方法は簡単に理解した。

 

感染していない者―――慶吾に打つことができれば俺の勝ち。

 

感染者の原田に打つことができたら慶吾の勝ち。

 

そして、三人の票がバラけたら原田の勝利だ。

 

 

(クックックッ、まさか俺が『俺』に入れるとは思うまい)

 

 

原田は俺か慶吾のどちらかに入れるはず。そして慶吾もまた、原田か俺に入れる。

 

もし嘘がつけないことが感染者の特徴なら、俺はワクチンを打たれるべきだ。これは勘だがm感染者であり続けるのは不味い気がする。(※感染者のままでいるとケツロケットの回数が倍になる)

 

 

(だから保険の俺。もしワクチンを打って感染者じゃなくても、俺は勝利条件を満たすことができる……完璧だ)

 

 

勝利をほぼ確信した大樹は、楽しむように二人を見ていた。

 

 

________________________

 

 

 

次にボタンを押したのは慶吾。

 

 

『投票完了。しばらくお待ちください』

 

 

(最初は大樹にワクチンを打てば勝てるはずだったが、感染者は原田だろう)

 

 

投票したのは原田。勝利条件が変わった今、大樹に投票する理由はない。アイツはワクチンを打っているのだから感染者ではないことは確定的。

 

この投票で勝負を決めるカギとなるのは、一番勝利条件が難しいアイツだ。

 

 

________________________

 

 

 

原田は制限時間ギリギリまで考えた。

 

 

『投票完了。しばらくお待ちください』

 

『―――全ての投票を確認。結果を発表します』

 

 

ついにボタンを押した原田は両手を合わせて願う。

 

情報も勝利条件も、不利な立ち位置だった。だからあとは神頼み。

 

 

 

 

 

『―――投票結果。楢原 大樹にワクチンを投与します』

 

 

 

 

 

「なんだと!?」

 

 

「マジか!?」

 

 

「なるほど」

 

 

 

原田に投与できなかった慶吾が驚き、ワクチンの投与が決まったことに原田が悔しそうな顔をする。大樹はふーんっと言った感じで対応していた。

 

まぁ大丈夫。とりあえず原田の勝利条件は潰した。あとは俺が感染者かどうかの———

 

 

「ちゅ、注射の時間ですよぉ」

 

 

「ほのか。大丈夫だからもっとリラックスして」

 

 

―――おっと大丈夫だ。血塗れのナース服で来た程度、俺は動揺しない。

 

光井(みつい) ほのか、北山(きたやま) (しずく)の二人が入って来た。

 

格好はアレだが、焦ることはない。

 

 

「大樹。セクハラしたらタイキックだぞ」

 

 

「何で俺がセクハラする前提なの?」

 

 

負けを悟ったのか原田がやる気のない声で忠告して来た。

 

牢屋の鍵が開けられ、ほのかと雫が注射を持って入って来る。

 

右腕をほのかに抑えられ―――煩悩滅却し始める。

 

 

(当たってるけど落ち着け。動揺すればケツロケットとタイキックの(ダブル)アウトだぞ)

 

 

すっげぇ弾力とか柔らかいとか気にするな。アレだ。ヘルシェイク矢野のことだけ考える。

 

 

「えっと、どこ?」

 

 

「多分この辺」

 

 

不安になる声が聞こえて来るが無視無視。早くチクッと注射してくれ。

 

 

―――ギュゥイイイイイイン!!!!

 

 

「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待てストップだこの野郎ぉ!!」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

無視できない音を耳にした。俺は急いで二人を止めた。

 

二人が持っているのは完全に注射じゃない。ドリルだ。壁に穴を開けるくらいの。おかしいだろ!!

 

 

「完全にドリルじゃねぇか! 注射じゃねぇよ! 薬も何も投与できねぇよ! 命の灯に風穴開くだけろ!」

 

 

「で、でも手順は間違っていないです!」

 

 

「手順をしっかりと踏んでも一大事だから! 手順自体がアウトだから!」

 

 

「そうよほのか。まずは慣らさないと」

 

 

「何を慣らすんだよ!? 痛みにか!? 痛みを慣らすのか!?」

 

 

「あ、そっか」

 

 

「ほのかぁ!! 納得できる部分がどこにもない、ま、待てぎゃあああああああああ!!!」

 

 

―――壮絶な光景に、原田と慶吾の顔は真っ青だった。

 

 

________________________

 

 

 

『宮川 慶吾の勝利条件―――失敗』

 

『原田 亮良の勝利条件―――失敗』

 

『以上二名はケツロケットの回数を一回増加します』

 

 

「―――フハハハハッ、ざまぁ……」

 

 

「こんなにも元気がない罵倒初めてなんだが」

 

 

ワクチンを投与された?大樹はぶっ倒れていた。あまりにも酷い光景だったせいで同情してしまう。

 

大樹の手錠も外され、牢屋から出ることできた。

 

 

『楢原 大樹の勝利条件―――成功』

 

 

「ハハッ、成功か……本当に成功か?」

 

 

本当に同情する。

 

 

『次に感染者―――原田 亮良の症状は悪化。ケツロケットの回数が倍に増える』

 

 

「うぐぅ……六回の倍だから……十二回って……ふざけるなよぉ……!」

 

 

「えげつないな……えげつない……」

 

 

原田は苦虫を噛み潰したような顔になるが、大樹を見た瞬間冷める。正直、大樹のワクチン投与が一番えげつない。

 

 

『最後に楢原 大樹』

 

 

そして、今日一番のえげつない瞬間です。

 

 

 

 

 

『―――二度のワクチン投与で感染菌が増殖爆発を確認。ケツロケットの回数が十倍になります』

 

 

 

 

 

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」

 

 

「「!?!!??」」

 

 

スパパパパパアアアアアンッ!!!

 

 

当然のどんでん返しに三人は驚愕した。十倍―――つまり五十回だ。

 

 

シュパドゴオオオオオオンッ!!!!

 

 

想像を絶する痛み―――いや、創造神すら恐れる痛みだ。大樹の体は前に吹き飛び、壁にめり込んだ。

 

お尻から煙が出ている。その破壊力に二人は戦慄した。

 

 

「……いや、そろそろ死人出るぞ」

 

 

「本気で帰らせてくれ……!」

 

 

原田と慶吾の目から、ついに涙が落ちた。

 

________________________

 

 

追加報告

 

NO.09 二度のワクチン投与は感染菌の増殖爆発を促す作用を確認。絶対に投与を禁止すること。

 

NO.10 先生なら、必ずゲームに勝つと信じています。猿飛(さるとび) (まこと)医師より。

 

 

 

 

 

 




現在のケツロケット回数

楢原 大樹 442回

原田 亮良 313回

宮川 慶吾 542回


三人「本当にヤバイ」


大樹「マジで四桁行くぞこのままだと」

原田「というか俺のゲーム絶対にケツロケットの回数増えるじゃねぇか」

慶吾「せめてワクチンを投与していれば六回で済んだのかもしれないな」

大樹「俺の五十回に比べたらいいだろ? お? お?」

原田「えっと、その、すまん……」

慶吾「頼むから次で終わってくれ……」


次回―――番外編最終回。


三人「やったぁ!!!!!」


―――怒涛のケツロケットの回数!

―――敵は全員! 襲撃者は容赦無く噛み付く!


三人「……………」


―――目指せ! 夢の五桁!


三人「本気でやめろ!!」

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