どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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作者から一言。

―――「こう考えるんだ。クリスマスってのはゲームのイベントで最も美味い事が多い日なのだと。彼女とか遊んでいる場合じゃない、そういう日なのだと」


箱庭旅館で絶対に動揺してはいけない24時!後編!

『―――You Win!! Perfect!!』

 

 

という画面に大満足する大樹。一度のダメージも食らうこともなく勝利を収める。俺のラ〇ナは最強だ。

 

対してツ〇キは終始ボコボコにされて負けていた。チャージする時間すら与えなかったな。

 

どよーんッと黒いオーラを発する対戦相手。絶望したかのように落ち込んでいた。

 

 

「ど、どうして理子の攻撃が全部ガードされるの……だいちゃん、チート使ってる?」

 

 

「馬鹿め。勝負はする前から決まっていたんだよ」

 

 

「キャラ性能とか言わないよね?」

 

 

「機体の置き方だ。隣でお前の手元を見ながら戦えるなら余裕だわ。予測も読みもクソもねぇ」

 

 

「普通にズルいんですけど!?」

 

 

勝負をする前はあんなに意気込んでいたのに、意気消沈していた。「理子が勝ったら一つだけ何でも言うこと聞いてね?」とか余裕の会話をしていたのに。俺の動体視力(隣を見る)を舐めていたのが理子の敗因だ。

 

 

「これで一勝。もう一度勝てば通れるんだよな?」

 

 

「ええ。ですが、ここから二回連続で負ければ終わりですが」

 

 

バトラーの笑みは崩れない。少しは焦ってくれた方が面白いのに、面白くねぇ奴だな。

 

箱の中に手を入れてカードを引く。次のゲームは『ビリヤード』だった。

 

 

「黒ウサギに任せてください! ビリヤードには少しばかり自信があります!」

 

 

「そうだな。万由里はやったことがないし、レキにやらせるか」

 

 

「何故黒ウサギをスルーしたのですか!?」

 

 

「嫌な予感がしたからだよ! 今まで見て来たがレキはかなりのチートキャラだぞ! ビリヤードくらい簡単に勝てる! 変に気合を入れる黒ウサギは嫌な予感しかしねぇ!」

 

 

ワーワーワーワーと黒ウサギと言い合いになるが、最後は上目づかいのお願いでノックアウト。レキがルールを知らないという決定的な点があることで黒ウサギがやることになった。

 

ちなみに、こっそりとレキに聞いてみた。

 

 

「今から黒ウサギがあの棒で白い玉を突くんだが……一度で全部の玉をポケットに入れることは可能か」

 

 

「……………」

 

 

無言のレキはしばらくビリヤード台を眺めた後、頷いた。

 

 

「はい」

 

 

―――黒ウサギ。頼むから負けないでくれ。ここでお前が負けたら凄く後悔することになる。というかレキ、チート過ぎない? ……追い打ちに、俺に細かく説明されても全然分からないからな。力でゴリ押す俺には理解できない領域の説明しないでくれ、レキ様よ。

 

 

「ま、待ってくれ!? ビリヤードはやったことがねぇ!」

 

 

「すいません、クジ引きの結果ですので。ちなみに、誰もやったことがないのでご安心を」

 

 

「何で箱の中に俺たちが不利になるカードを入れてあるんだよ!」

 

 

「すいません、ネタ不足で」

 

 

「舐めてんのか!?」

 

 

……どうやら敵はFクラスの代表、坂本(さかもと) 雄二(ゆうじ)らしい。

 

文月学園の制服を着崩し、複雑そうな顔でビリヤード台へ近づく。俺も近づいてからかいに行く。

 

 

「よぉカモ。最近、畳が恋しくなって来ているらしいな」

 

 

「大樹か……お前が戻って来てくれるならクラスを下げる真似なんてしねぇよ」

 

 

「あん? 俺の力が無くてもあの馬鹿共なら抵抗する方法なんていくらでもあるだろ。訳アリでAクラスを放棄したのか?」

 

 

「アイツらにはプライドが無いからな。土下座から靴舐め……終いに……いや、この話はやめよう。実は三年の連中がちょかいをかけてきてな。まぁ何とかなるさ」

 

 

終いに何するんだよアイツら。怖いなFクラス。

 

雄二の発言に安堵する。また誰もがド肝を抜く作戦を考えているのだろう。もう一回くらい、アイツらと一緒に暴れたいな。

 

 

「―――あとはFFF団さえ、抑えることができれば」

 

 

「それは難易度高いな」

 

 

厄介度で言えばあの集団はどのクラスの中でもトップクラスだからな。ホント厄介だから仕方ない。厄介さに関してはAクラスだわ。

 

そんな会話を終えて、まずは雄二のブレイクショット。カコンと気持ちの良い音と共に固めた玉がランダムな配置に変わる。

 

 

「そうそう、ルールは簡単にします。順番にポケットに落とすだけ。複雑な事はいりませんので」

 

 

「黒ウサギ。無理はしなくていいぞ。相手は初心者らしいからな。ブレイクショットで分かった」

 

 

「くッ」

 

 

バトラーの説明にニヤニヤする大樹。雄二が険しい表情するのは明白。黒ウサギが確実に一個入れることができるなら、雄二がミスした瞬間にこちらの勝利が決まる。雄二の表情から一切の動揺は見られなかったが、打ち方が素人だと物語っていた。そもそも最初のコソコソ話が聞こえたからな。

 

 

「分かっていますッ。簡単な位置なのでミスは絶対にしません」

 

 

不満そうに頬を膨らませながら黒ウサギはキューを構える。

 

打ち方はお手本になるような格好……格好……ガーターベルト。うん、やっぱりエロいな。というかあの打ち方、暴力的な谷間が更に強調されて上から見え―――!?

 

 

グサッ!!

 

 

「「め、目がぁ!!!」」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「よくも私の隣でそんな真似ができたわね」

 

 

両目を指で刺された俺は床をゴロゴロと雄二と一緒に転がる。万由里さぁん酷い! というか何で雄二も食らってる。

 

 

「浮気は駄目」

 

 

「居ない奴の声が聞こえるぞぉ!!」

 

 

居るわ。見えないけど多分居るよ。あなたの未来の奥さん。

 

 

バコオオオォォォン!!!

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

突然の破壊音に驚く。今度は何だ何だ!?

 

目を開けて見ればビリヤード台の半分が壊れていた。奥の壁にはヒビが入り、穴が開いている。

 

ビリヤード台の半分が無事な場所に黒ウサギは折れたキューを構えたまま呆然としていたが、俺と目が合うと、

 

 

「ち、力加減を間違えちゃいました☆」

 

 

ウッホ、マジか。ウチの嫁がとんでもないゴリラだった。

 

 

「俺みたいなことをするなよぉ!!」

 

 

「凄く心外ですが、今回は黒ウサギが悪いので謝ります! ごめんなさい!」

 

 

後ろでは原田たちがゲラゲラと笑っている。俺たちの不幸を本当に嬉しそうにするな。

 

やっぱりレキを出しておくべきだった。本能で嫌な予感を感じた時は素直に従うべきだ。

 

 

「情けないぜ大樹! 裏目に出たようだな!!」

 

 

「雄二。こっちこっち。そっちは壁だからな」

 

 

情けない。壁に向かって指を向けるなんて。目が潰されているのだから仕方ないのだろうが。

 

 

「一対一、これで次の勝負で決まりますね」

 

 

「お・ち・ろ、ヘイ! お・ち・ろ、ヘイ!」

 

 

バトラーの笑みに引き()らせる表情。外野の原田の変な掛け声に苛立ちが増しそうだ。

 

次のゲームは勝たなければ……! そんな必死になることで状況は更に悪化することになるのだ。

 

 

「次のゲームはですね……『乳首当てゲームです』」

 

 

「中学生か!」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

何なのこれ!? もっとカッコイイことしないの? 頭脳戦とかシンプルだけど相手の行動を読んだりとか……もっとこう……ノー〇ーム・ノーライフ的なことしようよ!

 

 

「まずは誰が出るのか選んで貰います」

 

 

「馬鹿が。俺に決まっているだろ」

 

 

「大樹さん。また不純な目的で———!」

 

 

「いやいやいや待てよ!? 今回は違うだろ!?」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

今回は図星を突かれたから動揺したわけじゃない。誤解を受けたから戸惑ったのだ。

 

 

「逆に黒ウサギがゲームに出て、相手の男に触られたら嫌だろ! それは俺も嫌だ! そんな男は分子レベルまで消滅させて殺す」

 

 

「……こ、今回は筋が通ってますね」

 

 

「今回だけじゃねぇよ! 大体だよ!」

 

 

「いつもと言わない辺り、大樹さんらしいですよ……はぁ、もし対戦相手が女の子でしたらどうするのか聞いても」

 

 

「もちろん乳首を触る」

 

 

「穿て! 【インドラの―――】!!」

 

 

「ちょちょちょちょ!? だから待てよぉ!!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

弁明の余地が無いのは理不尽! 槍が投擲される前に黒ウサギを止める。

 

 

「ここで負けたら一階に落とされるんだぞ! 今まで通って来た道を通って、コイツらに追いつけると思うのか!?」

 

 

「大樹さんのアホみたいな規格外な力を使えば、追いつくことなんて朝飯前です!」

 

 

「手錠おおおおおおォォォ!!!」

 

 

グリグリと黒ウサギの頬に手錠を押し付ける。忘れるな! 俺は今、無能なんだ!!

 

大樹の行動にそうだったと黒ウサギは思い出す。反論することはできないが、ささやかな抵抗として手で大樹の頬を押し返す。

 

 

「……俺と黒ウサギは出れない。ということで万由里。レッツゴー」

 

 

「殴り倒すわよ」

 

 

今度は万由里から拳をグリグリと押し付けられる。バランスを崩して後ろから倒れ、万由里は怒ったまま俺の上に乗った。

 

 

「何で私は良いってなるのよ! このウサギがそんなに大事!?」

 

 

「YES!」

 

 

「良い笑顔で言ってんじゃないわよ!!」

 

 

「ゴハッ!? 殴るのは反則ぐふッ!? れ、連続で名倉ぁ!? あぐッ、おごッ!?」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

何度も殴打されるが止められる気配がない。万由里も黒ウサギが止めないことを不審に思い、チラッと見ると、

 

 

「……これが本命の愛、ですよ」

 

 

ドヤ顔の黒ウサギ。さすがの俺もちょっとイラッと来た。可愛いから許すけど。

 

だが万由里は相当頭に来たようで、そのまま俺の首を絞め始めた。ちょッ、死ぬ。ヤンデレお断り。このままだと逝くから。普通に殺されそうになっているんだけど。

 

 

「あんなッ……あんなだらしない下品な胸をぶら下げている子がそんなに良いの!?」

 

 

「だらしなッ……!? 何てことを言うのですか!?」

 

 

「それでもちゃんと引き締まっている体がエロいんだろうが! ホラ! この脇腹から上にかけて―――」

 

 

「真面目な顔で答えるのはやめてください! もういいですから! 大樹さんが出て良いですからやめてください!」

 

 

全く必要のない争いに周囲の人間の目は冷たかった。何だよ。文句あるのかよ。いつものことだろ! 笑って許せよ!

 

 

「私が出なくていいのですか?」

 

 

「レキ。ここで俺がお前を出した瞬間、女の子から集団リンチされる。君は綺麗なままで居てくれ。鈍感な誰かさんの為に」

 

 

「微妙に鈍感な人が何を言っているのですか。ですが、レキさんを出さないことは評価します」

 

 

微妙に鈍感って……結構鋭い方だと思っていたのですが? 鈍感主人公みたいなことはしてない気がするのですが? 気のせいだったのか!?

 

 

「ではこちらの対戦相手を決めましょうか……まぁ、クジ引きですが」

 

 

「バトラー、来いよ。テメェの乳首ごと心臓を貫いてやるよ」

 

 

「さぁ命を懸けた乳首当てゲームの対戦相手は……この人だ!!」

 

 

お? 一瞬だけ顔色が悪くなったなアイツ。フハハ、ざまぁねぇぜ!!

 

 

「―――あの、その……できれば」

 

 

「……………フッ、言うな。何も言うな」

 

 

対戦相手はもじもじと恥ずかしそうに、けれど怯えている様子も見えた。

 

例え女の子でも容赦しない。そう決意していたのに、一瞬揺らぎそうになる。

 

大樹は女の子の前に立ち、両手の人指し指を立てる。

 

 

「悪いな、白雪。お前がキンジなことが好きなのは分かっている」

 

 

「……どうしても、駄目なの?」

 

 

そう、対戦相手は白雪。星伽(ほとぎ) 白雪だった。

 

武偵高校の制服を着ている彼女の胸は黒ウサギと張り合えるくらい大きい。今からこの指で突くと考えると……いや、もうやめよう。

 

 

「ああ。俺は……最低な人間だからだ」

 

 

この番外編では人を殺すことも躊躇(ためら)わない。親友すら蹴り飛ばした男だ。この程度……俺の障害にもならない。

 

 

「……では先行、大樹チームから」

 

 

バトラーの開始の合図でゲームは始まる。周りの人たちは静かに見守っていた。

 

ある者は耐え、ある者は静かに怒り、ある者は―――期待していた。

 

カッと目を見開き、一歩前に踏み出す。大樹はそのまま両手の人指し指を―――!

 

 

グサッ!!

 

 

「できるわけねぇだろうがぁよおおおおおォォォ!!!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

―――自分の鼻の穴にぶっ刺した。同時におびただしい鼻血の量が勢い良く噴き出した。

 

同時に周囲から歓声が沸き上がる。それは味方からも、敵からも、大樹の選択に興奮していたのだ。

 

 

「大樹さん、黒ウサギは信じていました!」

 

 

「私はゲームが始まる前から大樹チームの敗北を信じていました!」

 

 

「一応優しい主人公のお前なら絶対にやると思った!」

 

 

「よッ、チキン大統領! ヘタレ王!」

 

 

「ゴミクズ野郎! とっとと一階に落ちて死ね!」

 

 

歓声じゃないな。ほぼ暴言を吐かれている。褒めてくれるのはごく僅かの人間だけ。

 

 

「ありがとう! 初めては……ううん、全部キンちゃんにあげたいから……!」

 

 

「眩しいー……目を潰せば良かったかなぁ……」

 

 

こんなに健気な女の子の乳首とか触れるか。触る前に自分の指、折るわ。鼻は突き刺したけど。

 

頬を赤らめた白雪は懐に入れていたキンジの写真を見ながらニコニコしている。何だこの可愛い生き物。はやく貰ってやれよキンジ。

 

と、そこで異変に気付くのだ。

 

 

「……………あら?」

 

 

何か……体が落下していないですか?

 

ふと隣を見れば泣きそうな顔でこちらを見る黒ウサギ。反対を見れば呆れた顔をしている万由里。少し離れてレキも落下しているのが見える。

 

顔を上げれば宿から顔を出して手を振っている奴らが居る。それが原田たちだと分かると、叫び声を上げた。

 

 

「って一階からのやり直し方、雑過ぎるだろおおおおおォォォ!!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

大樹たちは旅館から強制的に放り出されてしまっていた。

 

地上まで千メートル。並みの人間が絶対に助からない高さから落下していた。

 

 

________________________

 

 

 

「ふぅ……清々しい気持ちだ」

 

 

目の前で忽然(こつぜん)と消えた大樹たち。キョロキョロと探していると、大樹たちの悲鳴が外から聞こえて来た。

 

ゲームに敗北した大樹は一階まで戻されることになっていたが、その戻し方はとても心が洗われたかのように気持ちが良い。

 

 

「……おい。さっき馬鹿が落ちて行ったぞ」

 

 

「おお、無事だったのか」

 

 

後ろから走って来たのは慶吾チーム。大樹の手によって一度悪魔たちが居る場所まで落とされていたが、追いつくことができたようだ。

 

原田はニコニコとした表情で説明をする。

 

 

「悪は滅びた」

 

 

「喧嘩を売っているのか?」

 

 

「違う違う。お前じゃない。言い直すと……大樹は死んだ」

 

 

「吉報じゃないか」

 

 

主人公の死を喜ぶ親友と悪役。まるで大樹が悪の親玉だったかのような雰囲気だ。

 

パチパチとバトラーが拍手をしながら二人に歩み寄る。

 

 

「面白い光景でしたね。次はあなた方の番ですよ」

 

 

「野郎……いいぜ、俺は大樹のように甘い人間ではないからな!」

 

 

「犬が。調子に乗るなよ」

 

 

そうして次は原田チームの挑戦。ゲーム内容は―――これだ!

 

 

「『スッポンポンパラダイス。真夏の虹色乳首。魅惑(みわく)の大雪祭』ですね」

 

 

「意味が分からねぇ上に乳首ばっかだな!?」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「ちく……び、ばっか……!?」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

原田のツッコミと一緒に戦慄する慶吾。彼らのケツもまた、無事で済むかはまだ分からない。

 

 

________________________

 

 

 

「いやー、死ぬかと思った」

 

 

「大樹さん。腕、折れてますよそれ」

 

 

プラーンと木の枝に垂れ下がる大樹。両腕もプラーンと折れて垂れ下がっている。確かに激痛だが、死ぬよりマシだろう。

 

あの高さから無事?なのは万由里の早急な対応のおかげだ。天使を発現させて黒ウサギとレキを捕まえ、俺を掴み損ねた。……だからこういう状況。速度が激減したのはいいけど、それでも両腕折れてるから。痛いから。

 

 

「ごめん……滑った」

 

 

「……まぁ良いよ。これよりすんごい怪我したことあるし……死んでも生き返るから」

 

 

「ごめん、何を言っているのか分からないんだけど」

 

 

「これが大樹さんクオリティってことですよ」

 

 

「黒ウサギのまとめ方の雑さに俺は悲しいよ」

 

 

黒ウサギと万由里に木から地へと降ろして貰う。旅館の入り口どころか近くの森に落とされるとは……神獣もウロウロしているなら早く旅館に戻った方が良いな。

 

 

「よし、行くぞ!!」

 

 

「大樹さん! それは足も折れていますよ!? 無理しないでください!?」

 

 

地を這いながらカッコイイ声で皆の士気を上げようとしていたが、駄目そうだ。俺の死期だけが絶好調のようだ。

 

ちょっと!? 全身ボロボロじゃないですか!? 全然助かってないじゃん! ゾンビみたいになっているよ!

 

 

「何で元気なのよ大樹……」

 

 

「うるせぇ! 今までの戦いからすればこの程度の怪我で弱音は吐かないんだよ! 俺を倒すなら神の力を完全に封じるなり、嫁に嘘を吹き込んで俺を正座させるなりしないと負けねぇんだよ!」

 

 

「あっそう」

 

 

リアクション薄ーい。そんな冷たい目で見下さないでください。黒ウサギも呆れないで。

 

その時、レキは狙撃銃を構えた。後方に構えたまま、レキは小さな声で呟く。

 

 

「敵です。大きいです」

 

 

おいおいまさか……!?

 

ドシンッ……ドシンッ……と重い音が腹の底から響く。前方からゆっくりと大きな影が近づいて来ていた。

 

 

『グォゴガァアアアアアアァァァァ!!!』

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

獣の咆哮に呼吸が止まるくらい動揺した。

 

姿を見せたのは四十メートルはあろう巨体。山のような牙に、大地のような毛皮。四足歩行の獣はオオカミに似ているが、大きさは圧倒的に違う。

 

唖然とする一同。黒ウサギがその名前を口にする。

 

 

「ま、まさか……神オーディンを食らったと言われる神獣……!」

 

 

「ほ、北欧神話のフェンリルじゃねぇかそれ!?」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

泣きそうな声で告げられる驚愕の事実。大樹が大声を上げると、フェンリルもまた、耳を(つんざ)くような咆哮をする。

 

 

『グォゴガァアアアアアアァァァァ!!!』

 

 

凄まじい暴風が吹き荒れて森の木々が全て薙ぎ倒される。吠えるだけでこの威力。

 

神すら食らう神獣に勝利の文字はない。敗北の一手から戦いは始まるのだ。

 

 

「無理だろこれ!? とっとと逃げるぞ!?」

 

 

黒ウサギが俺の体を掴んで跳躍、万由里はレキと一緒に【雷霆聖堂(ケルビエル)】に乗る。

 

だが敵も簡単には逃がさない。大きな口を開き、赤黒い光の球体を大きくしていた。

 

 

「で、デカイの来るぞぉ!!!」

 

 

刹那―――全ての音が掻き消えた。

 

視界を埋め尽くす閃光と全身に突き刺さる激痛の衝撃。人の意識が簡単に吹き飛ぶ威力だった。

 

数十秒後、気が付いた時には地面に倒れていた。いち早く目を開けた大樹は驚愕する。

 

 

「ッ……なんて威力だ……!」

 

 

視界が安定すると、目の前に広がるのは絶望の光景。生い茂っていた森が一瞬で消し飛び、大地を割っていた。

 

魔王アジ=ダカーハのようなデタラメな破壊力。神獣の強さは旅館に居る奴らとは桁違いだった。

 

 

「……黒ウサギは!?」

 

 

急いで辺りを見渡そうとした時、体にずっしりと重みを感じた。恐る恐る目を移すと、そこには怪我をした黒ウサギたちが圧し掛かっていた。

 

三人は俺を守るように覆い被さっている。レキと万由里は気を失い、黒ウサギは(まぶた)を閉じそうになっている。

 

 

「ばッ……馬鹿!? 何をやってんだ!? 俺なんかの……!」

 

 

「それは、聞き飽きましたよ大樹さん。黒ウサギたちのこと……よく分かっているクセに……」

 

 

微笑みながら言う黒ウサギ。それは決して無理した笑みではなかった。

 

黒ウサギはそのまま大樹の顔横まで体を動かし、頬と頬を合わせる。「それに……」と呟いた。

 

 

「ギャグで……人は死にませんよ」

 

 

「……………」

 

 

そのまま大樹に体を預けて眠るように気を失う。大樹の表情は―――変わった。

 

手錠の付いた腕で黒ウサギを寝かし、万由里とレキも隣に寝かせた。折れた足で立ち上がり、傍に落ちた黒ウサギのギフトカードを拾い上げる。

 

 

「そうだな。ギャグで死なねぇよな」

 

 

『グォゴガァアアアアアアァァァァ!!!』

 

 

凶悪な咆哮が再度轟く。すぐそこまでフェンリルが迫っていた。

 

 

「死なねぇけど、痛かったはずだ」

 

 

大樹の握り絞めていたギフトカードが光出す。空中に【インドラの槍】が放り投げられると、口で槍を掴んだ。

 

 

ドシュッ!!!

 

 

「調子に乗るなよ駄犬」

 

 

―――そのまま槍で自分の腕を切り捨てた。

 

手錠の付いた腕が落ちる直後、大樹の腕は元通りになっている。神の力を強引な方法で取り戻したのだ。

 

 

『ッ!?』

 

 

大樹の殺気にフェンリルが怖気づく。身を低くし、尻尾が垂れ下がっていた。

 

【インドラの槍】を握り絞めた右手が更にグッと絞め直す。槍先からは神獣すら恐れる神の(いかづち)が暴れ回っている。

 

 

「俺の大切な人に……友達にも手を出したんだ」

 

 

このゲームに置いて、絶対に本気にさせてはいけない男が本気になる瞬間。

 

積み上げられた土台は崩壊し、神や仏も、鬼や悪魔も、止める術を知らない。

 

ここから先はゲームというお遊びは終わる。始まるのは、本気の(たたか)い。

 

 

「大丈夫。ギャグで死なねぇよ……ちょっと痛ぇ思いをするだけだぁ!!!」

 

 

神獣よりも何十倍も小さい雄叫びにも関わらず、フェンリルの足腰が砕けた。

 

フェンリルの頭部に向かって超跳躍をした大樹。そのまま眉間に槍を叩きこんだ。

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!!!

 

 

第三宇宙速度を越え、亜音速を越え、音速を越えた。その衝撃は隕石よりも重く、神獣を(ほうむ)るには十分……いや、過剰(かじょう)な威力だった。

 

 

―――祝。楢原 大樹、遂に本気を出す。

 

 

________________________

 

 

 

 

「―――これで終わりだ! ブ〇ック・マジシャンでダイレクトアタック!」

 

 

「そんなッ!? この執事デッキが負けるなんて……!」

 

 

ライフポイントがゼロになったバトラーは両膝を地に着いて敗北を嘆く。原田はドヤ顔で最後の決めゼリフを告げる。

 

 

「お前の敗因は、手札が全て上級モンスターだったことだ!」

 

 

「盛大に手札事故起こしていたからな。あの執事デッキ」

 

 

慶吾の解説と共に進められた決闘。知識のない人たちでも楽しんで見ることができた。意外と説明上手な慶吾である。

 

原田チームは二勝一敗。無事に上へと進むことができるようになる。途中、ジャンヌのお絵かきがあったが、忘れることにした。

 

 

「では、次のチーム……いえ、最後のチームなのでしょう」

 

 

「フンッ、奴が再び戻って来ると思わんのか?」

 

 

「外に解き放った神獣は強力です。例え箱庭の神々が持つ力でも、突破することは不可能」

 

 

自信満々に語るバトラーに慶吾の口元が少しばかりニヤリと笑う。

 

 

「そうか……ソイツは良い事だ」

 

 

「それよりも自分の心配をしたらどうです? 対戦内容は……『単位上等!暴走数取団』」

 

 

「古いなッ」

 

 

「というわけで執事をやっていますが今日はガンガン飛ばしていくのでよろしくぅ!!」

 

 

「「「「「よろしくぅ!!」」」」」

 

 

「何かゾロゾロと来たぞ」

 

 

「ちょ、ちょっと!? 私もテンション合わせないといけないのかしら!?」

 

 

ヤンキー服に着替えたバトラーの後ろから来たのは暴走族のような格好をした人たち。ガルペスは呆れ、木更は焦っていた。

 

 

「……黒幕とか色々言われて、番外編でこんな扱いされているが、本編ではそんなことは一度もねぇからぁ! よろしくぅ!!」

 

 

「「「「「よろしくぅ!!」」」」」

 

 

「「ッ!?」」

 

 

早速順応する慶吾にガルペスと木更は驚きを隠せなかった。大樹菌が感染していると見た。

 

 

________________________

 

 

 

下から「ブンブンブブブン!」と盛り上がった声が聞こえて来る。原田たちは気にすることなく急いで上へと向かう。

 

旅館の半分は攻略完了。慶吾チームが下で足止めされている内に差を付ける。ヨルムンガンドの速度を更に上げた。

 

 

「……雰囲気が変わったな」

 

 

「寒い……のは標高のせいではないな」

 

 

ジャンヌと摩利の会話に原田は頷く。緊張するが、気合を入れ直す必要がある。

 

 

「ここに来るまで辛い道のりだった。特にソロモンの悪魔辺り。あんな化け物を詰め込んだ部屋があるなら……」

 

 

「上にも同じような部屋も、か。あまり考えたくないな」

 

 

「サイオンは枯渇しないよう気を付けるが、できることなら休憩は挟みたい」

 

 

他のチームとは違い、真面目に作戦会議をする原田たち。実は一番まともな編成なのかもしれない。

 

しばらくすると次のフロアが見えて来た。ヨルムンガンドから降り、次のフロアへと走る。

 

そこは聖堂のような部屋で、圧倒されるくらい広大だ。

 

 

「そこで待ち受けるのは、私だぁ!!」

 

 

聖堂の中心に建てられた十字架の下に現れたのは一人の女性。驚く程美しい女性は腕を組んで待っていた。

 

世界の人間が嫉妬するような輝く金髪。白銀の薄い衣を身に纏い、緑色の帯とたくさんのリボンを身に着けている。

 

手には巨大な弓を握っているが、全く脅威(きょうい)を感じさせない優しそうな風貌(ふうぼう)にジャンヌと摩利は戸惑うが、原田だけは狼狽(うろた)えていた。

 

彼女の内から溢れ出す力に覚えがある。いや、自分自身がよく知っている力だ。

 

 

「ここを守るのは私、狩猟(しゅりょう)の女神と呼ばれた―――!」

 

 

「あ、アルテミスだとぉ!!??」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「ちょっと! まだ自己紹介の途中なのよ! 頭を地に着けて清聴しなさい!」

 

 

ここで本物の神が登場したのだ。驚かない人間が居るわけがない。

 

人類が永遠に対峙することを許されない存在が今、目の前に立っているのだ。

 

箱庭に置いて神との遭遇は珍しい事ではない。だが、ただの人の身である者が勝てるかどうかと聞かれれば当然、不可能に近い。十六夜たちのように恩恵を得た人間ではなければ打倒することはできないだろう。

 

 

「女神アルテミス! この私を倒せと無理難題は言わないわ。この私の横を、一人でも駆け抜けることができたなら見逃してあげる」

 

 

「何?」

 

 

「だってそうでしょ? もしかして、私に勝てると思って?」

 

 

「……………」

 

 

アルテミスの言い分は正しい。平気な顔で神に喧嘩を売る馬鹿は一人ぐらいだ。神殺しの名など到底貰えないだろう。

 

それにっとアルテミスは付け足す。

 

 

「本編で死んだ分、ここで思い知らせるわ。私は決して弱くないって」

 

 

たたた大変だ。この女神、自分から地雷を踏み抜いて行くタイプの人間だ。面倒臭い。

 

そんなネガティブな発言に原田たちは微妙な顔をしつつも、作戦を立てる。

 

 

「俺が駆け抜ける。援護を頼んでいいか」

 

 

「神、か……私の氷がどこまで通じるか不安になるが……やれるだけのことはやろう」

 

 

「具体的にどこを駆け抜けるのか、ルートも決めておこう」

 

 

アルテミスに背を向けてコソコソと話し合う三人。女神はそれを見つつ、背後に高貴な椅子を用意して座る。

 

 

「いつでもいいわよ。来なさい」

 

 

「舐めやがって……痛い目見ても泣くなよ」

 

 

二つの短剣を両手に持った原田が走る構えを見せる。クスクスと小さく笑うアルテミスは右手を挙げた。

 

 

「女神に対して無礼よ。それに、舐めているつもりは無いわ。座っている方が撃ちやすいもの」

 

 

―――聖堂を埋め尽くす程の翠色(みどりいろ)の魔法陣が展開される。

 

 

「んなッ……!?」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「『我が一矢(いっし)は破壊の風を束ねた一撃。この一矢が新たな平和を築くなら、十を持って悪を討ち、百を持って世界を変える』」

 

 

アルテミスの詠唱と共に魔法陣が輝き始め、回転し始める。危険を察した原田は尻の痛みなど気にならない。とにかく必死に前へ向かって走り出した。

 

そして最後の一節。アルテミスは右手を振り下ろした。

 

 

「『千を越え、万を放つ時! 偽りの汚れた秩序を砕く!』———【狩猟女神の狂撃(ルナティック・アルテミス)】!!」

 

 

ヒュゴオオオオオオオオオォォォ!!

 

 

全ての魔法陣からそれぞれ竜巻のような暴風が吹き荒れた。聖堂に並べられた椅子が風圧だけで、一瞬の内に木屑と化す。

 

慈悲無き一撃に原田の体は簡単に天井へと舞い上がり、凄まじい一撃の矢を次々と体に受ける。

 

 

ドゴッ!!

 

 

「がはッ……!?」

 

 

天井に叩きつけられた時には、既に体はボロボロ。血で視界が塞がってしまっていた。

 

神が放つ渾身の一撃に、為す術無く敗北したことに原田は愕然とする。

 

一歩も動くことなく勝利した女神を呆然と上から見ることしかできなかった。

 

 

「さて、次はどう来る?」

 

 

(あで)やかな脚を組み替えながら女神は問うのだった。

 

 

________________________

 

 

 

忍者の格好をした慶吾一行。バトラーに一度も負けることなく勝利していた。「赤い臓器」「赤い液体」など不吉な言葉ばかりだったが、それでも慶吾たちは強かった。木更はついて行くのが精一杯である。

 

 

「……里見は無いな」

 

 

「ああ、論外だ」

 

 

「もういいでしょ!? 私が悪かったわよ!」

 

 

道中は木更いじりだった。木更の番で「黒いイケメン」と回って来た時、「里見君!」と堂々と言ったことを慶吾とガルペスは首を横に振っていた。ちなみに正解例は「松崎し〇る」である。

 

顔を赤くしながら木更は戦闘を走る。後ろで慶吾とガルペスが追い駆けるが……

 

 

「……無いな」

 

 

「ああ、問題外だ」

 

 

「本当にやめてくれるかしら!?」

 

 

その時、ちょうど次のフロアに辿り着いた。

 

木更がドアに手を掛けようとした時、すぐに手を放した。

 

 

「……何、この嫌な感じ」

 

 

危険をいち早く感じ取っていた木更は刀に手を置く。慶吾たちの表情も険しい。

 

 

「……どけ」

 

 

バコンッ!!

 

 

ドアを開けたのは慶吾。手で開けず、右足で蹴り飛ばした。

 

盛大に吹き飛ぶ扉の先に、悲惨な光景が広がっていた。

 

 

「……ッ……お前か」

 

 

「随分とボロボロだな」

 

 

服はズタズタに引き裂かれ、頭から血を流した原田が片膝を着いて座っていた。

 

聖堂の後ろにはジャンヌと摩利が居る。軽傷だが、力を使い果たしたのか満足に動けそうにない。

 

 

「む、次のチームも来たか」

 

 

「誰だ」

 

 

「私はアルテミス! 狩猟の女神、アルテミスだとも」

 

 

女神は王様が座るような椅子に脚を組んで座っている。微笑みながら名乗り上げた。

 

木更が絶句する中、慶吾とガルペスの反応は、

 

 

「フンッ」

 

 

「ハッ」

 

 

「かちーん……女神を鼻で笑うとは良い度胸ね……」

 

 

慶吾とガルペスは鼻で笑い飛ばすのだ。そんな失礼な態度にアルテミスは笑みを引き攣らせていた。

 

右手を挙げて魔法陣を展開する。神の力を感じ取った慶吾たちは構える。

 

 

「やっと小骨がある相手が来たな。せいぜい楽しませろよ、自称女神?」

 

 

「くッ……調子に乗るなッ!!」

 

 

狩猟女神の狂撃(ルナティック・アルテミス)】が人に向かって無慈悲に放たれる。想像を絶する破壊力に木更は後ろに下がるが、

 

 

「ぬるい」

 

 

「そこだ」

 

 

ガキュンッ!!

 

パチンッ!!

 

 

たった一発。銃を握り絞めた慶吾は前に向かって撃った。それだけで慶吾の周囲の暴風は静かになった。

 

ガルペスも同じく、指を鳴らすだけで周囲の空気がシンッと静まり返る。その異常な光景にアルテミスは動揺する。

 

 

「な、何を……!」

 

 

「風を殺した」

 

 

「貴様の攻撃は矢で無く、主体となるのは矢を(まと)う神風だ。風力エネルギーの半分を奪い、ぶつけて相殺した。ただの矢では効かん」

 

 

実に簡潔で意味が分からない慶吾の言葉とちょっと理解しようとしたが、それでも分からないガルペスの言葉。つまり何も分からない。

 

アルテミスの表情から余裕が無くなると思えば、すぐに笑みを取り戻す。

 

 

「少しばかり本気を出すわ」

 

 

椅子から立つと同時にアルテミスを中心とした旋風が巻き起こる。

 

爆発的に膨れ上がる神の力。ビリビリとした感覚と共に全身で感じ取ることになる。彼女はまだ、本気の半分すら出していない。

 

これが神なのだと改めて自覚される。原田の顔は険しいが、慶吾たちは変わらない。

 

 

「そよ風程度で、俺を止めれると思うなよ?」

 

 

余裕の態度。慶吾の挑発にアルテミスは力を解放する。

 

 

「『無限の地獄を想像し、終りの風を束ねし一矢』———!!」

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!!

 

 

アルテミスの一撃が放たれようとした時、聖堂の壁が破壊される。

 

破壊の一撃はそのまま反対側の壁も突き抜けた。突然の出来事にその場に居た人間の動きが止まる。

 

 

「よぉ」

 

 

絶対に聞こえるわけがない声に原田たちは絶句する。それはあまりにも早過ぎたからだ。

 

 

「結構早い再会だったな、お前ら」

 

 

―――人類史上最強の男、楢原 大樹の登場である。

 

背から黄金の翼が伸び、口には一本の刀を咥えていた。両脇には怪我をしたレキと万由里。そして黒ウサギを背負っている。

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「う、嘘だろ……!?」

 

 

「ッ……」

 

 

瞳に映る光景を疑ってしまう原田と慶吾。尻を痛めながら驚いていた。

 

 

「……なんか、人類が終わりそうだわ」

 

 

「その感想はイラつく。木更、あとで覚えておけ」

 

 

最後のチームの乱入に木更は頭を抑えていた。人間をやめている人たちが聖堂に大集合しているのだから。

 

攻撃を邪魔されたアルテミスも嫌な顔をするが、調子を取り戻す。

 

 

「別にいいわよ、手間が省けたわ。まとめて吹き飛びなさい!!」

 

 

「大樹! ソイツは神の―――!」

 

 

ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュッ!!

 

 

原田が忠告する前にアルテミスの攻撃が射出された。巨大な魔法陣から放たれる七色の矢が大樹を狙う。

 

狩猟女神の狂撃(ルナティック・アルテミス)】の上位互換。手を塞がれている大樹には防ぐ術がないかと思われた。

 

 

「あん?」

 

 

しかし、大樹は動くことなく攻撃を全て綺麗に打ち消した。当たる直前で矢は消えてしまっている。

 

聖堂全体に舞った黄金の羽根がアルテミスの攻撃遮断(しゃだん)。神本人すらの力も抑えたことに原田たちは唖然とした。

 

 

「め、めちゃくちゃ過ぎる……!」

 

 

「くっだれねぇ攻撃だな。神の力がこの程度ならお笑い物だぜ」

 

 

神罰待った無しの侮辱発言にアルテミスの額に青筋が浮かぶ。美しかったあの女神の笑みはとうに消えてしまった。

 

 

「あ、あまり調子に乗らない方がいいわ……ここから先は神々の領域なのよ。私の力を一度抑えた程度で……」

 

 

その時、アルテミスの言葉が止まった。

 

大樹はアルテミスの言葉などガン無視。背負っていた女の子たちを聖堂の壁際まで運び終える。そして、振り返って一言。

 

 

「何? 俺に言ってんの?」

 

 

「ばあああああああああ!!! そのふざけた態度を取ったことを後悔させてあげるわよ!!」

 

 

女神様が壊れた。頭を掻きながら奇声を上げていた。

 

同時に神の力が爆発的に増加するのも感じ取った。怪我を負った原田はジャンヌと摩利を抱えて大樹の後ろまで走り、慶吾とガルペスはジッと戦いを見守る。

 

 

「『人類史の秩序は今壊れた! 世界に終焉の風を吹かせた大地に新たな命を産み落とす! この創世は、神の一矢から動き出す!』」

 

 

アルテミスが持つ弓が黄金の輝きを放つ。ゆっくりと翼を広げるように弓は四方に伸び、聖堂を埋め尽くす様な魔法陣が描かれる。

 

神の行いは全てが奇跡。人類が奇跡を越えることなどは有り得ない。

 

 

「『慈悲深き世界へ、再生の祈りは届く! 神の目は、今見開かれた!』」

 

 

全身全霊。神の奇跡、奇跡の矢が大樹を貫こうとした時、大樹もまた、神の力を解放する。

 

 

「———【滅殺皇(シェキナー)】」

 

 

右手に金色の持ち手に銀色の刃の剣を顕現させて握り絞める。神との圧倒的な力の差を、大樹は埋める。

 

 

「剣技も、天界魔法も、使うまでねぇよ。駄神がぁぁぁああああああ!!!」

 

 

ザンッ!!!

 

 

男の咆哮と共に銀色の光を放つ剣を垂直に振り下ろす。叩き落とした地面から閃光が走り、爆発した。

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!

 

 

大地を割るような衝撃波が聖堂の崩壊と共に、女神アルテミスに向かって突き進む。

 

小さいとアルテミスは嘲笑(あざわら)う。威力はこちらの方が遥かに上回っているからだ。

 

 

「―――【地母神の奇蹟(アグ・テミニシス)】!!」

 

 

キュュ……シュギュゴオオオオオオォォォ!!

 

 

一点に収束された矢が放たれた。大樹の衝撃波とは比べ物にならない破壊力。差は火を見るよりも明らか。

 

聖堂のステンドグラスが盛大に弾け割れ、壁には大きな亀裂が生まれる。

 

フロア全体が地震のように大きく揺れるが、恩恵でも施されているのか建物が崩壊する気配はない。

 

 

ガッッッドゴオオオオオオオオォォォ!!!!

 

 

二つの力がぶつかり、更なる衝撃波が生まれる。聖堂の壁は完全に吹き飛び、旅館の上からのフロアは宙に浮く形になった。

 

互いの力は一歩も譲らず、均衡(きんこう)を保つように激しくぶつかり続けている。しかし、徐々に大樹の方が押されていた。

 

 

「そのまま終わらせてあげるわよッ!!」

 

 

「そうか、じゃあ頑張れよ」

 

 

だが、大樹の表情は全く険しくなかった。額から汗を流すアルテミスとは真逆、余裕を持った表情だ。

 

次の瞬間、大樹の左手に新たな武器が握られる。

 

 

「受け取れよクソ女神。【インドラの槍】に【神格化・全知全能】を使った―――【焉焉終の雷槍(ゾン・ラグナロク)】だ。正真正銘、神の命運すらぶっ刺すぞ」

 

 

「―――――嘘、でしょ……」

 

 

「いやいやいやいやいやいや!? この短時間で何で急激に強くなって帰って来てんのお前!? ホント何なのこの展開!?」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

穿(うが)てば必ず勝利する【インドラの槍】では神の奇跡を破ることは不可能だった。神の奇跡は敵対する者の勝利を捻じ曲げ、自分が優勢になる流れ―――逆転の奇跡まで変えることができる。

 

だが大樹の持つ槍は違う。それを握り絞めているだけ勝利へと導き、穿てば絶対の勝利を約束された神の奇跡、神の命運すら貫ける必殺の槍。いや、神殺しの槍なのだ。

 

 

「というかそんなモノを解き放ったら旅館まで吹き飛ぶぞ!? アルテミス、降伏だ! 降伏しなきゃ全員死ぬぞ!」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「くッ! 分かったわよ! あんな化け物みたいな槍、まともに受けたら神格失うどころじゃ……!」

 

 

原田の忠告にアルテミスは攻撃をやめようとするが、大樹の様子がおかしい事に気付く。

 

まるで攻撃をやめた瞬間、槍を投擲しようと構えている。

 

 

「待って……嘘よ……だってこんなに綺麗な女神に……刺さないわよね?」

 

 

「簡潔に言う。死ね」

 

 

「だ、誰か助けて!! 人殺しを……この神殺しを止めてぇ!」

 

 

遂に泣き出した女神様。助けを乞われても慈悲無き大樹の宣告に原田はお手上げ。ゆっくりと両手を合わせた。南無三。

 

 

「お願い!! そんな物騒な物が刺さったら神でも死ぬの!?」

 

 

「お前は豚の命乞いに耳を貸すのか?」

 

 

「うぅ……か、貸すわよ! 神は全てを平等に救うの!」

 

 

「そうか。俺もそうだ」

 

 

「ッ! じゃあ―――!」

 

 

「でも死ね」

 

 

「なんなのよコイツーッ!!??」

 

 

頭を抱えて喚いている女神様。正面から話し合いなど最初から無意味。

 

慶吾たちも攻撃の被害に遭わないように大樹の後ろへと移動。原田もジャンヌと摩利を抱えて避難。

 

 

「適当に詠唱でもしてみるか……『体は嫁で出来ている』」

 

 

「やっぱ止めろ。あのマスター、一番やっちゃいけねぇことをしようとしていやがる」

 

 

「『血潮は愛で心は硝子(ガラス)』」

 

 

「心が硝子なのは知ってた。ああ、もう好きにしろッ」

 

 

「『(いく)たびの修羅場を越えて全敗』」

 

 

「そうだな。そっちは負けているよな、全部」

 

 

「『えっと………この体は、嫁への愛で出来ていた』!!」

 

 

端折(はしお)るなよ!? せめて全部言え!」

 

 

「というわけで【焉焉終の雷槍(ゾン・ラグナロク)】、そーいッ!!」

 

 

無邪気に適当に、軽快なステップで進み投擲した。女神の顔が凄まじいことになるが、閃光に包まれ見えなくなる。

 

 

―――音が消える程の爆発と衝撃。聖堂は綺麗に吹き飛び、アルテミスも消えた。

 

 

 

________________________

 

 

 

 

―――神々との乱闘。いや、一人の男が神々に挑んでいた。

 

黄金色のオーラを放つ神の顔に膝蹴り、美しい女神の腹に正拳突き、幸運を司る神に牙を剥いた。

 

千の腕を持つ神の顔を壁に叩き付け、三つの顔を持つ神の頭にそれぞれ頭突き、女神だろうが容赦はしない。

 

悪魔すら恐れる所業を大樹は恐れることなく倒し続けた。もう彼には止まることを知らない。

 

太陽や月の神も、大地や空の神も、あらゆる神を打倒する。神殺しを越えた存在になりつつあった。

 

 

「オラァ!!!」

 

 

ドゴンッ!!!

 

 

右手と左手で神の顔を(わし)掴み、そのまま地面に叩き付けた。隕石でも落ちたかのような衝撃で周囲に居た神たちも吹き飛ぶ。

 

女神アルテミスは上位の神で、ここに居る神とは少し劣るが、それでも相手をしているのは神そのもの。

 

人類の伝説として語られる者達が集っている場に、規格外の人間(怪物)が暴れていた。

 

 

「【神羅万象(シン・ラ・バンショウ)】!!」

 

 

「【月光月斬(げっこうげつざん)】!!」

 

 

「【スルトの剣】!!」

 

 

一撃一撃が世界を影響する規模の攻撃。神々の一斉攻撃は、世界の終わりに等しい。

 

しかし、人類史最強の男はそれらを無に還す。

 

大樹の周囲に舞った羽根が神の力を打ち消し、衝撃すら大樹に通らない。

 

 

「【神爆(こうばく)】」

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!

 

 

手を握るだけで攻撃して来た神々が白い光の爆発に飲み込まれる。衝撃の凄まじさが神の生存性を消している。

 

人類最強もまた、一撃で神を打倒していた。むしろ神の一撃や二撃程度では大樹は倒れないだろう。

 

 

「【焉焉終の雷槍(ゾン・ラグナロク)】!!」

 

 

再び投擲された槍は神の集団を一瞬で蹴散らす。最後に残った神はただ一人。

 

 

「無理です無理です。最初から大樹様に勝てると思っていませんですし、そもそも天使ですよ私。頭おかしいですよ」

 

 

「おかしいのはお前の頭もだよ……リィラ?」

 

 

残ったのは神ではなく天使だった。

 

全ての神をたった一人の男が蹴散らした。しかも天使が最もお仕えする男にだ。

 

涙を目に溜めながら両手を挙げて降参のポーズ。

 

 

「違うのです違うのですよ! 私は最後の敵として登場しますが、数々の神の困難を乗り越えて来た大樹様の癒しとなるよう「やっぱり俺はお前が必要だ!」とか言われたくて―――」

 

 

「俺は必要ないと思うから()っていいよな?」

 

 

「このクセになる扱いの雑さ! じゃなくて、優しい対応とか少しはないのですか!? 最初は呪いを治してくれて……優男だったではありませんか」

 

 

「知らん。今回は俺にスイッチが入った事を後悔しろ」

 

 

「元を辿れば大樹様が乳首触らなかったことが負けの原因ではありませんか!! 乳首を触っていれば無事にアルテミス様の所に辿り着けていましたよ! 乳首様!」

 

 

「乳首乳首うるせぇよ!? 誰が乳首様じゃボケ!」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

尻が痛くなる事に苛立ちも増す。リィラはとっとと始末するべきだな。

 

 

「隙アリ!!」

 

 

「テメェッ!」

 

 

その時、リィラの足元に魔法陣が出現し、姿を消したのだ。

 

油断していた。【秩序支配神の世界翼(システムルーラー・ワールドフリューゲル)】の発動が遅れてしまう。

 

覚えてろ。次に会った時が貴様の最後……というかリィラって仲間だよな? 俺たち、何で殺し合いしてるんだろ。

 

 

「おいおい……ここ、旅館なんだよな?」

 

 

後ろから原田が歩いて来る。神々がそこら中に倒れ、物や壁は破壊され、酷い有り様だった。

 

 

「まだ上があるみたいだが、ゴールは近いだろう。あースッキリした」

 

 

「神でストレス発散するのはお前くらいだろうな」

 

 

体を伸ばしながら原田の横を通り、黒ウサギを迎えに行く。

 

既に意識を取り戻した黒ウサギたちは惨状に顔を引き攣らせている。だが大樹の顔を見た後、パァと花を咲かせたように笑顔になる。

 

―――分かっている。ちゃんと分かっているとも。

 

大樹は両手を大きく広げる。理解した黒ウサギは頬を赤くするが、大樹に向かって走った。

 

ドンッとした衝撃と共に抱き締める。

 

 

「さすが大樹。やっぱり私よね」

 

 

「おい冗談だろ」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

抱き締めていたのは黒ウサギではなく、万由里だった。大樹の顔がサァーッと青くなる。

 

選ばれたのは万由里でした。おいおい、お茶選ぶどころかコーヒー選んでいるよ。

 

ゴゴゴゴゴッ……!と背景に描かれそうなくらい黒ウサギは威圧感を出していた。怒っているねぇ。

 

 

「違うッ……ちょっとよく見てなくて……この流れで来るとか思わないじゃん……」

 

 

「いつもいつも……大樹さんは黒ウサギを煽っているのでしょうか?」

 

 

「そんなわけないだろ!? 俺はいつも黒ウサギのことを―――!」

 

 

「じゃあ黒ウサギもそうしますよ! 今から原田さんに抱き付いて来ますからぁ!!」

 

 

「「ちょっと待てぇ!?」」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

同時に原田と大樹の尻に衝撃が走る。痛みを堪えながら抗議する。

 

 

「待て待て!? それ誰が得をする!? 特に俺は大樹に殺されるからやめろぉ!」

 

 

「黒ウサギ!? 抱き締めるから戻って来て! 何時間でも何日でも、ベッドでも!」

 

 

「セクハラ! 知りませんッ、大樹さんも人の気持ちを知ればいいんですよ!」

 

 

黒ウサギの走りは止まらない。原田はこちらに走って来る美少女が巨大な爆弾にしか見えない。当然逃げ出すが、大樹の行動が最悪だった。

 

 

「させるかぁ!! 【焉焉終の雷槍(ゾン・ラグナロク)】!!」

 

 

「ふざけるなよこの野郎おおおおォォ!!!!」

 

 

チュドーンッ!! スパアアアアアァァァ………!

 

 

大樹の放った一撃は原田を見事に消し飛ばした。ケツロケットの音がゆっくりと聞こえて来るのは笑える。

 

仲間を切り捨てる速度は悪党よりも早かった。読者よ、これがこの作品の主人公だ。

 

標的を無くした黒ウサギは大樹の顔を見ることなく()ねている。思わず首を吊りそうなくらいショックを受けるが、ゆっくりと黒ウサギに近づいた。

 

 

「いや……その……俺がここまで頑張ったのは……ああもう!」

 

 

オドオドと情けない男だが、最後は勇気を振り絞った。

 

黒ウサギの肩を掴んでこちらを向き直させ、

 

 

「あッ」

 

 

強く抱き締めた。

 

珍しく男らしい行動に黒ウサギの顔が真っ赤に染まる。同じように大樹の顔も真っ赤になっている。

 

だが数秒後には離す。今度は大樹が背を向ける番だった。

 

 

「黒ウサギたちが一番だ。その……あとで美琴たち抱き締めても怒るなよ」

 

 

「は、はい……」

 

 

付き合いたてのカップルみたいな初々しさ。甘ったるい空気に万由里は溜め息が出てしまう。

 

レキは相変わらず無表情だが、ジッと観察するように見ていた。あと原田は死んだ。

 

 

「何だこの空気は」

 

 

それを壊すかのような後ろから登場する慶吾。ガルペスと木更も、ジト目で大樹を見ている。

 

 

「は、原田を殺しただけだ。言わせんな恥ずかしいッ」

 

 

「照れながら狂気な発言をするな。だが、これで原田チームは完全に全滅したな」

 

 

「そうだな」

 

 

次の瞬間、大樹と慶吾は殺気をぶつけた。

 

 

「一位で上に行くのは俺たちだ。ここで決着付けようぜ」

 

 

「ハッ、上等だ」

 

 

一歩も譲らない殺気のぶつけ合い。ガルペスを除いたメンバーが後ろに下がってしまう。

 

 

「ほ、本気なの!? 本編でも戦ってないのに、ここで戦って大丈夫なの!?」

 

 

木更の唐突なメタ発言だが、黒ウサギもうんうんと頷いている。

 

確かに、ここで戦えば本編では大変なことになるだろう。ならば―――慶吾と目を合わせて頷く!

 

 

「「ジャン、ケン、ポンッ!!」」

 

 

「「「えぇ……」」」

 

 

あ、勝った。

 

 

________________________

 

 

 

箱庭旅館最上階。

 

見事一位で通過した大樹は最高の部屋が用意された。和室から見える雲の絨毯(じゅうたん)と満月。高度一万メートルの旅館とかどこの世界もねぇよ。それをぶっ壊しまくった俺は最低だな。

 

絶景を眺めながら風呂に入ることもでき、フカフカのベッドも完備。高級旅館だったのかここは! 絶対にロクでもない場所だと思ってた!

 

夕食は俺の方が美味く作れるが、とても豪華だ。浴衣に着替えた俺は夕食を楽しむ―――皆と一緒に!

 

 

「乾杯!!」

 

 

「「「「「乾杯!」」」」」

 

 

一つのテーブルに美琴、アリア、優子、黒ウサギ、真由美、ティナ、折紙が囲んでくれる幸せ空間。この時間はケツロケットは発動しないため、動揺し放題。最高の一時を過ごそうとしていた。

 

 

「何か幸せ過ぎて……涙出て来た」

 

 

「ゲームが辛かったからよね……」

 

 

「あたしも見て酷いと思ったわよ」

 

 

美琴とアリアに頭を撫でられてしまう。思わず赤ん坊のように甘えたくなるが、見損なわれたくないので自重する。

 

 

「甘えていいのよ?」

 

 

「バブゥッ!!」

 

 

真由美の優しい声に俺は飛びついた。尊厳? 知らん、捨てた。

 

膝枕されながら頭を撫でられる。幸せを噛み締めていると、ハッと我に返る。美琴たちを恐る恐る見ると、

 

 

「……まぁ今日くらいは?」

 

 

「YES。今日だけ、です」

 

 

怒られない……? 優子と黒ウサギの許しに涙がポロっと零れる。

 

 

「しゅき……」

 

 

「優しくしたら優しくしたで大樹さんってば……面白いですよね」

 

 

「可愛い」

 

 

ティナと折紙に笑われてしまうが、全然嫌じゃない。むしろ最高。もっと褒めて褒めて。

 

ここまで頑張った……苦労が報われた。

 

好きな女の子に囲まれて食事をする。食べ終われば楽しいお喋りタイム。

 

こんな時間が永遠と続けばいいのに……と思っていると、

 

 

『―――出発は明日の早朝です。まだまだ企画は続きますよー』

 

 

リィラ(お前)ホントふざけんなよゴラァ!!!

 

 

「はぁ!? おまッ、24時間じゃないのか!? もう終わりのはず―――!」

 

 

『もう終わり?とか思っていませんか? ()()()()()()()()()()()はまだ6時間しか経っていませんよ? 四分の一くらいしか経っていないのですよ!』

 

 

「舐めとんのか!?」

 

 

『やーい! 大樹様の悔しそうな顔が想像できますよ! あ、ちょッ!? 旅館で【焉焉終の雷槍(ゾン・ラグナロク)】はやめてください!?』

 

 

最低最悪な放送を耳にしてしまうのであった。天国から地獄に落とされた大樹は、絶望の表情で膝を地に着いた。

 

……余談だが慶吾が案内された部屋も少しばかり豪華だが、ケツロケットは終わらない。ので、

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「……………」

 

 

放送を聞いただけで動揺し、寂しい尻の音が部屋に響いた。

 

そして、今回最下位だった原田。残念なことに、部屋に刺客が送られてしまう。

 

 

「コッコッコッコッ」

「ココーッ」

「コケコッコォー!!」

 

 

「嘘だろ……」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

朝の遅刻防止対策。ニワトリが五十匹、部屋で放飼いされたのだった。

 

 




現在のケツロケット回数

楢原 大樹 202回

原田 亮良 176回

宮川 慶吾 105回


大樹「まぁ先に二百越えるのは俺だと確信していた」

原田「俺も越えるだろうなぁ……お前はやっと百を越えたのか」

慶吾「途中、死んでいたからな」

大樹「俺もああなるくらいならケツロケットだわ」

原田「さすがに同情する」


次回―――手抜きのメリー・クリスマス! 幸せリア充なんて撲殺撲殺ぅ!


大樹&原田&慶吾「これは酷い」

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