どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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作者から一言。


―――「まーた来たよクリスマス。はいはい、どうせ俺はボッチですよっと。……べ、別に泣いてないんだからね!」


箱庭旅館で絶対に動揺してはいけない24時!前編!

とある偉人は言った。

 

―――人間の言葉のうちで「私は知りません」ほど情けない言葉はありません。

 

フローレンス・ナイチンゲールの名言に心に響く。感心と納得、偉人の一言は凡人の言葉とはやはり違う重みがある。

 

しかし、そんな素晴らしい名言に大樹は首を横に振った。

 

 

『ようこそ! 箱庭旅館へ!』

 

 

―――人間は、未来永劫、永遠に知らなければ良かったと思えることもあるのだ。

 

山のような大きさに、雲まで突き抜ける巨大木造建築の旅館を前に、大樹は泣きそうになった。

 

現在地は箱庭。旅館の利用者は自分たちを含め―――修羅神仏から悪魔、精霊までが集まる地獄の宿と化している。RPGの魔王城より恐ろしい外見だ。

 

更に、このクソ企画の仕掛け人たちも居るはずだ。既にアジ=ダカーハ級の魔王が出ているので何でも有りだろう。

 

例え、突如綺麗な夜空から隕石が落ちて来ても別におかしくはないだろう。

 

例え、神々同士の派手な喧嘩に巻き込まれても仕方ないだろう。

 

例え、魔王に襲撃されてもドンマイとしか言いようがないだろう。

 

例え悪魔に呪いをかけられても、精霊の悪戯で全てを失っても、同類に殺されそうになっても、同情されない世界―――いや、宿だ。

 

 

「それでは皆様、最高でオモシロオカシイギフトゲームの時間です! 知っての通り、神々を含めた者達とのゲームです!」

 

 

満面の笑みを浮かべたリィラの言葉に、二人の男が叫んだ。

 

 

「「知るかぁあああああああ!!!!」」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

―――箱庭最大級の宿『ハコシロ』に宿泊するのだった。

 

 

 

________________________

 

 

 

「絶望よ、来たれ」とサタンが言っているような気がした。そんなサタン程度では今のシャドバじゃ勝てない。MP稼ぐなら超越するんだ。俺もこの宿を超越して次の場所に行きたい。

 

手錠を掛けられた俺は死んだ目で巨大宿を呆然と見ている。隣の包帯人間の原田は絶望を前に目が死んでいる。更に隣に居る慶吾は本当に死んでいる。何だこの死にかけ三兄弟。ファミレスにも入れねぇよ。

 

 

「説明させていただきます。皆様の宿泊場所は『ハコシロ』の最上階です。つまり、最上階を目指します」

 

 

「リィラ。野宿でも全然構わないぞ」

 

 

「外には神獣を解き放っています」

 

 

猛獣ってレベルじゃなかった。普通に野宿の人間どころか神すら殺す気満々じゃねぇか。殺意高過ぎるだろ。

 

だが残念だったな! 神獣程度、俺が負けるわけ―――あッ。

 

 

「その為の手錠かッ……!」

 

 

「今なら神獣のテクで大樹様なら三秒でイクでしょう♪」

 

 

卑猥な言い方やめろ。だけど確かに天国まで三秒で逝くわ。

 

 

「原田様と宮川様も負傷しているので数で押されると負けますよ」

 

 

「俺は負傷したが、一人は致命傷だぞ。死んでるし」

 

 

原田の言う通り、マジで起きる気配が微塵も無い。死んでいるだろこれ。

 

するとリィラが途中から乗り合わせた黒ウサギに目配せする。あーあ、何度か起こしたけど俺の力じゃ駄目だったからなぁ。仕方のないこと。

 

 

「「安らかに眠れ」」

 

 

黒ウサギが【インドラの槍】を取り出した瞬間、雷が死体に落ちたのだった。

 

 

________________________

 

 

 

「―――最悪の目覚め()

 

 

「おお、生き返ったけど体調悪そうだな。誤字ってるぞ」

 

 

アフロ髪にボロボロの服になった慶吾。頭を抱えていた。記憶が雷と一緒に吹っ飛んでいたのでここまでの事を説明した。動揺することもなく、うんうんと大人しく頷いていた。

 

 

「……今からここを登るの()

 

 

「ああ、そういうことだ。あと誤字ってる」

 

 

駄目だ。今回も慶吾(コイツ)は駄目だ。

 

 

「そして前回のゲームの順位が、このゲームを有利に進める鍵となります」

 

 

リィラが用意したのは七つの駒。どこかで見たことのある駒だ。というかそれ―――

 

 

「皆様には好きなサーヴァントを選んで貰います!」

 

 

「「「それFa〇e」」」

 

 

完全にアウト案件。左から剣、弓、槍……もういいや。セイバーアーチャーランサーライダーキャスターバーサーカーアサシンです。はい、七騎の駒がありますよ。完全にパクってますよこれ。

 

 

「一位から順に選んで頂きますが、一位は三騎、二位と三位は二騎しか選べません」

 

 

「よし!」

 

 

「大樹様は手錠を掛けられているので下手な行動を取ると死ぬので気を付けてください。ええ、本当に」

 

 

「……よ死!」

 

 

「泣くなよ」

 

 

嬉しい気持ちから悲しい気持ちに落とされた俺の気持ちを察した原田。最後、釘を刺されるほど危険なようだ。

 

 

「それでは選んで頂きます! 大樹様!」

 

 

「ランサーの黒ウサギ一択だろぉ!」

 

 

「ま、まぁさすがに気付いていましたよね……YES! 黒ウサギに任せてください!」

 

 

天にも昇るような清々しい気持ちで選択した。これで黒ウサギじゃなかったら舌噛んで自殺してた。マスターが自害しちゃうのかよ。この人でなし!

 

 

「選んだら俺たちが危険だよな?」

 

 

「ああ、別に一位だったとしても選ばない()

 

 

「意識高いお前ら、嫌いじゃないぜ。あとまだ誤字ってる」

 

 

原田と慶吾の小声話に大樹は親指を立てる。皮肉で言ったつもりなのにご機嫌な大樹に二人は少し引いていた。

 

次に選択するのは二位の原田。顎に手を当てて慎重に考える。

 

 

(方向性もヒントも全くないからなぁ……剣を使う人、弓を使う人……)

 

 

ちなみにバーサーカーは絶対に選ばないと決めている原田。絶対にロクなことにならないと踏んでいた。

 

 

「ええい、王道に選ぶしかねぇ! セイバーだ!」

 

 

原田が駒を握ると、言葉に応じて参上する。

 

 

「30代目―――ジャンヌ・ダルク。この【魔剣(デュランダル)】、存分に振るわせて貰う」

 

 

部分的に体を覆う西洋の甲冑、氷のような銀髪は二本の三つ編みをつむじ辺りに上げて結っている。

 

サファイアのような瞳と目が合った原田は歓喜の声を上げる。

 

 

「よっしゃあ! 全然普通だ!!」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「どんな喜び方をしている!? 失礼だろ!?」

 

 

分かる。その喜び方は間違っていないぞ原田。当たりだ。

 

これでセイバー枠とランサー枠が埋まった。次は慶吾の番だが、

 

 

「バーサーカー()

 

 

「「ッ!?」」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

慶吾の迷いの無い選択に大樹と原田は驚愕。二人が一番選ばない駒だった。何度も言うが、あと誤字ってる。

 

明らかにハズレ騎としか思えない。絶対に自由に暴れる奴が出て来る。十六夜とか達也とか、規格外が出て来てもおかしくないレベルの駒だ。

 

血迷ったか。大樹と原田はやれやれと言った感じで目頭を押さえている。

 

慶吾が乱暴に駒を握ると、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

「お前らを巻き込んで不幸にするならコイツだ()……!」

 

 

「「テメェ!!」」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

あの野郎! 最初から俺たちの邪魔する前提でサーヴァント選ぶ気だったな! あと誤字!

 

駒が光輝き、中から現れたのは―――恐ろしい狂人(バーサーカー)だった。

 

 

「……上野(うえの) 航平(こうへい)―――と前世の名を名乗るより、原点となるガルペス=ソォディアと名乗るべきか……だが『やっちゃえバーサーカー!』と幼女に言われたいので真名は隠すことに―――」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「また出た! 狂人じゃなくて狂医学者(マッドサイエンティスト)じゃねぇか!!!」

 

 

「いや発言的にコイツ、ただのロリコンだったぞ今!」

 

 

「なん……だと……!?」

 

 

全員がここまで動揺するのは無理もない。序盤から最強クラスのモンスターが召喚されたのだから。ガチャで例えるならマー〇ン。コイツの力、スキルもぶっ壊れてるから。

 

 

「フンッ、F〇Oでも俺と同じような奴が居ただろ」

 

 

「ナイチ〇ゲールと一緒にするなボケ! お前は可愛くも無ければ人気もねぇだろうが!」

 

 

親指を下に向けながらガルペスに大ブーイング。俺に続いて原田も一緒に野次を飛ばしている。慶吾は二人の後ろでグッと拳を握っている。

 

 

「……ならばナース服を着てから出直すとしよう」

 

 

「俺たちが悪かった。だから毎晩悪夢を見てしまうかのような恰好だけはやめてくれ」

 

 

「俺たちが悪かった。もう吐き出す物が無いくらい凄く疲れているからやめてくれ」

 

 

全力で首を横に振る。骨の駆動の限界まで越えてるほどの速度を出しながら首を横に振った。残像が見えるだろ?

 

とんでもない奴が登場して来たが、まだ駒は残っている。次は再び大樹の番。

 

 

「黒ウサギが前に出るなら後ろからの援護が必要になる。よってアーチャーだ」

 

 

「盾役は力を封じられた雑魚大樹が居るからな。妥当な判断だろう」

 

 

「ああ、黒ウサギには絶対傷一つ付けさせない」

 

 

「……この線で大樹を馬鹿にするの、もうやめよ」

 

 

原田の言葉に納得していたが、突然原田の表情が暗くなる。急にどうした。黒ウサギの頬が赤くなるのは分かるが、どうしてお前は落ち込んだ。……慶吾は無言で中指を立てるな。

 

弓の駒を握ると輝き出し、一人の少女が現れた。

 

 

「……………」

 

 

「……………」

 

 

「……………」

 

 

「……………」

 

 

「……………?」

 

 

「いや、何か言ってくれよ。レキが来てくれたの嬉しいけど」

 

 

弓じゃなく狙撃銃を握り絞めている弓兵。武偵高校の女子制服を着てヘッドホンも付けている。頼もしいのだけど……うーん、全然普通だからオーケー! 下手に変な奴が来たら来たで尻が痛くなるだけだからね!

 

 

「ジャンヌと俺が前に出るなら、こっちも後方支援が欲しい。となると……キャスターだろうな」

 

 

原田が駒を掴むと、嫌な予感がした。こう……バスでの流れが影響している気が―――あっ。

 

 

「―――残念だったな大樹君! 私だ!!」

 

 

「うっわ!? 出て来やがったよ風紀の悪魔が……!」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

魔法科高校の制服を着た女子生徒。風紀委員長の渡辺(わたなべ) 摩利(まり)の登場。めっちゃ笑顔でこっち見てるんだけど。キャスター選ばなくてホント良かった。……敵になったらなったで嫌だけど。

 

 

「存分に大樹君の邪魔ができる大義名分ができたな!」

 

 

「堂々と俺に言うなよ。原田、何か令呪的な何かで止めろ」

 

 

「令呪を持って命ずる。大樹を泣かせ」

 

 

「お前ら許さん」

 

 

こっちもお前らをぶっ潰す大義名分ができたからな。覚悟しろよ。

 

原田チームと睨み合っていると、慶吾は気にせず選ぼうとする。

 

 

「ライダーとアサシン……俺の選択で一位が選ぶ最後の騎も変わるのか」

 

 

「そうだな。俺の最後の騎はアサシンが欲しい。だからライダーを選ん―――」

 

 

「アサシン」

 

 

「―――うん、まぁするだろうな。俺も言われたらそうする。どっちでも良いけど」

 

 

慶吾が駒を握り絞めると、現れたのは黒一式のセーラー服を着用し、胸元に赤いリボンをつけている黒髪の美人。

 

 

「私がアサシンな理由を聞いていいかしら?」

 

 

「おい運営。とんでもねぇ暗殺者呼んでるぞ」

 

 

天童(てんどう) 木更(きさら)の登場である。お疲れ様です社長。今日も元気に働いています。

 

 

「普通、セイバーじゃないの? 刀と言えばセイバーでしょ? 病弱な人とか、二刀流の人と同じで良いと思うの」

 

 

「確かに二刀流の方の胸の大きゲフンゲフン……残念だったな。アサシンにも刀を持った人が居るのでござるよ」

 

 

「大樹さん? 今、変な事を言おうとしませんでしたか?」

 

 

失言だと気付いて咳をしたのにちゃんと気付いていらっしゃる。黒ウサギのウサ耳は地獄耳だな。

 

 

「で、俺が最後にライダーか。緊張するなぁ……良い流れから落とされることが多い展開だから……怖いな」

 

 

「「期待」」

 

 

「あの鬼畜生マスター共、覚えてろよ」

 

 

ハズレ駒が未だに無い。ライダーの戦力も十分だと思うが……ええい! 何とかなるさ!

 

駒を握り絞めると、光の中から姿を現したのは―――精霊だった。

 

 

「フフッ、大樹なら必ず選んでくれると思ってた」

 

 

「Oh……」

 

 

胸元が開いた黒いドレスの霊装を身に纏い、白い翼と黄金色の四枚羽根を広げた精霊の名は―――万由里。

 

タッタッタッとリズム良く走りながら霊装を解くと、金髪のサイドテールに白い制服を身に纏う。そのまま大樹の腕を掴んだ。

 

 

「なッ!?」

 

 

「いッ!?」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

黒ウサギと俺が驚きで息を詰まらせる。あぁっと不味いですよこの流れ!? 【雷霆聖堂(ケルビエル)】に乗るからライダーになったの!? 凄い無理矢理感!

 

 

「「すー」」

 

 

「原田たちは覚えていろよ……!」

 

 

何がナイスだ。悪いだろ、バッドだよ。

 

対抗するように反対の腕に黒ウサギが抱き付くが、感触とか楽しむ余裕はない。修羅場な上にギチギチと嫌な音が腕から聞こえている。お互いに対抗心を燃やしているせいで、間に居る俺は燃え死にそう。

 

 

「準備は整いましたね。それでは、ゲーム開始を宣言させて頂きます!」

 

 

『ギフトゲーム名 【Climb The Castle】

 

 

・ゲーム概要

 

 箱庭旅館『ハコシロ』の最上階到達を目指す。

 

 

・参加者側の勝利条件

 

 チームを代表する『楢原 大樹』『原田 亮良』『宮川 慶吾』。以上の者の内、一人が最上階に辿り着いた時点で勝利とする。

 

 

・参加者側の敗北条件

 

1.チーム代表の三人の内、一人も最上階に辿り着けない場合。

 

2.チームの全滅。ただし、チーム代表のみの戦闘不能はゲーム続行。サーヴァントの戦闘不能は、ギフトゲームの離脱とする。再戦、途中参加は不可。

 

 

宣誓 上記を尊重し誇りとホストマスターのリィラの名の下、

          ギフトゲームを開催します 【無】印』

 

 

 

「―――では皆様、一位を目指して頑張ってください!」

 

 

リィラの宣言と共に、全員が走り出した。

 

 

 

________________________

 

 

 

―――箱庭旅館『ハコシロ』の最初の間。

 

旅館の玄関から堂々と前から侵入する。最初は原田たちと争うメリットはないので仲良く入ったのは良いが、

 

 

「ようこそ! 箱庭旅館『ハコシロ』へ! 君たちを歓迎するよ!」

 

 

広々とした玄関には一人の男が空中から見下していた。その男の事はよく知っている。

 

 

「ルイオス……最初から【ペルセウス】のコミュニティかよ……!」

 

 

亜麻(あまいろ)色の髪に聖霊殺しの鎌【ハルパー】を握り絞めている。翼の付いた具足【ヘルメスの靴】のおかげで空を飛翔できている。

 

【ノーネーム】でギフトゲームを挑んだ時とは全く違う。これは……!?

 

 

「気を付けろ!! 囲まれているぞ!!」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

大樹の大声と共に全方向から攻撃が仕掛けられた。雨のように降り注ぐ矢に全員が驚きながら対応していた。

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「ケツロケットも気を付けないとダメージ受けるとかクソ仕様だよなホント」

 

 

原田の愚痴には俺も同意。ホントこの仕様はふざけていやがる。尻が痛いよ。というか!

 

 

「クソッ! コミュニティ全員、不可視の(かぶと)持ちかよ! しかも全部本物と来やがった!」

 

 

「黒ウサギには通じませんが、レキさんが……!」

 

 

音も臭いも遮断する強力な恩恵持ち。【ペルセウス】のコミュニティは今、全盛期を越えていた状態で俺たちの前に立ち塞がっていた。

 

大樹と黒ウサギには通用しない不可視。しかし、レキには厳しい状況下だろう―――

 

 

「風の流れで分かりますので」

 

 

―――とか思っていたけど全然大丈夫だったわ。

 

 

「広範囲に攻撃すれば当たるだろう。防御も任せろ」

 

 

「なるほど、下手な鉄砲も数撃てば当たる、か。なるべくサイオンを枯渇させないよう、私は気を付けるよ」

 

 

ジャンヌと摩利の頼もしい言葉に原田は感激している。今まで恵まれなかったからな、チーム編成。

 

 

「「……………」」ゴゴゴゴゴッ……!

 

 

「えっと、後ろに居るわね?」

 

 

慶吾とガルペスの威圧が凄まじ過ぎて木更が遠慮している。木更も敵に多少の攻撃を与えるくらいはできると思うが……何だあの二人。怖い。強者であるはずの木更の存在価値が残念なことになってる。

 

というか総合的に見て、【ペルセウス】に苦戦することなくね?

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!!

 

 

【ペルセウス】との交戦。やはりこちらが有利に事を進めていた。

 

ルイオスの指示は的確で指揮官として優秀。コミュニティの長としての威厳を見せることができていた。

 

しかし、神すら恐れる規格外の塊には、相手が悪かったとしか言いようが無い。

 

 

「な、何でこっちが一方的に!? いくら何でも強過ぎないか!?」

 

 

ルイオスが酷く驚くのも無理はない。ホント相手が悪かったな。

 

追い詰められたルイオスは残った部下を後ろに下げる。代わりに自分が前に出ると、

 

 

「今だ、アルゴール!!!」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

ルイオスの合図に全員が察知する。気配がする先は奥の壁。別の部屋だった。

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!!

 

 

つまり―――【アルゴールの魔王】が、壁の奥で待ち伏せしていたのだ。

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「ビビらせるのもやめろぉ! ケツが死ぬぅ!」

 

 

赤い光線が壁を破壊しながら俺たちを狙う。神の力が使えない俺では迎え撃つことはできない。尻も痛い。

 

星一つの力を背負う大悪魔―――『精霊』はルイオスの切り札だ。それを最初からでは無く、完璧なタイミングで奇襲する形で入れている。恐ろしい程の成長ぶりだ。

 

 

「さすがだルイオス! だが、一つだけ見落としている!」

 

 

全員の意表を突いた攻撃なのだろう。しかし、たった一人だけ例外がある。

 

 

「黒ウサギの耳は、しっかりと捉えていました」

 

 

「ッ!? アルゴール!!」

 

 

異変にいち早く気付いたルイオスが血相を変えて名前を呼ぶ。だが遅い。

 

既に黒ウサギの手には最強の槍が装填されているのだから。

 

 

「目には目を、歯に歯を、奇襲には奇襲を。帝釈天(たいしゃくてん)の加護を持つ槍……穿てば必ず勝利する槍を確実に当てる為に、あなたには撃たず取って起きました」

 

 

「じょ、序盤から普通飛ばさないだろ!? まだ上には僕達より……!」

 

 

「ええ、ですから―――この局面で想定されないこの攻撃は強い、ですよね?」

 

 

こちらは最初からルイオスの事を舐めた覚えはない。あの時とは違うのはこちらも同じだ。

 

全力で、正々堂々と正面から勝利を勝ち取ろうとしているのだ。

 

黒ウサギの言葉にルイオスは苦笑した。

 

 

「ああクソッ、四桁の道のりは長いな」

 

 

「大丈夫だ。こんな化け物揃いに正面から勝とうとしたお前らなら、希望はあるぜ」

 

 

大樹の言葉を最後に、激しい閃光が部屋を支配した。

 

拘束具に繋がれていない魔王でも、その一撃を掠らせてしまえば終わりなのだ。

 

 

「―――穿(うが)て、【インドラの槍】!!」

 

 

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「―――って階段が長ぇッ!?」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

最初の敵を撃破した後、上へ続く階段を見つけて登り出したのだが、長い長い長い。無駄に壁に沿って螺旋(らせん)状になっているので全く上へと登れていない。神の力が使えるならピョンピョンと飛んですぐに着くのに……!

 

原田たちは北欧神話の毒蛇の怪物【ヨルムンガンド】の乗ってさっさと行くし、慶吾たちはガルペスの用意した機械兵器に乗ってスゥーと飛んで行ったし、何だこの奇天烈な光景は。

 

 

「大樹。少し強引だけど私の【雷霆聖堂(ケルビエル)】に乗れば?」

 

 

「いや、止めておこう。敵がどこから見ているか分からん上でわざわざ霊力を消費して的を大きくするのは良くない気がする。それに、先に行った奴らが上手い具合に片付けてくれれば楽できるだろう」

 

 

「……意外と考えているのね」

 

 

「意外とか言うなよ。俺は知的キャラで通っているはずだぞ」

 

 

「さすがにそれはない」

 

 

「それは無いと思いますよ……」

 

 

おおっと。黒ウサギと万由里は完全否定だ。心外すぎて悲しいですぞ。

 

こうして大樹チームは遅れて自分たちのペースで階段を上り続けた。

 

―――そして同時刻。原田チームと慶吾チームが第二の間に辿り着いた。そこには下とは違う雰囲気が漂っている。

 

 

「フッフッフッ、ここはそう簡単には通さないぞ」

 

 

「だ、誰だ!?」

 

 

第二の間に現れたのはある意味、彼らに取って強敵と言える者達だった。

 

 

「何故なら勝負内容が料理対決なのだからな!!」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

戦闘勝負以外にあるのかよ!?というツッコミをする前に敵が登場する。

 

白と青を基調としたメイド服に身を包んだ者達は自信満々の登場だった。

 

 

「これはまるで我々メイドの為にあつらえた様なゲーム」

 

 

―――【ノーネーム】のメイド長、レティシア=ドラクレア。箱庭の騎士はどこに行ったのだろうか。

 

 

「私たちの修行の成果、とくとご(ろう)じるがいいわ」

 

 

―――火龍誕生祭に襲撃を仕掛けた元魔王。元【グリモワール・ハーメルン】のペスト。ちなみに洋食派。

 

 

「キャベツの千切り以外なら任せておけ」

 

 

―――トリトニスの大滝に住んでいた蛇の水神(大樹と十六夜がボコったことのある相手)、白雪姫。千切りキャベツは五時間かけてもできなかったが、和食派である。

 

 

「……いや、この三人は戦闘でも十分強そうだけど」

 

 

原田の言うことに周りは頷く。逆に料理対決にして良かったのか不安になる。

 

しかし、メイドはまだ居た。

 

 

「リサ・アヴェ・デュ・アンクです。お手柔らかにお願いします」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

―――恐らく一番の強敵であろう。メイドの鏡……メイドの中のメイドとも言える人物だ。

 

原田と慶吾は彼女が如何に強敵かを知っている。そのせいで動揺してしまった。

 

スカートをちょっとつまんだ作法に敵を含めた全員が驚愕する。

 

 

「こ、これが本物のメイド……!」

 

 

「同じ服を着ているのにどうしてこんなにも違うの……!?」

 

 

「何て完璧な仕草……いや、声ですら魅了されてしまうようだった!」

 

 

最初に登場したメイドの三人は両膝を地に着いた。

 

 

「「「負けた……!」」」

 

 

「何か自爆している奴らが出て来てるぞ。確かに凄いのは俺たち素人でも分かるけど」

 

 

 

________________________

 

 

 

 

「―――料理対決のお題はカレー! 犠牲……………審査員はこの二人に任せる」

 

 

「「今犠牲って言わなかった!?」」

 

 

リサの励ましで立ち直ることができたレティシア。料理のお題と審査員を紹介するのだが、完全に縄で縛られている審査員。

 

一人は吉田(よしだ) 幹比古(ミキヒコ)。もう一人は吉井 明久だ。二人は真っ青な顔で抵抗している。

 

 

「どうして僕がこのポジションなんだ!? 普通はレオだろ!」

 

 

「そうだそうだ! 雄二をここに呼べぇ!」

 

 

逆にそっちにしたらしたで二人の名前を呼ばれるだけだろう。無限ループって怖い。

 

原田たちは気の毒そうに二人を見ていたが、ゲームに集中するようにする。

 

 

「私たちメイド組の料理は問題無くご褒美なのだが、向うのチームがな……まぁ頑張って食してくれ」

 

 

「なんて酷い連中なんだ!」

 

 

レティシアが同情の眼差しで審査員を見ていた。幹比古の悲痛な叫びは誰にも届かない。

 

お題はカレー。一般的な家庭なら代表的な料理とも言える。嫌いな人はほぼ居ないだろう。

 

料理の材料は巨大な冷蔵庫、冷凍庫、その他諸々の場所から何でも仕入れることができる。どんなカレーでも作ることは可能なのだが、幅が多いゆえに問題を起こすチームが現れる。

 

 

「栄養が高ければいいだろう」

 

 

レトルトカレーにカプセル剤や錠剤、薬品をドボドボ入れ始めるガルペスだ。その光景に慶吾たちは目を逸らし、審査員たちは激しく文句を言う。

 

 

「ちょッ!? 馬鹿なのか君は? 不味いに決まっているだろ!?」

 

 

「それは人が食べれる物じゃないのよ!? 僕達はモルモットでもないからね!?」

 

 

そんな言葉がガルペスに届くことはなく、料理は作られていた。モルモットでも拒否するレベルだ。

 

後ろから木更が口を抑えながら見ているが、止める気は起きないようだ。

 

一方原田チームは平凡だった。以外にもジャンヌと摩利は料理経験がある。しかし敵のメイドたちと比べると、どうしても劣ってしまう。

 

 

「一番の強敵はリサだよなぁ……大樹のメイドがどうしても強い」

 

 

「こちらが出せる美味しい料理を作るしかあるまい」

 

 

「そうだな。食材も品質が良い物を厳選して美味しくするしか……今の所、その方法しかないな」

 

 

恐らくチーム内で一番真面目にゲームに取り組んでいるだろう。その素晴らしいチームワークに審査員たちはニッコリ笑顔。

 

 

「アレが普通なんだよね」

 

 

「皆が普通じゃないから仕方ないよね、他のチームは」

 

 

どうして世界はこんなにも残酷な事になったのだろう、と訳の分からないことまで審査員は考え始めていた。それもそのはず、慶吾チームの方から漂う臭いは既に悪臭だからだ。決してカレーの匂いでは無い。

 

そんな危ない感じで、各チームの料理は進んで行った。

 

 

________________________

 

 

 

「ん……カレーの匂い? ……うッ」

 

 

階段を上がっていると、何故かカレーの匂いがする。しかし、嗅覚の良い大樹はすぐに鼻を抑えた。

 

 

「カレーの匂いに紛れてヤバイの入ってないか!?」

 

 

「え!? 黒ウサギたちには分かりませんが……」

 

 

「私も分からないわね」

 

 

黒ウサギと万由里は鼻をすんすん鳴らしているが、レキは鼻と口を抑えていた。

 

 

「風が……怯えています」

 

 

「その発言で上がかなり大変な事になっていると察した」

 

 

レキの言葉で確信を持つことができた。既に上ではとんでもないことが起きているのだろう。

 

そして次のフロアまで辿り着いた時、男たちの悲鳴が聞こえた。

 

 

「「ぎゃああああああァァァ!!!」」

 

 

「この声……幹比古と明久か!? 明久はまた犠牲になっているのか!?」

 

 

テーブルの上で白目をむいた男が二人、幹比古と明久だった。口から茶色の液体が流れ出していて汚い。めっちゃ汚い。

 

二人の前に置かれている料理はカレー。しかし、明らかにカレーではない。

 

 

「うわッ……何だこのゴミは……!」

 

 

カレーのルーにはカプセル剤、錠剤と言った薬物がぶち込まれいた。人間の食べ物ではない。怪物でも嫌だと言うレベルだろう。

 

 

「馬鹿を言うな。栄養に関してはどの料理よりも完璧だ。見ろ。二人の顔色が良いだろ?」

 

 

「確かに驚くほどに真っ白だな。生きているとは全く思えないくらい白さだ」

 

 

料理でも人を殺すとは……ガルペスに新たな属性が追加されたな。どうして俺の周りはこう料理が下手な人が多いのだろか。

 

それより危険な状態に陥った犠牲者(審査員)に衛生兵が駆け付ける。というか狂っているけどガルペスは一応医者だぞ。助けろよ。

 

 

「患者はここか?」

 

 

「「達也!?」」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

突然の登場に驚く大樹と原田。今度は白衣を着て医者に成り切っていた。意外と忙しいですねお兄様。

 

達也は二人の脈を図ると、険しい表情になる。ゆっくりと懐から拳銃形態のCADを取り出し、銃口を頭に突き付けた。

 

 

「今、楽にしてやる」

 

 

「早まるな早まるな。可哀想だから助けてやれ」

 

 

お兄様ったら、気が早いんだから!

 

「冗談だ」と達也は言いながら魔法で治療を開始する。だからお前の冗談は一番通じないって。

 

二人の回復を待っている間にここで何が起きたのか経緯を聞こうとしたのだが、

 

 

「あのメイドたちと料理対決することになってだな」

 

 

「すげぇ。たった一文で全てを察した」

 

 

料理対決というワードは俺たちに取ってパワーワードかもしれない。この地獄の現状を全て把握させることができた。

 

お題はカレーだということは分かる。だが審査員に出されている物が完全にカレーのカテゴリーから外れている。薬物と大して変わらない。

 

 

「治療は終わった。だが後遺症が残っているようだ」

 

 

達也の魔法による治療は終わったらしい。確かに二人は椅子に座り復活していることが分かるが、

 

 

「カレー……怖い……!」

 

 

「姫路さんの料理とはまた違って……脳が溶けるみたいな感覚が……!」

 

 

「後遺症というよりアレはトラウマだな。体は正常だが、心に問題がある」

 

 

「なるほど。記憶を消せばいいのか」

 

 

「万能なのは素晴らしいが、アイツらが普通に可哀想だからやめてやれ」

 

 

そもそも普通のカレーを出せばいいだけのゲームなのに……今ならレトルトカレーの方が百万倍美味く感じるだろうな。

 

 

「次は私たちの番だな」

 

 

「「ヒィッ!!」」

 

 

「落ち着け落ち着け。メイド組にはリサも居るからな……………リサ!?」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「大樹様!? リサの存在に今気付いたのですか!?」

 

 

明久と幹比古の背中を安心させるように撫でていると気付いてしまった。さっきから誰か俺に近いなぁとか思っていたけど黒ウサギか万由里だと思って気にしていなかった。ああ! そんな目で見ないで黒ウサギ!

 

 

「だったらアイツらには無理だろ。チーム見てみろよ。女子力が俺以下しかいねぇよ」

 

 

「大樹君。私たちの女子力と君の女子力(爆)と一緒にしないで貰いたい」

 

 

「不快な事に摩利の表現が正しいと思っている俺が居る」

 

 

でも爆って何だよ。爆発でもするの? 俺の女子力怖ッ。

 

だが相手に取って不足無し。料理に関してリサは強キャラ。俺も腕が鳴るぜ。

 

 

「このメイドは男を完全に駄目にする素質があるからな。料理に関しては俺と張り合えるレベルだ」

 

 

「それは凄いな……それで、君も駄目になったのか」

 

 

「摩利。俺は元々駄目だったから効かないぞ?」

 

 

「何の自慢にもならないぞ?」

 

 

「ええい! ゴチャゴチャ話さず、私たちメイドの料理を括目するが良い!」

 

 

白雪姫がドンッと幹比古たちの前にカレーを置く。良い匂いが幹比古たちの表情を緩ませる!

 

 

「「食べれる料理だ!!」」

 

 

「お前ら見てるとこっちが心痛いわ」

 

 

今まで食べれない料理ばかり食べて来た乞食(こじき)のような発言のようだった。悲しい。

 

メイド組が出したカレーはカツカレー。王道のカレーに王道トンカツを組み合わせた料理。まさに大王道のカレーだった。

 

カツの肉とカレーの味が絡み合う口の中。そこはまさに―――食の銀河が弾け飛んでいた。

 

 

「「ゴバッ!!??」」

 

 

―――違った。口の血が弾け飛んだ。

 

 

「「「「「ええええええェェェ!!??」」」」」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

そのグロテスクな光景に全員が驚愕の声を荒げた。今の流れで死人が出るとは誰も思わなかっただろう。

 

突然起きた殺人現場に唖然とする。しかし、一人だけ真っ青な顔をしている人が居た。

 

 

「………………ごめん、私かも……」

 

 

病原菌(ペスト)混入させたな!?」

 

 

なんという手の込んだ毒殺。ペストさんやべぇっすわ。ぱねぇっすわ。

 

白雪姫がガグガクとペストの肩を揺らすが、一大事なのはレティシアだった。

 

 

「食中毒騒動……業務上過失致死……」

 

 

「どうするんだレティシア殿がショックのあまり崩れ落ちたぞ!」

 

 

「し、仕方無いでしょ! 今マスク持ってなかったんだもの!」

 

 

「大体病原菌(ペスト)の塊が普通に家事を(にな)っている事自体おかしいわッ!!」

 

 

「神霊差別よくない! つーか何でアイツら即発してるのよ! 火龍誕生祭ではあんなの一人も居なかったわよ! ひ弱過ぎるでしょ!?」

 

 

「恐らく先程食べた私の薬物が病原菌(ペスト)の活動を加速させた可能性がある」

 

 

「「コンボ繋いでる!?」」

 

 

「うるせぇよお前ら!? た、達也ぁ!! 急いでくれ! これはガチで死ぬかもしれないからぁ!!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

ケツロケットを食らいながら大声で達也を呼んでいると、更に深い傷を負った者が居た。

 

 

「ちーん……」

 

 

「り、リサあああああァァァ!!??」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

床に倒れて白く燃え尽きているメイド発見。レティシアより重傷だった。

 

リサを抱えると、小さい声で俺に何かを訴えていた。

 

 

「どうした!?」

 

 

「リサは……とんでもないことをしてしまいました……」

 

 

「大丈夫だ安心しろ! ギャグで人は死なねぇ!」

 

 

「凄いメタいこと言ってんぞあの主人公」

 

 

原田の事は無視して首を横に振る。しかし、リサは違うと言う。

 

 

「実はリサ……リサは……!」

 

 

遂にとんでもないことをリサは口にする。

 

それは確かに必要な行為。必要な行為だったがゆえに、リサは失敗したのだ。

 

 

「―――あのカレーを、味見しました……」

 

 

「リサもペストかよおおおおおォォォ!!!!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

一番平和な戦いだったはずが、下の階より犠牲者を出してしまっていた。

 

 

________________________

 

 

 

結局、料理対決は勝利した。

 

物理的な攻撃が審査員を二度程殺したが、最後は俺の本当に光る黄金カレーと原田たちの普通に美味しいカレー、慶吾たちの五分で作れるレトルトカレーを審査員に食べさせて勝利した。

 

というよりメイド組は白雪姫とペストしか残っていない為、カレーを出すことができず戦えなかったのだ。最後まで抵抗してお茶漬けを出した努力は認めよう。

 

一番に勝利したが、結局原田と慶吾に再び追い抜かれて置いて行かれる。長い階段をまた登ることになるが、あることに気付いた。

 

 

「そうだ。ギフトカードは使えるんだから【悪神の真紅(クリムゾン・アジ・ダカーハ)】で飛べるじゃん」

 

 

三人から「今更言う?」みたいな顔をされる。申し訳ない。

 

真紅の布地は四つの翼を形作り、俺の体に掴まるように言うと、

 

 

「おぐぇ!? 普通腕だろ!? 首は絞めるなよ!? 女性関係で殺されるサスペンス始まっちゃうからぁ!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

黒ウサギと万由里の顔に挟まれながら抗議する。しっかりと掴まれた肩から掴まれたので腕に胸の感触があるが、それどころではない。命の危険だ、窒息死する。

 

 

「だそうですよ! 万由里さんは精霊の力で登って来てください!」

 

 

「あなたは自慢の足があるでしょ! 精霊の力を温存する為に譲りなさいよ!」

 

 

どちらも譲る気は無い。むしろ力が入っていた。

 

レキは大人しく俺におんぶされる形で乗っているので楽なのだが、残念ながら両隣りが苦しい。このままの状態が続けばいずれ違う意味で楽になるかもしれないが、それは二度と帰って来れなくなるので駄目だ。

 

ここは強引にでも、飛ぶ体勢にさせて貰う!

 

 

「分かった分かった! どっちとも肩に掴まれ! 飛ぶぞ!!」

 

 

黒ウサギと万由里を無理矢理引き離し、二人のお尻を持ち上げる。自然と二人は肩に手を置く形になるのだが、顔は真っ赤。当然、文句を言う流れになるが、

 

 

ゴオオオオオォォォ!!!

 

 

それは飛翔することで彼女たちの声を打ち消した。

 

黒ウサギの文句も、万由里の悲鳴も、何も聞こえない。このまま上のフロアまでゴーゴーゴー!

 

 

________________________

 

 

 

 

先に着いた原田チームと慶吾チーム。最初の間と同じ広さの空間だが、そこは既に第三の間は乱戦になっていた。

 

 

「それは罪! この数を前にして策を弄することを怠ったことを後悔させましょう!」

 

 

二メートルある体格は禍々しい鎧に包まれ、長い赤髪から黒い角を見せる人型……いや、悪魔だった。

 

ソロモン72柱(ななじゅうふたばしら)、序列68番の悪魔―――ベリアルだ。

 

 

「吾輩たちの集結に為す術がないだろう!」

 

 

小さな体に黒い軍服を着た子どものように見えるが、悪魔だ。序列11番―――グシオン。

 

 

『カ……カララッ……カララララッ……』

 

 

王冠を被った骸骨(がいこつ)が口をパカパカと開閉して笑っている。猫の骨と蛙の骨、蜘蛛の体を持つ悪魔。序列1番のバアルだ。

 

その他にも悪魔はたくさん居る。序列8番のバルバトス。序列18番のバティン。序列5番のマルバス。序列21番のモラクス。序列24番のナベリウス。序列31番のフォラス。序列39番のマルファス。序列57番のオセ。序列59番のオリアス。序列64番のフラウロス。

 

総勢72の悪魔―――ソロモン72柱集結である。

 

 

「一気にハードル上がり過ぎだろ!!」

 

 

短剣を振るいながら文句をブチ撒ける原田。それぞれ特殊な能力を持つ悪魔たちに翻弄(ほんろう)されていた。

 

絶え間なく繰り出される攻撃に防御態勢を強いられる原田チーム。この空間を突破するだけでクリアだと扉の前に書いてあったが、前にすらまともに進めない現状。

 

 

「悪いな」

 

 

「くッ!」

 

 

最初に突破したのは戦力が一番期待されている慶吾チーム。慶吾とガルペスの圧倒的火力に悪魔たちは怯み、木更は確実に悪魔を一体一体狩っていた。苦戦する原田の横をニヤリと笑いながら慶吾は走り抜けた。

 

 

「ッ……限界だ! 撤退しよう!」

 

 

「散らばった悪魔たちがこちらに集中すれば終わりだ! その前に態勢を―――!」

 

 

ジャンヌの作り出した氷の壁は今にも崩れそうになり、摩利はサイオンが尽きかけている。悔しそうに歯を食い縛る原田は逃げることを決定した。

 

だが、その逃げる瞬間の緩みが原田たちの首を絞めた。

 

 

パリィンッ!!!!

 

 

氷の壁を突き破って来た巨人の悪魔。背を向けていた原田の胴体を乱暴に掴み取った。

 

抵抗しようと短剣の力を発揮させようとするが、体が急激に冷たくなり、全く手が動かなくなった。

 

 

「このッ……!」

 

 

「そのまま握り潰すのですガープ! それで愚かな人間は許されるのですから!」

 

 

巨人の握る手の力が強まり、体からミシミシと嫌な音が聞こえ始める。原田の身に激痛が走ろうとしたその時、

 

 

ドゴッ!!

 

 

「グガッ……?」

 

 

巨人の(あご)に衝撃が与えられ、握っていた原田を放してしまう。巨人にあまりダメージは無いが、脳を揺らした一撃は原田を救出するには十分だった。

 

 

「大樹、か……」

 

 

「不満か? 可愛い女の子じゃなくて悪かったな」

 

 

巨人の顎を蹴り上げたのは手錠を付けた男。口元をニヤリと笑みを見せる大樹だった。

 

攻撃を繰り出した後、大樹は空中で無防備になり、巨人の反対の手に捕まりそうになる。

 

 

ザシュッ!! バチバチガシャアアアアアン!!

 

 

その前に巨人の腕には槍が深く刺さった。電撃を纏った槍は激しい閃光と共に巨人の体を焦がした。

 

黒ウサギの投擲した槍を分かっていた大樹はそのまま近くに居た悪魔の懐に潜り込む。悪魔が視線を下に落とした時には大樹の姿は消えていた。

 

 

ガチンッ!!

 

 

「ギギャッ!?」

 

 

「神の力でも壊せない無駄に硬い手錠だ。んで、首を絞められた感想は……絞めているから言えないか」

 

 

手錠で悪魔の首を絞める大樹の顔は悪い。他の悪魔が驚いて近づけていない。

 

 

ガキュンッ!!

 

 

首を絞めた悪魔の眉間に風穴が開く。一切の迷いがない銃弾に大樹はすぐに行動を移す。

 

人質を無くした大樹に悪魔たちが一斉に襲い掛かろうとする。頭上から飛び掛かる悪魔たちに大樹は見向きもしない。

 

 

ギュオォッ!!

 

 

直後、悪魔たちの真横から青白い光線が放たれた。腰を少し落とすだけで大樹はしっかりと避けている。

 

一秒と経たずに燃え尽きる悪魔たち。光線の威力の凄まじさを物語っていた。

 

万由里の攻撃も、大樹には分かっていた。お互いに目を合わせて頷いている。

 

一切言葉を交わすことなく、黒ウサギからレキへ、万由里に続く連携に原田たちは驚きを隠せない。この短時間で組み上げられたチームワークの良さは二つのチームより群を抜いているだろう。

 

 

「あんなに綺麗に連携が取れていることに凄いって思うが……」

 

 

「ああ、一番凄いのは大樹だな」

 

 

「……本当にあの手錠は力を封じているのか? 気持ち悪いくらい動いているぞ」

 

 

原田からジャンヌ、摩利まで奇怪な目で見られてしまった。感想が相変わらず酷い。

 

すると後方では黒ウサギたちも親指を立てている。レキまで裏切られたことがショックだわ。ノリが良いな。キンジの影響かこの野郎。

 

円を描くように七人が背合わせ、悪魔たちと対峙する。囲まれている状況になるが、大樹はいつも通りの調子で笑って見せる。

 

 

「大丈夫? 助ける? おっぱい揉む?」

 

 

「いいか大樹。お前の胸を触って喜ぶのはそこに居る黒ウサギだけだろ」

 

 

「黒ウサギに飛び火するのはやめてください!?」

 

 

「なるほど。じゃあ俺の胸を触っていいから黒ウサギの胸を触っていいか? 等価交換だ」

 

 

「黒ウサギの胸と大樹さんの胸を等価にしないでください!?」

 

 

「相変わらず天才かよ」

 

 

「お馬鹿ですよ!!!」

 

 

大樹と黒ウサギの会話に原田にも余裕が現れた。周りもクスクスと笑っている。

 

この中で最も戦力として見込めない者が一番頼りになっていた。

 

 

「な、楢原……大樹だと……!」

 

 

「おっと? 見覚えのある悪魔が多いな……これはこれは―――」

 

 

パキパキと手を鳴らしながら悪魔染みた笑みを浮かべる大樹。青ざめた悪魔たちが更に怯える。

 

 

「―――グチャグチャになるまで殺しておk、という解釈で良いよな?」

 

 

「ヒェ!? よっぽどあなたの方が悪魔です!! 大罪です!!」

 

 

「何故そんな悪魔的な解釈をする!?」

 

 

『ファッ!?』

 

 

面白いまでの反応をする悪魔。しかし、彼らは狡猾(こうかつ)な存在であることも忘れてはならない。

 

 

「ぐききき……!」

 

 

「しまった!?」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

悪魔の一匹が原田の背後を取り、そのまま首と腕を掴んで拘束した。……それと、ケツロケットも一緒に食らいながらだとシリアスな雰囲気がゼロであることも記載する。

 

悪魔の有利勢。人質を取るような形にグシオンの顔に笑みが戻る。

 

 

「よくやった! さて、どうする!? このまま戦うと言うなら私はこの坊主男を殺すぞ!」

 

 

「いいよ」

 

 

グシオンの警告に大樹は頷いた。下卑た笑みを浮かべていたグシオンは———

 

 

「「「「「……………えッ!?」」」」」

 

 

―――ポカーンと口を開けてしまう。他の悪魔たちもだ。

 

当然これには大樹の仲間たちも驚く。悪魔たちも驚愕を隠せていない。

 

原田が涙目になる中、大樹は呆れるように溜め息を吐いている。

 

 

「ソイツ一人の為に黒ウサギが危険な目に遭うなら余裕で捨てるわ」

 

 

「ですよねー……はぁ」

 

 

原田の顔が一気に老けた気がした。大樹の言葉に呆気に取られる悪魔たち。しかし、それは見栄を張っているだけに違うないとグシオンは頭を振る。

 

 

「フンッ! 強がるのも今の内だ。私たち悪魔は本気で殺―――」

 

 

ザシュッ!!!

 

 

その時、原田を捕まえていた悪魔の額に槍の先が突き刺さった。【インドラの槍】を大樹が手錠を掛けられた手で投げたのだ。

 

 

バチバチガシャアアアアアアアン!!!

 

 

「あばああああああああッ!!??」

 

 

「ぐぎゃあああああああッ!!??」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

血が噴き出す前に強烈な電撃が放出された。威力の大きさに原田と悪魔は叫び声を上げた。

 

その光景に大樹を除いた全員が「えぇ……」と呟いた。大樹は「汚ねぇ花火だ」と呟いている。

 

悪魔よりも悪魔。人質ごと敵を(ほうむ)ることを躊躇(ためら)わない人間が居た。

 

 

「よし、次だ」

 

 

「「大悪魔か!?」」

 

 

ジャンヌと摩利の言葉はあんまりだと思う。俺が悪魔? ノンノン、ワタシ、天使。皆の為に頑張ります。

 

 

「私たちのリーダーを切り捨てて置いて次に行くのか!?」

 

 

「落ち着けジャンヌ。リーダーの戦闘不能でもゲームの続行はできる。二人は存分に盾や(おとり)に使うべきなんだよ」

 

 

「だから悪魔か!? 解釈の仕方が酷いぞ!?」

 

 

二人の信じられない会話に悪魔は懲りずに人質作戦を続けた。今度は後方から人質を連れて来た。

 

 

「ならば……コイツだ! 下の階から拾って来たコイツならどうだ!」

 

 

「ちょちょちょとちょっと待て!?」

 

 

連れて来られたのは【ペルセウス】のルイオスだった。怪我をしていたので包帯を巻いているが、叫んでジタバタできる程元気だ。

 

 

「箱庭では貴様の配下らしいが、弟分のような物だろう? だったら切り捨てることは―――!」

 

 

「コイツは馬鹿か!? 何を見ていたんだこの悪魔は!? 親友すら切り捨てる男が僕を救うわけないだろ!」

 

 

ピンポンピンポーン。大正解。

 

見事正解したルイオス君には万由里の砲撃を進呈しまーす。

 

 

「万由里」

 

 

チュドーンッと盛大に爆発するルイオスと悪魔。躊躇(ちゅうちょ)するどころか顔色一つ変えなかった。

 

三度目の正直。悪魔たちは最後の人質も見せた。

 

 

「な、ならばこれを見ろ! これは現在走り抜けている宮川チームの通路を起爆する装置だ!」

 

 

この時点で大樹のことをよく知る友人たちは裏切ることを確信した。

 

大樹の「やったぜ」という小さい呟きを逃さない。大樹の行動を予測できてしまった周りの人たちは下を向いている。

 

 

「やめろー。アイツらは関係ないだろー」

 

 

クソみたいな演技を始める大樹。大きな声を出せば騙せると思ったら大間違いだ。

 

 

「ああ! それは罪……罪です! 仲間の大事さに気付かなかった……愚かな自分を恨みなさい!」

 

 

いや、まず敵が馬鹿であることが間違いだった。

 

 

「爆発しちゃイヤー」

 

 

「そうだろうそうだろう! 爆発を止めたいなら土下座でも―――!」

 

 

「同情する価値もねぇ奴の為にするわけねぇだろ。ぶっ殺すぞ」

 

 

「―――いや急にどうした!?」

 

 

情緒不安定な大樹にグシオンは酷い驚き顔を見せる。悪魔たちのリアクションが面白くなって来た。

 

訳が分からなくなった悪魔に大樹は瞬時に近寄る。気を緩ませ過ぎ。簡単に距離を詰めることに成功する。

 

そのまま起爆装置を奪い取り、何も考えることなくカチッと押した。

 

 

「「「「「えええええェェェ!?」」」」」

 

 

「手が滑ったぜ」

 

 

「嘘つけ」

 

 

悪魔たちは大樹を見て驚き叫んだ。コイツは悪魔なのか!?と。

 

直後、頭上から凄まじい轟音が部屋全体に響き渡る。そして威力の大きさに全員が察する。

 

天井から落ちて来る無数の瓦礫(がれき)。三人程人影が見えた気がした。

 

そして、ポンッと納得するように大樹は手を叩く。

 

 

「上の階を爆発するんだから、そりゃ落ちて来るわな。すまん」

 

 

「お前が一番悪魔だよこの野郎!!!!」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

________________________

 

 

 

天井が爆発したことで【悪神の真紅(クリムゾン・アジ・ダカーハ)】を使い飛翔。再びレキを背負い、黒ウサギと万由里は俺の肩に掴まり、二人を持ち上げる為にお尻を触ったことで鋭いビンタを二発。両頬に真っ赤な手形が残っている。仕方ないじゃん、安全に飛行する為には必要な行為だったもん。俺は悪くない。世界が女性の尻を触ることを禁止したことが悪い。

 

今度は一位を独走できると思っていたのだが……まぁ俺のことが嫌いなら追いかけてくる奴が居るよな。

 

 

「だあああああああああいぃきいいいいいいいいいいいいいいッッッ!!!!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「原田の顔が修羅(しゅら)ってるわ」

 

 

『ヨルムンガンド』が凄まじい速度で登って来た。壁に穴を開けて這うように登っている。

 

原田はもちろん、ジャンヌと摩利も乗っている。ヤバイ、このままだと殺されるわ。

 

 

「【創造生成(ゴッド・クリエイト)】……………コイツをやるから許せ!」

 

 

大樹は原田に向かって投げるのだが、明らかに受け取れる速度ではない。敵に投擲するような速度だった。

 

当然、原田はその程度見切れないわけじゃない。片手で受け止めることができる。しかし、

 

 

グチョッ!!!

 

 

「……………」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「……………」

 

 

「……………」

 

 

原田の手から拡散するように弾け飛ぶ半液体。後ろに居たジャンヌと摩利の顔にも付いている。

 

サァーと青ざめた顔になるのは黒ウサギと万由里。大樹とレキは真顔だった。

 

 

「だ、大樹さん? 何を……投げたのか一応聞いても?」

 

 

「ローション。きなこ味」

 

 

「お馬鹿!!!!!」

 

 

「洒落になってないわよ!? めちゃくちゃキレているわよアレ!!」

 

 

原田だけでなく、ジャンヌと摩利も怒っている。氷とか魔法とか、めっちゃ飛んで来る。

 

泣きそうな黒ウサギと怯えた万由里がガクガクと肩を揺らす。すると大樹は思いつめた表情になった。

 

 

「確かに最初は味方しようと思った。でも、ここまで来る時、いろいろあったことを思い出してさ」

 

 

クソみたいな企画からバスの中、学園都市、武偵高校、文月学園、そして箱庭。

 

でも気付いてしまった。この流れで、味方が増えてもあまり意味が無いことに。

 

……まぁ簡単に言えば、こういうこと。

 

 

「……ストレス発散かな」

 

 

「一番最低な解答を頂きましたよ黒ウサギは!?」

 

 

「捕まった辺りから仲間にはなれないかなっと」

 

 

「見限るの早過ぎませんか!? まだ助ければどうにか―――!」

 

 

「黒ウサギ。一つ、大事な事を教えてやる」

 

 

真剣な表情に思わず黙ってしまう黒ウサギ。どうせロクでもないことを発言すると分かっているのに、聞いてしまった。

 

 

「俺はこのクソみたいな企画では、人を殺すことを躊躇(ためら)うことはないッ!!」

 

 

「この物語の主人公で一番言っては駄目な発言ですよーッ!!??」

 

 

「救うなんてもってのほか! 他人は蹴り落としてでも、俺は生き残るッ!!」

 

 

「本当に一番言っては駄目な発言ですよーッ!!??」

 

 

黒ウサギが泣きながらダメダメと言うが、俺の心は変わらない。ホント生き残りたいんです。

 

 

「それがテメェの最後だぁ!!!」

 

 

「言い争ってる場合じゃないわよ!? ヤバイのが来たわよ!」

 

 

『ヨルムンガンド』の口から吐き出される光線を回避しながら飛翔する。気を抜けば爆風だけで、もみくちゃにされそうになる。

 

 

「くらえ! ローション!!」

 

 

「もうやめてください大樹さん!?」

 

 

「じゃあオ〇ホでも投げておくか。一人家で寂しくするんだな!!」

 

 

「ホントやめてください大樹さぁん!!!」

 

 

「欲しがりめ!! それでも満足できないお前はダッチワ〇フまで欲しいのか!!」

 

 

「大樹さあああああああんッ!!!」

 

 

黒ウサギの悲痛な叫びに投擲を中止。投げた物は太陽の威光で全て燃やし尽くされた。何だアイツ。オジマ〇ディアスかよ。

 

物は燃えてしまったが、代わりに原田の怒りは最高潮に達したようだ。

 

 

「BU-KKO-RO-SU」

 

 

「何かアイツ言語捨ててるわよ!?」

 

 

万由里の言葉に汗がダラダラ流れる大樹。相当キレていらっしゃる。

 

『ヨルムンガンド』の這う速度が上昇する。攻撃の激しさも増した。

 

 

「見えたぞ。次のフロアだ」

 

 

約十秒後にはぶつかりそうな天井。黒ウサギたちが何かを抗議する前に、大樹は速度を上げた。

 

後方から迫る『ヨルムンガンド』の光線を引きつけて回避。天井に穴を開けた。

 

そのまま速度を最大まで引き上げ、瓦礫を避けながら次のフロアへ突撃する。

 

 

「うおッ!?」

 

 

その時、【悪神の真紅(クリムゾン・アジ・ダカーハ)】に異変が起きた。

 

恩恵を消されるかのような感覚。宙に投げ出された俺たちは地面へと落ちようとする。

 

 

「恩恵が無効化されたのか! この高さでの着地は足が折れる! 黒ウサギ、万由里!」

 

 

「YES!」

 

 

「分かってるわよ!」

 

 

俺の呼ぶ声に万由里はレキを抱き、精霊の力を使って飛翔する。黒ウサギは体勢を立て直し、俺をお姫様抱っこする形で地面に着地した。

 

 

「……何だろう。この、違うって感覚はあるのに良いなって思う自分が居る、この……何だこの気持ち! 恋か!?」

 

 

「腕の中でパニックになられると困りますよ。黒ウサギも、この複雑な気持ちどうすればいいんですか。恋ですか?」

 

 

「殺意衝動よ」

 

 

「「それは絶対に違う」」

 

 

黒ウサギと一緒に顔を赤くしていると万由里に邪魔される。恋の気持ちで殺すとかサイコパスじゃないか。

 

サイコパスと言えば、サイコパスの形相で襲い掛かる奴が居るな。

 

 

「大樹ィィイイイイイ!!!」

 

 

拳を握り絞めて殺意のオーラをバンバン出している原田が飛び掛かって来た。黒ウサギが避けようとするが、必要は無くなる。

 

ピタッ……と不意に原田の体が硬直した。その事に原田は驚き、大樹は確信した。

 

 

「何ッ」

 

 

「やっぱりか……」

 

 

「『一切の争いを禁ずる』という特殊な空間です。ようこそ、お相手は私たちです」

 

 

カツカツッと靴を鳴らしながら近づいて来た燕尾(えんび)服を来た男。バトラーだった。

 

後ろには全身をローブで隠し、フードを深く被っている人たちが数人。身長はバラバラだ。

 

 

「ば、バトラー……」

 

 

「下では物騒な争いばかりでしたからね。ここでは穏便にしましょう」

 

 

確かに物騒だった。玄関での戦闘から、死人が出た料理対決、悪魔たちの大行進。本当に全て物騒だな。

 

凄まじい形相で必死に殴ろうとする原田をチラチラ気にしながらバトラーに尋ねる。

 

 

「私たちにミニゲームで二勝できた方から通って良いことにします。順番は大樹チームからですね」

 

 

「……もし、ここで負けたら?」

 

 

「ゲームオーバーになりませんが、一階から登り直しです」

 

 

「チッ、嫌な事をするなよ……」

 

 

「ここは宿の半分ですから。他のチームと差を付けたいなら頑張ってください」

 

 

不敵な笑みを見せるバトラーに舌打ちする大樹。パチンッとバトラーが指を鳴らすと、両手の中に白い箱が現れる。

 

 

「―――さて、まずはどんなゲームをするのか選んで貰いますよ」

 

 

To Be Continued……

 

 




現在のケツロケット回数

楢原 大樹 189回

原田 亮良 168回

宮川 慶吾 103回


大樹「全員三桁おめでとう」

原田「白目で言うなよ」

慶吾「コイツに関しては次で二百越えるな」

大樹「やっぱりね、双葉の騒動が一番辛かった。数も一番稼いだし」

原田「というかこの旅館の半分でこの濃いさって……難易度が上がるならこれから先って」

慶吾「言うな。もう、何も言うな」

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