どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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作者から一言。


―――「流行ネタが多過ぎてネタに困らない今日この頃」(つまりパクリ)


またバスで絶対に動揺してはいけない24時!

―――地獄からの帰還。そして地獄へと向かう。何だこの無限ループ。いい加減終わってくれ番外編企画。本当に体が耐えられないから。

 

再びジャコバスに乗るのだが、疲れているせいか何度も溜め息が出てしまう。隣では原田———顔以外全身を包帯で巻かれたミイラ男と化している―――が怖い顔をしていた。

 

 

「拷問……して、やりたい……!」

 

 

「何かサイコパスになって帰って来たよウチの親友」

 

 

少し殺気を抑えてくれませんかね?

 

 

「大樹様! 出番ですよ! ドMの大樹様ならwin-winの関係ですよ!」

 

 

「リィラ。頼むから黙るか降りるか死んでくれ」

 

 

「ドSな大樹様、ゾクゾクします……!」

 

 

駄目だこの変態。頭の中終わってる。

 

終わっていると言えば死んでいる奴も居たな。

 

 

「……………」

 

 

白目をむいて座っている慶吾だ。おい黒幕、お願いだからしっかりして。主人公、めっちゃ困っているから。そんなことで本編終わるとか嫌だからね。

 

姫路の料理がここまで酷いとは……明久たちの胃袋が鋼になるのも頷ける。普通は死ぬから良い子は真似しないように!

 

 

「ある意味、何も知らないまま次のゲームに参加できると思えば楽かもな」

 

 

「あっ、次のゲームまでは放っておきますが、始まると黒ウサギ様の【インドラの槍】で強制的に起こすことになるので———」

 

 

「怪我人には優しくして。俺がちゃんと起こすから」

 

 

「……拷問で?」

 

 

「普通に起こす!」

 

 

何で俺以外狂ってんだここ!? ボケれねぇじゃねぇかよ! 前回真面目に戦ったんだぞ!? ボケさせろぉ!!

 

行き場の無い怒りを心の中で叫んでいると、バスが停車した。

 

ビクンッと驚く俺と原田。まさか……来るのか!?

 

 

―――ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?

 

 

来ちゃうよなぁ! そうだよな! 動揺させるのがお前らの仕事だもんな! クビになれ!

 

カツカツと歩いて来たのは冒険者のような装備をした―――

 

 

「間違っているに決まっているだろ! 俺は普通の生活を送りたいんだよぉ!!」

 

 

―――遠山 キンジの登場である。めっちゃ怒ってる。

 

 

(一番向いてそうで一番向いてない複雑な奴が来たぁ!!!!)

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

これには俺と原田はケツロケット。また来たのかお前。

 

 

「この辺りにゴブリンが逃げて来たはずだが……どこに行った?」

 

 

「「隣にゴブリンみたいな性格をしている奴なら居るけどな」」

 

 

よし、原田と声が揃った。

 

 

「「上等だゴラァ」」

 

 

「ギギィ」

 

 

胸ぐらを掴んだ時、バスの後ろから少し低い声の棒読みが聞こえた。

 

振り返るとそこには棍棒を握り絞め、頭からツノを生やした―――凄まじい殺気を出した(えん)が腕を組んでいた。

 

 

「「そんなゴブリンが居てたまるかぁ!!??」」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

強過ぎるだろ!? 役の振り方間違ってんぞ!? 何かキンジもビビってるじゃねぇか!

 

 

「ひ、ヒスらなきゃ……!」

 

 

「普段めっちゃ嫌がっている奴がヒスがってんぞおい!? 白雪(しらゆき)辺り呼べよ!」

 

 

その時、ドタドタとバスの中に入って来た。僧侶のような恰好の少女は杖を掲げる。

 

救世主! これでキンジがヒスれる可能性がある!

 

 

「助けに来たのじゃ!」

 

 

―――違った。男の娘だったわ。いや性別秀吉(ひでよし)だったわ。

 

 

「木下!」

 

 

それでもキンジの表情は明るくなる。なるほど。

 

 

「ヒスるのか……秀吉で」

 

 

「いや男だろ!?」

 

 

冷静にツッコまれた。ワンチャンあるかと思った。もしこの場に優子が居たら超喜ぶ展開になったかもな。

 

 

「俺たちも居るぜ!」

 

 

「待たせたなキンジ!」

 

 

秀吉の後ろからドタドタと走って来る男たち。戦士分の装備と魔法使いの格好をしている。

 

戦士の武藤 剛喜。それから魔法使いの上条 当麻の登場だ!

 

ニヤリと笑いながら並ぶ四人。その光景に大樹は頷いた。

 

 

「うん無理! このパーティ、全滅するわ!」

 

 

閻に勝てない。天と地の差だわ。レベルと装備を整えて出直して! というか転生しなきゃ無理だ!

 

 

「というか魔法使い! お前が一番何もできないだろ!」

 

 

「上条さんの得意分野を忘れたんですか? どんな魔法でも消せる! よくある最強パターンだろ!」

 

 

「相手を見ろぉ! ゴリゴリの武闘家レベルだぞ!! 絶対魔法とか要らないタイプだからな!」

 

 

原田の忠告に当麻たちは余裕の笑みを消さない。駄目だ。個人個人が終わってる。

 

 

「フンッ」

 

 

「「ぐはぁ!!」」

 

 

ホラ見ろ秒殺。武藤と当麻が一撃でバスの外へと飛ばされた。ホント雑魚。

 

 

「一撃じゃと!?」

 

 

「ざ、ザオ〇ル! ザ〇ラルを使うんだ!」

 

 

「そ、そんな呪文を台本………覚えてないんじゃが!?」

 

 

今台本って言った?

 

キンジが悔しそうな顔をする。どうせ生き返らせても肉壁にもならない気がするけどな。というかド〇クエ仕様なのか。

 

 

「じゃあ何が使える!?」

 

 

「ファー〇トエイド、キュ〇、レ〇ズデッドじゃ」

 

 

テイ〇ズだな。完全にテイル〇だわ。

 

 

「レイズデッ〇だ! それが復活の呪文だ!」

 

 

「じゃがどっちを先に復活させる!? 二人目は次のターンじゃぞ!?」

 

 

ターン制なのね。律儀だな。

 

 

「魔法使いだ!」

 

 

「魔法使いって良いのかアレ?」

 

 

キンジの言葉に秀吉は頷き詠唱する。レ〇ズデッドと叫ぶと、バスの中にドタドタと入って来た。復活の仕方に笑いそうになる。

 

 

「―――魔法が使えなくても、俺は魔法帝になってみせる」

 

 

完全に死んだ当麻の声では無かった。入って来たのは古()びた大剣を右手で握り絞めた男。

 

魔法科高校の制服を身に包んだ―――

 

 

「この戦いの最後は、魔法騎士団『黒の暴牛(ぼうぎゅう)』が勝つ!」

 

 

―――鬼畜お兄様、司波(しば) 達也(たつや)だった。

 

 

「「いやお前ア〇タじゃねぇだろぉ!!??」」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

完全に成り切っているつもりだろうか? あのキャラクターと全く正反対の奴なんだけど。

 

 

「待ってろよユ〇!」

 

 

「それっぽいこと言ってもアウトだろ!」

 

 

「確かに〇ノと違って俺は不出来だ」

 

 

「そんな馬鹿な」

 

 

「でも俺は魔法を無効化にすることができる。別にこの剣が無くても」

 

 

「だろうな。頼むからその剣の存在意義を落とさないで」

 

 

「それに分解とか再生とかしか使えない……ああ、魔法が得意じゃないな」

 

 

「やっぱ使えるのかよ結局。十分強いよ」

 

 

「大樹と同じように富士山を消すくらいしか、俺にはできない」

 

 

「だから十分だろゴラァ。俺とお前は同類だよ化け物」

 

 

「それでも俺は、絶対に魔法帝なってみせる!」

 

 

「なれるよ。多分なれる」

 

 

「ゴブリンなんて倒している場合じゃない! すぐに帰ってトレーニングをしなければ……待ってろ、深雪!」

 

 

そんなことを叫びながらバスから降りる達也。ってええ!?

 

 

「「「「いや帰るの!?」」」」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

キンジたちと一緒にツッコミを入れてしまった。クソッ、何て的確な一撃なんだ。

 

というか〇イズデッドの無駄撃ちで終わっている。このパーティ、次で終わりかな?

 

 

「ま、まだだ!」

 

 

キンジが懐から綺麗な水の入ったビンを取り出した。ライフボトルか何かか?

 

 

「フェ〇ックスの尾!!」

 

 

「「どこが!?」」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

突然のファイナルファ〇タジー要素にビビる俺たち。クッ、地味にケツロケットが……!

 

 

「頼む! 帰って来てくれ、魔法使い達也!!」

 

 

「完全に上条さん見捨ててられてて草」

 

 

「おいやめてやれよ……死者の冒涜ブホォ!」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「冒涜しているのはチミだわ原田君」

 

 

途中で笑うとか最低かよ。草とか言ってる俺も酷いけど、一番はお前だよ原田。

 

その場でビン(フェニック〇の尾)を床に叩きつけるキンジ。使い方それで合ってるの? 違う気がする。

 

 

「帰って来たぜ……上条さんがパワーアップしてな!」

 

 

はい、残念なお知らせです。

 

 

「武闘家に転職したぜ!」

 

 

武闘家の服を着た上条さんが帰って来ました。お強い達也さんはどこかに行ってしまったようです。

 

 

「「ッ……………!!」」

 

 

両手を顔に当てて悲しむキンジと秀吉。お前らも最低だな。

 

 

「歯を食い縛れよ最強」

 

 

ここでその名言来るぅ!?

 

 

「俺の最弱は……」

 

 

拳をグッと握り絞めた上条は閻に向かって走り出す。そして、

 

 

「ちっとばっか響くぞぉ!!!」

 

 

全身全霊を込めた一撃。上条の拳は閻の腹部に炸裂した。

 

 

ゴッ……

 

 

「……………」

 

 

「フンッ」

 

 

ゴシャアァッ!!!!

 

 

「こっちが響いたぁ!!!!」

 

 

「「と、当麻ぁ!!」」

 

 

「「ブフォwwwww!!」」

 

 

返り討ちにあった当麻にキンジと秀吉は悲鳴を上げる。俺たちは同時に噴き出した。

 

完全に腹筋を殺して来ている流れだ。尻も痛いし、勘弁してくれ。

 

バスから投げ飛ばされる当麻を見たらもうお腹が痛い。ホント面白いからやめて。

 

 

「れ、レイズ〇ッドじゃ!」

 

 

秀吉の言葉にキンジは頷く。すぐに詠唱するのだが……もうまともな奴が来る気がしない。

 

その時、秀吉の持つ杖が俺の方へと飛んで来た。思わずキャッチしたが、ナニコレ。

 

 

「ま、まさか!?」

 

 

「で、伝説の魔法使いじゃ! そんなところに居たとは……!?」

 

 

「おい大樹。お前魔法使いらしブホォ!!」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「だからお前はいつまで笑ってんだよ。どういうことだ? 魔法というか神の力しか振るえないけど?」

 

 

俺の質問にキンジは真剣な表情で答える。

 

 

「いや真の魔法使いだ。間違いなく」

 

 

「……………根拠は?」

 

 

 

 

 

「伝説魔法使い……それは女性と関わる経験が豊富にも関わらず、純潔を守り続けた最強の『童貞』を貫いた男のこと!」

 

 

 

 

 

「あ?」

 

 

「ンッッッ……ブホォwwww!!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

そっちの魔法使いね。なるほどなるほど。よぉく分かった。

 

 

「よし、お前ら全員ゲームオーバー画面が見たいようだな。冒険の書まで消し飛ばしてやる」

 

 

キンジが真剣に答えているが、横では秀吉は口を抑えている。原田に関しては下品にゲラゲラと笑い始めていた。

 

 

________________________

 

 

 

 

「なぁ。俺だけ本気で殴ることなくない? なぁ」

 

 

「うるせぇ。双撃すんぞ」

 

 

「いや死ぬわ」

 

 

あの後、全員をフルボッコにした。閻は見逃し、秀吉はデコピン。キンジはぶん殴り、原田には【神殺天衝】した。罪悪感はない。清々しい気持ちだ。

 

アレだけの騒動があったにも関わらず、未だに隣では死んでいる慶吾。本当に生きているのか不安になる。

 

 

「……停まったな」

 

 

「ああ、最悪だ」

 

 

原田の言葉に俺は頭を抑えながら悲しむ。バスがまた停車したのだ。

 

今度は何だと様子を見ていると、

 

 

「いやぁ、今日も大漁大漁! (もう)かったなぁ!」

 

 

「「いッ!?」」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

バスの中に入って来たのは大樹の師匠であり先祖である人物―――楢原 姫羅(ひめら)だった。

 

この登場に当然驚く大樹と原田。口が大きく開いていた。

 

 

「駄目ですよ姫羅さん。あまり無茶しないでください」

 

 

姫羅と一緒に乗車して来たのは士道(しどう)だ。精霊の力を封印することができる男、五河(いつか) 士道だった。

 

何だこのコンビ。いろいろとツッコミを入れたい。

 

 

「別にいいだろ? それより見てみな。この大量の男子制服の第二ボタン」

 

 

「「何取ってんだお前ら」」

 

 

使う用途が全く見当が付かん。男の子を困らせるのやめろ。卒業式の青春の為に必要なボタンだぞ。

 

 

「俺は……まぁまぁですかね。女子生徒の黒の右靴下、少なかったです」

 

 

「「ホント何取ってんだお前ら!?」」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

士道に至っては犯罪だから。マニアック過ぎるだろ。右靴下だけって何だよ。

 

 

「まぁお前の仕事はライバルが多いからな。そう落ち込むことはないよ」

 

 

ライバルも士道級の変態じゃねぇか。世界観終わってんな。

 

 

「あら?」

 

 

その時、バスの後方で席を立つ者が居た。そう言えば全く見ていなかった。ゴブリン役をしていた閻すら気付かなかったからな。というかいろいろと大き過ぎて気にならないんだよ後方。

 

 

「久しぶりですね、姫羅さん、五河さん」

 

 

「お前は……!」

 

 

「司波 深雪……!」

 

 

「「マジかぁ」」

 

 

魔法科高校の女子制服を身に纏った美少女の登場に驚く。

 

ちょっと? 全然気付かなかったけど? というかさっきお兄様、下車しましたけど大丈夫ですか? あなたを追い駆けに行きましたけど?

 

 

「五河さんの収穫は少ないですね……もしかして、私が狩り尽した後に行ったのですか?」

 

 

「ライバルお前かよ!?」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「ゆ、百合か!?」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

酷いライバルに俺たちは驚くが、原田がズレている件について。何だコイツ。窓から捨てたい。

 

 

「喧嘩なら買うが?」

 

 

「姫羅さんと戦う理由はありませんが……いいですよ。力の差を見せつける良い機会ですので」

 

 

何でノリノリで好戦的なのかな? というか絶対巻き込まれるパターンじゃん。

 

 

「姫羅さん……」

 

 

「安心しな。アタシが負けるわけないだろ」

 

 

「随分と余裕ですね。勝負内容は……良いですね?」

 

 

深雪ぃ! こっちを見るなぁ!

 

おい待て。馬鹿、ふざけんな。ロクな目に遭わないことぐらい分かるからやめろ。

 

 

「ではそこの二人から奪うことで、よろしいですか?」

 

 

「「よろしくねぇよ」」

 

 

深雪の提案に首を横に振るが、姫羅と士道は縦に首を振った。馬鹿野郎。

 

勝負が成立したせいで警戒をより一層高める。何を奪う気だコイツら。俺はTシャツでボタンは無いし、靴下は灰色だぞ。……うーん、それでも嫌な予感しかしないね!

 

 

「じゃあアタシはだい……元気そうな少年から―――」

 

 

「私はだい……オールバックの男の子から―――」

 

 

その時、深雪と姫羅の言葉が止まる。何で俺だよどっちとも。大樹って言おうとするな。

 

 

「いやいや、そっちの男の子にしろよ」

 

 

「いえいえ、姫羅さんがそちらをお願いしますよ」

 

 

俺の右肩を姫羅が強く掴み、左肩は深雪が掴んだ。ギチギチと嫌な音が聞こえ始める。

 

 

「い、痛い痛いイタタタタタッ!?」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「大樹の犠牲で俺は救われたのか……フッ」

 

 

「おい原田! 安心していないで俺を助けッ……肩超痛いッ!?」

 

 

右肩は女の子が出せる力じゃない! 左肩は冷たくて痛い! 何で俺を取りあってるの!? どっちでもいいじゃん!

 

 

「アタシは大樹の師だ! 弟子の面倒を見るのは当然だろ!」

 

 

「そんなことはありません! 私だって大樹さんのこと、お兄様の次に想っていますから!」

 

 

「アタシだって旦那の次に想っている!」

 

 

「何だその次って。複雑な気持ちになる俺のことを考えて。次ってやめろ次って」

 

 

早く勝負しろよぉ! どっちがどっちでも良いから!

 

 

「今回バスでの犠牲は大樹か……むふっ」

 

 

「何余裕ぶってんだ原田? お前も俺が直々に地獄落としてやるから安心しろ」

 

 

「隙あり!」

 

 

「あッ!?」

 

 

言い合いから最初に止めたのは姫羅。原田を睨み付けていた俺は油断していたが、姫羅の高速な動きは見えていた。

 

彼女の手は俺へと、伸びている。

 

―――ただし、服でも靴下でも無く、手が向かう先はズボン。股間辺りに手を伸ばそうとしていた。

 

 

「……どうして避けるんだい、大樹?」

 

 

「いや避けるに決まっているだろ変態。何考えているのお前……」

 

 

神の力を解放すると同時に回避することに成功する。額から動揺の汗が流れてしまっている。

 

 

「パンツの方がポイント高いからな」

 

 

「基準どうなってんだよお前らの職業!?」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

俺のパンツなんて飲み終わった缶ジュース級に需要が無いぞ。女の子なら別かもしれないが。

 

姫羅ばかり警戒していると深雪の方にも動きが合った。即座に右手を床に叩きつけて魔法陣を砕く。

 

 

『ごはぁ!!!!????』

 

 

「あ、すまんジャコ」

 

 

ジャコバスの悲鳴が聞こえた。あとでぶっ殺すとか呟いているような気がしたが、今は深雪だ。CADを構えたまま不服そうな顔をしている。

 

 

「……次は【ニブルヘイム】で行きます」

 

 

「ジャコ死ぬからやめてあげて」

 

 

「なら刀は良いよな?」

 

 

「全然良くない。ジャコ死ぬ」

 

 

無抵抗だと俺が死ぬよりジャコが先に死ぬだろこれ。むしろ抵抗した方がジャコと俺、生きて行ける気がして来たわ。

 

必要に俺だけ狙うことに苛立ってしまうが、この状況をどうすればいいか悩んでいると、名案が閃いた。

 

 

「そうか……そうだよな」

 

 

世界観が無茶苦茶なのは理解した。ならば―――あとは適応するだけでいいのだろう。

 

 

「かかって来いよ」

 

 

挑発するように手をクイクイッと招く。深雪と姫羅が攻撃を仕掛けようとした時、

 

 

「―――カウンターでお前らのパンツ、盗むからよ」

 

 

「「「「―――――」」」」

 

 

空気が凍った。深雪と姫羅の顔が赤くなるのが見て分かる。士道と原田は正気を疑っていた。

 

 

「別に犯罪じゃなさそうだから、靴下も脱がして嗅いでも問題ないのだろう?」

 

 

「いや大問題だろ……」

 

 

原田が首を横に振っているが、効果は出ていた。姫羅と深雪の動きは完全に止まっている。

 

フハハハハッ!! これは勝った! 的確な一撃だと確信でき―――

 

 

「……大樹なら……まぁ家族みたいなもんだし」

 

 

「私もそこまで……お兄様の方が恥ずかしいと思うので」

 

 

「あっは、狂ってるわこの二人」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

―――全然動揺してない。

 

俺は諦めのお手上げ、原田も「嘘だろ……」と戦慄している。特に深雪、何故家族の方が羞恥心あるんだよ。

 

ホントどうしようと窮地(きゅうち)まで追い込まれた俺。その時、

 

 

「はーい、警察でぇす」

 

 

バスの中に一人の女の子が乗車して来た。婦警の格好をした女の子に大樹は一瞬嫌な顔をした。

 

 

「どうして嫌な顔をしたのかなぁ?」

 

 

「り、理子? 別に嫌な顔はして———」

 

 

顔が触れるか触れないかまで近づけて来た理子。怖い。心を読まれて怖いよ。

 

理子の登場で更にややこしくなりそうな気がした。しかし、

 

 

「はい逮捕ー」

 

 

「はい?」

 

 

「え?」

 

 

ガシャンッという音が響く。姫羅と深雪の両手には手錠が掛けられていた。

 

理子は二人を引っ張りながら満面の笑みを浮かべる。

 

 

「窃盗罪だよ」

 

 

「「いや、えッ!?」」

 

 

「「「えええええェェェ!?」」」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

酷く驚く姫羅と深雪。この展開は予想できなかったわ。

 

連れられる姫羅と深雪。二人は当然反論する。

 

 

「ま、待つんだ! 士道の方が大罪だろ!?」

 

 

「そうです! 士道さんだって変態ですよ!?」

 

 

仲間とライバルを売るなお前ら。反論しろよ。

 

やっぱり駄目な集団だったのか。普通に捕まるじゃねぇかよ。

 

士道が気まずそうな顔をしている。これは何か理由がありますねぇ。

 

 

「だって合意で靴下を取っていたんだもん。精霊たちから」

 

 

そりゃ収穫少ないけど捕まらないですねぇ! だって皆士道のことが大好きだもん!

 

姫羅たちは違うようでこのまま警察署に連れて行かれるだろう。何やってんのホント。

 

 

「あ、そうだ」

 

 

理子は何かを思い出したように手錠を取り出す。そのままガシャンッと俺の両手に掛けた。

 

 

「―――ん? んんんん? はあああああああああ!!??」

 

 

「ブフッ!!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

突然の逮捕に叫ぶ俺。その光景に噴き出す原田。二つの尻にケツロケットが炸裂した。

 

 

「大樹きゅんは、理子の物だもん!!」

 

 

「あー! 何で皆の愛はこんなにも歪んでんだろうな!!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

涙を流しながら叫んでいた。連れて行かれる深雪たち。こっそりとバスから降りる士道。必死に手錠を外そうとする大樹。

 

 

「ちょッ!? 神の力が使えない!? しかもピッキングできねぇ構造だこれ!?」

 

 

「クソ雑魚ナメクジ奴ぅwwww!!」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「原田ぁ!!!!」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

________________________

 

 

 

カチャカチャとずっと続く音。大樹が必死に手錠を開けようとしていた。ピッキング道具もない状況だとほぼ不可能だが、諦めなかった。

 

 

「駄目だ……このままだと最悪な未来しか予想できない……!」

 

 

「……………」

 

 

股間を抑えた原田は一言も喋らない。先程、神の力を失っているにも関わらず大樹に負けたので黙っているのだ。笑いを堪えている人間に対して容赦なく金的を一発蹴られた。アレは男なら誰でも死ぬ可能性の高い攻撃だった。

 

 

「―――やはり俺たちの青春ラブコメはまちがっている」

 

 

「「うぐぅ……!」」

 

 

絶望のお知らせ。聞こえて来た声に俺たちは表情を悪くした。

 

男の声はバスの外から。いつの間にかバスは停車していた。『たち』ということは複数来るのか。

 

 

「……青春したいな」

 

 

涙をホロリと流す男―――坂本(さかもと) 雄二(ゆうじ)の登場である。

 

 

「「……………」」

 

 

これには黙る俺たち。同情するしかない。彼は霧島(きりしま)という確定した嫁が居るのだから。

 

文月学園の制服ではなく、緑色のTシャツに『青春を謳歌したい一号』と書かれている。絶対に二号三号居る奴だわ。

 

 

「別に良いんだ。翔子(しょうこ)は美人だし、俺も好きという気持ちはある。ただ―――ちょっと女性店員と話しただけで嫉妬して拷問するのはどうかと思うんだ……」

 

 

あ、愛が重いぜ。

 

 

「……明久よりマシか」

 

 

二人居るから二倍だよな。二倍重いぜ。

 

落ち込んだまま俺たちの正面に座る雄二。次に入って来たのは二号。

 

 

「単純に、女の子と遊びたかった」

 

 

―――武藤 剛喜、再登場である。

 

二号は一号より重かった。そもそも女の子との関わりが無い奴だった。これはキツイ。目を逸らすしかない。

 

 

「いや、友達からはよく良い奴だから大丈夫って聞くけどさ。何が大丈夫なんだよ。女の子と手を繋いだこともない俺が―――」

 

 

「「「やめろぉ!!!」」」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

これには雄二も含めて叫び止めてしまった。辛い、辛いぜ!

 

雄二に慰めながら隣に座る武藤。俺はお前が良い奴だと知っている。アメリカでの戦争、忘れてないぞ。

 

次に入って来たのは———とんでもない大物だった。

 

 

「俺もできれば、青春を謳歌したかった」

 

 

十師族、十文字(じゅうもんじ)家次期当主、十文字 克人(かつと)の登場だった。

 

 

「「ブフッ!?」」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

これには大樹と原田は驚愕で噴き出してしまう。何で来るのかな!?

 

 

「いやいやいや! 人気者だろ!? 学校では三巨頭とか言われているんだろ! モテただろ!」

 

 

「妙に男からの人気が高かった……女子生徒は……その、風紀委員長に持って行かれてな」

 

 

「ここで摩利(まり)出て来るのかぁ! ちくしょうあの悪魔風紀委員長!」

 

 

「……座っていいか?」

 

 

雄二たちはどうぞどうぞと誘導する。あーあ、座っちゃったよ。明らかに駄目なメンツが揃うはずだった椅子に。

 

ここで十文字の登場と来ると……まだ来るのか。四号、きつくないと良いが。

 

 

「―――間違えた青春……私は良い響きだと思うわ」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

声だけで大樹がケツロケットを受けていた。原田がギョッとした表情で驚いている。

 

まさか来るのか……理子が来たからその内来るのではないかと内心思っていたが……!

 

 

「つまり性春……女の子たちがア―――」

 

 

「違うわぁ!!」「その通りだぁ!!」

 

 

―――夾竹桃(きょうちくとう)の登場である。やったぜ(涙目)。

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

ガスッ!!とケツロケットと同時に原田の頬をぶん殴った。さっきからコイツは百合推しでうざい。もう黙らせないと。

 

 

「そうね、女の子同士も良いけど、大樹と精春が送りたかったわ」

 

 

「字が違う。帰れ」

 

 

「おい大樹。女の子に冷たい態度を取るなよ」

 

 

「雄二、テメェはブーメランだ!」

 

 

「せっかくの交流をなんてことを……!」

 

 

「武藤は何かすまん!」

 

 

「……………」

 

 

「無言でCAD構えてんじゃねぇぞ! お前はそんなに好戦的だったか!?」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

最後の十文字には耐え切れずケツロケット。数の暴力で俺だけを狙うなんて……!

 

 

「女の子同士の仲良し(意味深)は俺も興味がある」

 

 

「私たち、仲間ね」

 

 

原田と夾竹桃に関してはもう何も言うまい。無駄に体力を使うだけだ。

 

夾竹桃の青春はどこがまちがっているんだよ。そのまま原田と一緒に消えて七罪に殺されてください。

 

 

「ちなみに次の作品は大樹も好きそうな作品なの。アリア×黒ウサギで———」

 

 

「夾竹桃。俺たち、仲間だよな?」

 

 

(てのひら)返し。なにそれ超見たい。R-18指定なら絶対に買う。

 

 

「大丈夫? 刺激、強いけれど」

 

 

「むしろ最高」

 

 

グッと親指を立てると夾竹桃と握手する。この瞬間、同盟は組まれた!

 

 

「大樹さん? ちょっと黒ウサギたちが目を離した隙に何をやっているのですか?」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

この瞬間、同盟は崩れたのだった! 何で居るの!?

 

ポンッと叩かれた肩。そのままメシメシッと力が入っている。振り返れば扇情的(せんじょうてき)なミニスカートと美麗(びれい)な足をガーターソックスで包んだ少女が立っていた。

 

ピョコピョコと動いたウサ耳は可愛らしいが、笑顔で怒る表情は恐怖しか感じない。あっちゃー、全然気付かなかった。

 

 

「大樹さんに会いたいなぁと黒ウサギは真摯(しんし)な想いでこのバスに途中から乗ろうとしたのですが、まさか大樹さん? そんなことはございませんよね?」

 

 

「奇遇だな。俺も黒ウサギと同じ気持ちだから安心してくれ」

 

 

「そうですか。では、弁当の件について詳しくお話をお願いできますか?」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

駄目だ。弁当、全員にバレてるこれ。

 

それでも取り(つくろ)う。黒ウサギを褒める方向で。

 

 

「く、黒ウサギたちが作った弁当の方が何百倍も美味しいに決まっているじゃないか」

 

 

「アリアさんと真由美さんに伝えておきますね」

 

 

「ごめん、俺が悪かった」

 

 

抵抗することを諦めた俺は切り替えが早い。その場に正座して謝るのだから。

 

その光景に雄二たちは順番に言葉を並べる。

 

 

雄二「お ま た せ」

 

 

武藤「い つ も の」

 

 

原田「知 っ て た」

 

 

夾竹桃「日 常 風 景」

 

 

十文字「爆発しろ?」

 

 

大樹「覚えていろよお前ら。十文字もよく知ってんなおい」

 

 

黒ウサギ「大樹さん?」

 

 

大樹「はいすいません」

 

 

________________________

 

 

 

 

『青春を謳歌したい四号』まで登場した。+黒ウサギまで登場したが、まだまだ乗ろうとしてくる奴は居た。

 

隣で黒ウサギが座っているので弁当の件について関わった人間が登場しないことだけを祈る。そして五号が入って来た。

 

 

「―――やっと会えたわね」

 

 

「んなッ!?」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

その登場に動揺したのは原田だった。五号は―――七罪だったからだ。

 

 

「……ポニーとシャーロックはどうなった?」

 

 

「そこで白目で寝ている奴と同じ状況よ」

 

 

よし、今度こそシャーロックは殺した!

 

わさっとした髪に憂鬱そうな双眸が見事にダサイTシャツと合っていた。うーん、残念! 可愛いのに残念だ!

 

 

「何でここに!?」

 

 

「誰かさんのせいで青春を謳歌してないからでしょ」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

決まったぁ! これは原田選手、思わず片足を地に着けたザマァ!!

 

 

「さっきのゲームも負けるし」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「変な物を食べさせられようとするし」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「今日は最悪よホント」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

ここぞとばかりに原田にケツロケットが連続ヒット。いいぞもっとやれ。そのまま俺と同じように血を流してしまえ。

 

 

「でもまぁ……直接会えたことは……嬉しいかな

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

連続ケツロケットにちょっと引いて来た。ほぼ間隔無し。絶え間なくケツロケットを受けている原田。

 

 

「あ、あんな威力を百回以上も……だ、大樹さん、お尻は大丈夫ですか? 黒ウサギで良ければ見ますが?」

 

 

「大丈夫。問題無いからズボンから手を離して」

 

 

真っ青な顔をした黒ウサギと真っ赤な顔で照れる男の俺。なんという図だよ。

 

途中、お尻から血が出たような気がするが問題ない。しかし、この手錠のせいで神の回復力を発揮することはできないだろう。ここから慎重に、動揺しないようにしなければ……。

 

 

「そうね。私が治療するから見せなさいッ」

 

 

「それ毒だろぉ!!」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

言ってるそばからお尻に良くない刺激が走る。もう真っ二つに割れるから、らめぇ!

 

バスの中が騒然とする中、最後の男が乗車する。

 

 

「―――青春とは嘘であり、悪である」

 

 

その時、場の空気が凍った。

 

 

「青春を謳歌せし者達は常に自己と周囲を(あざむ)く。全て彼らのご都合主義でしかない」

 

 

戦慄に近い沈黙が続く。大樹たちの額からはドッと汗が流れていた。

 

 

「なら、それは欺瞞(ぎまん)だろう。嘘も欺瞞も秘密も詐術も糾弾(きゅうだん)されるべきものだ」

 

 

バスの窓から見える髪と死んだ魚の目をした男を見て、彼らは確信する。

 

 

「―――彼らは悪だ。ということは逆説的に青春を謳歌していない者のほうが正しく真の正義である」

 

 

バスの中に居る全員が立ち上がった。

 

 

「結論を言おう」

 

 

そしてバスの中に入って来た男の名は———比企谷(ひきがや) 八幡(はちまん)の大登場だ。

 

 

「―――リア充爆発しろ

 

 

「「「「「本物だぁ!!??」」」」」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

声を揃えた大声にビクッと驚く六号(大本命)。大樹と原田は片膝をバスの地面に着けて(こうべ)を垂れる。

 

 

「「サインくださいッ!!」」

 

 

「「「「「お願いしますぅ!!」」」」」

 

 

「い、いやちょっとそういうのはアレだから。出番は今回だけだし、アレがアレしてアレだから無理だから……」

 

 

―――最強の二人は、最強のぼっちの大ファンである。

 

一号も二号もサインを必死に求め、三号はノリに合わせて、四号と五号の目はキラキラ輝いていた。

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

しかし、全員のサイン拒否は、普通に泣いた。

 

 




現在のケツロケット回数

楢原 大樹 173回

原田 亮良 152回

宮川 慶吾  97回 ←


大樹&原田「「死んでたのに何か一回増えとる」」

慶吾「最後、ファンなら当然」

大樹&原田「分かる」

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