どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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作者から一言。


―――「面白くなくても流行りを取り入れて抵抗する―――ネタで」


武偵任務で絶対に動揺してはいけない24時!

―――昼食。

 

再びジャコバスに乗った三人は膝の上に置かれた弁当を睨んでいた。まるで親の仇でも見るかのように。

 

まず慶吾の弁当。白飯の上に魚の頭が乗せられているだけの超手抜き最低弁当。こんな料理、料理人が見たらゾッとするだろう。というか頭だけというのが最悪である。

 

次に原田。最後まで残った者だというのに彼が渡されたのはセブ〇イレブンに売っているおにぎり三個。シャケ、ツナマヨ、ひじき。慶吾より何倍もマシだが、貧弱過ぎる。

 

そして大樹。彼はハート柄の布に包まれた弁当を渡されていた。紙切れが挟んであるが、内容は不味かった。

 

 

『一人一品、作りました♡ あなたの愛人より』

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

衝撃どころか恐怖すら感じる一文に大樹はケツロケット。突然の事に慶吾と原田は驚いていた。

 

 

「は? 一番まともそうな弁当を貰っておいてどうしたお前」

 

 

「ど、どどどどどうもしてねぇよ!」

 

 

「あからさまだなおい」

 

 

大樹の手はガクガクと震え顔は青ざめている。何かあるとしか思えないだろう。

 

 

「ただ……アレだアレ! この状況を(嫁たちに)見られたら殺されるんだよ!」

 

 

「いやどんな弁当だそれ!? でも確かにヤバいな!?」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

まるで弁当に強盗された宝石でも詰められているかのような発言に原田はケツロケット。大樹は汗を流しながら弁当を開けようとしていた。

 

カパッと開くと―――何十品にも及ぶ数の料理が敷き詰められていた。

 

 

「うおっ、豪華だなお前……何で俺とこんなにも差が―――」

 

 

「う、う、うわああああああああ!!??」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「だから何でだよ!?」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

絶叫する大樹に原田も動揺してしまう。先程から巻き込まれ過ぎている。

 

 

「(嫁に)殺される! 絶対に(嫁に)殺される!」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「だから何でか理由を―――」

 

 

「おかずがいっぱいあるからに決まっているだろ!!」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「分かるか!」

 

 

何度もケツロケットを受けているにも関わらず一向に冷静にならない大樹。その隣では魚の頭を食べる慶吾は無の感情だというのに。

 

 

「ちくしょう! 色とりどりのおかずだな!? 辛い物から甘い物、揚げ物から煮込みまで全部あるじゃねぇか!?」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「自慢にしか聞こえない発言なのに、何でコイツはケツロケット受けてんだろ……」

 

 

―――終始大樹はビビりながら昼飯を食べていた。あと半分美味しくて、半分ヤバかったと大樹は感想を残している。

 

 

________________________

 

 

 

「―――というわけで武偵高に到着です」

 

 

昼飯を食べた後、ジャコバスは東京武偵高校に辿り着いた。リィラの案内で学校の中へと入って行く。

 

階段を上がり、一つの教室に通されようとした時、リィラは笑顔で告げるのだ。

 

 

「ここではおやつを賭けたバトルをして貰いますよ。セカンドステージですよ!」

 

 

「いらない。全力でいらない。指でもしゃぶっているので帰らせてください」

 

 

「それはそれで引くわ」

 

 

全力拒否の意志。全力否定で首を横に振った大樹。原田もツッコミを入れているが、同じように首を横に振っている。もちろん慶吾も。

 

 

「ルールは今回も簡単です。まずは4人で1チームを作ります。大樹様は右の列の一番後ろ、真ん中が原田様、左が宮川様」

 

 

「やっぱスルーするよな。知ってた」

 

 

「三人は座ったまま動いてはいけません。仲間に指示を出すだけ許されます」

 

 

「……指示って?」

 

 

大樹が聞くとリィラは周りを見渡しながら説明する。

 

 

「ここは武偵の学び舎。様々な学科があり、様々な専門分野があります。そう、任務の内容はもう見えていますね?」

 

 

「いや、これぽっちも見えないんだが……」

 

 

「―――つまり教師の暗殺です」

 

 

「永遠に盲目だわ俺たち」

 

 

何がどうなって殺人沙汰になるんだ。おかしいだろ。

 

 

「とにかく大樹様たちは教師を暗殺してください。……まぁ無理だと思いますが」

 

 

「おい。運営側が無理とか言うと教師がやべぇ奴だと予想できたからな? もう何来てもおかしくないからやべぇ奴呼んでいるよな?」

 

 

「―――では、ご武運を」

 

 

この切り替えの良さである。俺たちは嫌な顔で教室へと入って行った。

 

そして後悔するのだ。教師を見る前に、チームのメンバーを。

 

 

・大樹極悪チーム

(つかさ) (はじめ)

伊熊(いくま) 将監(しょうげん)

時崎(ときさき) 狂三(くるみ)

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「マジかぁ」

 

 

不良の格好をした学ラン姿の眼鏡と大男。その後ろにはスケバンに眼帯の格好をしたヤバい子。うーん、修羅み深い。

 

 

「アイツ、ハズレを引いたな」

 

 

ケラケラと笑う原田。しかし、その表情はすぐに凍り付く。

 

 

・原田問題児チーム

逆廻(さかまき) 十六夜(いざよい)

久遠(くどう) 飛鳥(あすか)

春日部(かすかべ) 耀(よう)

 

 

「「「ウェルカム」」」

 

 

「もっとハズレ引いたぁあああああ!!!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

絶望の声が響き渡った。明らかに大樹より危険なメンバーだったからだ。

 

 

「馬鹿が」

 

 

そんな二人を嘲笑う慶吾。この流れなら一番マシなのは自分だと確信するが―――当然裏切られる。

 

 

・慶吾動物チーム

〇インデックスのペット『スフィンクス』

〇レキの武偵犬『ハイマキ』

吉井(よしい) 明久(あきひさ)

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「……………使えねぇ」

 

 

「ちょっと待って!? 僕のことはスルー!? スルーでいいの!? というか動物と同一視されていることに怒りを通り越して泣きそうなんだけど!?」

 

 

結局、三チームとも最悪な構成に変わった。

 

しかし、こんな状況下でも順応力の高い男は波に―――ノリに乗るのだ。

 

 

「クチャ、クチャ、クチャ、クチャ……」

 

 

学ランに着替えて服装を乱し、グラサン掛けたオールバックの男。背中には『嫁命』と書かれた文字が()われ、ガムを噛んでいる大樹の姿である。

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

そんな適応した姿に変わり果てた大樹を見た原田と慶吾はケツロケット。動揺を隠し切れていない。

 

 

「なんや坊主? ぶっ殺すぞ」

 

 

「お前のそういう所、こういう時は羨ましいな」

 

 

その時、学校のチャイムが鳴り響く。授業開始の合図だった。

 

 

「―――同時に君たちの絶望の合図になると推理しよう」

 

 

そう―――シャーロック・ホームズ、二度目の登場である。

 

 

スッ……

 

 

この時、机の上に足を置いていた大樹はすぐに姿勢を正してガムを飲み込んだ。グラサンに関しては消えている。

 

 

「無理だわ。アイツを暗殺するとか絶対にできない。まだ惑星を全力で砕く方が希望を持てる」

 

 

「人間やめてる発言やめろ」

 

 

「……………」

 

 

大樹だけではない。原田と慶吾も諦め顔だった。

 

この圧倒的最低最悪絶望のメンバーで、最強の名探偵を暗殺することができるのか。

 

 

「次回、原田死す。デュエルスタンバイ!」

 

 

「死ぬかぁ!」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

________________________

 

 

 

シャーロック・ホームズの授業時間は僅か30分。内容はメソポタミア文明の発展という一部にしか食い付かない内容だった。正直、つまらない。

 

 

「―――とにかく行動だ。狂三、何発かシャーロックの頭に撃て」

 

 

「暗殺も何も直球ですわね。ですが嫌いじゃないですわッ」

 

 

ドゴンッ!! ドゴンッ!!

 

 

突然の発砲に驚く一同。武偵よりも殺伐している。

 

しかしさすが名探偵。黒板の方を向いたまま銃弾を避け続けて見せた。

 

 

「正面から堂々とは! 芸の無いリーダーには罰が必要のようだ」

 

 

「え?」

 

 

シャーロックが教卓の机に手を伸ばし何かを押した瞬間、大樹の体に異変が起きる。

 

 

ジジッ……バチバチバチバチッ!!!

 

 

「あばばばばばばばばッ!?!?」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

なんということでしょう。大樹の体に電気が走っているではありませんか。

 

そんな光景を見た原田たちは当然動揺。電撃を受けている大樹もケツロケットを受けている。

 

この光景に原田と慶吾は理解してしまった。失敗はケツロケット並みの罰を受けるということ。

 

 

「へ、下手な動きは禁物かよ……」

 

 

「……………(終わったな)」

 

 

原田は指示を出さず、慶吾に関しては諦めた。

 

―――その選択すら愚かだということに気付かずに。

 

 

「よし、作戦名!」

 

 

「『こんな狭い空間なのだから』!」

 

 

「『適当に攻撃すればいずれ当たる』」

 

 

勢い良く十六夜たちは立ち上がり机の上に置いてあった鉛筆や消しゴムを凄まじい速度で投げ始めた。

 

 

「も、問題児ぃ!!??」

 

 

原田は前提を間違えていた。そもそも指示を出した所で言う事を聞くかどうか分からない人たちが仲間だということに。

 

『指示を出さない=行動しない』ではない。『指示を出さない=自由に行け=じゃあガンガン行こうぜ』なのだ。

 

問題児の攻撃をシャーロックは華麗に避ける避ける。黒板は丈夫なのか傷一つ付かない。

 

 

「これもまた正面からとは……罰ゲームだよ」

 

 

シャーロックがポチッとボタンを押す瞬間を捉えた原田は全身に力を入れて耐えようとする。

 

しかし、原田の座った椅子は電気椅子ではない。

 

 

シュゴオオオオォォォ!!

 

 

「は?」

 

 

原田の座った椅子から煙が噴き出す。そして椅子は浮き始め、

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!

 

 

そのまま天井に向かって飛んだ。

 

 

「え!? 首の骨、逝ったんじゃねアレ!?」

 

 

「ッ……!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

原田の頭が天井にぶっ刺さる瞬間を目撃した大樹と慶吾はケツロケット。逆に原田は何も対応できずに天井に刺さった。

 

 

「おいおい、椅子に推進力エンジンでも積んでいたのか」

 

 

「さすが私たちのリーダーね。体を張るわ」

 

 

「リーダー万歳」

 

 

問題児たちがしみじみと感想を言っている中、慶吾の額から汗が落ちる。

 

―――次は自分の番なのでは?と。

 

バッと前を向いて確認する。そこには椅子の上に行儀良く座った犬、原田の死を青ざめた顔で見届けている馬鹿。

 

 

「ニャー」

 

 

ビリビリッ……ビリリリリッ……

 

 

―――教卓の上でシャーロックの本をビリビリに引き裂いているスフィンクス。

 

シンッと静まり返る教室。そして聞こえる主人公の声。

 

 

「グッバイ中二」

 

 

「このッ!!」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

その時、慶吾の頭上の天井がパカッと開く。天井から落ちて来る物体に全員の目が見開いた。

 

それは不幸なことに何十枚のカードだった。

 

トランプでも遊〇王のカードではない。模様とか日本語文字とかではなく―――ルーンと呼ばれるカードだった。

 

 

ゴオオオオオォォォ!!!

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

―――突如、慶吾の体が燃えたことは言うまでもない。死ぬことは無いだろうが、やり過ぎではないだろうか。落ち着け、ステイ、ステイル。

 

 

「ええええええェェェ!? 僕らのリーダーがぁ!? しょ、消火器! いつも試験召喚戦争で使ってるの持って来て!」

 

 

『いつも』は不味いだろ。大丈夫かFクラス。まだAクラスだよな? もう堕落した?

 

焦る明久にシャーロックは微笑みながら声を掛ける。

 

 

「安心したまえ。彼は君より十倍は丈夫な体だ。死なない死なない」

 

 

「なーんだ、それなら安心安心―――しないですよ!? どんだけ僕を馬鹿だと思っているんですか!?」

 

 

「チーム分けで推理したが?」

 

 

「ちくしょうこの教師最低だ!」

 

 

知ってる。どっちも。

 

ハイマキがスフィンクスの首根っこを口に咥えて移動している。ホント偉いよなハイマキ。あんなペットが欲しい。ジャコという生意気なペットじゃなくて。

 

すると今までの流れを見ていた司 一、もといはじっちゃん。眼鏡をクイッと左手で上げながら告げる。

 

 

「やれやれ、もっと頭を使うべきだ」

 

 

おっとこの流れは失敗かな? 電気椅子、結構痛いからやめろよ?

 

 

「任務はこの教室に始まる前から始まっている!」

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!

 

 

その時、教卓が爆発した。

 

文字通り爆散。爆弾が仕掛けてあったようで煙と破片が教室に飛び散る。うわぁこのクラス酷い。学級崩壊レベルじゃない。国崩壊レベルで危ないよクラスメイト。

 

 

「それも推理済みだよ」

 

 

「何だと!?」

 

 

まぁ生きてるよな。逆にアレで死んだら俺との戦いは何だったんだみたいな話になるから。

 

あーあ、また電気に耐えないといけないのか。そんな残念な気持ちでいると、パチンッとシャーロックは指を鳴らす。

 

 

コトンッ……

 

 

―――机の上に置かれたのは紫色の物体だった。

 

皿の上にあるからといって料理だと決めつけてはいけない。例えフォークとナイフが置かれていても、料理だと思ってはいけない。

 

紫だぞ? 圧倒的な紫だぞ? 背筋が凍り付く程の威圧感だぞ? 料理から威圧感出るとか半端じゃないぞ。

 

 

「食うわけないだろ?」

 

 

「それが大樹君の大好きな女の子が目隠して作った料理でもかね?」

 

 

「―――うめえええええええごばばびぶぶばばびぼぼぼっぼっぼっぼぼびッ!?」

 

 

「逝った!? 姫路さんを越えるような料理を一気に逝った!? なんて男なんだ君は!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

料理を一気に食した大樹。体が何度も痙攣(けいれん)した後、机に突っ伏して意識を手放した。ちなみに目隠し料理はアリアと真由美の料理を足した物だ。軽くヤバい。

 

壮絶過ぎる光景に周りはドン引き。唯一明久だけが彼の勇姿を称えた。

 

しかし、こんなアホみたいな光景で閃いてしまう問題児が居た。

 

 

「なるほど、毒殺で行こうか」

 

 

「良い案ね」

 

 

「問題なし」

 

 

「おいコラ待て問題児三人組。やめろ、成功するわけねぇだろ」

 

 

十六夜たちはカバンからコップとジュースを取り出しながら準備する。それを原田が必死に止めていた。

 

 

「大丈夫だぜリーダー。今までの俺たちを見たら分かると思うが―――」

 

 

「完璧に、完全に、素晴らしく―――」

 

 

「超エリート、箱庭の次期エースストライカーで―――」

 

 

ビシッと三人は親指を立てた。

 

 

「「「―――優秀な三人だ!」」」

 

 

「ツッコミ所が多過ぎる上に絶対に違ぇええええええ!!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

チーム内の悪ノリで原田のケツがやられている時点で団結力は皆無。ただただ原田が可哀想に見えた。

 

原田の努力も虚しく、十六夜は席を立つ。手にはジュースの入ったコップが握られている。

 

もしアレに毒が入っているなら飲むわけがない。正面から毒殺する馬鹿がここに居るとは思わ―――

 

 

バシャッ!

 

 

「オラァ! 原田様からの宣戦布告だぁ!!」

 

 

―――訂正。ジュースをシャーロックにぶっかける大馬鹿が居た。

 

 

「うぉい!? 何でぶっかけた!? せめて飲むよう(すす)めろ!?」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「精一杯我慢したが限界だった」

 

 

「テメェ!!!」

 

 

バシャッ!

 

 

「ほら! ウチのリーダーのジュースが飲めないのかしら!?」

 

 

今度は飛鳥。更にシャーロックにジュースをぶっかけていた。

 

 

「や、やめろぉ!? 追い打ちに二発目はもう不味―――!」

 

 

バシャッ!

 

 

「もう一発」

 

 

「―――ファーwwwww!」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

ついに原田が壊れた。頭を抱えて奇声を上げている。

 

ニコニコ笑みを崩さないシャーロック。それでも彼の指はパッチンは怒りが籠っていた。

 

 

(パチン)ッ!!

 

 

「ヤバい! 完全に今までの音と次元が違う! 殺意があったよ殺意!」

 

 

その時、原田の足元がカパッと開く。抵抗することもできなかった原田は椅子と一緒に落とし穴の底に落ちてしまう。

 

同時に頭上からザパァと滝の様な音を耳する!

 

 

「―――硫酸(りゅうさん)

 

 

「やっぱりガチで殺しに来てたぁ!!!」

 

 

開いた足元の穴は再び閉じ、原田の悲鳴は掻き消える。

 

一人、脱落どころか逝った。天に召されたぞ。

 

 

「……………」

 

 

慶吾は行動を起こす気は無かった。むしろ起こすことに自分が痛い目に遭うのだと悟ったのだ。

 

 

「爆弾も効かないのでしたら、どう攻略すれば良いのでしょう」

 

 

「狂三の力が切り札だな。はじっちゃんと将監はポイだな。大人しくしてろよ無能」

 

 

「「殺すぞ!!」」

 

 

司や将監は机に置いてあった文房具をひらすら大樹に投げるが「ウェーイウェーイ」と体を揺らすだけで余裕の回避。

 

この状況でも大樹は諦めていなかった。それは何故か? 言うまでもない。

 

―――あのクソムカつく名探偵は反則技を使ってでも殴らなきゃ気が済まないからだ。当然だな。

 

 

「クソッ、だったらワザと失敗でも―――!」

 

 

「狂三! 反逆者裏切者は全員殺して良し! 躊躇(ちゅうちょ)無く引き金を引け!」

 

 

「ふざけるな!? って本気で撃とうとするな君!」

 

 

足手まといを一掃するチャンスの逃す。

 

慶吾は行動を全く取ろうとしていない。諦めているのか、気合が入っているのは明久だけのようだ。

 

 

「まだ諦めるのは早いよ。僕にはこれがある!」

 

 

明久の腕に装着された腕輪に俺は思い出す。あれは『白金の腕輪』!

 

 

「試験召喚獣召喚、試獣召喚(サモン)!!」

 

 

明久が詠唱した瞬間、虚空から明久の召喚獣が現れる。相変わらず愛らしいキャラなのだが―――うん。

 

 

化学

 

Fクラス 吉井 明久 32点

 

 

「逆に安心するわ」

 

 

「失敬な! これなら高い方だし、歴史ならもっと高いんだからね!」

 

 

言い訳しながら召喚獣を操る明久。風を切るような速さでシャーロックを翻弄しようとするが、意味はないだろう。

 

 

「そこだぁ!!」

 

 

「推理通り」

 

 

ドスッ!!とシャーロックの杖が召喚獣の腹部に刺さる。召喚獣の持っていた武器の木刀はシャーロックに全く届いていない。

 

しかも容赦なく一撃を入れていた。思わずシャーロックに声を荒げてしまう。

 

 

「馬鹿野郎!? 観察処分者の明久は特別で召喚獣と痛覚をリンクしてんだぞ!?」

 

 

「なんと。それは推理できていなかった。テヘペロだね」

 

 

「よし確信犯だな。最低だよお前」

 

 

明久が大丈夫かと見てみると、プルプルと震えながらお腹を抑えていた。

 

 

「この程度……Dクラスまで落ちて地獄を見た時に比べれば、平気だよ!」

 

 

(たくま)しいけど落ちたのかAクラス。マジか」

 

 

「僕は悪くない! 雄二がパンツの事を気にするのがいけなかったんだ!」

 

 

一体どんな状況だったのかすごく気になる。

 

 

「それと忘れてはいけない罰ゲームだ」

 

 

「―――――」

 

 

慶吾の顔、何かこう……表現しにくい。何とも言えない絶望というか唖然しているというか……とにかく可哀想。

 

 

パリンッ!!

 

 

突如窓ガラスを突き破って来た巨大な丸太。慶吾の体にぶち当たり、そのまま廊下へと向かい、

 

 

ゴスッ!!

 

 

「ごあッ!? 何で俺まで!?」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

同じ横列に居たせいか原田がいないせいか。慶吾の体は大樹も巻き込んで廊下へと投げ出された。

 

遂に三人のリーダーが教室から消えてしまった。

 

残り時間は15分。果たして、クリアできるチームは現れるのか?

 

 

________________________

 

 

 

五分後、なんと三人は帰って来た!

 

衣服のほとんどを溶かされた原田は再び椅子へと這い上がり、廊下から水浸しになった慶吾が現れ、窓からはメイド服を着て右手にはツルハシを握っている大樹。

 

この五分間で壮絶な事をしたことが予想される。特に大樹に関しては意味が分からない。

 

 

「まさか刺客が外にも居るとは思わなかった……」

 

 

「お互い、見ない内に大変なことに遭ったようだな……」

 

 

「……ああ」

 

 

目のハイライトが消えそうな勢いで暗くなっている三人。しかし、大樹は違う。

 

 

「絶対に倒す……いや殺せと俺のゴーストが(ささや)いている!」

 

 

「俺は諦めているけどな。三チームの中で一番実力があるが……」

 

 

気合十分な大樹に対して原田は諦めモード。複雑そうな表情で十六夜たちを見ているが、

 

 

「問題はリーダーにあるということ」

 

 

「「うんうん」」

 

 

「あーはいそうですねうんうん」

 

 

十六夜たちの挑発に原田は適当な返事で首を上下するだけ。

 

 

「もちろんそれでも抵抗する―――拳で」

 

 

「色んな意味でやめとけ。そもそも動くことを禁止されているだろ」

 

 

原田の忠告に大樹はうっと息を詰まらせる。シャーロックへの怒りがその事を失念させていた。

 

 

「……………」

 

 

「えっと、僕達は……」

 

 

「何も、するな」

 

 

「あっはい」

 

 

慶吾と明久の会話で察する。先程の罰ゲームがどれほどのトラウマを植え付けられたのか……あちらは完全に諦めていた。

 

 

「大樹さんと力を合わせることができれば【刻々帝(ザフキエル)時間神の惨劇(テーテン・クロノス)】が使えて楽だったのでしょうに」

 

 

「それな。世界の時間を止めればクソ名探偵をボッコボコにできたのに。余裕で」

 

 

「なにそれ初耳こわすぎ」

 

 

「動揺していない辺り、どうせ「大樹だもんな(笑)」で済ませているだろ」

 

 

「自分で言ってて悲しくないか?」

 

 

慣れた。

 

 

「うちのチームは狂三を主軸に戦うしかない……あと二人が残念なのがなぁ」

 

 

イラッとする発言に司と将監が大樹を睨み付ける。何だよ文句あるのかよと聞くと将監は机の上に足を置きながら言い訳する。

 

 

「夏世が居れば楽勝に決まっているだろ!」

 

 

「おっと不覚にもキュンと来る発言に動揺するところだった。お前ホント良い奴。許す」

 

 

「僕だってフィフが居ればあの司波 深雪と互角に渡り合えるのだぞ!」

 

 

「何それすげぇ! めっちゃ気になる!」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

結局ケツロケットを食らう羽目になってしまう。それだけ気になる内容だった。

 

二人の頼もしい言葉に心が温かくなるのを感じると同時に、口にしてはいけないことを口にしてしまう。

 

 

「でも相棒がいなけりゃ雑魚じゃねぇか」

 

 

「「テメェ!!」」

 

 

心にグサァッと刺さる発言に司と将監に沸点は爆発。大樹と喧嘩し始めた。

 

そんな様子を無の心で見守る原田。そろそろかなと頭の中で予想していると、

 

 

「「「ガタッ」」」

 

 

「待てコラ」

 

 

問題児たちが動き出そうとしていた。原田の顔は一瞬で修羅へと変貌する。

 

 

「ジッとしていろ。動くんじゃねぇ。いやホント頼むから無理だから」

 

 

「実は俺『じっとしていると髪が逆立ってしまう病』なんだ」

 

 

「じゃあ私は『じっとしているとリボンが本体になってしまう病』」

 

 

「じゃあ私は『じっとしているとスライムに――――』」

 

 

「動く気満々だということは確信した」

 

 

泣きそう。原田は罰ゲームを怖がっている。裸になって以上、これから何を獲られるのか堪った物じゃない。

 

 

「というかお前ら本気を出したら勝てるだろ! あの探偵は確かに強いが、本気を出した三人なら―――!」

 

 

「違う、違うんだ」

 

 

どこか悲しそうな表情で十六夜が原田の肩に手を置き首を横に振る。

 

 

「根本的に違う。本気を出すとか出さないとかの問題じゃない」

 

 

「じゃあ、何だよ」

 

 

「――—腹を抱えて笑い死にそうなくらいのリーダーの不幸が見たい。ただそれだけだ」

 

 

「もう君たちに殺意を抱き過ぎて発狂しそうなんだけど。サイコパスの領域に踏み込んでいるから」

 

 

「だから俺たちを信じて待っていてくれ……よし、行って来るぜ!」

 

 

「このチーム、一番鬼畜だと思う」

 

 

その時、喧嘩していた大樹は気付く。ネギを握り絞めた問題児の三人組がシャーロックに襲い掛かり、罰で原田が再び開いた床の底へと落ちて行く姿を。

 

彼は忘れない。あのやり切れない何とも言えない、というかもう嫌だと言いたげな顔を。

 

 

「大樹」

 

 

原田は残す。親友に最後の希望を託すのだ。

 

 

「お前も俺と同じ目に遭え」

 

 

違った。何か絶望だった。黒い方を渡された。

 

穴の底から凄まじい叫び声が聞こえて来た気がするが気にしない。シャーロックをどうやって暗殺するのか真剣に考える。

 

 

「……やっぱり【七の弾(ザイン)】だろうな」

 

 

「そうですね。彼の動きを止めなければ無理な話ですから」

 

 

狂三の弾丸でシャーロックの動きを止めるのだが、結局弾丸をシャーロックに当てなくてはならない。

 

 

「まぁ二人も捨て駒があるんだから大丈夫だろ」

 

 

「この……いや、もういい。とにかく僕達があの先生の動きを止めればいいのだろう?」

 

 

「何なら倒してもいいな?」

 

 

「ああ、狂三が隙を見て撃つから頼んだぞ」(将監の言葉がフラグなんだけど)

 

 

二人の男は立ち上がる。司は緊張した顔で、将監はポキポキと手を鳴らしてシャーロックに近づく。

 

そんな二人に聞こえないように狂三に耳打ちする。

 

 

「最悪、貫通してでもシャーロックに当てろ」

 

 

「大樹さんが最悪ですわね」

 

 

―――まぁ結果的に二人の男が宙に浮く感じで失敗したけどね!

 

 

「まさかシャーロックが先にアイツらを盾に使うとはなぁ」

 

 

「まさか私の銃弾を弾いて大樹さんに当たるとは思いませんでした」

 

 

ちなみに俺も動けない。跳弾して自分に来るとは全く思わなかった。無様な男たちですまない。

 

 

「さぁ大樹君、罰ゲームの時間だよ!」

 

 

「お前、俺が嫌な目に遭っている時が一番楽しそうだよな」

 

 

「そうだね!」

 

 

「良い顔で肯定しやがったクソ……」

 

 

シャーロックが例の如く指を鳴らす。すると教室のドアが開き、一人の少女が姿を現す。

 

 

「ふぁ!? あ、アリアさん!?」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

武偵高校の制服を着たアリアの登場に大樹が酷く動揺する。同時に狂三が「サヨナラ」と言い残して影の中へと消えて行く。見捨てられた!?

 

 

「い、いや大丈夫! 俺被害者だから! 今回何も悪い事をしていないから! 愛で分かり合った夫婦を裂くことなど―――!」

 

 

「大樹君。今日のお昼に食べたお弁当は美味しかったかい?」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

今世紀最大にゾッとした瞬間。シャーロックにやめろという顔を見せるが、

 

 

「あの後ね、アリア君が洗ったんだ。君の弁当箱」

 

 

「ちょっとおおお!? 何してくれちゃってんの運営!? プライバシーの侵害!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

ガキュンッ!!

 

 

右頬とお尻にビリッとした痛みが走る。銃声が聞こえたのはアリアの握る銃からだ。

 

頬からタラリと一滴の血が流れる。大樹の汗はダラダラ流れている。

 

 

「そうね、愛で分かり合った夫婦なら隠し事なんてないもの。ねぇ大樹。話し合えば分かるはずだから、ね?」

 

 

「待った! 完全に不利だから! 毎回馬鹿な所で口を滑らせるような主人公だから! やばいって! 夫婦円満から夫婦銃弾されるぅ! というか動けないから逃げることもできねぇ! 狂三! マジで……ホント助け……!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「何を言っているのか全く理解できないけど、僕もいつかあんな目に遭うんじゃないかと不安になる……何故だろう」

 

 

明久が真面目な顔で悩んでいるが慶吾はスルー。大樹の悲鳴を聞きながら窓の外を見ていた。

 

銃声が何度も響き渡り、次第に大樹の声は静かになる。というか泣き声が……気のせいだろう。

 

 

「ふぅ……やっと動ける。けど」

 

 

「助ける義理はねぇ」

 

 

司と将監は大樹を助けることなく着席。見捨てた。

 

 

「フッフッフッ、皆打つ手が無いようだね」

 

 

「何度も言わせるな。余計なことはするな?」

 

 

「安心して。僕に秘策がある」

 

 

「いい。しなくていい」

 

 

慶吾が嫌がる素振りを見せても明久は実行する。問題児と同じくらい問題を起こす生徒。シャーロックは警戒するのは当然なのだが、

 

 

「というわけで皆でお茶会しよう!」

 

 

「は?」

 

 

明久がカバンから取り出したのは美味しそうなクッキーの袋。たくさんある袋を皆に配り始めた。

 

シャーロックも一応受け取り、他の生徒も受け取っている。そして明久が一番初めに食べ始まる。

 

 

「いっただきまーす。んぐんぐ……あれ? 先生は食べないんですか?」

 

 

「……………」

 

 

慶吾は異変に気付く。シャーロックが不思議そうな顔でクッキーを見ていたのだ。

 

 

「……推理はできている。できているが、理解できない」

 

 

「何?」

 

 

「これには毒がある。確実にあるはずなのに、彼が渡した時、殺意どころか悪意すらなかった。心拍も変わらず、表情も変えていない」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

今まで見せなかったシャーロックの姿に慶吾は動揺している。お尻が痛い。

 

名探偵はクッキーを取り出してじっくりと見ている。困惑しているようにも見えた。

 

 

「何故―――私は食べも平気だと思っている」

 

 

「食べないなら僕が貰いますよ?」

 

 

「……フフッ、これは僕への挑戦状かな」

 

 

シャーロックは不敵に笑っていた。明久に向かって首を横に振る。

 

 

「お茶に毒があるのかね?」

 

 

「うっ」

 

 

シャーロックの言葉に水筒を取り出そうとした明久の表情が歪む。

 

パサパサした菓子を食べれば水分が欲しくなる。そこを突いた毒殺なのだろう。

 

 

「クッキーは囮。それならこの行動で動揺しない点に理解できる」

 

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 

「謝ることはない。君は武偵の才能がある。この私を騙せそうなまで追い込んだのだから」

 

 

シャーロックは満足気にクッキーを口にした。

 

それを見た司も、将監も、問題児も、皆でクッキーを食べ始める。

 

その時、慶吾は気付く。前に座った犬と猫がクッキーを食べようとしないことに。

 

 

バタンッ!!

 

 

そして―――シャーロック・ホームズは前からぶっ倒れた。

 

 

「ごふッ」

 

 

「!?!!??!?」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

突然の出来事に慶吾は混乱。目を疑う光景が広がっていた。

 

 

「「「「「ごはッ!?」」」」」

 

 

バタンッ!!

 

 

それだけじゃない。クッキーを食べた生徒たちが一斉に倒れている。

 

恐怖現象に明久がユラユラと立ち上がる。

 

 

「どうしの皆? そんなに美味しかったのかな———姫路さんの料理」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「明久……お前、まさか!?」

 

 

ボロボロになった大樹がお尻を抑えながら震えた声を出す。アリアに馬乗りされているが、問題無い。

 

すると明久は片手で顔を抑えながら笑った。

 

 

「馬鹿め! 姫路さんの料理に耐えれるのは毎日食べて鋼の胃袋になった僕たちだけだ!」

 

 

「相変わらずFクラスは壮絶な日々を送っているな! というかシャーロックは何で騙された!?」

 

 

「そ、そうだね……僕も、推理が……」

 

 

プルプルと小刻みに震えながら床に倒れている名探偵。明久はドヤ顔で語る。

 

 

「先生は言ったじゃないですか。殺意も悪意も感じないと……当たり前ですよ。僕たちは()()()()()()()殺意も悪意も全く感じないですから」

 

 

武偵高の強襲科(アサルト)よりやべぇよFクラス。

 

 

「確かにお茶には激辛タバスコを入れています。でも、姫路さんのクッキーの方が百倍殺傷力がある。ゾウですら殺せる化学兵器がね!」

 

 

「見事、だ……」

 

 

「どこがだよ……」

 

 

何も後悔していないかのような顔で意識を手放すシャーロック・ホームズ。毒殺されても生きている超人が一般人の作る料理で落ちるとか本来なら洒落にならない。

 

 

「かと言って、僕も全然無事じゃないけどね。ごふっ」

 

 

そして勇者アキヒサも、その場に倒れるのだった。

 

先生を暗殺するどころか生徒まで巻き込んでいる。生きているのはわずか数名と二匹。

 

 

「もうやだこの企画」

 

 

結果は慶吾チームの勝利。おやつを手に入れるだけで大切な物をたくさん失った。

 

勝者であるはずの慶吾の表情は、かなり複雑だった。

 

 




現在のケツロケット回数

楢原 大樹 44回

原田 亮良 48回

宮川 慶吾 24回


大樹「よし、次のターゲットが決まったな?」

原田「何かに目覚めるまで叩いてやるよ」

大樹・原田「———ケツロケットで」

宮川「来いよクズ共」

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