どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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作者から一言。


―――「学園都市じゃなくても良くね?」


学園都市で絶対に動揺してはいけない24時!

「―――というわけでお疲れ様でした。学園都市に到着です」

 

 

ニッコリ笑顔のリィラは三人を案内するのだが、ゲッソリ顔の男三人の足取りは重い。

 

たった数十分の移動だけでケツロケットを何度も食らった。しかも威力は抜群と来た。

 

バスから降りるとそこはビルが多く並ぶ発展した街―――学園都市が広がっていた。いやいや何でだよ!?というツッコミは自分の体力と尻を削るだけなので何も考えない。

 

ここにも俺たちの尻を狙う刺客がいるのだろうと考えるとお腹痛い。頭も痛いな。尻はもっと痛いけど。

 

 

「ここでは昼ご飯を賭けたバトルをして貰いますよ。やりましたね!」

 

 

「「「何でだよッ!?」」」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

あぁん!っとこのようにちょっとツッコミを入れただけでケツロケットが来ちゃうから辛い。マジ卍。この企画、冗談抜きで恐ろしい。

 

仲良く三人で受けた激痛に(うめ)いていても、リィラはそれを気にすることなく説明する。

 

 

「バトルと言っても三人で殴り合うわけじゃないです。学園都市に居る超能力者(レベル5)を倒した数で順位を決めることで食事のランクが変わります」

 

 

はえ? それって美琴とか居る感じ? 絶対に倒せないんだけど? 倒す未来どころか結婚する未来しか見えてない。いやこれは俺の願望だった。

 

……いざとなれば原田&慶吾(コイツら)()るか。(コロ)(コロ)ンブス。卵みたいに割ってやるよ。

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「早く始めたいとうずうずして殺気を出す大樹様には惚れ惚れとしますが、まだ説明の途中ですよ」

 

 

あちゃー、感情的になり過ぎちゃった♪ テヘペロ♪ 尻痛ぇ……。

 

 

「勝負内容は敵から出されるので従ってください。敗北すると点数が入らず、その場で終了です」

 

 

「向うが有利設定か。一人も倒さず負けると絶望的だな……」

 

 

「フンッ、勝てばいいだけの話だ」

 

 

原田と慶吾が説明についてそれぞれ感想を述べる中、大樹は真剣な表情で質問する。

 

 

「第三位辺りからエロい勝負を要求されても文句は言われないですよね?」

 

 

「エロい勝負を要求されると思っている自信満々のお前に文句があるわ」

 

 

「おいおいマイク。冗談だろ? アメリカンジョークくらいベトナムでやってくれ」

 

 

「言ってる意味が分からない上に誰だよマイク。ツッコミ忙しいネタはやめろ」

 

 

原田はうなだれて呆れていた。ワンチャンあるかもよ、ワンチャン。出会った瞬間に瞳と瞳が合う。その瞬間に気付———いや何か違うわ。とりあえずアレだ。良い感じの雰囲気になってそのまま―――!

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「やっべ、妄想だけで動揺するとか最低だな俺」

 

 

「普通に引くわ」

 

 

________________________

 

 

 

―――こうして始まった昼飯を賭けた戦い。普通にコンビニで買いたいけど無理ですね。

 

当然団体行動などしない。個人で動いた方がポイントを稼げると思ったからだ。裏切りも怖いしな。

 

 

「さぁて、誰が最初の相手だ?」

 

 

街の中を走っていると、一人の男が立っているのを発見する。ちなみに参加者と超能力者(レベル5)以外は周辺に誰もいないとのこと。だから超能力者(レベル5)の一人だろうと確信できる。

 

よし、まずは一人。美琴じゃないのが残念だが、手加減はしないぜ!

 

 

「見つけたぜ! って大樹もか!?」

 

 

同時に横から原田の姿も見えた。チッ、同じタイミングで見つけてしまったか。

 

先に勝負を仕掛けたい所なのだが、原田の方が近い。これは不味―――ん? 原田の足が止まった。あれ?

 

それどころか男を見た瞬間、回れ右をして逃げ出している。あれあれ?

 

 

「正面から堂々と、真剣勝負は実に良いこと。真面目に相手と向き合うことで見えて来る物も多い。だが負けた時、0点になった者は―――」

 

 

男はゆっくりと振り返る。その顔を見た瞬間、俺の足は止まっていた。

 

 

「―――容赦無く、補習ぅ……!」

 

 

文月学園の講師、西村(にしむら) 宗一(そういち)―――またの名を鉄人と呼ぶ。

 

どうやら運営はFクラスという地獄からとんでもない怪物を呼び出したらしい。

 

 

「リアリィ……?」

 

 

「もちろん敵前逃亡は許されない。さぁ楢原、学園都市第七位(一日)との勝負だ!」

 

 

「(一日)って何だよ!? やっぱ超能力者じゃねぇのかよ!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「忘れてたぁん!!」

 

 

尻に衝撃を受けながら鉄人と相対する。鬼の補習とか絶対に受けたくねぇ!

 

 

「クソッ、最初に戦う相手じゃないだろ……!」

 

 

「そうワクワクするな。勝負内容を発表するから」

 

 

ワクワク? なるほど、この全身がビクビクと震えて視界がブレて息が全く整わない感覚。そうか、この気持ちが、この昂りこそがワクワクなわけねぇだろが恐怖だコノヤロー。

 

補習だけは無理。肉体的とか精神的とかじゃない。人間という概念から無理だと否定してるから。これで補習だったら舌噛んで退場してやる。

 

 

「勝負内容は楢原に取って嬉しい物かもしれないな」

 

 

「嬉しい?」

 

 

「ああ、『原田か宮川、どちらかの勝負を敗北に導くこと』だ」

 

 

シュピーンっと、俺の目が怪しく光り、口元がニヤリと笑う。

 

 

「つまり二人の勝負に乱入して敗北させて来いと?」

 

 

「もし楢原が勝てば一石二鳥だな。だが失敗すれば楢原の負けだ」

 

 

うっそーそれぇってマジぃ? 超俺向きな内容じゃん。楽しい妨害が始めれるじゃん! ヒャッハー!

 

 

「制限時間は特にない。ゲームが終わればそれまでだが……まぁ気にすることはない。それでは試験、始め!!」

 

 

「よっしゃー!!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

昂った感情は尻を刺激した。

 

 

「また忘れちゃってたぜ!!」

 

 

―――大樹は喜々と原田が逃げて行った方へと走った。

 

 

________________________

 

 

 

 

「危なッ、大樹は鉄人の背後から近付いたから気付いてないだろうなぁ……ざま」

 

 

原田は走りながらニヤニヤと逃げれたことに笑っていたが、この状況が如何に危ないかも理解した。

 

この学園都市に居る超能力者(レベル5)超能力者(レベル5)じゃないこと。バスの中で起きたカオスさで気付くべきだった。

 

他にも鉄人級のヤバい奴がいるのだろう。戦うにしても選ぶ相手を間違えないように―――

 

 

「「あッ」」

 

 

―――和服を着た美人に遭遇した。

 

彼女は男を(とりこ)にするようなパァっと笑顔を見せて、サァーっと原田の顔は悪魔でも見たかのように青く染まった。

 

『トレーナーとトレーナーの目が合ったら勝負!▼』と〇ケモン的な流れに原田は逃げれない!

 

 

「いざ勝負! 敵前逃亡はもうなしやで!」

 

 

「このゲーム、狂ってやがる!!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

忘れてた! でも動揺するんだ! この人……この人だけは!

 

 

「学園都市第六位(一日)、司馬(しば) 美織(みおり)。運がええな?」

 

 

「よくねぇよ……! そもそも今日自体が最悪だ……! あと(一日)って何だよ……!」

 

 

「勝負内容は簡単やから。心配せんでもええ」

 

 

微笑む美織に原田は笑顔になれない。バスの中で見て来た光景が頭から離れられないからだ。

 

パチンッと美織が指を鳴らすと街の景色に変化が訪れる。道や建物の中に多くの人が出現したからだ。

 

 

「これは……ホログラムか?」

 

 

「正解。学園都市の科学は凄いんやな」

 

 

彼女はそう言いながらゴソゴソと傍に置いてあったリュックを引きずる。かなり重いようだ。

 

 

「勝負内容は簡単。ウチの武器の試作運用、つまり試し撃ち。制限時間有りのな」

 

 

「え? お前との撃ち合いか?」

 

 

「違う違う、ホラはよ武器持って」

 

 

美織に無理矢理ショットガンを渡されてしまう。待てよ、ホログラムの人間を出したということは?

 

……あまりよろしくない勝負内容を予想してしまう。

 

 

「じゃあ10分間、武器を放ち続けて貰うから頑張ってな!」

 

 

ホログラムの人間に向かって美織が指を差す。予想通りの内容に原田は息を吐く。

 

 

「やっぱりか……まぁ、それくらいなら?」

 

 

だが明白で簡単な行動を要求されただけ。美織の言う通り、武器をぶっ放すだけで良いのだろう。少々気が引けるが、相手はホログラムの人間。人形と変わらないのだ。

 

気軽に、落ち着いてホログラムの人間に向かって銃の引き金を引いた。

 

 

ドゴンッ!

 

 

『がぁはぁ!?』

 

 

引き金を引くと同時にリアルな反応を取り出すホログラムの人間。

 

腹部から血が流れているのに地面を濡らしていないのはホログラムの人間である証拠……証拠なのだが。

 

 

『た、助けてくれぇ!?』

 

『嫌だぁ!! 死にたくない!!』

 

『ああああ! ああああああ!』

 

 

「ストレス半端じゃないんだがぁ!?」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

動揺するに決まっている。これは酷い……残酷過ぎる。

 

騙された。そして()められた。こんな状況下で冷静に武器を放つことなど、動揺するなとか無理な話だ。

 

 

ドゴンッ! ドゴンッ!

 

 

怒号と悲鳴が響き渡る中、無の感情を意識しようとする。これはホログラムの人間。平常心、平常心。

 

 

『お願い……殺さないで……!』

 

 

『ママッ……死んじゃやだぁ!』

 

 

平常心……平常心だ。

 

 

『だ、誰か!? 助け―――!』

 

 

へい……ジョウ……震?

 

 

「……………これ、ホログラムなんだよな」

 

 

「当たり前や。生きている人間じゃないから安全安心」

 

 

『いやああああああァァァ!!!』

 

 

いや―――本気でキツい。

 

俺は何か凄まじい試練を受けているのか? こう……主人公が大きな壁を越える為に甘さを捨てる的な……ホントこれ何?

 

凄まじくストレスが溜まる。というか泣けてくる。俺は一体どうしてこんな酷いことを……!

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「ただの地獄じゃねぇかぁ!!!!!!!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

―――10分間、地獄の様な光景とケツの痛みに耐えながら、原田は銃を放ち続けた。

 

ちなみにその後受けた回数は12回。後半は無心で撃ち続け、大切な物を無くした気がした。

 

そんな原田を影から見ていた大樹は二回程、ケツロケットを受けて逃げ出していた。あんな地獄を邪魔することは無理と言い残して。

 

 

________________________

 

 

 

一方慶吾は建物の壁を垂直に走り、一気に奥へと進んでいた。重力を無視した様な走りは街の最奥まで駆け抜けることに成功する。

 

そして同時に発見する。屋上に居る女の姿を。

 

 

「見つけたぞ」

 

 

慶吾は屋上に降り立ち女に話しかける。女の姿は―――小さかった。

 

子どものような容姿。着物風の服に真っ白い髪。そして内側から溢れ出す強者のオーラに慶吾は驚いた顔になる。

 

 

「私の相手はおんしか―――学園都市第二位(一日)、白夜叉(しろやしゃ)

 

 

―――箱庭の超巨大商業コミュニティ【サウザンドアイズ】の幹部だった。

 

 

「……なるほど、お前が殺し合う相手か。それから(一日)って何だ」

 

 

白夜叉が隠している力に慶吾はニヤリと笑みを見せる。すると白夜叉は戦慄していた。

 

 

「アホなのか……おんし、今の流れから殺し合いなんて馬鹿なことをすると思うのか……!?」

 

 

今度は慶吾が戦慄する番だった。

 

 

「……勝負内容はそれにしろ」

 

 

「嫌なのか? 楽しい勝負は?」

 

 

「絶対にやめろ」

 

 

その言葉に白夜叉は満面の笑みを見せた。凶悪な笑みと言っても過言ではないくらいに。

 

 

「馬鹿だなおんしは! 『やるな』と言われたら『やる』のが常識だろうに!!」

 

 

「テメェ!!!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

感情的になってしまった慶吾にケツロケット。更に笑いながら白夜叉は勝負内容を発表する。

 

 

「せっかくの勝負! だが内容はそこまでふざけてはおらんよ」

 

 

パチンッと白夜叉が指を鳴らすと、屋上の床から円形のテーブルが現れる。

 

その知っている形に慶吾は呟く。

 

 

「ルーレット……?」

 

 

「勝負内容は36分の1をどちらが先に当てるか……どうする?」

 

 

簡単だろ?と言いたげな顔で白夜叉は悪い笑みを見せる。だが慶吾は鼻で笑い飛ばし、番号を告げた。

 

 

「1」

 

 

「ほう?」

 

 

「興が覚めた。運次第の勝負など……くだらん」

 

 

「なら―――球はおんしが投げれば良い」

 

 

その発言は慶吾の眉を動かした。

 

 

「なんだと?」

 

 

慶吾が球を投げる―――つまり狙った場所に球を入れることができるということだ。

 

冗談で言っているわけではない。白夜叉は本気だった。

 

 

「注意点として球を投げた後、球の妨害はルール違反とする。もちろん、私もだ」

 

 

妨害無しのゲーム。慶吾の勝利が決まったようなモノ、目の前のゴミ箱にゴミを入れるくらい簡単なゲームだ。

 

慶吾はしばらく黙り思考してしまう。白夜叉が企んでいることを探ろうとするが―――やめた。

 

 

「球をよこせ」

 

 

「うむ」

 

 

パチンッと白夜叉が指を鳴らす。すると球は目の前に出現して落ちる。

 

ルーレット台の手前に出現した銀色の球を慶吾は手にする。同時にルーレット台を回し、球を転がした。

 

 

「決定的なミスだな」

 

 

「おんしに球を渡したこと、か?」

 

 

「違うな」

 

 

慶吾は口端を吊り上げながら答え―――ルーレット台に銃口を突き付けた。

 

 

「この俺がルーレット台に恩恵(ギフト)を与えていたことに気付いていないと思ったか?」

 

 

「ッ!」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

銃弾がルーレット台に当たると黒い煙を立ち昇らせる。台に施された恩恵を消しているのだ。

 

白夜叉が妨害する必要がないのは当然だ。球の位置を操作する細工が台にされているのだから。

 

 

「なるほど、おんしは馬鹿などではない……」

 

 

回転する球が『1』の穴に入ろうとした時、

 

 

「―――立派なギャグ要員だ」

 

 

「は?」

 

 

ガキュンッ!!

 

 

―――球が砕け散った。

 

遠方から狙撃された球に反応ができない。銃弾が球を粉々にした光景に慶吾の目が点になる。

 

銃弾が飛んで来た方向を振り返る。二百メートル先、ビルの屋上に奴が立っていた。

 

 

「草」

 

 

―――長銃を構えた大樹だった。

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

今更あの距離から精密な射撃を見せることに驚くことはない。邪魔されたことに驚いているのだ。あと尻が痛いことも驚かない。

 

勝負に水を差すことに何の意味が―――まさか最初から仕組まれていたのか?

 

そんな時間は無いはずだ。ゲームが始まってから時間が経っていない。

 

 

「おんしの負けだな? この勝負、私の勝ちとする!」

 

 

「ふざけるなよ。お前は番号を宣言してない上にどこの穴にも―――まさか」

 

 

「確かに()()()()()()()()()。どこの穴にも落ちていないということが()()()()()()()()?」

 

 

―――負けた。それだけは理解した。か・な・り、()に落ちないが。

 

だが何故、大樹が協力したのか理解できない。

 

ビルの屋上からこちらへと向かって来る大樹を睨み付ける。それに気付いた大樹は親指を下に向けて答える。

 

 

「大草原不可避」

 

 

「殺すぞ」

 

 

「俺もゲームに参加できるんだよ馬鹿め。何故なら俺のゲーム内容は―――」

 

 

大樹から聞いたのは鉄人との勝負内容。それが自分の勝負を邪魔された理由だった。

 

コイツがすぐに行動して、勝負の邪魔を即座にすることができるなら―――可能だと話がつく。

 

苛立ちを必死に抑えながら大樹の話を聞いていた。話を終えた大樹がニッコリと微笑みながら告げる。

 

 

「はいザマああああァァ!!!」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

尻に衝撃を貰いながら馬鹿にしていた。そんな姿が一番馬鹿だと二人は心の底から思った。

 

 

『宮川 慶吾―――脱落 〇成果なし』

 

 

ズキズキと痛む尻を抑えながら大樹は白夜叉に向かってグッジョブ。

 

 

「ナイスだ白夜叉。これでコイツより良い飯が食える。というか今の無様な姿でご飯三杯はいける」

 

 

「覚えていろよ貴様……」

 

 

隣では殺気を溢れ出した修羅が睨んでいるが大樹はアウト・オブ・眼中。全く見ていない。

 

すると白夜叉は首を横に振って笑みを見せる。

 

 

「礼を言うのはこちらだ。手間が省けたからの」

 

 

「……………ん?」

 

 

その時、大樹の額からドッと汗が流れ出した。

 

手間が省けた? まるで俺を最初から探していたかのような―――あ、逃げた方がいいのかな?

 

 

「敵前逃亡は駄目だぞ?」

 

 

「ですよね」

 

 

だが(おく)することはない。白夜叉のゲーム内容は分かったのだからビビることはない。

 

……怖がる必要は無いのに、何故こんなにも嫌な予感がするのか。

 

 

「そうそう―――ゲーム内容は()()()()()()じゃから」

 

 

「パードゥン?」

 

 

ババ抜き? ゲーム内容が変わっているのですが?

 

しかも皆で? まさか慶吾も含めて三人でやるの?

 

……大丈夫。まだ勝てる見込みはある。全然余裕。ババ抜き程度、お前らに負けることはない。

 

その時、両肩に手を置かれた。

 

 

「やぁ大樹君。久しぶりだね。アリア君とは夫婦関係以上に仲良くなっていると推理しているけれど?」

 

 

「こんな形で大樹さんに挑戦できること、僕は嬉しいですよ」

 

 

振り返るとそこには紳士的な服を着た男と薄茶色のローブを着た男の子が居た。

 

一人は大っ嫌いな男。もう一人は大樹の所属するコミュニティのリーダー。

 

 

「学園都市第位四位(一日)、シャーロック・ホームズだ」

 

 

「学園都市第位五位(一日)、ジン・ラッセルです」

 

 

―――運営の連中はトチ狂っているなオイ。

 

二人の顔は笑顔だが、大樹の顔は苦笑い以上にキツイ表情だ。

 

 

「シャーロックは死ね。ジン、とりあえず落ち着けよ」

 

 

「相変わらず酷い人だ。だけど、このゲームが終わる頃には大人しくなると推理しよう」

 

 

「大樹さんに借りを返す(仕返しする)ことができるのなら、もちろん参加しますよ」

 

 

ヤバイ闇が深いコイツら。特にジン、黒いオーラが出てるわ。絶対根に持っているだろ。俺が問題起こしまくったこと。全部十六夜辺りが悪いから見逃してくれ。

 

白夜叉が懐からトランプを取り出す。そして大樹は察するのだ。

 

 

「あー、さすがに負けたわこれ」

 

 

―――『楢原 大樹―――脱落 〇成果 一人』

 

この理不尽な四対一の戦いに大樹の勝利は無に等しかった。

 

歴史的有名な天才名探偵。最強の問題児たちを抱え込む【ノーネーム】のリーダーを務める神童。

 

そんな二人を加え、元魔王と呼ばれた白夜叉と慶吾も相手にしないといけない。

 

大樹は最後に呟く。ただのクソゲーだったと。

 

 

________________________

 

 

 

「嘘だろお前ら……」

 

 

大樹と慶吾が脱落した。そんな話を聞いた原田は驚愕していた。

 

脱落した二人は原田の元に行き報告。原田の後をついて行くことにした。

 

 

「いや、何で来るんだよ……動揺して尻痛むだけだぞ、大人しく待機室に行けよ」

 

 

「俺は第三位が美琴であると信じている」

 

 

「お前だけ無事でいるのは気に食わん」

 

 

「個人的事情過ぎるなお前ら。まぁいいか」

 

 

特に拒否する理由はない原田は歩き出す。その後ろから大樹と慶吾がついて来るのだが、悪い顔をしていた。

 

 

(馬鹿が! テメェも道連れにする為に行くんだよ!)

 

 

(無事で済むと思うなよ……手は出せなくても、口は動くのだから)

 

 

それはもう(みにく)い醜い―――潰し合いが始まろうとしていた。

 

そんな雰囲気(内心はすっごい黒い)中、原田たちはついに出会う。

 

学園都市最強―――本物の第一位に。

 

白い髪に赤い瞳。整った顔立ちに張りのある肌。灰色を基調とした衣服に身を包んだ男。

 

 

一方通行(アクセラレータ)……(一日)の奴らに居場所盗られなかったのか……」

 

 

大樹が余計な事を言っているが、原田は息を飲んで声を掛けようとする。

 

しかし、彼らは忘れている。このイベントが常軌を逸しているということを。

 

そして参加者は、更に逸脱しているということ。

 

 

 

 

 

「―――空前絶後のォ! 超絶怒涛の超能力者ァ!」

 

 

 

 

 

「「「!?!!??!?!???」」」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

尻に痛みを感じながら状況に混乱する三人組。

 

一方通行の変貌に驚きを隠せていない。

 

 

「ロリを愛し、ロリに愛された男ォ!!!」

 

 

「おいやべぇぞアレ!? 冗談抜きでやべぇ! 本気でやべぇから!!」

 

 

大樹が声を荒げながら青ざめている。原田と慶吾も、この光景は非常にキツイ。

 

 

「ロリ、ロリコン、フェミニスト、全ての幼女の生みの親ァ!!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「鬼畜犯罪者じゃねぇかよ!? 破壊力半端じゃねぇぞ!?」

 

 

原田たちの尻が猛烈に衝撃を受け続ける。落ち着けるわけがない。

 

一方通行(アクセラレータ)の暴走は、それでも止まらない。

 

 

「例えこの身が朽ち果てようと、ロリを求めて命を燃やし、燃えた炎は一番星となり、見るもの全てを笑顔に変えるゥ!!」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「笑顔どころかッ……恐怖に染まっているんですけどッ……!?」

 

 

「おい!? 誰か止めろ! 尻がッ……! くッ!」

 

 

大樹の渾身のツッコミでも一方通行(アクセラレータ)は止まることは知らない。慶吾も限界が近いのか焦っている。

 

プルプルと震える三人に、トドメの一撃が繰り出されようとしていた。

 

 

「そォう、この俺はァ!! サンシャィィイン、一方通行(アクセラレータ)……」

 

 

体を大きく反らす一方通行(アクセラレータ)に三人は警戒する。何をして来るのか全く予想できない。

 

一方通行(アクセラレータ)は、狂喜に叫ぶのだ。

 

 

「いィえええええええええェェェェ!!!」

 

 

「「「ブホォwwwww」」」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

結局―――最後は笑ってしまった。

 

噴き出すように笑った三人。耐え切れるわけがない。こんなの……卑怯だッ……!

 

地面をバンバンと叩いて笑いを堪えている。笑いのツボの急所に刺さったようだった。

 

 

「……何で俺がこンなことやってンだよ」

 

 

一方通行(アクセラレータ)から怒りや哀しみと言った感情は伝わってこない。ただただ虚しいという雰囲気だけが漂っていた。

 

 

________________________

 

 

 

腹筋と尻を痛めた三人。気が付けば一方通行(アクセラレータ)は姿を消していた。『なし』という紙切れを残して。アレが勝負なら完全にこっちが敗北だった。原田め、運の良い奴。

 

トボトボとお腹と尻を抑えながら歩く。ここで大樹は原田と一緒に来ることを後悔していた所、ザッと目の前に現れる女の子を見て大樹の目の色は変わる。

 

 

「これが最後の勝負よ!」

 

 

そう、御坂 美琴の登場によって。

 

 

「学園都市第三位の―――!」

 

 

「待ってましたああああああァァァ!!」スパアアアアアァァァン!!!

 

 

テンション爆上げする大樹に周囲は「あー」と言った感じになる。声には呆れの感情が含まれている。

創造生成(ゴッド・クリエイト)】によって『美♡琴』と書かれたうちわを手に持ち、『美琴命』と背中に大きく書かれた法被(はっぴ)を羽織っている。ハチマキも巻いて、アイドルを応援する者と化していた。

 

しかも一瞬だったからなお気持ち悪い。無駄の無い無駄な動きとはこのこと。

 

 

「……は、恥ずかしいからやめてくれるかしら?」

 

 

電撃をバチバチと辺りに振り撒きながら大樹を睨み付ける。頬がほんのり赤いが大樹は真顔で答える。

 

 

「俺に取って美琴を応援することは世界を救うことより大事だ」

 

 

「おいやめろ主人公。言って良い事と言っちゃいけないことがあるだろ」

 

 

「ぶっちゃけ世界救うより嫁と結婚する日はいつにするかの方が気にしていたり―――」

 

 

「もう黙れ。ホント黙れ」

 

 

「というかエッチは―――!!」

 

 

バチンッ!!

 

ドゴッ!!

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

顔を真っ赤にした美琴にビンタされて後方に吹っ飛んだ後、原田の追撃パンチを貰い、そのままケツロケット。3combo!

 

 

ビシッ!!

 

 

「K.O.」

 

 

「おふぅ! おふぅ…! おふぅ……! ぉふぅ…………」(エコー)

 

 

地面に倒れた俺に慶吾がトドメの一撃。両足で踏みつけて地面にめり込ませる。

 

残念ながら死んでいない。少しだけ静かになるだけだ。

 

 

「気を取り直して勝負よ。内容は私の言葉に動揺しないこと。五回あるうち、一回でも動揺しなかったら勝ちよ!」

 

 

「嫌なの来たなぁ……バスの中を思い出すとエグいからな」

 

 

うんうんと頷く慶吾。それでも美琴は容赦無く始める。

 

 

「行くわよ!」

 

 

「動揺しなければいい……そうだ、何を言われても無言を貫き通して―――」

 

 

「大樹と原田ってホモカップルよね」

 

 

「「―――んなわけあるかぁ!!!」」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

最初から失敗する原田。大樹も追加でケツロケットを受けていた。後ろではプルプルと慶吾が必死に笑いを堪えている。

 

 

「ヤバいな!? 最初から飛ばして来たな!?」

 

 

「まだ最初よ? 一番弱いと思うけど……」

 

 

「十分強いけど!? 序盤の雑魚戦からデス〇ークかセ〇ィロスぶつけられた気分だったわ!」

 

 

どれだけ文句を言っても勝負は続く。美琴が言う前に原田は精神統一して心を落ち着かせる。

 

 

「次よ。原田はロリコンである」

 

 

「だろうな」

 

 

「……………」

 

 

大樹が肯定しても原田は目を閉じたまま口元を緩ませた。二回目で動揺しないことに大樹と慶吾は面白くなさそうな顔をする。

 

だがこの程度で終わる程、勝負は甘くなかった。

 

美琴は悲しそうに目を細め、小さな声で呟く。

 

 

「そう、違うのね……じゃあ七罪とは遊びだったのね。酷い、最低よ……」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

―――これは辛い。

 

原田はそのまま両膝を地に着いて首を横に振った。一生懸命、否定していた。

 

大樹と慶吾は空を仰ぐ。笑ったらケツロケットだ。笑っちゃ駄目だと必死に耐えている。

 

 

「次よ、大樹より女癖の悪い人」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「頼む、やめてくれ」

 

 

「「くぅ……!」」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

三回目に入る前にケツロケットを食らう原田。真顔でやめろという原田に大樹と慶吾も笑ってしまう。卑怯だ、今のは卑怯。俺たちはお前の不幸を見ると笑ってしまうのだから。

 

これは無理だ。勝てる気がしない。こっちも飛び火している始末だ。

 

 

「原作なら七罪は士道と結ば―――」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「美琴。その発言は原田のダメージは大きいけど、俺の方はもう致命傷レベルだから」

 

 

原田と同時にケツロケットを受ける大樹。慶吾は顔を手に当てて必死に笑いを堪えているからムカつく。

 

これで四回も失敗しているわけだが……ラストの結果は目に見えている。一番えぐのが来る。

 

終わったな。原田の敗北しかありえない。

 

 

「さ、最後は……その……」

 

 

だがしかし、歯切れの悪い様子を見せる美琴に大樹たちは眉をひそめる。

 

何かを躊躇するような、何かを言いたくないような、そんな様子だ。

 

もう後が無い原田は真剣な表情で待ち構えている。慶吾も後ろから唇を噛んで見守っている。

 

沈黙が続く中、遂に美琴は最後の言葉を告げる。

 

 

 

 

 

「―――動揺してみて、今()()()()?」

 

 

 

 

 

「「「……………」」」

 

 

……………。

 

 

大樹「……………」(ゆっくりと顔を上げる)

 

 

原田「……………」(靴ヒモを結び直し始める)

 

 

慶吾「……………」(振り返り誰かいないかを確認)

 

 

美琴「……………」

 

 

……………。(何と表現すればいいのか分からない)

 

 

大樹「……………」(慶吾の脇腹を小突く。どうにかしろよと)

 

 

慶吾「……………」(大樹の足を踏む。お前がどうにかしろと)

 

 

原田「……………」(誰でもいいから助けてくれ的な顔をしている)

 

 

美琴「……………ぐすっ」(泣きそう)

 

 

その瞬間、大樹は原田の胸ぐらを掴んだ。

 

 

「動揺しろ。チ〇コ斬るぞテメェ」

 

 

「いや理不尽過ぎるよなぁ!?」

 

 

スパアアアアアァァァン!!!

 

 

「―――ってしまったぁ!!??」

 

 

「「いえーい!」」

 

 

結局原田のケツロケットが炸裂(さくれつ)した。大樹と美琴はハイタッチして喜んでいた。

 

 

『原田 亮良―――脱落 〇成果 一人』

 

 

―――こうして無事?ゲームは終了した。

 

しかし、彼らの地獄(企画)はまだまだ続く。

 

このゲームも、生温いお遊びに過ぎないのだから。

 

 

「はぁ……もうおうちに帰りたい」

 

 

最後に原田は泣きそうな声で呟いた。激しく同意。

 




現在のケツロケット回数

楢原 大樹 28回

原田 亮良 39回

宮川 慶吾 16回


大樹「おいおいおい」

慶吾「死ぬなアイツ」

原田「司馬のゲームが一番悪質だったわ……はぁ」

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