どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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「――終わらせよう、全てを」

大樹とガルペスがどこに消えたのか―――それはこの世界の過去だった。

 

慶吾が手を出すことのできない場所に飛ばされていたのだ。だからと言って大樹たちの後を追う気にはない。

 

ただ待つだけで良い。必ず奴らは行動を起こすと確信していたから。

 

そして予想通り、ガルペスはソロモン72(ななじゅうふた)(ばしら)を使い大樹に攻撃を仕掛けた。

 

結果も予想通り……というのは(しゃく)だが、大樹の勝利。人質を取ったところで勝率が大きく上がるとは思わない。それどころか大樹の闘志に火を点けたぐらいだ。

 

 

「いよいよソロモン72柱を使って来たか……」

 

 

『クックックッ、強力な悪魔だけは引き抜いていたようだな。だからと言って貴様の力が(おとろ)えるわけでもない』

 

 

大樹たちから遥か遠くから見ていた慶吾が呟くと冥府神も肯定しながら笑う。その距離は肉眼どころか機械を使っても目視できない距離だが、冥府神の力はそれを可能にする。

 

 

『どうする? これからの戦いに介入するか、否か』

 

 

「……これからガルペスがどう出るか……だが、やることは変わらない」

 

 

小さく手を挙げると、背後に白い衣を身に纏った双葉———リュナが姿を見せる。

 

 

「最後の時は近い。どうせガルペスは何も言わないだろう。先回りしていろ」

 

 

「はい」

 

 

無表情で返事をしたリュナに、慶吾は冥府神にも分からないように下唇を噛んだ。

 

 

『……先回りさせておくのか』

 

 

「ああ、俺が殺してやるよ……こんな汚い世界」

 

 

徐々に整う最後の舞台。

 

大団円なんてクソッタレな言葉は、存在しない。

 

あるのはただ一つ。バッドエンドのみ。

 

―――殺戮と絶望の先にあるのは、死体の山だ。

 

 

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―――大樹とガルペスの戦いは地球の外。宇宙での戦闘だった。

 

 

大量『神器』の投入、何百年先の未来科学、人間が生き抜けない環境。

 

そんな場所で戦うことで勝率の上昇を図り、ガルペス自身も強化されていた。

 

複数持つ神の力を使いこなし、『神器』を越える『悪神器』の生成、そして【最終解放(エンド・アンリミテッド)】の極地まで到達していた。

 

最初はガルペスの圧倒かと思われていたが、やはり大樹はそれを覆す。

 

 

「―――【神装(しんそう)光輝(こうき)】!!」

 

 

次は大樹が圧倒的な力でガルペスを叩き潰していた。何年という時間を費やしたガルペスに対して、大樹は数十分という時間で成長する。それがどれだけ恐ろしいことなのか。

 

 

『……これで最後か』

 

 

地球から戦いを見ていた冥府神が呟く。やっとここまで来たと感じていた。

 

慶吾も同じく目を閉じて同じ感想を持っている。どれだけ待ちわびたのか。

 

 

『あとは楢原大樹を殺せ。一度だけで……一瞬で良い。冥府への扉を開ければ貴様は完全たる力を手にすることができる』

 

 

「ああ、分かっている」

 

 

『準備に取り掛かる。ここまで来たなら確実に、外堀から埋めるぞ』

 

 

冥府神と宮川 慶吾の殺戮―――『神殺し』は加速する。

 

終焉へのカウントダウンは、もう間もなく……。

 

 

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最後まで察しが良い男だった。

 

最後に奴は俺と接触しに来た。内容は『どこまで知り、何者なのか』。

 

無難な答えとして『昇天。人から天使になった者』と嘘をつく。

 

すると奴は邪神についても知っていた。都合が良いと本物の情報を与えて俺に対する注意を消そうと思った。

 

 

気が付けば『一人の保持者に、十二神の力を注ぐこと』、と口から出ていた。

 

 

現状から騙せる最高の一言だった。神の真意など知ったことでは無い。

 

ただ奴の決意を揺らがせることは容易だった。簡単に信じた。

 

これで絶望の(ふち)に叩き落とせる。そう思っていた。だが、

 

 

「———ハデスの野郎と、一緒にぶっとばす。クソ神共は一発殴らねぇと気が済まねぇ」

 

 

親指を下に向けて、神共に対して宣戦布告した光景に吐き気がした。

 

何故折れない。

 

何故戦おうとする。

 

利用され、不幸な結末しか迎えない世界でそれでも抗う奴に―――楢原 大樹に苛立つ。

 

それだけ残して奴らはどこかに行く。憎しみに満ちた自分を残して。

 

 

「―――――!!」

 

 

奴に斬られた頬から、自分の唇から血が零れる。それだけ強く噛み締めていた。

 

ここまで我慢して来た。

 

復讐する為に。己の欲望のままに、奴を殺す為に。

 

 

「楢原ッ……大、樹ッ……お前だけはぁ……お前だけはぁ!!!」

 

 

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原点世界に先回りしていたリュナの目的は大樹を疲弊させること。

 

どうせ勝つことはできない。リュナ相手に大樹は本気を出せない。

 

大切な存在をいつまでも忘れることのできない奴は、弱いままだ。

 

永遠に雑魚。その(もろ)(はかな)い理想を抱いたまま、絶望に呑まれ死ね。

 

そんな光景が広がるはずだった。

 

宮川 慶吾の予想はいつも裏切られる。そう、簡単に。

 

ソロモンの悪魔をリュナに取り込ませて確実に、絶対に、大樹を肉体的から精神的、徹底的に弱らせることができる。

 

そう、できる!

 

なのに、なのに、なのになのになのに!!!!

 

慶吾の目に映る光景は、あまりにも残酷な美しさだった。

 

 

 

 

 

―――桜の木の下で、涙を流しながら唇を重ねる二人だった。

 

 

 

 

 

 

 

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―――どこから間違えていたのか。

 

 

―――生まれた時から、生きていた時から、不幸で汚れた人生だった。

 

 

―――最初は何を目的として動いていたのか、もう覚えていない。

 

 

―――ただ……ただ……心が燃える様に痛い。

 

 

―――どうして自分じゃない。どうして自分ばかり。

 

 

―――都合の良い時だけ、俺は世界から弾き出される。

 

 

―――都合が悪くなれば、世界は俺を押し付ける。

 

 

―――『復讐だ』と頭の中に響く声に、思わず笑った。

 

 

そうだ、復讐だ。

 

それしかない。

 

それだけを頼りにして生きて来たはずだ。

 

この憎しみは、復讐で消化するしかない。

 

 

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「殺す……殺すんだ……!」

 

 

右手に黒銃を顕現させて大樹に向かって歩く。

 

その足取りは不安定で、目は血走っている。

 

体から溢れ出す憎悪。歩くたびに周囲の草木は枯れ、コンクリートや街灯は脆く腐敗する。

 

 

「お前だけは……お前だけはぁ!!!」

 

 

背後から一発の銃弾を浴びせようとした瞬間。

 

全てを奪われた者が、全てを奪った者を殺す瞬間。

 

その瞬間、頭の中が真っ白になる。

 

 

「―――――」

 

 

銃の射線上に、原田が立ち塞がった。

 

自分に対して向けられた微笑みは、全く理解できない。

 

大樹が死体となった原田に向かって叫んでいる。それが右から左へと抜けてしまう。

 

 

「―――――」

 

 

呆然と立ち尽くしてしまう。自分が行動を起こして置いて、何が起きたのか分からない。

 

 

「―――――まさか、知っていたのか……」

 

 

だとしても、どこでそれを知る機会がある? どこで自分の正体を―――!?

 

ありえないことに気付く。それでも、それでも、慶吾は憎悪を膨らませるのだ。

 

 

「……そうだとしても、お前は———」

 

 

震えた唇で、死者を冒涜する。

 

 

「―――愚か者だ」

 

 

そして復讐の為に、大樹に向かって歩き始めた。

 

どう足掻いても、何をしても、無力だ。

 

 

「最後に死ぬんだろ。お前も」

 

 

それを今、お前に教えてやる。

 

―――最後の裏切者として。

 

―――冥府神の保持者として。

 

―――双葉の弟として。

 

―――復讐の時。楢原 大樹を殺す者として。

 

銃口を大樹に向けて、闇の力を纏った銃弾を解き放った。

 

不敵な笑みを見せながら、復讐者としての礼儀を。

 

例えそれが、後悔の海に沈み切った笑みだとしても。

 

 

宮川 慶吾は―――壊れた笑いを見せ続ける。

 

 

『さぁ!! 全ての世界が破滅する瞬間を見届けよう!!』

 

 

―――冥府神と共に、狂うのだ。

 

 

________________________

 

 

 

 

―――ほとんどの人は自身を嘘で固めて生きている。

 

 

真実という名の本物と、虚言という嘘を入り混ぜたのが自分だった。

 

神の保持者として選ばれた時、俺は人生のやり直しができると思っていた。

 

―――しかし、結末は最悪な物だった。

 

身内の裏切り。死んでゆく仲間たちに、何もすることができない自分。

 

無力な自分に、希望なんてない。

 

絶望の中に沈む……それでも、神は言うのだ。

 

 

『世界を救う為に、楢原 大樹を殺すのだと』

 

 

何も言わずそれに従い、大樹を殺した。

 

理由もなく、ただ声に従うだけ。神に洗脳されるように行動していた。

 

神がそこに行けと言えば行く。記憶を捏造されることに抵抗することなく、自分を演じ、嘘を吐く。

 

それが人間だ。それが正義で、悪を討つのだと。

 

しかし、目の前に居る人間は違った。

 

 

楢原 大樹は、己の持つ正義を疑うことなく仲間を助けていた。

 

 

仲間だけじゃない。他人だって、何だって助けるヒーローだった。

 

嘘で身を守る男じゃない。立派な姿に、俺は決めることができた。

 

 

―――俺は、俺のやり方で、大樹を助ける。そして世界を救うと。

 

 

会ったことのない神から声は続く。それは信じるが、行動は俺の信じた道を行く。

 

だからあの日、見てしまった光景に希望を持とう。

 

 

「ふざけろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおォォォ!!!!」

 

 

あの絶叫は今でも耳に残っている。

 

闇に呑まれた世界の中、ただ一人の青年が涙を流して抗う光景。

 

神に記憶を消され忘れていた。どうして今まで思い出せなかったのか後悔していた。

 

それでも、最後は思い出せたんだ。

 

例え手遅れになろうとも、最後まで俺は俺の生き方を貫きたい。

 

 

―――大樹を守り、慶吾(お前)が救われることを祈る。

 

 

だから安心しろ。そう最後に笑うのだ。

 

そして心の中で謝る。最後まで戦えなくて悪い、と。

 

 

「―――少しは兄さんに近づけだろうか」

 

 

憧れの兄に微笑み、

 

 

「どうせなら、七罪に告白しとけば良かった」

 

 

後悔の波に揺さぶられ、

 

 

「悪くない人生だったなぁ……」

 

 

神々しい光の中に、意識は落ちて行った。

 







原点世界終章・黒幕編 完。


次回、最終章開幕。


【最終決戦編 英雄はただ一人…】


神々の戦いに終止符を打つのは、どちらなのか。













―――と、シリアスで絞めたい感じもありますがそろそろ解放したいです。もちろん、ギャグです。

最終章はシリアス全部振り。ギャグが存在していたかどうか怪しいレベルで無い気がします。

なので、発散しましょう番外編。何でもアリの、何でも詰め込んだ、あの伝説的な感じで!!


というわけで『絶対に動揺してはいけない24時! 世界なんてクソくらえ!』


シリアス忘れて書きますよ! 超書きますよ!

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