どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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ギャグ「ちょっと通りますよー」


復讐者たちは力を呑み込む

街の中から立ち昇る緋色の火柱は雲を突き抜けた。

 

戦争を終わらせる最後の一手。戦を司る神―――アレスの保持者を見事倒した楢原 大樹は更なる力を手に入れ、強くなって帰って来た。

 

木々の隙間から見える巨大な火柱を目撃した宮川(みやがわ) 慶吾(けいご)は苛立ちをあらわにしながら舌打ちをする。

 

 

「……チッ」

 

 

『全ては見せないか……本気を出す必要がないのは分かるが、惜しいな』

 

 

楢原 大樹は全力を見せていない。敵の強さを未知のまま放置したくなかった。

 

足元には体をボロボロにしたリュナが倒れて気絶している。彼女は大樹の一撃だけで敗北した。

 

 

『無事に楢原 大樹の強化は成功……いや、それ以上か? 貴様の筋書通りだな。あとはガルペスの―――』

 

 

「戦争も無事に終わった。これでもシナリオ通りって言うのかよ」

 

 

『違うのか? ……ああ、なるほど』

 

 

冥府神の疑問はすぐに解消される。この戦争が無事で終わることが問題だった。

 

死人が出てない―――それは楢原 大樹に対して憎悪や復讐心と言った悪感情が湧かないことを意味していた。

 

しかも巨大な壁を乗り越えたようで精神的な問題はより一層難題な物へと変わった。

 

緋緋神との接触も嫌な物だった。危うく冥府神の存在に気付かれる所だった。今度からは注意しなければならない。

 

慶吾は足でリュナの体を揺する。意識が戻る気配は全く見せない。

 

 

『落ちているな。完全に』

 

 

「……もういいか。結構終わっているし、時間の問題か」

 

 

既に計画は最終段階まで近づいている。

 

待ち遠しい。ああ待ち遠しいと憎しみを燃やしながら呟く。

 

 

「あと一人。いや、二人になるのか? ここまで長かったからな」

 

 

脅威となる保持者はガルペス。期待はしていないが、リュナの存在が大きくなる可能性も考慮する。

 

ここまで来る時間は長かった。とてつもなく、長かった。

 

リュナをその場に残して立ち去る。抱えて運ぶ真似なんて論外だった。

 

それにコイツは一応ガルペスの下僕(げぼく)でもある。そんな光景を見られてしまえば計画は台無しになる。

 

 

『だが邪魔な存在がいるだろう? 元保持者である原田 亮良もな』

 

 

「気付いていないうちに、死んでもらう。それがいいか」

 

 

騙されている内に、変な行動をしない内に、奴には死んでもらう。

 

慶吾と冥府神は順調な計画に思わず笑みを浮かべていた。

 

 

 

________________________

 

 

無人の街。真っ赤な血で汚れた建物が並ぶ街の中に一人、慶吾は立ち尽くす。

 

それは怪物が食い散らかした後だった。決して慶吾が殺戮行為をしたわけではない。手遅れだったのだ。

 

十数メートル越える怪物の頭部を銃弾で撃ち抜き絶命させる。最後の獲物を倒した直後、

 

 

『フム……』

 

 

「ッ……何だ今のは」

 

 

脳の奥からビリッと感じた不快な痛みに慶吾は思わず足を止めた。冥府神は謝ることなく続ける。

 

 

『いつの間にか悪魔の書がガルペスの手に渡っていたようだ』

 

 

「悪魔の書?」

 

 

『グリモワール。悪魔召喚方法を記述した本だ。如何にして入手したかは分からないが、奴も本気を出そうとしているようだ』

 

 

うんうんと納得するように頷く冥府神。慶吾は不機嫌な声で説明を求める。

 

 

「結局はどうなる? この痛みは何だ?」

 

 

『我の使役していた悪魔が盗まれただけだ。72も居ると難しいものなのだ』

 

 

部下の裏切りを軽々しく受け止める冥府神に呆れるしかない。頭痛の鬱陶(うっとう)しさのせいで苛立ちが増してしまうが、

 

 

『所詮は契約で縛られる程度の強さしか持たぬ。優秀な我の下僕(げぼく)と比べるなら』

 

 

「ハッ、世界に足を踏み入れることもできない存在が優秀か……閉じ込められている連中の頭は随分とお気楽だな。閉じ込められ過ぎて壊れたか?」

 

 

『くだらん。扉を開けば世界の終焉など簡単。満遍(まんべん)なく死の風を運び、何一つ残らず大地を粉砕してくれよう』

 

 

冗談を言っているように聞こえなかった。神からすれば人間の抵抗は赤子同然、虫以下なのかもしれない。

 

運命に抗うことも許されず、奇跡は無意味と化す。善人面した愚かなヒーローは全て皆殺しにするだろう。

 

絶対巨悪の根源。想像を遥かに超えた根深さに、神々は頭を抱えて絶望するだろう。

 

 

『命ある全てに永久(とこしえ)の眠りを。形ある物全てに無の存在を。我が野望は、大いなる死への誕生を望む者……!』

 

 

脳の奥から溢れ出す闇の力に呑まれそうになる。更なる底へと引き吊り込もうとする冥府神に慶吾は銃を取り出して空に向かって威嚇(いかく)するように発砲する。

 

 

「……黙れ」

 

 

『……少し遊びが過ぎたようだな』

 

 

僅かに顔色を悪くしけ慶吾を見た冥府神は静まる。昂らせた感情を抑えた。

 

弱みを握られたくない慶吾は呼吸をすぐに整えると悪魔との契約について聞く。

 

 

「契約って言うのは普通、破れば死ぬような物だと思っていたが……違うのか?」

 

 

『いや間違っていない。契約とはそういう風にできている』

 

 

「……裏があるのか」

 

 

『契約する中で抜け道や抜け穴を作ることは悪魔が最も重点することだ。当然、契約する人間にそんな穴を作らせるような真似はしないがな』

 

 

「……悪魔、盗まれたって先———」

 

 

『例外はある』

 

 

「……………」

 

 

それ以上踏み込んでほしくないのか声を被せて来た。慶吾は白い目を向けたまま黙る。

 

 

『貴様が受ける痛みに苛立つのも分かる。だからこそ、そのまま()()()

 

 

「は?」

 

 

冥府神の忠告に一瞬思考が止まる。

 

 

ドンッ!!!

 

 

背後から聞こえて来た重々しい音に振り返る。そこには地に伏せた怪物と同じくらい巨大な物体。

 

黒色の装甲に覆われた球体。表面には不気味な模様が白色で描かれている。

 

禍々しさすら感じさせる異様な物体に銃を強く握り絞める。これが味方とは到底思えない。

 

 

「何だコイツは?」

 

 

『噂をすればとやらだ。悪魔の書グリモワール―――【レメゲトン】の本体だ』

 

 

―――どこからどう見ても『書』の感じがゼロだった。

 

本に土下座するレベルでページはめくれそうにない。

 

 

『気をつけろ。貴様は十分強いが、アレは厄介だ。72(ななじゅうふた)(ばしら)の悪魔、全ての契約を記した物だ。言いたいことはもう分かるだろう?』

 

 

その時、レメゲトンに描かれた模様が不気味に光る。紫色に発光した模様は複雑な魔法陣へと変わる。

 

 

「それを先に言えッ!?」

 

 

慶吾は声を荒げながら回避行動を取る。レメゲトンを中心に波紋(はもん)の様に地面から黒紫の槍が突き出して来ていた。

 

地面を埋め尽くすような槍の床を回避したが、槍は建物の壁からも突き出していた。

 

 

ガシュッ!!

 

 

横腹を掠めるように槍先を避ける。右の肘打ちで槍を破壊するが、愚策だった。

 

壊した槍の中から黒い(ほこり)の様な物が舞ったのだ。

 

それは日常的に嗅いでいる硝煙の臭い―――火薬だった。

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!!

 

 

埃の正体を見破ると同時に爆炎が慶吾の体を包み込む。突き出した槍ごと建物と地面を破壊した。

 

レメゲトンは無傷のまま。新たな魔法陣を描き始めていた。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

しかし、魔法陣は破壊されてしまう。装甲の上から描いていた魔法陣は黒煙から飛んで来た銃弾によってグチャグチャになっていたからだ。

 

 

ゴオォッ!!

 

 

銃弾の次に飛んで来たのは黒いオーラを纏った慶吾が迫る。銃口をレメゲトンに向けるが、それを許さない。

 

 

迂闊(うかつ)に突っ込むな!』

 

 

「!?」

 

 

冥府神の警告に慶吾は回避行動を取る。

 

即座に風の銃弾を発砲し、銃口を起点とした場所から一気に真下に下降する。

 

次の瞬間、慶吾が居た場所が真っ赤な炎に包まれた。

 

 

『まだだ!』

 

 

「クソがッ!」

 

 

炎の中から無数の黒い目玉が飛び出す。充血させた気味の悪い目玉はギョロギョロと動きながらこちらへと飛行して来る。

 

 

ギュンッ!!

 

 

目玉は黄色い光線を射出した。光線を回避しようとするが、数が多い。光線が服に掠ると瞬時に燃え上がり始めた。

 

コートを脱ぎ捨てながら銃を両手に握り絞め、高速で動き回る目玉の動きを見切る。

 

 

ドゴンッ! ドゴンッ!

 

 

重い銃声が何度も響く。銃弾は一つも外れることなく目玉を撃ち抜くことに成功する。

 

地面に着地しても安心できる時間は無い。すぐに飛び上がると再び黒い槍が地面から襲い掛かって来る。

 

銃弾で槍を壊して防ぐが、レメゲトンの攻撃は更に増す。

 

 

ゴオオオオオォォォ!!

 

 

レメゲトンの黒い球体の横から蒼い炎が燃え上がり、二本の腕を形作った。

 

グッと握り絞めた二つの拳が慶吾へと襲い掛かる。

 

 

ドゴンッ!! ドゴンッ!!

 

 

灼熱の炎は酸素を一気に食らう。爆発と炎上が慶吾に大きなダメージを与えた。

 

後方に吹き飛ばされながら冥府神の力で回復を急ぐ。真っ黒に焼けた体が元に戻る。

 

一瞬の油断を許さない怒涛(どとう)の攻撃に顔を歪める慶吾。このままじゃ(らち)が明かない。

 

 

バチバチッ!!

 

 

新たな攻撃を仕掛けようとした時、敵が更に新たな攻撃を仕掛けて来た。

 

レメゲトンの魔法陣から青白い電撃が一直線に慶吾の体を感電死しようとする。

 

 

「―――――」

 

 

全身を襲う激痛に慶吾は憎しみの感情を静かに爆発させる。

 

体を纏っていた電撃を冥府神の力で吹き飛ばす。そのまま電撃をレメゲトンに返すように冥府神の力も乗せた。

 

しかし、余波で建物を破壊する程の威力をぶつけたにも関わず、レメゲトンはビクともしない。

 

 

『これほどの力を……そんな……いやまさか!?』

 

 

冥府神の焦りに慶吾も気付く。レメゲトンの中から溢れ出るような力の大きさが異常だと。

 

 

『撤退だ! 今の貴様では手に負えん!』

 

 

「どういうことだ」

 

 

『アレは()()悪魔の契約を集めたレメゲトンじゃない! 他の世界の契約すらも集合させている! つまり強化に強化を重ねた【究極】の存在だ!』

 

 

72柱の悪魔だけじゃない。()()()()()()()()まで契約させた『究極体のレメゲトン』だ。

 

球体から千手観音(せんじゅかんのん)の様に黒い翼を広げるレメゲトン。翼には赤い魔法陣がびっしりと描かれていた。

 

ゾッとするような光景に冥府神は撤退するよう強く言うが、慶吾は違った。

 

 

「これだ」

 

 

『……………は?』

 

 

―――ただ一人、狂喜していた。

 

 

「俺がコイツを手に入れることができれば、俺は更なる強さを得ることができる!!」

 

 

この時を待ちわびていた。アレからずっと待ち焦がれていた。強さの『果て』を目指す為に必要な最後のピースを。

 

数え切れない程の人を、怪物を、化け物を殺し続けた。

 

悪を潰し、正義を潰し、秩序を破壊して行った。

 

無力な神も、無能な悪魔も、どんな大きな存在も消し去った。

 

だが―――宮川 慶吾は『力』を手に入れることができなかった。

 

それは何故か? 理由は分かっていた。

 

 

「器だ! この溢れ出す力は俺の体だけじゃもう収まり切れなくなった!」

 

 

―――力の貯蔵。『無限』を手に入れても、それを内に閉じ込めることができなければ『無限』ではない。今の慶吾は無限の内の一部にしか過ぎない。

 

そして、目の前に居るのは自分に取って好都合な存在でしかない。

 

 

ガガガガガゴンッ!!

 

 

両手の銃を連射してレメゲトンに攻撃を仕掛ける。最初はビクともしない相手だったが、徐々に上がる連射速度に連れてレメゲトンの球体が揺れ始めた。

 

黒い槍が慶吾の攻撃を阻害しようとするが超連射から生まれる銃弾の余波によって破壊されていた。

 

 

「【残酷な雪崩(グラオザーム・ラヴィーネ)】! 【邪悪な暴風(シュトゥルムベーゼ)】! 【死すべき運命の炎(シュテルプリヒ・フランメ)】!」

 

 

絶対零度の猛吹雪。災害暴風の嵐。最後は全てを焦土と化す業火が放たれた。

 

今まで傷を付けなかった黒色の装甲は段々と傷や(へこ)みを増やし、歪な音まで鳴り出していた。

 

レメゲトンがどれだけ抵抗しようとも、反撃を仕掛けようとしても、慶吾の猛攻はそれらを受け付けない。

 

圧倒されていた者が、今度は圧倒をしていたのだ。

 

全ての弾丸を撃ち尽くした後、凄まじい衝撃を耐え続けた銃は遂に壊れて両手から落ちてしまう。

 

 

「―――【暴君の大虐殺(デスポート・メツェライ)】!!」

 

 

それでも、慶吾の猛攻は止まることはなかった。

 

握り絞めた拳からドス黒い闇が轟々と燃え上がった。そして刹那―――慶吾とレメゲトンの距離がゼロになる。

 

右手の一撃から、終わりが始まる。

 

 

ドゴオオオオオォォォンッ!!!

 

 

連打の嵐。先程の余波で起きた衝撃とは比べ物にならない。一つ一つの拳は恒星を砕かんばかりの力で振るわれていた。

 

レメゲトンを覆っていた最硬度の装甲が簡単に剥がれて行く。再生をしようと魔法陣をいくつも出現させるが間に合わない。

 

やがて球体だったレメゲトンは小さく、平べったく、惨めな姿へと変わり果てていた。

 

 

「―――――!!!」

 

 

声にならない雄叫びと共に、最後は両手を握り絞めて叩き落とした。

 

地面には巨大なクレーターが広がり、レメゲトンは破壊された。

 

しかし、破壊されたのは表面上のレメゲトン。内部に隠れた本体は壊していない。

 

息を荒げながら慶吾は黒い残骸に右手を突っ込む。

 

 

バチバチッ!!

 

 

黒い雷が一帯を暴れ回る。慶吾の腕に激痛が走るが、それでも掴んだ。

 

掴んだ手で残骸から引き抜くと、そこには黒く光る剣。刀身は半分先から折れており、ボロボロになっていた。

 

 

「―――クハッ」

 

 

思わず笑みがこぼれる。

 

これを握り絞めた瞬間、自分の中にある全てが変わった。

 

溢れ出している力を剣に注ぎ込むと、奪われてしまうかのような力に直面する。同時にやはりこれだと確信する。

 

どれだけ注ぎ込んでも、どれだけ奪われても、この剣は()()()()()。まるで宇宙空間に物を投げているかのような錯覚にも陥ってしまう。

 

そう———満たすことなど到底できないほど。

 

 

『……骨折り損に終わったな』

 

 

「いいや? 最高の成果だろ」

 

 

その時、剣が黒く輝き始めた。

 

刀身は禍々しいオーラを纏い、地面が大きく揺れて———世界が、怯えていたのだ。

 

 

『馬鹿な……貴様はどこまで我の予想を裏切れば……!』

 

 

空は真っ赤に染まり、自然が枯れる。水は黒く染まり、生き物は死に絶え、世界が破滅へと走り始める。

 

剣はあらゆる物を取り込んでいた。貪り。喰い尽し。殺し繰り返す。

 

 

ゴオオオオオォォォ……!!

 

 

「お前の願望を満たさせてやる……だから力を貸せ!!」

 

 

―――冥府神の力を纏った剣は進化する。世界を闇に葬る為に。

 

 

 

 

 

「俺は、『全て』を殺す!!」

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

「―――【死すべき運命の炎(シュテルプリヒ・フランメ)】」

 

 

 

気持ちの悪い機械兵器を撃ち落す。すると注目はこちらに集まった。

 

大樹、原田、ガルペス、そしてリュナ。四人の戦闘に乱入する。

 

 

「み、宮川か!? お前……何でここに……?」

 

 

『我の力で辿って来た、なんて馬鹿なことは言うなよ』

 

 

言うか。

 

 

「空間震があったからだ。歩いて様子を見に来たらこの様だったがな」

 

 

冥府神のせいで大樹に対して強く言ってしまうが、気にすることはない。敵なのだから。

 

すると大樹の額に青筋ができた。そして、

 

 

「おい中二病」

 

 

殺害動機としては十分な暴言を口にした。

 

 

「……それは俺に言っているのかゴミ?」

 

 

「いやーごめんごめん! 髪が白くなったり黒くなったりしているから、もしかして発病したのかなぁ~って思ってたんだよ!」

 

 

本当にこの場で殺してやろうかと思った。後ろに計画が無ければ瞬殺している。

 

 

『くッ……うぅッ……!!』

 

 

冥府神が必死に笑いを堪えている。コイツは後で殺す。

 

 

「発病したのはお前の頭の中だろ。ウジでも湧いてんじゃねぇのか」

 

 

「そう怒るなよ? それでさ、今はアレなんだよな? 『うわー!? 白い髪に染めていた俺はずかしいっ!』って時期なんだよな?」

 

 

……落ち着け。言わせるだけ言わせていればいい。弱者の遠吠え程度、気にする必要は———

 

 

「でも言動がアレだよな。『歩いて様子を見に来たらこの様だったがな(キリッ』 あれ、中二病が抜けていない証拠ですよね(笑)」

 

 

「殺す」

 

 

ドゴッ! バキッ! ドゴンッ! ガキュンッ! バンバンッ! カキンッ!

 

 

『喧嘩をしている場合か!?』

 

 

大樹のよく分からない生き物―――ジャコが仲裁に入ろうとするが、この拳は止まらない。本気じゃないだけ有り難く思え。

 

 

『いいぞもっとやれ!』

 

 

この冥府神はもう駄目だ。

 

 

「ウェーイ! 中二病ウェーイ!」

 

 

「絶対に殺すッ!!」

 

 

もうキレた。多少だが冥府神の力を使いぶん殴る。その憎い顔、絶対に歪めると。

 

 

「いい加減にしろ貴様らッ!!」

 

 

その時はガルペスの存在をすっかり忘れてしまっていた。

 

 

________________________

 

 

 

ガルペスとの戦闘はつまらない物だった。全くの成長を見せず、時間が足りていないことを物語っている。

 

……いや、時間の有無の問題ではないのかもしれない。見込み違いだったのだろう。

 

 

『また上げているな奴は……』

 

 

大樹の持つ最強の刀が万の数まで増幅して射出される。超火力をぶっ放す大樹にガルペスは圧倒される現状。

 

格の違いどころか次元の違いまで見せつけられている始末。焦り追い込まれたガルペスは神の力を解放する。

 

 

「【制限解放(アンリミテッド)】!!」

 

 

『愚かな……』

 

 

その行動に冥府神が呆れた声を出す。慶吾も同じ気持ちだった。

 

不完全なまま自分の手を明かす行為は愚策としか言いようがない。自分の持つ手札を公開して、強さの上限まで知られてしまう。

 

対して大樹は本気を出していないおかげで手札の枚数から強さの上限まで知られていない。先程の攻撃はチラリと一枚のカードを見せた程度でしかない。

 

 

『ムッ?』

 

 

大樹とガルペスの戦いに決着が着こうとしたその時、両者の間に一人の人間が出現した。

 

白い仮面に黒いローブを身に纏った者の正体は確認できない。しかし、その黒い者から溢れる力を感じ取り気付くことができた。

 

トンッと大樹の腕とガルペスの腕を掴んだ瞬間、二人は眩い光と共に姿を消した。

 

 

『これは……驚かされたな』

 

 

突如現れた男の正体―――それはガルペス本人。

 

どういうわけなのか、この世界に二人のガルペスが居たことになるのだ。

 

 

『ガルペスだがガルペスではない……面白い、面白いぞ!』

 

 

こんな状況でも楽しんでいる冥府神に慶吾は溜め息を吐きそうになる。ここで呆れると場違いな態度で目立つのでしないが。

 

 

『何者だッ!?』

 

 

「今のは何だ!?」

 

 

ジャコが吠え、リュナと戦闘していた原田が戻って来る。逃げたリュナの後を追って事情を聞くことは容易だが、知りたいことがある。

 

そう―――このガルペスの実力を。

 

 

「同時に攻撃するぞ……!」

 

 

短剣を構えた原田が合図を出そうとする。ジャコと一緒に構えるが、フッとガルペスは目にも止まらぬ速さで距離を詰めて来た。

 

反応できる速度だが原田たちがついていけていない。合わせる必要があった。

 

敵のナイフが自分たちの喉に当てられる。原田とジャコの表情は蒼白だった。

 

 

「……コイツは、最悪じゃないのか?」

 

 

『ああ、後悔するが仕方のないことだ。これなら利用価値は倍以上あった。仲間にできないのが残念だ』

 

 

惜しい事をした。ここまで実力を底上げするなら、他の役目を誘導して押し付けておけば良かった。

 

神々との戦争でも十分―――駒以上の働きを見せていたはずだ。

 

ガルペスは恐怖で怯える原田たちをナイフで斬りつける攻撃などせず、その場から逃げ出す。その意図は読めないが、彼らには恐怖を与えることができた。

 

 

『楽しみだ……楢原 大樹との戦いは世界を揺るがすぞ!』

 

 

そんな中、冥府神だけが楽しそうに笑っていた。

 

大好きなことは破壊と破壊。悪の根源は世界が壊れることを望む。しかし、慶吾はあまり見たいという気になれなかった。

 

もし楢原 大樹がガルペスを倒した瞬間、それは認められてしまうのだ。

 

 

―――『悪』は『正義』に負ける、ということを。

 

 

 





ジャコ『……先程からジロジロ何見ている』

慶吾「黙れ。俺は猫派だ」

ジャコ『!?』

原田「そ、そうか。飼っていた経験でもあるのか?」

慶吾「ない。だが家の庭に住み付いていたから名前を付けていたことがある」

ジャコ『フン、ダサい名前なのだろう』

原田「それお前が言う?」

慶吾「ケンシロウ」

ジャコ・原田「「!?」」


ユアッシャー……


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