どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】 作:夜紫希
ギャグ「あ?」
シリアス「お?」
―――悪夢を見ていた気がする。
……と言っても、何とも言えない夢だった。何故ならどんな夢を見ていたのか覚えてないからだ。ハッと我に返ると、周りが酷く荒れていたのだ。
自分の体は無傷。綺麗な服を着ている。この惨状は、自分が誰かをまた殺したのか。ならば
だがその答えは、スッと胸に落ちることはなかった。気持ちが悪いくらい納得ができない。
『―――気は済んだか? 行くぞ』
冥府神の言葉が自分の行動を自然と推測させる。
モヤモヤとした頭を振り払うように慶吾は頷く。そしてまた転生する準備をする。
(―――俺は……)
心の中に穴でも開いたかのような感覚。それに悩ませれば頭の奥が激しく痛んだ。
最後は考えることを諦めてしまう。自分には必要のない感情だと踏みにじって。
奇妙な夢は、自分の大事な物を奪って行ったような気がした。
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突如原田から助けて欲しいと連絡を受けた。内容を聞けばガルペスが攻撃を仕掛けたとのこと。
関与すべきかどうか迷った末、ガルペスは大樹の大切な者たちを殺そうとしていると冥府神から教えて貰った。
———その役目は、自分でなければいけない。
絶対的な復讐は、人の持つ大切な物を目の前で壊すと。慶吾はその役目をガルペスに譲ることなどできなかった。
「
バキバキバキバキンッ!!
ガルペスの攻撃を簡単に妨げる。百の銀色の槍は一斉に砕け散った。
長銃の速撃乱射。神業の領域に踏み入れた業にガルペスは表情を歪ませる。
「また貴様か……!」
怒りの形相へと顔を変えるガルペス。その怒りを増幅させるために、後の為に、慶吾は嘲笑う。
「ハッ、面白れぇツラしてるな。パーティーでも始まるのか?」
「ッ!! ……いいのか?ここに貴様がいる理由は、命令されたからだろう?奴のピエロなのだろう?だったら死人が出るのは不味いはずだ」
しかし、ガルペスはニタリと笑みを見せて来た。なるほどと心の中で納得している。
『―――勘違いか』
(奴は俺が冥府神の力に飲み込まれていると思っているのか……馬鹿馬鹿しい)
『ここで死人が出ることが不味い―――つまり奪おうとする莫大な力が無くなることだ』
慶吾と冥府神は呆れていた。自分の力はガルペスの何百倍もあるということを、当人は全く気付いていないということ。
「俺にひれ伏せ。ひれ伏さないなら今すぐ爆撃を開始させ―――」
ドゴオオオオオォォォ!!!
うるさい口は、一発の銃弾で黙らせた。
空に爆風が広がり、赤い炎が燃え上がり、そのまま黒い残骸へと成り果てる。
それはガルペスが操縦していた戦闘機だった。
「それで、爆撃が何だって?」
「ッ……!!」
ガルペスの怒りは爆発した。
「また貴様は俺の邪魔をするのか!?宮川あああああァァァ!!」
心の中で、慶吾は嘲笑う。
足元にも及ばない雑魚が、絶対的な存在に抗う光景に。
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「クソッ!!」
ドンッ!!
下唇を思いっ切り噛み締めた楢原 大樹。苛立ちをぶつけるように壁を叩いていた。
ガルペスとの戦いは大樹たちの登場により阻害された。しかも大樹の大切な者―――神崎・H・アリアの存在も奪われた。
たかが大切な者を一人奪われた程度で、こんなにも感情を揺さぶられるのか。慶吾には少し予想外に思えた。
『クックックッ、哀れだな』
冥府神が
その異常に慶吾はハッと我に返る。そのことに誰も気付いていないようだ。
慶吾は原田の静止を無視して部屋から出て行く。
『どうした?』
冥府神の問いに嘘の答えを吐く。
「外に……東京エリアの外にうじゃうじゃ集まっていやがる」
『……ガストレアだったな。アレは良い。元が人間なせいか、負の感情が常に我の体を刺激している』
喜ぶ冥府神に吐き気を覚えながらも、慶吾は先程の違和感を考えている。
しかし、どう考えても憎しみの感情、憎悪しか湧かない。
「攻めて来るだろうな」
『恐らくな。そして楢原 大樹は戦争に加担しない。我はそう予想しよう』
「理由は?」
『緋緋神とやらの別世界の神への対処法はこの世界には当然無い。そして同時にこの世界とは別に新たな保持者が出現したのを感じ取った。新米保持者だが……強いな』
「何?」
『我らの方が圧倒的に強い。だが楢原 大樹以上の存在だ。奴は必ず楢原 大樹の邪魔をするであろう。そしてあのまま戦っても、例え神の力が復活しても負ける可能性が出て来た』
「待て。神の力が復活ってどういう意味だ?」
『奴は今、自身の力を封じられている。それも強力だ』
―――その言葉に、慶吾の言葉が詰まる。
「……俺が見た限り、奴の制限は武器だけのように見えた」
『違うな。神の力もほとんど抑えられている。我の目に狂いが無いのは分かるだろう?』
冥府神は、こんなことでくだらない嘘をつかない。
だから―――楢原 大樹の力は着実に上へと向かっていることを物語っていた。
(神の力をほぼ抑えられた状態のまま、緋緋神と戦ったという事実は揺るがない……!)
歯の奥からギリッと嫌な音が漏れる。しかし、それは自分が望んだことでもある。
ニヤリと口端を吊り上げ、そして見極める為にある案を冥府神に出す。
「戦争に加担する」
『理由は?』
「吐き気がするかもしれないが奴らから信頼を得る。そして戦争を引き伸ばす」
『伸ばす?』
「俺の推測が正しいなら奴はどん底からでも這い上がって来る。その間に、こちらはガルペスを焦らせよう」
『……相変わらず貴様の考えは、狂っている』
冥府神は呆れているが、楽しそうに笑い声を上げていた。
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―――戦争開始の合図はモノリスの崩壊だった。
雪崩の如く進軍するガストレア。食い止める為に人類は必死に攻撃に徹底する。
そんな中、モノリスの外の上空千メートル。二人の男が戦闘を繰り広げていた。
何度も爆発するように燃え上がる火炎。雨の様に降り注ぐ武器。その正体は二人の保持者。
ドゴンッ!!
「ぐぅッ!?」
痛覚
右
「貴様ッ……!」
「出し惜しみなんて真似はやめとけ。本気で来ないと死ぬぞ」
「くッ!」
予定通り、慶吾たちはガルペスを焦らせていた。
挑発的な言動でガルペスの攻撃を
―――自分は余裕だ、と。
パンッ!!
ガルペスの傷口から泡のような物が溢れ出し、体を包み込んだ。すると泡は弾け飛び、同時に無傷のガルペスが姿を現す。
表情が硬い事から不利だということは頭で理解しているのだろう。
「【ソード・トリプル】!!」
虚空から銀色の剣が生成され
ドゴンッ!! ドゴンッ!!
ガチガチンッ!!
冷静に剣の軌道を予測し弾丸を当てる。二本の剣は粉々になり、残り一本をわざと残す。
「ッ……」
体を反らして剣を回避する。同時に剣を間近で観察して息を飲んだ。
(弱い……神の力を使いこなせていないのか?)
『多くの力を持っても、使いこなせていないならゴミ同然。個々が全て弱いならそれはただの烏合の衆。最強の一つを持つ者の方が圧倒的に強いのは道理だ』
(コイツに時間はまだまだ必要ということか)
「【
ドゴンッ!!
腹の底に響くような重い銃声。赤黒い炎でガルペスの体を飲み込んだ。爆発がガルペスの体を灰になるまで燃やし尽くそうとする。
しかし、炎の中から感じる神の力に異変に気付く。
「……なるほどな」
『貴様が
ガルペスの力は―――あの程度の火力を相殺する力まで至っていない。
防御に徹したガルペスに呆れてしまいそうになる。このままでは簡単に大樹に負けるだろう。
ダンッ!!
黒煙の中からガルペスが更に上空に向かって飛び出す。その背中からは白い翼が広がっていた。
口端を吊り上げて笑うガルペスの顔は、余りにも
「【
「ッ……!」
しかし、不完全ながらも【
ガルペスが右手を挙げると虚空から二輪馬車が現れる。炎と鍛冶の神、ヘパイストスの力だ。
「【
紅い炎で生み出された二頭の馬は鳴き声を上げながら走り回る。二輪馬車に乗ったガルペスは左手に【アイギス】、右手にはポセイドンの力で生み出した【
「【
「何ッ?」
『ほうッ……』
ガルペスの言葉に慶吾は眉を寄せ、冥府神は面白そうに声を漏らす。
光の粒子がガルペスの体を覆うように集まり、形を作り上げていく。それは英雄の守護神と呼ばれる神―――【アテナ】の力だった。
「【
光の粒子は白銀の鎧と変質し、顕現させた。
最強の鎧を装備したガルペスの姿に慶吾は素直に驚いていた。
如何なる刃も貫かせない無敵の鎧。
如何なる衝撃をも殺す絶対の鎧。
ゆえに、如何なる敵から守る完全無欠の鎧。
―――だが、中の人間は雑魚であることは変わらない。
『貴様は徹底的に潰す。この戦いに、後悔するがいい』
アーメットヘルム越しから聞こえるガルペスの声に慶吾の耳に届かない。
『あの屈辱を、貴様にも与えてやる。降臨せよ、【ガーディアン】』
ガルペスの背後から続々と現れる未来兵器。個々の力はガルペスの最強を収束させた艦隊なのだろう。
「チッ、お得意の機械いじりか……」
その光景に宮川は舌打ちをする。何度も考えさせるなと、呆れていた。
「……ダメだな、これは」
―――ゴミはいくら積み上げても、ゴミだということ。
銃を握り絞めると同時に慶吾の体に闇色のオーラを纏う。禍々しい光景にガルペスの余裕は一瞬で霧散。息を飲んだ。
『何だ……それは……!?』
「俺が圧倒的な力を見せればお前は全てに絶望するだろう」
冥府神の力にガーディアンの動きが何故か止まる。予期せぬ不可解な現象に鎧越しでもガルペスが酷く焦っていることが分かる。
「お前を殺害する方法は山ほどある。だが、お前の存在がこの世界から消えること……そしてお前の死体が戦争を大きく変えるのならば―――」
そして―――開かれてはいけない扉が、ほんの少しだけ開く。
見てはいけない扉の奥が、ガルペスに本当の絶望を見せた。
「―――憎しみに満ちた魂は別世界に見逃す。肉体だけ、ここに捨てて行け」
二つの黒い銃を握り絞めた慶吾の姿は変わる。白い髪は闇の様に黒く染まり―――冥府神を
「【
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目の前にはガルペスの死体があった。
ガルペスを殺したが、完全ではない。心臓を取り除き、そのまま別世界に転生させたのだ。
あの男の体は心臓が残っていればいくらでも元通りになるくらい人間をやめた改造を施している。そのことを冥府神の力を通じて知った慶吾は二つの問題を同時に解決する策を立てた。
まず二つの問題について。一つ目はガルペスがまだ弱いということ。それは時間を掛けるほかないだろう。この世界に留まり続けるのは不味い。楢原 大樹と直面するには早い。
二つ目の問題は大樹側の士気を高めること。ガストレアと緋緋神の力が強大で、負ける見込みが大きい点についてだ。これは大樹の帰還、もしくは人類の粘り具合が重要になる。
「同時に解決するにはコイツの死体を奴らに見せることだ」
『なるほど、一番の脅威が無くなることは士気を上げることになるうえ、奴に時間を与えることができて悪くない。だが問題は……』
そう、問題は『ガルペスの死に大きく
誰も奴の死に納得はしないだろう。しかし、奴の存在が大きいおかげで擦り付けることができる。
「緋緋神に押し付ける。懸念は解消されなくても抑えることはできる」
策としては完璧ではないが上出来だと冥府神も頷く。
だが、これを良しとしない者が居る。
「あまり舐めた行動をしないで貰えます?」
「ッ!?」
背後から聞こえた声と同時に殺気が襲い掛かる。振り返りながら距離を取ろうと下がるが、
グシャッ!!
鋭い剣刃が右肩から左脇腹大きく引き裂いた。
「がぁ……!?」
鮮血が噴き出すと同時に感じたことのない激痛に襲われる。あまりの痛みに膝から崩れ落ちてしまった。
ゆっくりと見上げるとそこにはガルペスの神―――ヘルメスが立っていた。
アダマス製の曲刀『ハルペ』から血が滴り、握り絞めたヘルメスの表情は恐怖と怒気でグチャグチャになっていた。
「神聖な領域を土足で踏み込むだけでなく……人間如きが神を蹴り飛ばすだと……!」
姿をよく見ればヘルメスの左腕は
満身創痍の神を見て察する。慶吾の力は保持者の神にすら影響を与えていたのだと。
「ふざけるな……ふざけるなよッ……このクソがクソがクソクソクソクソ野郎ッ、こんのおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ビギッ!!
『ハルペ』からガラスにヒビが入るような音が響く。直後、慶吾の頭が割れるように激痛が走った。
今度は頭を地面に打ち続けていた。痛みで人格が狂いそうになっていたのだ。
その光景にヘルメスは狂うように笑い始める。
「フゥッハッハッハッハハハハハッ! どうだ神の力は!? 闇の力に対して強い武器をわざわざお前に使ってやっているんだ! 光栄に思え!」
『何のつもりだ……』
冥府神の問いかけにヘルメスの笑みがスッと消える。
「お前らの役目は終わりだ。最初は使い潰すと思っていたが、必要のないゴミはとっとと捨てるべきだ。神の私に害を与える物はいらん。ゴミから強烈な異臭がする前にな?」
『貴様……!』
「この私に二度も屈辱を……! お前は簡単に死ねると思うなよ!!」
ビギビギッ!!
『ハルペ』から更に嫌な音が漏れ始める。そして脳だけじゃなく全身が発狂するように激痛に襲われる。
脳がグチャグチャに破壊され、全身の神経は全て狂い、肉体は朽ち果てる。
グシャッ!!
「あ?」
―――はず、だった。
ヘルメスは、自分の背中を逆さまに見ていた。
「簡単に死ねる、か」
慶吾の言葉が耳に届いた瞬間、状況を理解し始める。
違う。逆さまなのは自分だ。
「簡単に死ねたら、ソイツはすぐ楽になるだろうな」
視界が広がる。ヘルメスの前に膝を着くのは慶吾ではない。
冥府神の力を解放して
慶吾の前に倒れようとしているのは自分だった。
「神は、
頭部を失った
「そんな馬鹿―――」
最後にヘルメスが言い残そうとしていたが、慶吾は
この程度の力で倒されるわけがない。自分が今までどれだけの地獄を見て来たのか、コイツには理解できなかったのだろう。
全く要らない死体。銃を取り出しすぐに火葬した。必要なのはガルペスの死体のみだ。
ガルペスの遺体を持ち上げると、冥府神が話を切り出してくる。
『遂に来たな。神にすら影響を与える力まで到達することに』
「ヘルメスはかなり弱っていたな」
『当然だ。ここぞとばかりに強く負荷を与えたのでな』
自慢げに話す冥府神に慶吾は小さく笑う。
「まだだ……まだ、行けるだろう?」
最初はただ強さを求める慶吾に嫌な目で見ていた冥府神だが、記憶を無くし、今の状態で高みを目指す慶吾には期待をしていた。
ギャグ「ギャグ……ギャグはいりませんか?」
「フン、シリアスなら買ってやる」
ギャグ「シリアスは……売ってません」
「じゃあ次回もシリアスだな」
ギャグ「そんなぁ……うッ」バタリッ