どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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ギャグ「さよなライオン」


殺戮的破壊的感情衝動

再びヘルメスと合流した後、慶吾は冥府神の言葉を無視して作戦を提案していた。

 

人の道を踏み外した作戦如きに今更冥府神やヘルメスが顔を歪めることはない。しかし、慶吾の溢れ出る殺意に驚きを隠せないでいた。

 

 

「———楢原 大樹に関係する周囲の人間を全員ぶっ殺せ」

 

 

「……何を思ってそんなことを? あまり目立つ行動は避けて———」

 

 

ヘルメスの問いに慶吾は答える。

 

 

ドゴッ!!!

 

 

「ゴハッ……!?」

 

 

「うるせぇよ。黙って従え」

 

 

———黒い(もや)(まと)った拳をヘルメスの腹部にめり込ませながら。

 

神の身体は糸も簡単に吹き飛ぶ。壁にぶつかり口から血を流していることに気付くとヘルメスは震えて怯える。

 

 

「な、何故ッ……神の領域に踏み込めるはずが……!?」

 

 

無様に咳き込む神を慶吾は見下す。

 

 

「全てを壊せ。お前の全てが壊されたくなければな」

 

 

その時、慶吾の髪の色が変色する。黒から白へと、まるで吸い取られるように変貌(へんぼう)する。

 

同時に人と神の立場が逆転する瞬間だった。

 

大雑把な指示にヘルメスは頷いてその場から消える。完全に恐怖に負けた神の姿に冥府神は———笑えなかった。

 

本来なら神を嘲笑い、馬鹿にして、腹を抱えれる光景だった。それが今では戦慄しているのだ。

 

 

(今の攻撃……冥府神の力が一切使われていなかった……!?)

 

 

宮川 慶吾が生み出した力———それは慶吾の力を一番知る冥府神すら理解していない力だったのだ。

 

まるで殺意を具現化させているような攻撃だった。髪の色が変わるのは身体能力が力に付いて行くことができず、精神力がすり減ったことを物語っていた。

 

あのヘルメスが人間の一撃で沈もうとする威力に冥府神は素直に喜ぶことができない。

 

 

(何故我はこんな……いや、読めないからか?)

 

 

慶吾の考えは冥府神には分からない。そのせいで追い込まれたような感覚に(おちい)るのではないかと。

 

 

「見物しに行くぞ」

 

 

『……何だと?』

 

 

「この目で見たい。奴が絶望に呑まれる瞬間を……!」

 

 

悪意の塊は、神の想像を越える程、肥大化していた。

 

 

 

________________________

 

 

 

「———ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァァァァァァァァ!!!!」

 

 

叫び声を上げながら膝から崩れ落ちる楢原 大樹を見ていた。

 

大切な存在が目の前で消される瞬間に、慶吾の心は昂っていた。

 

絶望と後悔、己の小ささを知った瞬間、人は弱くなる。誰よりも醜く、酷く、脆く、ゴミのように。

 

だから———そこから這い上がれと慶吾は願う。

 

その先で本物の強さを手に入れて、元凶たる自分を殺しに来いと。

 

最強の自分がボロボロになる瞬間を、迎えて欲しいと。

 

 

「……どうした?」

 

 

隣から声を掛けて来るのは自分と並走する坊主頭の男。原田 亮良という人物だった。

 

その男はゼウスの操るもう一人の保持者と言っても良いくらいの存在。以前ヘルメスが言っていた『天使まがいの者』がコイツだった。

 

そして冥府神は知っていた。この男が———太陽神アポロンの元保持者であることを。

 

だが力はガルペスの手によって奪われたまま。残念なことに原田はガルペスのことを全く知らないまま奪われたと冥府神は笑いながら話していた。

 

この男は戦うことを諦めず、天使として最後の希望である大樹をサポートしているのだと判明もした。

 

 

『何故殺さない?』

 

 

冥府神の疑問に、たった一言だけ慶吾は答えを出す。

 

———楢原 大樹を強くするのに必要だからだと。

 

 

「嫌な予感がする。急ぐぞ」

 

 

慶吾の言葉に原田は頷いて速度を上げる。自分も天使でゼウスの保持者を助けに来たと嘘をついた。天界への根回しはヘルメスが解決してくれている。

 

完璧な状態で、奴に近づくことができる。絶望に染まり切った奴に。

 

 

『ッ……待て。アレは死んでいない、転生したみたいだ』

 

 

(……何だと?)

 

 

原田に気付かれないように怒気を心の中で燃やす。つまらない結果だけは避けたかったが、前方に見える光の柱に原田が呟いた。

 

 

「クソッ、転生されたか。回りくどいことを……!」

 

 

冥府神の言葉は正しかった。原田の発言で肯定された。

 

 

『ヘルメスの仕業か? この状況はガルペスが望むわけが……』

 

 

導き出される考察はただ一つ。冥府神の手のひらの上で踊り続けることを良いと思わなくなったヘルメスが仕掛けて来たということ。

 

殺すのでもなく、助けるというわけでもなく、転生させるという手段。

 

ヘルメスはリュナを操ることができることを知っている。転生させることは可能だが、無視できないことが一つだけある。

 

 

『転生はゼウスの許可のみだけのはず。我の様な力が他のオリュンポス十二神にあるはずがない』

 

 

(……もし、ヘルメスが俺たちを裏切っていたとしたら?)

 

 

『ッ!?』

 

 

(元々、ゼウスが俺たちの動きを把握する為にヘルメスというエサをぶら下げていたら、話は変わるんじゃないのか?)

 

 

『それはない! 我が天界に転生することができたのはヘルメスの悪意から成り立つ———!』

 

 

(ヘルメスがシロなら、考えられる答えは一つだけだな)

 

 

慶吾は表情を悪魔の様に歪ませる。

 

 

(———リュナ。ゼウスは保持者に細工を仕掛けたとしか思えない)

 

 

『ッ……ヘルメスめッ……失敗したのかッ!』

 

 

(奴と合流した後はリュナの対処だ。ゼウスの支配下に置かれ続けているのは不味いだろう)

 

 

状況は劣悪だと冥府神は思うが、またしても慶吾の表情は違うモノだった。

 

ニヤリと不敵に笑っている———余裕の表情だった。

 

 

________________________

 

 

 

———吐き気のする光景だった。

 

 

大樹の絶望は浅すぎたモノだった。憎悪や殺意なんて湧かない、人生を諦めた自殺者に変わり果てていた。

 

そして大切な人が転生したことを聞くとすぐに立ち直る。その早さに苛立って仕方なかった。

 

扉の見張りを放棄して歩き出す。イラついたこの気持ちをどうにかしたかった。

 

 

「機嫌が随分悪そうだな」

 

 

声を掛けて来たのは逆廻(さかまき) 十六夜(いざよい)。【ノーネーム】の中で大樹と同じ桁外れの力を持つ男だった。

 

 

「何の用だ」

 

 

「別にお前にはねぇけどよ。大樹に会おうと思って」

 

 

「この先に居る」

 

 

「おお、サンキュー」

 

 

刹那———十六夜の拳が慶吾の顔面に叩きこまれた。

 

 

バシイィィィン!!

 

 

それを受け止める慶吾。大きな音が出るが、背後に備え付けられたロウソクの火が全て消える程の風圧まで抑え込んだ。

 

拳を受け止められた十六夜はぎこちない笑みを見せる。

 

 

「ハッ、こんなあっさりと止められるとはな」

 

 

「……何の真似だ?」

 

 

「隠しているつもりだろうがバレバレだ。お前、大樹がボロボロになっている時に———何笑ってんだ?」

 

 

怒りをぶつける十六夜に、慶吾は不敵な笑みを見せていた。

 

ピリピリとした空気に包まれる。しかし、十六夜はすぐに腕を引いた。

 

 

「テメェ……!」

 

 

「俺は強者を求めているだけだ。アイツに関わることがどういうことか一緒に居たなら分かるだろ? お前も同じじゃないのか?」

 

 

背後から睨まれたまま慶吾は歩き出す。十六夜は自分の力の危険を感じて身を引いた。さすがに冥府神とまでは分かっていないようだが。

 

 

『始末しないのか?』

 

 

「あの男は何も言わないだろう。愉快な友達を信じて背中を押す男だ」

 

 

慶吾は更なる闇へと手を伸ばす。利用に利用を重ね、使える物は使い潰すまで使う。

 

 

________________________

 

 

 

 

冥府神の力で見破った洞窟の入り口へと入る。その先から感じ取る力を頼りに、導かれるように進んでいた。

 

 

「———分かったわ。このゲーム、受けさせて貰うわ」

 

 

そして扉の先に居る女を見つけた。

 

このゲームを荒らす為のターゲット。久遠(くどう) 飛鳥(あすか)の姿を。

 

汚れたドレスで何かを決意するように踏み出そうとする女に慶吾は声を掛ける。

 

 

「いい心構えだな。吐き気がするぜ」

 

 

「ッ!?」

 

 

急いで振り向く飛鳥。怯えた顔を見せるが、戦おうとする意志はあるようだ。

 

 

「本当なら放っておいてもいいが、十六夜(あいつ)は厄介だからな」

 

 

「……ッ!」

 

 

大樹を地獄に突き落とす算段に十六夜の存在は邪魔な物だ。計算を大いに狂わされると分かる。

 

 

「あすか!逃げて!」

 

 

その時、周囲に散乱していた精霊が一斉に自分の体を包み込む。炎に呑まれたかのような激しい痛みに———呆れた。

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

「きゃッ!?」

 

 

冥府神の力を暴発させて周囲に攻撃する。それだけ精霊を吹き飛ばすことができたが、殺すことまでには至っていたない。

 

 

「チッ、逃げ足の速い奴らだ……」

 

 

「『そこを動くな!』」

 

 

その時、飛鳥のギフトも発動する。体が動かなくなると警戒したが———これも期待外れ。

 

 

(ゴミかよ……)

 

 

「嘘ッ…!?」

 

 

平然と歩く慶吾に飛鳥は戦慄。後ろに下がり逃げようとしていた。

 

 

「何だその貧弱な力は?」

 

 

格上の存在がそんなに怖いのか? それだけの都合の良い力を持っておいて、使いこなせいとは……この雑魚を利用する価値は無いのでは?

 

 

『我の力を与えれば少しはマシになるだろう』

 

 

「……まぁいいか」

 

 

冥府神の力で長銃を生み出す。そして銃口を飛鳥に向けた。

 

 

「俺が分けてやるよ、力を」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

飛鳥の額を黒い銃弾が撃ち抜く。そのまま後ろに倒れることなく、飛鳥の意識は闇へと落ちる。

 

赤いドレスは黒く染まる。力に浸食するように変わった。

 

それを見届けた後、慶吾は出口へと帰る。

 

 

「これならそのゲームも楽勝だろ」

 

 

———これから起きるゲームに、少しだけ期待と楽しみにしていた。

 

 

________________________

 

 

 

それを埋め尽くす隕石が街に降り注ごうとしていた。

 

逃げ惑う者共に慶吾は苛立っていた。楢原 大樹は負けようとしていたからだ。

 

 

『駄目だな。この場を離れるべきだ』

 

 

隕石が落ちればこの街はただじゃ済まない。荒れ地へと還るのは間違いない。

 

撤退しようと立ち上がった時、衝撃的な光景が広がった。

 

 

「———創造する」

 

 

黄金色に輝く翼が空に広がった。

 

隕石の真下に広がる幻想的な翼に目を奪われる。それが大樹の背中から伸びていることが分かると慶吾は撤退をやめる。

 

ボロボロで血塗れになった大樹は手を隕石に向けると、

 

 

「消えろ」

 

 

黄金の翼が隕石を包み込み、神々しく輝きを放った。

 

 

『これはッ……!?』

 

 

冥府神が驚きの声を上げるのも無理はない。先程まで空を埋め尽くした隕石が———消滅したのだ。

 

役目を終えた翼は小さくなるが、大樹の本当の力を見てしまった。

 

ゼウスが保持者として選んだ理由が、分かった気がした。

 

 

「———これだ」

 

 

慶吾は両手を広げる。求めていた物がそこにあると喜ぶように。

 

 

「もっとだ……今以上に、これ以上に、神を越えた最強になれ!」

 

 

楢原 大樹の最強を、この手でねじ伏せることに意味がある。

 

最低最悪で最高の絶望を与えて殺すことで、自分の存在意義がある。

 

全てを後悔させて、自分の人生を滅茶苦茶にした奴の人生を、破壊し尽したい!

 

 

「それを壊すことに、意味がある!!!」

 

 

その為になら人を殺そう。

 

殺人鬼に、狂人に、殺戮の快楽を追い求めるクズにでも堕ちよう。

 

冥府の底へでも、堕ちて見せよう!

 

 

———冥府神の保持者の笑い声が響き渡る。

 

 

その声を聞いている者は、ニヤリと笑う冥府神だけだった。

 

 

 

________________________

 

 

 

あの光景に満足した後、慶吾はリュナと原田が戦う場面に遭遇する。

 

原田は遠距離攻撃を多彩に仕掛けるリュナに苦戦している。距離を縮めようと凄まじい速度で迫ろうとするが、回数を重ねる内に速度は落ちていた。

 

 

『不完全か』

 

 

冥府神の呟きに納得する。

 

そもそも元保持者がそれほどの強さを維持できることがおかしいのだ。後方支援(バッグ)に強い者がいることは確実だ。

 

 

「今の内にリュナに接触するべきか?」

 

 

『終わった後で構わん』

 

 

反対するような意見は無いので慶吾は大人しく待つことにする。

 

敵の動きは鈍い。今から動けば二人を瞬殺することは簡単だろう。

 

しばらく様子を見ていると、二人の攻撃がぶつかり、同時に大きく距離を取ることになる。その隙を慶吾は見逃さない。

 

 

ゴオォッ!!!

 

 

全てを置き去りにする疾走。一直線に原田の背後に向かって宙を爆速した。

 

原田に気付かれる前に背後の死角へと立つ。そして黒い(もや)を纏った右足で原田の背中を地面に沈むように蹴り飛ばした。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

一瞬の一撃。意識を簡単に闇へと落とさせた。命を奪えば計画が狂う為、手加減はしている。

 

リュナは特に反応することなく、頭を下げようとする。

 

 

「助力に感謝し———」

 

 

「する必要はねぇよ」

 

 

ガキュンッ!!

 

 

顔を見ることなく胸に一発の弾丸を撃ち込む。

 

突然の攻撃に反応できることなく、そのまま後ろから倒れる。すると黒いオーラがリュナを襲い出して苦しみ出した。

 

冥府神が支配しているのだろう。後は任せて待てばいい。そう、待てばいい。

 

ふと———助けたいという感情が湧き上がった瞬間、銃口を自分の頭に突き付けた。

 

 

ガキュンッ!! ガキュンッ!! ガキュンッ!!

 

 

「クソがぁ……!」

 

 

溢れ出す血と暴れ出す痛み。そんなことは眼中に無く、湧き上がった最低の感情に苛立っていた。

 

コイツは、双葉じゃない。

 

いや、双葉のことはどうでもいいはずだ。

 

為すべきことをする。今、俺が、やらなくちゃいけないこと。

 

 

(———何で俺は……)

 

 

ガキュンッ!!

 

 

「……………こふっ」

 

 

最後の弾を自分に撃ち込んだ瞬間、疑問は既に飛んで行った。血を吐き出して立ち上がる。

 

冥府神の力で傷が癒えると、リュナも立ち上がり傷を治す。

 

 

『何をしている? 貴様の役目は分かっているだろう?』

 

 

「……黙れ」

 

 

首を横に振って全てを忘れる。

 

慶吾は転生して、更なる悪巧みに手を伸ばそうとする。

 

 

———何の為に復讐をしているのかを忘れたまま。

 

 

 


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