どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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ギャグをブチ込みたい(誠実)


死神の鎌を研ぐ

黒よりも黒く、真っ黒よりも漆黒に。

 

闇よりも深く、深淵に沈んでいた。

 

光など無い。夢も希望も無い。そこには何も無いのだ。

 

 

『光栄に思え。貴様は選ばれた人間なのだから』

 

 

自分の体が支配される感覚に襲われる。抵抗する意志は消え、呑まれるまま従う。

 

だが、無意識の奥に眠る本能が束縛の鎖を引き千切る。

 

 

———カチリッとスイッチを入れて解き放つ。

 

 

「がはッ!?」

 

 

喉の奥まで溜まった赤黒い液体を吐き出すと同時に意識を取り戻す。

 

起き上がれば黒一色に染められた森の中だった。

 

 

「……ッ!」

 

 

呆然としている場合じゃない。自分はここで白衣の男に襲われたことを思い出す。

 

燃え尽きたはずの自分の四肢が元に戻っていることには驚かない。一目散に走り出そうとするが止まってしまう。

 

 

———そこに白衣の男の死体があるのだから。

 

 

真っ赤に染まった白衣の男。その光景が、双葉と重なる。

 

 

「あッ……あぁ……ぁぁぁああああ!!」

 

 

激痛に襲われる。脳が暴れ出すような感覚に叫び声を上げた。

 

何をどこで間違えて———自分はここに居るのか。

 

どれだけ道を誤ればいいのか。

 

どれだけ罪を重ねればいいのか。

 

どれだけ、死体を築き上げればいいのか。

 

 

『落ち着け。貴様は何も悪くないだろ』

 

 

「!?」

 

 

頭の中に響く声に痛みが治まる。

 

辺りを見渡すが人影は見えない。必死に探すが、声は笑っているだけ。

 

 

『クハハハッ、見えるわけがないだろ。我は貴様の頭の中に居るのだから』

 

 

「頭の、中……!?」

 

 

耳を疑う発言に吐き気がする。

 

自分の頭の中に何かがいることに酷い嫌悪感を覚える。今すぐ頭を割って引きずり出したいと思ってしまうほど。

 

 

上野(うえの) 航平(こうへい)……いや、ガルペス=ソォディアは器として未熟。あまりにも小さ過ぎた』

 

 

何を言っているのか何一つ理解できない。それでも声は響くのだ。

 

 

『僅かに奴の中に残った愛とやらが邪魔をする。最高の復讐(ふくしゅう)とは本当の闇と本能で生まれるモノだ』

 

 

「お前……さっきから何を……」

 

 

『———恨んでいるのだろ? 最愛の女を傷つけた男のことを?』

 

 

その発言に言葉が詰まる。

 

自分の全て知っているかのような発言だった。

 

 

「……お前の力を借りずとも、人ならいくらでも殺せる」

 

 

『最高の答えだ。だがそれでいいのか? 殺すだけでいいのか? 苦痛で絶望だけで復讐してしまうのか?』

 

 

「何が言いたい?」

 

 

『貴様が望むなら、愚か者には最高で最悪最低の死を捧げよう』

 

 

ゾッとする恐怖の声で、自分の名を明かす。

 

 

『———冥府神(めいふしん)ハデスの名の下に約束しよう』

 

 

———ハデス。自分の中に居る者の正体は神だった。

 

 

『魂に救済など不要! 罪には罰を与えて罰を叩きつける! それは死よりも恐ろしい本当の死! 死んでも死んでも死んでも死に切れない死を与え続ける絶対の死!』

 

 

声を荒げる度に脳に激痛が走る。頭を抑えながらハデスの声を聞いていた。

 

 

『何十何百何千何万何億何兆の死を———愚か者に与えることを約束しよう』

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……!」

 

 

危険だということはビリビリと全身に伝わる。しかし、神ハデスが嘘をつくとも何故か思えなかった。

 

ただ、ただ、ただ、双葉を殺した自分が許せなかった。

 

ただ、ただ、ただ、双葉を殺した奴を許せなかった。

 

 

(今日まで生きて分かったはずだ。この世界は腐って、人間関係は反吐が出る……)

 

 

———俺は悪くない。

 

悪いのは全て———お前たちだろ。

 

 

『貴様にもう一度問う。愚か者は———誰だ?』

 

 

 

 

 

「———全ての人間が、殺し尽くしたいほど憎い……!」

 

 

 

 

 

『素晴らしい……!』

 

 

闇を受け入れた瞬間、激痛が収まった。

 

それが正解だと導かれるように、自分の選択を決めた。

 

 

『ならば復讐しよう! 我の野望の為に、貴様の為に———神も人類も、皆殺しにするのだ……!』

 

 

周囲の草木が滅びる。男と神を恐れるように死んでいく。

 

 

『さぁ、世界を血で洗い流そう』

 

 

死の風が、一帯を殺していた。

 

———憎しみの鎖に縛られた男は、自分の世界を壊し始めた。

 

 

 

________________________

 

 

 

 

———意識は深い闇の中へと落ちて行った。

 

深淵とも呼べる場所でただ一人、憎悪だけを膨らませていた。

 

冥府神は言った。『全ての感情を憎悪のみにすることで真の力を手に入れることができる』と。

 

 

「—————」

 

 

現実の世界など忘れて、憎い感情をふつふつと(たぎ)らせる。

 

ただ殺意を。ただ復讐を。ただ、ただ、ただ、己の感情を変えていた。

 

———まるで化け物のように。

 

次に意識が覚醒するのにどれだけの時間が経ったのかは覚えていない。

 

覚えているのは———あの感覚で目醒めたことだけ。

 

 

そう———カチリッとスイッチを入れて目覚めるのだ。

 

 

「……どこだここ」

 

 

目を開ければ見覚えのない一室。グチャグチャにゴミが床に落ちており、異臭が漂う。酷い生活を送っているように見えた。

 

 

『貴様ならそろそろ戻って来る頃だと思っていた』

 

 

頭の中に響く声。懐かしく不愉快な声の正体———冥府神ハデスだった。

 

 

『目覚めるまで我が代わりに貴様の生活を送ってやったからな。まぁ酷い世界だなここは』

 

 

「……どこだここは」

 

 

『東京だ。貴様は家を出て学問に専念することになっている。親元から離れた方が好都合だからな』

 

 

「学問? 一体何を受けるつもりだ?」

 

 

『ネイルアーティスト』

 

 

「……………あ?」

 

 

『だからネイルアーティストだ。爪の』

 

 

「……………いや、は?」

 

 

理解が追いつかなかった。この冥府神、一体自分に何をさせるつもりだったのだろうか。

 

 

『分からないか? 爪にアートを———』

 

 

「そういう意味じゃない。何故そんな道を選んだのか……」

 

 

『馬鹿か貴様。冥府の下僕どもは爪が長い奴が多くてな。それで人気者になったら冥府神として我は鼻が高いではないか』

 

 

馬鹿は一体どっちなのだろうか。絶句して何も言えなかった。

 

 

『どうせ今から貴様には関係ない話だ。我と共に、復讐を果たすのだろう?』

 

 

「……ああ」

 

 

再び憎悪の炎を燃え上げる。あの男を殺したい感情が心の中で暴れ回っていた。

 

 

『だが悪いニュースがある。神を先手を仕掛けて来た』

 

 

「……どういうことだ」

 

 

『———楢原 大樹は死んだ』

 

 

ドンッ!!!

 

 

耳を疑う言葉に思わず拳を机に叩きつける。机は粉々に壊れて床に穴が開いた。

 

 

『落ち着け。敵対する神がコチラに勘付いたわけではない。貴様と同じように(こま)を選んだようだ』

 

 

「駒……? まさか」

 

 

『この世界にはいない。だが、他の世界で生きている』

 

 

冥府神は確信しているようだった。

 

それでも疑う必要は無い。自分が利用されていたとしても構わない。

 

あの男を———楢原 大樹を殺せば十分なのだから。

 

 

『すぐに殺しに行くか?』

 

 

「……いや」

 

 

宮川 慶吾は思い付く。

 

この憎悪が、彼に最高の提案を思い付かせたのだ。

 

 

「最低最悪で最高の絶望を与えて、ぶち殺す……!」

 

 

もはや人間が考えるを遥かに超えた残酷。

 

殺戮以上の残酷な死を。

 

積み上げた希望を根から引き千切るような、踏み潰してやると。

 

 

化け物の様な思考をする慶吾に———冥府神は笑った。

 

 

 

________________________

 

 

 

 

冥府神の話を簡単にまとめるとこうだ。

 

この世界以外に他の世界があるということ———つまり異世界だ。それらの異世界は『原点世界』、自分たちの住む世界から神の手によって生まれた世界だ。

 

そこに復讐すべき男が転生したと冥府神は語る。だから追いかけろとのことだ。

 

しかし、すぐに殺してはいけない。そこで冥府神は提案する。ならば一度、様子を見に行こうと。

 

 

「何故だ?」

 

 

『理由は見れば分かる。お前は焦るはずだ』

 

 

冥府神に身を任せると転生して貰える。本来なら最高神の力が無ければ不可能な力だが、冥府神にはできるという。理由は教えてくれなかった。

 

気が付けば人混みの中に立っていた。デパートのような建物の中に一瞬で移動したことに今更戸惑うことはない。

 

 

『デパートの放送室に行け』

 

 

理由は答えてくれないだろうと踏み、慶吾は従う。

 

案内板を見ながら放送室前まで辿り着くが、当然係の人が見張りとして立っている。

 

 

『くっくっくっ、できるだけ騒ぎを起こしたくない。行けるか?』

 

 

「……なるほど」

 

 

冥府神は試そうとしていた。慶吾がどれだけの力を振るえるのかを。

 

実践練習の意図を察した慶吾はゆっくりと近づく。何も警戒していない係の人はこちらに向かって来る慶吾をチラリと見るだけ。

 

周囲に人は数名。その数名の視線が自分から外れた瞬間、憎悪を膨れ上がらせた。

 

 

ドンッ……

 

 

係の人に憎悪の睨みをぶつけると、目玉を裏返してその場に倒れようとする。慶吾は倒れようとする係の人を片手

で放送室の中へと引き吊り込んだ。

 

当然、放送室の中にも人はいる。女性スタッフが何事かと驚いているが、同じように憎悪の睨みをぶつけた。

 

女性は一瞬で意識を手放しその場に倒れる。手早く制圧した光景に冥府神は満足していた。

 

 

『やはり貴様は最高だ。暴力無しで制圧するとは…!』

 

 

「血が見たいお前には残念だと思うが?」

 

 

『そうだな。我としてはその二人は(くい)で壁に(はりつけ)にして残酷な死の芸術を世界に魅せしめたいが……今回は騒動を起こしては厄介だからな』

 

 

「ハッ、悪趣味過ぎる」

 

 

鼻で笑い飛ばしながらこれから何をするのか冥府神に身を任せる。すると、マイクを掴んでボタンを押した。

 

 

ピンポンパンポーーーーーーーーーーーーーーーン

 

 

「今から一階の休憩大ホールで伊瀬(いせ)医科高校の生徒、三年、宮川 慶吾の研究ショーが始まりす。ふるってご参加してください」

 

 

———この駄神は超馬鹿なのだろうか?

 

 

ピンポンパピ、ピンポ、ピンポンパンポーン

 

 

「何考えてんだお前」

 

 

『貴様は見ているだけで良い。あとは我に任せろ』

 

 

「ふざけろ。そもそも何をする気だ」

 

 

『楢原大樹の前でとりあえず馬鹿してみる』

 

 

「死ね」

 

 

『まぁ落ち着け。既に騙す算段を立てている』

 

 

「黙れ。自分から恥をかきに行くわけないだろ」

 

 

『変装もする』

 

 

「白衣着るだけで変装とかいよいよ頭大丈夫かお前」

 

 

『うるせぇ!! 我に従えゴミ!!』

 

 

「テメェ……ぐぅ!!」

 

 

抵抗することができない慶吾。駄神に体を預けることを後悔することになる。

 

 

________________________

 

 

 

「こんにちは、宮川 慶吾です」

 

 

人生史上、最悪の黒歴史が始まった。

 

ここに居る観客は誰も冥府神の挨拶だとは思わないだろう。

 

 

「私が長年研究してきたモノが遂に完成しました。それをここで発表したいと思います! どうぞ!」

 

 

誰だコイツというツッコミはいらないだろう。そもそも何をする気なのか分からない。

 

赤い布が掛かった大きな四角形が運ばれてきた物に観客たちは拍手する。一体いつどこで用意したのだろうか。

 

 

「これが僕が開発したものです!」

 

 

一人称に吐き気を覚えるが、この場に楢原 大樹が居るのなら仕方ないことだが死ね。冥府神死ね。

 

布を取ると箱の中は水が入っていた。しかし、水だけしかない。

 

 

「これは僕が作った特殊な水です。この水はどんなモノでも吸収する水なんです」

 

 

観客と同じように慶吾も正体を見破れない。次の瞬間、冥府神は爆弾を落とす。

 

 

「論より証拠。そして、これを見てください」

 

 

そう、文字通り———

 

 

「核爆弾です!」

 

 

「「「「「なにいいいいィィィ!!!」」」」」

 

 

———爆弾を観客に見せて来た。馬鹿だ。この神、相当狂っている。

 

楢原大樹もきっと自分のことを馬鹿な奴……頭が逝ってる奴だと思っているだろう。

 

 

「お、落ち着いてください! これは本物ではありません!」

 

 

焦った演技をする冥府神。観客が慌てる姿を楽しんでいるようだ。

 

 

「レプリカです。半径1500メートルしか爆発しません!!」

 

 

「「「「「わああああああァァァァ!!!」」」」」

 

 

冥府神が心の底から喜んでいるのを感じる。だが俺は冥府神に対して呆れを感じている。

 

 

「これを今ここで爆発させます!」

 

 

「「「「「やめろおおおおォォォォ!!!」」」」」

 

 

やめろと言ってやめる奴では無い。だって冥府神なのだから。

 

問答無用でスイッチを入れた。

 

 

「これで15秒後には爆発します!!」

 

 

「「「「「おいいいいィィィ!!!」」」」」

 

 

観客の絶望を味わいながら水槽に爆弾を投げ入れる。死なないよな? 仮に爆発したとして、俺は無傷で済むよな?

 

そんな疑問に冥府神は心の中で答えてくれる。

 

 

『ギリギリ生きれる。多分だけど』

 

 

『百回死ね』

 

 

冥府神は俺の言葉を気にすることなく続ける。

 

 

「大丈夫です!!爆発しません!!」

 

 

そんな言葉に観客は少しだけ笑顔になろうとするが、ここで落とすのが冥府神クオリティ。

 

 

「ぶっつけ本番ですが問題ありません! 成功します!」

 

 

「「「「「おおありじゃあああァァァァ!!」」」」」

 

 

全くその通りである。

 

まさに現場は世紀末。泣く者、怒る者、祈りを捧げる者、渾沌(こんとん)としていた。

 

そして爆弾は爆発しようとする。が、

 

バフンッ! と間抜けな音だけを残して爆発した。

 

つまり、実験は成功を意していた。

 

 

「せ、成功したあああああァァァァ!!!」

『く、くそおおおおおおおおおおおお!!!』

 

 

表の感情と裏の感情が全く合っていない件について。

 

 

「「「「「よかったあああァァァァ!!!」」」」」

 

 

負の感情を得られない冥府神にとって屈辱的なことらしい。爆発しないことは分かっていたが、万が一で爆発して死者を出したかったと冥府神はのちに語る。情緒不安定か。

 

その後、馬鹿な芝居を続けて最後はポリスに捕まり大団円を迎えた。

 

 

ドゴッ!!

 

 

冥府神は警察官の後頭部に頭突きして意識を奪う。手錠は力で破壊して拘束を解く。

 

 

「……何がしたかったんだ結局」

 

 

『フン、もうすぐここはテロリストの襲撃がある。一人の男に爆弾を持たせている』

 

 

「……それが?」

 

 

『分からんか? 楢原大樹の実力が見えるうえに下手すれば大量の死者を出すかもしれない舞台だぞ? 見たいだろ?』

 

 

「……悪趣味だ」

 

 

しかし、慶吾は遠くからその光景を見ることになる。楢原 大樹の実力を。

 

ショーを行った場所で事を待つと……冥府神の予言通り、覆面のテロリストたちが襲撃した。学生を人質にして立て籠もり始めていた。

 

その光景を冥府神の力———『千里眼』でテロリストたち居る場所から離れた所で見ていた。

 

 

(何だよコイツ……!?)

 

 

楢原 大樹の力に慶吾は圧倒されていた。人間技じゃないことを平気でこなす姿に戦慄していた。

 

一見デタラメな攻撃だが適切な順番で敵を倒している。ふざけた力の強さが目を掠めさせているのだ。

 

 

『オリュンポス十二神の中で最も神力を持つゼウスの保持者だ。今の貴様じゃ無理と思わないか?』

 

 

「……………」

 

 

『少しは理解したか? 貴様がこれからどうするべきなのか』

 

 

「……ああ、よく分かった」

 

 

このままじゃ駄目だ。この力を更に自分の物にして、高みを目指さなければならない。

 

冥府神の目論見通り慶吾は強くなることを決意する。悪意と復讐を胸に秘めたまま、拳を握り絞めた。

 

さて、本来ならここで慶吾たちは立ち去るのだが、イレギュラーな事態が起きる。

 

 

「おい、テロリストに持たせた爆弾とやらはどこにある?」

 

 

『……おかしい。誰かが持っているはずなのだが』

 

 

冥府神が困惑している。呆れてポケットに手を突っ込むと、そこには硬い異物が入っていた。

 

取り出してみれば『爆☆弾』とアホな神が書きそうな紙が貼られた物体だった。

 

 

「……………」

 

 

『千里眼』を使い大樹たちの様子を見る。そこには———実験で使ったはずの核爆弾を持っている人質たち。

 

 

「「「「「ああ、こいつはやばい」」」」」

 

 

同感である。

 

 

『クックックッ……やばい我らも逃げないと死ぬ』

 

 

「死ね!!!」

 

 

この冥府神、本当はクソ使えない奴なのではないかと思い始める慶吾。こんなにもデカデカと爆弾と書いた物をどうやったら渡し間違える。

 

 

「走って逃げれる距離じゃねぇだろ!」

 

 

『仕方ない……冥府神の力を最大解放すれば何とか……だが』

 

 

「……何だ」

 

 

『それだと我消えちゃう』

 

 

「消えて良いから使え」

 

 

そして冥府神と言い争う。断固最大解放する気はないようだ。

 

自分たちの隣にある水槽にあの爆弾を入れることができるなら何とか大丈夫だと思うが、距離を考えれば無理だろう。

 

その時、人質側に異変が起きる。もうすぐ爆発しようとする爆弾を大樹は掴み、

 

 

『いっけえええええェェェ!!!!!!』

 

 

大きく振りかぶって爆弾を投擲(とうてき)した。

 

慶吾は気付く。投げた方向は自分たちの居る場所だということ。そして次第に聞こえて来る音。

 

 

ドンドンドンドンッ!!!

 

 

———こちらにバウンドして飛んで来る爆弾を目撃する。

 

 

『ぎゃあああああああ!?』

 

 

「なッ!?」

 

 

あの馬鹿は投擲してこの水槽の中に爆弾を入れるつもりだったのだ。

 

そんなことができるのか。神の力を手に入れた保持者はそれだけ力を———

 

 

バゴンッ!!!

 

 

爆弾は盛大に水槽を外し、地面をバウンドした。

 

 

〇〇〇(ピー)! 〇〇〇〇(ピー)!!』

 

 

冥府神が汚い言葉を吐き散らしながら乱心のご様子。爆弾は未だに駆け巡っていた。

 

一刻も早く水槽に爆弾を入れることを要求される。だが爆弾の速さは常人には捕まえることは困難。

 

そう、常人には。

 

———慶吾の中で憎悪が渦巻く。膨れるように増大した。

 

無意識から生まれた対抗心の炎。黒い(もや)が腕を包み込んだ瞬間、

 

 

ガシッ!! ザパァン!!

 

 

常人には掴まえることのできない速度で飛び回る爆弾を一瞬で掴み水槽の中に叩きこんだ。

 

黒い靄に包まれた腕に慶吾の反応は薄い。しかし、冥府神の心は大きく動かしていた。

 

 

(コイツッ……どれだけ我を楽しませるつもりだ……!)

 

 

冥府神の力をこうも早く使ったことに驚いていた。不完全の力でも、現段階で既に上野 航平を越えようとしているのだから。

 

元々復讐に囚われていた男を記憶を持たせたまま転生させて、器にしようとしていたが、この男は間違いなく適正が遥かに上。

 

 

「……おい、逃げるんだろ」

 

 

『ああ、()()()

 

 

冥府神の含みのある言葉に慶吾は口端を少しだけ吊り上げる。よく分かっているじゃないかと答えるように。

 

 

『予定変更だ。貴様には更なる高みに手を伸ばさせて貰う』

 

 

「何だ? 元々低かったのか?」

 

 

『違うな。危険な近道をした方が貴様の為になると思ったからだ』

 

 

「………………」

 

 

危険というワードに不快な顔をしない。むしろ笑みを返す程の余裕を持っていた。

 

 

『少し小細工する必要がある。天界に行くぞ』

 

 

「……俺の聞き間違いか?」

 

 

『驚く程でもないだろ?』

 

 

冥府神は(ささや)く。

 

 

 

 

 

『———神に裏切者がいることくらい』

 

 

 

 

 

「……………くはっ」

 

 

冥府神の発言は、とても愉快な言葉だった。

 

宮川 慶吾は、ただただ落ちる。奈落の闇へと、心を捨てて。

 

 

そして——―狂気の笑みを浮かべるのであった。

 

 




よし、ギャグってる! この調子で次回もギャグりますよ!

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