どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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大樹の家族が満を期して遂に登場(笑)



原点世界終章・楢原家編
やっぱりウチの家族は!


「久々にうまかっちゃん食べるわ」

 

 

「どんどんあるわよ~」

 

 

インスタント麺なのに美味い豚骨ラーメンをオカンが作る。それを勢い良く食べていた。

 

まぁちょっと待て。おかしいだろとツッコミを入れてくれるのは嬉しいが、まぁ状況を説明しよう。

 

 

「オカン! 俺は死んだぞ!」

 

 

「だから知っているわよ。何度も言わせないでちょうだい」

 

 

———つまりこういうことだ。

 

え? 分からない。ハッハッハッ、俺も俺も。

 

意味が分からないよ。まるで遠出して来た息子が帰って来た反応だよこれ。

 

 

「待て待て。死んだ=なうで生きている俺=超異常、おk?」

 

 

「オッケー牧場よ~」

 

 

よし、会話が成立しても進まないから諦めよう。

 

ラーメンを食べ終わると、姉の部屋の扉が開いた。腰まで伸ばした黒髪の女性が俺を見て驚いた顔をしていた。

 

 

「だ、だいちゃん!?」

 

 

幽姉(ゆうねぇ)…!」

 

 

楢原家の長女は俺の顔をがっしりと掴むと涙を流した。これだよ! この反応が普通なんだよ!

 

 

「だいちゃんが不良になった!? 髪の色がおかしいよ!?」

 

 

「ふぅー! 期待した俺が馬鹿だったぜ!」

 

 

もう馬鹿になっていた。

 

ウチの家族はズレているようだ。俺がそうだから納得できるけど、皆がまともなら俺もまともな人間としては……ならないけど緩和されると思うの。

 

年中白い着物を着ている姉に対して、最初から常識を求めることがおかしかったのだ。

 

 

(とりあえず家族のことは放っておこう。もっと大事なことがあるだろ)

 

 

壁に貼られたカレンダーを見ると、二年以上の月日が経っていることが分かる。アニメが凄く溜まっているのだろうなとか、全然考えてないから。

 

携帯端末をテーブルの下で開く。着信はないが、一応無事だということを女の子たちにメールする。原田は大丈夫と確信しているから送らない。面倒くさいとか全然思ってないから。

 

 

「姉貴と姉御は?」

 

 

「二人はしばらく帰って来ないわよ~」

 

 

「オトンもか?」

 

 

「フッフッフッ、さっきメール招集したから絶対に帰って来るわ!」

 

 

「……オトンの出張先はどこだよ?」

 

 

「北海道」

 

 

鬼かよ。

 

福岡県と距離があり過ぎませんかね? しかも今からって、もうおやつの時間だよ? 本当に今日中に帰って来れるの?

 

 

「はぁ……部屋に戻るわ」

 

 

「だいちゃんの部屋、綺麗なままにしてあるよ! だから、ね? 髪の色を……」

 

 

〇〇〇(ピー)

 

 

「お母さぁん!!?!?!!」

 

 

下ネタをぶつけただけでオカンに泣き付く幽姉。オカンは「小学生だってよくチンチンって言うでしょ? それがレベルアップしただけよ」と言っていた。俺は小学生のレベルアップした存在として見られているのか。

 

自分の部屋に戻ると、懐かしい光景に思わず涙がポロリと出てしまう。

 

どうしてオカンはあんなに元気なの? 俺は不思議で仕方がないよと言った感じの涙が。

 

 

「———そう来るか」

 

 

本棚を見ると不自然に空いた空間が目立つ。漫画やラノベを入れている本棚だが、その空間にはある本が入っていた。

 

 

「『とある』も『アリア』も、『バカテス』までも無いな」

 

 

転生した世界———『原作本』が消滅していた。

 

パソコンの電源を入れて検索する。予想通り、何もヒットしなかった。

 

 

「『箱庭』の世界も魔法の世界も、絶対にあると思うんだけどなぁ……」

 

 

探しても調べても、見つからないなら仕方ない。次の手掛かりを探そうとするが、

 

 

「ハッ!? エロ本を燃やさなければ…!」

 

 

大事な使命を思い出す。神への手掛かりは置いといて。

 

そんなことより証拠を隠滅しなければいけない。消滅レベルで隠蔽(いんぺい)しなければ女の子にバレる。

 

ベッド下に腕を入れて棒状のレバーを手前に引く。次に壁を軽く蹴り飛ばそうとするが、壁をぶっ壊してしまいそうなのでコンコンと手で叩く。

 

 

ガタンッ

 

 

天井のパネルが一枚だけ落ちる。それをキャッチした後は部屋の扉の鍵を閉める。

 

 

「うおっ……埃まみれじゃねぇか」

 

 

別に燃やすから状態は気にしないが、部屋が少し汚れてしまう。

 

死んだじいちゃんから教えて貰った仕掛けだった。からくり屋敷のような家で助かった。二年間、守り切ったんだなお前。

 

 

ガチャッ

 

 

「だいちゃん! やっぱり黒髪にしよ!? 手伝ってあげ……る……から……」

 

 

「————は?」

 

 

閉めたはずの鍵が全く俺のプライバシーを守り切れていない件について。

 

どうやら鍵は施錠することができないようになっていたようだ。気付くのが遅すぎた。

 

抱きかかえた秘蔵を見た幽姉は髪染めをボトボトと床を落としてしまう。

 

言い訳できる自信はなかった。思いっ切り本の表紙が見られているのだ。あはーんな内容の表紙を。

 

汗をダラダラと流して硬直する俺。幽姉は無言で扉を閉めて叫んだ。

 

 

「だいちゃんがおっぱい星人変態野郎になったああああああああァァァ!!」

 

 

「やめろ馬鹿姉えええええええェェェ!!!」

 

 

________________________

 

 

 

———母親と姉の前でエロ本を燃やす気持ちって分かりますか?

 

 

「あ—————————ん、死にたい」

 

 

リビングのソファで寝ていた。やらなきゃいけないことがあるのに、家族からのダメージが強過ぎてやる気ゼロ。

 

幽姉は俺の部屋にまだ残っていないか探索している。アレ以上何も出て来ないのに疑われていた。

 

 

「ププッ、ざまぁないわね」

 

 

「母親が言う言葉じゃねぇ」

 

 

テーブルの上に置かれたせんべいを食べながら俺を見て笑う。

 

この場から逃げよう。美琴たちも探さないといけない。体を起こして立ち上がると、

 

 

「ただいま、母さん」

 

 

———オトン帰ってキター。

 

スーツに身を包み、オールバックの髪型で登場する。鼻下のヒゲを触りながらドヤ顔で部屋に入って来た。

 

凄いな。一体どうやってこんなに早く帰って来れたんだい?

 

 

「久しぶりだな、大樹」

 

 

「オトンもそういう反応かよ……帰って来るの、早くないか?」

 

 

「運良く飛行機をキャンセルした客が居てな、すぐに乗れたんだ」

 

 

「キャンセルねぇ……そりゃ運が良い事だ」

 

 

「ああ。でもキャンセルした人をちょっと分厚いお札で叩いてしまったが、良い結果に転んだよ」

 

 

———おいマジかお前。

 

 

「お前何やってんの? 金の力でキャンセルさせただろ?」

 

 

父親だろうが関係無い。お前は一体何をやっているんだ。

 

 

「安心しろ。お前が死んだ時に下りた保険金だ」

 

 

「息子の死んだ金で何やってんだよ!? 最低だぞ!? 俺より最低な奴は何人も見たけど、オトンも入るぞ!?」

 

 

「あら? 私たちそのお金で家族旅行、ハワイに行ったから、全員最低だわ☆」

 

 

「冗談だろ!? って写真を見せるな!? ホント最低だな!?」

 

 

おおおおおいいいいい!? フリーダム過ぎるだろ俺の家族!

 

血筋なのか! 俺が人外やら馬鹿やら大樹やら呼ばれるのは血筋だからなのか!

 

 

「ホラ大樹。土産だ」

 

 

「いらねぇよ……って何で東京バナナ出すんだよ!? 北海道に行ったんじゃないのかよ!?」

 

 

「残念だったな。中身は違う———鹿せんべいだ」

 

 

「狂ってんのか!? せめて白い恋人にしとけやぁ!!」

 

 

楽しそうに俺をモテ遊ぶオトンとオカン。いやアカン。こんな両親、女の子に見せられない。

 

その時、女の子たちのことを思い出して気付いた。

 

 

———俺の嫁が七人も居るって普通に不味くない?

 

 

「どうしたのだいちゃん? 汗が流れているけど?」

 

 

「ああ、震えているぞ? 体調が悪いのか?」

 

 

「な、何でもないよ。俺、行くところがあるから———」

 

 

逃げるように部屋から出ようとする。だが、

 

 

———ピンポーンッ♪

 

 

インターホンが鳴った瞬間、心臓が止まりそうになった。

 

オカンが玄関に迎えに行くと、聞き覚えどころか、知っている声が聞こえた。

 

 

「初めましてお母様。大樹君の婚約者、七草 真由美です!」

 

 

———可愛い小悪魔が先手必勝を仕掛けて来た。

 

 

 

________________________

 

 

 

 

突如俺の家に訪問して来たのは真由美。

 

椅子に座り戦慄した表情で真由美を見る両親。隣に座る俺も違う意味で震えていた。

 

 

「だ、だいちゃんに……美人の女の子……!?」

 

 

「か、かかかか母さん、手が震えてお茶が全部私にかかっているよ……!?」

 

 

オカンのお茶はオトンの膝にこぼれ、オトンは鹿せんべいをひらすら割っていた。落ち着けお前ら。

 

 

「驚くことじゃないだろ? 俺だって良い歳なんだからよ」

 

 

「大樹君。必死に携帯を操作しているのは何故かしら?」

 

 

真由美に指摘されても俺はやめない。他の女の子にウチには来ないで欲しいことを誠実に伝えていた。

 

まだ大丈夫。焦る時間じゃない。このまま真由美の紹介だけして、目的を果たせばいいだけの話じゃないか。息子の死んだ金でバカンスを楽しむ馬鹿野郎に話すことは無い! ややこしくなる前に終わらせてみせる!

 

 

「そ、それで……婚約者ってどういうことかしら? ちょっっっと気が早いと思うのよ……」

 

 

「私の両親の許可は貰いました」

 

 

ぐはぁっと血を吐く母。そんなに衝撃的なことか?

 

 

「だ、大樹ですよ!? こんな息子で、本当に良いのですか!?」

 

 

「大樹君『が』良いんです。大樹君じゃなきゃ駄目なんです!」

 

 

ごはぁっと血を吐く父。失礼だなおい。釣り合わないことくらい、最初から分かってんだよ。愛でカバーしてんだよ。男は熱いハートで勝負してんだよ。

 

 

「か、母さんたち……今日の夜は出掛けるわね……」

 

 

「やめろ」

 

 

そういうのいらない。とても困るから。

 

ホラね、両親に見えないように真由美が俺の腕をつねるから。何故断ったと目で訴えているから。ちょっと童貞に厳しいからやめてちょんまげ。

 

 

「もういい。それよりもだ。どうして俺が生きていることに驚かないのか説明———」

 

 

———ピンポーンッ♪

 

 

「———できなくても良い。それは恥じることではないから安心して道を歩こう! 我が行く~道を~……」

 

 

「どこに行くのよ。だいちゃん? だいちゃーん?」

 

 

オカンの静止を振り切り玄関の扉を開く前に覗き穴を覗く。

 

 

ピカァ!!!

 

 

「バルスぅ!!??」

 

 

視界が真っ白に染まる。何者かが覗き穴に光を当てたのだ。

 

盲目状態でも俺は扉を開ける。犯人は六人の内の誰かだ。

 

気配でそこに居ることは分かっている。扉を開けて犯人を別の場所に連れて行こうと両手を伸ばすと、

 

 

———柔らかい感触が手に包まれた。

 

 

「あッ」

 

 

右手と左手。右はとても大きい、左は少し小さい。なるほど、二人で来ちゃったかぁ。

 

分かるよ。うん、この感触。ちょっと待ってね。えっと、

 

 

「黒ウサギと折紙だろ?」

 

 

「このお馬鹿様!!」

 

 

パシンッ!!

 

 

気持ちの良い音が響き渡る。俺の頬に衝撃が走った。

 

背後では女性の胸を触っていた息子を目撃していた両親。二人は戦慄した表情で一部始終を目にした。

 

 

 

________________________

 

 

 

その後、無事に全員が俺に家に来訪した。俺は無事じゃないが。

 

次々と現れる女の子に驚いた顔をするオトンとオカン。同時に軽蔑の眼差しで息子を見ていた。

 

畳のある広い座敷に移動して、女の子が座布団の上で正座して並んでいる。正面には両親が正座をしていた。

 

その間———女の子たちの前に居る大樹は土下座をする男が居た。

 

 

「全員と結婚します」

 

 

ゴスッ! ゴスッ!

 

 

オトンに一発。オカンからも一発。腹パンされた。

 

 

「おぐぅ!? む、息子の腹にパンチする!? ビンタじゃないの!?」

 

 

「無刀の構え、【黄泉送り】!!」

 

 

「ぐへぇ!?」

 

 

オトンの一撃は後ろの壁にまで吹っ飛ぶ威力だった。オカンの腹パンに比べると何十倍も違う。

 

だが神の力を手に入れ、数多の強敵を撃ち倒して来た大樹さんには効かない。嫁の仕置きの方が何百倍も恐ろしいわ。

 

 

「大樹! 貴様はそこまでクズになったのか!?」

 

 

「息子の保険金で無駄金する父親に言われたくねぇ!!」

 

 

「半分冗談に決まっているだろ!」

 

 

「半分本気なのかよ!」

 

 

親父からもう一発、【黄泉送り】を受ける。この日本では一夫多妻制は許されていない。だから親に怒られるのは当然だということは理解している!

 

 

「その息子が悪いのか!!」

 

 

「股間を蹴ろうとするな!? こっちの息子は悲しいくらい何もしてねぇよ!」

 

 

ホント悲しいからやめろ。

 

 

「あ、あの……黒ウサギたちは……」

 

 

「大丈夫よ。もう安心して。大樹より良い男は星の数より居るわ」

 

 

地球が大変なことになるわ。戦争なんてアホなことは起きないだろうな。

 

黒ウサギの手を握り絞めるオカン。微妙な表情で黒ウサギは対応していた。すまねぇ。

 

 

「大樹より良い男なんていない。私の両親も認めてくれている」

 

 

「お、折紙……!」

 

 

「それは大樹の演技だ! 騙されてはいけない!」

 

 

オトンのこと、嫌いになるわ。俺が愛する人を騙す? ハッ、無いな。というか無理だな!

 

 

「確かに大樹はあたしたち以外に女の子とすぐ仲良くしますが、私たちのことを大好きだと言ってくれました!」

 

 

アリアの言葉にジーンっとなるはずだったのに、余計な一言があるせいでオトンはフルパワーで俺を撃退しようとする。その点は反省しているから悪化させるのはやめてください!

 

 

「こんなに良い子たちを騙して、心を痛めないのか貴様!!」

 

 

「現在進行形で痛んでるわ!」

 

 

「それに貴様……!」

 

 

オトンはティナの方を向くと、血が出る程歯を食い縛った。

 

 

「こんな小さい子まで騙して生きて帰れると思うなよロリコン息子がぁ!!」

 

 

「うるせぇ!!!! ティナも大好きだから仕方ねぇだろうがぁ!!」

 

 

どれだけ犯罪だと言われ続けたと思っている! 今更引き下がれるわけがねぇだろ!!

 

 

「それに、どんだけ悩んだと思っている!?」

 

 

ドンッと胸を張りながらオトンに告げる。

 

 

「俺は最低だよ本当に! 馬鹿なことに、愛していると分かったのは失って初めて気付いた! でも失っても愛する人を追い駆け続けることができたのは、本気で愛していると心の底から理解したからだ!」

 

 

恥ずかしいセリフなんかじゃない。俺の正直な気持ちをオトンにぶつける。

 

 

「言葉にできないくらいすっげぇ大好きなんだよ! 永遠に抱き締めたり手を繋いだりイチャイチャしたいと四六時中思ってんだよ! キスされたいとかおっぱい揉みたいとか、考えるに決まっているだろ!!!」

 

 

「この馬鹿息子がぁ!!!!」

 

 

オトンに向かって思い叫ぶと、顔面に強い衝撃が走った。

 

だからこそ、俺はオトンをはっ倒すことにする。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

顔面で受け止めた拳に対して頭突きをする。オトンの骨が折れてしまうかもしれないが、そんなヘマをする父親じゃない。

 

 

「むッ!?」

 

 

即座に拳を引いて俺の頭突きの威力を受け流す。俺の鼻からポタポタと血が流れるが、オトンの手は赤く(にじ)んでいた。

 

 

「……腕を上げたな」

 

 

「今の一撃を避けるとか、どんだけだよ……」

 

 

神の力は使わなくても、人の腕なら簡単に折れる一撃だった。どんな反射神経しているんだよ。

 

 

「……母さん、少しだけ席を外そうか」

 

 

「そうね。夕飯の買い物に行きましょ。今日はあなたの財布が耐えれるかしら」

 

 

「待つんだ母さん。正直、今月は厳しいからやめよう。頼む、ハー〇ンダッツを大量に買うのだけは……!?」

 

 

オトンとオカンは座敷から出て行ってしまう。突然の退室に戸惑っていると、原因はすぐに分かる。

 

 

「「「「「ッ~~~~~!!」」」」」

 

 

「Oh……」

 

 

美琴たちの顔が真っ赤になっていることに気付いた。しまった。全然気にすることなく正直な感想をぶちまけてしまった。

 

本当に最低じゃないか。女の子の目の前でキスどころかおっぱい揉みたいとか宣言しちゃってるよ。恥ずかしすぅいいいいい!!

 

その場でジャンピング土下座。調子こいてすいませんでした。

 

 

「ちょ、ちょっと安心したわね……大樹君がそんな目で見てくれているのを知って……」

 

 

優子は自分の髪を触りながら恥ずかしそうに言う。すいませんすいません。

 

 

「た、確かに見られているのは分かっていたけど……そんなに堂々と言われると」

 

 

真由美は胸を隠しながら頬を赤くする。すいませんすいません。

 

 

「……キス、したいんだ」

 

 

美琴の言葉に俺は大声で謝罪した。

 

 

「ホントすいませんでしたぁ!!! 俺は欲望に忠実な馬鹿野郎ですぅ!!」

 

 

気を遣われる優しさが、一番心に来るモノだと初めて知った。

 

 

________________________

 

 

 

「———だからと言って改める気はないのね……」

 

 

「すまん」

 

 

美琴に膝枕をされた俺は幸福を味わっていた。苦笑いで他の女の子たちも俺を見ている。

 

 

「次は私」

 

 

「はいはい」

 

 

美琴は俺の頭を動かして折紙の膝上に乗せる。全く、罪な男だぜ!

 

ニヤニヤとだらしない顔でいると、アリアがキョロキョロと辺りを見ながら尋ねる。

 

 

「それよりも、手掛かりは見つけたの?」

 

 

「ああ、ちょうどこの部屋にある」

 

 

俺は部屋の奥に飾ってある額縁を指差す。それは土地の所有権を証明する紙だった。

 

 

「ここから北にある山はウチが所有している。一度だけ、行ったことがあることを思い出した」

 

 

「思い出した?」

 

 

「『———この場所を忘れるな。忘れても、思い出せ。必ず、お前が必要とする場所だ』」

 

 

夢で見た———いや、思い出したことを口にする。

 

額縁には楢原家が所有していると書かれているわけじゃない。『神野宮(しんのみや)家』と書かれている。

 

 

「楢原じゃないのですか?」

 

 

「楢原はオトンの苗字。『神野宮』はオカンの苗字だ」

 

 

黒ウサギの質問に答える。そして死んだ祖父はオカンの父親だ。

 

 

「死んだじいちゃんに会ったことがあるんだよ。その山に迷い込んだ時にな、『川』を見たんだ」

 

 

「ッ! もしかして、手掛かりというのは……!」

 

 

「『三途の川』の先は黄泉の国だろ? 神のお家に遊びに行くなら近いと思わないか?」

 

 

今まで奇想天外な人生を歩んで来たんだ。天国に続く道がある程度じゃ驚くことは無い。不思議でも無い。

 

そして、偶然とは思えない。俺の家系や土地の所有。家族の驚かない反応。何かあることは間違いない。

 

 

「それと、一緒に来て欲しい場所がある」

 

 

震えた手で折紙の手を握る。この確認だけはどうしても傍に居てくれる人が欲しかった。

 

事の大事を察した折紙たちは頷く。手を繋ぎながらある場所へと向かう。

 

 

「ここだ」

 

 

開けたのは薄暗い畳の部屋。その奥には仏壇があるのを確認する。

 

遺影でイエーイしている自分の顔を見て思わず笑いが出てしまう。

 

 

「ったく、もっとマシな写真はなかったのかよ」

 

 

「大樹らしいわ」

 

 

美琴の言葉に激しく同意。俺らしいな。

 

近くには遺骨があるのを確認する。それを見た俺は生唾を飲み込む。

 

 

「大樹さん……私たちは」

 

 

「大丈夫だティナ」

 

 

女の子たちに見えないように遺骨を開ける。中に骨があることを確認すると、すぐに俺は元に戻す。

 

———洗面所に駆け込み、吐いてしまった。

 

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 

想像以上にキツイ。自分の胸をグッと掴み、何度も吐いてしまう。

 

女の子に背中をさすられながら胃に溜まった物を全て吐き出す。

 

自分の体が遺骨に入っていた。それが溜まらなく不愉快で気持ちが悪い。自分の体が気持ち悪くて仕方なかった。

 

 

「この体は……何だよ……ふざけるなよッ」

 

 

「大樹、よく聞きなさい。あんたの体がどんなことでも……」

 

 

「違うんだよアリア……俺は、この体で皆に近づいたことが許せないんだよ……!」

 

 

「バカッ、そんなこと気にするわけないでしょ……」

 

 

後ろから強く抱き締められる。自分じゃない体に触れて欲しくない。

 

だけど———今は触れて欲しくて仕方なかった。

 

その優しさを蹴り飛ばすことはできなかった。アリアを抱き締め返すと、全員が俺の体に触れてくれた。

 

 

「覚悟は決めていたのにな……!」

 

 

「良いのよ。そんな小さい事、忘れてしまっていいわ」

 

 

優子の言葉に俺は何度も頷いた。

 

 

________________________

 

 

 

両親が帰って来た頃には調子を取り戻していた。ソファに寝転がり真由美とアリアの手を握っていた。

 

二人は大人しく俺と一緒にテレビを見ているが、大事な任務を果たしていた。

 

 

「あらあら、上手なのね」

 

 

「YES! 店を経営していたことがあるので」

 

 

キッチンに立つのは黒ウサギたち。オカンの夕飯の支度を手伝っていた。

 

これで分かるだろう? 料理が大変になるのを防ぐ為に俺はアリアと真由美を引き止めているのだ。

 

キッチンに立つティナとアイコンタクトをかわす。

 

 

『絶対に行かせないから安心しろ』

 

 

『大樹さんが作った方が早いと思います』

 

 

『俺の料理とティナたちの手作りに比べたら、俺の料理はゴミ同然だろ』

 

 

『大袈裟です』

 

 

これが大袈裟ではないんだよティナ君。俺からすれば神料理だもの。フォッフォッフォ。

 

正面に座るオトンの視線が痛いが、口が弾け飛ぶよりはマシだ。

 

 

ダンッ!!

 

 

その時、部屋の扉が勢い良く開き、幽姉が飛び出して来た。

 

 

「大変! お父さんの部屋にも同じ仕掛けをあったから調べてみたら出て来た!」

 

 

何やってんのオトン。

 

椅子から勢い良く跳ぶオトン。バク転しながら全力で逃げ出した。老いを見せないとは、まだまだ元気あるな。

 

まぁそれをオカンは逃がさないよな。

 

 

スコーンッ!!

 

 

オカンはおたまを投げ飛ばしてオトンの後頭部を直撃させる。そのまま拘束されるオトン。良い歳して何をやっているんだ。

 

 

「息子と同じねあなた! エロ本を隠す場所まで同じなんて!」

 

 

「誤解だ! 捨てるタイミングをずっと見失って……!」

 

 

二人はそのままどこかへ行き、俺は溜め息を漏らす。

 

 

「あーあ、何やってんだか」

 

 

「ねぇ大樹。お母様が言ってたエロ本ってどういうことかしら?」

 

 

真由美の肩を掴まれた俺は諦める。やれやれ、俺まで巻き込まれちゃったよ。

 

 

________________________

 

 

 

「頼むからやめてくれ。俺もオトンも、男なんだ。もう見逃して」

 

 

「土下座までされると困るよだいちゃん……」

 

 

幽姉のエロ本探しをやめてとお願いする。とりあえずはやめてくれるらしい。

 

お願いし終えた後、女の子たちが不思議な顔をしていることに気付いた。

 

 

「ねぇ大樹、急にどうしたの?」

 

 

「どうって……エロ本探す馬鹿姉にやめてくれってお願いしているんだろ」

 

 

美琴の言葉に俺は首を傾げてしまう。すると幽姉は何かを察した様にオカンとオトンを呼びに行った。

 

不思議そうな顔をしている女の子たち。姉の存在に何を思ったのだろうか。

 

すると真っ赤な手形が頬に付いたオトンが戻って来た。

 

 

「そろそろお前にも話す時が来たようだな」

 

 

「思いっ切りビンタされてるじゃねぇか。真顔で言うのやめろ」

 

 

「実は幽のことなんだが———」

 

 

「無視して続行するのかよ」

 

 

 

 

 

「幽霊だから彼女たちには見えないんだ」

 

 

 

 

 

「そんなアホな冗談もいい加減にして———今何て言った?」

 

 

「幽は幽霊なんだ。私も微妙にしか見えていながな」

 

 

真相を確かめるべく、俺は幽姉に触る。柔らかい感触。うん、触れられるな。ちなみに腕を触っているから勘違いしないように。

 

 

「大樹は今、その……姉の胸を触っているの?」

 

 

「腕だよ!? 何で姉の胸を触らなきゃいけないんだよ!?」

 

 

ドン引きた表情でアリアが俺から距離を取っていた。日頃の変態が生んだ誤解だった。

 

だがアリアの言葉で確信することができた。幽姉のこと、本当に見えていないのだと。

 

 

「……マジなのか」

 

 

「だいちゃんが遂に……家族は全員知っているのに、ようやく知るんだね……!」

 

 

「楢原家の家族は俺をのけものにするのが得意なフレンズなんだね」

 

 

涙をポロポロと流す幽姉。驚愕の新事実に涙も出ない。

 

いつまで経っても歳を取った様子を見せなかった姉、まさか死んで幽霊になっていたとか。

 

 

「それと幽は四百年生きている霊だ。血筋は全くないぞ」

 

 

何でやねん。

 

 

「はぁ!? なら何で俺を姉として騙していたんだ!?」

 

 

「それがお前の特別な血筋だからだ」

 

 

そ、それが本題か。唐突に真面目になるのやめて欲しいかな。

 

とりあえず幽霊に怯えている女の子たちに危害はないことを伝える。いや、あのね? 幽霊でも姉でも、俺は見境なく女の人の胸を揉んだりしないから信じて。

 

 

「本来、幽の存在は母さんとお前の姉しか見ることができないのだ。私はギリギリ見えるが、お前はハッキリと見えるし触れることができる」

 

 

「……その幽霊を見れることに心当たりがあるんだが」

 

 

ガルペス=ソォディアの妻、エオナ=ソォオデアを思い出した。その時、俺は彼女の霊体を見ることができた。

 

それが関係しているというのなら疑う余地はない。

 

 

「幽霊見えちゃう系の血筋なのか」

 

 

ここで知る真実に驚いてしまう。オカンに対して謎が出て来たぞおい。

 

落ち着くために茶を飲むと、オトンはあっさりと真実を教えてしまう。

 

 

「母さんの家系は『陰陽師(おんみょうじ)』だ」

 

 

「ブフゥッ!!」

 

 

思わず茶をオトンの顔面に噴き出してしまう。〇〇系とか見えちゃうとかのレベルじゃねぇ!? ガチガチの本業じゃねぇか!

 

オカンに拭かれながらオトンは説明する。

 

 

「『神野宮(しんのみや)家』は有名ではないが、四百年以上も続く家系だ。幽は母さんの守護霊だったのが、お前が見えてしまうからウチの子という設定にした」

 

 

「何十年も騙されるくらい壮大な設定だったよちきしょう……」

 

 

「本来、生んだ男には力は宿らないはずだったのだが、お前は例外だった。それと二人の姉はしっかりと受け継いでいるぞ」

 

 

「姉御たちもずっと俺を騙せていたことが凄いよな……」

 

 

「母さんはお前も陰陽師にしようかと(たくら)んでいたのだが……」

 

 

「剣道してて良かったああああああ!!」

 

 

まさか帰宅部を勧めていた理由はそれか! 頭が痛くなる説明に溜め息を漏らす。

 

オトンの家系は常人越えた剣術だが、オカンは陰陽師と来たか。

 

酷く驚かず、すぐに冷静になれるのは今まで歩んだ人生が波乱過ぎたせいか?

 

 

「母さんは特別な陰陽師でな———神託を授かることができる」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

オトンの告げる言葉に俺たちはギョッと驚いてしまう。神の手掛かりはここにもあった。

 

 

「お前が死んだ後、母さんは神託を授かり神に選ばれたことを知ったのだ」

 

 

「ちょっと待て!? じゃあ俺が帰って来たことは……!?」

 

 

「神託を授かり———近日、お前がここに帰って来ることを知っていた」

 

 

俺が死んだこと。突然俺が帰って来たこと。

 

———全部知っていたから驚いた反応を見せなかったのか!?

 

しかし、オトンはまだ続ける。

 

 

「それに、大樹は神に選ばれるのではないかと、少しだけ予言していた」

 

 

「……は?」

 

 

自分の耳を疑う。オトンの言葉にオカンも同意するように頷いていたのだ。

 

 

「選ばれるって……何で……」

 

 

「もう気付いているのではないか? 母さんの家系より、父さんの家系は『異常』だということ」

 

 

楢原家の初代——―姫羅は箱庭に行く程の実力を持っていた。

 

神と同等に戦い、魔王に狙われる程の頭角を見せ、最後は最も高い壁だった初代を乗り越えた。

 

異常なのは分かっている。だけど、そんな形で異常とだけは言われたくなかった。

 

 

 

 

 

「———『楢原家』はこの世界の人間ではない。転生者だということを」

 

 

 

 

 

———特別なのは、自分だけではなかった。

 

 

 

 

 





ちょいちょい割り込むシリアス。これからもそんな感じでよろしくお願いします。

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