どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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デート・ア・ライブ編。最終話です!!!


帰るべき世界の原点

———宮川 慶吾。

 

アイツとの出会いは俺が転生したばかりの頃、原田とデパートに買い物に行った時だった。

 

白衣を着て実験を見せていた。核爆弾の威力すら打ち消す水の開発。ぶっつけ本番の演説の後はポリスメンが連れて行かれて終わった。最終的に助けられたのは確かだが。

 

最初は『僕』とか言っていたクセに何故か次に会った時は文月学園で生意気な先輩として登場。口調も『俺』に変わっており、痛い目に遭った。まぁ最後は? 俺がね? 勝ったけどねぇ!

 

それで次に会ったのは箱庭の火龍誕生祭。美琴たちを転生させられて意気消沈していた時に原田と共に現れた。黒髪から白髪になっている姿を見た時はビックリした。ストレスかな? 拷問された金〇君かよ。

 

それからそれから、嫁がガルペスに襲撃を受けた時に守ってくれた。ガルペスを圧倒していたと聞いたが、まぁ俺の方が強いよね? 神だもん。何度でも言う。

 

で、俺がいない間でもガストレアとの戦争に助力してくれたと。良い奴だな。

 

だ・け・ど! 七罪と初めて会った後が問題だ。俺と原田、ガルペスとリュナのタッグバトルが展開している時に奴は現れた! 黒髪で!!

 

どんだけ髪を染めているんだよぉ!!! アイツに対して一番のツッコミはそこね! 髪! 染め過ぎぃ!

今時の若者でもそこまで染めないよ。

 

―――とまぁこんな感じでアイツとの回想シーンは終わる。俺のせいで酷い回想だったな。反省はしてない。

 

 

「でもお前が俺を殴る理由にはならない…!」

 

 

「十分だろクソッタレ」

 

 

宮川は現在進行形で俺に殴りかかろうと胸ぐらを掴んでいる。

 

事の発端は単純。宮川が「俺をどう見る」と聞いたので正直に答えた所、殴られそうになっている。

 

 

「俺は悪くねぇ!!」

 

 

「犯人は皆そう言うんだよ大樹! 謝っとけ!」

 

 

原田が仲裁するが宮川は止まらない。まぁ悪いのは俺だからな。馬鹿正直に話すのもダメだと言うことを学んだ。

 

 

________________________

 

 

 

宮川が居た場所は街のビルの屋上。俺たちを待っていたかのように佇んでいた。

 

白いコートに身を包み、黒髪になった宮川は俺を見ていた。で、先程の下りをすると。

 

 

「―――それで、話が合って来たんだろ」

 

 

「ああ」

 

 

宮川の言葉に頷く。話を切り出したのは大樹だった。

 

 

「お前は結局、どこまで知っている? 何者なんだ?」

 

 

「天使の存在を知っただろ。俺は人から天使に『昇天』した存在だ」

 

 

「天使なのは本当なのか……」

 

 

人間から天使へ―――『昇天』することはリィラから聞いている。保持者の俺程ではないが、稀な存在としているらしい。

 

……本来ならここで原田に聞くことがあるのだが、俺は踏み出せなかった。

 

 

「目的は裏切者の暴走を止めることだ。十分か?」

 

 

「不十分だ」

 

 

バッサリと大樹は切り捨てた。宮川の視線が鋭くなる。

 

 

「———『邪神』の存在だ」

 

 

「……辿り着いたのか」

 

 

キンッ!!

 

 

―――大樹の刀と宮川の銃がぶつかりあった。衝撃波で地面にヒビが入るが、両者は武器をぶつけたまま動かない。

 

突然の出来事に原田は置いて行かれる。目を疑う光景に動けなかった。

 

 

「知ってること、全部吐けよ。神だろうが天使だろうが、隠し事をして俺たちを見下し笑う奴は許さねぇ」

 

 

「……『邪神』は、冥府神(めいふしん)ハデスのことだ」

 

 

「ハデス……!」

 

 

オリュンポス十二神の隠れた一神の名を聞いて大樹は歯を食い縛る。

 

敵も味方も神と来た。ふざけた野郎共の馬鹿騒ぎに巻き込まれた俺たちを何だと思っている。

 

 

「この戦いは地下の存在とされる神の反乱だ。ハデスは保持者を利用してゼウスたちを抹殺しようとした」

 

 

「利用……? ガルペスの背後にハデスが居たということか?」

 

 

「いや、ハデスが仕掛けるよりも先に保持者が問題を起こした」

 

 

言うまでも無く、ガルペスのことだと分かった。それなら話が繋がる。ガルペスが他の保持者たちを背後から操っていたことを知っているのだから。

 

 

「神は保持者をハデスの対抗策にするつもりだった。それが根元から折られたから、違う手段を用いた」

 

 

「違う手段?」

 

 

「一人の保持者に、十二神の力を注ぐことだ」

 

 

その時、目眩に襲われた。

 

言われた言葉が衝撃的過ぎて、理解することを脳が拒んでいた。

 

構わず宮川は続けた。

 

 

「保持者から神の力を全て奪う。それが神の出した最後の———」

 

 

バギンッ!!

 

 

宮川の銃が粉々に砕け散る。大樹の【神刀姫】は宮川の頬を切っていた。

 

血が下へと流れ落ちる。動揺を一切見せない宮川は大樹を正面から見ていた。

 

 

「舐めるなよ……! それを知っていて、俺にやらせたのか……!」

 

 

「知った所で何が変わる?」

 

 

「大樹! もうやめろ!!」

 

 

間に入って来た原田が腕を使って大樹と宮川を引き離す。大樹は苦しそうに下唇を噛んでいた。

 

 

「……ガルペス=ソォディアは保持者の力を奪い回っていた。そんな危険な存在を倒したお前なら、と神は考えている」

 

 

「……そうか、分かった分かった」

 

 

刹那———大樹から神の力が溢れ出した。神々しく光輝く右手を前に出して、宮川に宣言する。

 

 

「———ハデスの野郎と、一緒にぶっとばす。クソ神共は一発殴らねぇと気が済まねぇ」

 

 

親指を下に向けて、神共に対して宣戦布告した。

 

 

「大樹……!」

 

 

「原田。お前が止めろよ。止めなきゃ神殺しの汚名がついちまう」

 

 

力を抑えた大樹は歩き出す。宮川は後ろから声をかける。

 

 

「質問は終わりでいいのか?」

 

 

「手掛かりは一応ある。今更何を聞いても、絶対に神はぶん殴る」

 

 

「……そうか」

 

 

宮川は目を伏せて血を拭き取る。そこには傷が残っていなかった。

 

原田と大樹は振り返ることなく、その場を後にした。

 

 

________________________

 

 

 

「フッ!!」

 

 

力を込めて拳を前に突き出す。すると衝撃波と暴風が同時に渦を巻いて放たれた。

 

翼を羽ばたかせて体をコントロールする。上空五千メートルで鍛錬をするのは自分くらいだろうか。

 

雲の上で一人、集中して戦いに備えていた。

 

 

(ジャコとリィラの力は完全ではないが、九割は使いこなせている。だけど……)

 

 

最後の壁である―――【最終制限解放(エンド・アンリミテッド)】は未だに使えない。

 

ガルペスが見せた圧倒的な力は今でも思い出せば体が震える。神の全てを一点に収束させた力は凄まじいモノだった。

 

 

「はぁ……焦っても仕方ないが、危機感は覚えねぇとな」

 

 

深呼吸して落ち着く。すると同時に携帯端末から着信音が鳴り出す。

 

 

「もしもし?」

 

 

『アタシよ。今どこにいるのよ?』

 

 

電話の相手は琴里ちゃん。空の上と答えたらドン引きそうなので、少しオシャレな感じを出してみる。

 

 

「月光に照らされ、輝く白き床を踏みしめて———」

 

 

『空ね。はいはい、今すぐ帰って来なさい』

 

 

動揺する素振りを見せるどころか、呆れられている件について。というか何で分かった。

 

 

「何かあるのか?」

 

 

『逆に何か無いと思うのかしら?』

 

 

「新しい返しが来たなおい。何があるのか教えてくれよ」

 

 

『もちろん、大樹が困ることでしょ?』

 

 

「あ、当たり前のように言われたぜ……」

 

 

『すぐに来なさいよ』

 

 

そう言って電話の通話が切れる。いつもの流れだとアレな感じになるが、帰ろう。帰らない選択肢はバッドエンド行きな気がする。

 

翼を消して、空から急降下して【フラクシナス】へと落ちた。

 

 

________________________

 

 

 

 

「というわけで、第一回『大樹君、士道君、二人の愛を奪い合い大会』を始めます!」

 

 

「「ちょっと意味が分からない」」

 

 

突然ハイテンションで隣で宣言するのは中津川。俺と士道は首を横に振った。

 

【フラクシナス】の大きな一室は無数のモニターに囲まれ、バライティ番組のような部屋に変わっていた。一体何が起きているのか俺と士道は理解できなかった。

 

 

「ルールの説明は不要ですね。名前の通りなので」

 

 

「一番いる。俺たちが」

 

 

「はぁ……各種目で女の子が大樹君か士道君を奪いに来ます」

 

 

「溜め息溜め息」

 

 

殴りたくなる衝動を抑えているが、女の子が奪いに来るというワードが気になった。

 

 

「つまり———嫁が俺を奪いに来るのか?」

 

 

「YES」

 

 

「神イベキタこれ」

 

 

中津川と友情の握手をかわす。それを士道は微妙な表情で見ていた。

 

 

「おい士道! お前の大好きな女の子が奪いに来るんだぞ!? もっと喜べよ!」

 

 

「だって……いつもと同じように嫌な予感が」

 

 

「さぁ始めましょう! まずは『鬼ごっこゲーム』です!」

 

 

中津川が宣言すると、壁に備え付けられた大きな画面にバン!と映し出される。

 

ルールが記載されていた。女の子が俺と士道を追いかけるらしい。女の子が俺か士道にタッチすればポイントが手に入る。最終的にポイントが一番高い女の子が勝ちというゲームだった。

 

 

「一番ポイントの高い女の子には大樹君か士道君を選ぶことができます。そして、何でも一つだけお願いすることができます!」

 

 

「ガタッ」

 

 

「鼻血が出てるぞ大樹」

 

 

受け身とは新しい。一体何を要求されるんだ俺!!

 

 

「さぁ始めましょう! フィールドは【フラクシナス】の中です! スタート!」

 

 

開始のアラームが鳴ると同時に扉が開く。そこには女の子たちが待っていた。

 

だが、大樹と士道は明らかに不自然なモノを目撃する。

 

士道が中津川に尋ねると同時に大樹は全力で逃げ出した。

 

 

「大樹!? えっと、アレは何!?」

 

 

「何ってプラカードのことですか?」

 

 

全員女の子は首からプラカードをぶら下げている。十香は『一分間膝枕』で、四糸乃は『前からハグ』とか書かれている。

 

中津川は笑顔で説明する。

 

 

「説明不足でした。捕まったらプラカードの要求に必ず答えてください」

 

 

「ああ、なるほど……」

 

 

士道は苦笑いでその場から逃げ出した。

 

先陣を切ることに成功したのは折紙と黒ウサギ。彼女のプラカードにはこう書かれていた。

 

 

―――『砲冠(アーティリフ)

 

―――『インドラの槍』

 

 

「ふざけるなよクソがあああああああああァァァ!!」

 

 

完全に殺しにかかっていた。

 

 

 

________________________

 

 

 

 

「待ってください大樹さん!? どうして逃げるのですか!?」

 

 

「逃げるに決まっているだろ!?」

 

 

どうやら黒ウサギたちはプラカードに書かれた文字が見えないようだ。そりゃそうだ。分かっている状態で俺をタッチするなど非道過ぎる。ドSのレベルちゃう。

 

黒ウサギと折紙の猛攻を避けながら後ろ向きに逃げ出す大樹。すると背後からアリアが襲い掛かって来た。

 

プラカードの内容は———『風穴』。

 

 

「死んでたまるかああああああァァァ!!」

 

 

「ちょっと!? 何で避けるのよ!?」

 

 

その場で体を無理矢理ひねらせてアリアの手からも避ける。根性と意地で耐え抜いていた。

 

神の力を使う程のことじゃないが、使えば負けな気がする。何か負けな気がする! 大事なことなので二回言いました。

 

 

「動かないで大樹!」

 

 

「待ちなさい大樹君!」

 

 

後ろから美琴と真由美が追いかけて来た。プラカードの内容は———『超電磁砲(レールガン)』と『ドライ・ブリザード』だって!

 

……自分、泣いてもいいですか?

 

 

「何でだ! どうして俺たちは愛し合えないんだ!」

 

 

「逃げなければいい話しでしょッ!」

 

 

「無理ッ!」

 

 

アリアの手を避けながら涙をホロリと流す。同時に大きく後ろに跳んで距離を取る。

 

その瞬間、足元に魔法陣が浮かび上がった。魔法に気付いた時には遅く、体が床に張り付いた。

 

 

「ぐぅ!? 優子の魔法か!?」

 

 

「当たりよ!」

 

 

魔法を発動した優子が走って来る。『破壊の猛威(ヴートディストラクト)』のプラカードをぶら下げた恐ろしい女の子がこっちに来る。

 

 

「死ぬ!? それ死ぬ!? 一番死ぬ!?」

 

 

「何を恥ずかしがっているのよ!? いつもの大樹君なら大丈夫なはずでしょ!」

 

 

「勘違いしてる!? 恥ずかしさで死ぬんじゃない! 物理的に死ぬの!」

 

 

運営陣め! 俺が自分から女の子に突っ込むことを考慮して、こんな外道なプラカードを作りやがったな!

 

右手を床に叩きつけて魔法陣を砕く。急いで立ち上がり走り出すが、前方からティナが迫っていた。

 

プラカードの内容は———『キス』……だと!?

 

 

「俺の嫁はティナだあああああァァァ!!」

 

 

「「「「「なッ!?」」」」」

 

 

両手を広げながらティナを抱き締めようとする。ティナも両手を広げて俺に抱き付こうとしていた。

 

そして、近くまで来たことで気付く。『キス』の前に小さな文字が書かれていることを。

 

 

『士道がティナに―――キス』

 

 

全知全能である神の力を使い、最強の動きで俺はティナの抱き付きを回避した。

 

 

「大樹さん!?」

 

 

「安心しろ、ティナ」

 

 

神の力を解放した俺は笑みを浮かべながら約束する。

 

 

「例えこのゲームが死ぬまで続くとしても、俺は未来永劫、絶対に捕まらねぇ!!!」

 

 

「凄いショックを受けましたよ大樹さん!?」

 

 

泣きそうな顔になるティナ。分かってくれ、お前に捕まった時、一番泣くのは俺だ。

 

とにかく、これで嫁に捕まるわけにはいかなくなった。これは俺の負けで良い。今は神の力を解放して絶対に捕まらないことだけに集中する。

 

廊下を全力で駆け抜けて逃げる。部屋の一室に身を潜めようとした時、

 

 

「見つけましたわよぉ」

 

 

狂三の声にゾッとする。全力でその場から跳んで後ろに下がる。

 

そこには狂三の姿があった。両手を広げて俺を捕まえようとしていた。

 

嫁と同じならとプラカードを恐る恐る見ると———

 

 

「大樹さん、捕まってくださる?」

 

 

―――『一分間、後ろからハグ』

 

 

一瞬、狂三に飛び込みそうになった自分を殴りたい。

 

罠だ。これに飛び込めば浮気確定。裁判で死刑になる勢いだ。

 

安心した所にそれを持ちこむのは卑怯だろ。童貞の俺にそんなプラカードを見せるのやめろよ。

 

 

「見つけましたよだーりん!」

 

 

「そこから動かないで!」

 

 

振り返れば美九と万由里が走って来ていた。二人のプラカードは———『一分間膝枕』と『一分間恋人繋ぎ』だった。

 

 

ガスッ!

 

 

一歩前に踏み出した自分を殴った。誘惑を断ち切るんだ俺。

 

挟み撃ちにされそうな状況で考える。何か、良い方法はないかと。

 

 

(プラカード……?)

 

 

その時、大樹の脳に電撃が走った。

 

何故女の子はプラカードをぶら下げているのか。そこに意味があるとするなら———俺は嫁を愛せる。

 

 

シュンッ!!

 

 

風を切るような速度で大樹は美九と万由里の間を駆け抜ける。

 

 

「え?」

 

 

「ちょっと?」

 

 

美九と万由里は気付く。自分の首からぶら下げたプラカードがなくなっていることに。

 

そして、ニヤけた顔で大樹は叫ぶ。

 

 

「これで嫁とラブラブだああああああァァァ!!」

 

 

「「「な!?」」」

 

 

プラカードの交換。どうして今まで気付かなかった。

 

これを嫁にあげて使えば無敵最強じゃないか!

 

プラカードを自分の首からぶら下げて女の子を探しに行く。ルール上、プラカードを要求に応えるのは俺でも良いはずだ! ダメとは聞いていないからな!

 

そう、どっちでもいいのだ。

 

 

「クックックッ、この3つならインドラの槍程度、等価交換どころかお釣りが全然出るくらいだ……」

 

 

常識どころか頭のネジが数十本飛んでいる大樹。善からぬ妄想ばかりするせいで、女の子のプラカードを奪えば回避できることに気付いていない。

 

廊下を音速で駆け抜けるとすぐに黒ウサギを見つけた。

 

 

「だ、大樹さん!? それは……!?」

 

 

「イチャイチャ3分間セットだ」

 

 

「何でドヤ顔なんですか!? どこから手に入れて……そ、それは黒ウサギとしても嬉しいですが、黒ウサギも持っていますからね!」

 

 

「黒ウサギ、それでイチャイチャは絶対に無理だ」

 

 

お互いに顔を赤くする。あ、アレ? 黒ウサギにタッチするだけでいいのに、何か恥ずかしい。凄く恥ずかしい。

 

ビビっているのかな? 足が動かない。

 

 

「だ、大樹さんの方から来ると調子が……」

 

 

「お、おい! それを言うのは卑怯だろ……!」

 

 

何だこの空気!? いつもの俺はどこ行った!? 女の子を押し倒すぐらいの勢いがあってもいいだろ!?

 

 

バシュンッ!!

 

 

突如左右の頬に何かが掠った。頬から血は出ていないが、電撃と銃弾だと分かった。

 

振り返ると、心臓が凍り付くような恐怖に襲われた。

 

 

「大樹……アンタはやっぱり胸が大きい子がいいのね……」

 

 

「風穴よ……その煩悩、消してあげるわ……」

 

 

「待ってくれ。俺は美琴やアリアともラブラブな関係を……!」

 

 

その時、地面に魔法陣が出現した。また優子の魔法か!?

 

急いで逃げ出そうとするが足が凍り付き、そこから動けなくなった。

 

真由美との魔法連携。本来ならお互いに打ち消し魔法は起動しないはずなのに、彼女たちはお互いを阻害しないように魔法を発動する高度な技を使っていた。

 

 

「おぼッ!?」

 

 

顔から床に倒れる。手も床に張り付くように凍り付き、動けなくなった。

 

神の力を使って脱出しようとするが、既に遅かった。

 

全員が俺を囲むように立っている。ニコニコと黒い笑みを見せながら俺を見ていた。

 

 

「待って……話を……!」

 

 

「最初から全員で捕まえれば良かったのよ」

 

 

「優子の言う通りよ、私たちは大樹君のことが好きなんだから」

 

 

優子と真由美は魔法を解く気配はない。必死に首を横に振るが、

 

 

「無理だって! 一人なら耐えれるけど全員は無理! 死んじゃうから! ホント死んじゃう!」

 

 

「大樹さんなら耐えれます」

 

 

「大樹がどれだけ鼻血を流しても、私の気持ちは変わらない」

 

 

「違うから! そのプラカードはイチャイチャすることが———頼む!? 全員のタッチだけはあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

とにかく―――大樹は全てのプラカードの要求に従った。

 

 

________________________

 

 

 

ボロ雑巾のようになった大樹は死んでいた。床に倒れて「我が生涯に悔いはない」と言い残して。

 

全ての攻撃を受けた後はお待ちかねのイチャイチャ3分間セット、計21分を体験した。意識が朦朧とする中、大樹は幸せを感じてその人生に幕を下ろした。

 

 

「士道君は無傷でしたね」

 

 

「いや大樹だけ厳しかっただけですよ」

 

 

士道は疲れた表情をしているが、女の子とイチャイチャしたことには変わりない。大樹が生きていたらぶっ飛ばしていた。

 

 

「さて、次のゲームは『王様ゲーム』!!」

 

 

「っしゃオラあああああァァァ!!」

 

 

「生き返った!?」

 

 

大樹の体は無傷同然になっているが、服はボロボロである。しかし元気は最高潮に達している。

 

 

「ルールは簡単。全員参加型の王様ゲームをするだけです。ただし一本だけ退場カードがあるので気をつけてください。最後の二人で王様を引いた者が勝者です」

 

 

「なるほど、1ゲームごとに一人脱落していくのか」

 

 

「そして大樹君か士道君が最後に残った場合は、女の子に何でも命令することができます!」

 

 

「エロイベ来たこれ」

 

 

「はぁ……」

 

 

大樹と中津川のテンションは上がるが、士道のテンションは下がるばかり。

 

全員が部屋に集まり輪を作る。一斉にカードを引き、番号か王様か、もしくは退場するのか。

 

 

「「「「「せーの! 王様だーれだッ!」」」」」

 

 

王様―――時崎 狂三

 

退場―――誘宵 美九

 

 

「私ですわ♪」

 

 

「がびーん! だーりんに悪戯できないまま終わるのですか!?」

 

 

「終われ」

 

 

クソ、危険な奴Aが王様を引いたが危険な奴Bは退場したか。

 

番号を確認すると『4』の数字。一人退場したから番号は残り全部で17の番号がある。その中から狂三が選ぶ確率は低い!

 

 

「では偶数の番号で話し合って、一人の服を三枚脱がしてください」

 

 

「おい卑怯だろ」

 

 

「……【フラクシナス】の乗務員からの判定はアリと来ました!」

 

 

運営クソか。でも誰かがやれば良いわけで俺じゃなくても———待てよ。

 

 

「おい偶数の奴ら、手を挙げろ」

 

 

すると美琴、アリア、黒ウサギ、ティナ、十香、四糸乃、耶倶矢が手を挙げた。

 

そこに士道はいない。俺を含めた八人の誰かが三枚の服を脱ぐしかないのだ。

 

そう、誰か、が。

 

 

「なるほど、そういうことか」

 

 

―――俺は上着を全て脱ぎ、ズボンを脱ぎ捨てた。

 

パンツだけの変態、ここに降臨。おかしい、どうして番号を当てられてもいないのに早速やられているのだ。

 

 

「ご、ごめん……!」

 

 

そう言いながら美琴は口を抑えた。何故笑う。ちょっと泣くぞ?

 

黄色のボクサーパンツと傷が残った体はどこも笑う要素ないと思うが、まぁ気まずい空気になるよりマシか。

 

 

カシャッ

 

 

「おい誰だ今写真撮った奴。出て来い折紙」

 

 

「……知らない」

 

 

犯人捜しをする前に犯人を見つけてしまった。王様引いたら消して貰おう。

 

 

「大樹さんのたくましい体はゲームが終わるまで、晒してくださいまし」

 

 

「狂三……お前は絶対に後悔させる」

 

 

その前にコイツだけは許さねぇ。

 

全員が再びカードを引く。

 

 

「「「「「せーの! 王様だーれだッ!」」」」」

 

 

王様―――四糸乃

 

退場―――時崎 狂三

 

 

「あ……わ、私が、王様……です」

 

 

「テメェ逃げやがったなぁ!!!」

 

 

「いえいえ、残念ですわ。大樹さんはあとパンツだけですのに……」

 

 

退場したことを心の底から感謝した。狂三を残すのはヤバいな。はー、良かった。

 

そして王様は優しく安全で安心させてくれそうな四糸乃。少し恥ずかしそうに命令を出す。

 

 

「よ、四番が五番に後ろから……は、ハグで」

 

 

意外と攻めるな。というか『4』は俺じゃん!?

 

不味い!? ここで嫁が来ないと危険だ……もし他の女の子になってしまったら―――死!?

 

 

「ご、五番は俺だけど……四番は誰だ?」

 

 

「……………」

 

 

男に抱き付くくらいなら、女の子に抱き付いて殺されたかった。

 

後ろから士道を抱き締めた瞬間、鼻血を噴き出しながら二亜は絵を描いた。その絵はさすがに見れなかった。

 

女の子たちが絵を見て顔を真っ赤にしている。絶対に見れない。

 

命令が終わった後、士道と俺はその場でorzで絶望した。

 

 

「もう嫌……」

 

 

「何で裸で抱き付かれたんだよ俺……」

 

 

両者の心はズタボロにされていた。楽しくない、この王様ゲーム。

 

だがそれでも続く。全員がカードを引いた。

 

 

「「「「「せーの! 王様だーれだッ!」」」」」

 

 

王様―――本条 二亜

 

退場―――黒ウサギ

 

 

嵐の王様(テンペストキング)が来たぞおい。命令が恐ろしいのだけど。

 

 

「フッフッフッ、時代が来たようだね……」

 

 

「く、黒ウサギ的には安心しました……」

 

 

邪悪な笑みを見せる二亜とホッと安堵の息をつく黒ウサギ。俺も退場したいけど、王様がしたいから抜けれない。

 

 

「少年(ツー)の番号は十番なのは精霊の力で見抜いている!」

 

 

「反則だろそれ!? というか俺に関しての情報は見れないはずじゃ……!?」

 

 

「いつから少年(ツー)だけの情報を見たと錯覚していた?」

 

 

「ハッ!? 周りの番号を全部確認して俺を特定したのか……って全員知ってるの!? チートじゃん!?」

 

 

凶悪過ぎる力に運営に反則だと言い張る。中津川はうーんっと悩んでいる。これは押せる!

 

 

「少年(ツー)に対して命令する!」

 

 

「———セーフ!」

 

 

「この野郎!!!」

 

 

何で俺ならOKしちゃうのかな!?

 

 

「少年(ツー)は番号を選んで、手の甲にキスをする!」

 

 

「なん……だと……!?」

 

 

突き付けられた命令に戦慄する。何故俺はこんなに命令ばかりされているのだと。

 

選ぶのは当然嫁の番号。しかし、番号が分からない。

 

 

(運に任せるしかない……)

 

 

俺ならシャッフルするカードは見れば分かる。だが完全記憶能力の対策をされた状態でカードは配られている為、見抜くことはできない。

 

 

「———四番だ!!」

 

 

「えっ」

 

 

四番は万由里だった。

 

 

「やっちまったああああああァァァ!!!」

 

 

両手を顔で隠して叫ぶ。女の子たちからの視線がグサグサと刺さり痛い。死ぬほど痛い。

 

万由里は左手で髪の毛をいじりながら右手を俺に出す。頬を朱色に染めて待っていた。

 

殺せ。もういいから、殺してくれ。

 

 

「な、何恥ずかしがっているのよ」

 

 

「恥ずかしい? そうだな、俺は愛する女の子の期待に応えれずに恥ずかしいよ……」

 

 

「……そう」

 

 

万由里は拗ねた表情でボソリと呟く。

 

 

「前は私からしたんだから、今度は大樹からしなさいよ……」

 

 

「ちょ」

 

 

タイムタイムタイム。タイム、イズ、タイム。(とき)は時間なり。意味が分からないけど待ってほしい。

 

俺はすぐに両手を挙げて降伏のポーズ。何とか銃や魔法を向けられた状態で収まった。

 

アリアがゴミでも見るかのような目で俺の額に銃口を当てた。

 

 

「吐きなさい」

 

 

おろろろろっと本気で吐きそうな勢いで全てを話した。何度も謝って何度も頭を地に付けた。カッコ悪いなぁ俺。

 

 

「まだ私にするキスが残っているわ。話は後にして」

 

 

万由里が俺を庇うように前に出た。それ不味いと首を何度も高速で横に振るが、万由里は続ける。

 

 

「大樹にキスして欲しいなら、王様になればいいだけの話でしょ? 違う?」

 

 

「そ、それとこれは別よ!」

 

 

「別でもいいけど———」

 

 

美琴の反論に万由里は告げる。

 

 

「———もし私が王様になったら、大樹の唇にキスするわ」

 

 

爆弾どころか核爆弾が落ちた。

 

口がポカーンと開く。美琴たちに対して宣戦布告をしたようなモノだ。

 

修羅場だ修羅場だと二亜は喜んでいるが、周りは怯えているぞ。

 

 

「……そう」

 

 

優子の短い声に俺の全身が震えた。怖い……今まで一番怖い。

 

 

「でも残念ね。大樹君はアタシたちの方が良いって思っているわよ?」

 

 

「っ……!」

 

 

優子の煽りに万由里は目を細める。本当にヤバい修羅場じゃないか。

 

ガクガクと震えていると、真由美が俺の肩に手を置いた。

 

 

「な、何だ……?」

 

 

「大丈夫よ大樹君。はやく万由里さんの手にキスして来て」

 

 

「いや、でも……」

 

 

反対の肩に手が置かれる。置いたのは折紙。

 

 

「未来永劫、彼女に触れることはない」

 

 

怖い。ただ、ただ、怖い。

 

万由里と美琴たちが睨み合う中、俺は万由里の右手を震えた両手で触る。そしてカサカサになった唇で手の甲に触れるか触れないかの距離を保ちキスをする。

 

 

「んぐぅ」

 

 

万由里は手の甲を俺の唇に押し付けて来た。不意打ちにしっかりと万由里の手にキスをしてしまう。

 

姫君に騎士がキスをする。それがパンツだけの男が美少女にキスって……犯罪だろこれ。

 

その光景に美琴たちは息を飲む。彼女たちの反応に万由里はドヤ顔で返した。

 

 

「修羅場だよ少年! 面白くなって来たぁ!」

 

 

「俺、もうやめたいんだけど」

 

 

俺もやめたいよ。パンツだけの男を取りあう絵面のヤバさを理解して欲しい。

 

退場のカードを引きたい。台風の目になっている俺が抜ければこの修羅場を止めることができるはず。

 

 

「「「「「せーの! 王様だーれだッ!」」」」」

 

 

王様―――夜刀神 十香

 

退場―――神崎・H・アリア

 

 

「よしッ!」

 

 

十香の王様には俺もグッとガッツポーズ。だがアリアが抜けてしまうのは痛い。

 

悔しそうな顔で退場のカードを見た後、俺の顔を見る。そして口パクで『風穴』と告げた。その八つ当たりは喜んで受けるから許して。

 

 

「六番は私に美味しい食べ物を持って来る!」

 

 

「超平和」

 

 

凄く安心する。でもね、六番は俺なんだよ。確率がおかしいなぁ。

 

 

________________________

 

 

 

十香にお腹一杯になるほど料理をした。久々にやりがいのある料理をしたぜ。

 

食べている十香も幸せな顔だから俺もやる気が最高にマックス。こういう子には永遠に料理を振るってあげたい。

 

 

「再開するわよ」

 

 

琴里の言葉に全員が頷く。

 

 

「「「「「せーの! 王様だーれだッ!」」」」」

 

 

王様―――鳶一 折紙

 

退場―――夜刀神 十香

 

 

「私」

 

 

平和の退場。そしてこの中で一番王様をやってはいけない者が王となった。

 

でも番号を知らない折紙は迂闊な行動はできないはず。ハードルの高い要求はしないだろう。

 

だが折紙は考える素振りを見せることなく、番号と命令を告げた。

 

 

「三番の大樹は私に―――」

 

 

「何で俺の番号を見抜いてる!?」

 

 

「匂い」

 

 

言葉を失った。意味不明過ぎて。

 

しかし、折紙は続きの言葉を言わない。迷っているように見えた。キスを要求するんじゃないのか?

 

 

(まさか……)

 

 

俺が良い形で答えを出すと言ったことを覚えていて……キスすることを自重しているのか?

 

でも万由里はキスをしようとしている。だから迷っているのか?

 

 

「折紙……」

 

 

「大丈夫。キスはしない」

 

 

決意を固めた折紙は告げる。

 

 

「大樹と〇〇〇(ピー)する」

 

 

「よし! 無駄な考えをしていたな俺! 却下!!!」

 

 

キスよりも大変なことを言い出した。女の子たちは顔を真っ赤にしている。

 

折紙は首を傾げている。何故?と言った感じで。

 

 

「駄目だろ。普通に駄目だろ。ほら、あの運営でも手をバツにしているだろ」

 

 

中津川は必死に腕でバツを作り止めていた。

 

折紙は適応されないと分かると、命令を変える。

 

 

「なら―――キス『で』我慢する」

 

 

「キス『を』我慢するんだよ」

 

 

勘違いだった。折紙は折紙だった。

 

結局、折紙の命令は『一分間抱き締める』に落ち着いた。一ヶ月抱き締めるは無理だからな!

 

 

「はぁ……終わらないかなこのゲーム」

 

 

士道の言葉に激しく同意する。

 

だがゲームはまだまだ続く。

 

 

「「「「「せーの! 王様だーれだッ!」」」」」

 

 

王様———八舞 耶倶矢

 

退場―――四糸乃

 

 

「ようやく来たか、我らの時代が! 命令は……」

 

 

どうやら考えていなかったようだ。勢いだけは良かったな。

 

とりあえず平和の天使である四糸乃がこの場から退場できたことは嬉しい。守りたい、その笑顔。

 

 

「二番が四番に……えっと、『愛してる』って百回言う!」

 

 

「適当な上に二番は俺だから!? ちょっと待て!? 何で俺はこんなに当たるんだよ!?」

 

 

全て俺が当たっていることに文句を言うが、誰も言えない。

 

不正がないことは彼女の顔を見れば分かる。だからこそ運が悪いことに呪うしかない。

 

 

「驚愕。四番です」

 

 

「だから不味いってそれぇ!!??」

 

 

夕弦が言うとまたまた視線が俺の体に突き刺さる。アリアの言う通り、風穴が開いちゃうから。

 

だがキスよりはマシだ。恥ずかしいが、百回『愛してる』と言えば終わる。

 

 

「はぁ……愛してる愛して愛してる愛してる愛してる―――!」

 

 

気怠そうな半眼で俺の告白をジッと見ている夕弦。周囲から女の子にも見られている。これ、拷問の一種だよね。

 

 

「——愛してる愛してる愛してる愛してる!! ぜぇ……ぜぇ……死ぬッ……!」

 

 

地味にキツイ命令だった。適当に命令するのやめてくれ。

 

息を荒げながら夕弦の方を見ると、

 

 

「解答。士道だったら駄目でした」

 

 

「うるせぇ知ってるんだよクソぉ!!」

 

 

少しは褒めろ! それはそれで困るけど!

 

ゲーム続く続く。最後の勝者が残るまで。

 

 

「「「「「せーの! 王様だーれだッ!」」」」」

 

 

王様———八舞 夕弦

 

退場―――本条 二亜

 

 

悦喜(えつき)。今度は夕弦のターン」

 

 

「ありゃりゃ、今度は少年に仕掛けようと思ったのに」

 

 

ようやく嵐は去った。二亜の言葉を聞いた士道はブルッと震えて、ホッとしていた。チッ、一度くらい痛い目に遭えよ士道。

 

 

「苦悩。今度は……五番が三番に『結婚して』と百回言います」

 

 

―――さすがにおかしい。だって五番が俺ですから。

 

三番の耶倶矢は少し驚いているが、俺はこの怪しい状況について考える。

 

 

「八舞 耶倶矢、俺と結婚して。お前は可愛い結婚して。話をしていて結婚して。楽しい結婚して」

 

 

「へ!?」

 

 

さっきと同じじゃつまらないので、耶倶矢には特別に褒め言葉を混ぜながら結婚してと言った。

 

女の子のレーザー光線級の視線を浴びるが、俺は番号を当てられた原因を探る。

 

 

「———というわけで結婚して。はぁ……時間が凄いかかったけど」

 

 

「~~~~~!!!」

 

 

耶倶矢は床に倒れてジタバタと悶えていた。可愛い生物発見。

 

女の子に軽蔑されるような視線を受けるが、一つの策を気付かれないように打つ。

 

 

「「「「「せーの! 王様だーれだッ!」」」」」

 

 

王様———木下 優子

 

退場―――五河 士道

 

 

「やっと来たわね。それじゃあ……」

 

 

優子は悩むように視線を動かした後、

 

 

「そうね、六番が———」

 

 

「お! やっと外れてくれたぜ」

 

 

「———え?」

 

 

大樹がカードを優子に見せると、そこには『5』が書かれていた。そのことに優子は大きく驚くと同時に万由里も驚いていた。

 

 

「私も五番を持っているのだけれど……」

 

 

「あ? じゃあ運営のミスじゃねぇの? 仕切り直しにしようか」

 

 

気まずい空気の中、大樹だけが元気に振舞っている。周囲の女の子たちは静まり返ってしまうが、もう一度カードを引き直した。

 

 

「「「「「せーの! 王様だーれだッ!」」」」」

 

 

王様———七草 真由美

 

退場―――八舞 耶倶矢

 

 

「そ、そうね……番号は七番で———」

 

 

「ちなみに俺は一番だ」

 

 

カードを見せると真由美は表情を引き攣らせた。同時に士道も『1』のカードを持っていることを皆に知らせる。

 

「なるほどなるほど」と大樹はうんうん頷くと、笑顔で告げた。

 

 

「鏡か」

 

 

ビクンッと女の子たちの体が震えた。

 

振り返ると暗くなった画面が俺の背中を映し出していた。目の前のことに集中し過ぎて、こんな単純なことに気付かなかった。

 

 

「それで見えなかったら二亜にアイコンタクトを送ればいいだけの話だもんな?」

 

 

「あーバレてる?」

 

 

逃げようとしている二亜を逃さない。目を泳がせている彼女の前に立ち退路を断つ。

 

 

「別に怒っているわけじゃない。それに、無防備だった俺が悪いからな」

 

 

十香や四糸乃たちはそんなことをせずに俺を当てたからな。断定的に決めつけはよくない。

 

だけどっと言い、大樹は邪悪な笑みを浮かべた。

 

 

「———ここからは、本気出すわ」

 

 

―――ここからは、ずっと俺のターンだ。

 

 

________________________

 

 

 

右目を黄金色に輝かせた大樹の言葉に周りの人間は息を飲む。

 

大樹は中津川の方を向くと、

 

 

「ルール変更だ。今から脱落者は全員復活。脱落者はなしにして、王様を引いた奴が自分の勝ちを宣言するか、命令するかにしろ」

 

 

「え? いやそれは……」

 

 

「しろ」

 

 

「はい」

 

 

【神刀姫】を取り出して脅す。中津川が何度も縦に首を振った。

 

カードがシャッフルされて全員が引く体勢に入る。

 

そこで黒ウサギが苦笑いで大樹に尋ねる。

 

 

「酷い命令はダメ、ですよ?」

 

 

「……………」

 

 

無言の大樹に戦慄する。そして、カードが引かれた。

 

 

「「「「「せーの! 王様だーれだッ!」」」」」

 

 

王様———楢原 大樹

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

全員が参加しているにも関わず、引き当てたのは大樹。間髪入れずに命令する。

 

 

「3番は4番を、4番は5番を、5番は3番の尻を一緒に十回叩く」

 

 

「「「なッ!?」」」

 

 

顔を真っ赤にしたのはアリアと優子、そして万由里だった。大樹は早くしろと言っている。

 

 

「な、なんて命令しているのよ!?」

 

 

「俺のパンツよりはマシだろ? それともパンツが良いなら命令し直すが?」

 

 

本気で言っている大樹にアリアは愕然とする。

 

嫌々な顔をした彼女たちは相手のお尻を叩けるように円を作って立つ。腰を少し低くして、顔を真っ赤にした。

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

「「「んっ……!」」」

 

 

乾いた音が何度も響き渡る。小刻みに震えた三人は息を少し荒げながら命令に従っていた。

 

それを見る女の子たちの顔も赤かったが、

 

 

「次はだ~れかなぁ~」

 

 

大樹の声を聞いた瞬間、真っ青に変わった。

 

命令が終わるとアリアと優子、そして万由里は大樹を涙目で睨み付けるが、

 

 

「ん?」

 

 

凶悪な笑みを見せた。思わず顔を背けてしまう。

 

 

「じゃあドンドン次に行こうか」

 

 

「「「「「せーの! 王様だーれだッ!」」」」」

 

 

王様———楢原 大樹

 

 

ペロペロと美味しそうに王のカードを舐める大樹。それはおかしいと誰かが抗議の声を上げるも、

 

 

「証拠出したら認めるよ。まぁ無理だろうけどな」

 

 

カードの番号を知る不正とは違って、王のカードを引くことは容易に想像できなかった。

 

大樹に王を引かせない為に、次の手を考えるが、

 

 

「2番はスカートが短いメイドのコスプレ、7番はスク水、9番はバニーガールだ」

 

 

真由美はメイド、美琴はスク水、狂三はバニーガールのコスプレに着替える。三人はそれぞれ着た服を気にしながら顔を赤くしていた。

 

 

「何でこんなに短いのよ……!」

 

 

「最悪だわ……ホント……」

 

 

「ど、どうしてこんな大胆な服が……」

 

 

戸惑いと羞恥が混じり合う三人だが、大樹はゲームの続行を待っている。

 

カードをまた引こうとした時、アリアが待ったと止める。

 

 

「大樹。アンタは最後に引きなさい」

 

 

「いいぜ」

 

 

「———え?」

 

 

「いいぜ。先に引きなよ。俺は最後に引くから」

 

 

あっさりと許してしまう。カードを引くときに小細工を仕掛けたかと思っていたアリアは驚く。

 

全員がカードを引いた後、最後に残ったカードを大樹は表にする。

 

 

「王様おーれだ」

 

 

王様———楢原 大樹

 

 

「「「「「なッ!?」」」」」

 

 

計画通りとでも言いたげな顔で王のカードを見せびらかす夜〇月がそこに居た。

 

 

「俺を誰だと思っている? 神様仏様女神様にハナクソを飛ばせるような男だぞ?」

 

 

何が言いたいのかは分かるが、それではただのクソ野郎である。

 

 

「さぁ……ゲームはこれからだぜ?」

 

 

それから一時間、大樹の独壇場と化した王様ゲームが繰り広げられた。

 

 

________________________

 

 

 

連続32回の王のカードを引き続けた大樹は満足そうな顔で勝利宣言した。誰一人まともな服は着ておらず、無害だった精霊たちも後半は巻き込まれていた。

 

最後に王のカードを引けた理由を聞くと、

 

 

「リィラの天界魔法で俺の幸運を最高に引き上げただけだ。ま、運も実力の内って言うし良いよな」

 

 

———がっつり卑怯な不正していた。

 

 

「うぅ……大樹さんに、傷物にされました」

 

 

「黒ウサギ。誤解を生む言い方はやめろよ。俺は『2番が5番のスカートの中に頭を突っ込む』としか言ってないだろ」

 

 

「2番が駄目なんですよ!?」

 

 

美九は駄目か。大丈夫、知ってる。

 

 

「別に俺は何もしていないし? 王様だから、命令しただけだし?」

 

 

「本気であの憎たらしい顔に風穴開けたいわね……!」

 

 

アリアが銃を俺の顔を狙う。当たらないけどやめてくれ。

 

 

「もー、だーりんとイチャイチャできないなら意味がないですよー」

 

 

「安心しろ。自分の命を粗末にする真似はしない」

 

 

「してるわよ馬鹿」

 

 

美九の文句に冷静に返すが、美琴のツッコミに何も言えなくなる。そ、粗末にしているわけじゃないもん! ちょっと体を張らなきゃいけなかっただけだもん!

 

 

「はぁ……何の為の王様ゲームよ……」

 

 

「ええ、もう企画倒れですわ」

 

 

「あ? 万由里、狂三。まるで俺とイチャイチャしたかったように聞こえるぞ? おん?」

 

 

王になった気分の余韻が残っているせいか強気に出る。しかし、万由里と狂三はクスリと笑い出した。

 

 

「そうじゃないの?」

 

 

「私たちはそのつもりでしてよ?」

 

 

「……いや、そういう冗談……ちょっと待とうか」

 

 

顔を背けて待ったする大樹。不覚を取られた愚かな男は耳を塞いで部屋の隅に逃げる。

 

 

「あーあーあー、嫁を愛してる愛してる。超ラブラブ。よし」

 

 

「よし、じゃないわよ。今の自己暗示は何よ」

 

 

琴里にツッコミを入れられるが、簡単に説明する。

 

 

「浮気防止の自己暗示。琴里ちゃんも使うだろ? お兄ちゃん愛してる愛してる。超ラブラブって」

 

 

ゴスッ!!

 

 

思いっ切りグーで殴られたよ。その場に倒れるが、琴里への反撃は止まらない。

 

 

「はあああ! お兄ちゃん大好き! くんかくんか! もうらめええええって言ってるだろ!?」

 

 

「【灼爛殲鬼(カマエル)】!!」

 

 

本気で殺されそうになったので【秩序支配神の世界翼(システムルーラー・ワールドフリューゲル)】で打ち消す。

 

だが物理攻撃は消せなかったので、パンチの連打を顔面で受け止めることになる。

 

 

「ぐふッ」

 

 

「次はもぐわ」

 

 

お股がゾッとした。

 

琴里をからかうのはやめた後、肩にポンッと手が置かれる。

 

 

「大樹君? 琴里ちゃんで誤魔化そうとしても無駄よ?」

 

 

優子の顔を見て俺は正座する。不意打ちでドキッとしたことに関して反省していた。

 

うん、駄目だよね。好きな女の子の前で他の女の子にトキメクなんて。

 

 

「別にいいわよ。私は全然構わないわ」

 

 

「だーりんはだーりんですからねぇー」

 

 

「むしろ大樹さんらしいですわ」

 

 

すると後ろから万由里、美九、狂三が俺に抱き付くように近づいて来た。こればかりはドキッより、ゾッとした。

 

目の前では怒気のオーラを漂わせる優子たち。ふーん?言い訳することはある?と目で聞かれているようだった。

 

 

「お、お前ら!? 本気で大丈夫か!? 俺だぞ俺!? 男を見る目がないぞ!?」

 

 

「大樹さん!? それだと私たちが見る目がないことになりますから!?」

 

 

ティナのツッコミにハッと我に返る。本当だ、嫁を凄いディスってる!?

 

自分の発言を反省していると、美九は更に抱き締める力を強めてきた。

 

 

「いいじゃないですかー! だーりんが何人も愛する人を作っても許しますよー? 私も愛してくれれば満足ですし……だーりんと一緒に愛する女の子とも合法的にイチャイチャできますからー!」

 

 

心が広いってレベルじゃねぇ。何かもうヤバい。

 

 

「それが大樹だから私も気にしないわ。私はのけものにはしないで欲しいと思っている」

 

 

「大樹さんの良い所の一つですわ。嫌とは思わないですもの」

 

 

万由里と狂三も張り合うように力を強める。柔らかい感触が体を包み込み、体が熱くなるのを感じる。

 

その時、大樹は強める力と同時に震えていることにも気付いた。

 

 

「……なぁ、この企画ってどういう意味だ琴里?」

 

 

「ッ……どういう意味って?」

 

 

「まさかと思うがお別れ会の代わり、とか言わないだろ?」

 

 

琴里は黙ったまま目を逸らす。無言の肯定を意していた。

 

周りもシンッと静まる。気を遣っていたことを理解した大樹は、

 

 

「———くだらねぇよ」

 

 

呆れるように溜め息を吐いた。

 

そして抱き付いた三人を抱き上げて立ちあがる。

 

 

「くだらねええええええええええええェェェ!!!」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

そのまま全員を巻き込むように走り出し、無理矢理全員を抱きかかえた。

 

最後は山のように積み上がる女の子たちに押し潰されてしまう。

 

 

「きゅ、急に何なのだ!?」

 

 

「驚愕。突然何をするのですか」

 

 

十香と夕弦が大樹の体の上に乗りながら文句を言うが、大樹はそれでも叫んだ。

 

 

「くだらねぇんだよ!! 俺は、大好きなお前らと最後なんざ絶対にありえない!」

 

 

叫ぶ言葉に全員が聞く。大樹は大声で何度も言い聞かせた。

 

 

「世話になった全員に『ありがとう』って、『これからもよろしく』って、爺さん婆さんになるまでずっと馬鹿みたいに笑う日々を送るのが俺の理想だ!」

 

 

今までの出会いに感謝し、これからも感謝をする。

 

 

「これで終わりじゃねぇ! これからも終わりはねぇ! 永遠に『よろしく』するんだよ!!」

 

 

息を切らしながら言い切ると、大樹はグッと手を掴んだ。

 

 

「だから、元気出せよお前ら」

 

 

―――誰かが嗚咽を漏らしながら返事をした。

 

誰が泣いていたのかは分からない。身動きの取れない状況の中、確認するのは困難だった。

 

そのまま泣き止むまで、誰一人動こうとしなかった。

 

 

________________________

 

 

 

「でもな、限度はあると思うんだよ」

 

 

大きなベッドで寝ている大樹は独り言のように呟く。いつものように寝巻に着替えて寝るのだが、美琴やアリアが隣に居ることはおかしくはない。おかしいけど、おかしくない。

 

でも、美九と狂三、万由里が居るのはおかしいと思うの。

 

三人は薄いネグリジェを着ており、密着していた。絶対に許されない行為なはずなのに、今日だけは特別だと美琴たちは許してしまったのだ。

 

冗談かと思っていたらこれだ。嘘でもなかった。

 

女の子たちは張り合っているせいか体中が痛い。そんなに強く掴まなくても大樹さんは逃げませんよ。

 

 

「モテ期だなぁ。嬉しいけど、複雑な気持ち」

 

 

「顔がニヤけていますよ」

 

 

寝ていたはずのティナの指摘に固まってしまう。お、起きていたのか。

 

ティナは俺の顔を覗くようにジト目で見ていた。

 

 

「大樹さんはどうしようもない変態さんです」

 

 

「否定はしない」

 

 

「してくださいッ」

 

 

ズビシッと頬を指で突かれる。もう立派な変態に変わり果てたよ。

 

ふとティナの指に突かれてあることを思い出す。

 

 

「ティナ。新薬の抑制剤の調子はどうだ?」

 

 

ガストレア因子を宿したティナは常に抑制剤を打つ必要がある。今まで使っていた抑制剤は効力を上げていたが、俺の知識と顕現装置(リアライザ)を用いて新たな新薬の開発に成功していた。

 

 

「はい、アレから抑制剤を一度も使っていない状態で検査したところ……」

 

 

「どう、だった?」

 

 

「———浸食率が変動しませんでした」

 

 

思わず大声で歓喜の声を上げそうになっていた。

 

呪われた子どもたちの呪いを封印することができたと言って過言では無い。ガストレア化を完全に止めた証拠なのだ。

 

新薬の効力――—それは諦めていた遺伝子情報の凍結だ。

 

ガストレア因子は遺伝子情報を書き換える。その大事な情報を固定することで浸食を止めることができたのだ。

 

更に部分的凍結できるので体の成長も止めることなく浸食を防げる。体が子どものままだと大変だからな。いろいろと。

 

百年後の近代技術でも、魔法でも、叶えることができなかった。それが今、叶ったのだ。喜ばないわけがない。

 

ティナをグッと抱き締めて喜びを分かち合う。ティナも抱き締め返していた。

 

 

「これで延珠ちゃんたちも……」

 

 

「もう原田に頼んである。明日、帰って来るから……!」

 

 

「大樹さん……ありがとうございます」

 

 

「礼なんていらねぇよ。ここまで来れたのは皆のおかげだ。俺が生きていなきゃ叶わない願いで終わった」

 

 

「……そうですね、言葉はいらないですよね」

 

 

―――ティナは顔を近づけて俺の頬に優しく口付けをした。

 

 

「これでいいですよね?」

 

 

「ッ—————!!」

 

 

最高な可愛さに俺はティナを強く抱きしめる。

 

 

「お前はホント可愛いなおい!」

 

 

「だ、大樹さん……声が大きいですッ」

 

 

おっと。ここで起きると非常に不味いよな。

 

もぞもぞと女の子たちは動くが、起きている様子はない。

 

 

「……明後日には大樹さんの世界に」

 

 

「ああ、そこに手掛かりがある」

 

 

抱き締める力を強めるティナに俺も抱き締める力を少し強める。

 

不安な気持ちになるは当然だった。安心させるように俺は笑う。

 

 

「俺の家に着いて、間違っても俺の部屋は入らないでくれ」

 

 

「はい、燃やします」

 

 

よし、言葉が通じていないな。燃やすとはどういうことだ?

 

 

「……エロ本とか持ってないし」

 

 

「……あるんですね」

 

 

見破られる素振りを見せてもいないのに!?

 

 

「私は何もしませんよ」

 

 

「そ、そうか? なら大丈夫―――」

 

 

「皆さんに報告するだけです」

 

 

「———それ大丈夫じゃないやーつ」

 

 

両親が死んだ俺の部屋を片付けていますように。心の底から願うしかなかった。

 

 

________________________

 

 

 

「まーる書いてちょん♪」

 

 

「誰がドラ〇もんを書けと言った」

 

 

魔法陣で遊ぶのはもちろん俺。楢原 大樹以外に居ると思うか?

 

 

「完成———円周率の最後の数字の導き方!!」

 

 

「ノーベル賞待った無しの数式を書くな!? というかこれマジか!?」

 

 

いや嘘だけど。

 

適当に書いた数式に打ち震える原田を無視して俺は荷物を背負う。魔法陣の前には士道を始め、【フラクシナス】のクルー、精霊たちが集まっていた。

 

女の子たちは最後の別れを告げているのを遠くから見ていると、

 

 

「当たるか」

 

 

「くっ、腕を上げましたねだーりん…」

 

 

美九の抱き付きを回避する。続けて狂三と万由里も来るが避ける。

 

ジーッと無言で見られるが、平気な顔でいると寂しそうな表情に変わった。それはズルいだろ。

 

 

「はぁ……ホラよ」

 

 

両手を広げた瞬間、前からの衝撃に耐えれず床に倒れた。

 

 

「ぐはぁ!? 殺す気で抱き付くなぁ!? おい馬鹿!? 首が締まってぇ……うっぷ」

 

 

チーンといつものようにお亡くなりになる大樹。苦笑いで士道は見届け、琴里は溜め息を漏らした。

 

 

「変わらないな」

 

 

「ええ、良い意味か悪い意味なのか分からないけど」

 

 

「ハハッ、そりゃ良い意味だろ」

 

 

笑ってないで助けてくれませんかね。

 

 

「それよりも、ちゃんと帰って来なさいよ?」

 

 

「うむ! 大樹の料理はまた食べたいからな!」

 

 

「そうね十香。帰って来たらこの世界の料理を全部食べさせてくれるわよ」

 

 

「ハードル上げ過ぎ案件」

 

 

俺が動けないことを良い事に無理矢理十香は約束した。指切りまでされると破れないな。

 

 

「嘘ついたら鏖殺公(サンダルフォン)千本よ」

 

 

「もはや殺戮(さつりく)

 

 

絶対に破れない約束がここにある。

 

 

「先生!」

 

 

「うお! サル君!!」

 

 

『猿の神手』と呼ばれる医者———猿飛 真。

 

電話でお礼を言った後は「マジで猿神(ゴッドモンキー)じゃんww」と笑うと「ええ! なれました!」と喜ばれて反応に困る出来事があった。それでいいんかーい。

 

 

「今帰って来ました!」

 

 

「世界中の飛び回っているんだろ? やるじゃねぇか」

 

 

「はい! あの日から自信を付けることができました! 先生のおかげです!」

 

 

「別に背中をちょっと押しただけだ。ほんのちょっと」

 

 

「いやいやいや、崖から突き落とす勢いで押してましたよ」

 

 

「何冷静にツッコミ入れてんだよ。完全に俺人殺しじゃねぇか」

 

 

「向うでも頑張って……いえ、大樹ってください!!」

 

 

「新しい用語作ってんじゃねぇぞ」

 

 

『大樹ってください』と言われても分からねぇよ。何? 人外? また求めているの? どんだけぇ。

 

 

「へいへい、それじゃあ行くか」

 

 

「なぁ大樹」

 

 

魔法陣をずっと見ていた原田が声をかける。さすがに数式が嘘だと分かったか。

 

 

「これにこれ足したら、出るよな?」

 

 

———円周率の最後の数字、分かっちゃったよおい。

 

 

 

________________________

 

 

 

 

———光輝く魔法陣に足を踏み込む。

 

士道たちに別れを告げながら転生した。また来ると言い残して。

 

 

「———なん、だと!?」

 

 

気が付いた瞬間、俺はベッドの上に居ることに気付いた。

 

空から落ちていない!? 水にも濡れていない!? そんな馬鹿な!?

 

 

「水を浄化する核を用意したのに……!」

 

 

「騒がしいわねぇ。また猫でも暴れているのかしら?」

 

 

「ッ!?」

 

 

部屋の扉が開き、現れた女性に大樹は目を見開く。

 

 

「………………だいちゃん?」

 

 

「お……お……お……!?」

 

 

少しボサついた長い髪にエプロンを付けた四十代。

 

俺は、大声で叫んだ。

 

 

「オカン!!!??!!???!!」

 

 

———最初に出会うのが、自分の母親だった。

 






———楢原家の真実

———双葉の真相

———最後の黒幕


【原点世界終章・楢原家編】



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