どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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『君の名は。』


美琴「もしかして……」

大樹「あ、あたしたち……」

美琴&大樹「入れ替わってる!?」

美琴「とりあえず短パン脱いでも———」

大樹「やめなさい!?」


アリア「もしかして……」

大樹「あたしたち……」

アリア&大樹「入れ替わってる!?」

アリア「……………うん」(自分の胸を触る)

大樹「風穴開けるわよ? この体に」


優子「もしかして……」

大樹「アタシたち……」

優子&大樹「入れ替わってる!?」

大樹「もうこんなチャンス二度と無いわ……ちょっと行って来る!」

優子「やめろ! 何する気だ!? やめてえええええ!!」


黒ウサギ「もしかして……」

大樹「黒ウサギたち……」

黒ウサギ&大樹「入れ替わってる!?」

黒ウサギ「これがやりたかったんだよぉ!!」(自分の胸を触りながら)

大樹「きゃあああああああ!?」

―――その後、美琴、アリア、優子、ティナにボコボコにされたことは言うまでもない。


真由美「もしかして……」

大樹「わたしたち……」

真由美&大樹「入れ替わってる!?」

大樹「じゃあちょっと男子に告白してくるわ!」

真由美「優子かお前!? 悪魔ぁ!! 鬼畜ぅ!! やめてぇ!!」


ティナ「もしかして……」

大樹「私たち……」

ティナ&大樹「入れ替わってる!?」

ティナ「この体なら、無双はできそうだ」

大樹「ですね。ちょっとガストレアと戦って見ますか」

―――その後、ガストレアが地獄を見たのは言うまでもない。


折紙「もしかして……」

大樹「……………」

折紙「入れ替わってるってきゃあああああ!? 押し倒された!?」

大樹「これなら既成事実は作れる。大樹が襲ったことになれば———」

折紙「一番渡しちゃいけない奴だったああああああ!!」



消えかけたディアレスト

規則正しく心電図の音が部屋に響く。白いベッドの上で寝ているのは大樹。特に包帯などはしていないが、腕に点滴などが繋がっている。

 

大樹の傍らに座った折紙は心配そうな表情で見守る。

 

 

「ねぇ大樹。あなたは今まで浮気した回数を言うのよ」

 

 

「う、うーん……」

 

 

「大樹君? 正直に愛する人を言えばいいのよ?」

 

 

「ん、ぐぅ……」

 

 

「……インドラの槍」

 

 

「ぐぅうう……!」

 

 

「離婚届」

 

 

「う、ああぁ……!」

 

 

大樹はうなされていた。女の子たちの手によって。

 

催眠術でもかけるかのような手法に悪を感じる。アリアと優子は浮気調査。黒ウサギと真由美の一撃は大樹の表情が前者より悪くなっていた。

 

このよく分からない状況に折紙は額から汗を流し戦慄。これが普通なのか。これは波に乗るべきなのか。もうどうすればいいのか分からない。

 

 

「……大好きですよ」

 

 

「……にへら」

 

 

「「「「「イラッ」」」」」

 

 

ティナの一言は折紙にも怒りを感じさせた。その後、女の子たちから「このロリコンが」と罵られ、大樹はさらに悪夢を見ることになる。

 

 

そんなカオスな部屋の外。廊下には原田と琴里が引き攣った表情で見ていた。

 

 

「ねぇ……患者は一週間も眠っているのに、どうしてあんなにいじめる余裕があるの彼女たちは……」

 

 

「あー……多分いつもの……じゃなくて愛情と信頼だ。うん、きっとそうだ」

 

 

「今誤魔化したわね!? 何いつものって!? 何を言おうとしたの!?」

 

 

「ほらアイツってギャグ漫画みたいに死んでも次の日には生き返っているような奴じゃん?」

 

 

「思わないわよ!?」

 

 

「はははッ……それがなるんだよ……」

 

 

「嘘でしょ……!?」

 

 

琴里の顔色が悪くなっていた。申し訳ない気持ちで一杯だが、原田はいろんなことを知っているのだ。

 

入院しても、昼なれば自分でマッ〇に歩いて行き、ベッドの上でハンバーガーを食べていることがあったということを。

 

暇潰しに薬品調合をして患者に投与、次の日には退院祝いパーティーに参加して芸やマジックショーをして遊んでいたことを。

 

大人数の緊急搬送が起きた時、一番に動いたのがアイツだったということ。普通にメスを渡され、手術をしていたことを知った時は気を失いそうになった。どうして誰も気付かなかった。いや、違う。あまりにも手慣れてい過ぎて気付かなかったと怯えた様子で言い訳していた人たちを思い出す。

 

 

「アイツの次元は俺たちが理解できる領域じゃない。精霊の一匹や二匹が出たところで、「ふーん、で?」みたいな反応しかできないんだよアイツは!!」

 

 

「どういうことなの!?」

 

 

部屋にまで聞こえる原田の大声。それを聞いた女の子たちは思う。大体合ってるっと。

 

 

「だから大樹が一週間眠っていたところで不安にならないし、一ヶ月でも大丈夫と思える。まぁさすがに一年は少し不安になるかな?」

 

 

「一ヶ月の時点で焦りなさいよ!? アンタおかしいわよ!?」

 

 

《大樹は一ヶ月、眠り続けました》

 

さて、この言葉で不安に思った奴はいるか? いねぇだろ? 不思議だよな!

 

原田はフッと琴里から視線を外し、部屋の方を見る。

 

 

「……どうせ起きるまで、待つしかねぇよ俺たちは」

 

 

「……そうね」

 

 

原田の意図を察した琴里は腕を組んでアメを口に咥えた。

 

そう、待つしかないのだ。

 

 

ピ—————ッ

 

 

―――待ち過ぎた結果がこれだが。

 

 

「「……………」」

 

 

部屋の中から聞こえて来た音に原田と琴里は呆然と口を開けた。

 

琴里の咥えたアメが床に落ちると同時に、会話が始まる。

 

 

「……これって有名な音だよな? 鳴っちゃいけないアレだよな?」

 

 

「ええ、そうね……鳴ったら……アレが止まった証拠よ……」

 

 

二人は同時に扉を蹴り飛ばした。

 

 

「何やってんだ!?」

「何やってんのよ!?」

 

 

ビクッと女の子たちの身体が震える。まるでちょっとした悪戯が見つかったかのような反応に、原田は少し安心する。悪ふざけで何か間違ってボタンでも押してしまったか?

 

見た様子、特に問題は―――

 

 

「問題無いわ。大樹の心臓が止まっただけよ」

 

 

「「大有りだ!!!」」

 

 

ベッドに寝ている大樹から涙が流れて死んでいる。一体この短時間で何が起きた。

 

 

「何だこの難事件!? 死因が全然予測できねぇ!?」

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

「これだけ分かるぞ! この反応は全員犯人だな!?」

 

 

「えっと、多分ですけど大丈夫と思いますよ……?」

 

 

苦笑いで黒ウサギが言うが、あまり信用できない。原田は警戒しながら様子を伺うと、

 

 

「すぅー……大変です大樹さん!! 優子さんが変な男たちに攫われました!!」

 

 

「んだとゴラアアアアアアアアァァァ!!」

 

 

「「ふぁッ!?」」

 

 

突如飛び起きた大樹に原田と琴里は思わず変な声が出てしまう。既に大樹の手には刀が握られていた。

 

 

「どこだ!? ソイツら全員、穢れに汚れたチ〇コを去勢してやるから出て来いやぁ!!」

 

 

「寝起きッ……じゃなくて生き返って早々下ネタ言ってるうえに恐ろしいこと言ってんじゃねぇよ!!」

 

 

次に神の力まで発動させようとしたので、原田は大樹を殴り飛ばし優子が視界に入るように立たせる。

 

 

「ぐぇッ……ってあれ? 優子? 攫われたって……」

 

 

「冗談よ。そこまで本気になられると……こっちが恥ずかしいわ」

 

 

「やべぇ。超抱き締めてぇ。でも抱き締めたら死にそうだから我慢する」

 

 

その通りだっと原田は心で答える。そして握ったナイフを懐に戻した。誰が桃色空間を発動して良いと言った? ほら、女の子達も武器をしまったぞ? 良かったな!

 

ずっと寝ていた大樹は軽い準備運動をして鈍った体の調子を確かめる。

 

 

「よし……何日くらい寝てた?」

 

 

「一週間よ。身体の方は大丈夫かしら?」

 

 

「安心しろアリア。腹が死にそうなくらい減っている点と、物凄いトイレに行きたい衝動を除けば完璧だ」

 

 

「問題が二つある時点で完璧とは言えないでしょ……」

 

 

呆れる答えが返って来てしまった。アリアは溜め息をつくと、微笑んだ。

 

 

「おかえり」

 

 

「おう、復活だぜ」

 

 

 

 

 

「心臓止まっていた奴とは思えない言葉だよな」

 

 

「え? それ本当なの原田きゅん?」

 

 

「言い方キメェ。ああ、本当だ。何で止まったか知らないけど」

 

 

「……そういえば夢の中で女の子たちに『他に好きな人ができた』と自殺待った無しの言葉を言われた気が―――」

 

 

「お前の命は女で左右され過ぎだ!!」

 

 

________________________

 

 

 

―――時は一週間前まで(さかのぼ)る。大樹が一週間寝る前の出来事だ。

 

 

奇妙で愉快な存在(大樹個人の感想)【ファントム】と遭遇後、男の夢空中戦艦(大樹個人の感想)【フラクシナス】に回収された。突然のワープに驚いたが、すぐに冷静になった。

 

 

「……おかえり大樹。楽しかったかしら?」

 

 

目の前で腕を組むアリアを見て。

 

 

「あたしたちが避難(エスケープ)している間、何があったのか……もちろん説明してくれるわよね?」

 

 

笑顔って、恐怖を感じるモノだったかな?

 

優子、黒ウサギ、真由美、ティナ。全員で迎えてくれることは嬉しいが、タイミングが嬉しくない。

 

現在大樹は上半身裸。折紙は大樹に貰ったTシャツ一枚。

 

誰がどう見てもイケない関係にしか見えない。イケない太陽より、イケない。このままどこにも逃げれない、行けない。

 

だが幾多(いくた)の修羅場を乗り越えて来た猛者(もさ)は違う。

 

 

「俺の嫁の折紙だ。よろしくぅ!」

 

 

―――何度も死を経験した人なら、大体こんな感じになると思う。違うか。

 

しかし、奇跡は起きた。意外なことにアリアたちは何もせず、溜め息をつくどころか、心配そうな表情で声をかけてきた。

 

 

「怪我は大丈夫なの……?」

 

 

「アリア……」

 

 

大樹は背負っていた折紙を降ろし、近づく。そして笑顔で告げる。

 

 

「安心しろ! 余裕で敵をぶっ飛ばして―――!」

 

 

「その嘘が、あたしに通じると思っているの」

 

 

「———だろうな」

 

 

真剣な表情で言われた大樹は言いにくそうに言葉を濁す。

 

 

「大丈夫だ。いつも通り帰って来ただろ?」

 

 

「だから変に思うのよ。いつも通りだと()()()()()()するから」

 

 

鋭い。一緒に過ごして来た彼女たちのことを理解している大樹。それは逆も同じで、彼女たちも大樹を理解しているのだ。

 

大樹はどう答えようか迷っていた。

 

そんあ迷う大樹に優子は、

 

 

「……大樹君。お願い」

 

 

「うッ」

 

 

上目遣いと優しい声音のコンボに大樹はバツが悪そうに顔を逸らす。が、

 

 

「大樹さん」

 

 

その逸らした先には黒ウサギ。さらに視線を逸らすが、

 

 

「大樹君……」

 

 

「大樹さん……」

 

 

心配そうな表情をした真由美とティナが居た。

 

 

「ぐぅああああああああ!! ……分かったよ分かりましたよ! 言うよ、正直に」

 

 

やはり女の子には勝てない大樹。白旗を上げた。

 

溜め息をついた後、こちらも真剣な表情で話す。

 

 

「敵は()()()()()()()()()なら自分を傷つけるような真似をせずに、余裕で倒せたはずだ」

 

 

頭を掻きながら大樹は続ける。

 

 

「まぁ何だ……無茶したのは悪いと思っているし、とりあえず結構疲れたって話だ」

 

 

「……それだけ?」

 

 

「おう」

 

 

「本当に?」

 

 

「おうよ!」

 

 

「……どう思うかしら?」

 

 

アリアが大樹を除いて集合をかける。かなり疑われていることに大樹は文句を言おうとする。

 

 

「あのな……俺は本当に―――」

 

 

「大樹君! 正直に言えば黒ウサギの胸を触ってもいいわよ!」

 

 

「———ぶっ倒れそうなくらい疲れたので揉ませてください!!!」

 

 

この男、欲望に忠実過ぎて大馬鹿である。

 

 

「……………あッ」

 

 

気付いた時には、全てが遅かった。黒ウサギは顔を赤くし、真由美はお腹を抑えて笑っている。

 

だがアリアと優子。そしてティナの三人は別だ。汚物でも見るかのような目に大樹は体を震わせていた。

 

 

「……し、仕方ないだろ。おっぱいだもの」

 

 

「永遠に眠らせてあげてもいいけど?」

 

 

「反省するので許してください」

 

 

土下座。プライドを捨てることで、土下座の速度を上げることができるのだ!! つまり俺にはプライドがない!!

 

銃を持ったアリアは、洒落にならないからやめて欲しい。

 

本当ならここで躊躇なく撃って来るはずだが、正直に言った言葉を聞いたアリアは銃の引き金を引かない。

 

 

「許すのは後よ。今は休みなさい」

 

 

アリアは大樹の前で両膝を着き、両手で大樹の抱き締めた。

 

突然のことに驚く大樹だったが、アリアの胸に包まれた瞬間、

 

 

「もう……限界なんでしょ……」

 

 

そして、まるで意識を奪われるかのように、大樹は眠った。

 

規則正しく寝息を立てる大樹に女の子たちはホッと息をつく。

 

 

「どうして分かったの?」

 

 

「折紙ね。あんたは大丈夫なの?」

 

 

「問題無い。それより———」

 

 

「パートナーだからよ。一番大切な人だから分かるのよ」

 

 

「……そう」

 

 

自分でも分からない。何故か折紙はぎこちない笑みを見せながら言ってしまった。

 

 

「少し、羨ましい」

 

 

その微笑みにアリアたちは驚く。こんな子だっただろうかと不安になり、真由美は折紙の手を握り絞める。

 

 

「大樹君に酷いことされたの?」

 

 

「ええ、黒ウサギ予想できていました。真由美さんならそう言うと」

 

 

 

________________________

 

 

 

最新技術の医療は凄いの一言に尽きた。

 

大樹をベッドの上に寝させると【フラクシナス】の職員が大樹に点滴などを打つ。他にも血液検査、レントゲン撮影などなど。体の隅々まで検査していた。

 

このような検査をするきっかけは原田の言葉だった。

 

 

「かなり無理をしている可能性がある。最悪のケースを避ける為に協力してほしい」

 

 

原田は女の子たちに頼み事をしていた。頭を下げてまで。

 

もちろん断る理由はなかった。しかし、どうしてそのような検査をするのかが不可解だった。

 

検査を終えて数時間後、部屋の外で令音の報告を聞いて戦慄することになる。

 

 

「———異常だ。現代の医学で、どうしてこうなったのか解明できないだろう」

 

 

「……どういう、ことですか?」

 

 

震えた声で優子が代表して尋ねる。令音は持っていたタブレットを優子に手渡す。そこには膨大なデータの数々、羅列した数字がたくさんあった。女の子はこれらを何一つ理解できない。

 

原田は何かに気付いたようだが、何も言わない。いや、言えないのかもしれない。

 

理解できないから不安になる。女の子たちは心配した様子で令音の言葉を待った。

 

 

 

 

 

「普通に彼は健康だ」

 

 

 

 

 

―――全員がその場に転んだ。

 

 

「ビックリさせないで!?」

 

 

全員が言いたいことを真由美が代表してツッコム。分かっていた原田も苦笑いだ。

 

 

「いやすまない。血だらけになった服を着ておいて、無傷なのはおかしいと踏んでいたせいで異常としか」

 

 

「なら仕方ないわね。大樹は普通じゃないから」

 

 

「「「「「うんうん」」」」」

 

 

(ちょっとアイツ可哀想だな。自業自得だと思うけど)

 

 

アリアが頷くと皆が頷いた。原田は苦笑いで大樹に少し同情する。これに()りて、少しは自分の行動に自重―――無理だな。よし諦めよう。

 

 

「だが疲れはかなり感じているようだ。信じられない話かもしれないが、眠りの深さが通常の十数倍……最低でも5日間以上は寝続けるだろう」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

「心配はしなくて良い。点滴などの処置をすれば命の問題はない」

 

 

命の危険の可能性を察した令音がすぐに否定する。驚いていた女の子たちはホッと安堵の息をつく。

 

 

「無茶ばかりしていたから……馬鹿」

 

 

「YES。黒ウサギたちの心配も考えて欲しいモノですッ」

 

 

優子と黒ウサギが愚痴をこぼす。同意するようにアリアと真由美も愚痴をこぼす。

 

 

「そりゃ大樹だもの。何を言っても無駄よ」

 

 

「大樹君だから。ええ、絶対に無理ね」

 

 

訂正。愚痴と言うより悪口に近かった。

 

 

「私はこれで失礼するよ。立ち入り禁止場所以外なら、この施設自由に使って良いと許可を貰っている。彼を十分に休ませると良い。もちろん、君たちもゆっくりと休むと良い」

 

 

文句を言っている女の子たちに令音は最後にそう言い残し、その場から去った。

 

 

「なら、そうさせて貰う」

 

 

と折紙は大樹の居る部屋に入ろうと———

 

 

「何をするつもりですか」

 

 

―――部屋に入ろうとするが、ティナに止められる。折紙はグググッと腕を上に上げてティナの腕を引き剥がそうとする。が、ティナの力は予想以上に強く、引き剥がせなかった。

 

 

「英気を養う。大樹と一緒に寝ることで大樹も私も、回復が早くなる」

 

 

「「「「「なるか!!」」」」」

 

 

女の子たち全員のツッコミが響き渡った。ティナだけでなく、アリアと黒ウサギも一緒に止める。

 

 

「たった今、大樹を休ませる話をしたわよね!?」

 

 

「当然。だからこれは必要な処置」

 

 

「いりませんからね!?」

 

 

ワーワーと騒ぎ出す女の子たち。病人がいる部屋の前だが、彼にとってこの行為は迷惑にならないだろう。きっと喜ぶだろう。

 

女の子たちに気付かれないように、原田はその場から去る。理由は、真実を知る為に。

 

 

「待ってください村雨さん」

 

 

「……追いかけて来ると思っていたよ。データを理解していた君なら」

 

 

振り返ると同時に令音は原田に束になった紙の資料を渡す。そこには先程と同じようにデータが書かれているが、違う項目が追加されている。

 

 

「……血液型はA型。血圧、脈、心拍数、その他、全て異常無し」

 

 

最後のページの紙をめくった瞬間、原田は生唾を飲みこんだ。

 

 

 

 

 

『———楢原 大樹  推定寿命、約一年 ~ 約二年』

 

 

 

 

 

「随分と……斬新な答えだな。明確な理由と原因がどこにも書いてないように見えるが?」

 

 

原田から敬語が消える。令音は顔色一つ変えずに続ける。

 

 

「現代の医学や科学をあまり舐めない方が良い。この船に回収された時点で分かるだろう?」

 

 

「……俺の質問の答えになっていないだろ?」

 

 

「いや、()()が答えだと私は思うよ」

 

 

原田の表情に段々と影が差す。それでも臆することはなく、令音はハッキリと告げる。

 

 

「彼の寿命が短いのは、本当のようだからね」

 

 

「……ブラフか」

 

 

「すまない。真実を知るのは君だけのようだったからね。聞かないわけにはいかない」

 

 

原田は目を閉じて息を吐く。

 

最後の紙に書かれた内容は『はったり』だ。

 

令音は意図的に最初から原田に後を追わせようとしていた。情報を隠すことで原田の興味を釣り、嘘のデータを用意して原田から情報を聞き出そうとしていた。

 

 

「君が気になっているのは、彼の()()じゃないかね?」

 

 

「……全部お見通しか」

 

 

「寿命に関しては大きな賭けだった。全部が全部、知っているわけではない」

 

 

令音は気付いていた。大樹が帰って来てからずっと、原田の様子がおかしいということに。

 

検査を願いして来たのは『無事』や『健康』などの確認ではない。もっと大事なことを確認したかったはずだ。

 

 

「口頭で伝えよう。目の外傷は無し。視力が良い事は確定。しかし———左目は、ほぼ見えていないはずだよ」

 

 

「ッ……起きてもいないのに、そんなことも分かるのか」

 

 

その報告に原田は下唇を強く噛む。

 

 

「まだ伝えないといけないことがある。彼の髪は少し緋色になっている部分があるのは知っているかね?」

 

 

「ああ、それは力の影響で害はない」

 

 

「なら()()は?」

 

 

「……………あったのか?」

 

 

「頭皮に埋まっている毛球が数個、白色に変色しているのを確認した。証拠の写真は無いが、証拠品はある」

 

 

「抜いたのかよ。ハゲるぞアイツ」

 

 

小さな証拠品袋のようなビニール袋に一本の髪の毛が入っていた。令音の言う通り、毛球が白色だ。

 

 

「一応言っておくが、この会話の内容は私だけしか知らない。もちろん琴里にも報告していない」

 

 

「……助かる」

 

 

「……症状は?」

 

 

「どうせ分かってんだろ?」

 

 

自嘲するように笑いながら原田は令音の答えを待つ。

 

令音は、答えを口にする。

 

 

 

 

 

「———老化現象」

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

「……すまん、もう一回言ってくれ」

 

 

「だーかーら! 本当に! 体は! 大丈夫かって聞いてんのよ!」

 

 

「ハッハッハッ、逆に近過ぎて耳が痛いぜアリア」

 

 

いつもの服(一般人)に着替え、指令室とやらに向かう。耳がキンキンするぜ。

 

 

「というかアリア。この俺が病気になるとでも思うのか?」

 

 

「なるわけないでしょ。そんなの当たり前じゃない。でも怪我はするでしょ?」

 

 

「いやいや、さすがに『当たり前』は言い過ぎだろ。ちょっとその認識やめて欲しい」

 

 

大樹さんはそこまで強くないと思います。

 

 

「病気くらいなると思うぞ?」

 

 

「例えば?」

 

 

「恋(わずら)い」

 

 

「そう、浮気ね。死になさい」

 

 

「その繋げ方はおかしいげばッ!?」

 

 

脇腹ゴスッてされた! ゴスッて!

 

 

「もう大樹君に説教をしても無駄みたいね……」

 

 

「あー優子の顔が怖いんじゃー」

 

 

「……切断?」

 

 

「土下座でも何でもするからどうか俺の息子だけは……!」

 

 

頭を床に擦りつけて懇願。優子に土下座した。どこがとは言っていないが、どこも切らないでほしい。

 

 

「それが駄目なら違うモノを切りましょ?」

 

 

「ま、真由美さん……一体、何を?」

 

 

「そうね……………縁かしら?」

 

 

「切断していいからそれだけは絶対に切らないでくれええええええェェェ!!!」

 

 

真由美の腰に抱き付きながら号泣。良い歳して何をやっていると言われても仕方ないが、これだけは譲れない。死んでも。

 

 

「きゃッ!? じょ、冗談よ! 冗談だから!?」

 

 

「大樹さんがどれだけ黒ウサギたちのことを大切に思っているのか分かりましたが……」

 

 

「重いですね」

 

 

黒ウサギとティナに苦笑いで見られているが気にしない。だって、それだけ愛してますから(キリッ

 

……口で言いたいけど無理なんだよなぁ。恥ずかしくて昇天しちゃう。

 

 

「大丈夫。私も大樹のことが好きだから」

 

 

「折紙ぃ……!」

 

 

「家事、洗濯、全部私が世話をする。大樹は傍に居るだけで構わない。ただ愛情だけを―――」

 

 

「大樹さぁん!? この子凄くヤバい雰囲気ですよ!? 黒ウサギのウサ耳が全力でヤバいと告げていますよ!?」

 

 

ウサ耳がヤバイと告げる点に関してはかなり気になるがスルーしよう。俺は折紙に、

 

 

「いや、家事くらいは俺がやるよ?」

 

 

「問題そこじゃないですよね!?」

 

 

「え? ……あッ、仕事は別に家で稼げるのを選べば良いよな? 貯金もいっぱいあるから問題はない」

 

 

「そこでもありませんよ!? 折紙さんの———」

 

 

「ああ! そうかそうか! 俺が料理したら折紙の手作りが食べれないことか!」

 

 

「———お馬鹿!?」

 

 

「大樹君のストライクゾーンって、アタシたちの時だけは牽制してもストライクなりそうよね」

 

 

それ凄いデカイな優子。バッター打てねぇよ。俺ならどうにかして打てそうだけど。

 

まぁストライクゾーンの大きさは間違ってはいないが、お前たち限定だからな? 他の女の子はそういかんざき! ほ、本当だからな?

 

 

「黒ウサギはまだ分かっていないみたいだな。折紙はツンデレでもクーデレでもない究極の属性だということを」

 

 

「また訳の分からないことを……」

 

 

「うるさいぞエロウサギ! いいか! 折紙は———!」

 

 

「ちょっとお待ちを!? 黒ウサギに変な名称を付け―――」

 

 

「———ファザヤンブラツンデレコンだ!!」

 

 

「———無視しないでくださいって何ですかそれ!?」

 

 

「違う。ファザブラヤンツンデレコンだった」

 

 

「そうだっけ?」

 

 

「何が違うのか黒ウサギには分かりません!! あとエロくありません!」

 

 

黒ウサギが涙目で抗議するがこれは余裕でスルーする。

 

 

「あまりエロウサギをいじめちゃダメよ?」

 

 

「真由美さん!?」

 

 

「そうだな。魔王の言うことは聞くか」

 

 

「魔王!?」

 

 

「魔王なの!?」

 

 

黒ウサギと真由美が同時に驚愕する。周りも目を見開いて驚いていた。

 

 

「ああ、俺は最初、真由美のことを小悪魔美少女だと思っていた」

 

 

「美少女って……大樹君ったら!」

 

 

「でも違った。魔王だった」

 

 

「……も、もう大樹君ッ? 大袈裟よ?」

 

 

「ちょっと真由美の顔が怖いわよ……」

 

 

優子が引き攣った笑みで教えてくれるが、俺は負けずに踏み出す。

 

 

「大体俺の心を削るのは真由美の言葉だ!!」

 

 

「「「「「……確かに」」」」」

 

 

「ちょっと!?」

 

 

折紙を除いた全員が呟いた。真由美は焦り出す。

 

 

「そ、それは大樹君が―――!」

 

 

「さっきも縁を切るって、大樹君にとってそれは自殺モノだわ……!」

 

 

「優子まで!?」

 

 

……裏切りが始まったな。別にこんな展開を望んだわけじゃないが、

 

 

(面白いから続けるべきだな。うん、焦る顔も可愛いし)

 

 

真の裏・大樹(ゲス)はここに居た。

 

焦る魔王は十分に見た。ここで新たな爆弾を投下……いや、必要なさそうだ。

 

 

「ツンデレの優子よりマシでしょ!?」

 

 

「ツンデレじゃないわよ!? ツンデレはアリアでしょ!?」

 

 

「何であたしなのよ!?」

 

 

これが連鎖爆発か(爆笑)

 

 

「大樹! ツンデレは美琴のはずよ! あんたが言っていたの覚えているわよ!」

 

 

「ああ、美琴はツンデレだ」

 

 

「ほら! 今の聞いたでしょ!? あたしは———!」

 

 

「だがアリアもツンデレだ!!!」

 

 

「———風穴ぁ!!!」

 

 

アリアの二刀流の刀をほいほい避けながら話を続ける。

 

 

「最初はクールかと誰もが思うだろ? でも俺の第一印象で違うと確信できた。そう、膝蹴りを顔面にくらったあの時から!」

 

 

「まだ根に持っていたのあんた!?」

 

 

「いや、それはパンツを見た対価として許———あッ」

 

 

ガキュンッ!!

 

 

はい、撃たれました。血が出ましたが慣れてます。

 

 

「まぁこんな感じに照れ隠しに俺に攻撃する所とかツンデレだよな?」

 

 

「大樹さん? 額から凄い量の血が……」

 

 

「気にするな黒……エロウサギ」

 

 

「悪意見え見えですよ!? 最初で合っていますよ!? いい加減にしてくださいまし!」

 

 

スパンッ!!

 

 

はい、ハリセンで叩かれました。顔面直撃、やったね!

 

鼻の穴から血をドクドクと流れているが、続けよう。

 

 

「でも優子はツンデレじゃない。クーデレに近い方だと思う」

 

 

「クーデレ……つ、ツンデレよりいいわね……さすが大樹君! 分かっているじゃない!」

 

 

優子の判断基準は全く分からないが、気にしないでおこう。

 

そして、大樹は禁断の言葉を口にする。

 

 

「でも優子はアレだ———腐zyしぅはぁッ!?」

 

 

「だ・い・き・君? ちょっとお口をチャックしましょうね♡」

 

 

「は、ははッ……塞いでくれるのが邪気を放った拳じゃなくて優子の唇なら大歓迎だったのだが……」

 

 

大樹は冗談を言う余裕を見せているが、声が震えている。周りは大樹の言葉の意味を理解していないが、優子から怒気だけは伝わっていた。

 

 

「ゆ、優子さんがあんなに怒って……」

 

 

「大樹君! 優子に謝った方が良いと思うわよ!」

 

 

黒ウサギと真由美の言葉が聞こえるが、大樹は根性を見せた。

 

 

「それでもお前が好きだぁ!!!」

 

 

「今言う言葉じゃないでしょ!!!」

 

 

「ですよね!!」

 

 

バチンッ!!

 

 

「あふんッ!!」

 

 

涙目で優子にビンタされた。思わず変な声が出てしまう。

 

そのまま流されるように綺麗に回転して地面に倒れる。

 

 

「九点です。大樹さんが既に怪我をしてなければ十点でした」

 

 

ティナが変な採点をしているよ。フィギュアスケートちゃうよ?

 

 

「十点」

 

 

折紙ぃ……! 満点なのは嬉しいが、何で満点なのか分からねぇ……!

 

 

「七点。あたしなら手加減無しでグーで行くわ」

 

 

「八点。優子さんのツッコミにもっとキレが欲しいです」

 

 

「ちくわ大明神」

 

 

「ゼロ点。もう見飽きたわ」

 

 

アリア、黒ウサギ、真由美の順で採点された。酷い評価だ。……って

 

 

「「「「「誰だ今の」」」」」

 

 

「まぁ俺だけど。さて話を戻すが———」

 

 

ガスッ ガスッ ガスッ

 

 

踏んだり蹴ったり殴ったりだった。痛くないけど。というかこのノリに乗って来たお前たちに物申したいことがあるんだけど?

 

 

「———話を戻しますが、私は何でしょうか大樹さん?」

 

 

「俺の体を椅子代わりにしながら何聞いてるのティナ? 女王様なの? ドSなの? 真由美なの?」

 

 

「最後は私でも怒るわよ?」

 

 

ごめんなさい。

 

 

「ティナは即答できるぞ。自分でも分からないか?」

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

「ロリ———うッ!」

 

 

 

 

そして、大樹は魂を刈り取られたかのように、その場に倒れた。

 

 

「「「「「えッ?」」」」」

 

 

戦慄した。大樹の背後には赤い瞳のティナが立っていたからだ。

 

アリアと黒ウサギ、そして折紙はこの状況を推測できていた。目にも止まらぬ速さで大樹の背後を取り、手刀で意識を奪った。

 

 

「どうやら大樹さんはまだ疲れているようですね」

 

 

「……そ、そうね!」

 

 

「や、やっぱりまだ疲れが取れていないのよ!」

 

 

どうやら優子と真由美も気付いたらしい。笑顔が引き攣っている。

 

大樹が言おうとしていた言葉。全員聞こえていたが、聞こえないフリをして通すことに決めた。

 

 

「まぁそんな攻撃で俺がやられるわけがないけどな!!」

 

 

(((((復活が早い……!?)))))

 

 

全身ボロボロだが、彼は普通に元気でした。

 

 

________________________

 

 

 

琴里を苛立たせるくらいの時間を使って移動してしまった。怒った顔も可愛いよ、ベイベー!

 

 

「たったこの距離を移動するのにどれだけ時間をかけているのかしら……!」

 

 

「馬鹿野郎。女の子とイチャイチャするのに距離も時間も関係ねぇんだよ。そこにイチャイチャできるチャンスがあるかどうかの話だ。もちろん、あればイチャイチャする」

 

 

「へぇ……そう……! そんなに死にたいのかしら……!?」

 

 

あらやだ大変! 今にも殺されそうな雰囲気だわ! 絶対に死なない自信しかないけど!

 

隣に居た士道がまぁまぁと言いながらなだめている。さすがお兄ちゃん。

 

 

「お前はホントに……ブレないよな」

 

 

「よお原田。検査全部終わったぞ。異常はないだろ?」

 

 

「異常が無いことが、異常なんだが」

 

 

「逆に考えろ。俺が風邪で寝込んだりしたらどう思う?」

 

 

「……ッ……異常だ……!?」

 

 

「だろ?」

 

 

(((((馬鹿だ……)))))

 

 

大樹と原田のやり取りに周りの目は冷たい。

 

うん、やめよう。誰も得しない世界は、閉ざすべきだ。コホンッと咳払いをして話を始める。

 

 

「それより俺を呼び出したのはアレか? 精霊か?」

 

 

「そうよ。モニターの映像が途中で切れたから詳しく聞かせて欲しいの」

 

 

楕円(だえん)の形に床が広がった部屋の正面。そこに様々な映像が映し出されている。

 

そこには必死に、健気に、勇ましくイケメン主人公のように蝶の様に舞い、蜂の様に刺す美しい戦闘を繰り広げた俺が映っている。映像は巨大な悪魔の咆哮が轟いた瞬間、切れてしまう。

 

 

「つまりそこから何があったか説明すればいいんだな。あの後は俺の勝利で終わった。以上」

 

 

「バッサリ切り捨て過ぎだろ!? 説明下手くそかよ!?」

 

 

「そうだな。違ったわ。超圧倒的に俺の勝利だった」

 

 

「ぶん殴るぞ!?」

 

 

ワーワー騒ぐ原田がうるさかったので正直に全てを話す。細かく丁寧に俺がカッコいいことまで説明した。ジト目で見られても気にしない。

 

当然、『ソロモン72柱』、『ファントム』についても話した。琴里や原田は信じられない様子だったが、折紙が一緒に証言してくれたので、疑われることはなかった。

 

 

「順番に聞こうか。まず原田。『ソロモン72柱』の存在は知っていたか?」

 

 

「当たり前だ。神たちの敵の集団だぞ。知らないわけがない」

 

 

「ソイツらはガルペスと関係性を持っていた。姫羅との戦いにも、奴らが関係していた」

 

 

「チッ……どうしてそんな敵が急に出て来た……」

 

 

原田は顎に手てながら舌打ちして、説明を続ける。

 

 

「……悪魔の召喚には『()()()ゴエティア』———『悪魔の辞典』が必要になる」

 

 

「『レメゲトン』と呼ばれる魔導書のことだろ? 本物ってどういうことだ?」

 

 

「もう察していると思うが、世界は星の数より存在している」

 

 

それは予想が付いていた。たった数個の世界を回った程度だが、もっと世界があることぐらいは分かっている。

 

 

「その世界の中で悪魔の召喚方法が書かれた書物も数え切れないくらいある。だけど、それは()()()()()()()でしかない」

 

 

「ッ……なるほどな。じゃあ、あの悪魔は……」

 

 

「全ての世界の中で最も災厄最強の悪魔軍団―――その一人の悪魔のはずだ」

 

 

大樹の額から汗が流れる。実際に戦って敵の強さを一番知っている体が恐れている。この汗は、焦りや恐怖で流れたモノだ。

 

ガルペスは、まだ力を隠している。それは俺に恐怖を与えるには十分だった。

 

あの時、圧倒していたという事実はあるが、隠している力がまだあるということは、何をするのか予測できないと同じ。また最悪な状況に落とされることもあると言うわけだ。

 

 

「だが解せないことがある。その本物の悪魔の召喚方法をどうやってガルペスは知ることができたのか……」

 

 

「話が進み過ぎよ。もっと分かりやすく説明しなさいよ」

 

 

その時、琴里の声が聞こえた。

 

実は先程から気になっていた。ソロモンについて口を滑らせていたのは俺だが、その点は色々と誤魔化せると思っていたからである。しかし、原田が話を進めていたのでおかしいと思っていた。琴里や士道が居るのに、こんな話をどうして続けるのか。

 

 

「悪い。詳しい事情はまた俺が説明する。大樹、協力関係を結んだ。精霊の情報はお前が一番欲しいだろう?」

 

 

「そりゃまぁ……でもよ」

 

 

「巻き込むとか迷惑とか……関係ないと俺は思う」

 

 

渋る俺に言って来たのは士道。以前の様に敬語などは使わない点は嬉しいが、今は嬉しくない。

 

 

「俺たちにできることがあるなら言って欲しい!」

 

 

「俺はお前らの命の恩人か何かなのか? 違うだろ。何でそこまで必死になる?」

 

 

「……お前らの敵は、俺の敵だから」

 

 

士道に言ったことがある言葉を繰り返された俺は驚く。

 

 

「俺も同じだ」

 

 

「士道……」

 

 

琴里も同意するように真剣な表情で見ていた。俺はフッと笑みを見せて、

 

 

ガシッ

 

 

士道の顔を、右手で掴んだ。そして力を入れる。

 

 

「いだだだだだだだぁ!!??」

 

 

「「「「「えぇ!?」」」」」

 

 

アイアンクロー、炸裂。士道が必死に抵抗するが俺の握力には勝てない。

 

そして握力から解放すると、士道は床を転げ回った。

 

 

「軽く力を入れただけでノックダウンだ。足手まといはいりません♪」

 

 

「感動な場面ぶち壊しかよ!?」

 

 

全員が驚愕する。この場面でこんなぶち壊しをするのは大樹ぐらいだろう。

 

大樹は溜め息をついた後、

 

 

「俺の隣に立とうなんて百年早いわ。後ろにずっと居ろ」

 

 

「ッ……それは」

 

 

「大体、そんな暇があるなら―――」

 

 

士道が反論しようとするが、大樹は妨げる。続く言葉は、

 

 

 

 

 

「———もっと前を目指せ」

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 

士道の目が丸くなる。大樹の言葉の意味を理解できなかったからだ。

 

 

「自分で言うのもアレなんだが、俺はお前が思うよりずっと先にいる。待つことはできねぇ。だからお前がもっと前に来い」

 

 

「前に……」

 

 

「お前にも、守るたい人が居るんだろ?」

 

 

「ッ……」

 

 

「精霊を守って来たお前なら、これからも守れよ。守る為に、もっと前を行け」

 

 

大樹はニッと最高の笑みを見せながら、

 

 

「俺は余裕だからさ」

 

 

右手の親指を立てた。そして———

 

 

メキッ

 

 

―――その親指は、琴里の手によって折られた。

 

 

「ああああああああああああああああッ!!!」

 

 

「何カッコつけているのよ気持ち悪い。さすが変態大樹と呼ばれるだけあるわね。自分がカッコイイと思っているの? 妄想力なら一級品かしら?」

 

 

「心と指が同時に傷ついたああああああァァァ!!」

 

 

涙を流しながら転げ回る大樹。士道たちは何とも言えぬ光景に口を閉じていた。

 

 

「羨ましい! 私も司令に同時に攻められたい……!」

 

 

「あ、神無月(かんなづき)さん。出て行って、ドアを閉めて貰っていいですか?」

 

 

士道が何やら誰かと話していたが気にしない。俺はヨロヨロと立ち上がると、

 

 

「もしかして、女の子の好意って同情から来ているのかしら?」

 

 

「ごぶばはッがぎゃッ!?」

 

 

吐血した。大量の血が大樹の口から溢れ出した。

 

胸を抑えながら俺は現実に……いや違う! アリアたちはそんな風に思うわけが―――!

 

その時、琴里が俺の耳元で囁いた。

 

 

「—————」

 

 

「—————ぐはッ!!!」

 

 

「えぇ!? 何を言ったんだ琴里!? さっきの倍の量の血を吐いたぞ!?」

 

 

「別に。ただ真実を告げただけよ」

 

 

大樹は完全に沈黙。アリアたちは心配―――はしていないが、意識確認だけ一応する。

 

 

「ちょっと? まだ話が終わっていないからシャキッとしなさいッ」

 

 

「あ、アリア? ド突いちゃ駄目よ? というか吐血しているのに冷静なアタシたちって……大丈夫かしら……」

 

 

「優子さん。そこに触れてはいけません。黒ウサギたちはもう手遅れだと……」

 

 

「黒ウサギ。あなたも触れているわよ。私は大丈夫だからいいけど、あなたたちは」

 

 

「待ってください。真由美さんが一人だけ逃げようとしています」

 

 

「「「「じーっ」」」」

 

 

「……みんな大樹君のことが好きだから仕方ないわ!!」

 

 

「うっ……合っているけど……そ、そういうことを言いたいわけじゃないわよ」

 

 

「優子。これぐらいで恥ずかしがっていると、大樹君についていけないわよ?」

 

 

「ちょっとお待ちを! ただ真由美さんの精神が強いだけなのでは!? もっと簡単に黒ウサギたちは大樹さんが好きなだけであってこのくらいの恥じらいは———」

 

 

「やめろおおおおおおお!! 何だこのムズムズする会話はぁ!! 俺が一番恥ずかしいわ!!」

 

 

顔を真っ赤にした大樹が叫ぶ。女の子たちも頬が赤くなっているが、大樹が一番赤かった。

 

 

「もうみんな大好きだから! もういいでしょ!? 話はかなり脱線しているし、今は置いておこう!? な!?」

 

 

「それは勘違いじゃないかしら?」

 

 

「やめろ琴里ぃ!! いいかよく聞け! 俺の嫁は、俺の全部に惚れているんだよ! だからパンツを頭に被った程度で嫌われることもねぇし、間違って胸にダイブしても本気で怒られねぇんだよ!!」

 

 

「「「「「ちょっと待って!?」」」」」

 

 

「何勝手にあたしたちの気持ち代弁しているのよ!? 風穴開けるわよ!?」

 

 

「大体アタシたちはちゃんと怒るからね! 絶対許さないわよ!?」

 

 

「黒ウサギたちのこと全然分かっていないじゃないですか!?」

 

 

アリア、優子、黒ウサギが反論する。だが大樹の言葉は続く。

 

 

「照れ隠し、だろ?」

 

 

「みんなもう駄目よ。大樹君が完全に現実を見ていないわ」

 

 

真剣な表情で告げる真由美の言葉は、どんな現実よりも現実を見せる言葉だった。

 

目を覚まして欲しい。その一心でティナは大樹に抱き付く。

 

 

「戻って来てください大樹さん!」

 

 

「アッハッハッハッ、大好きだぞティナ!」

 

 

「……………」

 

 

「大変よ! ティナちゃんが大樹君に抱っこされてクルクル回されているわ! 親子みたいに!」

 

 

「目が死んでいるわよ!? 大丈夫なの!?」

 

 

優子と真由美が驚愕する。大樹が一方的に楽しんでいるようにしか見えない。

 

 

「そんな大樹も、私は好き」

 

 

「「「「「一人ズレてる!!」」」」」

 

 

折紙は、折紙だった。一体誰に似たの―――あッ(察し)

 

とても騒がしくなった。ずっとその光景を見ていた原田の目が誰よりも死んでいる。

 

そんな原田に一人の男が近づく。

 

 

「お茶をどうぞ」

 

 

「あ、どうも。……神無月さんでしたっけ?」

 

 

「はい。それにしても、羨ましいですね」

 

 

「ああ、大樹ですか? まぁモテているのは事実ですが———」

 

 

「私もあんなボロ雑巾みたいにリンチされ……! 司令! 私もあのようなことが―――!」

 

 

「レッドカード」

 

 

「———司令えええええええいぃ!! 慈悲をぉ!!」

 

 

体格の良いムキムキの男二人が神無月を連れて退場する。原田はお茶を飲んで一言。

 

 

「まともな奴がいねぇよこんちきしょうがあああああああァァァ!!」

 

 

その悲痛な叫びを聞いた士道は思う。少なくとも、俺はまともだと。

 

 

________________________

 

 

 

「んで、『ファントム』っていう面白い奴の話なんだが」

 

 

「「「「「面白い!?」」」」」

 

 

琴里と士道。そして【フラクシナス】のクルーたちが全員驚愕する。大樹の言葉を完全に疑っていた。

 

琴里は大樹の目の前まで走り、胸ぐらを掴んでガクガクと揺らした。脳が震える(物理)。

 

 

「どういう神経しているのよ!? 『ファントム』を面白いですって……!?」

 

 

「じゃあ愉快な奴だったよ」

 

 

「変わらないわよ!?」

 

 

「じゃあエロい恰好をしていたよ」

 

 

「嘘でしょ!? ノイズじゃなくて!?」

 

 

「「「「何だって!?」」」」

 

 

「今立った男共、後でお仕置きよ」

 

 

「「「そんなぁ!!」」」

「やったぁッ!!」

 

 

雇われているクルー、楽しそうな奴らだな。

 

とりあえず『エロ』に関しては嘘だと発表し、話を続ける。がっかりするなよ男たち。

 

まず何があったのか全て話した。やはり信じられないようだったので、

 

 

「お前たち、俺の様な規格外な存在がいる(イコール)ちょっとありえない俺の話は本当。これで理解できないか?」

 

 

全員が勢い良く首を縦に振った。フッ、その反応は慣れた。でも悲しいな。

 

 

「凄い……今まで受け付けなかったモノだったのに、急にスッと脳が受け付けて、何故か気持ちが良かった……」

 

 

「そりゃ良かったデスネー」

 

 

士道の言葉、心にチクッと来ます。

 

 

「私もよく使うわよ」

 

 

「使う? どういうことだ真由美?」

 

 

「非常事態な時、目を疑うようなモノを見た時、心が乱れた時……そんな時に大樹君を思うの」

 

 

何ということでしょう。真由美から心にグッと来る言葉を貰った。

 

 

「そうすれば落ち着くのよ……」

 

 

「真由美……!」

 

 

「そんなこと、大樹君と比べれば全部小さいことだから!」

 

 

はい、グサッと心に刺さりましたよ。知ってた。

 

 

「あ、黒ウサギもやったことあります」

 

 

「アタシもあるわね」

 

 

黒ウサギと優子も挙手しました。心にグサグサ刺さってもう泣きそう。

 

 

「グスッ……『ファントム』から話がズレているから戻していいか?」

 

 

「せっかく大樹が皆の為に自虐して納得させたのに……可哀想ね」

 

 

理解してくれたアリアの胸で泣く。抱き付いた時に邪念はなかった。ただ純粋に理解してくれたアリアが嬉しかったから。

 

 

「五年前の大火災の時、『ファントム』は琴里を精霊にしたんだ」

 

 

「おお……いきなり凄い話が来たな」

 

 

士道の説明に大樹は体をブルッと震わせる。大樹にも、あまり予想できないことだった。

 

顎に手を当てて大樹は思考する。

 

 

「……折紙も精霊の力を与えたのは『ファントム』だった。空間震も、精霊も、全部の元凶と見て間違いないようだな」

 

 

そして、自分で言ってて気付くのだ。

 

 

「あ、ソイツを逃しちゃったのか俺」

 

 

「とんでもない愚か者だなお前」

 

 

原田に言われてテヘッとウインクしながら可愛く反省して見た。周りから白い目で見られるけど、くじけない。

 

 

「まぁ『ファントム』がどういう奴かは理解したよ。何か逃してごめん」

 

 

「軽いなお前……」

 

 

何故だろう。責任感をあまり感じなかった。

 

とりあえず謎の『ファントム』についてはあまり話にできるようなことはない。よってこの話題はここで終わった。

 

 

「さて、今度はお前たちが話す番だろ? 大体聞いているが、確認の為に聞こうか?」

 

 

大樹が琴里に向かって問う。琴里は「そうね。そろそろあなたにも話さないとね」と言いながら頷く。

 

 

「どこまで知っているのかしら?」

 

 

「精霊を捕まえてアイドル育成をする辺りまで理解した」

 

 

「「「「「全然違う!?」」」」」

 

 

全員が声を揃えて驚愕した。

 

 

「待ってください司令! これは良い案なのでは!? よくある王道パターンじゃないですか!」

 

 

「駄目に決まっているでしょ中津川(なかつがわ)。そのパターンは画面の中でしかないわ」

 

 

何だろう。あの眼鏡をかけた中津川という人物、俺と仲良くなれそうな気がする。

 

 

「……………ぬるぽ」

 

 

「ガッ—————ハッ!?」

 

 

同類発見。

 

 

「まさか……あなたも……!?」

 

 

「俺と一緒に……アイツらを……立派なアイドルにしようじゃないか」

 

 

「ッ……ええ、そうですね……日本一……いや、世界一のアイドルに!」

 

 

ガシッ!!

 

 

俺たちは手を掴み取る。

 

 

「【次元を超える者(ディメンション・ブレイカー)】の名にかけて!」

 

 

「じっちゃんの名にかけて!」

 

 

「誰か。あの馬鹿共をここから落として来てちょうだい。どうせ死なないと思うから」

 

 

「司令ぃ!! 一人は確実に死にますよぉ! 私は普通に死にますよぉ!!」

 

 

俺が死なないことを遠回しに言うのをやめろよお前ら。

 

 

「私たちは精霊を助ける為の組織よ。知っていると思うけど、狂三と一緒に会っていた時に襲われたでしょ?」

 

 

「馬鹿!? それは———!?」

 

 

琴里の言葉に俺は顔を真っ青にする。止めに入るのが遅すぎる。

 

 

「へぇ……それって密会じゃないかしら……?」

 

 

「違う。全然違う。ホント違う。マジで違うから」

 

 

全力で否定した。

 

アリアだけじゃない。優子たちからも疑いの視線がぶつけられる。

 

 

「優子! 俺は被害者だ! 俺は悪くねぇ!」

 

 

「犯罪者はみんなそう言うのよ」

 

 

「黒ウサギ! 無実なんだ!」

 

 

「犯罪者の方たちは、全員そう言うのです」

 

 

「真由美! これは何かの間違いなんだ!」

 

 

「犯罪者は全員、そう言い訳するのよ」

 

 

「ティナ! 俺……犯罪者、に見えるかな……!」

 

 

「せめて私まで泣かずに持ち堪えてください!? 心が折れた後に同じこと言えませんよ!?」

 

 

途中で心が折れてしまった大樹を見て珍しくティナが動揺していた。

 

 

「話を続けるわよ。精霊の救い方だけど、私のお兄ちゃん、士道がいなければできないことなの」

 

 

「この流れの元凶はお前だろ……」

 

 

涙を溜めた目で琴里を睨む大樹。琴里は気にせず話を続けた。

 

 

「元々、精霊の対処法は一つ。ASTがやっている戦力をぶつけて殲滅する方法」

 

 

「それは知っている。弱かったけどな!」

 

 

「何でドヤ顔で言ってんだ?」

 

 

原田に指摘されるが無視する。勝利こそ、我が正義なりぃ!

 

 

「でも私たちは違う」

 

 

「士道をどうするんだ? エサにして精霊を(おび)き出すとか?」

 

 

「いや釣りじゃないから!?」

 

 

士道にツッコミを入れられる。そもそも精霊を釣るとか危ないだろ。アレは一般人なら一瞬で死ぬよ。瞬殺(しゅんさつ)だわ。しゅんころされちゃう。

 

 

「じゃあどう使うんだ?」

 

 

「その前に俺は物じゃないからな? 聞いている?」

 

 

全く士道の方を見らずに琴里を見る。琴里は得意げに告げる。

 

 

「精霊に―――恋をさせるの」

 

 

……………。

 

 

「待て、俺は絶対に協力しないからな」

 

 

「何勘違いしているのよ気持ち悪い。その為の士道よ」

 

 

「なるほど、理解した」

 

 

「「「「「えぇ!?」」」」」

 

 

あまりの順応の速さに周りは驚愕する。原田たちはポカンッと口を開けて聞いているのに、大樹はすぐに理解したのだ。

 

 

「い、今の理解したのか?」

 

 

「まぁな。ちょっと違うと思っていたからな」

 

 

「違う?」

 

 

「ああ、大きくなった士道から不思議な力を感じる。多分、士道に精霊の力を奪う能力があるとか……だろ?」

 

 

大樹の推測に琴里は目をまん丸くした。

 

 

「……驚いたわ。(おおむ)ね、合っているわ。士道は唯一精霊の霊力を抑えることができるのよ。例外はあるようだけど」

 

 

例外とは折紙の霊力封印に関してだろう。俺の存在は既に、常識の枠に当てはめることなど不可能なのだ!

 

 

「フッフッフッ、我が名はダイキ! この世に悪がいる限り、真実は、いつも一つ!」

 

 

「どういう意味だよ。いろいろ混ざり過ぎだろオイ」

 

 

大樹のボケと原田のツッコミを無視して話は進む。

 

 

「デートして精霊をデレさせることで、封印ができるのよ」

 

 

「ファッ!? 精霊の対処法にそんな素晴らしい方法が!? ならば急がなければ! 俺のスーパァー恋愛テクニックなら精霊なんて一発でメロメロにできる! そのまま熱い夜まで―――痛い痛い!? 嘘ですごめんなさい!! 冗談です!」

 

 

「士道限定よ、童貞」

 

 

「心も体もボロボロだよぉ!!」

 

 

「えげつねぇ光景だ……本当に大樹死ぬぞこれ……!?」

 

 

しかし、大樹の存在は無視して進む。

 

 

「十香、四糸乃、耶倶矢と夕弦。そしてあたしを含めて五人とも精霊よ」

 

 

「う、うぅ……狂三と七罪、元精霊だった折紙も含めたら八人か。結構多いな」

 

 

床を這いながら大樹は答える。体力がゼロのようですが、死んでいません。これが瀕死状態かと原田は戦慄して見ていた。

 

 

「……確認されている精霊を含めるなら、もう一人いるわ」

 

 

その言葉に大樹が眉を(ひそ)めた。

 

 

「あなたたちが探している精霊―――【ライトニング】もね」

 

 

「……情報提供はいくらだ?」

 

 

「あら? いくらまで出してくれるのかしら? 一億かしら?」

 

 

真面目な顔をした大樹がおかしかったのか、琴里が冗談で聞く。

 

 

「いや、十兆までなら出せると思う」

 

 

「「「「「チョウッ!?」」」」」

 

 

大樹の言葉に全員が目を見開いて驚愕した。

 

 

「国が二個三個、大変なことになるが……美琴の為だ。仕方ない、犠牲になってもらう」

 

 

「何をしようとしてんだお前!? お前の言葉マジで洒落にならないからやめろ!!」

 

 

「だって琴里ちゃんがお小遣い欲しいって……おじちゃん、頑張らないと!」

 

 

「お小遣いの限度じゃねぇよ!? 国が滅び傾くレベルじゃねぇか! 親戚のおじちゃんでも二千円くらいしかやらねぇよ!?」

 

 

「タダでいいわよ!? 元々教えるつもりだったから!」

 

 

最初からそう言えよー。まぁ半分冗談だけどな。

 

 

「【ライトニング】の出現回数は合計四回。どうにか士道とコンタクトを取りたかったけど、放り込んだら丸焦げになって帰って来そうだし、もたもたしていたらすぐにASTにバレそうだったからまだ関わっていないわ。彼女の情報はほぼ不明と言っていいわね」

 

 

「名前は御坂 美琴。俺たちのことを覚えていないから今は記憶喪失だ。あの電撃は精霊の力じゃないと思う。言ってなかったが『ファントム』が言うには美琴を精霊にした覚えはないと言った。狂三も、霊力を感じないと言っていたしな。新たな『ソロモン72柱』も出たからその線も残しつつ、ガルペスとの繋がりを視野に入れれば―――」

 

 

この男、不明と言ったそばから詳しく話し始める非常に失礼な奴である。

 

 

「———むぅ、確かに。あまり分からないな」

 

 

「「「「「嘘つけ!?」」」」」

 

 

「うえッ!? 何でみんな怒っているの!?」

 

 

自覚していない悪意は、性質が悪い。周りはそれ以上、大樹を責めなかった。

 

困惑しながら大樹は話を続ける。

 

 

「え、えっと……とにかくだ! 美琴が現れたら俺が何とかする!」

 

 

「その前に確認しなきゃいけないことがあるの」

 

 

何もまとまっていないのに、とりあえず方針は決まったような雰囲気を誤魔化し出しながら俺はグッジョブすると、琴里に止められた。この俺が、ゴリ押しができない……!? おのれぇ!!

 

 

「精霊の力を封印したのは、本当なの?」

 

 

「正確には『ファントム』が勝手に折紙に錠をして俺の中に鍵を隠した、が正しい」

 

 

「でも封印はしたのでしょ?」

 

 

「でも自分では制御できない」

 

 

「……他の精霊の封印は?」

 

 

「できるなら、七罪の霊力を封印しているのだが?」

 

 

「「……………」」

 

 

数秒、琴里と大樹が真剣な目で見つめ合っていた。瞬間、部屋に緊張した空気に包まれる。

 

最初に動いたのは、琴里だった。

 

 

「そう———役立たずね」

 

 

「馬鹿なぁッ!!??」

 

 

琴里の言葉に大樹は吐血した。あの緊迫した空気はどこへ行ったのやら。

 

 

「この俺がッ……役立たずッ……だと!? 料理洗濯、家事の仕事は完璧にこなし、仕事、政治から雑務まで全てをやって来た俺がッ!? 医学から歴史、世界の言葉を完璧に記憶できるこんの俺が……戦闘力は測定不能、神すら越えたこの俺がぁ……超絶美少女の嫁を持ったこの俺がぁぁ……どこが役立たずだとおおおおおおおおォォォ!!??」

 

 

(無理。これ聞いた後に、アイツのこと『役立たず』とか絶対言えない。どう頑張っても言えない)

 

 

今一度、原田と女の子たちは大樹の過去を振り返って見る。そして頷く。役立たず、言えないと。ただ馬鹿な奴は言えそうだった。

 

 

「まず『ファントム』の言葉に信憑性が無いわ。『ファントム』が人を精霊にすることができるのは確実。でも、【ライトニング】が精霊じゃないと言い切れないわ」

 

 

「……理由は?」

 

 

「全ての精霊が、『ファントム』の仕業と決定できる証明がないからよ」

 

 

……なるほどな。第三者の可能性、それから別の可能性か。

 

折紙と琴里は『ファントム』に精霊にされたと自分で分かっている。だけど、話に出て来た十香と呼ばれた少女たちは、『ファントム』の仕業だと断定できていないはずだ。もし、できているなら、琴里はそんなことを言う必要が無い。

 

謎が多い存在に、俺の推測だけでは足りない。

 

 

「レーダーにはしっかりと彼女から霊力が探知できている。データは四回とも、算出してある」

 

 

令音の付け加えに俺は少し考え、今度はこちらが問いかける。

 

 

「……じゃあ、お前たちはどうするつもりだ?」

 

 

「もちろん、いつも通り士道を使って精霊を救うわ」

 

 

その瞬間、空気が凍り付いた。

 

 

 

 

 

「———あ?」

 

 

 

 

 

聞いたことのない低い声での威圧。全員が息を飲み、体を震わせた。

 

体に風穴が開くような鋭い睨み。百獣の王でも逃げ出すレベルの恐ろしさだ。

 

その視線を向けられた琴里は、今にも泣き出しそうな表情だった。

 

 

「それは……士道が美琴とデートしてデレさせるってことだろ? おい、ふざけんなよオイ……」

 

 

「お、落ち着け大樹!?」

 

 

焦った原田が大樹を止めようとした瞬間、

 

 

ドンッ!!

 

 

 

 

 

「頼むからそれだけはやめてくれええええええェェェ!!!」

 

 

 

 

 

―――大樹は、土下座した。

 

 

「「「「「ええええええええええええェェェェェェ!!??」」」」」

 

 

完全に予想と違う展開になった。周りの人たちは声を上げて驚くことしかできなかった。

 

 

「嫌だぁ!! それだけは嫌だぁ!!」

 

 

「泣くなよ!? 今のキレる流れじゃないのかよ!? 舐めてんのかお前!? カッコ悪いぞ!?」

 

 

「美琴は……お前らなんかに……絶対に渡さねぇッ!!!」

 

 

「額を床に擦りつけながら言うセリフじゃねぇよ!?」

 

 

「要求は何だ!? 金か!? 世界の半分か!? 今なら月の所有権まで与えてやる!」

 

 

「規模がさっきよりデカイだろ!?」

 

 

「もし……それでもお前らが決行するなら———!」

 

 

土下座していた大樹が立ち上がる。そして、彼は笑顔で告げる。

 

 

 

 

 

「———冗談抜きで、世界を滅ぼす☆」

 

 

 

 

 

中指を立てながら、恐ろしいことを口にした。

 

この日、【フラクシナス】の人間たちは思い知った。

 

人類が恐怖するのは空間震でもなく、精霊でもなく、神でもない。

 

 

―――この男だということを。

 

 

________________________

 

 

 

 

「とりあえず、今日からここで世話になることになった」

 

 

「嘘でしょ……」

 

 

告げられた言葉に、七罪は顔色を悪くした。フッ、安心しろ。

 

 

「すぐに他の精霊と仲良くなるさ。それに友達なら、俺が居るだろ?」

 

 

「………………………………………………………そうね」

 

 

「さすがに泣くぞ?」

 

 

今日は泣き過ぎている。精神フルボッコされたせいで今、俺の心は脆いぞ。

 

ここは【フラクシナス】の部屋の一室。精霊の力を封印できてない彼女を下に降ろすことは危険だと琴里は判断し、ここに住まわせる予定だと言っていた。士道が七罪(コイツ)をデレさせるとか無理だろうな。

 

今は俺の神の力を秘めさせたペンダントを付けている。これで霊力を無力化できているので、これなら空に居ても七罪は見つからないだろう。

 

 

「あまり大樹をいじめない方がいいぞ。今日は、俺もさすがに同情したからな」

 

 

三分経ったカップ麺を三つ、テーブルの上に置きながら苦笑する原田。

 

 

「テメェの同情なんかいらねぇよ。麺伸びろカス」

 

 

「汁ぶっかけるぞゴミ」

 

 

「……仲が良いのか悪いのか、分からないわねアンタたち……」

 

 

「「仲良しだ、よぉッ!!」」

 

 

ゴスッ!!

 

 

「殴りながら言われても信じれないわよ!?」

 

 

死ね死ねオラオラ! 死ね死ねオラオラ!

 

原田と右手だけで死闘を繰り広げながらカップ麺を食べる。七罪は嫌な顔で食べていた。

 

 

「というかお前ッ、くッ、女の子達の部屋に行けよ!」

 

 

「ごめんな? ラブラブなところ邪魔しちゃって」

 

 

「「なッ!?」」

 

 

原田と七罪の顔が赤くなる。そして原田の攻撃速度が上昇する。

 

 

「しばくぞテメェ!!」

 

 

「……さっき美琴のことを言い過ぎてせいで、機嫌が斜めになったぽい」

 

 

「「あッ(察し)」」

 

 

「……俺は廊下で寝させられても、嫁たちを愛している」

 

 

「お前の愛、ホントすげぇな!? 気持ち悪い通り越して尊敬するぞ!?」

 

 

カップ麺を食べ終えると、俺はグッと背と腕を伸ばす。

 

 

「うー、ッし! それじゃあ俺はやることがあるからここらでドロン!」

 

 

「おっさんか」

 

 

大樹はご機嫌に笑いながら部屋を出て行く。その様子を原田は不安な表情で見ていたのを、七罪は見逃さなかった。

 

 

________________________

 

 

 

 

「あーちきしょう。ホント、だらしねぇな俺」

 

 

誰もいないトイレの洗面所。大樹は水を出したまま、鏡を見ていた。

 

自分の顔―――正確には目を見ていた。

 

大樹は恐る恐る、右手で右目を隠す。

 

 

「ッ……ふぅ」

 

 

―――何も、見えない。

 

 

突然の失明に大樹は驚いたが、不思議と焦りはしなかった。

 

左奥歯の歯が一つ、抜け落ちている。寝ている間に落ちた―――の、飲みこんでも大丈夫だよね? 出るよね?

 

 

「———老化だろうな」

 

 

自分の体のことは、自分が一番よく分かっていた。

 

神の力の代償なのだろうか。俺の体は、衰え、老いている。

 

多くの死を乗り越え、無茶をして、限界を何度もぶち破って来た。そのツケが回って来たのかもしれない。

 

 

(体力が落ちているわけじゃない。ただ、ボロボロになっている感覚は分かる)

 

 

この体が若さを保っていられるのは、恐らく頭の中に埋め込まれた弾丸。シャーロックのおかげだろう。

 

色金の力を使えば、シャーロックのように外見の若さを保つことができる。しかし、視力などは無理だ。

 

そう見えないから忘れそうになるが、アイツは盲目の男。俺は片眼だから良いが、アイツのように、全てを見通すことなんて……化け物みたいなことは絶対にできねぇ。

 

 

(……正直に真実を話したいが、これだけは無理かな)

 

 

水を止めて大樹は深呼吸する。部屋に戻って休もうと考える。その時、

 

 

ウウウウウゥゥゥ―――――!!!

 

 

空間震警報が、響き渡った。

 

 

「はぁ……休憩はないのか休憩は? ブラックじゃねぇかよここ」

 

 

疲れた顔をした大樹は溜め息をつく。

 

しかし、次の瞬間、笑みを見せながら司令室を目指し走り出した。

 

 

「ま、大好きな人の為なら年中無休働いてやりますよッ」

 

 

 





シャド〇バースネタ。

【 大 樹 】 コスト? 100/100


・QB

大樹「ヘッ、鈍いなッ!」(1コス疾走)

原田「お前の様なQBが居てたまるか」


・海底都市王・乙姫

乙姫「タイやヒラメが舞い踊る♪」
大樹「乙姫様を全力でお守りします!!」(守護)

原田「お前の様な奴が四体も居てたまるか」


・1ターンキル

1ターン目 先行

大樹「へッ、鈍いなッ! 遅え!」

ドゴンッ!!

敵ライフ -80

原田「遅いも何も、どうすりゃいいんだよ」


・進化

『敵のフォロワー全消滅』

原田「チートだろ」


・冥府

大樹「ちょっと相手の墓地破壊してくる……!」

原田(冥府使い嫌いなのか……)


・陽光大樹

大樹「かかってこい」

原田「エクスキューション」

大樹「うべぇ!?」


・光輝ドラゴン

光輝ドラゴン「争いが無益だと何故分からぬ!」

大樹「俺に勝てるわけがないと何故分からない?」

光輝ドラゴン「!?」

原田「やめろ」


・リーダー

【ヒューマン】 ダイキ

ぶっ壊れカードが多い。アポカリプスデッキより強い。


原田「勝てる気がしねぇわ」

大樹「俺は、全てを救う!」

原田「セリフいらんわやめろ」

大樹「あとで覚えてろよ……!」

原田「負けセリフが酷い」


・不屈の兵士

不屈の兵士「祖国のために!」

大樹「嫁のために!」

『自分の場に嫁が出るたび、自分の能力を二倍にする』

不屈の兵士「!?」

原田「いい加減にしろ」

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