どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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やっと書けました! 申し訳ないです。ずっと行き詰っていましたが、何とか書けました。

もうすぐ夏休み。とりあえず熱中症には気を付けて———ポケ〇ンGOを楽しんでください。 引き籠り寄りだった私ですが、今では元気に外に出ています。


あッ、歩きスマホは駄目ですからね!


七罪の悪戯にご用心

前回のあらすじぃ!!

 

この俺、楢原 大樹は見事に女の子たちの過去を改変して———とりあえず世界を救った。うん、それでいいや。全然救ってないけど。全然関係ないけど。

 

さらに残念なことにガルペスには嫁がいた。憎い。満員電車で肘打ちくらった並みに憎い。これ別にそこまで憎んでないな。平和だわ。

 

最後は俺が死んだ原因が明らかになり、なんやかんやあって元の世界に帰ることに成功。

 

 

 

 

 

そして———嫁がロリッた。あらすじ雑ッ。

 

 

 

 

 

本気で何を言っているんだお前。そう思うのは仕方がないと思うが、本当なんだ。信じてくれ。

 

……いや、これはきっと何かの間違いなんだよ。そうだよ、間違い間違い。元気を出そう。

 

 

「大樹!? しっかりしろ!? お前が最後の頼みの綱なんだぞ!?」

 

 

「ハッ!?」

 

 

原田にガクガクと両肩を揺らされて正気に戻る。危ない危ない。現実逃避していた。

 

 

「原田。状況の説明を」

 

 

「トイレから帰って来たらこうなってた」

 

 

「お前使えねぇ。転がっている石より使えねぇ」

 

 

投げれば銃弾並みの武器になる石より使えねぇ。え? 普通はならない? 当たり前だろ。俺だけだよ。もう分かってんだろ?

 

 

「今回はマジな方で反省しているからそんなゴミを見るような目で俺を見下さないでくれ」

 

 

原因不明か。なら状況を推理して謎を紐解くしかねぇ。

 

 

「服がダボダボなのを着ていたから……体がコ〇ンのように縮んだ。そう推測できるけど……ATPX(アポ〇キシン)4869じゃないよな?」

 

 

「俺がトイレに行っている間に薬を飲ませることなんてできない。鳶一が言うには眩い光が部屋を包み込んで、気が付けば女の子たちの体がああなっていたらしい」

 

 

証言あるならはよ言えや。思いっ切り間違えているし、その光が原因だろ。

 

———って折紙!

 

 

「ッ! 折紙はどこだ!?」

 

 

「な、何を慌てているんだ? 鳶一なら猿飛さんと一緒に買い物に出かけたから———」

 

 

ガチャッ

 

 

「ただいま戻りました!」

 

 

玄関の扉が開くと同時に聞き覚えのある声が耳に入った。視線を玄関に移すと、そこには成長した折紙の姿があった。最初に出会った時の短い髪ではなく、長い髪になっていたことに少し驚いてしまう。

 

折紙は大樹の存在に気付くと、一目散に俺に向かって抱き付こうと———

 

 

「ま、待つんだ折紙!? 今は駄目だ! やめろぉ!!」

 

 

「えぇ!?」

 

 

大樹はそれを拒否した。折紙が驚きの声を上げる。感動の再会はまた後で。

 

 

「うわぁ!? 何をしているですか先生たち!?」

 

 

折紙の後ろに居た猿飛こと大人になったサル君。酷くビックリしている。俺と原田はリビングに通じる扉を必死に抑えていたのだ。

 

 

「よぉサル君。悪いが命のやり取りをしているんだ。冗談はなしだ」

 

 

「だから何をやっているのですか!?」

 

 

「あー、説明するとですね、大樹が悪い。モテるコイツが全て悪い」

 

 

「あんな小さな子に手を出したら捕まるだろが!?」

 

 

(アリアやティナはセーフなのだろうか? 基準がよく分からない。というかコイツキモイ)

 

 

「大樹君?」

 

 

「おっと、折紙さん? 目が怖いですよ? ヤンデレより怖い目になっていますよ? いつものように『お兄ちゃん』か『お父さん』って呼んでもいいんだぞ?」

 

 

「お死ちゃん、お死さん」

 

 

「似るどころか完全に字がヤバイ方向で違うからやめて。ホント怖い」

 

 

ドンドンッ!!

 

 

その時、背後から強い衝撃が再び襲い掛かって来る。

 

 

『なんであけないのよだいき! かざあなあけるわよ!』

 

 

『ゆうこ! まほうであけるわよ!』

 

 

『わかったわ!』

 

 

扉に魔法陣のようなモノが浮かび上がり、大樹と原田は必死に扉を抑えつけていた。クッ、持ち堪えてくれよドア! お前の勇姿、そばで見届けてやる!

 

 

「「うおおおおおおおォォォ!?」」

 

 

「な、何で開けないのですか……」

 

 

折紙が引いた表情で尋ねて来る。原田は引き攣った顔で返す。

 

 

「だ、大樹の取り合いになるからだよッ……泣いたり怒ったりもう手に負えないほどさっきヤバかったんだよ!! 銃や魔法まで使われたらホントヤバい! 無邪気って怖ぇ!!」

 

 

「モテる俺に乾杯」

 

 

「完敗の間違いだろ」

 

 

「と、とにかく開けてください! 私が何とかします!」

 

 

折紙は買って来た大きな紙袋を抱きかかえて二人の前に立つ。しかし、男二人は首を横に振った。

 

 

「「死ぬぞ、マジで」」

 

 

「嘘ですよね!? 大袈裟に……って真っ青な表情で首を振らないでください!」

 

 

どうしても通ろうとする折紙に大樹は爽やかな笑みを見せた。

 

 

「俺の可愛い折紙。お前も俺のことが好きならここは任せてくれ」

 

 

(コイツ……照れる素振りも見せずにスラスラと……!?)

 

 

女の子に対する耐性が付いている大樹に原田は驚愕する。ヘタレな大樹はどこに行ったっと。

 

 

「……………うんッ」

 

 

(普通に何かもう堕ちてたあああああァァァ!! 知ってたけどおおおおおォォォ!!)

 

 

再度驚愕する原田。大樹のことをヘタレと呼べないが、たらしとは呼べそうだ。

 

 

「こうなれば死ぬ覚悟で遊ぶしかねぇ……! 遊んで遊んで、疲れさせて寝させる!」

 

 

「……お、おう。そうか……うん、いいと思うよ」

 

 

まともな提案をする大樹に原田はぎこちなく頷く。大樹は深呼吸した後、扉を開けて中に突入した。

 

 

「よっしゃあ! ロリったお前らと遊べる機会なんてもう絶対にないから今のうちにどさくさ紛れて色んな場所をタッチぎゃあああああああ!? 痛いッ! 痛いよ!? 俺の関節はそっちがばべッ!? く、食えないから!? それ食えないから!? 女の子の力ってそんなに強いぐふッ!? 待ってそれ死ぬ! そうだ、アレをやろう! そうそう、おままごと! プロレスごっこはやめような? 女の子がそんな物騒なってちょ!? 武器は無しでしょ!? おい銃を下げろ! 魔法もアウトだからって喧嘩しないで! 女の子同士の喧嘩なんて見たくおぼッ!? 俺を取りあうのはぐぼら!? ま、巻き込まれあああああああああああ!!」

 

 

「「「……………」」」

 

 

原田は無言で扉を抑え、折紙と猿飛は手を合わせて合掌。

 

 

———このカオスが収まるには、一時間もかかったそうだ。

 

 

________________________

 

 

 

「よし、じゃあ約束通りおままごとをしようか」

 

 

「よし、とりあえず血、拭けよ」

 

 

折紙たちが部屋に入れるようになるぐらい落ち着かせることに成功。原田にタオルを貰い、血を拭く。サンキュー原田。

 

小さくなった女の子たちは笑顔で頷いてくれる。

 

 

「人形は……【創造生成(ゴッド・クリエイト)】するか」

 

 

……………。

 

 

「「「「「えッ!?」」」」」

 

 

神の力を使役した大樹。手から次々と黄金の光が輝くと同時に可愛い人形が創られる。当然その場に居た全員が驚愕した。

 

 

「やめた……ついに大樹が完全に人間をやめた……!」

 

 

「うるせぇ黙れ」

 

 

「先生。僕は今日から神と呼んだ方が?」

 

 

「うるせぇ黙れ」

 

 

「さすがに将来の旦那様がそんなことをするのは……ちょっと」

 

 

「うるせぇだま……おい今何て言った折紙。やめろよ。またボコられるだろうが」

 

 

必死にとても小さな女の子の頭を撫でまくる。睨まれる鋭い視線は己の強い心のATフィールドで防ぐ。折紙の発言にとても言いたいことはあるが、今はやめておこう。

 

 

「じゃあ役を決めるか」

 

 

たくさんある人形の中から俺は無難にスーツを着た若い男を選ぶ。原田はお隣に住むニートを()()()、サル君は学校の先生を選んだ。原田に関しては悪意100%ですが何か?

 

小さな女の子たちは楽しそうに話し合い、人形を選んだ。

 

ロリアリアはエプロンを着用した女性を選び、ロリ優子もエプロンを着用した女性を選び、ロリ黒ウサギもエプロンを着用した女性を選び、ロリ真由美もエプロンを着用した女性を選び、ロリティナもエプロンを着用した女性を選びってちょっと待て。頭にロリを付けるのはやめるとして、

 

 

「うん、ちょっと待て。全員容姿と身長や顔は確かにお前らの将来の姿を似るように生成した。みんな違って、みんな良い」

 

 

「ああ、俺の坊主頭と容姿が見事に再現されているのに、Tシャツの文字に『ニート』って書かれているからすっげぇ腹が立つ」

 

 

「でもさぁ……何で俺が地道に作った小道具のエプロンを着用させたのみんな?」

 

 

女の子たちはニコニコしながら声を揃えた。

 

 

「「「「「みんなでお母さん役だから!」」」」」

 

 

「一夫多妻を何の抵抗もなく受け入れる女の子を見て俺はどうすればいい? 喜べばいいのか? 震えた方がいいのか?」

 

 

「知るか。純粋な笑顔を向けられたぐらいで意志揺れるなよ」

 

 

無理。俺、この子たちを汚せない。

 

 

「ち、違う話にしないか!? もっとほら! 友情を大切にする話とか!」

 

 

「ッ!」

 

 

急いで内容を変えようとする俺に優子が反応した。優子は女の子たち全員に男性の人形を配ると、

 

 

「ゆうじょうからうまれる、あい!」

 

 

「ごめん、最初の設定で行こうか」

 

 

やっぱり俺はこういう時が優子の恐ろしさを一番感じてしまう。原田たちは苦笑いで俺を憐れんでいた。

 

結局一夫多妻の取り入れられた物語をやるらしい。そう言えば折紙の役は何だ?

 

折紙の人形を見てみると、俺と同じようにスーツを着た女性だった。なるほど、同僚役だな。

 

 

「始めるか……ただいまー」

 

 

人形を動かしながらまるで家に帰って来たお父さんのような声を出す。すると、

 

 

「「「「「おかえりなさい! あなた!」」」」」

 

 

ツッコまないぞ? ツッコんでいたらとても疲れるからな!

 

 

「あー疲れた疲れた。同僚が仕事をミスしたり、取引先のサルみたいな顔の奴がうるさくて長引いてしまったぜ」

 

 

「「酷い!?」」

 

 

折紙とサル君が驚愕する。別にお前らとは言っていない。名前は出していないからな!

 

するとアリアたちが顔を合わせて何かタイミングを図っていた。うん? 何をするのだ?

 

 

「ご飯にする?」

 

 

「お、お風呂にする?」

 

 

「それとも……?」

 

 

首を傾げながらご飯と聞くアリア。恥ずかしがりながらお風呂と聞く優子。器用にウインクしながら言葉を続けようとする真由美。

 

天使たちが、声を揃えた。

 

 

「「「「「わ・た・し・た・ち?」」」」」

 

 

「全員愛してる。今晩は寝かさない」

 

 

「おいやめろ馬鹿!? 犯罪だこのロリコン!」

 

 

俺の天使たちを抱き締めた瞬間、原田に殴られた。何でだよ!?

 

 

「ふざけんな! 嫁と愛を語り合って何が悪いんだよ!」

 

 

「年齢が悪いんだろうが! 元の年齢なら文句は何一つ言わねぇよ! でもこれは駄目だろ!?」

 

 

「フッ、歳の差なんて、関係ねぇよ……だってそうだろ?」

 

 

「良い風に言ってんじゃねぇぞこのクソロリコンがぁ!!」

 

 

胸ぐらを掴み合って頭突きの戦いを繰り返す。正直、馬鹿になりそうなくらい頭痛いが、男には引けぬ戦いがあるのだ。

 

そんな戦いを嫁たちは応援してくれている。しかし、何かを思いついた真由美が俺に近づき、泣く真似をしながらこう言った。

 

 

 

 

 

「———おとなりさんのセクハラが激しいの」

 

 

 

 

 

———問答無用で俺は刀を握り絞め、原田の首へと振り下ろした。

 

 

 

 

 

「やめろおおおおおおおおおおお!!??」

 

 

刃が首に当たる瞬間、バシッと真剣白刃取りする原田。表情に余裕はなく、汗を流しながら真っ青になっていた。

 

 

「ぶッッッッ殺してやるぅッ!!!!」

 

 

「フィクション! 嘘だからな!? やっていないからな!? 頼むから神の力を使ってまで俺を斬ろうとしないでくれぇ!!」

 

 

鬼の形相で原田を斬り殺そうとする大樹。折紙とサル君はガクガクと震えて怯えていた。

 

 

「ホント待て!? 死ぬから!? マジで死ぬから!? いい加減にしろよゴラあああああァァァ!!」

 

 

「生意気なんだよクソニートがあああああァァァ!!」

 

 

「だからそれ役だからあああああァァァ!!」

 

 

「俺は嫁に手を出そうとする奴を絶対に許さん! 神だろうが地獄の大王だろうが絶対ぶっ殺す! お前もだクソニートおおおおおォォォ!!!」

 

 

「誰かコイツを止めてくれえええええェェェ!!」

 

 

 

———このカオスが収まるには、一時間もかかったそうだ。

 

 

________________________

 

 

 

折紙が女の子たちを風呂に入れさせた後、次は食事だった。

 

 

「飯? 冷蔵庫に食べれる食材があるなら後で俺が作るよ」

 

 

「逆に食べれない食材って何? 食材の定義を(くつが)す気かお前」

 

 

原田とヘンテコな会話をした後、女の子たちを全員抱きかかえながらキッチンへと向かう。抱えるのは容易であるが、長時間&料理するのはキツイぜ。

 

 

「休憩したいんだが?」

 

 

「「「「「やだッ!!」」」」」

 

 

悪戯に笑う嫁たちに萌え死にそうなんだが。もう可愛過ぎッ!

 

 

「おい大樹。顔、顔、顔!」

 

 

「え? イケメン?」

 

 

「いや、警察が見たら何の躊躇もなく一発で逮捕できる勢いくらい危ないぞ」

 

 

マジかよ。

 

 

「料理なら私が……」

 

 

「待て折紙。どうせ下手というオチだろ? そういうのいらないからな。間に合ってるからな」

 

 

「何が!? 料理はずっと練習してきたから人並みにはできるから! 自信あるから!」

 

 

なんと! この子たちの中で料理ができる子って黒ウサギぐらいだからな! 優子は俺が少し教えているからまぁまぁで、ティナはピザしか作れないし、アリアと真由美はアレだからな! ホント間に合ってるわ!

 

 

「俺の愛の手作り料理が食べたい人は手を挙げろー!」

 

 

「「「「「はーい!」」」」」

 

 

「何て酷い真似をしているんだお前!? 鳶一に失礼———ってお前も手を挙げるなよ!? 一気に大樹を責め辛くなっただろうが!」

 

 

というわけで女の子を全員抱きかかえたまま、右手だけで調理を開始する。右手というか指先だけしか動かしていないけどね。俺の料理の腕も上がったな。いや、料理の指が上がったが正しいか。

 

 

「何で料理できているんだアイツ……」

 

 

「先生の料理が次元を超えていてさすがに引きます……」

 

 

解せぬ。原田とサル君が俺の悪口を言っている。俺は普通に料理しているだけなのに。

 

女の子たちから髪を引っ張られ、怒られ、泣かれ、ド突かれ色々とハプニングは起きたが全て解決しながら料理を終える。

 

 

「はい完成」

 

 

「だ、大丈夫か? 見ていて凄い光景だったけど……」

 

 

ああ、髪とかボサボサになった。

 

 

「親の大変さがよく分かったわ」

 

 

「そ、そうか……多分、親以上に大変さが分かったと思うぞ、今の時間だけは」

 

 

オカン、オトン。俺を育ててくれてありがとう。子どもの俺ってかなり……いや結構……ヤバいくらい元気があるやんちゃな男の子だった記憶があるから申し訳ない。

 

全員で手を合わせていただきます。行儀良く食べるのは子どもの教育では大切だからな。

 

 

「うへへ……幼い嫁の姿……」

 

 

「食事中にニヤニヤしながら写真撮るな。犯罪者にしか見えんぞ」

 

 

何て酷い言い草でしょうか。原田君、私は大切な嫁の姿を写真に記録しているだけだぞ?

 

 

「さて、真面目な話をしようか」

 

 

「ああ、でもその前に鼻血を拭け。な?」

 

 

原田はティッシュを渡しながら俺を憐れんだ目で見ていた。折紙もサル君も同じような目で見ていた。そんな目で見ないでぇ!

 

 

「俺としてはこのままお父さんとして生きて行くのも———おい冗談だ。汚物を見るような目をするな!」

 

 

何でさっきから睨むのお前らは! もしかして目が悪いの? 痛むの? 眼科行け!

 

 

「結論から言うと、元に戻すことはできる。とても簡単に」

 

 

その一言は全員に衝撃を———

 

 

「……すまん、ここは凄く驚くポイントだと思うが、その……慣れたから」

 

 

「……………」

 

 

———なんか与えられなかった。

 

 

「お前ができないことはない。というか不可能を可能にするよな、お前って」

 

 

「そんなに褒め……………いや、それ馬鹿にしているよな?」

 

 

遠回しに俺のことを規格外扱いしている。自分でも規格外と思うけど。かなり前から。

 

 

「戻せることは分かった。でも何で戻さない?」

 

 

「原因が知りたいからだ。俺の力は跡形もなく完全に打ち消すから誰がこんなことをしたのか分からなくなってしまう。あまり下手なことをすると、次はもっと酷い仕打ちを食らうかもしれないしな」

 

 

「……意外と考えていたのか。さすがロリコン」

 

 

「ロリコンじゃない。フェミニストだ!」

 

 

「うるせぇよ変態」

 

 

この野郎……! 反論できないからムカつくわ。テメェは後で埋める。

 

 

「と、とにかく原田は情報収集しろ。俺は子育てするから任せたぞ」

 

 

「えー、俺がちゃんと子育てするからお前がサクッと情報を———」

 

 

「マジで殺すぞ?」

 

 

「ごめん」

 

 

大樹の目には殺意の炎が燃えていた。折紙は苦笑いだが、猿飛医師は真顔で何も文句を言わなかった。

 

 

________________________

 

 

 

「そういやアイツはどうした?」

 

 

「アイツ?」

 

 

「馬鹿犬」

 

 

「お前……また乳首噛まれるぞ……元気になった後、散歩に行った」

 

 

「猫かよ」

 

 

とりあえず元気にしているなら結構。ガルペスとの激しい戦いは———ん? ジャコって何かした? 俺が結構頑張っていただけじゃね?

 

 

「じゃあアイツらは? 士道と琴里ちゃんはどこに行った? 録音機で一緒に声を取っていただろ?」

 

 

「ああ、帰ったよ。何か事態が深刻になったとかどうごばッ!? 何で急に殴った!?」

 

 

録音機で悪口を言ったことを思い出したからだよクソ野郎。

 

 

「なら狂三は?」

 

 

「………………………………………さぁ?」

 

 

「待てゴラァ」

 

 

その長い間は何だ。あまりの長さに魔を感じたぞ。ケガレだわ。あかーんッ!! ……宮〇 大輔じゃないぞ。き〇この方だから。

 

 

「知ってるだろ。絶対何か知ってるだろ」

 

 

「なぁ大樹。知らぬが仏って言葉が———」

 

 

じゃあもういい。聞きたくない。そう思い俺は耳を塞いだ。サル君が気まずそうにしているから聞きたくない。

 

 

「ねぇ……お兄ちゃん」

 

 

俺のことを呼んだだけなのに、折紙の声にゾッとした。鳥肌が凄い。

 

折紙の方を振り向くと、そこにはドス黒いオーラを出した折紙が笑顔で———これはアカン。

 

 

「お、お兄ちゃんと呼ばずに大樹って呼んでもいいんだぜ!? もう俺とお前の仲じゃないか!」

 

 

「話を逸らさないで大樹君」

 

 

「アッハイ」

 

 

体で覚えているこの威圧感。既に俺はその場に正座していた。

 

原田とサル君が子どもたちを部屋へと避難させる。優しい? 違う、アイツらは逃げる理由を作っただけだ。

 

 

「……言いたいこと、分かる?」

 

 

「……大きくなったな」

 

 

「違う」

 

 

「…………綺麗になっ」

 

 

「違う」

 

 

「………………エロくなったな」

 

 

「……………」

 

 

「ごめん。自分で言ってなんだけど何か喋って! お願い! 頬を赤めてないで何か喋って!」

 

 

土下座しながらふざけて言ったことを後悔する。

 

折紙は一度咳払いをして、大樹は涙と汗を拭いた。

 

 

「結局……大樹君は浮気していたけれど、実際は全員愛していたと」

 

 

「ちょっと待て。俺の予想していた話題と全然違うんだけど。しかもそれを聞く?」

 

 

狂三どこ行った。出されても困るけど。

 

 

「……私にとって凄く大事な話だから」

 

 

俯きながら呟いた言葉に俺は息を飲む。

 

折紙に対して、どう答えようか悩んでいた。

 

 

(……ごまかすわけにはいかないよな)

 

 

一度深呼吸して、折紙と向き合った。真剣な表情をした俺に、折紙は泣きそうな表情になってしまう。

 

 

「……大事だよ。俺の中で命よりずっと大切で、永遠に一緒に居たいくらい」

 

 

「ッ……それは———」

 

 

「折紙」

 

 

折紙の言葉をわざと声で被せた。

 

 

「俺はお前のことが大好きで大切だ。でも———」

 

 

 

 

 

「———聞きたくないッ」

 

 

 

 

 

ドンッと胸に来る強くない衝撃。

 

折紙が抱き付いて来た。それを受け止めたが、俺は受け入れるこはできない。

 

この瞬間、自分がどれだけ愚かなことをしていたのかを知った。

 

胸の中で啜り泣く女の子を、俺は慰めることができなかった。

 

 

 

________________________

 

 

 

折紙を部屋に返した後、俺は女の子たちを寝かしつけた。遊び疲れていたおかげか簡単に眠ってくれたことにホッと息を吐き出す。

 

ベランダに出て夜風に当たっていると、

 

 

「大丈夫ですか、先生」

 

 

「……………おう」

 

 

後ろから声をかけられる。缶ビールを2つ持ちながらサル君は笑っていた。

 

二人はカシュッと良い音と共に開封。いざ飲もうとした時、俺は気付いた。

 

 

「そういや俺、まだ未成年だわ」

 

 

「ぶふッ!?」

 

 

隣でサル君がビールを吹き出した。汚ッ。

 

 

「待ってください!? あの時先生、普通に飲んでいたじゃないですか!?」

 

 

「それは記憶喪失だったし、仕方ないだろ」

 

 

サル君は俺からビールを取り上げて急いでキッチンへと戻り、缶コーラを代わりに持って来た。

 

 

「えー、いいじゃん今日くらい」

 

 

「駄目です。医者として見過ごせません」

 

 

首を横に振って断固拒否する。

 

そうだ、サル君は医者になれたんだったな。聞けば世界で一位二位を争う名医になったそうじゃねぇか。

 

教え子が立派になることは喜ばしい。しかし、まだ教師を終えて良いわけではなさそうだ。

 

 

「それで、どうした?」

 

 

「え?」

 

 

コーラを飲みながら俺はサル君に尋ねる。

 

 

「悩みがあるんだろ?」

 

 

「……理由を聞いても?」

 

 

「馬鹿。世界的名医がこんな場所にいること自体がおかしいだろ」

 

 

「そ、それは娘と会うために……」

 

 

「お前の役職じゃ簡単に休みなんて取れる———今何て言った?」

 

 

「あ、先生。僕、結婚しましたよ」

 

 

うそーん。先越されたのかよ。

 

 

「……………写真見たい」

 

 

「どうぞ。携帯に保存してあるので。こっちが娘の美也子(みやこ)です」

 

 

「おー、可愛い可愛い」

 

 

「こちらが僕の奥さんです」

 

 

「はー、綺麗だなぁ……ん?」

 

 

サル君と一緒に写る女性に俺は何度も瞬きをして見直した。

 

 

「この子……ネコカフェでバイトしていたりしなかったか?」

 

 

「…………………………さぁ?」

 

 

「テメェらは図星突かれると停止する仕組みになってんのか」

 

 

まぁ分かるよ? 俺も経験あるから。確かに思考が固まるんだよ。フリーズする。

 

 

「お前……俺を利用してバイトの店員と仲良くなって、ニャンニャンしていたんじゃ……」

 

 

「ち、違いますよ!? たまたまネコカフェに入ってたまたまその店員が先生を知っていてたまたま仲良くなってたまたま恋愛に発展したんです!」

 

 

「たまたまたまたまうるせぇよ! それ絶対に偶然じゃねぇだろうが! 〇玉引き千切るぞ!!」

 

 

「ヒィ!!」

 

 

股間を抑えながら怯えるサル君。

 

……ふぅ、落ち着け。俺は大人だ。そんなことでは怒ったりしない。

 

舌打ちをした後、コーラを飲み干して話を戻す。

 

 

「それで、お前の悩みに戻るわけだが……難病を治す天才医師をそう易々(やすやす)と上が休みを与えると思うか? それに、お前は救える命を金で脅したり、自分の都合で蹴るような奴じゃない」

 

 

「……さすが先生ですね」

 

 

サル君は少し笑みを見せた後、苦しそうな表情をした。

 

 

「今は『休養』という形で仕事を休ませていただいています。もう四ヶ月以上、医療器具に触れていません。いや、これでは言い方が違いますね」

 

 

サル君は下唇を噛んだ後、グシャッと缶を少しだけ潰した。

 

 

「———医療器具に、触れられないんです」

 

 

「……何があった」

 

 

そう尋ねると、サル君の瞳から—――

 

 

 

 

 

「人を……殺しましたッ……!」

 

 

 

 

 

———大粒の涙が零れ落ちた。

 

 

告白された言葉に大樹は目を閉じて続きを聞く。

 

 

「……それで?」

 

 

「……僕は紛争が起きている外国で怪我人の治療をしていました。全く関係のない地元の人たちが傷つくのが見ていられなくて、無償で治療をしていました」

 

 

ですがっとサル君は付け加える。

 

 

「問題は起きました。僕の持つ医療器具や機器はどれも最新で予備も十分に用意していました。薬品や包帯、完璧にできていたのに———」

 

 

「そこが、問題だったんだろ」

 

 

指摘された瞬間、サル君の握っていた缶がベランダに落ちた。

 

 

「最新? 予備も十分に? 完璧に? お前、どこに行ってるのか本当に分かっていたのか」

 

 

「分かっていた! 僕はしっかりと———!」

 

 

「それは頭の中だけだろうが。銃を握って命懸けで戦ったことのない奴が偉そうなことを言うんじゃねぇ」

 

 

「ッ……!」

 

 

サル君———猿飛 真に植え付けられたトラウマの正体を大樹は見抜いていた。

 

 

「だから()()()()()()()。敵にも味方にも」

 

 

歯を強く食い縛る音が聞こえる。推測は当たっているようだ。

 

最悪な結果だっただろう。最新の医療器具と機器———そんな札束の山を持ち歩いているような奴が紛争地帯にいるなんて、悪人が見たら絶好のカモにしか見えないだろう。

 

盗んで当然。盗まれて当然。

 

彼らは生きる為に盗む。血を流さず、何もかも失わないように。そういう残酷な世界だ。日本のように甘い世界じゃない。

 

 

「殺したとか言っているが、単純に医療器具を盗まれたから、目の前で死にかける人を治療できなかっただけだろ」

 

 

「単純に……ですって……!?」

 

 

今にも掴みかかって来そうになっているサル君。怒った顔で俺に怒鳴りつけようとするが、

 

 

「頭冷やせこの大馬鹿が」

 

 

バチンッ!

 

 

「い゛ッ?」

 

 

サル君の額に強いデコピンを当てて止めた。サル君は額を抑えながら痛みに悶える。

 

 

「ぐあぁ!? しゃ、洒落にならにゃいでしゅぎゃああああああ!」

 

 

「あー、ちょっと加減間違えたかな?」

 

 

全く反省の色を見せない大樹。恨みがましい顔で俺を見ているが、

 

 

「ホント変わらないな、お前はよ」

 

 

「ッ……何がです?」

 

 

「余裕を持てって言ってるだろ。いいか、よく聞け。お前は確かに軽率な真似をしたかもしれん」

 

 

サル君の頭をグシャグシャグシャグシャグシャグシャーーー!っと乱暴に撫でた。髪がボサボサになるまでしてやった。

 

 

「でも、確かに救った命はあったはずだ」

 

 

「ッ!」

 

 

「間違いはあった。それでも俺はお前のことを誇りに思っている。何故か分かるか?」

 

 

大樹はいつものように笑顔を見せながら親指を立てた。

 

 

「誰よりも、立派な医者になっているからだ」

 

 

「先生……」

 

 

「無償で治療するなんてビックリだよ。危険な紛争地帯まで行くお前が、愚かだなんて一切思わない」

 

 

だけどっと大樹はサル君を指差しながら付け足す。

 

 

「一つ叱ることがある。それはお前の停止した時間だ」

 

 

「時間、ですか……」

 

 

「四ヶ月という休養期間でお前は何百人……いや何千人もの人の命を救える人間だ。でもお前は逃げた。理不尽なことを言うが、その放棄は———無責任だ」

 

 

「……はい」

 

 

「目の前で人が死んでトラウマになるのは痛いくらい分かる。俺も、目の前で大事な人を失ったから」

 

 

「先生もですか……」

 

 

「ああ、俺は全てを諦めていた。でも、周りが励ましてくれたおかげで俺は今、ここにいるんだ」

 

 

そうだ。俺は大切な人たちに背中を押されてここまで来ることができたんだ。

 

なら、次は俺が押す番だ。

 

 

「勇気を振り絞れ。助かる命を、見捨てるようなことがないように」

 

 

「……ッ……はいッ…!」

 

 

下を向いた男の背中をドンと後ろから叩く。

 

 

「お前ならできる。絶対に。だって———」

 

 

そう、コイツは猿飛 真。

 

 

 

 

 

「———お前の家庭教師は、この俺だぜ?」

 

 

 

 

 

お前は俺の自慢の生徒なのだから。

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

———次の日。

 

 

「今日も一日頑張るぞい! ぐふッ……」

 

 

「大樹ぃ!?」

 

 

楢原 大樹は女の子たちのオモチャにされていた。決して卑猥な意味では無い。

 

床に倒れる大樹に女の子たちが楽しそうに寄り添っている。

 

 

「大丈夫か!? 今、首が360度回った気がするんだが!?」

 

 

「安心しろ。ちゃんと一周回っているから問題無い」

 

 

「むしろそれが問題なんだが!?」

 

 

サル君は帰宅。折紙は買い出し、原田と俺が女の子たちの相手をすることになったのだが、やはり大樹はモテていた。

 

 

「もういっそガルペスたちに殺されるぐらいなら女の子たちの手で———」

 

 

「物騒なこと言ってんじゃねぇぞ!?」

 

 

そして———

 

 

「あッ、それはアカン……」

 

 

バタリッ

 

 

「だ、大樹が死んだああああああァァァ!?」

 

 

———原田は情報収集することができず、大樹の看病をすることになってしまった。

 

 

________________________

 

 

朝から女の子たちと遊び続けて昼になる頃、ドアのインターホンが押された。

 

 

「はいはーい」

 

 

遊びを中断して急いで玄関へと向かう。おっと、手に手錠が付いたままだった。壊して脱出しておかないとな。

 

 

「どちら様ですかーっと」

 

 

と、ドアノブを握り絞めた瞬間、嫌な予感がした。そう、あの感じ。コーヒーにガムシロップを入れたはずなのに何故かコーヒーカップの横に未使用のガムシロップが置いてある感じ並みに嫌な予感がした。まぁ結果としてただガムシロップ入れてなかっただけというオチだけど。え? 面白くない? でしょうね。面目ない。

 

扉を開けるとそこには見覚えのある女性が立っていた。

 

 

「お前ッ……!?」

 

 

「うふふ、また会えたわね、大樹」

 

 

妖艶な笑みを見せながら、彼女は俺の名前を呼んだ。

 

艶やかな長い緑色の髪に翠玉の瞳。魔女を連想させる先端の折れた円錐(えんすい)の帽子を被った女性。

 

それはガルペスと戦い過去に飛ばされる前に会った精霊。その名前は———!

 

 

「七罪じゃねぇか。どうした? 近くまで来たから寄ったのか? まぁお茶の一杯くらい———」

 

 

「待って。ねぇ待って」

 

 

部屋の中に案内しようとすると、腕を掴まれた。

 

 

「どうした?」

 

 

「……驚かないの?」

 

 

「何で驚く必要があるんだ?」

 

 

「えッ」

 

 

「えッ」

 

 

「……このくだりはもういいわよ」

 

 

「お前が先に『えッ』って言ったから始めたけどな」

 

 

難しい表情になる七罪だが、すぐに笑顔を見せて、グッと俺の腕を引き寄せて抱き付こうと———

 

 

「そい」

 

 

「よ、避けるなぁ!」

 

 

「あ、すまん。今のも恒例のくだりかと」

 

 

ちょっと涙目で怒る七罪。余裕で男性のハートを撃ち抜く威力だ。可愛いなコイツ。

 

 

「エロい大人のお姉さんのように見えるが、実は意外といじりがいがある可愛い女の子だよな」

 

 

「ちょっとやめてくれる!? そんな目で見ないで!!」

 

 

「安心しろ。俺の目線……いや、男たちの目線は全部胸元へと吸い込まれる」

 

 

「いきなりセクハラ!?」

 

 

「はぁ? お前にセクハラするくらいなら嫁にセクハラして豚箱に叩きこまれた方がずっとマシだわ」

 

 

「酷い!? 普通そこまで言う!?」

 

 

「フッ、俺は普通じゃないぞ」

 

 

「ドヤ顔で言う事なのそれ!? ねぇ!? 絶対おかしいわよ!」

 

 

七罪にガクガクと肩を揺さぶられる。の、脳が震えるぅ!!

 

 

「お、お前……そんなキャラだったか!?」

 

 

その時、俺の言葉にハッとなる七罪を見逃さない。

 

 

「そ、そんなことよりも! 私のプレゼント、喜んで貰えたかしら?」

 

 

「……ああ、さっき宅配された明太子のことか?」

 

 

「違うわよ!?」

 

 

否定しながら七罪はビシッと俺の背後を指差した。

 

 

「……背後霊をプレゼントとは、次元が違うな」

 

 

「……ねぇ、もうわざとよね? わざとやっているんでしょ?」

 

 

「え? 最初からふざけているけど気付かなかったのか?」

 

 

「怒るわよ!?」

 

 

めんごめんご~(笑)

 

 

「女の子たちを子どもにしたのはお前だったのか。さすが精霊だな」

 

 

「ふふッ、そうでしょ? なら私がここに来た理由は分かるかしら?」

 

 

悪戯に笑う七罪の言葉を聞いた瞬間、大樹は驚愕する。

 

 

「まさか、元に戻すのか……!?」

 

 

(何故絶望した表情になっているのかしら……)

 

 

普通の人ならこんな反応はしないだろう。「元に戻してくれるのか!?」「駄目よ。元に戻して欲しいなら条件を飲んでもらうわ」的な感じのやり取りをするのが王道。しかし、規格外な奴には通じない。

 

 

「もちろん元に戻して欲しいわよね?」

 

 

「お構いなく」

 

 

「……………えッ」

 

 

大樹の顔は———それはもう誰がどう見ても真剣な表情———真顔だった。

 

 

「大丈夫。何もしなくていい。このままで、いいんだ……そう、お前はお前らしく生きろ」

 

 

「全然心に響かないし意味が分からないわ!?」

 

 

「疲れているんだよ?」

 

 

「違うと思う!」

 

 

「じゃあ突かれてるんだよ」

 

 

「何に!? 怖いわよ!?」

 

 

読者の方々はとっくにお気づきになられているだろう。そう、この大樹(ロリコン)は元に戻す気など微塵も思っていないのだ。

 

だが、大樹の策略は(ことごと)く崩れ落ちる。

 

 

「何やってんだテメェ!?」

 

 

ドゴッ!!

 

 

「ぶべッ!?」

 

 

大樹の頭に振り落された踵落としが直撃する。攻撃したのは原田だった。

 

鬼の様な形相で原田は大樹の胸ぐらを掴む。

 

 

「テメェ……俺に情報収集させるのは元に戻すのを遅らせる為だな……!?」

 

 

「ち、違うよッ。オイラは本気で———」

 

 

「あぁ!?」

 

 

「———すいませんでした」

 

 

あの大樹が原田に迫力負けした瞬間である。

 

 

「力を消さなかったのは犯人捜しのためじゃなく、自分の為だな……?」

 

 

「バッキャロウ! みんなの為に決ま———」

 

 

「あぁ!?」

 

 

「———心の底から反省しています」

 

 

まさかの二連敗である。

 

蛇に睨まれた蛙。今の二人はそんな言葉が相応しかった。

 

 

「だって……金髪だった頃のアリアが可愛すぎて……」

 

 

「うるせぇ」

 

 

「うッ……ツンツンした優子がたまに見せる笑顔が……」

 

 

「黙れ」

 

 

「うぅ……黒ウサギが……真由美が……ティナだって」

 

 

「も と に も ど せ」

 

 

「……………はい」

 

 

がっくりと落ち込む大樹。そんな馬鹿を見た原田は溜め息をついた。

 

 

「ちょっと待って」

 

 

「「ん?」」

 

 

一部始終を見ていた七罪が声をかけて止めた。あまり顔色が良くないご様子。

 

 

「元に戻すって……まさか精霊の力を無効化することじゃないわよね……?」

 

 

不安な気持ちで尋ねる七罪に、俺たちは微笑んだ。

 

 

「超余裕」

 

「コイツなら可能」

 

 

ドヤ顔の大樹に申し訳なさそうな表情をした原田。二人は声を揃えて告げた。

 

とんでもない真実を突きつけられた七罪は絶句。時間が停止しているかのような反応を見せた。

 

 

「固まったな」

 

 

「そりゃそうだろ」

 

 

規格外の存在を見た人たちは大体こんな反応だということを俺たちは知っている。嫌になるくらい。いや、名誉になるくらい見て来たと言っても過言では無いだろう。

 

 

「犯人も分かったことだし、早く元に戻せよ」

 

 

優しい口調で言っているのに鋭い眼光でこちらを見ていた。あまりの怖さに俺は何度も頷いた。

 

秩序支配神の世界翼(システムルーラー・ワールドフリューゲル)】を小さく発動して(てのひら)に一枚の羽根を出現させる。

 

それを握り絞めて、右手の拳を前に突き出す。

 

 

「そげぶッ!!」

 

 

「それはやめろ」

 

 

「ま、待って———!?」

 

 

七罪の静止する声が聞こえたが遅かった。神々しい光が部屋全体を包み込み、一瞬で全てを打ち消す神の力が発動した。

 

たった一秒の出来事。光はすぐに消えて羽根は消滅する。

 

 

「ふぅ……これで一安心か」

 

 

「待つんだ原田」

 

 

安堵の息をついた原田が部屋に戻ろうとすると、大樹が立ち塞がった。

 

 

「何だよ」

 

 

「今、大変なことを思い出した」

 

 

「大変なこと? またどうでもいいことを話したら殴るからな」

 

 

「……服、小さいままだったよな」

 

 

「あッ」

 

 

大樹と原田は、簡単に開かないように扉を自分の体で塞いだ。二回目である。

 

 

「嘘……!?」

 

 

その時、女の子が絶望に満ち、驚愕の声を上げた。それは七罪の———えッ!?

 

 

「「えッ」」

 

 

大樹と原田は同時に声に出す。表情はポカンッとしていた。

 

俺たちの知っている彼女の姿はそこにはいなかった。

 

小柄で細身な体躯(たいく)。不健康そうな生白い肌。双眸(そうぼう)は憂鬱そうに歪んでいたが、今は驚きで目を見開いている。

 

髪はさらさらのロングヘアーではなく、手入れが行き届いていないわさっとしている髪だった。あのセクシーお姉さんの面影はどこにもなかった。

 

 

「七罪……なのか?」

 

 

「あ、あ、ああああ……ッ!?」

 

 

顔色が悪くなり真っ青になる。尋常じゃないことを感じ取った原田が大声を出す。

 

 

「落ち着け! とりあえず大丈夫だから!」

 

 

自分でも何を言っているのか分からなかった。とにかく落ち着かせないといけないと思った。

 

 

「お前……何が大丈夫なのか分かっているのか?」

 

 

「馬鹿! 彼女、取り乱しているんだぞ!? 普通じゃないことぐらい分かるだろ!?」

 

 

「取り乱すねぇ……大方、自分の本当の姿を見られたことに戸惑っているじゃねぇの?」

 

 

「ッ……お前、知っていたのか!?」

 

 

「精霊は何度も見て来た俺だぞ。精霊の力が全身を包み込むように纏っていたからな」

 

 

「お前の目ってどうな———今更か」

 

 

「テメェ後で覚えておけ」

 

 

そんな二人がやり取りをしていうるうちに、七罪は敵意を向けるような瞳で二人を捉えた。

 

 

「知った……知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな———!!」

 

 

怒り狂うように体を(よじ)りながら怒る七罪に対して大樹は、

 

 

「うるせぇ!!!」

 

 

ビシッ!!

 

 

「———きゃうッ!?」

 

 

七罪の脳天めがけてチョップが振り下ろした。

 

 

(チョップしたあああああああァァァ!!??)

 

 

とんでもない行動に出た大樹に酷く驚く原田。七罪は涙を少し流しながら痛みに苦しむ。

 

 

「お前何やってんの!? ホント何やってんの!? 正気じゃねぇぞ!?」

 

 

「いいから俺に任せろ。テメェはチョップじゃない。斬るぞ」

 

 

「男女差別半端ないなお前!? もっと男たちに優しさを!」

 

 

知らん。祝福も絶対にしない。

 

女の子に優しくするのは紳士が行う当然の義務。俺、紳士ですから。イケメンですから。カッコイイから!

 

 

「おい、何泣いているんだよ」

 

 

(そりゃチョップされたからだろ……痛いだろうなぁ……)

 

 

「こ……ッ、み……んなッ……!」

 

 

「え? 何? 大樹イケメンだって?」

 

 

「言ってねぇだろ。絶対に違うだろ」

 

 

七罪が近くにあった誰かの靴を俺の方に投げるが、見事にキャッチして防ぐ。

 

 

「こっち……見ん……なッ……!」

 

 

「クックックッ、『やるな』と言われたらやる男だぞ俺は?」

 

 

「うわぁ……」

 

 

原田が汚物を見るかのような目で俺を見ている。アイツは後で目を潰す。

 

俺は押すな!と書かれたボタンを見ると絶対に押すくらい男前だぜ!

 

七罪は帽子を深く被り逃げ出そうとするが、

 

 

「逃がすか」

 

 

「ッ!」

 

 

七罪を逃がさないように手で進路を塞ぐ。そして絶対に逃がさないように、両手を壁につけて七罪を閉じ込めた。いわゆる壁ドンというヤツである。

 

 

「やべぇ……犯罪にしか見えねぇ……」

 

 

失礼な。

 

 

「な、何よ……暴力なんて最低なんだから……!」

 

 

「しねぇよ」

 

 

お前も俺をそんな風に見ているのか。

 

 

「じゃ、じゃあ何が目的よ……!」

 

 

「目的? ……………俺の目的って何だろう原田」

 

 

「知るか」

 

 

「ふざけんなッ! 言いなさいよ! 嫌がらせをしたことに怒ってるでしょ!」

 

 

「ああ、あの素晴らしい悪戯か!」

 

 

「…………え?」

 

 

大樹の言葉に耳を疑う七罪。原田はあちゃーっと手を頭に当てていた。

 

 

「女の子たちの小さい姿を見れて俺は、めっちゃ嬉しかったです。ありがとうございます!」

 

 

「いや……でも……め、迷惑だったはずよ! だってあんなに大変なことばかり———」

 

 

「ご褒美です!!」

 

 

「———馬鹿なの!?」

 

 

※馬鹿です。

 

 

「俺はお前に感謝している。だから何でも言ってくれ。俺ができる範囲、願い事を叶えてやる!」

 

 

「はぁ!?」

 

 

「お前はその姿にコンプレックスを抱いているだろ?」

 

 

ビクッと七罪の体が反応する。

 

 

「馬鹿野郎! もっと自分に自信を持てよ! 熱くなれよ!」

 

 

「お前はクールダウンしろ」

 

 

「とにかく!!!」

 

 

七罪の両肩に手を置き、

 

 

「———あの時みたいに、俺に任せろ」

 

 

優しい声音で言った大樹の言葉に、七罪は不思議と安心していた。

 

震えていた体はいつの間にか収まり、落ち着いていた。

 

 

「お前に足りない物は大体分かっている。そして、俺よりも足りない物を分かっているスペシャリストがいるから安心しろ」

 

 

その時、原田はもっと早く気付いていればと後悔した。

 

 

「俺の最強無敵に超絶可愛い嫁たちが———」

 

 

大樹がリビングの部屋の扉に手を掛けた瞬間、原田は顔面蒼白。

 

 

「馬鹿! お前ッ———くッ!」

 

 

しかし、手遅れだと一瞬で分かってしまった。だから、彼は諦めたのだ。

 

それは辛い選択。彼は目を閉じ、玄関の方を向いた。

 

 

「———いるのだからなッ!!」

 

 

ダンッ!!

 

 

大樹が扉を開けた瞬間、そこには確かに超絶可愛い嫁がいた。

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

 

 

 

——―着替え中の超絶可愛い女の子達が。

 

 

 

 

 

「あッ……」

 

 

気付いた時には遅かった。

 

 

(な、な、何やってんだ俺えええええェェェ!?)

 

 

自分で言ったじゃん!? 最初に気付いたじゃん! 服が小さくなっているって! 馬鹿だ俺!

 

感情の流されるがままに扉を開けちゃったよ!

 

原田! ヘルプってあの野郎! 後ろを向きながらグッジョブしてるから使えねぇ!

 

七罪! コイツは俺から距離を取り始めたちくしょう!

 

 

「—————~~~~~ッ!!!」

 

 

上下の下着しか着用していないアリアが顔を真っ赤にしていた。体を震わせながら服をゴソゴソと漁っていた。あッ、銃を探していますね。ヤバい。言い訳しないと。

 

 

「だ、大丈夫だ! ほら! 思い出せ! 俺は一度裸を見たことがあるだろ!? 今回は下着だ!」

 

 

一体何が大丈夫なのか全く分からない。自分でも思う。

 

 

カチャッ

 

 

あー、失敗したようですね。銃口、こっち見てますね。

 

 

「だ、大樹君……覚悟は、できているわよね……?」

 

 

「うん、まぁ……経験上、結構できてる」

 

 

「そ、そう……」

 

 

優子には何故か同情されてしまった。でも遠慮はしないようです。服を着ながらCADを装着していますからね。

 

 

「黒ウサギは……分かってくれない?」

 

 

「YES♪」

 

 

とても可愛い笑顔、いただきました! 眼福の意も込めてありがとうございます! でも【インドラの槍】はやり過ぎと思います!

 

 

「流れからして真由美も駄目だよな?」

 

 

「失礼ね。私は大樹君がそういう最低な人だってちゃんと知っているのよ?」

 

 

それは失礼だろ。

 

 

「だから少しだけしか怒っていないわよ」

 

 

「……それ、その『少し』がデカいパターンだろ」

 

 

「あら? 私は大樹君に何もしないつもりよ?」

 

 

「ッ……真由美」

 

 

感動した俺は真由美に近づこうとするが、彼女の腕にはCADが装着されていた。

 

 

「でも、周りに合わせることも大事よね?」

 

 

「この悪魔ちきしょうがあああああああァァァ!!」

 

 

絶望の淵に突き落とされた。

 

しかし、闇に包まれた場所に最後の光があった。

 

 

「ティナ!!」

 

 

「大樹さん……恥ずかしいのであまり見ないでください……」

 

 

違う流れで返って来たぁ! これはこれでどう反応すればいいんだぁ!

 

 

「……ティナ。大丈夫だ。今の反応、誰よりもグッと来た!!」

 

 

親指を立ててグッジョブした瞬間、周りから漂っていた殺意がぐーんっと上がった。後悔はしていない。

 

最後に、あの言葉を言わないといけない気がした。やめておけばいいのに、本能がやれと言っているような気がした。

 

 

「俺は扉を開けて後悔していない。むしろ、開けて良かったと思っている」

 

 

「馬鹿だ……絶対に馬鹿だ……」

 

 

七罪が何かを言っているが無視する。

 

 

「許して貰えないと分かっている。だから———」

 

 

俺は微笑むのであった。

 

 

 

 

 

「———ご馳走さまでした」

 

 

 

 

 

神の力をフルに使ったけど、死にそうになった。

 

 

 

________________________

 

 

 

女の子たちが着替え終わった後、原田と七罪はリビングに座ることができた。大樹は死んだ。

 

 

「ねぇ……大丈夫なの……死んでない?」

 

 

「あ、ああ……死んでいないと思う」

 

 

「YES! 大丈夫ですよ七罪さん。アレでも手加減しましたので」

 

 

アレが手加減だったという真実を知った二人は戦慄した。黒ウサギは続ける。

 

 

「事情はドア越しから聞いていました。黒ウサギたちに任せてください!」

 

 

「ねぇ……大丈夫なの……ウサ耳が生えているんだけど」

 

 

「それは気にしたら負けだ」

 

 

「えぇ!? ピョコピョコ動いてるんだけど!? 絶対に普通じゃないんだけど!?」

 

 

七罪が慌てて言うが、スルーされてしまう。触れて欲しくない話題とはすぐに察する。

 

 

「つまり話をまとめると……そうね。あなたの進化かしら?」

 

 

「どういうこと!?」

 

 

「その例えは言葉足らずだぞアリア」

 

 

いつの間にか生き返った大樹がアリアの隣で首を横に振りながらやれやれっと言った感じで立っていた。

 

 

「……生き返るの、さすがに早くないかしら」

 

 

「俺を誰だと思っている?」

 

 

とても嫌な顔で大樹の顔を見ていた。

 

 

「そんな顔も可愛いが、できればこう上目遣いで頼む」

 

 

「話が逸れているわよ」

 

 

「おっと。つまり何が言いたいかと言うと、トラ〇セルからバ〇フリーに進化する感じだ」

 

 

「何でポケ〇ン!?」

 

 

「まぁとりあえずそこで黙って硬くなってろ」

 

 

「私トラン〇ルじゃないんだけど!? その例え酷いわよ!?」

 

 

「じゃあコ〇ーン?」

 

 

「喧嘩売ってんのか!?」

 

 

「おい大樹。それはあんまりだろうが」

 

 

「そ、そうよ! 原田の言う通り! 私はそこまで———」

 

 

「マユ〇ドが良いんじゃねぇか?」

 

 

「そこはカラ〇リスにしなさいよぉ!!」

 

 

「「それだぁ!!」」

 

 

「遅いですよ!! いい加減にしてくださいまし!」

 

 

スパンッ!!と黒ウサギはハリセンで原田の頭を叩いた。

 

 

「大樹さんはもう避けないでください!」

 

 

「もう見切った。当たらねぇよそんなへなちょこハリセン」

 

 

大樹のドヤ顔にカチーンと来た黒ウサギ。しかし、彼女の表情は笑顔だった。

 

 

「では一発当てるごとに膝枕一分はどうでしょうか?」

 

 

「バッチコ—————————————イ!!」

 

 

バシイイィィィン!!

 

 

黒ウサギの振り下ろした渾身の一撃。ハリセンは大樹の顔面に直撃した。

 

見事に吹き飛びそのままソファに落ちて死んだ。

 

 

「やっぱり一番威力が出ているのって黒ウサギだわ」

 

 

真由美の言葉に黒ウサギを除いた全員が頷く。断トツで大樹に対する仕置きが強い。恐ろしい子。

 

 

「うぅ……これで……黒ウサギの膝枕ッ……一分ゲットだぜッ……!」

 

 

「アイツはアイツで満更でもないから反応に困るんだよな」

 

 

原田は微妙な表情でニヤリッと笑みを見せる大樹を見ていた。

 

 

「むしろ、喜んでいるように見えるのは私だけでしょうか?」

 

 

ティナの言葉に、全員が頷いた。全員、そんなことを思っている。

 

 

「さて、大樹君が大人しくしているうちに始めましょう」

 

 

パンパンッと手を叩いて指揮する優子。その時、七罪は嫌な予感がした。

 

立ち上がった女の子たちがニヤニヤとしながら近づいて来るのだ。

 

 

「ふぇ……!?」

 

 

「あ! 俺ってアレしてアレしないといけないなー! お邪魔しましたー!」

 

 

突如、棒読みでクソみたいな演技で逃げ出す原田。七罪が原田と一緒に逃げようとするが、腕と肩を既に掴まれている。もちろん、掴んでいるのはアリアたちである。

 

 

「安心しなさい。こう見えて貴族だから、そういう身だしなみは任せなさい」

 

 

「現役女子高校生を舐めないことね」

 

 

「YES! 黒ウサギも頑張りますので!」

 

 

「フフッ、腕が鳴るわね」

 

 

アリア、優子、黒ウサギ、真由美。四人は笑顔だった。おおっと、これはいけない。七罪が完全に怯えていますよ。まぁ何とかなるか。

 

 

「ティナは行かないのか?」

 

 

ソファで倒れていた大樹の頭を膝に乗せているティナ。なんと膝枕をしてくれていた。

 

 

「私は使わないので」

 

 

「……ホント、お前たちって化粧とか全く使わないのに可愛いもんな。いつも化粧をしている女の子たちを敵に回しそうだぜ」

 

 

「その時は大樹さんが守ってくれるんですよね?」

 

 

「まぁな」

 

 

くすりッと笑みを見せたティナの顔を見ながら俺は目を閉じた。

 

 

「わーッ! わーッ! わッ、私なんて食べたらお腹壊すわよぉ!!」

 

 

アイツ面白いな。

 

七罪の断末魔を聞きながら、俺は夢の中へと沈んだ。

 

 

________________________

 

 

 

———数時間後。未だに七罪たちが入って行った隣の部屋から誰も出て来ない。まさか死んだ?

 

 

「……さすがに遅いな」

 

 

「そうですね」

 

 

『だから一体あの部屋は何が起きているんだ……!』

 

 

ソファに寝そべった俺の腹部にティナが座り、ティナの膝に散歩から帰って来たジャコが座っていた。この駄目犬には隣の部屋で何が起きているのか説明していない。もちろん意地悪です。

 

ティナがジャコをかなり気に入っているので俺は手を出すことができない。クソッ、奴もそれに気付いて大人しくしていやがる。

 

 

「あー、腹がー、へこむー」

 

 

『お前は風穴くらい開いたことがある男だろ?』

 

 

ぶっ殺すぞ。

 

 

「ジャコに手を出してはいけません」

 

 

「ティナ。その虫をこっちに渡すんだ」

 

 

『誰が虫だ!』

 

 

「駄目です」

 

 

チッ、ティナが見ていないところでジャコは転がす。覚えていろ。

 

再び眠りに入ろうとした時、玄関の扉が開く音が聞こえた。逃げ出した卑怯者の原田か? いや違うな。

 

 

「た、ただいま」

 

 

「お、おう……おか———」

 

 

帰って来たのは買い物袋を持った折紙だった。気まずそうに俺から目を逸らしながら言うが、俺は目を疑った。

 

 

「———リストカットしたのか?」

 

 

『散髪とリストカットは全くの別物だぞ』

 

 

驚きのあまり言葉を間違えてしまった。酷い間違い方だな。

 

そう、折紙は出会った時のように髪を短く切っていたのだ。

 

 

「ッ……ご飯、今から作るからね!」

 

 

「あッ……………はぁ……」

 

 

本当なら似合ってるからどうか聞いてくると思っていたが、聞かない方がいいようだ。料理を手伝いに行くのもやめておいた方がいいだろう。

 

 

「……昨日、何かあったのですか?」

 

 

「……まぁな。二人くらい泣かした」

 

 

『何をやっているんだお前は』

 

 

仕方ない———いや、それは言い訳だ。ジャコの言う通り、何をやっているんだ俺は。

 

サル君は良いにしろ、折紙は駄目だと言うことは明らかだ。思い出せばすぐにハッキリと自分が悪いと分かる。

 

 

「俺は()(まま)だ。全部の結果が上手く行くようにする。それ以外を認めようとしない」

 

 

欲しい物は全部欲しいと口に出し、救いたい人間は全員に手を伸ばした。

 

一つも逃さない。一人も欠けさせない。俺の思い描く未来は、そんな未来だ。でも、

 

 

「俺が手元に置ける物はもういっぱいで、新しい物はどこにも入らない」

 

 

他人から見れば偽善で溢れかえった反吐の出る未来なのだ。当たりを引く人間がいるなら、必ず貧乏くじを引く人間が出てしまう。

 

 

「不幸になった人間を救うために、無理矢理手元に置いたら……それは崩れる」

 

 

救い続けて、救い続けて、救い続けて来た結果が———折紙を苦しめる結果になるのだ。

 

『俺は、全てを救うッ!!!』

 

あの日、誓った言葉通り、俺は救った。今も、救い続ける意志は変わらない。

 

でも、その救った()()()()()()()()()かもしれないということは全く考えていなかった。

 

 

『……どうするつもりだ。逃げ出すのか?』

 

 

「馬鹿犬。冗談じゃねぇぞ」

 

 

しかし、大樹は笑みを見せた。

 

 

「さっき言っただろ? 俺は我が儘だって。自己中心的な男なんだよ」

 

 

『……フンッ、いらん心配だったか』

 

 

「大樹さんらしいですね」

 

 

ティナはジャコを抱きかかえながら立ち上がる。俺も一緒に立ち上がり、敬礼する。

 

 

「料理、手伝って来ます軍曹」

 

 

「神風特攻隊、出動」

 

 

「ティナ。それ俺と折紙が死んじゃうから」

 

 

とにかく俺は、俺らしく解決しよう。

 

気持ちを切り替えてキッチンへと俺は———

 

 

「う、あ、あ、あああああああああァァァァァ!!!」

 

 

ドゴッ!!

 

 

「ぐはッ!?」

 

 

「『!?』」

 

 

———横腹に突進をくらった。

 

奇声を上げながら出て来たのは七罪。髪などをわしゃわしゃしながら大樹を突き飛ばし、再びソファにダイブさせた。突然の出来事にジャコとティナも驚いていた。

 

 

「……神風、墜落しました」

 

 

『これは酷い』

 

 

七罪の後からアリアたちが追いかけている姿を二人は見届けた。

 

最後まで締まらない。それが大樹クオリティ。

 

 

________________________

 

 

 

七罪はちょうど帰って来ていた原田に確保された。というか俺と同じように原田はタックルをお見舞いされただけだけどな。七罪はそれで気を失うし。原田は腹部を抑えているし。

 

 

「それで、何した? 犯罪は駄目だぞ」

 

 

「この世で一番言われたくない人にそれを言われても……」

 

 

俺のジト目に黒ウサギが困った様に呟く。おい、まるで俺が常日頃から犯罪を犯しているような言い方じゃないか。おい、周り頷くな。

 

 

「七罪が可愛くなった自分を見て発狂したのよ」

 

 

「……マジか」

 

 

「大マジよ」

 

 

アリアの言葉に耳を疑った。大マジで返って来たなら信じるしかないな。

 

 

「俺はてっきり七罪がアリアに脅されたのかと。特に銃とかで」

 

 

「大樹。ちょっと隣の部屋で話をしましょ?」

 

 

「遠慮」

 

 

愛の告白なら大歓迎ですが、説教は大勘弁。説教中、そのままはっ倒されそう。

 

眠っている七罪を見てみるが、確かに可愛くなっていた。見事にバタ〇リーへと進化できたらしい。

 

 

「あとの問題は……コミュニケーション、かしらね」

 

 

「コミュニケーション? 何? コイツってコミュ障なの?」

 

 

少し言い辛そうにしていたことを口にする優子。俺は首を傾げながら聞くと、今度も言い辛そうに答えた。

 

 

「何というか……自分の価値観をすっごい落としている?」

 

 

「あー」

 

 

分かる。大樹分かるよ。言いたい事。

 

七罪は真の姿を見られた時、必死だった。見られないようにするのに。

 

 

「つまり七罪はアレだけ変わっても———それでもぉ、自分は全く可愛くないんだからぁん!!———とか言っちゃてるの?」

 

 

「七罪さんの代わりに黒ウサギが怒りますよ大樹さん」

 

 

全然似てなくてごめんな。もっと練習するわ。止めるとは言わないぞ。

 

 

「七罪に自信を付ける、か……」

 

 

「ずっと私たちより可愛いわよって励ましていたのだけれど、ダメだったわ」

 

 

———それ一番やっちゃいけないやーつ。

 

 

「お前そりゃ……駄目だろ……」

 

 

溜め息をつきながら言う真由美に俺は戦慄した。鏡見ろ。マジで見ろ。

 

 

「「「「え?」」」」

 

 

うわぁ嫁の駄目な部分が見えちゃってますねコレ。それでも可愛いから許すけど。

 

 

「大樹。ちゃんと言えよ」

 

 

原田に言われなくても、分かっているよ。

 

 

「あのな、お前らは超が付くほどの美少女なの。それを七罪に———自分より全く可愛いんだからぁん!!———とか言っちゃ駄目だろ」

 

 

例えるなら俺が原田に向かって「お前ってw俺よりw強いよなwwコポォww」って言うのと同じだぞ。

 

 

「「「「……………ポッ」」」」

 

 

「『ポッ』じゃねぇよ駄目嫁共が」

 

 

頬を赤くするな。こっちまで恥ずかしくなるだろうが。

 

 

「は、反省はしているわ……」

 

 

「起きたら謝るわよ……」

 

 

「く、黒ウサギも……」

 

 

「そ、そうね……謝るわ……」

 

 

「ホントその反応やめて。俺まで顔真っ赤になるから」

 

 

「残念だがお前ら全員顔真っ赤だぞ」

 

 

原田に指摘されると女の子たちは顔を逸らしてしまう。やめてやめて! もう彼女たちのライフはゼロよ! 俺はマイナスに突入しているから!

 

 

「話をまとめると、七罪さんに自信を付けるということでしょうか?」

 

 

綺麗に話をまとめてくれる折紙に感謝しつつ、俺は頷いた。

 

 

「そうだな。というわけで俺から一つ提案がある」

 

 

「何だ。もう考えたのか?」

 

 

原田は感心の眼差しを向けていたが、それはすぐに消えることになる。

 

 

 

 

 

「原田、七罪とデートして来いよ」

 

 

 

 

 

「……………はぁ!?」

 

 

 

 

 

 




おまけ『デート前』


原田「この俺がデートだと!?」

大樹「フッ、どうやら俺のアドバイスが必要かな?」

原田「おお! 伊達に浮気ばかりしている奴じゃない! 頼むぜ!」

大樹「ぶっ飛ばすぞ。ったく、まずは身だしなみだ! 髪のセットはちゃんと決めろよ! 俺のオールバックは今日もカッコイイだろ!」

原田「……俺、坊主なんだが」

大樹「デートプランは慎重に計画しろ! 嫁たちの好みは把握している俺に死角無し!」

原田「……会って間もない女の子とデートで、何が好きなのか全然分からないんだが」

大樹「そして最後はロマンチックに告白してラブなホテルにGO!!!」

原田「できねぇクセに偉そうなこと言ってんじゃねぇぞチキン野郎があああああああァァァ!!!」


おまけ2『中の人』


士道「次回予告をする? これはどういうことなんだ、四糸乃?」

四糸乃「い、YES! 四糸乃をお呼びでしょうか!?」

士道「えッ!? 急にどうしたんだ!? その手に持ってるハリセンは何!?」

四糸乃「次回予告ですね! 【恋敵登場!? 許されない選択】です!」

士道「四糸乃!? ちょっ!? 叩かないで———ぐぇ!?」

よしのん『ねーねー、よしのん的にこれは酷いと思うけどどうかな?』


おまけ3『ポケ〇ンGO』


大樹&原田「まだやんの!?」

大樹「えっと話題話題……そうだ! ポケ〇ンGOをやろう!」

原田「そうだな!」

大樹「まぁ俺は音速で移動しまくれるからポケモン超ゲットしているがな」

原田「歩けよ……」

大樹「俺が歩きスマホしても、被害が一番大きいのは突っ込んで来た車やバスだ」

原田「跳ね返すなよ!?」


おまけ4『この話題になると大体よくある光景』


大樹「ぐぅ……えーっと……ん? あッ! アレだ! リゼロだ! 『Re:ゼロから始める異世界生活』!」

原田「珍しいことに伏字が無い!? まぁいい! 良い話題だ! ヒロインが超可愛くて良いよな!」

大樹「ああ! ホント嫁にしたいぜ!」


大樹「エミリアたん!!」
原田「レムりん!!」


大樹&原田「表出ろやあああああああァァァ!!」


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