どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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作者「今日はキスの日らしいですね」


大樹「」ガタッ


原田「いや、お前は絶対にしないだろ。ここって百話以上続けているのに、そういったことが一切ない健全な小説だろ。そもそも大樹、ヘタレじゃないか」


大樹「いや、健全な小説じゃないだろ」


原田「あ、そこ指摘する?」



時間を越えた奇跡

【現在】

 

 

これは大樹が記憶を取り戻す少し前の【現在】。

 

 

———大樹が記憶を取り戻す要因を作ったのは、やはり彼らだった。

 

 

琴里に連絡して来た士道。その報告は『時崎 狂三』を見つけたということだった。

 

原田たちは琴里の意図が全く読めなかった。すぐに理由を聞こうとするが、唇に人指し指を置いて琴里が静かにするように指示して来た。

 

 

「大手柄よ。変わって貰えるかしら?」

 

 

『あぁ……狂三。電話だ』

 

 

士道の声が遠ざかり、誰かと狂三という人物と変わったようだ。

 

 

「もしもし? 聞こえ———」

 

 

『やーい、このちんちくりーんですわ☆』

 

 

ビギッ

 

 

年頃の女の子の額から鳴ってはいけない音が聞こえた。引き攣った頬で琴里は喋る。

 

 

「アンタ……学校で戦った時のこと、根に持っているわね……! えぇ、いいわよ……死にたいなら死なせてあげるから……! 灰になるまで燃やして———!」

 

 

「うぉい!? 怒っているのは分かるが落ち着け!?」

 

 

急いで原田が琴里に声をかける。琴里はハッなり、咳払いして話を戻す。

 

 

「絶対に見つけれないアンタが簡単に士道の前に現れたのは、過去の出来事が分かるからよね?」

 

 

『ご名答ですわ。ちなみに今の発言は大樹さんがそうおっしゃるようにと指示しましたの』

 

 

「……そう」

 

 

(大樹って女の子を敵に回す天才か?)

 

 

琴里からゴゴゴゴゴッ……!!と怒りのオーラが溢れていた。正直、怖い。

 

 

『手短に説明しますわ。正直に言いますとわたくしが大樹さんに何をしたのかは分かりません』

 

 

「……どういう意味よ?」

 

 

『分かることは【今のわたくし】が【過去のわたくし】に接触し、大樹さんに何かをしたということだけ。あの時のわたくしはただ助けられただけなので』

 

 

「ちょっと待て! それって!?」

 

 

『今のわたくし』が『過去のわたくし』に出会ったという事実を聞いた原田は確認を取ろうとする。

 

 

『お察しの通りですわ』

 

 

狂三は肯定した。

 

 

『あの2月25日に行くことは可能です』

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

衝撃的な一言に全員が息を飲んだ。琴里だけは最初から予想出来ていたような表情をしているが、それでも驚きを隠せていない。

 

 

「まさか本当にできるとは思わなかったわ……」

 

 

『ですが問題がいくつもありますの。それら全ての条件を満たさない限り、最悪な過去も最低な未来も変わることはありませんわ』

 

 

「最悪な過去?」

 

 

『今ここでハッキリと申し上げます。最悪な過去、それは———』

 

 

誰も思うことはなかった最悪な過去。その真実に、誰もが受け止めることができなかった。

 

 

 

 

 

『———大樹さんが、()()()という過去です』

 

 

 

 

 

「……………冗談、だろ?」

 

 

最初に声を出したのは原田だった。表情は微かに笑っているが、頬は引き攣っていた。

 

『死ぬかもしれない』『死んだかもしれない』と言った曖昧な表現では無く、『死んだ』と確定してしまった過去を口にしたのだ。

 

信じられなかった折紙は両手を口に当てて首を横に振った。胸に釘を打たれたような衝撃が走り、涙を零す。

 

猿飛は黙り込み、唇を強く噛んだ。

 

 

『正確には姿を消したのです。彼は最後に———』

 

 

「嘘よッ!!」

 

 

意外なことに大声を出したのは琴里だった。

 

 

「私はまだ何も返せていないわ! 何度も一緒に遊んでくれて、励ましてくれて、楽しい思い出を数え切れないくらい作ったの! 半年という短い時間でも、私とお兄ちゃんは……!」

 

 

『琴里』

 

 

その時、電話から聞こえたのは狂三の声ではなく、士道の声だった。

 

 

『ああ、そうだよな。あの人にまだちゃんとお礼を言えていなかったな』

 

 

「お兄ちゃん……!」

 

 

『助けないといけないな。俺たちの……いや、皆の手で』

 

 

「ッ……でもッ……無理だったら———」

 

 

「その言葉、嫌いだから使わないで」

 

 

弱気になっていた琴里に、バッサリと言葉を斬り捨てたのはアリアだった。

 

 

「無理じゃない。やるのよ。やらなきゃいけないの」

 

 

選択する余地などない。決められた一択の答えに、全力で声に出すことを求められている。

 

 

「あたしたちに残された大樹を救う最後のチャンス、絶対に掴み取らなきゃいけないの」

 

 

アリアは琴里の両手を包み込むように握った。

 

 

「大切な人を、救うために力を貸して」

 

 

琴里は零れそうになっていた涙を服で拭い、表情を引き締める。

 

 

「ええ、当たり前よッ」

 

 

「……ありがとう。頼んだわよ、琴里」

 

 

 

 

 

バギンッ!!!

 

 

 

 

 

「「「ッ!?」」」

 

 

———そして無慈悲に頭痛が再び走った。

 

 

折紙が頭を抑えながら唸る。猿飛は折紙の介抱をするが、気付いていない。

 

原田と黒ウサギは痛みに耐えながら歯を強く食い縛った。目の前の出来事をしっかりと見ていたから。

 

頭の痛みよりも、心を圧し潰すような精神的苦痛の方が辛かった。

 

 

 

 

 

———アリアが消えてしまった。

 

 

 

 

 

どう足掻いても止まらない。何をしても止まる気配は見えない。そのことに怒りと悲しみ、やられた屈辱に体を震わした。

 

 

「ふざけるなよッ……いい加減にしやがれよッ……!」

 

 

「アリアさんッ……アリア、さんッ……!」

 

 

強く噛み閉めた原田の唇から血がツーっと流れ落ちる。黒ウサギは何度もアリアの名前を呼んだ。

 

 

「……分からない」

 

 

両手を前に琴里は呟いた。

 

 

「私は誰かと手を繋いでいた……そんなはずはないのに、繋いでいたわけないのに……! 絶対にありえないのに……!」

 

 

「琴里ちゃん……」

 

 

「繋いでいたような気がして……! ねぇ猿飛さん。私、おかしいこと言っていますか?」

 

 

「……客観的視点なら、おかしいと言うだろう。でも、僕は違うと思う」

 

 

猿飛は首を横に振り、笑みを見せながら答えた。

 

 

「正しい。だからもう否定しないで」

 

 

「ッ……はい」

 

 

猿飛の言葉に琴里はしっかりと頷き、再び携帯電話に耳を当てた。

 

 

「悪いわね。もう大丈夫よ」

 

 

「無理もございませんわ。大事な人を失う悲しみはとても辛いことですので」

 

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 

携帯電話から聞こえた声ではなかった。室内に響き渡る狂三の声に驚く。

 

部屋の壁に生き物のように這うように不気味に(うごめ)いていた。折紙と黒ウサギは短い悲鳴を上げて原田の後ろに隠れる。

 

 

「時間がありませんでしたので来てあげましたわ。士道さんも一緒ですの」

 

 

「うおわぁ!?」

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

影の中から現れたのは一人の青年。五河 士道だった。突然の来訪者にまた驚いてしまう。

 

床に転がり、ぶつけた頭を抑えながらフラフラと立ち上がる。

 

 

「いってぇ……もうちょっと優しくできないのかよ……」

 

 

「お兄ちゃん!?」

 

 

琴里は士道に駆け寄る。士道は苦笑いしながら大丈夫だと伝える。

 

 

「それでは単刀直入に言わせていただきます」

 

 

士道とは違い、影の中からスッとフリルに飾られた霊装を身に纏った狂三が姿を見せた。

 

 

「まず過去に戻る為の【十二の弾(ユッド・ベート)】を使うためには霊力が圧倒的に足りません。なので使うことは不可能ですわ」

 

 

「なッ!? 狂三、話が違うじゃないか!?」

 

 

「落ち着いて士道……策はあるのでしょう? 続けて」

 

 

いつもの調子に戻った琴里が士道の口を閉じさせる。狂三は虚空から長い銃を取り出した。

 

そして、その長銃に原田と黒ウサギは目を疑った。

 

 

「【神影姫(みかげひめ)】!?」

 

 

「ど、どうして大樹さんの武器を!?」

 

 

狂三が持っていたのは大樹が使う武器の一つ、【神影姫(みかげひめ)】だったからだ。

 

原田と黒ウサギが驚くのは無理もない。二人は狂三から事情を聞き出そうとするが、

 

 

「これが大樹さんから託された最後の希望———過去を変える為の武器ですわ」

 

 

「過去を、変える?」

 

 

「ええ、大樹さんが()()過去を……」

 

 

琴里の確認に狂三は頷いて肯定するが、顔色は悪かった。

 

 

「道を歩いている大樹さんを見た瞬間、分かったのです。大樹さんが、これから過去へ行き、再びあの死を繰り返すのではないかと……」

 

 

狂三は苦しそうに言葉を吐く。

 

 

「今ここで止めれば、過去も変わる。そう思っていたのですが、大樹さんに言われたことを……約束を……一番に守りたかった。それでも———」

 

 

ポトッと雫が落ちた。

 

 

「———大樹さんを死なせてしまったのはわたくしのせいですの……わたくしを守る為に彼は自分の命を……!」

 

 

スカートの裾をグッと掴み、肩を震わせた。持っていた長銃を抱き締め、謝罪の言葉を何度も口にする。

 

———ごめんなさい。ごめんなさいっと。

 

見たことのない弱音を吐く狂三に士道と琴里は俯いた。何か声を掛けなければいけないのに、見つからない。

 

だけど、今まで大樹の姿をそばで見続けた者は違う。

 

 

「大樹さんは、そういう人です」

 

 

「え……?」

 

 

声を掛けたのは、黒ウサギだった。

 

 

「いつも人のためなら平気で命懸けで挑んでしまうようなお馬鹿様です。大馬鹿様ですッ」

 

 

だからっと黒ウサギは言葉を続ける。

 

 

「黒ウサギたちがしっかりしないといけません。支えてあげないといけません。ですから———」

 

 

黒ウサギは狂三に手を伸ばす。

 

 

「———力を、貸して頂けないでしょうか?」

 

 

「……………参りましたわ。本当に素敵な人たちに恵まれているのですね。彼があなた方に全てを託す理由が分かりますわ」

 

 

狂三は虚空から古式の短銃を【神影姫(みかげひめ)】を持った手と反対の手で銃を握る。そして銃口を【神影姫(みかげひめ)】に向けた。

 

 

「この銃には鍵が掛かっていますの。大樹さんにも開けることができない鍵が」

 

 

「……まさかそれを解くのか?」

 

 

「そのまさかです」

 

 

原田の言葉を狂三は肯定した。

 

 

「大樹さん曰く、その銃にとんでもない力が眠っているとのことですの。ですが無理にこじ開ければ壊れてしまう恐れがあったのでずっと放置していたとおっしゃっていました」

 

 

「放置って……アイツらしいな」

 

 

「無理に開けようとする点、大樹さんらしいですね……」

 

 

「ええ、そうですわね」

 

 

緊張が少し解れたおかげか原田と黒ウサギは笑みを見せることができた。狂三も笑って答える。

 

 

「全てを救うには必要不可欠な武器だと大樹さんは断言しました。未来にいるあなた方に、助けを求めたのです」

 

 

この時、黒ウサギと原田には凄まじいプレッシャーが圧し掛かっていた。

 

大樹にできなかったことを、自分たちができるのか?

 

心臓の鼓動が早くなる。失敗した時のこと、救えなかった時のこと、助けを求める声に答えれなかった時のことを。

 

そう思うだけで、心が苦しかった。

 

 

 

 

 

「『お前なら大丈夫だ、黒ウサギ』」

 

 

 

 

 

「えッ……!?」

 

 

黒ウサギは目を見開いて狂三を見た。彼女は微笑みながら話す。

 

 

「あなたが黒ウサギですわよね?」

 

 

「そ、そうですが……まさか大樹さんが!?」

 

 

「YES! 大樹さんが伝えてくれと言いました!」

 

 

「真似しないでください!?」

 

 

狂三はジーッと黒ウサギを舐め回すように見た後、溜め息をついた。

 

 

「胸が一番大きくてスタイルが抜群ボンキュッボンの女性。ウサ耳が生えてそうな長い髪の女の子と大樹さんが」

 

 

「大樹さん!?」

 

 

「エロウサギのような女の子だからすぐに分かると」

 

 

「大樹さぁん!?」

 

 

「揉んだらヤバいと大樹さんが」

 

 

「いやあああああァァァ!? 何でそんなことまで喋っているのですか!?」

 

 

涙目で狂三の口を塞ごうとする黒ウサギ。その光景を見ていた男たちは、

 

 

(((揉んだらヤバいのか……)))

 

 

「そこのアホトリオ。あとで説教するわ」

 

 

原田、士道、猿飛の目は男の目をしていた。琴里が指をポキポキしながら怒った。

 

 

「……負けました」

 

 

「比較しないでください!!」

 

 

折紙がジト目で黒ウサギを———いや胸を見ていた。黒ウサギは顔を真っ赤にしながら両腕で自分の胸を隠す。

 

 

「こ、こほんッ。それよりも本題に入りましょう! どうして大樹さんが黒ウサギを?」

 

 

「残念ながらそれは聞いていません。あなたが一番可能性があると感じ取ったからでは?」

 

 

「……今の黒ウサギは、力がありません」

 

 

ウサ耳があった自分の頭を撫でながら黒ウサギは首を横に振った。事情を知っている原田も、何も言えなかった。

 

狂三は出現させた古式の短銃の銃口を向けると、【神影姫(みかげひめ)】から黒い煙と影が立ち込み、銃口へと吸い込まれていく。

 

 

「もしかしたら、迷惑を掛けてしまうかもしれません」

 

 

「お、おい? 黒ウサギの言葉ガン無視で何かやってんだけど?」

 

 

「く、狂三のことだから、大丈夫じゃない……かな?」

 

 

黒ウサギの言葉など無視。狂三は次々と作業を進め、影の一部に『Ⅹ』の紋様を輝かせた。原田と士道の二人がこそこそと話し、慌てていた。

 

 

「だから、ここは原田さんに———って、あのぉ……聞いています?」

 

 

「【10の弾(ユッド)】」

 

 

カチャッ

 

 

「「「「ふぁッ!?」」」」

 

 

そして、黒ウサギの眉間に銃口を突きつけられた。

 

 

「ふぇ?」

 

 

「うふふ、大丈夫ですわよ。大樹さんが言っていました」

 

 

狂三は笑顔で引き金を引いた。

 

 

 

 

 

「『ゴチャゴチャと後ろ向きなことを言うと思うが、構わず撃て』と♪」

 

 

 

 

 

「大樹さああああああああァァァァん!!??」

 

 

 

 

 

 

ガキュンッ!!

 

 

狂三から詳しい説明を聞くことなく、銃弾は黒ウサギの頭部を貫いた。

 

 

 

________________________

 

 

 

 

ああ、クソッタレが……

 

 

 

神に体を乗っ取られた結果がこの様かよぉ……

 

 

 

ちくしょうが……ふざけんじゃねぇよ……

 

 

 

ガルペスを倒しても、意味がねぇんだよ……

 

 

 

アイツを、アイツらを、皆を救わなきゃ意味がねぇんだよ……

 

 

 

……………考えろ……考えろよ、楢原 大樹……

 

 

 

この絶望的状況でも、全てを変えられる策を……

 

 

 

お前が思い描く理想を手にするために……必死に考えろ……

 

 

 

……………あぁ……そうか……

 

 

 

変えられる。まだ、変えられる。未来にいる大切な人に、全てを託せば……

 

 

 

俺一人じゃどうしようもできない。だから、助けてくれ……

 

 

 

この命が終わっても、神に消されても、この思いだけは絶対に消させたくない。

 

 

 

だから、頼む。

 

 

 

過去を変えるためのチャンスをくれ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……!?」

 

 

黒ウサギは何もない真っ白な空間に立っていた。そもそもちゃんと立てているのか分からないほど、何もなく、真っ白だった。

 

永遠と続きそうな……果てが見えない場所……黒ウサギはそのことに驚くよりも、頭の中に流れ込んで来た記憶のようなモノに驚いていた。

 

 

「俺が世界から消える前の出来事だ」

 

 

「ッ!?」

 

 

「よぉ、久しぶり。って黒ウサギは久しぶりとは言えないか」

 

 

後ろから声、男性の声が聞こえた。振り向かなくても、誰が立っているのかは分かった。

 

 

「どう、して……ですかッ……!」

 

 

「どうしてって言われてもな……」

 

 

黒ウサギは涙を流しながら振り返った。

 

 

 

 

 

———そこには大樹が、立っていた。

 

 

 

 

 

綺麗な黄色い浴衣を身に纏い、ぎこちない笑みを見せた大樹に黒ウサギは押し倒す勢いで抱き付いた。

 

大樹はそれを受け止め、強く抱き締め返した。

 

 

「お馬鹿様ですッ……どうして、死んでしまうのですかッ……!」

 

 

「ごめんな」

 

 

「何度も……黒ウサギたちの為に……立ってくれたじゃないですか!!」

 

 

「本当に、ごめん」

 

 

最悪だった。悪夢を見ているようだった。

 

神の力で体を乗っ取られた大樹はガルペスと共に消滅。天宮市は空間震より、大火災より酷い被害を及ぼすこととなった。

 

そして彼に取って一番最悪なのは折紙を残して来てしまったこと。

 

死はそこまで来ていた。ボロボロになった体で必死にもがき、最後に記憶を思い出すも、時は既に遅し。

 

彼は泣くほど後悔した。死ぬほど後悔した。このまま死にきれなかった。

 

だから、彼は足掻いた。

 

 

———最後の最後に、この災厄の事態を変える一手を思ついた。

 

 

死に際の彼が命を振り絞った策。希望の策を狂三に伝えることで過去を変えようとした。

 

 

「最後に思い出したけどもう遅かった。神の力は完全に消滅していたせいで、生きることはできなかった。何度も死を経験したから分かる」

 

 

「馬鹿ッ……お馬鹿様ッ……!」

 

 

「だから俺は狂三に託し、お前に託すんだ、黒ウサギ」

 

 

黒ウサギを引き離し、目を合わせた。

 

 

「今の俺は魂だけだ。本当の俺は、死んでいる」

 

 

「やめて、くださいッ……!」

 

 

「この武器は人の魂を残すことができる。だけど、残したところで何も変わらない。俺はもうここから出られないうえに、過去が変われば自然に消え———」

 

 

「もうやめてください!」

 

 

「現実を見なきゃ俺は本当に死ぬ!! 過去を変えなきゃ俺たちは一緒にいられないだろうがぁ!!」

 

 

黒ウサギが声を上げた時、大樹が大声で怒鳴った。

 

驚愕した。あの大樹が大声で、大切な人に向かって怒鳴ることは珍しいことだった。

 

 

「美琴もまだ助けられていない! 折紙との約束も! 狂三の力も! 何も守れていない! 俺が今、どれだけ辛いか分かるのか!?」

 

 

涙をボロボロと零していた。怒りながら、悲しんでいた。

 

彼はずっと苦しんでいた。心が張り裂けそうなくらい、消えたいくらい、死にたいくらい、ずっとずっと悔やんでいた。

 

 

「大切な人と、一緒にいられなくなった……死にてぇ程、辛ぇんだよ……!」

 

 

「大樹さんッ……!」

 

 

「俺はお前に会えて言葉にならないくらい嬉しかった……でも、もう俺は美琴に、アリアに、優子に、真由美に、ティナに……会えないんだ……!」

 

 

両膝から崩れ落ちる大樹。手を顔に当てて涙を隠すも、無理があった。

 

 

「頼むッ……俺は皆を救いたいッ……だから、俺を———ッ!?」

 

 

そして、大樹の口は塞がった。

 

気が付けば目を瞑った黒ウサギの顔が間近にあった。

 

大樹は、どんな状況なのか理解できた。

 

 

 

 

 

———黒ウサギの唇によって。

 

 

 

 

 

 

感じたことの無い柔らかい感触。大樹の涙はピタリッと止まっていた。

 

一秒、五秒、十秒、長い時間が流れた。

 

そして、唇を離すと長い間キスをしていたせいで唇と唇の間に糸を引いてしまった。

 

ポカンッと間抜けな顔をした大樹と頬を紅く染めた黒ウサギが俯いている。そんな状態が出来上がった。

 

 

「ッ……悪い、取り乱した」

 

 

「……キスをした後なのに、最初の一言がそれですか?」

 

 

「じゃあ嬉しかったので。できれば次は舌を入れて———」

 

 

「しますか?」

 

 

「ごめん殴らな———マジかオイ」

 

 

黒ウサギの顔も赤いが、大樹は真っ赤に染まっている。

 

 

「どうします?」

 

 

「……いや、やめておく。それは過去を変えて救えた俺のご褒美にやってくれ」

 

 

「ふふ、大樹さんらしいですね」

 

 

大樹の言葉に黒ウサギは微笑んだ。

 

 

「ちなみに今の俺のファーストキスだから」

 

 

「過去を変えたら違くなりますよね?」

 

 

「……ちくしょう」

 

 

「そんなに悔しいことですか……」

 

 

いつもの調子に戻ることができた大樹。何度も深呼吸して、本題を話し始める。

 

 

「なぁ黒ウサギ。どうしてお前を指名したか分かるか?」

 

 

「……いえ、分からないです」

 

 

「胸が大きいからだよ」

 

 

「風俗ですかここ!?」

 

 

「安心しろ。俺はそんな店に行かん。行く度胸もない!」

 

 

「安心してください。行ったら本気で絞めますので」

 

 

「あ、はい。絶対行きません。次の俺にもしっかりと伝えておきます」

 

 

「それで、どうして黒ウサギを?」

 

 

「ヒント。今から【神影姫】の真の力を解放するために、どうすると思う?」

 

 

「……………まさか」

 

 

「ああ、お待たせの『ギフトゲーム』だ」

 

 

________________________

 

 

 

『ギフトゲーム 【覇王(はおう)御霊(みたま)はここにいませり】

 

 

・参加者 楢原大樹

 

・特別参加者 黒ウサギ

 

 

・参加資格 死者の魂になった者のみ。

 

・特別参加資格 参加資格を持つ者が認めた者。人数は一人のみ。

 

 

・ゲーム概要

 

御霊の王を打倒。

 

 

・勝利条件

 

御霊の王を打倒。

 

 

・敗北条件

 

なし。

 

 

宣誓 上記を尊重し誇りの下、ゲームを開催します。 無印』

 

 

 

「……………えっと」

 

 

「ハッキリ言っていいぞ。大雑把過ぎるって。ガバガバ過ぎるって」

 

 

ギアスロールに目を通した黒ウサギは反応に困っていた。ここまで明確になったゲーム内容に、何のルールも設けられていないゲームは極めて珍しいからだ。

 

決闘と言う単純な勝負でも、もう少しルールを作るだろう。

 

 

「それで、御霊の王とはどなた様でしょうか? どこかに隠れているのですか?」

 

 

「いるぜ。すぐそこに、な」

 

 

その時、大樹の表情が真剣になった。

 

 

ピキッ

 

 

その時、空間に()()が入った。

 

鏡のガラスが割れるかのようなヒビ。次第に大きくヒビは広がり、空間全体を覆った。

 

 

「神の力も、全部失った俺が()()以上も戦って倒せなかった化け物だ」

 

 

バリンッ!!

 

 

白い空間は砕け散り、そこから闇が広がった。

 

 

『おおおオオォォぉあああアアァァぁ!!!』

 

 

闇を覆ったのは巨大な体。漆黒の巨人が目の前で雄叫びを上げていた。

 

自分の体より何百、何千倍も大きい巨体に、圧倒される。

 

 

「嘘でしょおおおおおおおォォォ!?」

 

 

「超マジだ。来るぞッ!!」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

全てを包み込むような巨大な手で大樹と黒ウサギを潰そうとする。が、大樹が黒ウサギを抱きかかえて高速で走り出し逃げ出す。

 

その速度に黒ウサギは驚愕した。

 

 

「は、速い!?」

 

 

「当たり前だ。四年もあったらそりゃ音速はいけなくても、新幹線並みの速度くらいはいける」

 

 

っと大樹がごく当然のように言うが、黒ウサギは心の中でツッコミを入れる。四年あっても、生涯を費やしても、常人には普通に無理である。

 

高速で駆け抜ける大樹。黄色い浴衣を風になびかせながら疾走する。

 

 

「御霊の番人とか四天王とか六武将とか守護神は倒したんだが、アレは無理。軽く百回は死んだ」

 

 

「し、死んだ!?」

 

 

「俺は魂だぞ。死んでもすぐ生き返る。クッソ痛いけどな」

 

 

『オオオオオォォォ……!!』

 

 

巨人の頭部のような箇所から光が集まり出す。その光を見た大樹はギョッと驚いた。

 

 

「やべぇ!? 馬鹿デカイ攻撃が来るぞぉ!!」

 

 

「なッ!?」

 

 

そして、光が瞬いた瞬間———全てが死んだ。

 

 

ドギャアゴオオオオオオオォォォォォ!!!!

 

 

巨人の頭部から放たれたのは超巨大光線だった。

 

鼓膜を破るかのような爆音は全ての音を喰らい、瞬く光は目に映る光景を喰らい、残酷なまでに空間を喰らった。

 

上下左右。平衡感覚が失い、視界は真っ白で何も見えない。何が起こっているのか分からなかった。

 

しかし、次の瞬間、

 

 

ドシャッ!!

 

 

「かはッ……!?」

 

 

遅れて痛みが襲い掛かって来た。

 

体を叩きつけられたかのような衝撃が走り、今まで自分が宙に投げ出されていたことがハッキリと分かった。

 

しかし、無茶苦茶過ぎる敵の強さに、恐怖を抱いた。

 

 

(こんな化け物と四年間ずっと……!? 無理です……倒せるわけがッ……!?)

 

 

四年間、大樹がずっと戦い続けても倒せなかった強敵に黒ウサギが太刀打ちできるわけがない。

 

急いで体を起こし、逃げようとした。が、目の前の光景を見た瞬間、逃げることをやめた。

 

 

 

 

 

逃げる場所なんてない。闇だけが広がっていたからだ。

 

 

 

 

 

黒ウサギは逃げるのをやめたのではなく、諦めたのだ。むしろ逃げれば状況は悪化する。

 

逃げることもできない状況で逃げるなど無謀なこと。やめるのは必然的だった。

 

 

『グギャガアアアアアアァァァ!!!』

 

 

漆黒の巨人が再び雄叫びを上げる。まるでちっぽけな存在を嘲笑うようだった。

 

その時、巨人の首を一閃する光が見えた。

 

 

ザンッ!!

 

 

『ガアァッ!?』

 

 

巨人の首が横に一刀両断され、頭部が宙を舞う。首の切断部分から黒い闇がモクモクと溢れ出すが、体が動いているため、まだ生きている。

 

 

「足止めだ! 体勢整えるぞ!!」

 

 

巨人の方から跳んで来た大樹の姿を見た瞬間、今の攻撃は大樹がやったと理解した。

 

 

「だ、大樹さん!? 今の攻撃は!?」

 

 

「【幻影(げんえい)刀手(とうしゅ)】。両手で空気を最大まで圧縮させて斬撃を作り放つ。ついに刀いらずになっちゃった」

 

 

(だから四年間で強くなり過ぎですよ!?)

 

 

黒ウサギは大樹の強さにドン引きだった。

 

 

『オオオオオォォォ!!』

 

 

漆黒の巨人が手や足をブンブン振り回して暴れ出す。やはり頭部が無いと見えないらしい。

 

予測できないデタラメな動きに、大樹は刀を抜刀するかのような構えをする。

 

 

「【幻影刀手】!!」

 

 

シュンッ!!

 

 

風を切るような高い音が鳴る。抜刀された大樹の手から風の刃が漆黒の巨人を肩から裂いた。

 

再び傷口から漆黒の煙がモクモクと全身を覆うくらい溢れ出す。巨人は痛みを感じたのか、苦しそうに叫んでいた。

 

 

「ね?」

 

 

「ね?じゃないですよ!? もう人間って言えないですよ大樹さん!?」

 

 

「もう開き直ったわ。そもそもさっきのレーザーで死んだし」

 

 

「えぇ!?」

 

 

いろいろとカオスだった。

 

巨人の黒い煙が全身を包んだ頃、大樹は次の策を話す。

 

 

「アイツは今第二形態になろうとしている。俺は27形態まで進化させたことあるから気をしっかり持てよ」

 

 

「無理!?」

 

 

「大丈夫だ。肩に攻撃したのは5形態目までスキップできる裏技だから」

 

 

「ゲームみたいに言うのやめてください!?」

 

 

「いや(ギフト)ゲームだろ。一応」

 

 

久しぶりに黒ウサギとのやり取りに笑う大樹。こんな状況でも、彼は笑うことができた。

 

 

「さぁて、そろそろ真面目にやるとするか」

 

 

『おおおオオォォぉあああアアァァぁ!!!』

 

 

雄叫びを上げて黒い煙が散布させる。体は元通りになり、回復していた。

 

再生能力を持ち合わせ、ありえない力を持つ敵に絶望しそうになる。

 

 

「時間は稼ぐから頼んだぜ、黒ウサギ」

 

 

「ッ……やっぱりこのゲームは」

 

 

大樹が黒ウサギに頼る理由。それは大樹が四年という歳月を費やしてもクリアできないゲームという点で分かっていた。

 

 

このギフトゲームは、『パラドックスゲーム』だと。

 

 

御霊の王を打倒だと勝利条件だとされているが、先程の光景を見ていれば倒すことができるとは思えなかった。

 

もし、敵が不死身なら打倒はできない。

 

もし、敵が強大過ぎるなら打倒はできない。

 

もし、そもそも敵が打倒できる存在じゃないなら、打倒はできない。

 

 

その『もし』が、事実であったら———ゲームクリアは不可能となる。

 

 

しかし、それはただ一点を除けばの話だ。

 

このパラドックスゲームに勝利することができる最強の恩恵。黒ウサギの持つ【叙事詩・マハーバーラタの紙片】から召喚できる【疑似神格・梵釈槍(プラフマーストラ・レプリカ)】———神槍の【インドラの槍】だ。

 

 

「ッ……黒ウサギにはもう!」

 

 

「できる! 黒ウサギの恩恵は、まだ消えちゃいねぇ!」

 

 

大声を出す大樹の言葉に黒ウサギは横に首を振る。恩恵がないことは自分が一番良く分かっていた。

 

 

ドドドドドゴンッ!!

 

 

漆黒の巨人が右手を前に出すと、無数の槍が飛び出した。

 

雨の様に降り注ぐ攻撃に大樹はあえて突っ込んだ。

 

全ての攻撃軌道線を予測し、見切る。

 

 

バシバシバシバシバシンッ!!

 

 

【幻影刀手】を連発。黒ウサギに当たる槍の側面を叩き、軌道をズラした。

 

黒ウサギに攻撃が当たることなく、周囲に槍が落ちる。

 

 

「フッ!!」

 

 

短く息を吐き、加速する。

 

一気に巨人と距離を詰めて頭部に向かって跳躍する。

 

 

バシンッ!!

 

 

【幻影刀手】を頭部にブチ当ててもう一度巨人の頭を斬り落とした。

 

攻撃を当てた衝撃を利用して黒ウサギの所へと戻って来る。

 

 

「黒ウサギッ……自分を信じろ」

 

 

「ッ……黒ウサギは……!」

 

 

『おおおおおォォォ……!!』

 

 

「チッ!」

 

 

最悪なことに今度は巨人の頭部が即座に回復した。

 

すぐに頭部に再度光が収縮し始める。今度は光の量が先程より何倍も集まり炯然(けいぜん)としていた。

 

大樹は舌打ちして額から汗を流す。次はもっと強力な光線が放たれると。

 

 

「黒ウサギ! 右に向かって走れ! 俺が攻撃して軌道をズラす!」

 

 

「大樹さんは!?」

 

 

「俺は死なねぇって言ってるだろ! お前が死なないことは保障できねぇ! だから―——!」

 

 

「それでもッ!! 死んでいいわけがない!!」

 

 

強い思いが籠った大樹の視線と黒ウサギの視線がぶつかる。どちらも譲るつもりはなかった。

 

 

「……俺は、絶対に黒ウサギを守る」

 

 

「黒ウサギは、大樹さんを支えると誓っています」

 

 

しかし、二人の思いは平行線でなく、必ず交わり重なる思いだ。

 

右手と左手。大樹と黒ウサギは手を繋ぐ。絶対に離さないように、しっかりと繋いだ。

 

そして二人は漆黒の巨人の前に並んで立ち、前を見た。

 

 

「ハハッ……今までで一番怖いな」

 

 

「安心してください。黒ウサギが必ず……」

 

 

握り絞めた二人の手は震えていた。

 

大樹は黒ウサギの失うことに恐怖を。

 

黒ウサギは大樹を失うことに恐怖を。

 

二人は己の恐怖と戦っていた。

 

 

「「ッ……!」」

 

 

ギュッ……!

 

 

だけど、二人は強く互いの手を握ることで恐怖に勝っていた。

 

 

「神なんてクソッタレだ……!」

 

 

「ええ、本当にクソッタレですよ……!」

 

 

汚い暴言を吐きながら二人は汗を流しながら笑みを浮かべる。

 

 

「散々酷いことに巻き込みやがって……!」

 

 

「願っても大切な人を救ってくれない……!」

 

 

大樹は左手を前に、黒ウサギは右手を前に出す。

 

 

「それでも感謝してしまうのが悔しくてたまらない……!」

 

 

「この出会いを作ってくれたのは駄神ですからね……!」

 

 

そして、手を重ね合わせた。

 

 

『ゴォアアアアアアアアァァァ!!!』

 

 

光が瞬いた瞬間、全てを喰らう光線が放たれた。

 

恒星どころか太陽の光すら奪う闇。威力は想像を超え、創造へと至った。

 

しかし、

 

 

「黒ウサギいいいいいいいィィィィ!!」

 

 

「燃え上がれぇ!! この命ッ!!!」

 

 

二人の目は、閉ざすことはなかった。

 

前に出して重ねた両手に雷が落ちる。握り絞めた手が燃えるように熱く、熱く、熱く輝いた。

 

煉獄の炎のように雷が揺れる。生きているかのように産声を轟かせる。

 

数え切れない数の赤い稲妻が、爆散する。

 

 

「くぅッ……!?」

 

 

黒ウサギの体は張り裂けそうな痛みが襲って来ていた。無理矢理出そうとするせいで、恩恵が暴走していたのだ。

 

しかし、痛みはすぐに消える。

 

 

「負けるかあああああァァァ!!!」

 

 

隣で手を握り絞めた大樹が、全て代わりに受け止めていたからだ。

 

体は既に限界を超える。それでも、彼は倒れることはなかった。

 

 

ゴオオオオオォォォ!!!

 

 

灼熱の炎がさらに燃え盛ると同時に、黒ウサギの髪が、緋色に変わる。

 

そして、あのウサ耳が元に戻っていた。

 

黒ウサギの霊格が戻ったわけではない。何故分かるのか?

 

それは、二人が重ねた両手を見れば明らかだった。

 

 

 

 

 

「「撃ち抜けぇ!! 【雷神(らいじん)銃姫(じゅうき)】!!」」

 

 

 

 

 

二人が握り絞めたのは、黄金の長銃だったからだ。

 

黒ウサギの恩恵で進化した【神影姫】はさらなる力を得た。黒ウサギの思いは、予想を遥かに超える形で叶ったのだ。

 

 

ガシャアアアアアァァァン!!

 

 

紅い線が入った黄金の銃に、巨大な稲妻が落ちる。そして、雷は一発の弾丸へと創造される。

 

 

「「覚悟しろ、御霊の王!!」」

 

 

銃口を向かって来る光の光線へと向ける。

 

二人は叫ぶ。喉が潰れんばかりの声で。

 

同時に、二人は引き金を引いた。

 

 

 

 

 

「「【神雷弾(しんらいだん)】!!!」」

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォォ!!!

 

 

銃口から放たれた一発の弾丸は、宇宙すら貫く矛へと成った。

 

 

全ての(ことわり)改竄(かいざん)し、あらゆる概念を凌駕(りょうが)する。

 

 

世界バランスを覆す恩恵を越えた力。それが今、解き放たれた。

 

 

「「行ッけえええええええェェェ!!!」」

 

 

一瞬で光線を撃ち抜き消滅させる。弾丸はそのまま一直線に巨体の体を貫いた。

 

 

『ゴギャアアアアアァァァア!!!』

 

 

漆黒の巨人は叫び声を上げながら光の粒子へと変わった。

 

弾丸は巨人の背後にあった空間にヒビを入れた。

 

割れたヒビから神々しい光が差し込む。同時に握っていた大樹の手から温度がなくなっていく。

 

隣を見れば体が透けた大樹が微笑んでいた。

 

 

「……ゲームクリアだな」

 

 

「大樹さんッ……! 黒ウサギは……!」

 

 

「泣くなよ。俺はちゃんと過去にいる……だから、助けてやってくれ」

 

 

ボロボロと黒ウサギの目から涙が零れる。

 

二人で握っていた【神雷銃姫】は黒ウサギしか握っていない。

 

 

「今だから言えるな……俺は、お前らのことを全員大切に思い……そして、愛している」

 

 

「はい……はいッ……!」

 

 

「過去は何度でも変わる。それでも、この気持ちだけは絶対に変わらない。忘れていたとしてもだ」

 

 

大樹の言葉に何度も頷く黒ウサギ。別れの時は、そこまで来ていた。

 

 

「鍵は解かれた。後は、過去にいる俺に託せ。そこに、ちゃんと俺はいる」

 

 

「大樹さん!! 黒ウサギも———ッ!!」

 

 

続きの言葉は、続かなかった。

 

差し込んだ光が大きくなり、空間を包み込んだ。

 

大樹には分かっている。黒ウサギが何を言いたかったのか。

 

だから彼はお礼を言う。

 

 

 

 

 

———助けてくれてありがとうな、と。

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

狂三が銃弾を黒ウサギに当てた瞬間、黒ウサギの意識は【神影姫】の中へと吸い込まれた。

 

一同が驚愕する。当然だ。いきなり発砲したのだから。

 

 

「うおい!? 何やってんだテメェ!?」

 

 

「安心してくださいまし。彼女の意識を銃の中に繋いだだけですわ。時間が経てばすぐに———」

 

 

ヒョコッ

 

 

そして、黒ウサギの頭からウサ耳が生えた。

 

 

狂三「」

 

 

琴里「」

 

 

士道「」

 

 

猿飛「」

 

 

折紙「」

 

 

原田「あッ」

 

 

事情を知っている原田は動揺しなかったが、他の者達が動揺した。

 

 

(((((いやいやいやいや! 何でウサ耳!?)))))

 

 

「……………」

 

 

「って無言でもう一発撃ち込もうとするな!?」

 

 

「待ってくださいまし!? おかしいですわ! 何でウサ耳が生えてくるのです!?」

 

 

「あー、その違うんだよ。元々アレなんだよ……………ウサ耳がある人なんだよ」

 

 

「「「「「どんな人間!?」」」」」

 

 

原田が下手くそな言い訳をしていると、パチリっと黒ウサギの目が開いた。

 

 

「ッ! 黒ウサギ! どう———!?」

 

 

「びぇえええええええん!! 大樹しゃああああん!!」

 

 

「———What!?」

 

 

子どものようにわんわんと泣き出す黒ウサギに全員が驚いた。

 

 

「あんみゃりでしゅよ!! だいきしゃんはじぶんのことびゃかり!!」

 

 

「うん、ごめん。パードゥン?」

 

 

「『あんまりですよ。大樹さんは自分のことばかり』と言っています」

 

 

「何で分かるんだ鳶一!?」

 

 

「くりょうしゃぎたちのことをにゃにゅもかんぎゃえじゅに!」

 

 

「『黒ウサギたちのことを何も考えずに』ですね」

 

 

「黒ウサギ翻訳機かアンタ」

 

 

折紙に慰め貰いながらどうにか落ち着く。いきなり泣き出したり文句言い出したりしたが、とりあえず分かったことが一つ。

 

 

(多分愛されているぞ、大樹。めちゃくちゃな)

 

 

揺るがない自信があった。

 

黒ウサギはどんなことが遭ったのか話してくれた。信じられないくらいぶっ飛んだ話だったが、黒ウサギが嘘を言っているようには見えなかった。(ちなみに接吻(キス)のことは伏せた)

 

 

「何だそのナウ〇カの巨神兵みたいな奴。ヤバ過ぎだろ」

 

 

「その表現の方がヤバイですよ」

 

 

正直、黒ウサギツッコミはどうでもよかった。

 

 

「それよりも、その【神影姫】はどうなった?」

 

 

「それがですね……いつの間にかこんなことに」

 

 

狂三が持っていた銃が黄金色の銃に変わっていた。紅い線が入った銃。グリップには桜の花弁の模様の装飾が施されていた。

 

 

「それ……絶対強いよな」

 

 

士道の言葉に、全員が頷いた。

 

 

________________________

 

 

 

「過去で力を奪われた私ですが、過去に戻ることはちゃんとできます」

 

 

【神影姫】———【神雷銃姫】の準備が整った今、残すは過去に行って大樹の記憶を戻すことだけだった。

 

狂三はチロッと舌を出しながら告げる。

 

 

「約一分間だけですが☆」

 

 

「お前ええええええェェェ!!」

 

 

「は、原田さん!? 殴ってはいけません!!」

 

 

さすがの原田でもキレた。短過ぎることに。

 

 

「可能なのか!? 一分で大樹の記憶が戻せるのか!?」

 

 

「それは……あなた方に懸かっているのです!」

 

 

「何……? どういう意味だ?」

 

 

「簡単に言いますと特に策があるわけじゃないので、どうにかしてくださいまし」

 

 

「人はそれを他人任せって言うんだよ!?」

 

 

「では大樹さんには口づけで記憶を戻———」

 

 

「真面目に考えろ!」

 

 

「駄目です! セカンド……ファーストキスは黒ウサギと相場が決まっています!」

 

 

「決まってねぇよ! というかセカンドって言いかけていなかった!? アイツもうファーストしちゃったの!?」

 

 

狂三と黒ウサギのやり取りに原田は疲れ切ってしまう。

 

 

「全然駄目ねアンタたち。もう見ているだけで頭が痛いわ」

 

 

「こ、琴里には策があるのか?」

 

 

「ええ、もちろんよ士道。ズバリ、衝撃を与えるのよ」

 

 

「おお! 他の人たちの発言とは違うな!」

 

 

「一発頭を思いっ切り叩けば万事解決———」

 

 

「そっちの衝撃(物理)かよ!!」

 

 

琴里の策に士道が溜め息をはいた。

 

今度は猿飛が解決策を模索する。

 

 

「今の話を聞く限り、先生はあなたたちを愛して———」

 

 

「……………」

 

 

「———折紙ちゃんを愛していた。ならば好きな人の声を聞くだけで思い出しそうだけどね」

 

 

「おいそこのお父さん大好きっ子。無言の圧力するな」

 

 

「していませんッ」

 

 

折紙の行動に猿飛は苦笑いだった。

 

その猿飛の意見に狂三と黒ウサギ、琴里は首を横に振った。

 

 

「あまり現実的とは言えませんわね」

 

 

「保障もないですし」

 

 

「賭けに出過ぎていてダメダメね」

 

 

「(´・ω・`)サルトビショボーン」

 

 

「ブーメランだぞ!? 大丈夫かお前ら!?」

 

 

とりあえず狂三はみんなの意見をまとめ、最後に【ラタトスク】から支給されたボイスレコーダーを黒ウサギに渡した。

 

 

「え?」

 

 

「絶対にいらないと思いますが、もしかしたら、万が一、大樹さんが思い出せなかったら愛する人の声を聞かせるとします」

 

 

「え、えぇー……」

 

 

頬を膨らませながら拗ねる狂三に黒ウサギは反応に困った。

 

 

「お兄ちゃん! 私は愛しているよ!」

 

 

「って鳶一さん!? 黒ウサギのボイスレコーダーに勝手に吹きこまないでください!」

 

 

「バァーカ、アホー」

 

 

「原田さんは悪口を吹きこまない!」

 

 

「えっと、先生! 難病にかかった世界の患者たちを救う夢、現在進行形で叶えていますよ!」

 

 

「それです! そういうのがベストです!」

 

 

「私は部下に鳩尾(みぞおち)に拳を放つだけで喜ぶぐらい偉くなったわよ」

 

 

「ちょっと!? 妹さん歪んでいますよ!?」

 

 

神無月(かんなづき)さんのことか……いやいやいや! 確かにお前は偉いけど喜ぶのはあの人限定だろ!」

 

 

「喜ぶ人いるのですか!?」

 

 

ギャーギャーと騒ぐ環境に狂三の目は死んでいた。時間がないというのに、この方々は馬鹿だと。

 

 

「こ、コホンッ……い、一度しか言いませんからね」

 

 

「早く録音してくださいまし」

 

 

若干苛立っている狂三。頬を赤く染めた黒ウサギは聞き取れるかどうか際どいくらい、小さな声で呟く。

 

 

「……………………………愛して、ます……!」

 

 

「「「「「………………」」」」」

 

 

「む、無言はやめてください!?」

 

 

———ガチな告白に、逆にコチラが恥ずかしくなった。

 

 

全ての準備を終えた狂三は、【神雷銃姫】に一発の弾丸を込める。

 

 

「……凄い力ですわ。握っているだけで感じたことの無い壮大な力が分かります……!」

 

 

「なるほどね。狂三の力をその武器で強化するのね」

 

 

琴里の解答に狂三は満足そうに笑みを見せる。

 

 

「わたくしの力が弱くても、これだけの強い器があれば、結果は変わってしまうのですわ」

 

 

狂三が込めた弾丸は【十二の弾(ユッド・ベート)】。撃った対象を過去に送る———時間遡行(そこう)が可能にする銃弾だ。

 

しかし、過去にある男に精霊に力を大きく奪われたせいで使うことは不可能な状態だった。今も【神雷銃姫】を使っても、時間制限が短いことは分かっていた。

 

それでも、諦める理由にはならなかった。

 

 

「さぁ、おいでなさい———【刻々帝(ザアアアフキエエエエエル)】!!」

 

 

———時間を操る天使の出現と共に、狂三は引き金を引いた。

 

 

 

________________________

 

 

 

【過去】

 

 

 

狂三の視界はすぐに変わった。

 

無残な姿に変わり果てた街。抉り取ったように破壊された見覚えのある建造物に狂三は息を飲んだ。

 

 

(奇跡ですわ! ここから近い!)

 

 

すぐに精霊の力を使役して飛翔する。10秒も経たずに、大樹の姿を見つけることができた。

 

体をダラリッとさせて、今にも死んでしまいそうな雰囲気を漂わせていた。

 

 

「狂、三……?」

 

 

「ッ!?」

 

 

微かに意識があることが遠目からでも確認できた。口の動きで自分の名前を呼んでいることが分かった。

 

 

(今のわたくしは気を失っているはず……遠慮はいらないようですわね!)

 

 

誰かに見られる警戒はしない。ガルペスが遠くに吹き飛ばされているうちに、急いで大樹のそばに着地して、まとめていた策を実行する!

 

 

「せいッ!!」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

 

 

 

———狂三は握っていた【神雷銃姫】で大樹の後頭部を殴りつけた。

 

 

 

 

 

大樹の顔は地面にめり込み、動かなくなった。

 

 

秘策その一、衝撃を与える(物理)。

 

 

「……………」

 

 

普通に動かなくなった。失敗。

 

 

「やっぱり駄目ですよね」

 

 

「こ、殺す気かッ……!?」

 

 

「ッ!? 意識があったのですね!?」

 

 

「あるわボケぇ……!」

 

 

力が全く出ないのか、地面から顔を出した後、苦しんでいた。

 

 

「あ、アイツが戻って来る前に……逃げろッ……!」

 

 

「あ、そういうのはいいですの。次行きますわよ」

 

 

「何で軽く流すッ!? ってガハッ!?」

 

 

激しいツッコミを入れたせいで吐血した。狂三は構わず次の策に移る。

 

 

「知っています? 10秒間キスをするだけでうつる細菌の数は8000万個ですのよ?」

 

 

秘策その二、衝撃を与える(物理じゃないほう)。

 

 

「マジかぼらべぇあッ!?」

 

 

吐血しながら驚愕した。失敗。

 

 

「し、死んじゃうッ……本当に痛くて死んじゃうから……」

 

 

「秘策その三、わたくしとキスをする!」

 

 

「さっきの話をした後にやれるかボケェぶらッ!?」

 

 

吐血しながら断られた。失敗。

 

 

「じ、時間が……仕方ありません。記憶を思い出して貰うにはこれしか方法が……!」

 

 

「き、記憶だとッ……? 思い出さなきゃいけないのかッ……!?」

 

 

「思い出せなかったら死にます。思い出しても未来で死ぬと思いますが、頑張ってくださいまし!」

 

 

「詰んでね!? 俺の人生詰んでね!? ってもう血がッ……!?」

 

 

吐き出す血すら無くなった大樹。狂三は取り出したボイスレコーダーのスイッチをONにした。

 

 

『お兄ちゃん! 私は愛しているよ!』

 

 

「なッ!?」

 

 

女の子の声が聞こえた瞬間、大樹は驚愕した。

 

似ていたのだ。折紙の声に!

 

すぐにボイスレコーダーを耳に近づける。

 

 

『バァーカ、アホー』

 

 

ビシッ!!

 

 

予想通り、レコーダーを地面に叩きつけた。

 

狂三は焦らずギリギリ壊れなかったボイスレコーダーを手に取り、もう一度大樹に聞かせる。

 

 

『えっと、先生! 難病にかかった世界の患者たちを救う夢、現在進行形で叶えていますよ!』

 

 

「おいおい……まさか未来からのメッセージか……? サル君じゃねぇかよ……嬉しいなぁおい……」

 

 

猿飛の言葉を聞いた瞬間、涙が目に溜まる。

 

 

『私は部下に鳩尾(みぞおち)に拳を放つだけで喜ぶぐらい偉くなったわよ』

 

 

「俺の天使ちゃんどこ行った」

 

 

そして涙が零れた。

 

 

神無月(かんなづき)さんのことか……いやいやいや! 確かにお前は偉いけど喜ぶのはあの人限定だろ!」

 

 

「これは士道、か……………あと琴里ちゃんを汚した神無月殺す」

 

 

(肝心なことに全く触れられていないのですが大丈夫でしょうか!?)

 

 

とんでもない勘違いをしている上に、本来の目的である記憶が戻らない。殺意が湧いているだけだった。

 

その時、狂三の体が透け始めた。恐れていた事態が始まろうとしていた。

 

 

(もう制限時間が!? はやく事情を説明しなければ……!)

 

 

言っても信じてくれないかもしれない。それでも思い出すきっかけになるなら、言うしかない。

 

 

「大樹さん! あなたは元々未来から———」

 

 

『……………………………愛して、ます……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思い出したああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

「———納得がいきませんわああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———無事、役目を終えた狂三は泣きながら現代へと帰って行った。

 

 

———それは約一分間の奇跡。

 

 

———ガルペスが知らない真実の出来事だった。

 

 

________________________

 

 

 

「こんのッ!!」

 

 

記憶を思い出した後、自分の体に気持ち悪い力が入り込もうとしていた。その力を無理矢理力で断ち切り、逆にその力をこちらに引っ張った。

 

力を手繰り寄せれば手繰り寄せるほど、体の内側から力が溢れ出す。力を吸収していた。

 

吸収した力を使い、大樹は手を横に振るい、黒い煙を散布させて分身を作った。

 

自分の後頭部(余裕でタンコブができた)を殴った銃を拾い上げてガルペスから距離を取る。【神の加護(ディバイン・プロテクション)】を発動させながらこの時代の狂三を抱きかかえて回収する。

 

 

「ッ……!」

 

 

その銃を握り絞めた瞬間、頭の中に記憶の破片のようなモノが突き刺さった。

 

一瞬の痛み。その痛みが俺に全ての出来事を伝えた。

 

 

———俺とガルペスが死んだこと。

 

———俺が思い出さなかった時の最悪な世界のこと。

 

———黒ウサギを除いたみんなが消え始めていること。

 

———この【神影姫】が【神雷銃姫】へと進化したこと。

 

———狂三が俺の記憶を思い出させるように頑張ったこと。

 

 

そして———

 

 

 

 

 

(は、恥ずかしいいいいいいいィィィ!!??)

 

 

 

 

———黒ウサギとのKissである。

 

 

(羨まし過ぎるだろ死んだ俺! ちょっと待ってファーストキスどうなるのこれ? 記憶を共有しても実際していないからノーカンじゃん!? ふざけるなよ死んだ俺! ぶっ殺すぞって死んでるのか!?)

 

 

死んだ自分にキレるという馬鹿なことをしていた。

 

 

(いや、でも待て。今度はご褒美で貰えるんだよな? 過去を無事に変えて、俺が未来に戻って来られたらそのまま……! 大人の階段の~ぼるぅ~!!)

 

 

大樹の鼻からポタポタと血が流れ始めていた。ただの変態である。

 

 

「———自己保身する駄神(ゴミ)共よ! そんなに命が惜しいか! 保持者に力を与えて、この死神を恐れるか!? ならば———【制限解放(アンリミテッド)】!!」

 

 

(あ、やっべ。話あんまり聞いていなかったわ)

 

 

———記憶が戻った大樹の頭の中は、いつも嫁のことばかりである。

 

 

________________________

 

 

 

「———せっかく大切な人がいることを思い出させて貰ったんだ。守る為に、神の力をちょっと多く借りていてもいいだろ?」

 

 

カッコイイセリフで決め顔の俺はイケメンだった(自己評価)。

 

俺の前で体を震わせながら怒るガルペス。分厚い本から漏れる黒い霧と殺気が混じり合い、(おぞ)ましい空気が漂っていた。

 

ニヤリッと笑う俺に苛立っているのだろう。余裕ぶった表情の俺に。

 

あと正確には借りたというより無理矢理吸い出したが正解だ。

 

 

(とりあえず狂三を避難させないと……これ以上は巻き込めないな)

 

 

腕の中で眠ってい———おい、コイツ起きてるぞ。このツインテール、普通に俺の攻撃の衝撃せいで気を失ったと罪悪感を感じていたが、全然違うじゃん。力失って疲れているだけじゃん。俺の首に手を回すほどの余裕があるじゃねぇか。

 

 

「ここからは危険だ。今のうちに逃げれるか?」

 

 

「ふふ、助けてくれるのですか?」

 

 

「さぁな。元々、俺が巻き込んでしまったようなモノだし……ガルペスぶん殴って力を奪い返して来る」

 

 

「助かります……正直、限界が近かったので……」

 

 

「おう。ゆっくり休め。未来のお前が助けてくれた礼だ。必ず倒してくる」

 

 

「? よく分かりませんが、その感謝は受け取らせて頂きますわ……」

 

 

そう言うと、狂三は俺の腕から地面に生えた俺の影へと落ちて行き、その姿を消した。

 

俺は地面に刺さった刀を手に取り、そのまま刀を振り上げた。

 

 

ズシャアアアアアァァァ!!

 

 

「ッ!?」

 

 

突如刀から出た音速の斬撃波がガルペスに向かう。不意を食らったガルペスは急いで神の力を使役し、目の前に盾を出現させる。

 

 

ガギンッ!!!

 

 

盾は粉々に壊れるも、衝撃を殺すことに成功する。

 

ガルペスは目を細めて大樹を睨み付ける。しかし、大樹はガルペスが思っていた反応とは全く別の反応を見せた。

 

 

「いや、今のは違うから! 勢い良く抜いただけだから!? わざとじゃないから!?」

 

 

「は……?」

 

 

慌てる大樹にガルペスの目は点になった。そして、汗がドッと溢れ出した。

 

 

———刀を抜いただけで、あの威力だと?

 

 

本気を出した時の威力はどうなるのか。考えただけでは、どうなるか想像できなかった。

 

 

「ってよく考えたら謝る必要はねぇか」

 

 

大樹は刀の刃先をガルペスに向ける。

 

ガルペスは大樹が持つ神の力が増幅するのを感じ取った。

 

 

()()()()守る。だから———」

 

 

自分とは桁違いな量の力を。

 

 

「———覚悟しろよ、このマッドサイエンティストがぁ!!」

 

 

________________________

 

 

 

———雲泥の差。

 

 

それは大樹とガルペスの実力を表すのに適格だった。

 

 

ガギンッ!!

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!!

 

 

ガルペスの武器と大樹の刀がぶつかり、凄まじい衝撃波が生まれる。だが、力負けするのはガルペスの方だった。

 

超音速で空に向かって吹き飛ばされる。ガルペスは必死に体勢を整えようとするも、その隙を逃す大樹ではない。

 

 

「【無刀・極めの構え】」

 

 

右手で振るった刀から即座に反対の手である左手をグッと握り絞める。

 

 

「【幻影刀手】!!」

 

 

ズシャッ!!!

 

 

大樹が左腕を横に薙ぎ払った瞬間、見えない斬撃がガルペスの体に直撃した。

 

 

「なッ!?」

 

 

血を吹き出す己の体を見て目を見開いて驚愕した。見たことのない技に焦り始める。

 

 

「くッ……全機起動! 【ガーディアン】!!」

 

 

虚空から3メートルにも及ぶ巨大人型兵器が姿を見せる。かつて宮川 慶吾と戦わせた時より新たに改造を施し、格段に能力を上昇させたモノだった。

 

その数はなんと百を超えていた。

 

空は星のように白い点で埋め尽くされていた。

 

一斉に多種多様な武器を構える機械兵器。その間にガルペスは体の回復を———!?

 

 

「【神雷銃姫】!!」

 

 

その時、膨大な神の力を感じ取った。

 

大樹が両手で握り絞めた【神雷銃姫】が神々しい光を放ち始めたのだ。

 

 

「弾丸に神の力を凝縮させた最強の一発だ……! ガルペス、死ぬなよ?」

 

 

「なん……だとッ……!?」

 

 

そして引き金が、引かれた。

 

 

「【神雷弾】!!!」

 

 

銃口から放たれた一発の弾丸は、全てを呑み込んだ。

 

 

ドゴオオオオオオオオオオォォォォ!!!

 

 

上空にいた機械兵器は全て塵と化し、雲を、空を、宇宙まで貫いた。

 

当然、ガルペスも巻き込みながら神の弾丸は一直線に、宇宙の彼方まで飛んで行った。

 

あまりの強力な一撃に、大樹の頬は引き攣っていた。

 

 

(神の力、本気で込めるのやめよ……)

 

 

吸血鬼の力とは格どころか次元が違った。

 

 

「ごはッ……! はぁ……はぁ……!」

 

 

「ッ!? おいおいマジかよ……」

 

 

空に浮いた一人の男———それでもガルペスは生きていた。

 

背中から外見が異なる8枚の不気味な翼を広げていた。鎧を纏っていたような痕———ボロボロの装甲が宙に漂っていた。

 

 

「【守護神の鎧(アテナ・アーマー)】が一撃で……馬鹿なッ」

 

 

ギリギリッ……とガルペスの口から歯を食い縛る音が聞こえた。

 

憎しみを込めた瞳で大樹を睨み付ける。

 

 

「忌々しいガキがぁ!! 【制限解放(アンリミテッド)】!!」

 

 

ガルペスの怒号と共に、手元に現れる一冊の黒い本。そこから禍々しい空気が溢れ出す。

 

 

「【文化英雄の錬金術(ヘルメス・アルケミー)】!!」

 

 

「ッ……いよいよ本番ってわけだ」

 

 

大樹は右手に【神刀姫】を、左手に【神影姫】を握り絞めた。

 

残念なことに、【神雷銃姫】は少しの間使えない。武器が燃えるように熱くなり過ぎて壊れそうになっていた。あの一発は銃の限界を超えていたのだ。

 

それでも、負ける気は微塵もなかった。

 

両者は、構える。

 

 

 

「貴様は絶対に……ブチ殺す!!」

 

 

 

「やれるもんなら、やってみろ!!」

 

 

 

 

———己の全てを賭けた戦いの火蓋が切られた。

 

 




大樹「何で死んだ俺だよおおおおおォォォ!?」


原田「アレだな。ファーストキス、まだ取っていることになるんだな」


大樹「そうなるの!?」


作者「うん」


大樹「(´・ω・`)」

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