どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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更新が早い? 友達が書け書け言うから書いてやったぜ(半ギレ)


お待たせしました読者様方! どうぞお楽しみください(満面の笑み)!


落ちた強者たちは全てを失う

「……何だここ」

 

 

空間震は確かに発生した。遠目から発生したこと確認し、止めることは間に合わなかったが、すぐに向かうことはできた。

 

空間震によって広大な範囲が消失するのだが、そこは違った。

 

 

「……夢の国、じゃないよな」

 

 

粉々に何もかも吹き飛ばされ、荒れてしまった地でなく、廃墟と化した遊園地———ゴーストランドが賑わっていたのだ。

 

まるでコメディホラー映画のワンシーン。異様な光景に目を疑い、戸惑う。

 

 

「中に人の気配があるな」

 

 

とにかく空間震は発生した。美琴の可能性はあるのだから入らない選択肢は今更ない。

 

ちゃんと入り口から入り、慎重に歩く。警戒は十分にして怠らない。ギフトカードをポケットの中で握り絞めている。

 

 

「……そこか?」

 

 

「あらぁん?」

 

 

上から気配がしたので見上げると、声が聞こえて来た。

 

教会の屋根の上にある十字架に一人の女性が腰掛けている。

 

 

「……………」

 

 

無言でその女性を見つめる大樹。先端の折れた円錐(えんすい)の帽子を被り、『魔女』を連想させる格好だった。

 

艶やかな長い緑色の髪に翠玉の瞳。その瞳は大樹が映っている。

 

 

「うふふ、珍しいわね、こちらに引っ張られた時に、AST以外の人間に会うだなんて」

 

 

クスクスと笑いながら女性は飛び降り、大樹の目の前まで歩いて来る。

 

 

「どうしたの僕? 確か私が現界するときってこっちの世界には警報が鳴っているんじゃあなかったっけ?」

 

 

大樹の顎を持ち上げながら尋ねる。大樹は表情を変えずに返す。

 

 

「鳴ったぞ」

 

 

「ならどうしてここに?」

 

 

ようやく大樹はニッと笑みを見せた。

 

 

「お姫様を、探しに来た」

 

 

「ッ!」

 

 

女性は目を見開いた。そして頬を染めながら唇の端を上げる。

 

 

「ふぅん……それで?」

 

 

「探している途中、スタイルが良くてエロい恰好をした美人に出会った」

 

 

「ッ! それでそれで!?」

 

 

「髪はツヤツヤで綺麗で、誰がどう見ても美人と言うだろう」

 

 

「そう! 分かってる! あなた分かってる!!」

 

 

女性は嬉しそうな表情でハグをしようとしてきた。大樹は笑顔で――—

 

 

スッ

 

 

―――()()()

 

 

「じゃあ、サヨナラ」

 

 

「えッ」

 

 

「えッ」

 

 

「……何で帰ろうとしているの」

 

 

「だから言っているだろ。お姫様を探しているって」

 

 

「えッ」

 

 

「えッ」

 

 

「……いるわよね?」

 

 

「どこに?」

 

 

「えッ」

 

 

「えッ」

 

 

「……私のこと、綺麗だと思っている?」

 

 

「おう。さっき美人って言ったじゃん」

 

 

「お姫様みたい?」

 

 

「まぁ、そう捉えよと思えば捉えれるじゃないか? 魔女っ娘の格好しているけど」

 

 

「……探しているお姫様は私のことよね?」

 

 

「いや違うぞ」

 

 

「えッ」

 

 

「えッ」

 

 

女性はしばらく黙っていたが、状況がやっと飲み込めた。

 

 

「私を探していたわけじゃないの!?」

 

 

「だからそう言っているだろ!?」

 

 

「紛らわしいわよ!?」

 

 

「どこが!?」

 

 

顔を真っ赤にしてポカポカと大樹の体を叩く女性。大樹は混乱していた。

 

 

「何するんだよハズレ!」

 

 

「ハズレ!? 酷すぎない!? そんなに可愛くないの!?」

 

 

「だから何を言ってんだよ! お前は十分に綺麗だって言ってるだろ!」

 

 

「ッ……やっぱりぃ!? もうッ、恥ずかしがらなくていいのよ!」

 

 

「恥ずかしくねぇよ。お前は本当に美人だ。俺が保障する」

 

 

「もう! 最初から素直に言ってよね!!」

 

 

「ハッハッハッ、ごめんごめん」

 

 

女性はまた笑顔になり、大樹に抱き付こうとする―――

 

 

スッ

 

 

―――が、避けられる。

 

 

「じゃあな」

 

 

「だから何で!?」

 

 

「何が!?」

 

 

ギャーギャーと何度も同じやり取りをしているうちに、女性はやっと理解する。

 

 

「———ということは人を探していたのね。私じゃなくて」

 

 

「最初からそう言ってるだろうが」

 

 

「あと私は綺麗と」

 

 

「それも言ってる」

 

 

「……それで、僕のお姫様は誰かしら?」

 

 

「この写真の右に映っている超絶可愛い女の子だ。あまりの可愛さに世界戦争を起こしてしまうレベルだろ?」

 

 

「凄い可愛がっているわね!?」

 

 

携帯端末で見せた写真に女性はうーんっと唸り、首を横に振った。

 

 

「見たことないわ。精霊なら私以外ここにいないわよ」

 

 

「そうか。まぁハズレの時もあるから気にするな!」

 

 

「さりげなく(けな)さないでくれる!?」

 

 

「貶してねぇよ。ハズレ美人って新しいジャンルで行こうぜ?」

 

 

「そんなジャンルいらないわよ!?」

 

 

「なら革命起こさないか? ハズレ美人……良い響きじゃねぇか」

 

 

「僕!? 頭大丈夫!?」

 

 

「新曲『ハズレ美人☆レボリューション』でも歌えば元気百倍さ!」

 

 

「テンションガタ落ちよきっと!?」

 

 

帰ろうかと思った時、後ろから凄い速さで誰かが来ているのが分かった。

 

 

「大樹ッ! 無事かッ!?」

 

 

「原田じゃねぇか」

 

 

白いコートを羽織った原田が俺のところまで跳躍して飛んで来る。

 

原田は女性を見て俺に尋ねる。

 

 

「空間震警報が鳴ったからすぐに駆け付けたけど……ってこの人は?」

 

 

「ん? ハズレだ」

 

 

「……あぁ、そういうことか」

 

 

「何で理解しているの!?」

 

 

何気に酷い原田であった。

 

 

「まぁ落ち着け。コイツはお前と同じだ」

 

 

「同じ?」

 

 

「コイツは残念イケメンの原田。お前のハズレ美人と同じジャンルの人だ」

 

 

「紹介失礼すぎるでしょ!?」

「紹介失礼すぎるだろ!?」

 

 

同時にツッコミを入れた。最初は原田が文句を言う。

 

 

「どこがハズレだよ!? こんな美人、当たり要素しかねぇよ!」

 

 

「ちなみにどこがポイントが高い?」

 

 

「……そりゃ巨乳だし、鼻筋がスッと通っているところとか、スタイルが抜群に―――」

 

 

「さすが残念イケメン。言うことが残念だな!」

 

 

「———テメェこの野郎!!」

 

 

でも女性は嬉しそうにしていた。女性も負けずと反論した。

 

 

「この子も残念じゃないわ! 私の綺麗だと分かっているし、それに―――」

 

 

女性は原田を見て止まる。

 

そのまま数十秒の時が流れて、

 

 

「———良いと思うわ」

 

 

「何もねぇのかよ!?」

 

 

「さすが残念イケメン。褒める部分がなかったぞ」

 

 

「クッソムカつく! 頼む美人さん! 何かないのか!? 何でもいいから!」

 

 

「えっと……………頭の触り心地が良さそう?」

 

 

「ぶっは!!」

 

 

女性の解答に大樹は大爆笑。腹を抱えてゴロゴロと地面を転がる。

 

 

「触り心地ワロタww 坊主頭しか取り柄がww クッソワロタww」

 

 

「しばくッ!!」

 

 

シュバッシュバッ! バシバシッ! ドゴッ! バギッ!

 

 

大樹と原田の戦いが始まった。目で追い切れない速度で殴り合う二人に女性はビックリしている。

 

 

「テメェの方が取り柄がないだろうが変態! 女の子たちと釣り合ってねぇよブサイク!」

 

 

「しばくッ!!」

 

 

シュバッシュバッ! バシバシッ! ドゴッ! バギッ! ガギンッ! カキンカキンッ!

 

 

戦いはさらに激しさを増す。今度は武器を取り出して戦い始めた。女性は怖がっている。

 

 

「「ッ!!」」

 

 

ピタリッと二人の動きが止まった。表情は深刻なモノになっている。

 

 

「原田……この感覚……!」

 

 

「あぁ……ハズレどころか最悪なモノを引いたらしい……!」

 

 

二人は武器を取り出し上を見て警戒する。女性は二人の視線を追うと、上空に二つの影があった。

 

 

「随分と楽しそうなことをしているな」

 

 

「……………」

 

 

一人は白い白衣を身に纏った男、彼は嘲笑っていた。一人は純白の衣を身に纏った女、彼女は無表情で見ていた。

 

 

 

 

 

死んだはずのガルペスと逃げ出していたリュナがそこにいた。

 

 

 

 

 

(やっぱり生きていたか……リュナは生きて逃げていたことは分かっていたが)

 

 

ゆっくりと大樹は女性の前に立ち、【神刀姫】を取り出す。

 

 

「最後に美人さん、名前を聞いていいか?」

 

 

「え? ……な、七罪(なつみ)

 

 

「良い名前だ。七罪、今すぐこの場から全力で逃げろ」

 

 

リュナの右手に展開した巨大な黒い弓。光の矢がセットされ、引かれている。

 

 

「来るぞッ!!」

 

 

バシュンッ!!

 

 

光の矢が放たれた瞬間、千を超える数の光の矢が降って来た。

 

 

「え、あ……」

 

 

七罪が気付いた時には遅かった。

 

既に目の前まで迫っている。避けれない。あの矢に殺される。

 

 

「おらッ!!」

 

 

「このッ!!」

 

 

しかし、矢が七罪の体に当たることはなかった。

 

二人の青年が刀と短剣を振り回し、矢を打ち消し続けている。

 

 

「七罪!! 逃げろッ!!」

 

 

「ッ! 【贋造魔女(ハニエル)】!」

 

 

先端部に鏡のようなものが取り付けられた箒が虚空から現れる。七罪の天使を顕現させたのだ。

 

箒に掴まり急いでその場から逃げ出す。

 

振り返ると大樹と原田が親指を立てて、ニッと笑みを見せてくれていた。

 

 

「大樹……原田……」

 

 

七罪は二人の名前を呟きながら、その場から逃げ出した。

 

 

________________________

 

 

 

「原田ッ! 俺がガルペスをやる!」

 

 

「なら俺はリュナだな!」

 

 

「負けんじゃねぇぞ!」

 

 

「こっちのセリフだ!」

 

 

ダンッ!!

 

 

二人は同時に踏み込み跳躍。音速でガルペスたちに向かって攻撃する。

 

 

「一刀流式、【風雷神・極めの構え】!」

 

 

大樹の振るう刀の一撃が爆発する。

 

 

「【號雷(ごうらい)静風(せいふう)】!!」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

刀から凄まじい斬撃が放たれた。刀の余波で生まれた暴風は廃墟の建物が崩してしまうほどだった。

 

ガルペスとリュナは大きく横にスライドするように移動。斬撃波はガルペスとリュナの間をすり抜けてしまった。

 

しかし、大樹の狙いはそれだ。

 

 

ガギンッ!!

 

 

原田がマッハの速度でリュナにぶつかる。リュナは背中の翼と弓でガードしたが、原田と一緒に遠くに吹き飛ばされてしまう。

 

これで一対一の状況に持ちこむことができた。

 

 

「来やがれッ!」

 

 

ゴオォッ!!

 

 

刀を持っていない反対の手でギフトカードを持ち、炎を吹き出させた。

 

ギフトカードから黒い獣が飛び出し、大樹の横に並ぶ。

 

 

『ついに来たか……』

 

 

「ジャコ。全力で行くぞ」

 

 

『当然!!』

 

 

大樹の背中から黄金色の翼が広がり、刀が輝き出す。

 

 

「ガルペス! 決着を付けようぜッ!!」

 

 

「貴様の負けで終わらせる!」

 

 

ガギンッ!!

 

 

大樹はガルペスに向かって刀を振るうが見えない壁のようなモノによって弾き飛ばされてしまった。

 

 

「また変なことを……!」

 

 

「武器を()()()()ようにしただけだ!」

 

 

ザンッ!!

 

 

武器を操ったガルペス。鋭い刃が上から振り下ろされることに勘付く。

 

すぐに体を捻らせて攻撃を避ける。武器は見えなくても、気配で分かる!

 

 

「そこだッ!!」

 

 

バギンッ!!

 

 

武器があると思われた空間に一太刀浴びせる。すると武器が壊れる音が響き渡った。

 

透明になっていた剣が姿をやっと見せる。その刀身は無残な姿になっていた。

 

 

「ジャコッ!!」

 

 

ジャコはすぐに壊れた残骸の武器を喰い始める。バギバギと不快な音を出しながら。

 

 

「一気に吐き出せッ!!」

 

 

『【魔炎(まえん)双走(そうそう)炎焔(えんえん)】!!』

 

 

 

ゴオオオオオォォォ!!

 

 

黒い炎の塊がガルペスに向かって放たれる。宙に浮くことができるガルペスは簡単に避けるが、それが失敗だった。

 

 

「甘いぜ」

 

 

「ッ!?」

 

 

光の速度でガルペスの背後に回り込んでいた大樹がニヤリッと笑う。

 

飛んで来たジャコの黒い炎を左手で掴む。

 

 

「創造する!!」

 

 

黒い炎は形を変え、一つの剣を生み出した。黒い刀身に、黒い炎を身に纏っている。

 

 

(武器の創造!? いや、あの犬が造ったのか!?)

 

 

ガルペスは分析するが、大樹の攻撃は止まらない。

 

力を込め、大樹は叫ぶ。

 

 

「二刀流式、【紅葉(こうよう)鬼桜(おにざくら)の構え】!!」

 

 

二本の刀を十字に重ね、ガルペスに向かって最強の一撃を繰り出す。

 

 

「【双葉(そうよう)雪月花(せつげつか)】!!!」

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!

 

 

常人では絶対に出すことができない一撃がガルペスにぶつけられた。

 

地を震わせ、廃墟の遊園地を薙ぎ払った。神の怒りを思わせるかのような威力に、ガルペスは地に叩きつけられる。

 

 

「ッ……!」

 

 

巨大なクレーターを造り上げ、真っ赤な血を吐血する。しかし、休んでいる暇はない。

 

 

「【痛みの闘志】!!」

 

 

大樹は追撃を仕掛けた。二本の刀を平行に並べて体を回転させる。そのままガルペスのところへと急降下した。

 

 

「うおおおおおォォォ!!」

 

 

ザンッ!!!

 

 

「ッ……!?」

 

 

大樹の斬撃はガルペスの体を引き裂いた。二本の刀はガルペスの腹部を一刀両断。ガルペスの二つ体が宙を舞う。

 

ガルペスの表情が驚愕に染まる。だが、それで倒せるとは大樹は思っていない。

 

上半身の切り口から大量の泡が吹き出し、巨大な塊が出来上がる。バンッと弾ければ傷は治り、元通りになっていた。

 

 

「クソッ」

 

 

「ふんッ」

 

 

大樹が悔しそうな表情をするのに対して、ガルペスはつまらなさそうな反応だった。

 

ガルペスは地面に着地し、ジャコは大樹の横に並ぶ。

 

 

「所詮……神の力が強くなっただけ。それでは俺を殺せない」

 

 

ガルペスの言うことにジャコは汗を流した。

 

反動が襲って来る【紅葉(こうよう)鬼桜(おにざくら)の構え】を敢えて使うことで【痛みの闘志】で反動の痛みを消し、剣技の威力を上げた。

 

強引で無茶苦茶な攻撃。しかし強いことは間違いない。だが―――!

 

 

(それを見て余裕でいられるガルペス……恐ろしい男だ……!)

 

 

ガルペスの脅威に、ジャコは恐怖を感じていた。

 

 

「弱いままだな、貴様は」

 

 

「確かにお前は強いな。じゃあ―――」

 

 

大樹は刀を地面に刺して、二本の武器を手放す。そして笑った。

 

 

「———ちょっと本気を出すか」

 

 

その言葉に、ガルペスとジャコは戦慄した。

 

 

「【無刀の構え】」

 

 

シュンッ!!

 

 

大樹は光の速度でガルペスの背後を取り、拳をグッと握り絞める。

 

殺気を感じ取ったガルペスが振り返るが、やはり遅い。

 

 

「【神殺(しんさつ)天衝(てんしょう)】!!」

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!

 

 

刀で振るった一撃と変わらない一撃。ガルペスの顔面に叩きこまれた。

 

地面を削りながら遠くに飛ばされるガルペス。体がボロボロになり、また白衣が汚れてしまった。

 

 

「無駄なことを……」

 

 

地面に倒れたガルペスは空を見ながら溜め息をつく。痛覚は感じない。体の細胞は再生する。

 

大樹の攻撃は、全て無駄になる。

 

 

「【制限解放(アンリミテッド)】!!」

 

 

次の瞬間、

 

 

「【秩序支配神の世界翼(システムルーラー・ワールドフリューゲル)】」

 

 

ガルペスの見ていた空に、黄金の羽根が撒き散らされた。

 

体に異変が起きるのに、時間は掛からなかった。

 

 

「がッ……?」

 

 

体のあちこちから、痛みが生み出される。

 

 

「……ぁぁぁあああああ!? がぁあああ!?」

 

 

痛覚が、戻った。

 

あまりの痛みに叫んでしまう。何が起こったのか冷静に分析できない。

 

 

「『全て』を支配するこの力……お前の妙なモノを全て封じさせて貰った」

 

 

「何だとッ……!」

 

 

血を流しながら驚愕するガルペス。必死に立ち上がろうとしていた。

 

しかし、ダメージが大き過ぎたのか、一向に立てる気配が見えない。

 

 

「……細胞の改造なんざ、気持ち悪いことしてんじゃねぇよ。もっと自分の体を大切にするんだな」

 

 

地面に刺さっていた【神刀姫】を拾い、刀身をガルペスの首に当てた。勝者が誰なのか、一目瞭然である。

 

 

(全力を出していても、本気は出していなかった……!?)

 

 

大樹の強さにジャコは身震いする。この戦い、大樹の圧勝だと。

 

全ての力を支配することができる大樹に勝てるわけがない。

 

 

「自分の体か……!」

 

 

なのに、ガルペスは不敵に微笑んだ。

 

 

()()()は、もう死んでいるだろ?」

 

 

「ッ!!」

 

 

ザンッ!!

 

 

ガルペスの首を、斬り落とした。

 

 

バシャンッ!!

 

 

「なッ!?」

 

 

しかし、ガルペスの体は水のように溶け、刀をすり抜けさせた。

 

ガルペスの力は無効化しているはずなのに……何故力が使える!? ありえない光景に、驚きを隠せない。

 

 

「貴様の力の根源はあの羽根だ」

 

 

水に溶けたガルペスは地面に広がり姿を消す。羽根というワードに嫌な予感がした。

 

 

「まさかッ……!?」

 

 

空を見上げれば黄金の羽根が一つもなくなっていた。嫌な予感は的中してしまった。

 

 

(いつの間に撃ち落しやがった……!)

 

 

見抜かれてしまった。唯一の弱点を。

 

『全て』を支配するために必要なのはあの黄金の羽根。アレらがばら撒かれていなければ支配することが不可能だ。

 

奴はそれを見抜き、すぐに破壊した。

 

 

「神の力を使った武器は消される。なら力を使わない方法で武器を生成し、羽根を破壊するだけの話だ」

 

 

元の体に戻ったガルペスが背後に現れる。奴の右手には白銀の剣が握り絞められていた。

 

 

「貴様が創造するなら、俺はこの世の(ことわり)(のっと)って創造する。そして、貴様を潰す」

 

 

フォンッ!

 

 

ガルペスの背後、虚空から何十を超える人型の機械人形が出現する。不気味な一つ目に、手には剣や銃を所持していた。

 

背中から生えた機械質な翼を羽ばたかせ、辺りを飛行している。

 

 

「死の覚悟をしろ」

 

 

「チッ」

 

 

また厄介な敵が現れやがったな。恐らく一筋縄じゃ———!

 

 

「【死すべき運命の炎(シュテルプリヒ・フランメ)】」

 

 

ゴオォッ!

 

 

『「「ッ!?」」』

 

 

突如飛んで来た赤黒い炎が機械人形を焼き尽くした。俺とジャコ、ガルペスは攻撃が飛んで来た方向を見る。

 

 

「み、宮川か!?」

 

 

白色の髪から黒色に戻っている宮川 慶吾がいた。右手に握った拳銃から硝煙が漂っている。

 

宮川は白いコートの中から銃弾を取り出し、拳銃に入れながら近づいて来る。

 

 

「お前……何でここに……?」

 

 

「空間震があったからだ。歩いて様子を見に来たらこの(ざま)だったがな」

 

 

カチーンッ……この様って何だよオイ。歩いて来たとか舐めてんのかコイツ……。

 

 

「おい中二病」

 

 

ギロッっと宮川に睨まれた。

 

 

「……それは俺に言っているのかゴミ?」

 

 

「いやーごめんごめん! 髪が白くなったり黒くなったりしているから、もしかして発病したのかなぁ~って思ってたんだよ!」

 

 

「発病したのはお前の頭の中だろ。ウジでも湧いてんじゃねぇのか」

 

 

「そう怒るなよ? それでさ、今はアレなんだよな? 『うわー!? 白い髪に染めていた俺はずかしいっ!』って時期なんだよな?」

 

 

ビギッっと宮川の額の血管が浮き出た。

 

 

「でも言動がアレだよな。『歩いて様子を見に来たらこの様だったがな(キリッ』 あれ、中二病が抜けていない証拠ですよね(笑)」

 

 

「殺す」

 

 

ドゴッ! バキッ! ドゴンッ! ガキュンッ! バンバンッ! カキンッ!

 

 

『喧嘩をしている場合か!?』

 

 

大樹と宮川の喧嘩が始まった。両者一歩も譲らない戦いだが、大樹は笑っていた。

 

 

「ウェーイ! 中二病ウェーイ!」

 

 

「絶対に殺すッ!!」

 

 

ドゴッ! バキッ! ドゴンッ! ガキュンッ! バンバンッ! カキンッ!

 

 

「いい加減にしろ貴様らッ!!」

 

 

ガルペスの一喝で俺たちは喧嘩をやめる。そういや忘れていたわ。主にシリアスな状況だったこと。

 

 

「死んで後悔させてやる……!」

 

 

辺りを飛んでいた機械人形が一斉に武器を構える。反射的に宮川と背中合わせになってしまが、俺はニヤリッと笑った。

 

 

「足、引っ張んなよ」

 

 

「こっちのセリフだハゲ」

 

 

「ハゲてねぇよ! ……ハゲてねぇし!」

 

 

何故二回言った俺。

 

 

シュンッ!!

 

 

次の瞬間、機械人形が一斉に攻撃を仕掛けた。足の裏から炎を噴き出し、音速に匹敵する速度で襲い掛かって来る。

 

機械人形の体は特殊な加工が施された装甲で、ダイヤモンドと同等の硬度を持っている。易々と壊される機械ではない。

 

 

「そいッ」

 

 

バギンッ!!

 

 

しかし、大樹のカウンターでの攻撃は簡単に通ってしまった。

 

機械人形は見事に真っ二つ。そのまま地に落ちてしまう。

 

ガルペスは理解できない光景に息を飲んだ。

 

 

「なッ!?」

 

 

「【神刀姫】の切れ味を舐めるなよ? その気になれば、何でも斬れるんだよ」

 

 

「無茶苦茶な奴めッ……!」

 

 

『こちらも忘れては困る』

 

 

バギンッ!!

 

 

ジャコは高速で飛び回り、機械人形を食い荒らしていた。どんなに硬い装甲でも、ジャコの炎牙(えんが)は溶かし貫く。

 

 

「遠距離攻撃に移行しろ!」

 

 

ガルペスの指示に機械人形たちは従い距離を取った。備え付けられていた銃を構える。

 

 

「それは俺の挑戦か?」

 

 

ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ!

 

 

宮川の撃った銃弾が敵の銃口に吸い込まれるように入って行った。敵の銃は暴発し、機械人形ごと爆破させる。

 

 

「俺もできるぜ?」

 

 

ガキュンッ!!

 

 

神影姫(みかげひめ)】を取り出し敵を強力な一撃を放つ。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

しかし、銃弾は銃口をギリギリ外し、的の背後にいた敵の頭部を撃ち抜いた。

 

背後に居た敵は落ちるも、本来の的とは別だ。

 

 

「……………」

 

 

「くくッ……!」

 

 

外した大樹は真顔。宮川は笑いを堪えているが、大樹にバレている。

 

 

「……何だよ」

 

 

「いや……お前の馬鹿力な銃弾なら、あの硬い装甲を貫けるんだなとな」

 

 

「凄いだろ?」

 

 

「そうだな。馬鹿だからできる技だな」

 

 

「殺すッ」

 

 

ドゴッ! バキッ! ドゴンッ! ガキュンッ! バンバンッ! カキンッ!

 

 

再び喧嘩が始まった。

 

 

『真面目にやれッ!!』

 

 

ジャコに叱られて俺と宮川は喧嘩を中断する。チッ、覚えていろよ。

 

 

「ッ……地獄に落ちろ!!」

 

 

ガルペスの周囲に何千を超える水の槍が生み出される。全て槍の先は大樹と宮川を狙っていた。

 

 

「———ふッ!!」

 

 

バシャンッ!!

 

 

大樹は円を描くように刀を高速回転させる。飛んで来る水の槍を弾き飛ばした。

 

その隙を突くように機械人形が動き出すが、

 

 

ドゴンッ!!

 

 

宮川はそれを許さない。銃弾は敵の頭部の硬い装甲を撃ち抜き、破壊して行く。

 

 

ヒュンッ!!

 

 

しかし、宮川の隙を突いて襲い掛かる一機の機械人形がいた。宮川は一撃食らう覚悟をするが、

 

 

ドスッ!!

 

 

機械人形の腹部から刀が突き出た。動きは止まり、持っていた武器が落ちる。

 

 

「はい、借り一つな」

 

 

刀は大樹のモノだった。水の槍を全て撃ち落した直後、刀を投げて宮川を助けたのだ。

 

宮川は機械人形の頭部をゼロ距離から撃ち抜き、背中から刺さった刀を抜き取る。

 

 

ザンッ!!

 

 

そのまま大樹の刀を借りて襲い掛かる機械人形を宮川は薙ぎ倒す。

 

 

「自分の武器を投げるとは愚かな選択だ!」

 

 

ガルペスの指示に従い、機械人形は大樹へと狙いを変える。大樹は【神影姫】の銃撃で応戦するも、敵の数が多過ぎて対処しきれていない。

 

一機の機械人形の剣が、大樹の首を取ろうとしていた。

 

 

「誰が―――」

 

 

ザンッ!!

 

 

その瞬間、襲い掛かって来ていた機械人形の体が横に一刀両断された。

 

 

「———1本しかないと言った?」

 

 

大樹の両手には、二本の刀が握られていた。

 

 

 

 

 

―――それは二本とも、【神刀姫】だった。

 

 

 

 

 

「馬鹿な!? 武器が一本じゃないだと!?」

 

 

想定外な出来事にガルペスは焦る。大樹は二本の刀を宙に投げて叫ぶ。

 

 

「【神刀姫】!!」

 

 

カッ!!

 

 

大樹の言葉に答えるかのように、刀身から黄金の光が溢れ出した。

 

 

 

 

 

―――そして、刀の数は万を超えた。

 

 

 

 

 

「なッ!?」

 

 

「ッ!?」

 

 

『何だと!?』

 

 

その場にいた全員が驚愕した。大樹が刀を投げた瞬間、その数は五千倍以上も膨れ上がったのだから。

 

宙に展開した全ての刀は機械人形たちに刃を向けている。

 

 

「行けッ!!!」

 

 

シュンッ!!

 

 

大樹が腕を振るった瞬間、全ての刀が音速で放たれる。

 

ガトリングガンの銃弾が音速の刀に変わったような攻撃。それは機械人形たちにとって回避不可な攻撃。一つでも当たれば致命的なモノとなってしまう。

 

ガルペスは機械人形を盾にし続け、自分の身を守る。徐々に機械人形が減らされることにガルペスは舌打ちする。

 

 

「フハハハッ!! どうだッ! 俺の刀は無限に増え続けるぜ!?」

 

 

無限に虚空から生み出され続ける刀。その勢いは止まることを知らない。

 

 

「終わるわけには……!」

 

 

ガルペスの目がカッと見開く。両手を前に突き出し、叫ぶ。

 

 

「【制限解放(アンリミテッド)】!!」

 

 

「「『ッ!』」」

 

 

不敵な笑みを見せるガルペスの両手に黒い渦が発生し、黒い本が生まれた。

 

 

「【文化英雄の錬金術(ヘルメス・アルケミー)】!!」

 

 

禍々しい黒い闇を放出する本。背筋がゾッとするほどの狂気が漂っていた。

 

まるで空気が汚染されたかのような……腐敗している……?

 

 

「貴様らは……生きて返さんッ!!」

 

 

怒りが籠った声でガルペスは分厚い本のページが勢い良くめくる。

 

本の中から稲妻が、炎が、吹雪が、水が溢れ出していた。

 

異様な光景に戦慄するが、立ち止まるわけにはいかない!

 

 

「ガルペスッ!! テメェだけには負けねぇ!!」

 

 

一本の【神刀姫】を出現させて両手で握り絞める。そのまま音速で跳躍して、ガルペスに斬りかかる。

 

 

「死に狂えッ!! 楢原 大樹ッ!!」

 

 

 

 

 

―――刹那、二人の間に一人の人間が出現した。

 

 

 

 

 

「「ッ!?」」

 

 

黒いローブを全身に纏った者に大樹とガルペスは同時に驚愕。フードを深く被っているせいで顔は見れない。

 

そして、驚いたその隙を、入って来た者は見逃さない。

 

 

トンッ

 

 

何者か分からないソイツは俺の腕と、ガルペスの腕を掴んだ。

 

 

カッ!!

 

 

―――目を潰すかのような強い光に、俺の意識は闇の中へと落ちた。

 

 

________________________

 

 

 

 

突然の乱入者に、宮川とジャコは息を飲んだ。眩い光で目を隠した。

 

 

「……ッ!?」

 

 

次に目を開けた時、宮川は驚愕した。

 

先程まで戦っていた大樹とガルペスがどこにいないのだ。

 

残っているのは宙に浮いた乱入者、ただ一人だけ。

 

 

『何者だッ!?』

 

 

ジャコが声を荒げながら乱入者に問いかける。しかし、返事は返ってこない。

 

ローブの中から顔を見ようとするが、白い仮面を付けているせいで誰なのか分からない。

 

 

「今のは何だ!?」

 

 

リュナと戦闘していた原田がこちらに戻って来た。宮川は無言で乱入者を見ているため、ジャコが代わりに説明した。

 

事情を知った原田は、当然驚いた。

 

 

「大樹が消えた……!? それにガルペスもだとッ!? クソッ、リュナが逃げたことも関係しているのか……?」

 

 

『原因は不明だが、事情を知っている奴はいる』

 

 

ジャコの視線の先、乱入者してきた者がいた。

 

得体の知れない敵に原田たちの緊張感はより一層に増していた。

 

 

「同時に攻撃するぞ……!」

 

 

短剣を構えた原田が合図を出そうとする。宮川とジャコも構えた。

 

 

―――その瞬間、乱入者の姿が消えた。

 

 

「はッ……?」

 

 

原田の喉に何かが当てられた。

 

 

―――それが敵のナイフだということに気付くのに、数秒掛かった。

 

 

「「『ッ!?』」」

 

 

全員の体が止まる。敵の瞬間移動に驚いたわけじゃない。敵の殺気の強さで、恐怖で動けないのだ。

 

ガチガチと歯を鳴らす原田は、まともに喋れそうになかった。

 

 

「……コイツは、最悪じゃないのか?」

 

 

宮川は余裕そうな表情で言っているが、額から汗を流していた。

 

強いというレベルの問題じゃない。勝てるわけがない……! この殺気は———!?

 

 

(———マジで怖い……もう体が動かねぇ……!)

 

 

恐怖で思考もまともに働かなくなってしまっている。それだけ敵の殺気は危ないモノだった。

 

 

フッ

 

 

乱入者はまた瞬間移動したかのように姿を消す。急いで辺りを見回すが、どこに見当たらなかった。

 

 

「逃げたようだな……」

 

 

宮川の声を聞いて、原田は両膝を地面に着く。心臓を握り潰すかのような恐怖から解放された瞬間、動かなくなっていた手足が動くようになっていた。

 

 

「何だよ……今のはッ……!」

 

 

手の震えだけが、未だに止まらなかった。

 

 

________________________

 

 

 

原田とジャコは再びホテルへと帰った。時間は掛かったが、どうにか落ち着くことができた。

 

一番に回復した宮川は辺りの捜索を始め、先に離脱した。ジャコは大樹がいなくなったせいか、脱力して眠ってしまった。息はしているので命に別状はないはずだ。

 

ジャコを抱きかかえながら女の子たちの部屋に向かい、状況を説明しようとした。

 

しかし、女の子たちの部屋にはノックをして許可を貰い入ると、

 

 

「あら、噂をしていたら来たわね?」

 

 

椅子に座ったツインテールの少女が原田の顔を見てそう言った。

 

 

「は? 噂って何―――」

 

 

そして、原田の言葉はそこで止まった。アリアと思って話そうとしたが、違う。

 

 

―――そして、アリアが二人いることに気付いた。

 

 

「……姉妹か?」

 

 

「違うわよ。あたしはこんなにちんちくりんじゃないわ」

 

 

「何を言っているのかしら? 中学生と高校生なのよ? あなた、将来性がないじゃない? 私はあるけど」

 

 

「「あ?」」

 

 

二人は全く別人で、すっげぇ仲が悪いことが分かった。

 

確かにちゃんと見れば偽物かどうか……いや失礼か。とりあえずその女の子は髪を留めたリボンが黒い。

 

 

「と、とりあえず伝えたいことがある」

 

 

原田はジャコをティナに預けて椅子に座る。そんなにキラキラした目でジャコをモフりたい顔をしていれば、預けたくなる。

 

 

「もしかして、楢原 大樹が姿を消したことかしら?」

 

 

「なッ!? 何でそれを!?」

 

 

「原田さん。黒ウサギたちは、全て見ました」

 

 

黒ウサギの言葉に原田は息を飲む。自分が居ない間に何が起きたのか。

 

アリアじゃない女の子は口に咥えたチュッパチャパスだっけ? 飴を咥えながら説明を始めた。

 

 

「自己紹介がまだだったわね。私は五河(いつか) 琴里(ことり)

 

 

ここで苗字が神崎だったら面白かったなっと少しだけ思ってしまった。

 

 

「私は知っているのよ。体操のお兄———じゃなくて楢原 大樹のことをね」

 

 

「今体操のお兄さんって言おうとしてなかったか? アイツ、いつからひろみ〇お兄さんになったんだ」

 

 

「そんなことより、これを見てちょうだい」

 

 

「強引に逸らされたぞ……ってこれは!」

 

 

琴里が取り出したタブレットには映像が映っていた。

 

しかも映っているのは大樹たちの戦闘だ。これで黒ウサギたちが何故知っているのかが分かった。

 

 

「大樹君が消えたのは第三者の仕業よね。敵も消えたことにはビックリしているわ」

 

 

「……何者なんだ」

 

 

琴里が真由美たちに映像を見せた。それは理解できたが、琴里の正体は何なのかが知りたくなった。

 

 

「精霊は知っているわよね?」

 

 

「……まさかお前ら、【AST】か?」

 

 

ハッキングによって手に入れた情報を照らし合わせると、そのような答えに辿り着いた。

 

精霊は一般人の人には知られていない極秘な存在。それを知っている少女は【AST】の可能性があった。

 

 

「違うわ。私たちは【ラタトスク】。戦力をぶつけて殲滅(せんめつ)するアイツらとは違う組織よ」

 

 

「違う……何が?」

 

 

「方法よ」

 

 

「……もしかして、『私たちは精霊と仲良くしたい』とか言うんじゃねぇだろうな?」

 

 

「へぇ、勘が鋭いじゃない。近いわよ」

 

 

肯定した琴里の返事に原田は黙る。ふざけて言ってみたが、近いと言われるとは思わなかった。

 

 

「私たち【ラタトスク】は精霊と対話によって精霊を()()()空間震を解決するために結成された組織よ」

 

 

「……確かに【AST】の方針とは全く違うな」

 

 

しかし、それだけでは彼女の目的が分からない。

 

 

「それで、お前は何をしにここに来た?」

 

 

「そうね……恩を返しに来たのかしらね?」

 

 

自分でもよく分かっていないような発言。琴里はニヤリッと笑い、両手を広げた。

 

 

「私たちは、彼がどこに飛ばされたのか知っているわ」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

衝撃が走った。思いがけない一言に言葉を失う。

 

琴里はそんなことを気にせず続ける。

 

 

「そして彼は()()()()()()()()……少しだけなら知っているわ」

 

 

「は? どういう意味だ?」

 

 

まるで事が終わったかのような言い方に原田は混乱する。

 

 

「鳶一 折紙のことは知っているわよね? あなたたちと接触したはずよ」

 

 

女の子たちの目が鋭くなったような気がする。

 

 

「何故知っている」

 

 

「見ていたからよ。カメラを通してね」

 

 

「チッ、悪趣味だな」

 

 

「そんなことはどうでもいいの。大事なのは、彼女と会っておかしいことはなかったかしら?」

 

 

その質問は、全員が同じ答えを言えた。

 

 

「「「「「(頭が)おかしい人だった」」」」」

 

 

「あなたたち、失礼なことを考えてないかしら?」

 

 

「「「「「全然。微塵も」」」」」

 

 

声が揃っている時点で怪しさ満点である。原田は思い出しながら溜め息をつく。

 

 

「はぁ……いきなり大樹のことをお父さんって呼んでいたし、訳が分からなくておかしいと思ったよ」

 

 

「そう……ならもし―――」

 

 

琴里は告げる。

 

 

「———()()()()()()()()()()()としたら?」

 

 

その不可解な答えに、原田の動きは止まった。

 

折紙は大樹のことを知っていた。しかし、俺たちは知らない。知るわけがない。

 

 

 

 

 

だけど―――これから知るきっかけを作るとしたら?

 

 

 

 

 

無くしていたパズルのピースが一気に集まる。そして、次々とピースがハマり、完成に近づいて行く。

 

楢原 大樹が飛ばされた場所。それは———!?

 

 

「じょ、冗談ッ……だろ……!?」

 

 

「私たちは、情報を持っている。彼が()()記録がね。それに、私は()()()()

 

 

過去形で話される琴里の言葉は、答えを言っているようなモノだった。

 

 

「楢原大樹は———」

 

 

琴里は答えを告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———五年前に、飛ばされているはずよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――この世界の過去、大樹は飛ばされていた。

 

 

 

 

________________________

 

 

 

「うッ……痛ぇ……」

 

 

頭がズキズキするような痛みに俺は目が覚めた。

 

寝ていた場所は熱いアスファルトの上。何故こんな場所で寝ているのか、理解できない。

 

セミのうるさい鳴き声が耳に入る。それに気温が暑い。

 

自分が異常に着こんでいることに気付く。どうりで汗が止まらないわけだ。

 

 

「ぐぅ……」

 

 

「ッ!? 大丈夫かお前!」

 

 

俺は隣で倒れていた男に駆け寄る。頭を抑えているが、意識はあるようだ。

 

白衣を着ており、医者のように見える男。

 

 

「こ、ここは……どこだッ……!」

 

 

「ここか!? ここはだな……………あれ?」

 

 

その時、不思議なことに気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というか、俺の名前って……何だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――記憶を失っていることに。

 

 

この日、楢原 大樹と敵であるガルペス。二人は大事なモノを無くしてしまった。

 

 

 

________________________

 

 

 

公園のベンチには二人の男が座っていた。

 

 

「多分……俺の名前は『楢原 大樹』だと、思う……微かに思い出せたかも」

 

 

「俺は……『上野(うえの) 航平(こうへい)』だ。確信はないが」

 

 

―――二人は記憶喪失である。

 

言うまでもないが上野 航平の正体はガルペスである。

 

公園のブランコやジャングルジムで遊ぶ子どもを見ながら俺たちは震えていた。

 

 

「ど、どうしよう……何も、思い出せない」

 

 

「俺もだ……何か重大なことがあったはずなのに……」

 

 

名前以外、思い出せないのだ。むしろ名前を思い出せたことが奇跡だった。

 

 

「そ、そうだ! さっきこんなモノがポケットに入っていたんだ!」

 

 

大樹は通信端末を取り出す。航平は不思議そうにそれを見て尋ねた。

 

 

「何だそれは?」

 

 

「このボタンを押すとな……」

 

 

大樹がボタンを押すと、目の前にディスプレイが展開した。航平は驚きながらそれを見る。

 

 

「凄い……何だこのハイテクな機械は!?」

 

 

「これを使えばどんな情報でも手に入ると思わないか!?」

 

 

「ッ! なら俺たちが何者であるかの情報が得られる可能性が!?」

 

 

「ああ! でも―――」

 

 

そして、大樹の目が死んだ。

 

 

「パスワードを要求されるんだ」

 

 

「……覚えていないのか?」

 

 

「うん」

 

 

「……そうか」

 

 

大樹はボタンを再度押して電源を切り、ポケットに入れた。

 

 

「あとは変なカードしか持っていなかった。クレジットカードでもないし、使えないと思う」

 

 

変なカードとはギフトカードのことである。

 

 

「俺は何も持っていない。手掛かりなしだ」

 

 

はぁ……っと二人は溜め息をつく。しかし、大樹はあることに気付く。

 

 

「いや待て。その恰好は医者だろ? なら病院に行けば何か分かるんじゃないのか!?」

 

 

「なるほど! さっそく病院に―――!」

 

 

ネチャッ

 

 

航平が立ち上がると同時に変な音が聞こえた。

 

音がしたのは白衣の裏側。そこを見ると赤いシミが見えた。

 

 

そう、血にしか見えない。

 

 

 

「「—————ぁ」」

 

 

同時に二人は言葉を失い、動きが止まった。

 

航平はゆっくりと腕を動かし白衣の裏側を隠す。その行動に大樹は急いで立ち上がり、

 

 

「逃げるなぁ!!」

 

 

「いやあああああァァァ!!」

 

 

逃げる大樹を航平は捕まえた。

 

 

「来ないで殺人鬼ぃ!!」

 

 

「待て!? これはあれだ!患者の血だ!

 

 

「それ絶対ヤバイって!? 患者さんを亡き者にしているって!」

 

 

「間違えた! これは自分の血だ! この荒々しい傷を見ろ!」

 

 

航平は服をめくり大樹に見せる。

 

 

「何もねぇよ! 男のクセに綺麗な肌だよ! 傷一つねぇよ!」

 

 

「貴様の目は節穴かッ!!」

 

 

「テメェのことだよ! 子どもたちが怪奇な目で俺たちを見ているから! 放せぇ!!」

 

 

状況がヤバイと思った航平は大樹の服を片手で掴みながら、反対の手で石を拾う。その石の角は鋭利だ。

 

 

「だったら……俺の血で証明する……!」

 

 

「目が血走っているぞ!? 何する気だお前!?」

 

 

航平は自分の腹部に向かって石を叩きつけた。

 

 

「こうだッ!!!」

 

 

ブシャッ!!

 

 

「「「「「ぎゃあああああァァァ!?」」」」」

 

 

直後、航平の腹部から血が噴き出した。俺と子どもたちの顔は恐怖に染まり、絶叫した。

 

 

「何をやってんだお前!? 血が洒落にならないくらい出てんだけど!?」

 

 

「これで俺の血だ……!」

 

 

「お前の頭大丈夫か!? 子どもたちが全員泣きながら逃げたぞオイ!?」

 

 

それでも大樹は逃げ出そうとする。しかし、航平の手は絶対に離れなかった。

 

 

ブクブクッ

 

 

「ひッ!?」

 

 

「え……?」

 

 

その時、航平の腹部からブクブクと泡が出ているのが分かった。大樹の顔は真っ青になり、航平も何が起こっているのか分からない。

 

 

「そ、そう言えば……全く痛みを感じない……!」

 

 

「じ、人造人間サ〇コ・ショッカーだあああああァァァ!!」

 

 

「何故遊〇王!? 待てェ! 違うッ! これは……!」

 

 

バンッ!!

 

 

航平の腹部から噴き出していた泡が弾け飛んだ。そして腹部の傷どころか血まで消えていることに二人は気付いてしまった。

 

 

「……これは……そう……魔法だ! 『ホ〇ミ』だ!!」

 

 

「ドラ〇エの呪文使えんの!? 嘘つくなよ!? 泡が出ていたぞ!?」

 

 

「それは『ベホ〇ミ』だ!」

 

 

「上位版にして逃げてんじゃねぇよ!?」

 

 

「うるさい! 『〇キ』! 『ザ〇』!」

 

 

「おいやめろ!?」

 

 

二人は取っ組み合いになるが、大樹は逃げ出すことに成功した。

 

 

「教会に言って懺悔(ざんげ)して来い! そして冒険の書でも消されて来い!!」

 

 

「『ザ〇キ』!!」

 

 

「やめろって言ってんだろうがぁ!!」

 

 

大樹はまた走り出して逃げる。航平も追いかけるが、大樹の足はとても速かった。

 

公園を出て道路に出たが、

 

 

ププッ————————!!

 

 

「え?」

 

 

道路を走っていた大型トラックがクラクションを鳴らしていた。左右の確認をしていなかったせいだ。

 

 

「あ、危ないッ!?」

 

 

急に飛び出したせいで大型トラックは対処できていない。トラックは大樹に向かって―――

 

 

ドンッ!!!

 

 

―――突っ込んだ。

 

 

大樹の体は宙を舞い、後方へと飛ばされる。

 

遠くに飛ばされていることからトラックのスピードはかなり出ていることが物語っている。

 

 

「う、嘘だろ……!?」

 

 

「だ、大丈夫か兄ちゃんッ!?」

 

 

航平が両膝を着く。トラックの運転手が急いで駆け付けるが、助かるわけがない。

 

地面に何度もバウンドした体は、きっと無残なことになっているはずだ。

 

 

「あれ? 全然痛くない」

 

 

なっている……はずなんだが……!?

 

―――無残なことに、なっていなかった。

 

 

「「ヒィ!?」」

 

 

二人は同時に声を上げた。大樹は平気な顔でヒョコッと起き上がり、無傷だった。

 

 

「ば、化け物!?」

 

 

「うぉい!? 今度は俺が人外の番か!? ただ受け身が良かっただけだ!」

 

 

「できなかっただろ!? 思いっ切り不意打ち食らっていたぞ!?」

 

 

「な、なら俺は超人的肉体を持った強化人間なのさ!」

 

 

「『なら』って何だ!? 魔法より酷いぞ!?」

 

 

「いや魔法で言い訳する方が酷いだろ!?」

 

 

「ま、待つんだ兄ちゃんたち! とにかく救急車を呼ぶ! 何かあったら大変だ!」

 

 

トラックの運転手が急いでポケットから携帯電話を取り出して連絡しようとしている。

 

大樹は別に大丈夫だけどなっと言っていたが、航平が気付く。

 

 

「……身分証明書もない俺たちが病院でバレたら、警察のお世話になるのでは?」

 

 

「は……? いやいや、こっちは記憶喪失だぜ? 逆に助けて貰えるだろ?」

 

 

「……俺のこと、忘れたのか?」

 

 

大樹は思い出す。航平が殺人を犯している可能性を。

 

 

「お前もただじゃ済まないはずだ。一緒に記憶を無くしている共犯者かもしれないのだからな」

 

 

「……………」

 

 

大樹と航平は立ち上がり、トラックの運転手の肩に手を置いた。

 

 

「なぁ、救急車呼ぶ前に、警察を呼ばないか?」

 

 

「え?」

 

 

航平の発言に運転手の目が点になる。

 

 

「そうだな。テメェから慰謝料をがっぽり貰わないとな」

 

 

「なッ!?」

 

 

運転手は思った。この二人、とんでもないことを考えていると。

 

 

「「それが嫌なら出すもん出して、どっか行きな」」

 

 

―――こうして運転手から2万円を奪い取った。

 

 

 

________________________

 

 

 

 

「すっげぇ罪悪感が半端ない……」

 

 

「生きるためだ。忘れるんだ」

 

 

コンビニの弁当を食べながら河川敷のベンチに座る二人の男。沈む太陽を見ながらこれからのことを考えていた。

 

所持金は1万と9千円だけ。家も無ければ家族すらいない。いたとしても思い出せない。

 

 

「俺さ……ぼんやりと大切な女の人を思い出しそうなんだ……」

 

 

「……まさか既婚者か?」

 

 

「分からない。でもな……大切な女の人……何人もの顔をぼんやりとッ……!」

 

 

「もういい! お前が浮気者でも、殺人の俺よりマシだ!」

 

 

「ちくしょう! 俺も最低だった!」

 

 

二人は同時に(なげ)く。最低な浮気者と最低な殺人鬼―――だと二人は思っている。

 

 

「俺たち……やり直せるかな……?」

 

 

落ち込んでいた大樹に航平が声をかける。

 

 

「……これを見ろ」

 

 

航平が取り出したのはバイト募集の張り紙。しかも先程行ったコンビニだった。

 

 

「お前ッ……いつの間に……」

 

 

「働こう。そして償うために、生き延びるんだ」

 

 

「ッ……そうだ。そうだよな」

 

 

大樹は立ち上がる。それを見た航平も立ち上がった。

 

 

「思い出さなきゃ……思い出して謝らなきゃ……!」

 

 

「俺は思い出して……罪滅ぼしをしないといけない……!」

 

 

ガシッ

 

 

二人は握手を交わす。

 

 

「生きよう、上野!」

 

 

「ああ、生きよう! 楢原!」

 

 

7月7日―――二人のホームレス生活が始まった。

 

 

もし、どちらかが先に記憶を戻った瞬間、勝負は着くこと……二人は知らない。

 

 

事を知っている誰かがこれを見れば、失神間違いなしだろう。特に原田。

 

 

しかし、二人の目は希望に満ち溢れていたことは確かである。

 

 

 




そして、キャラ崩壊も待ったなしである。

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