どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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昨日人生初、警察から職質されました。

アレ、めっちゃ怖いですね。すぐに誤解が解けて良かったです。万引きなんてしませんよ。


……万引き犯に間違われたことが一番のショックである。


ありえない過去

「いただきます」

 

 

俺は手を合わせた後、お箸でサンマの塩焼きを白米と一緒に食べる。

 

 

「うん、美味いな。たくさん練習しただろ?」

 

 

俺は()()()()()()()して隣に座った折紙に尋ねる。

 

折紙は小さく首肯した。

 

 

「偉いな。これなら将来は良いお嫁さんになれるぞ」

 

 

「私は誰とも結婚するつもりはない」

 

 

「何ッ!?」

 

 

折紙の一言に俺はショックを受けるが、折紙はピタッと肩同士をくっつける。

 

 

「お父さんがいればいい」

 

 

「……ハハッ、お父さんは嬉しいけど、ちゃんと見つけるんだぞ」

 

 

折紙は黙って答えなかったが、大丈夫だと思っておこう。

 

しばらく沈黙が続いていたが、嫌な空気ではなかった。

 

パパというモノはまだよく分からないが、折紙が幸せならそれでいいか。

 

俺は、この子を幸せにしてみせる。

 

折紙のためなら、何でもできる。また明日から仕事を頑張れそうだ。

 

 

―――だって俺は、折紙のお父さんだから!

 

 

 

 

 

~ Fin ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って違うわあああああああァァァァ!!」

 

 

大声を出しながら立ち上がって否定した。危ねぇよ!! もうすぐこの物語が訳の分からない状態で終わるところだった!?

 

 

「ツッコミどころが多過ぎる! 何でメイド服なの!? 何で俺はお前の家で飯を食べているの!? 何で麦茶が紅いの!? ドーユーコートー!?」

 

 

頭はボーッとして熱いし、体が燃えるように火照るし、サンマ美味いし、麦茶は痛い!? 何を入れたらこうなるの!?

 

意味が分からねぇ! 意味というかもう何か分からねぇ! 何が分からないのか分からねぇ!! 分からないぐああああああァァァ!?

 

 

「冷たい水はある」

 

 

「ああ……サンキュー」

 

 

ゴクッ (一気に飲み干す)

 

 

ブフッ!!!! (一気に噴き出す)

 

 

「喉が冷たああああ痛いいいいいィィ!?」

 

 

あまりの衝撃の強さに、俺はその場に倒れてしまう。何で水が紅いんだよぉ!?

 

心臓がバクバクと激しく暴れている。し、死ぬのかな……?

 

 

「……………」

 

 

「……ぁ?」

 

 

気が付けば折紙は俺の腹に(またが)り、覆い被さって来た。

 

もう無理です。ツッコミが追いつかない。どうすればいいのですか……?

 

 

「……何してんだよ」

 

 

「だめ?」

 

 

まじかコイツ。

 

 

「この作品、R-15だから駄目」

 

 

「描写しなければ問題ない」

 

 

あるわボケ。あり過ぎてヤバいわ。

 

というかマジでどいてくれ。俺の理性がヤバイから。女の子の良い匂いとかでヤバいから。俺がオオカミになる前にどけぇ!!

 

 

「そこをどけ。じゃないと食うぞ」

 

 

俺の脅しに折紙はシュルッと胸元のリボンを外して―――ん!?

 

 

「落ち着けぇ!? 俺が間違えたッ!! だから落ち着けぇ!!」

 

 

折紙の腕を掴んで止める。危ない。もう少しで下着が見えるところだった。見たら殺される。主にアリアたちに。

 

 

「……脱がすの?」

 

 

「お前の頭マジで大丈夫かおいッ!?」

 

 

高速で折紙の胸元のリボンを結ぶ。今まで会って来た女の子たちの中で断トツで翻弄(ほんろう)されている。

 

とにかく折紙をどかさないと……!

 

 

「下から?」

 

 

「もうやめてくれえええええェェェ!! もうツッコミ切れねぇえええええェェェ!! お願いだあああああァァァ!!」

 

 

スカートに手を伸ばす折紙に涙を流しながら降伏した。

 

結果は俺の惨敗である。

 

 

 

________________________

 

 

 

俺の本気の声を聞いたおかげか、折紙は話をしてくれることになった。まぁ隣に座って距離がクソ近いことは見逃そう。一回一回ツッコミを入れていたら死ぬ。物理的にも精神的にも死ぬ。死因、ツッコミとか嫌だわ。……死因が鉄アレイの俺が言えたことじゃないけど。

 

極秘の情報で教えることは制限しような素振りを見せたので、「俺はパパだろ?」っと言うとスラスラ~ッと話してくれた。お父さん、お前が心配で心が張り裂けそう。

 

 

「つまり空間震とは元々自然に発生する災害の一種ではなく、精霊が出現する時の余波のようなモノと考えていいか?」

 

 

折紙はコクリッと頷く。よし、合っているようだな。

 

 

「それをロボットみたいな機械を使って対処するあの女の人たち―――正義のヒーローたちってところだろ?」

 

 

「兵器の名称は『CR-ユニット』。精霊を倒すのは【AST】の仕事」

 

 

折紙から聞いた『CR-ユニット』と【AST】の話をまとめるとこうだ。

 

対精霊部隊(アンチ・スピリット・チーム)———通称【AST】は精霊を武力で殲滅(せんめつ)する特殊部隊のことで、強力な力を持つ精霊に対抗するために戦術顕現装置搭載ユニット(コンバット・リアライザユニット)———『CR-ユニット』を装備して戦うそうだ。

 

 

なるほど、分からん。

 

 

いや、理解はしている。むしろ推測でこれは折紙が悪いわけじゃない。30分掛かった長い説明を10秒で説明した俺が悪い。そもそも科学技術で『魔法』を再現するスシテムとか言うんだぜ? 信じられないだろ? え? CAD? ウッ、頭がッ。

 

 

「お前らのことは街の連中は知らないんだろ?」

 

 

折紙は頷いて肯定。精霊は一般人には知られていない秘密……ならばお偉い上の人間たちが知っていることになる。

 

 

(つまり偉そうにしているオッサン共を脅す日は近いようだな)

 

 

もし悪さしていたら変えてやるよ。東京エリアのように、俺に絶対服従させる日が来るぞ日本よ。

 

っと半分冗談なことは置いといて、

 

 

「そんなことより一番聞きたいことはお前たちが呼んでいた【ライトニング】のことだ。情報を教えろ」

 

 

一番知りたかったのはこれだ。美琴の情報だけは些細なことでも、何としても手に入れたい。

 

 

「何故?」

 

 

「俺の………大切な人だからだ」

 

 

あと少しで『俺の嫁』と言いそうになった。これ以上話をこじらせない。アリアに言われたことはちゃんと学習しています。

 

 

「大切な人……」

 

 

「ああ」

 

 

「そう……」

 

 

折紙は目を閉じて数秒の間を作る。そして再び目を開いて俺の顔を見た。

 

 

「私は、違うの?」

 

 

「ッ」

 

 

言葉に詰まった。

 

俺からすれば明らかな他人だ。でも、折紙の言動を見るとそうは思えなくなってしまう。

 

誕生日や好きなモノを知っている。これがどうやっても説明がつかない。言動は演技できるが、情報はごまかせない。

 

折紙の返事は、ただ思ったことを告げることにした。

 

 

「……俺は本当に鳶一 折紙という人は知らない。大切な人と気軽に言えるような関係でもない」

 

 

「……………」

 

 

「だけど、お前の押しの強さには負けたよ。とりあえず、認めてねぇけどパパ(仮)でいいよもう。それなら大切な娘の出来上がりだ」

 

 

「ッ!」

 

 

我ながら自分が甘いと思うが、これが俺の思ったことだ。アレだけ俺のことを知っている人をお前は他人とか簡単に言えねぇよ。

 

言わばこれは妥協。パパ(仮)ならオーケーということだ。本当は全然良くないけど、ドンッと突き放す最低な選択よりマシなはずだ。

 

 

「これで文句はないよな?」

 

 

恐る恐る折紙の表情を見ながら聞く。

 

その時、ほんのわずかだが折紙の口元が緩んだ。

 

 

(何だよ……笑うことできるじゃん……ほんの少しだが……ほんの少し……うん)

 

 

普通に見ていたら見抜けないぞこれ。だが喜んでくれたことには俺も嬉しいな。よし、これでもう大丈夫だな。

 

 

「でも、私としては思い出して欲しい」

 

 

「……まぁそうかもしれないが……」

 

 

ふぇ……無理だよぉ……! どうやっても思い出せないよぉ……!

 

どうしようか悩んでいると、折紙は机にあったメモ用紙に何かを書き、俺に渡して来た。

 

メモを受け取りそれを読む。そこには『西天宮(てんぐう)公園のオブジェ前』と住所が書かれている。

 

 

「……これは?」

 

 

「明日、お父さんと過ごした街や場所を一緒に歩きたい」

 

 

「……ほう」

 

 

「つまり、デートして欲しい」

 

 

うん、その接続詞から続く言葉はいらないかな。というか俺、可愛い嫁たちにどう説明すりゃいいんだよ。何回死ねばいいんだよ。

 

 

「お父さん(仮)だからデートとは―――」

 

 

「デート」

 

 

「いや、そんなことは———」

 

 

「デート」

 

 

「親孝行とか―――!」

 

 

「デート」

 

 

「———分かったよッ!! デートだな!! いいよデートでッ!! もうデート行くぞゴラァ!!」

 

 

俺は意味の分からないキレ方をする。もうどうにでもなれ。

 

 

「デートしてやるから【ライトニング】の情報を―――」

 

 

「デートの時に話す。これが条件」

 

 

ちっくしょうッ!

 

 

________________________

 

 

 

俺は今……どうなっていると思う?

 

嫁に説教されている? 嫁に折檻されている? どちらも違う。

 

この土地の地図や雑誌、必要な買い物を済ませた後、すぐに帰っていた。空は黒に染まり、嫁たちがいるホテルに行こうとした途中、さらに暗い路地に入ったのだが、そこに異常と言える出来事が起きた。

 

 

「……………」

 

 

気が付けば誰かの視線を感じた。一つじゃない。多くの視線がある。

 

足を止めて振り返る。誰もいないように見えるが、それは違う。

 

 

「かくれんぼするのは好きな方だが、今度にしてくれないか」

 

 

「あら、あら」

 

 

女性の声が、背後から、上から、前からも聞こえた。

 

路地の大きな暗い影が(うごめ)く。壁や床から声が聞こえるが、俺の目の前に一人の女性が現れた。

 

赤と黒のヒラヒラしたドレスを着ており、右目と左目の色が違う女の子だった。左右に結った髪の長さは違うが、これまた美少女だということは間違いない。

 

彼女の左手には古式の短銃を握っており、異常なことに関わられていることを示している。

 

 

「お久しぶりですわね。一体今までどこを歩いていたのですか?」

 

 

女の子は頬を緩めながら俺の顔を見る。だが、そんなことはどうでもいい。

 

 

「……おい。今、『お久しぶりですわね』っと言ったか?」

 

 

「……そうですわよ?」

 

 

またか!? 何でこの世界は俺のことを知っている奴が多いの!?

 

 

「何度でも言ってやる。俺はお前らを知らない。誰かと勘違いしているはずだ」

 

 

俺の突き放した言葉に女の子はキョトンとした表情になり、

 

 

「———ああ、そういうことですのね」

 

 

楽しそうに笑った。

 

まるで全てを理解したかのように、謎のヒモが(ほど)けたかのように、嬉しそうにしていた。

 

 

()()ですのね。あらあら、不幸なお方ですこと」

 

 

……この違和感は何だ。

 

この世界で、何が起こっている。俺が居ない間、何があったんだ?

 

在ってはならない俺の歯車が存在し、今は欠けてしまっている。

 

俺の歯車だけが狂っている世界。そんな世界に吐き気がしてしまう。

 

 

「……その銃で俺を撃つのか?」

 

 

「そんなことありませんわ。()()()()()()とはいえ、命の恩人に無礼なことはしませんわ」

 

 

パパの次は命の恩人か。いやー、照れるなー。

 

 

「あっそ。じゃあ俺はこれで帰る―――ってわけにはいかないか」

 

 

道を引き返そうとするが、女の子がステップしながら俺の前に出て来た。もし銃を持っていないことと暗い路地じゃなかったら嬉しいシチュエーションだが、経験上、そんな展開になるわけがない。

 

 

「ふふ、そうつれないことをおっしゃらないでくださいまし」

 

 

「あー、実は明日デートだから早く帰って寝ないといけないから……見逃して?」

 

 

「ええ、大丈夫ですわ」

 

 

蠢いていた影の中から白い手が一斉に現れる。

 

ズズズっと白い手が徐々に出て来て姿を現した。

 

 

「……どんな手品だよこれ」

 

 

()()()()()()()()()たちが俺を囲んだ。

 

全員が同じ顔。双子や三つ子とかそういう話ではない。全く同じ、分身したかのようだった。

 

 

「驚きまして?」

「あらあらあら」

「いかがでして?」

 

 

全員がそれぞれ別のことを話している。彼女たちには自身の意志があるように見えた。

 

多分俺の顔は引き()っているだろう。ちょっとこれは笑えない。

 

 

「夜の散歩に、出掛けませんこと?」

 

 

そう言って女の子は一斉に銃口を俺に向けた。

 

 

________________________

 

 

 

ホテルは二つの部屋を取った。大樹と原田で一室。女の子たちで大きな一室を使っている。

 

原田は大樹より凄くはないが、ある程度のハッキングはできるので現在部屋に籠って情報機関と戦っている。

 

時刻は20時になり、優子とティナはお風呂に入っていた。ちなみに優子はティナと一緒に入りたいがために(ry

 

アリアと黒ウサギ。そして真由美の三人は大樹の帰りを椅子に座って待っていた。

 

 

『次のニュースです。五年前、世界中で話題となっていた全自動(オールオート)システムの人工衛生、【蒼穹の翼(スカイブルーウィング)】との―――』

 

 

次々と流れるニュースを見ながら暇を潰しているが、

 

 

「……さすがに遅すぎるわ」

 

 

短い針が『Ⅷ』を指している時計を見ながらアリアは呟いた。

 

 

「そうね。もうすぐ帰るってメールは来ているのに、あれから連絡がないわ」

 

 

真由美は携帯端末を見ながら心配そうにしている。黒ウサギも暗くなった窓を見て不安な表情になる。

 

 

「何か……巻き込まれたのでしょうか」

 

 

「……悪いけど黒ウサギ。あたしはどうしても思ってしまうわ」

 

 

アリアは言いにくそうしていたが、言葉を出す。

 

 

「また女の子に、絡まれていそうだわ……」

 

 

「「あー」」

 

 

黒ウサギと真由美はつい同感してしまった。

 

そして、彼女たちの予想は当たっている。現在進行形で。

 

 

「それより今後のことを話しましょ。美琴は見つかったのだから、後はどうするかよ」

 

 

「でも具体的にどうすればいいのよ? 今まで大樹君がして来たことと言えば———」

 

 

真由美が顎に手を当てながらこれまでのことを思い出す。アリアたちも一緒に思い出す。

 

 

・とにかく優子と仲良くして思い出して貰うゴリ押し。

 

・服を脱がして無理矢理意識を取り戻させたゴリ押し。

 

 

「「「これは酷い」」」

 

 

きっとロマンチックな物語なら思い出の場所を巡ったり、主人公のカッコイイセリフで記憶が蘇ったりするのだろう。

 

まぁ大樹にそんな期待をする方が間違えているのだろう。

 

 

「その……美琴さんは何か言っていましたか?」

 

 

「……いいえ、()()()()()()()だわ」

 

 

黒ウサギの質問にアリアは不可解な答えを返した。すぐに真由美が追求する。

 

 

「どういうことかしら?」

 

 

「大樹はずっと美琴と話しているようだったけど―――」

 

 

アリアは首を傾げながらあの時のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

「———美琴の声、一度も聞こえなかったのよ」

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

「ああくそッ! しつこいぞお前ッ!」

 

 

俺は未だに同じ容姿をした女の子たちに追いかけられていた。あれからずっと追いかけられているが、終わる兆しが見えない。

 

このままホテルに帰るのは危険だ。とにかく撒かなければ……!

 

ビルの屋上を走り、跳躍して奥にある新しいビルの屋上に飛び移る。その際、背後から飛んで来る銃弾に気が付き、手に持っていた買った物を袋ごと投げつけて銃弾を逸らす。

 

買った物が銃弾に当たった瞬間、袋は弾けず、映像を停止したかのように空中で動かなくなってしまった。

 

 

(やっぱり普通の銃弾じゃねぇよな……!)

 

 

当たったら厄介だ。舌打ちをしながらビルのドアを蹴り破り、中に侵入する。

 

階段を全て飛ばして一階まで一気に降りる。

 

 

ドンッ!!

 

 

床を壊しながら着地し、再び走り出す。会社の広いロビーまで来た所で俺は足を止めた。

 

 

「……チッ」

 

 

入り口には既に5、6人の女の子が待ち構えていた。引き返そうとするが、既に2、3人の女の子が退路を断っている。

 

さらに別の場所から女の子が何人も姿を見せ始める。

 

 

「また囲まれたか……」

 

 

「今度は逃がしませんわよ」

 

 

さっきの『あんな場所に激可愛な猫ちゃんがッ!?』で引っかかったからな。うん、まぁ、いいんじゃない? 猫は俺も好きだから。

 

 

「俺は命の恩人じゃなかったのかよ……」

 

 

「だから言ってるではありませんか」

 

 

女の子たちは一斉に銃口を俺に向ける。

 

 

「わたくしと交わるだけでいいっと」

 

 

「お前のその交わるは〇〇〇〇(ピー)じゃなくて殺す気だろうがぁ!!」

 

 

ガキュンッ! ガキュンッ!

 

 

飛んで来る無数の銃弾を体を反らして避ける。この程度の攻撃じゃ当たらない。

 

しかし、避けれる動作を封じられれば話は別となる。

 

 

ガシッ!

 

 

「うひッ!?」

 

 

両足を掴まれた瞬間、変な声を上げてしまった。

 

下を向けば床の黒い影から白い手がいくつも伸び、俺の足を掴んでいた。

 

 

「ぎゃあああああァァァ!? ホラー過ぎる!? 怖ぇよ!?」

 

 

SANチェック入りまーす。 ハイッ! SAN値ピンチ! SAN値 破ッ!! ってどっかのニャルラトホテプを名乗った女の子の方が百万倍良いだろこの状況。

 

 

「あらあら? これでは動けませんわね」

 

 

「フッ」

 

 

女の子の脅しは通用しない。俺は鼻で笑いながら片膝を着いてしゃがむ。

 

その光景は女の子からすれば大樹は白旗を上げて負けを認めたかのように見えた。

 

 

「降参するのですか? 諦めが良いのは感心―――」

 

 

「おい」

 

 

ガシッ

 

 

逆に俺は白い手を掴んでやった。

 

 

「今すぐ放せ。さもなくば……」

 

 

「ふふふ、どうしますの?」

 

 

 

 

 

「この手に、トラウマになってしまうくらいすっげぇエロいことをする」

 

 

 

 

 

女の子たちの笑い声がピタリと止まった。

 

そんな状況でも大樹は構わず説明する。

 

 

「具体的にはまず手の平を〇〇〇(ピー)して〇〇〇〇(バキューンッ!)をする。その後は俺の〇〇〇(自主規制)〇〇〇(R-18)〇〇〇〇〇(大樹だぜ!)してやる」

 

 

大樹の脅しに女の子は羞恥に顔を赤くすることを通り越して真っ青になっていた。笑みが引き攣っているのが遠目でも分かる。

 

白い手が怯えるように影の中へと戻って行く。空気は気まずいどころの話では無い。

 

 

「お、おかしいですわね。一体あの時から何があったのですか……」

 

 

「そうだな……今、俺には結婚を約束した6人の嫁がいる」

 

 

※ 嘘です。

 

 

士道(しどう)さんは違ったベクトルのお方になられたのですね……」

 

 

誰だソイツ。ハーレム作っているなら最低だな士道という(やから)は。ブーメラン? 何ソレ美味しいの?

 

 

「いつも俺に『大好き! 永遠に愛してる!』って毎朝と寝る前に言われているからな」

 

 

※ 大嘘です。

 

 

「ふぅ……全く、寝られない夜も何回あったことか……」

 

 

※ お巡りさん、変態はこっちです。

 

 

「さて、そろそろ鬼ごっこは終わりだな」

 

 

ゆっくりと後退して、フロントの上に座る。手を後ろに伸ばし、ニヤリッと笑った。

 

 

「防犯ベルを鳴らしちゃうけど……いいか?」

 

 

「ッ……」

 

 

女の子は怪訝な表情になる。こういう場所にはそういうモノが設置されていることが多いんだよ。勉強しな。

 

俺の予想だが、絶対に目立ちたくないはずだ。監視カメラの一つ残らず壊して回るほど、映りたくない気持ちが現れている。

 

それにこの時代は結構ハイテクだからな。衛生カメラとか使っちゃえばすぐに映像に映るだろう。

 

 

「さぁて、ここでお開きにすれば―――」

 

 

「あら、あら? 何を勘違いしていらっしゃるのですか?」

 

 

女の子の笑い声に俺は眉を寄せる。

 

 

「別に押して頂いても構いませんのよ?」

 

 

嫌な予感がした。すぐに防犯ベルを押すが、一向に警報は響かない。

 

 

「……手回し、ちょっと早過ぎないか?」

 

 

「同じ手は通じませんわ」

 

 

もー、昔の俺よ! 何やってんのよ! 知らねぇよちくしょう!

 

【神刀姫】で一気にケリをつけてもいいが、どうも女の子相手だと攻撃したくない気持ちがあって抵抗が強い。猫好きなところを見たせいでさらに強くなっているし。

 

 

「命の恩人になんてことを!」

 

 

「覚えていないのでしたら、意味はありませんわ」

 

 

「確かに」

 

 

いやいや、納得してんじゃねぇよ。

 

 

「ほいッ」

 

 

バチンッ!!

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

防犯ベルを無理矢理引き剥がし、ベルについていた電線が千切れて火花を散らした。

 

その電線を掴み取った大樹を見た女の子たちは嫌な予感がした。

 

 

「なら……これは予測できたか、お嬢様?」

 

 

右手が黄金色に輝き、バチバチ飛ぶ電気が激しさを増した。

 

【神格化・全知全能】を電線に使った。そんなことをすれば当然―――

 

 

バチバチガシャアアアアアァァァン!!!

 

 

―――こうなる。

 

雷が落ちたかのような轟音が響き渡り、壁に埋め込まれた電線が全て焼き上がりあちこちで壁から火が燃え始めた。

 

 

「どうする? さすがに目立ってしまうだろ?」

 

 

「悪い人……これでは遊んでいる暇は無くなりますわ」

 

 

あまり残念そうにしていない表情が非常に(しゃく)であるが、これで引いてくれるはずだ。

 

 

「ですが———」

 

 

しかし、俺の予想は(ことごと)く砕かれる。

 

女の子は古式の銃を新たに影から出す。今度は長銃だった。

 

 

「———ぜぇったい、逃がしませんわぁ……!」

 

 

ヤンデレかな?(泣きながら震え声)

 

 

「さぁおいでなさい……【刻々帝(ザフキエエエエエエエエル)】!」

 

 

その瞬間、女の子の背後から巨大な時計が出現した。

 

ローマ数字が使われた時計盤。中心にある無数の歯車が(せわ)しく回る。

 

不可解なことにその時計には針が無い。しかし、彼女の武器を見てすぐに分かった。

 

 

(長銃と短銃……なるほど、あの時計は武器と連動しているに違いない)

 

 

予想は当たる。

 

 

「【刻々帝(ザフキエル)】———【二の弾(ベート)】」

 

 

文字盤の『Ⅱ』から影が溢れ出し、女の子の持った短銃へと吸い込まれる。そして銃口を地面に向けて、

 

 

ガキュンッ!

 

 

撃ち出した。

 

変化はすぐに起きた。ユラユラと燃えていた周囲の炎が一斉に動きを鈍ってしまったのだ。

 

 

「これで安心ですわね?」

 

 

「何でもアリかよ……!」

 

 

ガキュンッ!

 

 

再び女の子たちが銃を発砲し始める。飛んで来る銃弾は遅いので避けれるが、また女の子が何かをし始めていた。

 

 

「【刻々帝(ザフキエル)】———【一の弾(アレフ)】」

 

 

今度は『Ⅰ』の文字盤から影が溢れ出し、また短銃へと吸い込まれた。

 

だが次は違った。銃口は女の子の(あご)に当てて引き金を引いていた。

 

 

ガキュンッ!

 

 

「ッ!」

 

 

自殺。いや、そんなはずはない。あれはきっと―――!?

 

 

フッ

 

 

そして、女の子の姿が消えた。

 

 

ガキュンッ!!

 

 

「くぅッ!?」

 

 

「ッ……!」

 

 

同時に背後へと回り込んでいた女の子。銃弾が飛んで来たが体を大きく反らして避けた。

 

回避されると思わなかったのだろう。女の子も眉を(ひそ)めて驚いていた。

 

今のは危なかった。急いで跳躍して女の子から距離を取る。

 

 

「……時間を早めたわたくしの動きに対応するなんて……普通じゃないですわ」

 

 

「お生憎様、『普通』じゃないのが俺なのでね」

 

 

シュンッ!!

 

 

大樹が一歩踏み込んだ瞬間、姿を消した。

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

女の子たちは息を飲み急いで辺りを見回して大樹を探す。

 

 

トンッ

 

 

「ッ……驚きましたわ」

 

 

女の子の背後に、大樹は居た。

 

【神刀姫】の柄を女の子の背中に付けている。

 

脅しだった。いつでもお前を斬れるというメッセージ。

 

 

「それで……か弱いわたくしにどんなことを要求すると?」

 

 

か弱い? 正気か貴様。

 

女の子は斬られることを恐れることなく、俺と向き合った。

 

 

「とりあえず名前を教えろ。後で警察に通報するから」

 

 

「その後は重要人物としてあなたが捕まりますわ」

 

 

「俺が警察なんかに捕まるとでも?」

 

 

俺の答えが面白かったのか女の子はクスクスと笑い、二つの銃を影の中へと戻した。

 

巨大な時計も消え、他の女の子たちが既に姿を消しているので恐らくもう何もしないだろう。

 

刀を抜刀して一振り、一閃の風が吹き荒れ燃え盛っていた炎を掻き消した。

 

 

「分かり合えて嬉しいですわ」

 

 

「分かり合えたらここまで戦ってねぇよッ」

 

 

そうですわねっと女の子はスカートの両端を両手でつまみ、優雅に名前を告げる。

 

 

時崎(ときさき) 狂三(くるみ)。精霊ですわ」

 

 

「だろうな。大体予想がついた」

 

 

「そして知りたいことは【ライトニング】……ですわね?」

 

 

「話が早くて助かる。その前に精霊について詳しく知りたい」

 

 

「いいですわよ、大樹さんなら」

 

 

やっぱり俺の名前を知っているか。ホント、どうなってんだこの世界。

 

 

「俺が聞かされたのは秘密にされた存在。そして殺さないといけない最悪な存在だということだ」

 

 

「あら、あら。それは酷いですわ。悲しくて泣いてしまいますわ」

 

 

えーんっとわざとらしい仕草で顔を手で覆う狂三。

 

 

「……………チッ」

 

 

「さすがのわたくしも、舌打ちはないと思いますの」

 

 

「悪い悪い。本気で泣いていたら慰めるけど、嘘泣きは駄目だ」

 

 

嫁は例外だけど。

 

 

「では今の舌打ちで傷つきましたわ。慰めてくださりますよね?」

 

 

「何すればいいんだよ」

 

 

「交わ「却下」……最後まで言ってないですわ、しくしく」

 

 

いつになったら本題に入れるんだこれ。

 

 

「大樹さんが眼球の片方くれるか、生き血を(すす)らせてくれるか、頭をよしよししてくれるかしないと話せませんわ」

 

 

ヤンデレだ。ヤンデレがいる。ゾッとしたんだけど。鳥肌が凄いんだけど。今すぐ帰って嫁に慰めて欲しいんだけど。

 

 

「よしよーし」

 

 

大樹は狂三の頭を少し雑に撫でた。撫でるというよりわしゃわしゃに近い。

 

狂三は目をギュッとつぶり笑っていた。

 

 

「そんなに乱暴にされると困りますわ」

 

 

「うるせぇ。いいから教えろ」

 

 

撫でるのをやめて話を聞く。狂三はやっと説明を始める。

 

 

「まず精霊には霊力があります」

 

 

チ〇ドの霊圧が消えた!? 違うだろ。精霊はソウル・ソ〇エティから来たのかよ。みんな卍解できちゃうのかよ。

 

 

「霊力が強ければ強いほど比例してその精霊も強くなります」

 

 

「……その霊力がどうしたんだよ」

 

 

「不思議なことに【ライトニング】から―――」

 

 

狂三は告げる。

 

 

 

 

 

「———霊力を全く感じないのですわ」

 

 

 

 

 

「は? それってどういう———」

 

 

俺の言葉は続かなかった。

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

「「ッ!」」

 

 

天井が砕け、爆発したかのように瓦礫が飛ぶ。

 

突然の出来事に驚くが、狂三の体をお姫様抱っこして瓦礫を回避した。

 

 

ゴオォッ!!

 

 

「ハァッ!!」

 

 

「なッ!?」

 

 

ガギンッ!!

 

 

突如俺の頭上から振り下ろされた大剣に驚く。

 

急いで体を回転させて右足で大剣の側面を蹴り上げる。

 

 

(重ッ……!?)

 

 

ガギィイイイインッ!!

 

 

大剣の軌道は逸らすことができたが、振り下ろされた方向には斬撃波が放たれた。

 

入り口は粉々に吹き飛び、威力の強さに警戒を強めた。

 

落ちて来る瓦礫を次々と足場にして上へと跳躍する。開いた穴を通り抜けて屋上へと出る。

 

 

「今の何だよ!? また女の子だったぞ!」

 

 

「あらあら大胆ですわ」

 

 

「話くらい合わせろよ!!」

 

 

大剣を持っていたのは女の子だった。どこかの制服を着ているようだったが、不思議な力を感じた。これが霊圧……!? じゃあ今のが斬魄刀(ざんぱ〇とう)なのか!? だから話が違くなるから。

 

 

「逃がさんッ!!」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

床が爆発したかのように飛び散る。そこから再び大剣が俺の体に刃を向けた。

 

 

タンッ

 

 

後ろに軽く飛んで紙一重で避ける。そこでやっと大剣を持った女の子をじっくり見ることができた。

 

夜のような黒い髪、水晶の瞳をした絶世の美少女。街中で彼女を見れば誰もが目を奪われるだろう。

 

 

ザンッ! ザンッ! ザンッ!

 

 

追撃で何度も斬りかかって来る女の子の攻撃を後退しながら回避する。決して遅くないが、実力が違う。

 

 

「そこだ」

 

 

ダンッ!!

 

 

「なッ!?」

 

 

大剣が振り下ろされた瞬間を狙い、上から大剣を踏みつけた。女の子は大剣を動かすことができないことに驚き、必死に動かそうと力を入れている。

 

 

「おみごとですわ」

 

 

「いい加減降りろよ」

 

 

「次が来ますわよ」

 

 

「ッ!」

 

 

バキバキッ!!

 

 

横から飛んで来た巨大な氷の塊を跳躍して回避する。氷の塊は床を一瞬で凍らせてしまうほどの脅威を持っていた。

 

攻撃が来た方向を見ると、目を疑った。

 

 

「はぁ!?」

 

 

―――巨大なウサギがそこにいた。

 

全長は3メートルはあるだろう。紅い眼に鋭い牙が口から見えている。そして肌を刺すような冷たい冷気が溢れ出していた。

 

 

「ちょっと!? これも精霊なの!? 俺、精霊って人だと思っていたんだけど!?」

 

 

「これは『天使』ですわ」

 

 

「えー、輪っかどころか羽すら見えないんだけど。凶暴そうなんだけど」

 

 

「精霊の武装だと思いくださいまし。わたくしの【刻々帝(ザフキエル)】も天使ですわ」

 

 

俺の中の天使というイメージが覆った。

 

天使がいるなら精霊もいる。

 

 

「ならあの剣を持った女の子の天使がウサギか!」

 

 

「違いますわ。背中を見て頂けると分かりますわよ」

 

 

ヒュォオオオオオオッ!!

 

 

ウサギの口から冷気を凝縮した凄まじい攻撃が繰り出される。空中ではどうやっても避けれないとでも?

 

 

「よっと」

 

 

避けれないことはない。

 

()()()()()、跳躍して攻撃をかわす。そのままウサギの頭上を越えて背中が見えるようになる。

 

 

「あ」

 

 

そこには可愛い少女がいた。

 

水色の髪、蒼い瞳の幼い小柄な子。可愛らしいレインコートのようなモノに身を包み、視線があった。

 

 

「萌えるな」

 

 

「嫌ですわ大樹さん。あんな小さな女の子に手を出そうと———」

 

 

「ド突くぞテメェ。そんなことしねぇよ……………しねぇよ」

 

 

この時、ティナを思い出してしまい、深く反省した。どうも、ロリコンの大樹です。

 

ウサギを飛び越えた後は新たなビルへと着地しようとする。しかし、やはり簡単にはいかない。

 

 

ゴオォッ!!

 

 

風を切るような速さでこちらに近づく二人の女の子がいた。まぁこの二人も精霊なのだろうとすぐに予測できた。

 

一人は右肩から、もう一人は左肩から翼を生やしていた。

 

右肩から翼を生やした女の子は身の丈を超えた巨大な槍を、左肩から翼を生やした女の子は黒い鎖の先端に葵形(ひしがた)の刃が付いた武器を持っていた。

 

挟み撃ちを狙った攻撃に俺は歯を食い縛る。狂三がいなければ簡単にいなすことができたが、両手使えないからなぁ……降ろすか! 嘘です。

 

 

「アンッ!!」

 

 

右から来た槍の攻撃は右足で乗り、左から飛んで来た刃を左足で器用に受け流す。

 

 

「ドゥッ!!」

 

 

鎖は見事に槍に絡みつき、槍を足場にして跳躍した。

 

 

「トロワアアアアアァァァ!!」

 

 

ガシャアアアアアァァァン!!

 

 

「「ッ!?」」

 

 

見事に二人の攻撃はぶつかり合い、そのまま二人一緒に飛ばされる。

 

俺は見事にトリプルアクセルを決めて着地。フッ、華麗に決まったぜ。

 

 

「満点ですわ」

 

 

「どうも」

 

 

狂三も楽しんできているな。降ろそうとすると腕を俺の首に回して拒否するし。もういいだろ? 長いわ。

 

攻撃して来た二人を見てみると、槍に絡まった鎖を仲良く(ほど)いていた。

 

双子だろうか? 同じ容姿で顔も似ていた。槍の女の子は髪を後頭部で結い上げ、鎖を持っていた女の子は長い髪を三つ編みに括り、気怠そうな半眼をしている。

 

 

「ちょっと!? そっちはもっと絡まるから!」

 

 

「否定。こちらが正しいことに間違いありません」

 

 

めっちゃ苦戦しているな。そうなるようにしたんだけど。

 

 

「……手前の鎖を引っ張って、奥の鎖を通せば解けるぞ」

 

 

「……おお! 解けた!」

 

 

「驚愕。そのような方法があったとは」

 

 

槍と鎖は綺麗に分離し、二人は笑顔で俺の顔を見る。

 

 

「って敵じゃん!?」

 

 

「油断。気が付きませんでした」

 

 

二人は同時に跳んで俺から距離を取る。武器を構えて戦闘態勢に入った。うわー、余計なことをしちゃったな。

 

 

「ちょっと待て。こいつらマジで全員精霊なのか!? 空間震も起きていないのに、これはどういうことだ!?」

 

 

「ええ、説明しますと長くなりますが、簡単に答えを出すならば……」

 

 

狂三は俺の腕からやっと降りると、視線を後ろに移した。

 

 

「士道さんのおかげですわ」

 

 

「狂三ッ!!」

 

 

背後から聞こえる声に反応する。そこには一人の青年が息を切らしながらこっちを見ていた。

 

 

「士道……そいつのおかげだと?」

 

 

「ッ!? やっぱり、アンタは……!」

 

 

青年は俺の顔を見た瞬間、驚愕の声を上げた。

 

 

「体操のお兄さん!?」

 

 

「俺はひろ〇ちお兄さんじゃねぇよ!!」

 

 

ビシッっと青年の頭にチョップする。青年は痛そうに頭を抑える。

 

 

「聞いたぞテメェ! 何人もの女の子に手を出している最低野郎だとな!」

 

 

「はぁ!? 狂三!?」

 

 

「あらあら、わたくしは何も言ってないですわよ」

 

 

隙ありッ!!

 

俺は青年の胸ぐらを掴んで人質とする。予想通り、精霊である女の子たちは動きを止めていた。

 

 

「フハハハッ! この青年の命が惜しくば大人しくするんだな!」

 

 

「ひ、卑怯だぞ! シドーを離せッ!!」

 

 

どっちが悪役か? 俺だろ。俺は不敵な笑みを浮かべながら士道を前に出す。

 

 

「こいつが欲しいなら……俺を見逃せ。代わりに狂三もおまけとしてあげるから」

 

 

「酷いですわ。わたくしを売り出すなんて」

 

 

「知るか。元々お前も俺を襲っていただろ」

 

 

「ま、待ってくれ!」

 

 

士道は俺の顔を見て問いかける。

 

 

「五年前、アンタは姿を消した! なのに、どうして五年も経っているのに同じ姿なんだ!?」

 

 

その言葉はとてもじゃないが聞き逃せなかった。

 

 

「五年前……だと? 馬鹿を言うなよ。俺はそんな記憶―――」

 

 

「ッ! やっぱりアンタまた……!」

 

 

『また』って何だよ。

 

どうしてコイツも俺を知っている。

 

何が起きているんだこの世界は。

 

 

「……………もういい」

 

 

ドッと士道を突き放して解放する。そのまま後ろに下がり壊れた屋上の金網を抜ける。

 

怖い。自分の知らないことが起きているこの世界が。

 

不確定な要素が多過ぎて、何も分からなくて、苦しい。いや気持ち悪い。

 

 

「……またな」

 

 

「ッ! ま、待ってくれ!」

 

 

士道が止めようと手を伸ばすが、それよりも先に俺が屋上から飛び降りた。

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

急いで下を見て確認するがそこには誰もおらず、ビルの真下———コンクリートの地面にも、何もなかった。

 

 

________________________

 

 

 

「……………」

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

ホテルの一室。静寂に包まれた世界があった。

 

大樹がホテルに帰って来たかと思えば、トボトボと女の子たちの前まで歩き、一番近かった黒ウサギがどうした心配した瞬間、

 

 

「すっげぇ怖い……」

 

 

黒ウサギをギュッと抱き締めて、そのまま眠りについてしまった。

 

あまりの突然の出来事に一同唖然。そこから誰も一歩も動けず、口も開けなかった。

 

 

「……えっと、黒ウサギは大樹さんと一緒に寝るのですか?」

 

 

「嬉しそうな顔をしないで。落ち着きなさい黒ウサギ。今すぐその変態を捨てるのよ」

 

 

「え、えぇー……」

 

 

アリアは容赦しない。恐らくいつものようにどさくさに紛れてセクハラするに違いないと見た。

 

しかし、本気で寝てしまっていることでその決意が鈍る。

 

 

「……ま、まぁ床で寝るなら考えてやっていいわよ」

 

 

「どうして床ですか!? ベッドにしてください!」

 

 

「そ、それだと変な気を起こすでしょ!」

 

 

「さ、さすがに大樹さんはそこまでの度胸が―――」

 

 

「黒ウサギが!」

 

 

「———えぇ!? 黒ウサギはそんなことしません!」

 

 

アリアと黒ウサギは言い合うが、トドメの一撃は思わぬ場所から飛んで来る。

 

 

「エロウサギって大樹さんから聞いたことがあります」

 

 

「ティナさん!?」

 

 

ティナの証言により、判決が優子の手によって下された。

 

 

「有罪」

 

 

「優子さん!?」

 

 

「今日から『エロウサギ』よ! 良かったわね!」

 

 

「真由美さん!?」

 

 

 

________________________

 

 

 

 

「うぅ……」

 

 

気が付けば俺は寝ていた。あの日の夜、情けないことに怯えて疲れ切ってしまった。

 

チュンチュンっと小鳥が鳴いているのが耳に入る。そうだ。今日は折紙とのデートだった。

 

何故だろう。可愛い女の子にデートに誘われたはずなのに、布団から異常に出たくない。この柔らかくて温かい空間を堪能したい。

 

 

「……ん?」

 

 

待て。この感触……いや待て待て。落ち着くんだ大樹。まだ焦る段階じゃない。

 

俺はゆっくりと顔にかかった布団をどかす。そして顔をゆっくりと離す。

 

柔らかいモノの正体はすぐに分かった。

 

 

「……何をやってんだ真由美」

 

 

真由美の胸だった。しかも本人は起床して目が合ってしまっている。

 

 

「お、おはよう大樹君ッ? よく眠れたかしりゃ?」

 

 

え? 何この人? 動揺して思いっ切り噛んでいるんだけど? 全然と平然を装えてないんだけど?

 

 

「……まぁ寝れたな」

 

 

「そう!? 大樹君が私に抱き付いて来るから迷惑だったけど、特別に許してあげるわ!」

 

 

えー、思いっ切り俺の頭を抱き寄せていたような気がするですけどー? 抱き寄せ過ぎて首が痛いんですけどー?

 

だが嬉しいことは否定しない。やっぱりおっぱいは素晴らしいと思いました。まる。

 

……でもここで終わるのは惜しい。ちょっとふざけてみるか。

 

 

「それで? してくれないのか?」

 

 

「え?」

 

 

顔を赤くした真由美が首をかしげる。

 

 

「な、何をするのかしら?」

 

 

俺は自分の頬を指差し、ニヤリッと笑う。

 

 

「おはようのキス」

 

 

「ッ!?」

 

 

真由美の顔がボンッと真っ赤に染まった。わちゃわちゃと手を動かして首を振っている。予想以上の反応で面白いんだが。あと可愛い。

 

多分気持ち悪いくらいニヤニヤしているぞ俺。だ、駄目だ……! 真由美がもっと焦るまで堪えるんだ……!

 

 

チュッ……

 

 

「え?」

 

 

―――頬に柔らかい感触が当たった。

 

 

ギギギッと機械人形のような動きでゆっくりと真由美を見る。

 

真由美の顔は赤いが、俺の顔をしっかりと見ていた。

 

 

 

 

 

「馬鹿ね……前にもしたことがあるでしょ……?」

 

 

 

 

 

ブシャッ

 

 

俺の鼻から大量の鼻血が流れ出した。

 

 

「だ、大樹君!?」

 

 

「気にするな! これはお前が可愛くて今すぐ抱きしめたい衝動によって吹き出したモノだ!」

 

 

「え、えぇ!?」

 

 

驚く真由美を気にせず、俺は手を握る。

 

 

「大丈夫だ! 俺は必ず今日のデート(困難)を乗り越えて、真由美に愛の告白を―――!」

 

 

ガチャリッ☆

 

 

ピタっと俺の動きが止まった。

 

後頭部に突きつけられたモノはきっと拳銃の銃口。ちなみに数は一つじゃない。4つだ。

 

そういえばここって、女の子たちの部屋じゃないか。そりゃ当然皆いるよな。

 

 

「少しは大目に見てあげようと思ったのよ。でも……度が過ぎていると思わないかしら?」

 

 

アリアの低い声に、俺はゆっくりと両手を挙げた。

 

 

「この距離なら、アタシでも当たるわね」

 

 

優子の低い声に、俺はゆっくりと頷いた。

 

 

「今の黒ウサギでも、扱える武器で良かったです」

 

 

黒ウサギの低い声に、俺はゆっくりと目を閉じた。

 

 

「ズルいので私にもしてください」

 

 

ティナの素直な可愛い感想に、俺は涙を流した。でも、スナイパーライフルを持った姿には恐怖しか感じなかった。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

________________________

 

 

 

「ふぅ」

 

 

後頭部を抑えながら俺は息を吐く。

 

お仕置きは結構痛かったが、いつものことなので問題ない。というか最近銃の使い過ぎだと思う。ヘッドショットとか死にそうになるから(死ぬとは言っていない)。

 

初日からハードプレイだったが、今日はできればゆっくりしたい。そして情報を手に入れて美琴を救出する。その後はラブシーンに突入して―――おっとまた鼻血が。

 

予定した時間より30分早いが俺は西天宮(てんぐう)公園のオブジェ前へと目指す。ホテルから追い出されたので行く当てがなかった。原田よ。鍵くらい、開けててもいいじゃん。悲しいッ。

 

でもまぁ俺がデートに行くこと、折紙のこと、夜起きた事件のこと。全部話す機会がなくて良かった。特に前半は女の子に知られたら殺されちゃうよ……。

 

黒いコートのポケットに手を入れて折紙を探す。確かオブジェクトの前……ってそれはデカすぎるわ。オブジェだから。戦争でも始めるのかよこの街は。

 

目立つ場所にあるからすぐに見つけ―――

 

 

「……………」

 

 

―――折紙は既に待っていた。はえーよ。

 

って頭と両肩に(ハト)が止まっているぞ。どんだけ動かないんだよ。どんだけ前から来ているんだよ。

 

少し声をかけづらいが、俺は温かそうな薄い茶色のコートを着た折紙に近づく。

 

 

「よう。待ったか?」

 

 

「問題ない。私も今来たところ」

 

 

ここまで下手な嘘、聞いたことがないな。

 

俺は鳩たちを手で払うフリをして飛ばす。散れ散れ。

 

 

「それで、今日はどこに行くんだ?」

 

 

俺と過ごした街を巡るらしいが、心当たりが全くないのでどこに行くのか想像できない。

 

 

「まずは映画。初めてのデートも、最初は映画館だった」

 

 

「へぇー」

 

 

王道だな。面白くないな俺。……何故か自虐したかのような感じになってしまった。

 

 

「じゃあ早速行くか」

 

 

折紙は頷き、俺の隣を歩き出す。

 

 

「……なぁ」

 

 

「なに?」

 

 

「腕を組む必要はあるのか?」

 

 

「ある」

 

 

「……そうか」

 

 

これ以上、ややこしいことを起こしたくなかった俺であった。

 

 

________________________

 

 

人が賑わうショッピングモール。腕を組んだラブラブカップルに見えてしまう俺たちはかなり目立っていたが、何かもういいやという気持ちだったため気にすることはなかった。

 

平日だからだろうか? 映画館は思ったより人は少なく、スムーズに事が進む。

 

 

「そもそも平日なら学校はどうした? 折紙は学生だよな?」

 

 

「学校には風邪と連絡しているから問題ない」

 

 

あるわ。ズル休みって言うんだよそれ。

 

 

「じゃあもう一個聞いていいか。コートの中にナイフや拳銃を隠している理由は何だ?」

 

 

火薬の匂い。ナイフも服の上からあると見抜いていた。

 

 

「……追手から逃れるため」

 

 

「……何と戦っているんだお前」

 

 

うちの娘が危ないことに手を染めそうなんだけど。手遅れだったらどうしよう。

 

 

「お父さんは【AST】から狙われている。当然、娘の私も事情聴取がされた」

 

 

「ほう、それでどうしたんだよ」

 

 

ちなみにこれからは『お父さん』に関してはスルーするから。ボク、疲れたよ。ツッコミに。

 

 

「……どの映画がいい?」

 

 

「おい」

 

 

強引に話を逸らすな。お父さん、お前が怖いよ。

 

溜め息をつきながら折紙に出された映画一覧の表を見る。

 

 

「『親子の許されない愛物語』、『禁断の恋 パパは私の夫』、『ドキッ☆ お父さんなのに娘に恋しちゃった☆』」

 

 

スパンッ!!

 

 

「誰が見るかこんなモノ!!」

 

 

床に叩きつけて怒鳴った。犯罪臭が凄いプンプンしてる。

 

というかそれ以外の映画が赤いインクで塗りつぶされて見れないようにしてある。どうしてもこのふざけたモノを見せたいのかよ!

 

 

「恋愛の価値観は人それぞれ。否定するのは良くない」

 

 

「うるせぇよ!? このタイミングで見せるモノじゃねぇだろ!」

 

 

「チケットはもう取ってある」

 

 

て、テメェ……コノヤロォ―――――!!

 

俺に選択させる気なんてねぇじゃねぇか!

 

って最後の『ドキッ☆ お父さんなのに娘に恋しちゃった☆』じゃねぇか! 一番見たくなかったわ!

 

 

________________________

 

 

 

映画を見るならポップコーン。定番のお供である。それにジュースを購入して一番早く席に着いた。というか俺たち以外誰もいねぇ。

 

一番前は首が疲れるのでど真ん中の中央を取った。いやー、気楽に見れていいなー!

 

 

『突然だが38歳になった俺は、自分の娘に恋をしてしまったんだ』

 

 

この映画が全てを台無しにしているけどな!

 

20歳で結婚。この男、娘が小学生だというのに危ない目をしていたし、中学生になったらアウトな目に。高校生になった瞬間、警察を呼んでもおかしくないレベルに達しやがった。この男、俺より変態だ。

 

これって演技だよな? 演技じゃないとヤバイぞ? 妙に迫真な演技でビビっているから。

 

 

「キャストの二人は実の親。つまりこの映画は———」

 

 

「通報しました」

 

 

俺の手を握った折紙がとんでもないことを教えてくれた。正直、知りたくなかった。

 

だが映画の後半になるにつれて状況は深刻になっていく。周りからの否定、娘の誘拐、決死の覚悟で助けに行く父。

 

悔しいことに見入ってしまうくらい面白い展開が続く映画だった。

 

 

「意外と面白いな」

 

 

「私()()はこれで二回目」

 

 

「……『たち』ということは俺も昔見たことがあると?」

 

 

「お父さんが選んだ映画だった」

 

 

「うそーん……」

 

 

俺の映画センス、ワロタ。

 

 

________________________

 

 

 

「さぁー次はあのお店かな? ねぇあの店だよね? オシャレなイタリアな店だよな?」

 

 

「違う。あそこ」

 

 

その瞬間、俺の表情は変わった。

 

 

「……なぁ折紙」

 

 

引き攣った顔をした俺は、目の前にある店を見て引いていた。

 

 

「俺たちは……飯を食べるんだよな?」

 

 

「大丈夫。問題ない」

 

 

看板に書かれている単語文字を横から読み上げてみる。

 

 

『強力 スッポン まむし 精力』

 

 

さて、何が問題ないのだろうか?

 

 

「思いっ切り精力剤専門店じゃねぇかあああああァァァ!!」

 

 

「概ね合っている」

 

 

「うるせぇ黙れ! 飯屋じゃねぇよ! 何でデートの昼飯にスッポンやまむしを食わなきゃいけねぇんだよ!」

 

 

「デート……嬉しい」

 

 

「今そこに注目しなーいッ! 目の前の店に注目するのッ!」

 

 

「(精)力を引き出すための店」

 

 

「かっこがなくても不穏な店間違いなしだよクソッタレ! どんな店だよ!?」

 

 

「秘められた(精)力を引き出す店?」

 

 

「金〇の中に何を秘めらせているんだよ!? 引き出さなくていいよ!? そっとしておいてやれよ!」

 

 

「女性なら———」

 

 

「言わんでいいわ!」

 

 

どうして普通のデートができないの!? どうすりゃいいんだよ!? もう疲れたよ!?

 

 

________________________

 

 

 

あの後、何故かスタミナにんにく料理店に連れて行かれそうになった。何でだよ。

 

『お父さん、パスタ系が食べたいな』と呟くとすぐにイタリア料理店に入ることができた。

 

とりあえずミートスパゲティを2つ注文。待っている間は無言状態だったが、何か言われてツッコミするよりはマシだ。平和って素敵!

 

あれ? そういえば、俺の目的ってデートじゃないぞ。情報収集なんだけど!? うわッ!? 完全に忘れていた!? 完全記憶能力を持っているのに!

 

 

「そろそろ【ライトニング】について話してくれよ」

 

 

「世界初の飛行機パイロットで有人動力飛行に世界で初めて成功した―――」

 

 

「誰がライト兄弟の話をしろと言った!?」

 

 

「軽小説?」

 

 

「ライトノベルでもねぇよ!」

 

 

「スター・〇ォーズの武器―――」

 

 

「ライトセー〇ーでもねぇよ! 頼むからいい加減にしろ! デート中止にするぞゴラァ!」

 

 

「それは困る」

 

 

やっと情報が手に入る。何でこんなに疲れているんだろ俺。老けてないかしらん?

 

折紙は【ライトニング】———美琴の情報を話し出す。

 

 

「【ライトニング】は3ヶ月前に現れた精霊。出現してから一定時間経過後、巨大な赤い落雷を発生させて姿を消している。出現回数は3回。一ヶ月一度のペースで現れている」

 

 

折紙の情報が正しければ次の月に美琴は現れる可能性がある。しかし、俺は気になることがあった。

 

 

『不思議なことに【ライトニング】から霊力を全く感じないのですわ』

 

 

狂三の言葉だ。折紙は美琴のことを本当に精霊だと思っているのか?

 

 

「折紙。【ライトニング】が精霊なのは間違いないのか?」

 

 

「……質問の意図が分からない」

 

 

「あーすまん。じゃあ質問を変えよう。どうして【ライトニング】が精霊だと分かるのか理由が聞きたい」

 

 

「あの電撃は精霊にしか作ることができない。『CR-ユニット』や顕現装置(リアライザ)を用いても、あの威力まで引き出すことは不可能。それに、霊力を探知しているので確実に精霊だと分かっている」

 

 

そこだ。霊力を探知しているという言葉、狂三の言葉と矛盾しているのだ。

 

 

(……知れば知るほど複雑になっているな)

 

 

事態の悪化に待ったなし。たくさんの知恵の輪が絡まってしまっているようで頭が痛くなってしまう。

 

 

「お待たせしました」

 

 

狙ったかのようなグッドタイミングで店員が2つスパゲティを持って来た。さっそく頂きますか。

 

 

「ん……なるほど」

 

 

フォークでパスタを絡ませてパクリ。味が口の中に広がり、俺は頷く。

 

隠し味に赤ワインを使っている。食べやすいように砂糖を少し入れて甘くしているのもポイントが高い。俺は濃厚で大人な味風味で作っていたから参考になるな。

 

……やっぱり普段から料理していると、他の人が作った料理の分析をしてしまうな。主婦の気持ちってこんな感じかな?

 

 

ガシッ

 

 

「……どうした折紙。手を掴んだら食べれないじゃないか」

 

 

グググっと俺の腕を掴んだ折紙の手が震える。結構強めに抵抗しているけど、握力強いな。さすが【AST】に入っているだけのことはある。

 

 

「食べ比べを要求する」

 

 

「同じメニューだ。する余地なし」

 

 

「するべき」

 

 

「しない」

 

 

「するべき」

 

 

「絶対にしない」

 

 

「……【ライトニング】」

 

 

「ほら食べさせてやるよ。あーん☆」

 

 

爽やかな笑顔であーんをしてあげる。折紙はすぐにパクッと食べるが、必要以上にフォークを舐め回したような気がする。きっと気のせいだよな!

 

 

「あーん」

 

 

「……はいはい」

 

 

折紙からお返しのあーんが来るがまぁ予想通りだから素直に食べる。

 

そしてまた口元が少しだけ緩んでいるのが分かる。見逃しそうになるところだった。

 

 

ダンッ!!

 

 

突如店のドアが勢い良く開かれた。折紙の目が鋭くなり、コートの内側に手を入れている。

 

 

「いました!」

 

 

「折紙!」

 

 

二人の女の子が折紙を見て叫んだ。こいつ、本当に追われていたのかよ。

 

 

「チッ」

 

 

折紙は舌打ちをした後、コートの中から何かを取り出し、投げた。

 

 

「って馬鹿野郎!?」

 

 

それは、閃光手榴弾(フラッシュグレネード)じゃねぇか!? やめろおおおおおォォォ!!

 

俺はすぐにキャッチし、音速で分解して爆発を防いだ。

 

すぐに新たなモノを投げようとする折紙。急いで腕を掴んで止める。

 

 

「離して。早急な対応が求められている」

 

 

「雑で最低な対応だろ!? 客も巻き込むなよ!」

 

 

「ならば近距離戦闘に持ちこむ」

 

 

「ナイフもダメだ! てか銃刀法違反だろこれ!?」

 

 

手榴弾とナイフを取り上げて折紙を落ち着かせる。二人の女の子はかなり怖がっていた。

 

 

「法律に触れなければ問題ない」

 

 

「法治国家の日本を舐めとんのかお前は!?」

 

 

「ここが日本でなくても、私はやれる」

 

 

「「ひッ!?」」

 

 

「脅してんじゃねぇよ!?」

 

 

そろそろ客たちの視線が痛くなってきた。出て行けと言わんばかりのオーラに俺は苦笑いでしか対応できない。何で俺がこんな目に遭うんですかね?

 

 

ウウウウウゥゥゥ―――――!!!

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

その時、不快なサイレン音が響き渡った。この音は、空間震警報!

 

 

(美琴ッ!!!)

 

 

「ッ!」

 

 

折紙が引き留めるよりも先に、大樹は窓から飛び出し駆けて行った。

 

再び訪れたチャンスを、逃したくなかった。

 

 

 




うわぁ、ヒロインが誰なのか全然わかんないやぁ(ゲス顔)

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