どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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じゃあママかな?(白目)

デート・ア・ライブ編、どうぞ。


デート・ア・ライブ編
俺はお前のパパじゃねぇ!!


【精霊】

 

 

隣界に存在する特殊災害指定生命体。発生原因、存在理由ともに不明。

 

 

こちらの世界に現れる際、空間震を発生させ、首位に莫大な被害を及ぼす。

 

 

また、戦闘能力は強大。

 

 

 

《対処法1》

 

 

武力を(もっ)てこれを殲滅する。ただし前述の通り、非常に高い戦闘能力を持つため、達成は困難。

 

 

《対処法2》

 

 

それは———。

 

 

 

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新記録(ハイスコア)! 

 

 

 

 

 

上空2万メートルから落ちています!

 

 

 

 

 

「洒落にならねぇよおおおおおォォォ!!!」

 

 

いつもより五倍くらい高い位置から落とされているんですけどおおおおおォォォ!?

 

どうも! 楢原 大樹です! こんな状況ですが、簡単に説明します!

 

地平線が見えるくらい高いところから落ちている! うっし説明終わり!

 

 

「寒いよぉ!! 死んじゃうよぉ!!」

 

 

服を着なかったせいで酷い目にあっていた。何故こういう時に限って高度が高いのだろうか。

 

 

『底知れぬ馬鹿がいたか』

 

 

俺の腕の中にいたジャコが呆れながらあくびをする。随分と余裕ですねあなた!?

 

既にシュノーケルはどっかに飛んで行ってしまい、上半身はカチカチに凍っている。いやん、冷た~い! 神の力がなかったら軽く凍死で逝っていたな。

 

 

「ジャコ! 俺を暖めて! 軽い炎だったら我慢できるし―――」

 

 

『【魔炎・双走(そうそう)炎焔(えんえん)】』

 

 

ゴオッ!!

 

 

「———熱ああああァァァ!!!」

 

 

普通に燃えていた。

 

温かいというより超熱い。今度は焼け死んじゃう。

 

 

『神の力を発動しろ。それで問題ないだろ』

 

 

「そ、そうだった!」

 

 

ジャコに言われて俺はハッとなる。すぐに精神を集中させて発動する。

 

 

「行くぞ―――!」

 

 

その瞬間、体にとんでもない衝撃が走った。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

「———ゴバッ!?」

 

 

『何だ!?』

 

 

大樹の体は空中で止まり、強い衝撃をくらっていた。

 

まるで透明なガラスの床に立っているようだった。ジャコはすぐに大樹を起こそうとする。

 

 

『しっかりしろ!? こんな場所で意識を失うな!』

 

 

「……………」

 

 

『おい!?』

 

 

突如襲い掛かって来たショックに大樹は白目を剥いて気絶。見事にやられていた。

 

さらに不運なことに大樹の体は何故か透明な床から落ちそうになっていた。どうやら透明な床は途中で終わっており、ちょうど大樹は終わるところに倒れていた。

 

 

『ば、馬鹿! そのままだと落ちて―――』

 

 

グググググッ……!!

 

 

ジャコは必死に大樹の海パンに噛みついて止める。噛む場所が他に無かった。

 

大樹の体は止めることはなく、

 

 

ズルッ

 

 

『キャンッ!?』

 

 

そのまま大樹と一緒に高度1万5000メートルから落下した。

 

 

 

________________________

 

 

 

 

「……大樹さんを発見しました」

 

 

「どこだ?」

 

 

「北北東です」

 

 

スナイパーライフルのスコープだけを取り外し、空を視ていたティナが原田に知らせる。

 

9月の下旬に入った季節の世界は夏が終わり、ちょういい季節となっている。

 

デパートの屋上、オシャレな装飾がされたお店に大樹を除いた全員が集合していた。

 

 

「あの落下速度からすると……うわぁ高度は1万は軽く超えているな……あれでも死なないアイツは尊敬に値する……というかアイツ燃えてね?」

 

 

「運が無いって話じゃないわね……ちょっと可哀想に思えてしまうわ」

 

 

原田の報告にコーヒーを飲んでいたアリアが飽きれる。昔ならコーヒーを吹き出していただろうが、この状況に慣れてしまった彼女たちには通じない。いよいよ感覚がおかしいことに危機感を抱いている。

 

 

「今までの流れですとどこかの水に落ちると思います。着替えを持ってあげましょう」

 

 

「良い案よ黒ウサギ! この機会に大樹にオシャレさせないかしら!」

 

 

黒ウサギの案に優子がグッと親指を立てる。いつも恥ずかしいTシャツを着ている大樹、そろそろまともな服を着せたかった。

 

 

(大樹さん、防水リュックですよね……黙った方がいいのでしょうか……?)

 

 

大樹のリュック事情を知っているティナは曖昧な返事しかすることができなかった。しかし、大樹の服装を選ぶことには興味がある。

 

 

「優子の案、とてもいいわね。それじゃあ私たちは服を買いに行きましょ」

 

 

真由美の言葉に一同は頷く。原田は「わー羨ましいなー」と棒読みで呟いていた。

 

 

「じゃあ俺が迎えに行くから後から来てくれ」

 

 

「原田さん、いつもご苦労様です」

 

 

「やだティナちゃんホント良い子だわ」

 

 

感動で少し泣きそうになった原田であった。

 

 

 

________________________

 

 

 

 

ザバアアアアアァァァン!!!

 

 

「……………」

 

 

大樹が落ちたのは市民プールだった。手入れがされていないのか、水は結構汚かった。

 

プールから上がり、自分の体を見る。乳首は治したが、頭部から血を流して新しい傷ができていた。

 

両膝を地面に着け、大樹は両手で顔を隠す。

 

 

「……………もうやだ」

 

 

『本気で心が折れているな……』

 

 

上からフワフワとゆっくりと降下して来たジャコが可哀想な目で俺を見ていた。

 

 

「毎回毎回こんな目に遭う俺は……少しくらい安全に転生してくれてもいいじゃん……」

 

 

『……とりあえず服を着たらどうだ? 誰もいないが、裸は不味い』

 

 

海パンは燃え尽きたし、もうボロボロの裸であった。

 

大樹は涙を堪えながらトボトボと施設内にあるシャワーを無断で使用して体を洗い、汚れと血を流した。血は既に止まっていたので拭くだけ済んだ。

 

持って来ていたバッグを漁り、服に着替える。

 

 

『……まともだな』

 

 

「今、そういう気分じゃないから……」

 

 

大樹の服装はいつものTシャツではなく、英語の白文字でカッコ良くなっている黒のパーカーと、灰色のズボンを穿いていた。

 

ちなみに、ジャコは英語を理解していないので訳せないが、訳すと『私は一般人だが、最強である』と『私は嫁たちを愛している』とたくさん書かれている。

 

テンションが下がると服のセンスは少し上がることをジャコは心にメモし、アリアたちと仲良くなるための会話ネタとして使おうと心に決意した。

 

 

「はぁ……プールの汚れ具合から見て、この世界は9月か10月ぐらいか?」

 

 

季節を知ったところで、ここに居ても仕方ないっと俺はすぐに無人の改札を通り、道に出る。風が寒いのはプールにダイブしたせいだな。

 

辺りを見渡せば人気(ひとけ)が全くない。道を尋ねる線は捨てられた。

 

携帯端末を取り出しアリアたちと連絡を取ろうとするが、何故か繋がらない。掛かっているはずなんだけどな?

 

 

「おいジャコ。これ付けろ」

 

 

『何をだ?』

 

 

「首輪」

 

 

『……ペットにする気か?』

 

 

「もうペットだろ? ほらチンチン」

 

 

ガブッ!!

 

 

痛いぜ。

 

 

「怪しく見られるだろフワフワ浮いた犬とか。じゃあギフトカードの中にいる?」

 

 

『最初に言え』

 

 

ジャコはギフトカードの中へと消えて行った。あ、話し相手がいない。ぼっちで悲しい。

 

肩を落としながらトボトボと人が多そうな中心街に向かうことにする。人の気配は南の方が多いことは分かっている。コンビニで新聞か何かを購入して情報収集をしよう。

 

この世界は普通に見えて普通じゃない。原田から貰った事前の情報の通り、あまり目立つ真似はしないように気を付けないと。

 

 

タッタッタッ

 

 

その時、後ろから誰かが走って来る足音が聞こえた。人気が全くない道で、しかも走っているとなると気になるに決まっている。

 

後ろを振り返り、走って来る人を見る。

 

 

(うおッ、すっげぇ美人じゃねぇか……)

 

 

肩に触れるか触れないかの白い髪に、人形よりも綺麗な顔立ちをしていた。間違いなく美少女の部類に入るだろう。

 

身長は150くらいでどこかの学校制服を着用している。きっと彼女の校内では彼女にしたいランキング3位には入りそうなくらい全て可愛いとか言われているだろうな。うん。

 

 

(って何やってんだ俺……)

 

 

通行人があまりにも可愛いからと言って見過ぎだろ。ほら、女の子も俺のことを凝視しているじゃないか。

 

 

「……はえ?」

 

 

気が付けば、女の子は俺の前に立っていた。

 

肩を上下させて息を整えながら俺の顔を見ている。道幅は広いから邪魔にはなっていない。ならば考えられることは一つ。

 

 

「いや、あの、可愛かったから見ていただけであって、すいません……」

 

 

これセクハラな。何やってんの俺。

 

 

「……………」

 

 

そして何も答えてくれない。

 

どうしよう。眉一つ動かさなかったよ? 聞こえていないのか? いや、引かれている? まさか不審者と思われている!?

 

 

「えっと……決して怪しい者ではありません」

 

 

「……………」

 

 

「……ちょ、ちょっと道に迷っただけなんだ」

 

 

「……………」

 

 

「わ、我は楢原 大樹と言いまして―――」

 

 

何かもう酷いぞ俺。頭のネジが数本足りてないようだ。

 

 

「知ってる」

 

 

やっと喋ってくれたけど知っていましたか。そうですか。

 

 

 

 

 

「……………はい?」

 

 

 

 

 

数秒フリーズした。俺の目が点になる。女の子の顔を見て、確認のために尋ねる。

 

 

「俺のこと、知ってるの……?」

 

 

女の子はコクリッと頷く。

 

ドッと汗が吹き出した。完全記憶能力を使って記憶を辿り戻り、探すが女の子と会った記憶は無い。そもそもこんな可愛い子なら簡単に忘れるわけがない。

 

とりあえず考えが一つ浮かんでいる。

 

 

「あ、原田の知り合いか!? だから俺のことを知っているんだよな!?」

 

 

「……………?」

 

 

しかし、少女は可愛く横に首を傾げていた。どうやらこの世界を先に来た原田のことを知らないらしい。

 

原田から俺の名前を知ったわけじゃない。ならどうして俺の名前を知っているんだ。

 

 

(まさか―――!?)

 

 

―――敵の刺客!?

 

最悪な状況が頭を過ぎる。ポケットに手を入れてギフトカードをいつでも使えるようにする。

 

 

「ずっと会いたかった……ずっと―――」

 

 

女の子は俺に近づく。俺は警戒するが、彼女から敵意を感じられず困惑していた。

 

彼女は一体何なのか。目的は何なのか? 俺との関係は何なのか?

 

何も分からないまま、女の子はソッと—――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———お父さんに会いたかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――俺の体に抱き付いて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!??」

 

 

 

 

 

一人の男の大絶叫が、街に轟いた。

 

 

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原田 亮良(あきら)は絶句していた。

 

大樹を迎えに行こうとしたら、何故か道端で女の子が大樹に抱き付いていたから。

 

しかも大樹のことをお父さんと呼んでいる。原田は震えた声で、大樹に声をかける。

 

 

「お前……30分も経っていないのに……もう子どもを作ったのか……!?」

 

 

「は、原田!? 違う!! 俺はそんなことをしていない! それに30分じゃ無理だろ!?」

 

 

「お前ならできるかと……」

 

 

「やめろおおおおおォォォ!! 俺の最強の捉え方を間違い過ぎだから!? というかいよいよ冗談じゃ済まなくなって来ているから!!」

 

 

そこで原田は思い出す。大樹の嫁たちがこちらに来ていることを!

 

 

「大樹ッ! 今すぐ逃げないと大変な―――!?」

 

 

ドサッ

 

 

原田と大樹は戦慄した。

 

原田の後ろから何かが落ちる音がした。振り返ると地面には服が入ってあろう紙袋が落ちている。

 

そこには大樹の大切な女の子たちがいた。

 

 

「あ、あ、あ、あの、ち、ち、ちが、ちがッ、その、あの、違うんだぁ!!」

 

 

大樹の顔色は真っ青。声が震えているせいで滑舌が悪く、言葉が全く出せていない。

 

最初に口を開いたのはアリアだった。

 

 

「言い分けなら聞くわよ」

 

 

「ッ! 実は道に出た時に―――!」

 

 

「死んだ後に、ね」

 

 

「———待つんだ裁判長おおおおおォォォ!!」

 

 

無慈悲な判決が下されていた。

 

次に口を開いたのは優子。彼女は一言だけ残す。

 

 

「もう終わりね」

 

 

「待って! ねぇお願いだから待ってよぉ!!」

 

 

引き留める大樹の姿は女々しかった。

 

ウサ耳がなくなった黒ウサギ。彼女は意外と優しかった。

 

 

「えっと、面会には毎日行きますので……」

 

 

「俺はこの後どこに監禁されるんだよ!?」

 

 

二度目の刑務所である。

 

二人の様子を見ていた真由美は微笑んでいた。

 

 

「これでも結構、怒っているわよ?」

 

 

「マジですいません!!」

 

 

しかし額には怒りマークのようなモノが見えた気がした。多分、気のせいじゃない。

 

最後にティナだ。

 

 

(大丈夫。ティナは俺の癒しだ。怒っているわけが――—)

 

 

「撃っていいですか?」

 

 

「———こんな街中でやめて! あと撃たないで!」

 

 

かなり怒っていた。

 

こんなカオスな状況になっているにも関わらず、女の子は俺から離れようとしない。

 

 

「おい流石にどういうことなのか説明してくれ!?」

 

 

「覚えていないの?」

 

 

「むしろ俺はいつからお前のお父さんになったのか知りたいわ!」

 

 

「……そう」

 

 

先程から少し彼女の表情には違和感があった。いや違う。表情というモノが(うかが)えないんだ。

 

多分落胆していると思うのだが、落胆したような素振りは一切見せていない。

 

 

「お、おい大樹。どう責任取るとつもりだよ」

 

 

「せ、責任も何も……ホントに分からねぇんだよ。俺はプールの中に飛び込んだだけだぞッ」

 

 

「また水かよ……」

 

 

「同情してないで、お前も何とか言えッ」

 

 

「えぇ……」

 

 

凄く嫌そうな顔をした原田はボリボリと頭を掻いた後、一つ案を思いつく。

 

 

「もし本当に大樹がパパなら、この人は大樹のこと、何でも知っているはずだよな?」

 

 

「……ん? 何が言いたいんだ?」

 

 

「今から大樹について簡単な質問をする。それを答えれたら、本物だと認めたらどうだ?」

 

 

なるほど。確かに、俺が本当にパパなら彼女は答えれるはずだ。というかマジでパパになった記憶はねぇから。

 

 

「望むところ」

 

 

「えッ、ちょっとこれ本当に大丈夫か? この子、めっちゃ勝てる自信に満ち溢れているんだけど? 溢れすぎて怖いんだけど?」

 

 

「お、俺もビックリだ……と、とにかく大樹は問題を出せ。何でもいいから」

 

 

すっごい不安な気持ちになるが、全員に俺がパパでないことを認めさせなければ。

 

コホンッと咳払いをして、質問する。

 

 

「俺の誕生日はいつでしょうか?」

 

 

「4月23日」

 

 

空気が凍った。

 

月を当てるどころか日付までキッチリと当てた。365分の1の確率を的中している。

 

周りは俺の表情を見て悟ったのだろう。正解だと。

 

だがここで終わるわけにはいかない。俺はお前のパパじゃねぇ!!

 

 

「俺の好きなアニメは!?」

 

 

「天元突破グレ〇ラガン」

 

 

「好きな女の子キャラクターは!?」

 

 

「アイドルマ〇ターの星〇 美希」

 

 

「尊敬する人物は!?」

 

 

「シティーハ〇ターの冴〇 リョウ」

 

 

 

 

 

「これ俺の娘なんじゃねぇの!?」

 

 

 

 

 

「「「「「ええええええェェェ!?」」」」」

 

 

全問正解なんだけど!? 百点満点なんだけど!?

 

何だコレ!? どうしてそこまで知っていて当てれるの!?

 

 

「お前……マジでパパだったのか……!」

 

 

「違うッ!! これは誤解だッ! きっと何かの間違いだッ!」

 

 

「でも当たってたんだろ?」

 

 

原田に突きつけられた言葉に何も言い返せない。ただ口を魚のようにパクパクしていた。

 

 

「あんなに混乱している大樹さんは初めて見ました……」

 

 

黒ウサギの言うことに周りも頷く。実際、大樹が嘘を言っていると誰も思っていない。しかし、この矛盾はどういうことなのか、誰一人理解できていなかった。

 

 

「と、とりあえず詳しい話を聞くべきじゃ———」

 

 

優子の言葉はそこで途切れてしまった。

 

 

ウウウウウゥゥゥ―――――!!!

 

 

ビリビリっと耳に来るサイレン音が街一帯に響き渡った。

 

初めて聞くサイレンだが、このサイレンの意味は原田から事前に教えて貰っている。

 

 

「こ、これってまさか……!」

 

 

「『空間震』だッ! 急いで避難するぞッ!」

 

 

真由美が答えるより先に原田が答えた。

 

 

―――空間震警報。

 

 

空間の地震と称される広域振動現象、それが『空間震』。この世界では30年前から続いている。

 

発生原因不明、発声時期不定期、被害規模不確定の爆発、震動、消失、その他諸々の現象の総称である。

 

 

「だがこの俺様なら止めるかもな?」

 

 

「自重しろハゲ!」

 

 

「お前に一番言われたくねぇよ!」

 

 

街に備え付けられたスピーカーから地下シェルターへの案内放送が流れる。地下に籠らなければいけないほどの威力なのか空間震は。

 

地下シェルターがある場所まで走ろうとした時、先程の女の子はシェルターがある逆の方向に行こうとしていた。

 

当然、女の子の手を掴んで止めていた。

 

 

「どこに行く気だ!? 空間震ってのはヤバいんだろ!?」

 

 

「大丈夫。向うのシェルターで待っていて」

 

 

「大丈夫って何が―――っておい!?」

 

 

俺の腕を払い、彼女は走り去って行く。追いかけようとするが、

 

 

「何をやっているんだ大樹!? 大丈夫って言ってるんだ! 今は自分の心配をしろ!」

 

 

「くッ」

 

 

原田に止められ、俺は苦虫を噛み潰したような表情になってしまう。最後は諦め、全員でシェルターがある場所へと目指して走り出した。

 

走っていると、街の住人たちが一ヵ所に入っている場所を見つけだす。あそこがシェルターだとすぐに分かった。

 

 

「……………ッ!」

 

 

俺はシェルターの入り口で足を止める。どうしても頭から彼女のことが離れられない。

 

いきなり俺をお父さん呼ばわりするし、勝手にどこかに行きやがって。

 

空間震がどんなモノか分からないが、野放しにしていいわけがねぇ!

 

 

「俺、やっぱりちょっと行ってくるわ」

 

 

「大樹!!」

 

 

「止めなくていいわよ原田君」

 

 

怒る原田を止めたのは真由美。真由美は俺の顔を見て微笑んでいる。

 

 

「でも、無理はしちゃ駄目よ」

 

 

「ッ……ありがとう!」

 

 

真由美の許可を得た後、俺はアリアに声をかける。

 

 

「すまねぇアリア! 万が一のために力を貸してくれ!」

 

 

「ッ! ええ、いいわよ!」

 

 

てっきり一人で行くと思っていたのだろう。アリアは少し驚いた後、頷いてくれた。

 

他のみんなも、アリアが一緒に行くということに満足して賛成してくれている。

 

 

「原田! 俺の可愛い嫁たちを頼んだぜ!」

 

 

「ああもう! 分かったよ!」

 

 

原田の頼りある返事を聞いた俺とアリアは一緒に走り出した。

 

 

 

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鳴り止まない警報、うるさい街の中を走り抜ける。

 

女の子の姿は見失った。気配で探すが、気配すらどこにもない。

 

 

「ちくしょう! 俺の娘はどこだよ!」

 

 

「何認めているのよあんた!?」

 

 

だって全問正解したじゃん。

 

 

「……もう避難したのかしら」

 

 

「だったらいいけどよぉ……でもそんな気がしねぇんだよ」

 

 

もし避難していたならチョップ一回で許してやろう。親を心配させるなんて、親不孝にも程があるぞ! ってだからパパじゃねぇよ!!

 

 

カッ!!

 

 

その時、視界が眩い光に包まれた。

 

 

「ッ!?」

 

 

「アリアッ!!」

 

 

急いで俺はアリアの前に立ち、神の力を解放する。

 

黄金色の翼が背中から伸び、街全体に大きく広がる。

 

その瞬間、鼓膜を破るような爆音と、凄まじい衝撃波が襲い掛かって来た。

 

 

「【秩序支配神の世界翼(システムルーラー・ワールドフリューゲル)】!!」

 

 

黄金の羽根が飛び散り街全体を衝撃波から守る。

 

恐らくこれが空間震。猛烈な威力は気を抜けば一瞬で体が飛ばされる。

 

 

「大樹ッ!!」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

後頭部に衝撃が走った。すぐに頭の中から熱を帯びた何かが暴れ出す。

 

その正体は緋弾だとすぐに分かった。アリアは俺の頭の中に緋弾を撃ったのだ。

 

 

ゴオォッ!!

 

 

額から緋色の炎が溢れ出し、髪の色を緋色に染め上げる。

 

体の中から溢れ出す莫大な力を一気に放出する。

 

 

「うおおおおおォォォ!!」

 

 

バシュンッ!!

 

 

抑えていた衝撃波を一気に追い返し消滅させた。街はビルのガラスが割れる程度で済み、守ることができたことを証明していた。

 

 

「ふぅ……助かったぜアリア。咄嗟(とっさ)の出来事だったから力を―――」

 

 

「大樹」

 

 

その時、アリアの表情は驚愕に染まっていた。自分の目を疑っているように。

 

すぐにアリアの目を追うと、空に人影のようなモノが浮いているのが見えた。

 

 

「……………嘘だろ」

 

 

アリアが驚愕するのは当然だ。俺も、驚いている。

 

人影は青白い衣装を着た女の子。

 

見間違えることはない。彼女の名は———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———美琴ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――御坂 美琴なのだから。

 

二人の行動は速かった。アリアは大樹の肩に掴まると、大樹はすぐに黄金の翼を使って飛翔した。大樹はアリアが落ちないように片手を腰に回している。

 

すぐに美琴の前までやって来るが、様子が明らかにおかしかった。

 

 

「美琴ッ!!」

 

 

大声で美琴の名前を呼ぶ。

 

青白い衣装はドレスで、大きなスカートをなびかせている。気になるのは周囲に電撃のようなモノが走っていることだ。

 

美琴の超能力者(レベル5)の電撃だろうか? しかし、()()電撃のではないはずだが……?

 

 

『……誰?』

 

 

声は届いた。こちらを見て不思議そうな表情で俺たちを見ている。

 

 

「俺だッ! 大樹だッ!」

 

 

『……………誰?』

 

 

「ごふッ」

 

 

吐血した。

 

 

「あんた急にどうしたのよ!?」

 

 

「美琴が俺のことを覚えていないって……! だ、大丈夫だ……! 優子とアリアだって最初、あんな感じだろうがぁ……!」

 

 

「血を吐くほどなの!? それは耐えられているの!?」

 

 

耐性はちょっとだけ出来上がっていた。ほんのちょっとだけ。

 

美琴の近くまで寄ろうとすると、周囲を走っていた紅い電撃が牙を剥く。

 

 

バチバチッ!!

 

 

「くッ」

 

 

黄金の翼で電撃を叩き消す。しかし電撃は新たに生み出され続け、何度も襲い掛かって来る。

 

 

『や、やめなさい……この力はあたしの意志を無視するの……誰か知らないけど、怪我をする前にどっかに行って!』

 

 

「関係ねぇ!!」

 

 

「ッ!」

 

 

「どんな理由があっても、俺は絶対にやめねぇ! 美琴、お前を助けるために俺はここまで来たんだッ!」

 

 

『何を言っているのよ……』

 

 

「思い出さねぇなら……!」

 

 

ギフトカードから【神刀姫】を取り出し抜刀。

 

 

「思い出させるまでだ!!」

 

 

美琴に向かって突き進んだ。

 

紅い電撃が激しさを増して俺に向かって攻撃を仕掛ける。だが俺の剣術の前では、そんな攻撃は当たらない。

 

 

「———ふッ!!」

 

 

息を吐きながら刀を振るう。紅い電撃は一撃当てるだけで拡散して消滅する。

 

 

バチバチッ!!

 

 

次々と襲い掛かって来るも、冷静に対処する。無駄の無い動きで電撃を消し、徐々に美琴との距離を詰めて行く。

 

 

「美琴ッ!! 手を握ってッ!!」

 

 

アリアが手を伸ばす。美琴は戸惑い、手を伸ばそうとしない。

 

 

「俺は、お前の味方だッ!! 美琴ッ!!」

 

 

「ッ!」

 

 

俺の叫び声にビクッと体を震わせる。美琴はゆっくりとこちらに手を伸ばしてくれた。

 

あと少し、あともうちょっと。

 

 

バチバチッ!! バチバチッ!! バチバチバチバチッ!!

 

 

紅い電撃の猛攻が始める。百を超える数が一斉に大樹たちに向かって降り注ぐ。

 

 

「邪魔をするなあああああァァァ!!」

 

 

ザンッ!!

 

 

大樹の振るった一撃は、全ての電撃を弾いた。

 

片手だけだというのに無茶苦茶過ぎる力に美琴は驚く。アリアは「よくやったわ」っと褒めてくれていた。

 

アリアの手が美琴の手に触れた、その瞬間―――

 

 

ギャンッ!!!

 

 

「危ないッ!!」

 

 

―—―白い光線が、二人を別れさせた。

 

俺はアリアを抱いたまま美琴から距離を取り、光線が来た方向を睨み付ける。

 

 

「チッ……感動の瞬間と、俺の努力を踏みにじるとかふざけやがって。結構キレてるぞ俺」

 

 

「奇遇ね。あたしも怒っているわ」

 

 

数は20を超えている。黒い装甲のようなスーツを着た女性たちが俺たちを囲んでいた。

 

背中に付けた大きなスラスター。手には大きな武器を構えて飛んでいる。未来的な戦闘服に厄介だと思い舌打ちをしてしまう。

 

 

「精霊が三人!? どういうこと!?」

 

 

「一人は男性のようですがこれは!?」

 

 

(精霊? 何を言ってんだコイツらは?)

 

 

彼女たちが動揺しているのが分かる。そして精霊という単語は聞き逃せなかった。

 

 

「待って」

 

 

その時、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

前に出て来たのは、先程俺のことをパパとか言っていた女の子だった。

 

 

「お前……こんなところに居たのかよ」

 

 

「お父さん。邪魔をしないで」

 

 

「「「「「お、お父さんッ!?」」」」」

 

 

「おい待てぇ!? 違うって言ってんだろうが!!」

 

 

誤解を周りに伝染させてんじゃねぇぞ!?

 

 

「あと邪魔するなというセリフはこっちのセリフだ! 俺の嫁に手を出してんじゃねぇ!!」

 

 

「「「「「よ、嫁!?」」」」」

 

 

「あんたも余計なことを言ってんじゃないわよ!!」

 

 

アリアさん痛いです! 殴らないでぇ!

 

 

「……【ライトニング】から離れて」

 

 

「美琴に中二病な名前を付けてんじゃねぇよ。断る」

 

 

互いに一歩も譲らない。しかし、他の者達が動き出す。

 

 

鳶一(とびいち)一曹! 離れてください!」

 

 

折紙(おりがみ)! 上からの命令よ! ターゲットの【ライトニング】を優先、並びに精霊の可能性がある二人にも攻撃を開始するわ!」

 

 

あの少女の名前は鳶一(とびいち) 折紙(おりがみ)って言うのか。一曹なのはビックリだが、今はそんなことを考えている場合じゃないか。

 

全員から巨大な武器の銃口を向けられている。折紙だけが何もしていない。アイツは攻撃したくないだろう。

 

 

「ハッハッハッ、いきなり物騒なことに巻き込まれたな」

 

 

「笑ってる場合?」

 

 

「焦っていない時点で終わりだぜアリア? お前もこっちの世界の住人だ」

 

 

「やめて。笑えないわ」

 

 

それでも二人は逃げない。美琴の前から引こうとしなかった。

 

 

「来るなら来いよ。手加減はちゃんとしてやる」

 

 

「ッ! 総員攻撃―――!」

 

 

一人の女性が合図を出そうとした瞬間―――

 

 

ヒュンッ

 

 

―――鋭い一閃が走った。

 

いつの間にか抜刀していた大樹の刀は鞘に収まり、目を閉じていた。

 

 

「———開始!!」

 

 

ガチンッ!!

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

引き金の音()()が響いた。

 

武器の銃口から光線やミサイルは発射されず、武器は死んだように何も答えてくれない。

 

 

「開花」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

大樹が一言呟いた。そのタイミングに合わせたかのように武器が粉々に分解した。

 

爆発することもなく、ただ細切れになる武器。その光景に女性たちは言葉を失った。

 

 

「どうだアリア!? 今の俺、カッコイイだろ!? 惚れただろ!?」

 

 

「最後のそれが無かったら良かったわ」

 

 

絶句する女性たちの前で呑気な会話をする二人。何が起こったのか彼女たちには理解できなかった。

 

 

「これで武器は無くなったよな? ほら、家に帰って寝ろ」

 

 

「クッ! 急いで随意領域(テリトリー)を展開して! レイザーブレイドで仕留めるのよ!」

 

 

今度は女性たちの周りに障壁のようなモノが展開された。背中から短い棒のようなモノを取り出すと、先から光の刃が出現した。

 

 

「何アレかっけぇ」

 

 

「戦闘に集中しなさい。今度は簡単に行かない気がするわ」

 

 

アリアの言うことには同意だ。あのデリバリーかデリ〇ードか知らねぇけど、厄介だな。手加減したいけど頑丈そうだし、本気を出せばテリヤキごと搭乗者も吹っ飛ばして―――あれ?

 

 

「どうしようアリア。この戦い、一瞬で終わらせる方法を見つけた」

 

 

「……………」

 

 

はい予想通りアリアに『うわぁ……』って顔をされました。だって私、最強ですから。

 

 

「【秩序支配神の世界翼(システムルーラー・ワールドフリューゲル)】」

 

 

再度黄金の羽根を女性たちの前に散らばらせる。すると彼女たちを守っていた随意領域(テリトリー)がバキリッと音を立てながら崩壊した。

 

 

「なッ!? 随意領域(テリトリー)を無効化した!?」

 

 

「せ、制御ができない!?」

 

 

「そんなッ!? システムオールダウン!?」

 

 

フハハハッ、俺の力は全てを支配する! 何も触らずともこの街の電気を全部落とすことも、リモコンの電源ボタンだけを押すことだってできる! 二重の意味で無駄無駄ッ!!

 

スラスターなど機械装置は全てシャットダウンされ、次々と悲鳴を上げながら墜落し始めた。あッ。

 

 

「しまったあああああァァァ!?」

 

 

「何やってんのよ馬鹿あああああァァァ!?」

 

 

そりゃそうだ! 人間は飛べないのに、翼を()ったら落ちるに決まっている! このままじゃ死んじゃう!? 

 

アリアを抱いたまま飛翔し、次々と女性を背中の上に乗せて回収する。

 

 

「うおおおおおォォォ!!!」

 

 

ズシッ、ズシッ、ズシッっと背中がダンダンと重くなるのを必死に我慢する。

 

全員を乗せた時には亀よりも遅いスピードで飛行していた。

 

 

「お、重ッ……くねぇよ……! 女の子は、綿のようにッ、軽いんだッ……!」

 

 

「その理想は捨てなさい。絶対重いはずよ。重い機械も乗せているんだから」

 

 

ちくしょう……女の子だけだったら余裕なのに……! 機械兵器がすっごい重い!!

 

ゆっくりと下降し、道路に倒れて着地する。アリアは倒れる前に脱出した。

 

もうこれ以上……動けましぇん……。爆裂魔法も出せる気がしましぇん。元々出せねぇよ。

 

 

「……これ、精霊なの?」

 

 

「わ、分からないわ」

 

 

「精霊は女だったはずよ。これは男でしょ?」

 

 

「でも羽があるのよ?」

 

 

「助けてくれたのでしょ? 味方という線は?」

 

 

「ない、と思う」

 

 

女性たちが話し合っているが、どうでもいい。俺の背中からどけ。

 

 

「生きてるかしら?」

 

 

「ギリギリ」

 

 

「そう」

 

 

アリア先輩、生死確認の仕方が雑じゃないですかね? 生きてるからいいけど。

 

 

バチバチガシャアアアアアァァァンッ!!

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

上空から耳を劈くような雷鳴が轟いた。耳を塞ぎ、全員が驚きながら空を見上げる。

 

 

「美琴ッ……美琴おおおおおォォォ!!」

 

 

目を疑うような光景に美琴の名前を思わず叫ぶ。

 

美琴の周りで弾けていた紅い電撃がさらに激しさを増し、ついには空を埋め尽くした。

 

花火のように綺麗とか生易しい光景には見えない。まるで世界が終わるかのような悲惨な光景だった。

 

 

「またかッ……総員退避ッ!!」

 

 

女性指揮官の指示が飛ぶ。隊員の女性たちは必死に逃げようとする。しかし、それは悪手だ。

 

 

バチバチッ!!

 

 

「キャアッ!!」

 

 

「チッ!!」

 

 

音速で移動し、女性たちに降り注ごうとした電撃を刀で弾く。

 

 

「お前らを守る機械は動かせねぇのに、動き回るんじゃねぇ! 死にたくなかったら俺の後ろにいろッ!!」

 

 

俺の怒号に女性たちは互いに目を合わせてどうするか戸惑っていたが、すぐに俺の背後へと集まる。

 

 

『どうしよう……また……止まらないッ……!?』

 

 

恐怖に染まった美琴が震える体を自分で抑えている。その姿は、あの悲劇の光景と重なった。

 

 

―――美琴の背中に黒い矢が刺さる瞬間と。

 

 

それだけは、もう見たくない!

 

 

「———ォォォおおおおおッ!!!」

 

 

ザンッ!!!

 

 

腹の底から出した声と共に刀を振るう。刀から放たれた緋色の爆炎が紅い電撃を相殺する。

 

後ろには大切な人がいる。機械を動かせない女性たちがいる。

 

この場にいる全員を、救わなければ意味が無い! だけど、美琴に……!

 

 

(クソッ! 近づけねぇ!!)

 

 

一番救いたい大切な人を救えない。それが一番の苦痛だった。

 

 

ガガァドゴオオオオオンッ!!!

 

 

街を破壊するかのような、巨大な落雷が最後に轟いた。

 

目を焼き尽くすような閃光が、瞬いた。

 

 

________________________

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 

息を切らしながら周囲を見渡す。建物はほとんどが瓦解し、黒く染まっていた。

 

あの雷撃が全てを焦がし、崩壊させたことを物語っている。

 

空を見上げれば、そこにはもう美琴はいない。あの一瞬、美琴は瞬間移動でもしたかのように、姿を消した。

 

唯一、俺の背後だけ被害は無かった。女性たちが驚きながら辺りを見ている。

 

 

「大樹ッ!?」

 

 

アリアが俺の体を支えながら駆け寄って来る。俺はグッと親指を立てて大丈夫なことを伝える。

 

 

「……助かった。正直、アリアの力が無かったら厳しかったぜ」

 

 

「無理はしなくていいわ。美琴が無事なら、これから何度も会えばいいでしょ」

 

 

簡単に見抜かれていることに驚きを隠せない。美琴のことでショックを受けている俺が無理をしていると、すぐにバレてしまった。

 

アリアは小声で俺の耳元で話す。

 

 

「……それよりここを離れましょ。目立ったからには、身を隠す必要があるわ」

 

 

「そうだな。一緒にゲームしながら引き籠るか」

 

 

「……一緒にゲームをすることには文句はないけど、引き籠りはお断りよ」

 

 

半分断られました。一緒にやるゲームは有名なマ〇オさんに頼りますね。俺がキ〇ピオを使った時の戦闘力は53万ですよ? 〇リオより強いんダゼ?

 

 

「……………」

 

 

この場から離脱しようとアリアをお姫様抱っこした時、折紙と目が合った。

 

何て声を掛ければいいのか分からない。何て顔をすればいいのか知らない。

 

だが、情報は必要だ。短時間でたくさんの情報を集めたい。

 

 

「……一応、待っておくわ」

 

 

「ッ!」

 

 

俺はそう言い残し、跳躍して逃げ出した。

 

彼女を利用する、最低な理由だ。

 

 

________________________

 

 

 

「大樹ッ!!」

 

 

セキュリティ対策が施された緊急用出入口の扉は端末を使ってハッキング。簡単に開錠することができた。

 

一番最初に俺の名前を呼んだのは原田。原田は俺の背後に回り腰辺りに腕を回した瞬間、

 

 

「死ねやオラァ!!」

 

 

ゴンッ!!

 

 

「はぁんッ!?」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

後方に反り投げ、ジャーマン・スープレックスを決めた。大樹は頭部から堅い床にめり込ませてノックダウン。カンカンカンカンッ!!っとゴングが高らかに鳴ったような気がした。

 

 

「ここからでもお前が神の力をフルで使ったのが分かるんだよ! 絶対目立っただろ!? 絶対目立っただろ!?」

 

 

大事なことなので二回も言う原田。

 

 

「もごご! もごもごもごもぉ!!」

 

 

「あぁ!? 『違う! アレは仕方ない!』だと!? うるせぇ! テメェは何度注意されれば気が済むんだ!?」

 

 

頭がめり込んだ大樹に説教をする原田。異様な光景に全員がドン引きした。

 

アリアは何があったか事情を説明し、話を聞いた原田は頭を抱えている。

 

ティナは大樹の頭を床から抜こうと頑張っていた。

 

 

「もげそう」

 

 

「でも、また生えますよね?」

 

 

「何それ怖い」

 

 

頭を床から引っこ抜いた後は優子たちから説教を受けた。

 

 

________________________

 

 

 

シェルターは無人になり、俺たち以外の人たちはいなくなった。放送で空間震は終わったと報告されたからな。いつまでもここにいる理由は無い。

 

もうすぐ俺の娘が来る……ってだから俺はッ……もうこの下りはいいか。そろそろしつこい。

 

初日から波乱だな。ん? いつも通りか? それはヤバいです。

 

シェルターに備え付けられた自販機からジュースを買い、飲んでいると、

 

 

「……来たようだな」

 

 

入り口からコツコツと靴の音を鳴らしながら近づいて来たのは自称俺の娘である鳶一(とびいち) 折紙(おりがみ)。最初に出会った時と同じ制服だ。

 

一同は息を飲み、視線を彼女に集める。

 

 

「さぁて、詳しく―――って待て待て待て待て」

 

 

俺の言葉は途切れてしまった。折紙は俺に向かってどんどん近づいて来たからだ。その速さ、止まることを知らない。

 

壁まで追い詰められたが、折紙は俺の体に触れるから触れない距離で止まってくれた。

 

 

「もう二度と、あんな危ない真似はしないで欲しい」

 

 

「は、はいッ」

 

 

(((((素直ッ!?)))))

 

 

大樹の素直さに周りは驚愕。だって凄いよ? 何か凄い圧力を感じる。

 

 

「そ、それで話を聞きたいことがあるのだが……」

 

 

「大丈夫」

 

 

ガシッ

 

 

折紙は俺の腕にガッチリと抱き付き、そのまま出口へと―――

 

 

「「「「「ってちょッ!?」」」」」

 

 

あまりの自然な流れ過ぎて反応が遅れた。左腕は折紙に掴まり、右腕は女の子たちに掴まれた。

 

 

「痛いッ!? 千切れる!?」

 

 

「私とお父さんはこれから大事な話がある。邪魔をしないで欲しい」

 

 

「邪魔とかの問題じゃないわよ!」

 

 

「大樹君を連れて行く理由はないでしょ!」

 

 

「あ、普通に俺のことはスルーされてて逆に安心したわ」

 

 

アリアと優子が反論しながら俺の腕を引っ張る。やっべ、超痛い。

 

 

「極秘とされた話にあなたたち一般市民を巻き込むわけにはいかない」

 

 

「それなら大樹さんも一般市民です!」

 

 

「え? ……そ、そうね!」

 

 

黒ウサギの言うことは正しいが、おい待て真由美。今、俺の顔を見て一般人じゃないだろって顔しただろう。傷付くわ。

 

 

「大樹さん。折れてしまうかもしれませんが、本気を出していいですか?」

 

 

「よくない。全然よくない」

 

 

確かにティナが本気を出せばこの状態は解かれるだろう。でもやめて。

 

 

ピッ ガシャンッ

 

 

原田(アイツ)は何でジュース買ってんだよッ!? ぶっ飛ばすぞ!?

 

……腕がミシミシ言っているので、そろそろ止めないと。

 

 

「な、なぁ鳶一。大事な話って言っても―――」

 

 

「折紙」

 

 

「ん?」

 

 

「折紙と、呼んで欲しい」

 

 

「……こ、今度な。それより———」

 

 

「呼んで欲しい」

 

 

「……あの」

 

 

「呼んでほしい」

 

 

「……折紙。大事な話をここでやって欲しい」

 

 

「分かった」

 

 

何で俺の言うことだけは頷くのでしょうかねぇ? ほらぁ、嫁たちの視線が痛いよ? 熱い視線で体に風穴が開いちゃうよ? アリアはちょっと拳銃に弾を入れ始めているし物理的にも開いちゃうよ?

 

 

「とりあえず、最初から話そう。まだ状況を理解できていない人もいるからな」

 

 

「最初……日程から?」

 

 

「うん、ごめん。何の話をしてるお前?」

 

 

ヤバい。また話が噛み合っていない気がする。折紙は首をコテンっと横に傾げて俺に確認する。

 

 

 

 

 

「結婚式?」

 

 

 

 

 

「おい待て待てよ待つんだ待ちやがれぇ!?」

 

 

「「「「「ええええええェェェ!?」」」」」

 

 

「ブフッ!?」

 

 

俺は両手を挙げて驚愕。嫁たちも驚愕。原田は噴き出した。

 

 

「違う?」

 

 

「大いに違うわッ!! 原田に向かってイケメンって言うくらい違うわ!!」

 

 

「んだとテメェ!?」

 

 

「そもそもお前は俺の娘じゃなかったのか!?」

 

 

「血は繋がっていない。つまり結婚はできる」

 

 

「『つまり』の使い方から話が飛躍し過ぎだろ!? お父さんビックリだよ!?」

 

 

「お義父さんだから問題無い」

 

 

「大アリだあああああァァァ!!! というか日程ってそもそも何だよ!?」

 

 

折紙は少し考えたと、答えを口にする。

 

 

「初デートは———」

 

 

「だからそれは違ぇって言ってんだろうがぁ!? お前はどこに迷走しているんだよ!?」

 

 

「出会いは———」

 

 

「医者を呼べぇッ!! もう俺の手には負えねぇぞ!!」

 

 

強敵すぎる。この俺を軽く超えてやがるぞ。

 

 

「精霊だよ精霊! お前らが攻撃しようとした精霊の話を聞こうとしているんだよ!?」

 

 

俺の言葉でやっと話を戻すことに成功。折紙は首を横に振った。

 

 

「それはもっと極秘。話すことはできない」

 

 

「……パパのこと嫌いか?」

 

 

「少しだけなら話せる」

 

 

原田と女の子たちはその場で転んだ。

 

原田は苦笑いで二人のやり取りを見守る。

 

 

「アイツ……もう立場を利用しているな」

 

 

「言いたいことはたくさんあるけど、()()見逃すわ……」

 

 

アリアの一言に全員が賛成した。()()、大樹のお仕置きが確定した瞬間である。

 

 

「じゃあ話してくれ」(お仕置きか……エロいことだったらいいなぁ……まぁそんなこと絶対にありえないが)

 

 

「大人数には話せない。やはり二人になれる場所が好ましい」

 

 

「はぁ……最後に俺は聞いた話を皆に教えるぞ? 変わらないだろ?」

 

 

「それは構わない。ただ———」

 

 

折紙は視線を横に移す。視線を追うと、言葉の意味が分かった。

 

 

「———聞かれると、とても困る」

 

 

視線の先には監視カメラが設置されていた。なるほど、ここで話せないのは本当だったのか。

 

今のやり取りでアリアとティナが勘付いてくれた。二人は周りに小声で説明し終えた後、アリアは頷いてくれた。よし、許可を貰えたか。良かったー! でも目の瞬きでモールス信号送るのやめてくれないかな? 『浮気は風穴』ってめっちゃ怖いんですけど? やだもー。

 

 

「分かった。場所を移そう。どこか良い場所はあるのか?」

 

 

俺の質問に折紙は頷いたので、俺はついて行くにした。

 

 

 

そしてこの選択は、(のち)に後悔することになると大樹は知らない。

 

 

 

波乱の一日……いや、最悪はまだ終わりを告げていない。

 

 

 




うわー、ヒロインが誰なのか全然わかんないやー(棒読み)

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