どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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大樹「駄目だって前も言ったよな?」


ごめんなさい。デート・ア・ライブ編の最新話の後にどうぞ見てください。


そして今回限りの一発ネタをどうぞ。


誕生日の番外編だけど内容は別に関係ないけどいいよね? あとまた一日遅れたけど許してくれるよね?

「ホラ祝えよベ〇ータ」

 

 

「何も笑えねぇし祝えねぇよ」

 

 

目の前に居るのは最近七罪と良い感じになってムカつくリア充野郎と化した原田 亮良が嫌そうな顔で俺を見ていた。でも残念、嫁を七人も居る俺の方がリア充でした。昔の自分を見たらビックリすると思う。

 

そんなわけで今日は俺の誕生日です。物語とか現実世界とか、そういう難しい話は置いといて。

 

 

「今日は俺のやりたいことをやる。それだけだ」

 

 

「……聞きたくないが、何をするんだ」

 

 

「ナニをする」

 

 

「死ねよ」

 

 

「冗談は置いといて、前回は嫁から素敵なプレゼントを貰い、お前からは鼻くそに鼻くそを塗り足したようなクソ寒いプレゼントを貰ったことを覚えているか?」

 

 

「俺のプレゼントがクソだと言いたいことは分かった。それで?」

 

 

「まぁ落ち着け。実は最近ツッタッカッターの方から読者のメッセージを見て一つ思いついたこともあった」

 

 

「ツ〇ッターな」

 

 

 

 

 

「———とりあえず、転生して他の作品で暴れようぜ」

 

 

 

 

 

「お前何てことを」

 

 

「よくね? だって番外編だぜ?」

 

 

「やっていいことと悪いことがあるだろ!」

 

 

「悪いと思わないからやるんだろ」

 

 

「屁理屈言うな! 絶対に駄目だ!」

 

 

「えー、じゃあ逆はいいのか?」

 

 

「逆?」

 

 

「この作品に他の作品のキャラをここに呼ぶ」

 

 

「やめろ」

 

 

開始早々出鼻を挫かれる。ブーブー、頭の固い奴め。律儀なんだよお前は! もっと俺を見習え! 見習うべきところは数え切れないくらいあるだろ? 何故なら星の数はあるからな!

 

原田に文句を言い続けると、何か諦めたかのように話を切り出す。

 

 

「分かった分かった。じゃあアレで我慢しろ」

 

 

「お? 何だ? 何をするんだ?」

 

 

「上条とか遠山辺りで我慢しろ」

 

 

「嫌だよ」

 

 

何で男に祝われる必要がある。インデックスとか理子なら話はまだ分かる。男は意味が分からない。

 

 

「ステイルとか武藤も連れて来る」

 

 

「もっと嫌だよ馬鹿野郎!!」

 

 

「誕生日だからって何でもできると思うなよクソが!!」

 

 

「うるせぇ!! 番外編は自由だ! 俺が裸で踊って警察に捕まっても、物語の進行には関係ねぇんだよ!」

 

 

「メタいこと言うなよ!?」

 

 

「それにこれを書いたのだってラ〇ンで友達から『小説楽しみにしとくぜ』って無言の圧力が来たから書いたんだろうが!」

 

 

「ホントメタいからやめろ!!」

 

 

ぜぇぜぇと二人は息を荒げる。一歩も譲らない両者に、

 

 

「———あの、そろそろいいでしょうか?」

 

 

その時、ウェーブのかかった髪と巨乳が大人の雰囲気を出している女性に話かけられた。

 

二人はバッと手を出して、

 

 

「あと少し待て。読者に理解して貰える回想がもう終わる」

 

 

「ああ、あと五、六回ツッコミを入れたら終わる」

 

 

「は、はぁ……」

 

 

さて、邪魔が入ったが何とか続けれそうだ。

 

 

「じゃあ俺の誕生日はどうやって祝う。ケーキ程度で喜ぶ歳じゃないぞ俺は!」

 

 

「好きな人から貰った毒物でも泣いて食べる奴が何を言う……」

 

 

「おい待てゴラァ。毒物だと? アリアと真由美が一生懸命に作った料理を毒物だとぉ!? ふざけるなぁ! 例え野菜のヘタが入っていても、化学薬品が混ざっていても、よく分からない何かが入っていても、愛情のたっぷりの手作りだぁゴラァ!!!」

 

 

「それを毒物って言うんだよ!?」

 

 

「———何やっているんだアンタら」

 

 

今度は茶髪の茶目の男に話しかけられる。俺たちは溜め息をついて男に事情を話す。

 

 

「回想シーンって言葉くらい知っているだろ? 今、それやっているの?」

 

 

「そうだぞ。大樹だって珍しく真面目にやっているんだ。邪魔をするな」

 

 

「……駄目だコイツら。おいめぐみん、爆裂魔法で吹き飛ばしていいぞ」

 

 

……今、物騒な言葉が聞こえて来た。

 

爆裂魔法? はぁ? ナニソレ美味しいの?

 

男が話しかけたのは隣に居た少女。魔女っ娘のような恰好に赤い目をした黒髪の女の子。

 

 

「無理ですよカズマ。こんな所で飛ばしたら冒険者ギルドごと吹っ飛びますよ」

 

 

「冒険者ギルドの前で訳の分からないことを言ってる二人には良い薬だと思うがな」

 

 

「「あぁ?」」

 

 

大樹と原田は同時に男を睨み付ける。

 

 

「原田には良い薬かもしれないが俺は違うだろ。常識人だし」

 

 

「大樹には効く薬かもしれないが俺は違うな。俺は常識を持っている」

 

 

「「やんのかコラァ!!」」

 

 

「あーもう! 邪魔だよお前ら! ギルドの前で迷惑なの分かんねぇよか!!」

 

 

声を荒げるカズマと呼ばれる男。気が付けば多くの視線が集まっている。

 

大樹と原田は同時に鼻で笑う。

 

 

「「今回限りの出番がでしゃばるなよッ」」

 

 

「「「「「ぶっ殺」」」」」

 

 

こうして大樹と原田は冒険者と呼ばれるならず者に襲われる。

 

 

———ここは駆け出し冒険者の街、『アクセル』。

 

 

———神から力を貰った男とその愉快な仲間の男が何故この街に?

 

 

 

________________________

 

 

 

 

「なるほどなるほど、右から冒険者のサトウ カズマ、アークウィザードのめぐみん、クルセイダーのダクネス、自称女神のアクアか」

 

 

「自称って言った! また信じて貰えてないんですけど!」

 

 

涙を流しながら俺の肩をガクガクと揺さぶるアクア。水色の長い髪に人間離れした美貌が残念な性格によって粉砕。女神というか神に近い力を感じるが無視する。

 

ダクネスと紹介された女性は金髪碧眼の女騎士。落ち着いた様子で見ているが、何かあることを確信している。

 

そしてめぐみん。お前の名前はどうなっている。スルーしているが、あだ名だよな? 自分で言っちゃってるけどあだ名だよな? 我が名はめぐみん!とか堂々と名乗っていたけど、本当は違うよな?

 

最後は完全に俺と同じ日本人のサトウ カズマ。周囲に人間とは明らかに違うことが分かる。

 

 

「原田。俺、コイツらの相手するの嫌だ」

 

 

「我慢しろ。難しい魔法陣を書いているから集中したい」

 

 

そう言って隣に居る原田は一枚の紙に真剣な顔で慎重に魔法陣を描いていた。

 

説明しよう。俺たちがここに居る理由を。

 

それは何と———!!

 

 

 

 

———ネタが無いから『このすば!』の力を借りた。以上。

 

 

 

 

———というのは嘘で、原田の描いた魔法陣が暴走したことにしておいて。何か行きたかった場所に行けなかった的な感じで。はい。

 

 

「コイツの魔法陣が書き終わるまで日本に帰れねぇんだよなぁ」

 

 

「日本!? やっぱりアンタは……というか帰れるのか!?」

 

 

「俺たちだけ、な」

 

 

「そういうと思ったよ! ああ、日本に帰りてぇ……」

 

 

カズマは一瞬だけキラキラとした目になったが、死んだ魚の目に戻る。残念だったな。

 

 

「あなたたちは何者なの? カズマと同じじゃないわよね?」

 

 

「だろうな。全く違う人間だ」

 

 

アクアの質問に首を横に振る。今度はめぐみんに尋ねられる。

 

 

「カズマの出身地と同じですか。ニホンとはそんなに良い所なのですね」

 

 

「ああ、ボタン一つで女性の裸体を見れる便利な国だ。どこの国よりも発展して———」

 

 

「やめろぉ! 俺に対する視線が痛いだろうが! もっと良い事があるだろ!?」

 

 

めぐみんとダクネスはカズマから距離を取った。ざまぁ。

 

今度はカズマが俺の肩をガクガクと揺らすが、良い事ねぇ。

 

 

「可愛い女の子に対して『ブヒィィイイイイイ!』って言う所とか?」

 

 

「お前日本の何を見てんだよ!?」

 

 

「フッ、未来さ」

 

 

「舐めんな!」

 

 

カズマは俺と話すのが疲れたのか店員さんに飲み物を頼んでいた。それを見た俺は手を挙げる。

 

 

「シュワシュワを一つ。代金は……なぁアクア。本当は水の女神様だと俺は知っているからな? 内から秘められている力なんて見えているから安心しろよ」

 

 

「どんどん頼みなさい! お金ならいくらでもあるから!」

 

 

ちょろい。この女神、ちょろいわ。

 

店員さんが持って来た飲み物をグッと一気に飲んだ後、カズマに尋ねる。

 

 

「プハァ! 話は大体分かったゲプゥ」

 

 

「汚ッ!?」

 

 

「とりあえず暇だ。原田が魔法陣を完成させるまでにこの街を見学するかな」

 

 

「……俺は結局、アンタたちが何者なのか分からないのだが」

 

 

「悪いスライムじゃないよ!」

 

 

「スライムじゃねぇだろ。まぁ悪さをしないならいいか」

 

 

「いや、それで本当に良いんですか……」

 

 

めぐみんが引いた表情でカズマを見ている。そんな顔でもカズマはドヤ顔で言い返す。

 

 

「もう分かるだろ? 変なことをすればロクなことにならない。俺は早い内から手を引かせて貰う」

 

 

「相変わらずクズさですね」

 

 

「なるほど、クズマか」

 

 

「引っ叩くぞ」

 

 

厄介な人物として認識されている辺り、俺も物申したいことがあるわ。でも我慢する。もう大人だから。キリッ。

 

 

「だけどカズマ。お前、貧弱そうな体をしているのに冒険者なんて大丈夫か?」

 

 

「余計なお世話だ。この三馬鹿より有能だぞ俺は」

 

 

「「「ちょっと待て」」」

 

 

「まぁその点は何となく予想できた」

 

 

「「「表に出ろ」」」

 

 

この三人が問題を起こすのは間違っていないようだ。

 

カズマは冒険者カードという物を教えてくれた。レベル、ステータス、スキルの習得などなど便利なことを。

 

俺も欲しいと言うとカズマはポンと金を出してくれた。

 

 

「いいのか? 別に俺には財布の神様が居るぞ?」

 

 

「え? それって……」

 

 

「どうした、水の女神様?」

 

 

「だよね! アタシのことじゃないよね! ビックリさせないでよもぉ!」

 

 

ちょろいわ。

 

 

「この後クエストに行こうと思っていたんだよ。どうせなら見学ついでに戦ってみたらいいさ」

 

 

「……本音は?」

 

 

「さっき冒険者たちに襲われたクセに無傷だから三馬鹿より使えることは確信した」

 

 

「賢いなお前」

 

 

小声で本音をぶちまけるカズマに俺はビックリしていた。清々しい程、スッキリとした答えだった。

 

カズマたちに連れられ冒険者ギルドのカウンターに行く。そこには先程の女性が受付をしていた。

 

とりあえず一言謝ってから冒険者カードの登録をする。身体情報は手動だが、後はカードに触れるだけ。

 

触れた後は受付の人に見せるのだが、

 

 

パリンッ……

 

 

「は?」

 

 

「「「「「え」」」」」

 

 

「えぇ!?」

 

 

触れた瞬間、カードが粉々に壊れたのだ。

 

俺の目が点になり、周囲に居た冒険者たちの目も点になる。受付の女性は仰天していた。

 

 

「な、何をしたらこうなるのですか!?」

 

 

「知らねぇよ! 俺は悪くねぇだろ! どういうことだカズマ!?」

 

 

「俺が一番聞きてぇよ!」

 

 

でも心当たりはある。神の力が原因だということは。ここでもそれが適応されるぅ? マ・ジ・か・YO?

 

ギルドに居る全員の視線が集まる中、俺は笑顔で頷く。

 

 

「カード程度で、俺の力は図り切れねぇってことだぁ!!」

 

 

「……いや別にカッコ良くねぇよ?」

 

 

 

________________________

 

 

 

 

【採取クエスト】

 

 

《三日以内にラルートの実を採取せよ!》

 

 

 

「ラルートの実?」

 

 

木々が生い茂った森を進みながらクエスト目標を口にする。カズマはああと答える。

 

 

「料理人が急ぎで欲しいだと」

 

 

「どんな実だよ」

 

 

カズマは一枚の紙を取り出すと俺に渡す。そこにはリンゴのような絵が描かれていた。

 

 

「リンゴじゃん」

 

 

「だよな」

 

 

カズマが同意して来たことに俺は驚きを隠せない。この世界のリンゴはラルートの実なのか。

 

紙を見ていると、めぐみんが顎に手を当てながら疑問を口にしていた。

 

 

「でも変ですよね。ラルートの実は本来、冬に採取するはずだったのですが…」

 

 

「クエストが出ている時点で大丈夫じゃねぇの? ギルドも認めているなら、この季節でも採取できるんだろ」

 

 

草木を小太刀で斬りながらカズマは答える。刀を見て俺は柄に書かれた文字が気になった。

 

 

「カズマ、刀の名前を聞いてもか?」

 

 

「ちゅんちゅん丸です」

 

 

答えたのはめぐみんだった。

 

カズマの動きが止まる。どうやら本当のようだ。

 

 

「爆笑」

 

 

次の瞬間、カズマは俺に向かってちゅんちゅん丸を投げて来た。

 

 

 

________________________

 

 

 

 

ズシンッ……ズシンッ……!

 

 

森の中を進むと重々しい音が響き渡った。鳥や生き物が一斉に逃げ出すさまを見てカズマたちは焦り出す。

 

 

「な、何だ!? 地震か!?」

 

 

「いや、アレだろ」

 

 

慌てるカズマに冷静な大樹は顔を向けて教える。四人が視線を追うと、そこには巨大な岩が動いていた。

 

否。それは巨大な岩ではなく、巨大な亀であった。

 

背から巨木が空に向かって伸びており、ゆっくりと動いていた。

 

 

「「「「————は?」」」」

 

 

四人の顔が作画崩壊みたいな感じでアホになった。面白いわ。

 

 

「……カズマカズマ。アイツの名前を知っていますか?」

 

 

「めぐみんは知っているのか!?」

 

 

「ラノレートです」

 

 

「は?」

 

 

察した。全てを察したので俺は黙っておく。

 

 

「ラノレートです」

 

 

「……………」

 

 

「そのモンスターの背から生える木に()る実は貴重で、黄金色の果実が———」

 

 

おい、カズマが首を横に振っているぞ。否定してやれよ。無理だけど。

 

 

「ラルートの実は黒色だと聞いているぞ」

 

 

ダクネスの追撃。ポンッと全てを理解した女神のアクアは元気よく答える。

 

 

「ラノレートの実はあの木にあるのね!」

 

 

「舐めんな!!!」

 

 

カズマが暴れ出した。今回受けたクエストの内容は、あの巨大な亀の背中から生えた大木に生っている実を採取するということか。

 

 

「ラルートがラノレート……こんなことがあるとは普通思わねぇよ」

 

 

「私たちは何度もあるがな」

 

 

ドヤ顔でダクネスが俺に言う。何も誇れるモノは無いよキミ。

 

その時、ダクネスは近くにあった廃墟らしき建物に気付く。

 

 

「なぁカズマ。一つ策があるのだが———」

 

 

そして俺は知ることになる。このダクネスの正体を。

 

 

________________________

 

 

 

 

「い、行くぞカズマ? 本当に行くぞ!?」

 

 

嬉しそうな顔で剣を振り回す騎士。それはそれは楽しそうな顔でした。

 

爆弾岩と呼ばれるモンスターの上に廃墟で見つけた頑丈な扉を乗せていた。名前の通り、爆発する。うん、逆に爆発しないと怖いよな。

 

作戦はこう。爆弾岩を爆発させて、頑丈な扉を爆風で飛ばす。扉の上に乗った俺たちも飛ぶ。アイ、キャン、フライ。そして最後はクエスト目標であるラノレートの実を取って帰る。

 

 

———めちゃくちゃ過ぎて草は生える。

 

 

ダクネスを除いたカズマたちは死んだ目で扉に乗っていた。いや違う。これから死にに行く目でこれ。どんだけ覚悟を決めているんだよ。

 

俺はダクネスの正体を見破った。コイツ、ドMだろ。

 

 

「お前、変態クルセイダーだったのか」

 

 

「違う」

 

 

凛々しい顔で否定するダクネス。俺は無言でダクネスの髪をグッと軽く引っ張った。

 

最低な行為に普通の人間なら激怒するだろう。だが、

 

 

「んあっ……!」

 

 

そして、このご満悦な表情である。

 

 

「ヤバい。鳥肌が凄いぞ。萌えるより燃える。何か大事な物が燃える」

 

 

「人の髪を引っ張って置いて何を言っている!?」

 

 

「日本にはお前の様な奴の為にある道具あるけど聞く?」

 

 

「ぜひ詳しく」

 

 

怖い。残念美少女だらけだなこのメンバー。

 

カズマの苦労を知った俺は同情する。カズマが無言で親指を立てたので、俺も親指を立てて返した。

 

 

「そ、そんなことよりもだ。行くぞ? 本当に行くからな!?」

 

 

「顔がヤバイぞ」

 

 

ドン引きする大樹にダクネスは更にヒートアップ。昂った感情を爆弾岩にぶつけた。

 

 

カンッ!!

 

 

剣が爆弾岩を叩いた瞬間、爆弾岩が発光する。カズマとアクア、そしてめぐみんが俺の体に抱き付く。

 

ダクネスだけ捕まっていないので俺が手で引き寄せる。そして、

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!!!

 

 

大爆発。俺たちの体は亀の大木よりも飛んだ。

 

大空を羽ばたく……いや、ただ落ちている。

 

空から落ちることに慣れている俺はふーんっと落ちながら亀を見ているが、

 

 

「「あああああああああああああああああああああ!!!!」」

 

 

カズマとアクアは泣き叫んでいた。それはもう無様と言われても仕方のないくらい。

 

ダクネスは満足そうに両手を広げている。何だこのカオス。

 

 

「行きますよ!!」

 

 

めぐみんは杖をクルクルと回転させると、莫大な魔力を収束させた。

 

俺でも息を飲むような魔力。杖を地面に向けた瞬間、めぐみんは大声で詠唱した。

 

 

「【エクスプロージョン】ッ!!!」

 

 

亀とほぼ同じ大きさの魔法陣が出現する。爆弾岩とは桁が違う爆発が亀の隣から吹き上がった。

 

爆風で巻き起こった暴風が一気に地面から吹き上げる。その風をアクアは身に付けていた羽衣で風船のような物を作る。

 

ボヨン、ボヨン、ボヨン、ボヨン、と四人はその上に落ちて着地。ゆっくりと降下し始めた。

 

魔法威力の凄まじさに感動した俺はめぐみんに話かけようとすると、

 

 

「凄いな今の魔法! ちょっと甘く見て———どうした」

 

 

「ふ……我が奥義である爆裂魔法は強大な威力ゆ、消費魔力もまた強大」

 

 

「……つまり?」

 

 

「魔力がないので身動き一つ取れましぇん」

 

 

何でこう……もっと……もういいよ。文句を言う気も失せちゃった。

 

 

「違う魔法にしろよ」

 

 

「爆裂魔法しか使えません」

 

 

「お前が使えねぇよ」

 

 

カズマがまたこっちを見ている。どう? 俺の苦労、分かってくれたか?みたいな目でこっちを見ている。分かったから。十分に分かったから。

 

 

「それで? ラノレートの実はアレだろ?」

 

 

視線の先にはクエスト目標である黄金の実が生っていた。サクランボのように二つの実を枝からぶらさげている。

 

手を伸ばして届く距離じゃない。策はあるのかとカズマに聞くと、

 

 

「【スティール】!!」

 

 

カズマは黄金の実に向かって手を伸ばしながら大声を出す。すると手が光輝き出した。

 

 

「これが……スキルか」

 

 

カズマの手には先程まで枝からぶらさがっていた黄金の実があった。ドヤ顔で俺の顔を見ると説明する。

 

 

「ああ、冒険者は全ての職業スキルを習得できるからな。俺はそれを活かしてスーパープレイをするんだよ」

 

 

「代わりに大量のポイントが必要になるし、職業の補正もないから本職には絶対に負けるけどね」

 

 

自慢げに話すカズマを蹴り飛ばすアクア。しっかりと絶対負けるという言葉でトドメを刺した。

 

 

「うん、まぁ……凄いよカズマ」

 

 

「憐れんだ目で俺を見るなぁ!!」

 

 

ドシンッ!!!

 

 

カズマが叫んだ瞬間、地面を割るような轟音が轟いた。

 

何度も響く地響きに亀を見てみると、モンスターがこちらを見ていた。

 

威嚇するように口を大きく開けて———白い光を収束させていた。

 

 

「ねぇヤバそうなんですけど! 何か溜めているんですけど!?」

 

 

アクアの泣き叫びに言われずとも分かる。大体見れば分かるから。

 

 

「……あのモンスターって、襲うのか?」

 

 

「知るかぁ!!!」

 

 

涙を流しながらカズマが叫ぶ。だよねー。

 

俺はダクネスとめぐみんを抱え込み、アクアの作った羽衣の風船から飛び出した。

 

カズマは落ちるように飛び、アクアの体を引っ張りながら落ちた。

 

 

———ギュルゴオオオオオオォォォ!!!

 

 

渦を巻いた光線が俺たちに襲い掛かった。

 

光線は俺たちの頭上を掠め、狙いを外す。だが光線は雲を消し飛ばす程の威力だと言うことは目視した。

 

 

「嘘だろぉ!?」

 

 

落下しながら驚愕するカズマ。女の子たちも仰天しながら光線を見ていた。

 

 

「カズマさんカズマさん! 絶対に死んじゃうから! 体が消滅したら生き返れないから!」

 

 

「いいでしょう! 爆裂魔法と勝負です! 明日まで待っていてください!」

 

 

「あんな威力……私の体で耐えれるのだろうか……はぁ……はぁ……!」

 

 

「凄いなコイツら。ボケ担当の俺がツッコミに回っているんだぜ?」

 

 

このままだと落下するというのにお前らは……。

 

 

「よっと」

 

 

俺はカズマとアクアの体も手で引き寄せて抱き締める。落下する前に()()を踏みしめた。

 

 

「は?」

 

 

カズマが間抜けな声を出してしまう。落下する速度が激減し、そのまま地面に着地した。

 

全員、何が起こったのか理解できていないようだった。

 

 

「最後は俺の仕事だな」

 

 

四人を解放した後は亀———ラノレートに向かって進む。

 

挨拶代わりに巨大な足で踏み潰そうとする。危ないと誰かが叫んだ。

 

 

ドシンッ!!!

 

 

地面を揺らす衝撃が襲い掛かる。カズマたちは潰された大樹を見るが、表情は凍り付いた。

 

 

「……軽いな」

 

 

———亀の足を右手で止めている大樹の姿に。

 

 

ドゴンッ!!!

 

 

左手をグッと握り絞めて足に向かって正拳をブチ込む。大砲の弾が射出されたかのような重い音と共に亀の上半身は浮いて後ろへと下がった。

 

ありえない光景にカズマたちの口は開いたまま塞がらない。大樹はニッと笑みを見せた後、羽ばたくように跳躍する。

 

一瞬で亀の頭部まで辿り着き、目の前に来た頭に向かって拳を振るった。

 

 

「ちょっと寝てろ」

 

 

ドゴォンッ!!!!

 

 

凄まじい音。衝撃波で森の木々が揺れる程の威力が亀の頭部に放たれた。

 

亀の目が裏返る。そのまま足から崩れて落ちて、前から大の字で倒れた。

 

巨大なモンスターを倒した大樹にカズマたちは終始、声を出せないでいた。

 

 

 

________________________

 

 

 

 

「「「「「乾杯!!!」」」」」

 

 

グラスをぶつける音が響き渡った。宴会の始まりを知らせる良い音と共に一気に酒を喉に流し込む。

 

クエストは大成功。報酬金でカズマは冒険者たちに奢っていた。太っ腹だな。

 

カズマが俺の肩を組みながら上機嫌に話す。

 

 

「まさか大樹があんなに強かったなんてな! カードが壊れたのはそういうことかよぉ!」

 

 

「言っただろ? カード程度で、俺の力は図り切れねぇってことだぁ!!」

 

 

冒険者たちの拍手喝采。俺も良い気分で酒を飲める。

 

 

「あんなデタラメな力、見たことがないですよ」

 

 

「ああ、私もお前ほどの力は見たことが無い」

 

 

「褒めても何も出ないぜ?」

 

 

めぐみんとダクネスに褒められてさらに上機嫌になる。

 

 

「【花鳥風月】!」

 

 

「「「「「おお!」」」」」

 

 

センスからぴゅーっと水を出しているアクア。宴会芸スキルとやらで場を盛り上げる女神様、マジパネェ。スキルであんなことも習得できるのか。

 

冒険者たちと何度も乾杯して酒を飲む。ガブガブと明日のことも考えずに飲んでいると、

 

 

「た、大変です! サトウ カズマさんはいらっしゃいますか!?」

 

 

受付をしていた金髪の女性が慌てた様子でギルドに入って来た。

 

酔ったカズマは酒を持ちながら女性に聞く。

 

 

「どうかしました、美しいお姉さん? カズマさんが何でも聞いてやるぜ?」

 

 

キモッ。

 

女性は一枚の紙を突き付けながらカズマに説明する。

 

 

「カズマさんが採取した実は『取ってはいけない実』だったんです!」

 

 

「……………はえ?」

 

 

嫌な予感がビンビンとした。場が一気に静まり返ってしまう。

 

 

「『二対の黄金実』と呼ばれる採取禁止とされたラノレートの実なんです! クエストで採取しないといけない実は一つだけの実で———」

 

 

コソコソと冒険者は帰る準備をし始める。俺も水を飲んで正気に戻った。

 

 

「それだけじゃありません! ラノレートは近くの街では神と崇めるアクシズ教団体が居まして……ラノレートを痛みつけたという理由で現在サトウ カズマさんをブラックリストに載せたそうで———」

 

 

踏んだり蹴ったりとはこのことか。原因は俺だけど。

 

渡された紙を見てみると、そこには『一千万エリス』と賠償金が書かれていた。

 

カズマがこっちを見ている。凄い見ている。とても見ている。その時、冒険者ギルドの扉が開いた。

 

 

「大樹! 魔法陣が完成したぞ! これで帰れ———」

 

 

「今すぐに発動しろ! この世界とはおさらばだ!」

 

 

「待ちやがれ!! 絶対に逃がすなぁ!!」

 

 

———こうして、俺の不思議な異世界体験は幕を下ろした。めでたし……なのか?

 

 

 




まさかの……こ・の・す・ば!

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