どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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《バレンタインデー》

女の子が男の子にチョコをあげる風習ではありません。聖バレンタインデーの虐殺で、ギャングの抗争事件です。そう、ブラッティバレンタインです。

もし勘違いしている男やチョコを貰っている野郎がいた時は、拳に愛を込めて殴りながら教えてあげてください。


……殴る数は1万6千……じゃなかった。文字数は1万6千文字です。


Gの超逆襲 後編

最強のゴキブリを目の前にした人類は恐怖した。

 

あの英雄と呼ばれた大樹がボコボコにやられ、敵は無傷だということ。それは東京エリアの人々に衝撃を与えた。

 

金色金を体内に宿し、ガストレアウイルスによって強化されたゴキブリ―――害虫王のゴキブリの名は『ワモン』と名称が名付けられた。

 

ワモンゴキブリ―――日本で生息する最大級の種の名を、最恐に与えたモノだった。

 

 

「チッ、マジで油断した」

 

 

現在、大樹は東京エリアの32号モノリスにある対策本部(仮)のテントで椅子に座っていた。大樹以外、話そうとする人はいない。沈黙が続いていた。

 

大樹が飛ばされた戦闘後、ワモンは東京エリアの外へと逃げて行ったのだ。()()()()()()()()()、簡単に通り過ぎて行った。

 

推測ステージはⅤは確定。最後に奴が言い残した言葉は人類を恐怖させた。

 

 

『コノ地ハ我ガ頂ク』

 

 

「いい加減にしろよ……ここは呪われてんのかおい。何度救えば気が済むんだってんだ……」

 

 

どうも、大樹だ。今、イライラしているから取扱注意。もし攻撃してきたら2億倍返しで攻撃してやるよ。

 

 

それにしても……………俺が『ハレ晴レ〇カイ』を踊りながら怒っても、誰もツッコミを入れてくれないんだが?

 

 

どんだけ落ち込んでいるの? そんなにゴキブリが怖いのお前ら?

 

……とりあえず、今度は『もってけ!セー〇ーふく』を無言で踊ってみる。

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

だ――――――れも反応してくれないッ!! ふざけんな! 俺のボケがスベッているように見えるだろうが!(実際スベッていることに気付いていない)

 

じゃあ声に出して踊ってやるよ! 俺の華麗なダンスを見よ!

 

 

「ヨーでる ヨーでる ヨーでる ヨーでる ようかいでるけん でられんけん♪」

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

「ろ、ローイレ ローイレ 仲間にローイレ 友だち大事♪」

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

「妖怪~ 妖怪~ 妖怪~ ウォッチッチ!!」

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

「……………メダルに閉じ込めるぞお前ら」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

おっと、やっと反応したよ。めっちゃ怖がられているけどな。

 

 

「一つ言っておくが負けたわけじゃねぇよ。俺は力を発揮するタイミングを逃しただけだ。次はヘマしねぇよ」

 

 

「で、ですが大樹さん」

 

 

「何だよ聖天子」

 

 

「ワモンが大量のゴキブリを連れて来ることが……あ、あると思いますか?」

 

 

震えながら尋ねる聖天子に、俺は『そんなことねぇよ』とは言えない。

 

 

「多分、あるかも」

 

 

聖天子は俺の胸で大泣きした。マジかぁ……そんなに嫌かぁ……上に立つ人間が泣き崩れちゃったよ。

 

えぇ……これどうするの? 泣き止ませる方法、知らないんだが。

 

 

「おしまいだ……」

 

 

「バル〇ンを焚いてくれぇぇぇえええええ!!」

 

 

「ホイホイホイホイホイホイホイホイホイホイホイホイホイホイ……フヒッ」

 

 

うるせぇよもうだりぃよめんどくせぇよお前ら。もう正気を保っていられなくなっているし、しっかりしろよ日本男児!

 

どうしよう。ボケるにもボケれなくなったんだけど? とりあえず真面目に励ますか。

 

 

「そ、その前に俺が決着を付ければ問題ないだろ!? な!?」

 

 

「大樹さん……!」

 

 

聖天子が命を救われたかのような表情になった。めっちゃ明るい。黒から白になったぐらい明るくなった。

 

 

「ま、まぁあれだ! 俺に任せろ!!」

 

 

「「「「「わぁあああああ!!」」」」」

 

 

この後、男たちに胴上げされた。

 

聖天子には涙を流しながら感謝の言葉を聞かされ、議員たちから色々なモノを貰った。土地を貰った時はビビった。

 

 

(あぁこれはアカン……)

 

 

―――期待に答えないと、ヤバい。

 

俺は、人生の中でベスト5に入るくらい後悔した。

 

 

________________________

 

 

 

「……大丈夫、じゃないな」

 

 

目の前には闇があった。

 

闇と呼ばれる物体。それはアリアたちが作り上げた空間だった。

 

ゴキブリによってテンションガタ落ち。体をガクガク震わせて怯えていた。

 

どうしよう。俺が油断したせいでこうなったのか。てへッ。

 

 

「やっぱり人類には勝てないのね……」

 

 

アリアは大袈裟なことを言うし、

 

 

「もう嫌……生きるのが辛いわ」

 

 

優子は今にも自殺でもやってしまいそうだし、

 

 

「黒ウサギの力が戻れば……恩恵が使えれば街と一緒に消し飛ばして―――」

 

 

黒ウサギは恐ろしいこと考えているし、

 

 

「……………」

 

 

真由美の目からハイライト消えているし、

 

 

「大樹さん、今までお世話になりました」

 

 

ティナは余命宣告された病人の最後の台詞みたいなことを言うし、

 

 

―――もうなんか終わりそう。物語が。

 

 

末期か? 何かバットエンドに突き進んでない?

 

救いたいけど、ここまで救い方が分からないとは。いや、あるにはあるよ?

 

 

A.ゴキブリを一匹残らず全滅させる。

 

 

無理無理。できないできない。

 

 

「あー、とりあえず俺が何とかするから安心しろ」

 

 

「違うわ大樹。あたしたちはそんなことで落ち込んでいるわけじゃないわ」

 

 

「何だよアリア。俺は油断しただけ。次は倒せるからな?」

 

 

「根本的に問題が違う」

 

 

「問題って何だよ。解決してやるから言ってみろ」

 

 

「そう……なら気持ち悪い姿を私の記憶から消してくれるの?」

 

 

あっ(察し)

 

お前ら……ゴキブリに失礼だぞ。好きであんな姿になったわけじゃないんだぞ。確かにキモかったけど。

 

『最強』『チート』『大樹』と称号がある俺でも記憶消去は無理だな。最後の称号って何だよ。

 

 

金槌(かなづち)で……いけるか?」

 

 

「「「「「やめて!!」」」」」

 

 

金槌を没収されました。クソッ、どこかのネジが付いた宇宙人委員長は記憶消去装置だと言っていたからいけると思ったんだが。

 

 

「じゃあ世界中の能力者から能力を奪って記憶を全部無くすしかない」

 

 

「全部は無くさなくていいわよ!? そもそも能力って何よ!?」

 

 

その前にネタが通じてないだろ? 引くなッ!!

 

 

「じゃあ友達と何か複雑なことを起こして記憶無くせ。一週間ごとにリセットされる感じで」

 

 

「何でリセットされるの!?」

 

 

「俺が友達になってやるから問題無い。あと日記書けばグッド」

 

 

「どうして友達なのよ!? 普通に恋―――ッ!?」

 

 

ん? 普通に恋……何? 顔を赤くしてどうしたアリア?(ゲス顔)

 

まぁここは引いてやるか。感謝しろよ?

 

 

「じゃあ俺がフラグを立てて攻略するから記憶を無くせ。黒い旗なんて折ってやる」

 

 

「何ソレ!?」

 

 

「じゃああれだ。俺がお前らの心の中のスキマに隠れている駆け(たま)を取ってやるから記憶を無くせ。もちろん、攻略するから」

 

 

「だから何ソレ!?」

 

 

「じゃあこれ飲む?」

 

 

カバンの中から俺は小さなビンを大量に取り出す。

 

 

「何これ? 栄養ドリンク?」

 

 

「まぁ栄養はある。特にバストアップの栄養素が―――」

 

 

と言った瞬間、アリアと優子、そしてティナは迷わずフタを開けて飲んだ。えー、そのままの大きさがいいよー。まぁそもそもそんな栄養素、入ってないけどね。

 

 

「これって何のドリンクなの? 名前は?」

 

 

「これか? これは———」

 

 

ドリンクを飲みながら尋ねる真由美の質問に俺は答える。

 

 

 

 

 

「———ATPX(アポ〇キシン)4869。コ〇ンで有名だろ」

 

 

 

 

 

ブフッ!!

 

 

うわぁお。嫁たちが一斉に吹き出したよ。俺の顔がビチャビチャ。俺様の業界ではご褒美です。

 

 

「ちょっと!? 何飲ませているのよ!?」

 

 

「怒るなよ優子。ちょっと小さい体の嫁たちの姿を見たかっただけなんだ。逮捕できねぇだろ?」

 

 

「怒るわよ!?」

 

 

もう怒っているけどね。

 

 

「う、嘘よね!? 小さくならないわよね!?」

 

 

「うん、残念なことにならない」

 

 

「風穴開けるわよアンタ!?」

 

 

ホント残念なことにこのドリンクは失敗した。老化で衰える体を元気にすることしかできなかった。試しに近所のおばあちゃんにあげたら、今では毎朝のジョギングが楽しいって感謝の言葉を言ってくれた。90歳凄いなぁ。

 

 

「安心しました。黒ウサギたちの体が小さくなれば大樹さんに何をされるか……考えただけでも恐ろしいです」

 

 

「いやいや黒ウサギ。お前の年齢を考えれば―――」

 

 

「———女性に年齢の話をするなと、聞いたことがありません?」

 

 

「すいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんでしたぁ!!」

 

 

土下座。額から血が出るかのような勢いで頭を床に擦りつけた。黒ウサギが怖くて顔を上げれなかった。

 

 

「はぁ……こんなことで悩んでいる自分が馬鹿に思えて来たわ……」

 

 

溜め息をつきながらアリアは土下座した俺の背中に座る。椅子ちゃうがな。

 

 

「そうね。時間が経てば、きっと忘れるわ」

 

 

真由美も座って来た。重いと思う前に柔らかいと思ってしまう。もう椅子でいいや。

 

落ち込んでいたムードが真由美の言葉が晴れるきっかけとなり、何故か楽しいガールズトークが始まった。

 

元気になったのは嬉しいことだが……いつまで土下座していればいいんですかね?

 

 

 

________________________

 

 

 

「フッ!!」

 

 

息を吐き出すと同時に強く踏み込む。体は風を切り、音速の壁を破った。

 

 

ザンッ!!

 

 

速度に合わせて刀を振るう。襲い掛かるガストレアを一瞬で斬り刻んだ。

 

 

「———ッ」

 

 

油断はしない。気配で背後から忍び寄る二匹のオオカミ型のガストレアたちに気付いている。

 

すぐに刀をクルリと回し、逆手に持ち変える。

 

 

「グオォン!!」

 

 

「お前の大好きな骨はここにねぇよワンちゃん」

 

 

ザンッ!!

 

 

襲い掛かるガストレアの腹部を突き刺し、斬り上げて一撃で仕留める。

 

 

ドゴンッ!!

 

ザンッ!!

 

 

二匹目は蹴り飛ばして怯ませた後、一匹目に刺した刀を引き抜き、そのまま二匹目の体を一刀両断する。

 

刀を上から下へ振り下ろし、刀に付着したガストレアの血と気味の悪い液体を振り落とした。

 

 

「……数が多いな」

 

 

「そのようだね。今ので三桁は越えたのでは? 少し倒し過ぎだと思うがね」

 

 

大樹の呟きに答えたのは影胤。隣にいる小比奈の刀にはガストレアの血が付いていた。

 

 

「あのゴキブリが見つかるまで帰れねぇよ。もし他のエリアに行ったら洒落になられねぇ」

 

 

「もし何かあれば政府に連絡が入るはず。最悪なことにはならないはずだよ」

 

 

「……これは俺の考えだが、事件が起こった後に行動するヒーローより、誰も傷つかず、未然に防ぐことが大事だと俺は思っている」

 

 

「……まぁ結局君次第じゃないかね。良くも悪くも、傾くのは君がどうするかだ」

 

 

影胤の言葉に大樹は嫌な顔をした。

 

ここは東京エリアの外———未踏査領域にいた。

 

日はとっくに沈み、星明りは森が隠して暗い闇が支配していた。しかし大樹と影胤、小比奈には暗いことは問題ない。

 

問題があるとすれば、敵がどこにいるか見当も付かないことだ。

 

 

「私でも、これは厳しい戦いになりそうだ」

 

 

長時間戦闘だからな。ちなみに探索二日目だ。休める時間は早朝だけ。夜中まで続く調査に気が滅入って仕方ない。

 

 

「ワモンは俺がやるぞ? 原因作ったの俺だからな」

 

 

「勘違いしないでほしい。あんな化け物は君にしか倒せないよ」

 

 

「俺が化け物だからか? あぁん?」

 

 

「そんなこと言ってないのだが……」

 

 

影胤の胸ぐらを掴みキレる大樹。影胤はとても困ったそうだ。

 

 

「パパをいじめるなッ」

 

 

「いじめてねぇよっと」

 

 

カキンッ

 

 

刀と刀がぶつかり合う。冗談だと小比奈は分かっているが、大樹に攻撃を当てたかった。しかし、斬撃は簡単に弾かれ、頬を膨らませて拗ねる。

 

 

カキンッ カキンッ ガギンッ!!

 

 

「無駄無駄~」

 

 

大樹は刀の柄だけで小比奈の刀の刀身を横から叩き、連撃を弾き飛ばして避けていた。圧倒的に開いた剣術の差がそこにあった。

 

 

「ッ!」

 

 

「隙ありぃ~」

 

 

キンッ

 

 

大樹が柄で強い一撃を当てると、小比奈の刀は簡単に空へと舞った。

 

刀はそのまま木の太い枝に刺さり、勝負が決した。

 

 

「その首、貰っていくぜ」

 

 

「君がそれを言うと本気に聞こえるからやめてくれるかい?」

 

 

本気なわけあるか。お前らの首なんざいらねぇよ。

 

カバンの中に入れてた3DSを取り出しゲームを始める。武器コンプするまで俺は諦めない。

 

 

「君に緊張感というモノはないのかね?」

 

 

「ない」

 

 

 

________________________

 

 

 

大樹たちが調査している間、他の者たちは東京エリアにいた。

 

特に珍しい組み合わせが、聖居の一室であった。

 

アリアと聖天子である。

 

 

「護衛、ですか?」

 

 

「そうよ。この国の将来を変える人を守るのは当然でしょ?」

 

 

それにっとアリアは小声で付け足す。

 

 

「正直、東京エリアから出たくないわ……」

 

 

そのことには聖天子は同感する。

 

 

「安心して。護衛の依頼は何度もやったことがあるわ。Sランク武偵の実力は伊達じゃないわよ」

 

 

聖天子は思い出す。大樹から教えて貰った『武偵』という単語を。

 

 

『武偵? んー、まぁ簡単に言うと、毎日銃をパンパン撃っている奴らかな』

 

 

「そ、そうですか……」

 

 

(あれ? 何故か聖天子様の顔色が悪くなった気がするわ……)

 

 

聖天子はぎこちない笑みを浮かべて話を続ける。

 

 

「す、凄いですね。どんなことをされていたのですか?」

 

 

「あたしは強襲科(アサルト)に入っていたから毎日対人戦や模擬戦をして、犯罪が起きたらすぐに出撃していたわ。いつでも凶悪な犯罪に立ち向かえる為に日々の鍛錬は怠らないのよ」

 

 

アリアは小さな胸を張って自慢するが、聖天子は思い出していた。大樹から教えて貰った『強襲科(アサルト)』という単語を。

 

 

『一番ヤバイのは強襲科(アサルト)だな。死ね死ね言いながら銃弾を飛ばして挨拶するからな』

 

 

「ごめんなさい……!」

 

 

「何で!?」

 

 

聖天子が本気でビビっているのを見たアリアは困惑。何故そうなったのか理解できなかった。

 

とにかく話題を変えなきゃっとアリアは急いで話題を出した。

 

 

「ももまんについて話しましょ!」

 

 

「もも……まん……?」

 

 

(しまった!? この世界には無かった!)

 

 

話題を間違えたアリアは焦る。そのせいでとんでもない話題ばかり出してしまう。

 

 

「なら銃よ! 聖天子様は何を使うのかしら!?」

 

 

「使いませんよ!?」

 

 

(あーもう! 大樹となら長く話せるのに!!)

 

 

武偵でしか通じない会話である。ちなみに大樹は『イチャイチャしたいのに、女子から拳銃の話題を振られて盛り上がるとか……悲しいぜ』と泣いていた。

 

 

(どうしよう!? 何を話せばいいのか分からない!?)

 

 

アリアは今までの経験を生かそうとするが、全く使えそうな経験はなかった。

 

武偵でのゲームを思い出してしまう。トラウマが蘇り、アリアは混乱する。このまま何もできなければ、ぼっちになってしまう!?

 

 

(聖天子様が好きなモノ……それはッ———!)

 

 

 

 

 

「大樹の面白い話はどう!?」

 

 

 

 

 

「ぜひお願いします!」

 

 

 

 

 

(やった! 食い付いてくれて嬉しいけど複雑な気持ちだわッ!!)

 

 

会話が繋げれたことに嬉しさ半分。聖天子様が大樹のことが好きだと発覚した嬉しくない気持ち半分だ。

 

大樹の嫁候補が増えることに危機感を覚えているアリア。気が付けば自分の他に5人もいることに驚きを隠せなかった。

 

さらに黒ウサギが言うには全員と結婚するとか宣言しているらしい。頭が痛くなってしまった。

 

 

「そ、そうね……」

 

 

アリアは脳をフル回転させた。大樹の恥ずかしい過去を思い出し、暴露させた。

 

 

「学校の床を平気で壊すような男だったわ!」

 

 

「……なるほど、まだ大人しい大樹さんでしたか」

 

 

(あ、この世界の人たちはそう見えるね)

 

 

常軌を逸脱した行動を常にしている大樹は、床を破壊する程度のこと、あまり凄いとは捉えれないのだろう。

 

大樹の恥を語るのは無理だと判断したアリアは、次の作戦にシフトする。

 

 

「大樹は相当の奥手よ」

 

 

「……あー」

 

 

……どうやら聖天子様は知っていたらしい。悔しい。

 

 

「口だけですよね?」

 

 

「正解」

 

 

何故かアリアは聖天子様に100大樹ポイントをあげたくなった。1000大樹ポイントで大樹とデートできたらいいと思ったが、恐らく『デートして』の一言で彼は『ありがとうございます!』と返すだろう。

 

 

________________________

 

 

「へっくしゅんッ!! あー、誰かが俺とデートしたいとか思っているな」

 

「よく自信を持ってそんなことを言えるね」

 

「俺だからな」

 

「……もし君の大切な人からデートに誘われたらどうするかね?」

 

「とりあえず夢かどうか頭を地面に叩きつけて確認。本当ならそのまま土下座に移行して感謝の言葉を送る。そして完璧なデートプランを作り上げて―――」

 

「もういい。もういい」

 

「———歩く時は必ず手を繋ぐかどうかを考えて……いや黒ウサギと真由美なら許可無くても許してくれるはずだから、問題は恥ずかしがるアリアと美琴だ。優子は多分文句を言いつつも繋いでくれるはずだから、反応を見つつ―――」

 

________________________

 

 

 

「ッ……悪寒が」

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

「え、ええ。……多分大樹ね」

 

 

「え?」

 

 

「何でもないわ。話を続けましょ」

 

 

「はい! それでさっきの話の続きですが、大樹さんがゴミ箱に頭を突っ込んだ後はどうなったのですか?」

 

 

「それが大樹はね……そのまま敵の集団に向かって突撃して―――」

 

 

アリアと聖天子の会話は盛り上がっていた。大樹のアホ話で。

 

ゴキブリのことは綺麗さっぱり忘れて。

 

だが地獄はすぐに戻って来る。

 

 

バタンッ!!

 

 

部屋のドアが勢い良く開けられ、転がりながら入って来た男性が声を荒げる。

 

 

「大変でボゴッ!?」

 

 

「あッ、敵じゃなかった!?」

 

 

大胆に入って来たせいでアリアは敵と勘違い。男性の顔にシャイニングウィザードが炸裂した。

 

しかし男性は転がりながら受け身を取り、跳ね起きる。

 

 

「敵の姿が発見されました!」

 

 

「聖天子様。この男は民警になるべきよ。素質があるわ」

 

 

「あっ、無理ですよ。自分、花粉症なんで」

 

 

「全然関係ないわよ!?」

 

 

「———敵の発見とはどういうことですか!?」

 

 

聖天子様が顔色を悪くしながら大声で尋ねる。男性は早口で答える。

 

 

「民警から連絡がありました。先程のガストレアと思わしきモノが空を飛んでいたとのことです! ワモンの可能性があります! すぐにシェルターに避難―――」

 

 

「もうこれ以上、東京エリアに居られません」

 

 

「—――聖天子様!? 捨てちゃ駄目ですよ!?」

 

 

「諦めちゃ駄目よ聖天子様!?」

 

 

だが、避難する意味は無くなる。何故なら―――

 

 

パリンッ!!

 

 

―――窓ガラスが割れ、悪魔が侵入して来たからだ。

 

 

________________________

 

 

 

 

『何か……やべぇの見つけた……』

 

 

通信機から届いたジュピターさんのメッセージ。不安しかないが、行くしかない。

 

一体何がヤバイのか……東京エリアを地獄に落としてしまうかのようなヤバいを見つけたのか。それとも単純にジュピターさんの語彙力が皆無なだけなのか。

 

森の中を走り抜けてジュピターさんと合流する。木に隠れたジュピターさんとイニシエーターである詩希がいた。

 

 

「それで? 何がヤバイんだ?」

 

 

「……あれだ」

 

 

ジュピターさんが指を指した方向を見る。そこには大きな山があった。

 

 

「ん? は? え? ぅんッ!?」

 

 

 

二度どころか四度見直した。

 

 

山の上に城があるだけど!?

 

 

すっげぇ立派! 何だろう、西洋の城に似ているが……何でそんな城がこんな場所に!?

 

外壁はボロボロで、汚れが目立っているが立派な城だ。悪魔が済むような外見でカッコイイ。

 

 

「ここ日本だよな?」

 

 

「日本だ」

 

 

「じゃあ何だよアレは。おかしくね? 城だよ? キャッスルだよ? 王子様が居てもおかしくないようなお城だよ? 舞踏会始まっちゃうよ?」

 

 

「確かにお前のせいで武闘会が始まりそうだな」

 

 

……ちょっと最後、話が噛み合ってない気がするがいいか。

 

 

「アレに似ているよな。『美女と〇獣』に出て来る城に」

 

 

「……いやちょっと思い出せない」

 

 

「はぁ!? ディズ〇ー好きじゃないのお前!? ミッ〇ーにキレられ―――」

 

 

「その話題もうやめろよ!? いろいろと危ねぇぞ!?」

 

 

「とりあえず、話を戻すよ」

 

 

溜め息をつきながら影胤が脱線した話を戻す。何かごめんなさいね?

 

 

「大樹君、これからどうするかね? 街の防衛で残したメンバーを集めるかい?」

 

 

「いや、ここから一撃でぶっ壊す」

 

 

小比奈「馬鹿?」

 

 

影胤「馬鹿なのかい?(2COMBO)」

 

 

詩希「馬鹿だね!(3COMBO)」

 

 

ジュピターさん「大馬鹿野郎がッ!(FINISH!!)」

 

 

大樹「ブチギレるぞこんちきしょう」

 

 

俺の火山が噴火する寸前だったぞおい。下ネタじゃねぇよ。

 

里見たちは戦力にならねぇよ。ビビっているし、木更に関してはもう使えねぇ。

 

ぶっちゃけ防衛のために残したんじゃない。足を引っ張る奴を連れて行きたくなかったんだ。

 

 

「だってもう分かるじゃん。流れからして分かるじゃん。上の文見返せよ。ほら、ちゃんとフラグも立っているし、ワモンは絶対あそこにいる」

 

 

「メタ発言やめろお前。確信は無いだろ? 留守かもしれないぞ?」

 

 

「ゴキブリが留守とは……妙な言い方だね」

 

 

「妙という言うより、変だろ」

 

 

「ん、ジュピターさんジュピターさん」

 

 

その時、詩希がジュピターさんの袖をくいくい引っ張り、何かを伝えようとしていた。

 

 

「どうした?」

 

 

詩希は城の方を指差し、笑顔で教えてくれた。

 

 

 

 

 

「ワモンが見えたよ! 凄いでしょ!」

 

 

 

 

 

「超ウルトラ高速抜刀式、【容赦はねぇよの構え】!!」

 

 

「おい馬鹿やめろおおおおおォォォ!!」

 

 

大樹は既に抜刀し、斬撃波を放った。

 

 

「【先 手 必 勝(死ねやゴラアアアアァァァ)】!!」

 

 

「マジでやりやがったよこいつッ!!!」

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!

 

 

音速の斬撃波は城に向かって一直線。斬撃の余波は森の木々が悲鳴を上げるほどの威力を秘めていた。

 

山の頂上に建造された城は消える――—

 

 

バシュンッ!!

 

 

―――はずだった。

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

斬撃が消えた。否、受け止められたのだ。

 

空中に浮いている黒い影。羽音を響き渡らせながら飛行する悪魔。

 

ワモンが、そこに降臨していた。

 

 

「不意打チトハ愚カ。ソシテコノ弱サハ情ケナイトシカ言イヨウガアルマイ」

 

 

「嘘だろ……大樹の一撃を止めるとか、強過ぎるだろ!」

 

 

ジュピターさんは構えていた銃を降ろす。撃っても意味が無いと思い知らされたからだ。

 

影胤たちは逃げる準備を始める。ここに居ても大樹の足を引っ張るだけだと分かってしまっていたからだ。

 

 

「逃ガスト?」

 

 

ヒュンッ!!

 

 

しかし、ワモンは簡単には逃がさない。

 

気が付いた時には空中にワモンの姿は無く、影胤たちの背後を取っていた。

 

ドッと汗が流れる。死の恐怖が心臓を鷲掴みしたかのような感覚に陥る。

 

ワモンの手は振り上げられ、体を八つ裂きにしようとしていた。

 

 

「油断はしねぇって言ってるだろ」

 

 

振り下ろされる前に、光の速度で大樹はワモンの背後を取った。

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!!

 

 

強烈な一撃。大樹の蹴りが炸裂し、暴風が吹き荒れた。衝撃の余波は木々を薙ぎ払い、ワモンの体は山の城へとぶっ飛ばされた。

 

 

「ゴハッ」

 

 

城の瓦礫に埋もれたワモンが気味の悪い液体を吐き出す。それは人で言うと血と同じようなモノだった。

 

ワモンは驚愕する。東京エリアで戦った時と威力が桁違いに、いや次元が違ったことに。

 

瓦礫を退かし、ワモンは立ち上がる。すぐに追撃は来ると警戒―――!

 

 

「どこ見てんだよお前」

 

 

―――その瞬間、視界が反転した。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

後頭部に鋭い強烈な衝撃が走り、体は簡単に反転した。頭部から床にめり込み、そのまま下の階へと落ちる。

 

このままでは不味いと思ったワモンは反撃しようと拳を握り絞めるが、

 

 

「調子ニ乗―――!!」

 

 

「乗っていたのはお前だ馬鹿」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

腹部に大樹の拳がめり込んだ。

 

体の中をぐちゃぐちゃに掻き回されたかのような激痛。ワモンは何も喋れなくなっていた。

 

 

ドゴンッ!! ドゴンッ!!

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!

 

 

そのまま床を何度も貫き、一番下の階まで落とされてしまった。

 

ワモンの腕や足は見るも無残な姿になっていた。人間ならば決して立ち上がれる体ではない。

 

 

「ガアアアアアァァァ!!」

 

 

ガストレアの力を使役し、ワモンの体は再生を始める。

 

傷は塞がり、曲がっていた腕や足が元通りになる。

 

 

「ガァ……ガァ……!」

 

 

「随分と辛そうだね」

 

 

だが、悪夢は終わらない。

 

上の階から飛び降りて来た二人の影にワモンは戦慄する。

 

大樹の攻撃した瞬間、既に高速で走り出していた影胤と小比奈。追撃を仕掛ける準備は整っていた。

 

 

「小比奈」

 

 

「はいパパ」

 

 

ダンッ!!

 

 

地面に着地した瞬間、小比奈の速度が加速する。ワモンの体を斬ろうと両手に持った二刀流で斬撃を放つが、

 

 

ガシッ!!

 

 

簡単に掴み取ってしまう。

 

そのまま両手で掴み取った二本の刀を奪い取る。

 

 

「貴様ハ弱イ!!」

 

 

「それはどうかね?」

 

 

影胤の忠告を聞いた時には、遅かった。

 

小比奈は前に踏み込み、蹴り上げた。

 

 

ドゴッ!!

 

 

「ッ!?」

 

 

後方転回で蹴り上げた小比奈の蹴りはワモンの顎に衝撃を与えた。視界が揺れ、フラリッと体制を崩す。

 

その隙を、影胤は絶対に逃さない。

 

 

「『エンドレススクリーム』」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

近距離から放たれた影胤が持つ最強の矛がワモンに直撃する。だがワモンも負けてはいない。

 

無理にでも体を動かし、何とか避けようと試みた。

 

そして当たった場所は右肩。右腕が焼き消されたが、致命傷となる一撃にはならなかった。

 

 

「グゥ……!」

 

 

ワモンは圧倒されていた。たった3人の人間に。

 

 

「駄目だ……無理があり過ぎる」

 

 

「入らないの?」

 

 

「詩希。俺たちがあの中に入ったら即死。いや、瞬死する」

 

 

その様子を上の階から見ていたジュピターさんと詩希。追いついたのはいいが、介入する余地が全くなかった。

 

 

「よっと」

 

 

さらに上の階から勢い良く振って来た大樹がワモンの前で着地する。ワモンは声を荒げながら問いかける。

 

 

「何故ダ! アノ時ノ(ちから)トハ違ウ! 何ヲシタァ!?」

 

 

「少し本気を出しただけだ。あの時は失敗していたし、力もかなり抑えていた」

 

 

「抑えていても他のゴキブリは殲滅できるのかよ……」

 

 

本気を出した大樹が怖いと実感したジュピターさん。詩希は拍手を送っていた。

 

 

「認メヌ……最強ハ、コノ我ダァ!!」

 

 

ダンッ!!

 

 

亜音速で大樹との距離を詰めるワモン。巨岩も砕く拳で大樹の顔を狙う。

 

 

ガシッ!!

 

 

「軽い」

 

 

「何ッ!?」

 

 

しかし、大樹は簡単に右手で受け止める。

 

逃げようと力を入れるも、ビクともしない。大樹の腕を叩いても、まるで意味が無い。

 

大樹の表情は何一つ変わらない。強い衝撃が走っても、眉一つ動かさなかった。

 

 

「馬鹿ナ馬鹿ナ馬鹿ナ!?」

 

 

「ちっとも痛くねぇよ。最強のパンチは———」

 

 

グッと握り絞められた必殺の左手。音速の壁をぶち破った速撃が放たれる。

 

 

「———こうだッ!!」

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!!!

 

 

ワモンの腹部に凄まじい衝撃が走った。今までの攻撃とは次元が違う。

 

最上階まで一瞬で突き破り、空高く打ち上げられた。

 

再生していた体は、再生する前より酷いモノだった。

 

『敗北』という文字がワモンの頭の中で駆け巡る。

 

 

「ウガアアアアアァァァ!!!」

 

 

黒い鎧を纏った甲虫は進化する。金色金が強く輝き、黄金の光を身に纏う。

 

 

「我ハ最強ォォォオオオ!」

 

 

ゴオオオオオオオオォォォ!!

 

 

超音速で飛行し、大樹との距離を再び詰める。影胤たちには何が起こったのか分からない。ただ黄金色の光が降って来ただけにしか見えなかった。

 

ただ、影胤たちは見えなかったが、大樹には見えていた。

 

 

「———ッ」

 

 

ワモンの攻撃を見切り、避ける。しかし、ワモンの攻撃は一撃では終わらない。

 

 

「果テロオオオオオォォォ!!!」

 

 

ドゴドゴドゴオオオオオォォォ!!

 

 

絶対の連撃が繰り出された。拳を一撃放つたびに、城塞を破壊してしまうかのような余波が一帯を襲う。

 

揺れる城は、崩壊しそうになっていた。

 

 

「遅ぇよ」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

ワモンの動きが止まった。

 

たった一発。大樹の繰り出した拳の一撃はワモンの体を止めてしまう威力だった。

 

 

「ガハッ……!?」

 

 

「悪いがお前はまだ弱い。俺には勝てねぇよ」

 

 

両膝を地面に着くワモンに大樹は告げる。

 

 

「俺が、最強だ」

 

 

「知ってる」

 

 

「茶化すな兄貴」

 

 

「グゥッ!!」

 

 

ダンッ!!

 

 

「あ、逃げた」

 

 

ワモンは羽根を広げて上へと逃走。大樹たちも正規の階段を使って上がる。

 

 

「お前は追いかけれるだろ」

 

 

「俺一人で行ったら、何かあった時、お前らを守れないだろ」

 

 

「時々カッコイイよなお前。残念な奴なのに」

 

 

「何が残念だよ。言ってみろよ」

 

 

「嫁に頭が上がらないとか、鬼畜なところとか、変態なところとか」

 

 

「後ろ二つは否定する」

 

 

「最初は否定しないのか……お前らしくて安心したわ」

 

 

無駄な話を繰り広げていると、最上階に辿り着いた。

 

天井と床には大きな穴が出来上がっており、汚れが多い広間だった。

 

ツタや木が壁に纏わりつき、人の手が届かず、かなり放置されていると分かる。

 

奥には魔王が座るかのような目立つ玉座が一つある。そこには———!?

 

 

「アリア!?」

 

 

「やっぱり大樹だったのね! お願い、早く助けて!」

 

 

座っていたのはアリアだった。あまりの衝撃に、俺は悲しむ。

 

 

「黒幕はアリアだったのかよ……!」

 

 

「違うに決まっているでしょ!?」

 

 

「俺はゴキブリに負けたのかあああああァァァ!!」

 

 

「だから違うって言ってるでしょ!?」

 

 

「俺よりゴキブリが好きなのかよぉ……!」

 

 

「もう何よッ! 大樹の方が好きに……ッ!?」

 

 

チッ、最後まで言わないか。まぁ俺の方が好きだと言うことは分かった(ゲス顔)

 

 

「大樹さん! 来てくださったのですね!」

 

 

「聖天子!? お前はここに居ちゃ不味いだろ!?」

 

 

「捕まっているのですよ!」

 

 

あ、ホントだ。

 

アリアは植物のツルで椅子に固定されており、聖天子も同じように壁に固定されている。

 

 

「僕も助けてくださーいッ!」

 

 

天井からグルグル巻きになって吊るされている男がいた。

 

 

「……誰だよ」

 

 

「斉t『何だモブか。もういい喋るな』———酷い!?」

 

 

ジュピターさんは聖天子のツタをサバイバルナイフで切って救出。俺はアリアを助けに行こうとするが、

 

 

「人間ノ分際デ触レルナ」

 

 

「あぁ?」

 

 

しかし、ワモンが立ち塞がった。

 

黄金の鎧はボロボロになり、弱っているとすぐに分かる。だが、奴は一歩も引こうとしない。

 

 

「我ラガ姫君ニ、手ヲ出スコトハナラヌ」

 

 

「「「「「え」」」」」

 

 

空気が、凍った。

 

 

「あ、アリア……本当に裏切ったのか……!?」

 

 

「違うわよ!? 本気にしないでよ!?」

 

 

影胤は落ち込む俺の肩に手を置き、首を横に振った。

 

 

「やめるんだ大樹君! 彼女は……もう……!」

 

 

「いやあああァァ! 真面目な人がそれするの洒落にならないから!!」

 

 

「ならゴキブリごと愛すまで!!」

 

 

「あんた相当頭おかしいでしょ!?」

 

 

「いや元からだろ」

 

 

「黙ってて!!」

 

 

「あ、はい」

 

 

ジュピターさんはそれ以降、口を開かなかった。

 

 

「ねぇ斬っていいの?」

 

 

「ちょっと!? そこの女の子を止めて!!」

 

 

「大丈夫だよ小比奈ちゃん。俺が斬るから……!」

 

 

「大樹!? 冗談よね!? 泣きながらこっちに来ないでぇ!!」

 

 

「本気にするなよ……引くわ」

 

 

「風穴開けるからこっちに来なさいッ!!」

 

 

「多分無理だと思うぞ? 俺、前より強い体になっているから」

 

 

「口に銃を突っ込むから安心しなさい……!」

 

 

「(^q^)」

 

 

「本気で怒るわよ!!」

 

 

だからもう怒っているじゃん。

 

 

「そろそろ話を戻すか」

 

 

大樹の足元から伸びた影が大きくなる。影は蠢き、生きているかのようだった。

 

 

「———アリアを連れ去ったお前は、ただで済むと思うなよ」

 

 

「うわぁガチでキレたぞ……影胤、下がっておこうぜ……」

 

 

「そうだね。巻き込まれたら冗談じゃ済まない……」

 

 

ヒソヒソとジュピターさんたちは聖天子を連れて階段の所まで退避。ちなみに男性は忘れられている。

 

 

「はえッ!? 僕は!? 僕の救出が終わって———」

 

 

「健闘を祈るッ!!」

 

 

「———何て酷い人たちなんだ!!」

 

 

ワモンの体はビキビキとゆっくり再生を始める。

 

 

「我ニ(ちから)ヲ与エタ姫君ヨ。モウ一度我ニ(ちから)ヲ」

 

 

「い、嫌ッ……!」

 

 

ワモンがアリアに近づこうとする。アリアは涙を流しながら首を横に振っていた。

 

なるほどな。アリアが攫われたのは色金の【共鳴振動(コンソナ)】が原因か。

 

力を貰ったことは勘違いではない。でも一つ、勘違いするじゃねぇよ。

 

 

タンッ!!

 

 

光の速度でアリアのところまで走り抜ける。ワモンは驚愕するも遅い。

 

気が付いた時にはアリアのツタは斬り裂かれていた。

 

 

「悪いがアリアは俺の姫だ」

 

 

アリアは、俺だけの姫だ。勘違いするんじゃねぇよ。

 

優しくアリアをお姫様抱っこし、舌を出しながらワモンに告げる。

 

 

「誰にも渡さねぇよバーカ」

 

 

「貴様アアアアアァァァ!!ッ!!」

 

 

怒りの沸点が頂点に達したワモンがこちらに向かって突っ込んで来る。

 

 

ガシッ!!

 

 

「ヌッ!?」

 

 

だが動きが止まる。大樹から伸びた影がワモンの体に纏わりつき、動きを封じていた。

 

前もって吸血鬼の力を発動していたおかげだ。動きを封じているうちに、準備する。

 

 

「アリア、あの時みたいにできるか?」

 

 

「できるけど……その前に降ろしなさいッ」

 

 

「別に俺はこのままでいいぞ?」

 

 

「……馬鹿ッ」

 

 

顔を赤くしながら罵るアリアは最高だった。これなら俺、ドMでいいや。

 

アリアは少し距離を取った後、銃を取り出して俺に向かって緋弾を放つ準備をする。

 

 

「行くわよ」

 

 

「おう」

 

 

ガキュンッ!!

 

 

銃弾が大樹の頭部に直撃する。

 

脳の奥から熱が生まれるような感覚。あまりの熱さに気を失いそうになる。

 

 

ゴオォッ!!

 

 

額から緋色の火が溢れる。髪の色が緋色に変色する。

 

足元の影が真っ赤に染まり、炎を吹き上げた。

 

 

「グアアアアアァァァ!!」

 

 

ワモンの体に火が燃え移り、その身を焼き焦がす。

 

大樹の影から円を描くように緋色の刀が12本作り上げられる。

 

 

 

 

 

「十二刀流式、【極刀星・夜影閃刹の構え】」

 

 

 

 

 

姫羅だけにしか使えない最強の剣技。

 

受け継いだ奥義を大樹は繰り出す。

 

 

「行くぞッ———!!」

 

 

大樹は緋色の炎が燃え上がらせながら刀を握り絞める。

 

 

 

 

 

「———【天黄星(てんこうせい)神絶斬(しんぜつざん)】!!」

 

 

 

 

 

大樹の刀によって十二連撃が繰り出された。

 

 

ザンッ!!!

 

 

振り下ろした刀は全てワモンの体に突き刺さった。緋色の炎が激しく燃え飛び回り、城ごと焼却しようとしていた。

 

 

「うおおおおおォォォ!!!」

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!!

 

 

緋色の爆炎がワモンを包み込み、その身を消した。

 

城の最上階は床以外のモノは全て吹き飛び、未踏査領域の地を一望できた。

 

東から太陽が昇る。朝日の光が一帯を照らす。

 

綺麗な景色に言葉を失うが、俺が言いたいことは一つ。

 

 

 

 

 

「ゴキブリ、マジで強ぇ……」

 

 

 

 

 

結局、本気を出した。ガストレアと色金を持っていたとはいえ、ゴキブリには脱帽だ。

 

これで終わり。やっと一件落着だな。

 

 

「……斉tなんとかはどうした?」

 

 

「あッ」

 

 

―――五分後、無事に見つかった。

 

 

 

________________________

 

 

 

ゴキブリが起こした悪魔の様な騒動は終わった。終わらなかったら嫁たちに怒られるからな。

 

後処理は政府に任せた。サボったらゴキブリをお前らの家で繁殖させると脅して置いたから大丈夫なはず。

 

ゴキブリの出現は一気に激減。ガストレアになる個体は現れず、元の東京エリアになろうとしているが、いつになったら平和とやらは来るのだろうか。

 

 

「疲れるぅ……働きたくない……」

 

 

「こらっ、シャッキとしなさい。こんなところで寝ないの」

 

 

教会の長椅子に寝ているとアリアに怒られた。クッ、この角度はギリギリスカートの中を覗けない位置だちくしょう。

 

 

「……ッ!? ……目に風穴開けようかしら?」

 

 

「いやー! 銃口をグリグリ目に押し付けないでぇ!!」

 

 

俺の視線に気付いたアリアは顔を赤くしながら拳銃の銃口を俺の目にグリグリと押し付けた。うおー! 潰れるぅ!

 

 

「もうっ……あんたは本当に救いようのない馬鹿ね」

 

 

「そんなに褒め「褒めてないわ」———いや速いから。せめて最後まで言わせて……」

 

 

食い気味に言われると、悲しいです。

 

アリアは空いているスペースに腰を下ろし、俺の顔を見る。

 

 

「どうした? そんなに見つめられると、惚れるぜ?」

 

 

「そんなことより、もうアレは大丈夫なの?」

 

 

あ、今度はスルーか。もう慣れたからいいけど。

 

 

「まぁな。落ち着いたと思う。ゴキブリはあんまり見ないし、バル〇ン(ブラスト)XX(ダブルイクス)も開発成功したしな」

 

 

「何その不穏な名前は……」

 

 

「焚けばゴキブリが嫌いな成分をまき散らせばあら不思議。家に入って来るの防ぐと同時に、家の中にいる奴らを追い出すのです!」

 

 

「はぁ……でもお高いのでしょ?」

 

 

「うん、29万だからな」

 

 

「高ッ!?」

 

 

嫌々でもノリに乗ってくれたのは嬉しいが、リアルな数字だからな。お金持ちしか買えない一品となっております。でも公共の場では無償で提供したから。

 

 

「大樹さん? ここにいるのですか?」

 

 

教会に入って来たのはティナ。俺は手を挙げてここにいることを知らせる。

 

 

「俺はここにいるぞティナ」

 

 

俺は体を起こし、長椅子が三人で座れるようにする。

 

 

「どうした?」

 

 

「いえ、ただ大樹さんとお話がしたいと思いまして」

 

 

「嬉しい事言ってくれるじゃねぇか。いいぞ、こっちに来いよ」

 

 

ティナは俺の隣に座り嬉しそうにする。アリアとティナに挟まれて、俺は幸せ者だぁ……。

 

 

「さぁて、思ったより番外編の後編が早く終わったからな。何について語ろうか」

 

 

「あんた……メタ発言のレベルがヤバイわよ……」

 

 

「世界観ぶち壊しですね」

 

 

「そうだな。バレンタインについて語るか」

 

 

「無理矢理リアルに合わせて来たわね」

 

 

「大樹さんはチョコ、貰えないですよね?」

 

 

「ティナがさらりと酷いこと言うんだけど……一つ言っておくが滅茶苦茶貰うぞ」

 

 

「醜い嘘はいらないわ」

 

 

「醜い!? 二人ともホントに信じてねぇし……学校で一番貰った男だぞ? 舐めるな」

 

 

「去年は何個でしたか?」

 

 

「学校の生徒から112個、母と姉から4個、他の学校の生徒から50個くらい貰って、地域の方々からも20個くらいは貰ったかな」

 

 

「「えぇ!?」」

 

 

「いやーこれマジだぜ? 去年が一番過去最高記録だったからな」

 

 

「あんたそんなにモテるの!? 嘘でしょ!?」

 

 

「アリアは俺のことをどう思っていたんだよ……その発言は何だよ……」

 

 

「大樹さんがモテることは永遠に来ないと思っていました」

 

 

「正直は時に人を傷つけるんだよティナ?」

 

 

「……それで、本命はいくつよ? 大樹のことが好きな人は何十人いたのかしらねッ?」

 

 

「腹の贅肉をつねりながら怒るなよッ……ゼロだよ」

 

 

「「え?」」

 

 

「だからゼロだって言ってんだろ。全部義理チョコと友チョコだよ。地域の人たちはお礼とかだったし、本命は一個もない」

 

 

「……何か、すいませんでした」

 

 

「やめろティナ。謝ると虚しくなる」

 

 

「どうしてそれだけの数を貰っておいて、誰も好きになってくれないのよアンタ……」

 

 

「いやー人気者は辛いなぁ……恋愛対象で見てくれないもんな……フヘッ」

 

 

「目が死んでいますよ」

 

 

「死にたくなるだろ……俺だって健全な男子高校生だ。甘い恋くらい、夢見るわ」

 

 

「現実は非情ね……」

 

 

「全くだ。でも今年は期待してるぜ? なぁアリア?」

 

 

「うッ……分かってるわよ。仕方ないからあげるわ。義理をね」

 

 

「頼む。嘘でもいいから本命くださいお願いします」

 

 

「土下座するほどなの!?」

 

 

「大樹さん。私が手作り本命チョコをあげます。楽しみにしてください」

 

 

「やったー! ……………犯罪じゃないよな?」

 

 

「今その言葉で犯罪になりそうよ」

 

 

「いやん♪」

 

 

「チッ」

 

 

「やべぇ……ガチの舌打ちされた……あ、でもやっぱ本命チョコ貰っているかも」

 

 

「ちょっと!? 誰に貰ったのよ!」

 

 

「あッ」

 

 

「ティナも気付いたようだな。そうだよ、もうティナから本命チョコを貰っていた」

 

 

「ど、どういうこと?」

 

 

「アリアの世界ってバレンタインを迎えていたんだよ。その時に女の子たちがチョコを作ってくれてな」

 

 

「あの時はいろいろあったので、忘れていました」

 

 

「ああ、俺もだ。チョコ、美味しかったぜ」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「………………除け者にされたのかしら?」

 

 

「違うぜアリア。俺は嫉妬してくれればそれで大満足だから狙っているんだ」

 

 

「なるほど。風穴ね」

 

 

「Wow! 見事に会話が成立してないYO!」

 

 

「アリアさんは料理できるのですか?」

 

 

「できるわ」

 

 

「真顔で嘘を言ったよこの人……ひぇー」

 

 

「文句ある?」

 

 

「ないけど、俺の方が上手いぜ?」

 

 

ボゴッ!!

 

 

「ぶべッ!?」

 

 

「このアホは放って置いて……いいわ。実力を見せてあげる」

 

 

「何をするのですか?」

 

 

「料理よ。論より証拠。今から作るから待ってて」

 

 

「やめろアリア! お前が台所に立つとかヤバいか———」

 

 

ガキュンッ!!

 

 

「———なぶはッ!?」

 

 

「大樹さんが本当に撃たれた!?」

 

 

「じゃあ楽しみに待っていなさい」

 

 

「これは……止めたほうが良いのでは……!?」

 

 

「……ティナ。胃薬の準備だ」

 

 

「大樹さん……!」

 

 

 

―――チョコももまんは、普通に不味かった。

 

 

 




ついに番外編が終わった!? 拍手!(自画自賛)

あとは主人公紹介だけですね! クソ遅ぇな!(謝罪の気持ちで一杯)

まとめるのに時間はあまり掛からないと思いますが、ダラダラと無駄なことを書いてしまうので、時間が掛かる可能性もあります。(フラグ)


オカンからのチョコは、凄く感謝しましょう。もし貰えなければゼロになりますよ……!

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