どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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文字数は約2万文字です。


Gの超逆襲 前編

人類を絶望へと追い込んだ戦争が終わり、全員で東京エリアを復興する作業をする日々が続いた。

 

楢原 大樹という規格外のおかげで作業は当初予定したスケジュールより10倍以上は進んだ。

 

元の東京エリアにどころか、発展した東京エリアになりつつあった。

 

誰もが望んだ平和が帰って来た。しかし、天童民間警備会社の一室で悲鳴が響き渡った。

 

 

「いやああああああァァァ!!」

 

 

悲鳴を上げたのは優子。周りにいた真由美とウサ耳が無くなった黒ウサギも慌てている。

 

 

「風穴あああああァァァ!!」

 

 

「壁に空けちゃ駄目でしょ!?」

 

 

「や、やめてくださいアリアさん!!」

 

 

混乱したアリアを真由美と黒ウサギが止める。既に壁には二つ、穴が空いていた。

 

 

「さ、里見君!? 早く! 早く叩いてぇ!!」

 

 

「やってるよ! というか木更さん邪魔!」

 

 

「お願い早く叩いて叩いて叩いて叩いてぇ!!」

 

 

「痛い痛い痛い!? 俺を叩くなよ!?」

 

 

「蓮太郎!! 後ろだ!!」

 

 

延珠の叫びに蓮太郎はハッとなり、後ろを見らず気配だけで壁に向かってスリッパを振り下ろした。

 

 

スパンッ!!

 

 

しかし、奴は避けた。『フッ、残像だよ少年』とでも言ってるかのような気持ち悪いテクニカルな動きを見せる。

 

 

「そこぉ!!」

 

 

スパンッ!!

 

 

「ブフッ!?」

 

 

木更の振りかざしたスリッパの一撃は蓮太郎に後頭部に直撃。目を瞑ってそんなことをすれば当たるわけがない。

 

 

「目を開けてやれよ!?」

 

 

「視界に入れたくないのよ! 里見君、あいつにモザイクを入れなさい!」

 

 

「無理があるだろ!?」

 

 

部屋はさらに散らかり、悲鳴がまた上がる。

 

 

バサッ

 

 

奴が羽を広げて飛翔した瞬間、全員が大きな悲鳴を上げた。

 

 

 

________________________

 

 

 

 

「もう嫌だ……黒ウサギ……アタシ、汚されたわ……」

 

 

「誤解を招く発言はやめてください優子さん!? 大丈夫です、ギリギリ当たってないですから! ギリギリ!」

 

 

「黒ウサギの発言も、全然励ましにならないわよ……」

 

 

両膝を折った優子に黒ウサギは励ましの言葉を送るが、無意味だった。その様子を見たアリアは呆れている。

 

全員は外へと避難し、意気消沈していた。大惨敗である。

 

 

「まさか……二匹目のゴキブリが出て来るとはな……」

 

 

「しかも大きかったわね……うッ」

 

 

「木更さん。頼むから路上で吐かないでくれ絶対に」

 

 

美少女JKが路上で嘔吐する絵面は勘弁してほしい。通行人的にも、読者的にも、作者的にも。

 

顔色を悪くした優子は大きなため息をつく。

 

 

「大樹君がここまで恋しいと思う日が来るとは思わなかったわ……」

 

 

「そうね……大樹はどこ行ったのよ……」

 

 

同じ気持ちだったアリアは拳銃の弾倉を入れ替えながら呟く。蓮太郎はジト目でボソリっと誰にも聞こえないように声に出す。

 

 

「……本当はいつも恋し―――」

 

 

「「何か言ったかしら?」」

 

 

「———ナンデモナイデス」

 

 

迂闊。蓮太郎の背中と後頭部に銃とCADを突きつけられてしまった。皆も悪口を言う時は気を付けよう。

 

 

「そうね。二人はちょっと素直になれないから心配よ」

 

 

「「なッ!?」」

 

 

だが真由美は踏み込んだ。優子とアリアは顔を真っ赤にして反論しようとするが、勝てそうにないので諦めるしかなかった。蓮太郎は真由美のことを改めて色んな意味で凄い存在だと認識した。

 

 

―――この時、影からある人物がこちらの様子を見ていたことを、ここに居る者達は知らない。

 

 

―――全員、ある人物に気付かず会話を続けてしまった。

 

 

「大樹が帰って来たら、全員でやりましょう」

 

 

「アリアさんの言う通りよ。次こそ始末するわ」

 

 

アリアと木更は拳銃と刀を取り出し本気を見せようとしている。ゴキブリ一匹にオーバーキル狙いだった。

 

 

「相手は厄介よ。アタシの魔法があれば動きを封じれる」

 

 

「妾は?」

 

 

「延珠ちゃん。アタシはアイツに汚されたの。本気で蹴りなさい」

 

 

優子のガチな気迫に延珠は頷くことしかできなかった。

 

 

「靴にアレが付くと思うが気にするな」

 

 

「うへぇ……嫌なことを言うな蓮太郎ぅ……」

 

 

ゴキブリを踏み潰すのは苦行の極み。靴越しでも嫌なはずだ。

 

 

「く、黒ウサギは足を引っ張りそうなので後ろから見ていますね」

 

 

ウサ耳を無くした黒ウサギは苦笑い。しかし、彼女が本気を出せばゴキブリどころかビルすら危うい。

 

 

「えッ!? 見るのはやめた方がいいわよ!?」

 

 

「あぁ、きっとグロいぞ」

 

 

アリアと蓮太郎が黒ウサギを止める。黒ウサギは何とか頑張ることを伝えて納得させた。

 

 

「私は……そうね……どうすればいいかしら?」

 

 

「では黒ウサギと一緒に見ていましょう!」

 

 

考える真由美に黒ウサギは提案する。黒ウサギはどうやら見学仲間が欲しかったらしい。

 

その時、黒ウサギの視界に大樹が入った。何故か大樹は電柱の影に隠れている。

 

 

「あッ、大樹さん!」

 

 

「ッ!?」

 

 

満面の笑みで黒ウサギが救世主に声をかけた瞬間、ビクッと体を震わせ顔を真っ青にした。そして、

 

 

 

 

 

「死にたくなあああああああいッ!!」

 

 

 

 

 

「「「「「え?」」」」」

 

 

脱兎の如く逃げた始めた。それも音速で。

 

 

「だ、大樹さん!? どこに行くのですか!? それと今のは———!?」

 

 

黒ウサギが事情を聞こうと声を出しながら走り出した時、黒ウサギの前に一人の少女が立ち塞がった。

 

 

「て、ティナちゃん? どうしたの?」

 

 

優子が恐る恐る声をかける。ティナは両手を広げながら声に出す。

 

 

「確かに大樹さんは変態ですが、殺す必要はないです!」

 

 

「「「「「え?」」」」」

 

 

________________________

 

 

 

時は少しだけ(さかのぼ)る。

 

復興作業も進み、大樹とティナは千葉県奪還のためにガストレアたちと軽く遊んだ後、帰って来ていた。ちなみに遊んでいたという発言は大樹個人だけであって、他の者達は命懸けで挑んでいる。

 

やはり大樹が参加したおかげか死者はゼロ。規格外、ここに在り。

 

 

「さてと、帰ったらアリアに抱き付いて殴られるかぁ」

 

 

「何の躊躇(ちゅうちょ)もなくセクハラ宣言する上に、殴られる前提なのですね」

 

 

「銃は出させない。愛の言葉を(ささ)いて止める」

 

 

「逆効果だと思いますよ」

 

 

ドーモ、いつもあなたの心の中に住む綺麗で美しいイケメン大樹ですよ。はい今キモいって言った奴、俺のどこがキモいか30字にまとめて感想欄に提出しなさい。……ホントに出すなよ? 出したらマジ泣きしてやる。

 

ティナは頬を膨らませながら俺の自慢の嫁話を聞く。ありゃりゃ? 嫉妬かな? 可愛いなコイツ!

 

 

「……大樹さん。私には抱き付かないのですか?」

 

 

「いいかティナ。今ここでそれをやれば、俺は警察のお世話になっちゃうからな?」

 

 

「チキンですね」

 

 

「いやそう言う問題じゃねぇよ……あと挑発に乗らないからな?」

 

 

抱き付かない俺に不満を持ったのかティナは俺の横腹の贅肉を掴む。もー、くすっぐたいぞ?

 

 

「……5秒後には千切ります」

 

 

「そーらティナ! いつでも甘えていいからな!」

 

 

すぐにティナを抱きかかえてやった。いきなりお姫様抱っこをする俺たちは、やはり周りから目立った。はいそこ携帯電話の準備しないでね。

 

 

「このままアリアさんの所に行きましょう」

 

 

「撃たれちゃうからやめて」

 

 

そろそろ民警のボロ会社に着くと思った矢先、道路でみんなが暗いテンションになって落ち込んでいるのが見えた。何あの負のオーラ。優子とか虚ろな目で危ないんだけど。

 

うわー行きたくないけど行くしかないか。

 

声をかけようと口を開けた瞬間———

 

 

 

 

 

「大樹が帰って来たら、全員でやりましょう」

 

 

 

 

 

―――急いで電柱の裏に隠れた。

 

……聞き間違いだよな? 今、アリアが俺を殺そうとか言ってなかった? まだ抱き付いていないよな?

 

……違う。きっと違う! だって俺、何もしてないもん!

 

そうだ。何かの間違いだ。全員からフルボッコされるようなことは———!?

 

 

「アリアさんの言う通りよ。次こそ始末するわ」

 

 

―――何でだよおおおおおおおおおォォォ!?

 

木更! 俺が何をした!? おっぱい揉みたいとは妄想したが、口や行動には出してないだろ!?

 

というかアイツら拳銃と刀を取り出しているし、本気じゃねぇか!?

 

 

「相手は厄介よ。アタシの魔法があれば動きを封じれる」

 

 

優子の魔法はマジで洒落にならねぇよ!? 俺は確かに厄介だけど殺さないで!

 

 

「妾は?」

 

 

「延珠ちゃん。アタシはアイツに汚されたの。本気で蹴りなさい」

 

 

延珠ちゃんに何吹きこんでいるんだよぉ!? 俺、優子を汚した覚えはないんだけど!? あと蹴りも痛いからやめて!

 

 

「大樹さん……何をしたんですか……」

 

 

「知らない。俺は無実だ」

 

 

ここまで俺のことを心配するティナは久しぶりに見た。

 

 

「靴にアレが付くと思うが気にするな」

 

 

「うへぇ……嫌なことを言うな蓮太郎ぅ……」

 

 

アレって何だよぉ! 俺の何が靴に付くんだよぉ!

 

何か俺を変な害虫みたいな扱いしてませんか!? しかも延珠ちゃん蹴る気満々だし!?

 

 

「く、黒ウサギは足を引っ張りそうなので後ろから見ていますね」

 

 

助けろよおおおおおおォォォ!!!

 

俺がやられる様を見届けるの!? 一番鬼畜じゃないあなた!?

 

 

「えッ!? 見るのはやめた方がいいわよ!?」

 

 

「あぁ、きっとグロいぞ」

 

 

どんだけボコボコにするつもりだお前ら!? グロくなるまでやるの!? 恐ろしい!!

 

 

「私は……そうね……どうすればいいかしら?」

 

 

だから助けろ真由美。

 

 

「では黒ウサギと一緒に見ていましょう!」

 

 

お前はもう鬼畜だよ!! キチウサギ!!

 

その時、黒ウサギの目と合ってしまった。

 

 

「あッ、大樹さん!」

 

 

駄目だ。ここにいたら―――!

 

 

「死にたくなあああああああいッ!!」

 

 

―――やられる!!

 

 

こうして勘違いで起きた事件の幕開けである。

 

 

________________________

 

 

 

「おえはおんvcぃおうはふぇおだ!!」

 

 

「うわああああぁ!? ってお前かよ!?」

 

 

まず俺はジュピターさんのキャンプテントの中に避難して来た。兄貴ぃ!!

 

涙と鼻水と何かの液体を出しながら大樹はジュピターさんにしがみつく。

 

 

「だずげでぇ……!」

 

 

「汚ねぇ!? 離れろお前!?」

 

 

「う゛え゛ぇぇぇばぁああああはぁぁぁん!!」

 

 

「気持ち悪い泣き方してんじゃねぇぞおい!?」

 

 

ジュピターさんは色々と世話をした後、落ち着いた大樹から話を聞いた。

 

コーヒーを飲みながらジュピターさんは答える。

 

 

「まぁ一回死ねば許して貰えるじゃないか? どうせ生き返るだろ?」

 

 

「俺をマ〇オか何かと勘違いしてないか?」

 

 

「いや、ダークソ〇ルがいいぞ。やり直して何度もチャレンジできる」

 

 

「ゲームの違いの問題じゃねぇよ。というか、それだとクリアするまで何度も殺されに行かないといけないんだが……」

 

 

「じゃあ怒らせた理由は何だ? 心当たりは無いのか?」

 

 

「ねぇよ。最近はずっとティナと一緒にいて可愛がっていたからな」

 

 

「よく自信持って原因を原因じゃないって言えたなおい」

 

 

「は? 嘘だろ? お前正気かよ(笑)」

 

 

「ハッハッハッ、やっぱこいつ頭のネジ数本飛んでるわ」

 

 

何故かジュピターさんに出て行けと言われた。全く、俺の命が危ないと言うのに。

 

その時、外から誰かがこちらに歩いて来る足音が聞こえた。

 

コルト・ガバメントを引き抜き警戒。よし、里見なら撃ち抜ける。嫁なら逃げる。

 

足音が止まった瞬間、テントの中から飛び出し銃を突きつける。

 

 

「動くな」

 

 

「銃口を股間に向けるのはやめてくれないかね? 凄く嫌な気持ちになってしまう」

 

 

「何だ影胤かよ」

 

 

銃口を下げてホッと安堵の息を吐く。ジュピターさんは呆れてカップ麺にお湯を注ぎ始めていた。

 

 

「それで、何の用だよ?」

 

 

「あぁ、誤解があってね。里見君が一度自分のところへ戻―――」

 

 

「スティィィイイイイイイイイルッ!!」

 

 

影胤のパンツは奪えないが、意識は奪えそうだった。

 

 

ドンッ!!

 

 

黄金の右手で影胤の腹部に衝撃を与えて意識を奪う。

 

すぐに影胤を抱えてジュピターさんのテントに放り込む。

 

 

「な、何やってんだお前!?」

 

 

「どけぇ! 殺されるだろうがぁ!!」

 

 

突然の出来事に困惑するジュピターさん。大樹は容赦しない。

 

 

ゴスッ

 

 

「うッ」

 

 

ジュピターさんにスティールした。(意識を奪った)

 

気を失ったジュピターさんの手にとんかちを持たせ、如何にも相打ちの殺人があったかのように見せる。

 

そしてもうすぐで出来上がるカップ麺を盗んで逃走。

 

死にたくない一心で起きた、惨くてしょぼい事件だった。

 

 

________________________

 

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

教会近くのテントで、死体が二人発見された。死んでいないけど。

 

ちょっとした誤解でここまで事が大きくなるとは、誰も思わなかっただろう。

 

被害者は伝言を頼んだ影胤。そしてテントの持ち主であるジュピターさん。

 

蓮太郎は影胤に黙祷(もくとう)。木更はジュピターさんに黙祷した。

 

黒ウサギは教会の外を、優子と真由美は教会の中を探し、子どもたちに事情聴取した。

 

各自全てを終えた後、全員は一度集合した。殺害現場(誰も殺されていない)を調べていたアリアとティナは、ある結論を出した。

 

 

「大樹はカップ麺を盗んで逃げたわ」

 

 

「しかも割り箸を忘れて逃走しています」

 

 

凄くどうでもいいことを真顔で言われ、全員戦慄してしまった。

 

気を取り直して蓮太郎は話を始める。

 

 

「手掛かりが無いなら、手詰まりだな」

 

 

「ゴキブリを退治するのに、何でこんなことをやっているのかしら……」

 

 

「木更さん。それを言ったら虚しくなるからやめてくれ」

 

 

未だにゴキブリに会社を乗っ取られた状態が続いている。何故か殺虫剤はどこの店も売り切れで購入できず、叩く方法しか残されていなかった。

 

 

「やっぱりもう一度戦いに行こうぜ木更さん?」

 

 

「無理よ。アイツらを倒すには全人類の力を合わせる必要があるわ」

 

 

「大袈裟だろ!?」

 

 

もう木更の中でゴキブリはトラウマになりつつあった。

 

 

「教会には来ていないようですね。足跡も何かしらの痕跡もありませんでした」

 

 

「そもそも中に入ってすらいないと思うわ。誰も見ていないし、戸締りもしっかりしていたわ」

 

 

黒ウサギと優子の言葉が詰みの決め手となった。

 

完全に手掛かりを失ったその時、蓮太郎の携帯電話が鳴った。

 

急いで確認すると、蓮太郎は驚いた表情になった。

 

 

「大変だ木更さんッ、聖天子様から緊急要請のメールが―――」

 

 

「既読スルーしなければ問題無いわ」

 

 

「大アリだろ!? あとラインじゃねぇ!」

 

 

「え? 聖天子様、ガラケーなのかしら? 遅れてるわね」

 

 

「気にするところそこじゃねぇだろ!? 無視せず会議に行こうぜ!? 東京エリアの危機だったらどうするつもりだよ!」

 

 

「今はそれどころじゃないでしょ!! あの会社にはゴキブリがいるのよ!」

 

 

「東京エリアとあの部屋を天秤にかけたところで、どっちに傾くか目に見えているだろ……」

 

 

「そうよ。会社『東京エリアだ!!』———本気かしら?」

 

 

「頼むから大樹がいない時くらい休ませてくれ……」

 

 

「でも本当のことよ? 行かなくていいわ」

 

 

「……………何で?」

 

 

「きっと大樹君が何とかしてくれるからよ」

 

 

「本心は?」

 

 

「日本の危機も大樹君がいれば解決。大樹君を見つければ会社と東京エリア、どちらも解決できるわ」

 

 

「否定できねぇのが悔しいな」

 

 

「ちょっと夫婦漫才している場合じゃないわよ」

 

 

「してねぇよ!」

「してない!」

 

 

真由美の一言で二人はやっと落ち着く。やはり目の前でイチャイチャされると困る。

 

 

「私は行くことに賛成よ」

 

 

意外なことに、真由美が賛成した。蓮太郎は理由を尋ねる。

 

 

「理由は何だよ?」

 

 

「いっそのこと、聖天子様に指名手配を頼むとかどうかしら♪」

 

 

(大樹さんはどこでも指名手配されるのですか……)

 

 

笑顔でサラリっととんでもないことを発言する真由美。ティナは大樹に同情していた。

 

 

________________________

 

 

 

 

東京エリアの聖居で行われている会議では、重大な議題が挙げられていた。あの絶望するしかない戦争が終わった直後だというのに。

 

聖天子は議員や研究員から次々と説明される内容に顔をしかめていた。

 

 

「……まさかゴキブリなんぞに振り回されるとは」

 

 

一人の議員が思わず呟いた。聞いた議員長少し考えた後、結論を出す。

 

 

「……バル〇ン焚こうじゃないか」

 

 

「議員長。本気でその結果を言っているなら私は許しませんよ」

 

 

「そもそもバ〇サンを使っても効果が薄いからこんなところまで議題が回って来ているのですよ」

 

 

「じゃあホイホイじゃ」

 

 

「とちくるってんのかクソジジィ」

 

 

「目上の人間に対してその発言はどうかと思うのだが……」

 

 

「ならば節度ある発言をしてください。そもそも、ホイホイだともっと悪いですよ」

 

 

「ならブラック〇ャップ設置じゃな」

 

 

「お前しばくぞ」

 

 

もう真面目に会議をする気になれなかった。

 

 

「いい加減にしてください」

 

 

会議の雰囲気を壊したのは聖天子だった。

 

聖天子は議員たちを見渡し、話し始める。

 

 

「これは由々(ゆゆ)しき問題です。ここまで作り上げた東京エリアがまたあのような戦争を引き起こす引き金に成り得ます。全プロモーターと全イニシエーターに力を貸してもらいましょう。敵を全滅させるのです」

 

 

議員たちは思った。確かに問題になるとか、ちゃんと解決しなきゃとかじゃない。

 

聖天子はゴキブリが滅茶苦茶苦手だなと。

 

ちなみに議員たちの見込みは正解だ。聖天子はここに来る前に奴を見て大きな悲鳴を上げている。その悲鳴は全警備隊を警戒態勢レベルSまで引き上げる程。

 

 

「……彼に頼むと言うのは?」

 

 

「……英雄にゴキブリ駆除をやらせるのか?」

 

 

「……俺たちで頑張るべきか」

 

 

意外と良心を持った議員たち。それもそのはず、悪は既に大樹がお仕置きしていたからだ。

 

 

「店に売られた殺虫剤の売り切れが後を絶たない。ニュースでも話題になってしまっている」

 

 

「……少し妙に思えて来るな」

 

 

「妙? というと?」

 

 

「言うまでもない話なのだが? まぁいい、終戦後に何故こんなにゴキブリが現れる? 理由も無く数が増えることに違和感しか感じないだろ?」

 

 

「確かに。ネズミや他の害虫の被害報告は聞かないことに対してゴキブリだけというのは不自然だ」

 

 

全く方針が決まらない中、ドタドタと廊下を走る足音が聞こえて来た。

 

バンッと勢い良く扉が開き、一人の男が転がり入ってそのままアクロバティックな動きで着地して来た。

 

 

「た、大変です!!」

 

 

「今お前の入り方が大変だったぞ」

 

 

「そんなことはどうでもいいです! この資料を見てください!!」

 

 

ダンッと勢い良く出された資料に一同は目を通す。読んでいるうちに皆の顔色がだんだんと悪くなっていた。

 

 

「冗談だろ……何だこれは!?」

 

 

「室戸医師の報告です。間違いありません。これは大問題になります!」

 

 

焦り出す議員に対して男は大声で危機を伝えた。聖天子は立ち上がり、指示を出す。

 

 

―――この時、影からある人物が顔を真っ青にしてこちらの様子を見ていたことを、ここに居る者達は知らない。

 

 

―――全員、ある人物に気付かず会話を続けてしまった。

 

 

「彼を―――楢原 大樹をここに呼んでください」

 

 

「はッ!」

 

 

すぐに男は携帯電話を取り出し連絡を取り始める。議員たちもすぐに色々と準備に取り掛かる。

 

 

「やりましょう。東京エリアは、もう渡しません」

 

 

「ええ、聖天子様の言う通りだ」

 

 

一同は頷き、会議が進む。

 

 

「では彼が来る前に準備を済ませておこうか」

 

 

「そうですね。ゴキブリ()を始末するには他の民警も必要になるでしょう。手配は我々が」

 

 

「分かりました。では僕の方で武器などの調達をやります。敵は簡単に倒せる相手ではないですからね」

 

 

「でしたら私は薬品研究者と話をしてきます。火力だけでは無理があると思うので」

 

 

一致団結した議員たちはすぐに行動し始める。だが、扉を開くと———

 

 

「あッ」

 

 

「「「「「あッ」」」」」

 

 

 

 

 

――—楢原 大樹がそこにいた。

 

 

 

 

「え、えっと……楢原さん? 来ていたのなら―――」

 

 

「死にたくないでおじゃるううううううゥゥゥ!!!」

 

 

大樹は逃げ出した。

 

 

「「「「「えええええェェェ!?」」」」」

 

 

議員と聖天子は驚く事しかできなかった。

 

 

________________________

 

 

 

時はまた少し遡る。

 

 

「割り箸出せ」

 

 

「はい」

 

 

コンビニで割り箸強盗した後、俺はカップ麺を食べながら聖居に侵入していた。まぁ警備員は俺を見た瞬間、大声で「お疲れ様で——―—―—ッす!!」と腰を90°に曲げて言われた。ふむ、俺の身分も高くなったモノだな。

 

聖天子を探しに奥へと進む。すると会議室から声が聞こえて来た。ドアを少しだけ開けて中の様子を伺う。

 

 

「彼を―――楢原 大樹をここに呼んでください」

 

 

もういますよ。

 

何で呼ぼうとしているんですかね。マナーモードにしておこう。電話がブルブル震えるが無視しよう。

 

 

「やりましょう。東京エリアは、もう渡しません」

 

 

やっぱりお前もかブルータス。

 

 

「ええ、聖天子様の言う通りだ」

 

 

賛同しちゃったよ。されちゃったよ。

 

 

「では彼が来る前に準備を済ませておこうか」

 

 

何の? ねぇ何の準備? ねぇってば?

 

 

「そうですね。奴を始末するには他の民警も必要になるでしょう。手配は我々が」

 

 

―――やっぱり聞きたくなかった。

 

始末? 誰を? 俺を? 何でぇ!?

 

 

「分かりました。では僕の方で武器などの調達をやります。敵は簡単に倒せる相手ではないですからね」

 

 

分かりましたっじゃねぇよ! ガチで殺そうとしてんじゃねぇか! 

 

 

「でしたら私は薬品研究者と話をしてきます。火力だけでは無理があると思うので」

 

 

こいつが一番ガチじゃねぇか! 俺のこと、本気で殺そうとしてるぞ!?

 

待て待て待て。何で俺はこんなに狙われているんだよ!

 

おかしい、何かがおかしい。一体何が起きて―――!?

 

俺は思考に夢中で気付かなかった。扉が開けられてしまったことに。

 

 

「あッ」

 

 

「「「「「あッ」」」」」

 

 

目が合った。互いに驚いた表情である。

 

 

「え、えっと……楢原さん? 来ていたのなら―――」

 

 

―――聖天子に殺される!?

 

 

「死にたくないでおじゃるううううううゥゥゥ!!!」

 

 

―――こうして、俺の逃走劇は再開された。

 

 

 

________________________

 

 

 

蓮太郎たちは聖天子のところに着いた。既に大樹は逃亡し、行方不明になっている。

 

 

「———以上が、先程の出来事です」

 

 

(((((さらに厄介になった……)))))

 

 

聖天子の話に一同は溜め息をついた。

 

事態の悪化。そして可哀想な大樹である。勘違いでここまで酷い状況になることは、誰も予想できないだろう。

 

 

「聖天子様、俺たちを呼んだのはアイツらのことで間違いないな?」

 

 

「はい、先程室戸医師から届いた資料を拝見し、とんでもないことが発覚しました」

 

 

「先生が調べたのか!? それにとんでもないことって……!?」

 

 

驚愕する蓮太郎に、聖天子は告げる。

 

 

 

 

 

「ゴキブリの体内から、ガストレアウイルスが検出されました」

 

 

 

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

聖天子から告げられたことに全員が絶句する。聖天子は続ける。

 

 

「幸い、ゴキブリがステージⅠになるまでに至らなかった……免疫力が非常に強かった個体だっため、ガストレアにはなっていません。数も全てというわけではないので」

 

 

「もしガストレアになれば『感染爆発(パンデミック)』が起きるわ……! すぐに対策を立てないと!」

 

 

「木更さん。それは難しい話だ」

 

 

蓮太郎は首を振って木更の言葉を否定する。理由は代わりに事を理解していたティナが説明する。

 

 

「社長。敵を見つけるのは困難だと思います。ガストレアになっていないゴキブリは小さいです。そんな小さな生物を発見するには時間が必要です。敵の数が多いことに対して一匹に長時間は悪手です」

 

 

「一番厄介なのは突然変異だ。もし住宅街の家の中でゴキブリがガストレア化したら、死者は必ず出る。あとは流れるように『感染爆発(パンデミック)』が起きて東京エリアはお終いだ」

 

 

ティナと蓮太郎の説明に事態が如何に大変なことになっているか周りは理解する。

 

それを聞いた上で、顎に手を当てていたアリアが提案する。

 

 

「なら住民をモノリスに避難させましょ」

 

 

「えっと、どうしてモノリスなの? 前みたいにここの周辺でも……」

 

 

「優子。奴らは建物に多くいる生物よ。建物がない平地に建てられたモノリスの方がいないはずよ。それに万が一、ガストレアになればバラニウムの磁場が守ってくれるわ」

 

 

アリアの解説で優子たちは理解する。聖天子もアリアの出した案が良いと思い、すぐに部下たちに指示を出していた。

 

 

「でも根本的な解決じゃないわ。『感染爆発(パンデミック)』を防ぐだけであって、全滅させる案が必要よ」

 

 

「真由美の言う通り、あたしの案は対策でしかないわ。でも、解決できる人がいる」

 

 

アリアが言おうとすることは、全員が予想できた。黒ウサギが苦笑いで答えを出す。

 

 

「だ、大樹さんですね……」

 

 

「そうよ。一刻も早く、逃亡犯を捕まえないといけないわ」

 

 

「いつの間にか大樹さんが罪を犯したことになっていますね……」

 

 

こうして逃亡者―――逃亡犯を捕まえる作戦が始動した。

 

 

________________________

 

 

 

「一体俺が何をしたって言うんだよ」

 

 

東京エリアの住民たちにイイコトしかしてないよね? そうでもないか。迷惑かけた方が多いかも。あれ? 追われる理由できそうなんだけど?

 

まぁ見つかったところで捕まるわけがないし、気にしなくていいか。

 

住宅街を歩き、とりあえず教会に戻ろうと考えていると

 

 

「———せっかく平和になったんだ。大人しくしろよ」

 

 

ガシンッ!!

 

 

大樹に向かって鋭い爪のようなモノが振り下ろされた。それを見切っていた大樹は右に少し体を動かすだけで避ける。爪は掠りもせず、地面を破壊するだけで終わってしまった。

 

首だけ動かして敵を見る。体長は3メートル、六本の手足がある。黒光りした気持ち悪い体に、触角のある頭部からは鋭い歯が見えた。

 

 

「何だよ……これ……!?」

 

 

―――というかゴキブリだった。

 

あまりの気持ち悪さに嘔吐しそうになる。気分は最悪だ。

 

 

「お前……俺の前に出るならモザイク加工くらいして来いよ……!」

 

 

木更と同じ発想である。

 

 

「ギャガアアアアァァ!!」

 

 

鋭く吠えるガストレアに大樹は眉一つ動かさない。敵はまた爪を振り下ろし、大樹を八つ裂きにしようとするが、

 

 

「んッ」

 

 

タンッ

 

 

軽く横に跳んで回避。その瞬間、大樹の体は一気に加速する。

 

 

ゴォッ!!

 

 

風を切った。一瞬で敵の懐に潜り込み、右足で敵の腹部を下から蹴り上げた。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

人を逸脱した破壊力にガストレアの体は上空まで吹っ飛ばされる。しかし、ガストレアは羽根を広げて威力を抑えようとしていた。

 

まだ生きていることを目視した大樹は跳躍して追いかける。瞬間移動をしたかのようなスピードに敵は背後を取られたことに気付かない。

 

トドメの一撃。最後の一撃である。

 

 

「おらよッ!!」

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!

 

 

繰り出された踵落としはガストレアの体を変形させる威力を持っていた。

 

ガストレアはコンクリートの地面に叩きつけられ絶命。動くことはもうなかった。

 

砕けた道路に着地した大樹は嫌な顔をする。

 

 

「ったく、何でこんな奴がまた侵入してんだ?」

 

 

口を抑えながら死体を視る。気分が悪くなるが、妙なモノを発見した。

 

体の中からキラリっと光る小さな物体。その物体に、見覚えがあった。

 

 

「—————最悪だな」

 

 

無理に笑顔を浮かべても、汗が止まらない。

 

 

 

 

 

ガストレアの体内から出て来た小さな物体―――それは金色金だった。

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

ガストレアの体内から発見された金色金を見た後、事態は大変なことになっていると予想できた。

 

住宅街を走り抜けて人で賑わった中心街のビルの屋上に降り立つ。

 

目を瞑り無駄な感覚を消して集中力を高めた。

 

耳を澄ませば街の音がどこから出ているのか把握できる。足音も、ドアを開ける後も、話す声も。そして———

 

 

「———やっぱりか」

 

 

―――ガストレアの出現場所からも聞こえる。

 

南に二キロ先からガストレアの鳴き声の他に、悲鳴が聞こえた。これは女性たちの声だ。

 

 

「【神刀姫(しんとうき)】」

 

 

ギフトカードから銀色の刀を取り出す。既に抜刀されており、鞘に収められていない状態で出現した。

 

 

ゴオォッ!!

 

 

刹那、ガストレアと女性の間に大樹が出現した。

 

コンマ一秒にも満たない時間。瞬間移動でもしたかのような速度。最強はそこに君臨した。

 

 

ザンッ!!

 

 

ガストレアが大樹の存在に気付く前に、女性が驚きの声を上げる前に、大樹の斬撃はガストレアの胴体を横から一刀両断した。

 

 

「———ふっ」

 

 

決まった。完全に決まった。今の俺、カッコイイよね?

 

さすが俺。ここまで完全に街を防衛している俺は英雄と呼ばれるに相応しくなっている。もうゴキブリガストレアを8匹も死者を出さずに討伐しているんだぜ。ドヤァ。

 

高いビルからどんな場所でも駆け付けれるようにする作戦は成功だな。相手がどうやってランダムで出現するかは未だに分からないが、この俺には関係無い。出たら潰せばいいだけの話だからな!

 

さぁて……最後の台詞も、決めるぜ!

 

 

「大丈夫かい? お嬢様方?」

 

 

 

 

 

俺はお湯に浸かって涙目になっている女性たちに爽やかな笑顔で言ってやった。

 

 

 

 

 

……………おや?

 

どうして彼女たちは生まれたままの姿になっているんだ? うん?

 

周りを見渡すとすぐにここがどのような場所か理解できた。

 

 

―――なるほど、銭湯か。しかも女湯の露天風呂。

 

 

そう言えば家を無くした者たちのために格安銭湯を経営し始めたら人気が出たんだよな。避難所の人たちからの要望も多かったし、教会の温泉を分けてやったんだよな。露天風呂はオシャレかなと思い作りました。まる。

 

 

「……ふぅ」

 

 

小さく息を吐いた後、俺は両手を合わせる。

 

 

「許してちょんまげ☆」

 

 

 

 

 

―――この後、お礼を言われて通報された。

 

 

―――白い車の乗車し、警察に連行された。

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

俺は吊るされていた。

 

全身をフルボッコにされ、ボンレスハムのようにロープで強く結ばれ天井から吊るされていた。

 

今俺は地獄を見ている。

 

 

「お願いだ……死なないと思うけど殺さないで」

 

 

「斬新で新しい命乞いだな」

 

 

ドン引きする蓮太郎。俺のお願いは彼女たちに届かない。

 

 

「そう、遺言はしっかりと聞いたわ」

 

 

「待ってアリア。聞いたなら何で俺の言葉は遺言に変わってんだ」

 

 

「死ぬからよ」

 

 

「殺さないってお願いしたのに……!」

 

 

駄目だ。アリアは助けてくれそうにない。

 

 

「優子!」

 

 

「そうよね。ええ、分かっているわ」

 

 

優子ぉ……やっぱり俺のことを分かって———!

 

 

「アタシだけじゃなく、他の女の子の裸も見たい浮気者だって知っているわ」

 

 

―――いないよね! 知ってた!

 

 

「優子。女の子の価値は胸で決まらないんだぞ。大丈夫だ。俺は優子を愛してる」

 

 

「ありがとう。でも一度死んでから返事を聞くわ」

 

 

オー、ジーザス!

 

 

「黒ウサギ! 頼む、止めてくれ!!」

 

 

「……………」

 

 

「無言は一番嫌だあああああァァァ!!」

 

 

表情は笑顔なのに、冷たい目で俺を見ていた。

 

 

「真由美! 許してくれぇ! 誤解だぁ!!」

 

 

「えっと、私は別に怒ってはいないけど」

 

 

「本当か!?」

 

 

「でも今の状況は面白そうだから、ごめんなさいね」

 

 

「このドSぅぅううう! 鬼畜ぅぅううう!!」

 

 

真由美は皆とは違ったベクトルで、酷かった。というか一番酷いと思います。

 

 

「ティナ! お前だけが頼りだ! ヘルプミー!」

 

 

「ノー」

 

 

「普通に断られた!?」

 

 

駄目だ。もう俺に味方なんかいない。

 

こうなれば、吹っ切れてやる!

 

 

「おっぱい見ただけだろうが! 文句あるのかよゴラァ!!」

 

 

―――彼女たちに文句は無かったが、不満はあったそうだ。

 

 

―――乙女心を理解できなかったアホは死あるのみ。

 

 

―――死にそうなくらい痛かったが、僕はギリギリ生きてます。

 

 

 

________________________

 

 

 

会議でまさかの死人が出た。まぁ死者はすぐに生き返る化け物のため、誰も気にする様子は無かった。

 

 

「会議を戻します。議題は突如出現するガストレアです。最悪なことに、個体は全てゴキブリだということ」

 

 

顔色を悪くしながら聖天子が説明する。聞いている者たちも苦しそうに聞いていた。

 

 

「出現する個体は強く、他のステージⅠに比べると戦闘力、生命力は非常に強いと報告が来ています」

 

 

「なぁ木更さん。俺、会社が心配になってきた」

 

 

「ええ、私もよ」

 

 

ただ事では無いことを理解した蓮太郎たち。帰って始末したいが、帰りたくないという矛盾に陥っていた。

 

 

「現在も被害報告が届きます。これ以上、敵の好きにはさせたくありません。だからあなたを呼びました」

 

 

「ホラ起きなさい大樹。呼ばれているわよ」

 

 

「———うい」

 

 

(((((生き返った!?)))))

 

 

議員たちは驚愕。あれだけのことがあったというのに生き返ることが信じられなかった。

 

 

「あー、説明付け足していいか? 実はガストレア化する個体は決まっているんだ」

 

 

「そうなのですか?」

 

 

黒ウサギの確認に大樹は頷く。

 

 

「こいつだよ」

 

 

ポケットから無数のキラキラ光る欠片を取り出した。テーブルに撒き散らして皆に見えるようにする。

 

その欠片が何なのか知っていたアリアはすぐに答えを口にした。

 

 

「金色金!? まだ回収されていなかったの!?」

 

 

「そのようだな。頼んでおいたのに政府は一体何をやっているのかなぁ?」

 

 

「「「「「すいませんでしたぁ!!」」」」」

 

 

「お前らは直接関係してないから別に土下座する必要はないんだが……どんだけ俺のこと怖がってんだよ」

 

 

「あら? 知らないの? 大樹君は今、魔王って呼ばれているのよ?」

 

 

「何で俺の二つ名がここで使われているんだよ!?」

 

 

「二つ名は結局それになったのね」

 

 

真由美の衝撃的な事実を知った俺は絶望。『双剣双銃(カドラ)のアリア』は俺の二つ名を聞いて鼻で笑った。ちくしょう。俺もカッコイイ二つ名が欲しかった。魔王なんてお父さんお父さん言うだけだろ。

 

 

「嘘よ」

 

 

「何か真由美が俺に対して凄く冷たいのだけど」

 

 

「愛情の裏返しよ」

 

 

「ヤンデレかよ」

 

 

「ツンデレよ」

 

 

「ハッ、それはアリアと優子の方が良いに決まっているだろ」

 

 

「「どういうことよ!?」」

 

 

「そうね。否定しないわ」

 

 

「「否定しなさい!!」」

 

 

ハッハッハッ、やっぱり二人は可愛いのう。

 

 

「話を戻すぞツンデレ」

 

 

「「は?」」

 

 

「調子乗ってすいませんでした」

 

 

やりすぎ、よくない。これ大事。ゲームも一日一時間! 守るわけないけど。

 

 

「と、とりあえず金色金がガストレア化する原因を作ってんだよ。弱いガストレアウイルスを色金が強化したせいで、今の現状が続くんだ」

 

 

「なら金色金が無くなるまで倒し続ければ終わりが来るのですね」

 

 

「いや甘いな。ティナ、色金の数は不明。全ての色金が見つかるまで毎日東京エリアにゴキブリガストレアが現れるかもしれないんだぞ?」

 

 

「「「「「ヒィッ!!」」」」」

 

 

全員が悲鳴を上げた。どんだけ怖いんだよお前ら。

 

 

「だから、俺は全面戦争を仕掛けるぞ」

 

 

俺は拳を強く握り絞める。

 

 

「ゴキブリ共はガストレアウイルスに強い。色金の影響を受けるからガストレア化するんだ。なら、色金の個体を全部叩けば他は無視していいんだよ」

 

 

「どうやって見つけるの? それが一番の問題なんでしょ?」

 

 

優子の言葉に俺はチッチッチッと指を振る。「凄くムカつくわ、今の」と優子にジト目で睨まれたが気にしない。

 

 

「色金は、緋緋神に任せればいいんだよ」

 

 

「あたしの緋緋神に何する気よ!!」

 

 

「「「「「!?」」」」」」

 

 

突然アリアの叫びに周りは驚愕。動揺していないのは大樹ぐらいだ。

 

 

「グェッヘッヘッヘッ、そりゃエロいことに決まっているだろぉ」

 

 

「この変態! 黒ウサギで許して!」

 

 

「何故黒ウサギが売るのですか!?」

 

 

「いらん」

 

 

「しかも断られました!!」

 

 

「この変態! じゃあ優子よ!」

 

 

「『じゃあ』って何!? 妥協しないでくれる!? あとアリア、どうしたのよ!?」

 

 

「うーん、いらない」

 

 

「大樹君も酷いわよ!?」

 

 

「この変態! 真由美はあまりオススメしないわ!」

 

 

「何でよ!?」

 

 

「知ってる」

 

 

「大樹君!?」

 

 

「この変態! ティナは……………いいわよ」

 

 

「何故か私だけ薦められました……」

 

 

「ああ、貰うよ。アリアと一緒にな!」

 

 

「大樹!」

 

 

ヒシッとティナを完全にスルーして大樹とアリアは抱き合った。周りの人たちは何がどうなっているのか分からず、開いた口が塞がらなかった。

 

 

「……こっち側も面白いわね」

 

 

「だろ?」

 

 

(((((遊ばれてた!?)))))

 

 

楽しそうに笑うアリア。大樹はアリアをボケ(こちら)側に引き込もうとしていた。

 

 

「とりあえず緋緋神に頼んでみてくれ。政府は住民の避難。色金を持ったゴキブリを全部ガストレアにするから安全とは言えねぇからな」

 

 

「か、覚醒させる!? 故意にガストレアにするって言うのかよ!?」

 

 

「そうだよロリコン」

 

 

「誰がロリコンだ!」

 

 

里見だよ。

 

 

「一時的になるだけだ。緋緋神の力で東京エリアはゴキブリまみれになるが気にするな」

 

 

「考えたくねぇよ……だって考えただけで俺……!」

 

 

確かに鳥肌凄いな。

 

 

「覚醒させるって【共鳴振動(コンソナ)】でいいのかしら?」

 

 

「ああ、そうだ」

 

 

色金は片方が覚醒すると共鳴する音叉のように、もう片方も目を覚ます性質がある。ならば緋緋神に力を借りて、現在所持している金色金を使い、ゴキブリ共の色金を覚醒させる案というわけだ。

 

かなり危険―――危ない橋どころか、壊れたボロボロのつり橋を渡るような案だった。

 

 

「理解したかよ里コン」

 

 

「合体させるな!」

 

 

里見+ロリコン=里コン

なら大樹+ロリコン=大根ですね。何じゃそりゃ。

 

 

「大丈夫なの? とても不安が———」

 

 

優子が大樹を心配していたが、すぐに口を閉じた。

 

 

「———やっぱり何でもないわ」

 

 

「待て優子。その『大樹なら問題無いか』みたいな反応をして諦めるな。せめてアニメのヒロインみたいに心配してくれ」

 

 

「Can you do it?」

 

 

「Yes,I can. って違う違う! だから心配しろよ!?」

 

 

「いやよ」

 

 

「拒否られた!?」

 

 

優子の冷たい反応に俺はショックを受けてシクシク泣く。

 

 

「大丈夫よ大樹君」

 

 

真由美が俺の肩に手を置いて微笑む。

 

 

「誰もあなたのことは心配していないわ」

 

 

「ぐふッ」

 

 

真由美の切れ味は、今日もグッジョブ。

 

その時、部屋の隅でカサカサと蠢く物体が見えた。俺は指を指しながら教える。

 

 

「あ、ゴキブリがいるぞ」

 

 

耳が、死ぬかと思った。

 

 

「「「「「キャアアアアアアア!!!」」」」」

 

 

「うるさッ!?」

 

 

女の子たちは悲鳴を上げた。男たちも悲鳴を上げている。男だらしねぇぞ!?

 

 

「里見君里見君里見君ざどみ゛ぐん゛ーーーッ!!!」

 

 

「折れる折れる折れる!? 木更さん腕があああああァァァ!!」

 

 

「蓮太郎ぅ!! 早くやっつけるのだぁ!!」

 

 

「延珠首は洒落にならぐえッ!?」

 

 

やっべぇ……里見が面白いことになってる。写メ撮りたい。

 

……まぁ俺も同じ状況だから動けないんですけどね。

 

 

「だ、大樹君! 早くやっつけてぇ!!」

 

 

「うん、やるやる」

 

 

優子は俺の頭にガッチリと抱き締めている。ミシミシ鳴っているけど可愛いからいいや。

 

 

「大樹ぃ……!」

 

 

涙目のアリアたん、かわゆす。でも左腕が折れるから優しく―――もう折れていいや。

 

 

「大樹さん……黒ウサギは、信じています」

 

 

何を? あ、黒ウサギさん。そのまま右腕を取れちゃうくらいギュッとしていいよ。柔らかい感触を楽しむので。

 

 

「だ、大樹君? 逃げちゃ……駄目よ?」

 

 

やだなぁ真由美。そんなに首を掴まれちゃうと逃げるにも逃げれないぜ? 酸素が欲しいけどそのまま抱き付いてくれるなら文句はありません。

 

 

「ッ…………ッ!」

 

 

あー、もう! 無言で震えるティナが萌える! でもお腹のお肉が千切れちゃう! 可愛いから許すけど。

 

 

「大樹さん! このまま動かずに退治してください!」

 

 

わぁお! 俺の背中に隠れている聖天子が無理難題を押し付けやがった! そのまま胸も押し付けてください。

 

その時、最悪なことが起きた。

 

 

「うわぁああ!! どっか行けぇ!!」

 

 

議員の一人が椅子をゴキブリに向かって投げたのだ。

 

危機を感じ取ったゴキブリは———

 

 

バァッ

 

 

―――羽根を広げて飛翔したのだ。

 

 

「「「「「ギャアアアアアァァァ!!」」」」」

 

 

女の子がそんな悲鳴を上げちゃいけませんよ!? というか男共は抱き合うな気持ち悪い! それは女の子だけが許された特権だ! ホモは別だが。

 

女の子たちに抱き締める威力は増加するが、さすがにヤバいと感じた俺は華麗に抜け出した。

 

ゴキブリが飛んで来る方向に立ち塞がり、俺は右手を広げる。

 

 

「そい」

 

 

パシッ

 

 

そして、そのまま右手でゴキブリを捕まえた。

 

 

「「「「「え゛?」」」」」

 

 

大樹以外の人間が止まった。悲鳴も、震えも、驚きで止まった。

 

そのまま反対の左手で窓を開けて、

 

 

「自然に帰れー」

 

 

ゴキブリをボールの様に投げて外へと逃がした。

 

大樹はゴキブリに耐性が非常に強い人間である。殺生しない理由は、後始末が面倒だからということ。

 

一仕事終えた大樹は尋ねる。

 

 

「手を洗いたいから、手洗い場教えてくれ」

 

 

―――その場にいた者たちは、大樹のことを本物の猛者だと確信することができた。

 

 

 

________________________

 

 

 

東京エリアに再び危機が訪れた。避難する市民から非難の声が上がるが、大樹の「ゴキブリのエサになりたい奴は残っておk」っと言った瞬間、市民は素直に新しく造り上げられた32号モノリス付近に避難し終えた。

 

壊滅的まで追い込まれた自衛隊が復活し、民警と共に協力して万が一に備えて警戒する。

 

 

『住民の避難、完了しました』

 

 

耳に装着した通信機から聖天子の報告が聞こえた。

 

閉じていた瞼を開けばそこは東京エリアを一望できる。

 

現在、東京エリアの中心街の上空に俺は飛んでいた。

 

黄金色の翼を広げピタリっと静止し、【神刀姫】を抜刀して両手で握り絞めていた。

 

 

「俺も準備はできている。聖天子、アリアと交代してくれ」

 

 

『分かりました。アリアさん、お願いします』

 

 

カチャカチャっと音が聞こえ、聖天子はアリアと交代した。

 

 

『代わったわよ。【共鳴振動(コンソナ)】はいつでもできるようにしているわ』

 

 

「これはかなり危ない賭けだ。何があっても絶対にモノリスから離れないようにしてくれよ」

 

 

『何よ? 今更ビビったとか言わないでしょうね?』

 

 

「まさか。俺が怖いのは万が一、誰かが傷ついた時だ。自分のことは全く心配ねぇよ」

 

 

『……少しは自分の体は大事にしなさいよ』

 

 

「あー、そうだった。みんなとそういう約束していたな。分かったよ。大事にする」

 

 

『……そう、ならいいわ』

 

 

アリアの表情は見えないが、声音から察するに呆れて微笑んでいるだろうな。

 

 

「不満か?」

 

 

『いいえ、むしろ喜んでいるわよ』

 

 

「そうか。そりゃ良かった良かった」

 

 

『……じゃあ、始めるわね』

 

 

「おう」

 

 

通信機にノイズが入る。32号のモノリスの方を見ると、緋色の光と金色の光が混じり合ったような光が輝いた。

 

頭に熱が走る。頭の中にある色金が【共鳴振動(コンソナ)】している。今は俺に覚醒する必要ない。

 

集中して冷静に力を抑える。だが、抑えれない奴もいる。

 

 

「「「「「ギャガアアアアァァ!!」」」」」

 

 

東京エリアの各地から轟音が響き渡る。眠っていた力に目覚めたガストレアウイルスが一斉に覚醒―――ガストレア化して姿を見せた。

 

その数はとてもじゃないが数えれない。住宅街だけでなく、街のビルからも出現している。

 

 

「———【冷静の闘志】」

 

 

その瞬間、冷え切っていた思考が弾けるように燃え上がった。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

光の速度で飛翔、真下の中心街に降り立ち、刀を振るう。

 

 

「っしゃあオラあああああァァァ!!」

 

 

ズシャアアアアアァァァ!!!

 

 

大声で刀を大きく横に薙ぎ払う。

 

斬撃は風を斬り裂き、暴風が吹き荒れる。巨大な斬撃波が街に一閃する。

 

 

ズシャッ!!

 

 

無数のガストレアは大きく引き裂かれ、建造物は一切壊れない。あり得ない一撃が繰り出された。

 

 

「くはっ」

 

 

思わず笑みがこぼれてしまう。冷静を原動力にしたせいで、気持ちが(たかぶ)ってしまう。

 

大きく踏み込み音速を超えた速度で跳躍し、新たなガストレアの所へと向かう。

 

 

「一匹も、逃がさねぇぞおおおおおォォォ!!」

 

 

ザンッ!!

 

 

敵の頭部に刀を振り下ろし、縦に一刀両断。

 

 

ザンッ!!

 

 

続けてそのまま次のガストレアの体を横に一刀両断。

 

 

ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ!

 

 

ガストレア一匹に対して一秒もかけない。一秒以内にケリを付ける。

 

東京エリアの街を駆け巡り、一匹も逃がさないように狩る。

 

 

ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ!

 

 

ガストレアには何が起きているのか理解できない。目視することができない相手に恐怖することしかできない。

 

羽根を広げて飛んでも斬られる。身を守ろうとしても無意味。攻撃を仕掛けても掠りもしない。

 

最強の前では()(すべ)もない。いや、することすら許されない。

 

 

「ふッ」

 

 

街の大きな交差点の中心に着地する。服は気持ち悪い液体で汚れているが無傷だった。

 

見える敵は全て倒した。あとは———!

 

 

ドゴッ!!

 

 

「「「ギャガアアアアァァ!!」」」

 

 

―――ちょっと頭の良いガストレアだけだ。

 

コンクリートの地面から湧き出たのは生き残りのガストレア三匹。奇襲を狙っていたようだが、わざわざ誘き寄せたことに気付かないお前らは、甘いぜ。

 

 

「どおおりゃああああァァァ!!」

 

 

ドゴォンッ!!

 

 

ガストレア三匹をまとめて右足で蹴り飛ばす。無茶苦茶な力にガストレアは大樹に攻撃できない。

 

蹴り飛ばされたガストレアは空高く飛ぶ。大樹は刀を持ち直し、

 

 

ゴォッ!!

 

 

そのまま投擲した。

 

刀は簡単にガストレア三匹を貫き、絶命する。抵抗する暇すら与えられなかった。

 

 

バァッ!!

 

 

物陰に隠れていたガストレアが一気に飛翔する。標的は勿論、大樹だ。

 

その時、プツリッと何かが切れた。

 

 

「ヒャッハ――――――――――――――――――――!!」

 

 

完全に冷静が亡くなった。昂る感情は大樹を興奮させ、テンションを上げていた。

 

 

ドゴォッ! ドゴォッ! ドゴォッ!

 

ドゴオオオオオォォォン!!

 

 

大樹の拳と蹴りの連撃がガストレアに炸裂。次々と地に堕ち、その命も落とした。

 

 

(ヤバいヤバいヤバい! 感情が抑えれねぇ!)

 

 

『闘志』の練習をしようとしただけなのに、これは不味い!

 

制御が効かない。冷静の感情を作ろうとしても、作り方なんて知らない。

 

 

「くはッ!! クハハハハッ!!」

 

 

もうこれ戦闘狂にしか見えないよぉ!!

 

 

ザシュッ!!

 

 

投擲した刀をキャッチした瞬間、目にも止まらぬ速さで振り回す。それだけで無数の斬撃波が飛び、ガストレアを斬り裂いた。

 

戦いに狂った大樹の心の底では、大泣きしていた。

 

 

________________________

 

 

 

大樹の戦いをモニターで見ていた者達は顔面蒼白だった。

 

ドン引き。笑いながらガストレアを屠っている大樹に引いていた。

 

 

「……あたし、変なことを言ったかしら?」

 

 

「……いや、無いと思うわ」

 

 

アリアと優子はモニターから距離を取っている。物理的にも引いていた。

 

 

「だ、大樹さんの演技ですよ! きっと黒ウサギたちを怖がらせるために―――」

 

 

『ヒャッハ――――――――――――――――――――!!』

 

 

「———フォローできません」

 

 

黒ウサギは白旗を上げた。これが演技に見えるだろうか? いや見えない。

 

 

「えっと、その……これはちょっと……」

 

 

あの真由美ですら曖昧な感想すら言えない状態だ。

 

 

「……いつもこうなのですか?」

 

 

「「「「「違う違う」」」」」

 

 

ティナの質問に全力で首を横に振った。

 

蓮太郎と木更も「うわぁ……」と嫌な顔で見ていた。延珠ちゃんは絶句している。

 

 

「あれ? おかしいわね」

 

 

その時、アリアが眉を(ひそ)めた。

 

通信機を急いで繋げて声を出す。

 

 

「色金が一つの場所に集まっているわ……大樹! 聞こえる!?」

 

 

『あぁ!? 何だ!?』

 

 

「南の方―――色金が一ヵ所に集まっているのよ! 大樹が倒した色金もよ!」

 

 

『何だと? 南の———』

 

 

そこで大樹の言葉は途切れた。

 

 

ガシャンッ!!

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

通信機から大きな壊れた音が発せられた。

 

大樹の声は聞こえない。代わりに聞こえるのはうるさいノイズだけ。

 

その場にいた全員が戦慄した。急いで通信を回復しようと作業員が急ぐが、その必要は無くなった。

 

 

ガシャアアアアアァァァン!!

 

 

モノリスの近くにあった木造の高台が盛大に破壊された。突然の出来事に周りは慌てるが、砂煙が一気に舞い上がった。

 

 

「調子に乗るんじゃねぇぞ!!」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

砂煙が一気に晴れる斬撃が繰り出された。煙の中から出て来たのは大樹だった。

 

飛んで行く斬撃の先———黒い影があった。だが目視できたのは一瞬だけ。

 

 

シュンッ!!

 

 

黒い影は一瞬で姿を消し、大樹の背後を取った。

 

黒い影の体は大樹の体より2倍近く、3メートルはあった。人型のような姿をした敵に、戦慄した。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

黒い影の拳が大樹の背中に直撃。大樹の体は地面を砕きながら叩きつけられた。

 

 

「大樹さんッ!?」

 

 

聖天子が悲鳴を上げるかのような声で名前を叫ぶ。大樹の返事は返ってこなかった。

 

 

「コノ我ニ勝テルト思ッタカ? 浅ハカ、青イ、何トモ脆弱ナ男ダ」

 

 

人間ではない。日本語だが、人間が喋るにしてはおかしい話し方だった。

 

 

「木更さん!! コイツは———!?」

 

 

「全員下がって!!」

 

 

蓮太郎は銃を取り出し、木更は刀を抜刀する。

 

黒い影の正体―――アリアには分かっていた。

 

全ての金色金は、黒い影の体内にある。

 

 

 

 

 

つまり———これはゴキブリだということ。

 

 

 

 

 

体は甲冑に似た黒い鎧を身に纏い、背中には羽根の様なモノがあることが確認できた。頭部はゴキブリと同じように触角や気色悪い顔になっていた。

 

 

「がぁ!!」

 

 

ゴッ!!

 

 

倒れていた大樹が起き上がり、右足で敵の顎を蹴り抜いた。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

そのまま敵の腹部に拳を入れる。手応えがある一撃に、大樹はニッと笑みを浮かべるが———

 

 

「愚カダ」

 

 

「なッ!?」

 

 

―――効いていなかった。

 

 

ドゴオオオオオォォォンッ!!

 

 

敵の目に見えない速度で繰り出された回し蹴りが大樹の側頭部に炸裂。大樹の体は地面を抉り削りながら吹っ飛ばされた。

 

 

「チッ、色金の力を舐めていたぜ……」

 

 

後方遠くまで飛ばされたが、大樹は血を流さず立っていた。だが大樹の表情に余裕はもうなかった。

 

 

「大樹! アイツの体の中に、全部色金が入っているわ!」

 

 

遠くからアリアが大樹に向かって叫ぶ。大樹は苦虫を噛み潰したような表情で笑った。

 

 

「ハハッ、そんなのありかよ。アイツが異常に強い理由はそれか」

 

 

大樹は刀をギフトカードから取り出し、構える。

 

 

「間違いねぇ。これが本当ならアイツのステージは―――!」

 

 

大樹は告げる。

 

 

 

 

 

「———ステージⅤを越えてやがる!」

 

 

 

 

 

 

 

 






ゴキブリTUEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!

この小説を書いていて一言、言わせて頂けたい。


もう『ゴキブリ』でググりたくない。


知りたくないことを知った。ゴキブリの画像を見過ぎた。もうゴキブリ嫌だぁぁぁあああ!!

誰だよ前編と後編とかしようとした奴。私でした。

そしてこれが最後の次回予告! 


―――絶望の次は、恐怖が舞い降りた。


「私でも、これは厳しい戦いになりそうだ」

「もうこれ以上、東京エリアに居られません」

「駄目だ……無理があり過ぎる」


―――人類とゴキブリの戦いに、終止符を!



「我ハ最強ォォォオオオ!」



「十二刀流式、【極刀星・夜影閃刹の構え】」




次回、『Gの超逆襲 後編』


この作品を書いている時、鳥肌が止まらなくてヤバい。

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