どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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番外編は私のギャグの集大成だああああああああああああああああ!!


失敗は、許されないデス。


文字数は1万5千となっております。


番外編
原田風紀委員のお仕事


風紀委員は生徒の手本となる生活を送らなければならない。

 

不良のような制服を着崩すような恰好は当然駄目だ。生活リズムはしっかりと整え、成績はそこそこ優秀でないとならない。

 

よって原田亮良(あきら)の朝は———

 

 

「寝坊したあああああァァァ!!」

 

 

———別に早くなかったりする。

 

午前10時半。社長出勤する原田は急いで着替えて家から出る。鍵を閉め忘れているが、今の原田はそんな支えなことは気付かない。

 

 

「やべぇよやべぇよ! 何で俺は風紀委員なんかやってんだよ!」

 

 

記憶操作で一時的に記憶を失っていることにまだ気付かない原田。気付くのは当分先になる。

 

制服を着た生徒は誰もいない。そりゃそうだ。全員学校に行っているから。

 

いるのは学校の職員や大学生など、午前授業に出なくていい生徒ぐらいだ。ここに原田がいるのは不自然でしかない。

 

走りながら頭の中で学校の潜入ルートを確認。何度も遅刻した者だけができる偉業とも言えよう。どこが誇れるか全く理解できないが。

 

 

「あ?」

 

 

その時、走っている足を止めた。

 

原田が目を付けたのはとあるコンビニだった。一見普通のコンビニに見えるが、店内にヘルメットを被った男がいることに気付いた。

 

大抵の場合、アレは脱ぐのが面倒な人では無い。

 

 

『いいから金を出せ!』

 

 

自分の顔を隠すために被っている時だ。

 

ヘルメットを被った男の手にはサバイバルナイフが握られており、女性店員を脅していた。

 

その光景に、原田は———

 

 

「奇跡だ……!」

 

 

———パァっと笑顔になった。

 

原田は携帯電話を取り出し、学校へと連絡する。

 

『今日は犯罪者の取り締まりがあるのでお休みします』という正当なズル休みができるのだから。

 

笑顔のまま、原田はコンビニへと突撃した。

 

 

________________________

 

 

 

「よぉ原田。職権乱用って言葉、知ってるか?」

 

 

「……………」

 

 

風紀委員として仕事を終えた原田は男の教師の前で汗をダラダラ流していた。

 

 

「テメェが遅刻して学校に向かって走っている姿はたくさんの監視カメラ様が見ていたんだ。薄情しろ」

 

 

「偶然でした!!」

 

 

「だろうな」

 

 

男の教師は背後にあるコンビニを見ながら溜め息を漏らす。

 

 

「はぁ……無能力者(レベル0)を捕まえるだけでいちいち窓ガラスを割るなよ。女性店員が無事なのはいいが、怒られるのはアイツなんだぞ」

 

 

「えッ、誰ですか?」

 

 

固法(このり)だ」

 

 

「お疲れ様でしたッ!!」

 

 

フォンッ

 

 

全力でその場から逃げようとしたにも関わらず、突如俺の体は宙を舞った。

 

 

ドサッ!!

 

 

「ぐふッ!?」

 

 

約3メートルの所から落ちた原田は地面を転がり痛みに耐える。瞬間移動したのか!? ならこの能力は———

 

 

「罪を重ねることは、美徳だと勘違いしておりますの?」

 

 

———大能力者(レベル4)の【空間移動(テレポート)】! それが使えるのは後輩の白井(しらい) 黒子(くろこ)だけだ!

 

茶髪ツインテールの中学生。お嬢様学校である常盤台に通っている学生だ。

 

 

「下等生物先輩?」

 

 

名前の原型が残っていない件について。

 

 

「や、やだなぁ。俺には原田 亮良(あきら)というカッコイイ名前があるのに。言っただろ? 気軽にアッキーって呼んでいいって」

 

 

「下等生物アッキー先輩」

 

 

「『下等生物』は苗字じゃないぞ?」

 

 

強打した腰をさすりながら立ち上がる。黒子はゴミでも見るかのような目で原田を見下す。

 

 

「御存知でしょうが、ここの管轄(かんかつ)は私たちです。よってここで不祥事を起こせば咎められるのは当然私たちです。そうですよね、原田先輩?」

 

 

「アッキーとか、ダサすぎるだろお前」

 

 

黒子と教師の集中攻撃にメンタルがブレイクされそうになるが、何とか返す。

 

 

「じゃあアキラでいいよ」

 

 

「そう意味ではないのですよ……あと呼びません」

 

 

「坊主頭の野郎にふさわしい名前。それが原田だろ」

 

 

もう亮良、諦めます。アキラだけに。本当につまらないことを思いつくな俺。

 

 

「ということですので、あとはお願いしますの」

 

 

「あッ」

 

 

ガシッと頭が鷲掴みされた。ガクガクと体が震えるが、何とか振り返ることはできた。

 

 

「こ、固法じゃないか? ど、どなんしたんや?」

 

 

セミロングヘアに眼鏡をかけたクールビューティー。しかし、今はそんな影は微塵も見えない。

 

 

「一度死んでから、話を聞こうかしら?」

 

 

やだー、聞く気がないじゃないですかー。

 

 

________________________

 

 

 

「何で俺が酷い目に遭うんだよ……褒められることはしただろうが」

 

 

「素直に遅刻したことを言わないからですの。反省してください」

 

 

「し、白井さん言い過ぎですよ。先輩がいなかったら早急な対応ができなかったのですから」

 

 

ファミレスで白井ともう一人の後輩、初春(ういはる) 飾利(かざり)と一緒に食事をしていた。そして初春は俺にとって癒しだ。これ大事。

 

 

「さすが飾利ちゃん! 今日はお兄さんの奢りだからね!」

 

 

「ではヨーグルトストロベリーパフェをお願いしますの」

 

 

「テメェに奢るとは言ってねぇよ」

 

 

サクサクッ

 

 

気が付けば俺の制服に無数の針が刺さっており、動けないようになっていた。

 

 

「お前……頭のネジ、飛んでいるだろ」

 

 

「頭のネジ、何本か入れてさしあげますわ」

 

 

「ごめんなさい」

 

 

本当にできてしまうから怖い。その能力、反則過ぎるだろ。

 

結局二人にデザート付きの食事を奢らされるハメになり、俺の財布は軽くなってしまった。

 

 

「くそぉ……何で俺は風紀委員(ジャッチメント)なんて仕事をやっているんだよ」

 

 

「え? てっきり私は正義感が強いから入ったと思っていました」

 

 

「冗談キツイぞ飾利ちゃん。面倒なことが嫌いな俺が入るわけがねぇだろ?」

 

 

「何で入ってますの……」

 

 

「それは知らん。最近だって空から降って来た男もいるって言うのに、面倒なことばかりだ」

 

 

「……一体誰ですの、その殿方は? 能力が飛行でしたら興味があるのですよ」

 

 

「残念だったな白井。無能力者だ」

 

 

「……本当ですの?」

 

 

「今は俺がマークしているから安心しろ。不審な動きは見せないし、悪さをしようとは思わねぇ奴だ」

 

 

「根拠は?」

 

 

「勘だ。文句あるか?」

 

 

「……いえ、先輩なら大丈夫かと。ただ……」

 

 

「何だよ?」

 

 

「自己責任でお願いしますの」

 

 

「俺たち、一緒に働く仲間じゃないか」

 

 

「始末書はお一人で」

 

 

「絶対に嫌だ」

 

 

コンビニだけでもあの量だっていうのに、アイツが問題起こしたらどれだけ書かされるか想像しただけで吐き気がする。

 

 

「ですが、困った時は頼ってくださいまし。同じ仕事場で働いているのですから」

 

 

「白井……」

 

 

「あッ、抹茶パフェも頼んでよろしいですの?」

 

 

「台無しだよ」

 

 

 

________________________

 

 

 

 

お金が無い。

 

コンビニのATMで金を下ろそうと店内に入る。今度は店員だけしかいない安全なコンビニだ。

 

しかし、問題があった。

 

 

「いらっしゃいませ、地獄のカァーニバァルへ」

 

 

店員が、楢原 大樹であるということ。

 

オールバックの黒髪の青年。肉食系男子っぽいワイルドな感じがするこの男が、原田の中で一番の問題となっている。

 

突如空から学園都市に不法侵入。さらに俺に協力を申し出るという不可解な行動。

 

怪しい行動。気をつけなければならない。

 

 

「……金を下ろすだけだ」

 

 

「誰もいない店内で暇を持て余すこの俺が、逃がすと思うか?」

 

 

コイツ、ホント怖い。

 

固法と同等の恐ろしさを持っている。何でここで働いているんだよ。

 

ふと大樹の胸元に刺してある名前のカードの端に『新人』の文字が見えた。

 

 

「……始めたばかりなのか?」

 

 

「ああ、昨日から」

 

 

「はぁ!? もう一人で任されたのかよ!?」

 

 

「物覚えがいいからな。ホント、凄いよ……」

 

 

何故か溜め息をつく大樹。頭は良いのか。

 

 

「というわけで、はい200円出せよ」

 

 

「何でジュース買わなくちゃならないんだよ!?」

 

 

「俺が喉乾いているからに決まっているだろうが!? あぁゴラァ!?」

 

 

「逆ギレ!?」

 

 

「チッ、じゃあ160円の奴でいいよ。ったく」

 

 

は、腹立つんだけどコイツ……!?

 

初日から俺の野口を攫っていた外道な奴だと思っていたが……ここまでとは!

 

※千円札を取られるきっかけを作ったのはご本人です。

 

 

「はぁ……買えばいいんだろ買えば」

 

 

「さすがだぜ」

 

 

ピッ

 

 

「ほら、小銭ないから千円札で」

 

 

「了解」

 

 

俺は千円札を渡し、商品のジュースを大樹が受け取る。

 

大樹は丁寧に腰を90°曲げてお辞儀をする。

 

 

「ありがとうございました」

 

 

「お釣りは!? ねぇお釣りはどうしたの!?」

 

 

「はて? 何のことでしょうか?」

 

 

警備員(アンチスキル)に突き出すぞテメェ!?」

 

 

「それは困るな」

 

 

しぶしぶ大樹はお釣りの800円を俺に渡す。クソッ、40円足りないけどもういいよ。

 

 

「お? いいカモが来たぜ」

 

 

「あ?」

 

 

大樹はその場にしゃがみ、カウンターの下へと隠れる。同時に店内の入り口が開く。

 

入って来たのは白髪の男。不健康そうな体をしており、目つきが鋭かった。

 

 

(あ、一方通行(アクセラレータ)!? 学園都市最強がどうして!?)

 

 

原田はすぐに商品に手を伸ばして普通の客を演じる。

 

どうして第一位がここに? 何か目的が? 一体何をするつもりなんだ?

 

闇の世界で生きる悪党。俺のような上層の風紀委員(ジャッチメント)には顔ぐらいは見せても貰ったことがある。しかし、見せて貰えた理由は一つ。関わるなっと釘を刺されたからだ。

 

 

「……………」

 

 

横目で一方通行の行動を観察する。カゴを取り、ブラック缶コーヒーを大量に購入する。

 

空っぽになった商品棚を後にして、レジカウンターに向かう。そこで店員がいないことに一方通行は気付く。

 

 

「チッ、店員もいねェのかこの店はよォ」

 

 

「いますよ?」

 

 

ヒョコっと下から顔を出した大樹。満面の笑みでこう告げた。

 

 

「有り金全部置いて行きやがれです☆」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

カウンターに乗っていた商品が全部吹っ飛んだ。その光景に俺は絶句。

 

大樹は変わらず笑顔。一方通行はキレていた。

 

 

「愉快な死体(オブジェ)に変えてやンよ……!」

 

 

「おいおい、既に愉快な表情になっているぞお前」

 

 

(何アイツ喧嘩売ってんのおおおおおォォォ!?)

 

 

無理無理!? 死んじゃうよ!? 第三位があれだけ凄いのに、第一位なんてどんどけ凄いと思ってんだ!?

 

ヤバい! 止めなきゃ不味い!

 

 

スッ

 

 

大樹は握った右手の拳を一方通行に見せた。そして真顔で脅迫する。

 

 

「俺はお前に勝った。負けるわけがねぇだろ?」

 

 

(嘘だろおおおおおォォォ!?)

 

 

「……………」

 

 

一方通行は右手を挙げる。その行動に俺たちは理解できない。しかし、言葉は理解できた。

 

 

「この街ごと、テメェを潰す」

 

 

「2890円になります」

 

 

超スピードでバーコードを読み取った大樹。降伏は早かった。

 

 

(それにしても……冗談だよな?)

 

 

大樹のあの一言は信じれない。冗談のはずだが、全く信じれないわけじゃない。

 

実際ショッピングモールで犯罪を起こした輩を一網打尽にした揺るがない事実がある。強いのは確かだ。

 

 

「コーヒーは温めますか?」

 

 

「余計なお世話だ」

 

 

「お箸は?」

 

 

「いるわけねェだろうが!」

 

 

「おしぼりは?」

 

 

「いいから会計しろって言ってンだよ!」

 

 

だから最強を怒らせないで!

 

一方通行は千円札を三枚出し、大樹からレシートとコーヒーを入れた袋を渡す。しかし、お釣りは返さない。

 

 

「……チッ」

 

 

一方通行は舌打ちをしてコンビニから出て行った。俺だったら百円以上は許せないな。

 

 

「真面目に仕事しろよお前……」

 

 

「やだよ」

 

 

そう言って大樹は一方通行の買ったはずの缶コーヒーを飲み始める。お前、マジの屑だよな。

 

溜め息を漏らすと、また来客。大樹は元気よく出迎える。

 

 

「いらっしゃいま———」

 

 

「ん?」

 

 

来客したのは肩まで届く短めの茶髪の少女。常盤台の制服を着ており、白井と同じ学校の生徒だとすぐに分かった。

 

しかし、俺はその少女の名前を知っていた。

 

 

(御坂(みさか) 美琴(みこと)!? 第三位じゃねぇか!?)

 

 

常盤台のエースと呼ばれる超能力者(レベル5)。学園都市第三位だ。

 

面識はないから挨拶はしなくていいか。気まずい空気になるだけだし。

 

そう思い、大樹と話そうと———

 

 

「———ただいま全品無料です」

 

 

「お前正気か!?」

 

 

———できなかった。大樹は完全に美琴の方を向いていた。

 

 

「な、何であんたがここにいるのよ?」

 

 

「バイトだ。だから全品無料」

 

 

「完全にアウトでしょそれ……」

 

 

俺と一方通行。そしてあなたでスリーアウト、チェンジまで来ています。

 

 

「真面目に仕事しないさいよ」

 

 

「真面目に仕事をしちゃうと立ち読みを厳重注意しちゃうぜ?」

 

 

「……適度に仕事しなさい」

 

 

「うっす」

 

 

おい。

 

それでいいのか第三位。というか大樹の顔、超能力者(レベル5)に知られ過ぎだろ。

 

美琴は慣れた手つきで本を取り、読み始める。あれ常連さんだわ。一瞬で分かった。

 

 

「いらっしゃいませ」

 

 

再び来客。今度は四人の団体さんのようだ。

 

 

「それで? 浜面(はまづら)はどこ行った訳よ?」

 

 

「どうしても行きたい所があるってトイレから超逃げやがりました」

 

 

「処刑確定ね。今はもういいわ」

 

 

「大丈夫だよはまづら。私はそんなはまづらを応援している」

 

 

「「「しなくていい」」」

 

 

四人の女性が来客。一人は薄い茶色半袖のコートを着込み、ストッキングを履いた美少女。どこかの学校の制服を着た金髪碧眼(へきがん)の美少女。フワフワしたニットのワンピースを着た美少女。ピンクのジャージを着た脱力系美少女。美少女多過ぎ。

 

 

(っておい!? アイツはまさか!?)

 

 

コート着た美少女は麦野(むぎの) 沈利(しずり)じゃねぇか!?

 

まさかの超能力者(レベル5)の第四位! というかこのコンビニのレベル5の入店率高過ぎだろ!?

 

 

(上層部から特に言われてねぇけど……どうも身構えてしまう)

 

 

レベル5だけという理由だけでも、警戒してしまう。それだけ驚異的な存在なのだ。

 

 

「ちょッ!?」

 

 

美琴は急いで手に持っていた本で顔を隠した。知り合いか?

 

四人はバラバラになり、目的の商品を探し始める。初めにカウンターに来たのは金髪碧眼の美少女。

 

 

(何でサバ缶……)

 

 

カウンターに置かれたのはサバ缶。カレーサバ缶もある。サバが好きなのだろうか?

 

大樹は真面目に仕事をして、普通にお釣りも返した。さすがに面識ない人とふざけることはないか。

 

 

「あ、箸も」

 

 

「かしこまりました」

 

 

そう言って大樹はストローを入れた。

 

 

「何で!?」

 

 

「当店ではお客様にサービス精神は忘れないのです。お気になさらず」

 

 

「いやいや! どういう訳よ!?」

 

 

「ストローですよ。もう……分かりますね?」

 

 

「吸うって訳よ!」

 

 

「そうです!」

 

 

「いや、箸ッ!!」

 

 

「はぁ……」

 

 

しぶしぶ大樹は箸を袋に入れる。アイツ、恐れを知らないな。

 

 

「サバか……」

 

 

「こ、今度は何です……」

 

 

「シャケでよくね?」

 

 

「サバ全否定!?」

 

 

(やる気なさすぎだろアイツ)

 

 

金髪の少女はショックを受けながら仲間の元に帰る。あーあ、報告されているぞあれ。

 

でも大樹は満足気な表情。コイツ、次の挑戦者を待っていやがる。

 

 

「ちょっといいですか?」

 

 

「はえ?」

 

 

フワフワしたニットのワンピースを着た少女に声をかけられる。急に声をかけられたせいで変な声が出てしまった。

 

 

「あの人と、知り合いですか?」

 

 

「全然」

 

 

別に仲間を売ったわけでは無い。ちょっと、ね?

 

 

「そうですか。なら遠慮は超いりませんね」

 

 

あれ? 意外とバイオレンス少女なのかな? そんなにポキポキと手を鳴らして、殴っちゃうのかな?

 

 

「ボコボコにしちゃう訳よ!」

 

 

「あんまり大きくしないでよね。揉み消すの面倒だから」

 

 

(怖い! 揉み消すって何を!?)

 

 

関わらないように俺も立ち読みに専念する。頼むから流血事件だけはやめてくれ!

 

少女はカウンターに雑誌を置く。その時、俺は気付いてしまった。

 

 

(雑誌のページが曲がってる!? まさかこの子———!?)

 

 

クレーム出す気満々じゃないですか! 性格悪ッ!

 

大樹はそれを手に取り、バーコードを読み取ろうとするが、

 

 

「あれ? この雑誌……すいませんお客様。今、新しいのを代えますね」

 

 

「えッ」

 

 

気付いた。しかも普通に。

 

大樹はお辞儀をしながら新しい雑誌を裏から持って来て謝罪する。

 

 

「大変申し訳ございません。こちらの不手際でお客様に大変失礼なことを働き———」

 

 

「い、いえ……あの……」

 

 

丁寧に何度も頭を下げている人を見て少女は罪悪感に押し潰されそうになっている。大樹は分かってやっているな。

 

 

「———こちらの週間雑誌で間違いございませんか?」

 

 

「は、はい」

 

 

「490円です」

 

 

少女はキッチリお金を払い、大樹は商品を渡した。少女は罪悪感を背負ったまま、仲間の元に戻る。

 

 

「超強敵でした……」

 

 

「何しているのよ……それよりもいいの?」

 

 

「はい?」

 

 

 

 

 

「それ、先週のやつでしょ」

 

 

 

 

 

(大樹が鬼過ぎるうううううゥゥゥ!!)

 

 

最低だよ! さんざん罪悪感を植え付けさせた後は先週の雑誌を売りつけやがった! しかも「こちらの週間雑誌で間違いございませんか?」と確認を取るえげつない行為。返品し辛いにも程がある!

 

少女は撃沈。雑誌コーナーに赴くも、無情にも残った雑誌は一冊もなかった。

 

 

「ひどいわね……」

 

 

「ああ、ひどい」

 

 

美琴と原田は同じ感想を漏らす。もう見ていられないわ。あとで検挙したほうがいいかな?

 

スッと今度はジャージを着た女の子が素早くカウンターに行く。今度はどうするつもりだ?

 

 

ピッ、ピッ、ピッ

 

 

「お箸はお付けしますか?」

 

 

「いらない」

 

 

「恐れいります」

 

 

ピピッ

 

 

「560円です」

 

 

「千円から」

 

 

「千円お預かりします」

 

 

ピッ、ピッ、ガシャンッ

 

 

「440円とレシートのお返しです。ありがとうございました」

 

 

そして、ジャージを着た少女は仲間の元に戻る。

 

 

「買って来た」

 

 

「「「普通に買うんかい!」」」

 

((普通に買うんかい!))

 

 

三人は声に出してツッコミを入れる。俺も心の中でツッコミを入れてしまった。

 

 

「麦野ぉ~~~!」

 

 

「超仇を取ってください」

 

 

「いや、私も普通に買いたいんだけど……」

 

 

やられた二人が麦野に縋りつく。実は俺も大樹が苦しむ姿が見たいです。

 

しかし俺の願いは叶うことは無かった。普通に会計されてしまい、麦野は何もすることができなかった。

 

 

「ほら、帰るわよ」

 

 

「ありがとうございましたー」

 

 

麦野は不満げな表情をした少女二人とジャージの女の子を連れてコンビニを後にした。

 

俺は再びカウンターに近づき、話し始める。

 

 

「さすがに最後は喧嘩売らないんだな」

 

 

「えッ? 箸の代わりにストロー二本、入れたけど?」

 

 

訂正。恐れ知らず発見。

 

 

「怖いわ……どうしてそこまでやろうと思えるのかしら……」

 

 

「そりゃ美琴を傷つけた連中だって知っていたからな」

 

 

「うッ……お願いだからもう言わないでよ……」

 

 

「へいへい」

 

 

……何だこの甘い空気は。リア充爆発しろとはこのことか。

 

 

「はぁ、大樹。トイレ貸してくれ」

 

 

「120円だぞ」

 

 

「金取るなよ!?」

 

 

 

________________________

 

 

 

(何だか疑う方がバカバカしくなってきたぞ……)

 

 

手を洗いながら溜め息を漏らす。

 

レベル5に対してあの態度。全く動じぬ大樹は怪しいが、悪い怪しさでは無い。まぁあの客の対応はクソだったが。

 

扉を開けて大樹たちの所に戻る。

 

 

「あッ……」

 

 

「……………」

 

 

そして、俺は固まってしまった。

 

この3分も経たない時間の中、どうしてこんなことになっているのだろうか?

 

カウンターに立った大樹。彼は入り口に立つ麦野と睨み合っている。

 

美琴はカウンターの後ろに本を持って隠れ、店長らしきオッサンが白目になっている。

 

これだけではない。さらに声を漏らした人物は目の前にいた。ツンツン頭の高校生が修道院のシスター少女に襲い掛かり、口を塞いでいた。

 

さらにコンビニの店内にはトランプのようなカードが一面に貼られており、その奥には赤髪の強面の男性と、ちょっとエロい恰好をした女性がツンツン頭の腕を掴んでいた。

 

 

 

 

 

———意味が分からねぇよ!!!!!

 

 

 

 

 

まず最初! 大樹は自業自得だ! そのまま焼かれてろ!

 

次に第三位と店長! 避難しろ! マジでヤバイから! 特にテンチョー逃げてぇ!

 

しかし、ツンツン頭の対処方は簡単だ。俺は携帯電話を取り出し、風紀委員本部に掛ける。

 

 

「こちら原田。ツンツン頭の青年がシスター少女に襲っている変態プレイ現場に遭遇しました」

 

 

「不幸だああああああァァァ!!!」

 

 

うるせぇよ。犯罪者に貸す耳などないから。

 

次にこのカード何!? 不気味なんだけど!? 相当の量があるんだけど!?

 

そしてお前ら二人、誰だよ!? というか刀でけぇ!? 銃刀法違反がいるんだけど!?

 

 

「何だこのカオス!? 何だこの状況!?」

 

 

「いいぜぇ第四位! かかってきやがれ!!」

 

 

「いい度胸してるじゃない……!」

 

 

「お前はマジでいい加減にしろよ!? 命知らずもここまで来れば大馬鹿だぞ!?」

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!

 

 

その時、コンビニのドアが吹っ飛んだ。

 

 

「オイ! 楢原ァ! コーヒーの中に極甘を入れンじゃねェ!!」

 

 

「ざまぁああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

「コロス!!」

 

 

「ちょッ!? これは洒落に———!?」

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!!!

 

 

 

________________________

 

 

 

「よぉ、また会ったな」

 

 

「先生。俺はおうちに帰りたいです」

 

 

「無理だ。監視カメラは破壊されて現場の様子は不明、いるのはここの店長とお前だけ。店長は何故かお花屋さんを経営するってことしか言わねぇし、お前だけなんだよ」

 

 

店長おおおおおおおおおォォォォ!!!

 

 

「店長には、優しくしてやってください」

 

 

「お、おう……」

 

 

「実はですね、信じられない話かもしれないですが……」

 

 

「ここは学園都市。信じられないことはたーくさんある。多少のことじゃ———」

 

 

「実はトイレに行っている間、バイトしていた男が学園都市の第四位と第一位に喧嘩を売って、その後はツンツン頭の青年がシスター少女を襲い、銃刀法違反した美人さんと赤髪の大男が入って来てこうなりました」

 

 

「———————あ?」

 

 

今2秒くらい思考停止したよこの人。

 

ふと周りを見渡せば警備員(アンチスキル)の人たちが俺を憐れむような目で見ていた。

 

 

「この子、そうとう重傷じゃん?」

 

 

「違います。事実です」

 

 

「あー、原田。飲み物おごってやるから、車に乗れ」

 

 

「それ先生の車じゃないですよね? その白い車、救急車ですよね?」

 

 

「新車だ」

 

 

「騙す気あります?」

 

 

「大丈夫だ。家まで送ってやるからさ」

 

 

「このまま赤い十字架がある建物に連れて行きますよね? 搬送されますよね?」

 

 

「……………確保おおおおおおォォォ!!!」

 

 

「待ってぇええええええええ!!!」

 

 

 

________________________

 

 

 

日はまもなく沈もうとしいた。涙ながら説明すると憐れまれて解放してくれた病院。今日は散々な目にあった。

 

夕焼けを見ながら涙を流す。風紀委員ってこんなに精神的にくるモノだったかしらん?

 

……はぁ、しんどい。

 

自分を慰めるために、今日は奮発していいモノを買おう。特に海鮮丼とかいいんじゃね? 刺身買って白飯の上に乗せる手抜き料理。しかし、味は最高級だぜ!

 

駅から徒歩2分もかからないショッピングモールで買い物をする。幸いなことに人は少なく、スムーズに買い物ができた。

 

 

バチンッ!!

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

その時、天井の照明が全て消えた。女性の悲鳴が響き渡り、辺りが騒がしくなる。

 

 

(停電……? いや、違う!)

 

 

この場合、停電と考えるのは捨てた方がいい。近代科学に置いて停電することは稀。最新技術で停電することなく、予備電源がすぐに入る仕組みは授業で習ったことがある、

 

よって、この停電は———故意に行われた!

 

 

ガララララッ!!!

 

 

「しまっ———!?」

 

 

目の前に防火シャッターが降り注ぎ、店内に入れなくなったしまった。シャッターを叩くも、人の手では壊せないことがすぐに分かってしまう。

 

 

「クソッ!!」

 

 

携帯電話を取り出し、ボタンを二回押すだけで緊急メールを送る。幸い電波は繋がっている。これをやった犯人は犯罪に関してド素人。俺だけでも対処できる可能性はある。

 

 

「落ち着いてください! 俺は風紀委員(ジャッジメント)だ! 落ち着いて南側の出口に移動してくれ!」

 

 

ここ区画一体のショッピングモールや施設はある程度把握している。ここは北側出口近くに地下へと続く階段があって、そこに電源室があるはずだ。犯人と一般人を会わせるわけにはいかない。

 

 

「ふざけやがって!」

 

 

犯人の目的は分からない。しかし、ここでじっとしているわけにはいかない。

 

今は一般人の救助。ポケットに手を入れて一つのビー玉を手に取る。

 

原田の能力は極めて珍しい類のモノ。レベル4に位置する【永遠反射(エターナルリフレクト)】だ。

 

物体にスーパーボールのように何度もバウンドと言った反射を付加することが可能なのだ。

 

 

「こんなシャッター……速攻壊してやるよ」

 

 

手の中で何度もビー玉を反射させる。手の中で暴れ回るビー玉の速度はやがて亜音速に到達する。

 

能力を与え続ければ自分の手の中で痛みを貰うことなく反射することができる。体に当たったら当然痛いが、手だけは例外。

 

 

「吹っ飛びやがれ!!」

 

 

バシュンッ!!

 

 

何百の反射を繰り返すことで速度は亜音速に達し、原田の手からシャッターに向かって放たれた。

 

 

ベゴオオオオオオオンッ!!

 

 

シャッターは大きくへこみ、そのまま大きな風穴を開けた。

 

 

シュンッ!!

 

 

「ッ……っと!」

 

 

跳ね返って来たビー玉をキャッチし、能力を消す。同時にビー玉は粉々に砕け散り、地面に散らばる。

 

能力を自在に消すことができる便利性はホント助かる。もしあのまま亜音速で飛び続けていたらショッピングモールは瓦礫の山と成り果てるだろう。

 

 

「な、何だ!?」

 

 

「おい! 救助が来たんじゃないか?」

 

 

「助かったの!?」

 

 

「落ち着いてください! 出口は開けたので焦らず避難してください!」

 

 

買い物に来ていた人々が急いで俺が開けた穴から逃げて行く。お礼の声をかけながら出て行く人もいた。

 

 

「おやおや? 誰が逃げて良いと言いましたかね?」

 

 

「ッ!」

 

 

その時、ショッピングモールの北側の通路から男の声が聞こえた。人々は足を止めて、恐怖している。

 

身長は俺と同じくらい。180cmくらいの男性。黒いコートを着ており、中に何を着ているかは見えない。

 

黒の短髪。ニタリと笑った表情は気味が悪くて怖い。

 

 

「これから楽しいお祭りが始まると言うのに……やれやれ」

 

 

「お前が主犯か。他の仲間は連れていなくていいのか?」

 

 

「そこのハゲは何を勘違いしているか知りませんが、私一人ですよ」

 

 

よしコイツ殺す。

 

 

「ッ……一人だと?」

 

 

「戯れるのは好きじゃないんですよ。あ、でもこういう戯れは好きですよ」

 

 

男は拳を握り絞め、構える。

 

 

「みんなで殺し合い、とかね」

 

 

ミシッ……!

 

 

「かはッ!?」

 

 

その瞬間、自分の腹部にとんでもない衝撃が走った。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

防火シャッターに背中を打ち付け、肺の空気を全て吐き出す。その場に膝を着き、何度も咳き込む。

 

 

「こう見えて格闘術のマスターです。まぁ残念なことに薬を使っていますがね」

 

 

「ごほっ……この野郎ッ」

 

 

ビー玉に能力を付加。高速でビー玉を飛ばす。

 

生身の人間に先程の攻撃は致命傷になる。殺しては駄目だ。気絶させるのが目的。

 

 

「見え見えですよ?」

 

 

スッ

 

 

しかし、男は簡単に首を曲げるだけで回避。その行動に俺は絶句する。

 

 

「これは格闘術ではないですよ。私の能力です」

 

 

「能力だと……おいまさか!?」

 

 

 

 

 

「はい、レベル3の【未来予知】です」

 

 

 

 

 

男の答えに原田は歯を食い縛る。

 

 

「10秒先の未来を予知します。なのであなたがこの後、逃げ出すことも予知していますから、逃げても無駄です」

 

 

格闘術に置いて最悪な組み合わせだ。相手の攻撃を読んだ格闘なんて、もうそれは戦いでは無い。

 

一方的な、蹂躙(じゅうりん)だ。

 

 

「自己紹介が遅れました。私、保穂笛(ほほぶえ) 町斗(まちと)です」

 

 

勝てない。ならば逃げるしかない。でもアイツは———

 

 

「では、命懸けの鬼ごっこ開始です」

 

 

———それを読んでいる。

 

 

悲鳴が響き渡り、人々が一斉に逃げ始める。それを追いかけようと保穂笛も走り出す。

 

ミシミシと嫌な音が鳴る体を無理矢理動かし、数少ないビー玉を全て投擲する。

 

しかし、保穂笛の走りはフェイント。すぐにバックステップでビー玉の投擲される射線上から逃げている。

 

 

「何度も来るなら答えましょう。それが私の美学ですので」

 

 

ドゴッ!!

 

 

「ごふッ!?」

 

 

顎を下から蹴られ、脳が揺れる。意識が遠のくが、それでも踏みとどまる。

 

 

「があ゛ッ!!」

 

 

「おっと」

 

 

拳を振り下ろすも、簡単に避ける。素人の攻撃では能力を使わずとも避けれる。

 

保歩笛は気色悪い笑みを浮かべながら右腕を振り上げる。

 

 

「終わりです」

 

 

ドゴッ!!

 

 

強烈な一撃。肘打ちが後ろ首に叩きこまれ、地面に頭から落ちる。

 

口から血を吹き出す。全身が痺れ、首の骨が折れてしまったか分からない。折れているなら死んでいるか?

 

 

「耐久ならあなたは他の格闘家より才能ありますよ。でも私には勝てない」

 

 

「ッ……かぁッ……!」

 

 

「……これは驚いた。意識がまだあるのですね」

 

 

自分でも驚いている。あんなにボコボコにされているのに、まだ戦える。

 

目を見開き、地面を思いっ切り叩いた。

 

 

「ああああああァァァ!!」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

床のタイルが一気にめくれ、上に向かって弾け飛ぶ。能力をタイルに使い、弾け飛ぶ勢いをつけさせた。

 

 

「ッ!」

 

 

しかし、行動は読まれていた。俺が拳を振り上げていた時点で保穂笛は後ろに下がっている。

 

 

ガラララララッ!!

 

 

「くッ!?」

 

 

その時、能力の衝撃で近くの柱が瓦解。天井が崩れ落ちる。

 

保穂笛が全力で回避。ここに来て焦ることを見逃さなかった。

 

 

(……はッ)

 

 

ハハッっと乾いた笑い声を漏らしてしまう。何だよ、簡単じゃねぇか。

 

 

 

 

 

能力を見破るのに、時間が掛かり過ぎだぞ俺。

 

 

 

 

 

そうと分かれば行動あるのみ!

 

 

「ッ……待ちなさい!」

 

 

好機と見たのか原田が逃げ出した。速度は遅いが、足場が悪いせいで保穂笛は苦戦を()いられる。

 

廊下を駆け抜け、店内に入り込む原田を追いかける。何かを仕掛ける前に潰す。保穂笛はまたニタリと笑った。

 

 

「……意外です。このまま逃げるかと思っていたのですが」

 

 

「ハッ、テメェを殴るまで逃げてたまるかよ」

 

 

原田は店内の中心にいた。血を流しながら肩を上下させながら息を荒げている。

 

 

「最後に聞いていいか?」

 

 

「何でしょう?」

 

 

「何でこんな真似をした」

 

 

原田の質問に保穂笛は大笑いした。

 

 

「フハッハッハッハ!! じゃあ逆に聞いていいですか!? どうして能力で戦わないのですか!?」

 

 

「……どういう意味だ」

 

 

「せっかくこんな素敵な能力があるのですよ? どうして戦わないのか私には理解できないのですよ!」

 

 

「……ああ、そうか。よくいる馬鹿と同じか」

 

 

原田は眼光を鋭くして、保穂笛を睨む。

 

 

「異能バトルとかやりたいアホの中二病共と同じだよお前は……!」

 

 

「失礼な人だ。あなたは成りたくないのですか? 学園都市一位に? 私は登りつめたいのですよ。だからここで騒ぎを起こして順位をどんどん上げて行くのです。あ、こう見えて私、暗部の人間ですので指名手配などご自由にどうぞ。その方が有名になりますしね」

 

 

ああそれとっと保穂笛は付け足す。

 

 

「あなたが大量のビー玉をばら撒くのは予想できますよ? 未来を視るまでもなく」

 

 

この見えは百円均一で売られた店。つまり百円ショップだ。

 

先程の攻撃を見ていれば何をしようとするのかすぐに理解できる。

 

 

「あなたの負けですよ。どれだけビー玉を集めようとも、【未来予知】で分かります」

 

 

突きつけられた現実に原田は———

 

 

「なぁ知っているか?」

 

 

———絶望はしなかった。

 

 

「どんな能力でも大体欠点があるんだよ」

 

 

「……急にどうしたのですか?」

 

 

「うちの後輩は【空間移動(テレポート)】という最強の能力なんだが、欠点は自分か、触れている物体じゃないと飛ばせないんだよ」

 

 

「だから何が———」

 

 

「俺の能力の欠点は大きい物体と人には使えないこと。電気や風と言った形がないモノには使えないことだ」

 

 

意味の分からないことを告げる原田に、保穂笛は溜め息をつく。

 

 

「だから何だと言うのですか? まさか私に欠点があるとでも?」

 

 

「ああ、そういうことだ」

 

 

ガラララララッ!!!

 

 

その瞬間、保穂笛はその光景に恐怖した。

 

 

 

 

 

背後の防火シャッターが降りたことに。

 

 

 

 

 

「はッ……はいッ?」

 

 

困惑する保穂笛に原田はニッと歯を見せて笑う。

 

 

「お前の弱点は二つ。予知する時に、見えるモノしか視ることができない」

 

 

「ど、どういうことですか!?」

 

 

「例えば、俺が()()()()()()()()()()だと気付かないことだ」

 

 

その瞬間、保穂笛が見た未来の光景に戦慄していた。

 

 

「ああ、そうだよ……」

 

 

原田は自分の背中で隠していたから携帯電話を取り出す。

 

 

「予知していても、後ろでずっとメールを打っていることは分からないだろ?」

 

 

そう、保穂笛が予知したのは原田が()()()()()()だけ。

 

原田がどう動くか分かったとしても、ポケットの中身や背中に隠したモノは、10秒先で取り出さない限り、見破ることはできない。

 

つまり、10秒先で見れるモノを取り出さない限り、見せない限り、行動しない限り、保穂笛には分からないのだ。

 

 

「そ、それがどうしたというのです! それでも攻撃の攻撃は全て読める! ほらッ、大量のビー玉を飛ばすんでしょ!? 避けれますよ! あなたの飛ばすビー玉全部全部全部!!」

 

 

保穂笛は焦っている。しかし、勝てることは確信している。

 

馬鹿な人だ。彼の言っていることは正しい。だけど、だからどうした!?

 

行動しない限り、自分に勝つことはできない! 触れることすら、些細なことでも予知できる自分に死角はない!

 

 

「そして、お前の二つ目の欠点は———」

 

 

原田は高速でビー玉を飛ばす。保穂笛は簡単に避ける。

 

ビー玉の速度は上がるが、予知している限り、当たることはない!

 

 

「あえッ……?」

 

 

予知した光景に、保穂笛の表情は真っ青になった。

 

 

 

 

 

「———予知できても、回避できなければそれまでだということだ」

 

 

 

 

 

ミシミシッ!!

 

 

天井から嫌な音が響く。保穂笛はガチガチと歯を鳴らしながら悲鳴を上げる。

 

 

「い、嫌だああああああああああァァァ!!!」

 

 

「倒れて来た柱、全力で回避していたよなお前? 10秒先を見ていても、回避できるかどうか分からなかったんだろ?」

 

 

ビー玉は加速し続ける。棚の商品を破壊しながら、壁や天井をぶち壊しながら。

 

 

「お前はレベル3止まりなのは、レベル4やレベル5のような無茶苦茶な強さがないからだ」

 

 

ドゴオオオオオオオオォォォ!!!

 

 

「うわああああああああああァァァ!!」

 

 

保穂笛の悲鳴と共に天井が崩れ落ちた。

 

 

どれだけ身体能力が高くても、避けることはできない。

 

 

どれだけ予知できても、行動が間に合わなければ意味がない。

 

 

 

________________________

 

 

 

「うぅん?」

 

 

気が付けば真っ白な天井がまず目に入った。

 

 

「どこだここ……あッ、知らない天井だ」

 

 

「どうして言い直す必要があったのですか」

 

 

「うおッ!?」

 

 

ツッコミを入れられたことに驚く。急いで体を起こせば制服を着た白井 黒子が椅子に座っていた。

 

 

「っていたたた……!」

 

 

「まだ安静にしていないと駄目ですわよ。全身打撲なのですから」

 

 

白井の言葉で全てを思い出す。そうか、俺は天井に押し潰されて……よく生きていたなオイ。全身打撲で済んでいるのかよ。

 

 

「犯人は逃亡中。怪我人はいませんですの」

 

 

聞きたいことが分かっていたのか、白井が先を読んでいた。

 

 

「随分と無茶をしたのですのね」

 

 

「……心配かけたな」

 

 

「いえ、微塵も」

 

 

「同じ仲間だよね? 一欠片くらい心配しないの?」

 

 

黒子、黒いの。

 

 

「……まぁ心配はしました」

 

 

「え?」

 

 

「死んでもおかしくなかったのですのよ!? どうしてあんな危険な真似ができますの!?」

 

 

「あばばばばばッ」

 

 

白井に服を掴まれ凄い勢いで揺らされる。脳が溶けるぅ!!

 

 

「反省してくださいまし」

 

 

「うっぷ、うっす……」

 

 

ちょっとデレを見せた後輩に、俺は笑いを堪えるのに苦戦した。

 

 

「何笑っていますの!」

 

 

「笑ってねぇよブフッwww」

 

 

「~~~~ッ!?」

 

 

「ちょっと!? 何を投げ飛ばそうと———ぎゃああああああああァァァ!!」

 

 

 

________________________

 

 

 

「はぁ……はぁ……クソッ!!」

 

 

保穂笛は腕を抑えながら暗い路地裏にいた。

 

風紀委員が簡単に近づかない区画。ここまで逃げれば勝ちだと踏んでいた。

 

 

「ほい、発見」

 

 

「ッ!?」

 

 

突如目の前に一人の青年が現れた。

 

 

「誰だ貴様!」

 

 

「お前を豚箱に入れる者さ」

 

 

「何だとッ!?」

 

 

「聞こえなかったか。お前を下駄箱に入れる者さ」

 

 

「さっきと違うだろ!? そもそも入らないだろ!?」

 

 

「お前を筆箱に入れる者さ」

 

 

「もっと入らないだろ!?」

 

 

「靴箱には入れると思っているのかお前……キモッ」

 

 

カチンッと頭に来る発言に保穂笛はキレる。

 

 

「ぶっ殺すッ!!」

 

 

「はいはい、やってみろよ」

 

 

能力を発動して【未来予知】を始める。しかし、

 

 

「は?」

 

 

「どうした? 来いよ?」

 

 

そこには絶望しか映ってなかった。

 

 

「来ないならこっちから行くぞ?」

 

 

ダンッ!!

 

 

気が付けば青年は一瞬で距離を詰めて、懐に入っていた。

 

 

「ヒィッ!?」

 

 

勝てるわけがない。

 

 

 

 

 

音速で移動する相手に、対処できるはずがない。

 

 

 

 

 

ドゴンッ!!

 

 

青年の拳が顔面に叩きこまれる。プツンっと意識が切れ、その場に倒れた。

 

 

「俺の恩人に、傷つけた罰だ。反省しやがれ」

 

 

「オイ! 早くしやがれェ! 天井(あまい)の野郎が逃げやがったぞ!」

 

 

「へいへい。そもそも俺、いるの? 学園都市一位さん」

 

 

「死ンで見るか?」

 

 

「一生懸命働きます!」

 

 

________________________

 

 

 

 

「ずびばぜんでじだ……」

 

 

猛省したよ。白井、怖いよ。

 

 

「もういいですの。それより———」

 

 

パサァ……

 

 

「ん?」

 

 

白井がベッドに何枚かの紙を投げた。

 

 

「———始末書、お願いしますの」

 

 

「ちょっと待てェ!!」

 

 

「何ですの?」

 

 

「こっちが何ですのだけど!? どうして書くの!?」

 

 

「天井を壊したことではありませんの。それは相手を抑える必要な行為として認められましたので。まぁ妥協したそうですよ、上に感謝ですの」

 

 

「でも書くんでしょ!? ホワイッ!?」

 

 

「そう言えば知っています?」

 

 

白井は最高の笑顔で、説明した。

 

 

()()シャッターは手動で開きませんが、()()は避難する為に、()()で開く仕組みが多いのですよ?」

 

 

「……………もしかして、壊したから?」

 

 

「はいですの☆」

 

 

「もう風紀委員なんて嫌だあああああああああああああああああああァァァ!!」

 

 

 




そして、次回予告である。


———あなたは、何がやりたいですか?


「今からゴールするまで帰宅禁止だから」

「何て酷いマスなんだ!」

「あとは……任せた……」

「おいこのゲーム、学校が公認しているんだよな? 死人が出ていいのか? 嘘だろ?」

「風穴あああああァァァ!!」


———時が立てば、環境は変わります。


「何度も言うが、俺はこれを言い続けなければ死ぬというわけでゲスにゃんふにゅーらんらんザマス」

「あたしのパンツはそんなに安くないわよ!!」

「逆に考えるのよ。ホモは素晴らしいと」

「ああ、分かっている。俺は、大樹を殺すしかないんだ」


次回、『リアル刑事人生ゲーム』



カオスってレベル越えてないですか?

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