どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!

というわけで初っ端からぶっ飛ばしますね!物理的に次々とぶっ飛ばします!

ちなみに今年の私の抱負は『終える』を掲げています。何事にも、しっかりと終わらせることを目標にしています。


思いを託して彼らは最後へ

「【紅椿(あかつばき)】」

 

 

ゴオオオオオォォォ!!

 

 

轟々と赤い炎柱が空に向かって燃え上がる。周りの木々を燃やし尽くしながら黒い煙を爆散させた。

 

中心にいたガストレアの大群は絶命。死骸は塵一つ残らなかった。

 

 

「……おい」

 

 

「……何だ」

 

 

その光景を高い丘の上から見ていたジュピターさんは蓮太郎の肩をゆすりながら尋ねる。

 

 

「あれは人間か?」

 

 

「大樹だ」

 

 

「……そうだな。悪い。変なことを聞いた」

 

 

「気にするな。よくあることだ」

 

 

会話がおかしいようでおかしくない。不思議な話である。

 

今の獄炎で大群のガストレアが全滅。その瞬間、また人類の勝利である。

 

 

———こうして、東京エリアは千葉県を完全奪還。エリア拡大に成功した。

 

 

「「……………はぁ」」

 

 

二人は溜め息をついた。

 

俺たち、何もやっていないっと呟きながら。

 

 

 

________________________

 

 

 

「「「「「乾杯」」」」」

 

 

嬉しそうな声では無い。微塵も嬉しいと思わない。ガストレアを討伐しに来たプロモーターやイニシエーターが、グラスを上に掲げて無機質な声を出した。士気が低い理由は当然、大樹が一人で終わらせてしまったからだ。

 

千葉県の拠点。古びた体育館を綺麗にした会場だ。部屋は広く、拠点にするには良い場所だった。

 

 

「何だお前ら? 不満か?」

 

 

「いや不満と言うか何というか……やりきれないというか……」

 

 

蓮太郎の口に出した言葉は全員が頷くほど同意できる解答だった。

 

 

「なるほど。ガストレアを倒せなかったことに不満があると」

 

 

「まぁ……そう言うことになるな」

 

 

「分かった。じゃあ俺が連れて来てやるよ」

 

 

「は? まさかガストレアを!?」

 

 

「馬鹿違ぇよ!」

 

 

「だよな……本当だった正気を疑———」

 

 

 

 

 

「ゾディアックガストレアに決まっているだろ」

 

 

 

 

 

「———狂気だったッ!!」

 

 

蓮太郎が顔を悪くしながら怒鳴る。周りにいた人たちは急いで逃げる準備をしていた。

 

 

「冗談だ」

 

 

「お前の冗談はマジで洒落にならないからやめろ!」

 

 

「断る」

 

 

「クソがッ!!」

 

 

「荒ぶってんなおい」

 

 

大樹は平常運転。特に何もすることなく、ただひたすらゲームに没頭。ティガ〇ックスがタオル一枚の男にボコボコにされていた。

 

 

ガギンッ!!

 

 

金属音が響く。大樹はゲームを片手で持ったまま、一瞬で刀を出現させて上からの斬撃を防いだ。

 

斬撃を繰り出した男は、舌打ちをする。

 

 

「チッ、仕留めそこねたか」

 

 

「落ち着け将監。そんな攻撃だとかすり傷もできねぇよ」

 

 

ドゴンッ!

 

 

「「あッ」」

 

 

攻撃を食らったゲーム音が流れる。画面には『力尽きました』のメッセージが出ている。

 

敵の突進を食らい、一撃でHPを全損させていた。

 

 

「……いい度胸だ将監。お前も力尽きさせてやるよ」

 

 

———この日、将監に過酷な試練が突きつけられるが、更に序列を上げるきっかけになった。

 

 

 

________________________

 

 

 

 

———ガストレアと戦争をしてから一ヶ月の月日が流れた。

 

東京エリアは大樹が来る前。というかガストレアという生物が生まれるより前より発展を遂げていた。

 

農作物には困らず、なんと千葉県で人口的に魚を養殖して、市場などが開かれるようになった。このことに他のエリアの人々も驚愕。お偉い様方が尋ねては悪巧みをしようとするが、大樹の手によって簡単に潰される。

 

そんな大樹は、今、ご飯を教会の子どもたちとみんなで食べていた。だが!

 

 

「……………」

 

 

俺は、汗をダラダラ流す。

 

食べているものは美味しいよ? だってマグロの焼きそばだもん。めっちゃうめぇ。大好き。作った奴は天才だな! 自画自賛、乙。

 

 

「大樹さん?」

 

 

ティナは首を傾げながら俺を()()()()。ティナ。お前が原因なんだぞ?

 

 

「ん~! やっぱり美味しいわね!」

 

 

ふにゅーっと幸せそうな笑みを浮かべながら俺の隣でももまんを食べるアリア。7個目なんだけど、大丈夫か?

 

だが右隣りに座ったアリアはまだ大丈夫。問題はティナが左隣に座っていないことだ。左隣に座っているのは黒ウサギだからだ。

 

 

「……………」

 

 

無言怖いわ! どうしてそんな目で俺を見るの!?

 

そうだよ! ティナが俺の膝の上に座っているから問題なんだろ!? 知ってるよ!

 

 

「「……………」」

 

 

優子と真由美も無言だよ! そんなに見られると体に穴が開いちゃうよ!

 

まぁ俺はもう食い終わったし、別にモン〇ンしかすることないから問題ないんだよ(軽く中毒)。俺はね。

 

だけど問題あるみたいですよ。嫁たちには。

 

 

「……うん、何にもない。大丈夫だぞティナ」

 

 

俺はティナの頭を撫でて微笑む。黒ウサギは黒いオーラを出しながら不機嫌そうに頬を膨らませて俺を睨む。真由美と優子はジト目で俺を睨んでいる。アリアはももまんに夢中。

 

子どもたちは「修羅場だよ修羅場!」と騒いでいる。うるせぇよ。こんなこと、日常茶飯事なんだよ。

 

 

「癒しだわ……ティナたん、癒しだわ」

 

 

「キモイこと言ってんじゃないわよ。警察に突き出すわよ」

 

 

「アリアたん、カワユス」

 

 

「風穴」

 

 

グリグリと銃口が頬に押し付けられるが俺は無視してティナとアリアを見て和む。心が清らかになりますわよ!

 

 

「別にいいじゃねぇか。減るモノでもないし」

 

 

「ティナが減ったら事件よ。減るとかの問題じゃないわよ」

 

 

まぁアリアが言いたいことは分かる。でも、今の俺はティナを見て和みたいし、アリアの幸せそうな表情を見ていたい。

 

 

「おかわりよ大樹」

 

 

「ちゅーしたらあげるけど?」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

顔を真っ赤にしたアリアが大樹の顔面に向かって射撃。しかし大樹は歯で噛んで止めた。

 

 

「ハッハッハ、今持って来るよ」

 

 

「何事もなかったかのような言い方、しないでほしいわ……」

 

 

アリアが引いているが知らない。気にしたら負けだと思いますから。

 

 

「ティナ。ちょっとどいてくれ」

 

 

「……仕方ないですね」

 

 

ティナを膝の上から降ろして立ち上がる。作って置いたももまんを取りに行き、アリアの前に出した。

 

 

「ほい」

 

 

「さすが大樹ね。褒めてあげるわ」

 

 

アリアはまたふみゅーっと幸せそうな表情でももまんを食べ始める。おふう、可愛い。

 

 

「……ちょっと大樹君。私たちのこと、忘れていないかしら?」

 

 

「忘れるわけがないだろ。どうした?」

 

 

「……分かるでしょ」

 

 

「……ああ、分かる」

 

 

俺は真由美の隣に座り、手を広げた。

 

 

「膝の上に座りたいんだろ?」

 

 

「違うわよ!? 捉え方が斜め上過ぎるわ!」

 

 

違うのか。

 

 

「いい? 大樹君は私の夫なのよ? もっと自覚を持って妻を優しく———」

 

 

やめろやめてやめてください。女の子たちからすんごい睨まれているから。

 

 

「優しくって言ってもなぁ……もうエロいことしか———」

 

 

「大樹君?」

 

 

「———ごめんなさいごめんなさい。変態でごめんなさい」

 

 

真由美はこほんっと咳払いをした後、頬を少しだけ朱色に染めて小さな声で尋ねる。

 

 

「……大樹君は、その……そういうことが、どうしてもしたいのかしら?」

 

 

「—————ゑ?」

 

 

え? これなんてエロゲ? いいの? ぱいタッチ、OKなの?

 

 

「大樹君。アタシは許さないから」

 

 

「大丈夫だ優子! 俺は胸の大きさなんか気に———」

 

 

「嫌い」

 

 

「———ごめんなさあああああああああいッ!!!」

 

 

超音速で土下座を繰り出し、優子に謝る。優子は腕を組んで怒っていた。

 

すぐに優子の説教が始まり俺は涙目で正座をしながら反省。いや、猛省していた。

 

 

ピピピピピッ

 

 

優子の説教中、俺の携帯端末が鳴り響いた。優子に「出てもよろしいでしょうか?」とアイコンタクトを送ると、「少しだけよ」っと目で伝えて来た。あざーっす。

 

 

「もしもし」

 

 

『ただいま』

 

 

ああ、そう言えばそうだったな。

 

 

「すまん原田。お前の存在、忘れてた」

 

 

『酷くねぇか!?』

 

 

「それより色金は持って来たのか?」

 

 

『うッ……それがだな』

 

 

「大丈夫だ。原田」

 

 

俺はフッと微笑み、告げる。

 

 

「もう一回行けばいい」

 

 

『行かせるなよ!?』

 

 

「じゃあ帰ってくんな」

 

 

『悪化してる!』

 

 

 

ある程度原田をいじり終わり、来る場所と時間を指定された。どうしようかなぁ? 行かなくてもいいよね? ダメか。

 

 

「飯食ったらそっちに行くわ」

 

 

『はぁ!? 俺も食いたいわ!』

 

 

「美少女になって出直して来い」

 

 

『不可能じゃん!?』

 

 

一方的に通話を終了させるが、原田が何度もかけて来たので電源を落とした。ご飯はコンビニで済ませてくださいね。

 

 

「アリア。残念なことに原田が帰って来た」

 

 

「どこが残念なのか分からないけど……分かったわ」

 

 

皆様は残念な部分がお分かりですよね?

 

 

「大樹君、説教の途中よ」

 

 

「あ、はい」

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

 

「あんなことを言っておいて、飯を作って来てくれるお前はツンデレか」

 

 

「ぶっ飛ばすぞ」

 

 

原田はガツガツとネギトロ丼を勢い良く食べる。いい食べっぷりに免じて許してやろう。あれ? やっぱりツンデレなの俺?

 

教会から徒歩1時間。車で10分。大樹なら5秒で来れる平地が広がる外周区に来ていた。俺なら北海道まで10分もかからねぇだろ。多分。

 

平地には大きな緋色の原石があった。笠をイメージするような形。UFOの形にも似ているな。

 

アリアはその原石に触れて目を閉じている。集中力を高めているのだろう。

 

それと場違いな高級車が一台。黒色のクラシックカーが停まっていた。

 

 

「何アレ?」

 

 

「瑠々色金。塗装で隠してあるんだよ。ジーサードが言ってた」

 

 

もう仲良くなったのかお前ら。凄いコミュ力だな。

 

それにしても……車にして隠すとは頭良いな。これならいざという時に逃げれるし、誰も気付かないだろうな。見分けるなら超能力者(ステルス)じゃないと難しい。

 

 

「それにしても英雄とはなぁ……どんだけ凄いことをしてんだよ」

 

 

「……………は?」

 

 

原田の言葉に俺は目が点になった。

 

 

「英雄? 国際指名手配犯じゃなくて?」

 

 

「何したんだお前……」

 

 

「ど、どういうことだよ!? 俺はただ40人で400万人の敵に勝っただけだぞ!?」

 

 

「十分英雄と言われてもおかしいと分からない? 言ってて分からないのかお前?」

 

 

「ち、違うんだよ! 俺はその戦争を引き起こした主犯格として———」

 

 

「何だ知ってるじゃねぇかよ。お前が主犯格として———」

 

 

嫌な予感は、よく当たる方です。

 

 

 

 

 

「———罪を被って戦争を起こさせないように、世界を守った英雄だからな!」

 

 

 

 

 

「何が起きたああああああァァァ!?」

 

 

話の跳躍や飛躍レベルではない。ロケットが発射されるレベルのぶっ飛び具合だった。

 

 

「ワカラナイ……オレハ、ナニヲ、ヤッテ、イルンダ……」

 

 

「何で落ち込むんだよお前……」

 

 

ボク、オウチ、カエル。

 

 

「それよりお前、金色金はどうした」

 

 

「……………」

 

 

質問をした瞬間、原田の目が死んだ。無言でポケットから金色の欠片を取り出す。

 

 

「金色金」

 

 

「ちっさ!?」

 

 

「全部は無理だったんだよ! そもそも宇宙にあるとか聞いてねぇよ!」

 

 

「宇宙まで行ったのか?」

 

 

「行ったよ!」

 

 

「行ったのかよ!?」

 

 

お前も俺と同じだ! 人外! 人外! 人外!

 

 

「そっちは終わったのか? バラバラになった金色金の回収はしたのか?」

 

 

「もうその話はやめてくれぇ!!!」

 

 

「えええええェェェ!?」

 

 

嫌な事件だった。色金を回収するだけなのに……うぐッ! 思い出しただけも吐き気が!

 

 

「回収はした。ちゃんとしたから二度とその話題を出すな!」

 

 

「す、すまん……何で怒られているんだ俺……」

 

 

キュイイイイン……!!

 

 

「「!?」」

 

 

突如、緋色の原石が輝き始めた。その光の強さは目を閉じてしまうほど。

 

 

「目がッ!? 目があああああァァァ!?」

 

 

「お決まりのように言ってんじゃねぇよ!」

 

 

俺のおふざけにキレる若者(原田)。怖いわー。

 

光は次第に弱まり、落ち着いた輝きまで収まった。

 

 

「どうだったアリア?」

 

 

「……会わせてくれ」

 

 

「ッ……緋緋神か。待ってろ、会わせてやる」

 

 

雰囲気が違くなったことにすぐに気付く。どうやら意識を緋緋神に渡したらしい。

 

ポケットから苦労して集めた金色金を取り出す。バラバラになった破片を熱で合成した野球ボールと同じ大きさの金色の球体。

 

 

「ゴールデンボール。つまり金t———」

 

 

「———言わせねぇよ!?」

 

 

ボゴッと横から原田に殴られる。痛いです。

 

原田の持って来た色金の破片と俺の持った色金が輝き出す。まるで緋緋神に答えるかのように何度も瞬いた。

 

 

「—————」

 

 

目をそっと閉じて精神を集中させる。緋色の髪が神々しく緋色に光り出し、辺りを緋色に染めた。

 

 

「これが色金の力なのか……」

 

 

「金色金は地球の衛生軌道に粒子を周回させて地球に、人類に力を貸している本当の神のような存在だ。大昔に造られた古墳やピラミッドを作ったのはその粒子を受け取る為の受信機。人間たちに力を与えていたんだ」

 

 

「凄い歴史を知ってしまったな……」

 

 

その粒子は緋緋神たちを守る為に放出しているんだろうな。親が子を思うのは当然。見放すわけがない。

 

 

「二千年も会えなかったそうだ。そりゃ当時子どもだったアイツなら捻くれるわ。通り越してアレなんだろうけど」

 

 

「あー、それは可哀想だな」

 

 

「ずっと寂しかったんだろ。俺には見える。現在進行形で親に甘えている緋緋神の姿が」

 

 

「……俺にも見えるな」

 

 

緋色の光と金色の光が混じり合い、心地よい輝く気が目の保養になる。

 

そんな絶景を楽しんでいると、後ろからティナが驚いた表情で歩いて来た。

 

 

「大樹さん……これは……!」

 

 

「親と娘の再会だ。ティナ、あの車に触れてくれ」

 

 

原田から短剣を借りて車の表面に塗られたメッキを削り落とす。削れた場所にティナは手を触れて意識を手放した。

 

 

「おっと」

 

 

「……ありがとうございます。この御恩は、一生忘れません」

 

 

ティナではない。瑠々神の意識に切り替わったんだ。

 

 

「別に。そんな大層なことはやってねぇよ」

 

 

「あなたはとても素晴らしい人です。優しく、誰にでも手を差し伸べるのは———」

 

 

「あーあーあー! やめろやめろ! かゆい!」

 

 

「大樹が照れてる。誰得だよ」

 

 

あとで原田はしばく。

 

 

「ですが、お別れの時です」

 

 

「……やっぱりそうなるか」

 

 

「私たちがいなくなると星のバランスが崩れてしまいます。それにリリを一人にするわけにはいきません」

 

 

「気に病むことはねぇよ。アリアもティナも、覚悟していることだ」

 

 

一緒に来ることはできない。二人にはショックな出来事だろうな。

 

せっかく仲良くできたが、ここでお別れか。

 

 

「ですが、私たちはあなた方を『最後の希望』として託します」

 

 

カッ!!

 

 

突如原石たちが神々しく輝き始めた。

 

 

「な、何だこれ!?」

 

 

「目が———」

 

 

「その下りはもういいだろ!?」

 

 

「バルス!!」

 

 

「うぜぇ!!」

 

 

バリンッ!!

 

 

緋緋色金の原石にヒビが入る。その光景に酷く驚いてしまうが、アリア———緋緋神は冷静だった。

 

ティナ———瑠々神も同じく冷静に瑠々色金にヒビが入るのを冷静に見ていた。

 

 

「これがアタシに出来る最後の仕事だ」

 

 

「受け取ってください。私たちの希望を」

 

 

キュウイイイイイィン!!

 

 

最後に金色金の金色の光が原石たちを、アリアとティナを包み込んだ。風が一帯に吹き荒れ飛ばされそうになる。

 

 

「な、何が起きているんだ!?」

 

 

「今日は……風が騒がしいな……」

 

 

「でも少し……この風……泣いていますってやかましいわ!」

 

 

ついにネタに乗って来やがったぞこいつ。

 

 

「お前この状況でよくふざけていられるな!?」

 

 

「平常運転だろ?」

 

 

「イエスとしか答えれねぇ!」

 

 

ゴオッ!!

 

 

「「ッ!」」

 

 

風が止まり、緋緋神とティナがその場に倒れようとする。

 

 

「「ッ!」」

 

 

音速でアリアに近づき、体を受け止める。原田はティナの体を受け止めた。

 

 

ドゴッ!!

 

 

そしてアリアを抱えたまま原田を蹴り飛ばしてティナも一緒に抱き寄せる。

 

 

「何でッ!?」

 

 

原田はそのまま遠くに転がり瓦礫に突っ込む。素晴らしいくらい気持ちが良い蹴りでした。

 

 

「……気を失っているだけか」

 

 

『―――――』

 

 

「ッ!」

 

 

頭の中に声が響いた。

 

日本語でもなければ人間が理解できる言葉でもない声。しかし、俺には分かった。

 

『ありがとう』の一言だと。

 

 

「金色金……」

 

 

原石たちは輝きを失い、役目を終えたかのように静かになった。

 

 

________________________

 

 

 

「「ぅんッ……」」

 

 

アリアとティナは同時に意識を取り戻した。

 

気が付けば教会の長椅子に座って眠っており、大樹に身を預けて寝ていた。右隣りにアリア。左隣にティナ。

 

 

「うぅ……インドラの槍がぁ……魔法がぁ……」

 

 

間で寝ている大樹は悪夢にうなされている。こんな時でも嫁に怒られるようなことをしたのだろう。

 

 

「……起きたのね」

 

 

「アリアさんも、同じですか」

 

 

「ええ、緋緋神にお別れを言ったわ」

 

 

結論から言うと、緋緋神と瑠々神、その母である金色金たちはこの世界から姿を消した。

 

消したと言うのは意識であって存在ではない。それに消したというより一時的に眠ったという方が正しいのだろう。

 

莫大な力を放出した色金たちは力を蓄えるために大人しくしたのだ。残念ながら意識が目覚めるのはいつになるのか分からない。

 

 

「ちゃんと……使えるわね」

 

 

「……はい」

 

 

アリアの髪が緋色に輝き、ティナの瞳が蒼色に光る。

 

そう、力は失っていない。色金たちは最後の力を振り絞り、彼女たちに力を託したのだ。

 

アリアはこれからも緋緋神の力を使える。ティナも瑠々神の力を使える。

 

あの暴風が吹き荒れる中、彼女たちは最後に、互いに誓い合った。

 

 

「馬鹿よ……せっかく会えたのに……大馬鹿よ……!」

 

 

「ッ……!」

 

 

アリアは大樹の腕を抱き寄せて顔を隠した。ティナも涙を堪えるがポロポロと落ちてしまう。

 

 

「やっぱり、アイツらは無茶したのか」

 

 

「「ッ!」」

 

 

大樹の声にビクッと驚く二人。大樹は涙を流す二人を抱き寄せて頭を撫でた。

 

 

「安心しろ。これが最後なわけあるかよ。いつでも俺が叩き起こしてやるから」

 

 

「……緋緋神たちは?」

 

 

「原田が戻してくれている。今度は早く帰って来れるそうだ」

 

 

「大樹さん、私は……!」

 

 

「重く捉えるな。アイツらは、お前らを悲しませるために託したんじゃない」

 

 

大樹は微笑みながら告げる。

 

 

「大切な人を守る為に託したんだ。アイツらは、二人が大事なんだよ」

 

 

その言葉にアリアはさらにギュッと力を入れて服を掴んだ。ティナは大樹に抱き付いて静かに泣いた。

 

短い期間だろうが関係ない。彼女たちは短い間で本当に仲良くなったんだ。

 

こうやって涙を流すくらい、大切な人だったんだ。

 

大樹は二人が泣き止むまで、ずっとそばに居続けた。

 

 

 

________________________

 

 

 

東京エリアには最大の問題が残っていた。

 

東京エリアと言うより、これはもう天童 木更の問題。天童家の汚点だと言える。

 

大樹はあえて触れなかった。そのことに木更は感謝し、その期待に応えようと誓う。

 

 

「……来たみたいだぞ」

 

 

大樹の言葉に正座していた木更は目を開ける。大樹の隣にいた蓮太郎と彰磨が息を飲む。

 

障子戸が横にスライドすると、そこにはスーツ姿の男が立っていた。

 

長い髪を後ろに束ね、眼鏡を掛けた男は木更を見て険悪な表情をした。

 

 

「木更……!」

 

 

「ようこそ、和光(かずみつ)お兄様。いえ、国土交通省副大臣様とお呼びした方がよかったでしょうか?」

 

 

木更の手元にある『殺人刀(せつにんとう)雪影(ゆきかげ)』がカチャリと音を立てる。天童 和光は不用意に妹に近づこうとしなかった。

 

 

「ッ……お前らまでいるのか」

 

 

蓮太郎と彰磨を見た和光は驚愕するが、すぐに大樹の存在に気付き、息を飲む。

 

 

「貴様ッ……!?」

 

 

「安心しろよ。俺の手元に武器はないぜ」

 

 

大樹の言う通り、武器のようなモノは見当たらない。しかし、彼は武器なしでも余裕でガストレアを倒す力を持っているというツッコミは誰もしなかった。

 

和光は大樹を警戒しながら木更の方を向く。

 

 

「お兄様、約束通りここに来ることは言っていませんか?」

 

 

「おかげで久しぶりに車を使わずに自分の足で歩いたよ。お前こそ、約束のものは持って来たか?」

 

 

「これのことですか?」

 

 

木更は自分の背後に隠した書類の束を和光の足元に投げ飛ばす。和光はすぐに拾い上げて書類を急いで確認する。

 

 

「クソッ、一体どこでッ!?」

 

 

「俺だ」

 

 

「ッ!」

 

 

大樹の言葉に和光は恐怖する。彼が東京エリアの英雄であり、悪を許さない正義であることを知らない者はいない。現に自分の知人はほとんど刑務所送りにされている。

 

 

「見つかるはずがない。全部処分したはずだ!」

 

 

「その処分した紙を復元したって言ったら?」

 

 

「馬鹿なッ……!?」

 

 

「話を先に進めませんか、お兄様」

 

 

木更の冷徹な声音に和光は歯を食い縛る。この後、何が行われるか予想がついているからだ。

 

 

「『第三次関東会戦』を戦っている間中、ずっと私たちは不思議に思っていました。ステージⅣに過ぎないアルデバランが、どうしてモノリスにバラニウム浸食液を吹きこむことができたのか。最初は立地条件やガストレアの特殊能力、最終的に大樹君の敵を疑いました。ですが、それは違ったのです」

 

 

「……………」

 

 

「32号モノリスそのものに、問題があったのです」

 

 

その言葉に和光は目を細めた。

 

 

「32号モノリスにはおかしな点が見られました。公共事業発注は汚職や談合を防ぐために一般競争入札制度が取られていますが、代わりに煩雑です。モノリス製作のような素早さが何よりも求められる工事は誰でも納得できること。国交省がゼネコンをとりまとめて製作を指揮し、異論はないです」

 

 

ですがっと木更は目を鋭くして、和光を睨む。

 

 

「バラニウムに混ぜ物をして安くモノリスを作って、浮いた費用を自分の懐に入れるのは感心しませんね」

 

 

これが今回の開戦の引き金になった最大の原因。混ぜ物をすれば当然バラニウムの純度は下がる。磁場が周りと違うことに気付いたガストレアはそのモノリスに攻撃を仕掛けるハメになってしまった。

 

和光の握った拳が震える。大声で反論した。

 

 

「理論上はあの純度でも問題はなかったんだ! 事実ここ十年、32号モノリスは破られなかった!」

 

 

「オフューカスへと進化を遂げたアルデバランに、それは通用しなかった」

 

 

バッサリと斬り捨てた大樹の言葉に和光は言葉を詰まらせる。

 

 

「ステージⅤになった原因は俺も少しは関わっている。だから突破されたことに、お前が悪いと一方的には責めきれない」

 

 

「だったら———!」

 

 

「だけど、それで純度を落としていい理由があるのか?」

 

 

再び何も喋れなくなる和光。そんな和光に木更は笑みを浮かべて冷酷に断じた。

 

 

「『第三次関東会戦』の引き金を作ったのはあなたですよ和光お兄様」

 

 

憎悪に満ちた和光の表情に木更はさらにわざとらしく笑みを浮かべる。

 

 

「皮肉な話ですよね。シェルター当選券が当たらなかった東京エリア市民はガストレアに殺戮される恐怖に夜も眠れずに震えていたのに、あなたは国の要人だと言うだけで、家族ごとシェルター当選券を配られて、私たち民警が必死に戦っている間もシェルターにぬくぬくと籠っていたんですから。楢原君、どう思うかしら?」

 

 

「判決。ギルティ」

 

 

「だそうですよお兄様? この事実を市民が知ったらどうなるのでしょうね?」

 

 

「……この書類のコピーは?」

 

 

「それ一部だけです」

 

 

「信じろと?」

 

 

「楢原君。一部だけよね?」

 

 

「まぁな。お前がそれだけでいいって言ったからそれしか作ってないぞ」

 

 

「私もあなたの『今日ここに来ることは誰にも言わなかった』という戯言を信じているんですから、ここは紳士協定で行くべきでしょう」

 

 

「ハッ、これから殺し合う相手に、まさか紳士協定を説かれるとは思わなかったよ」

 

 

「……興味はないのだけれど、一応聞いておきます。何の為にバラニウムに混ぜ物を? お金なら腐るほどあるでしょうに」

 

 

「……お前は何も分かっていない。木更、出世と言うのはな、お前には想像もつかないほどの金が必要なのだよ」

 

 

和光は呆れるように説明を続ける。

 

 

「上役はな、様々な欲望を持っている。ライフルを持っての人狩りをしてみたい、双子の処女と3Pがしたい、セルフ出演の殺人ビデオ(スナッフムービー)を作ってみたい、とな。そういう上役の密かな願いを叶えてやるためには莫大な金が必要なのだよ」

 

 

その時、大樹からかつてない程の殺気が溢れ出した。

 

隣にいた蓮太郎と彰磨は目を見開いて驚愕し、木更も汗を流してしまうほど。和光は喋っていた口がもう動かなくなっている。

 

 

「……そうかそうか。お前らはそんなクソッタレなことをしたいのか。被害者の人権は無視、ただクソ野郎共のために、善人は傷付くのか」

 

 

「楢原君……ダメよ」

 

 

「ああ、手は出さない。だが言っておくことがある」

 

 

大樹の鋭い眼光に、和光はその場で尻もちをつく。

 

 

「救いようのない屑は、()()()()()使()()()()救ってやる。例えその過程に、地獄があってもな」

 

 

低い声音に和光の歯はガチガチとなり、汗だくになる。今すぐこの場から逃げ出したかった。

 

 

「そんな願いの為に金を欲したあなたに生きる価値はないです。もう結構です」

 

 

木更は立ち上がり、刀を握り絞める。

 

 

「始めましょう———お願い」

 

 

大樹が立ち上がり、二人の中間に立つ。

 

 

「この戦いはどんなことがあっても内密にする。警察、その他の司法機関に訴え出ないこと。例え片方が殺されてもな」

 

 

「待ってくれ二人とも!」

 

 

その時、蓮太郎が大声を出した。

 

 

「最後に聞きたい。どうしてもこの戦いはやんなきゃ駄目なのか? 天童流の最強の称号である免許皆伝同士の戦いに俺は興味がある。でもそれは木剣や竹刀を持ってやるべきだ。真剣で斬り合うべきじゃねぇ!」

 

 

「くどいぞ蓮太郎! ここでこの女を封じておかなければ、こいつはベラベラと真相を喋る。生かしておくわけにはいかん!」

 

 

「でも和光義兄さん……」

 

 

「私を兄と呼ぶな。お前が木更についた時点でお前は天童の敵だ。蓮太郎目を覚ませ、お前は騙されているんだ。この女は、化け物だぞ!」

 

 

「やらせて里見君。私は十年間待ったわ。お父様とお母様の仇の一人、ようやく追い詰めたの。この男との戦いは宿命だったの」

 

 

「里見。座るんだ」

 

 

彰磨に腕を掴まれた蓮太郎はチクショウと小さな言葉を漏らして座った。

 

和光は槍袋から槍を取り出し構える。それを見た木更が小馬鹿にしたように肩をすくめる。

 

 

「まさか本当に槍だけなんですかお兄様? てっきり拳銃でも忍ばせてるかと思ったんですが……」

 

 

「見損なうなッ。貴様の心臓を突く程度、飛び道具に頼るまでも無い」

 

 

「持っている武器以外使ったら俺が乱入するから覚えとけよ」

 

 

「「はい」」

 

 

即答だった。

 

 

「木更、私の上役の一人がな、途上国から攫って来た浅黒い肌の女に秋田と言って色白の女を欲しがっていてな。お前を殺さずに倒したら手足をもいで———」

 

 

「あぁ?」

 

 

「———くっつけてやるよ」

 

 

蓮太郎と彰磨が体勢を崩した。「くっつけるのかよ」っとツッコミを入れて。

 

 

「余計なお世話ですよ。私は殺さずに倒したら生きたままブタに食わせ———」

 

 

「あぁ?」

 

 

「———食わせずにブタに見守って貰える所に埋めます」

 

 

「「わけが分からない」」

 

 

蓮太郎と彰磨は手で頭を抑えた。殺し合いの前に何をやっているんだと。

 

 

「天童式抜刀術・皆伝。天童 木更」

 

 

「天童式神槍術・皆伝。天童 和光」

 

 

名乗り上げると同時に両者は一歩飛び退き対峙した。

 

 

ダンッ!!

 

 

両者が同時に踏み込んだ。

 

 

 

 

 

「おぉっと!? 手が盛大に滑ったあああああァァァ!!!」

 

 

 

 

 

ドゴンッ!

 

 

「ぐはッ!?」

 

 

「ッ!?」

 

 

「「よしッ!」」

 

 

大樹のアッパーカットが和光の顎に強打。和光は宙を舞い、天井に頭から突き刺さった。

 

木更の斬撃は空振り、驚愕。蓮太郎と彰磨はガッツポーズで喜んだ。

 

プラーン、プラーンと和光の体が揺れる。大樹は満足したのか親指を立てる。

 

 

「勝者、俺」

 

 

パチパチと蓮太郎と彰磨は拍手を送る。しかし、木更は違った。

 

 

「どうして、邪魔をするの」

 

 

刀を大樹の首元に当てて、睨み付けた。

 

 

「ずっと待ち焦がれた復讐を、どうして邪魔するの!?」

 

 

「それがお前のためにならないからだ!」

 

 

大樹の大声に木更は驚くが、刀に力を入れて大樹の首を少しだけ斬る。

 

少量の血が流れ、木更の表情はさらに憎悪に溢れる。

 

 

「これはお父様とお母様の仇! 私のためじゃなくていいの! これは必要なこと!」

 

 

「だったら!」

 

 

大樹は木更の両肩を掴み、告げる。

 

 

「その両親が、悲しむようなことをするなよ」

 

 

「ッ! うるさい!」

 

 

木更は大樹から距離を取り、刀を鞘に収めて睨み付ける。

 

 

「気付いたのよ……あなたの正義では駄目なの」

 

 

「何だと?」

 

 

「悪に対抗できるのは正義じゃない。悪を上回る———」

 

 

木更の鞘から刀が抜かれた。

 

 

「———『絶対悪』なの」

 

 

ザンッ!!

 

 

木更の見えない斬撃が振るわれる。大樹は目を細め的確に手を払う。

 

 

バシュッ!!

 

 

大樹の手から血が飛び散る。しかし、この行為がなければ和光の体が一刀両断されていた。

 

 

「正義は救うことはできる。でも裁けない。あなたは言ったわ。『救いようのない屑は、どんな手を使っても救ってやる。例えその過程に、地獄があってもな』って。結局、裁けないのよ」

 

 

木更は再び刀を鞘に収める。再度抜かれることを許そうとしない蓮太郎と彰磨が止めに入ろうとするが、

 

 

「来るな!」

 

 

大樹の言葉に動きを止めた。

 

 

「力で止めるな。言葉で止めろ!」

 

 

「ッ……木更さん駄目だ。間違ってんよ! いつも俺に言ってただろ『正義を遂げろ』って」

 

 

「そんなこと、もう言わないわ」

 

 

ザンッ!!

 

 

木更は二撃目を放つ。人間が出せる速度を超越した斬撃は和光の体を狙っている。

 

 

「ッ!」

 

 

大樹はもう一度手を横に払う。指先に刀が当たり、軌道をズラす。斬撃が逸れてまた空振りに終わる———

 

 

シュンッ!!

 

 

———はずだった。

 

 

(二撃目だと!?)

 

 

音速を超えた斬撃が大樹の首を掠める。振り払らい終えた手を戻す暇はない。

 

 

ドシュッ!!

 

 

「ッ……!」

 

 

音速の斬撃を体で受け止めた。服が破れて胸から血が盛大に飛び散った。

 

 

「大樹ッ!?」

 

 

「いや痛くないから安心しろ。慣れてる」

 

 

まさかの音速の二撃目。普段なら対応できるはずだったが、油断してしまった。

 

 

「ねぇ楢原君。私はその男を殺したいだけなの。あなたには、死んでほしくない。ずっと仲良くしたいの」

 

 

「当たり前だ。俺だってずっと仲良くしていたいし、守り続けたい大切な友人だ」

 

 

「なら邪魔しないで!」

 

 

「邪魔するに決まっているだろ!」

 

 

「どうして!?」

 

 

「お前が、苦しんでいるからだ!」

 

 

「ッ!?」

 

 

大樹はさらに声を張り上げる。

 

 

「お前……里見に心を許せないだろ」

 

 

「ど、どういう意味……」

 

 

「言葉通りだ。お前は後ろめたいことがあるから、優しい里見に心を許せない。いや、許したいけどそれは駄目だと自分で我慢している」

 

 

「ち、違う……!」

 

 

「違くない。里見だけじゃない。みんなに心を許したいと思っている。でも、自分が『絶対悪』に染まっているから、お前は俺たちに近づこうとしないんだ」

 

 

カタカタと刀を握った木更の手が震える。

 

もう斬れないはずだ。

 

もう抜けないはずだ

 

 

(俺を斬った瞬間、あんなに悲しんだ木更の顔を見たことが無い)

 

 

だから、もう抜けない。

 

大樹は蓮太郎の方をチラッと見る。蓮太郎は頷き、木更に近づく。

 

 

「木更さん。俺は、復讐するなとは言わない。ただ方法が駄目なんだ」

 

 

「こ、来ないで……」

 

 

「俺は、もう木更さんから逃げない」

 

 

木更が一歩下がれば蓮太郎が一歩前に踏み出す。木更が何度も首を振っても、蓮太郎はずっと木更の目を真剣に見続ける。

 

 

「こっちに来てくれ、木更さん」

 

 

「いやッ!」

 

 

木更が走り出し、部屋から出ようとする。

 

 

「逃げるな木更。お前は選ばなくちゃならない」

 

 

部屋の出口には彰磨が待っていた。木更が逃げれないように、邪魔になるように立っている。

 

 

「俺たちを斬るか、斬らないか」

 

 

「お願い……もうやめて……」

 

 

「木更さん!」

 

 

「駄目! ダメなのダメなのよ! 私は復讐しなきゃ殺さなきゃ———」

 

 

木更は涙を流しながら叫ぶ。

 

 

「———私じゃないの!」

 

 

「そんなことねぇ!!」

 

 

蓮太郎が大声で否定した。

 

 

「どんな時でも木更さんは木更さんだ! でも、今の木更さんは俺は嫌いなんだ! 俺の大好きないつもの木更さんに戻ってくれ!」

 

 

「嫌いのままでいてよ!!」

 

 

「なれるわけがねぇだろ! 苦しんでいるアンタの顔を見て、見捨てれるわけがねぇ!」

 

 

「余計なお世話よ!」

 

 

「余計な心配をさせているアンタが言うことじゃねぇ!」

 

 

「うるさい! 私が勝手にやっていることなの! 関わることは必要ない!」

 

 

「勝手にやるなよ! 俺たちと一緒に考えろよ! 関わる必要は絶対にある!」

 

 

「嘘つきと一緒に居られないわ! 私の味方でいるって言ったクセに!」

 

 

「嘘つきはアンタだろ! 正義を遂げなくなった木更さんの方が嘘つきだ!」

 

 

「なら嘘つき同士は仲良くなれるはずがないわ! 今すぐ消えてよ!」

 

 

「仲良くなれない証拠なんか無いだろ! 俺たちは今までずっと会社をやってきたんだ! 仲が良いに決まっている!」

 

 

「それは建前よ! 私の嘘よ! 本当はもう里見君とは仲良くできないのよ!」

 

 

「何年一緒にいると思ってんだ! 建前が下手な木更さんと仲良くできないはずがない!」

 

 

「もういい加減にして!」

 

 

木更は頭を抑えながら叫ぶ。

 

 

「里見君は私の気持ちが分かるでしょ!? えぇ分かるはずよ!」

 

 

「何がだよ!?」

 

 

「決まっているでしょ! 親がいなくなった時の気持ちよ!」

 

 

「ッ!」

 

 

「ホラ分かるでしょ!? 親を殺したガストレアが憎かったわよね!? 私も同じ! 両親を殺したアイツらが憎いのよ!」

 

 

「……………」

 

 

蓮太郎は俯く。木更は肩を大きく上下に動かして荒く呼吸を繰り返す。

 

大樹と彰磨は何も言わない。ここで助け舟を出すのは間違っているからだ。

 

 

「確かに俺は、憎いと()()()

 

 

木更の表情が凍り付いた。

 

『思った』と答えた蓮太郎。『思い続けている』のではない。過去形で答えたのだ。

 

 

「でも違うんだよ木更さん。それじゃ何も変わらない」

 

 

「な、何が……変わらないのよ……」

 

 

 

 

 

「世界だ」

 

 

 

 

 

蓮太郎のとんでもない答えに、木更は言葉を失った。

 

 

「変わっているんだよ。今、この世界は俺たちの望んだ世界になろうとしている」

 

 

蓮太郎は一歩前に踏み出す。

 

 

「知ってるか? 延珠が赤目のことを学校の友達に打ち明けたこと」

 

 

木更は下がらない。

 

 

「それでも変わらず仲良くしているんだ。この前なんか教会で『呪われた子ども』と一緒に学校の子たちで野球したんだぜ?」

 

 

蓮太郎の表情は笑顔。微笑んでいる。

 

 

「そんな世界に、『悪』なんてつまらねぇモノ持ちこむなよ。いつもの木更さんのままでいろよ、な?」

 

 

木更は涙を流しながら蓮太郎の顔を見ている。

 

 

「俺の親は死んだかもしれない。でも、思い出は死んでいない。木更さんもそうだろ?」

 

 

「ッ!」

 

 

蓮太郎は優しく木更を正面から抱き締める。

 

 

「大切にしようぜ? でさ———」

 

 

蓮太郎は告げる。

 

 

 

 

 

「———胸を張れる生き方をしよう」

 

 

 

 

 

木更は抱き締め返した。

 

 

 

 

 

「お馬鹿……本当に、お馬鹿よ……!」

 

 

「卑怯な言い方してごめん……」

 

 

「そうよッ……里見君は卑怯で……!」

 

 

「うん」

 

 

「甲斐性なしで……!」

 

 

「うん」

 

 

「頼りなくて……!」

 

 

「うん」

 

 

木更はギュッとさらに力を入れる。

 

 

 

 

 

「私の大切な、人なのよ……!」

 

 

 

 

 

「……うん」

 

 

「分かってないわよ……私にここまで恥をかかせるなんて……」

 

 

木更は涙を流しながら次々と文句を漏らす。蓮太郎は一語一句聞き逃すことなく頷き続ける。

 

既に木更の手に『殺人刀・雪影』はない。足元に転がっている。

 

二人の様子を見守っていた大樹と彰磨は静かに部屋を出る。

 

 

「末永く爆発しろよな」

 

 

「あの二人は今後が楽しみだな」

 

 

大樹の傷は神の力で治し、血の付いた服を脱ぎ捨て玄関で脱いでいたコートを羽織る。

 

二人は外に出ると、そこには人が待っていた。

 

 

「おや? 結構早かったね」

 

 

「……血の匂いがする」

 

 

「ハッハッハ、斬られちゃたぜ」

 

 

影胤と小比奈の言葉に笑って返すと呆れて溜め息を漏らす影胤とジト目の小比奈の視線が返って来た。反応酷くね?

 

 

「相変わらず気持ち悪い体してるなぁオイ」

 

 

「ノルマ達成ですね」

 

 

「将監と夏世ちゃんはゾディアックガストレアと戦いたいのかな? お?」

 

 

「「すいませんでした」」

 

 

腰を90°に曲げる将監と夏世。よしよし、良い子だ。

 

 

「おかえりなさい」

 

 

「待たせたな翠」

 

 

彰磨は翠の頭を撫でている。平和かよ。いや平和だった。

 

 

「帰っていいか?」

 

 

「えー、ジュピターさん駄目だよ」

 

 

「そうだ詩希ちゃんの言う通りだ。帰ったらザクッ! だよ?」

 

 

「刀を見せながら言うなよ……!」

 

 

ジュピターさんは顔を真っ青にして詩希は頬を膨らませていた。『めッ!』って言うより効果あるかなと思いました。

 

 

「悪いな。最後に一仕事、手伝ってくれ」

 

 

「私は構わないよ。君となら楽しめるからね」

 

 

「大丈夫だ影胤。多分楽しいと思うよ」

 

 

懐から泣いた仮面を取り出し、顔の側面に付ける。今装着したら内側がムレムレするからね! ムレムレってなんだよ。言語乏し過ぎだろ俺。

 

 

「平和になった国に悪はいらねぇよ。悪い子には———」

 

 

大樹は右手に【神刀姫】を出現させて握る。

 

 

 

 

 

「———キッチリと社会のお勉強でもさせますかね」

 

 

 

 

________________________

 

 

 

木更の騒動から三日後。あれから悪を埋めたり埋めたり埋めたり埋めたりした。あと火あぶりにした。(あぶ)った奴はとんでもないくらい屑だったので〇〇〇(ピー)した後に※※※※(チョメチョメ)の連続。トドメにアーッ!してやった。ざまぁ。

 

原田も帰って来たし、次の世界に行く準備は整った。

 

荷物を持って教会から去っていく。子どもたちには、別れを済ませてある。めっちゃ泣かれたけど。

 

 

「お別れだ、あばよ!」

 

 

「二度と来んなよ」

 

 

蓮太郎君の言葉が辛辣(しんらつ)過ぎて辛い。

 

 

「冗談だ。泣くなよ」

 

 

「これは〇〇〇だ」

 

 

「ここで下ネタを言うお前に脱帽だわ」

 

 

褒めるなよ。照れるじゃねぇか。

 

 

「ねぇ大樹君。復讐のことなんだけど……」

 

 

「任せる」

 

 

「……ありがとう。ちゃんと正義の名に恥じないやり方で戦うわ」

 

 

木更と握手を交わす。よし、今なら行ける!

 

 

「記念におっぱい触って———」

 

 

四方八方から拳と蹴りが飛んできました。俺の体はグチャグチャになりましたとさ。めでたしめでたし。

 

 

「おい、関節が曲がっちゃいけない方向に曲がってるぞ」

 

 

「大丈夫だジュピターさん。全然痛くないから」

 

 

「お前を本気で怪物と認識したわ」

 

 

やっぱりみんな俺に対して酷いと思う。

 

 

「とりあえずここは任せろ。俺たちが何とかする」

 

 

「神父ジュピターさんですね分かります」

 

 

「やらねぇよ」

 

 

ザーネン。

 

 

「大樹君。私は東京エリアを出ようと思っている」

 

 

「……いいと思うぜ」

 

 

「止めないのかね?」

 

 

「止めるよ。お前が悪さした時はな」

 

 

「クックック、それは楽しみだ」

 

 

「粉々にして止めるからね」

 

 

「……………」

 

 

影胤の笑みが消えたと思う。仮面だと分からないからね!

 

 

「それにしても、聖天子まで見送りに来るとは思わなかったな」

 

 

「東京エリアを救ってくれた英雄ですよあなたは。見送らないとなれば、私は自害します」

 

 

「重いよ……」

 

 

「ありがとうございます。私達を救ってくれて」

 

 

「……おう」

 

 

聖天子の笑顔はマジで可愛いから困る。普通に返せなかったわ。

 

 

「いつまで鼻を伸ばしているのかしらッ?」

 

 

「痛い痛い!?」

 

 

アリアに耳を引っ張られて俺はやっと歩き出す。手を振りながら、みんなに別れを告げた。

 

 

「あッ、言ってなかったけどゾディアックガストレア、もう一匹倒して置いたから! 残りはお前が頑張れよ!」

 

 

「「「「「えッ」」」」」

 

 

爆弾発言を残して、俺は教会を後にした。

 

 

「「「「「えええええェェェ!?」」」」」

 

 

教会から驚愕の声が響き渡った。

 

 

________________________

 

 

 

外周区の平地。今は瓦礫などが片付けられて綺麗な平地になっている。

 

俺たちは原田が準備した魔法陣の上に立っている。のだが!

 

 

「どうして……ティナもいるんだ!?」

 

 

ホラ! 嫁たちから一気に黒いオーラが溢れ出したよ。アリアは「知っているわこのパターン……」とか、優子は「まさかね……」とか、黒ウサギは「やりましたね……」とか、真由美は「許されないことを……」とか!

 

原田は遠くの空を眺めながら「修羅場乙」とか言ってやがる。アイツ、何だよ。一体何だよ!

 

ティナが考えていることは分かる。

 

 

「私も連れて行ってください」

 

 

「駄目だ」

 

 

ティナの言葉をちゃんと断る。真面目に答えたことに、ティナは悲痛な表情になる。

 

 

「ここから先は危険なんだ。無暗に来て良いモノじゃない」

 

 

「……………」

 

 

残念だが、連れていくことはできない。どんなにお願いされたって、断る。

 

 

「……大樹さんは言いました」

 

 

ティナが涙目でも、俺は断り続ける。

 

 

 

 

 

「『俺たちと一緒にいろ。ティナに『痛い』ことはさせない』」

 

 

 

 

 

あ、一気に追い詰められた。

 

余裕でHPが赤ゲージまで減ったわ。ピンチで危機なんだけど?

 

 

「随分と男前なことを言うのね、大樹君?」

 

 

「そ、そんなに褒めるなよ優子!」

 

 

「本当に褒めていると思っているのかしら?」

 

 

「ですよね」

 

 

俺はグッと堪える。ティナと目を合わせてはっきりと答える。

 

 

「それでも……駄目にゃの」

 

 

「何故噛むのでしょうか……」

 

 

緊張しているんだよ黒ウサギ。

 

 

「守ってくれるのではなかったのですか?」

 

 

「だ、大丈夫だ! 影胤や蓮太郎たちだっているじゃないか!」

 

 

「IP序列は私の方が上ですよ?」

 

 

そうだった! アイツらじゃ弱すぎる! 失礼だな俺。

 

 

「ティナさん、大樹さんの言う通りです。いつ理性が壊れてもおかしくないのですよ?」

 

 

「そうよ、危険だわ。いつ手を出してきてもおかしくない状態よ?」

 

 

「アリア先生、黒ウサギと真由美が俺をいじめまーす」

 

 

「廊下に立ってなさい」

 

 

理不尽じゃね?

 

ティナは涙目で黒ウサギと真由美を見る。おっと、お二人さんの決意が揺らいでいるのがこちらからでも分かりますよ?

 

 

「ゆ、優子さんも言ってあげてください」

 

 

「ええ、優子の意見も大事よ」

 

 

あ、押し付けやがった。

 

 

「え? アタシは全然良いわよ?」

 

 

「「「「えッ」」」」

 

 

しまった! 優子は———!

 

 

「ティナちゃんは大歓迎よ!」

 

 

———ティナのこと『LOVE』だった!!

 

俺たちは「しまった!?」の表情。優子はティナに抱き付き可愛がっている。

 

 

「問題無いですね」

 

 

「あるよ!? 優子の意見で流される俺じゃないよ!」

 

 

ティナの意見に危うく騙されるところだった。しかし、俺の言葉を気にくわない者がいる。

 

 

「むッ」

 

 

ティナを抱き締めていた優子がキリッと俺を見る。俺もキリッと駄目だと言うサインを送る。

 

優子はウルウルと涙目で俺の腕に抱き付いて来た。そして上目遣いで、

 

 

「だめ?」

 

 

「イイに決まってるじゃないか!!」

 

 

「「「はぁ……」」」

 

 

断れるわけがなかった。アリアたちは溜め息をつき、呆れた。

 

 

「またいつものパターンね……」

 

 

「黒ウサギは疲れました……」

 

 

「あら? 脱落者が二人も?」

 

 

「それはない」

 

「それはないのですよ」

 

 

大樹はティナと優子を一緒に抱き締めクルクルと幸せそうに回った。その光景に三人は呆れるが、クスリッと笑っていた。

 

 

「甘い……コーヒー飲んでも甘い」

 

 

甘い空間に耐え切れなかった原田。ブラックコーヒーを飲み干しても甘い。

 

ついに、原田は採れたてのゴーヤーに噛みついた。

 

 

 

________________________

 

 

 

「———それ以外、次の世界は見た限り普通だった。うぇっぷ」

 

 

特殊な現象を説明し終えた原田は苦しい表情をしながらゴーヤーを食べ終える。生のままゴーヤーを食う奴とか初めて見たわ。そもそも何で食ってんの?

 

 

「短期間、探したけど美琴は見つけれなかった。まぁいいさ。情報さんきゅ」

 

 

「おう。それで、今度はこっちが聞いてもいいか大樹」

 

 

「何だ?」

 

 

 

 

 

「何で水着なんだお前」

 

 

 

 

 

 

俺の恰好にドン引きの原田。嫁たちも引いていた。

 

上半身裸。黄色い短パンに頭にはシュノーケル。バッグを背負い、海に行くなら完璧な恰好だろう。

 

しかし、ここに海は無い。

 

 

「だって毎回さ、水に落ちるじゃん? だから防水リュックに———」

 

 

ポンッ!

 

 

大樹が手を叩くと白い煙が地面からボワッと吹き出す。

 

煙の中から黒い犬が姿を見せた。そう、邪黒鬼———ジャコである。

 

 

「———浮き輪を用意したんだ」

 

 

『誰が浮き輪だ!』

 

 

ガブッ!!

 

 

「ぎゃああああああッ!? ち、乳首が!? 乳首が取れるからあああああァァァ!!」

 

 

「馬鹿は放って置いて、俺も一緒に転生するから」

 

 

ちょっと!? 血がすごいよ!? 取れたよね? これ完全に右乳首失ったよね!?

 

 

ガブッ!!

 

 

左も逝ったあああああああああァァァァ!!??

 

 

「じゃあ転生するぞ」

 

 

こうして、新たな世界へと旅立つ。

 

 

 

 

 

最後の一人、御坂 美琴を救いに。

 

 

 

 

 

「大好きですよ、大樹さん」

 

 

 

ティナの小さな声は、誰の耳にも届かない。でも、大樹には十分に伝わっていた。

 

 

 




ついに終わったブラック・ブレット編! いつも通り、ここからは作者のターンです。例の如く飛ばして大丈夫です。

まずは今後の予定です。次回から番外編という名の時間稼ぎです。時間稼ぎの理由ですか?


ついに二年間悩み続けた結果、未だにヒロインが決まらなかった。


次の世界は同じ票の数でしたが、私情で話が造りやすい『デート・ア・ライブ』に決定です。

そうです。そのヒロインが初期のころから二年間悩み続けています。『インフィニット・ストラトス』はすぐに決まったのに対して、これだけは悩みに悩んでいます。可愛いって罪ですね。

今の所、二人まで絞れましたが「もう少しだけ時間を下さい」というわけで番外編+遅すぎる主人公紹介設定を次回からやります。


次に大樹とヒロインたちについてです。


強過ぎワロタ。


まだ強くなれるとは思わなかったですよね? 作者もです。

今後の彼らの強さに期待です。


次に黒ウサギの耳です。


まさかの引き続き。解決はまだしない件について。


伸ばしますよ。作者が「これだッ!!」と思い着くまで伸ばしますよ。すいません。


最後に一度やってみたかったつまらない次回予告をします。(番外編のみ)



———原田。彼の名前をフルネームで覚えている人はいるだろうか?


「坊主頭の野郎にふさわしい名前。それが原田だろ」

「頭のネジ、何本か入れてさしあげますわ」

「いらっしゃいませ、地獄のカァーニバァルへ」

「いいから会計しろって言ってンだよ!」

「シャケでよくね?」

「こちら原田。ツンツン頭の青年がシスター少女に襲っている変態プレイ現場に遭遇しました」


———日常は非日常へと変わる。


「ふざけやがって!」

「では、命懸けの鬼ごっこ開始です」

「はー、動きたくねぇ」



次回、『原田風紀委員のお仕事』。



はー、これ大丈夫かな?



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