どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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アンケート結果

1.原田風紀委員のお仕事 9票 ←

2.リアル刑事人生ゲーム 9票 ←

3.もう一日の休日 2票

4.火龍誕生祭の過酷なゲーム 9票 ←

5.はじっちゃんとフィフちゃん 8票

6.Gの超逆襲 10票


ちょっと待てやああああああああああああああああああああああああああああ!?

一位と二位を抜粋する予定が狂った!? あれ!? 二位が3つ!? つまり4つ書けと!?

この私に挑戦状ですか!? 狙ったのですか!?











よし、その喧嘩を買ってやろう。













というわけで文字数的に『Gの超逆襲』が多くなると思いますのでよろしくお願いします。

それとアンケートのご協力、本当にありがとうございます。集計する時はとっても楽しかったです。

本当にありがとうございます。



赤の安全防衛戦術

ドゴオオオオオォォォ!!!

 

 

32号モノリスが崩壊してから30分。バラニウムを含んだ黒い煙が舞い上がってくれたおかげでこの30分間、ガストレアが攻めて来ることはなかった。

 

民警全員が防壁に登り、銃を構える。防壁の高さは5メートル。

 

この5メートルの壁を立てた理由は、すぐに防壁を捨てるために、ガストレアが襲いにくい位置、奇襲を仕掛けやすい高さなどなど。

 

プロモーターやイニシエーターにとって戦いやすい高さが5メートルだったからだ。狙撃手は8メートルと言った例外もあるが、基本はこの防壁だ。

 

簡易で作られたコンクリートだが、強度は中々のモノ。簡単には破壊されない。

 

 

バババババッ!!!

 

ドゴンッ!! ドゴンッ!!

 

キィシャアアアアアアァァァ!!

 

 

銃声が重なり合いながら響き渡り、戦車の主砲が火を噴く。怪物の咆哮が人間に恐怖を植え付ける。

 

だが、誰も止まることはなかった。

 

 

「穿て! 【インドラの槍】!!」

 

 

バリバリッ! ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

耳を(つんざ)く轟音と共に、何十匹もいたガストレアが雷に撃たれて燃え上がる。真っ黒に変わり果てたガストレアは土へと還る。

 

 

「【天輝(あまてる)】!!」

 

 

ズキュウウウウウゥゥゥ!!

 

 

真紅の光線がガストレアを次々と一刀両断する。地面を抉りながら進むその光線を止めれるガストレアはいない。

 

 

「空よ! 前と右から来ているわ!」

 

 

「右はアタシがやるわ!」

 

 

死角の無い知覚魔法【マルチスコープ】を使役した真由美。一定の範囲に宇宙空間を造り出す人類超越魔法を使う優子。

 

 

 

 

 

(((((あれ? 俺たちっているのか?)))))

 

 

 

 

壮絶な光景を目の当たりにした民警全員がそう思った。

 

前線がたったの二人で維持され、例え上空や死角から突破されても二人の少女が超能力(魔法の存在を知らない)的なモノで撃退している。

 

 

「【疑似神格・金剛杵(ヴァジュラ・レプリカ)】!!」

 

 

「【慈雨(じう)の天輝】!!」

 

 

空から雷と紅い閃光が雨のように降り注ぐ。その攻撃はガストレアの大半を一網打尽にした。

 

黒ウサギと原田の猛攻にガストレアの数は減っていた。

 

 

「何だよこれ……大樹も大概だが、アイツらも何なんだよ!? 俺たちがいなくても勝てるんじゃねぇのか……!?」

 

 

防壁から見るその光景にジュピターさんは圧倒されていた。ステージⅤを葬った大樹も規格外。だが、同等に彼らの戦闘力も規格外なモノだ。

 

 

「ジュピターさん、あれ! 人が飛んでる!」

 

 

「は?」

 

 

人が飛ぶのは大樹ぐらいだろっと心の中で思うが、詩希の言葉は本当だった。

 

空に人影が見えた。ジュピターさんはすぐに双眼鏡を取り出し、正体を暴く。

 

 

「女の子……!?」

 

 

緋色のツインテールをした少女。髪の色と同じ色をした緋色の(はかま)。袴のスカートは黒色だった。

 

そして何より、目に入るのが炎を纏っているということ。その異常な光景に、冷や汗が止まらない。

 

 

そして、ふと少女が見せた笑みに嫌な予感がした。

 

 

「ッ……詩希。敵は近くにいるか?」

 

 

「ううん。いないよ」

 

 

「……もっとよく探してくれないか?」

 

 

「……やっぱりどこにもいないよ?」

 

 

詩希が必死に見渡して探すが、どうやらいないようだ。では、何故あの少女は笑っている?

 

思考を巡らせている時、あることを思い出した。

 

 

『モンスターラビリンス』

 

 

「ッ!?」

 

 

体に電撃が走ったかのような感覚が襲い掛かった。すぐにジュピターさんは叫ぶ。

 

 

「下だッ!! 下から来るぞッ!!!」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!

 

 

ジュピターさんの叫ぶ声は遅かった。既に地面から爪のような鋭いモノが飛び出し、防壁の前まで来ていた。

 

あの一件で学習したはずなのに、アリのようなガストレアがいると思いつくことができなかった。

 

 

「ヴァアアアアァァァ!!!」

 

 

咆哮と共に現れた巨体。尖った鼻にずんぐりとした毛深い胴体。短い四肢だが、鋭い爪を持っている。

 

その姿は誰もが知っている動物だった。

 

 

土竜(モグラ)のガストレアか! だったら視力は低いはずだ! 背後から狙え!!」

 

 

素早く敵を分析した我堂の指示に民警が動く。しかし、その指示に蓮太郎は息を飲んだ。

 

 

「馬鹿野郎! ソイツは———!!」

 

 

蓮太郎の言葉が届くことはなかった。

 

 

「ヴァアアアアァァァ!!」

 

 

ブンッ!!

 

 

モグラのガストレアは襲い掛かる民警たちに鋭い爪を振り払った。

 

 

「え……?」

 

 

「延珠ッ!!」

 

 

「弓月ッ!!」

 

 

「翠ッ!!」

 

 

ダンッ!!

 

 

蓮太郎たちの声と共に延珠、弓月、翠が動く。延珠は二人の民警の服の襟首を掴み、翠が二人のイニシエーターを救出。弓月は糸でモグラのガストレアの動きを鈍らせた。

 

 

「「天童式戦闘術二の型十六番———!!」」

 

 

蓮太郎と彰磨がモグラの頭上を取る。そして同時に体を捻らせながら蹴りを繰り出す。

 

 

「「———【隠禅(いんぜん)黒天風(こくてんふう)】!!」」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

鈍い音が響き、頭部に強い衝撃をくらったモグラのガストレアは後ろから倒れる。

 

 

「天童式抜刀術一の型八番———」

 

 

その隙を逃さない。倒れるガストレアに高速で近づく木更は鞘に収めた刀の柄に手を置く。

 

 

「———【無影(むえい)無踪(むそう)】」

 

 

ズバンッ!!!

 

 

木更が刀を抜刀した瞬間、巨体のガストレアが一刀両断された。上半身と下半身が分離されたモグラのガストレアは悲鳴を上げることなく絶命した。

 

 

「モグラは視覚を失う代わりに敵や獲物の感知は敏感だ! 飛び道具で倒すか、誘導して倒すのが一番だ!」

 

 

我堂は蓮太郎の言葉に驚いた。自分よりも若い人間がここまで戦いに長けていることに。

 

敵の分析、早急な対処、的確な指示。リーダーとしての器が十分にあった。

 

 

「……なぁ弓月。オレっち……いるのか?」

 

 

「しっかりしなよ兄貴!?」

 

 

大樹ほどではないが、蓮太郎たちもそこそこ規格外な存在だ。足を引っ張っていることに玉樹は両膝を折って地面を拳で叩きつけた。上からジュピターさんが『分かる。分かるぞその気持ち。頑張れ、お前ならできる』と小声で応援している。

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!

 

 

「「「「「ヴァアアアアァァァ!!」」」」」

 

 

次々といたるところからモグラのガストレアが出現する。その光景に民警は恐怖するが、

 

 

「『エンドレススクリーム』!!」

 

 

「うおおおおォォォッ!!」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!

 

 

影胤の斥力の槍。光の槍でガストレアを薙ぎ払い、将監は次々と力技でガストレアを叩き斬った。

 

小比奈も的確に敵の急所や弱点を斬り裂き、夏世の計算された指示を味方に出す。

 

どんなハプニングでも、彼らは動揺することはなかった。

 

 

「何なんだよ……あのアジュバンド……」

 

 

「強過ぎる……どこの奴らだ?」

 

 

「【絶対最下位】の集めた奴らだ! 間違いねぇ!」

 

 

ざわめく民警たち。その強さに誰もが驚愕した。

 

ガストレアに一方的に蹂躙される。どんなに運が良くても、死者は出る。その考えが今の戦いで変わった。

 

 

「ふッ……面白い。【絶対最下位】と会ってみたいものだな」

 

 

我堂は小さく笑い、気を引き締める。

 

若い者には、まだまだ負けないっと。

 

 

「勝つぞッ!! 我々の大切な人たちを守るのだ!! 奴らを殺せッ!!」

 

 

「「「「「オオオオオォォォ!!!」」」」」

 

 

我堂の掛け声で民警の士気が最高潮に上がる。大気を震わせ、怖気づいてしまうガストレアも見える。

 

 

「これが戦争……いい……これがあたしの求めたモノ!」

 

 

空からその光景を見降ろしていたアリア———緋緋神が嬉しそうに笑う。

 

 

「でも、まだ足りない。それは何か……分かるか?」

 

 

「知るかよッ!!」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

原田の容赦無いパンチを緋緋神は余裕を持って片手で止める。正確には手に触れる前に緋色の炎が原田の拳を止めていた。

 

 

「くッ」

 

 

「それは、あたしの力がまだ振るわれていないことだ!!」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

緋緋神の回し蹴りを腹部にくらい、原田の体は高速で落下する。しかし、地面に着く前にナイフを取り出して応戦する。

 

 

「【天輝】!!」

 

 

「あたしを楽しませろ!!」

 

 

バギンッ!!

 

 

亀裂から飛び出した紅い光線は緋緋神の出した立方体(キューブ)———次次元六面(テトラデイメンシオ)で軌道をズラす。当然、緋緋神に当たることはなかった。

 

 

ザシュウウウウウゥゥゥ……!!

 

 

靴を削らせながら地面に着地する原田。動きを邪魔していた白いコートを脱ぎ捨て、身軽になる。

 

 

「死なせないように戦うとか思っていたが……さすが神と言ったところか……骨が折れるぜ……!」

 

 

短剣を握り絞めた原田はもう一度跳躍し、刃を振るった。

 

 

________________________

 

 

 

モノリスの外でも戦いは起きていた。上空1000メートルでは爆発が起き、炎が舞い上がっていた。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

「ぐぅッ!?」

 

 

右太ももを撃ち抜かれたガルペスは歯を食い縛る。痛覚は無いが、動きが鈍ることに苛立つ。

 

撃ち抜いたのは宮川 慶吾(けいご)。髪も服も白一色で統一された姿はガルペスにとって不気味でしかなかった。

 

 

「貴様ッ……!」

 

 

白い白衣が真っ赤に染まる。その血は当然ガルペスのモノだ。

 

 

「出し惜しみなんて真似はやめとけ。本気で来ないと死ぬぞ」

 

 

「くッ!」

 

 

ガルペスの身体から泡のようなモノが溢れ出し、体を包み込む。

 

 

パンッ!!

 

 

軽い音と共に泡は弾け飛び、無傷になったガルペスが姿を現す。しかし、表情は険しい。

 

拳銃を右手に持った宮川の存在感に圧倒されている。ガルペスと宮川の距離は10メートル以上あるが、宮川から溢れ出る強さがガルペスを恐怖に陥れようとしていた。

 

 

「【ソード・トリプル】!!」

 

 

ザンッ!!

 

 

虚空から銀色の剣が作り出され、宮川に向かって放たれる。

 

 

ドゴンッ!! ドゴンッ!!

 

ガチガチンッ!!

 

 

宮川は冷静に剣の軌道を予測し弾丸を当てる。2本の剣は粉々になり、残り一本となる。

 

 

「ッ……」

 

 

残りの一本は体を逸らすことで回避。そのまま銃口をガルペスに向けた。

 

 

「【死すべき運命の炎(シュテルブリヒ・フランメ)】」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

重い銃声が轟く。地獄を印象させるような赤黒の炎が銃口から飛び出した。

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!

 

 

ガルペスの体に直撃した瞬間、炎を巻き上げながら巨大な爆発が巻き起こる。

 

 

「……なるほどな」

 

 

ダンッ!!

 

 

宮川は上を向き見定める。黒煙の中からガルペスが空に向かって飛び出し、白い翼を広げていた。

 

その時、口端を吊り上げて不敵に笑うガルペスが見えた。

 

 

「【制限解放(アンリミテッド)】!!」

 

 

「ッ……!」

 

 

ガルペスが右手を掲げると、虚空からが二輪馬車が出現した。

 

宮川は知っている。新城 奈月———セネスに力を与えた炎と鍛冶の神。名はヘパイストス。その【制限解放(アンリミテッド)】と見て間違いないだろう。

 

紅い炎で作られた2頭の馬は鳴き声を上げながら走り回る。

 

 

「【戦車(チャリオット)】!!」

 

 

古代兵器の名を口にした瞬間、二輪馬車の炎がさらに燃え上がった。

 

ガルペスは二輪馬車に乗り、左手に【アイギス】の盾を作り出し、反対の右手には【三又(みまた)(ほこ)】握り絞めた。

 

 

 

 

 

「【制限解放(アンリミテッド)】!!」

 

 

 

 

 

「何ッ?」

 

 

ガルペスはもう一度【制限解放(アンリミテッド)】を口にした。そのことに宮川は眉を寄せる。

 

光の粒子がガルペスの体に集まり、形を作り上げていく。

 

それは英雄の守護神と呼ばれる神———【アテナ】の力。

 

 

「【守護神の鎧(アテナ・アーマー)】!!」

 

 

光の粒子は白銀の鎧と変質し、顕現させた。

 

如何なる刃も貫かせない無敵の鎧。

 

如何なる衝撃をも殺す絶対の鎧。

 

ゆえに、如何なる敵から守る完全無欠の鎧だ。

 

 

『貴様は徹底的に潰す。この戦いに、後悔するがいい』

 

 

アーメットヘルム越しから聞こえるガルペスの声。背後から今まで隠れていた未来兵器が姿を現す。

 

 

『あの屈辱を、貴様にも与えてやる。降臨せよ、【ガーディアン】』

 

 

未来兵器は3メートルにも及ぶ巨大人型兵器。身体と同じくらいの大きさの剣と四角形の盾を持った白色の鎧。

 

数にして20体。ガルペスを中心としたフォーメーションで主を守っている。

 

 

「チッ、お得意の機械いじりか……」

 

 

その光景に宮川は舌打ちをする。

 

 

「……ダメだな、これは」

 

 

拳銃を握り絞めながらそう呟いた。

 

 

________________________

 

 

 

「ッ! 見てッ!」

 

 

真由美が指を指した方向を見てみると優子は目を見開いて驚愕した。

 

空で戦っている原田とアリア———緋緋神だ。原田は何度も地面を蹴ってジャンプしている。対して空中に浮くことができる緋緋神が有利だと分かった。

 

 

「原田君が指示できないから私が指示をみんなに出すわ。その間に———」

 

 

「大丈夫よ。前線を下げる時間はアタシが稼ぐわ」

 

 

役割をしっかりと理解している優子。真由美の確認は必要は無かった。

 

すぐに優子は飛行魔法を発動させて前線へと赴く。前線はモグラのガストレアが開けた穴からガストレアが侵入して来ていたが、蓮太郎のアジュバンドが素早く対処方法を伝達し、早急に倒していた。

 

 

「里見君! もうすぐガストレアが一気に攻めてくるはずだわ! 前線を後退させながら防壁を捨てて行って!」

 

 

優子の言葉は蓮太郎だけでなく、全員に聞こえた。しかし、誰も反応を示さない。それもそのはず———

 

 

(((((飛んでる!?)))))

 

 

———飛んでいるから。

 

全員が口を開けて目を疑った。優子は気付かず、首を可愛く傾げているだけ。

 

 

「わ、分かった。ゆっくりと下げる……」(大樹の周りも凄すぎるだろ……)

 

 

蓮太郎は何とか答えることができた。動揺を少し隠せていないが、優子は気付いていない。

 

しかし、木更があることに気付く。

 

 

「待って! あなたはどうするつもりなの!?」

 

 

「アタシはこのまま前線を維持するわ」

 

 

「おいおい!? まさか一人とか言うんじゃないだろうな!?」

 

 

木更に返した優子の言葉は当然褒められるようなモノじゃなかった。玉樹の言葉は肯定して欲しくないっと木更は願うが、

 

 

「そうよ」

 

 

だが、優子は頷いてしまった。

 

 

「やめた方が良い。飛行ガストレア、遠距離から狙うガストレアだっているはずだ。悪い事は言わない。私たちと共に下がるんだ」

 

 

「ごめんなさい影胤さん。アタシはもうお荷物だけは嫌なの」

 

 

今まで大樹に守られてきた自分。それは嬉しく思う。でも同時に悲しかった。

 

何もできないことが、後ろに隠れ続けることが。

 

あの時、自分が美琴とアリアを守ることができたらっと後悔している。大樹が命を削ることも無かったのでないかと。

 

しかし、今は違う。

 

『魔法』という武器がある。助けることができる力がある。

 

 

「アタシは、もう後ろに隠れてはいられない」

 

 

手遅れになる前に、後悔する前に、アタシは『前』に出る。

 

 

「【ニブルヘイム】!!」

 

 

バキバキバキバキッ!!

 

 

振動減速系広域魔法【ニブルヘイム】を使い、周囲一帯を凍らせる。ガストレアは足から凍り付き、やがて全身が凍り付き絶命する。

 

 

「な、何だよこれ……!?」

 

 

「世界が……凍った……!?」

 

 

蓮太郎とジュピターさんの口が震える。その光景に誰もが震えあがった。

 

前線を維持? それどころかこのまま押し切ってしまうのではないかと思ってしまうくらいの勢いだった。

 

 

「ギギィッ!!」

 

 

「ッ!」

 

 

しかし、空中を飛び回るガストレアには関係無い。コウモリのようなガストレアが何匹も優子へと襲い掛かる。

 

 

「させませんッ!」

 

 

バチバチッ!!

 

 

その時、下から電撃が飛び、ガストレアにぶつけられた。命中したガストレアは一瞬で黒焦げにされ、その命を終える。

 

優子が下を向くと、ギフトカードを持って黒ウサギが構えているのが見えた。

 

 

「優子さん。一人ではなく、黒ウサギたちにも頼ってください。黒ウサギはいつでも、力を貸します」

 

 

「黒ウサギ……………そうね、そうよね」

 

 

緊張が解けた優子はCADを前に構え、黒ウサギは槍を振り回す。

 

 

「援護するわ、黒ウサギ!」

 

 

「Yes! 黒ウサギたちに負けは無いですよ!」

 

 

________________________

 

 

 

 

「調子ええな。このままだと航空自衛隊の爆撃に間に合う。狙い通りや」

 

 

赤拠点の後方、最後の防壁では美織や作戦立案の人材が多く集まっていた。美織の言葉に一同はざわめき、喜んだ。

 

 

「あちらに大打撃を与えれば必ず撤退するはずです。あちらと連絡が付いた瞬間、退却できるように準備、援護してください」

 

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

 

真由美の言葉を聞いた瞬間、一斉に待機していた民警が立ち上がる。士気は高まっており、、もう彼らに逃げることなど微塵も思っていなかった。

 

 

「順調やね」

 

 

「ええ、順調です」

 

 

美織と真由美は同じ言葉を言う。しかし、二人とも笑みを一切見せなかった。

 

 

「順調だからこそ怖い……良くない風や」

 

 

「敵は必ず仕掛けてきます。十分警戒するべきです」

 

 

二人が笑みを見せないのは気が抜けていなかったからだ。

 

調子が良い時、油断している時にやられるかもしれない。真由美は敵がそれだけ厄介だと知っている。

 

ガルペス。

 

あの男の存在だ。九校戦を地獄へと変えたあの事件は忘れることはない。この戦争も、簡単に終わるはずが無い。

 

 

ダンッ!!

 

 

そして、その最悪の期待に応えるかのようなことが起きた。

 

ドアが勢い良く開かれ、血相を変えた民警の男が大声で報告する。

 

 

 

 

 

「ひ、『光の槍』がッ……前線部隊にッ……直撃したッ!!」

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

「今のは……?」

 

 

『余所見とは愚かなッ!!』

 

 

光の槍が前線へ放たれ、薙ぎ払われた。大地が裂け、防壁が崩れ落ちる。崩壊した光景に一瞬だけ目を奪われる。

 

宮川の隙をガルペスは逃さない。【戦車(チャリオット)】の速度を上げて宮川に正面からぶつかる。

 

 

ガチンッ!!

 

 

宮川の持った銃とガルペスの持った槍が交差する。本当に正面からぶつかれば宮川の銃は壊れる。それくらい理解できた。

 

よって取った行動は受け流し。銃身で槍の刃を滑らせて宮川は体を移動させてガルペスの背後を取る。だが、

 

 

『【ガーディアン】!!』

 

 

ゴォッ!!

 

 

巨大人型兵器の剣が何度も振るわれる。宮川は空中で回避するも、ついに追い詰められる。

 

飛行能力を持たない宮川にとって、空中戦は不利でしかなかった。

 

 

シュッ

 

 

「チッ」

 

 

脇腹に剣が掠った。少量の血が服を赤く染み込ませる。

 

 

「【邪悪な暴風(シュトゥルムベーゼ)】」

 

 

ゴオオオオオォォォ!!

 

 

風の弾丸を射撃。【ガーディアン】の動きは鈍るが、攻撃はやめない。

 

しかし、宮川に攻撃が当たることは無かった。

 

宮川は暴風に身を任せて加速する。振り下ろされる剣を軽々と避けてみせた。

 

 

(一体一体厄介な強さを持っていやがるな)

 

 

【ガーディアン】の力量を見極めながら風に揺られる。すぐに【ガーディアン】は宮川の後を追う。

 

右手に握った銃の弾丸を全て取り出し、【ガーディアン】に向かって投げつける。

 

 

ドゴドゴドゴオオオオォォォ!!!

 

 

連鎖的に銃弾が爆発し、黒色の煙が視界をジャックする。

 

【ガーディアン】はすぐに搭載されたレーダーを使って宮川の場所を探る。

 

 

「わざわざ来てやったぞ、クソったれ」

 

 

ゴオォ!!

 

 

煙の中から飛び出して来たのは宮川。銃を握らず、拳を作っているだけだ。

 

 

『馬鹿がッ!!』

 

 

ガルペスは好機だと確信する。【ガーディアン】にはあらゆる耐性が備われており、拳など効くはずがなかった。

 

しかし、宮川の拳は普通じゃなかった。

 

両手から黒いオーラが溢れ出し、ガルペスを不安にさせた。

 

 

 

 

 

「【暴君の大虐殺(デスポート・メツェライ)】」

 

 

 

 

 

ガシャアアアアアァァァン!!

 

 

その瞬間、全ての【ガーディアン】が殴り壊された。

 

気が付けば壊れていた。ガルペスは宮川の攻撃を捉えることができなかった。

 

音速を越えた速さならガルペスの特殊義眼である右目が捉えたはずだった。しかし、捉えることは無かった。

 

 

ギギギッ……!

 

 

【ガーディアン】から壊れた機械音が響く。歪になった動きはやがて止まり、森の地へと墜落する。

 

爆発の炎が舞い上がり、木々を焼き尽くす。その光景にガルペスは絶句した。

 

 

『まさか……今の力は……!?』

 

 

「余所見は愚かじゃなかったのか?」

 

 

『ッ!?』

 

 

ドゴンッ!!

 

 

背後から聞こえた声にガルペスは反応するが手遅れだった。すぐに腹部に衝撃が走り、体をくの字に曲げる。

 

反撃しようと槍を宮川に振るおうとするが、槍は宮川の右手で抑えられていた。

 

空中で【戦車(チャリオット)】に乗りながら二人は睨み合う。

 

 

『鎧通し……貴様にそんなことができるとはな』

 

 

鎧を無視して直接体に攻撃を当てる普通じゃ修得することができない技。しかし、宮川は首を横に振った。

 

 

「違うな。そんな芸当、俺にはできねぇよ。この力の本質はお前が一番知っているだろ」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

宮川はいつの間にか左手に持った銃でガルペスの頭部を撃ち抜く。

 

アーメットヘルムの破片が飛び散り血を流す。壊れたヘルム越しからガルペスは宮川を睨みつける。

 

 

「お前と俺の思っていること、同じだと思うぜ」

 

 

『そうだろうな……!』

 

 

互いが口にする言葉は同じだった。

 

 

「お前を殺してやるよ」

 

 

『貴様はここで殺す!!』

 

 

 

________________________

 

 

 

真由美は後方で待機していた部隊と自衛隊を連れて前線へと向かっていた。高機動車に乗って時間を短縮するも、前線に辿り着くまで5分という時間まで短縮した。

 

現在もガストレアは進行をやめる様子は見えない。部隊を分断させて救出部隊と討伐部隊、二つのチームに分けていち早く前線にいる人たちの救助を行う作戦にした。

 

 

(『光の槍』……ガストレアとは考えにくいわね……)

 

 

報告によればレーザーのような光の槍が防壁を破壊し、地面には大きな谷を作るほどの威力だと言っていた。ガストレアは脅威的な存在だが、科学的な存在では無いはず。よって、考えられることは二つ。

 

ガルペスか緋緋神による攻撃。もしくはガストレアの新たな進化の跳躍。

 

 

(後者だと最悪だわ。ただでさえ、マークしているガストレアが多いのに、これ以上増えると不利になるわね)

 

 

真由美はこれからのことを考えるが、対策は全く浮かばなかった。それもそのはず、優子たちの生存確認がまだされていないからだ。

 

心配し過ぎてそれどころではない。持っていた書類を投げてまでこの前線まで来ている。

 

やってはいけない行為だと分かっているが、それだけは譲れなかった。

 

 

「おいッ!? アルデバランじゃないのかッ!?」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

悲鳴のような声に一同が恐怖した。真由美は車両から顔を出して前方を確認する。

 

 

「ヒュルルルルオオオオオォォォ!!!」

 

 

轟く雄叫びに全身が震える。小山と見間違えるかのような巨体。

 

長い尾に四つん這いになった生き物。背中はアルマジロのような硬い甲羅のようなモノ。大きな柱のような短い八本の足。無数に伸びる触腕は不規則な動きをしており、一本一本が生きていると思わされる。

 

 

「嘘……どうしてこんなに前に来ているのッ!?」

 

 

真由美の顔色は一気に悪くなり、口を抑えた。

 

相手の大将であるアルデバランが死ねばこの戦争が終わる。よってアルデバランは後方で待機しているはずだった。なのに、

 

 

「七草ッ!!!」

 

 

「ッ!? 原田君ッ!?」

 

 

その時、上空から原田の叫び声が聞こえた。真由美は再び車窓から体を出して上を見上げる。

 

上空では原田と緋緋神が戦い、ちょうど原田は隣まで落下して高機動車に掴まる。

 

 

「結論から言う! 緋緋神に全部読まれていた! あの野郎、戦略の腕だけは確かだ!」

 

 

「じゃあどうすれば……!?」

 

 

「前線に行け! 少なくとも黒ウサギは生きている! 上から雷が見えた!」

 

 

原田はそれだけ告げると、再び地を蹴り緋緋神と相対する。

 

真由美にこれからの作戦を言わなかったのは任せているからだ。この場で適切な判断を下せるのは真由美だと。

 

 

「指揮官。俺たちはアンタについて行くぜ」

 

 

「えッ?」

 

 

後ろに座っていた民警たち———それは影胤討伐作戦で大樹のことを信頼した民警たちだった。

 

 

「ビックツリーが大切な人たち、俺たちが守らなきゃ仲間じゃなくなる」

 

 

イニシエーター(コイツ)が救われたのはアンタたちのおかげだ。借りは大きく返したいしな」

 

 

プロモーターとイニシエーター。みんなが真由美に笑顔や決意に満ちた表情で見ている。

 

真由美は大きく息を吸い込み、通信機に向かって作戦を告げる。

 

 

「『アルデバラン』を優先的に攻撃してください。敵大将が死にかければ、敵の前線は下がるはずです。これ以上、調子に乗らせないでください」

 

 

その報告に民警たちは勢いをつけた。

 

 

「よっしゃあああああァァァ!! 奴を殺して英雄になってやる!!」

 

 

「最速クリアだ! ニューレコード目指すぜ!」

 

 

「テメェら!! 俺は帰ったら結婚するぜ!」

 

 

「「「「「おいやめろ」」」」」

 

 

「アルデバラン、くたばれやあああああァァァ!!」

 

 

「「「「「うおおおおおォォォ!!!」」」」」

 

 

さりげなく死亡フラグを立てた人もいたが、士気は大いに高まった。

 

前線に侵入して来たアルデバランに向かって大量の弾丸が撃ちこまれ、無数のミサイルが発射された。

 

 

「私たちはこのまま前線に向う。ここから先は一番危険に———」

 

 

「「「「「上等だッ!!」」」」」

 

 

「———大樹君の影響かしら?」

 

 

くすりッと真由美は微笑み、腕輪型CADを装着した。

 

 

 

________________________

 

 

 

前線は———地獄だった。

 

防壁は無残に破壊され、前線に残った人工物は消えていた。

 

数え切れないほどのガストレアがこちらに向かって進行している光景は地獄としか言いようがなかった。

 

しかし、希望はあった。

 

 

「ッ! いたわッ!!」

 

 

「ま、真由美さん!?」

 

 

「えッ!? どうしてここに!?」

 

 

前線部隊が集団を作り、後退しているのが見えた。その集団を囲むようにガストレアが次々と襲い掛かっている。

 

真由美が声を出すと、黒ウサギと優子が振り返った。二人は驚いた表情で真由美たちを見ていた。

 

二人は前に出てガストレアと戦っている。後ろには負傷者が多数、壊滅状態に陥っていた。

 

 

「黒ウサギ! アルデバランが近くに来ているわ! ダメージを与えれば状況が———!」

 

 

「ッ! ですがここを放棄するにはいけません!」

 

 

黒ウサギは真由美の伝えたいことをすぐに理解できた。

 

だが槍を振り回し第三宇宙速度で動く黒ウサギにはそれは不可能だ。負傷者を守ることに精一杯で手を放すことなどできないからだ。

 

 

「『ネームレス・リーパー』!!」

 

 

ザンッ!!

 

 

その時、ガストレアの体が真っ二つに別れた。斥力を鎌状に変化させた攻撃だった。

 

攻撃したのはもちろん影胤だ。すぐに小比奈が走り出しとどめの一撃を叩きこんでいる。

 

 

「夏世!! 次はどいつだ!?」

 

 

「後ろです! その次は右の敵をお願いします!」

 

 

将監と夏世の連携で影胤ペアが対処できない穴を埋める。

 

 

「弓月! もっと張り巡らせろ!」

 

 

「無理ッ!! 数が多過ぎる!!」

 

 

玉樹と弓月。二人は息が上がっているが戦うことはやめない。歯を食い縛って戦っていた。

 

 

「ここは私たちが食い止める。それよりもアルデバランをどうにかするんだッ」

 

 

「ですがッ———!」

 

 

「はぐれた仲間が死んでもいいのかねッ。進行を止めた方が生存確率が上がるッ」

 

 

影胤の強い言葉に黒ウサギは下唇を噛む。真由美は二人の会話を聞いて戦慄した。

 

姿が見えない。蓮太郎、延珠、木更、彰磨、翠、ジュピターさん、詩希。彼らが見当たらない。

 

はぐれた仲間———蓮太郎のアジュバンドのことだったのだ。

 

 

「それとも、救出部隊だけでは任せられないのかねッ?」

 

 

「……分かり……ましたッ……!」

 

 

苦渋な決断に黒ウサギは頷いた。武器を下げて跳躍する。アルデバランのいる方向に。

 

黒ウサギと入れ替わるかのように真由美たちが入り込む。

 

 

「どのくらい持てばいいかしら?」

 

 

「少なく見積もって15分と言った所だろう」

 

 

「……厳しいわね」

 

 

「この状況こそ、彼が来てくれると助かるのだがね?」

 

 

「そうね、大樹君が恋しいわ」

 

 

「フッ、ここにいる全員がそう思っているだろうね」

 

 

「もうライバルが増えるのは勘弁してほしいわ」

 

 

真由美は魔法式を組み上げ、影胤は斥力フィールドを展開する。

 

 

「よーし、オレっちたちも頑張るぜッ!! な、将監ッ!!」

 

 

「あぁ!?」

 

 

「ヒィ!?」

 

 

「何やっているの兄貴……」

 

 

「将監さん……」

 

 

 

________________________

 

 

 

蓮太郎たちは無事だ。

 

『光の槍』を受けようとした時、優子の持っていたペンダントが光り出し、民警全員を守った。

 

巨大なガラスの箱のようなモノに包まれ『光の槍』の攻撃を防いだ。ありえない現象に驚くが、助かったことは理解できた。

 

しかし、ガラスの箱は1分ぐらいの時間で消滅した。すぐにガストレアが襲い掛かり、再び『光の槍』が降り注いだ。今度は詩希が警告してくれたおかげで避けることができたが、部隊がバラバラになってしまった。

 

木々が生い茂る森の中、3人はいた。

 

 

「最悪だ……通信機も壊れちまった」

 

 

「こっちもダメです。繋がりません」

 

 

「俺もだ」

 

 

蓮太郎、翠、ジュピターさんの3人は溜め息をつく。

 

自分のパートナーともバラバラになってしまい、この状況は最悪だった。

 

 

「そう遠くはないはずだ。後ろに後退すれば戻れるはず」

 

 

「問題はガストレアとの戦闘って言ったところか」

 

 

蓮太郎の言葉にジュピターさんが答える。

 

即座に連携を組めるかどうか不安が高まる。しかし、今はこの3人で切り抜けるしか方法は無い。

 

 

「戦闘時は俺が中衛に回ろう。ジュピターさんは後衛で翠が前衛だ」

 

 

「おう」

 

 

「ま、任せてください」

 

 

蓮太郎の提案に二人は頷く。

 

翠のスピードなら前衛で敵の攻撃を避けることができる。ジュピターさんの射撃もプロと言っていいほどの並みならぬ上手さを秘めている。

 

蓮太郎は二人の力を分析して出した案だった。

 

 

「急ごう。日が暮れたらこっちは終わりだ」

 

 

「ま、待ってください!」

 

 

ジュピターさんが立ち上がりながら言った矢先、翠が止めた。

 

 

「聞こえます……ガストレアです」

 

 

「チッ、早いな。どうするリーダー? 逃げるか、待ち伏せか」

 

 

「撤退だ。この地形は俺たちにとって不利過ぎる」

 

 

滑りやすいぬかるんだ地面に視界の悪い森林。明らかに状況の悪さを示していた。しかし、

 

 

「……私は……倒すべきだと思います」

 

 

「……本気か? 意見するのは珍しいが、この状況じゃ———」

 

 

「ジュピターさん。ターゲットが現れました」

 

 

ブブブブブッ

 

 

羽音のようなモノが低く響く。その音に蓮太郎とジュピターさんは気が付いた。

 

木々の隙間から見えるガストレアの姿。ソイツは飛んでいた。

 

大きな球体の体に四枚の羽が生えたガストレア。表面はハチの巣のようにボコボコと穴が空いている。

 

 

「【ビーボックス】……!」

 

 

蓮太郎が呟いた。額から汗が流れ落ち、喉が干上がる。

 

第一の討伐目標であるガストレア。それが目の前に来ているのだ。翠が倒すという選択肢を出すのは間違ってない。

 

しかし、今の3人で倒せるのだろうか? 連携も確認していない3人で、あのステージⅣに勝つことが可能であるか?

 

 

「リーダー」

 

 

「里見リーダー」

 

 

「ッ……お前ら」

 

 

ジュピターさんと翠は頷きながら蓮太郎の顔を見ていた。そんな二人を見た蓮太郎は決意する。

 

閉じていた義眼が開き、バラニウム義肢の右腕が姿を現す。

 

 

「戦闘開始、これより【ビーボックス】を排除する!」

 

 

「「了解ッ!!」」

 

 

ダンッ!!

 

 

蓮太郎と翠は同時に走り出し、高速で森の中を駆け抜ける。

 

 

「グルァッ!!」

 

 

当然ビーボックスを護衛しているガストレアはいる。無数の犬型のガストレアが襲い掛かって来る。

 

 

シャンッ

 

 

しかし、翠に対してその攻撃は無意味。いや、無謀だ。

 

ガストレアの横を通り過ぎた翠は一瞬だけ爪を伸ばし、ガストレアを斬り裂いた。しっかりと急所を狙った攻撃にガストレアは当然耐え切れず、絶命する。

 

翠に対して速さで勝負することは、負けに行くことに等しい。

 

 

(奴の弱点はどこだ……!?)

 

 

蓮太郎は走りながらビーボックスの弱点を(さぐ)っていた。羽か? 穴の中か?

 

 

「リーダー!! 一番上だ! 奴の目玉がある! バラニウムで潰せ!!」

 

 

「ッ!」

 

 

スナイパーライフルのスコープから覗いて敵を観察していたジュピターさんの声が聞こえた。蓮太郎は迷うことなく飛翔する。

 

 

ドドドドドッ!!!

 

 

その時、ハチの巣のような穴から鋭利のトゲが飛び出した。ガストレアの防衛攻撃と見て間違いない。

 

 

ドシュッドシュッ!!

 

 

右腹部、左肩に一発ずつ掠るが、蓮太郎の動きが止まることはなかった。

 

 

「ぐぅッ……負けるかッ!!」

 

 

ゴオォッ!!

 

 

バラニウム義肢の右脚から黄金色の薬莢が弾き出される。同時に炸裂し、スピードが加速して上昇する。

 

ビーボックスの目玉と同じ高さまで到達した。目玉はギョッと驚き、動きを止めてしまっていた。

 

 

「天童式戦闘術一の型十五番———」

 

 

その隙が、命取りだ。

 

 

「【雲嶺毘湖鯉鮒(うねびこりゅう)】!!」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

目玉に向かって容赦の無い一撃が叩きこまれた。目玉は無残に飛び散り、爆散した。

 

 

ドゴンッ!! ドゴンッ!! ドゴンッ!!

 

 

追撃。蓮太郎はバラニウムの弾丸を何発も根元に撃ちこんだ。

 

やがて羽は動きを止めて、ゆっくりと墜落し始める。

 

 

「やった!?」

 

 

「マジかよ……やるなリーダー」

 

 

「里見リーダー! 避難を!」

 

 

その光景にジュピターさんは驚きながら称賛の言葉を贈る。翠はすぐに蓮太郎の隣に来て肩を貸してその場から離脱する。

 

 

「撤退だ! このまま逃げ切るぞ!!」

 

 

蓮太郎たちは笑いを堪えながら走り出した。

 

 

________________________

 

 

 

「延珠ちゃん! 逃げるわよ!」

 

 

「わ、分かったのだ!」

 

 

木更の掛け声に延珠はスピードを上げる。

 

 

「あっちからガストレア来ている!」

 

 

「凄いな。二方向指しておきながら『あっち』でまとめるとは」

 

 

詩希と彰磨もその場にいた。右と左を同時に指す詩希に彰磨は苦笑いするしかなかった。

 

しかし、彰磨と延珠は暗い表情だった。

 

 

 

 

 

既に彼らはビーボックスを討伐した。

 

 

 

 

 

しかし、『彼ら』という言葉は恐らく間違いである。現に彰磨と延珠はサポートしただけだからだ。

 

ビーボックスと遭遇した瞬間、木更は迷うことなく排除を選んだ。

 

延珠が木更を抱えてビーボックスの真上を取った瞬間、勝負は決まった。

 

絶対の一撃。木更の斬撃はビーボックスを一撃で沈めた。

 

その光景に延珠と彰磨は絶句。言葉を失った。

 

 

(木更がこれほど強くなっているとは……復讐は人をここまで変えるのか)

 

 

彰磨は木更の横顔を見ながら心配していた。

 

天童家に伝わる妖刀【殺人刀・雪影】は持つに値する者が使うと真価を発揮するが、そうでない者が使うと刀に魅入られて破滅の道を歩むと言われる。

 

破滅に進んでしまうか、彰磨は気が気で仕方ないのだ。

 

 

「あ、翠ちゃんだ!」

 

 

「「「ッ!?」」」

 

 

詩希の言葉に三人が驚く。詩希の指を指した前方に翠だけじゃなく、蓮太郎、ジュピターさんがいた。

 

 

「ジュピターさんもいた!」

 

 

「おまけ感覚で言ってんじゃねぇよ! というか走れッ!!」

 

 

あちらもこちらの存在に気付き合流するが、それどころではない。

 

蓮太郎と木更は同時に説明する。

 

 

「ガストレアに追われている! 逃げるぞ!」

「ガストレアに追われているの! 逃げるわよ!」

 

 

その瞬間、一同が戦慄した。

 

互いにガストレアを引き連れていたこと。こうしてガストレアの数は倍以上に膨らんだ。

 

そして、全員が走り出す。

 

 

「何で追われてんだよ!?」

「どうして追われているのよ!?」

 

 

「「こっちのセリフ!!」」

 

 

「落ち着けお前たち。今はこんなところで夫婦漫才をしている場合か」

 

 

「彰磨兄ぃは黙って!」

「彰磨君は黙って!」

 

 

「……………」

 

 

「薙沢 彰磨。こっちの世界に歓迎するぜ」

 

 

ジュピターさんは彰磨の肩を叩き、微笑んだ。その表情は彰磨を少しだけイラつかせるくらいいい表情だった。

 

 

「蓮太郎! 夫婦漫才なら妾とだろ!?」

 

 

「知るかッ!!」

 

 

「待ってジュピターさん! しりとりしようよ!」

 

 

「このタイミングでお前は何を言い出してんだよ!?」

 

 

「りんご!」

 

 

「始めるなよ!?」

 

 

「翠。蓮太郎に変なことをされなかったか?」

 

 

「彰磨兄ぃ!?」

 

 

 

「カオス過ぎるだろう!!!」

 

 

 

ジュピターさんの最後の叫びで会話が止まる。その時、

 

 

「ヒュルルルルオオオオオォォォ!!!」

 

 

ガストレアの敵大将———アルデバランの悲鳴のような叫びが轟いた。

 

後ろから追って来てたガストレアはその悲鳴を聞いた途端、一斉にアルデバランのいるほうへと駆け出した。

 

その光景に蓮太郎は呆然と見ていた。

 

 

「助かった……のか……!?」

 

 

蓮太郎の言葉を聞いてもいまいち実感が湧かない。本当に助かったのか……夢なのではないかとも疑った。

 

 

「いたぞ! 行方不明の前線部隊だ!」

 

 

そして、救助部隊も同時に駆け付けた。彼らの姿を見てやっと自分たちは生き残ることができたと理解できた。

 

 

________________________

 

 

夜。空から黒い雨が降り始めた。

 

モノリス倒壊時に空に舞い上がった大量のバラニウムが雲を生み出し、雨となって降り注いだ。成層圏やらなんたらを形成うんぬん言っていたが、ジュピターさんの知識では半分しか理解できなかった。

 

この戦争での死者は未だに0のまま。そのことがニュースで流れ、歴史的快挙だと報道されていた。

 

この馬鹿共がッとそのニュースを見てジュピターさんは舌打ちする。

 

 

(結局赤の拠点は崩壊。ビーボックスは3体しか討伐できていない)

 

 

一体は我堂率いるアジュバンドが討伐したと報告が入っている。後で顔を見せに行こうと思う。

 

あの時、自分たちが助かったのは黒ウサギのおかげだと聞いている。アルデバランに決定的な一撃を与え、撤退させたのだ。そのおかげで他のガストレアも撤退した。

 

しかし、黒ウサギの表情は暗かった。

 

 

『アルデバランは、不死身と言っても過言ではありません』

 

 

その一言に、誰もが絶望した。

 

黒ウサギがアルデバランに攻撃を当てた時だった。巨大な電撃の球体をアルデバランにぶつけ、体の上体を全て削り取った。

 

しかし、すぐに傷口からブクブクと泡が吹き出し再生したのだ。

 

ガストレアの再生速度は異常。だがアルデバランの再生速度は規格外に達していた。

 

 

『現段階で討伐方法は全身を焼却できる威力が必須となる。よって———』

 

 

———討伐不可能。

 

 

核でも使わない限り倒すことができない。仮に核を使えば東京エリアは汚染されて終わるので意味が無くなってしまう。

 

 

「不可能を可能にする方法……アイツしかいねぇだろうな」

 

 

一握りの希望はあった。それは大樹が帰って来ることだ。

 

ステージⅤのガストレア———【ゾディアック・ガストレア】であるスコーピオンを葬った規格外なら倒せるはず。

 

規格外にはさらなる規格外を。彼しかいないのだ。

 

 

「……………」

 

 

拠点の窓から外を見る。森林が生い茂った深い闇に包まれた場所。

 

次の戦闘場所はこの青の拠点―――森だ。

 

この森が突破されればすぐに東京エリアが目の前に来る。そう、最後の砦なのだ。

 

 

(この黒い雨が無くなれば、奴らはまた攻めて来る)

 

 

ジュピターさんは拳をギュッと握り絞めて遠くを睨み付けた。

 

 

 

________________________

 

 

 

死者はでなかった。しかし、負傷者はいる。

 

その者はすぐに東京エリアに撤退。もしくは物資の手伝いなどをさせる。戦いには参加させない。

 

仮病を使う者もいたが、その者も物資の手伝いをさせる。恐怖で動けないのは当然だ。あの怖さを知ってしまった以上、無暗に参加させるなんてことはできない。

 

ちなみに負傷者の手当てはなんと菫先生が行っていた。蓮太郎は誰か死体になってしまうではないかと心配していたが、どうやらターゲットは自分だったので安心……できねぇ。

 

そして、『光の槍』の正体が判明した。

 

負傷者に『難聴』や『視野狭窄(きょうさく)』が見られた。そして菫先生は答えを導き出した。

 

 

『水銀』を圧縮させた攻撃だと。

 

 

水俣(みなまた)病』は聞いたことがあるだろう。水銀汚染による公害病。それらの表情が負傷者で症状が見られたのだ。それが菫先生の確信に至った理由。

 

 

「だから蓮太郎君には死体になって———」

 

 

「ならねぇよ!!」

 

 

菫が何か言う前に声を張り上げる。

 

青の拠点の一室を借りた蓮太郎たちは休憩していた。もちろん、次の戦いに備えての休息だ。

 

木更と延珠は病人の介護を手伝い、彰磨と翠、将監と夏世はどこかに行ってしまい、影胤と小比奈も見当たらない。玉樹と弓月は料理の準備をしているらしい。不安だ。

 

ジュピターさんは外を眺めたまま何も喋らず、膝の上で詩希が疲れて寝ている。

 

 

「寂しいのだろう? 相手にしてくれる人がいないから? だから、ここで解剖でもして気分転換しようじゃないか」

 

 

「気分ガタ落ちだろッ」

 

 

「いーや、何かに目醒めさせるよ私は」

 

 

「やめろ。ってハサミを置けッ!!」

 

 

チョキチョキとハサミを持ちながら近づく菫に蓮太郎は顔を真っ青になっていた。

 

 

「雨は明日には止むはずだよ。黒い雲は3日間消えないだろうけどね」

 

 

「……天候は最悪だな」

 

 

暗い地形の中、太陽が隠れたこの場所は夜までとはいかないがかなり暗い。圧倒的に人間側は不利だ。

 

 

「だけど、木々にバラニウムがこびりつくからステージⅠはうかつに近づけないだろうし、ステージⅡ以上は動きを鈍らせるはずだ」

 

 

「結局二日耐えれなかったからね。今回は半日で突破かね?」

 

 

「させるかよ」

 

 

一日しか持たせることしかできなかった赤の拠点。しかし、次はそうはいかない。

 

蓮太郎は深呼吸して宣言する。

 

 

「ここで、決着をつける」

 

 

「へぇ、良い顔をするようになったじゃないか。あとは死体になるだけで完璧に———」

 

 

「ならねぇよ!!」

 

 

(アイツら元気だなぁ……)

 

 

ジュピターさんは二人の会話に少しだけ入りたい気持ちがあった。

 

 

________________________

 

 

 

「ダメだッ」

 

 

原田は強く否定した。

 

司令官本部に原田、優子、真由美、黒ウサギ。それに我堂と他10数名がいる中、入って来た6人に視線を向けていた。

 

影胤と小比奈、彰磨と翠、将監と夏世。彼らに。

 

 

「状況は分かっているのかね? 『プレヤデス』を倒さない限り、私たちに勝利の文字は無い」

 

 

影胤の言う『プレヤデス』とは『光の槍』———圧縮させた水銀を放つガストレアの名称だ。

 

5キロという超遠距離からの狙撃を可能とする化け物。『プレヤデス』を討伐しない限り、『光の槍』は撃ちこまれ続けてしまう。

 

それを解決しようと名乗り出たのがこの6人だ。

 

 

「蛭子の言う通りだ。奴を殺さない限り、こっちは劣勢だ」

 

 

「テメェら腰抜け共の代わりに行ってやるんだ。文句はねぇだろ」

 

 

彰磨と将監の言葉に原田は机を叩きながら反論する。

 

 

「無理だッ!! 相手には人類を超越した存在だっている! そもそもあの軍団の中に入ることは無謀だ!!」

 

 

現在のガストレアの数は約4000体。自衛隊の援護爆撃を使っておいてこのざまだというのに、その中に飛び込むのは危険度が高すぎる。

 

 

「何も考えずに突入するわけではありません。勝算なら十分あります」

 

 

夏世の言葉を疑うわけでは無い。それでも原田は首を横に振る。

 

 

「なら俺が———!」

 

 

「緊急時に君がいない拠点など耐えられるのかね? すぐに落ちるよ」

 

 

影胤は原田の前まで歩く。

 

 

「君は何を考えている?」

 

 

「……何が言いたい」

 

 

「私は世界を考えている。我々が存在することができる世界をね。この戦争は、私は心のどこかで楽しんでしまっている」

 

 

だけどっと影胤は付け足し、原田と目を合わせる。

 

 

「君は見過ぎている。大切なモノを見過ぎて、他のことに盲目だ。だから、君は失う。恐れていることに、なってしまう」

 

 

その瞬間、原田は言葉を失った。

 

何も言い返さず、ただ顔色だけが悪くなっていく。

 

 

「もう一度見るんだ。君の目的を」

 

 

「目的……」

 

 

原田は俯き、目を閉じる。

 

この戦争に死者は出さない。そして、勝利する。

 

そのためにどうするか? まずは『プレヤデス』を殺す。

 

それは誰が適任だ? 決まっている。

 

 

「命令だ」

 

 

原田は顔を上げて告げる。

 

 

「『プレヤデス』を倒せ」

 

 

『プレヤデス』討伐指示が以下の者に出された。

 

———序列550位 蛭子 影胤&蛭子 小比奈。

 

———序列970位 薙沢 彰磨&布施 翠。

 

———序列705位 伊熊 将監&千寿 夏世。

 

 

「この雨は好機だ。止む前に『プレヤデス』を討伐しろ。その通信が入った瞬間、俺たちが攻める時だ」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

ずっと守りを堅めるかと思われた状況が覆る。その言葉に全員が驚愕するが、悪くない作戦だと同時に思った。

 

 

「いいか? 絶対に帰って来い。死ぬことは許さん」

 

 

「クックック、私を誰だと思っている」

 

 

シルクハットのつばを掴みながら影胤は笑う。

 

 

 

 

 

「東京エリアを絶望に落とそうとした者だ。ガストレアには地獄を見せて来るよ」

 

 

 

 

 

その解答に、全身が震えあがりそうになった。

 

 

 





土下座です。

更新遅れて申し訳ない気持ちで一杯です。

大目に見てくれると幸いです。今後もよろしくお願いします。

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