どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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ついに100話! タイトルが完全に100話って感じがしますがいいですよね!

あと二話くらいですかね? 緋弾のアリアは終わります。ちょうど100話で終わらせたかったのですが、ついつい長くなってしまいました。

それでは続きをどうぞ楽しんでください。


Scarlet Bullet 【大樹】

メヌエットを載せた車椅子を押して1階の食堂を目指す。簡易エレベーターを使い1階に降りて、また博物室を通るのだが、博物室を初見のティナはその光景に驚いていた。

 

確かに珍しいモノが多い。化石、骨、ハチの巣、蜘蛛や蝶、鳥や獣の剥製、珍しい貝、アリアの賞状、深海魚の魚拓に……って。

 

 

「待て待て。あれってアリアの賞状じゃね? 何で持っているんだよ」

 

 

ビックリした……違和感があったおかげで気付けたわ。

 

 

「賭けポーカーでもらったのです。お姉様が手に入れた良いモノは、みんな私がもらう。あれらは全て、私がお姉様と賭けて勝ち取った戦利品なのですよ」

 

 

「こ、これ全部なのか……?」

 

 

よく見ると賞状以外にトロフィー、テディベア、珍しいキャンディーの缶、クルミ割り人形も一緒に置かれてあった。負けすぎだろアリア。こう涙目でトランプを睨んで勝負しているアリアを想像すると可愛いな。

 

 

「お前、ジャ〇アンかよ」

 

 

「失礼な。星を剥奪されたいのですか」

 

 

「ごめんなさい、しず〇ちゃん」

 

 

「剥奪です」

 

 

ちくしょうッ。

 

 

「それにしても賭けか。ポーカーで星を賭けるのも面白そうだと思わないか?」

 

 

「まぁ、お仕事熱心ですこと」

 

 

「こっちは時間がねぇからな。とっとと終わらせる勢いで行くぜ」

 

 

「うふふッ、考えておきましょう」

 

 

随分とご機嫌になったメヌエットは口を抑えて笑った。

 

食堂に入った時、ご機嫌なメヌエットを見た双子のメイドは目をまん丸に見開いて驚愕していた。

 

 

「どうした? (ハト)がガトリングガン食らったような顔をして」

 

 

「普通にハトが死にますよ大樹さん……」

 

 

やだなぁティナ。ボケだよ、ボケ。

 

 

「い、いえ、メヌエット様が……笑顔でいらっしゃるので」

 

 

「お嬢様、お客様のご質問ですので申し上げます事、何とぞお赦し下さい。私どもはアリアお嬢様が国を出られて以降……いま初めて、拝見したのです。お嬢様の笑顔を」

 

 

双子のメイドがそれぞれ答える。メヌエットも『そうだったのかもしれませんね』っと同意しているようだった。

 

 

「申し遅れました。サシェです」

 

 

「エンドラです」

 

 

「「ようこそ(ウェルカム)」」

 

 

「おう。よろしく」

 

 

髪が短い方がサシェ、長い方がエンドラか。覚えた。

 

挨拶を終えた後、メヌエットをテーブルの前まで運んだ。そしてサシェが食器を用意し、エンドラが食事を持って来た。

 

 

「「!?」」

 

 

俺とティナは同時に目を疑った。

 

エンドラが運んで来たのは山盛りのチェリーとラムレーズンのアイス、ブロックみたいなジャムが添えられた花瓶みたいなサイズのプリンパフェだったのだ。

 

 

「な、なぁ……今って夕食だったよな?」

 

 

「ええ」

 

 

「……夕飯なのか、それ?」

 

 

「何度も同じことを言わせないでください」

 

 

パシッ

 

 

俺はテーブルの上に置かれたパフェを奪った。

 

 

「毎日食っているのか?」

 

 

「……文句があるのですか?」

 

 

「今から半年かけて説教をしてやりたいくらいある」

 

 

(((半年……!?)))

 

 

二人の会話を聞いたティナとサシェとエンドラが驚いていた。

 

 

「1食が3300カロリーをした回ると、低血糖症で失神しますからね。私は大脳新皮質の側頭連合野を通常の人間より遥かに亢進させて生きているので、多量の糖の摂取が必要になるのです」

 

 

だったらバカになっていいから野菜食えっと俺は言わない。ここで星を頂くことにしますか。

 

 

「メヌエット。さっそくだが賭けをしようぜ。俺が今から高血糖だが健康に良い美味い飯を作ってやる。不味かったり気に入らなかったら星を2個剥奪して構わない」

 

 

「ダイキが……? 面白いわ。その賭け、受けましょう」

 

 

「よっし。サシェ、エンドラ。キッチンを借りさせてもらうぜ」

 

 

俺は二人にキッチンまで案内してもらい、エプロンを装着した。スーツの上着を脱ぎ、カッターシャツのボタンを開ける。これで作業がしやすくなるぜ。

 

 

ガチャゴチャザクガララゴォシャキンバンッ!!

 

 

とんでもない速度で料理をこなす大樹。サシェとエンドラは呆然とその光景を見ていた。フライパンはかろうじて残像が見えているが、包丁に関しては肉眼では捉えることできない。

 

 

「こんなもんでいいか」

 

 

俺は料理をメヌエットの座ったテーブル前まで運ぶ。作ったのはパフェだった。

 

 

「出来たぞメヌエット。俺様特製パフェだ」

 

 

「あら? これのどこが健康に良い料理なのかしら?」

 

 

「フッ、これは俺が経営していた店の商品『どんなに食べても太らない! それどころか痩せちゃうぅ!』っとフレーズを付けれる程の健康に良いパフェなのだ!」

 

 

一般男性よりカロリーを摂取しないといけないならカロリーを消費するスピードを上げればいい。そんな夢のような食事を完成させたパフェがこれだ。ちなみにちゃんと極甘だから。

 

メヌエットはパフェを一口食べると、

 

 

「パフェとは食の美術。芸術の一つよ」

 

 

……………あ、これ褒めてるのか。回りくどいなぁ。

 

 

「ダイキ。これからあなたが料理を作りなさい。そうすれば黒星を全部消してあげるわ」

 

 

「別に一つでいい。メニューはサシェとエンドラに教えておくから」

 

 

「……欲張らないのね」

 

 

「まぁな」

 

 

こうして俺の黒星は合計3つになった。あれ? 全く変わっていないよ?

 

 

________________________

 

 

 

食事が終わった後はメヌエットの部屋にまた戻った。あの後はティナにも料理を作ってやり、俺も簡単に食事を取った。

 

 

「ダイキ。ブーツを脱がせて。私には自分ではできませんから」

 

 

「あいよー」

 

 

すっかりパシリになった俺は膝を着いてベッドに座ったメヌエットのブーツのヒモを解く。

 

 

「ほい。解いたぜ」

 

 

「……あなた、何も思わないの?」

 

 

「は? 思うって何を?」

 

 

「大樹さんの変態」

 

 

「ティナ!? 俺、マジで分からないんだけど!?」

 

 

実は大樹が膝を着いた場所からメヌエットのスカートの中を覗けていたのだ。しかし、大樹は全くそれに気付くことはなかった。ティナしか気付いていない。

 

 

「……もういいわ。次は服を脱がせなさい」

 

 

「ぶふぅ!?」

 

 

唐突過ぎて吹いてしまった。

 

 

「もちろん下着まで全部。そしてバスルームで全身を洗ってちょうだい。恥ずかしいとは感じませんから、ご心配はいりませんよ」

 

 

その前に俺がヤバいのですが!?

 

 

「貴族と平民は別の生き物です。あなただって犬猫の前で着替えることは恥じらわないでしょう」

 

 

俺は犬ですか。そうですかワン。

 

 

「入浴介助してくれたら黒星を全部消しましょう。してくれなければ黒星を倍に増やします」

 

 

「んなッ!?」

 

 

メヌエットの出した条件に俺は頬を引き攣らせる。ここで倍にされるのは手痛い。

 

 

「大樹さん。分かっていますよね?」

 

 

隣では俺をジト目で見るティナ。おかしいなぁ……どうしてこうなったのかな?

 

だが、俺の答えは決まっている。

 

 

「大丈夫だティナ。安心しろ」

 

 

「大樹さん……」

 

 

「さぁメヌエット。バンザイしろ。脱がすか———」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

俺の横腹に鋭い衝撃が走った。俺は体は字の如く、『く』の字に曲がった。そのまま部屋の壁にぶつかり床に倒れる。

 

 

「て、ティナ……その一撃は洒落にならない……!」

 

 

「悪いのは大樹さんです」

 

 

「し、知ってる……けど……限度が……と、とりあえずこの通りだメヌエット。倍に増やして構わない。そもそも俺はそんなことをする度胸がない」

 

 

俺は痛みに震えながらメヌエットにカードを渡す。しかし、メヌエットは俺の様子を見て、

 

 

「フフッ、ダイキのいくじなし」

 

 

笑った。というか知ってたよ。俺は腰抜け野郎ですから。

 

 

「冗談ですわよ。入浴はいつもサシェとエンドラに手伝わせていますのでご安心を。でも着替えは持って来てもらおうかしら。ネグリジェはそこの引き出しの中央。下着は左」

 

 

それでもレベルが高いと思いますがね!?

 

ティナのジト目で見られる視線はメヌエットが風呂に入るまで終わりませんでした。

 

 

________________________

 

 

 

というわけで俺は正座をしている。一体どういうわけかと言うと『ティナが激おこ』と言えば意味が通じるだろう。日本語って凄い。

 

 

「どうして置いて行ったのかは分かります。私は足を引っ張っていましたし、大樹さんが巻き込みたくないことも分かります」

 

 

「……いや、違う。アレは俺の自己満足だった」

 

 

勝手に自分で結論を出して、勝手に逃げ出した。全部俺の我が儘だった。

 

 

「心配しました」

 

 

「すまん」

 

 

「……これからどうするつもりですか」

 

 

「メヌエットの推理は正直聞きたい。キンジのナイフが駄目となると俺の考えていた対策が全部パーになった。まだ策はあるが、この策を簡単に放棄はできない」

 

 

「大樹さん……」

 

 

ティナは俺の右手を両手で包んだ。その手は小さく、温かい。

 

 

「私は信じています。必ず大樹さんが戻って来てくれることに」

 

 

「……ああ」

 

 

ティナの優しい言葉に俺は頷きながら返事をした。

 

 

 

________________________

 

 

 

「ただいま、ダイキ」

 

 

髪を可愛く三つ編みにしたメヌエットが帰って来た。

 

 

「おかえり。ご飯にする? お風呂にする? それともオ・レ・サ・マ?」

 

 

「剥奪です」

 

 

はい余計なことを言わなきゃ良かったって後悔しました。せっかく場を盛り上げようとした俺の心意気を返せ。

 

俺のカードを奪うかと思いきやメヌエットはディスクトップのパソコンでネットゲームをし始めた。

 

黙って後ろからゲームの様子をティナと一緒に観戦する。『ムニュエ』がメヌエットが操作するキャラか。

 

 

「今日も来ていないのね……」

 

 

メヌエットの独り言。寂しそうな声だった。友達がオンラインしてないのか?

 

あまり触れない方がいいと思った俺は話題を変える。

 

 

「メヌエット。ティナにも風呂を貸してやってくれねぇか?」

 

 

「メイドたちが使うバスルームを使ってください」

 

 

「サンキュー。ティナ、入って来い」

 

 

「……メヌエットさんに手を出さないですか?」

 

 

「ださねぇよ」

 

 

どうやら信用が底へと落ちたようだ。ティナと仲良くする方法も考えなければ……。

 

ティナは最後まで俺を警戒したまま部屋を出て行った。

 

メヌエットもゲームに夢中になっているし、星も稼げるようなことはしばらくなさそうなので俺は壁に寄りかかり体を休めようとした。

 

 

ドタッ

 

 

そして、俺は床に倒れた。

 

 

「……ッ……ぁ……!」

 

 

視界が真っ暗になり、喉が焼けるように痛い。頭の中で火が燃えているような激しい頭痛がする。

 

ヤバい。また……鬼がッ……!

 

 

「ダイキ……!?」

 

 

倒れた音にメヌエットが気付き、車椅子で俺のそばまで駆け寄って来る。

 

 

「ぁ、あぁ……すぁはぇ……?」

 

 

「舌が回っていない……熱でもなければこれは……?」

 

 

メヌエットでも分からない症状に苦しまされる大樹。さっきと違い過ぎる大樹を見てメヌエットは焦っている。推理もまともにできない。

 

 

「ゴホッゴホッ!!」

 

 

何度も咳を繰り返す大樹。顔色は悪く、体調が良いとは絶対に言えない。

 

咳をしながら大樹は立ち上がり、部屋のドアへと向かう。

 

 

「悪い……少し夜風に当たる」

 

 

舌はしっかりと回るようになっていたが、足取りはフラフラとしていた。

 

 

「認めません。その状態で行くなど……」

 

 

「頼む……荷物を取りに行かせてくれ……」

 

 

それでも大樹はドアを開けようとしたのでメヌエットはすぐにドアの前まで車椅子を動かし、道を塞いだ。

 

 

「薬でしたらサシェとエンドラに取りに行かせます。大人しくそこで待っていなさい」

 

 

「駄目だ……荷物を見ないでくれ……」

 

 

「……どうしてそこまで拒むのですか?」

 

 

「見ないでくれ……荷物を……」

 

 

目の焦点が合っていない。しかし、メヌエットは荷物に手掛かりがあると分かった。

 

 

「何度も言わせないでください」

 

 

パウッ!!

 

 

メヌエットは空気銃で大樹の額を撃ち抜き、大樹をその場に倒れさせた。弱った大樹はすぐに意識を手放してしまい、気を失った。

 

 

 

________________________

 

 

 

「……ッ」

 

 

今まで眠っていたことに気が付いた俺は目を開けた。目の前に広がるのは綺麗に装飾された天井。

 

上体を起こして周りを見てみれば真っ暗な部屋で、ベッドの上で寝ていることが分かった。

 

 

「……ティナ」

 

 

ベッドにはティナが一緒に寝ており、頬を濡らしていた。

 

 

「心配かけて、すまねぇ」

 

 

俺はティナの濡れた頬を指で拭き取り、ベッドから起き上がり、部屋を出た。

 

廊下は暗く、誰も起きている気配はない。メイドたちも寝てしまったようだ。

 

 

ドタッ!!

 

 

「ッ!」

 

 

その時、2階から物音が聞こえた。まるで人が落ちたかのような音。

 

 

(メヌエットか!)

 

 

俺は急いで階段まで上がると、寝巻に着替えた双子のメイドのサシェとエンドラに出会うが、俺を無視して急いでメヌエットの部屋と向かった。

 

 

「入ってはなりません! この私を見てはなりませんッ」

 

 

部屋の中から聞こえるメヌエットの叫び声。

 

 

「お前たちは戻りなさいッ! 誰が上がっていいと命じましたか!」

 

 

どうやら俺の存在には気付いていないようだな。俺の足音に気付かないくらい焦っているようだ。

 

サシェとエンドラの肩を叩き『後は任せろ』と小さな声で言う。二人は俺にお辞儀をした後、階段を下りて行った。

 

俺はノックをせずにメヌエットの部屋へと入る。

 

 

「あなたッ……どうして入って———!?」

 

 

「お前がベッドから落ちるから心配して見に来たんだよ」

 

 

メヌエットは必死にベッドに戻ろうとしていた。細い腕で体をベッドの上へと戻ろうとしているが、シーツがずれ落ち、全く上がる様子は見られなかった。

 

俺がメヌエットに近づくと、

 

 

「手助けなど要りませんッ。私は自分で上がれますから!」

 

 

「……俺は星が欲しいんだよ。ほら、早く命令プリーズ」

 

 

「あげません!」

 

 

「……そうか」

 

 

俺はメヌエットの足を持ち、軽い体をヒョイっと持ち上げた。もちろん、恒例のお姫様抱っこだが。

 

 

「いやッ! いやッ! 触れないでッ!」

 

 

ドゴッ! パチンッ! ボキッ!

 

 

俺の顔にパンチやらビンタやら叩きこまれる。最後、骨が折れたような音は気のせいですか? ていうか超痛い。本気で殴られてる。

 

 

「私は自分で上がれると言っているでしょうッ! お前、私が足が悪いからって———!」

 

 

「俺はメヌエットを見下したりなんかしない。例えいじめられたとしても、俺はずっと味方になってやる」

 

 

ピタッとメヌエットの動きが止まった。

 

 

「最初はメヌエットの通っている学校で会おうとしたんだ。でも学校のコンピュータにハッキングしてみればずっと休みとなっている。ずっと学校に行っていないことが分かったんだよ」

 

 

それどころか教師は最悪なことにメヌエットに『来ないでください』と言い渡したらしい。

 

反撃したメヌエットに原因があった。お得意の催眠でいじめた奴を学校に来ないように言ってしまったらしい。

 

 

「いじめられるって辛いよな。自分は何もしていないのに、味方がドンドン減っていく」

 

 

「同情ならいりませんッ! そうやって私を———!」

 

 

「何度も言ってやるよ。俺はお前を見下さない。絶対に」

 

 

「嘘よッ!」

 

 

ゴキッ!!

 

 

首が150°くらい回った。死ぬ!? これは死ねる!?

 

俺はバランスを崩し、メヌエットを落としそうになるが、根性で耐えて見せた。足はプルプルなっているが。

 

 

「それならこうします。私の推理を聞かせます。だからッ……!」

 

 

メヌエットは涙目で俺を見ながら告げる。

 

 

「あなたは私のモノになりなさいッ……!」

 

 

「……血迷ったのか?」

 

 

「お姉様が手に入れたモノはみんな私が貰う」

 

 

「……どうしてそこまでアリアに固執する?」

 

 

「それで、公平なのです。お姉様は優れた肉体を持ち、自由に動けて、人々に敬愛され、こんな恋人まで———!」

 

 

メヌエットの言っていることを茶化したくなかった。メヌエットの心の叫びを聞いているから。

 

 

「あれもこれも、手に入れてくる。私には何も無い! こんな体に生まれ、この頭脳を恐れられ、誰からも嫌われ、偏屈者と呼ばれて、ここで一生を孤独に送る定めなのです! これではあまりに不公平でしょう!?」

 

 

そうか……メヌエットは、ずっとアリアのことが羨ましくて、羨ましくて、嫉妬していたんだ。

 

 

「ずっとお前はここにいるのか?」

 

 

「え……?」

 

 

俺の質問の意味が理解できないメヌエットは固まってしまった。

 

 

「ずっと、ずっと、ずっとここでメイドに働かせて一人堕落した生活して生きて行くのか?」

 

 

「ッ……そうするしか私にはッ……!」

 

 

「そんな選択、俺がさせねぇ!」

 

 

「ッ!」

 

 

俺はメヌエットをベッドに寝かせシーツを整える。

 

 

「メヌエット。どんな世界にも公平ということは絶対に無い」

 

 

俺は世界を見て来た。たくさんと言えるほどではないが、誰よりも世界を見た。

 

だから言える。分かるんだ。

 

 

「不治の病や不幸な人間はたくさんいる。公平なんてバカバカしいと思ってしまうくらいな」

 

 

でもなっと俺は付け足す。

 

 

「それを壊すのは、俺たち人間だ。人々が助け合う世界になればこんな醜い世の中にならないんだ」

 

 

「……それくらい、分かっています」

 

 

「いや、分かっていない。お前はその壊す人間になるべきだ」

 

 

メヌエットに毛布を掛けて、俺は告げる。

 

 

「こんな理不尽で面白くない、自分の世界を」

 

 

「自分の世界……」

 

 

「今日はもう遅い。明日は早いからゆっくりと寝てくれ」

 

 

俺はそう言い残し、部屋を出て行った。

 

すぐに1階まで降りてティナの持っていた携帯電話を借りる。番号を打ち、すぐに電話する。

 

 

『少しばかり遅いんじゃないか?』

 

 

「悪いなキンジ。あと何でヒスってる?」

 

 

『星が綺麗だからさ。おっと、あまりの綺麗さに女性と星を間違えてしまったよ』

 

 

電話の向こうからキャー!っと黄色い歓声が聞こえた。コイツ殴りてぇ。

 

 

「お前の弟、権力があるらしいな。ティナから少し聞いたよ」

 

 

『金三をどうするつもりだい?』

 

 

「安心しろ。ちょっとした手続きをして欲しいんだ」

 

 

俺は告げる。

 

 

「メヌエットの世界を変えるために」

 

 

________________________

 

 

 

現在時刻 17:00

 

 

 

「はい朝ですよ。起きて起きて」

 

 

カンッ! カンッ! カンッ!!

 

 

メヌエットの部屋でフライパンを叩いてメヌエットを起こす。メヌエットは耳を塞ぎながら叫ぶ。

 

 

「うるさい! 何て非常識な起こし方を……!?」

 

 

カンッ! カンッ! カンッ!!

 

 

「話を聞きな———!」

 

 

カンッ! カンッ! カンッ!!

 

 

「ああ分かりました! 起きますからやめてください!」

 

 

その後、黒星が増えた。割増しで二個も。やったぜ(ヤケクソ)

 

メヌエットを食堂へと連れて行き、俺の特製栄養満点パフェを用意する。すぐに食わせたら、

 

 

「サシェ、エンドラ。すぐにこれに着替えさせろ」

 

 

「「!?」」

 

 

俺の用意した服に二人は目を見開いて驚いた。もう腰を抜かしそうになっていたね。

 

とにかく無理矢理でも着替えさせろと脅しておいた。俺ってこわぁい!

 

 

「ティナ。少しだけ自分のことが分かりそうな気がするんだ。だから……」

 

 

「……分かりました。でも時間はありませんのですぐに終わらせてくださいね」

 

 

「ああ、速攻で落としてくるから任せろ!」

 

 

ドゴッ!!

 

 

「ま、間違えた……速攻で……推理を言わせて見せるから……!」

 

 

横腹を摩りながらメヌエットの部屋へと向かう。案の定、メヌエットの嫌がる言葉が聞こえて来た。

 

 

「着ないと言っているでしょう!? どうしてそこまで必死に……!?」

 

 

「メヌエット? 着替えたか?」

 

 

「ッ……あなたの仕業ですね」

 

 

「いいから着替えろよ? あと10秒でこの扉を開ける」

 

 

「ッ!? 待ちなさい! 私はまだ……!」

 

 

「10……9……8……」

 

 

「さ、サシェ! すぐに着替えさせなさい! エンドラ! あなたはあの変態が扉を開けないように閉めなさい!」

 

 

こうして、何とか大樹の用意した服をメヌエットは着替えることができ、俺は空気銃で6発ほど撃たれてから会うことが許された。空気銃怖い。

 

 

「これは一体どういうことか説明してもらいますか?」

 

 

不機嫌オーラ全開で俺に聞くメヌエット。メヌエットが着替えたのは学校の制服だった。

 

 

「もちろん学校に行くに決まっているだろ。義務教育だ義務教育」

 

 

「……私には必要ありません。それに学校側から来るなと言われています」

 

 

「誰がそんなクソ学校に行くか。教師のクセに何も解決しようとしない学校に行く必要はねぇよ」

 

 

「え?」

 

 

「メヌエット。お前、転校したから」

 

 

「!?」

 

 

「新しい学校に行くぞ。あ、学校は俺が決めたから」

 

 

「!?!?」

 

 

メヌエットは口をパクパクと動かし絶句していた。そりゃそうだ。『お前、明日から違う学校に行くから』と親に突然言われたらこうなるわな。俺、親じゃねぇけど。

 

 

「はい出発!」

 

 

「ちょッ!? 待ちなさい! お願いだから待ってッ!!」

 

 

メヌエットの拒否するする声を無視して俺は車椅子を動かした。

 

 

________________________

 

 

 

「さぁ着いたぞメヌエット。感想は?」

 

 

「一生恨みますわよ……!」

 

 

凄く……睨まれています……!

 

強引に車に乗せた後、俺はメヌエットの催眠術を見事にかわしながら運転した。アレは危なかったね。もう少しで事故を起こしてしまうところだった。

 

学校は中々綺麗な場所で良かった。教室も廊下もピカピカだ。一般学校だが、まぁいじめられるお嬢様学校よりマシだろ。

 

門からずっと注目を浴び続ける俺たち。メヌエットは下向き、口数が減って来ていた。

 

 

「大丈夫だ。誰もお前の悪口は言っていない」

 

 

「う、嘘です。みんな私の姿を見て……!」

 

 

「ああ思っているだろうな。『可愛い』って」

 

 

「ッ!?」

 

 

メヌエットは顔を真っ赤にして俺の顔を見た。

 

 

「自覚が無いのか? アリアと同じ、メヌエットは可愛い。断言できる」

 

 

「……ッ!」

 

 

メヌエットはポコポコと俺の体を叩き始めた。え? 何この可愛い生き物? 昨日と違って威力が弱いんだけど?

 

 

「ほら。ここがお前の教室だ」

 

 

「ッ……お願いです。家に帰してください」

 

 

「……じゃあ入る前に一つ話をしておいてやる」

 

 

俺はメヌエットの前で片膝を着いて目線を合わせる。

 

 

「アリアは俺に言ったことがあるんだ。涙を流しながら『助けて』ってな」

 

 

「………………」

 

 

「意外だろ? 一人で何でもできるアリアが助けを求めて来たんだ。だから俺は助けてやった。助けたいと思ったから」

 

 

優しくメヌエットの手を包み込むように握り絞める。

 

 

「アリアだって、不公平だと思っている時があるんだ。母を奪われ、緋緋神にも乗っ取られる」

 

 

俺の言葉にメヌエットは頷いた。そう、メヌエットも分かっているんだ。アリアだって苦しんでいることが。

 

それでも、メヌエットはアリアが羨ましいと思ってしまう。

 

でも、仕方ない。まだメヌエットは子どもだし、女の子だ。

 

 

「……今の俺はあの時と同じ、メヌエットを助けてやりたい。つまらない世界を変えてやる。だから」

 

 

だから俺は待つ。

 

 

「一言でいい。俺に助けを求めろ」

 

 

あの言葉を。

 

メヌエットは下を向き、ゆっくりと言う。

 

今までずっと一人で抱えて来た。仲間や友達もいない。ずっと孤独、たった一人。

 

助けてくれる人がいないなら、俺がなってやる。

 

……そうだ。どうして俺は悩んでばかりいたんだ。

 

 

もう悩んでいる暇なんてない。分かっているならこれから理解すればいい。

 

 

俺の感情は俺が決める。悲しければ泣く。怒りたいなら怒る。喜びたければ笑う、

 

もっと簡単に物事を捉えればいい。それなら、俺は———。

 

 

「……だったら……私の……世界を……変えて……!」

 

 

「任せろ」

 

 

———その願いに答えて見せる。

 

俺はメヌエットの頭を優しく撫で、立ち上がった。

 

教室のドアを開き、メヌエットと一緒に教室へと入った。

 

 

________________________

 

 

 

学校の昼休み、俺は別館の校舎の屋上からメヌエットの様子を見ていた。

 

事前に校長や教師には包み隠さず事情を説明した。教師たちは俺の手を握り『必ず幸せにしてみせます!』と嫁でも出すのかっと思ってしまうくらい熱心な教師だった。ま、まぁいいか。俺、お父さんじゃないし。……シャーロックに殺されそう。

 

メヌエットに問題を当てまくるわ当てまくるわ。メヌエットはわざと間違えようとしたが、俺が監視していることを知っているため、しっかりと正解した。

 

そして休み時間はメヌエットはたくさんの人に囲まれ、人気者になっていた。まぁ転校生とかは大抵こうなるわな。

 

 

「さぁて、これをあまり良いとは思わない女子と男子はいるよな……」

 

 

ほぼ確実。99パーセント。いや絶対。

 

中学時代の俺ならここから狙撃していただろうが、今の俺は違う。別に武器を変えるとかそういうオチじゃない。

 

様子を見ていると、予想通りメヌエットを3人の女子が囲んだ。メヌエットも表情は良くない。周りの人たちも怯えた様子を見せている。きっと彼女たちは人気者になったメヌエットのことが気に入らないんだろう。

 

これだ。いじめの怖いところの一つ。カーストが高い奴に逆らえない。だから誰も助けてくれない。

 

いじめの次のターゲットにされたくないから、今いじめられている人と関わらない。それは正しくて正しくない選択。

 

自分が大切にすることは悪い事では無い。

 

でも、その先を越えてこそ……本当の仲間なんだよ。

 

 

「………ホラな。いるんだよ」

 

 

メヌエット。お前が思っているほどお前の世界は醜くない。

 

俺は選択を間違えた。でも、お前にはまだ選択は残っている。

 

 

 

 

 

メヌエットの後ろにはクラスメイトの半分以上が味方についてくれて立ってた。

 

 

 

 

 

クラスメイトが三人の女子からメヌエットを守るようにしている。三人の女子は気まずそうな表情をした後、教室から出て行った。

 

あんなに味方がいるんだ。もうあの部屋に籠る必要なんてない。

 

メヌエットの泣きそうな笑顔に俺は微笑んだ。

 

 

「……そっか」

 

 

そうだ。俺はどうしてこんなことで悩んでいたんだ。

 

……俺は黒くなったギフトカードを取り出す。手が震えるが、俺の決意は揺るがない。

 

 

 

 

 

「答えは……決まった」

 

 

 

 

世界は———!

 

人は———!

 

そして、俺は———!

 

 

 

 

 

「きっと、これが俺なんだ」

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

2月11日

 

 

現在時刻 0:00

 

 

 

「どうだった? 学校は?」

 

 

「……悔しいですが私の負けですね」

 

 

いぇーい。俺様の勝利だぜえええええェェェ!!

 

俺はニコニコしながらカードを渡す。メヌエットは黒星を全部消してくれた。よっしゃあ! これで振り出しだ! 遅いよばかッ。

 

 

「友達はできたか?」

 

 

「ええ、もちろんよ。私の隣の席の子なのだけれど———」

 

 

俺はメヌエットの車椅子を押しながらメヌエットの話を聞く。楽しそうにお喋りするその姿は普通の女の子と変わらない。

 

ニコニコした笑顔は俺の心をピョンピョンしてくれる。心ピョンピョン!

 

 

「次はもっと凄いぞ」

 

 

「あら? まだサプライズがあるのかしら?」

 

 

「おう。星10個あげたくなるくらいのサプライズだ」

 

 

メヌエットを車に乗せて、俺は運転席に座る。そう言えば机の中に入れた免許書どうなったかな? まぁいいか!

 

 

「どこへ向かうのかしら? 期待しても?」

 

 

「おう。期待してくれ」

 

 

朝とは別人のように全く違う。すっかりご機嫌です。

 

俺はアクセルを踏み、目的地へと走り出した。

 

 

 

________________________

 

 

 

現在時刻 1:00

 

 

 

「着いたぜ」

 

 

俺たちが来たのは現代的なメリルボーン・ロードの角にあるガラス張りのオシャレなカフェだった。

 

メヌエットの車椅子を押しながら場所を教える。

 

 

「さて、何かしら? あえて推理をしないであげたからちゃんと驚くわよね?」

 

 

「ああ。店の中に黒髪の長髪の女の子がいるだろ? ホラ、白い花飾り………白い……花飾り………………!?」

 

 

「ええ、いるわね……って、ちょっと? 凄い汗をかいているいるけど大丈夫かしら?」

 

 

「し、白い髪飾り……あ、あれが……夾竹ッ……じゃなくて『モモコ』だ……ああ、『モモコ』だ。うん、『モモコ』!?」

 

 

「!!?? 何であなたが驚くの!?」

 

 

「モモコ!? モモコがアイツ!? MOMOCO!?」

 

 

「あなた大丈夫かしら!? それよりどうしてモモコがここにいるの!?」

 

 

「俺が呼んだのか!?」

 

 

「あなたじゃないの!?」

 

 

「俺だった!?」

 

 

「いい加減落ち着きなさい!!」

 

 

ゴギッ!!

 

 

「グへッ!?」

 

 

メヌエットの関節技が炸裂。俺は正気に戻る。

 

 

「そ、そうだ……お前がオンラインゲームで仲良くしていた女の子だ。その子がちょうどイギリスに来ていたんだ」

 

 

「……だから最近はいなかったのね」

 

 

多分、俺が関わったせいだと思うけど。

 

 

「メールで呼び出していたんだ。今までずっと友達でいてくれた子なんだろ? だったら今度は、親友になって来い」

 

 

「い、いやよ。いやよッ。ついてきて」

 

 

「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理」

 

 

「必死!? そんなに嫌なのかしら!?」

 

 

「大丈夫だ。俺は何も手出しはしていない。したら後が怖いから」

 

 

「一体モモコとどういう関係なの!?」

 

 

「と、とにかくだ! どうせ自分のことを隠して『モモコ』と友達になっていたんだろ?」

 

 

「ッ……」

 

 

図星か。

 

 

「なら、今ここで全部正直に話してこい。楽しく話して、笑って、親友になってくるんだ」

 

 

「わ、私は、自分が学校に通っていて、しかもバスケットボール部のエースという事にしてしまっているのよ。チャットをしているうちに、そういう、その……ウソを一度つき始めたら、止まらなくなってしまって……学校中の人気者だとか、ラクロス部のエースも兼任しているとかまで、最近は言ってしまっているの……!」

 

 

「へぇ……微妙だな」

 

 

「え?」

 

 

俺はメヌエットの頭をポンと置く。

 

 

「お前、あのシャーロック・ホームズの曾孫って自慢できること、まだ隠しているじゃねぇか」

 

 

メヌエットは目をまん丸に開いて俺を見て驚いていた。

 

 

「そんな嘘、全部チャラにできてしまう凄い本当の事実がある。きっとモモコも喜んでくれる。それに、モモコはお前が嘘を言ったくらいで友達をやめてしまうような薄情か?」

 

 

「ち、違う! モモコは全部信じてくれて、その上で私と友達に———!」

 

 

「なら大丈夫じゃん」

 

 

俺は優しくメヌエットの頭を撫でる。

 

 

「今日学校でも上手くいったんだろ? ならモモコとはもっと上手くいけるさ」

 

 

「駄目よ……推理できてしまうのよ……」

 

 

「……その推理、言ってみろよ」

 

 

「モモコは日本の女の子なの。偶然だとしてもわざわざここまで来てくれたのに、出てきた私がこんな姿じゃ———彼女は嘘つきと罵るわ! 嫌いになるわ! 私の唯一の友達が———!」

 

 

 

 

 

「だったらその推理をぶち壊す推理をしろッ!!」

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

俺の大声にメヌエットはビクッと体を震わせて驚く。

 

 

「失いたくないなら足掻けッ! 命を削ってでも守りたいモノがあるから俺はずっと戦い続けたッ! お前は戦わないのか!?」

 

 

路上の通り人たちが俺たちを見て来る。俺は深呼吸をしてクールダウン。

 

 

「シャーロックが生きていることは知っていたか?」

 

 

「……お姉様から聞きました」

 

 

「そのシャーロックの推理をぶっ壊されたことがあるんだ」

 

 

「そんな……ありえないわ。私の知る限り、曾お爺様の生涯には一度だってそんなことは無かった。誰が彼の———!?」

 

 

続きの言葉を言う前に、メヌエットは分かってしまった。

 

 

「そう……あなたなのね」

 

 

メヌエットは呆れたような声だったが、顔は微笑んでいた。俺も笑顔で返す。

 

 

「なぁメヌエット。モモコに嫌われたくないよな?」

 

 

「……ええ」

 

 

「学校でもういじめられたくないよな?」

 

 

「ええ」

 

 

「……いつまでも貴族という籠の中の鳥になりたくないよな?」

 

 

「ええ」

 

 

「だったら———」

 

 

俺は車椅子を動かし、店内のドアの方へと車椅子を向ける。

 

 

「———自分の世界を、自分の手で変えろ」

 

 

「……………」

 

 

メヌエットは自分で車椅子を動かし、カフェの中へと入って行った。

 

自分のした最悪の推理をぶち壊すために。親友を作るために。そして、自分の世界を変えるために。

 

 

________________________

 

 

 

メヌエットの『初めまして』から始まる会話。夾竹桃……ゲフンゲフンッ。モモコは最初驚いていたが、すぐに笑みを浮かべて返していた。

 

俺が事前に店に頼んでいたケーキと紅茶を二人の前に出す。あれ、俺が作った。

 

美味しい食べ物を食べたおかげか二人の間にあった緊張が砕け、すぐにポンポンと話題が出て話し始めた。

 

俺は見守る親のような気持ちで二人を遠くのベンチから見ていた。

 

 

「惚れちゃ駄目だよ? だいちゃん?」

 

 

「そうだぞ大樹君。今は女の子に見惚れている場合じゃないだろ?」

 

 

「オーケー、オーケー。両肩が粉砕しそうだからやめてくれ理子、刻諒(ときまさ)

 

 

こっちは肩が砕けそうです。

 

左肩は理子。右肩は刻諒。ギチギチっと嫌な音が聞こえる。

 

 

「置いて行ったのはマジで悪かった。許してくれ」

 

 

「えーどうしよっかなー?」

 

 

「えーとりあえず関節外していいかい?」

 

 

「見ない間に刻諒がめっちゃバイオレンスなんですけど……!?」

 

 

「えいッ!」

 

 

ゴキッ!! ボキッ!!

 

 

理子に関節外されてまた入れられた!? こっちもバイオレンス!?

 

 

「悪かった! マジで反省しているから!」

 

 

「じゃあ……あそこで楽しくお喋りしている(キョー)ちゃんを呼ぼうか!」

 

 

「お願い! もうやめて!」

 

 

「今なら遠山君と金三君と金女さんとサイオンさんと母上を呼べるが?」

 

 

「遠山三人衆!? というかサイオン!? ていうか何で母!?」

 

 

これがカオスというのか。

 

 

「理子はカツェとヒルダとジャンヌを呼べるよ?」

 

 

「洒落にならないメンバーだなオイ!? ってジャンヌ!?」

 

 

カオス度が加速した!?

 

 

「途中で会ったんだよ。こっちでもいろいろあって大変だったんだよ? 今はキーくんと一緒に行動していると思うよ」

 

 

「メンバーが増えているなぁ……」

 

 

さすがの俺も苦笑い。頼もしいが凄いことになっている。

 

理子は俺の右隣りに座り、刻諒は左隣に座った。何だこのシュールな光景。

 

 

「……体は大丈夫かね?」

 

 

「いや、掘られてないよ?」

 

 

「どういう解釈だい!? 一体私たちがいない間に何があったのかね!?」

 

 

ウホッ。別に何もなかったけど何か?

 

 

「お前らと離れてから俺は鬼の力を乗っ取ったんだ」

 

 

鬼という単語に理子と刻諒の表情が硬くなる。俺は笑顔で会話をするメヌエットを見ながらポツポツと話す。

 

 

「でもな、分かってきたような気がするんだ。アイツを見ていて、大事なことを思い出した。いや、最初から大事なことを持っていなかったから『教えられた』が正しいか」

 

 

静かに二人は俺の言葉を聞いてくれている。俺は安心して続ける。

 

 

「ずっと過去と向き合っていた。でもそれじゃ駄目だったんだ」

 

 

「……何が、ダメなの?」

 

 

理子が心配そうな表情で俺の顔を見る。

 

 

「俺はそこで止まっていたんだ。『向き合う』っていう建前を作って、ただそこから動かなかった」

 

 

「……大樹君の過去は私には分からない。でも逃げることをしなかった君は強いと私は思うよ」

 

 

「違うんだ刻諒。俺は結局逃げていたんだ。過去と向き合うだけで、『現実』から逃げていた』

 

 

「現実……?」

 

 

「……何も守れていない現実に」

 

 

「「!?」」

 

 

ダンッ!!

 

 

理子が勢い良く立ち上がり、俺の手を握った。

 

 

「違う! 大樹は理子のことを何度も守って救ってくれた! その現実は……!」

 

 

「間違っているんだよ。俺は傷つけた。心が弱いせいで、『殺し』の戦い方をして、みんなを怖がらせ、傷つけた」

 

 

理子の握る力が強くなる。何も言わず、ただ頭を横に振って否定する。

 

 

「今でも力が欲しいと感じてしまう。でも、俺が本当に欲しい力は……『殺し』とかじゃない」

 

 

そうだ……俺が……欲しいのは『力』であっても、『力』じゃない。

 

俺が欲しいのは———!

 

 

ドクンッ……!

 

 

「ッ!?」

 

 

突然、胸に激しい痛みが襲い掛かって来た。

 

あまりの痛みに俺は地面の上で(ひざまず)く形になる。

 

 

「大樹!?」

 

 

「大樹君!?」

 

 

呼吸が不規則になり、喉が張り裂けそうなくらい熱い。

 

 

「来るッ……戦いがッ……鬼がッ……!」

 

 

その瞬間、俺の意識は暗闇の奥底へと落ちて行った。

 

 

 

________________________

 

 

 

「大樹!? 大樹!?」

 

 

理子が何度も倒れた大樹を何度も揺さぶる。しかし、返事は返ってこない。跪いた状態のまま動かない。刻諒も苦しんでいる大樹を見て焦っている。

 

 

ガシャンッ!! ガシャンッ!!

 

 

「「ッ!?」」

 

 

その時、背後から重い金属が落ちるような音が何度もした。

 

振り返ると銀色の金属スーツに身を包んだロボット。通称『エヴァル』と呼ばれるモノがそこにいた。

 

 

「な、何だこの不気味な者たちは……!?」

 

 

刻諒はレイピアを構え、理子は大樹を支えたまま銃を握った。気が付けば民家や店の屋根にもエヴァルの姿がある。

 

 

『対象の確認。これより抹殺を開始します』

 

 

ガシャンッ!!

 

 

エヴァルの右手が変形し、銀色の剣へと姿を変えた。そして、一斉に刻諒たちに向かって剣を振り下ろした。

 

 

ガチンッ

 

 

(重ッ……!?)

 

 

刻諒がレイピアで剣を受け止めた瞬間、あまりの力の強さに、すぐに方膝を着いてしまった。

 

もう一体のエヴァルの攻撃。動けない刻諒に向かって剣が振り下ろされる。

 

 

「鬼神よ……獄炎の覇者となれ……」

 

 

バギンッ!! 

 

 

しかし、剣が刻諒に当たることはなかった。

 

気が付けば襲い掛かって来たエヴァルの一体の胴体が真っ二つに斬り裂かれ、宙を舞っていた。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

目を逸らしていた間に、剣を受け止めていたエヴァルが地面にめり込んだ。上から叩き落とされたようだった。

 

何が起こったかすぐに理解できた。

 

 

 

 

 

黒い鬼の姿をした大樹を見たから。

 

 

 

 

 

背中から黒い炎の翼———四枚の翼がユラユラと恐ろしく燃え上がる。頭部から生えた黒い角はまさに鬼。

 

手に持った刀が泣き叫ぶように轟々と燃え上がる。そこに大樹の面影はもうない。

 

 

「【魔炎(まえん)双走炎焔(そうそうえんえん)】」

 

 

ゴオオオオオォォォ!!

 

 

黒い炎の刀が何十にも分かれ、次々とエヴァルを燃やし尽くす。灰の一つすら残さない馬鹿げた火力に誰もが目を疑った。

 

その炎に恐怖した通行人、建物や店の中にいた人々が悲鳴を上げながら逃げ出す。

 

 

「やっとだ……やっとこの体を手に入れた!」

 

 

大樹は空に向かって大きく笑いながら炎を操る。

 

 

「クハッハッハッハッ! 悪を根絶する日が来たのだ!」

 

 

いや、そこにいるのは大樹では無い。

 

 

邪黒鬼(じゃこくき)だ。

 

 

「これが……あの大樹君なのか……」

 

 

レイピアを地面に落とし、刻諒は体を震えさせた。怒りでもない。哀しみでもない。

 

後悔による震えだった。

 

 

「……どうしてこんなのことになったの?」

 

 

「夾ちゃん……」

 

 

いつもと違う夾竹桃の低い声音が聞こえた。暗い表情をした理子は何も答えられなかった。

 

夾竹桃はメヌエットの車椅子を押しており、メヌエットの表情も良くなかった。

 

 

「あれが最後に落ちた鬼の姿……推理通りでしたわ」

 

 

「推理……? どういうことだい?」

 

 

メヌエットの言葉に刻諒が尋ねる。メヌエットは次々とエヴァルを破壊する大樹を見ながら説明する。

 

 

小舞曲(メヌエット)のステップの如く、順を追ってお話ししましょう。まず昨日の晩、原因は不明ですがダイキは倒れました。酷く顔色が悪かったので血を飲ませました。もちろん、彼の私物に輸血パックがあったのでそれを使いました」

 

 

周りが驚愕している中、メヌエットは推理を続ける。

 

 

「すると彼はみるみるうちに回復しました。なので彼にはある力があると推理しました」

 

 

メヌエットは告げる。

 

 

「吸血鬼の力があると」

 

 

「さすがだ。大当たり」

 

 

メヌエットの推理を褒めたのは大樹———邪黒鬼だ。既にエヴァルは全滅し、みんなの前に立っていた。

 

 

「俺には吸血鬼の力がある。血を飲めば覚醒する。自分の血でもな」

 

 

「……そして次に推理するのは、あなたの正体です」

 

 

「俺は大樹だ。何者でもない」

 

 

「あなたの正体は、鬼です」

 

 

「ッ……」

 

 

メヌエットは吸血鬼とは答えなかった。そのことに邪黒鬼は表情を少し歪めた。

 

 

「簡単でしょう? 角が生えた日本の妖怪だとすぐに分かります」

 

 

「……神は称えることが大事だぞ? だが俺はお前たちには手を出さないから安心しろ」

 

 

メヌエットの言うことを軽く聞き逃す邪黒鬼。メヌエットたちは警戒しながら鬼の話を聞く。

 

 

「俺は正義の名の下に悪を殺す。ゆえに優しい心を持ったお前たちには一切手を出さない。それにお前らを守ることでコイツは納得するからな」

 

 

「ふざける……な……!」

 

 

ガシャッ

 

 

「大樹を返せ! その体はお前のじゃない!」

 

 

怒りの形相で理子は拳銃の銃口を邪黒鬼の額に向ける。邪黒鬼は笑みを消す。

 

 

「俺を敵に回す者は悪。斬られたくなければ今すぐ下げろ」

 

 

「それは無理な話だな」

 

 

ガキュンッ!!

 

ガキンッ!!

 

 

「ぐぅッ!?」

 

 

邪黒鬼の持っていた右手の剣【名刀・斑鳩(いかるが)】が弾き飛ばされた。油断したせいで飛んで来た銃弾に気付かず、当たってしまった。

 

 

「遠山君!?」

 

 

デザートイーグルを握ったキンジが屋根の上から狙っていた。銃弾を飛ばしたのはキンジだ。

 

 

「兄貴。全然効いていないみたいだぞ」

 

 

「全員無事か!?」

 

 

「ジャンヌ!」

 

 

キンジの他にジーサード、ジャンヌの姿もあった。ジャンヌは銀色の甲冑を身に纏い、大きな剣———聖剣デュランダルを持っていた。

 

 

「……何故だ。俺はこの世界を救ってやろうとしているのに、何故俺に攻撃する」

 

 

「世界より大切なことがあるからです」

 

 

ガキュンッ!!

 

 

「ッ!?」

 

 

今度は左手に持った剣【護り姫】が弾き飛ばされた。

 

遠距離からの狙撃。ティナの手によって。

 

 

スタッ

 

 

「大樹さんを返してください」

 

 

武偵制服のスカートをヒラヒラとなびかせながら民家の屋根から飛び降り、すぐに狙撃銃を構える。

 

 

「……数を揃えたところで、こいつは帰ってこない。力に溺れているからな」

 

 

囲まれた状況にも関わらず、邪黒鬼は笑っていた。

 

 

「力を求めて、求めて、求めて、こいつは俺に頼った。一度乗っ取られたが、これで終わりだ」

 

 

邪黒鬼は告げる。

 

 

「楢原 大樹が帰って来ることは永遠に無いッ!!」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

拳を地面に叩きつけた瞬間、黒い炎が爆発した。

 

 

________________________

 

 

 

またこの光景だ。

 

あの日に戻って来た。部室で起きたあの日に。

 

誰もいない部室に俺は立っていた。

 

 

『お前のせいだ』

 

 

「ッ……」

 

 

気が付けば背後には血まみれになった人の姿がいた。顔をよく見れば、ずっと俺をいじめてきた人だとすぐに分かった。

 

血塗れになった人はゾンビのようにゆっくりとフラフラと近寄って来る。

 

 

『お前のせいだ』

 

 

『お前のせいだ』

 

 

『お前のせいだ』

 

 

一人だけじゃない。気が付けば囲まれていた。

 

俺は唇を強く噛み、震える足を、手を、体を止める。

 

 

「俺は、無責任だった」

 

 

ピタッ……と一斉に動いていた人が止まった。

 

 

「ずっと双葉が死んだことをお前らのせいにしていた。でも、一番の原因は俺にあった」

 

 

『そうだ。いじめられていたお前が双葉を関わらなければ———』

 

 

「違う」

 

 

俺は告げる。

 

 

 

 

 

「お前たちと仲良くすれば、良かったんだ」

 

 

 

 

 

ずっと無視してきていた。いじめていた人たちを無視し、いじめられたことを気にしていなかった。

 

俺が悪かった。この状況を停滞し続けることじゃなく、解決するように動けば良かった。

 

 

「俺が剣道のことを教えてあげれば良かった。もっと優しく接してやれば良かった。できるイケメンみたいになればよかった」

 

 

でも、俺はできるとかの問題では無かった。まずやろうとしなかった。それが俺が最低だと証明している。

 

俺は血塗れになった人の手を握り、

 

 

「ごめん」

 

 

一言謝った。

 

 

「この戦いが終わったら、絶対に謝りに行くよ」

 

 

そして、俺は笑顔で告げる。

 

 

「だから、その時は、友達になって欲しいと思っている」

 

 

『ッ!?』

 

 

血塗れになった人たちが一斉に逃げ出す。俺を怯えるかのように。

 

 

『そうやって自分が正義だと言うの?』

 

 

今度は双葉が現れた。軽蔑するかのような目で俺を見る。

 

 

『また殺すのでしょう?』

 

 

双葉の他には美琴、アリア、優子、黒ウサギ、真由美、ティナもいる。みんな俺のことを睨んでいる。

 

 

「もう正義とか関係ないんだ」

 

 

『どういう意味?』

 

 

「最初から悪なんて、無いからだ」

 

 

『嘘。悪はいる。悪がいるから人は死ぬ。殺される。そして奪われる』

 

 

「……悪を生んだのは、人だと俺は思う」

 

 

その時、双葉の表情が変わった。

 

 

『ど、どういうこと……』

 

 

「悪があるから正義がある。正義があるから悪がある。なんて馬鹿げた言葉だと思わないか?」

 

 

意味が全く理解できていない双葉に俺は説明する。

 

 

「悪になった人は、必ず何かきっかけがある。そのきっかけを作ったのは俺たち『人』だ」

 

 

『人……?』

 

 

「悪になりたくなくても、なった人がいる。自分の命が危ないから、人質を取られたから。様々な理由があった」

 

 

『自分のために悪になった者は?』

 

 

「それも含めて、俺たちの責任だ」

 

 

『ふざけるな! ありえない! どうして俺たちが悪いことになる!?』

 

 

ついに本性を現した邪黒鬼。そこに双葉の姿はもういない。ただ黒い影がいるだけ。

 

確かに、今までの俺ならそんなこと気にしないだろう。鬼のように、怒っていた。

 

でも違う。俺は答えを見つけた。

 

俺は分からなくなってしまっていた。悩んで、悩んで、悩んで、苦しんだ。

 

でも、俺がやることは変わらない。きっとこれが『俺』だと思う。

 

 

「人がいるから悪が生まれる。そして———」

 

 

告げる。

 

 

 

 

 

「———悪を救うのが、本物の正義だ」

 

 

 

 

 

『救う……? 何を言っているんだ……?』

 

 

「それに言ったんだ。赤鬼が教えてくれたんだ」

 

 

姫羅と戦ったあの日。最後に赤鬼に言われたことを思い出す。あの時は頭に血が上って、何も考えなかった。

 

 

 

『……大樹。よく聞け』

 

 

 

『……何だよ』

 

 

 

あの時、赤鬼は教えてくれたんだ。

 

 

 

『姫羅を―――――』

 

 

 

「そう———」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『———助けてやってくれ』

 

「———助けてやってくれってな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何で俺は殺そうとしていた? 今、姫羅は苦しんでいるはずなのにッ!!

 

分かっていたはずだ! 姫羅がこんなことをするはずがないことを!

 

最低な自分に腹が立つ。怒りが込み上げて来る。

 

 

『ふざけるなあああああぁぁぁ!! 世界は醜い! 人は卑怯! 俺は悪を殺すッ!!』

 

 

「だったら教えてやるよ。俺とお前は違うことを」

 

 

 

世界は———希望で溢れていることを!

 

 

 

人は———誰もが優しい心を持っていることを!

 

 

 

そして、俺は———!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、『全て』を救うッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大切な人だけじゃない。何もかも、他人でも、犯罪者でも、悪でも、世界でも!

 

 

 

『全て』を救う人間に俺はなる!

 

 

 

『分からない……悪を救う必要が分からない……』

 

 

「誰も傷付かない世界だ。悪を除け者にする理由はない」

 

 

『分からない……分からない……!!』

 

 

「分かるわけねぇよ」

 

 

俺は拳を握る。

 

ニッと笑みを作りながら闇に向かって拳を振るう。

 

 

 

 

 

「『俺』だからな」

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

「ぐぁあああああああ!!!」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

突然、邪黒鬼が悲痛な叫び声を上げた。優勢で、笑って戦うほど余裕があったはずなのに。

 

キンジたちは傷を抑えながら驚愕していた。

 

 

「何だ!?」

 

 

「兄貴! 攻撃するならチャンスだ!」

 

 

「駄目です! 大樹さんは必ず戻ってきます!」

 

 

ジーサードの意見とティナの意見。互いに食い違い、誰も動けない。どうすればいいのか分からないのだ。

 

 

「ッ!? 伏せろッ!!」

 

 

ジャンヌがいち早く気付く。炎が全員を包み込もうとしていた。

 

 

「【オルレアンの氷花(Fleur de la glace d'Orleans)】!!」

 

 

バギンッ!!

 

 

ジャンヌの目の前に巨大な薔薇の氷が出現した。氷の薔薇を盾にして、炎から身を守る。

 

 

「クッ……長くは持たないぞ!」

 

 

「メヌエット! あなただけでも逃げなさい!」

 

 

「駄目よ桃子! 大樹も、あなたも置いて行けないわ!」

 

 

夾竹桃がメヌエットを守るのに限界が来ている。同時にキンジとジーサードも、規格外な力を持った邪黒鬼を相手にすることに限界だった。

 

 

「……理子は逃げないよ」

 

 

「私も逃げるつもりはない」

 

 

理子と刻諒は前に立ち、構える。

 

 

「……やれるか?」

 

 

「当たり前だ。兄貴がやれるなら俺もやれる」

 

 

キンジはバタフライナイフを取り出し、ジーサードは電弧環刃(アーク・エッジ)を握った。

 

誰も諦めない。逃げる選択はしなかった。

 

 

ゴォ……

 

 

その時、黒い炎が散布した。

 

唐突に炎が消えたことに誰もが驚いた。

 

 

「ぐぁ……やめろ……出て来るな!」

 

 

地面に両膝を着き、苦しむ邪黒鬼。

 

 

「な、何をする気だ……!」

 

 

『とっておきってヤツを……見せてやる』

 

 

「「「「「ッ!」」」」」

 

 

邪黒鬼の口からもう一つの声———大樹の声のようなモノが聞こえた。邪黒鬼はゆっくりと体を動かし、立ち上がる。そして、【護り姫】を握った。

 

 

『俺とお前……どっちが先に死ぬかッ!? 勝負だああああああァァァ!!』

 

 

「やめろ……やめろおおおおおォォォ!!」

 

 

大声で叫びながら邪黒鬼は刀を逆手に持ち、

 

 

ドスッ!!

 

 

 

 

 

自分の胸———心臓に突き刺した。

 

 

 

 

 

「ごふッ……!?」

 

 

大樹は口から大量の血を吐き出し、再び膝を着いた。

 

 

「大樹さん……!?」

 

 

「いや……いやよ……こんな推理……してない!」

 

 

目の前で起きたことに信じられず、ティナとメヌエットが首を何度も横に振った。

 

 

「ぐぁああああああ!!!」

 

 

ゴオオオオオォォォ……!!

 

 

邪黒鬼は叫び、黒い闇の煙が溢れ出す。いや、大樹の体から抜けているようにも見えた。

 

黒い闇は空に集まり、人の形を作った。

 

 

『危ないヤツめ……せっかくいい体を台無しにしやがった』

 

 

黒い闇で作られた人は、邪黒鬼だと口調から察することができた。

 

大樹は地面に倒れ、血だまりを作っている。

 

急いで大樹に駆け寄るが、重体な状態だとすぐに分かった、

 

 

『だが分離できた。しばらくはこれで持つだろ。力は貰った。神も、吸血鬼も、そしてこの俺の力! 正義の名の下、悪を裁けるッ!!』

 

 

黒い闇で作られた人の背中から四枚の黒い翼が広がり、空を舞う。頭部には角がある。大樹と同じような姿をしていた。

 

 

「それは……どうかなッ……?」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

倒れていた大樹がゆっくりと立ち上がった。

 

未だに血が止まらず、ポタポタと血の水たまりを作っている。

 

引き攣った笑みで鬼を見る大樹。絶対に良い状態ではない。

 

 

「大樹さん!」

 

 

「悪いなティナ……やっと俺は『俺』に戻れたよッ……!」

 

 

「もういいです! それ以上、何もする必要は……!」

 

 

「ある、んだよ……決着をつけないといけないんだ……!」

 

 

大樹は呻き声を出しながら自分に刺さった【護り姫】を引き抜く。そして、両手で持って構えた。

 

 

『無駄だ! お前は俺に勝てない! 全ての力を奪われたお前には!』

 

 

「全ては、奪えていないッ……」

 

 

『……何だと?』

 

 

大樹はニヤリっと笑う。

 

 

「ハッ……俺の、闘う意志だッ……!」

 

 

『……終わりだ。悪を救う必要がないことを———』

 

 

その瞬間、邪黒鬼の姿が消えた。

 

 

『———教えてやる』

 

 

否。光の速度で大樹の背後を取ったのだ。

 

そして、邪黒鬼は背中の翼で大樹に攻撃する。

 

今の大樹は正真正銘、雑魚と呼ばれても文句が言えないくらい最弱。対して邪黒鬼は神と吸血鬼の力を手に入れた最強。

 

勝利を確信できる。邪黒鬼は笑みを作りながら大樹を殺す。

 

 

『あぁ?』

 

 

 

 

 

その瞬間、邪黒鬼の世界が反転した。

 

 

 

 

 

空が地面に。地面が空へと浮いた。上下が反対になった。

 

 

『何故だ……』

 

 

黒い翼は大樹を捉えていない。地面にめり込み、刺さっているだけ。

 

 

『何故……』

 

 

邪黒鬼の体が膝を着き、ゆっくりと倒れる。

 

 

『何故だあああああァァァ!!!』

 

 

ゴトッ……

 

 

 

 

 

鬼の(あたま)が地面に落ちた。

 

 

 

 

 

「これが、俺とお前の差だッ……!」

 

 

邪黒鬼の背後から聞こえた大樹の声に、混乱した。

 

一瞬の出来事だった()()。光の速度で背後を取り、翼で大樹の体を壊す。

 

それで終わりだった。鬼の勝利だった。

 

だが、大樹は光の速度で動いた鬼を斬り、音速で攻撃してくる翼を回避した。

 

分からなかった。こんなに力を持った相手を、力を奪われた相手に、

 

敗北したことが、分からなかった。

 

 

「光の速度には欠点がある……」

 

 

『欠点だと……?』

 

 

あるはずがない。邪黒鬼はそう思っていた。

 

頭部だけになった邪黒鬼は恐る恐る聞く。

 

 

「距離が決まっていること。思考を越えた速度。そして、一度決めた場所からキャンセルができないこと……」

 

 

思考を越えた速度。ゆえに無かったことにはできない。つまり———。

 

 

『まさか……!?』

 

 

場所、タイミングなど邪黒鬼の全てを行動を読んでいたことになる。

 

一本間違えば死んでいた行動に、冷静に対処した大樹に邪黒鬼はさらなる恐怖を覚える。

 

 

「もう分かっただろ? 悪いな邪黒鬼」

 

 

大樹は地面に落ちていた【名刀・斑鳩(いかるが)】を拾う。

 

 

「しばらく、封印させてもらう」

 

 

『本気で言っているのか!?』

 

 

邪黒鬼は大樹の正気を疑った。力を奪った状態の邪黒鬼を封印することは、大樹の力———神の力、吸血鬼の力までも封印することと同じということ。

 

 

『俺を封印すれば全ての力を失う! 分かっているのか!?』

 

 

「【護り姫】はここにあるから大丈夫だ」

 

 

『それ以外が使えなくなる! お前はさらに弱くなって何も———!』

 

 

「守れる」

 

 

大樹は刀を持ち、邪黒鬼に近づく。

 

 

「言っただろ。俺は全てを救う。もちろん、お前もだ」

 

 

『ッ!?』

 

 

驚愕する邪黒鬼に大樹は微笑みながら【名刀・斑鳩】を近づけた。

 

 

「今は……休んでいろ」

 

 

『……何故だ。何故お前は……そうやって許せる』

 

 

「……そうだな。多分———」

 

 

大樹は告げる。

 

 

「———それが、良いと思っただけだ」

 

 

軽い言い方かもしれない。でも、これでいいと俺は思っている。

 

そうやって人を許し、悪を救う。これ、悪いこととは思わないだろ?

 

 

『……それが、全てを救う答えか』

 

 

「単純で素っ気ないだろ? でも、俺は納得しているんだ」

 

 

邪黒鬼の姿が段々と薄れる。すると黒いギフトカードが姿を見せた。

 

最後に邪黒鬼は告げる。

 

 

『その答え……見ている……』

 

 

「ああ、見ていてくれ」

 

 

そして、邪黒鬼は姿が完全に消えた。ギフトカードから溢れ出した黒いオーラも同時に消えた。

 

お前は根っからの悪じゃない。しっかりと正義の心がある。

 

だから俺は邪黒鬼(お前)を救いたいと思えるんだ。

 

手に残ったのは【護り姫】と【名刀・斑鳩】……そして、地面に落ちたギフトカードだけだった。

 

 

________________________

 

 

 

「大樹……なのか……?」

 

 

邪黒鬼を見事に倒した大樹に近づき、疑いの目を向けるキンジ。他の者たちも同じだった。

 

今まで殺気とは違う力を持っている威厳に近いオーラを放っていたが、今は全くない。まるで一般人のような感覚だった。

 

 

「おう。まぁ正確に言えば力が全くない大樹だ」

 

 

「ど、どのくらい無くなっただい?」

 

 

刻諒が恐る恐る尋ねる。

 

 

「今の俺は一般校に通う高校三年生と同じだ」

 

 

「「「「「弱い!?」」」」」

 

 

決して高校生が弱いというわけではない。だが今までの大樹と比べたら遥かに弱い。

 

 

「ホラホラ。剣の太刀筋が見えるだろ?」

 

 

「遅い!?」

 

 

「というか胸が超痛い……!」

 

 

「「「「「うわあああああァァァ!?」」」」」

 

 

死にかけの大樹を見て焦り出す一同。パニック状態だ。

 

 

「ど、どうする兄貴!? マジで雑魚になってるぞ!」

 

 

「このままだと死んでしまう!」

 

 

「大変だ! 呼吸が止まっている!!」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

本当に呼吸が止まっていた。ティナは涙をボロボロと出しながら大樹に抱き付く。

 

その光景に周りの人たちはさらにパニック度を加速する。

 

 

「【桜花】だ! 大樹の心臓をもう一度動かす!」

 

 

「今の大樹君が受けたら死ぬのでは!?」

 

 

キンジの案は刻諒によって却下。

 

 

「なら凍らせよう! 長く持つぞ!」

 

 

「冷凍食品じゃないから!?」

 

 

ジャンヌの案は理子によって却下。

 

 

「なら【流星(メテオ)】だ!」

 

 

「それだ!」

 

 

「だからないよ! どうして兄弟揃ってボケているんだい!?」

 

 

遠山兄弟の案は刻諒によって却下。

 

 

「落ち着きなさい。メヌエットがいるじゃない」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

夾竹桃の言うことにそうだっと皆は思った。この場でもっとも頼るべき人物はシャーロックの曾孫であるメヌエットだと。

 

 

「……桃子」

 

 

メヌエットは夾竹桃の顔を見ながら告げる。

 

 

「ダイキは……大丈夫よね……!」

 

 

メヌエットの目には涙が溜まっていた。

 

 

(((((しまった。ティナと同じ……!)))))

 

 

メヌエットは14歳。ティナと同じくらい悲しんでおり、どうしようも無かった。

 

夾竹桃はメヌエットの頭を何故ながら落ち着かせる。

 

 

「大丈夫よ。あの人たちが何とかしてくれるから」

 

 

(((((他人任せ!?)))))

 

 

実は夾竹桃もパニック状態だった。

 

 

「そ、そうだ! 毒だ! 夾竹桃さんは毒で傷を治せたり———!」

 

 

「心臓に穴が空いているのよ?」

 

 

「———しませんね……」

 

 

刻諒の案は全く駄目だった。

 

 

「さて、彼を助けようか」

 

 

「だから助けるってどうやってだよ」

 

 

「簡単さ。私に任せたまえ」

 

 

「だからどうやって———」

 

 

そこでキンジの言葉は止まった。

 

喋り方は刻諒に似ていた。しかし、声が全く違う。

 

ゆっくりとキンジは振り返る。みんなも一緒にキンジの後ろを見た。

 

 

「久しぶりだね、キンジ君」

 

 

ひょろ長い痩せた体。鷲鼻に角ばった顎。右手には古風なパイプ、左手にはステッキをついている。

 

クラシックスーツで正装した男。彼の名は、

 

 

 

 

 

「しゃ、シャーロック・ホームズ……!?」

 

 

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

キンジの言葉に誰もが息を飲んだ。

 

死んだはずの有名人が目の前にいることに驚きを隠すなど不可能に近い。

 

 

「さて、船はすぐそこまで来ている。急いで運ぼうか」

 

 

シャーロックがそう言うと、後ろからシャーロックより高い人……いや、鬼が現れた。

 

 

(えん)!?」

 

 

「遠山? 何故(なにゆえ)ここに?」

 

 

「閻君。話は後にしたほうがいい。僕の推理では彼はあと10分で本当にこの世を去ってしまう」

 

 

閻はシャーロックの言うことに驚き、すぐにティナごと大樹を担いだ。ティナは驚くも、すぐにシャーロックに顔を向ける。

 

 

「大樹さんは助かるのですか!?」

 

 

「安心したまえ。君の大切な人は失わせない。それに、彼が失うことはとても不味い」

 

 

「ひ、曾お爺様……彼が失うと不味いとはどういうことですか?」

 

 

「メヌエット君。君は彼と出会ってどうだった?」

 

 

メヌエットはどうしてシャーロックがそんな質問をするのか理解できなかったが、

 

 

「変わりました。良い方向に」

 

 

思ったことを伝えた。

 

 

「そうだ。彼は人を変える力がある。つまり———」

 

 

シャーロックは告げる。

 

 

 

 

「———この戦争を終わらせる切り札なんだ」

 

 

 

 

________________________

 

 

 

現在時刻 22:00

 

 

 

「……どこだここは?」

 

 

気が付けば俺は病院にあるようなベッドに寝かされていた。手には何本もの点滴が打たれており、体中包帯で巻かれていた。

 

着ている服は緑色のズボンだけ。医療用に使われる衣服だ。

 

 

「……………」

 

 

真っ白の部屋。医療機器しかなく、ドアはカードキーを使うタイプのようだ。

 

……何かバイ〇ハザードの映画に出ていた部屋みたいで怖い。僕、実験に使われちゃうの!? Tウ〇ルス打たれるの!?

 

俺は点滴を丁寧に……痛ッ!? 丁寧に外せなかったよぉ……!

 

全ての点滴を外した後(若干失敗)、俺はカードキーを使うセンサーに近づく。うん、やっぱ針金とかねぇし、俺にそんな器用な真似は……一応できるけど。針金がねぇと始まらない。

 

 

……よし、ぶち破るか☆

 

 

いつもの如く、俺は蹴りの準備。距離を取り、思いっ切り、力一杯、ドアに蹴りを入れた。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

「痛えええええェェェ!!!???」

 

 

扉の前でゴロゴロと転がり痛みに耐える。痛い痛い! 何で!?

 

 

「しまった!?」

 

 

俺は思い出す。邪黒鬼を封印したことで、俺の力も無くなったことを!

 

 

「ぐぅ……これが一般人の俺か……!」

 

 

あのTシャツ。今なら周囲が納得して着ることを許してくれそう。

 

 

「……というか、俺はあの後、気を失ったんだよな……?」

 

 

刀を自分の心臓に突き刺して(正気じゃない)鬼を倒して(普通じゃない)大量出血で気を失った(もうヤバい)んだよな。俺、力が無くなっても普通に大変なことになってんだけど?

 

 

ピロリンッ

 

 

「ッ!」

 

 

ドアの横に取りつけられたモニターが『ROCK』から『OPEN』に変わった。誰かが入って来る!

 

 

「目が覚めたかね?」

 

 

「!?」

 

 

入って来たのはあのクソ名探偵だった。そう、シャーロック・ホームズ。

 

 

「クソッ! 力があれば殴っていたのに……!」

 

 

「相変わらず口が悪いね君は」

 

 

シャーロックは上機嫌にパイプを回しながら微笑んだ。この余裕、ムカつく。

 

 

「というかお前死んだよな? 老兵なんたらこうたら言いながら死んだよな?」

 

 

「『老兵は死なず、ただ消え去るのみ』だよ。去ればまた来る」

 

 

いや来るなよ。来なくていいよ。

 

 

「死んだと世間に思わせて甦るのは僕が良くやる事だけど、君は本当に死んで本当に生き返るじゃないか? 君の方が———」

 

 

「それ以上はやめろ。泣くぞ?」

 

 

はいはい人外ですよこちとらよぉ! 文句あんのかゴラァ!

 

 

「……………はぁ、一応感謝はする。どうせ助けたのはお前だろ?」

 

 

「いい推理だ。私の曾孫の大切な人だからね」

 

 

「……その曾孫が危ないことは推理できているか?」

 

 

「いや、できなかったよ」

 

 

「はッ!?」

 

 

俺は苦笑いするシャーロックに驚愕した。

 

 

「私は君が国際指名手配になって、日本で目撃された時までできなかった」

 

 

裏を返せば『日本で姿を目撃された瞬間に推理できた』ってことだよな? もうやだこいつ。

 

 

「君が空から落ちる瞬間も見るまではね」

 

 

「そこから見てたのか!?」

 

 

はえーよ!? 全然気付かなかったわ!

 

 

「お前といると疲れるわ」

 

 

「僕は楽しいがね?」

 

 

「ハッハッハッ、ワロスワロス。で、ここどこ?」

 

 

「僕と戦った時に君が壊した潜水艦だよ」

 

 

あー、世界最大級の原子力潜水艦ですね。イ・ウーの。嫌な思い出だからすぐに思い出せた。

 

 

「もうなんかいいや。俺の所持品は?」

 

 

「隣の部屋に置いてあるよ」

 

 

シャーロックについて行き、ドアから出る。綺麗に整備された廊下を歩き、隣の扉を開く。

 

ロッカーがいくつも置かれた部屋。中心には俺の荷物が置かれていた。

 

もちろん、リュックだけじゃない。【護り姫】、【名刀・斑鳩】、そして文字が見えない黒いギフトカード。

 

 

「ッ!?」

 

 

そして目を疑った。

 

 

「おい! この砂時計をいじったか!?」

 

 

「君が寝ている間に全部落ちたよ。不思議な砂時計だったから見させてもらったよ。私も、誰も触っていない」

 

 

俺は歯を食い縛り、表情を歪める。

 

始まった。向うの世界で、ガストレアの戦争が。

 

時間は残されていない。砂時計の隣に置いてあった赤いビー玉を握る。

 

 

(どうする? 帰るべきか? いや……)

 

 

俺はシャーロックの方を振り返る。

 

 

「メヌエットの推理とお前の推理。もう答え合わせは済ませているよな?」

 

 

「推理済みだよ」

 

 

さすがだな。

 

俺は砂時計をシャーロックに軽く投げて渡す。

 

 

「それはやるよ。もう時間が無い。今すぐみんなを集めて話をしようか」

 

 

 

________________________

 

 

 

リュックには着替えが無かった。武器や食料を詰め過ぎた結果がこれだよ。

 

仕方なくそのままの格好で行くことにした。

 

巨大なモニターが備え付けられた大きな部屋。中心には部屋の半分以上を占めている円形のテーブル。

 

俺が来た時には全員集合していた。

 

 

「大樹さん!!」

 

 

一番最初はやはりティナだった。抱き付いて来たティナを回転しながら上手に受け止めた。

 

 

「心配かけたな。もう大丈夫だ」

 

 

「だいちゃん!!」

 

 

「ご主人様!」

 

 

今度は理子とリサが飛びついて来た。

 

 

ドンッ

 

 

「ぐふッ」

 

 

さすがに受け止めきれず地面に押し倒される。重くないけど苦しいよ。

 

 

「あら? ダイキはモテる方だったの?」

 

 

メヌエットは車椅子を動かし、俺の近くに来て意外そうな顔で俺の顔を見ていた。

 

 

「も、黙秘する」

 

 

「じゃあ剥奪かしら?」

 

 

「はぁ!? もう10個貯まるくらい良い事しただろ!?」

 

 

「ふふッ、冗談よ。桃子とも仲良くなれたわ。ありがとう」

 

 

「私もメヌエットと仲良くなれてよかったわ」

 

 

よく見れば車椅子を動かしていたのは夾竹桃。仲良くしている二人を見て思わず口が笑ってしまう。

 

 

「でも大樹は渡さないわ」

 

 

「桃子。私もそれだけは譲れないの」

 

 

……………え? 仲良いですよ? やだなぁ、悪いわけないじゃん。二人のぶつかる視線で火花が散っているのは幻覚ですよ。

 

 

「傷はもう大丈夫なのか?」

 

 

「ジャンヌ! 久しぶりだな」

 

 

「その様子だと大丈夫のようだな。また会えて私も嬉しいよ」

 

 

癒しがここにいた。ジャンヌ、優しい子。

 

とりあえずティナたちに抱き付かれたまま立ち上がり、辺りを見回す。

 

 

「刻諒もちゃんといるな」

 

 

「ああ、しっかりといるよ。それと私の母上だ」

 

 

「母!?」

 

 

煙草を口に咥えた軍人服を着た金髪の美人。何でお母さんがいるの!?

 

 

「ロシア連邦軍の最高指令官をやっている。安川 (れい)だ」

 

 

お前の母ちゃん、とんでもないなオイ!?

 

えーと、次は……………おッ!

 

 

「あ、ワトソン。あとオプションのカイザー」

 

 

「!?」

 

 

「カイザーはオプションなんかじゃないよ!?」

 

 

スーツを着たカイザーとワトソン。だが戦力としては申し分ない。実力者だ。

 

 

「正直頼りにしているからな。カイザーもだ」

 

 

「今度は味方として戦う。頼られるように頑張らせてもらうよ」

 

 

「僕も。力になってみせるよ」

 

 

イギリスのエリートが仲間になってくれるのは嬉しいな。

 

 

「やっぱサイオンは駄目だったか?」

 

 

「彼がこれ以上関わるのは自分自身、何よりイギリスが危ないからね。仕方ないよ」

 

 

ワトソンの説明に納得する。確かに仕方ない。イギリスってなると、迷惑はかけれないな。

 

 

「ヒルダ。カツェ。眷属(グレナダ)の強い奴が味方になるとこんなに頼もしいとは思わなかったぜ」

 

 

「ふんッ、光栄に思いなさい」

 

 

「借りを返すだけだ。ドイツの名に恥じないようにな」

 

 

竜悴公姫(ドラキュリア)】に【厄水の魔女】。戦ったから分かる。二人がどれだけ強いことが。

 

 

「それにパトラとカn……誰だ貴様」

 

 

金一(キンイチ)ぢゃ! 忘れたのか!?」

 

 

「いや知ってるけど」

 

 

「あまり好かれていないようだな……」

 

 

「落ち込むなよ。キンジの兄さん」

 

 

「普通に金一でいいぞ。お前とは対等でいたいからな」

 

 

今は下ですよ私。

 

 

金女(かなめ)金三(きんぞう)だよな。会うのは初めてか」

 

 

「お兄ちゃんの友達だよね。初めまして!」

 

 

「その名前で呼ぶな。ジーサードだ。それより兄貴より人外なんだろ? あとでやろうぜ」

 

 

「絶対にやらん」

 

 

死ぬ。殺されちゃう。

 

今度は誰かなぁ……と思っていると、俺は静かに驚いた。

 

 

「……鬼、なのか?」

 

 

「如何にも。我は、閻」

 

 

やっべぇ……喋り方がラスボスみたいなんだけど。俺の【魔王】の称号あげたい。

 

身長2メートルある巨体の鬼の女性。ヤバい雰囲気がガンガン伝わって来る。今の俺だと瞬殺されちゃう。

 

 

(一番ヤバイのはあのちっこい鬼だな……)

 

 

フルーツをばくばく食べている少女。しっかりと頭部には角がある。閻とは違う。格が。

 

 

「大樹さん。彼女は覇美……様です」

 

 

「え?」

 

 

ティナが名前を教えてくれたのはいいが、様付け?

 

 

「覇美じゃダメなの———」

 

 

ザンッ!!

 

 

気が付けば俺の首元に刀の刃が当たっていた。鬼丸拵(おにまるこしらえ)の刃が。

 

黒髪ロングの細身な鬼。鬼は俺のことを睨みながら、

 

 

「覇美様、だ」

 

 

「い、イエッサー……」

 

 

震えながら何度も頷く。これか。ティナが様付けする理由は……!

 

 

「津羽鬼! 楢原と闘うな! 我とて敵うか分からぬ相手ぞ!」

 

 

いや、瞬殺できますよ。今なら。お買い得ですね!

 

 

「ですが閻姉様……!」

 

 

(コン)も怯えている。無用な闘いはやめよ!」

 

 

うおッ!? 壺の中にも鬼がいる!? 多いな鬼!?

 

 

「楢原ッ!」

 

 

「またかッ!」

 

 

今度は背中から抱き付かれた。首だけ動かし、抱き付いた正体を見る。

 

 

「お前は……(コウ)か!」

 

 

中国で緋緋神に一時的に乗っ取られた少女。何故か名古屋武偵女子高(ナゴジョ)の制服を着ている女の子。スカートの中から伸びている尻尾がピョコピョコと動いている。

 

 

「無事で良かったです! 重傷を負ったと聞いて猴は心配で……!」

 

 

「大丈夫だ。この通り、元気だ」

 

 

猴の頭をワシャワシャと撫でながら元気だと伝える。

 

 

「やはり【魔王】の称号は飾りなんかではありませんね」

 

 

「テメェ……ロシアで襲われたぞゴラァ……!」

 

 

色鮮やかな刺繍入りの漢族・文官の宮廷衣装を着て、丸メガネをかけている男。諸葛(しょかつ)静幻(せいげん)だ。

 

俺はピクピクと眉を動かしながら諸葛を睨む。

 

 

「それについては申し訳ありません。まさかドイツが来るとは……すぐに救援を出しましたが……そういう問題ではないですね。とにかくお詫びを申し上げます」

 

 

「ぐッ……逆に責めずらい……!」

 

 

本当に反省しているようだから何も言えない。文句を言ってくれたら責めるのに。

 

さてと、ずっと気になっていた人?の前に俺は立つ。

 

 

「「……………」」

 

 

尖った耳に尻尾を生やした少女の姿を見て唖然としてしまった。背中には賽銭(さいせん)箱を背負っている。

 

少女と目が合い、沈黙が漂う。

 

 

「お、お金は今ありません……」

 

 

おっと、カツアゲされるひ弱な男の子みたいになっちまったぜ。

 

 

「む、それは仕方ない」

 

 

少女はピコピコと耳を動かして残念がる。

 

 

玉藻(たまも)さんですよ大樹さん。色金について知っている人物です」

 

 

「ッ! 玉藻、それは本当か?」

 

 

「案ずるでない。あとで話そうと思ったところだ」

 

 

「そうか。頼む」

 

 

「うむ」

 

 

金を手に入れたら俺は真っ先に玉藻の所に行くことを心に誓う。あとでキンジに貰うか(脅迫で)。

 

 

クイクイッ

 

 

今度は俺の肘の余った脂肪を掴まれる。誰かと思って振り返ってみると、

 

 

「お久しぶりです大樹さん」

 

 

「おお! レキじゃないか! どこに行っていたんだよ!」

 

 

武偵制服を着たレキ。首にヘッドホンをかけて、肩にドラグノフ狙撃銃を背負っている。贅肉をプニプニと掴まれながらレキは説明する。

 

 

故郷(ウルス)へ帰っていました。風と会って来たのです」

 

 

「風、ねぇ……」

 

 

「風は大樹さんに『託す』と言いました。私も、それに乗ります」

 

 

「随分と買われているな、俺も」

 

 

風に託されちゃったよ。凄いな、俺。

 

ある程度挨拶は済ませたかなっと思っていると、俺を見ている視線を感じた。その方向を見てみると、

 

 

「……久しぶりだね」

 

 

白雪(しらゆき)……」

 

 

制服では無く、巫女服を着た星伽(ほとぎ) 白雪。表情は無理をして笑みを作っているようだった。

 

 

「……まさかだと思うが、今俺の考えていることは正しいのか?」

 

 

「うん、ほとんど合っていると思う」

 

 

「……そうか」

 

 

俺は気付いてしまった。この場に、白雪がいることの重大性に。

 

 

「大樹。話は今からする。とりあえず席についてくれ」

 

 

すぐにキンジが話に入って来た。俺は頷き、白雪を任せる。

 

俺が席に座り、これでほぼ全員が揃った。実はここにいるのはリーダー格になっている人物と重要人物だけしか集めていない。ジーサードの部下や曹操(ココ)姉妹、セーラ・フッドは別室で待機しているらしい。

 

セーラ・フッド。俺もよく調べていなかったから分からないが、【颱風(かぜ)のセーラ】と呼ばれる程の実力を持っているらしい。

 

 

「さて、自己紹介はほとんど済ませているから始めようか」

 

 

シャーロックの言葉で、会議が始まった。

 

この会議は、もう二度とないだろう。世界中の最強の猛者が一度に集まることは。

 

 

「単刀直入に言わせてもらう。ここまで人が揃うのは推理通りだと」

 

 

また自慢だよ。はい凄い凄い。

 

 

「僕達が集まった目的は二つある。まずは先に第三勢力の御影(ゴースト)と呼ばれる組織の話をしよう」

 

 

「話すって言ったって、何を話すんだ?」

 

 

キンジがシャーロックに尋ねる。シャーロックは古風なパイプをクルリッと回転させて答える。

 

 

「まずは敵の勢力の話をしよう」

 

 

「それならマッシュが調べているぜ」

 

 

ジーサードがそう言うと、モニターに様々なデータが映し出された。

 

 

「……洒落にならねぇな」

 

 

俺はデータを見て一言だけ呟いた。

 

 

 

 

 

《敵の数 約400万人》

 

 

 

 

 

 

「ガストレアより多いじゃねぇか……!」

 

 

俺以外、誰も喋れない。圧倒的すぎる数に、絶望するしかない。

 

 

「アメリカ軍だけなら150ちょっとだろうな。だけど今は他の国に要請を出して、急に守りを堅めはじめたんだ」

 

 

俺はジーサードの説明に唇を噛む。急に守りを堅め出した理由は明白だった。

 

 

「ティナ。向うでガストレア戦争が始まった。時間がない」

 

 

「ッ!?」

 

 

俺の言葉にティナは驚き、酷く顔を歪めた。

 

ガルペスが俺たちの存在に気付いている。だからアメリカの守りを固めた。

 

だからこそ、ガルペスはミスをした。

 

 

「これで確信した。アメリカに、俺の……いや、俺たちの探していたモノがある」

 

 

「何か分かったようだね。大樹君の勘は合っていることは推理できるよ」

 

 

「推理する必要ねぇよ。合ってる確率は100%だから」

 

 

そう、露骨に守りを堅めて来たのはそこに入られたくないから。つまり、そこに重要なモノ———このくだらない戦争を終わらせる鍵がある。お子様でも分かる発想だが、確実だと思う。

 

 

「話すことはまだある。飛行機の販売チケットが安くなったことと、飛ぶ数が圧倒的に減ったことだ」

 

 

「? 何か関係があるのか?」

 

 

ジーサードの報告に遠山()()が首を傾げた。

 

 

「キンジ……アレ(ヒステリアモード)じゃないと馬鹿なんだな」

 

 

「おい大樹。殴られたいのか?」

 

 

「説明するからやめろ。でも説明する前に、ジーサード。空港の警備体制は厳しくなったよな?」

 

 

「ああ」

 

 

「航空機を減らして一つ一つ念入りに調べるつもりだな。俺たちがアメリカに侵入しないように、細工しないように。チケットの安い理由は航空機の数が減ったからそのサービス」

 

 

俺の説明にキンジは納得する。でもなキンジ。お前以外に分かっていない奴はちゃんといたから安心しろ。

 

 

「変装で切り抜けることは?」

 

 

「必ず超能力(ステルス)が使える者やアメリカの超偵(ちょうてい)がいるだろう」

 

 

理子の案にジャンヌは首を振る。パトラとカツェも頷き肯定していた。見破る系統の超能力(ステルス)を見たことがあるんだろうな。

 

 

「そもそもアメリカにどうやって行くかは決まっているだろう」

 

 

「……やっぱりこれなのかい?」

 

 

ニヤニヤしながら言う俺に、刻諒が苦笑いで確認する。

 

 

「この原子力潜水艦で突撃だ」

 

 

(((((やっぱり大樹だな……)))))

 

 

無鉄砲過ぎる大樹の案に逆に安心した者が多かった。

 

 

「潜水艦から突撃するのは私が指示を出すわ。でも、敵の場所が海から遠ければ不利になるわ」

 

 

麗の提案に答えたのはシャーロックだった。

 

 

「僕の推理ならロードアイランド州にある港から約3~5㎞の場所に基地があるはずだ」

 

 

「え?」

 

 

シャーロックの推理に麗はポカンっと口を開ける。

 

 

「す、推理なら確信はできないの———」

 

 

「刻諒の母さん。基地はそこにある。必ず」

 

 

「だ、大樹君? どうして首をそんなに振っているのかしら?」

 

 

「もういいんだ! これ以上、考える必要はない……!」

 

 

「どういうことなの!?」

 

 

シャーロックの推理は確実に、絶対に当たる。それがシャーロッククオリティなんだ……!

 

 

「そもそも強襲を仕掛けるにしても、こっちの戦力はどのくらいなんだよ」

 

 

「ざっと数えて40人。援軍を呼べる人はいるのか?」

 

 

俺の質問にカツェが答える。そして、

 

 

シーン……

 

 

誰も、答えなかった。

 

嘘でしょ? 40人? 数え間違いじゃないかしら?

 

 

「おい……まさかこの40人で……400万人倒すってことなのか?」

 

 

「楢原。ボクはハッキリと言わせてもらうよ」

 

 

「……うん。言っていいよワトソン。今の俺、ちょっと現実見れないから」

 

 

「分かったよ。ボクたちは、40人で400万人を相手にするということだ」

 

 

……うん、馬鹿なの? 俺たち、馬鹿すぎるだろ。

 

 

「勝てるかあああああァァァ!!!!」

 

 

「な、楢原が壊れたのぢゃ!?」

 

 

パトラが暴れる俺を砂で抑えて止める。

 

 

「今の俺は雑魚! 最強の俺でもこの数は無理だ!」

 

 

「落ち着きなさい」

 

 

メヌエットが俺をなだめる。

 

 

「私は戦わないので39人です」

 

 

「減ったよ! 減っちゃったよ!」

 

 

「り、リサは頑張りますので!」

 

 

「そして減ったよ!! どうすんだこれ!」

 

 

リサが戦えないことは十分、俺が知っていた。無理させるかよ。

 

 

「私も無理ですね」

 

 

「諸葛! 貴様はシャーロックと同等に戦える力があったことは知っているんだぞ!」

 

 

「今は参謀ですので。それに一人減ったぐらいでは変わりませんよ」

 

 

「変わるわ! 40人もいないんだぞ!?」

 

 

「や、やっぱりリサも……!」

 

 

「無理をしないでくれリサ!」

 

 

諸葛……ちょっとは頑張ってほしかった。まぁ仕方ないか。体が良くないみたいだし、無理はさせれん。

 

 

「ほーっほほほほ! 私の力があればこんな数でも、蹴散らせてみせるわ!」

 

 

「殺しは禁止なヒルダ」

 

 

「当たり前よ。痺れさせるだけでいいもの。無駄に使ったら、力が勿体ないわ」

 

 

「……どういうことだ?」

 

 

「何か勘違いしていないかしら? 別に敵は倒さなくていいのよ? 敵の大将を討てばいい話、それだけじゃない」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

その時、俺たちの間に戦慄が走った。

 

 

「ヒルダが……賢いだと!?」

 

 

「どういうことかしら!? 馬鹿にしていたのねあなた!」

 

 

「嘘……理子より賢い!?」

 

 

「理子からも馬鹿にされている!?」

 

 

「ヒルダが賢い! みんなも褒めようか!」

 

 

「「「「「うん賢い賢い」」」」」

 

 

「全員!? 私を何だと思っているの!」

 

 

真っ赤な顔をしたヒルダを見て一同リラックス。ツンデレ可愛いな。

 

だが敵の主将を討ち取れば恐らく戦争は終わるのは確かだ。しかし、問題は主将が誰か、だ。姫羅が主将だとは俺は思わない。仮に姫羅が主将ならば参謀に優秀な人がいるはずだ。もしくはその参謀が主将の可能性も。

 

兎にも角にも、やることは『ボスを吊るせば勝ち』ということ。『ボスを埋めれば勝ち』でもOK。

 

 

「やることは大体決まったようだね。作戦は金三君の優秀な部下に任せるとしよう。今日中に、決めれる内容ではないのだから」

 

 

シャーロックがそう締めくくり、とりあえず襲撃の話は終わった。ジーサードと呼べと金三は言っていたが、多分変える気はないなシャーロック。

 

この作戦会議はまだまだ続くようだな。念には念を入れた作戦でないと、400万人には勝てない。念を入れても勝てる気がしないのは俺だけだろうか。

 

 

「さて、次はもう一つの目的を話すとしよう。大樹君」

 

 

「分かってる。まずは俺の話を聞いてくれ。ティナも、初めて言うからちゃんと聞いてくれると助かる」

 

 

「大丈夫です。私はどんなことを聞いても、嫌いになりません」

 

 

「そうか。実は俺って巨乳好きな———」

 

 

ガキュンッ!!

 

 

頬に何かが掠った。

 

 

「真面目に言ってください」

 

 

「ずびばぜんでじだ……!」

 

 

ティナが撃ったと分かった瞬間、俺は涙声で謝った。怖いよ! ジョウダンダヨ!

 

 

「今から話すことは他言無用で頼む」

 

 

俺は全てを打ち明けた。隠していたこと全てを。

 

死んで神に生き返してもらったこと。神に力を貰ったこと。いろんな世界に行ったこと。

 

美琴、アリア、優子。三人を守れなかったこと。同じ神の力を持った敵と戦っていること。

 

優子を救い、アリアが緋緋神になったこと。

 

全て、話した。

 

1時間という長い話に誰も文句を言わなかった。真剣に聞いてくれた。

 

 

「俺がこの世界にいるのは、アリアを救うためなんだ」

 

 

「……そういうことだったのか。僕が君の推理をできなかったのは、神の力があるから。いや———」

 

 

シャーロックは面白そうに告げる。

 

 

 

 

 

「———選ばれた血族の定めなのかもしれない」

 

 

 

 

 

シャーロックの言葉に俺は戸惑った。

 

 

「血……? 吸血鬼の力のことか……?」

 

 

「どうやら君も知らないようだね。まぁ僕の推理でも、君は絶対に知らないと思っていた」

 

 

頭が混乱する。冷静になって考えようとするが、分からない。

 

恐らくシャーロックは俺を治療している時に採血をしたはずだ。それを調べて、物事を口にしている。

 

だが、『選ばれた血族』の意味が分からない。

 

 

「ひ、姫羅のことか? 楢原家の血とか……」

 

 

「正解だ。ただ、大樹君が思っているようなこととは違う」

 

 

シャーロックは古風なパイプをテーブルに置き、一枚の紙を取り出した。

 

その紙には俺の血液の情報が書かれていた。DNA情報、血液の組織構造が載っていた。

 

完全記憶能力を使い、医学の知識を思い出す。

 

 

「……………」

 

 

「大樹、さん……?」

 

 

紙を黙り続けたまま見る大樹。ティナが心配そうな声で呼ぶ。

 

やがて大樹は唇を震わせ、言葉を出す。

 

 

「シャーロック……」

 

 

顔を真っ青にしながら。

 

 

 

 

 

「俺、女の子なのか……!?」

 

 

 

 

 

「「「「「ええええええェェェ!?」」」」」

 

 

「違うよ。そこを見間違えているんじゃないのかい?」

 

 

「あ、ホントだ。何だよびっくりさせんなよ」

 

 

(((((こっちの台詞だ……!)))))

 

 

もし力がある大樹なら今ここでボコボコにされていただろう。

 

 

「じゃあ何だよ。別にも変わったところはねぇぞ?」

 

 

「実はそうなんだ」」

 

 

シャーロックの言っていることが分かるのに分からない。何が言いたいのか、分からない。

 

 

「大樹君。君は今日を迎えるまで、どれだけ怪我をした?」

 

 

「あぁ? 数え切れねぇくらいだと思う?」

 

 

(((((数えれていない……)))))

 

 

何か周りの人たちの視線が痛い。思い出せば分かるのだがメンドクサイ。

 

 

「たくさん怪我をして、血を流して、治療して貰った。当然輸血もしたことがあるだろう」

 

 

その時、体の体温が冷えていくのが分かった。

 

怖い。シャーロックの出す推理が怖いんだ。

 

アイツの口から出る言葉に、俺は『俺』でいられるのか?

 

 

「怖がっては駄目だ。心拍数が上がっているよ。落ち着くんだ」

 

 

音や気流で全てが分かるシャーロックが俺の肩を叩く。

 

気が付けば血眼で紙を見ていた。シャーロックが叩いてくれたおかげで俺は我に返る。

 

 

「今から出す紙は君が僕と戦った後に行った病院の資料だ。もちろん、君のことが書かれている」

 

 

「い、嫌だ……! ……はッ?」

 

 

嫌だ? 何がだ?

 

突然無意識に出た言葉に、俺は驚く。

 

 

「……僕の推理が正しければ君の『完全記憶能力』という力は———」

 

 

脳が激しく警告を出している。しかし、俺は聞くことをやめない。

 

 

 

 

 

「———君を騙している」

 

 

 

 

 

同時に、シャーロックの出したもう一枚の紙を見てしまった。

 

 

「……ありえない」

 

 

「じゃあ思い出してごらん。君は何か」

 

 

「分かるに決まっているだろ……………分かる……絶対に……」

 

 

「普通の人間なら、即答できる質問だよ」

 

 

シャーロックは問いただす。

 

 

 

 

 

「君の()()()は何型だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分からない……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

俺の言葉に誰もが驚いた。

 

隣に座ったティナが二枚の紙を見比べる。

 

最初に出したシャーロックの方には『O型』と書かれている。

 

 

「そんな……そんなことって……!?」

 

 

「ハッキリと言わせてもらうよ。大樹君。君は神の力で常人ではないっと言った。しかし———」

 

 

シャーロックは告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———君自身も、普通じゃないんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう一枚の紙の血液型は『AB型』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、楢原家の引き継がれ続けた血の秘密が明らかになる……かもしれませんね。

この後書きは100話記念&お気に入り数1000越え記念での番外編アンケートになります。興味の無い方でもブラウザバックせずに参加してくれると大変嬉しい限りです。

まずは読者にお礼を申し上げます。本当にありがとうございます。

お気に入りをしてくれた方、評価してくれた方、感想を書いてくださった方、もちろん、読んでくれた方々に感謝の気持ちをお伝えします。

本当に、ありがとうございます。

それでは番外編アンケートについて話をします。やはりこの読者と共に楽しむことができるシステムは本当に素晴らしいですね。

番外編は今回2話+主人公紹介説明。合計三話を書こうと思います。

ですが正直に言いますと、何を書けばいいのか全く分かりません。申し訳ないです。

そこで、アンケートを取りたいと思います。(他人任せ)

これから題名を書くので、それが見たいと思ったモノに二つ入れてください。


・原田風紀委員のお仕事 (禁書目録編)

・リアル刑事人生ゲーム (緋弾のアリア編)

・もう一日の休日 (バカとテストと召喚獣)

・火龍誕生祭の過酷なゲーム (問題児が異世界から来るそうですよ?編)

・はじっちゃんとフィフちゃん (魔法科高校の劣等生編)

・Gの超逆襲 (ブラック・ブレット編)


以上の二つから抜粋します。1番目と5番目ぱねぇ。

どれも面白い作品に仕上げれるように頑張ります。このアンケートは活動報告にありますので感想欄に書かず、必ず活動報告欄に書いてください。

締め切りはブラック・ブレット編が完全終了してからです。(作者のさじ加減で終わる最低な行為です。大目に見てくれると嬉しいです)

そしてもう一つ。次の世界アンケートも続けておりますので、よろしければそちらのほうもよろしくお願いします。

これからも、この作品をどうかよろしくお願いいたします。

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