ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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第95話~昼食談義~

何度も言うようだがこの白皇学院はお金持ちの人間が数多く集まる学校である。 徹底された教師のよる管理、徹底された警備システム。 そして生徒たちを労わる為に数多くの娯楽要素がこの学校に設けられている。

 

このカフェテリアもその娯楽のひとつだ。

 

「つまりだ。 この学校は一般市民の俺たちの金をつかってこんな贅沢をしてるってことになる。 ていうか別にいらなくね? カフェテリア。 日本ってのはどうしていつもいらないものばかり金かけるかねー」

 

大きなテーブルの椅子に座るとテルはペットボトルを取り出して一気に喇叭飲み。 ペットボトルを口から離すとその身にしみる美味さに身を震わせた。

 

「クゥ、やっぱり炭酸は眠っていた体をたたき起こしてくれる最高の万能薬だぜ」

 

「テル夫くん、喇叭飲みは汚いよ」

 

と、ちょっと苦笑いを浮かべた泉が席に二番目に座る。 泉だけではない。 生徒会の理沙や美希、ハヤテ、ナギ、木原、黒羽と多くのメンバーが席に座っている。

 

「ええじゃないの。 それよりも生徒会長は?」

 

テルの問いに泉や他の生徒会メンバーは両手を上げて首を振った。

 

「全然だめだよー、生徒会室の鍵締めてさ、出てくる気なんてゼロゼロ」

 

「『もう私これ以上辱めるうけるなんて耐えられない!人として生きていける気がしない! もう無理! 死んでやる!』ってい言ってたな」

 

「完全に自暴自棄になってたからなーヒナ」

 

・・・うーん。やっぱり無茶ぶりなんて慣れてない人間にやらせるべきではないなァ。

 

と心の中でテルは今更ながらもヒナギクにした自分の罪に気づいたのだった。

 

「まぁこの後ヒナによるテル君の惨殺ショーが始まるのだ。 我々はマスクしてワインを片手に愉悦へと洒落込もうではないか、なぁナギ君」

 

「お前ら未成年だろ」

 

とナギのツッコミを無視して理沙は一際大きなペットボトルを取り出した。

 

「2Lコーラだ。 ワインとまではいかないがこれでテル君の悲劇を祝おう」

 

理沙は紙コップを全員に配り、コーラを順序よく注いでいく。 そして全員が注ぎ終わったのを確認すると理沙は満面の笑でコップを片手に高らかに言った。

 

「では諸君、テルくんのわずかな人生と後で開催される地のフェスティバルのために、そして我々の愉悦の為にかんぱーい!」

 

「かんぱーい!」

 

「かんぱーい!」

 

「かんぱーい!」

 

「かんぱーい!」

 

「かんぱーい!」

 

「・・・・」

 

「お前らノリ良すぎだろ! なんで俺がそんなバッドエンディング迎えなきゃいけねぇんだ! 勝手に決めんなよ!!」

 

何ら違和感なく理沙のノリに合わせる一同。 怒鳴るテルに理沙が冷静に答えた。

 

「いや、無理だろ絶対」

 

「うんうん、無理無理」

 

「今まさにテルくんの命を狙ってるかもしれないぞ? 時計塔から飛び落ちて上からグサッって・・・」

 

「なんだよそのFFのエアリスのバッドエンド! そんなの死んでもゴメンだよ!・・・いや、でもそれなら俺は主人公じゃなくてヒロインになるのか? 補正とかある?」

 

テルの問いに黒羽を除いた一同は勿論それはないと口を揃えたのだった。

 

 

 

「でもさぁ、テルくんってなんだかんだで道端で誰にも助けてもらえないまま死んでそうだよねぇ~」

 

皆がお弁当を口にいれ始めた直後、泉がこんな一言を本人の目の前で言い放った。

 

「なんだかんだでってなんだよ。 具体的にどんな感じ?」

 

テルが泉に聞くとサンドイッチを弁当箱に置いて答える。

 

「夜〇 月みたいな?」

 

・・・俺は将来、とんでもない犯罪でも起こすのか瀬川よ。

 

無論殺人ノートをもって新世界の神になるつもりは毛頭ないのがテルの考えだ。まず彼は新世界の神になるまえに借金を返済する必要がある。

 

「そういえばそんな設定有りましたね僕より微妙に少ない額の借金が」

 

「みんな結構忘れてたりするもんだよ。 うん、俺なんて実はこの腕が義手だっていうこと忘れてたりしてないか?」

 

木原が腕を回すとカポっと肘から先の腕が取れた。

 

「のわ―――――――――!! 私たちはそんなの知らないィ! 今初めて知ったよ!」

 

「しかも腕の先はなんとサイ〇ガン!?」

 

「お前コ〇ラかよぉ!? というか、人前でそんな簡単に見せびらかすなぁ! ホラーにしか見えないだろうが!!」

 

真夏のホラー映画のワンシーンに遭遇したかのように三人組は身を寄せ合った。 後にテルにより諸事情によるものだと説明を入れておいた。

 

「そうッ! 夜中には忘れられてしまった設定とかがたくさんあるんだよ! 例えば、こんな!!」

 

『僕には一億五千万の借金があります』

 

「いやッ、忘れてませんから! ただ話の中で全然取り上げられて無いだけですから!!」

 

「実際に解決策も浮かばないままもう四月か・・・どうすんだよオイ」

 

「それはテル、お前にも言えることだぞ」

 

・かめはめ波が効かない天津飯

・ドラえもんが来た理由

・スタンドの射程距離

・サザエさんの家の二階

・CCの本名

・斬魄刀のデカさは霊庄のデカさ

・鳴滝が実はゾル大佐

・初期遊戯王はカードゲームはしない

・コナン=新一

 

 

「ほらこんなにも!!」

 

「いや、いくらなんでも最後のは絶対みんな覚えてるでしょう!?」

 

「いや、ハヤテ。 そんなことはない。 もう連載始まり彼ももう元の姿と同じ年齢になるほどの時期が過ぎちまった。 だから定期的に新一がでないと、新一がコナンだってこと忘れちまう」

 

「だからたまに新一主体の話が出てきたりするんだよな・・・私もいいか?」

 

「どうしたナギ」

 

「実は私、最初は咲夜と胸のサイズがほぼ一緒だった気がするんだ・・・」

 

あーっと。この場に居た一同が頷いていた。

 

「まぁ、アレは忘れらたというより成長の過程―――な?」

 

「うん、ナギちゃん大ジョブだよ! 小さくたって需要あるから! 私だって小さいから!」

 

「嘘付けお前。 後、乙女はそんな事を平然と男子の前で言ったらいけないぞ泉」

 

「そうだぞ。 私たちの評判が下がるじゃないか!」

 

「美希ちゃんも理沙ちんも酷い!」

 

・・・とは言っても

 

・・・ああ。

 

ジト目の美希は理沙と視線を合わせ、生唾を飲んだ。 彼女らも気付いているのだ。 最近の泉の大幅な成長に。

 

「では、私にもあるのでしょうか・・・そんな忘れられた設定が」

 

と一同が話題を馳せる中、黒羽が初めて声を出した。

 

「黒羽ちゃんの設定? 今日初めてあったから私たちは分からないなー?」

 

「実はメガネをかけると凄い美人とか!?」

 

「オイ、メガネ! メガネをここへ!」

 

理沙が両手を甲高く叩いて音を鳴らすとハヤテがどこから持ってきたのか、スクェア型の黒いメガネを取り出して黒羽に差し出した。 黒羽が受け取るとそのメガネを掛け、その姿に一同からは感嘆の声が上がった。

 

「おおっ・・・!」

 

「知的っぽい・・・」

 

「頭よさそう・・・」

 

・・・まぁ、実際頭いいんだけどな。

 

驚く三人組を見てテルは至って思うところはない。 白皇学院の編入試験、筆記テストにおいて黒羽はわずか一週間のテスト勉強でその編入試験で満点をたたき出して入学しているのだ。 

 

今はさほど目立ってはいないだろうが、これから先、彼女はテストでも学年トップのヒナギクに迫るのではないかというのがテルやハヤテたちの見解である。

 

「・・・では、私はメガネ系だということをこれから自覚していればいいのですね。 いい勉強になりました。これが俗に言うメガネ属性ですか」

 

「・・・お前、どこでそんな言葉を覚えたんだ」

 

「ナギ様のお部屋にありました『魔法少女ブリトニー』の漫画にメガネの事がよく書かれていたので」

 

「わ――――――っ! なんで勝手に見ているのだ――――!」

 

コーラを飲んでいたナギがむせるて顔を赤くしながら席から立ち上がった。 黒羽は冷静に続ける。

 

「掃除中に中身を拝見させていただきました。 世紀末的な時代背景に魔法少女はミスマッチな感じがしますが・・」

 

淡々と語るのを聞いてナギは顔をテーブルに突っ伏した。 よほど恥ずかしい内容だったのだろう。

 

・・・喋れてるじゃねぇか。

 

テルはその光景を見て思う。 屋敷では慣れている人間しか話をしていない黒羽が見知らぬ人との話に溶けんこんでいることにだ。木原が言っていたことは別にそこまで気にすることはなかったのではないか。

 

「あは♫ 黒羽ちゃん三千院家のメイドさんなんだね? お仕事は大変?」

 

「・・・・・」

 

と、テルがそう思っていたのも束の間。 黒羽は泉の質問には無言だった。 笑顔で首をかしげる泉に対し、黒羽は少し顔を俯かせている。

 

「あー、すまん泉。 多分まだお前らとは慣れてないっていうーか、そういう感じなんだ。 初めてのやつとはあまり話せないんだよ。悪気はないんだホント」

 

「いいよいいよー。 私あまり気にしてないから♫」

 

助け舟を出したテルに泉は手を振って事情を理解したかのように見えたがそう言いながらも泉は少々残念そうだった。 だが泉は本当の意味でいつものような笑顔で黒羽と向き合った。

 

「私は瀬川 泉だよ♫ こう見えても、委員長さんなのだ! 困ったときはヒナちゃんに相談する前にこの委員長さんにお任せあれだよ!」

 

「いやぁ、さすがにお前だけじゃ相談してもなんも解決しないから」

 

「そうだな。泉だけだと相談者も悩みをさらに悪化させていくことになるだろうから」

 

隣にいた美希と理沙がニヤリとした笑みを浮かべていた。 黒羽が視線を二人に向けると二人は図ったように自らを指さした。

 

「私は花菱 美希。 生徒会のNo3とは私のことよ、実は政治家の娘なのだ」

 

「隣の私は生徒会No2朝風 理沙。 実は陰陽師の家系・・・すまんウソだ。 ただの巫女だ。 我々を簡単に思い出したければこれだけは覚えておいて欲しい・・・我々は―――」

 

そして三人は目線を同時に合わせると席から立ち上がり泉をセンターに、美希と理沙をサイドに展開させてポージングを取ってドヤ顔で言い放った。

 

「THE・生徒会!!」

 

ポーズを決めた三人組の背後には戦隊ヒーロの名乗りのごとく爆発の演出がかかっているように見えた。

 

「コイツら仲良過ぎね?」

 

「気にするなテル。 同じタイプの人間が三人集まっただけのことだろう」

 

「・・・・」

 

ずっとこちらの反応を伺っているのか、三人組はなかなかポーズを解かなかった。 どうしてとかないのか。 簡単だ。彼女らはこちらの反応を、返事を待っている。

すぐさま返したほうがいいのだろうが、なかなかどうしてか、良い返事が思いつかない。 そうしているとコップを持っていたテルがこちらを見て言った。

 

「ホラ、こいつらだけ自己紹介させてどうすんだよ。 相手だけっていうのはフェアじゃない。 お前も・・・な?」

 

そう言われて黒羽は少しだけ息を吸うといつもとなんら表情を変えることなく、三人の方を向いてその口を開いた。

 

「黒羽 舞夜です。 これから、宜しくお願いします瀬川さま、花菱さま、朝風さま」

 

その言葉に三人組は面食らったかのように驚いていた。

 

「おおう、まさかクラスメイトに様付されたのは多分生まれて初めてだ!」

 

「す、素晴らしく思った! 特別に生徒会のNo1の称号を与えよう!」

 

美希と理沙が目を輝かせていると泉は苦笑いで黒羽に笑いかけた。

 

「そんなにかしこまらなくていいんだよ! 普通に呼び捨てでもいいよ! それがダメならほら、「さん」とかでも全然違和感ないからね? 舞夜ちゃん」

 

「まい・・・やちゃん?」

 

泉の言葉に黒羽の言葉が一瞬だけ詰まる。 周りの人間が見てわかるように動揺していたのは明らかだった。

 

「そうだよ。 私たちは今日からフレンドなのだ―――!!」

 

泉が黒羽の手をとり、優しく握って上下に振る。 黒羽は腕が上下に揺れてなすがままに頭も揺らした。 それを見ていた美希と理沙は隠れるように会話をする。

 

「き、キマシだな・・・」

 

「ああ、キマシだ。 この小説はホモネタだけでは収まらずそっちにまで手を出しやがったか・・・・」

 

「ちょっと二人とも! わたしにそんな性癖はないからね!!」

 

と、恥ずかしそうにしている泉。 反対に黒羽はまんざらでもなさそうであった。 漸く、新しい一歩を踏み出せた気がするとテルは思う。 これで自分たちだけでなく、頼れる人間が増えたことを黒羽は実感したことだろう。

 

・・・実際こいつらだけじゃ滅茶苦茶不安だけどなぁ。

 

「良かったなぁオイ」

 

と木原が肘でテルの肩を小突く。

 

「滅茶苦茶心配だったんじゃねぇのか?」

 

「うるせぇんだよ機械族、磁石持ってきてぶっ壊してやろうか? その義手」

 

睨みをお互いに利かせた所で昼休みの終了を告げる鐘が鳴った。 この鐘の音から数十分後には午後の授業が始まる。テルが弁当をしまい、黒羽に声をかけようとした時だ。すでにあらしい環境の変化は起きていた。

 

「さて舞夜ちゃん、次は英語の授業だよー。 早くいこいこ!」

 

「こら、マダムを独り占めするな泉」

 

「お前はもう既に生徒会No1ではないのだから!」

 

三人組は弁当箱を素早く仕舞うと、黒羽の手を引いて校舎の中へと向かっていった。 その姿を見てテルは若干の安堵の表情を浮かべる。

 

・・・ま、アイツらでも大丈夫か……しばらくしたらヒナギクとかにも協力してもらうわけだし。

 

ふー、とため息を着いたテルは立ち上がる残った人数と共に校舎へと向かった。 

 

 

彼らの波乱万丈な学園生活は今始まったばかり。

 

 

「ところでハヤテ」

 

「なんですかテルさん?」

 

「俺の視力が少しだけ下がったっていう設定はみんなに忘れられてないかな?」

 

「いや、ぶっちゃけ書いてる人も最近思い出したんじゃないですかね?」

 






後書き
俺もこんな昼休みを遅れていたらなぁ・・・

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