ハヤテのごとく!~another combat butler~ 作:バロックス(駄犬
多分皆さん学生時代なら一人くらいは見たことはあるのではないでしょうか。
本日は晴天なり。
校門から校舎へと続く一本道を多くの生徒が歩いていた。 一人で歩く者、他人数で歩く者。 ここ白皇学院に通う生徒たちは全員がお金持ちの家柄や政治家の子という現代社会において大きなアドバンテージを持つ人間ばかりが集まる。
「おはようハヤテ君」
ライトピンクの長髪をたなびかせた少女は執事服で水色の髪の少年に駆け寄っていた。 水色の少年は振り向きざまの笑顔で明るく返す。
「おはようございます。 ヒナギクさん」
「おーっす会長」
「「ようヒナギク・・・」」
ハヤテと言う少年に続くように声をかけたのは隣に並んでいた同じ執事服の少年とまだ成長途中の背の金髪ツインテールの少女。 だが二人とも欠伸をしながらの挨拶なのでまったく爽やかさを感じない。
「どうしたの二人とも。 朝からそんな眠そうな顔して・・・まぁた夜ふかしかしらハヤテ君?」
ハヤテは苦笑いで肩をすくめた。
「まぁ、そんなところですかね。 でもお嬢様はともかく、テルさんは違うと思いますけど」
「そうなの? テル君、今どんな気分?」
そう言ってヒナギクはテルの顔を見た。 憔悴しきった顔で目の下にクマが出来ており、焦点もあっていない。 テルは不気味な笑みを浮かべながら顔を向けた。
「あー。 太陽が眩しい、なんか痛い痛い、目に思いっきりレモンの汁ぶっかけられてそのまま天に召されちまいそうな気分・・・ネロとパトラッシュの気持ちが分かるかもな」
「フルーツの果汁で死ねるなんて随分とまた特殊な性質を持ってるわねアナタ」
「ヒナギクさん、そういうことではないです」
苦笑いでハヤテが突っ込んでヒナギクはこほんと咳を一つ。
「で? 実際のところは?」
「えーっと。 まぁ、ストレスってやつですかね」
ストレス? その四文字を浮かべてヒナギクは考える。 あの無鉄砲お気楽バカ単純人間にストレスで悩まされてたりするのだろうか。 常にその四文字とは無縁なように見える。
「うーん。見たところかなり重症っぽいけど原因はなんなの?」
ヒナギクのその問いにハヤテは眉を潜めた。 それはヒナギクから見たら言うのを躊躇っているように見えた。
「じ、実はこれには結構深い深い、それはもうエーゲ海なみに深い事情がありまして・・・実際にヒナギクさんも見ればわかるはずですよ。 今日のホームルームにも理由が分かりますから。 あと、決して取り乱したりしてはいけませんよ。 政宗を出したりしてもダメですからね」
「それは何? なんかのフリ? 私にノリを理解しろと?」
とハヤテはそれだけ言って話を終えた。 多少はぶらかされたところもあるがテルの現在の状態を見るにヒナギクは判断する。
・・・結構厄介な状況にまた巻き込まれているようね。
ヒナギクが考察している間にもテルは千鳥足でゆらゆらと揺れながら歩いている。 精神的にタフなこの男がここまで追い詰められているのだきっと壮大な理由があるに違いない。
「分かったわ。 でも体の方はちゃんとしなきゃダメよ。 ま、今日はあまり五月蝿くならないから静かに授業が出来そうだけど」
と、ヒナギクは両手を広げて笑う。 いつも寝ているためテルは基本無害だが、五月蝿いときは本当に五月蝿い。 この間も教室にて、テルの席はナギの後ろにあるわけだがプリントを配布するときナギが意図的にテルに届かないようにしてテルとナギが口論。 『なんじゃコレ! 俺いじめられてんのか!? 結構新鮮! サブリミナル☆ザ・イジメの真っ最中!? ストップ・ザ・イジメ!!』などと発狂しながらナギの髪をヤシの木ヘアーにしていたため一時期授業が中止になった。
その時は政宗でテルを成敗したが。
「ちーっす!」
直後、テルの背中を爽やかな笑顔で飛び蹴りする男子生徒がいた。 フラフラのテルは顔面から地面にダイブ。 見事地面にキスをかましたのであった。
「いやぁ、登校前に間に合ってよかったー。 牧村先生のロボットがなかなか手ごわくてなぁ、データ収集に時間かかっちまった」
「木原さん。 おはようございます」
挨拶をしてきたハヤテに木原は親指を構えて「おう」と。 そしてその爽やかな背後で一人の男が死神にもふさわしい顔で立っていた。
「木ィィィィィィ原くぅぅぅぅぅん!!」
「おう、朝からテンション高いなオイ。 って、なんで右手に鉄パイプ持ってんの? オイ、早まるな! ギャー! 振り回すなってー!」
両手を振って窮地を脱しようとしたテルだがそんなのお構いなしにテルは血走った目で木原を追い回し始めた。 なんだかんだ二人は仲良しであるのだろうか。
「朝から呆れたものだわ。 というか、木原君のあの牧村さんの実験ってまだ続いてたのね・・・」
「ええ。 なんでもこれが入学と、住居確保の条件だとか・・・」
ヒナギクの言葉にハヤテが頷くように言う。 木原がこの白皇学院に入学していく条件として、学年主任の牧村詩織が自身の実験の手伝いをするというのが提案だ。
「でもできれば牧村先生にも抑えてもらいたいんだけどね。 あのロボットの出す被害って結構デカイのよ? 敷地が焼き払われたりするわ、樹林の何本かはへし折られたりしてるから費用でももうかなりかかってるんだから」
ヒナギクの「費用」という言葉にハヤテが不思議そうに尋ねる。 ヒナギクは少し考え込んで答えた。
「聞いた話だけど・・・たしか、倍にしたらハヤテ君の借金くらいにはなるらしいわよ?」
その言わずとも莫大な額にハヤテは開いた口が塞がらなかった。 しかしそれよりも。
・・・今日のホームルームで木原さんもどういう反応するのかな。
〇
「・・・はじめまして、黒羽 舞夜です」
騒がしかった教室ないの雰囲気が一気に沈静化した。 教卓の前に立ち、自己紹介をする白皇学院の制服を身に纏った黒羽 舞夜の一言にクラスの一同は見事に注目をモノにしたのだ。 さながら目の前に神や天使が現れたかのようだった。
ざわ・・・ざわ。
なんだろう。 凄い、ぶたれたい・・・!!
黒髪ロングの美少女だとッ!? クールビューティ! 是非とも我が嫁にッ!!
無表情だけどイイわね! 嫌いじゃないわッ!!
ちらほらと聞こえてくるのは男子の痛いとも捉えられる妄想、ひとり言の数々。 しかし、なかには女子の言葉も聞き取れた。 男女から高評価を得ていることには驚きである。
「黒羽さんは海外から仕事の都合で日本にきました。 実はとても体が弱いらしいので皆さん、帰国子女だからって盛り上がるのは大概にしろよー、特に男子は変に話しかけて不安になるような状態にさせんなー? もしそうなったらあんたらのテスト難しくすっから」
・・・横暴だ。 権力の横暴だ。
既に何人かの先生には黒羽の虚弱体質を本人の方から伝えてある。 雪路のこの発言は黒羽の体調を気遣ってのことだろう。
・・・さて他のメンツの反応は。
テルが辺りを見渡していると隣には口をあんぐりさせている木原の姿があった。
「なぁ、なぁなぁ。 俺って夢見てんのかな? なんか俺の元パートナー、兼トラウマ女が目の前で自己紹介していて、今日から同じクラスになるって話を聞いたんだけど」
「全てこれが事実だぜ木原クン。 コレ、結構複雑な事情があるからこれが終わったら色々とちょっと付き合ってもらうぜ」
思わずテルと同じく机に突っ伏した状態になる木原。 その木原が少しだけ顔を傾けてこちらに口を開いて続けた。
「それよりもいいのか?」
「あん? 何が」
「会長が刀構えてるぞ」
「は?」
テルが視線をヒナギクの方へ向けたとき、そこにいたヒナギクは木刀政宗を構えたヒナギクが立ち上がっていた。
〇
思えばこの状況は至極当然のことだった。 前回ヒナギクが黒羽と顔を合わせたのはナギを誘拐されたその日。 禍々しくもその腕からの武器を構えてこちらに襲いかかっている場面を見ているため。 彼女が黒羽に対してどんな印象を抱いているかは簡単なことである。
仮に言わせるならヒナギクは多分テルが知る限りはシスター・フォルテシアに次ぐ戦闘狂だ。 話し合いが無理なら実力行使、それがダメなら実力行使。 しかも生徒会長の立場上、彼女は一般生徒を守ろうとする。 ならばこのあとの展開は予想がつく。 早く止めなければこの教室が惨劇に見舞われることになるだろう。
・・・なんたって彼氏になるならヒナギクより強くなきゃいけないらしいからな。 その基準はどうなのかと思うけどな。
「えーっと、ヒナ? どうしたの木刀何か出して。 緊張してる転校生のために生徒会長としてなんか木刀を使った一発芸でもやってくれるのかしら?」
ここで雪路が何か突破口開いてくれた。 少し死に急ぐことになるかもしれないがこれに乗るしかない。
「さすがだぜ会長。 ここで一発面白いこと頼むよ。 なんか凄い固まった空気をとにかくなんでもいいから和らげてくれ。 うん、アンタ人間の鏡だ」
「え? い、いや・・・私は別にそんな・・」
雪路の煽りに乗ったテルが死を覚悟でヒナギクを更に煽った。 真剣な表情だったヒナギクは面を食らうが辺は既にヒナギクが何か面白い事をするのだろうという期待の眼差しが向けられている。
・・・なんかもうやるしかない雰囲気じゃない! ハヤテ君だって見てるのに!!
だが、ヒナギクは意を決した。 ここは何かやるしかないと。
深く深呼吸をする。 そして閉じていた目を開いて大衆を前にしてなるべく低い声で唱えた。
「時は200X年、世界は核の炎に包まれた―――――――!!」
頷いて、
「どうも、やっくんです」
肩に政宗を担いだヒナギクは滑った。
手にチョークを持っていたヒナギクの実の姉、桂 雪路は手にもっていた生徒手帳を地面へと落とした。 先生に黙って隠れながらPSPを手にしていた三千院ナギは何事もなかったかのように視線を画面へと戻した。
ヒナギクに対して恋心を抱いていた東宮は体を固まらせた。
テルは静まり返った場で突如立ち上がり引きっつった笑顔を浮かべて―――
「おぉーいクラスでバイキング行こうぜ、バイキング!!」
「うわああああああああああああああああああ!!」
まるで蒸気機関車のごとく湯気を発したヒナギクはドアを音を立てるくらいに開けて、両手を隠しながらその場を走りながら逃げていくのだった。
〇
漠然となった教室のその後はどうしてもヒナギクが教室に戻ってこなかったのでホームルームがそのまま続けられた。 聞けば、ヒナギクは生徒会室で一人で鍵を掛けて引きこもっているらしい。
「ま、ヒナギクにはちょっと犠牲になってもらった。 うん。 ああするしかなった。 ヒナギクは犠牲になったのだよ。 ひとりの少女の命の、その犠牲にな」
「テルさん、僕は多分このあとのテルさんの身が心配です」
と、ハヤテが涙目でこちらを見る。 テルは言うなとハヤテの肩を叩いて深く項垂れた。
「でも、まぁ会長には俺から話すよりはハヤテが話したほうがいいな。 うん、黒羽の事は頼んだぞ」
テルの言葉にハヤテが軽く頷く。 この黒羽が学校に来ている理由を一番に理解していかなければならないのはヒナギクだ。 この誤解が解けなければ黒羽は多分ヒナギクに襲われかねない。
「でも、まさか記憶喪失だとは・・・たまげたなぁ」
目の前にいる木原は理由を聞かされた今でも腕を組んでその理由が信じられないかのようだった。
「だって少し前に俺、アイツに後ろからグサリされてんだぜ? そんなアイツが記憶喪失、虚弱体質でこの学校の転校生だって? お前のストレスの原因が分かった気がするけどな」
「おお、分かってくれたか。 お前も少しすればわかるぜ、アイツに背中を取られた時のフラッシュバックが」
二人はうんうん、と頷いている。 お互いあの黒羽にぶっ刺された身だ。 その感覚を男同士で共有するのはどうかと思うが。
「そう言えば俺さっき黒羽に俺の事を覚えってかなぁ~って目の前を通り過ぎたら華麗にスルーされた。 なんかこっちは覚えてるのに向こうが忘れてるってなんか悲しいな」
「ああ、小学校での友達が中学ではバラバラになって高校で再開したときによくあるパターンだな。 たいていそういう状況になると相手がスゲー切れる」
「そんな高校生のあるあるネタはいいですから。最初の授業に入りますよ」
そして時間は経ち現在昼休み。 周りが特定の友達同士で机をくっつけたりカフェテリアで赴いて昼ご飯を食べようとしていた。
「さて、飯どうする?」
背伸びをしたテルにハヤテが笑みを浮かべて口を開く。
「いつも通りでカフェとか、庭のほうでいいんじゃないでしょうか? 黒羽さんも誘いますか?」
「まぁ、待てよ。 今頃アイツも他の女子から色々と誘いを受けて・・・・」
と、視線を黒羽の方に向けた時にテルはその光景に目を止める。 意外にも黒羽の席の周りには誰もおあらず、本人は未だに机から動こうとしていなかった。
「マジかよ」
「意外ですね。 休み時間には結構いろんな人から話しかけられていたんですけど・・・」
ハヤテの言うとおりで、二人は授業の休み時間の合間の黒羽に並ぶその女子と男子の列を思い出していた。 「どこに住んでるの?」や「好きな食べ物とかは?」、「その髪って綺麗ね」などと定番の質問攻めをされていたが。
「ああー。 やっぱりこうなっちまったか・・・」
と渋った声を出すのは木原だ。 テルがその真意を問い詰める。
「どういうことだよ? 竜児」
「どうもこうも。 アイツってどんな状況でも無表情じゃん。 俺と一緒に行動してた時も基本無口だし。 やっぱアイツから声をかけるとかしない限り今日は一人だな。 うちのクラスも転校生だから変に気を利効かせて誰も声かけねーし。 フツー逆だろ」
あ。とテルは木原の答えに思うところがあった。 確かに、今では黒羽とは同じ仕事仲間になり、互いに手伝ったりしていた事で少しづつ話すことは出来ていたがそれでも未だに込にケーション不足な部分はある。 しかも最初のころは言われたことだけをこなすだけで誰とも話そうともしなかった。 それが少しでも良くなったのは一緒に居たマリアとかの御陰である。
せっかく質問をしても無表情で返してもらえないのは聞いてもらえていないのと同じだと思ったのだろうか。 黒羽は初めての人間とはほとんど話すことが出来ない。 ここは学校だ。いつものようにマリアは居ないし、テルやハヤテたちの席とはかなり離れている。
・・・登校初日から色々と問題が出てきたな。
―――ちゃんとしてくださいよ。 これから黒羽さんには学校とかにも行かなくちゃならないんですし、その時お世話するのはテルくんの役目なんですから
テルはふと、マリアの言葉を思い出していた。
ここで放って置いたらいったどうなってしまうのか。 一人というのは一見気楽だが実質、虚しいことに変わりない。 誰も笑い合うことなく、話すことなく時間をただただ過ごすのは空虚な、無意味な時間を過ごしているのと同じだ。
もしそうなってしまったら彼女は、黒羽は耐えられるだろうか。 誰も信頼できないこの孤独の中で、しっかりやっていけるのだろうか。
・・・そりゃあ不安だよなぁマリアさんも。
物思いに耽る。 自分もいつしか三千院家に巡り会うまで記憶を失っていた間は雇ってくれていた辰也を除けば一人だった。 恩のような物を感じていて親同然と思っていたが、心のどこかで一人だと思っていた時期がある。
そんな辛い思いを抱いたまま学校生活を終えたくはない。 いや、終えさせたくない。テルは決断した。
「おい、いつも通りで外で食うぞ。 確かテーブルでっかいのあったよな?」
「あ、はい。確か5,6人は軽く囲めるのはありますけど・・・」
よし。とテルは頷いて続けていった。
「なら、皆は先に行って待ってろ。 あと、生徒会三人組も呼んでおけ」
「あの人たちならヒナギクさんの所にいますが・・・ヒナギクさんも呼びますか?」
「多分来れないだろ。 放置だ」
ハヤテが聴き終えて頷くとナギを連れて教室の外へと向かっていった。
だが、一人残っていた木原は何やらニヤニヤとしている。
「なんだよ」
睨むように視線を向けると木原はそっぽをむいて
「いや、何か相変わらずの馬鹿みてーなお人好しだということを再認識してた」
・・・放っておけ
と心の中でつぶやくとテルは黒羽の席まで近づいた。 ぽつんとしてた黒羽は目の前まできたテルの姿に驚くことなく少ない動作で顔を挙げる。
「飯を食おう」
そう一言告げた。 黒羽は首を少し傾げて、コクりと小さく頷いた。
黒羽は立ち上がり、二人はみんなが待つ庭へと向かうのであった。
後書き
一人飯は・・・さみしいもんな。 っていうかハヤテでなんでこんな話書いちまったんだ俺は!?
まぁ、今の黒羽さんの状態を簡単に話すと、高校入学したての小鳥遊 立花みたいな?感じなのです。やっぱあまり自分から話さないからですかね。 あと黒羽さんは中二病ではないので。