ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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前書き:これ書き上げた時は確か、戦国コレクションの秀吉回を見てからだったような。 だからカオス。後半は急展開だけど。


第91話~内容のない物語~

これはある少女の漫画家としての成長を描いた物語。 

 

挫折と苦悩を味わいつかむことが出来た栄光。 その礎となったのはあの特訓の日々。 辛くも楽しいあの日々。 

 

その名は。

 

 

「第二回! チキチキ、唯子さんの放課後語らいタイム~♫」

 

広い教室内で唯子の声が拍手と共に響いた。 拍手の後に生徒会三人組の一同は和気あいあいと両手を上げてわーいなどとやっている。

 

「またなんか始まったぜぇ。 無理やり放課後タイムが」

 

所々席が空いている教室の中で一つの席に座ったテルがだらしなさそうに両足を机に乗せている。

 

「え? なにこれ? え? 俺なんでこんな所にいるの?」

 

そのテルの席から右に二つ席を開けて木原が辺りを見回していた。

 

「フフフ・・・君にとっては初めてだったかな? 木原二年生」

 

「うおっ。 この人俺の名前知ってるよ、初対面なのに・・・」

 

「あんま気にすんな、気にしてたら心の疲労は積もるばかりだ。 ハゲるぞ」

 

驚きを隠せない木原にテルが諭した。 テルの三つほど席を空けて座っているナギがPSPを弄りまくっている。

 

「別に今更・・・というか久しぶりだなこの企画って」

 

「それにしても今回は豪華に二年の教室でやるんですね?」

 

いつもは相談室と言えるような場所で行なっているのだが、今回はそれよりはるかに広い事にハヤテが気付いた。

 

「うむ。 なんと今日はいつものところが使えなくてな、逆に吹奏楽部の活動は休みらしいのでどうせならここで豪勢に使ってやろうと思ってな」

 

「ふん。 どうでもいいことに毎度この俺を巻き込みおって・・・俺にこんな暇はないのだ」

 

「まぁまぁ王様。 いいじゃんよ、そんな頭硬いと色々と大変だぜ? 家を追い出されて色々とわけわかんないこんな時にこそだってばよ」

 

「もはやなんのキャラかわかんなくなってきたぞ。 善立」

 

教室の端の席に座った千里が悪態をつく。 だが実際、ハヤテたちとほぼ帰りは一緒なので部活も何もしていない千里は完全に暇を持て余していた。

 

「じゃあ今日のお題は・・・」

 

手を一度叩いて注意をこちらに向けさせた唯子が黒板を白チョークで文字を書いた。 しかし、何故今日に限って唯子は白衣姿なのかよく分からないが。 それを問い詰めると、どうせ気分の問題だと言われそうだと一同は突っ込むのをやめていた。

 

 

『死亡フラグ』

 

「今日のお題は、漫画でよく使われるこの言葉に付いて考えてもらおうと思う」

 

 

 

第91話~内容のない物語~

 

 

「はいはーい」

 

「どうした瀬川女子。 質問なら受け付けよう」

 

開始数秒といったところだろうか、唯子がチョークを置いた時に固まっていた生徒会三人組の一人、瀬川泉が手をあげた。

 

「そんなのハヤテ君とテルくんを例に出せば簡単だと思いまーす」

 

「泉! オレらをいつもどんな目で見てんだ!ていうか、内容がマニアックすぎるだろ!」

 

「僕だって好きで立ててるわけじゃないのに・・・」

 

「ふむ。 死亡フラグの製造機野郎、ではなく善立くん、良い質問だ・・・まずこの質問の答えに移る前にみんなに見てもらいたいものがあるのだ」

 

 唯子が教卓の上に用意されていたリモコンのスイッチを押すと真上の天井の隙間から授業で使われるスクリーンが降りてきた。そして向かい合うようにテルたちの後ろに設置された映写機が光を照らすとある絵が映し出されてきた。

 

 

荒れ果てた荒野にて厳ついオッサンがフリルの魔法少女服を着て、棍棒をもったペンギンと戦っている場面だった。

 

 

『くっ、さすがはドクターベルクサンシャインの新発明、絶対防御ペンギン将軍ッ! 今までの敵とは訳が違う・・・』

 

『フフフ・・・我が砂糖防御の前には貴様の魔法ももはや効かんわ。 貴様を亡きものにして貴様らの基地にある最強銀河エナジー東京復刻版を我が惑星サンシャイン109の封印を解かせてもらう・・・死ぬがいい、南極大陸ペンギンウェーブ!!』

 

『ぬわ―――――――――――ッ!!』

 

『フフフ・・・他愛なし・・・』

 

『そう言えば今日のアタイには死亡フラグが立っていたな、だからか・・・ガクッ』

 

 

 

 

 

 

「また私の漫画を勝手にィ! ぬわあああああああ!!!」

 

「お、お嬢様! 落ち着いてください! あの人の手に渡ったしまったものはもうどうしようもありません、諦めてください!!」

 

唯子の手に渡った個人情報は取り返すことなどできない、渡った時点で諦めるのが筋というものだと一同は分かっていた。 

 

「まぁそんな事は後にして、私はこの漫画をあらかた見ていたから言わせてもらうがこの話の中で一度もその死亡フラグが立っていたようなコマは存在しなかった」

 

ビシィッと指を指されたナギは目を泳がせながら

 

「あ、あれはだな・・・一応ギャグというか、シリアスの中に存在する笑いというか・・・」

 

「お嬢様・・・流石にそれだけだと読者のみなさんは解釈しきれませんよ」

 

「ああ・・・俺にも何を言っているのか分からなかったぜ。 あえて言わせてもらうなら気づいたら主人公が死んでいたッ」

 

「ぐっ・・・ハヤテ、テル お前らまで・・・!!」

 

「まぁまぁ喧嘩するな・・・さて、問題の解決を考える前に先程の二人の質問に答えよう。 ずばり、これは物語の構成、伏線についての知識を改めて得ることでこういった意味不明な展開を防ぐことにあるのだ」

 

「意味不明だとぉおお!! このあとブリトニーは超聖天使のパワーを授かり、ナチュラルコズミックパワーを得た最強デストロイ形態へと進化する為の布石なんだぞ!」

 

「未来に繋がる・・・という結果では出来ているかもしれないが、これでは読者はなんか勝手に死んで次回でいきなりパワーアップしてきたように見えるだろ。 そしてなによりキャラに感情移入ができない。 伏線とはうまく使えば、そのキャラクターを一気に人気キャラにすることだって可能だ」

 

「まぁ、ジャ〇プの某スリーポイントシューターの元不良も、喧嘩するお話が終わったら普通に本編に絡まないでモブキャラとして終わる予定だったのが、作者の感情移入とか過去の話が評価良くて人気投票に入ってそのままスタメン入りしちゃいましたし・・・」

 

「伏線ってば大事なんだよな・・・まぁ伏線がない漫画なんてカレーをかけていないカレーライスみたいなものだからな」

 

「ちょっと黙れテル」

 

腕を組んで考えていたテルに木原の腕に仕込まれていたサイコガンから豆が放たれてテルの額に当たった。

 

 

「だから今回は死亡フラグ・・・もとい、伏線を君らに実践してもらう」

 

「え? 実践するの? 伏線を?」

 

「ああ、死亡f・・間違えた伏線の場面をだ」

 

絶対死亡フラグやらせるつもりだったろ・・・と一同が目を細めて唯子に視線を送るが当の唯子は髪をかき上げて言い放った。

 

「やるぞ」

 

ニヤリと笑いながらそう言う唯子の笑顔を見た一同は思った。 今日はもう嫌な予感しかしない・・と。

 

 

 

「シーンその1! 『帰ってきたら一緒にサラダ食おうぜ』と言って出撃した彼女が一生帰ってこなくなる死亡フラグ!」

 

 

 

 

「ハヤテ君! 帰ってきたら一緒にサラダ食べようね!」

 

「ははっ、それじゃあ最高のドレッシングを撃墜期待と一緒に持ってきますよ泉さん!・・・ってこれじゃあただの死亡フラグシーンの再現だけですよ!!」

 

広大なグラウンド、放課後の部活動で賑わっていると思いきや、辺はガランとしてた。 どこも休みで部活動の姿がないグラウンドに唯子たちの姿があったのである。

 

そこで泉とハヤテがなにやら不思議な上のやり取りをしていたのだ。

 

「いけないか?」

 

「いや、いけないとかという問題じゃなくて・・・読んでる人たちに対してこれほど意味不明な展開はないかと」

 

「ならば死亡するほうのシーンも付けておいてやろう。 ほとんど爆発オチが見えているだろうけどな・・・」

 

と、懐から出てきたのは小さな爆竹の箱だった。 いくら本物の爆弾が使えないからといって爆竹で代用するだけでも充分危険だ。 

 

「他にないんですか? 爆発をスモークとかで誤魔化すとか!!」

 

「ハヤテ、逆にそっちの方が無理があるだろう・・・それと宇宙であんな風に爆発は起きないらしい」

 

ハヤテの問いにナギが答えた。 そもそも、最初とやろうとしていたことすら出来ていないのではないかと思ってきた一同である。

 

「よし、次から本気出す」

 

唯子が大きく手を上げる。 それは新たな授業再開の合図だった。

 

 

 

照りつける砂漠の太陽が軍服から露になった腕の素肌に降り注ぐ。 ハヤテが率いる一個中隊は砂漠の戦いに駆り出されていた。 隊は全員で六人。 全員が前線へと向かいはや三日。 昼はひたすら敵地を目指し、夜はテントを張り、交代方式で見張りをする三日だった。

 

「ハヤ太くん、目的地まではあとどれくらいなの? 私疲れちゃった・・・」

 

紫の髪をした泉が歩いている最中に膝をついてしまった。 隊長であるハヤテは手を差し伸べて立ち上がらせる。

 

「泉さん、あと少しですよ? 二、三キロ先には敵の基地が見えますから。 今回は奇襲作戦ですから相手はこちらの場所がバレてはいません。 そのための準備もしてきたわけですし・・・」

 

「ほ、ホントか? まぁ司令にとって情報を漏洩させるようなへまだけはしないと思うけど・・・」

 

後ろの理沙がボトルに入っている水を飲む。 口に流そうとした時だったが一滴しか出なかった。

 

「み、水がもう無いぞ・・・・」

 

隊員の衛生兵、木原が疲れた表情で言った。 ここまでの三日間の旅路でもう水や食料は少なくなってきていた。

 

「あと少しは我慢していてください。 作戦が終了すると数時間後には本部から救援隊がくることになっていますから」

 

(ハヤテ隊長ってとても頼りになる人だなぁ・・・)

 

ハヤテの言葉に一同は銃器を掲げて声をあげた。 士気は上々である。 瀬川隊員は熱い羨望の眼差しとは別の意味の視線をハヤテ隊長に向けていた。

 

実際このクセのある隊をまとめあげているのは彼だけだ。 ここまで来るのに食料を計算してきたのも彼だし、何よりその笑顔や優しさに何度も助けられたのだ。

 

そう、彼女は戦時でありながらも自身の隊長に恋をしていたのである。

 

「それじゃあ皆さん・・・行きますか」

 

とハヤテが足を進めた瞬間だった。 不意にハヤテのポケットの中から落ちたものがあった。 ペンダントだ。 泉がそれを拾い上げると拾い上げた拍子で閉じていたペンダントが開いたのだ。

 

「これって・・・・」

 

中に写っていたのは一人の女性だった。金髪の、ツインテールが似合う女性。

 

「あ、見つかってしまいましたね。 すみません・・・」

 

「あ、あの隊長、これって・・・」

 

「実はこの人・・・僕の婚約者なんですよ。 作戦前にプロポーズされて、この作戦が終わったら式を挙げる予定なんですよ」

 

(そんな・・・)

 

泉の中で何かが崩れた。 実際、この写真を見ているだけでもハヤテ隊長の顔はとても穏やかな顔をしている。

 

「さて、変な話はここまで・・・行きますか」

 

 

 

 

 

 

数十分後、一同は敵地の目の前へと来た。  だが不思議な事に、敵が誰もいなかった。 見張りの人間すら見当たらない。

 

「おかしいですね・・・一人くらいは見張りがいても」

 

目を凝らした瞬間、ハヤテは遠くの屋根の上に太陽の光で何かが光ったのを感じた。 

 

「しまった! 皆伏せて!!」

 

それを言うにはもう遅く、次の瞬間には衛生兵の木原が大きく後ろへ倒れていた。

 

「て、敵だァーーーーーーーー!」

 

「スナイパーだぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「木原くぅぅぅぅうぅぅぅんん!!」

 

三人娘が叫んだが木原が起きてくる気配はない。 ハヤテが駆け寄ると木原の頭に大きな穴が空いていた。

 

「クソッ! まさか情報が漏えいしていたなんて・・・」

 

「ハヤテ隊長! 後ろからも敵が! 完全に挟み撃ちです!」

 

美希の声に喉を鳴らしながら振り返ると今まで歩いてきた道、横一列には多数の敵が並んでいた。 

 

絶望的だ。一同は思った。ある者は震えて、ある者は祈る。 どう考えてもこの状況を覆す事はできない。

 

「も、もう何も怖くない・・・」

 

「せ、瀬川さん!」

 

ハヤテが気付いた時には目を虚ろにさせながら無防備に歩きだした瀬川の姿があった。

 

瀬川はあまりの恐怖に一種の錯乱状態に陥ってしまっていたのだ。

 

遠くではスナイパーの照準が瀬川を捉えている。 それは周りの人間が容易に理解できていた。 だが助けように体が動かない。 誰も。

 

次の瞬間、単発の発泡音と共に瀬川の体が大きく揺れた。 浮いた少女の体は柔らかい砂にバウンドする。

 

だが、彼女には意識があった。彼女は無傷だったのだ。 だが代わりに。

 

「た、隊長ォォォォォ!」

 

彼の、ハヤテの左胸には打たれたであろう大きな穴があったのだ。

 

「どうして私をかばって・・・」

 

「僕は・・・貴方に、生きていて欲しい。 それに・・分隊は家族、兄弟、なにものにもかえられないも、の・・・」

 

そう言って彼は目を閉じて、その短い生涯に幕を下ろした。 瀬川は彼のペンダントを取り、ポケットに入れると立ち上がった。

 

「みんな、生き残るよ・・・何があっても・・戦わなければ、生き残れない」

 

そして、この伝説は後世に語り継がれることになる。 隊長、衛生兵を失った三人の兵士は孤立無援の状態で無事全員生還するという伝説を・・・・。

 

 

 

 

 

 

「どうだった?」

 

「いや、どうだったって言われても・・・」

 

「蛇足感丸見えじゃねぇかよ!! 前半めっちゃ本気出して後半のあのぐだぐだ感はなんだありゃ!」

 

一通り謎の劇が終わり、みんなは疲れたかのように地面に座り混んだ。

 

「というか、瀬川が綾崎に恋をしているとは知らなかったぞ」

 

「バカ王子、全て演技の中での話だバカ。 ああ、もう、お前には何回バカといっても足りないな」

 

千里の一言にいちいち物を申す唯子。 千里が立ち上がるもテルとハヤテが行く手を阻む。

 

「この話って一体何なんだよ。 主人公である俺が出てこないてどういうことだよ」

 

「尺がなかったんだ」

 

「嘘つけ。 単に考えるのがめんどくさくなっただけだろ」

 

「テル、俺はまさか一番最初に死ぬとは・・・思わなんだわ」

 

後ろで横たわる木原が唸っていた。 どうやら最初に死んだ不遇さにうなだれているようだ。

 

「まぁ私とハヤテが結婚することの展開は当然といえば当然なのだが。 しかし殺すのはまさかという展開だった。虚を突かれた」

 

ナギがうんうんと頷いてみせると終わりよければ全て良しなのか、唯子も腕を組んで頷いていた。

 

「しかしまぁ死亡フラグの話がとんだ内容になっちまったな・・・このお話に内容なんてあるのか?」

 

テルの言葉に唯子は腰に手を当てて、沈みゆく夕日を見た。

 

「内容のある物語なんてあってたまるか。 物語に内容なんてないのだよテル君、物語事態が意味を持っていないんだ。 結局は読む側にどんな考えに到らせるかだな」

 

「深いですな先生ェ。 今日もまた勉強させていただきました!!」

 

格言らしき言葉にナギは目を輝かせていた。 

 

・・・まぁ、ナギがなんか凄い納得してるからいいのか?

 

と心の中で小さくため息をついたが結局これは最初から内容を一貫していない。 最終的に死亡フラグについては全くわからなかったのだが。

 

「ええい、考えるのもめんどくさっ」

 

テルはそこらへんにあった石ころを蹴り上げた。 綺麗な曲線を描いた石ころは十メートル先の地面に落ちると思いきや。

 

その先には人がいた。 ピンク色の少女の姿があった。

 

石ころは見事、少女、ヒナギクの脳天を直撃した。 足元に落ちた石を拾い上げ、震えているテルたちに顔を向ける。

 

「うふふ・・・皆さん、何をしているのかしらねぇ?」

 

凄い笑顔だった。 とんでもなく邪悪さを孕んだ笑顔だった。

 

「か、会長! これは違うんだ。 ええーっとこれはだな。 人類にはちょっと早すぎる漫画の作成中で」

 

「私も混ぜてくれませんか――――」

 

右手が石を握りつぶしたのを皮切りにピンクのバーサーカーが政宗を構えてテルに襲いかかってきた。

 

「またこのパターンかよぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

  

唯子教室はこれにて終わり。白皇学院は今日も平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは騒ぎが一段落着き、唯子の講義を受けていたハヤテたちが全員帰路についた時のことだった。 いつも通り、彼、善立テルはハヤテとナギ、千里と共に帰る予定だったのだが。

 

「ちょっと説教させてくれないナギ? 大丈夫。 ちょっとだけだから」

 

と、某ピンクの悪魔にこっぴどく叱られていたため、個別で帰ることになったのだ。

 

「畜生・・・会長めぇ、ちょっと言っときながら何も喋ることなく一時間正座とかひどすぎるだろ・・・」

 

正座の影響か張ってしまった足をさすりながらテルは歩く。 ちょうど今は河川敷を歩いている。 夕日に照らされている景色は思わず立ち止まってしまうほどだった。

 

白皇学院に入学して早三ヶ月。 多くの出来事が起きた。 下田での出来事がきっかけで多くの物を取り戻すことが出来た気がする。 

 

・・・と言っても、元通りに戻っただけなんだけどな。

 

マイナスだったのがゼロになっただけである。 しかし、今知りうる全てで漸く本来の自身の生活を始めることが出来る。 そう思っていた。

 

・・・しかしまぁ、これから一体何がやってくるのか、ちょっと楽しみになってきたぜ。 あの石を追いかけ回す女もその内現れるかもしれねぇしなぁ。

 

本来では絶対に会いたくない相手なのだがこんな学園生活を満喫しているとそのうちいきなり現れて油断居ていることろをグサッということも有り得る。 しかし。

 

・・・大丈夫だ。

 

 

慢心などではない。 今はこちらにはドーピングソードと最強の霊媒師さんがいる。 これで負けるような事はまず無いだろう。

 

・・・だけどドーピングソードは伊澄から最近使うの控えろって言われてんだよなぁ、三枚張りしてからなんか体が怠いしなぁ。 軽くヤバイのかな? 

 

 下田での戦いで使用した三枚同時の札を使ったあと、テルはこってり伊澄に怒られたのを思い出す。実際一枚でも負荷が強いのを三枚も使用すれば当然のことだろうが、あれ以来テルの体からダルさが抜けなくなった。簡単に言えば疲れが抜けなくなってきたのだ。

 

・・・何コレ。 軽く老化現象起きてんの? マジかよ、俺心は十代、体は二十代後半を迎えてんのかよ。

 

 

だが、これ以上気にしていても仕方ない。 と思ったのだろうか。 ふと、下の方を見ると河川を見る。 夕焼けに当てられて河川は美しく朱を帯びて流れていた。 

 

・・・あれ?

 

だが、この時に河川敷の岩に気になる光景が目に入ってきた。

 

 

 

・・・え? 何アレ。 え? マジ、人?

 

それは、しっかりと人の形をしていた。 溺れて、流されてきたのか、と体はすぐに動いておりテルは芝を滑り降りて一気に河の中に入った。 

 

・・・どうするよ、俺。 これでトラウマとかになったりすんのかな

 

よく、強烈な場面に出くわすとそれがあとまで引き摺るという現象に陥る。 河に溺れた人が後に泳げなくなったりとあるわけだが。

 

川の流れが緩やかなこともあってか、テルは難なく人のいる岩までたどり着いた、すぐさま人を抱えて川から引き上げる。 どうやら気絶してるらしく、触った心臓の部分からは僅かだが音が聞こえていた。

 

・・・・うん? この細身とやわらかさって……? 

 

身に余るほどの感触。 それは腰と不可抗力で触ってしまった胸のほうだ。 柔らかい感触にテルは目をぱちくりとさせて慌てて離した。

 

・・・不可抗力ね、ウン。

 

持っている体制の関係でこの少女の顔を見ることは出来ない。 わずか数十メートル距離のため苦なく引き上げることができた。そして少女の体を地へと横たわらせ、呼吸を確保するために少女の体を仰向けにさせた瞬間。

 

「――――――――」

 

絶句してしまった。 よく見たら、この少女はどこか見覚えがあったのだ。 黒いロングヘアーに、修道服のような黒いローブ。 そして、陶磁器のような白い肌。

 

テルは忘れはしない。神社での串刺しや、片方の目を一度は潰された相手。 仲間を裏切り、刺した相手だ。

 

以前の木原と一緒に行動を共にしていた少女、黒羽。

 

 

テルやハヤテたちにとって最大の敵の姿が、そこにあった。

 

 

 

 

 

 

 








後書き
復活ッ! 黒羽復活ッ!黒羽復活ッ!

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