ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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前書き
オリジナルギャグぱーと。 原作と少し関係していたりするお話です。


第88話~世の不思議とは常に身近にあるもの~

 夜の校舎というのは、人を寄せ付けない異様な雰囲気に包まれている。 人体模型、増える階段。 鳴り響く無人のピアノ。 怪談七不思議は一体どうやって生まれているのだろうか。

 

「時は20XX年。 世界は核の炎に包まれた」

 

「どうも、歌丸です♫」

 

「ここは白皇学院校舎・・・の裏にある林の入口。 普通じゃ有り得ないほどの敷地を持つこの校舎ではこのような珍しい場所も多くあるのだ」

 

林の入口を前に佇んでいるのは三人の少女だった。 右から花菱美希、瀬川泉、朝風理沙のいつもの生徒会三人組だ。

 

「んで? 突然オレらを呼び出して、なんのようなんだお前ら」

 

「僕これから明日の宿題しなきゃいけないんですよ。 明後日までじゃありませんでしたっけ?」

 

テンションの高い三人とは裏腹に、テルとハヤテがやる気なしと言った表情で訪ねた。 それを見てか、生徒会三人組ブルーの美希が指を振って答える。

 

「チッチッチ。 甘いよハヤ太くん、宿題なんて堂々と『やってませんでした♫テヘペロ』って答えれば、放課後の居残りですむのだよ」

 

「いや、それ以外にも成績表にも確実に響いていると思うんですが」

 

「バカが! 宿題なんてやってる暇なんてないんだよー!」

 

「そうだそうだー! 今は春休みだぞ! 遊ばずに何をすればいいのだぁー!」

 

「楽しいことしようよ♫」

 

一気に三人娘に反論されてハヤテは思う。 よくこの人たち、進級できたな、と。

 

「ええい、貴様ら。 一体何がしたいというのだ! 王であるこの俺の時間を潰させるほどの価値のある興じなのだろうな?」

 

勿論、この場所に呼び出されたのはテルやハヤテだけではなかった。 三千院家に居候している千里もこの三人組に呼び出されたのである。

 

「ふん。 いい加減、自分の事を王と呼ぶのは、痛いということに気づかないのか? この失脚王」

 

と、その後ろには黒い髪をなびかせた奈津美 唯子の姿もある。 この千里と唯子の一触即発しそうな状況をなんとか抑えつつ、話を進める。

 

「実は、この白皇学院の林のなかには昔から伝わる『ある噂』があってだな」

 

急に美希の顔が真剣なものとなり、周りにいる者も聞く態度を改めた。 美希はそのまま続ける。

 

「いわゆる『神隠し』みたいな話でな? この林で中に入ったものは消えるという話だ」

 

と、美希は持っていたポーチからかなり古びた記事を取り出した。 日付には1980年。 つまり30年以上も前である。記事の見出しにはこう書かれていた。

 

『失踪していた子供、生存確認』

 

「ある日、子供がこの場所にやって来てそのまま迷子になったという話だ。 見つからずに一週間、そして一年。 一時は事件とも考えられたのが、この記事を見る限り無事に子供は見つかった。 めでたしめでたし・・・と行けばよかったんだが」

 

ここでこの話が終わるはずもない。更に美希はペラリと記事のある部分を指さした。 その部分には二つの顔写真があり、一つが幼い子供、もう一つが20代を超えた大人のような写真だった。

 

「すごいことに、この行方不明になった子供。 当時は10才くらいだったらしいんだが、見つかったときには推定で26才になっていたのだよ」

 

へ? と周囲にどよめきが起こり、テルがまっ先に反応した。

 

「え? じゃあこの写真、同一人物かよ!?」

 

「そうだ。 おかしくないか? 経過した時間は一年。 だが少年の中で過ぎた時間は明らかに一年で収まる時間じゃない。 その少年は『今まで一体何をしていたか分からない』と言っていた。わかるか? 何もかもが謎なんだ」  

 

テルに記事を差し出し、美希は腕を組みながら当時の事を考察する。

 

「これは神隠しだ。 まさに超常現象、我々の知らない未知の世界が彼を時間の流れが遅い空間に引き込んだのだと私は考える」

 

「いやいや、そんなファンタジーみたいな事は起きませんよ」

 

「いや、オレら散々ファンタジーな事に巻き込まれてんじゃん」

 

テルがやれやれと言ったように肩を落とす。 宇宙人や宇宙船で宇宙に行ったり、変なロボと戦ったり、体を武器に変えたりする女と戦ったりだ。 これほどまで現実から離れた出来事に出くわしているのだ。 

 

「しかし、貴様この記事をよく見つけたな」

 

「ふふ、政治家の娘だぞ? こういった貴重な情報には目がない。 ま、たまたま自宅の資料室から見つけた記事なんだがな」

 

千里の問いに美希が胸を張って答えてみせた。 

 

 

 

「それではこれから不思議発見に行こうと思うのだが、かたまって探すのは効率が悪いので定番のクジを・・・」

 

ひょいと手からのぞかせたソレは数本の割り箸だ。 持っている数字には番号が書いてあり、同じ数字を持つ人間がペアという非常に簡単なクジである。

 

「この先には多くの危険があるだろう。 それを打開するのは同じ仲間の力が必要だ。 諸君らの健闘を祈る」

 

「パーティゲームみたいだな」

 

親指を立てている美希に唯子が冷静にツッコミを入れた。

 

 

 

 

捜索隊その1。

 

「しかし、こんな場所にそういう逸話があったなんてな。 そういった噂が流れたんなら白皇学院に影響は出なかったのか?」

 

「二十年も前の話でしょ? たしかこの辺ってまだ白皇学院が出来てなかった筈だよ~」

 

くじ引きによって決まったペアの一つ。 テルと泉が細道を通って探索を開始していた。 美希が探索に向かう際に全員に渡したランプを右手に持ち、暗くなっている足元を照らしていく。

 

「それにしても、千里くん三千院家に住むことになったんだね~。 学校も辞めずに済んでるらしいから良かったねぇ」

 

「まぁな。 白皇の学費は入学時に全部払っていたらしいから。 最初に騒いでたマスコミも今は結構落ち着いてるからアイツのストレスもなくなってきた。 けどこっちのストレスが無くなるわけでもないんだがな」

 

泉から千里の話題を振られ、テルは一つ思い出した。 それはホワイトデーに泉が千里から受け取っていたチョコのことだ。 経緯からわかるように、泉がバレンタインデーの日に千里にチョコを渡していた事が分かる。 だが、その理由が分からない。 

 

(あの唯我独尊、傍若無人の我侭王子になんでチョコを渡したのか・・・)

 

横目で泉を見るが本人はこちらに気づいていないかのようにスキップしながら歩く。 ランプの明かりが明るすぎるせいか、暗い事に全く恐怖していないようだ。

 

よし。とテルは意を決して口を開いた。

 

「なぁ、泉。 お前、千里とどういう関係なんだ?」

 

「ふぇ!?」

 

スキップしていた泉の動きがピタリと止まった。 

 

「ど、どういう関係って・・?」

 

首をカクカクとこちらにぎこちなく動かして向ける泉には明らかに動揺の意思が見て取れた。 テルは冷静に続けて聞く。

 

「いや、この前のホワイトデーの時にあの王様からチョコもらってただろ? それってつまり、バレンタインの日にチョコを渡したってことだよな。 なんで? そこんとこ詳しく」

 

「なんでっていわれても・・・うーん」

 

問われたことにすぐ泉は答えることができない。 テルとしてはこれが本当にそういう話なのかと喉の唾を飲み込んだ。 

 

「恩返しかなぁ・・・?」

 

一言。 人差し指を頬に添えて泉はそう言った。 

 

「恩返し?」

 

「うん。 私が白皇に入学した時のことなんだけど、私が美希ちゃんたちと待ち合わせしてる時に凄い大きな野良犬に襲われてね」

 

懐かしむように泉が続ける。

 

「怖くて走ってたら登校中の千里くんにぶつかっちゃってね? 私が倒れて振り向いたらそこには犬がガオーっと。 んでそれで犬が噛み付く瞬間に千里くんがパンチでどーんと」

 

ジェスチャー付きでやっているのだが、泉の説明がとても抽象的なので頭のイメージが固まらない。 大筋は分かったのだが。

 

「そんなこんなで助かって、命の恩人みたいな人だからその返しきれないお礼を誕生日とか特別な日にお返ししてるだけだよ~」

 

なるほど。とテルは心の中で納得した。 この泉が抱いているのは決して千里に対しての恋心とかではない。 命の恩人に対してのお返しだ。 

 

「なんだ。 てっきりアイツの事が好きなのかと思ったぜ」

 

「ふぇ!? そういうんじゃないよ!! 千里君は恩人だよ恩人!! ごごごごご誤解だって!!」

 

テルが発した言葉に泉が顔を真っ赤にして否定した。 そういう答え方をされると千里に対してもちょっと哀れみをかけてやりたくなる。

 

「もう・・・なんか私の人生って犬絡みの出来事が多いなぁ~。 ここに小さい頃遊びに来てたときも子犬に襲われちゃってたし・・・」

 

深くため息をついた泉。 どうやら話には続きがあるらしい。

 

「その時は知らない男の子に助けられたんだよねぇ~。 私と同じ年頃の子だったんだけど素手で子犬を撃退してたよ。 そのことはそれっきりで全く会ってないんだけどね」

 

ふーん。とテルは空いている片手で頭を掻いた。 この学院には奇妙な体験をする人間が集まるように仕組まれているのだろうかと思いながらもそれは一つの偶然と決定づけた。

 

「ま、生きてりゃそのうち会うことが出来るはずだ。 なんたって世界は狭い。 案外そいつも身近にいるかもしれねぇぞ」

 

「まっさかー」

 

泉は有りもしないそんな偶然に笑みを浮かべながら探索を続行した。

 

 

 

 

「へくちっ」

 

「ん?どうしたハヤ太くん。 なんか噂話をされたかのような昔の安いリアクションをしているじゃないか」

 

捜索隊その2。 ハヤテと美希と理沙ペア。

 

「安いリアクションかどうかはともかく、本当になんか昔のことかなんかで噂されているような気がしまして・・・」

 

言い表せないような違和感にハヤテが顔をしかめる。 だが美希と理沙は笑って返した。

 

「この世で君の噂話をする奴と言えば、君の命を狙っている奴らのことじゃないのか?」

 

「今頃君の体の臓器の部分がいくらするのか、そういう勘定を行なってるかもしれないな」

 

「もしそうだとしたら僕の周りって黒い話が絶えませんね・・・」

 

いやいや。と美希が首を振った。 まるでフォローするかのように、ハヤテの肩に手を置く。

 

「君には揺るぎないホモ疑惑だってあるんだ。 それだけで十分なネタにはなってると思うぞ」

 

「なんで無理やりホモネタにもっててるんですか!! 僕は断じてホモなんかじゃありませんから!!」

 

ちっちっち。と指を振る理沙と美希はまるで「甘いぞハヤ太くん」とでも言っているようだ。

 

「残念ながら君のその顔は多くの腐女子の的になっているのだよ。 白皇学院の同人サークル部なんて君と虎徹君の薄い本で溢れてるらしいからな、歪みねぇな」

 

「ああ。最近だらしねぇな」

 

「・・・ちょっと校舎内に行ってきていいですか? 同人サークル部を燃やしてくるだけなので」

 

と、ここでハヤテがどこから持ってきたのか赤いポリタンクをゆさゆさと揺らす。 水の揺れる音がするからに中には何が入っているのか大体想像がつく。

 

「ま、それだけは止めておけ。 リアル警察沙汰は勘弁だぞ」

 

「そうだぞ。 流石に君のお嬢様も、刑務所の方まで面倒は見てはくれないだろうに」

 

 美希と理沙の説得にハヤテはポリタンクを地面へと置いた。 これ以上、主に迷惑をかけることは自分への信頼を疑わられることになる。 もしここでこの溢れ出る激情のまま動いたらそれでこそ自分に待っているのは紛れもない破滅だ。

 

「でもどうして僕ってホモ疑惑が湧くんでしょうか・・・」

 

「決まってるだろう。 いつもテルくんや虎鉄君とかと一緒に絡んでるからだろ?」

 

と理沙に言われ、ハヤテは苦笑い。 確かに仕事上、テルと一緒に行動を共にすることが多い。虎鉄の場合は言わずとも、勝手に絡んでくるのだ。 だが、テルのことに関してはそれだけで疑われることはこちらとしても困るのだ。 

 

「まぁ、あんだけ仲良さそうにしてれば疑われるのも無理ないんじゃないか?」

 

「へ?」

 

美希の一言にハヤテが間抜けな声を出した。 その反応に疑問を思った美希が聞き返す。

 

「ん? なんだ。 仲悪かったのか? 君とテル夫君は友達ではないのか?」

 

「いや、そういう訳じゃないんですけど・・・なんか今まで男友達いるのか?って言われてきたもんですから、その・・なんか」

 

 頭の後ろに手を回してハヤテは笑みを浮かべた。 前にいた高校でも普通に男友達がいたが、白皇に来てから男子よりも女子と話すことが多い。 今更ながら同じ仕事場に居て日常生活を送っているテルのとことを今更友だちと呼ぶことに一種の照れを感じていた。

 

しかし、美希や理沙はそれを違う意味で捉えたようで。

 

「やっぱりこいつホモだよ」

 

「なんだよ。 やっぱりホモじゃないか」

 

「だから誤解ですって―――――!!」

 

 

少年は一刻も早く記憶から抹消したいと思ったのだった。

 

 







後書き
まだ続きます。 次は結構意外なキャラが顔を出してきますよ。

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