ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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前書き
なんでか続いてしまった。 これは原作の話を少し改造しただけです。


第87話~レッツゴー鷺ノ宮、修行編~

 前回のあらすじ。 メイド魂がまったくこもっていないとダダを捏ねるリィンの為に伊澄のNO13のガンコスイッチが入ってしまい、伊澄がガチでメイド魂を身につけようと登竜門を叩こうとしたところから。

 

「メイド魂か。 しかしどうやって身につけるべきか・・・」

 

 沈黙。 ただその場に座り込んで、腕を組みながら一同は考えていた。 リィンに至っては横になって新作の同人誌なんて見ている。 いつの間に買ってきた。 そんなテルに一つだけ疑問が生まれてくる。

 

まず、メイド魂ってなんぞ?

 

これだ。 メイドというのはどういうものか、そこから理解できていない。 そこらへんに関してはハヤテやテルも全く範囲外だ。 

 

「参考書とかってないんですかね?」

 

「うーん。 ありそうでなさそうな」

 

 昔からメイドのあり方に付いて記した五輪の書で存在するのだろうか。 そういうものがあるのならば別だが。

寝そべっていたリィンがせんべいを齧りながら一言呟いた。

 

「こういうのは、やはり物知りな人物から聞くのがいいんじゃないかな? 誰かいないのか? メイドについてかなりの知識を余すことなく熟知した知人は・・・」

 

知人か。 そのキーワードを頼りにテルは頭を回した。 首を三百六十度くるりと回す。 途中で何度か関節がポキポキと鳴り響くがお構いなし。

 

一周して何か閃いたか、ひときわ大きな関節の音が鳴った。

 

「ああ、いたなぁ。 この上なくすんごい熟知してそうな奴」

 

「え。 居るんですか? そのメニアックな趣味をお持ちな人が・・・」

 

ハヤテの首を傾げた言葉にテルは頷き、携帯を再び取り出して。

 

「呼ぶ」

 

 

数十分後。

 

 

 

「んで? なんで俺が呼ばれた訳?」

 

「いやぁ、ちょっとお前に聞きたいことがあってな? これは多分メニアックな趣味を持っているお前にしか頼れないことなんだよ」

 

面倒くさそうにワタルが頭を掻きながら言うと、テルは両手を合わせて協力して欲しいと頼む。 ワタルはこの男のことだから疑って仕方がない。

 

「変なことに巻き込むなよ?」

 

「だいじょぶだいじょぶ。 お前は答えてくれるだけでいいから。報酬は弾むぜ」

 

報酬。という言葉にワタルは眉をひそめるが考えるだけでも損だと考え、さっさと本題に入ることにする。

 

「じゃあなんだ」

 

「ちょっと聞くけどよ。 あの純粋無垢な幼妻にメイド服を着させ小さい頃から侍らせているお前にちょっとメイド魂について語ってもらいたいと思ってなぁ?」

 

「こら! 人聞きの悪いこと言うんじゃねぇよ!!」

 

ワタルは断固として否定して、「だいたい」と付け加えて続ける。

 

「あのメイド服はサキの趣味だっつーの。 それで俺がメイド服オタだなんて決めつけるのはまさに愚かの極みだぜ」

 

キリッとした表情で言うからには彼自身に恐らく、本当にメイドに対して詳しくはないのだろうか。 そんな懸念がその光景を見ていたハヤテが抱くが。

 

「ああ、そうか。 なら悪かったな。 実はウチのナギが今度メイド喫茶を新しく建てようとしててさぁ、メイド喫茶って高校の修学旅行の先生が入ってしまうほど流行ってる訳じゃん。 『いらっしゃいませ~ご主人さま♫』って」

 

「ふん。 流行ってるかどうかは知らねぇけどさ。 勝手に作ればいいじゃねぇか」

 

ただ・・・と、背中を向けたワタルが一言。

 

「そんな上っ面だけなぞったメイド喫茶が流行るかどうか・・・」

 

ワタルのその一言にテルの目が光った。 そう、これは全てワタルの本当の内面を引き出すための餌だったのだ。

 

「へぇ。 じゃあ上っ面だけじゃないメイドさんの良さって言うと・・・?」

 

テルによる第二の煽り、もとい餌。 ワタルは声のトーンを高くして。

 

「べ!! 別に興味なんざねぇけどよ!! 強いて言うなら、強いて言うなrあメイド魂てやつはさぁ!!」

 

釣れた。 こうまでも簡単に。 その手の話題に敏感なワタルはいとも簡単にメイドについて語りだすのだ。

 

「もちろん、こう、くるってターンした時の・・・ブワッと広がるスカート!! これが大事なんだよ!!」

 

「えー、その程度?お前もメイドリストとしてはまだまだ浅いんじゃないかー」

 

煽る。

 

「ばっ!! その程度なわけねーよ!! 他に言うならつま先立ちだよ!! こう、高いものを取る時に「クッ」て上げるあの感じ!!」

 

「はーん?もう終わりかよ? 実はお前にわかなんじゃ?」

 

煽る煽る。

 

「いーや、まだあるね。 後は市政だな。 背筋がピンと伸びてないと、話にならない!!」

 

なるほどなるほど。と、ずっとワタルによるメイドに関する演説を要所要所メモしてるように見えるテルだが、実際このメモ帳、ただ話を聞いてペンをめちゃくちゃに走らせているだけである。

 

「あとはさぁ―――」

 

「あー、おっけおっけ!」

 

 ワタルがこれ以上語っていては多分朝が来てしまうのではないかと思ったか、テルがメモ帳を閉じてここで打ち止めとした。先ほどからだが、テルの横には大きなダンボール箱がある。 テルがそのダンボール箱に手をかけて持ち上げると。

 

「だーってさ。伊澄くん、少しは勉強になったかな?」

 

「なるほど・・・」

 

「なっ!!」

 

ダンボールの中にいたのは、なんと伊澄だった。 突然の出来事にワタルは口をあんぐりさせる。

 

「ワタルくん、アニメとかにも詳しくてメイドさんにも詳しいのね・・・マニアックな人だわ」

 

「うわああああああああああ!! ちょっと道頓堀に飛び込んでくる!!」

 

顔を羞恥で真っ赤にさせたワタルはたまらずその場を飛び出した。 樫の木で出来た扉が勢い良く閉まられるとテルがニヤリと笑った。

 

「大成功」

 

「悪魔ですか貴方は」

 

 まさしく、ノートを手にして記憶を取り戻した主人公のごとくのテルの悪役っぷりにハヤテは苦笑い。 しかし、このあとのワタルへの救済措置も用意してある。 テルとしてはこれまでの伊澄の写真を見せれば機嫌を戻してくれる筈だ。

 

「まぁ漸くして言うと、メイド魂っていうのはクルッと回ってターンしてってことだろ?」

 

「色々と端折りすぎです。 他にも色々と言ってた気がするんですけど」

 

というハヤテの言葉をテルはケラケラと笑って返した。

 

「んなもん知るかよ。 アイツの妄想をこちらに垂れ流されたとしても俺たちにはさっぱりだからな」

 

ホント悪魔のような人だ。 とハヤテは思った。

 

 

「分かりました。 では、神父さん!」

 

これまでのワタルのレクチャーにしたがい、伊澄が神父の前に立った。 その立ち姿、そして放つオーラは伊澄が妖怪退治に出向くときの物だ。 

 

「これを見て・・神父さんも、成仏してください!!」

 

流れる動作で一歩踏みだす。 手の動き、表情、緩やかにかつ意思を込めてその真剣さがうかがえる。 だが。

 

「いたっ」

 

びったん。 

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

時が止まったかのような、そんな空間が出来上がった。 伊澄は回る前に踏み出した足でスカートの裾を踏んで前のめりに転んでしまったのだ。

 

「回れて・・・ないッ」

 

「そしてあざとい・・・だが、それがイイ」

 

リィンは密かに拳を握り締めていたという。

 

 

 

「ふぅ・・・ああ、もう。一体どうすりゃあいいんだ」

 

屋敷内に入ったテルたちは卓上のテーブルを囲んで頭を悩ませていた。 執事の仕事は一体どうしたのだと、突っ込みたいほどの光景である。

 

「やっぱりハヤテ、お前がメイド服きて手本を見せてくれないことには・・・」

 

「お断りします」

 

きっぱりと、即答。 ハヤテは手を前に出してNOの意思を示した。 実際リィンもふくんで座っているのだが、はたから見れば野郎が向かい合ってお話しているシチュエーションである。 腐ってやがる。

 

「このままじゃ・・・ジリ貧だな」

 

「ジリ貧ですね」

 

あれだこれだと案を出してもダメになる。 消去法で行なっていったらいずれこちらの手がなくなるのが見えていた。 どうしたものか。とテルが悩んでいると。

 

「どうぞ」

 

二人の下に一つのティーカップが添えられた。 そこにいたのは先程から姿をくらませていたメイド服の伊澄である。

 

「おお、なんだ。 本格的にメイドやってるな」

 

「ええ。 せっかくなので、それにそれらしい事をしていればメイド魂に繋がる何かを会得することができるかと・・・」

 

にこりと笑って伊澄は答える。 楽しそうにしているのでこちらは別に構わないが。 と、テルは渡された紅茶を飲む。

 

その瞬間、テルの頭の中の何かが弾けた音がした。

 

「そうだ! マジのメイドさん呼ぼう!」

 

「え?」

 

 テルが突然立ち上がったことよりも、立ち上がってから発した言葉にハヤテは驚いた。 テルは驚いている一同を構わず続ける。

 

「いいかぁ、俺たちはもうバカの類でしかなかった。 レクチャーでも難しいこの内容、だったら、マジでメイドやっている人に教えてもらうしかねぇじゃん!!」

 

「灯台・・・デモクラシー」

 

「伊澄さん・・・・」

 

 伊澄のボケに、ハヤテは特に突っ込むことはなかった。 確かにテルの言うことにも一理ある。 ワタルの知識も、内容を理解して結論づけるならまさしくオタの知識だ。幸いにもこの屋敷には優秀なメイドさんが一人いるではないか。

 

「んじゃあさっそくマリアさんに―――」

 

その時だ。 不意に玄関のほうでインターホンが鳴り響いた。 玄関と近いこの部屋にいたこともあり、テルがまっ先に玄関へと向かう。

 

「ったく、いったい誰だよ。 こんな時間に」

 

「いや、まだお昼ですから」

 

テルとハヤテが愚痴をこぼしながらも玄関の前に立ち、テルがドアノブに手をかける。 そして、開けた。

 

「あの・・・どちら様?」

 

扉の向こうに居たのは、メイド服を着た少女だった。 グレーのショートヘアー、そして際立つのはその笑顔だ。

極めつけはそのメイド服にあり、清純派なマリアがロングスカートの部分をこの少女はショートスカートにしているということだ。

 

「どうも・・・って、え?」

 

一度、こちらを見てその少女は明らかにテルを見て驚いていた。 そして若干だが、口元が歪んだ気がするが気のせいだろうか。

 

「ええーっと・・・」

 

テルが返答に困っていると少女は再び笑顔で答える。

 

「どうも、はじめまして。 咲夜さんのメイドのハルでございます」

 

「ういーっす。借金執事二号」

 

ハルと名乗る少女の後ろで手を上げて存在を示すもう一人の声。 これは咲夜だ。

 

「おう路面芸人、もしかしてこれがお前の言ってた新しい使用人か?」

 

「そうやねん。 結構美人やろ? な?」

 

なっはっは。と快活な笑い方をする咲夜にテルが眉をひそめる。 そういえば新しく雇ったのはメイドだけでなく執事もいたはずだが。 

 

「もう一人いるんじゃなかったのか?」

 

「なんや、もう知れ渡ってるんかい。 今日は来てないで、自宅警備してもらってんねん」

 

 それはなんだ。 その四文字を聞いただけでニートを浮かべてしまう。 だが、そんなことより咲夜とその新しい使用人が揃ってこの屋敷になんのようだろうか。

 

「なんか面白い住居人が増えたらしいやないか。 ハルさんも紹介したかったし、なんか伊澄さんもおるやないか。 どうしたん?」

 

「なんだ。 あの王様のことか、あいつなら今中庭のほうで筋トレしてるぞ」

 

テルが親指を立てて中庭の方を指すと向こうから声が聞こえてきた。

 

「ふん! ふん! 筋肉! 筋肉!」

 

声と共に千里が自身のペット、ヘラクロス、そして三千院家のタマを担いでヒンドゥースクワットをしてるのが見えた。

 

「なかなかシュールやん」

 

「ああ。 これまで以上にないシュールだ」

 

「じゃあ、一瞬で千里さんを紹介できたところでこちらも本題へと入りますかね」

 

 

テルはこれまでの事情を説明した。 主な理由は伊澄がメイドの魂を必要としてるということ。 表向きはそうだが、勿論リィンの事は伏せている。

 

「なるほど。 おおむね状況は理解したわ。 つまり、真のメイドさんになるために俺は登り始めたばかりだからな、この果てしなく長い男坂をよ・・・って感じなんやな」

 

「ええっと、大体そうですけど・・・」

 

またしても簡単にわからないネタを・・・。と心の中でハヤテが思うが、ここであまり考えることではないだろう。 

 

「な? んで、どう思う? ウチのハルさん。 結構美人やろ?」

 

咲夜がハヤテに駆け寄り、目を細めて言う。 伊澄そっちのけで自分のメイドの感想を聞くのはどうかと思うが。ハヤテが少しだけ唸ると率直に思った事を言った。

 

「・・・一体おいくつなんですか?」

 

この男は。 どうして最初に女性の年齢を聞くのか。 失礼にも程があるだろ。

 

と、まぁそのハルという女性も一瞬だけ目を細めているが嫌な表情なんてひとつもせずハヤテの鼻先に人差し指を指して。

 

「秘密もメイドのたしなみなんですよ。 綾崎君」

 

へぇ。とハヤテは頷く。別に自分が変に気を悪くさせてしまった訳ではないのだ。 しかし、ハルの丁寧な対応力と一つの仕草で男性を引き落とそうとするメイド力はかなりのものである。

 

「んで? テルはどう思うんや? ん?」

 

「顔近づけるなバカ。 キャピキャピ系は俺の趣味じゃねーんだけど。 俺はやっぱり清純派なんだよ」

 

と咲夜を押しのけながら言うと率直な感想を述べた。 彼の言う清純派というのは、恐らくマリアのようなメイドなのだろう。

 

「まぁ、人それぞれの解釈があって仕方ないと思いますが。 でも私の場合は別にそういうキャラを狙っているわけではありませんので」

 

これまたハルは丁寧に対応した・・・かのように見えたが拳がちょっとだけ握られてプルプル震えていたのが気になる。 

 

そしてまた本題に戻るとして。

 

「実は私、メイド魂をこの身に宿そうとしているのですが、友達の男の子が『クルッとまわってぶわっとなったスカートにメイド魂が宿る』と聞いたんですけど」

 

「酷く偏ったメイド魂ですね・・・」

 

ハルが始めて苦笑いを見せた。 やはりメイドであるこの人も自身の本職であるメイドについて詳しく知っているようだ。 

 

「それで・・・私、スカートの裾を踏んでしまって上手く回ることができなくて。 いったいどうすればいいでしょか」

 

「なるほど。だったら話は簡単です」

 

本職ならではの余裕か、ハルは少し考えただけで解決策を思いついたようだ。 

 

「短いスカートを履けばいいのです」

 

語尾にハートマークが付くくらいの笑顔でハルは言った。 

 

「スゲェな、根本的解決方法を提示してきたぞ」

 

「なんか必死にみんなで株を引っこ抜こうとしている隣でブルドーザで簡単に根元から刈り取られた気分です」

 

「あまり気にしなくていいんですよ。 それじゃあ、コスチェ~ンジ♫」

 

ハルはパンッと手を叩くとどこからともなく簡易衣装試着室を用意して伊澄をその中へ案内させた。

 

「はい、じゃあコレ着てください♫」

 

「え!? こ、こんなのを着るんですか!?」

 

「そうですけどなにか?」

 

「ちょ、っと、これは・・・恥ずかしすぎて・・・」

 

「いやいや、そんなことありませんって充分似合いますから。 ほらほら来てきて♫」

 

「あ、わわわわ! そんな引っ張らないでください・・・!!」

 

揺れる。 試着室の中でのやり取りに、試着室が軽く揺れる。 一体中で何が行われているのだろうか。 細かく描写も、それは危ない。 下手をすれば両手に縄をかける羽目になる。 

 

数分経って、試着室のカーテンが開かれた。

 

「どうです? とてもお似合いですよね?」

 

「・・・・・」

 

ハルがそう言ってこちらに尋ねる。 先程までマリアのような長いスカートはハサミでも使ってちょんぎられたかのように短くなっていた。 先程まで見られなかった大腿部の白い肌が丸見えである。

 

当然のように伊澄の顔は沸点を超えていた。 体が小刻みに震えてスカートの裾を掴んで必死に下へと引っ張っている。

 

「それじゃあ、やってみましょう!!」

 

伊澄が落ち着くまもなく、ハルによるレッスンがスタート。 パンッという合図とともにハルが組んだ動作に伊澄が真剣に取り組む。

 

「ほら、紅茶運び! 右ひじの角度はカップの水が常に水平になるように意識して!!」

 

「は、はい!!」

 

「スカートつかまない! 恥ずかしがらない!!」

 

「は・・・はい」

 

「笑顔を忘れない! スマーイル、スマイール!! だいたいのメイドさんは作り笑顔があればどんな事にも対応できます!!」

 

「う、うう・・・・」

 

 ハルによる熱い指導に最初は気合で対応していた伊澄だったが、普段から慣れていないことをさせられていることと、ハヤテ、そしてテルにその光景をジロジロと見られていることによりその動きはどこかぎこちない。

 

「ああダメだ。 健気すぎて、一生懸命すぎてとてもじゃないけれど応援せずには居られない。 という訳で一枚」

 

「応援するか、写真撮るかどっちかにしてくださいテルさん」

 

「私は動画を撮らせてもらう。 さきほどの転んだ動画よりもイイものが撮れそうだ」

 

「はひゃひゃひゃ!! あ~、すまん伊澄はん、でも・・・クック・・」

 

自分の目的の為に固執する二人、そしてその光景を見てひたすら笑う咲夜にハヤテはため息。 一応リィンの為に体を張っている伊澄が可哀想に見えてきたハヤテである。

 

時間が経って、先程まで色々指摘されていた伊澄だったがだんだんと動きが良くなってきていた。 顔の硬さも、動きのちょっとしたぎこちなさはまだ抜けきれてないが確実に良くなった方である。

 

「しかしまぁ、ぎこちない動きや作り笑顔も見ていてもなんかちょっと見ていて恥ずかしいものもありますかね?」

 

ハヤテが苦笑いを浮かべて隣にいるリィンを見た。 しかしリィンは伊澄を見て少しだけ笑みを浮かべて一言。

 

「ああ、だが・・・それでも、私は満足だ」

 

どこか悟ったかの表情。 何か自分の中のもやもやもなくなり、思い残す事はないと言った表情だった。 そして見えないリィンは伊澄に近づいて声をかけた。

 

「ありがとう、伊澄くん」

 

「はい?」

 

叩きを持っていた伊澄が振り返るとそこにはサムズアップをしているリィンの姿があった。

 

「いい、メイド魂だったぜ・・・」

 

「神父さん・・・」

 

その言葉に笑みを浮かべた伊澄が続けて尋ねる。

 

「では、これで成仏してくれますか・・・・?」

 

対する神父はちょっと黙った。 

 

「お前・・・消えるのか?」

 

テルも、短い間ったとはいえ身近な誰かが消えるというのには少なからずとも悲観な事を考えずには居られない。

ハヤテも複雑な表情だ。

 

リィンは遂に黙るのを止めたのか、閉じていた瞳を開きうっすらと笑みを浮かべて。

 

「ウ・ソ」

 

言った。

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

数秒の沈黙の後、テルが首を傾げた。 なんだろうか。 危機間違いでなければ彼は何か言っていた。 たしか嘘と。

 

「いや、だって今日エイプリルフールじゃん」

 

「え、いや・・・ええ――――――ッッ!!?」

 

リィンの言葉に、テルが叫んだ。 

 

「だってメイド以外にも私には未練はまだまだあるのでね。 当分、私は成仏するつもりはないのだよ。 散々恥ずかしい格好をしてもらって悪いがね」

 

淡々と言うリィンだが喋る言葉の全部の後ろに(笑)が付いているような感じだった。 その事に腹を煮えていたのはテルではない。

 

「・・・・・・」

 

もちろん、それは言うまでもなくメイド服やミニスカチェンジ、知人に写真に収められという羞恥プレイまでさせられていた伊澄だった。

 

「いいぞ伊澄。 お前は今、キレていい」

 

テルの言葉を合図に伊澄が右手に持っていた札をリィンの肩に叩きつける。 ぱしぃんと軽い音が鳴ったかと思えばその瞬間に札が弾けてリィンの体が壁へと叩きつけられた。

 

「アレ? こんなところに人の形をした汚れがありますね?」

 

「あんま気にせんでええよ」

 

ハルが壁に出来た明らかなくぼみを汚れと捉えている。 見えないハルにはリィンが壁にめり込んだ一連の光景を認識できていないのだ。 ちなみに、咲夜はリィンのことがちゃんと見えている。 ハヤテやテルがそのことを知らないだけだ。

 

「わ、私は神の使い・・・秋葉のロードブリティッシュ・・・こんな所で死にはしない」

 

勿論、リィンは死んではいない。 伊澄がキレながらも力をセーブしたのか、死なない程度に彼は天罰を食らったのだ。 これぞ天罰肩パンである。

 

「あの・・・状況がよくわかりませんけど。私はこれで失礼しますね?」

 

「おお、おつかれさーん」

 

咲夜が手を振るとハルが慎ましく一礼。 ハヤテやテルを見てこちらに笑顔を向けた。

 

「それじゃ善立くんに綾崎君、今後とも・・・うちの主をよろしくね」

 

パタンと静かにドアを閉めたハルはそう言って去っていった。 どこかつかめないような感じの人だと思っていたテルだが一方で。

 

「なんで俺たちの名前知ってんだアイツ」

 

「そういえば・・・」

 

 疑問点は今に起こったことではない。 会話の中でも、ハヤテの名前を言った事は確か一度あった。 だがこちらは初対面だ。 今日以外に会ったことなんてないし、誰かに噂されても直接名前がバレるということは今まで無かった。

 

そしてハヤテだけでなく、テルの名前を知っている。 やはり、謎だ。 あのメイド、ハルは謎に包まれた女性なのかもしれない。

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・まさか咲夜さんが、三千院家や最近、会長といつも一緒にいる綾崎君たちと・・・親しい間柄だったとはな・・・」

 

銀杏商店街の道を一人の少女が歩いていた。 グレーのショートヘアー、後ろの髪を結って歩く少女はため息まじりに今日のサプライズを思い出す。

 

「おっと、メガネ掛けるの忘れてた」

 

少女は思い出したかのように立ち止まるとカバンの中に入っていたメガネを取り出し、掛ける。 彼女の名前は、春風千春。 白皇学院に通う、生徒会役員の書記である。

 

(バイトだからと言って油断してた・・・これからはもっと慎重にいかないと。 周りの人に私がこんなキャラに合わないことやってるなんて知られたらマズイ)

 

 彼女、春風千桜は白皇学院生徒会書記としての顔とは別に、もう一つの顔を持っていた。 それは表で使っているクールな顔とは真逆な、超のついた明るい笑顔を振りまくメイドの顔だ。

 

 きっかけは道端で見たメイドのバイト募集。 周りからクール、無表情の名で噂されている彼女だが、誰よりもこの専門の知識に彼女は長けていた。 だから父の会社の倒産騒動でこの看板と待遇を見て、彼女は絶対に素性がバレないようにここで働くときはクールな生徒会書記のお面を捨てて、『ハル』という超明るいメイドのお面を付けることを決めたのだ。

 

「おーい、ハル子」

 

「あ、会長。 お疲れ様です」

 

そんな彼女に声をかけるのは同じ学校の生徒会長、桂 ヒナギクだ。

 

「会長じゃなくていいわよ。 外なんだからヒナでいいって」

 

ここで素直に言うとおりに「ヒナ」というのは千桜にはできない。 それは、自分、この時の春風千桜という人間はそのような事をいうキャラではないからだ。

 

あくまでも真面目で、従順な人間。 今はそういう人間だ。

 

「今帰りなの? もしかしてバイト?」

 

「まぁ、そんなところです」

 

ふーん。と、ヒナギクはこれ以上探ろうとはしなかった。 ただ単に聞こうとしなかっただけなのだろうか。なんにせよ、身近な人物と普通に生活するだけでも少しも油断してはならない。

 

彼女は春風千桜。 別名、千の仮面をもつ女性・・・多分。

 

 

 

後日談。

 

「へい、どうだいお兄さん。 今回はかなりの上玉だろ?」

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

ここ、レンタルビデオショップ橘。 ワタルが経営するビデオショップである。 そのビデオショップの店長、橘ワタルが歓喜に似たような叫びを上げていた。 

 

「ほら、こいつもどうだ? え?」

 

「おおおおおおおおおおおおおお!!」

 

テルが渡している写真は屋敷で撮った伊澄のメイド姿の写真だ。 伊澄大好きのワタルにとっては喉から手が出るほど欲しい物である。 名付けて、ワタル一本釣り。

 

「若・・・・」

 

伊澄の写真を見ながら凄い興奮を抱いているワタルを壁に隠れて涙を浮かべながら嫉妬の炎を燃やしていたのは言うまでもない。

 

 

そして、全てが終わったテルが家に帰ると、花壇の土を指でつつく、これまで以上にいじけた状態のマリアが待っていたのも言うまでもない。

 

 






後書き
言っとくが私はまだハヤテキャラをまだ全員出すことができていない!

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